エンタープライズ寄港阻止闘争事件
第一審判決

道路交通法違反、公務執行妨害、日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法違反、傷害被告事件
長崎地方裁判所佐世保支部 昭和43年(わ)第10号
昭和52年11月15日 判決

被告人 C 外15名

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


一 被告人Aを懲役8月に、
  被告人Bを懲役6月に、
  被告人Cを懲役10月に、
  被告人Dを懲役1年に、
  被告人Eを懲役8月に、
  被告人Fを懲役8月に、
  被告人Gを懲役6月に、
  被告人Hを懲役1年に、
  被告人Iを懲役10月に、
  被告人Jを懲役6月に、
  被告人Kを懲役1年に、
  被告人Lを懲役1年に、
  被告人Mを懲役10月に、
  被告人Nを懲役10月に、
  被告人Oを懲役10月に、
  被告人Pを懲役8月に、
  各処する。
二 この裁判の確定した日から
  被告人Aにつき2年間、
  被告人Bにつき2年間、
  被告人Cにつき3年間、
  被告人Dにつき3年間、
  被告人Eにつき2年間、
  被告人Fにつき2年間、
  被告人Gにつき2年間、
  被告人Iにつき2年間、
  被告人Jにつき2年間、
  被告人Mにつき2年間、
  被告人Nにつき3年間、
  被告人Oにつき3年間、
  被告人Pにつき2年間、
  それぞれその刑の執行を猶予する。

 被告人らは、全日本学生自治会総連合(いわゆる全学連)に所属するものであるが、アメリカ合衆国原子力航空母艦エンタープライズ号を中心とする原子力艦艇の佐世保寄港を実力によつて阻止しようと企て、

第一 被告人A、同Bは、学生ら約700名ないし800名と共謀のうえ
 被告人Aは、昭和43年1月17日午前10時3分ころ、被告人Bは、右同日午前11時過ぎころ、佐世保市平瀬町3番1号先平瀬橋付近道路上において、右学生らのアメリカ合衆国海軍佐世保基地(以下単に佐世保基地と略すことがある。)への侵入行動を阻止するため警戒警備中の警察官らの身体に対し、共同して害を加える目的をもつて、右学生らとともに集合した際、長さ約1メートルないし2メートルの角棒等数百本を携帯して準備し、もつて兇器を準備して集合し、
 被告人Aは、右同日午前10時5分ころから、被告人Bは、右同日午前11時6分ころから、いずれも右同日午前11時45分ころまでの間、右平瀬橋付近道路上において、右学生らの佐世保基地への侵入行動を阻止するため警戒警備中の長崎県警察原空寄港警備本部(以下単に警備本部という。)小佐々連隊熊本部隊隊長東文一、西田連隊大阪部隊隊長井上五郎、京都部隊隊長芦田孝男ら各指揮下の多数の警察官に対し、右学生らとともに、石、アスフアルト破片、空びん等を投げつけ、角棒等で殴りかかる等の暴行を加え、さらに同日午前11時50分ころ、右大阪部隊隊長井上五郎、京都部隊隊長芦田孝男ら各指揮下の多数の警察官が、右学生らを、兇器準備集合、公務執行妨害の現行犯人と認めて逮捕しようとするや、右警察官らに対し、石を投げつけたり、角棒等で殴りかかる等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し、

第二 被告人C、同D、同E、同F、同G、同H、同Iは、学生ら約500名と共謀のうえ、
 昭和43年1月18日午後2時30分ころから同日午後2時40分過ぎころまでの間、長崎県佐世保警察署長の許可を受けないで、佐世保市松浦町2番22号先松浦交差点から国際通りを経て、同市平瀬町無番地先佐世保橋上に至るまでの道路上において、右学生らとともに、長さ約1メートルないし2メートルの角棒等多数を携え、10数列の縦隊で、道路いつぱいに広がつて、駈け足行進や蛇行進等をし、一般交通に著しい影響を及ぼすような集団示威行進を行い、もつて無許可で道路を使用し、
 右同日午後2時40分過ぎころから同日午後4時過ぎころまでの間、右佐世保橋付近道路上において、右学生らの佐世保基地への侵入行動を阻止するため警戒警備中の右警備本部西田連隊長崎部隊隊長境宗明、京都部隊隊長芦田孝男ら各指揮下の多数の警察官に対し、右学生らとともに、石を投げつけ、角棒で殴りかかり、数メートルの丸太棒をかかえて突き当る等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し、

