[BCN This Week 2010年5月3日 vol.1332 掲載](週刊BCN編集長の谷畑良胤さんの許可を得て記事を掲載)
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コンピュータ技術者の平均寿命を延ばすには

個人のパソコンを会社へ持って来るな、会社のネットワークに個人所有のコンピュータを接続するな、社内のメールを外部へと転送するな、会社の書類をフラッシュメモリに入れて不用意に持ち歩くな、等々、このような規則が増えてきている。ウイルスなどの感染を予防し、情報の漏洩や犯罪を防ぎ、社内のコンピュータシステムを健全に保安するためだとか。

ザル法であろう。コンピュータの形態は多様化している。スマートフォンに代表されるように、携帯電話の高機能化が進み、いまやパソコンをしのぐほどに成長している。仕事のスケジュールを個人のスマートフォンで管理しているビジネスマンが多いはずである。それもWi-Fi接続でクラウドからプッシュしてもらう人が大半であろう。今度は会社への携帯電話の持ち込みも禁止するのだろうか。

京都産業大学のコンピュータ理工学部では、入学してくる学生たちそれぞれが個人でノート型のパソコンを所有し、それを大学へ持って来て、学内ネットワークに接続し、講義を受けたり、実験をしたり、研究をしたりする。家庭でも、大学でも、時間と場所を選ばずにコンピュータに触れながら勉学することを大いに奨励している。

コンピュータ処理がネットワークを介してサービスの形態で提供される時代になってきたのだから、この時代に適合する学生を輩出したいと願って、学生が使うコンピュータを大学側で設備するのを2008年からやめた。用意したのは、強力なサーバ群、高速なネットワークの接続口、電源コンセント、そして、厳重な認証システムである。

ネットブート(シンクライアント)方式で、OSまでも学生たちへと提供する環境を整えている。学生個人のパソコンの中に、たとえOSが入っていなくとも、別のOSが入っていても、授業で必要なアプリケーションがインストールされていなくとも、サーバからネットワークを介して提供する。

この環境で育った学生たちが就職すると、個人所有のコンピュータをどんどん会社へ持ち込んで、当たり前のように社内ネットワークに接続するはずである。社員のコンピュータを個人所有のものに切り替える準備をしたほうがいい。コンピュータシステムの新陳代謝の面からも有利である。

人の平均寿命の延びは上下水道・電気・ガスなどのインフラの普及率と正の相関を示す。高度な医療によって寿命が延びたのではない。人が集うところに何が必要か、冒頭の規則などでないことは明らかである。


Updated: 2010/05/17 (Created: 2009/10/19) KSU AokiHanko