議員定数不均衡訴訟 参議院選挙区合憲判決(平成29年)
第一審判決

選挙無効請求事件
東京高等裁判所 平成28年(行ケ)第10号
平成28年11月2日 民事第22部 判決

口頭弁論終結日 平成28年9月21日

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

1 請求の趣旨
(1) 原告A、同B、同C、同D及び同Eの請求
 平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙における東京都選挙区選出議員選挙を無効とする。
 訴訟費用は被告東京都選挙管理委員会の負担とする。
(2) 原告F及び同Gの請求
 平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙における神奈川県選挙区選出議員選挙を無効とする。
 訴訟費用は被告神奈川県選挙管理委員会の負担とする。

2 請求の趣旨に対する答弁
 主文と同旨
[1] 本件は、平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙(以下「本件選挙」という。)について、東京都選挙区又は神奈川県選挙区の選挙人である原告らが、公職選挙法14条1項、別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は議員定数を人口に比例して配分していない点において憲法に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して、公職選挙法204条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。
[2](1) 本件選挙において、原告A、同B、同C、同D及び同Eはいずれも東京都選挙区の選挙人であり、原告F及び同Gはいずれも神奈川県選挙区の選挙人であった。

[3](2) 本件選挙は、平成27年法律第60号によって改正された公職選挙法14条、別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」といい、上記改正を「平成27年改正」という。)に従って、平成28年7月10日に施行された。

[4](3) 本件選挙当日の選挙区ごとの選挙人数及び本件定数配分規定における議員定数は、別紙「参議院選挙区別 人口、定数、較差」に記載のとおりであり、議員1人当たりの選挙人数の較差は、最小の福井県選挙区を1とすると、埼玉県選挙区が最大の3.08(較差に関する数値は、全て小数点以下第3位で四捨五入した概数で示す。)であり、原告F及び同Gの属する神奈川県選挙区は2.88であり、その余の原告らの属する東京都選挙区は2.83であった。

(4) 参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「参議院議員定数配分規定」という。)の変遷
ア 制定当初
[5] 昭和22年に制定された参議院議員選挙法は、参議院議員の選挙について、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し、全国選出議員については全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとする仕組みを採用した。そして、各選挙区ごとの議員定数については、定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に、昭和21年当時の人口に基づき、各選挙区の人口に比例する形で、2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。
[6] 昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は、参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは、後記イの平成6年改正まで、上記議員定数配分規定に変更はなかった。
[7] なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、従来の個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨から、参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され、各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが、比例代表選出議員は、全都道府県を通じて選出されるものであって、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎず、参議院議員の選挙制度の仕組み自体に変更はなかった。
イ 平成6年法律第47号による改正(以下「平成6年改正」という。)
[8] 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下「最大較差(人口)」という。)は、参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが、その後、次第に拡大し、平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下、単に「最大較差」という。)は1対6.59となった。
[9] 平成6年改正は、上記のように拡大した較差を是正する目的で行われ、上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく、できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし、かつ、有権者数の少ない選挙区により多くの議員定数が配分されるといういわゆる逆転現象を解消することとして、参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま、7選挙区で定数を8増8減したものである。平成6年改正の結果、平成2年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は、1対6.48から1対4.81に縮小した。
ウ 平成12年法律第118号による改正(以下「平成12年改正」という。)
[10] 平成12年改正は、比例代表選出議員の選挙制度をいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改めるとともに、参議院議員の総定数を10人削減して242人としたものである。定数の削減に当たっては、選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし、比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上、選挙区選出議員の定数削減については、平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに、較差の拡大を防止するために、定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果、いわゆる逆転現象は消滅したが、平成7年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は、改正前と変わらず1対4.79であった。
エ 平成18年法律第52号による改正(以下「平成18年改正」という。)
[11] 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で、平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対5.06であり、平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」という。)当時の最大較差は1対5.13であった。平成18年改正は、上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく、較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区の較差の是正を図ることを目的とし、4選挙区で定数を4増4減したものである。平成18年改正の結果、平成17年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は、1対4.84となった。
オ 平成24年法律第94号による改正(以下「平成24年改正」という。)
[12] 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の最大較差は1対4.86、平成22年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)当時の最大較差は1対5.00であった。平成24年改正は、上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく、平成25年に行われる参議院議員通常選挙(以下「平成25年選挙」という。)に向けて較差の是正を図るため、4選挙区で定数を4増4減したものである。平成24年改正の結果、平成22年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は、1対4.75となった。
[13] 同改正法の附則3条には、「平成28年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、結論を得るものとする。」との規定が置かれている。
カ 平成27年法律第60号による改正(平成27年改正)
[14] 平成24年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成25年7月に施行された平成25年選挙当時の最大較差は1対4.77であった。
[15] 平成27年改正は、参議院の選挙区選出議員の選挙区及び定数につき、鳥取県及び島根県、徳島県及び高知県をそれぞれ合区し、定数2人の選挙区とした上で、定数4の県のうち、議員1人当たりの人口の少ない3県(宮城県、新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員し、議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(東京都、北海道、愛知県、兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものである。
[16] 同改正法の附則7条には、「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする。」との規定が置かれている。

