議員定数不均衡訴訟 参議院選挙区合憲判決(平成29年)
上告審判決

選挙無効請求事件
最高裁判所 平成29年(行ツ)第47号
平成29年9月27日 大法廷 判決

【上告人】 原告 山口邦明 ほか6名
     代理人 山口邦明 ほか
【被上告人】被告 東京都選挙管理委員会 ほか1名
     代理人 舘内比佐志 ほか

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官木内道祥の意見
■ 裁判官林景一の意見
■ 裁判官鬼丸かおるの反対意見
■ 裁判官山本庸幸の反対意見


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

[1] 本件は,平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区及び神奈川県選挙区の選挙人である上告人らが,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。

[2] 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

[3](1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,選挙区ごとの議員定数については,憲法が参議院議員につき3年ごとにその半数を改選すると定めていることに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し,定数を偶数として最小2人を配分する方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下「昭和57年改正」という。)により,参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,参議院議員の総定数が242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。

[4](2) 参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは,この人口の最大較差をいう。)は2.62倍(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であったが,人口変動により次第に拡大を続け,平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下、単に「通常選挙」といい,この通常選挙を「平成4年選挙」という。)当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の「選挙区間の最大較差」というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小した。その後,平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下「平成18年改正」という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成7年から同19年までに施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。
[5] しかるところ,当裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)において後記3(1)の基本的な判断枠組みを示した後,平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁),平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,当裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。もっとも,上掲最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21年9月30日大法廷判決においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされるなど,選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で,較差の状況について投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていた。

[6](3) 平成22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍の状況において施行された通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)につき,最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は,結論において同選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,都道府県が政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ること等の事情は数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっており,都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っているなどとし,それにもかかわらず平成18年改正後は投票価値の大きな不平等がある状態の解消に向けた法改正が行われることのないまま平成22年選挙に至ったことなどの事情を総合考慮すると,同選挙当時の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。

[7](4) 平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成24年法律第94号。以下「平成24年改正法」という。),同月26日に施行された(以下,同法による改正後,平成27年法律第60号による改正前の定数配分規定を「本件旧定数配分規定」という。)。平成24年改正法の内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,同28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。
[8] 平成25年7月21日,本件旧定数配分規定の下での初めての通常選挙が施行された(以下「平成25年選挙」という。)。同選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。

[9](5) 平成25年9月,参議院において同28年に施行される通常選挙に向けた参議院選挙制度改革について協議を行うため,選挙制度の改革に関する検討会の下に選挙制度協議会が設置された。同協議会においては,平成26年4月に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に同案の見直し案も示された。これらの案は,基本的には,議員1人当たりの人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。そして,同協議会において,更に同年11月以降,意見集約に向けて協議が行われたが,各会派の意見が一致しなかったことから,同年12月26日,各会派から示された提案等を併記した報告書が参議院議長に提出された。

[10](6) このような協議が行われている状況の中で,平成25年選挙につき,最高裁平成26年(行ツ)第155号,第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)は,平成24年大法廷判決の判断に沿って,平成24年改正法による前記4増4減の措置は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,現に選挙区間の最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから,投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ず,したがって,平成24年改正法による上記の措置を経た後も,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。

[11](7) 選挙制度の改革に関する検討会は,前記(5)の報告書の提出を受けて協議を行ったが,各会派が一致する結論を得られなかったことから,平成27年5月29日,各会派において法案化作業を行うこととされた。そして,各会派における検討が進められた結果,各会派の見解は,人口の少ない選挙区について合区を導入することを内容とする[1]「4県2合区を含む10増10減」の改正案と[2]「20県10合区による12増12減」の改正案とにおおむね集約され,同年7月23日,上記各案を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案がそれぞれ国会に提出された。上記[1]の改正案に係る法律案は,選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区して定数2人の選挙区とするとともに,3選挙区の定数を2人ずつ減員し,5選挙区の定数を2人ずつ増員することなどを内容とするものであり,その附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとするとの規定が置かれていた。
[12] 平成27年7月28日,上記[1]の改正案に係る公職選挙法の一部を改正する法律案が成立し(平成27年法律第60号。以下「平成27年改正法」という。),同年11月5日に施行された(以下,同法による改正後の定数配分規定を「本件定数配分規定」という。)。同法による公職選挙法の改正(以下「平成27年改正」という。)の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍となった。

[13](8) 平成28年7月10日,本件定数配分規定の下での初めての通常選挙として,本件選挙が施行された。本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であった。

[14]3(1) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
[15] 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記2(1)においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
[16] 以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。

[17](2) 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。このことも,前記(1)と同様,累次の大法廷判決が基本的な立場として承認してきたところである。

