神戸税関事件
上告審判決

行政処分無効確認等請求事件
最高裁判所 昭和47年(行ツ)第52号
昭和52年12月20日 第三小法廷 判決

上告人 (控訴人・附帯被控訴人 被告) 神戸税関長
                代理人 中山晴久 外7名

被上告人(被控訴人・附帯控訴人 原告) 甲野一郎(仮名) 外2名
                代理人 宇賀神直 外4名

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官環昌一の反対意見

■ 上告代理人中山晴久、同原田昭、上告指定代理人香川保一、同近藤浩武、同長島俊雄、同鎌田泰輝、同上野至、同東光宏、同藤田鈴夫、同青木元一、同西川義輝の上告理由


 原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分に関する第一審判決を取り消す。
 前項の部分につき、被上告人らの請求をいずれも棄却する。
 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

[1] 原審が確定したところによれば、被上告人らに対する懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)に関する事実関係は、おおむね次のとおりである。

(一) 8月19日の件(大塚宏圀に対する懲戒処分についての抗議行動)
[2] 昭和36年8月19日、神戸税関長官房主事森弘は、同主事室で、税関長に代わつて、大塚宏圀に対し、懲戒処分書及び処分説明書を交付しようとした。その処分理由の要旨は、大塚が、昭和34年10月27日、外国貿易船天栄丸の高島一志を同船に訪ねて一緒に下船した際、高島が米国製タバコ等の密輸入を企てて携帯しているのを知りうべき立場にありながらこれを確知することなく、税関職員として適切な助言、指導を怠りかつ陸務課の検査に協力しなかつたのは、税関職員たるにふさわしくない行為にあたる、ということであつた。全国税関労働組合神戸支部(以下「組合」という。)の組合員は、大塚に対する処分を知るや、正午前から零時30分ころにかけ続々主事室につめかけ、12時30分から1時ころにかけて40名ないし50名になり、官房主事の説明を、理由にならない、不誠実だとして抗議を続け、口々に理由を説明せよ、できないのなら税関長を呼べなどと大声をあげたので、室内は騒然となり、1時30分ころまで押し問答が続いた。1時30分ころから2時ころにかけて、森官房主事、高松人事課長らは組合員に対し「帰ります」「退去して下さい」と要求したが、多数の組合員は進路を開けることなく立ちはだかつて抗議を続け、その間室内や入口ドアには、「不当弾圧撤回!」「首切りを仕事にする奴、森!」「オマエはバカなチンピラだ」、「チンピラ弾圧屋の森税関から出て行け」、「メツセンジヤーボーイもできぬ官房主事はヤメロ」などと書かれたビラが貼られ、同趣旨の発言がされていた。組合執行委員である被上告人丙田は、組合員の一員として、官房主事、総務課長らの附近に位置して激しく抗議していたが、同人らの耳もとで、バカヤロー、チンピラなどと怒声、罵声を発し、また、携帯マイクを使用して同様の行為をした。抗議は、途中休憩等をはさみ断続的に続いたが、5時30分ころパトカーのサイレンが聞こえたので、組合員は退室し、森主事らは警察官に守られて室外に出た。

(二) 10月5日、26日の件(勤務時間内の職場集会等)
[3](1) 昭和36年10月5日、組合は、総評及び公務員共闘会議の統一行動の一環として、全税関労働組合本部からの指令に基づき、本庁舎玄関前において、政暴法反対、公務員給与5000円賃上げ、神戸税関における計算センター設置反対、勤務評定反対、人事の民主化などの要求をかかげ、午前8時40分ころから9時10分ころまで(勤務時間の定めは8時30分からであるが、9時5分までを出勤簿整理時間又は出勤猶予時間としてそれまでに出勤すればよいことになつており、9時5分から執務態勢にあつた。)職場集会を開催した。神戸税関長は、集会開催の前日組合支部長である被上告人甲野に対し勤務時間にくい込まないようにとの警告を、また、当日9時5分ころ集会中の組合員に対し執務命令を発したが、いずれも無視された。被上告人らは、右集会の準備をし、組合書記長である被上告人乙山は開会の挨拶等をし、同甲野は組合員の団結をうながす演説をした。
[4] 集会の終了直前、被上告人乙山は、職場に帰るとき税関長室前を通り要求を直接訴えようと提案し、右提案は可決され、組合員約300人が4列縦隊のような形で労働歌を合唱しながら正面玄関から2階へ上り、被上告人乙山の音頭で、「5000円賃上げ」、「勤評反対」、「合理化反対」、「遠藤(税関長)やめろ」、「森(官房主事)やめろ」などのシユプレヒコールを繰り返した。被上告人甲野は列外に出て同乙山に合わせて音頭をとり、同丙田は同様列外に出て隊列の後部を指導した。右隊列は、9時18分ころ2階監視部長室横の階段附近で流れ解散した。
[5](2) 同年同月26日、組合は、前回同様の統一行動の一環として、全税関労働組合本部からの指令に基づき、同一の要求をかかげ、本庁舎前で、午前8時40分ころから9時15分ころまで職場集会を開催した。上告人神戸税関長は、集会開催の前日被上告人甲野に対し前同趣旨の警告書を交付し、また、当日9時5分ころ集会中の組合員に対し執務命令を伝えたが、組合側はこれを無視した。被上告人甲野、同乙山は、集会を準備し、甲野は組合代表として演説し、乙山は官側への抗議団の派遣を提案した。
[6] 同日、同税関東部出張所においても、2階べランダで、午前8時40分ころから9時15分ころまで職場集会が開催され、被上告人丙田は、統一行動の意義を話し、政暴法反対の演説を行い、9時5分以降も税関長の執務命令を無視して演説を続けた。

(三) 10月31日ないし11月2日の件(輸出為替職場の人員増加要求活動)
[7] 神戸税関においては、輸出業務が集中する月末月始の各2、3日のいわゆる繁忙期には、輸出担当職員は2時間くらいの超過勤務や日曜休日の出勤が多く、また、大量の業務を処理するために、各職員がその能力に応じまた各人の責任において審査を簡略化することも行われており、1人が1日に約200件を処理することもあつた。組合は、輸出の増加により業務は増加しているのに職員はふえないとして、従来から人員増加要求を続けていたが、この要求を貫徹するため、被上告人らは、次のような行為を行つた。
[8](1) 10月31日午後5時過ぎころから、輸出為替の職場で、繁忙期の業務処理、人員問題を検討するため、15人の職員が参加して職場集会が開かれた。その席に組合の代表者として参加した被上告人乙山は、官側は組合が人員要求しても何もしてくれず、労働強化を強いている、職員は無理のない件数をやることにしよう、そうすれば仕事が残るので超過勤務命令を出すだろう、それを拒否すれば困つて人員不足を認識するだろうとの提案をし、これまでのように大量の事務処理をすることをやめ、無理のない件数(大体100件程度をさす。)をやつて人員不足を認識させようということになつた(輸出申告の書類は、まず為替課輸出係で審査され、監査第1部門、そして再び輸出課へと流れているから、為替課での処理が遅れれば全部が遅れることになる。)。
[9](2) 翌11月1日、輸出為替の職員は、右集会の決定に従つて通常の繁忙期のような迅速な事務処理をしなかつたため処理は遅れ、午後4時ころには、5時以降臨時開庁をして超過勤務をしなければならないことが明らかな状態になつていた。3時40分ころ、組合執行部は、輸出第1、第2、為替の各課長に輸出第2課長の席に集まるよう要請し、そこで増員要求に対する協力を求めた。4時40分ころ柴原為替課長から1時間の超過勤務命令が出されたが、被上告人丙田は、5時ころ仕事を始めようとした職員に対し、人員要求の協力を確約しないと仕事をしないと課長と交渉しているから待てと言い、そのため職員は仕事をしなかつた。結局、6時ころから臨時開庁され、職員は5時半ころから超過勤務についたが、7時になつても残件が多くあつたので、柴原課長は更に1時間の超過勤務を命じたところ、被上告人らは、輸出為替の職場に来て、課長に対し、職員は疲れているからやめたらどうかと言い、職員に向つては、用のある者疲れている者は帰れと言い、ために職場は混乱し、課長は、これ以上仕事を続けることはできないと判断し、7時過ぎころ一般職員を帰宅させた。このため業者から苦情が出る一幕もあつたが、残つた分は翌日優先的に処理することで業者の納得を得て、その日の業務は打ち切られた。
[10](3) 翌11月2日午前9時15分ころ、柴原課長は、前日の残件を含めて大量の事務を処理するため、通常50ほどある審査点を4点に減縮する大巾かつ画一的な審査の簡略化を指示した。しかし、神戸税関ではかつて梅干事件(昭和36年に梅干に関して農林省の検査合格証がないのに輸出許可をしたことで担当職員及び係長が収賄の嫌疑を受けた事件)があり、それ以来職員の間に審査を省略することを恐れる空気があつて、職員は容易に右指示に従わず、組合執行部に税関長と交渉して重点審査が原因で事故が起つた場合の責任の所在を明らかにするよう要請した。そこで被上告人ら3名を含む執行委員は10時ころ税関長と交渉しその見解をただしたが、明確な答弁が得られなかつた。被上告人乙山及び同丙田は、10時を少し過ぎたころ、輸出為替課におもむき結果を報告するとともに、職員に向つて、このまましていたら責任問題が起こる、課長に一札入れてもらつてから仕事をしようなどと言つた。柴原課長は、被上告人乙山らの要求に応じて職員に対し、あらためて重点審査を指示するとともに責任は私が持つから心配はいらない旨を説明したが、乙山らは執ように文書にすることを要求し、職員に対して、文書にするまで輸出課への書類を回すなと言つたので、結局、柴原課長は10時30分ころ文書にすることを約束し、職員に文書にするから仕事をするように言つた。この間書類の流れはとまり、為替課から輸出課へ回つた書類を為替課へ引上げたりした。2時ころ、被上告人乙山、同丙田らが課長のもとに来て、早く文書を書かないと書類を回さないと言い、課長が文書にして読み上げたとき、被上告人乙山は、それは命令かお願いかと尋ね、課長が、命令であるが仕事を早く処理するためやわらげた方がよいとの考えで、お願いであると答えたところ、職員に向つて、お願いなら従う必要はないと言つたため、職員の間にとまどいを生じ、仕事は依然停滞していた。更に、3、40分後には被上告人乙山が再び輸出為替課に姿をあらわし、重点審査の責任は係員にあると税関長が言明したと言つて仕事を中止させるに至つたが、金田課長補佐が総務課で確認したうえ、右乙山発言を否定し、責任は課長にあると言つたので、以後正常な状態にもどり、仕事が促進した。
[11](4) 同日午後5時ころ、鑑査第1部門においては、輸出為替課の確認事務が上述の経過で促進された影響を受け、同課から大量の書類が一時に回付され、通常の方法では処理し切れない事態となつた。そこで、宮崎鑑査部長は、局面打開の方法として、輸出為替課におけると同様ここでも重点審査をすることを指示するとともに、30分休憩して5時半から臨時開庁することとし、職員に対し超過勤務命令を出した。しかし、その指示の趣旨が必ずしも明瞭でなかつたため、職員の間に疑義を生じ、このことは組合執行部に報告された。そこで、被上告人甲野、同乙山を含む組合執行部約10人は、鑑査部吉井審査官に対し指示の内容をただし、来合わせた宮崎部長を取り囲んで、こんなに大量の仕事をやらせてできるものか、お前の指示を受けてやると殺されてしまう、などと大声を出した。そのころ窓口にいた多くの業者から、早くやつてくれ、船の出航に支障をきたすとの申入れがされたので、宮崎部長は、審査を簡略化する新たな指示をしたところ、被上告人甲野ら組合執行部はそのような命令は文書にせよと大声でせまり、室内は騒然として、右指示が文書とされた7時ころまで職員の仕事はとまつた。