第三 被告人Jは、学生ら約180名と共謀のうえ、
 昭和43年1月19日午前7時10分ころから同日午前7時40分ころまでの間、長崎県佐世保警察署長の許可を受けないで、佐世保市白南風町1番10号国鉄佐世保駅前から、国道35号線を通り、松浦交差点を左折し、国際通りを経て、前記佐世保橋上に至るまでの道路上において、右学生らとともに、長さ約1メートルないし2メートルの角棒等多数を携え、道路いつぱいに広がつて、蛇行進や渦巻き行進等をし、一般交通に著しい影響を及ぼすような集団示威行進を行い、もつて無許可で道路を使用し、
 右同日午前7時40分ころから同日午前7時50分ころまでの間、右佐世保橋付近道路上において、右学生らの佐世保基地への侵入行動を阻止するため警戒警備中の右警備本部西田連隊長崎部隊隊長境宗明、京都部隊隊長芦田孝男ら各指揮下の多数の警察官に対し、右学生らとともに、石を投げつけ、角棒等で殴りかかる等の暴行を加え、さらに被告人檜山において、同日午前7時50分ころ、右長崎部隊隊長境宗明指揮下の警察官前田勝則が、同被告人を、道路交通法違反、公務執行妨害の現行犯人と認めて逮捕しようとするや、右警察官に対し、角棒で数回殴りかかる等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し

第四 被告人P、同Iは、学生ら約200名と共謀のうえ、
 昭和43年1月19日午前9時30分ころ、長崎県佐世保警察署長の許可を受けないで、佐世保市浜田町2番2号親和銀行浜田町支店前から、国際通りを経て、前記佐世保橋上に至るまでの道路上において、右学生らとともに、道路いつぱいに広がつて、蛇行進や渦巻き行進等をし、一般交通に著しい影響を及ぼすような集団示威行進を行い、もつて無許可で道路を使用し、
 同日午前9時30分ころから同日午前9時33分ころまでの間、右佐世保橋付近道路上において、右学生らの佐世保基地への侵入行動を阻止するため警戒警備中の右警備本部西田連隊長崎部隊隊長境宗明、京都部隊隊長芦田孝男ら各指揮下の多数の警察官に対し、右学生らとともに、石を投げつけ、角棒等で殴りかかる等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し、

第五 被告人K、同L、同M、同N、同Oは、学生ら約450名と共謀のうえ、被告人Oは、昭和43年1月21日午後2時4分ころから同日午後2時40分ころまでの間および同日午後4時38分ころから同日午後5時40分ころまでの間、被告人K、同L、同M、同Nは、右同日午後4時38分ころから同日午後5時40分ころまでの間、前記佐世保橋付近道路上において、右学生らの佐世保基地への侵入行動を阻止するため警戒警備中の右警備本部西田連隊長崎部隊隊長境宗明、京都部隊隊長芦田孝男、熊本部隊隊長東文一、福岡部隊隊長岩岡輝年ら各指揮下の多数の警察官に対し、石を投げつけ、角棒等で殴りかかる等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し、

第六 被告人K、同Lは、
 約70名の学生と共謀のうえ、被告人K、同Lにおいて、正当な理由がないのに、昭和43年1月21日午後5時30分ころ、アメリカ合衆国軍隊が使用する施設であつて、入ることを禁じたる場所である佐世保市平瀬町所在のアメリカ合衆国海軍佐世保基地内(佐世保橋下流約200メートル付近)に、金網柵を乗り越えて、不法に立入り、
 共謀のうえ、右日時場所において、右警備本部西田連隊福岡部隊所属の福岡県城島警察署勤務巡査部長鶴田堅一、同県柳川警察署勤務巡査吉田清隆の両名が、被告人K、同Lを刑事特別法違反の現行犯人と認めて逮捕しようとするや、被告人Lにおいて所携の角棒で吉田巡査の左腕部、鶴田巡査部長の右手部等を殴打し、被告人Kにおいて所携の旗竿で吉田巡査の腹部に殴りかかる等の暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害するとともに、右暴行により、鶴田巡査部長に対し加療約1週間を要する右環指打撲傷を、吉田巡査に対し加療約1週間を要する左肘打撲傷を負わせた

ものである。
一 公訴事実と争点
[1] 被告人Bは、「昭和43年1月17日午前10時3分ころ」判示場所で判示のように兇器を準備して集合したとして起訴された。しかし、同被告人は、「その時刻ころには佐世保に来ていなかつた。佐世保に到着したのは午前11時前ころで、それ以後判示場所に赴いたものである。」と主張する。

二 事実関係の検討
[2] 被告人Bの当公判廷における供述および前掲坂井一秀作成の写真撮影報告書および第15回公判調書中の証人坂井一秀の供述部分を総合すると、被告人Bが佐世保に到着した後判示場所に到着したのは午前11時ころと認められ、しかるのち、同被告人は、既に先着の他の多数の学生が、兇器を準備して集合していることを認識しかつ認容したうえ、右集団に参加し、判示第一の二のとおりの犯行に加わつたことが認められる。