[18](3) 前記(1)のとおり,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,また,前記(2)のとおり,憲法が,国会の構成について二院制を採用し,衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものと考えられる。そして,具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり,一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえず,投票価値の平等の要請との調和が保たれる限りにおいて,このような要素を踏まえた選挙制度を構築することが直ちに国会の合理的な裁量を超えるものとは解されない。
[19] 平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,上記のような選挙制度の構築についての国会の裁量権行使の合理性を判断するに当たって,長年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮すべき必要性を指摘し,その変化として,参議院議員と衆議院議員の各選挙制度が同質的なものとなってきており,国政の運営における参議院の役割が増大してきていることに加え,衆議院については投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることなどを挙げて,これらの事情の下では,昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた諸点につき,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨を指摘するとともに,都道府県を各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,上記のように長期にわたり大きな較差が継続していた状況の下では,上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっていたとしたものである。しかし,この判断は,都道府県を各選挙区の単位として固定することが投票価値の大きな不平等状態を長期にわたって継続させてきた要因であるとみたことによるものにほかならず,各選挙区の区域を定めるに当たり,都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないとしたものではない。
[20] もとより,参議院議員の選挙について,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難く,参議院についても更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるものの,上記のような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院議員の選挙における投票価値の平等は,憲法上3年ごとに議員の半数を改選することとされていることなど,議員定数の配分に当たり考慮を要する固有の要素があることを踏まえつつ,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に実現されるべきであることに変わりはないというべきである。

[21](4) 本件選挙は,平成26年大法廷判決の言渡し後に成立した平成27年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものであるところ,同法は,従前の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,人口の少ない選挙区について,参議院の創設以来初めての合区を行うことにより,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり,これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(本件選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至ったのである。
[22] この改正は,長期間にわたり投票価値の大きな較差が継続する要因となっていた上記の仕組みを見直すべく,人口の少ない一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して行われたものであり,これによって選挙区間の最大較差が上記の程度にまで縮小したのであるから,同改正は,前記の参議院議員選挙の特性を踏まえ,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる。また,平成27年改正法は,その附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めており,これによって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されるとともに,再び上記のような大きな較差を生じさせることのないよう配慮されているものということができる。
[23] そうすると,平成27年改正は,都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを改めて,長年にわたり選挙区間における大きな投票価値の不均衡が継続してきた状態から脱せしめるとともに,更なる較差の是正を指向するものと評価することができる。合区が一部にとどまり,多くの選挙区はなお都道府県を単位としたまま残されているとしても,そのことは上記の判断を左右するものではない。

[24](5) 以上のような事情を総合すれば,本件選挙当時,平成27年改正後の本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。

[25] 以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。
[26] よって,裁判官木内道祥,同林景一の各意見,裁判官鬼丸かおる,同山本庸幸の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


