泉佐野市民会館事件
上告審判決

損害賠償請求事件
最高裁判所 平成元年(オ)第762号
平成7年3月7日 第3小法廷 判決

上告人  森田恒一 外6名
被上告人 泉佐野市

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官園部逸夫の補足意見


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

[1] 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

[2] 上告人らは、昭和59年6月3日に市立泉佐野市民会館(以下「本件会館」という。)ホールで「関西新空港反対全国総決起集会」(以下「本件集会」という。)を開催することを企画し、同年4月2日、上告人国賀祥司が、泉佐野市長に対し、市立泉佐野市民会館条例(昭和38年泉佐野市条例第27号。以下「本件条例」という。)6条に基づき、使用団体名を「全関西実行委員会」として、右ホールの使用許可の申請をした(以下「本件申請」という。)。

[3] 本件会館は、被上告人が泉佐野市民の文化、教養の向上を図り、併せて集会等の用に供する目的で設置したものであり、南海電鉄泉佐野駅前ターミナルの一角にあって、付近は、道路を隔てて約250店舗の商店街があり、市内最大の繁華街を形成している。本件会館ホールの定員は、816名(補助席を含めて1028名)である。

[4] 本件申請の許否の専決権者である泉佐野市総務部長は、左記の理由により、本件集会のための本件会館の使用が、本件会館の使用を許可してはならない事由を定める本件条例7条のうち1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」及び3号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」に該当すると判断し、昭和59年4月23日、泉佐野市長の名で、本件申請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
[5](一) 本件集会は、全関西実行委員会の名義で行うものとされているが、その実体はいわゆる中核派(全学連反戦青年委員会)が主催するものであり、中核派は、本件申請の直後である4月4日に後記の連続爆破事件を起こすなどした過激な活動組織であり、泉佐野商業連合会等の各種団体からいわゆる極左暴力集団に対しては本件会館を使用させないようにされたい旨の嘆願書や要望書も提出されていた。このような組織に本件会館を使用させることは、本件集会及びその前後のデモ行進などを通じて不測の事態を生ずることが憂慮され、かつ、その結果、本件会館周辺の住民の平穏な生活が脅かされるおそれがあって、公共の福祉に反する。
[6](二) 本件申請は、集会参加予定人員を300名としているが、本件集会は全国規模の集会であって右予定人員の信用性は疑わしく、本件会館ホールの定員との関係で問題がある。
[7](三) 本件申請をした上告人国賀は、後記のとおり昭和56年に関西新空港の説明会で混乱を引き起こしており、また、中核派は、従来から他の団体と対立抗争中で、昭和58年には他の団体の主催する集会に乱入する事件を起こしているという状況からみて、本件集会にも対立団体が介入するなどして、本件会館のみならずその付近一帯が大混乱に陥るおそれがある。