三 法律関係の検討
[3](一) 兇器準備集合罪は、いわゆる継続犯といわれる犯罪で、同一目的で、兇器を準備して集合している限り、犯罪が継続し、包括して一罪として評価されるものである。
[4](二) 本件学生らは、起訴事実による午前10時3分ころも、認定事実による午前11時過ぎころにおいても、判示警察官に対する共同加害の目的で、継続して、兇器を準備して集合していたものであつて、全体として同一集団の継続とみることができる。また集合場所も起訴事実、認定事実ともに同一である。そうすると両者の間には、公訴事実の単一性があるということができる。そして、起訴事実と認定事実との時間的なずれは約1時間に過ぎず、集合していた場所、集合していた学生らの集団、その人数、共同加害の目的、兇器の種類および数量などもほとんど異ならないとみてよい。従つて、起訴事実と認定事実とは、基本的な主要部分について、すべて同一であると解せられる。即ち、狭義の意味における公訴事実の同一性にも欠けるところがないと言える。そうであるならば、右両者の間には、広義の意味における公訴事実の同一性があると認められる。
[5](三) そこで、訴因変更の要否につき考える。右にみてきたとおり、両者の間には事実の同一性があり、しかも認定事実における午前11時過ぎの直後である午前11時6分ころから公務執行妨害罪(判示第一の二)の犯行に加わつていることが前掲証拠上明らかであり、この点については当初から審判の対象とされている(公訴事実は、午前10時5分ころから午前11時45分ころまでの間、公務の執行を妨害した旨の起訴である。)のみならず、兇器準備集合の点についても十分なる防禦の機会が与えられていること等を総合すると、訴因変更の必要はないと解される。
[6] 従つて、被告人春海に関する兇器準備集合の点については、訴因変更の手続を経ないで、起訴状記載の訴因に対し、判示事実を認定のうえ判決することができるものと解するのが相当である。
一 主張の要旨
[7] 本件米国海軍原子力航空母艦エンタープライズ号の佐世保寄港は、アメリカ合衆国(以下米国ということがある。)のベトナム侵略戦争遂行のため、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(昭和35年6月23日条約第6号)(以下単に安全保障条約と略称する。)を軸にして、日米両国政府が、日本国民の反対の意思を無視して強行しようとしたものである。
[8] これに対し、被告人ら学生は、米国を相手にして勇敢に戦つているベトナム人民と連帯して、不当なるエンタープライズ号の佐世保寄港を、実力で阻止しようとしたものである。
[9] 従つて、真に本件を裁くには、まず、エンタープライズ号の佐世保寄港を強行しようとした日米両国政府のやりかたが正しいのか、それとも、これを実力で阻止しようとした被告人ら学生が正しいのかどうか、換言すれば、本件の根本原因である日米両国政府によるベトナム戦争が、国際法上正しい戦争であるか否かを判断しなければならない。
[10] わが国の裁判所には、ベトナム戦争の正邪を裁く権限はない。そうである以上は、これに起因して発生した本件につき、わが国の裁判所は裁判権を有しないことになる。右は刑訴法338条1号所定の事由に該当するので、判決で公訴を棄却しなければならないものである。

二 裁判所の判断
[11] 裁判権は、国法上あるいは国際法上の若干の例外を除いて、日本国民であると外国人であるとを問わず、日本国領土内にあるすべての者に及ぶのが原則である。被告人らが右の例外の場合に当らないことは、その主張自体からも明らかである。刑訴法338条1号所定の事由に該当しないことは言うまでもない。
[12] 弁護人の右主張は独自の主張で、採用の限りでない。
一 主張の要旨
[13](一) 検察官は、被告人らを、兇器準備集合、公務執行妨害、道路交通法違反、刑事特別法違反、傷害等の罪で起訴した。
[14](二) しかしながら、その反面で検察官は、1月17日から21日(20日を除く)までの間に、本件に関連して、警察官が犯した数々の犯罪行為、つまり1月17日、被告人ら学生のエンタープライズ号の佐世保寄港阻止の集団示威行進(以下単にデモ行進という。)に対し、公道である平瀬橋を、有刺鉄線、装甲車、警察機動隊員等で完全に封鎖して、その往来を妨害し、また、同月18日、19日、21日、被告人ら学生の前同様のデモ行進につき、所轄佐世保警察署長より道路の使用許可がなされていたにもかかわらず、その職権を濫用して、許可コースにあたる佐世保橋を完全に封鎖し、被告人らのデモ行進の権利を妨害し、さらに、同月17日、18日、19日、21日には、本件の紛争に際し、無抵抗の被告人ら学生のみならず、デモ行進中の一般労組員、報道関係者および一般市民等に対し、警棒、警杖等で乱打したり、足蹴りにする等の暴行を加えたうえ、きわめて毒性の強い催涙液や催涙ガスを、被告人ら学生等に大量に浴びせ、しかも右催涙液を放水するにあたり、大腸菌等を多量に含んだ不潔きわまりない佐世保川の水を使用し、その結果、被告人ら学生のみならず、前記多数の者らに、種々の傷害を与え、以上は、往来妨害罪(刑法124条1項)、公務員職権濫用罪(同法193条)、特別公務員暴行陵虐罪および同致傷罪(同法195条1項、196条)に該当するにもかかわらず、これを不問に付した。
[15](三) 検察官の以上の態度は、明らかに、被告人らを、意図的に、政治的、社会的に差別し、不当に警察官を保護しようとするものである。
[16](四) 従つて、本件各公訴は、憲法14条、検察庁法4条、刑訴法1条、同法248条に違反した公訴権の濫用であつて無効であるから、同法338条4号により、判決で公訴を棄却しなければならないものである。