 裁判官木内道祥の意見は,次のとおりである。

[1] 私は,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとする結論において多数意見と同意見であるが,本件選挙当時,投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったか否かの点において異なる意見を持つ。
[2] 以下,その理由を述べる。
[3] 国会議員の選挙における投票価値は,国民が憲法上有する選挙権の内容をなすものであるから,それが平等であることは,国会を全国民の代表である議員により構成するための基本原理として憲法が要求するところであり,選挙制度の決定に当たって考慮されるべき最も重要かつ基本的な基準である。
[4] 憲法の下で選挙制度をいかなるものとするかは国会が法律によって定めるものであり,国会に立法に当たっての裁量権が存することは当然であるが,憲法上の価値として認められている投票価値の平等に譲歩を求めることができる事由は,他の憲法上の価値や不可避な技術的な制約などの合理的なものでなければならない。
[5] 投票価値の平等が選挙制度の仕組みの決定における唯一絶対の基準ではないとの説示は昭和58年大法廷判決以来の参議院議員選挙に関する大法廷判決で踏襲されているが,この説示は,投票価値の平等が最も重要かつ基本的な基準であることを否定するものではない。「議員数を選挙人の人口に比例して,各選挙区に配分することは,法の下の平等の憲法の原則からいって望ましいところではあるが・・・各選挙区に如何なる割合で議員定数を配分するかは,立法府である国会の権限に属する立法政策の問題」(最高裁昭和38年(オ)第422号同39年2月5日大法廷判決・民集18巻2号270頁)というそれ以前の見解に対して,昭和58年大法廷判決は「(憲法の定める)選挙権の平等の原則は,・・・選挙権の内容の平等,すなわち・・・投票の有する価値の平等をも要求する」という原則を示し,その上で,投票価値の平等が唯一絶対の基準ではないとの説示がなされたものであり,これは,国会の立法に当たって投票価値の平等以外の要素を一切考慮してはならないということではないという趣旨で国会の裁量権を確認したにとどまるものと解される。
[6] 都道府県を「歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,一つの政治的まとまりを有する単位」と評価するのは,昭和58年大法廷判決以来のものである。同大法廷判決以降の参議院議員選挙に関する大法廷判決が都道府県を選挙区とすることについて述べていることの概観は,平成26年大法廷判決の私の反対意見2(2)において述べたとおりであり繰り返さないが,事実上の都道府県代表的な要素を投票価値の平等の後退を求める要素として相当程度に評価している昭和58年大法廷判決に対し,その後の大法廷判決では,都道府県を選挙区の単位とすることが投票価値の不均衡の原因であることが指摘されるようになり,平成24年大法廷判決に至って「都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘(注 昭和58年大法廷判決の指摘)もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,・・・投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になる」と指摘されるに至った。
[7] このように,これまでの大法廷判決の上でも,都道府県が選挙区の単位であることが当然とはされておらず,選挙区の単位としての都道府県は,投票価値の平等という憲法上の価値に譲歩を求め得る価値としては相当の後退を余儀なくされている。
[8] 今回の多数意見においても,都道府県を政治的に一つのまとまりを有する単位として評価することは変わらないものの,その趣旨は「一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点」からのものである。
[9] 選挙区選挙とは,全国民を代表する議員が誰であるかを選挙区における投票によって定めるものである。その選挙区が議員を定めるに足りる一つのまとまりを有する単位であることは、選挙区選挙という制度から来る要請ではあるが,そこでいう一つのまとまりを有する単位が当然に都道府県であるということにはならない。
[10] 多数意見は,都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮することが否定されないとするが,それは,飽くまで一つの要素としての考慮であり,直ちに,各選挙区の区域を定めるに当たり都道府県という単位を用いることが不合理ではないとする結論に帰結することにはならないはずである。
[11] 当裁判所大法廷は,これまで,参議院議員選挙の定数配分規定について,[1]投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か(違憲状態か否か),[2]この違憲状態が当該選挙までの期間内に是正されなかったことが国会の裁量権の限界を超えているか否か(裁量権の範囲内か否か)の2段階の判断枠組みによって憲法判断を行ってきた。
[12] [1]の違憲状態か否かの判断は,平成24年大法廷判決が「本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた」とするように,選挙当時における選挙区間の較差で示される投票価値の不均衡についてのものである。
[13] 平成24年大法廷判決は,平成22年選挙当時,参議院において選挙制度の仕組み自体の検討が行われており,同選挙後に国会に提出された平成24年改正法の法案の附則が選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討するとしていたことを,同選挙時までに定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かの問題として検討して,裁量権の限界を超えるものとはいえないとした。平成26年大法廷判決も,平成24年大法廷判決の後,平成25年選挙までの間に上記の附則を含む平成24年改正法が成立し,同選挙後も,附則の定めに従い,選挙制度の仕組みの見直しを内容とする検討が行われていることを,同選挙までの間に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるか否かの問題として検討して,裁量権の限界を超えるものとはいえないとしている。
[14] このように,選挙時までの国会の動向はもちろん,選挙後の国会の動向も考慮する要素とされているのは,上記[2]の国会の裁量権の範囲内か否かの判断は,選挙までの間に法改正がされなかったという国会の活動の方向性を対象とするものであることによるものである。
[15] つまり,[1]の違憲状態か否かの判断は,当該選挙の時点における投票価値の不均衡の状態についてのものであり,上記[2]の国会の裁量権の範囲内か否かの判断は,選挙時点における国会の活動の方向性を測るものとして当該選挙の後の国会の動向をも考慮対象とするものである。
[16] 前回選挙後に成立し,その下で本件選挙が行われた平成27年改正法による本件定数配分規定は,4県2合区を含む10増10減を内容とするものであり,この改正の結果,本件選挙時における選挙区間の最大較差は3.08倍であったが,その附則7条は「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。」として今後の方向性を示している。
[17] 平成24年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えることは著しく困難であることを指摘した上で,その仕組みを変更することなく行われた選挙における投票価値の不均衡を違憲状態とし,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの立法的措置が必要であるとした。
[18] 平成26年大法廷判決は,平成24年大法廷判決の後に成立し,その下で平成25年選挙が行われた平成24年改正法による定数配分規定は,制度の仕組みを維持したものであり,違憲状態を解消するには足りないとしたものである。
[19] それを踏まえると,本件選挙における投票価値の不均衡が,平成27年改正法による本件定数配分規定によって違憲状態を解消したものといえるか否かについては,平成24年大法廷判決のいう,現行の方式を改める立法的措置の実現の有無が重要な考慮要素となる。
[20] 平成27年改正法による本件定数配分規定は,選挙区の単位の全てが都道府県であるという従来の制度を合区によって改めたものであるが,それ自体は,2県を1選挙区とする2つの合区を行い,4県4選挙区を4県2選挙区にしたものにすぎず,選挙区の単位が都道府県であることはなお維持されている。本件定数配分規定を定める時点で参照した平成22年国勢調査による人口では最大較差が2.97倍であったところ,本件選挙当時には最大較差が3.08倍となったことに示されるように,本件定数配分規定は,人口移動に対応して投票価値の不均衡に対処するという「しかるべき形」の立法的措置とはいい難いものである。
[21] 本件選挙時における3.08倍という最大較差に示される投票価値の不均衡は,従来の選挙時における最大較差より縮小したとはいえ,基本的な選挙区の単位を都道府県とすることを維持した定数配分規定によるものであり,そのままでは更なる拡大が懸念される。平成27年改正法の附則が,較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るとしていることは,同改正法そのものは,なお見直しが必要なものであり,違憲状態を解消するに足りないことを示しているということができる。
[22] したがって,本件選挙時における投票価値の不均衡は,平成27年改正を経た後も,違憲状態を脱していないというべきである。
[23] 前記3で述べた[2]の国会の裁量権の範囲内か否かという判断基準については,従来の大法廷判決では,平成27年改正前の定数配分規定が選挙区単位の全てを都道府県とするものであり,それが違憲状態を生じさせる要因であることを当審が示したにもかかわらず,その点が法改正によっても全く是正されなかったことが問題とされたことの関係上,当審の判断が示されてから(法改正のないままに行われた)選挙時までの期間が法改正に十分であったか否かということが重点とされたのであるが,本件は,それと異なる事情がある。
[24] 平成27年改正法の附則7条は「平成31年に行われる参議院選挙の通常選挙に向けて,・・・較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて・・・必ず結論を得る」とする。これは,較差の是正のための選挙制度の抜本的な見直しを,今回の改正に引き続いて行い,平成31年に行われる通常選挙(以下「平成31年選挙」という。)までに完成させるという趣旨である。
[25] 平成27年改正は,2つの合区を行い,都道府県を選挙区とする従来の選挙制度を改めたものであり,2つの合区にとどまるとはいえ,選挙制度の抜本的な見直しの実行の着手である。都道府県を選挙区とする制度を投票価値の平等の実現の要求に応じて抜本的に見直すという課題の実現について,平成27年改正の時点でその一部を行い,次回,つまり,平成31年選挙に向けての改正で完成させるという2段階方式で実施するとしたのが,平成27年改正を行った国会の対応である。制度の抜本的な見直しという課題の重さを考えると,本件選挙時までに一部の改正を実現した上で,次回の選挙までに選挙制度の抜本的な見直しについて必ず結論を得るとする国会の対応は,国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。
[26] 平成31年選挙に向けての制度の抜本的な見直しの実現については,今後のものであるとはいえ「必ず結論を得る」との附則が平成27年改正法に設けられている。それ以前の平成24年改正法の附則においても「必ず」とはされていないものの,次回の平成28年に行われる通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとするとされていたにもかかわらず,それが実現しなかったとの経過から,選挙制度の抜本的な見直しの平成31年選挙までの実現が危ぶまれるとの意見もあり得るが,今後における国会の具体的な立法能力ないし立法意欲を国会の外から推し量ることは,司法が行うべきことではない。改正法に含まれる附則が「必ず結論を得る」としている以上,その実現は,国会が現に約束したものなのである。