(5) 参議院議員定数配分規定の憲法適合性に関する最高裁判所大法廷判決
ア 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号435頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)
[17] 昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は、1対5.26であったところ、昭和58年大法廷判決は、次の判断枠組みの下に、いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示した。
[18] 憲法は、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等を要求していると解するのが相当であるが、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をも斟酌して、その裁量により選挙制度の仕組みを決定することができる。このため、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになってもやむを得ない。
[19] 公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた選挙制度の仕組みは、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとはいえない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口異動の結果、投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらず、これを是正する措置を講じないことが、上記人口異動をいつどのような形で選挙区割り、議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題が複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもなお、その許される裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
イ 最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下「平成8年大法廷判決」という。)
[20] 平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は、1対6.59であったところ、平成8年大法廷判決は、昭和58年大法廷判決が示した上記判断枠組みの下、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないとしたが、上記程度に達したかどうかの判定は複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界に関わる困難なものであり、かつ、上記程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについてなお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経る必要があること、また、同選挙当時まで最高裁判所が参議院議員定数配分規定につき違憲状態にあるとの判断を示したことはなかったことなどを考慮し、結論において、同選挙までの間に国会が参議院議員定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難であるとして、同規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
ウ 最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁、最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁
[21] 平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対4.97、平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対4.98であったところ、上記各大法廷判決は、いずれも上記判断枠組みの下、平成6年改正により残った較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず、同改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして、上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
エ 最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)
[22] 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対5.06であったところ、平成16年大法廷判決は、平成12年改正は憲法が選挙制度の具体的な仕組みの決定につき国会に委ねた立法裁量権の限界を超えるものではないとして、上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。この多数意見を構成した裁判官9名のうち5名は、従前の判断枠組みを採用した補足意見を付したが、4名は、結果的に極めて広範な立法裁量の余地を是認してきた従来の枠組みに従うことはできないとし、仮に次回選挙においても漫然と現在の状況が維持されるならば、立法府の義務に適った裁量権の行使がされなかったものとして、違憲判断がされる余地は十分に存在すると指摘する補足意見を付した。
[23] 平成16年大法廷判決には、上記議員定数配分規定は憲法に違反するものであることが明らかであるとする6名の裁判官の反対意見が付された。
オ 最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)
[24] 平成12年改正後の議員定数配分規定の下において施行された平成16年選挙当時の最大較差は1対5.13であったところ、平成18年大法廷判決は、平成16年大法廷判決の言渡しから平成16年選挙までの期間は約6か月で、その間、参議院では協議会を設けて定数較差の是正について議論を行い、平成16年選挙後には平成18年改正がされたことなどの事情を考慮し、平成16年選挙までの間に上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできないとして、平成16年選挙当時、上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。その上で、平成18年大法廷判決は、「投票価値の平等の重要性を考慮すると、今後も、国会においては、人口の偏在傾向が続く中で、これまでの制度の枠組みの見直しをも含め、選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが、憲法の趣旨にそう」と指摘した。
[25] 平成18年大法廷判決には、上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判官の反対意見が付された。
カ 最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)
[26] 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平成19年選挙当時の最大較差は1対4.86であったところ、平成21年大法廷判決は、平成19年選挙は平成18年改正の約1年2か月後に上記議員定数配分規定の下で施行された初めての選挙であり、平成16年選挙に比べて最大較差は縮小したものとなっていたこと、平成19年選挙後に参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど、定数較差の問題について今後も検討が行われることとされていること、現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要することは否定できないことなどを考慮して、平成19年選挙までの間に上記議員定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできないとして、平成19年選挙当時、上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。
[27] その上で、平成21年大法廷判決は、平成18年改正の結果によっても残ることとなった上記較差は、投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等が存する状態であり、選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあること、現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振替える措置によるだけでは、最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば、現行の選挙制度の見直しが必要となることは否定できないことを指摘するとともに、このような見直しを行うことには、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要で、事柄の性質上課題も多く、その検討に相当の時間を要するが、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることに鑑みると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる旨指摘した。
