岐阜県青少年保護育成条例事件
第一審判決

岐阜県青少年保護育成条例違反被告事件
岐阜簡易裁判所
昭和62年6月5日 判決

被告人 朝鹿自販機株式会社 外1名

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


 被告人朝鹿自販機株式会社・同山本泰行を、それぞれ罰金6万円に処する。
 被告人山本泰行において、右罰金を完納することができないときは、金2000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
 被告人朝鹿自販機株式会社から、押収してある雑誌ザ・ギャング2月増刊号2冊(昭和60年押第16号の6)を没収する。
 訴訟費用は、被告人らの連帯負担とする。

 被告人朝鹿自販機株式会社は、自動販売機により図書を販売することを業とするものであるところ、同被告人会社の代表取締役である被告人山本泰行は、同被告人会社の業務に関し、
第一 昭和60年4月13日ころ、岐阜県羽島郡笠松町美笠通2丁目17番地付近道路沿いの喫茶店「つくし」前において、被告人会社が同所に設置し、管理する図書自動販売機に、岐阜県知事が、昭和54年7月1日告示第539号をもって、あらかじめ指定した有害図書に該当する雑誌「オレンジ通信2月号」1冊・「ザ・ギャング2月増刊号(MY美少女)」2冊を収納した。
第二 同月18日ころ、右同所において、同図書自動販売機に、右同様有害図書に該当する雑誌「コスモス通信2月号」1冊を収納した。
第三 同年4月13日ころ、岐阜県大垣市和合本町1丁目287番地付近道路沿いの「池田屋」前において、同所に被告人会社が設置し、管理する図書自動販売機に、右同様有害図書に該当する雑誌「ザ・ギャング2月増刊号(MY美少女)」1冊を収納した。
第四 同年5月6日ころ、前記第一事実記載の場所において、同図書販売機に、同様有害図書に該当する雑誌「ジゴロ2月号」1冊を収納した。
第五 同年8月中旬ころ、右同所において、同図書自動販売機に、同様有害図書に該当する雑誌「シネマロード5月号」、「シネマロード6月号」各1冊を収納した。
ものである。
 被告人らの判示各所為(判示第一は包括して1個の所為)は、いずれも岐阜県青少年保護育成条例第21条第5号、第6条の6第1項本文、第24条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法第45条前段の併合罪であるから同法第48条第2項により、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人らをそれぞれ罰金6万円に処し、被告人山本泰行については、同被告人が右罰金を完納することができないときは、刑法第18条により金2000円を1日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとし、押収してある雑誌ザ・ギャング2月増刊号2冊(昭和60年押第16号の6)は、判示第一の犯罪行為を組成した物であって、被告人朝鹿自販機株式会社以外の者に属しないから、刑法第19条第1項1号、第2項本文を適用してこれを右被告人会社から没収する。なお、訴訟費用については、刑事訴訟法第181条第1項本文、第182条により被告人らに連帯して負担させることとする。
一 本件条例のように、各地方公共団体が条例によって青少年の保護育成上有害である図書の指定基準を定めて販売等を規制するのは、その規制の内容や運用に著しい地域差を生ずることになるから、そのような条例は、憲法第14条が保障する法の下の平等に反して無効であるとの主張について
[1] 昭和60年10月23日最高裁判所大法廷判決において、福岡県青少年保護育成条例が憲法第14条に違反しない旨判示するにあたって引用した、昭和33年10月15日最高裁判所大法廷判決(売春等取締条例違反事件)の趣旨に照らし、右弁護人の主張は採用できない。

二 本件条例が有害図書の認定基準として掲げる「著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長する。」との文言は、その内容が広汎、かつ不明確であって、憲法第31条が保障する罪刑法定主義に違反するとの主張について
[2] なるほど本件条例第6条第1項は、運用に関する第9条の規定を考慮せずに、その文言自体をみると、必ずしも犯罪構成要件規定として十分であるとはいえないが、しかし、本件に適用される第6条第2項については、昭和54年7月1日岐阜県告示第539号によって、その意味、内容がより具体的に定められているのであるから、この種の取締規定としては、憲法第31条によって要請されると解される犯罪構成要件規定の明確性に欠けるところはないというべきである。