二 裁判所の判断
[17](一) 本件全証拠を検討のうえ、結論を先に述べる。警察側が、1月17日、18日、19日、21日に、一時平瀬橋および佐世保橋を封鎖したこと、および、右4日間におよぶ本件の紛争に際し、被告人ら学生および一般市民等に相当数の負傷者が出たことは証拠上明らかである。弁護人は、右はすべて警察官の違法な行為によるものであると主張する。
[18] しかし、前記平瀬橋および佐世保橋の封鎖行為に何らの違法ないしは不当がないことは、後記(第六ないし第九)認定のとおりであり、右負傷者の負傷の原因がすべて警察官にあるとは断定するに足りる的確な証拠はない。また催涙液(ガス)および川水の使用についても後記(三)のとおり、当時のすべての状況を考えれば、これを容認すべきで、何らの違法ないしは不当にわたる点はないと認められる。ただ、1月17日の市民病院前での警察官の逮捕行為中には、後記(二)のとおりのいきすぎが認められ、罪を犯した疑いがあることを否定できない。しかして、弁護人は、右の犯罪の嫌疑がある警察官を不問にしたことは違憲、不法で、結局刑訴法338条4号所定の事由となると主張するのであるが、当時の彼我の状況、なかんずく、右の逮捕行為に至るまでの学生集団の過激な違法行為ならびに公訴維持の観点からの加害者および被害者の特定および証拠の収集等の点を総合して考えると、検察官の右の態度が直ちに憲法14条に違反するものではなく、また検察庁法4条刑訴法1条、248条に違反するものでもないと認められる。その他、本件各公訴の提起には、なんらの手続き違反も認められない。従つて刑訴法338条4号所定の事由に該当しない。弁護人の主張は理由がない。
[19](二) 1月17日、市民病院前での逮捕行為について検討する。
[20] 前掲各証拠ならびに証人丹羽勝(第55回)、同森敏(第55回)同土器屋由起子(第56回)、同川合仁(第56回)、同田代実(第57回)、同北折篤信(第57、58回)、同原田栄文(第59回)、同小田善次郎(第59回)、同松村宗次(第59回)、同内山ハツ(第60回)、同渡辺二郎(第60回)、同杉直美(第61回)、同貞方知澄(第62回)、同真島務(第62回)、同黒田純一(第62回)、同徳永辰雄(第62回)、同小島亨(第63回)、同阿部国人(第63回)、同吉永寿一(第63回)、同西村暢文(第64回)、同篠崎年子(第65回)の各公判調書中の各供述部分、証人森元次、同宮橋一夫、同川口顕に対する当裁判所の各尋問調書によれば、次の事実が認められる。
[21](1) 1月17日朝、博多駅を発つた被告人ら学生約700名ないし800名は、午前10時ころ佐世保駅に到着し、その数分後に平瀬橋に至り、直ちに、角材等を使用して、橋上に張られた有刺鉄線やバリケード等の撤去にかかり(その詳細は後記第五に認定のとおりである。)、午前11時30分ころには有刺鉄線やバリケードの約半分以上が破壊され、平瀬橋の西詰で警戒警備に当つていた熊本部隊を中心とした小佐々連隊の警察官のうち約55名が学生らの投石等によつて負傷するに至つた。
[22](2) そのため、右小佐々連隊は、警備本部に援助を要請した。その結果、右学生らを佐世保川沿いの道路を川下(南方向)に排除することになつた。そして午前11時40分ころ、警察部隊は3方面から(大阪部隊はジヨスコー線沿いに平瀬橋へ西進し、京都部隊は共済病院下を佐世保川沿いに平瀬橋へ南進し、熊本部隊は平瀬橋を渡つて市立病院方面へ東進し)規制をはじめた。約700名ないし800名の前記学生らは殆ど川下の方に退去した。しかし、そのとき約50名ぐらいの右学生らが、前記市民病院南西角方面に、東、北、西の3方面から警察官に囲まれる格好になり、一部の者は右病院の採光用地下通路(深さ1メートル、長さ5メートルぐらい。)に、また一部の者は同病院南西面の玄関西側付近に追い込まれた。そして、警察部隊は、右学生らの排除ないしは逮捕にかかつた。その際右学生らの中には警察官に角材等で抵抗する者もいたが、無抵抗の者や角材等を奪われて抵抗できないような状態の者もいた。ところが、右の無抵抗ないしは抵抗できない状態の者に対し、主として京都部隊および熊本部隊の警察官において、警棒または警杖(長さ1メートル27センチ、木製)で、その頭部、背部、手足等を殴打したり、足蹴りする等の有形力を行使した。そして、右警察部隊の行為により負傷したと推察される20数名の者が右市立病院および近くの共済病院で治療を受けた。右警察官の行為は、それに至るまでの状況を考慮に入れるとしても、行き過ぎであることを否めず、警察官職務執行法に抵触し、かつ右の暴行ないしは傷害の罪を犯した疑いを否定できない。
[23](三) 催涙液、催涙弾および川水の使用につき検討する。
[24] 右各証拠によれば次の事実が認められる。