[28] 平成21年大法廷判決には、上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判官の反対意見が付された。
キ 最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)
[29] 平成18年改正後の議員定数配分規定の下で2度目に施行された平成22年選挙当時の最大較差は1対5.00であったところ、平成24年大法廷判決は、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っており、このことは平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたこと、平成19年選挙についても、投票価値の大きな不平等がある状態で、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが平成21年大法廷判決において特に指摘されていたこと、それにもかかわらず、平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正が行われることなく、平成22年選挙に至ったことなどを考慮し、平成22年選挙当時、前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとした。
[30] その一方で、平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性が指摘されたのは本件選挙の約9か月前で,見直しには参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど事柄の性質上課題も多く、検討に相応の時間を要すること、参議院においては、同判決の趣旨を踏まえ、参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど、選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたことなどを考慮し、平成22年選挙までに上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないとして、上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
[31] その上で、平成24年大法廷判決は、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、先に述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要があると指摘した。
[32] 平成24年大法廷判決には、上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする3名の裁判官の反対意見が付された。
ク 最高裁平成26年(行ツ)第155号、同156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)
[33] 平成24年大法廷判決の言渡し後にされた平成24年改正による改正後の議員定数配分規定の下で施行された平成25年選挙当時の最大較差は1対4.77であったところ、平成26年大法廷判決は、総定数の制約の下で偶数配分を前提に、長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが、長年にわたる制度及び社会状況の変化により、もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を維持し得なくなっていること、その状態を解消するためには、一部の選挙区の定数の増減にとどまらず、上記制度の仕組み自体の見直しが必要であること、ところが、平成24年改正による4増4減の措置は、上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたので、上記の状態を解消するには足りないことなどを考慮し、平成25年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正による上記の措置を経た後も、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとした。
[34] その一方で、同大法廷判決は、平成24年大法廷判決の言渡しから平成25年選挙までの約9か月の間に、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し、参議院の検討機関において、上記附則の定めに従い、同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきていることのほか、司法権と立法権との関係を踏まえ、考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできないなどとして、平成25年選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない旨判示した。
[35] その上で、同大法廷判決は、平成24年大法廷判決と同様に、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、先に述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要があると指摘した。
[36] 平成26年大法廷判決には、上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする4名の裁判官の反対意見が付された。
[37] 本件定数配分規定が議員定数を人口に比例して配分していない点において憲法に違反し無効であるか否か。
(1) 原告らの主張
ア 本件定数配分規定は、議員定数の人口比例配分原則に反すること
[38] 憲法上、国会の議決は出席議員の過半数で決するとされている(56条2項)ことからすれば、国会において各議員が投ずる一票は同価値でなければならず、ここでいう同価値とは、各議員を選出する母体人口が同じということである。議員定数が人口に比例して配分されない場合には、各議員が国会において投ずる票は同価値であるとはいえず、このような票の行使を認めれば、国会において決定される意思は、国民の意思を正しく反映しないものとなる。昭和22年に制定された参議院議員選挙法が、地方区選出議員選挙につき各都道府県を選挙区単位とし、昭和21年の人口調査に基づく各選挙区の人口に比例して議員定数を偶数配分して以来、人口の都市への過剰な移動により、議員定数配分が人口に比例したものとならなくなっているにもかかわらず、国会はその改善を怠っている。
[39] 本件定数配分規定は、参議院の選挙区選出議員の定数を人口に比例して配分しておらず、憲法が規定する代議制民主主義(前文、1条、43条1項)及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障(13条、15条1項、14条1項、44条ただし書)に反し、違憲である。
イ 平成27年改正は、議員定数の人口比例配分の点で不十分であること
[40] 平成27年改正は、2つの合区を創設し、従来の都道府県の枠を超えた選挙区を創設したという意味において一定程度の評価をすることができるが、人口に比例した配分が実現されていない点において不十分なものといわざるを得ない。
[41] すなわち、議員定数の配分における不均衡が人口比例配分原則に照らして許容できる範囲内であるか否かについては、日本全国の人口を参議院の選挙区選出議員の定数である146で除し、その商である87万7105人を「基準人数」として、基準人数に各選挙区に配分された議員定数を乗じて「必要人数」を求め、各選挙区の人口と必要人数との差である「過不足人数」を求め、これが基準人数以上であれば、人口比例配分原則に照らして許容できる範囲を超えるものとして、また、過不足人数を基準人数で除して得られる「過不足議員数」が1以上であれば、やはり人口比例配分原則に照らして許容できる範囲を超えるものとして、いずれも違憲となるものと考える。このような判断基準に沿って検討すると、東京都選挙区は議員定数3名の不足、神奈川県、大阪府及び埼玉県の各選挙区は各2名ずつの不足、千葉県選挙区は1名の不足であり、逆に、山梨県、佐賀県及び福井県の各選挙区は議員定数が各1名ずつ多過ぎることになるので、違憲である。
[42] 議員定数の不平等の判断基準として、議員1人当たりの人口が最大となる選挙区と最小となる選挙区を取出し、その倍率すなわち「較差」を求める手法(較差論)は、欠陥があるので、用いるべきでない。