 裁判官林景一の意見は,次のとおりである。

[1] 私は,結論として,本件選挙当時,本件定数配分規定は合憲であったとする点で多数意見に同調するものであるが,幾つかの基本的な論点において趣を異にするところがあるので,意見を以下のとおり簡潔に述べておきたい。

[2] 多数意見は,平成27年改正後の本件定数配分規定について,長年5倍程度であった選挙区間の最大較差が3倍程度に縮小したことと,平成27年改正法附則にある更なる抜本的見直し条項をもって,違憲状態を脱したと評価するが,私は,一人一票の原則及び投票価値の平等原則に照らした場合,一の選挙区の有権者の投票価値が別の選挙区の有権者の投票価値の約3倍に達する状態について,そこまでの評価を明言することにはためらいがあるため,多数意見に完全には与することができない。
[3] もっとも,多数意見が指摘するように,平成27年改正法は,一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して長年5倍前後であった最大較差を3倍程度まで縮小したものであり,附則を含めた同改正法に見られる国会の努力は高く評価されるべきものである。そこで,私は,昭和58年大法廷判決が示した定数配分規定の憲法適合性判断に係る基本枠組みの下,上記のような国会の努力や較差の大幅縮小に向けた意見集約等の困難性等に鑑み,国会において,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていることを認識し得た平成24年大法廷判決の言渡し時から本件選挙までの間にその解消がなされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとまではいえないと考え,結論として,「本件選挙の当時,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない」とする多数意見に同調するものである。

[4] 私が以上の見解に至った背景として,投票価値の平等原則について考えるところを述べておきたい。

[5](1) 「全国民の代表」を選出するに当たっての一人一票の原則及び投票価値の平等は,投票で民意を決定する民主主義制度の根幹である。憲法には投票価値の平等という言葉自体は明記されていないが,投票価値の平等は,民主主義と平等原則から直接導かれる憲法上当然の原則である。国際的な視点からも,我が国が昭和54年に批准し,法律よりも優位にあると解される市民的及び政治的権利に関する国際規約(いわゆるB規約)では,全ての市民の権利として「普通かつ平等の選挙権」が定められ,平等の原則は普通選挙と対をなす重要な原則とされていることがうかがえる。また,例えば,これまで選挙区間の最大較差が比較的大きかった英国でも,未施行ながら,「2011年議会投票制度及び選挙区法」において,下院選挙に関し,原則として各選挙区の有権者数は全国の選挙区平均有権者数の95%以上105%以下でなければならないとされている(すなわち,最大約1.1倍の較差しか認められていない。)。このように,投票価値の平等の追求は,民主主義の国際標準であり,国際的潮流であるといってよい。