三 本件条例による有害図書の指定は、当該図書の全面的販売禁止の結果を招くこととなるから、右指定に関する規定は、検閲を禁止した憲法第21条に違反して無効であるとの主張について
[3] 本件条例が定める有害図書の指定は、自動販売機による販売等、限られた販売方法等の規制に関するものであるから、本件条例の目的からみて、合理的な制限と範囲内に止まるものであって、検閲を禁止した憲法第21条に抵触するものではないと考える。

四 その他の主張について
[4] 先ず本件条例のいう有害図書と青少年の非行化の間に因果関係を肯定すべき証明がないとの点についてであるが、当裁判所も、両者間に何らの因果関係もないことが明らかであれば、本件有害図書に関する規定は、制定の根拠を欠き、無効であるといわざるをえないが、しかし、現在の状勢下において、因果関係を全く否定することは相当でないと考える。
[5] 次に有害図書の認定基準を定めた第6条第1項と第2項は、その基準の定め方に著しい矛盾があるとの点についてであるが、当裁判所としては、その見解にも直ちに同調することができない。
[6] すなわち、第1項の事後的個別指定の場合と異なり、当初から販売業者に処罰を伴う条例違反の危険を負担させるべく、あらかじめの指定を定めた第2項においては、第1項の認定基準と質的に同一である以外に、量的な基準を加えることには、それなりの合理性があり、かつ、こうした二様の取締規定をおくこと自体、矛盾又は不合理であるとはいえないものと考える。

[7] 以上、本件条例が無効であるとの弁護人の主張は、すべて採用できないこととしたが、しかし、条例の内容や運用に地域差のあること、特に他府県においては、本件図書と同一内容の図書について取締りがなされていない点は、量刑にあたって十分に斟酌すべきであるとの立場において、主文のとおり判決した次第である。
第6条 知事は、図書、がん具その他これらに類する物(以下「図書等」と総称する。)の内容、形状、構造、機能等が著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認めるときは、当該図書等を有害図書等として指定するものとする。
2 知事は、前項の規定により指定すべき図書のうち、特に卑わいな姿態若しくは性行為を被写体とした写真又はこれらの写真を掲載する紙面が編集紙面の過半を占めると認められる刊行物については、前項の指定に代えて、当該写真の内容を、あらかじめ、規則で定めるところにより、指定することができる。
第6条の6 自動販売機業者は、有害指定図書等を自動販売機に収納してはならない。ただし、法令の規定により青少年の立ち入りが制限されている場所に自動販売機を設置している場合は、この限りでない。
第21条 次の各号の一に該当する者は、3万円以下の罰金又は科料に処する。
 五 第6条の6の規定に違反した者
第2条 条例第6条第2項の規定による写真の内容は、次の各号に掲げるもので別に定めるものとする。
 一 全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態
 二 性交又はこれに類する性行為
 岐阜県青少年保護育成条例(昭和35年岐阜県条例第37号)第6条第2項の規定により、同条第1項の規定により有害図書として指定すべきもののうち、特に卑わいな姿態若しくは性行為を被写体とした写真又はこれらの写真を掲載する紙面が編集紙面の過半を占めると認められる刊行物について、当該写真の内容を次のとおり指定した。
写真の内容 一 全裸、半裸又はこれらに近い状態での卑わいな姿態で、次に掲げるものを被写体とした写真
 1 女性が大腿部を開いた姿態
 2 女性が陰部、腎部又は胸部を誇示した姿態
 3 自慰の姿態
 4 男女間の愛撫の姿態
 5 女性の排泄の姿態
 6 緊縛姿態
二 性交又はこれに類する性行為で、次に掲げるものを被写体とした写真
 1 男女間の性交又は性交を連想させる行為
 2 強姦、輪姦その他のりょう辱行為
 3 同性間の性行為
 4 変態性欲に基づく性行為
指定年月日 昭和54年7月1日
指定理由 著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあるものと認められる。

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