(2) 被告らの主張
ア 判断の枠組みについて
[43] 憲法は、投票価値の平等を要求する一方、選挙制度の仕組みの決定につき国会に広範な裁量を認めているから、投票価値の平等は、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。そして、憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という選挙制度上の技術的制約等に照らすと、国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは、参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても、投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており、かつ、当該選挙までの期間内にその是正が図られなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られるものと解すべきである。
イ 本件選挙時において、選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえないこと
[44] 平成27年改正は、参議院の選挙区選出議員につき、都道府県単位の選挙制度が果たしてきた役割の重要性等を踏まえつつ、憲法が求める投票価値の平等の要請に応えようとしたものであると解される。同改正において合区がされ、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みが改められた結果、平成25年選挙の時には1対4.77であった最大較差は、平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)において1対2.97に縮小され、本件選挙当日にも、最大較差が1対3.08と3倍を僅かに超えるにとどまり、その余の較差はいずれも3倍未満となるなど、投票価値の較差は大幅に縮小された。同改正が、参議院の選挙区選出議員につき都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持した点は、憲法が二院制を採用した趣旨に沿い、過疎地域に住む少数者の声が国政に届くようにすることは政策目的として正当である。
[45] 以上の諸点に加え、参議院議員については、憲法上3年ごとに議員の半数を改選するものとされ(46条)、定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると、本件選挙時において、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしても看過し得ない程度に達しているとはいえず、仮に同程度に達しているとしても、これを正当化すべき理由があるから、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
ウ 本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないこと
[46] 投票価値の不均衡が違憲の問題を生じさせる程度の著しい不平等状態に至っている旨の司法の判断がされれば、国会は、憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らし、司法の判断を受けて必要な是正を行う義務を負う。
[47] 国会において当該選挙までの期間内にその是正をしなかったことがその裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきであり、その際には、裁判所において上記判断が示されるなど、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態となったことを国会が認識し得た時期を基準(始期)として、上記の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。
[48] 本件選挙は、平成26年大法廷判決の趣旨を踏まえた平成27年改正において新たに定められた本件定数配分規定に基づく初めての選挙であるので、本件選挙までの間に選挙区間における投票価値の不均衡について司法の判断がされたことはない。また、本件定数配分規定の下での平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)1対2.97及び本件選挙当日の最大較差1対3.08は、累次の最高裁判所判決において合憲と判断された最大較差を大幅に下回るものであった。以上のことからすれば、国会において、本件選挙までの間に投票価値の不均衡が違憲の問題を生じさせる程度の著しい不平等状態に至っていたことを認識し得たものとは到底いえない。
[49] そうである以上、仮に、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡につき違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても、国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当でなかったとはいえないので、本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。
[50] 前記前提事実に加え、証拠《略》及び弁論の全趣旨を総合すると、平成27年改正の内容及び同改正の行われた経緯等に関し、次の事実が認められる。