(四) 12月2日の件(超過勤務命令撤回闘争)
[12] 11月2日に結成された組合の輸出分会は、組合とともに人員要求をしていたが、人員不足を当局に認識してもらうとの趣旨で、分会役員は超過勤務命令撤回願を全員で出すことを決め、組合執行部も同調した。そこで、12月2日(土曜日)の午前中、組合執行部及び分会役員が手分けして、各職場で用紙を配付し、超過勤務命令が出た後職員に要請してその撤回願いを書かせ、これを回収した。輸出1課では、被上告人乙山がこれらの行為を行い、午前中の勤務時間が終るや、組合執行部や分会役員は、3階講堂に職員を集めるため各職場をまわつた。土曜日の臨時開庁は通常1時から始まるのであつたが、当日は被上告人乙山らの申入れにより1時30分から臨時開庁されることとなつたところ、1時15分ころ、同被上告人ら組合役員は、沢田業務部長らに約45人の超過勤務命令撤回願を提出し、職員は疲れている、個人個人の健康状態や都合を調べて命令を出して欲しいと命令の撤回を求めた。沢田部長、宮崎鑑査部長はこれを拒否した。被上告人丙田、中野ら組合執行委員は1時30分になつて超過勤務につくべく職場に帰つて来た職員に講堂に行くようすすめ、講堂では、被上告人甲野が、撤回願について交渉している、官は一方的に命令を出しているが必ずしも従う必要はないと説明した。1時50分ころ横田総務課長らが講堂に行き、集まつていた職員に対し、超過勤務の執行命令を伝えたところ、被上告人甲野は、部長交渉中だから待機しているのだと大声で答え、組合員はほとんど職場にもどらず、1時30分を過ぎても輸出の職場では仕事がされなかつたため、業者から抗議が出、苦情が申し立てられていた。2時ころ被上告人乙山が講堂に来て交渉は決裂した旨伝え、同甲野が職場に帰つて仕事するようにと命じたので、2時5分ころから仕事は順調に進み、遅い職場でも7時ころには終了した。
[13] 原審は、右事実に基づき、次のとおり判断した。

[14](一) 被上告人らの各行為は、次のような懲戒事由に該当する。
[15](1) 前記一の(一)の8月19日の被上告人田代の行為は、国家公務員法(以下「国公法」という。)82条3号に該当する。
[16](2) 前記一の(二)の(1)、(2)の10月5日及び26日の被上告人らの行為は、国公法98条5項(昭和40年法律第69号による改正前のものをいう。以下、国公法の規定のうち引用するものについて同じ。)前後段に違反し、同法82条1号に該当する。しかし、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項(昭和41年7月9日人事院規則1-4による廃止前のものをいう。以下同じ。)前後段に違反するとして、国公法82条3号を適用する余地はない。けだし、これらの法条に違反する行為は、もともと争議行為に通常随伴する行為であつて、これに対する規制は、仮にその争議行為が違法な場合でも、専ら国公法98条5項によつてされるべきものと解すべきであるからである。
[17](3) 前記一の(三)の被上告人乙山、同丙田の11月1日及び2日の輸出為替課における各行為及び被上告人甲野の11月1日の輸出為替課における行為は、国公法98条5項後段に、被上告人甲野、同乙山の11月2日の鑑査第1部門における行為は、同法98条5項前段に違反し、同法82条1号に該当する。しかし、被上告人乙山の10月31日の行為は、いまだこれをもつて怠業行為を企て又はその遂行を共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるには足りず、また、前述の理由により、被上告人乙山、同丙田の11月1日の行為を人事院規則14-1第3項後段に、被上告人乙山、同丙田の11月2日の輸出為替課における行為を国公法101条1項,人事院規則14-1第3項前段に、被上告人甲野、同乙山の11月2日の鑑査第1部門における行為を人事院規則14-1第3項後段に違反するとして、国公法82条3号を適用する余地はない。
[18](4) 前記一の(四)の被上告人らの行為は、国公法98条5項後段に違反し、同法82条1号に該当する。しかし、前述の理由により、国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反するとして、国公法82条3号を適用する余地はない。

[19](二) 国公法98条5項は、国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止したものではないこと、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断はむずかしいこと、特に時間内にくい込んだ職場集会の許されるかどうかの限界の判断はむずかしいこと、本件行為の態様、被上告人らの組合における地位、本件行為当時の社会情勢等、諸般の事情を考慮すれば、被上告人らの懲戒処分の前歴を考え合わせても、懲戒免職処分をもつて臨むのは、社会観念上著しく妥当を欠くと認められるから、本件処分は裁量の範囲を超えたものとして違法というべきである。よつて、本件懲戒免職処分は取り消されるべきものである。
[20] 論旨は、要するに、原判決には次の違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

[21](一) 前記一の(三)の(1)の10月31日の為替課における被上告人乙山の行為は、これをもつていまだ国公法98条5項後段の怠業行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるに足りないとした点において、国公法98条5項の解釈適用を誤つたものである。

[22](二) 前記一の(二)ないし(四)の被上告人らの行為(ただし、10月31日の為替課における被上告人乙山の行為を除く。)について、これらの行為が国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項に違反せず、したがつて、右法令に違反するものとして国公法82条1号に該当するものではなく、また、国公法82条3号に該当しないとしたのは、これらの法令の解釈適用を誤つたものである。

[23](三) 前記一の(一)ないし(四)の被上告人らの行為(ただし、被上告人乙山の10月31日の為替課での行為を除く。)は、国公法82条1号又は3号に該当するとしながら、免職処分を選んだのは裁量権の範囲を逸脱するものとした点において、国公法82条の解釈適用を誤り、ひいては行政事件訴訟法30条にも違反するものである。
(一) 10月31日の輸出為替の職場における被上告人乙山の行為について
[24] 税関の輸出業務担当の部課の組合員である職員が、組合の人員増加要求を貫徹するために、処理件数を低下させ業務の正常な運営を阻害することは、争議行為(怠業)にあたるというべきであるところ、前記一の(三)の(1)の事実によれば、10月31日の輸出為替の職場における被上告人乙山の行為は、少なくとも、争議行為の遂行をそそのかし、あおつたものというべきであり、国公法98条5項後段に違反し(なお、同項が憲法28条に違反しないことは、後述のとおりである。)、同法82条1号に該当するといわなければならない。これと異なる原審の判断は、ひつきよう、右規定の解釈適用を誤つたものというべきである。

(二) 国公法98条5項と同法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項、国公法82条1、3号との関係について
[25] 国公法98条5項と同法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項とは、その構成要件において完全に互いに他を包摂し又は他に包摂される関係に立つものではなく、また、国公法98条5項の保護法益は、主として国民全体の共同利益であり、その他の規定のそれは、公務運営の適正と能率の確保を目的とする国の公務運営上の諸利益であつて、両者の規定の趣旨、目的は必ずしも同一ではないばかりでなく、国家公務員は、私企業における労働者と異なつて争議行為を禁止され、争議行為中であることを理由として、当然に、上司の命令に従う義務(国公法98条1項)、職務に専念すべき義務(同法101条1項)、勤務時間中に組合活動を行つてはならない義務(人事院規則14-1第3項)等を免れない。したがつて、職員の行為が争議行為禁止規定(国公法98条5項)に違反する場合であるからといつて、右行為は、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項の違反となることを妨げられるものではなく、右規定違反として国公法82条1号に該当し、また、行為の態様により同条3号に該当することもありうるものと解すべきである。これを本件についてみると、次のとおりである。
[26](1) 前記一の(二)の(1)、(2)の被上告人らの行為のうち、被上告人らが、上告人の警告及び執務命令を無視して職場集会を行い、集会を積極的に指導したことは、国公法98条1項、同条5項前後段、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に、10月5日の庁内デモ行進に参加しシユプレヒコールを指導し、あるいは隊列を指導したことは、国公法98条5項前後段(被上告人乙山がデモ行進を提案したことは同項後段)、101条1項、人事院規則14-1第3項前段に違反し、いずれも国公法82条1、3号に該当する。
[27](2) 前記一の(三)の被上告人らの11月1日の輸出為替課における行為は、国公法98条5項後段、人事院規則14-1第3項後段に、被上告人乙山、同丙田の11月2日の輸出為替課における行為は、国公法98条5項後段、101条1項、人事院規則14-1第3項前段に、被上告人甲野、同乙山の11月2日の鑑査第1部門における行為は、国公法98条5項前段、人事院規則14-1第3項後段に違反し、いずれも国公法82条1、3号に該当する。
[28](3) 前記一の(四)の被上告人らが超過勤務撤回願を一せいに提出するように勧しようした行為は、国公法98条5項後段、101条1項、人事院規則14-1第3項前段に、超過勤務につくべき職員を3階講堂に集結させ午後1時30分から2時5分ころまで同人らによる通関業務を妨げた行為は、国公法98条5項後段、人事院規則14-1第3項後段に違反し、いずれも国公法82条1、3号に該当する。
[29] しかるに、右と異なり、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項に違反するとされる行為が争議行為である場合には、その規制は専ら国公法98条5項によつてされるべきであり、右規定違反として国公法82条3号を適用する余地はないとした原審の判断は、ひつきよう、これらの法条の解釈、適用を誤つたものといわなければならない。

(三) 裁量権の範囲の逸脱について
[30] 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(74条1項)を定め、平等取扱いの原則(27条)及び不利益取扱いの禁止(98条3項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。
[31] 右の見地に立つて、原審が確定した事実に基づき、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討する。
[32] まず、8月19日の抗議行動については、大塚の処分につき税関当局側の態度が組合員を納得させるものでなかつたことが執ようかつ激しい抗議活動を誘発した原因の一つとなつていたとしても、原判決もいうように、当局は根拠なく大塚の行動に疑いを抱いたわけではないことがうかがわれ、その根拠の公表を強く迫つた本件抗議活動の態様は明らかに行き過ぎであり、殊にその際における被上告人丙田の言動は甚だしく乱暴であつて、その情状は決して軽いものではない。次に、10月5日、26日の職場集会等は、職場離脱の時間がそれほど長時間にわたるものではなく、また、そのため業務処理が遅れ具体的に問題が生じたことがなかつたとしても、公共性の極めて強い税関におけるものであり、職場離脱が一部の職場だけではなく全体で行われたこと、しかも、それが当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたことも、軽視することができないところである。更に、10月31日から11月2日までの人員増加要求活動は、繁忙期における執務状態に基因し、職場からの強い要求があり、人員増加要求の目的自体は正当であつたとしても、繁忙期以外は休暇をとれないというほどではなく、1か月を平均すれば神戸税関だけが特に繁忙といえない状態であり、大蔵省関税当局も当時人員増加の要求に力を入れ、他省庁に比較してかなりの増員を獲得し、神戸税関にも多数の配分があつたというのであつて、本件の行為は、繁忙期において輸出関係書類の処理件数を低下させ、残件が増加したところで超過勤務を妨害し、重点審査が指示されるやそれをも妨害するという悪質な一連の業務処理の妨害であり、人員不足を認識させる方法として正当とはいいがたいものである。また、従前いわゆる梅干事件があり重点審査につき職員に不安があつて文書にすることを要求したものであつたとしても、梅干事件は収賄の疑いから取調べがされたものであつたのに対し、本件は上司の指示によるものであつて、両者は同一には論じられないものというべきであり、従来も職員各人の責任で重点審査が行われていたというのであるから、本件の場合に限り文書にしなければ不安であつたとは認められないし、また、本件行為により船積みができないという最悪の事態は避けられたとしても、職場を混乱させ、11月1日に処理すべき分を2日に持ち越すという結果を発生させ、その遅延により業者に迷惑を及ぼし業者の苦情が出るという影響は軽視することができないところであり、これらの活動における被上告人らの行為の責任は重大であるといわなければならない。また、12月2日の超過勤務命令撤回闘争は、繁忙期の勤務状態に遠因があり、船積みすることができないという最悪の事態の発生はなかつたとしても、繁忙期における職場離脱による超過勤務の拒否であつて、輸出関係全体に及び、ために業者からも抗議が出ていたこと等を考慮すれば、その情状は軽いものということはできない。なお、国家公務員の争議行為及びそのあおり行為等を禁止する国公法98条5項の規定が憲法28条に違反するものではなく、また、公務員の行う争議行為に同法によつて違法とされるものとそうでないものとの区別を認めるべきでないことは、当裁判所の判例(昭和43年(あ)第2780号同48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)とするところであるから、国公法82条の適用にあたつても、同法98条5項により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を立てて、右規定違反として同法82条により懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るものと解すべきでないことは、当然である。したがつて、被上告人らに対する本件懲戒処分が裁量権の範囲を超えるかどうかの判断に際して、原判決のように、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断がむずかしいこと、特に時間内にくい込んだ職場集会の許されるか否かの判断がむずかしいことを考慮に入れるべきでないことは、いうまでもないところである。
[33] 前記の被上告人らの本件行為の性質、態様、情状及び被上告人らが日米安保条約反対闘争で昭和35年6月3度にわたり午前9時30分ころまでの勤務時間内職場集会をしたことにより、同年7月被上告人甲野が減給10分の1を2か月、同乙山が減給10分の1を3か月、同丙田が戒告の各懲戒処分を受けていること等に照らせば、原審が挙げる諸事情を考慮したとしても、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできないものといわなければならない。これと異なる原審の判断は、ひつきよう、国公法82条の解釈適用を誤つたものというべきである。