[6](2) 平等原則の下,最大較差3倍程度で合憲といえないとした場合,どの程度まで較差を縮小すればよいのか,という問題提起があろう。原理としては,一人一票の原則といわれることからも,最大較差がなるべく1.0倍に近くなければならないということになるが,これは理想型であり,選挙区選挙という制度を選択する場合,実際問題として,厳密な1対1という較差を実現するのは困難であるし,そのために過度に人工的な区割りをすることが適当とも思われない。しかし,一般的には,一人二票というべき事態となることは原則として許容できないといえると考える。

[7] 次に,多数意見が,参議院における都道府県単位の選挙制度自体は,参議院に独自性を与える観点から国会の合理的裁量の範囲内であるとの趣旨を改めて指摘している点に関連し,平成27年改正法附則の中で,選挙制度の見直し作業が「参議院の在り方を踏まえて」行うものとされていることもあり,以下の付言をしておきたい。
[8] 確かに,憲法は二院制を定めており,その趣旨を踏まえて,参議院に独自性を持たせるという観点から,都道府県を選挙区の単位とすることにも一定の合理性はある。よって,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決が参議院議員の選挙区について都道府県を単位とすることは憲法上の要請ではないとしたからといって,引き続き都道府県を単位として用いること自体が不合理であるとしたものではないとの多数意見の指摘にも異論はない。しかしながら,このような単位を用いることは憲法上の要請ではないのであるから,憲法の基本原理としては,参議院議員が衆議院議員と同様,憲法43条にいう「全国民の代表」として選出されるものである以上,選挙区割りが都道府県単位を基本とする場合にも,全国民の間の投票価値の平等という憲法上の原則と調和する,すなわちこの原則を大きく損なわないようなものでなければならない(あるいはプロセスとして考えれば,より投票価値の平等を追求する方向に向かうものでなければならない)と考える。

[9] 私は,今回結論において多数意見と同調するに当たり,以上のように,若干の論点においてニュアンスを異にするものであるが,同時に,国会が,引き続き,投票価値の平等原則の重みを十分に踏まえ,平成31年通常選挙に向けて,現状で事足れりとすることなく,法律をもって約束した抜本的な見直しのための更なる検討を通じて,近年の較差縮小のプロセスが継続されることを期待するものであり,その点については多数意見と軌を一にするものと考えている。


 裁判官鬼丸かおるの反対意見は,次のとおりである。

[1] 私は,多数意見とは異なり,本件定数配分規定は憲法に違反するものであり,それに基づき施行された本件選挙も違法であると考える。

[2] 憲法は,参議院議員の選挙においても,衆議院議員の選挙と同様に,国民の投票価値につき,できる限り1対1に近い平等を基本的に保障していると考える。その理由については,平成26年大法廷判決において私の反対意見1,2に述べたところであるから,それを引用する。参議院は衆議院と等しく国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関であることが憲法上予定されているのであり,参議院議員の選挙区選挙であることが,投票価値の1対1に近い平等から遠ざかってよいことの理由にはなり得るものではない。

[3] ところで,本件選挙に先立ち公職選挙法の一部改正が行われ,4県2合区を含む10増10減案が可決成立し,本件選挙はこの改正法の下で実施された。その結果,選挙時の投票価値の最大較差は3.08倍に縮小した。参議院議員選挙区選挙で初めて一部合区がされ,投票価値の最大較差が大幅に縮小されたことからすれば,投票価値に関する国会の努力の方向性は正しいと評することができよう。

[4] しかしながら,本件選挙における投票価値の最大較差の3.08倍という数値自体からは,投票価値の平等を実現したとはいい難い。
[5] さらに,以下のとおりの事情を総合考慮すると,本件定数配分規定は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったというべきであると考える。

[6](1) 都道府県は政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得るものであるし,また平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位とすることを一切認めないと解すべきではないと考える。
[7] しかし,都道府県数とその人口数を議員改選数と対比すると,参議院議員選挙区選挙が憲法の半数改選の要請に応じて各選挙区の定数を偶数とする仕組みを採った上で,本件定数配分規定のように大部分の都道府県を選挙区の単位として残存するという制度を維持しながら1対1に近い平等の投票価値を目指すことは,既に不可能というべき状況に達していたことは明白である。国会は,この事実を認識した上で,平成24年改正法に平成28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の附則を定めたものと解される。

[8](2) 一方,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することができる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであることは,当審の累次の判断に示されているところである。したがって,国会が選挙制度や定数配分規定を改正するに当たって,憲法上保障されている選挙人の投票価値の平等を実現できないこととなるときは,そのような結果を導く政策目的ないし理由が,国会が正当に考慮でき,かつ,投票価値の平等の要請との関連において調和のとれたものであることを要する。
[9] そこで,本件定数配分規定が約3倍となる投票価値の較差を生じさせていることにつき,いかなる政策目的ないし理由が存在したのか,投票価値の平等が国会が正当に考慮することができる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現されたものであるかを検討したい。