[8] 本件集会に関連して、上告人らないし中核派については、次のような事実があった。
[9](一)(1) 本件集会の名義人である「全関西実行委員会」を構成する6団体は、関西新空港の建設に反対し、昭和57年、58年にも全国的規模の反対集会を大阪市内の扇町公園で平穏に開催するなどしてきた。
[10](2) 右6団体の一つで上告人国賀が運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」は、本件会館小会議室で過去に何度も講演等を開催してきた。
[11](3) 上告人永井満が代表者である「全関西実行委員会」は、反対集会を昭和52年ころから大阪市内の中之島中央公会堂等で平穏に開催してきた。
[12](二)(1) ところが、昭和59年に至り、関西新空港につきいよいよ新会社が発足し、同年中にも工事に着手するような情勢になってくると、「全関西実行委員会」と密接な関係があり、本件集会について重要な地位を占める中核派は、関西新空港の建設を実力で阻止する闘争方針を打ち出し、デモ行進、集会等の合法的活動をするにとどまらず、例えば、1.昭和59年3月1日、東京の新東京国際空港公団本部ビルに対し、付近の高速道路から火炎放射器様のもので火を噴き付け、2.同年4月4日、大阪市内の大阪科学技術センター(関西新空港対策室が所在)及び大阪府庁(企業局空港対策部が所在)に対し、時限発火装置による連続爆破や放火をして9人の負傷者を出すといった違法な実力行使について、自ら犯行声明を出すに至った。中核派は、特に右2.の事件について、その機関紙「前進」において、「この戦闘は15年余のたたかいをひきつぐ関西新空港粉砕闘争の本格的第1弾である。同時に3・1公団本社火炎攻撃、3・25三里塚闘争の大高揚をひきつぎ、5・20―今秋2期決戦を切り開く巨弾である。」とした上、「4・4戦闘につづき5・20へ、そして、6・3関西新空港粉砕全国総決起へ進撃しよう。」と記載し、さらに、「肉迫攻撃を敵中枢に敢行したわが革命軍は、必要ならば100回でも200回でもゲリラ攻撃を敢行し、新空港建設計画をズタズタにするであろう。」との決意を表明して、本件集会がこれらの事件の延長線上にある旨を強調している。
[13](2) 中核派は、本件不許可処分の日の前日である昭和59年4月22日、関西新空港反対闘争の一環として、泉佐野市臨海緑地から泉佐野駅前へのデモ行進を行ったが、「4・4ゲリラ闘争万才!関西新空港実力阻止闘争 中核派」などと記載し、更に本件集会について「6・3大阪現地全国闘争ヘ!」と記載した横断幕を掲げるなどして、本件集会が右一連の闘争の大きな山場であることを明示し、参加者のほぼ全員がヘルメットにマスクという姿であり、その前後を警察官が警備するという状況であったため、これに不安を感じてシャッターを閉じる商店もあった。
[14](3) 上告人国賀は、中核派と活動を共にする活動家であり、昭和56年8月に岸和田市市民会館で関西新空港の説明会が開催された際、壇上を占拠するなどして混乱を引き起こし、威力業務妨害罪により罰金刑に処せられたことがあった。また、右(2)のデモ行進の許可申請者兼責任者であり、自身もデモに参加してビラの配布活動等も行った。
[15](三) 中核派は、従来からいわゆる革マル派と内ゲバ殺人事件を起こすなど左翼運動の主導権をめぐって他のグループと対立抗争を続けてきたが、本件不許可処分のされた当時、次のように、他のグループとの対立抗争の緊張を高めていた。
[16](1) 昭和58年7月1日、大阪市内の中之島中央公会堂でいわゆる第4インターの主催する三里塚闘争関西集会が開催された際、中核派が会場に乱入し、多数の負傷者や逮捕者を出した。
[17](2) 中核派は、同月18日付けの機関紙「前進」において、「すべての第4インター分子は断罪と報復の対象である。絶対に等価以上の報復をたたきつけてやらなくてはならない。」と記述し、さらに、昭和59年4月2日付けの同紙において、10年前に法政大学で中核派の同志が虐殺された事件の犯人が革マル派の者であることを報じて「革命的武装闘争」の中で「反革命カクマルをせん滅・一掃せよ!」と記述し、同月23日付けの同紙において、「4・4戦闘の勝利は同時に、4-6月の三里塚2期、関西新空港闘争の大爆発の巨大な条件となっている。」とした上、「間断なき戦闘と戦略的エスカレーションの原則にのっとり革命的武装闘争をさらに発展させよ。この全過程を同時に脱落派、第4インター、日向派など、メンシェビキ、解党主義的腐敗分子、反革命との戦いで断固として主導権を堅持して戦い抜かなければならない。」と記述している。

[18] 上告人らは、本件会館の使用が許可されなかったため、会場を泉佐野市野出町の海浜に変更して本件集会を開催したところ、中核派の機関紙によれば2600名が結集したと報じられ、少なくとも約1000名の参加があった。

[19] 原審は、右一の事実関係に基づき、次のように説示して、本件不許可処分が適法であるとした。(1)中核派は、単に本件集会の一参加団体ないし支援団体というにとどまらず、本件集会の主体を成すか、そうでないとしても、本件集会の動向を左右し得る有力な団体として重要な地位を占めるものであった。(2)本件集会が開催された場合、中核派と対立する団体がこれに介入するなどして、本件会館の内外に混乱が生ずることも多分に考えられる状況であった。(3)このような状況の下において、泉佐野市総務部長が、本件集会が開催されたならば、少なからぬ混乱が生じ、その結果、一般市民の生命、身体、財産に対する安全を侵害するおそれがある、すなわち公共の安全に対する明白かつ現在の危険があると判断し、本件条例7条1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとしたことに責めるべき点はない。(4)また、本件集会の参加人員は、本件会館の定員をはるかに超える可能性が高かったから、本件条例7条3号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」にも当たる。

[20] 所論は、本件条例7条1号及び3号は、憲法21条1項に違反し、無効であり、また、本件不許可処分は、同項の保障する集会の自由を侵害し、同条2項前段の禁止する検閲に当たり、地方自治法244条に違反すると主張するので、以下この点について判断する。