[51](1) 平成24年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成25年7月に施行された平成25年選挙当時の最大較差は1対4.77であった。

[52](2)ア 参議院においては、平成24年改正法がその附則3条において、「平成28年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、結論を得るものとする。」と定めていたことなどを踏まえ、選挙制度の改革に関する検討会(以下「検討会」という。)が設置され、さらに、実務的な協議を行うため、検討会の下に選挙制度協議会(以下「協議会」という。)が設置された。
[53] 協議会においては、平成25年9月27日から平成26年11月21日までに合計29回の会議を開催し、諸外国の選挙制度の検討、参考人13名からの意見聴取等を行い、選挙制度の枠組み、較差の許容範囲のほか、「2県合区制」や府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する「ブロック選挙区制」等の現行とは異なる選挙区設定方法について、協議が重ねられ、同月以降には、意見集約に向けた議論が行われたが、各会派の意見は一致することがなかったため、同年12月26日、各会派から示された改革案を併記する形で選挙制度協議会報告書が作成され、同報告書が検討会に提出された。
[54] この間の同年11月26日には平成26年大法廷判決の言渡しがされた。
[55] 同大法廷判決においては、平成25年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正による措置を経た後も、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると判示され、その上で、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要があるとの指摘がされた。
[56] 検討会においては、平成27年2月25日から同年5月29日まで、参議院の選挙制度の改革につき協議が重ねられたが、なお各会派の一致する結論が得られないまま、検討会における協議を終え、関係委員会及び本会議において結論を得ることとされた。
[57] 参議院の選挙制度の改革に向けた検討は、その後も、各会派内及び各会派間において進められたところ、この検討の過程において、次第に、参議院の選挙区選出議員の選挙区に合区を導入する2案、具体的には、[1]「4県2合区を含む10増10減」の改正案と[2]「20県10合区による12増12減」の2案に集約されるところとなった。
[58] そして、上記[1]の改正案を含めて法案化した公職選挙法の一部を改正する法律案(参第11号)と上記[2]の改正案を含めて法案化した公職選挙法の一部を改正する法律案(参第12号)が、同年7月23日にそれぞれ発議され、同月28日、前者の法律案(参第11号)が平成27年改正法として成立し、同年11月5日、施行された。

[59](3) 平成27年改正は、参議院の選挙区選出議員の選挙区及び定数につき、鳥取県及び島根県、徳島県及び高知県をそれぞれ合区し、定数2人の選挙区とした上で、定数4の県のうち、議員1人当たりの人口の少ない3県(宮城県、新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員し、議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(東京都、北海道、愛知県、兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものであり、平成27年改正法の附則7条には、「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする。」と定められた。

[60](4) 平成27年改正によれば、平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)は1対2.97に縮小され、本件選挙当日の議員1人当たりの選挙人数の較差は、最小の福井県選挙区を1とすると、埼玉県選挙区が最大の3.08であり、その余の較差はいずれも3倍未満であった。
[61](1) 憲法は、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等を要求しているものと解されるが、他方で、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのようなものにするかの決定を国会の裁量に委ねているから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるので、国会において具体的に定めた参議院議員定数配分規定が、上記の国会の裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それにより投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになったとしても、直ちに憲法に違反するとはいえない。

[62](2) ところで、憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。このような観点から、参議院議員の選挙制度の仕組みにおいては、前記前提事実(第2、2)の(4)においてみたとおり、参議院議員を全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に区分し、前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としている。昭和22年に参議院議員選挙法が制定され同25年に公職選挙法が制定された当時においてこのような選挙制度の仕組みを定めたことが、選挙制度の内容につき国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化に伴い不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定は、憲法に違反するとの評価を受けるものと解するのが相当である。

[63](3) 以上は、昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
[64] もっとも、昭和22年の制度発足時には最大較差(人口)は2.62倍であったところが、その後選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、平成16年、同18年及び同21年の各大法廷判決においては、上記の判断枠組みは基本的に維持しつつも、投票価値の平等の観点から実質的により厳格な評価がされるようになっており、平成24年大法廷判決においても、昭和58年大法廷判決が参議院議員の選挙制度において長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた上記の選挙制度の仕組みや参議院に関する憲法の定め等も、上記較差の常態化を正当化する根拠として十分でない旨の指摘がされていたところである。

[65](4) 原告らは、議員定数の配分における不均衡が人口比例配分原則に照らし許容範囲内であるか否かに係る判断の基準として、前記(第2、4(1)のイ)のとおり独自のものを主張するが、その主張は、上記説示したところに照らし、採用することができない。