(四) むすび
[34] 原審の判断には右に述べた違法があり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。
[35] 以上の次第で、原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そこで、更に、右部分について判断するに、原審が確定した本件処分説明書の処分理由の記載に照らせば、本件処分説明書には本件処分を違法とする手続的瑕疵はなく、また、前述したところによれば、被上告人らは国公法82条1、3号の懲戒事由に該当する(なお、当裁判所も8月19日の被上告人丙田の行為は国公法82条3号に該当すると認める。)ところ、本件処分は右懲戒事由にあたることを理由として行われたものと解されるから、なんら不利益取扱いの禁止に違反するものではなく、また、前述のように本件処分は懲戒権の範囲を超えこれを濫用したものということはできないのであるから、本件処分に被上告人ら主張の違法はなく、その取消を求める被上告人らの本訴請求は、理由がない。したがつて、これと判断を異にする第一審判決を取消し、被上告人らの請求をいずれも棄却すべきである。

[36] よつて、行政事件訴訟法7条、民訴法408条1号、396条、386条、96条、89条、93条に従い、裁判官環昌一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 裁判官環昌一の反対意見は、次のとおりである。

[1] 私は、被上告人らのように国公法の適用のもとにあつて行政事務に従事する公務員(以下単に「公務員」という。)に対して懲戒処分をしようとする場合に、その処分事由とされる当該公務員の行為が、職員の団体(以下便宜「組合」という。)の団体行動その他の行動に関連してなされたものであるとき、そして特に懲戒処分のうち免職処分を選択しようとするときには、以下にのべるような特別の考慮が要請されるのであり、本件においてこのような考慮をすると、多数意見とは反対の結論にいたらざるをえないと思う。

[2] 公務員は、国民全体の生存の確保のため片時も停廃することの許されない、いわば国民全体の共同の事務である行政事務を処理することによつて国民全体に奉仕するものとして、国民によつて選定されるものである。公務員も、憲法28条にいう勤労者にあたるものであるが、右のようなその職務の極めて高い公共性に由来する特殊な性格をもつているため、そのいわゆる労働基本権については、これに内在するものとしての制約が存するのであり、国公法等の公務員関係法令中に定められている、いわゆる正当な労働基本権の行使を制約する規定であつても前述の趣旨に照らして合理的なものは適憲であると考えられる。そして、国公法98条1項、2項(本件当時は旧98条1項、5項)は、公務員が法令に従い上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないこと、同盟罷業等の争議行為や怠業的行為をしたり、これをあおつたりしてはならないことを定めており、これに違背した公務員は労働基本権の保障を理由とする民事上の免責を主張することができず、政府はこれに対して同法82条の定めるところにより懲戒処分をすることができ、かつ、その処分の種類、程度は原則として処分権者と定められている者の合理的な裁量にゆだねられているものと解せられるが、このような労働基本権の制約は合理性を欠くものとは考えられない。各個の公務員たる職員は、前記のようなその職務の高い公共性とその遂行の重い責務を認識した上、その基本権には右のような制約があることを前提として、自らの意思によつて公務員となり政府と労使関係に立つにいたつたものであるから、このような制約に服すべきであることは当然である。しかし、そうだからといつて、公務員についてその憲法上の勤労者としての生存権を確保すべき要請の存することもまた否定することはできないから、組合やその役員が使用者たる政府の当局者に対して労働条件や当局の労働関係上の処置などについて、抗議したり、不満の意思を表明したり、是正や改善と考えられるところを申入れて認識や理解を求めたりするなどの行動をすることは、前記の制約に反せず、かつ節度をこえるものでない限り禁止されるものではなく、当局としてはこれに誠実に対応することが要請されているというべきである。その意味では、公務員の労使関係は、高度の相互信頼の上に成り立つているものと解せられる。

[3] このように公務員と政府との関係には、公務員の地位の特殊性に基づく特別の関係としての面と実質上雇傭契約に類する合意の存在に基づく労使関係としての面とがあり、公務員の地位と職務内容に応じて、特殊性の面が特に強いとみられるものから、一般私企業の従業員と変らない労使関係にあるとみられるものまでが存在するから、前述の信頼関係にもまたこれに応じてその性質、程度に差異があると考えられるが、懲戒処分に関する規定は主として右にのべた労使関係の側面において働くものであると思う。そして、前記のように組合の行動に関連する職員の行為についてされる懲戒処分は、その行為を職務の不履行や右の信頼関係をそこなう非行などにあたるものとしてされる不利益処分(制裁)であつて、その本来のねらいは、その不利益のもつ抑止力によつて当該職員に対し将来を戒め再び右のような行為をすることによる公務の停廃を防止しようとするところにあると考えられる。従つて、国公法82条に定める懲戒処分のうち、停職、減給又は戒告の処分(以下「停職等の処分」という。)のように、被処分者に公務員たる地位を保有せしめたままなされる制裁が右のねらいに沿うものであることはいうまでもないが、これに反して免職処分は、その性質上その抑止力によつて、当該職員に将来の職務の完遂を期待するものでないことは明らかであり(副次的には他の職員に対する警告という他戒的なねらいのあることは否定しえないところであるが)、その実質は、国公法上身分を保障されている職員に対して、その義務の不履行や非行を原因とする労使関係消滅の効果を伴ういわば使用者による一方的な解約権の行使であつて、次にのべるような特別の不利益を伴うものであると解せられる。すなわち、今なおいわゆる生涯雇傭を通例とする我が国の労働事情のもとでは、通常の転職、勤務先の変更等でさえ、勤労者にとつて収入や生活の安定その他の面でなみなみならぬ障害となるものであることは明らかであるが、ましてや懲戒処分を理由とする離職の場合には、その社会的信用の格別の失墜と相まつて再就職が著しく困難となることは見やすいところである。のみならず、免職処分は、被処分者に対し退職手当金や恩給の受給権について著しい不利益を伴うものであり(国家公務員退職手当法8条1項1号、恩給法51条1項1号、なお、国家公務員共済組合法97条1項参照)、停職等の処分のうち最も重い1年の停職処分に比べてその実質上の厳しさは同日の比ではない。このようにみてくるといわゆる全農林事件判決(最高裁昭和43年(あ)第2780号同48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)が、
「労働基本権につき(中略)当然の制約を受ける公務員に対しても、法は、国民全体の共同利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その労働基本権を尊重し、これに対する制約、とくに罰則を設けることを、最少限度にとどめようとしている態度をとつているものと解することができる」
と判示するところにうかがわれる法の精神は、懲戒処分に際し、右のようにその厳しさにおいて格別である免職処分を選択する裁量においても生かされるべきであつて、これを選択することには特別に慎重でなければならないというべきである。
[4] 以上のべたところから、私は、このような事案における懲戒処分が裁量権の範囲をこえず適法であるとされるためには、当該職員の職務上の義務の違背や非行の程度が重いというだけではなく、一般の事案における場合よりも特に慎重な配慮のもとで、なおかつ、その行為を徴憑として当該職員が全体の奉仕者である公務員としての自覚と責任感を著しく欠如することが明らかに認められるなど、労使間の前述の信頼関係が失われその回復が至難であることが、客観的に十分な合理性をもつて肯認できる場合でなければならないと考える。

[5] 以上の見地から、原審の確定したところに基づいて、本件処分事由とされる事実を、本件懲戒免職処分との関連でどのように評価すべきであるかを検討する。
(一) 8月19日の件について
[6] 右の事案における被上告人丙田の行為は、同被上告人ら組合員が、同じく組合員である訴外大塚宏圀に対する処分事由や処分にいたる経過について当局側に説明を求め、かつ、抗議をした際行われたものであるが、同被上告人らの業務放棄の結果を伴つたものとはされていない。そして右大塚に対する処分にいたるまでの経緯に照らしてみると、少なくとも同被上告人ら組合員が当局に説明を求めたり抗議すること自体理由のない不当な行為であつたとまではいえないし、他方これに対する当局側の対応が誠実なものであつたとはいい難い。もとより、原審認定のような当局側にもその生起に責なしとしないと考えられる緊迫した事態のものであつても、同被上告人が原審認定のような暴言を吐いたり当局側の者の耳もとでマイクを使つたりしたことは、特に組合の役員の地位にある者の行為として確かに節度をこえて違法かつ無益無用のものであつたというべきではあるが、それは右のような事態のもとでの集団心理によるところが少なくなかつたと考えられ、また、同被上告人が暴力その他の物理力を直接あるいは組合員を指揮して行使させ当局側の者の退出を阻止したような事実までは認め難いところである。
(二) (イ)10月5日、26日の件、(ロ)同月31日ないし11月2日の件、(ハ)12月2日の件について
[7] 右(イ)(ロ)(ハ)の各日に行われた原審認定の被上告人らの各行動が,いずれも業務の放棄を含み職場秩序を乱す違法なものであり、従つて、これに対して出された当局側の職務上の命令は正当というほかはないから、被上告人らがこれに従わなかつたことも違法であることを免れない。また、その間に行われた被上告人ら組合員の具体的言動にも節度をこえ違法にわたるところが少なからずあつたことを否定することはできない。
[8] しかしながら、その行動の内容、実質についてみると、右3件ともそれは窮極的には使用者たる政府の労働政策ないし労働条件に関する組合としての抗議ないし不満の意思の表明であり、神戸税関当局との関係では組合の要員不足の主張に基づいた、抗議等の意思の表明を中心とするものであつたとみるべきものである。そして、原審認定の次のような事情、すなわち昭和36・37年度において相当数の増員が行われ神戸税関にもかなり多数の配分があつたことから同税関当局も人員増加の必要性を認め、これを要求していたものと推測されること、横浜税関に比べても神戸税関の処理事務が特に繁忙であつたとはいえない状態であつたことなどを考慮してみても、組合がそれでもなお要員不足が解消されないとして、当局に不満の意思を表明し、その認識を求める必要があると考えたことが必ずしも不当であるとはいえないし、他に従来の当局のこれに対する対応等の関連から、このような意思の表明をすること自体が不当ないし不必要なものであつたとするに足る特別の事情の存在も認め難い。また、前記(イ)の事案はもともと組合が全税関労組本部の指令に従つてしたものであつて、始業時を選び、実質的に比較的短時間の業務放棄に制限して行動していること、(ロ)の事案において当局のいわゆる重点審査の指示に対し、被上告人らがその文書化を要求したのも、もともと組合員たる職員の被上告人ら役員に対する要請に端を発したものであり、その経緯からみて怠業行為の引延ばしや当局に対するいわゆるいやがらせのねらいをもつてされたものとまで認めることは相当でなく、また、右の事案では一部分を除いて結局仕事はその日のうちにほぼ処理されていること、(ハ)の事案においても、被上告人らは結局組合員をして超過勤務命令に服させたため、その日の仕事の処理は終つていることなどの諸事情にかんがみると、被上告人らが組合の役員としてその職務の高い公共性を認識して国民に対する影響を大きくしないようそれなりに配慮し自制したことをうかがうことができる。なお、被上告人らその他の組合員の当局との折衝、デモ行進、いわゆるシユプレヒコールなどにおける節度をこえ粗暴にわたる発言、振舞などは、すべて集団行動時における附随的なものと考えられ、さきに(一)の事案における暴言についてのべたところと同様本件の本質的な考慮においてはこれをしかく重視すべきものとも思われない。

