[BCN This Week 2009年8月10日 vol.1296 掲載](週刊BCN編集長の谷畑良胤さんの許可を得て記事を掲載)
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言語としてのコンピュータ

コンピュータ技術者の仕事とは何か?と問われて、上手に答えることができない。今ではコンピュータに携わる技術者も多様であり、種々様々な呼び名がある。ハードウェア技術者、ソフトウェア技術者、システムエンジニア(SE)、プログラマなどから始まって、あげれば際限がなくなりそうである。

最近ではITエンジニアというのもある。直訳すれば、情報技術の技術者、わかったようでわからない。本紙にも頻繁に登場するSIer(エスアイアー:システムインテグレーションをする者)とは果たして人なのか組織なのか。こうなってくると、自然人も法人も入り乱れ、同じ土俵の上に乗せて、その仕事の本質を云々し難くなる。

そんなときは、年老いた人や幼い子どもに対して、コンピュータに携わる技術者の仕事を説明してみるといい。相手にはコンピュータに関するバイアスがかかっておらず、業界の専門用語や学界の学術用語が通用しない。どうしても平易な言葉で仕事の本質を語らなければならない。すると、話す側の底意が露呈してくるのである。

約三十年前に大学院を出て、ソフトウェアを開発する会社に就職した。コンピュータのコの字も知らない両親や祖母に向かって、これから自分がしてゆく仕事を説明しなければならなかった。苦しまぎれに考え出した言葉が「この世を数に変えてゆく仕事」である。「そんな大層なことができるのかね」と返された。

この世のインフラと化してしまったコンピュータは数(正確には2進数)しかわからない。高度なプログラミング言語を用いたとしても、せんじつめてみれば、0と1の羅列に翻訳している。Webページをひいて文字列や画像や映像が出てくるが、文字列は文字コードの一次元配列であり、画像は画素(色)の二次元配列であるピクセルマップ、映像はピクセルマップのシーケンス、つまり、色の三次元配列である。結局のところ、2進数の連なりでしかない。

お馴染みのURLはIPアドレスとファイルアドレスなどの数に変換して処理されている。Webアプリケーションでさえ、ブラウザから入力されたものをSQLなどのデータベースの問い合わせ言語に変換し、戻ってきた結果をHTMLなどのページを記述するための言語に変換して、ブラウザ上に情報を出力している。

ことほど左様に、コンピュータ技術者の仕事は言語変換系とみなせる。すべては2進数で表現された記号処理系。まさに「言語としてのコンピュータ」ではないのか。


Updated: 2009/12/22 (Created: 2009/10/03) KSU AokiHanko