[25](1) 本件事件の各当日である1月17日、18日、19日、21日に、警察側が、平瀬橋あるいは佐世保橋において、警察側を攻撃する被告人ら学生集団の違法行為を制止したり、同人らを排除したりするため、催涙液(有機溶剤である4塩化エチレン95%にクロルアセトフエノン5%の割合で溶かしたもの。表面活性剤のリパールを使つて、さらに水で60倍にうすめて,放水車から放水されるもの。)およびガス弾(主成分はクロルアセトフエノンで、粉末状につめられている。)を使用した。
[26](2) 逮捕された被告人(E、D、C、H、J、K、L)や学生ら(Q外)の中には、右事件当日催涙液の放水を着衣の上から全身に浴び、全身もしくは顔面、首、背部、両手、下肢等に発赤、水腫等ができたり火傷状を呈するなどの皮膚傷害を受け、中にはかなり症状が重く、完治までに2か月余りを要した者もいる。
[27](3) その後の研究等によると、クロルアセトフエノンは、濃度、使用瀕度いかんによつては、肺、皮膚を通して体肉に吸収されると、急性的に肺臓や脾臓などを侵し、慢性化すると肝臓にも薬物性障害を惹起させ、あるいは皮膚に水腫を生じさせ、慢性的なアレルギー症状を招くことがあり、4塩化エチレンは、濃度、使用瀕度のいかんによつては、皮膚に付着すると、発赤、痛みなどをもたらし、肺から吸収されると頭痛、眠気、昏睡状態を引き起し、慢性的になると、脳、神経、内臓を侵し、右の催涙液または催涙ガスは、いずれも一時的な催涙効果があるにとどまらず、以上のような種々の障害を与えるものであることがわかり、その症例等が発表されるに至つた。
[28](4) 右の催涙液は、警視庁警備課が主となつて研究開発されたもので、開発するのに7、8か月を要し、その段階での実験結果によると、一時的な催涙効果の外には、目や皮膚が少く痛くなる程度で、特に顕著な皮膚の発赤などは認められなかつた。
[29](5) ところで、本件各当日における催涙液や催涙ガスの使用数量を見ると、17日の平瀬橋付近でガス弾約220発、催涙液原液90リツトル、18日は佐世保橋付近でガス弾約40発(催涙液は使用せず)、19日は佐世保橋付近でガス弾10数発(催涙液は使用せず)、21日は佐世保橋付近でガス弾約10発、催涙液原液15リツトルである。
[30](6) 警察側は催涙液および催涙ガスの使用については、開発過程の実験結果をもとに、一時的催涙効果があるに過ぎないと考え、本件事件での使用にふみきつた。なおその使用に当つては、予め警告することおよびガス銃は直撃しないようにするよう定めていた。
[31](7) 各当日の使用に至る状況をみると、いずれも判示被告人ら学生の違法行為が極めて大規模で、長時間にわたり、行動も過激で、警察官側にも相当多数の負傷者が出、また両橋が突破された場合には予測できないような事態となる虞があつたこと等から、右学生らの違法行為の制止、鎮圧、危害の防止のためには、右の催涙液(ガス)の使用はやむをえない状況下にあつたと言うべきで、使用方法、使用予告の実行、使用継続時間等の面をみてもこれを是認することができる。
[32](8) また、前掲各証拠によると、1月17日、平瀬橋付近において、警察側が催涙液を放水車で放水するに当り、佐世保川の川水を使用し、しかも当時の佐世保川は現在よりも汚染し、大腸菌などが多く含まれていたのであるが、右川水の使用は、放水車のタンクの水を使い果たし、消火栓からの給水をする暇がなかつたため、緊急やむをえず川水を給水したものであることが認められ、当時の状況を考えると、これまたやむをえない処置と言わざるをえない。
[33](9) そうすると、警察側の催涙液、催涙ガスの使用ならびに佐世保川の川水の使用については、いずれもこれを、やむをえない処置として是認すべきであり、違法ないしは不当にわたる点はない。
一 主張の要旨
[34](一) 政府は、エンタープライズ号の佐世保寄港を承認し、国民の反対の意思を無視してこれを強行しようとし、右は前記安全保障条約に基づくものであると言明する。しかし、右の安全保障条約は、憲法9条に違反する無効な条約である。従つて右条約を根拠とするエンタープライズ号の佐世保寄港は憲法に違反する。仮に右安全保障条約が有効であるとしても、エンタープライズ号の佐世保寄港は、同条約6条の実施に関する交換公文に規定する「装備における重要な変更」に該当するので、いわゆる「事前協議」を経たうえでなければ、その寄港を承認すべきではないのに、政府は、それも経ずして、寄港を強行しようとしている。右は安全保障条約に違反する不法な行為である。従つて、政府当局のエンタープライズ号の佐世保寄港の強行は、まさに違憲、違法かつ不当な国家権力の行使であると言わざるをえない。そうであるならば、国民はいわゆる抵抗権の行使として、右の国家権力に抵抗ないし反対することができる。被告人らの本件各所為はまさに右の抵抗権の行使として正当である。勿論犯罪を構成しない。以上は刑訴法339条1項2号所定の事由に該当する。決定で公訴を棄却すべきである。
[35](二) 仮に、右(一)の主張が容れられないとしても、被告人らの本件各所為は、いずれも抵抗権の行使として、正当行為(刑法35条)または正当防衛(同法36条)ないし緊急避難(同法37条)に該当するので違法性を阻却する。