[10](3) 国会は,本件定数配分規定に基づいて本件選挙を施行すると投票価値の最大較差が約3倍となることについて,その政策目的や理由を明示的に表明してはいない。しかし,過去の参議院地方選出議員の時代から前回の参議院選挙区選出議員の時期まで一貫して都道府県が選挙区の単位となってきた事実,本件選挙に当たって合区された県は隣接県も人口少数のため隣接県との合区が実現した4県のみであり,次いで議員1人当たりの人口が少なく合区するのに適した人口少数の隣接県が存在しない複数の県については合区することができず,投票価値の最大較差が約3倍となったこと,さらに選挙制度協議会において都道府県を選挙区の単位とすることに拘泥しない投票価値を1倍強2倍未満とする複数の案が示されたが,国会はそれらの案を本件選挙の施行までに採用しなかったこと等を考え合わせれば,国会が有した政策目的ないし理由は,都道府県を選挙区の基本とすることであり,その基本を損なうことを最小限にとどめることであったとみることができる。

[11](4) 一方,当審では,平成24年大法廷判決に続き,平成26年大法廷判決が「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど」と判示し,国会に対し,重ねて都道府県を選挙区の単位とすることをしかるべき形で見直すように要請した。したがって,上記(3)で検討したとおり,国会が平成27年改正法や本件定数配分規定を定めるに当たり,選挙区の単位として都道府県を固持することを政策目的ないし理由とすることは,当審の示した判断とは相容れないものである。
[12] 上記のとおり,国会は,憲法秩序下における立法権と司法権の関係性に照らし,上記当審の判断に従い,都道府県を選挙区の単位と設定する方式を改めるなどして投票価値の平等の実現に向け,参議院議員選挙制度等を改正すべきであったのに,しかるべき形で見直すべきものとされた都道府県を選挙区の単位とすることを政策目的ないし理由として投票価値の較差を改めなかったとみられるのであって,それは国会が正当に考慮することができるものとは認められず,投票価値の平等の要請とも調和しないことといえよう。

[13] 国会は,平成24年大法廷判決の言渡しがされた平成24年10月17日の時点で,投票価値の不平等状態を解消する立法措置が必要であると具体的な指摘を受けたのであるから,遅くとも同日,公職選挙法等を改正すべき義務を負ったことを認識したものである。以降本件選挙が実施されるまでには約3年9か月が経過し,国会が選挙制度見直しの検討・法改正の手続や作業を了することは可能であったから,本件選挙までの間に違憲状態の是正がされなかったことは,国会の裁量権の限界を超えるものとの評価を免れず,本件選挙当時,本件定数配分規定は憲法に違反したものであった。

[14] 上記の帰結として,本件選挙を無効とする結論が考えられるところである。従前の公職選挙法の一部改正法の附則にも,次回選挙までに選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得る旨の条項がありながらその実現がされなかったという過去の経緯や,仮に本件選挙は無効という結論を採っても,本件選挙によって選出された議員だけが議席を失うのであって参議院の機能は失われることがないから公の利益に著しい障害を直ちに生じさせないこと等を考えると,本件選挙を全部無効とする結論も採り得ると考える。
[15] しかしながら,平成27年改正法附則7条は,これまでの公職選挙法の一部改正法に付された附則の文言に比べ格段に強い決意を「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。」と規定して表明していることからすれば,国会において違憲状態の解消のための努力が今後も継続され,平成31年の参議院議員通常選挙までには必ず投票価値の等価を基本とした抜本的な見直しがされることが強く期待される。そうであれば,本件選挙は違法というべきであるが,司法が直ちに選挙無効の結論を出すのではなく,まず国会自らが平成31年には必ず結論を得る旨を確約した是正の結果について司法が検証するということが,憲法の予定する立法権と司法権の関係に沿うものと考えるものである。
[16] 以上のことから,本件定数配分規定は違憲であるが,いわゆる事情判決の法理により請求を棄却した上で,本件選挙は違法であることを宣言すべきであると考えるものである。


