同性婚訴訟(東京第1次)
第一審判決

国家賠償請求事件
東京地方裁判所 平成31年(ワ)第3465号
令和4年11月30日 民事第16部 判決

口頭弁論終結日 令和4年5月30日

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

 被告は、原告らに対し、各100万円及びこれらに対する平成31年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
[1] 本件は、同性の者との婚姻を希望する原告らが、婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定が憲法14条1項、24条1項及び2項に違反しているから、国会は民法及び戸籍法の諸規定が定める婚姻を同性間でも可能とする立法措置を講ずべき義務があるにもかかわらず、これを講じていないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して、慰謝料各100万円及びこれらに対する訴状送達の日である平成31年2月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
[2] 当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(証拠番号は、特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって明らかに認定できる事実は以下のとおりである。
[3] 性的指向(sexual orientation)とは、人が情緒的、感情的、性的な意味で、人に対して魅力を感じることであり、このような恋愛、性愛の対象が異性に向くことが異性愛、同性に向くことが同性愛(ゲイ、レズビアン)、双方の性別に向くことが両性愛(バイセクシャル)である(以下、性的指向が異性愛である者を「異性愛者」、性的指向が同性愛である者を「同性愛者」といい、同性愛者と性的指向が両性愛である者を併せて「同性愛者等」という。)。また、身体的性別と性自認(gender identity)が一致しない者がトランスジェンダーである(以下、同性愛者等とトランスジェンダーを併せて「性的少数者」と呼ぶことがある。)。
[4] 原告aと原告bは、共に同性愛者の女性で、平成6年から同居して共同生活を送っており、平成30年9月6日、居住する地方公共団体のパートナーシップ証明制度(地方公共団体によって呼称及び具体的内容は異なるが、大要、地方公共団体が同性カップルをパートナーとして公証する制度をいう。以下同じ。)を利用して、パートナーシップの宣誓を行った。原告aと原告bは、平成31年1月17日に婚姻届を提出したが、受理されなかった。(甲C1、2、5~10)
[5] 原告dと原告cは、共に同性愛者の女性で、平成18年頃からお互いの子供3人とともに同居して共同生活を送っており、平成27年11月5日、居住する地方公共団体のパートナーシップ証明制度を利用して、パートナーとなることの宣誓を行った。原告dと原告cは、平成31年2月7日に婚姻届を提出したが、受理されなかった。(甲D1~8)
[6] 原告eと原告fは、共に同性愛者の男性で、平成28年頃から同居して共同生活を送っており、平成31年2月1日に婚姻届を提出したが、受理されなかった。(甲E1~3、7)
[7] 亡gと原告hは、共に同性愛者の男性で、平成15年頃から同居して共同生活を送り、平成31年1月4日に婚姻届を提出したが、受理されなかった。亡gは本件訴訟提起後である令和▲年▲月▲日に死亡し、原告hはその包括受遺者である。(甲F1、3~9)
[8] 原告iは、ドイツ連邦共和国籍の同性愛者の女性であり、平成25年に来日した。原告iは、日本人女性と2018年(平成30年)9月10日にベルリン市において婚姻した。原告iと上記日本人女性は、平成31年1月16日、日本国内の居住地において婚姻届を提出したが受理されなかった。(甲G1~3、6、10)
[9] 民法は、第4編第2章「婚姻」を設け、婚姻に関する諸規定を置き(731条以下)、婚姻の成立要件、効力等について定めているところ、その中で、婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる旨を定め(739条1項)、婚姻した当事者を「夫婦」と呼称し、そのいずれかを「夫」又は「妻」と呼称している(750条、767条等)。
[10] また、戸籍法は、婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏等の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならず(74条)、婚姻の届出があったときは、夫婦について新戸籍を編成し(16条1項本文)、当該戸籍には、戸籍内の各人について、夫又は妻である旨が記載されることとされている(13条6号)。
[11] このように、婚姻制度に関する民法第4編第2章及び戸籍法の諸規定(以下、これらを併せて「本件諸規定」という。)は、同性の者同士の婚姻を明文で禁止しているものではないが、婚姻を「夫」と「妻」の間のもの、すなわち異性間のものとして定めており、同性間の婚姻は認められていない。
(1) 同性間の婚姻を認めていない本件諸規定の憲法適合性
(2) 国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を講じないことが国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるか
(3) 損害の有無及び額
(4) 国家賠償法6条所定の相互保証の存否(原告■関係)
[76] 否認ないし争う。
[77] 国家賠償請求権について定めた憲法17条及び国家賠償請求権の直接の根拠となる国家賠償法1条1項及び2条1項は、その文言上、請求の主体について何ら限定を加えておらず、同法6条において初めて請求の主体が外国人である場合に「相互の保証」を要する旨が規定されているにすぎない。このような条文の構造からすると、相互保証については、その不存在が抗弁事実となると解するのが相当である。しかるに、被告は相互保証の不存在について何ら主張立証をしないから、原告iは相互の保証が存在しないことが認められないものとして被告に対して本件請求を行うことができる。
[78] もっとも、この点をおくとしても、原告iの国籍国であるドイツ連邦共和国では、ドイツ連邦共和国基本法及び民法の定めにより、公務員に故意又は過失がある場合に国又は団体が当該故意又は過失によって第三者に生じた損害を賠償しなければならないとされている上、日本国民に対するドイツ連邦共和国の責任についての告示(1961年9月5日)が、被害者が日本国民である場合、ドイツ連邦共和国の賠償責任について日本の立法により相互の保証があることを明言しているのであるから、ドイツ連邦共和国との間では相互保証が存在している。よって、原告iは、相互保証があるものとして、本件請求をすることができる。
[79] 国家賠償法6条の趣旨に照らすと、同条は、外国人に対しては「相互の保証」があることを条件として国家賠償請求権を付与したものと解されるから、外国人による国家賠償請求については相互保証の存在が請求原因事実となる。したがって、相互の保証の存在については、原告iにおいて主張立証すべきである。
[80] 前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
ア 性的指向の決定に関する知見
[81] 性的指向が決定される原因や同性愛となる原因は必ずしも解明されていないが、精神衛生に関わる専門家の間では、ほとんどの場合において、性的指向は人生の初期に決定されるか、出生前に決定され、本人によって選択されるものではないと考えられており、養育環境、家庭環境が特定のものであったことや性的体験が同性愛の原因となったことを示す研究結果等は知られていない。(甲A2、7、345~347)
[82] また、精神医学の専門家の間では、いかなる精神医学的療法によっても性的指向が変わることはないだろうと考えられている。(甲A2)

イ 同性愛に関する知見の変遷
[83](ア) 欧米諸国においては、中世からキリスト教の影響により同性愛を否定する考え方が存在し、19世紀においても、同性間の性行為を処罰の対象とし、また、同性愛を精神疾患として治療の対象としていた。
[84] 我が国でも明治時代に同性愛を変態性欲として治療の対象とする考え方が広まり、法律上、男性同士の性行為が犯罪とされていた時期もあった。
(以上につき、甲A24、26、48、335、337)
[85](イ) 第二次世界大戦終結後、ヨーロッパ人権条約が発効し、ドイツやオーストリアのソドミー法の同条約適合性が争われるようになった。また、オーストラリアのタスマニア州におけるソドミー法の自由権規約適合性が争われたトゥーネン対オーストラリア事件において、自由権規約委員会は、同規約2条1項と26条について、性的指向の概念が差別禁止分類としての「性」と「その他の地位」に含まれるとの解釈を示し、ソドミー法の廃止こそが効果的な救済手段であるとの見解を下した。その後、欧米諸国において、同性間の性行為を処罰の対象とする法律は次第に廃止されていった。(甲A24、31)
[86](ウ) アメリカ精神医学会は、1952年(昭和27年)に発表したDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)-I(精神障害のための診断と統計の手引き第1版)において、同性愛を性的逸脱の一つであるとし、社会病質パーソナリティ障害という大分類に分類した。その後、1968年(昭和43年)のDSM-IIにおいて、同性愛を独立した診断名とし、「パーソナリティ障害及びその他の非精神病性精神障害」との大分類の中の「性的逸脱」との小分類の中に同性愛を分類した。(甲A48、335)
[87] しかし、1973年(昭和48年)、アメリカ精神医学会は、DSMから同性愛を削除することを決定し、同性愛者に対する差別を解消することと同性愛者の権利を保障することを表明した。1980年(昭和55年)に発表されたDSM-IIIにおいては、精神障害から同性愛が除外され、より限定的な「自我違和的同性愛ego-dystonic homosexuality」(大要、同性愛者である患者自身が同性に性的興奮を感じる状態を望まず、その状態が苦痛で、変わりたい旨を訴える場合を指す。)へ改められた。さらに、アメリカ精神医学会は、1987年(昭和62年)に発表したDSM-III-Rにおいては、上記の「自我違和的同性愛」も除外した。(甲A7、24、27、28、48、335)
[88] また、世界保健機関(WHO)は、ICD(International Classification of Diseases)-9(国際疾病分類第9版)までは、同性愛を疾病としていたが、1992年(平成4年)のICD-10において、同性愛のみでは障害とみなされないとした。(甲A29、30)
[89] 我が国においても、かつては同性愛が治療の対象となるとの考え方があったが、日本精神神経学会は、平成7年、市民団体からの求めに応じて、「ICD-10に準拠し、同性への性指向それ自体を精神障害とみなさない」との見解を明らかにした。(甲A48、335、342)
[90](エ) 現在、精神医学及び心理学の専門家の間では、同性愛それ自体は病気ではないという見方が一般的見解となっている。(甲A48、335、343)