[21] 被上告人の設置した本件会館は、地方自治法244条にいう公の施設に当たるから、被上告人は、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならず(同条2項)、また、住民の利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条3項)。本件条例は、同法244条の2第1項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例7条の各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
[22] そして、地方自治法244条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、本件条例7条1号及び3号を解釈適用するに当たっては、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである。

[23] このような観点からすると、集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがあるといわなければならない。そして、右の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例7条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、集会の自由を不当に侵害するものではなく、また、検閲に当たるものではなく、したがって、憲法21条に違反するものではない。
[24] 以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和27年(オ)第1150号同28年12月23日判決・民集7巻13号1560頁、最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日判決・民集38巻12号1308頁、最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日判決・民集40巻4号872頁、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日判決・民集46巻5号437頁)の趣旨に徴して明らかである。
[25] そして、このような較量をするに当たっては、集会の自由の制約は、基本的人権のうち精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下にされなければならない(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。

[26] 本件条例7条1号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、前記各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和26年(あ)第3188号同29年11月24日大法廷判決・刑集8巻11号1866頁参照)。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではなく、また、地方自治法244条に違反するものでもないというべきである。
[27] そして、右事由の存在を肯認することができるのは、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならないことはいうまでもない。
[28] なお、右の理由で本件条例7条1号に該当する事由があるとされる場合には、当然に同条3号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」にも該当するものと解するのが相当である。

[29] 以上を前提として、本件不許可処分の適否を検討する。

[30] 前記一の4の事実によれば、本件不許可処分のあった昭和59年4月23日の時点においては、本件集会の実質上の主催者と目される中核派は、関西新空港建設工事の着手を控えて、これを激しい実力行使によって阻止する闘争方針を採っており、現に同年3月、4月には、東京、大阪において、空港関係機関に対して爆破事件を起こして負傷者を出すなどし、6月3日に予定される本件集会をこれらの事件に引き続く関西新空港建設反対運動の山場としていたものであって、さらに、対立する他のグループとの対立緊張も一層増大していた。このような状況の下においては、それ以前において前記一の4(一)のように上告人らによる関西新空港建設反対のための集会が平穏に行われたこともあったことを考慮しても、右時点において本件集会が本件会館で開かれたならば、対立する他のグループがこれを阻止し、妨害するために本件会館に押しかけ、本件集会の主催者側も自らこれに積極的に対抗することにより、本件会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、グループの構成員だけでなく、本件会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を生ずることが、客観的事実によって具体的に明らかに予見されたということができる。

[31] もとより、普通地方公共団体が公の施設の使用の許否を決するに当たり、集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことは許されない。しかしながら、本件において被上告人が上告人らに本件会館の使用を許可しなかつたのが、上告人らの唱道する関西新空港建設反対という集会目的のためであると認める余地のないことは、前記一の4(一)(2)のとおり、被上告人が、過去に何度も、上告人国賀が運営委員である「泉佐野・新空港に反対する会」に対し、講演等のために本件会館小会議室を使用することを許可してきたことからも明らかである。また、本件集会が開かれることによって前示のような暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生ずる明らかな差し迫った危険が予見される以上、本件会館の管理責任を負う被上告人がそのような事態を回避し、防止するための措置を採ることはやむを得ないところであって、本件不許可処分が本件会館の利用について上告人らを不当に差別的に取り扱ったものであるということはできない。それは、上告人らの言論の内容や団体の性格そのものによる差別ではなく、本件集会の実質上の主催者と目される中核派が当時激しい実力行使を繰り返し、対立する他のグループと抗争していたことから、その山場であるとされる本件集会には右の危険が伴うと認められることによる必要かつ合理的な制限であるということができる。

[32] また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法21条の趣旨に反するところである。しかしながら、本件集会の実質上の主催者と目される中核派は、関西新空港建設反対運動の主導権をめぐって他のグループと過激な対立抗争を続けており、他のグル−プの集会を攻撃して妨害し、更には人身に危害を加える事件も引き起こしていたのであって、これに対し他のグループから報復、襲撃を受ける危険があったことは前示のとおりであり、これを被上告人が警察に依頼するなどしてあらかじめ防止することは不可能に近かったといわなければならず、平穏な集会を行おうとしている者に対して一方的に実力による妨害がされる場合と同一に論ずることはできないのである。

[33] このように、本件不許可処分は、本件集会の目的やその実質上の主催者と目される中核派という団体の性格そのものを理由とするものではなく、また、被上告人の主観的な判断による蓋然的な危険発生のおそれを理由とするものでもなく、中核派が、本件不許可処分のあった当時、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきたという客観的事実からみて、本件集会が本件会館で開かれたならば、本件会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、グループの構成員だけでなく、本件会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を生ずることが、具体的に明らかに予見されることを理由とするものと認められる。
[34] したがって、本件不許可処分が憲法21条、地方自治法244条に違反するということはできない。