二 裁判所の判断
[36](一) まず、公訴棄却の主張から検討する。刑訴法339条1項2号は、「起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含しないとき」は、決定で、公訴を棄却しなければならないと定める。つまり、右は、起訴状に記載された事実がそのとおり立証されたとしても、何ら犯罪の構成要件に該当しない場合をいい、しかもそれは、起訴状を一見すれば明らかにわかることであるから、実体的審理にはいるまでもなく、決定で公訴を棄却しなければならないと定められているのである。
[37] そこで、これを本件につきみるに、本件起訴状の公訴事実は、いずれも記載自体からみて、犯罪事実を包含しないときに該当しないことは一見して明瞭であると言うべきである。弁護人のこの点の主張は、その余の点の検討をするまでもなく理由がない。
[38](二) つぎに、正当行為等の主張につき検討する。弁護人の所論は、要するに、政府のエンタープライズ号の佐世保寄港の強行は、違憲、違法ないしは不当な国家権力の行使であるから、これに対しては抵抗権を行使できるというものである。ところで、抵抗権が、実定法上の権利であるか、自然法上の権利であるかについてはなお争いのあるところである。しかし、国家権力の不当、違憲の行使に抵抗し、かつ反対する権利として古くから唱えられた権利であることに疑いはない。しかし、抵抗権の行使が、正当行為ないしは正当防衛、あるいはこれらに準ずるものとして、犯罪の違法性を阻却するかどうかは問題である。仮に阻却する場合がありうるとしても、それは稀有の場合で、しかも、国家権力行使の不当、違憲の判断ならびに抵抗権行使の必要性および補充性の判断は極めて慎重にしなければならない。殊に、補充性については、本来なすべきである民主的・平和的方法による暇がなかつた事情を考慮すべきである。ところでこれを本件につきみるに、後記第五ないし第一〇に認定の事実に照らせば、右に述べた抵抗権の行使を是認すべき事実ないしは事情は全く認められないことが明らかである。現行法秩序に照らし、右主張を容れることはできない。なおまた、正当防衛ないし緊急避難に該当する事実も認められない。弁護人のこの点の主張はすべて理由がない。
一 主張の要旨
[39] 刑法208条の2所定の兇器準備集合罪は、共同加害の目的を必要とする。これを本件につきみるに、被告人川上、同春海らは、エンタープライズ号の佐世保寄港を阻止するためのデモ行進をする目的で佐世保に集合したもので、なにも警察官に対し暴行を加える目的で集合したものではない。偶々警察官が公道である平瀬橋を封鎖したため、必然的にデモ行進を不可能にし、デモ行進が停滞して、橋の手前に集合せざるをえなくなつただけである。従つて、共同加害の目的がないので本罪は成立しない。