ウ 性的少数者の状況に関する調査
[91](ア) アメリカ合衆国で2009年(平成21年)に行われた疫学調査では、自分を同性愛者とみなしている人の割合は、男性では6.8%、女性では4.5%であった。その他にアメリカ合衆国、カナダ等で行われた複数の調査によれば、自分をレズビアン又はゲイだと認識している成人の割合は0.7~2.5%であった。(甲A8、335)
[92](イ) 名古屋市が平成30年に行った調査によれば、1.6%の人が自分が性的少数者であると回答している。(甲A9)
[93](ウ) NHKが平成27年に性的少数者に対して行った調査によれば、「地方公共団体によるパートナーシップ証明制度を申請したい」と回答した人は82.4%(パートナーができたら申請したいと回答した人も含む。)、「同性間の結婚を認める法律を作ってほしい」と回答した人は65.4%、「結婚ではなくパートナー関係の登録制度を国が作ってほしい」と回答した人は25.3%、「現状のままで良い」と回答した人は2.9%であった。(甲A103)
[94](エ) ライフネット生命保険株式会社及びj宝塚大学教授が令和元年に1万人以上の性的少数者を対象に行った調査によれば、「同性婚やパートナーシップのような同性間の関係を公的に認める制度について、どう思いますか」との調査項目について、「異性婚と同じ法律婚(同性婚)を同性間にも適用してほしい」との回答が60.4%、「公的制度を作る必要はないが、社会の理解は今より浸透してほしい」との回答が16.2%、それ以外の者のほとんどは「国レベルのパートナーシップを制定してほしい」又は「自治体レベルのパートナーシップを制定してほしい」と回答した。(甲A320、321)
ア 近代的婚姻制度
[95] 歴史上、人間は男女の性的結合関係によって、子孫を残し、種の保存を図ってきたところ、この古くから続く関係を規範によって統制しようとするところに婚姻制度(法律婚制度)が生まれた。それぞれの時代、社会によって、どのような人的結合関係を婚姻として承認するかは異なるが、婚姻とは、いかなる社会においても、単なる当事者間の性愛に基づく結合ではなく、社会制度として、社会に承認された人的結合として存在するものと考えられ、ほとんどの社会において、婚姻の成立に一定の要件を定めている。そして、伝統的に、婚姻とは、単純な男女の性関係ではなく、男女の生活共同体として子の監護養育や分業的共同生活等の維持によって家族の中核を形成するものと捉えられてきた。
[96] ヨーロッパにおいては、中世において数会による統制の下で宗教婚が行われていたが、フランス革命後の近代的市民社会への移行に伴い、男女の意思の合致に基づく婚姻に一定の要件の下で国家が承認を与える近代的婚姻制度が確立されていった。近代的婚姻制度は、前近代社会の家父長的な家族共同体の支配関係からの離脱、平等で独立した主体者間の権利義務関係として捉えられた。
(以上につき、甲A211の25・27~29、乙22)

イ 明治期の民法
[97](ア) 我が国においては、明治初年にあっては、婚姻の実質的要件は慣習に委ねられ、統一的な実体法は存在しなかった。明治23年法律第98号(旧民法)において初めて実体的要件が定められ、これは施行には至らなかったものの、明治31年法律第9号の民法(以下、昭和22年民法改正による改正前の民法を「明治民法」という。)に受け継がれた。(甲A211の25・28)
[98](イ) 明治民法において、婚姻は、国家に対する届出によって成立する法律婚とされた。従来の家制度に基づき、家長である戸主に家を統率するための戸主権を与え、婚姻は家のためのものであるとして戸主や親の同意が要件とされ、夫婦は必ず家を共にすることを要するから、当事者の一方(通常は妻)が婚姻により他方の家(通常は夫の家)に入ることを要するものとされた。妾制度は廃止されたが、夫の妻に対する優位が認められており、夫は妻の財産を管理し、その収益権を持つものとされた。
[99] 当時の外国法には同性間の婚姻を明示的に禁止するものがあったが、明治民法においては、婚姻とは男女間の関係を定めるものであるから同性間で婚姻することはできないことは明らかであるとして、これを禁止する明文の規定は置かれなかった。学説上も、婚姻の当事者の一方は男性、他方は女性であることを要し、同性間において終生的共同生活を約しても婚姻関係は生じないとされていた。
(以上につき、甲A211の18・26・28・38)
[100] また、明治民法の条文上、生殖能力を有することは婚姻の要件とはされていない。学説上も、婚姻は夫婦の共同生活を目的とし、必ずしも子を得ることを目的とするものではないとされ、生殖能力は一般に具備すべき条件ではあるが、これを欠くことは婚姻の障害にはならず、離婚又は婚姻の無効・取消の原因とはならないと解されていた。(甲A210、211の18・33~35・38・41)

ウ 憲法(日本国憲法)の制定
[101](ア) 連合軍総司令部(GHQ)の下で、大日本帝国憲法改正作業が憲法問題調査委員会において進められた。
[102] 人権条項の起草を担当したGHQ民生局の女性職員ベアテ・シロタ・ゴードンは、かつて日本で生活していた際に感じた女性の地位の低さ等の問題意識に基づき、現行の憲法24条に相当する条文として、「…婚姻と家族とは、両性が法律的にも社会的にも平等であることは当然であるとの考えに基礎をおき、親の強制ではなく相互の合意に基づき、かつ男性の支配ではなく両性の協力に基づくべきことを、ここに定める。…配偶者の選択、財産権、相続、本拠の選択、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項を、個人の尊厳と両性の本質的平等の見地に立って定める法律が制定されるべきである。」とのシロタ草案18条を作成した。
[103] 上記シロタ草案に基づき1946年(昭和21年)2月にGHQ草案23条が作成され、これに基づいて日本政府が起草した「3月2日案」37条、GHQとの交渉を経て作成された「3月5日案」22条、口語化憲法改正草案22条、同年6月20日に帝国議会に提出された帝国憲法改正案22条が作成され、帝国議会での審議を経て現行の憲法24条となった。GHQ草案23条には「婚姻ハ男女両性ノ法律上及社会上ノ争フ可カラサル平等ノ上ニ存シ」との、「3月2日案」37条及び「3月5日案」22条には「婚姻ハ男女相互ノ合意ニ基キテノミ成立シ」との文言があったが、最終的には、「男女相互」が「両性」に変更された。また、日本政府は家族関係についての条項を憲法に規定することに消極的な姿勢を示し、「3月2日案」37条は現行の憲法24条1項に当たる部分のみの案となったが、「3月5日案」22条は、現行の憲法24条2項に当たる条項が加わった。
[104] このような経緯を経て、日本国憲法に大日本帝国憲法には存在しなかった家族に関する規定が設けられた。
(以上につき、甲A156~161、211の22・23・29、241、427)
[105](イ) 第90回帝国議会で憲法改正案が審議され、その際には、従来の家制度が維持されるか否かが主たる論点となったが、特に貴族院における審議を経て、従来の家制度は否定されるべきことが明確になっていった。なお、現行の憲法24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」の「のみ」の意味について、当時の司法大臣から、明治民法において婚姻に戸主や親権者の同意を要するものとされていた制限を排除し、両性の合意だけで成立させようという趣意である旨の答弁がされた。
[106] また、この審議において、同性間の婚姻について議論が行われた形跡は見当たらず、「婚姻はどうしてもこの男女が相寄り相助ける所に基礎があるのであります。」といった答弁がされるなど、婚姻は男女間のものであることを前提として議論が行われた。
(以上につき、甲A156、157、159~161、241、乙18)
[107](ウ) 憲法24条に基づき、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)が制定され、明治民法の家制度に関する規定の適用が停止され、その後、民法第4編及び第5編が全面的に改正され(昭和22年民法改正。同改正後の民法を「現行民法」ということがある。)、昭和23年1月1日に施行された。(甲A19、211の28、546)