[9] 以上検討したところを総合して考えると、右の各事案における被上告人らのそれぞれの行為の情状、その国民に対する影響ひいては被上告人らの責任が、軽視することを許されない重大なものであるとすることも理解できないではないが、被上告人らが自らの職務の公共性に対する認識とその遂行に対する責任感とを著しく欠くものであり、被上告人らの地位と職務内容に相応する労使間の相互の信頼関係がもはや回復し難いと認められる程度にまで失われたとみることは、前記のような慎重な考慮のもとでは、納得しがたいところである。のみならず、被上告人らの本件処分の前の処分歴は、多数意見が挙示するとおり被上告人甲野は減給10分の1を2か月、同乙山は減給10分の1を3か月、同丙田については戒告の処分をいずれも1回受けたというにとどまるのであるから、停職等の処分による抑止力に期待することが不可能であり、今直ちに前述したような特別に厳しい免職処分によりこれを職場外に放逐するほかないとした上告人の裁量はあまりにも性急にすぎるものであつて妥当なものとは考えられない。従つて、被上告人らの本件処分事由とされる行為は、何らかの懲戒処分を受けるに値する違法なものであるとはいえ、これに対してなされた本件懲戒免職処分を適法とする多数意見の結論には賛同し難く、原判決はその結論において正当としてこれを是認することができるので、本件上告は排斥を免れないものと考える。

(裁判長裁判官 天野武一  裁判官 江里口清雄  裁判官 高辻正己  裁判官 服部高顕  裁判官 環昌一)
[1] 原判決は、以下述べるとおり判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があり、破棄されるべきものである。
[2](一) 原判決は、上告人の主張した左記の処分理由事実、すなわち
1 8月19日の抗議活動
[3](1) 昭和36年8月19日午前11時45分、神戸税関長官房主事森弘が、同官房主事室において、同関神戸外郵出張所勤務大蔵事務官大塚宏圀に対して、戒告処分に関する懲戒処分書、および処分説明書を交付したところ、右処分は不当であると称してその撤回または保留を要求する組合員多数が、同日午前11時50分頃から午後5時40分頃まで、同官房主事室に押しかけ、同官房主事を取り囲んでその退室を阻止し、また同官房主事および同人を補佐するため同席していた総務課長横田忠良に対して威圧的言動を弄した。
[4](2) すなわち、当日右多数の組合員(当初は8、9名であつたが、刻々その数を増し、午後0時45分頃から午後1時頃までは最も多く、約50名に達し、午後4時50分頃以後も約25名程度であつた。なお、午後0時45分前後には外部の労組員と思われる者も数名参加していた。)は、午後2時30分頃から同2時45分頃まで、右官房主事が同室内で他の官側職員と協議することを許した場合と、同3時15分頃から同4時50分頃まで、官房主事をして税関長に事態を報告させ、その指示を受けさせるために、税関長官舎へおもむかせた場合を除き、盛夏酷暑の候にもかかわらず長時間にわたり、わずか8.75坪の同室内に多勢でつめかけて、同官房主事の椅子をとりあげて坐らせないままこれを取り囲み、同室内外の壁には「メツセンジヤーボーイもできぬ官房主事ヤメロ」、「チンピラ弾圧屋の森、税関から出て行け」などと記載したビラを多数貼つた上、机上のガラス板を激しく強叩したり、机上に坐り込んだり、携帯マイクまでも使用して同官房主事や同席していた総務課長に罵詈雑言を浴びせるなどの威圧的な言動を加えた。特にこの間、午後1時30分頃から同2時過ぎまで、同2時45分頃から同3時15分頃までおよび同5時頃から同5時40分頃までには、同官房主事が繰り返し「出て下さい。」などと退去を要求したにもかかわらず、これを無視し、再三にわたつて「出して下さい。」、「帰ります。」などと室外に出ようとする意思を表わして退出を試みるごとに、同官房主事の左右および後を取り囲んでいる組合員は、体に力を入れて同官房主事の身動きを制し、他の大部分の組合員は、同官房主事の前面に人垣をつくつて立ちはだかつたりスクラムを組んだりして、その退出を阻止したのである。
[5](3) この際、被上告人丙田は、終始大声で処分の撤回を強く要求し、同官房主事の耳の穴に、あるいは口を、あるいは携帯マイクを近づけて、鼓膜も破れんばかりに、「馬鹿野郎。」、「チンピラ。」などと悪口雑言を浴びせかけ、さらに、同席していた総務課長の顔面にも携帯マイクをつきつけて、「横田の馬鹿野郎。」などと暴言を吐き、また組合員が同官房主事の退室を阻止した時には、常にその一員としてこれに加つていたのである。
2 10月5日の勤務時間内職場集会および庁内デモ
[6](1) 昭和36年10月4日、神戸税関当局は、組合が発行した同日付ビラに、「明日(10月5日)8時30分から9時10分まで早朝屋外職場大会が開かれる。」旨の記載があつたので、翌5日組合が勤務時間内にくいこむ職場集会を開くことを知つた。ちなみに、勤務時間は、午前8時30分から午後5時まで(土曜日は午後0時30分まで)と定められていた。なお、当時、当局では、午前9時5分までに出勤簿に捺印すれば、午前8時30分までに出勤したものとして取り扱つていたが、勤務時間の始期を午前8時30分より遅らせ、その間は勤務を要しないものとして取り扱うような措置はとつていなかつた。
[7](2) そこで、同日午後5時22分、総務課長補佐森下閤太郎及び総務係長林和巳が、組合書記局におもむき、組合支部長である被上告人神田に対し、口頭で、「明日9時10分まで職大をやるそうですが、9時5分から執務時間ですから執務時間内にくい込まぬようにして下さい。」との税関長の警告を伝達した。
[8](3) ところが、翌5日午前8時40分頃から本庁舎前で開かれた職場集会は、右の警告を無視して午前9時5分後まで続行される模様であつたので、当局は、午前9時5分、同集会に参加中の約200名の職員に対して、次のような方法によつて執務命令を発した。すなわち、本庁舎総務課文書係事務室および別館図書室のいずれも道路に面した窓から、「職場集会に参加中の職員各位に通知します。勤務時間内の職場集会は業務に支障を来たし、かつ、国家公務員法違反になりますから、直ちに職場において執務して下さい。昭和36年10月5日午前9時5分神戸税関長遠藤胖」と記載した懸垂幕を提出すると同時に、右各窓ぎわに設置した携帯マイクを使用して、文書係事務室から林総務係長が午前9時10分頃まで繰り返し、また図書室から人事係長藤田鈴夫が数回にわたり、それぞれ右懸垂幕の記載事項を放送したのである。
[9](4) しかるに、右集会はそのまま継続され、さらに、これに引き続いて午前9時12分頃から右集会に参加していた約300名なしい400名が、本庁舎内のデモ行進に移り、正面玄関入口から2階に上り、税関長室前廊下を経て南階段附近に到り、同9時18分頃流れ解散した。
[10](5) 当局の国家公務員法(昭和40年法律69号による改正前のもの。以下国公法という。)98条1項に基づく右警告および執務命令を無視して行なわれたこの職場集会に際して、被上告人らは、集会に先立つて本庁舎前にプラカード、マイク、組合旗などを持ち出してその準備をし、午前8時30分頃一般組合員の前に立つて労働歌の合唱をし、被上告人甲野は、9時5分頃組合員の奮起と団結を要望する旨の演説を行ない、被上告人乙山は、8時40分頃開会の挨拶を行ない、続いて組合が当面する諸問題についての演説を行ない、9時10分頃勤務評定反対などの抗議のため本庁舎廊下を一周するデモ行進をしようとの緊急動議を提案し、もつて右集会の運営を推進し、これを積極的に指導した。
[11](6) 右集会に引き続いて行なわれた庁内デモに際して、森官房主事、高松人事課長、森下総務課長補佐らの制止にもかかわらず、被上告人乙山は、人事課秘書係入口附近で、列外から携帯マイクを使用して、政暴法反対、勤評反対、5千円賃上げ、合理化反対、遠藤ヤメロ、森ヤメロなどのシユプレヒコールを指導し、被上告人神田は、右同所附近で、列外から行進する組合員を誘導し、被上告人丙田は、右同所附近で隊列の最後部において行進を誘導した。
3 10月26日の勤務時間内職場集会
[12](1) 昭和36年10月25日、当局は、組合が発行した同日付ビラに、「明26日早朝職大は、午前9時15分まで全員参加しよう。」という趣旨の記載があつたので、翌26日、組合が勤務時間内にくいこむ職場集会を開くことを知つた。
[13](2) そこで、同日午後5時25分、森官房主事が、被上告人乙山、同丙田その他組合役員の同席する総務課事務室において、組合支部長である被上告人甲野に対して、勤務時間内の組合活動は業務に支障を来たすばかりでなく、国公法にも違反するから、このような行為のないようにとの趣旨を記載した税関長名の組合支部長宛警告書を手交した。
[14](3) ところが、翌26日、本庁舎前で午前8時40分頃から同9時16分頃まで、また東部出張所2階ベランダで午前8時40分頃から同9時15分頃まで、それぞれ勤務時間内に職場集会が行なわれたので、当局は、次のような方法によつて執務命令を発した。すなわち、本庁舎では、午前9時5分、同集会に参加中の約200名の職員に対して、前記2(3)に記載したと同様の場所に同様の懸垂幕を掲出すると同時に、図書室窓ぎわに設置した携帯マイクを使用して、藤田人事係長が右集会の終るまで数回にわたり、右懸垂幕の記載事項を放送し、東部出張所では午前9時5分、同集会に参加中の約25名の職員に対して、同出張所長小山一敬が、口頭で、勤務時間内の職場集会は業務に支障を来たし、かつ国公法違反になるから、直ちに職場において執務せよとの趣旨の税関長の命令を伝達した。
[15](4) 当局の国公法98条1項に基づく警告および執務命令を無視して行なわれた右本庁舎前の職場集会に際して、被上告人甲野、同乙山は、本庁舎前にプラカード、マイク、組合旗などを持ち出してその準備をし、被上告人甲野は、午前9時5分過ぎ当局が出した執務命令に対する抗議のシユプレヒコールおよび労働歌の合唱を指導し、9時15分頃解散の宣言を行ない、被上告人乙山は、9時13分頃組合の活動に対する官側の措置について抗議団を派遺しようという緊急動議を提案し、もつて右集会の運営を推進し、これを積極的に指導した。
[16](5) 右東部出張所での職場集会に際し、被上告人丙田は、自己の勤務場所でない同出張所にわざわざおもむき、終始政暴法反対などの演説を行ない、もつて右集会の運営を推進し、これを積極的に指導した。
4 10月31日から11月2日の間の人員増加要求活動
[17](1) 当時組合では、輸出関係職員の増員を強く要求しており、被上告人らは、この要求を貫徹するため、次の如き行為を行なつた。
[18](2) まず、昭和36年10月31日、被上告人乙山は、輸出事務繁忙期(月間の事務量の通常30パーセントないし40パーセントが集中する月末月始の各々3日ないし4日をいう。)における通関業務の処理を妨げようと企て、午後5時30分頃から同7時30分頃まで、業務部為替課輸出為替係の係員18名中15名が参加した職場集会に出席してこれを司会し、右要求を貫徹するために、1人1日の為替確認件数を100件程度にとどめようと提案した。その結果、この提案が可決され、翌11月1日から実施されることとなつた。
[19](3) 被上告人らは、前記の職場集会における決定を実施するに当つて、
イ 11月1日午後5時頃、超過勤務を命ぜられていた輸出為替係職員約14名に対して、被上告人丙田が、増員問題について課長の確約がない限り、超過勤務命令に服さないようにと勧しようし、午後7時頃、引き続き超過勤務を命ぜられていた右職員約14名に対して、被上告人乙山が、疲労が大きいから帰宅せよと各人に個別的に勧しようし、また被上告人丙田も、用のある者、疲れている者は帰宅せよと超過勤務命令に服さないよう勧しようし、
ロ 同月2日午前9時30分頃、為替課長柴原邦雄から事務の能率的な処理をはかるため重点的審査を行なうよう指示されて執務中の輸出為替係職員約17名に対して、被上告人乙山が、この指示を拒否するように、また被上告人丙田が、課長がこの指示を文書をもつてするまでは、業務部輸出第1課、同第2課へ回付すべき審査済書類を回付しないようにと、それぞれ勧しようし、午前10時30分頃、右職員約17名に対して、被上告人乙山が、再び右同様の勧しようを行ない、午後2時頃、柴原為替課長が、やむなく前記の指示を文書をもつて行なつたところ、被上告人乙山は同課長に、この指示はお願いか指示か命令かとつめよつた上、右職員約17名に対して、お願いであれば従う必要はないといつて前記審査済書類の回付をしないよう勧しようし、
ハ さらに、同日午後6時頃から同6時30分頃まで、窓口に多数の通関業者がつめかけている約19坪の鑑査部第1部門の事務室において、被上告人甲野、同乙山を含む約10名の組合員が、鑑査部長宮崎健一郎を取り囲み、同部長に対して、こもごも大声で、「大量事務の処理方針を示せ。」、「統計品目番号の記入省略についての指示を文書で書け。」などとどなり立てた。このため、同室は喧噪を極め、超過勤務に服すべく同室に在室していた約21名の職員は、その騒音と上司が多数の組合員に取り囲まれどなられている状態によつて蒙つた心理的圧迫のため、この間執務することができなかつた。なお、この間同室での検査指定事務が行なわれなかつたため、事務に続いて他の事務室で行なうべき検査鑑定事務まで停止したのである。
5 12月2日の人員増加要求活動
[20](1) さらに、被上告人ら3名は、前記人員増加要求などを貫徹するため、昭和36年12月2日、共謀の上、他の組合役員とともに、輸出関係職員に対して、超過勤務命令撤回願を一斉に提出するよう勧しようしてこれを実行させ、同日午後1時30分から同2時5分頃まで、超過勤務に服すべき右職員約45名を3階講堂に集結させて、この間右職員らによつて行なわるべき通関業務の処理を妨げた。
[21](2) 当日の事態の経過および被上告人ら各人の分担行為は、次のごとくである。すなわち、
[22]イ まず、午前9時30分頃、あらかじめ用意されていた謄写版刷りの超過勤務命令撤回御願と題する用紙を、被上告人乙山が、輸出関係職員に配付し、超過勤務命令が発令された時にはこの用紙に署名捺印して提出するように、また午後0時30分になれば全員3階講堂に集合するようにと勧しようした。
[23]ロ これに対して当局は、午前11時30分頃輸出第1課長岩田博が、被上告人乙山に対して、統一して超過勤務命令撤回願を提出することは怠業とみなされるから十分注意するようにと警告し、さらに、同11時40分頃には業務部長沢田俊政が、被上告人ら以外の組合役員2名を同部長室に招致して、超過勤務命令撤回願を一括して提出することは超過勤務命令拒否となり業務妨害行為となるから厳重に注意すると重ねて警告したのである。そして正午頃、臨時開庁に関する業務を処理するため、輸出関係職員に対して、各人の上司に当る課長もしくは関税鑑査官または係長もしくは副関税鑑査官が、同日午後1時30分から同4時30分まで(一部の職員については午後3時30分まで)超過勤務につくべき旨の業務部長又は鑑査部長名の命令書を交付した。
[24]ハ ところが午後0時20分頃、被上告人乙山が、超過勤務を命ぜられた右職員に対して、再度前記イに記載したと同様の勧しようを行ない、午後0時30分頃には、被上告人甲野が、被上告人乙山の右勧しように従つて3階講堂に集まつた約45名の職員に対して、当日の超過勤務命令撤回願について説明し、午後0時50分頃には、被上告人丙田が、被上告人乙山の前記勧しようにもかかわらず3階講堂に集合していない職員がいるかどうかを確かめるため、輸出関係業務の事務室を一巡した。
[25]ニ 午後1時15分頃から同2時頃まで、被上告人乙山、同丙田が、他の組合役員とともに、業務部長室において、沢田業務部長および宮崎鑑査部長の両名に対して、45名の輸出関係職員が署名捺印した前記超過勤務命令撤回願を一括して提出し、しつように超過勤務命令の撤回を求めた。これに対して両部長は、終始撤回の意思のないことを言明し、右の職員を執務させるよう命じた。
[26]ホ この間、3階講堂においては、午後1時30分頃、被上告人乙山の勧しように従つて集合した前記職員に対して、被上告人甲野が「業務命令には必ずしも従う必要はない。」「現在、被上告人乙山が、前記両部長に対して、超過勤務命令の撤回について交渉中であるからこのまま待機するように。」と演説し、被上告人丙田も一方的な超過勤務命令は排除すべきであるとの演説を行ない、また午後1時50分頃には、被上告人甲野が、集合している前記職員に対して執務するよう命じた横田総務課長に対して、「部長交渉中だから待機している。」とどなりかえし、居合わせた組合役員に被上告人乙山を呼んで来るよう指示したところ、間もなく業務部長室で交渉に当つていた被上告人乙山は3階構堂に赴いた。
[27]ヘ 右のごとき状態のまま午後2時頃に至つて、3階講堂に集合していた前記職員は、被上告人甲野の指示によつて解散し、また業務部長室で交渉に当つていた組合役員も、講堂から業務部長室に入つて来た被上告人甲野の指示によつて引きあげたのである。一方、同時刻頃、被上告人丙田は、輸出第2課カウンター附近において、組合の当日の前記行動に対して抗議する来関中の業者の応待に当り、もつぱら弁明と協力方の要請に努めていた。
旨の事実をほぼ上告人の主張どおり認定した。