二 裁判所の判断
[40](一) 刑法208条の2所定の兇器準備集合罪が、共同加害の目的を必要とすることは、規定上明らかなことである。
[41](二) そこで、まず、本件の事実関係を検討するに、前掲諸証拠によれば、次の事実を認めることができる。
[42](1) 被告人らの所属する全学連は、遅くとも昭和42年12月末ころには、「全国学友諸君、エンプラ阻止闘争に全力を投入せよ。第3の羽田に向けて闘う体制を強固に打ち固めよ。」などと記載したビラ等多数を配布して、佐世保で過激な闘争を行うことを表明していた。
[43](2) 本件犯行の当日である昭和43年1月17日、被告人ら学生700名ないし800名(ただし、この時点では、被告人Bを除く。)が、午前6時49分発の「西海号」に乗り込んで、国鉄博多駅を発つた。佐世保駅に向かう途中、ほぼ全員がヘルメツトをかぶり、覆面するなどの姿で、鳥栖駅、肥前山口駅で、予め仲間がプラツトホームに持ち込んで用意していた角材等の梱包10数個を、各駅員の制止を無視して列車内に搬入し、車中でこれらの角材等を配布し、リーダーが、「佐世保に着いたら、基地に突入する。いかなる抵抗も排除し、必ずやり遂げる。」などアジ演説をしていた。
[44](3) 同日午前10時に佐世保駅に到着したが、プラツトホームで、角材等を配布したり、前同様の演説をしたりし、さらに駅改札口付近で警戒警備中の鉄道公安職員、取材中の報道関係のカメラマンに対し、先頭集団の学生200名ないし300名が、手にした角材等で殴りかかり、1か月以上の入院を要した者を含めて6、7名の者の頭部、腕、足などに傷害を負わせた。
[45](4) その後、同駅備え付けの防火用のバケツ、痰水箱を奪い、これに石塊などを入れながら、右学生らは、改札口を通らず、プラツトホームから直接鉄道線路上に降り、一団となつて、喚声をあげて、早足で、線路伝いにまつすぐ本件平瀬橋に向かつた。
[46](5) 数分後、平瀬橋に到着すると、直ちに、橋上に右学生らの通過を阻止するため橋を横断するような形で、ら旋状に十重に張られていた有刺鉄線等を、角材等で破壊し、用意していた石塊や空瓶等を、橋の西側で警戒警備中の警察官に投げつけるなどの暴行を加えるに及び、この状況は以後1時間余にわたつた。
[47](6) なお被告人Bが、同日午前11時ころから、右の集団に加わり、以後行動を共にしたことは、さきに判示のとおりである。
[48](三) 以上の事実に基づけば、被告人らの学生集団は、当初から、あらゆる抵抗を排除して、基地に突入することを目的とし、かつ基地周辺において学生らの右行動を阻止するため警察官(警察部隊)が警戒警備に当たつていることを予想し、警察官が右学生らの行動を阻止した場合は、共同して、警察官の身体に対し、所携の石塊や角材等を使用して、投石、殴打等の暴行をする意思を相通じていたものと認められる。
[49] 従つて、被告人らは共同加害の目的のもとに判示場所に集合したものであるから、これと前提を異にする弁護人の主張は理由がない。
[50] なお、被告人春海についても、兇器準備集合罪が成立することは、前叙のとおりである。
一 主張の要旨
[51](一) 警察官は、前記第五記載のとおり、被告人ら学生の、エンタープライズ号の佐世保寄港阻止のためのデモ行進(表現の自由)の権利の行使を妨害するため、公道である平瀬橋を不法にも完全に封鎖した。警察官の右行為は、往来妨害罪(刑法124条1項)、公務員職権濫用罪(同法193条)に該当する。従つて、警察官の右封鎖行為は、公務執行妨害罪(同法95条1項)の構成要件である職務の「適法性」を欠くものである。してみれば、仮に被告人らが、右の警察官に対し、投石したり、角材で殴打する等の暴行を加えたとしても、公務執行妨害罪は成立しない。
[52](二) また、被告人ら学生の右行為は、警察官の、デモ妨害等の違法な行為を排除するために行つたもので、以上は正当行為(刑法35条)または正当防衛行為(同法36条)に該当し、いずれにしても適法性を阻却する。
[53](三) 被告人ら学生は、警察官の前記違法行為を排除するため投石等をしたところ、警察官はこれを目して公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕行為に出た。被告人らは、この不法逮捕という急迫不正の侵害に対する防衛行為として投石等の暴行を加えた(判示第一の二の後段関係)ものであるから、右は、正当防衛(同法36条)に該当し、違法性を阻却する。