エ 昭和22年民法改正
[108](ア) 昭和22年民法改正により、父母の婚姻同意権は未成年者に限られることとなり、戸主の婚姻同意権及び戸主又は法定推定家督相続人の他家へ入る婚姻の禁止に関する規定は廃止されるなど、家制度による制約が除去されたほか、財産は各自で管理収益するものとされるなど夫婦間の不平等が改められた。(甲A16、19、211の21・28)
[109] 国会審議においては、明治民法の特に親族編、相続編には、憲法13条、14条、24条の定める基本原則に抵触する規定があることから、これを改正することが提案理由とされ、上記の抵触する規定が削除された一方、抵触しない規定についてはこれを維持することとされた。その中で、同性間の婚姻について議論が行われた形跡は見当たらない。(甲A16、211の21)
[110](イ) 昭和22年民法改正の後、現行民法が定める婚姻について、婚姻をなすとは、その時代の社会通念に従って婚姻とみられるような関係を形成することであり、同性間の「婚姻」は、婚姻ではないとの学者の見解が示されている。(甲A211の27・28)
ア 同性間の人的結合関係に関する婚姻制度以外の制度
[111](ア) 1989年(平成元年)、デンマークにおいて、法律上、同性の二者間の関係を公証し、一定の地位や法的効果を付与する制度である登録パートナーシップ制度が導入された。同様の制度(各国によって呼称や具体的な制度内容は異なるが、以下では総称して「登録パートナーシップ制度」といい、後述の(イ)の制度と併せて「登録パートナーシップ制度等」という。)は、ヨーロッパ諸国を中心に広がり、ノルウェー(1993年(平成5年))、オランダ(1998年(平成10年))、ドイツ(2001年(平成13年))、フィンランド(同年)、ルクセンブルク(2004年(平成16年))、ニュージーランド(同年)、英国(2004~2005年(平成16~17年))、オーストリア(2009年(平成21年)),アイルランド(2011年(平成23年))等において導入された。これらのうち、多くの国の登録パートナーシップ制度は、同性間の人的結合関係のみを対象としているが、異性間の人的結合関係をも対象とするものもある(オランダ、ポルトガル等)。(甲A98、169、205、211の7・29、甲G8)
[112](イ) また、登録パートナーシップ制度ほどには強力な法的効果を望まないカップルに関して、一定の同棲関係に対して主に財産法上の法的効果を与える法定同棲と呼ばれる制度を設けている国(ベルギー、スウェーデン)や、当事者の契約によって権利及び義務を設定し公的機関に登録することで第三者や国に対してカップルであることを対抗することができるようになる市民連帯協約(PACS)の制度を設けている国(フランス)もあり、これらの制度は異性カップルであるか同性カップルであるかを問わず、利用することができる。(甲A98、169、205、211の7・29)
[113](ウ) イタリアにおいては、憲法裁判所が2010年(平成22年)に婚姻は異性間の結合を指す旨判断し、2014年(平成26年)にもその判断を維持したものの、同性の当事者間の権利及び義務を適切に定めた婚姻とは別の形式が同国の法制度上存在しないことは憲法に違反する旨判示した。これを受けて、2016年(平成28年)に「同性間の民事的結合に関する規則及び共同生活の規律」が成立した。この民事的結合は、同性の両当事者が証人とともに身分取扱担当官の面前で宣言することによって形成され、民事的結合によって生ずる権利及び義務については、養子縁組に関する規定等を除き、基本的に婚姻に関する規定が準用されるものとされている。(甲A98)

イ 同性間の婚姻制度
[114](ア) 2001年(平成13年)にオランダが同性間の婚姻制度を導入し、世界で初めて同性間の婚姻を法律上認めた国となった。その後、ベルギー(2003年(平成15年))、スペイン(2005年(平成17年))、カナダ(同年)、南アフリカ(2006年(平成18年))、ノルウェー(2009年(平成21年))、スウェーデン(同年)、ポルトガル(2010年(平成22年))、アイスランド(同年)、アルゼンチン(同年)、デンマーク(2012年(平成24年))、ブラジル(2013年(平成25年))、フランス(同年)、ウルグアイ(同年)、ニュージーランド(同年)、英国(北アイルランドを除く)(2014年(平成26年))、ルクセンブルク(2015年(平成27年))、アイルランド(同年)、コロンビア(2016年(平成28年))、フィンランド(2017年(平成29年))、マルタ(同年)、ドイツ(同年)、オーストラリア(同年)、オーストリア(2019年(平成31年、令和元年))、台湾(同年)、エクアドル(同年)、コスタリカ(2020年(令和2年))、英国(北アイルランド)(同年)、チリ(2022年(令和4年))、スイス(同年)において同性間の婚姻制度が導入された(いずれも施行年である。)。
[115] これらの国・地域の多くでは、登録パートナーシップ制度等を導入した後に同性間の婚姻制度が導入されているが、登録パートナーシップ制度等の導入により、社会的な承認が進んだことが同性間の婚姻制度導入を可能にしたとの指摘もされている。そして、同性間の婚姻制度の導入に際して従前の登録パートナーシップ制度等を廃止する国もあるが、維持する国も存在し、後者においては、登録パートナーシップ制度等の内容は、改正を重ね、財産的な結合のみならず人格的義務を伴うものとなるなど、婚姻制度に近似しつつある例がある。
(以上につき、甲A98、145~148、169、205、210、211の7・29、319、417、533、534、甲G8)
[116](イ) また、以下のとおり、同性間の婚姻を認める法律の規定を合憲とする司法判断、同性間の婚姻を認めない法令を違憲とする司法判断等がされた。
[117]① スペイン憲法裁判所は、2012年(平成24年)11月6日、同性間の婚姻を認める民法の規定は憲法に違反しない旨判示した。(甲A169)
[118]② アメリカ合衆国連邦最高裁判所は、2015年(平成27年)6月26日、いわゆるObergefell事件において、婚姻の要件を異性カップルに限り、同性間の婚姻を認めないオハイオ州、ミシガン州、ケンタッキー州及びテネシー州の各州法の規定は、アメリカ合衆国憲法のデュー・プロセス条項及び平等保護条項に違反する旨判示した。(甲A98、99、164)
[119]③ 台湾の憲法裁判所に当たる司法院は、2017年(平成29年)5月24日、同性間の婚姻を認めていない民法の規定は中華民国憲法に違反する旨判示した。(甲A98、101)
[120]④ オーストリア憲法裁判所は、2017年(平成29年)12月4日、前記アのとおり既に導入され、改正もされていた登録パートナーシップ制度について、婚姻と法的構造が同じであっても、異性間関係と同性間関係とを二つの法制度によって区別することは、性的指向等の個人の属性を理由とする差別を禁止する平等原則に違反する旨判示した。(甲A98)
[121](ウ) 同性間の婚姻を認める国においても、異性間の婚姻と同性間の婚姻の内容に相違がある場合(又は、導入当初は相違があった場合)があり、その主なものとして嫡出推定規定の適用の有無、養子縁組の可否、生殖補助医療利用の可否等が挙げられる。(甲A169、211の29)
[122](エ) 韓国においては、2016年(平成28年)、地方裁判所に相当する地方法院において、同性間の婚姻を認めるか否かは立法的判断によって解決されるべきであり、司法により解決できる問題ではないとの判断が示された。(甲A98)
ア 地方公共団体における取組の状況
[123](ア) 平成27年10月に東京都渋谷区が、同年11月に東京都世田谷区が地方公共団体レベルでのパートナーシップ証明制度を導入したのをはじめとして、パートナーシップ証明制度を導入する地方公共団体が増加しており、これらの制度を利用した同性カップルも多く存在する。また、一部の地方公共団体が協定を締結して当該地方公共団体間での相互利用を可能とする例や同性パートナーの子を含めたファミリーシップ証明も可能とする例もある。渋谷区等の調査によれば、令和4年4月1日時点でパートナーシップ証明制度を導入した地方公共団体は209に及び、人口カバー率は52.1%となっている。(甲A75~91、119~134、266~302、352~391、445~519)
[124] 上記渋谷区の制度は、渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例に基づき、区長がパートナーシップ証明を行うものであり、同区が平成29年にパートナーシップ証明を取得した者に対して行った調査では、証明書は社会からの承認であると捉えているとの意見がみられた。(甲A75、434)
[125](イ) また、上記のほかにも、地方公共団体において、犯罪被害者の遺族等に対する助成金につきパートナーシップ証明を受けている同性パートナーを受給者に含める、同性カップルの職員に結婚休暇や出産支援休暇の利用を認めるなどの取組みがされている。(甲A307~309、392、393)