[28](二) ところが原判決は、
 前記(一)、4、(2)の10月31日の為替課における被上告人乙山の行為は、これをもつて、いまだ国公法98条5項所定の怠業行為を企て、またはその遂行を共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるに足らずとし、
 前記(一)、2ないし5の被上告人らの行為(ただし、被上告人乙山の10月31日の為替課における行為を除く。)は、いずれも国公法98条5項前段または後段所定の争議行為に該当するので、同項に違反し、国公法82条1号に該当するが、上告人主張のように、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項(昭和41年7月9日人事院規則1-4による廃止前のもの。以下同じ。)に違反せず、また国公法82条3号に該当しないとし、
 さらに、前記(一)の1ないし5の被上告人らの行為(ただし、被上告人乙山の10月31日の為替課における行為を除く。)は、国公法82条1号または3号に該当するが、懲戒処分のうち、免職処分を選んだ点において過酷であり、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量の範囲を越えたものとして違法である。
と判示している。

[29](三) しかしながら原判決は、
 前記(一)、4、(2)の10月31日の為替課における被上告人乙山の行為は、これをもつていまだ国公法98条5項後段の怠業行為を企て、またはその遂行を共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるに足りないとした点において、国公法98条5項の解釈適用を誤つたものであり、
 前記(一)の2ないし5の被上告人らの行為(ただし、10月31日の為替課における被上告人乙山の行為を除く。)について、これらの行為が国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項に違反せず、したがつて、右法令に違反するものとして国公法82条1号に該当するものではなく、また、国公法82条3号に該当しない旨判示しているのは、これらの法令の解釈適用を誤つたものであり、
 前記(一)の1ないし5の被上告人らの各行為(ただし、被上告人乙山の10月31日の為替課での行為を除く。)は、国公法82条1号または3号に該当するとしながら、免職処分を選んだのは裁量権の範囲を逸脱するものとした点において、国公法82条の解釈適用を誤り、ひいては、行政事件訴訟法30条にも違反するものであつて、これらの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
[30](一) 神戸税関の輸出業務を担当する部課(輸出課為替課等)においては、輸出業務が集中する月末、月初の各2、3日のいわゆる繁忙期には、担当職員は、2時間くらいの超過勤務や日曜休日も出勤することが多く、この実情は、臨時開庁制度との関連上已むをえないものであり、昭和32、3年頃よりこれらの勤務が少なくなつてはいたが、職員の間に不満があつた。全国税関労働組合神戸支部(以下「組合」という。)はこれに対し人員増加要求を続け、大蔵省関税局も昭和36、37年度に全国でそれぞれ各400名の人員を増員し、両年度とも神戸税関に100名以上に及ぶかなり多数の増員措置をしていた。そして処理件数,人員の関係からみて、東京税関よりは繁忙ではあつたが、横浜税関に比べ、繁忙期はともかく、1ケ月を平均すれば、神戸税関がより繁忙であつたとはいえない状態であつた。
[31] このような状態の下において、組合は、人員増加要求を貫徹するため、11月1日から2日にかけて、輸出業務担当の部課の職員に、処理件数をわざと低下させて、業務を妨害し、あるいは超過勤務命令および上司の業務に関する指示を拒否させ、これに関連して喧噪にわたるような方法で部長、課長に要求を続けて、その職務を妨害したほか、周囲の職員の執務を妨害するなどの争議行為に及んだものであり、これらの争議行為が、国民生活に大きな影響を与えるおそれがあり、国公法98条5項所定の争議行為に該当することは、原判決の判示するとおりである。

[32](二) ところで、このような争議行為の企画、あおり、そそのかしに関して、原判決は、10月31日の被上告人乙山の所為について、次のような事実を認定している。
すなわち、「10月31日午後5時過ぎ頃から輸出為替の職場で、15人の職員が参加して、輸出為替の職場集会が開かれた。これは組合の輸出分会結成準備会と組合とが、協同して、繁忙期の業務処理、人員問題を検討するためであつた。その席に組合の代表者として参加した原告乙山(輸出、為替の職員ではない)は、『官側は組合が人員要求をしても何もしてくれず、労働強化を強いている。職員は無理のない件数をしよう。そうすれば仕事が残るので超過勤務命令を出すだろう。それを拒否すれば困つて人員不足を認識するだろう。』との提案をし、『1人1日の処理件数はどのくらいが適当か。』と職員に意見を求めた。100件くらい(繁忙期には1人が1日約200件を処理することもあつた)との意見も出たが、結局これまでのように大量の事務を処理するため、無茶苦茶に仕事をすることをやめ、無理のない件数(大体100件程度をさす)をやつて人員不足を認識させようということになつた。」(原判決の引用する第一審判決43丁裏13行目から33丁表12行目まで)、
そして、「翌11月1日、輸出、為替の職員は、右集会の決定に従つて、通常の繁忙期のような迅速な事務処理をしなかつたため、処理が遅れ」(原判決の引用する第一審判決44丁裏2行目から4行目まで)たのである。
[33] 原判決は、右のような事実を認定した上、
「処理件数をわざと低下させ、業務を妨害する形で人員不足を認識させようとすることは、正当な方法とはいい難い。しかも業務の集中する繁忙期であるから、業務が停廃すれば船積みに遅れる危険性もあり、国民生活に大きな影響を与えるおそれがある。」(原判決の引用する第一審判決56丁裏10行目から57丁表1行目まで)
と判示しているのである。

[34](三) このような原判決認定の事実関係の下においては、被上告人乙山が組合幹部として、10月31日午後5時すぎの為替課においてした行為は、明らかに国公法98条5項後段所定の争議行為を企て、またはその遂行を共謀し、そそのかしもしくはあおつたものに該当するものであり、右のあおり、そそのかしによつて、同課職員が翌11月1日に前記判決認定のごとき怠業行為に及んだものである。しかるに、原判決が、かかる所為をもつて怠業行為を企て、またはその遂行を共謀し、そそのかしあるいはあおつたものとは認めるに足らずとしている(原判決21丁裏5行目から7行目まで)のは、国公法98条5項の解釈適用を誤つたものといわなければならない。
[35](一) 原判決は、前記一、(一)、2ないし5の被上告人らの行為(ただし、被上告人乙山の10月31日の為替課における行為を除く。)は、いずれも国公法98条5項前後段に違反し、同法82条1号に該当するものとしながら、
「控訴人は、被控訴人らの行為は右のほか国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反し国公法82条3号に該当すると主張する。しかし、これらの法条は争議行為としてなされた行為には適用がない。けだし、これらの法条に違反する行為は、もともと争議行為に通常随伴する行為であつて、これに対する規制は、かりにその争議行為が違法な場合でも、専ら「国公法98条5項によつてなされるものと解すべきだからである。」(原判決20丁表5行目から同丁裏2行目まで、同21丁表4行目から同丁裏9行目までおよび同22丁表9行目から同丁裏3行目まで。)
と判示する。
[36] しかしながら、右の判旨は、これらの諸法条の解釈適用を誤つたものである。