[35] 以上のとおりであるから、原審の判断は正当として是認することができ、その余の点を含め論旨はいずれも採用することができない。
[36] よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。

[1] 一般に、公の施設は、本来住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(地方自治法244条1項)であるから、住民による利用は原則として自由に行われるべきものであり、「正当な理由」がない限り利用を拒むことはできない(同条2項)。右の規定は、いずれも、住民の利用に関するものであるが、公の施設は、多くの場合、当該地方公共団体の住民に限らず広く一般の利用にも開放されているという実情があり、右の規定の趣旨は、一般の利用者にも適用されるものと解される。他方、公の施設は、地方公共団体の住民の公共用財産であるから、右財産の管理権者である地方公共団体の行政庁は、公の施設の使用について、住民・滞在者の利益(公益)を維持する必要があるか、あるいは、施設の保全上支障があると判断される場合には、公物管理の見地から、施設使用の条件につき十分な調整を図るとともに、最終的には、使用の不承認、承認の取消し、使用の停止を含む施設管理権の適正な行使に努めるべきである。
[2] 右の見地に立って本件をみると、会館の管理権者である市長(本件の場合、専決機関としての総務部長)が、本件不許可処分に当たって「その他会館の管理上支障があると認められる場合」という要件を定めた本件条例7条3号を適用したことについては、法廷意見の挙示する原審の確定した事実関係の下では、総務部長の判断が不適切であったとはいえず、また、本件会館の使用に関する調整を行うことが期待できる状況でなかったことも認められる以上、右判断に裁量権の行使を誤った違法はないというべきである。

[3] ところで、公の施設の利用を拒否できる「正当な理由」は、さきに述べた公の施設の一般的な性格から見て、専ら施設管理の観点から定めるべきものであることはいうまでもない。しかし、本件会館のような集会の用に供することを主な目的とする施設の管理規程については、その他の施設と異なり、単なる施設管理権の枠内では処理することができない問題が生ずる。
[4] 本件条例は、会館が自ら実施する各種事業のほか、所定の集会に会館を供すること(同5条各号)、会館の使用については、市長の許可を要すること(同6条)、使用を不許可としなければならない要件(同7条各号)を定めている。右の要件の一つとして、7条1号(以下「本件規定」という。)に「公の秩序をみだすおそれがある場合」という要件があるが、これは、いわゆる行政法上の不確定な法概念であるから、平等原則、比例原則等解釈上適用すべき条理があるとはいえ、総務部長に対し、右要件の解釈適用についてかなり広範な行政裁量を認めるものといわなければならない。しかも、右の要件を適用して会館の使用の不許可処分をすることが、会館における集会を事実上禁止することになる場合は、たとい施設管理権の行使に由来するものであっても、実質的には、公の秩序維持を理由とする集会の禁止(いわゆる警察上の命令)と同じ効果をもたらす可能性がある。この種の会館の使用が、集会の自由ひいては表現の自由の保障に密接にかかわる可能性のある状況の下において、右要件により、広範な要件裁量の余地が認められ、かつ、本件条例のように右要件に当たると判断した場合は不許可処分をすることが義務付けられている場合は、条例の運用が、右の諸自由に対する公権力による恣意的な規制に至るおそれがないとはいえない。したがって、右要件の設定あるいは右要件の解釈については、憲法の定める集会の自由ひいては表現の自由の保障にかんがみ、特に周到な配慮が必要とされるのである。
[5] 本件条例は、公物管理条例であって、会館に関する公物管理権の行使について定めるのを本来の目的とするものであるから、公の施設の管理に関連するものであっても、地方公共の秩序の維持及び住民・滞在者の安全の保持のための規制に及ぶ場合は(地方自治法2条3項1号)、公物警察権行使のための組織・権限及び手続に関する法令(条例を含む。)に基づく適正な規制によるべきである。右の観点からすれば、本件条例7条1号は、「正当な理由」による公の施設利用拒否を規定する地方自治法244条2項の委任の範囲を超える疑いがないとはいえない。

[6] 私の見解は、以上のようなものであるところ、法廷意見の三は、本件規定について、極めて限定的な解釈を施している。私は右のような限定解釈により、本件規定を適用する局面が今後厳重に制限されることになるものと理解した上で、法廷意見の判断に与するものである。

(裁判長裁判官 大野正男  裁判官 園部逸夫  裁判官 可部恒雄  裁判官 千種秀夫  裁判官 尾崎行信)

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