イ 民間企業等における取組の状況
[126] 一般社団法人日本経済団体連合会は、平成29年5月16日、「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」と題する提言を発表し、性的少数者の理解促進、差別解消を呼びかけた。(甲A94)
[127] 多数の民間企業において、性的少数者の抱える困難を解消するなどの目的の下で、同性パートナーについて慶弔休暇を適用する例や家族手当の対象とする例、同性のパートナーの子を社内制度上「子」として扱うファミリーシップ申請制度を導入した例等、企業における福利厚生について同性カップル及びその子に関して拡大を図る取組がされている。(甲A314、315、318、399)
[128] また、一部の金融機関において、住宅ローンの連帯債務者を従来は夫婦に限っていたものについて、同性パートナーにも拡大するなどの取組もされている。(甲A312、313)

ウ 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
[129] 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号)が平成16年7月16日に施行された。同法3条1項は、性同一性障害者につき性別の取扱いの変更の審判が認められるための要件として、「現に婚姻をしていないこと」(2号)を定めているところ、最高裁判所は、同規定について、現に婚姻をしている者について性別の取扱いの変更を認めた場合、異性間においてのみ婚姻が認められている現在の婚姻秩序に混乱を生じさせかねない等の配慮に基づくものとして、合理性を欠くものとはいえないから、国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず、憲法13条、14条1項、24条に違反するものとはいえないとの判断をした(最高裁令和元年(ク)第791号同2年3月11日第二小法廷決定)。
[130] 日本世論調査会が平成26年に行った調査によれば、同性婚を法的に認めることについて、賛成(どちらかといえば賛成を含む。)が42.3%(男性では35.4%、女性では48.7%)、反対(どちらかといえば反対を含む。)が52.4%であった。(甲A104)

[131] k広島修道大学教授を研究代表者とするグループが平成27年に全国の20~79歳の男女に対して行った調査によれば、同性同士の結婚を法で認めることについて賛成(やや賛成を含む。)が51.2%(男性では44.8%、女性では56.7%)、反対(やや反対を含む。)が41.3%(男性では50.0%、女性では33.8%)であった。(甲A104)

[132] 毎日新聞社が平成27年に行った全国調査(回答者数1018人)によれば、同性婚について、賛成が44%(男性では38%、女性では50%)、反対が39%(男性では49%、女性では30%)であった。(甲A104、105)

[133] NHKが平成29年に全国18歳以上の国民に行った調査(調査有効数2643人)によれば、男性同士、女性同士が結婚することを認めるべきだとの調査項目について、そう思うとの意見は50.9%、そうは思わないとの意見は40.7%であった。(甲A106、107)

[134] 朝日新聞社が平成29年に行った全国世論調査によれば、同性婚を法律で認めるべきかとの調査項目に対し、「認めるべきだ」との回答は49%(男性では44%、女性では54%)、「認めるべきではない」との回答は39%であった。また、18~29歳、30代では「認めるべきだ」との回答が7割を超えるのに対し、60代では「認めるべきだ」と「認めるべきではない」が拮抗し、70歳以上では「認めるべきではない」が63%となった。(甲A108、109)

[135] 株式会社電通が平成30年に20~59歳の6万人を対象に行った調査によれば、性的少数者の当事者は8.9%であった。6万人から抽出した6229人のうち、同性婚の合法化に「賛成」又は「どちらかというと賛成」と回答した者は78.4%であり、性的少数者ではない5640人でみると女性は87.9%、男性は69.2%が「賛成」又は「どちらかというと賛成」であった。(甲A110、211の57)

[136] 国立社会保障・人口問題研究所が平成30年に行った第6回全国家庭動向調査によれば、既婚女性6142人のうち、①男性同士や女性同士の結婚(同性婚)を法律で認めるべきだとの調査項目について、「まったく賛成」又は「どちらかといえば賛成」と回答した者は69.5%、「まったく反対」又は「どちらかといえば反対」と回答した者は30.5%、②男性同士や女性同士のカップルにも何らかの法的保障が認められるべきだとの調査項目について、「まったく賛成」又は「どちらかといえば賛成」と回答した者は75.1%、「まったく反対」又は「どちらかといえば反対」と回答した者は25.0%、③同性同士のカップルも男女のカップルと同じように子供を育てる能力があるとの調査項目について、「まったく賛成」又は「どちらかといえば賛成」と回答した者は69.4%、「まったく反対」又は「どちらかといえば反対」と回答した者は30.6%であった。(甲A149、165、166、226)

[137] 朝日新聞社と東京大学l研究室が令和2年3~4月に全国の有権者2053人から回答を得て行った調査によれば、同性婚について、「賛成」又は「どちらかと言えば賛成」と回答した者は46%、「どちらとも言えない」と回答した者は31%、「反対」又は「どちらかと言えば反対」と回答した者は23%であった。平成17年に有権者を対象として行った調査と比較すると、同性婚については賛成意見が14%増加した。また、自由民主党支持層でも賛成意見が増加し、反対意見を上回った。(甲A224)
[138] 内閣府の平成17年版国民生活白書によれば、結婚の良い点・メリットは何かとの調査項目につき、「家族や子どもを持てる」が既婚者で63.5%、未婚者で58.2%、「精神的な安定が得られる」が既婚者で61.9%、未婚者で54.3%、「好きな人と一緒にいられる」が既婚者で58.0%、未婚者で57.7%であった。
[139] また、家庭はどのような意味を持つと感じているかとの調査項目につき、「家族の団らんの場」が有配偶者で63.8%、未婚者で54.9%、「休息・やすらぎの場」が有配偶者で57.3%、未婚者で55.4%、「家族の絆を強める場」が有配偶者で50.6%、未婚者で37.6%、「子どもを生み、育てる場」が有配偶者で27.0%、未婚者で19.5%であった。
(以上につき、甲A211の54)

[140]イ(ア) 内閣府が平成22年から平成23年にかけて実施した結婚・家族形成に関する調査によれば、既婚者が結婚した理由は、「好きな人と一緒にいたかった」が61.0%、「家族を持ちたかった」が44.2%、「子どもが欲しかった」が32.5%であった。
[141] また、未婚者(将来結婚したい人)が結婚したい理由は、「好きな人と一緒にいたい」が61.0%、「家族を持ちたい」が59.2%、「子どもが欲しい」が57.1%であった。
(以上につき、甲A211の55の1)
[142](イ) 内閣府が平成26年から平成27年にかけて実施した結婚・家族形成に関する意識調査によれば、未婚者(将来結婚したい人)が結婚したい理由は、「家族を持ちたい」と「子どもが欲しい」が共に70.0%、「好きな人と一緒にいたい」が68.9%であった。(甲A211の55の2)