 裁判官山本庸幸の反対意見は,次のとおりである。
[1] 日本国憲法は,その前文において「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,(略)主権が国民に存することを宣言し,(略)そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する。」とし、代表民主制に支えられた国民主権の原理を宣明している。そして国を構成する三権の機関のうち,国会が国権の最高機関であり,国の唯一の立法機関と規定する(41条)。
[2] したがって,このような民主国家の要となる国会を構成する衆議院及び参議院の各議員は,文字どおり公平かつ公正な選挙によって選出されなければならない。憲法43条1項が「両議院は,全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定するのは,この理を表している。その中でも本件にも関わる「公平な選挙」は,憲法上必須の要請である。すなわち,いずれの国民も平等に選挙権を行使できなければ,この憲法前文でうたわれている代表民主制に支えられた国民主権の原理など,それこそ画餅に帰してしまうからである。例えば国政選挙に際して特定の地域の一票の価値と他の地域の一票の価値とを比べて数倍の較差があったとすると,その数倍の一票の価値のある地域の国民が,もう一方の一票の価値が数分の一にとどまる地域の国民に対して,その較差の分だけ強い政治力を及ぼしやすくなることは自明の理である。これでは,せっかく主権が国民に存するといっても,「その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する。」とはとてもいえないと考える。
[3] その意味で,国政選挙の選挙区や定数の定め方については,法の下の平等(14条)に基づく投票価値の平等が貫かれているかどうかが唯一かつ絶対的な基準になるものと解される。
[4] なるほど多数意見のいうように
「憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。」
として国会の裁量を広く認める見解を採った上で,衆議院議員選挙の場合であれば2倍程度の一票の価値の較差を許容する考え方もある。しかし,国民主権と代表民主制の本来の姿からすれば,投票価値の平等は,他に優先する唯一かつ絶対的な基準として,あらゆる国政選挙において真っ先に守られなければならないものと考える。これが実現されて初めて,我が国の代表民主制が国民全体から等しく支持される正統なものとなるのである。
[5] また,衆議院議員選挙の場合であれば2倍程度の一票の価値の較差でも許容され,これをもって法の下の平等が保たれていると解する考え方があるが,私は賛成しかねる。というのは,一票の価値に2倍の較差があるといっても,例えばそれがある選挙では2倍であったが,次の選挙では逆に0.5倍になるなどと,何回かの選挙を通じて巨視的に観察すれば地域間又は選挙区間でそうした較差の発生がおおむね平均化しているというのであれば,辛うじて法の下の平等の要請に合致しているといえなくもない。ところが,これまでの選挙の区割りをみると,おおむね,人口が流出する地域については議員定数の削減が追いつかずに一票の価値の程度は常に高く,人口が流入する地域については議員定数の増加が追いつかずに一票の価値の程度は常に低くなってしまうということの繰り返しである。これでは後者の地域の国民の声がそれだけ国政に反映される度合いが一貫して低くなっていることを意味し,代表民主制の本来の姿に合致しない状態が継続していることを示している。
[6] したがって,私は,現在の国政選挙の選挙制度において法の下の平等を貫くためには,一票の価値の較差など生じさせることなく,どの選挙区においても投票の価値を比較すれば1.0となるのが原則であると考える。その意味において,これは国政選挙における唯一かつ絶対的な基準といって差し支えない。ただし,人口の急激な移動や技術的理由などの区割りの都合によっては1〜2割程度の一票の価値の較差が生ずるのはやむを得ないと考えるが,それでもその場合に許容されるのは,せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり,これ以上の一票の価値の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し,違憲かつ無効であると考える。
[7] 他方,憲法上,内閣が解散権を有する衆議院に比べると,3年に一度の選挙が規定されている参議院の特殊性からすれば,参議院の場合には一票の価値の較差がある程度生ずるのはやむを得ないとする考え方もあり得ないわけではない。しかしながら,参議院も衆議院並みに政党化が進んでいるほか,一時はいわゆる「ねじれ国会」すなわち衆議院における多数派と参議院における多数派とが異なる国会の状況が続いたことがあり,その間は憲法上,衆議院は参議院に優越する規定があるものの,実際にはそれとは逆に参議院が国政の鍵を事実上握るような事態が見受けられたのは周知の事実である。こうした経験を踏まえれば,国政における参議院の重要性が再認識されたわけである。そうであれば,参議院の拠って立つ選挙制度も衆議院の場合と同様,代表民主制にふさわしく,一票の価値の較差が生じないようにするべきであると考える。
(1) 事情判決の法理は明文の根拠なし
[8] さきに述べたように一票の価値について原則は1.0であるが例外的に2割程度の較差が生ずることはやむを得ないものの,これを超えた場合には当該選挙は無効になると考える次第であるが,その場合,第一に「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員によって構成された参議院又は衆議院が既に行った議決等の効力」及び第二に「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員の身分の取扱い」の二つが主に問題となる。
[9] このような場合,いわゆる事情判決の法理を用いて,
当該「選挙が憲法に違反する公職選挙法の選挙区及び議員定数の定めに基づいて行われたことにより違法な場合であっても,それを理由として選挙を無効とする判決をすることによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく,かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずる判示のような事情などがあるときは,行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従い,選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに当該選挙が違法である旨を主文で宣言すべきである。」(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁の判決要旨)
とする考え方がある。しかし,国政選挙という代表民主制を支える最も重要な制度の合憲性が争われる争訟において,裁判所がこれを違憲と判断しながら当該選挙を無効とせずに単に違法の宣言にとどめるということが,法律上の明文の根拠もなく許されるものであるかどうか,私には甚だ疑問に思えてならない。現にこれまでの経緯を振り返ると,選挙区の区割りや定数に関する幾たびかの法改正や国会における検討を経てもなお,一票の価値の平等という代表民主制を支える根幹の原理が守られておらず,その改善は遅々として進まないという状況にあって,選挙制度の憲法への適合性を守るべき立場にある裁判所としては,違憲であることを明確に判断した以上はこれを無効とすべきであり,そうした場合に生じ得る問題については,経過的にいかに取り扱うかを同時に決定する権限を有するものと考える。