[37](二) 上告人が被上告人らの前記処分理由事実が国公法98条5項前後段に違反するとともに、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段にも違反し、国公法82条3号に該当すると主張した趣旨を詳述すれば、次のとおりである。
1 10月5日の勤務時間内職場集会および庁内デモ
[38](1) 「『勤務時間内の集会は業務に支障を来たし、かつ、国公法違反になるから直ちに職場で執務して下さい』旨の税関長命令を無視して、被上告人らは、勤務時間内喰い込みの集会をつづけた」事実は、国公法98条1項の「職員は職務を遂行するについて、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」義務に違反するものである(もつとも、原判決は、右のごとき事実認定のもとで、右税関長の命令が国公法98条1項所定の職務上の命令に該当するものとした上、争議行為に通常随伴する行為であるから国公法98条1項に問擬すべきでないとしたのか、右命令はもともと、国公法98条1項所定の職務命令には該当しないとするのか、必ずしも明確ではない。)。
[39](2) 勤務時間内喰い込みの職場集会を企画し、これを指導した事実は、被上告人らも自ら勤務を欠いた点において、国公法101条1項の「職員は勤務時間のすべてをその職責遂行のため用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」義務に違反するとともに、勤務時間中、争議行為の遂行を共謀し、あおりそそのかした点すなわち、勤務時間中、組合活動を行なつた点において、国公法101条1項の「職員は職務上の注意力をすべてその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」義務に違反し、あわせて、人事院規則14-1第3項前段の「職員は組合活動をその勤務時間中にしてはならない」義務に違反し、さらに、争議行為の遂行を共謀し、あおりそそのかした結果、職員をして勤務を欠くに至らせた点において、人事院規則14-1第3項後段の「職員は手段のいかんを問わず、これらの行為(組合活動)によつて、勤務時間中における他の職員の勤務を妨げてはならない」義務に違反するものである。
[40](3) 庁内デモを企画し、これに参加した事実は、被上告人らも勤務を欠き、勤務時間内に組合活動を行ない、さらに勤務時間中のデモ参加が職員および税関長等の管理職員の勤務を妨げた点において、前記(2)同様、国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反するものである。
[41](4) そしてこれらの行為は、前記国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項に違反するが故に、国公法82条1号に該当するとともに、これらの行為が国公法違反の行為であるという点、殊に庁内デモは労働組合法の下でも正当性を欠く争議行為であるという点から、国公法82条3号の「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があつた場合」に該当するものである。
2 10月26日の勤務時間内職場集会
[42] 10月5日の勤務時間内職場集会と同様、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反し、国公法82条3号に該当するものである。
3 11月1日の為替課における超勤拒否の勧しよう
[43] 為替課の職員に超勤拒否を勧しようしたこと(争議行為のそそのかし、あおりに該当し、組合活動である。)により、職員が勤務を欠き、あるいは仕事がおくれるに至つた点において、人事院規則14-1第3項後段の「職員は手段のいかんを問わず、これらの行為(組合活動)によつて、勤務時間中における他の職員の勤務を妨げてはならない」義務に違反し、国公法82条1、3号に該当するものである。
4 11月2日の為替課における課長指示不服従、怠業の勧しよう
[44] 勤務時間中に争議行為をそそのかし、あおつた点(組合活動に該当する。)において、国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前段に違反し、国公法82条1、3号に該当するものである。
5 11月2日の鑑査部第1部門における行為
[45] 宮崎鑑査部長をとりかこみ、同部長に怒号したり、つきまとつたりしたこと(組合活動に該当する。)によつて、室内は騒然となり職員の仕事はとまつてしまつた点において、人事院規則14-1第3項後段の「組合活動によつて、勤務中における他の職員の勤務を妨げてはならない」義務に違反し、国公法82条1、3号に該当するものである。
6 12月2日の行為
[46] 超勤命令の集団撤回願提出の勧しようをした事実は、勤務時間中怠業行為の遂行をそそのかし、あおつた点(組合活動に該当する。)において、国公法101条1項および人事院規則14-1第3項前段に違反し、講堂に集合させ、勤務時間内に喰い込む集会を企て、指導し、もつて争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおつたことにより、職員をその間勤務を欠くに至らせた事実は、人事院規則14-1第3項後段に違反し、国公法82条1、3号に該当するものである。

[47](三) 原判決は、国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段および国公法82条3号の諸法条(以下「これら諸法条」という。)は、争議行為としてなされた行為には適用がない理由として、
「これらの法条に違反する行為は、もともと争議行為に通常随伴する行為であつて、これに対する規制は、かりにその争議行為が違法な場合でも、専ら国公法98条5項によつてなされるものと解すべきだからである。」
と判示するが、その趣旨は、甚だ理解し難い。
[48] 「争議行為に通常随伴する行為」とは、争議行為の指令の配布、その趣旨伝達等、同盟罷業、怠業等の争議行為の遂行に通常附随する行為をいうものと解するほかないが(最高裁昭和44年4月2日大法廷判決、刑集23巻5号316頁参照)、前記被上告人らの処分理由事実のうち、争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおつた行為のごときは、「争議行為の遂行に通常附随する行為」とは必ずしもいえないし、いわんや職務命令違反、庁内デモによる積極的業務阻害、宮崎鑑査部長等に対するとり囲み、怒号等による職場の業務阻害に至つては、とうてい「争議行為の遂行に通常附随する行為」とはいえないので、これらの行為をすべて「争議行為に通常随伴する行為」としてこれら諸法条に違反しないものとする原判決の理由づけは、とうてい理解しえない。

[49](四) 原判決の前記判示は、その文言にかかわらず、結局これら諸法条に違反しまたは該当するとされる行為が争議行為である場合には、争議行為としてのみ国公法違反となると評価されるべきで、これら諸法条違反または該当と評価すべきではないとの趣旨であるとも考えられるが、このような論旨は、次のような点で誤つている。
[50] まず、これら諸法条(ただし、国公法82条3号を除く。)と国公法98条5項とは、構成要件が必ずしも同一でないのみならず、それによる規制の面を異にしていることはいうまでもない。たとえば、争議行為の企画は勤務時間中に行なわれる場合もあれば、勤務時間外に行なわれる場合もあるが、国公法98条5項違反とされる争議行為の企画は、その行なわれた時期が勤務時間の内外を問わないけれども勤務時間内に行なわれた場合には、国公法101条1項の職務専念義務にも違背し、人事院規則14-1第3項前段にも違反するものと評価され、それだけ有責性は強いものであることを具現していることになるのである。そして同一の行為が、国公法98条5項とこれら諸法条のいずれの構成要件をも充足する場合にも、それぞれの規定違反として二重に評価され、その有責性の強いものとされるのは、事理の当然である。
[51] 一般的に、1つの行為が1つの法益侵害として、1つの違法評価を受ける場合より、数個の法益侵害として数個の違法評価を受ける場合が行為の違法性の評価として、当然重くなるものというべきである。たとえば、11月2日の被上告人乙山、同丙田の為替課における行為は、同上告人らは勤務時間中である午前10時頃他の職場である為替課に赴き、柴原為替課長の職務命令である重点審査の指示について、同課職員に対して「このまましていたら責任問題が起きる、課長に一札入れてもらつてから仕事をしようなど」と申し向け、柴原課長に対し文書にすることを要求し、「職員に対して、文書にするまで輸出課へ書類を回すな」と言い、30分間位書類の流れはとまり、為替課から輸出課へ回つた書類を為替課へ引上げたりなどの事態が発生した(原判決13丁裏4行目から14丁表4行目までおよび原判決の引用する第一審判決46丁裏7行目から47丁表11行目まで)。すなわち、怠業をそそのかし、あおつたわけである。この行為は争議行為のあおり、そそのかしである点において国公法98条5項違反であるが、勤務時間中他の職場に赴き、自己の職務とは関係のない組合活動を行なつた点において国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前段に違反することは、前述のとおりであるが、争議行為のそそのかし、あおり行為が勤務時間外に行なわれた場合と勤務時間内に行なわれた場合においては、他の事情が同じであるならば、勤務時間内に行なわれた場合が情状が重いことは当然である。そのよつて来たる理由は、まさに勤務時間内に組合活動が行なわれたことにより、国公法98条5項違反および国公法101条1項、人事院規則14-1第3項に違反するものと評価されるにほかならないからである。したがつて、原判決のこのような違法評価の誤りが、本件懲戒処分を過酷とし、裁量権の範囲を逸脱したものとする根拠の一つとなつているのであるから、この違法評価の誤りは、判決に影響を及ぼしているものというべきである。
[52](一) 原判決は、
「憲法28条は労働基本権の保障を規定し、それは原則として公務員労働者にも適用されるが、公務員の場合は、職務の公共性からみて、争議行為が公務の停廃を来たし、ひいては国民全体の利益を害し、国民生活に支障をもたらすおそれがある。従つて、公務員の労働基本権は、職務の公共性に対応する内在的制約を包含しているものと解さなければならない。しかし、職務の公共性といつても強弱さまざまであり、また争議行為にも、規模の大小、時間の長短等種々の態様があるから、一律にすべての争議行為を禁止するのは問題である。国公法98条5項は公務員の争議行為を禁止しているが、労働基本権を保障した憲法の趣旨にそつて考えるとき、争議行為による公務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがある場合、争議行為が職員団体の本来の目的を逸脱している場合、暴力その他それに類する不当な圧力を伴なう場合など、違法性のある程度強いものだけを禁止したものと解するのが相当である(なお、ここにいう違法性のある程度強いものとは、刑事罰をもつて臨むほど違法性の強いものであることは要しないものと解する。即ち、刑事罰をもつて臨むほどの違法性を欠く場合でも違反者に対し当該行為に相当の懲戒処分をし、また民事上の責任を追求することのできる場合もあるものと解する。)。換言すれば、争議行為であつても、右例示にあたらないものについては、国公法98条5項で禁止する争議行為にはあたらないものというべきである(以下違法とは、国公法で禁止される場合をいう。)」(原判決16丁裏10行目から17丁表6行目までおよびその引用する第一審判決53丁裏7行目から54丁裏1行目まで。)
と判示する。
[53] しかし、憲法28条と国公法98条5項との関係に関する原判決の右のような基本的理解は、誤つており、右の誤りが、ひいては本件免職処分の違法判断を招来しているものである。

[54](二) 原判決の判示するように、国家公務員の争議権の制限は、その職務の公共性から由来する労働基本権の内在的制約であるとしても、原判決が
「職務の公共性といつても強弱さまざまであり、また、争議行為にも規模の大小、時間の長短等種々の態様があるから、一律にすべての争議行為を禁止するのは問題である。」
旨判示し、国公法98条5項が全面的に争議行為を禁止しているにもかかわらず、憲法28条との関係からいわゆる限定的解釈を試み、個別的事情によつて禁止される争議行為と禁止されない争議行為があるものとしているのは極めて疑問である。
[55] 憲法は、その28条において、勤労者の労働基本権を保障しているが、他面、その15条2項において、公務員は、その職務のいかんにかかわらず、すべて「全体の奉仕者」性を定立しているのであつて、実質的にその職務の公共性が稀弱であるような公務員についても、公務員たる限り、全体の奉仕者という公共性の強い性質のものであると定義付けているのである。したがつて、国家公務員の争議行為の可否については、一般の勤労者について労働基本権を保障した憲法28条の規定と、勤労者のうちの公務員について全体の奉仕者性を定立した憲法15条2項の規定のそれぞれの意義から考えなければならないことはいうまでもない。
[56] しかして、公務員の全体の奉仕者性は、すなわち公務員のすべての職務が、その実質いかんを問うことなく全体への奉仕として公共性の強いものと定義付けていることにほかならないのであり、それ故、そのいずれの職務の停廃も、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのあるものと観念すべきものである。したがつて、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのある国家公務員の争議行為は、国民全体の奉仕者性といわば矛盾するが故に、国公法98条5項は、国家公務員の服務規律として、これを一律に禁止せざるをえないのである。したがつて、国公法98条5項の規定について、服務規律としての面においても、個別的事情により禁止されない争議行為もあるというがごとき解釈は、服務規律として意味を有しないことにもなり、とうてい是認し得ないところである。