[143] 国立社会保障・人口問題研究所が平成27年に実施した第15回出生動向基本調査における対象となる18~34歳の未婚者による回答結果は、以下のとおりであった。(甲A211の52、544)
[144](ア) 「生涯を独身で過ごすというのは、望ましい生き方ではない」との調査項目について賛成した者は、男性で64.7%、女性で58.2%であった。
[145](イ) 「いずれ結婚するつもり」と回答した者は、男性が85.7%、女性が89.3%であり、おおむね微減傾向にあるものの、高い水準にあった。
[146](ウ) 「結婚に利点がある」と回答した者は、男性が64.3%、女性が77.8%であり、具体的な利点としては、「自分の子どもや家族をもてる」と回答した者が男性で35.8%、女性で49.8%と最も多く、続いて「精神的安らぎの場が得られる」と回答した者が男性で31.1%、女性で28.1%であった。
[147](エ) 子供を持つ理由について、「子どもがいると生活が楽しく豊かになるから」と回答した者が男性で66.5%、女性で73.3%であり、「結婚して子どもを持つことは自然なことだから」と回答した者は男性で48.4%、女性で39.0%であった。

[148] NHKが平成30年に全国の16歳以上の5400人を対象に行った調査(回答率50.9%)によれば、「必ずしも結婚する必要はない」と回答した者は68%であり、過去の調査結果に比べ増加し、他方で「人は結婚するのが当たり前だ」と回答した者は27%であり、過去の調査結果に比べ減少した。また、「結婚しても、必ずしも子どもをもたなくてよい」と回答した者は60%であり、過去の調査結果に比べ増加し、「結婚したら、子どもをもつのが当たり前だ」と回答した者は33%であり、過去の調査結果に比べ減少した。(甲A211の50)

[149] 国立社会保障・人口問題研究所が平成30年に行った第6回全国家庭動向調査によれば、既婚女性6142人のうち、「夫婦は子どもを持ってはじめて社会的に認められる」との調査項目について、「まったく賛成」又は「どちらかといえば賛成」と回答した者は24.7%であり、「まったく反対」又は「どちらかといえば反対」と回答した者は75.4%であった。賛成割合は同研究所が平成20年に行った調査における35.8%、平成25年に行った調査における32.1%から減少した。(甲A211の51)
[150] 原告らは、憲法24条1項は、国家以前の個人の尊厳に直接由来する自由として婚姻の自由を保障していると解すべきであり、その婚姻の自由は同性間の婚姻についても及ぶものとした上で、本件諸規定は、憲法が婚姻制度について要請し想定した核心部分を正当化根拠なく制約するものであり、憲法24条1項に違反する旨主張する。

[151] 憲法24条1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定するところ、これは、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものであると解される。婚姻は、これにより、配偶者の相続権(民法890条)や夫婦間の子が嫡出子となること(同法772条1項等)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか、近年家族等に関する国民の意識の多様化が指摘されつつも、国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられることをも併せ考慮すると、上記のような婚姻をするについての自由は、憲法24条1項の規定の趣旨に照らし、十分尊重に値するものと解することができる。
[152] また、憲法24条2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定する。婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものであるから、その内容の詳細については、憲法が一義的に定めるのではなく、法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。憲法24条2項は、このような観点から、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的に国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものということができる(以上につき、最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁〔以下「平成27年再婚禁止期間大法廷判決」という。〕、最高裁平成26年(オ)第1023号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586号〔以下「平成27年夫婦同氏制大法廷判決」という。〕参照)。
[153] 以上によれば、憲法24条は、その2項において、婚姻及び家族に関する事項についての具体的な制度の構築を国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものであり、1項は、その中でも婚姻に関する立法すなわち法律婚制度の構築にあたっては、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについて、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられることとすることを立法府に対して要請する趣旨のものと解される。

[154] 以上の理解を前提として、憲法24条1項が法律婚制度の構築を求めた同条の「婚姻」について、異性間の婚姻のみならず同性間の婚姻も含むものと解することができるかについて検討する。
[155] まず、憲法24条1項は、「両性」、「夫婦」という男性と女性を示す文言を用いている。この点について、憲法24条の制定経緯をみると、GHQ草案23条では「男女両性」という文言が、これを受けて日本側で作られた「3月2日案」37条及び「3月5日案」22条では「男女相互」という文言がそれぞれ用いられているなど、一貫して男性と女性を示す文言が用いられており、これを踏まえて最終的には「男女相互ノ合意」に代えて「両性の合意」という文言が用いられたことが認められる(前記認定事実(2)ウ)。そうすると、これらの文言からは、同条にいう「婚姻」は、異性間の婚姻を指すものと解するのが自然である。
[156] また、前記認定事実(2)ウのとおり、憲法制定時の帝国議会における審議の過程においても同性間の婚姻について議論が行われた形跡は見当たらず、婚姻は男女間のものであることが当然の前提とされていたことがうかがわれ、これは、憲法24条等の制定に伴い改正された現行民法の審議の過程においても同様である(前記認定事実(2)イ、エ)。
[157] そうすると、憲法24条にいう「婚姻」とは、異性間の婚姻を指し、同性間の婚姻を含まないものと解するのが相当である。

[158] これに対し、原告らは、憲法制定当時は24条の「婚姻」が異性間の婚姻を指していたとしても、憲法の原理及びその後の社会の変化を踏まえれば、今日の解釈としては同性間の婚姻をも含むものと解すべき旨主張するので、この点について検討する。
[159](ア) 前記認定事実(2)アのとおり、婚姻とは、当事者間の親密な人的結合全般ではなく、その時代の社会通念に従って婚姻とみられるような関係、いわば社会的な承認を受けた人的結合関係をいうものと解されてきたところ、前記ウのとおり、憲法制定時においては、婚姻とは男女間のものという考え方が当然の前提となっており、同性間の人的結合関係については、これを婚姻に含めるか否かの議論すらされていないことが認められる。また、前記認定事実(2)ア及び(3)イのとおり、当時、我が国に限らず、諸外国においても同性間の婚姻を認める立法例は存在していなかったことが認められる。そうすると、憲法制定当時においては、我が国において、同性間の人的結合関係を婚姻とする旨の社会通念、社会的な承認は存在しておらず、婚姻は男女間のものとする社会通念に従って、前記のとおり異性間の人的結合関係のみを「婚姻」とする憲法が制定されたものと認められる。
[160] 婚姻や家族についての社会通念や国民の意識、価値観は変化し得るものであるところ、近時、同性愛者を含む性的少数者に対する社会内での理解が進み、前記認定事実のとおり、精神医療等の専門家の間では同性愛を疾病とする見解が否定されるに至ったこと(前記認定事実(1)イ(ウ))、かつて同性間の性交渉を処罰する法律を有していた国においても当該法律を廃止する動きが進んでいること(同(1)イ(イ))、多くの国において同性カップルに一定の地位や法的保護、公証を与える登録パートナーシップ制度等が導入され(同(3)ア)、さらに、平成13年以降、約30の国・地域において、同性間の婚姻を認める立法が次々にされてきたこと(同(3)イ(ア)及び(イ))、我が国においても、多くの地方公共団体においてパートナーシップ証明制度が導入されるなど,同性カップルについて一定の法的保護を与えようとする動きがあること(同(4)ア)などの事実を認めることができ、同性愛を異常なもの、病的なものとするかつての認識の誤りは多くの国において改善されつつあり、同性愛に対する差別、偏見を克服しようとする動きがあることが認められる。このとおり、同性愛者等を取り巻く社会状況に大きな変化があることを踏まえれば、今日においては憲法24条の「婚姻」に同性間の婚姻を含むものと解釈すべきとの原告らの主張を直ちに否定することはできない。
[161](イ) しかしながら、前記認定事実のとおり、歴史上、人間は男女の性的結合関係によって、子孫を残し、種の保存を図ってきたところ、このような前国家的な関係を規範によって統制するために婚姻制度(法律婚制度)が生じ、その中で、婚姻とは、伝統的に、男女の生活共同体として子の監護養育や共同生活等の維持によって家族の中核を形成するものと捉えられてきたことが認められる(前記認定事実(2)ア)。そして、このような婚姻についての捉え方は、オランダにおいて同性間の婚姻の制度が導入される平成13年までは諸外国においても共通しており、婚姻は男女間のものとされてきたところである(前記認定事実(2)ア、(3)イ)。これらの事実等からすれば、伝統的に男女間の人的結合に対して婚姻としての社会的承認が与えられてきた背景、根底には、夫婦となった男女が子を産み育て、家族として共同生活を送りながら、次の世代につないでいくという社会にとって重要かつ不可欠な役割を果たしてきた事実があることは否定できないところであろう。
[162] 前述のとおり、婚姻や家族に関する社会通念や国民の意識、価値観は時代、社会によって変遷するものであり、我が国においても、従来に比べて結婚について多様な考え方が存在するようになり、また、婚姻しないという選択又は婚姻しても子を持たないという選択をすることも当該個人の自由であることは論を俟たないところではある。しかしながら、婚姻についての意識調査の結果(前記認定事実(6))によれば、生涯を独身で過ごすというのは望ましい生き方ではないとの回答や、結婚をする理由として子供を持ちたいことを挙げる回答が過半数を占める調査結果も存在することが認められ、法律婚を尊重する考え方や婚姻と子供を持つことを結びつける考え方を有する人は今なお一定の割合を占めていることが認められる。
[163] そうすると、原告らが指摘する同性愛者等を取り巻く社会状況の変化や同性愛に対する差別、偏見の解消の重要性を踏まえたとしても、当事者間における自然生殖の可能性がないことが明らかである同性カップルについて、その人的結合関係に対して一定の法的保護を与えることを超えて、本件諸規定が対象としている異性間の婚姻と同じ「婚姻」と捉えるべきとの社会通念や社会的な承認が生じているか否かについては、更なる慎重な検討を要するものといわざるを得ない(なお、この点は、女性の同性カップルであっても生殖補助医療を受けることなどにより出産することが可能であることや同性カップルが子を養育することが可能であることを否定するものではなく、古くから続いてきた男女が共同生活を送る中で子を産み育てるという営みが同性カップルには当てはまらないことをいうものである。)。
[164] そして、前記認定事実(5)のとおり、我が国における世論調査等の結果によれば、同性間の婚姻の導入について反対意見を有する人の割合は減少傾向にあることが認められるものの、依然として一定の割合を占めており、社会内において価値観の対立があることが認められる。このような反対意見の多くは、婚姻を男女間の人的結合関係と捉える伝統的な価値観に根差したものであると考えられるところ、そのような伝統的な価値観が、夫婦となった男女が子を産み育て、家族として共同生活を送りながら、次の世代につないでいくという古くからの人間の営みに由来するものであることからすれば、これを一方的に排斥することも困難であるといわざるを得ない。
[165](ウ) 以上によれば、我が国においても、同性愛に対する差別・偏見を解消しようとする動き、同性カップルに一定の法的保護を与えようとする動きがあることは前述のとおりであるものの、現段階において、同性間の人的結合関係を異性間の夫婦と同じ「婚姻」とすることの社会的承認があるものとまでは認め難いものといわざるを得ない。
[166] したがって、憲法制定時からの社会状況の変化等を踏まえても、現段階において、憲法24条の「婚姻」について、これに同性間の婚姻を含まないという前記ウの解釈が不当であり解釈を変更すべき状態となっているものということはできない。