[66] 上記の観点から、本件選挙当時における本件定数配分規定の憲法適合性について検討する。

[67](1) 憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄につき参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから70年近くの間に行われた選挙制度の変遷やこれを取り巻く内外の社会状況の変化を考慮することが必要であると解される。
[68] 前記前提事実(第2、2)(4)の参議院議員の選挙制度の変遷を、参議院とともに国会を構成する衆議院議員の選挙制度のそれと対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、選挙制度が同質的になってきているものといえ、議員の任期が長いことを背景とした参議院の国政運営における役割は、特に20世紀の末から続く内外の情勢の変化の下において以前にも増して大きくなってきているものと評価される。衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められているところであり、このことからは、ともに国会を構成する参議院に対しても、二院制に係る上記の憲法の趣旨と調和させつつ、投票価値の平等の要請に十分に配慮することが求められてきているというべきである。
[69] 参議院においては、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという選挙制度の仕組みが採用されてきたが、昭和22年の制度発足時には最大較差(人口)は2.62倍であったところ、その後の国内の人口変動によって都道府県間の人口較差が著しく拡大し、昭和52年選挙の時点では選挙区間の最大較差が5.26倍に拡大した。さらに、平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり、平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって若干の較差の縮小が図られたものの、5倍前後の較差が維持されたまま推移してきたという実情がある。しかしながら、さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国の機関として適切に民意を国政に反映すべき責務を負っており、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が大きく後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。
[70] ところで、憲法は、前記のとおり、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度の設計を国会の裁量に委ねていることから,いったん生じた選挙区間における投票価値の不均衡をいかなる方策によって解消するかについても、同様に国会の裁量に委ねているものと解される。
[71] 平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決においては、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、国政の運営における参議院の役割に照らし、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じる必要があるとの指摘がされたところである。
[72] 国会は、前記各大法廷判決の指摘の趣旨をも踏まえ、平成27年改正において、参議院の選挙区選出議員の選挙区の一部に初めて合区を導入するなど従前の方式の範囲を超えた改正を行い、更に、平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮した検討を引き続き行い、結論を得る旨の附則の定めをするなど、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の更なる是正が検討課題であることを明らかにしているものと認められる。
[73] 以上の経過等に加えて、前記のとおり参議院議員選挙法の制定時点における選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差(人口)が1対2.62であったことからすると、国会には、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に投票価値の平等を実現することが期待されているとしても、少なくとも上記の当初の最大較差を拡大する方向で乖離することがないよう不断に立法上の配慮をすべきものと解される。
[74] そして、このような見地からすると、本件選挙当日の最大較差が1対3.08であるという投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしなお看過し得ない程度にあり、平成27年改正によっても、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる投票価値の著しい不平等状態を解消するには足りなかったものといわざるを得ない。

[75](2) もっとも、参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題については、[1]当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否かに加え、[2]上記の状態に至っている場合において、当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として、審査を行うことが相当である。そして、憲法上問題があると判断される選挙制度も、その是正は国会の立法によって行われ、是正の方法について国会は幅広い裁量権を有しているものと解されるところ、当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、期間の長短、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解するのが相当である。
[76] そこで、このような観点から、本件において、本件選挙までに違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を是正するに足りなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。
[77] 投票価値の不均衡が違憲の問題を生じさせる程度の著しい不平等状態に至っている旨の裁判所の判断がされれば、国会は、憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らし、裁判所の判断を受けた必要な是正を行う責務を負うものと解される。そして、前記認定事実のほか、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、本件において、国の機関としての国会は、平成24年改正法の附則の趣旨を踏まえ、選挙制度の改革に関する検討を開始し、途中平成26年大法廷判決の言渡しをはさんで継続的に検討ないし協議を行い、議員や会派には、投票価値の平等を重くみる立場からの意見ばかりでなく、慎重ないしは反対の意見も少なくないなかで、民主的な手続及び過程を経て、平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差(人口)を1対2.97に縮小する内容の平成27年改正法を成立させたことが認められる。このことは積極的に評価すべきものといわねばならない。
[78] 平成27年改正法により、本件選挙当日の最大較差においても1対3.08であったことに加え、同法の附則に、平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ、選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る旨の附則の定めが置かれたことも勘案すれば、投票価値の不均衡は解消の方向にあるものと認められる。
[79] そうすると、国会において平成27年改正を行い、それ以上の内容を含む改正をしなかったことが、司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとはいえず、ひいては国会の裁量権の限界を超えるものということもできない。
[80] 以上によれば、本件選挙における選挙区選出議員1人当たりの選挙人数の最大較差が示す選挙区間の投票価値の不均衡は、平成27年改正の後も違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが、本件選挙までの間に必要にして十分な定数配分規定の改正がされなかったことをもってそれが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、同規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできないから、同規定に基づき施行された本件選挙の東京都選挙区及び神奈川県選挙区における選挙は無効ではない。
[81] よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 河野清孝  裁判官 古谷恭一郎 小林康彦)

別紙 当事者目録《略》
別紙 参議院選挙区別 人口、定数、較差《略》

■第一審判決 ■上告審判決     ■判決一覧