[57](三) 原判決は、
「国公法98条5項は、公務員の争議行為を禁止しているが、労働基本権を保障した憲法の趣旨にそつて考えるとき
1 争議行為による公務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがある場合
2 争議行為が職員団体の本来の目的を逸脱している場合
3 暴力その他それに類する不当な圧力を伴う場合
など、違法性がある程度強いものだけを禁止したものと解するのが相当である。」
と判示している。
[58] 原判決は以上、違法性のある程度強い場合を3つ列挙しているが、右3つの場合のうち、1はともかくとして23は、もともと労働基本権の保障の範囲外のものである。したがつて、原判決は、1とは全く次元の異なる労働基本権の保障の範囲外の違法事由である23の場合を列挙し、これらを国家公務員の労働基本権の内在的制約である国公法98条5項の違法性判断の基準としているのは、全く不当である。原判決のごとき基準の設定によれば、国家公務員については、結局、労働組合法の下においても正当性を有しない程度の争議行為が禁止されているにすぎないこととなり、国公法98条5項の規定は、その限りにおいて、何ら意義を有しないことに帰するものといわざるをえない。
[59](一) 原判決は、
「公務員の懲戒処分は、処分権者の裁量に任されているが、処分事実の性質、程度など諸般の事情を考慮し、社会通念上著しく妥当を欠いている場合には、裁量の範囲を超えたものとして違法というべきである。(原判決の引用する第一審判決59丁裏11行目から60丁表1行目まで。)
と判示する。
[60] ところで、行政庁における公務員に対する懲戒処分は、所属公務員についての秩序を保持し、綱紀を粛正して公務員としての義務を全からしめるため、その者の職務上の義務違反その他公務員としてふさわしくない非行に対して科するいわゆる特別権力関係に基く行政監督権の作用であつて、懲戒権者が懲戒処分を行なうかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかは、当該公務員の勤務の実態を把握している懲戒権者の広範な裁量に任されているものであつて、ただ、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるとか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合にのみ、司法審査による救済がなされるべきものである(最高裁昭和32年5月10日判決、民集11巻5号699頁。最高裁昭和29年7月30日判決、民集8巻7号1501頁各参照)。
[61] すなわち、勤務秩序と綱紀を維持し、公務を適正迅速に遂行して公共性を全からしめるためになされる公務員の懲戒処分なるものは、法定の懲戒処分事由の存否、それが存する場合の態様、内容を調査、確認してなされることはもちろんであるが、その場合にいかなる種類、内容の懲戒処分をなすべきかは、懲戒処分事由たる非違行為の態様、内容はもちろんのこと、その非違行為が公務、あるいは勤務秩序、他の公務員の勤務等に与えた影響、当該非違行為をした公務員の平素の勤務状況、人格的評価(他に懲戒処分事由に該当する行為がなかつたかどうか、それ自体懲戒処分事由とならない行為でも、道義的に非難されるような行為の反覆がないかどうか等)等を綜合的に勘案して、判断されるのは、事柄の性質上当然のことであり、かかる綜合的判断により必要限度の懲戒処分が行なわれるべきであつて、また現にそのように懲戒処分が行なわれているのが一般である。
[62] したがつて、司法審査においては、まず、当該公務員の実態を把握している任命権者の懲戒処分の裁量を尊重すべきであつて、当該処分が甚だしく妥当を欠くものと明らかに認められる場合はともかく、しからざる限り、任命権者の裁量を尊重すべきである。さればこそ行政事件訴訟法30条には、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と規定しているのである。

[63](二) 原判決は前記四に述べた憲法28条と国公法98条5項との関係についての基本的理解に立ち、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断はむずかしいこと、特に時間内に喰い込んだ職場集会の許されるか否かの判断は、むずかしいことを本件の懲戒処分が過酷であり、裁量権の範囲の逸脱があるとした根拠の一つとしている(原判決23丁表2行目から6行目まで。)。
[64] 右原判決の憲法28条と国公法98条5項との関係についての基本的理解が誤つていることは前記四で述べたとおりであるが、仮りに、原判決判示のとおり、禁止される争議行為と許される争議行為とがあるとしても、被上告人ら税関職員の職務の公共性は、かなり強いものであつて、税関の職務の停廃は、仮りに短時間であつても、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのあるものであることは、原判決の説示するとおりである(原判決18丁裏4行目から7行目まで。)ので、被上告人らの本件争議行為が、同盟罷業、怠業等の労務不提供あるいは労務の不完全提供の域に止まるものであつても、禁止される争議行為であることは明らかであるといわなければならない。
[65] いわんや、庁内デモ、管理者の業務妨害等は労働基本権保障の範囲外の行為であり、禁止される争議行為であることは、さらに明らかであるといわなければならない。したがつて、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断がむずかしいことをもつて,本件の被上告人らの争議行為に対する懲戒処分の酌量事由とするのは、誤つている。

[66](三) なお、原判決の前述のごとき憲法28条と国公法98条5項との関係に対する基本的理解に関する判示と、本件免職処分を重きに失するとした原判決の結論とを綜合すれば、原判決は、本件懲戒処分の対象となつた被上告人らの行為が争議行為であること自体をもつて本件免職処分が過酷である理由の一つとするごとくである。
[67] しかしながら、争議行為が違法とされる限り、国公法82条の規定の適用があるのであつて、その適用がある限り、懲戒事由が争議行為だからといつて懲戒処分の選択において差異を生ずるいわれはない。むしろ、個別的な服務規律違背行為よりは、争議行為すなわち国民生活に重大な障害をもたらす集団的服務規律違背行為の方が、その影響するところははるかに大であり、国家公務員の勤務についての秩序を保持し、綱紀を粛正する上においては重視されるべきである。
[68] また、争議行為については、労働基本権を保障した憲法の趣旨から、その禁止は国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものに限定するとしても、当該争議行為が違法とされる以上それは国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものであるから、その責任はきわめて重大といわねばならない。