[167] また、原告らは、憲法が婚姻制度について要請した核心部分は、望む相手と両当事者の合意のみに基づいて婚姻が成立するという点であるから、婚姻の自由は同性間の婚姻についても保障される旨主張する。
[168] 憲法制定時に明治民法による家制度の廃止が議論され、婚姻について戸主等による同意を要するものとせず、両当事者の合意のみによって成立することとされたことは原告ら主張のとおりであるが、その前提として、婚姻は、その社会において「婚姻」とする旨の承認を得た人的結合関係をいうものと解されるところ、同性間の婚姻について、現段階において、このような社会における承認があるとまでは認められないことは前述のとおりである。したがって、原告らの主張はその前提を欠き、採用することができない。

[169] 以上によれば、憲法24条の「婚姻」に同性間の婚姻を含むものと解することはできず、憲法24条1項が同性間の婚姻に関する立法に関して当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられることとすることを要請したものと解することはできない。
[170] したがって、婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が憲法24条1項に違反するとはいえない。
[171] 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁、平成27年再婚禁止期間大法廷判決平成27年夫婦同氏制大法廷判決等参照)。
[172] また、前記(1)イで述べたとおり、憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的に国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものであるから、婚姻及び家族に関する事項についての区別取扱いについては、立法府に与えられた上記の裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものということができる(最高裁平成24年(ク)第984号、第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁参照)。

[173]イ(ア) 原告らは、本件諸規定は性的指向によって婚姻の可否について区別取扱いを行うものであると主張する。
[174] 本件諸規定は、性的指向が異性愛であることを婚姻の要件としたものではないが、婚姻を異性間のものに限ることによって、実質的には同性愛者の婚姻を不可能とする結果を生ぜしめているから、性的指向による区別取扱いに当たるものと認められる。
[175](イ) これに対し、被告は、本件諸規定は飽くまでも一人の男性と一人の女性の間の婚姻を定めるものにすぎず、本件諸規定の文言上も特定の性的指向を婚姻の成立要件等とするものではないから、性的指向による形式的不平等が存在するものではないと主張する。
[176] しかしながら、婚姻の本質は、当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるところ、同性愛者にとっては、異性との婚姻はこのような婚姻の本質を伴ったものにはならないのであるから、形式的には異性との婚姻制度を利用することができたとしても、実質的には婚姻ができないことに等しい。そうすると、本件諸規定は、それ自体には性的指向についての要件等を設けておらず、性的指向について中立的な制度にはなっているものの、同性愛者が婚姻することを実質的には不可能としているものであり、このような効果は本件諸規定が婚姻を異性間のものに限っていることによって生じた結果であるといえるから、性的指向による区別取扱いに当たるものと認められる。この点の被告の主張は理由がない。

[177] 以上のとおり、本件諸規定は、婚姻の可否について性的指向による区別取扱いをするものであるところ、これにより、同性愛者は、婚姻(法律婚)制度全体を利用することができない状況に置かれ、異性愛者とは異なり、婚姻によって生ずる様々な法的効果等を享受することができないという不利益を受けているということができる。
[178] しかしながら、前述のとおり、憲法24条1項は、異性間の婚姻について法律婚としての立法を要請しているものと解すべきものであるところ、このように婚姻を異性間のものとする社会通念の背景には、夫婦となった男女が子を産み育て、家族として共同生活を送りながら、次の世代につないでいくという古くからの人間の営みがあることは前述のとおりである。そうすると、本件諸規定が婚姻を異性間のものに限り、同性間の婚姻を認めていないことは、上記のような社会通念を前提とした憲法24条1項の法律婚制度の構築に関する要請に基づくものであって、上記区別取扱いについては合理的な根拠が存するものと認められる。
[179] したがって、本件諸規定が婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていないこと自体が、立法裁量の範囲を超え、性的指向による差別に当たるとして、憲法14条1項に違反するとはいえない。

[180] これに対し、原告らは、上記区別取扱いに合理的根拠が認められるかの審査は厳格に行われるべきであり、同性愛者の不利益は甚大であることや、婚姻制度の目的が親密性に基づく共同生活の保護にあることなどからすれば、上記区別取扱いに合理的理由が存在しないことは明らかである旨主張する。
[181] しかしながら、前述のとおり、憲法24条の「婚姻」は異性間の婚姻を指し、同条1項が異性間の婚姻について法律婚制度の構築を要請している一方、同性間の婚姻については、異性間の婚姻と同等の保障をしているとは解されないことからすれば、婚姻制度の目的の一つが人的結合関係における共同生活の保護にあると考えられることなどを考慮したとしても、本件諸規定が婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていないことが立法裁量の範囲を超え、憲法14条1項に違反するとはいい難い。