(2) 既に行った議決等の効力
[10] 例えば,先ほどの二つの問題のうち,第一の「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員によって構成された参議院又は衆議院が既に行った議決等の効力」については,それが判決前にされた議決等であれば,裁判所による選挙無効の判決の効力は将来に向かってのみ発生し,過去に遡及するものではないから,当該議決等の効力に影響を及ぼす余地はなく,当該議決は当然に有効なものとして存続することとなることは,いうまでもない。
[11] それに加えて,判決後においても,裁判所による選挙無効の判断を受けて一票の価値の平等を実現する新たな選挙制度が制定されこれに基づく選挙が行われて選出された議員で構成される参議院又は衆議院が成立するまでの間を含めて,後述のとおり一定数の身分の継続する議員で構成される院により議決等を有効に行うことが可能となるので,その点で国政に混乱が生ずる余地はない。また仮に,判決の直後に判決前と同じ構成の院が議決等を行ったとしても,国政の混乱を避けるために,当該議決等を有効なものとして扱うべきである。

(3) 無効な選挙で選出された議員の身分
[12] 次に,先ほどの二つの問題のうち,第二の「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員の身分の取扱い」については,参議院の場合,本件のように全選挙区が訴訟の対象とされているときは,その無効とされた選挙において一票の価値(各選挙区の有権者数の合計を各選挙区の議員定数の合計で除して得られた全国平均の有権者数をもって各選挙区の議員1人当たりの有権者数を除して得られた数。以下同じ。)が0.8を下回る選挙区から選出された議員は,全てその身分を失うものと解すべきである。なぜなら,一票の価値が許容限度の0.8より低い選挙区から選出された議員がその身分を維持しつつ他の選挙区の議員と同様に国会の本会議や委員会において議事に加わることは,そもそも許されないと解されるからである。ちなみにそれ以外の選挙区から選出された議員については,選挙は無効になるものの,議員の身分は継続し,引き続きその任期終了までは参議院議員であり続けることができる。参議院議員は3年ごとにその半数が改選される(憲法46条)ので,このように解することにより,参議院はその機能を停止せずに活動することができるだけでなく,必要な場合には緊急集会の開催も可能である(注1)(注2)。
(注1) 平成28年9月2日現在の選挙人名簿登録者(在外を含む。)の参議院選挙区選出議員の定数146人中,一票の価値が0.8を下回る選挙区の定数は,試算によると38人(今回の平成28年7月10日に施行された参議院議員通常選挙に限って言えば,参議院選挙区選出議員の定数73人中,一票の価値が0.8を下回る選挙区の定数は,試算によると19人)であり,これらの議員が欠けたとしても,院の構成には特段の影響はないものと考えられる。
(注2) 他方,衆議院の場合,選挙無効の判決がされると,訴訟の対象とされた選挙区から選出された議員のうち,同じく一票の価値が0.8を下回る選挙区から選出された議員は,全てその身分を失うが,それ以外の選挙区から選出された議員は,選挙は無効になるものの,議員の身分は継続し,引き続きその任期終了又は解散までは衆議院議員であり続けることができる。このように解することによって,衆議院は経過的に,一票の価値が0.8以上の選挙区から選出された議員及び訴訟の対象とされなかった選挙区がある場合にあってはその選挙区から選出された議員のみによって構成されることになり,これらの議員によって構成される院で,一票の価値の平等を実現する新しい選挙区の区割り等を定める法律を定めるべきである。仮にこれらの議員によっては院の構成ができないときは,衆議院が解散されたとき(憲法54条)に準じて,内閣が求めて参議院の緊急集会を開催し,同緊急集会においてその新しい選挙区の区割り等を定める法律を定め,これに基づいて次の衆議院議員選挙を行うべきものと解される。
[13] なお,一票の価値の平等を実現するための具体的な選挙区の定め方に関しては,もとより新しい選挙区の在り方や定数を定める法律を定める際に国会において十分に議論されるべき事柄であるが,都道府県又はこれを細分化した市町村その他の行政区画などを基本単位としていては,策定が非常に困難か,事実上不可能という結果となることが懸念される。その最大の障害となっているのは都道府県であり,また,これを細分化した市町村その他の行政区画などもその大きな障害となり得るものと考えられる。
[14] したがって,これらは,もはや基本単位として取り扱うべきではなく,細分化するにしても例えば投票所単位など更に細分化するか,又は細分化とは全く逆の発想で全国を単一若しくは大まかなブロックに分けて選挙区及び定数を設定するか,そのいずれかでなければ,一票の価値の平等を実現することはできないのではないかと考える。

(裁判長裁判官 寺田逸郎  裁判官 岡部喜代子  裁判官 小貫芳信  裁判官 鬼丸かおる  裁判官 木内道祥  裁判官 山本庸幸  裁判官 山崎敏充  裁判官 池上政幸  裁判官 大谷直人  裁判官 小池裕  裁判官 木澤克之  裁判官 菅野博之  裁判官 山口厚  裁判官 戸倉三郎  裁判官 林景一)

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