(四) 本件処分理由事実の個別的情状について
[69] 原判決は、本件懲戒処分が裁量の範囲の逸脱の有無を検討する見地から、本件処分理由事実の個別的情状について、次のとおり判示している。
(1) 8月19日の抗議活動について
[70]「8月19日の抗議活動は、正当な組合活動の範囲を越えたものであり、その程度方法からみて情状は必ずしも軽いとはいえない。しかし、さきに判断したとおり、組合員らが大塚の処分に対し疑惑を抱くにつきもつともな理由があつたにもかかわらず、税関長自身が処分書を交付せず、代りの官房主事が十分な説明をしなかつたことなど税関側の態度が組合員を納得させるものでなかつたことが、執拗かつ激しい抗議活動を誘発する原因の一つでもあるから、組合側だけを非難することはできない。」(原判決22丁裏5行目から9行目までおよびその引用する第一審判決60丁表3行目から8行目まで。)
(2) 10月5日および26日の職場集会ならびに10月5日の庁内デモについて
[71]「10月5日の集会、庁内行進は午前9時18分頃に終了しているから、9時20分頃には職場に帰り執務態勢にあつたと推測される。結局、職場離脱は約15分間である。10月26日の集会は9時15分に終了しているから、右同様に、職場離脱は約12、3分である。両日とも、集会の実施を決定したのは組合であるが、全税関労働組合本部からの指令どおりの時間であつたことも考慮すべきであり、またそのために業務処理が遅れ、具体的に問題が生じたこともなかつた。従つてその情状は軽いといえる。」(原判決の引用する第一審判決60丁表9行目から同丁裏4行目まで。)
(3) 10月31日から11月2日の超過勤務命令拒否勧しよう、業務妨害行為について
[72]「10月31日から11月2日の行為は、繁忙期における輸出関係業務の処理件数を低下させ、残件がふえたところで超過勤務を妨害し、やむなく重点審査を指示するやそれも妨害するという一連の業務妨害である。重点審査という窮余の策により、11月1日の残件を2日に持ち越しただけで、船積みできないという最悪の事態は避けられたが、職場を混乱させ、遅れたことで業者にしわよせがあつたと推測される。従つてその情状は10月5日及び26日の行為よりやや重いが、結果的に最悪の事態が避けられたこと、繁忙期は多忙を極めており、人員要求は職場からの強い要求であることが考慮されるべきである。」(原判決22丁裏10行目から11行目まで、およびその引用する第一審判決60丁裏5行目から61丁表1行目まで。)
(4) 12月2日の超過勤務命令撤回要求について
[73]「12月2日の行為は、繁忙期における約35分間の職場離脱による超過勤務の拒否であり、その後普通に処理されて特に問題は起らなかつたが、輸出関係全体に及んだだけにその情状は軽くない。しかし、右同様、最悪の事態は発生せず、また繁忙期の執務状態が遠因であることが考慮されるべきである。」(原判決の引用する第一審判決61丁裏2行目から7行目まで。)
[74] しかしながら、原判決の右個別的情状に関する評価の失当なること以下のとおりである。
(1) 8月19日の抗議活動について
[75]イ 原判決は、
「組合員らが大塚の処分に対し疑惑を抱くにつきもつともな理由があつたにもかかわらず、税関長自身が処分書を交付せず代りの官房主事が十分な説明をしなかつたことなど税関側の態度が組合員を納得させるものでなかつたことが、執拗かつ激しい抗議活動を誘発した原因の一つでもあるから、組合側だけを非難することはできない。」
と判示している。
[76] しかしながら、本件抗議活動の原因となつた大塚宏圀に対する懲戒処分は、国公法82条の規定する懲戒処分のうち最も軽い戒告処分である。そして
「組合は、この件につき社会党の代議士を通じ当局と交渉したことが認められるから、組合幹部は、右処分が遅延し処分内容が変更されたいきさつを或いは知つていたかとも思われる。」(原判決15丁裏末行目から16丁3行目まで。)
状況の下に、組合幹部であつた大塚は当日午前11時50分頃、森官房主事から処分書および処分説明書交付のため呼出しを受けるや、官房主事室に出向く前にわざわざ組合書記局に立ち寄り、関長公用で呼ばれた旨を伝えて、官房主事室に行き、これに基づき、横江副支部長ら組合執行委員およびその他の組合員は、12時前から12時50分頃にかけて続々主事室につめかけ、本件抗議行動に及んだものである(原判決の引用する第一審判決35丁裏7行目から37丁裏8行目まで参照。)。すなわち、最も軽い懲戒処分を受けたにすぎず、処分遅延のいきさつ、その内容が戒告処分となつたいきさつを組合幹部は察知しているのに、処分がなされるや、処分者の連絡により、組合幹部が先頭となり即時激烈な抗議行動に及んでいるのであつて、かかる抗議行動の評価としては、決して突発的なものではなく、処分を口実として計画的に行なわれた、いわば言いがかりと解すべきものである。しかも、原判決も認めているとおり、
「だからといつて当局の態度を非難することはできない。なぜなら当局は、根拠なくして大塚の行動に疑いを抱いたわけではなく、右の根拠を公表することは適当でないからで」(原判決16丁表8行目から同丁裏1行目まで。)
あつて、このような事情の下においては、「組合員らが疑惑を抱くもつともな理由があつた」とか、「税関側の態度が組合員を納得させるものではなかつた」として「組合側だけを非難することはできない」と評価するのは、全く的外れというほかはない。
[77]ロ しかも、原判決の認定するとおり
「本件抗議活動の態様(官房主事らを取囲んだ上、侮辱的威圧的暴言をあびせ、同旨の貼り紙をし、退出を阻止した。)は、明らかに行過ぎであり、殊にその際の被控訴人田代の言動(携帯マイクを使用し、官房主事の耳元でバカヤロー、チンピラなどと叫んだ。)は乱暴きわまるもので、正当な組合活動の範囲を逸脱した行為であり」(原判決16丁裏3行目から8行目まで。)、
その情状はきわめて重いものといわなければならない。
(2) 10月5日および26日の職場集会ならびに10月5日の庁内デモについて
[78]イ 原判決はまず、職場離脱時間は、10月5日は15分間、10月26日は12、3分であることを酌むべき事情の一つとしている。
[79] しかしながら、職場離脱した神戸税関職員は、輸出入の通関業務、密輸出入の取締りなどを主たる職務とし、関税法の定めるところにより関税の確定納付、徴収および還付ならびに貨物の輸出および輸入についての税関手続を適正迅速に処理すべき職務権限を有するもので、その職務の公共性はきわめて強く、ことに密輸入の取締りなどの監視業務は瞬時たりともゆるがせにできないものである。このように公共性の強い職務に従事する職員が、たとい短時間であつてもその職務を放棄することは、国民生活全体の利益を著しく害し、社会公共の秩序に悪影響を及ぼすものであつて、その時間の短かいことを特に酌量すべき事情とすべきではない。
[80]ロ 原判決は、
「職場離脱が行なわれたのは全税関労働組合本部からの指令どおりの時間であつて業務処理が遅れ、具体的に問題が生じなかつたからその情状は軽い」
と判示する。
[81] しかしながら、原判決が認定しているように、10月5日の職場離脱については、全税関労働組合本部は、午前8時30分から午前9時10分まで職場集会を行なうよう指令していた(原判決の引用する第一審判決39丁表1行目から3行目まで。)。ところが、同日午前9時10分頃の集会終了直前、被上告人乙山は職場に帰る時税関長室前を通り、我々の要求を直接訴えようと提案し、その結果組合員約300名が庁内デモに移り、シユプレヒコールなどをしたのち、午前9時18分頃流れ解散したのである(原判決の引用する第一審判決40丁表9行目から同丁裏11行目まで。)。すなわち、本件10月5日の職場離脱は、全税関労働組合本部の指令を逸脱しているものであつて、原判決は、この点をまず看過している。
[82] そして、本件職場離脱が、組合本部の指令に基づいたものであつたとしても、右組合本部の指令はもともと違法な指令であり、この違法な指令に基づいて職場離脱をしたからといつて、これをもつて情状を軽いものとすべきでないことは明らかであり、原判決の右判示は不当である。
[83]ハ 原判決は、
「職場離脱のために業務の処理が遅れ、具体的な問題が生じたこともなかつた。」
と判示する。
[84] 原判決のいう具体的問題とは何を意味するか、必ずしも明らかでないが、原判決も説示するとおり、税関の職務の停廃は、かりに短時間であつても、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるものである。すなわち、通関業務についていえば、通常に執務時間に業務が開始されなかつたとすれば、その間処理すべき業務の処理がそれだけ遅れ、通関を申請した者に対し支障を生じさせるおそれがあつたことは明らかであり、密輸出入取締り等についていえば、その間取締りが手薄となつていたわけであるから、法秩序の維持上支障をきたしていたことは明らかである。したがつて、原判決が本件行為によつて業務の遅延および具体的問題が生じなかつたとして、軽い情状としたことは誤りである。
[85]ニ しかも本件10月5日および10月26日の勤務時間内職場集会は、
(イ) いずれも、総評および公務員共斗会議の統一行動の一環として行なわれた同盟罷業であること
(ロ) いずれも、政暴法反対という政治目的のスローガンを掲げた同盟罷業であつて、ことに10月26日は、組合執行部および支部委員会で検討した結果政暴法が廃案になるかどうかの瀬戸際であり、政暴法粉砕のためにも必要であるとの考えもあつて、10月5日のときより5分長い9時15分まで集会を行なうことを決めて決行された同盟罷業であること
(ハ) いずれも、当局の再三にわたる警告および職務命令を無視して強行されたこと
(ニ) 10月5日には、庁内デモを行なつて、職場の秩序を乱したこと(以上(イ)ないし(ニ)の事実につき、原判決の引用する第一審判決39丁表1行目から42丁表3行目まで参照。)
を考慮すれば、その情状はきわめて重いものといわなければならない。
(3) 10月31日ないし11月2日の人員増加要求活動について
[86]イ 原判決は、
「10月31日から11月2日の行為は、繁忙期における輸出関係業務の処理件数を低下させ、残件がふえたところで超過勤務を妨害し、やむなく重点審査を指示するやそれを妨害するという一連の業務妨害であり」、「職場を混乱させ、遅れたことで業者にしわよせがあつたと推測される。」としながら、
「重点審査という窮余の策により、11月1日の残件を2日に持ち越しただけで、船積みできないという最悪の事態は避けられた」とし、
また「12月2日の行為は、繁忙期における約35分間の職場離脱による超過勤務拒否であり」、「輸出関係全体に及んだだけにその情状は軽くない。」としながら、
「その後普通に処理されて特に問題は起らなかつた」、「最悪の事態は発生しなかつた」
とし、いずれも被上告人らの争議行為が輸出関係業者にいかなる影響を与えたかについて言及することなく、また、漫然と船積みができないという最悪の事態が発生しなかつたという結果のみをとらえて、被上告人らに対する処分軽減事由としている。
[87] しかしながら、右の船積みができない事態が発生しなかつたのは、税関当局が非常事態に際し、窮余の策として異例の重点審査を実施したことによるものであつて、これをもつて、被上告人らの情状を軽からしめる理由とすべきではない。
 すなわち、本件争議行為に際し、神戸税関当局は、輸出関係業者の損失をできる限り防止するため、輸出申告書の重点審査、現品検査の省略という異例の方法をとり(原判決13丁表5行目から6行目までおよび同14丁表6行目から末行目までならびに原判決の引用する第一審判決46丁表4行目から9行目まで参照。)、その結果外国貿易秩序の維持、確保という税関本来の行政目的の完全な遂行の一部を犠牲にせざるをえなかつた。さらに国際貿易交渉、通商政策の立案等にとつて重要な資料である貿易統計の作成に欠かすことのできない統計品目番号(商品分類番号)(関税法施行令58条、輸出申告書の様式を定める命令(昭和36年7月31日大蔵省・通産省令3号)、外国貿易等に関する統計に関する省令(昭和29年7月1日大蔵省令66号)1条2項参照。)の記入までも省略せざるをえなかつたのである(原判決の引用する第一審判決47丁裏12行目から48丁表3行目まで参照。)
[88] 以上のような事情にかんがみれば、被上告人らの行為は、貿易秩序の維持、確保という税関本来の業務を阻害する悪結果を招来させたものである。
[89] しかも、輸出貨物の通関手続から船積みに至る一連の手続の仕組みからして、たとえ短時間でも、税関の輸出許可が遅延すれば、船積みその他の手配に齟齬をきたし、関係業者が必然的に多大の損害を蒙つたであろうことは、あえて説明を要しないところであり、原判決はこれらの点を全く顧慮することなく、船積みができないという事態が発生しなかつたことをもつて、漫然と軽い情状の一つとしているのであつて、不当である。
[90]ロ 原判決は、
「繁忙期は多忙を極めており、人員増加要求は職場からの強い要求であることが考慮さるべきである。」
と判示する。
[91] しかしながら、
(イ) 神戸税関の人員は、昭和36年度は前年度に比して100名をこえる大巾な人員増加があり、東部出張所の新設(昭和36年6月1日大蔵省令36号)に伴ない、神戸税関本関輸出部門の事務量が相当軽減され、また業者に対し、船積みの48時間前に申告するように、さらに月末月初には臨時開庁申請をなるべく少なくするように行政指導するなど、繁忙期における労働軽減の施策が行なわれた段階において、本件争議行為が行なわれたこと
(ロ) 本件争議行為を行なつた輸出部門の業務が繁忙であつたのは、月末月初のそれぞれ2、3日間にすぎないこと
(ハ) 昭和36年10月当時の神戸税関本関輸出為替係の1人当りの輸出申告書処理件数は、横浜税関のそれに比して少なかつたものであり、神戸税関だけが特に繁忙であつたとはいえない状態であつたこと(以上(イ)ないし(ハ)の事実につき、原判決の引用する第一審判決43丁表3行目から同丁裏12行目まで参照。)
を考慮するならば、繁忙期は多忙を極めており、人員要求は職場からの強い要求であつたことを、被上告人らの有利な情状として考慮に入れるのは行きすぎであるといわなければならない。
[92]ハ ところで、本件10月31日ないし11月2日の人員増加要求活動の情状としては、むしろ、次のような点が考慮されるべきである。
[93](イ) 本件活動は、処理件数をわざと低下させ、そのために余儀なく出された超過勤務命令にも服従させず,業務を妨害するという形で人員不足を認識させて、要求を貫徹しようとしたものであるが、超過勤務命令を出すの余儀なきに至らしめたのは、税関における臨時開庁制度と密接に関連していることである。すなわち、原判決も認定しているとおり、関税法98条は「1 日曜日、休日又はこれらの日以外の日の税関の執務時間外において、税関の政令で定める臨時の執務を求めようとする者は、税関長の承認を受けなければならない。 2 税関長は、税関の事務の執務上支障がないと認めるときは、前項の承認をしなければならない。」と規定し、他の官庁においては殆んどその例をみないいわゆる臨時開庁の制度が設けられており、右規定の趣旨から考えると、税関長は、臨時開庁の請求があつた場合には、執務上支障のない限り右請求を承認し、臨時開庁をする義務があるものと解すべきである。右のような制度は、税関における輸出入の通関業務の性質上不可避のものであり、その実施のため超過勤務命令を出すことは必然的なものであり、予定されたものであるというべきである。したがつて、公共性の強い通関業務を処理するのに必然的に伴うべき超過勤務命令を尊重せず、通関業務を担当する職員の集団的な怠業または超勤拒否による争議行為は、きわめて悪質な争議行為であり、とうてい許されないものである。
[94](ロ) しかも、超過勤務命令および上司の職務上の命令を拒否させることに関連して、喧噪にわたるような方法で、部長、課長に要求を続け、部課長の業務を妨害し、また職場を混乱させて、職員が執務できないようにして、怠業等の目的を達成しようとした点(原判決の引用する第一審判決57丁表6行目から58丁表4行目まで参照。)も、きわめて悪質な行為といわなければならない。
(4) 12月2日の超過勤務命令撤回要求について
[95] 原判決は、
「12月2日の行為は、繁忙期における約35分間の職場離脱による超過勤務拒否であり、輸出関係全体に及んだだけにその情状は軽くない」としながら、
「その後普通に処理されて特に問題は起らなかつた」、「最悪の事態は発生せず、また繁忙期の勤務状態が遠因であることが考慮さるべきである」
と判示している。
[96]イ 右の原判決の軽いとする事情の評価が不当であることは、前記(2)ハ、(3)ロにおいて述べたとおりである。
[97]ロ ところで、12月2日の行為については、10月31日ないし11月2日の行為と同様、原判決が認定しているように、超勤拒否が、臨時開庁制度と関連しているものであつて、きわめて悪質な争議行為であることが情状として重視されなければならない。
[98] 以上述べたとおり、原判決は、被上告人らの本件処分理由事実は、公共性の強い税関業務を、単に労務不提供という消極的な態様のみでなく、庁内デモ、管理者の業務妨害、業務上の命令不服従という積極的な態様で停廃させ、さらに、税関には臨時開庁という法的義務があることを奇貨とし、超勤拒否によつて当局を苦慮させ、また、国民生活に重大な支障が生ずることも顧りみず、争議行為に及んだもので、その情がきわめて重いにもかかわらず、些細な酌むべからざる情状をもつて本件懲戒処分が苛酷であるとしているものであつて、不当である。
[99] しかも、被上告人らの非違行為は、前述のとおりきわめて違法性の強い争議行為を数回にわたり繰り返しているものであること、原判決も認定しているように、被上告人らには、かつて同種非違行為により懲戒処分を受けた前歴のあること(原判決の引用する第一審判決61丁表10行目から同丁裏2行目まで参照。)等を綜合判断すれば、免職処分をもつてその責任を問うべきが当然であり、原判決が本件懲戒免職処分をもつて任免権者の裁量の範囲の逸脱があるとするのは、誤りであるといわなければならない。
] [100] 原判決は、処分理由事実について国公法98条1項、5項、101条1項、人事院規則14-1第3項および国公法82条3号の解釈適用を誤るとともに、懲戒処分の本質を理解せず、ために非違行為の評価を誤つた結果、国公法82条および行政事件訴訟法の解釈、適用を誤つた違法があるものというべきである。

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