[182] また、原告らは、本件諸規定は性別に基づく区別取扱いであるとも主張する。
[183] しかし、本件諸規定の下では男性も女性もそれぞれ異性とは婚姻することができ、また、同性とは婚姻することができないのであって、男性か女性のどちらか一方が性別を理由に不利益な取扱いを受けているものではないから、本件諸規定は性別に基づく区別取扱いをするものとはいえない。
[184] したがって、この点の原告らの主張は採用することができない。
[185]ア(ア) これまで述べたとおり、憲法24条の「婚姻」が異性間の婚姻を指していると解されることからすれば、本件諸規定が婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていないこと自体が憲法24条1項、14条1項に違反するものとはいえない。
[186](イ) もっとも、前記のとおり、憲法24条1項は、同条の「婚姻」すなわち異性間の婚姻に関する立法について婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられることとすることを立法府に対して求める趣旨の規定であり、法律婚制度に同性間の婚姻を含めることについては何ら触れられていない。その制定時の議論をみても、同条は、明治民法の下での家制度に付随する戸主の権限を廃止し、当事者双方の合意のみに基づく婚姻を可能とすることに主眼があったことが認められ、婚姻は異性間のものであるとの前提に立つものではあるものの、同性間の婚姻を積極的に排除、禁止しようとしたものとはうかがわれない(前記認定事実(2)ウ)。
[187] そして、婚姻の本質は、当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあると解されるところ、このような目的、意思をもって共同生活を営むこと自体は同性カップルにも等しく当てはまるものであるし、その性的指向にかかわらず、個人の人格的生存において重要なものであると認められる。
[188] したがって、憲法24条は、本件諸規定が定める婚姻を同性間にも認める立法をすること、又は同性間の人的結合関係について婚姻に類する制度を法律により構築することなどを禁止するものではなく、上記のような立法は、その内容が個人の尊厳と両性の本質的平等に反し立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱するものでない限り、憲法24条に違反するものではないということができる。
[189](ウ) 同性愛者は、性的指向という本人の意思で変えることのできない事由により、本件諸規定により婚姻制度を利用することができない状態に置かれている。また、前記認定事実(4)アのとおり、一定数の地方公共団体がパートナーシップ証明制度を導入し、同性カップルをパートナーすなわち家族として公証することを行っているものの、これは地方公共団体ごとの取組みであって、国においてはこのような制度は存在しない。その結果、同性愛者は、そのパートナーとの共同生活について、家族として法的保護を受け、社会的に公証を受けることが法律上できない状態にある。
[190] 憲法24条2項は、婚姻に関する事項のみならず、家族に関する事項についても、その立法に当たり個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべき旨を示しているところ、このような状態が、憲法24条2項が掲げる個人の尊厳に照らして合理性を欠き、立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという点を踏まえ、本件諸規定の憲法24条2項適合性を検討する。

[191] 前記(1)イのとおり、憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項も前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる。
[192] そして、憲法24条が、本質的に様々な要素を検討して行われるべき立法作用に対してあえて立法上の要請、指針を明示していることからすると、その要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものでなく、かつ、両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点でも立法裁量に限定的な要請をし、指針を与えるものといえる。
[193] 他方で、婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における家族関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである。特に、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益や実質的平等は、その内容として多様なものが考えられ、それらの実現の在り方は、その時々における社会的条件、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決められるべきものである。
[194] したがって、婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条2項にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である。(以上につき、平成27年夫婦同氏制大法廷判決参照)

[195]ウ(ア) 婚姻(法律婚)制度は、様々な法制度のパッケージとして構築されており、婚姻することによって様々な法的効果が発生する。例えば、民法においては、同居、協力及び扶助の義務(752条)、婚姻費用の分担(760条)、財産の共有推定(762条2項)、離婚時の財産分与(768条)、嫡出の推定(772条)、特別養子縁組についての夫婦共同縁組(817条の3)、夫婦の共同親権(818条)、配偶者の相続権(890条)と法定相続分(900条)、配偶者居住権(1028条)、配偶者短期居住権(1037条)、遺留分(1042条)等が挙げられ、戸籍法においては、婚姻の届出があったときは、夫婦について新戸籍を編成し(16条1項本文)、子が出生した場合には、子は親の戸籍に入ること(18条)等が挙げられる。その他にも、税、社会保障、出入国管理の分野等において、個別法規において婚姻(配偶者であること)が効果発生のための要件とされているものが多数存在する。これらの規定の多くは、夫婦が共同生活を送り、場合によっては子を産み育てるにあたり、その家族関係を法的に保護する趣旨のものであるということができる。
[196] また、このような明文による法的効果に限らず、婚姻により、その当事者は、社会内において家族として公に認知され、それにより家族として安定した共同生活を営むことが可能となるという効果も生ずる。
[197](イ) このように、婚姻は、親密な人的結合関係について、その共同生活に法的保護を与えるとともに、社会的承認を与えるものである。このように親密な人的結合関係を結び、一定の永続性を持った共同生活を営み、家族を形成することは、当該当事者の人生に充実をもたらす極めて重要な意義を有し、その人生において最も重要な事項の一つであるということができるから、それについて法的保護や社会的公証を受けることもまた極めて重要な意義を持つものということができる。
[198] 前記認定事実(6)ウのとおり、未婚の男女に対する調査で「生涯を独身で過ごすというのは、望ましい生き方ではない」との調査項目に対して賛成の回答をした者は約6割、「いずれ結婚するつもり」との調査項目について賛成の回答をした者は9割近くに達していることが認められる。婚姻や家族に関する国民の意識や価値観が多様化している中で、やはり法律婚を尊重する考え方が浸透しているといえるのも、このような婚姻による法的効果や社会内での公証を受けられることについての意義、価値が大きいと考えられていることの証左といえる。
[199] そうすると、婚姻により得ることができる、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益ということができる。
[200](ウ) そして、原告らの本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、同性愛者においても、親密な人的結合関係を築き、パートナーと共同生活を送り、場合によっては子供を養育するなどして、社会の一員として生活しており、その実態は、男女の夫婦と変わるところがないのであって、パートナーと法的に家族となることは、その人格的生存にとって極めて重要な意義を有するものということができる。
[201] そうすると、同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重大な人格的利益に当たるということができる。

[202]エ(ア) 前記ウ(ア)に挙げた婚姻による法的効果の中には、同性間の人的結合関係においても、当事者間の契約等により一定程度は実現可能であるものも存在する。例えば、同居、協力及び扶助の義務(民法752条)については、契約により同様の効果を生じさせることが可能であるといえるし、相続のように当事者の一方の死後にその財産を他方に帰属させることは、契約や遺言等によっても可能であるなど、契約や民法上の他の制度等を用いることによって、一定程度は実現可能である。
[203] しかし、共同親権や税法上の優遇措置等、契約等によっては実現困難なものや婚姻制度による場合とは完全に同じ効果を得ることができないものも存在する上、契約等による場合には、婚姻とは異なり、事前に個別の契約等を行っておく必要があるという相違点がある。
[204](イ) また、同性カップルでも共同生活を営むこと自体は自由であって、本件諸規定はそれ自体を制約するものではない。しかしながら、我が国において、法律婚を重視する考え方が依然として根強く存在することは前記のとおりであり、婚姻することによって社会内で家族として認知、承認され、それによって安定した社会生活を営むことができるという実態があることが認められるところ、同性間の人的結合関係については、法律上、このような社会的公証を受ける手段がないため、社会内で生活する中で家族として扱われないという不利益を受けている。この点につき、原告らの本人尋問の結果によれば、例えばパートナーが医療機関で診療を受けた際に家族として認められなかったために病状の説明を受けられなかったり、入院の際の保証人になることができなかったりするなどの不利益を受けた経験を有する者があることが認められる。
[205](ウ) そして、性的指向は本人の努力や治療により変えられるものではなく(前記認定事実(1)ア)、現行法上、同性愛者が婚姻することが実質的に困難であることは、前述のとおりである。
[206](エ) このように、現在、同性愛者には、パートナーと家族になることを可能にする法制度がなく、同性愛者は、その生涯を通じて、家族を持ち、家庭を築くことが法律上極めて困難な状況に置かれている。家族を持たないという選択をすることも当該個人の自由であることは当然であるが,特定のパートナーと家族になるという希望を有していても同性愛者というだけでこれが生涯を通じて不可能になることは、その人格的生存に対する重大な脅威、障害であるということができる。なお、同性カップルにおいて、婚姻が認められていないことから養子縁組をする例があることがうかがわれるが、男女の夫婦と同様の人的結合関係について、親族関係を構築するため養子縁組を用いて親子関係となるのは、飽くまでその他の制度がないことによりやむを得ず行う代替手段であり、当該人的結合関係の本来の実態、実情には適合していないものといわざるを得ない。

[207]オ(ア) 以上を踏まえ、本件諸規定を含む現行法上、同性間の人的結合関係について、パートナーと家族になり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けるための制度(以下「パートナーと家族になるための法制度」という。)が設けられていないことについて、個人の尊厳に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否か、本件諸規定の憲法24条2項適合性について検討する。
[208](イ) 前記(1)エのとおり、近時、同性愛者等を取り巻く社会状況には大きな変化があり、同性愛を異常なもの、病的なものとするかつての認識は改められつつあり、多くの国において同性間の人的結合関係に一定の地位や法的効果を与える登録パートナーシップ制度等が導入され、さらに、平成13年以降、約30の国・地域において、同性間の婚姻を認める立法が次々にされてきたことが認められる。我が国においても、多くの地方公共団体においてパートナーシップ証明制度が導入され、民間企業においても同性間の人的結合関係を夫婦と同等に扱う例があるなど、同性カップルについて一定の保護を与えようとする動きがある。
[209] また、性的少数者に対する調査によれば、8~9割の者が、同性間の婚姻の制度又は国レベルのパートナーシップの登録制度を要望していることが認められる(前記認定事実(1)ウ(ウ)及び(エ))。
[210] さらに、世論調査の結果によれば、平成26年に行われた調査においては、同性間の婚姻を法的に認めることについて、反対意見が賛成意見を上回っていたが、平成27年以降は賛成意見が反対意見を上回るようになり、令和2年に全国の有権者を対象として実施された調査では、賛成意見が46%、反対意見が23%であり、平成17年に行われた調査より賛成意見が14%増えたことが認められるほか、平成30年に行われた調査では同性カップルにも何らかの法的保障が認められるべきであるとの回答が75%を超えていることが認められる(前記認定事実(5))。
[211](ウ) 現在、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が設けられていないのは、前述のとおり伝統的に婚姻が異性間のものと考えられてきたことに負うところが大きいものと考えられるが、パートナーと家族になるための法制度としては、同性間の婚姻制度以外にも、イタリア等の諸外国で導入されている制度(前記認定事実(3)ア)のような婚姻に類する制度も考えられるところであり、少なくともこのような婚姻に類する制度は、前記の婚姻についての伝統的な価値観とも両立し得るものと考えられる。
[212] そして、多数の地方公共団体においてパートナーシップ証明制度が導入され、利用され、広がりをみせていることは前述のとおりであり、さらに国において同性間の人的結合関係について婚姻に類する制度を構築することについて大きな障害となるような事由があることはうかがわれない。むしろ、上記のような制度を構築することは、その同性間の人的結合関係を強め、その中で養育される子も含めた共同生活の安定に資するものであり、これは、社会的基盤を強化させ、異性愛者も含めた社会全体の安定につながるものということもできる。
[213](エ) 他方で、同性間において、パートナーと家族になるための法制度をどのように構築するかという点については、原告らが主張するように現行の婚姻制度に同性間の婚姻も含める方法のほか、諸外国で導入されている制度(前記認定事実(3)ア)のように、現行の婚姻制度とは別に同性間でも利用可能な婚姻に類する制度を構築し、そのパートナーには婚姻における配偶者と同様の法的保護を与えることも考えられる。
[214] また、前記認定事実(3)イ(ウ)のとおり、同性間の婚姻を認める外国の立法例においても、異性間の「婚姻」と同性間の「婚姻」の法的効果に相違がある場合(又は、導入当初は相違があった場合)があり、その主なものとして嫡出推定規定の適用の有無、養子緑組の可否、生殖補助医療利用の可否等が挙げられることが認められる。我が国においても、同性間の人的結合関係についてパートナーと家族になるための法制度を導入する場合に上記のような点についていかなる制度とすべきかについては、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、また、子の福祉等にも配慮した上で、立法府において十分に議論、検討がされるべきであるということができる。
[215](オ) 以上の点を総合的に考慮すると、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にあるということができる。しかしながら、そのような法制度を構築する方法については多様なものが想定され、それは立法裁量に委ねられており、必ずしも本件諸規定が定める現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含める方法に限られない(現行の婚姻制度とは一部異なる制度を同性間の人的結合関係へ適用する制度とする方法や、同性間でも利用可能な婚姻に類する制度を別途構築する方法を採ること等も可能である。)ことからすれば、同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が憲法24条2項に違反すると断ずることはできない。

[216]カ(ア) 以上に対し、原告らは、同性間の婚姻を認めていない本件諸規定は、同性カップルは異性カップルと何ら異なるところのない共同生活を営んでいるにもかかわらず同性カップルを婚姻から排除しており、その存在自体、同性愛者等に対する社会的な差別・偏見を助長させ、社会を分断するものであるから、本件諸規定は憲法24条2項に違反する旨主張する。
[217](イ) この点、本件諸規定が同性愛者を法律上の家族の枠組みから排除しており、その結果、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しない状態にあることが憲法24条2項に違反する状態であることについては前述のとおりであるところ、立法府において現行の婚姻制度に同性間の婚姻も含める立法を行うことは、上記の状態を解決するために採り得る選択肢の一つである(なお、憲法24条が同性間の婚姻に関する立法を禁止するものとは解されないことは前記アのとおりである。)。
[218] また、近時は改善されつつあるものの、同性愛が長らく異常なものとして認識され、差別や偏見の対象となってきたことからすれば、現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含めることにより、異性間の婚姻と全く同じ制度を構築することが差別や偏見の解消に資するとの原告らの主張にも首肯できる点はある。
[219](ウ) しかしながら、婚姻や家族に関する事項については、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における家族関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきであるから、この点に関しては立法府が合理的な立法裁量を有しているものと解される。同性間の婚姻の制度を導入した国においても、その導入に先行して、まずは登録パートナーシップ制度を導入した国も多く(前記認定事実(3)ア及びイ)、その導入過程は様々である。また、前述のとおり、同性間の婚姻を導入した国においても、嫡出推定規定の適用の有無、養子縁組の可否、生殖補助医療利用の可否等について議論がされていることが認められ、我が国においても、これらの点について、子の福祉や生命倫理の観点からの検討、他の制度との整合性の検討等を行うことが不可避であり、この点は第一次的には立法府の立法裁量に委ねられているものといわざるを得ない。そして、婚姻制度から同性間の人的結合関係を排除することは差別や偏見を助長するとの原告らが指摘する観点についても、同様に立法府における検討において考慮されるべき事項の一つであるということはできるが、それによって立法府が採り得る選択肢が、現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含める立法という一つの方法に収れんし、同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が憲法24条2項に違反するとはいい難い。なお、前記認定事実(5)のとおり、同性間の婚姻を認めることや同性カップルに対して法的保障を認めることについて、近年、肯定的な世論が広がりを見せていることなどからすれば、上記の点についての議論、検討を第一次的には立法府に委ねることが必ずしも現実的でないとはいえない。

[220] 以上によれば、婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていない本件諸規定が憲法24条2項に違反するとはいえない。
[221](1) 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
[222] もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、平成27年再婚禁止期間大法廷判決参照)。

[223](2) 原告らは、本件諸規定が憲法14条1項、24条1項及び2項に違反するものであるにもかかわらず、国会が長期にわたって、本件諸規定が定める婚姻を同性間でも可能とする立法措置(同性間の婚姻を可能とする立法措置)を怠っている旨主張する。
[224] しかしながら、本件諸規定が憲法14条1項、24条1項ないし2項に違反するものではないことは前記2において述べたとおりであるから、原告らの主張は前提を欠くものといわざるを得ない。なお、前記2(3)のとおり、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にあるということができるが、上記の法制度を構築する方法は同性間の婚姻を現行の婚姻制度に含める旨の立法を行うこと以外にも存在するのであるから、上記の状態にあることから原告らが主張する同性間の婚姻を可能とする立法措置を講ずべき義務が直ちに生ずるものとは認められない。
[225] したがって、国会が同性間の婚姻を可能とする立法措置を講じないことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえない。
[226] 以上の次第であるから、原告らの請求は、その余の争点について判断するまでもなくいずれも理由がないことに帰するから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 池原桃子  裁判官 益留龍也  裁判官 横山怜太郎

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