二 裁判所の判断
[54](一) そこでまず、本件の事実関係を検討するに、博多駅を出発して佐世保駅に到着し、直ちに平瀬橋方面に向つた一団の学生の状況は前記第五の二の(二)に認定のとおりである。そして右事実によれば、右の学生集団がさらに基地突入を図ることは十分に予測されるところである。従つて、右学生ら集団の不法行為の制止ないしは鎮圧、または基地侵入の予防のため、警察側が何らかの対策をとらねばならないことは責務上当然のことである。
[55](二) 次いで、前掲諸証拠によれば、左の事実を認めることができる。
[56](1) 前記の学生集団についての刻々の情勢報告を受けた警察側は、当日午前8時30分ころから部隊を平瀬橋西側に配置し、9時15分ころから平瀬橋上の通行止めの広報等をはじめるとともに、有刺鉄線によるバリケード作りにかかり、午前9時50分ころにその設置を終つた。以後平瀬橋上の交通は一時遮断されることとなつた。
[57](2) 右の学生ら集団は、午前10時を僅かに過ぎたころ、早くも平瀬橋に到着し、直ちに前記(第五の二の(二)の(5))認定の行動に出た。
[58](3) ところで、平瀬橋周辺の地形をみるに、平瀬橋は、基地の東側を、北から南に流れている川幅約50メートルの佐世保川に架設されているもので、その上流に架設されている佐世保橋とともに、基地に接着する橋である。また平瀬橋は佐世保駅から数百メートルのところにあり、かつ市の繁華街からもそれ程離れてはいない。しかし、橋の付近は比較的に一般民家や商店等が少なく、交通量もさほど多くはない。なお佐世保における基地の面積は割合いに広く、かつ、散在しているのであるが、主要な基地は、佐世保川沿いないしはその付近に在り、そこへの進路としては、平瀬橋と佐世保橋が、極めて重要な位置にある。従つて、仮に事の当否を別として、基地侵入を防止するという点のみからみれば、平瀬橋および佐世保橋を封鎖することが最も効果的で、しかも一般被害の発生を防止する面からみても、最も適当な場所であると言うことができるであろう。
[59](三) 以上の諸点および被告人らの判示犯行等を総合して考察すると、警察側が、さきに認定のように、平瀬橋を封鎖し、それによつて一般交通が遮断されるに至つたことは、当時の情勢を考えれば、まことにやむをえなかつた措置で、なんらの違法も不当もないと言うべきである。従つて、警察官の違法行為を前提とする弁護人の本件各主張は理由がない。
一 主張の要旨
[60](一) 1月18日に、被告人ら学生によつて行われたデモ行進は、いずれも、「米原子力艦隊寄港阻止全国実行委員会」(社会党系、以下全国実行委員会と略称する。)と「安保破棄諸要求貫徹中央実行委員会」(共産党系、以下中央実行委員会と略称する。)が共催し、所轄佐世保警察署長から道路の使用の許可を受けたエンタープライズ号の佐世保寄港に抗議するデモ行進傘下の一団体として参加したものである。即ち、同日は、右両実行委員会共催による佐世保市民グラウンド(同市光月町所在)における通称「5万人集会」に参加し、右集会終了後、参加者(団体)は、いずれも、米国海軍佐世保基地方面へ向けてデモ行進をしたのであるが、被告人らの学生集団は、その傘下の一団体として、右のデモ行進に参加したものである。従つて、右両実行委員会共催によるデモ行進についての前記道路の使用の許可の効力は、被告人ら学生集団の本件デモ行進にも当然及び、それとは別個に、道路の使用許可を受ける必要はない。従つてまた、その許可は受けていない。
[61] また、当時佐世保市内の交通は、警察官による佐世保橋の完全封鎖と相まつて、普通一般の正常な交通が可能な状態ではなかつた。従つて、被告人ら学生の当日のデモ行進は、いまさら一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態により道路を使用する場合に当らず、その旨の許可を受けなければならない場合に該当しない。
[62](二) 1月19日に、被告人ら学生集団の行つたデモ行進につき、所轄佐世保警察署長の道路使用許可を受けていなかつたとしても、右のデモ行進はエンタープライズ号の佐世保寄港阻止という正当な目的のためのものであり、当日の佐世保市内の交通事情は、同市内がデモの渦で取り囲まれるというような極めて異常な状態で、もはや「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態」として、警察署長の許可を受ける必要がなかつたし、そもそも当時佐世保市内は警察権力による戒厳状態下にあつたので、このような異常状態のもとでは、平常時と同様の許可を受けること自体が無意味である。
[63](三) 以上のとおりであるから、
[64](1) 被告人ら学生の1月18日の本件デモ行進については、主催者に対する佐世保警察署長の道路使用許可の効力が及ぶことになり、仮にそうでないとしても、道路使用許可を受けることを要しなかつたものであるから、道路交通法77条1項4号に違反しない。
[65](2) 同じく1月19日のデモ行進については、当時の状況にかんがみ、所轄佐世保警察署長の道路使用許可を受ける必要がなかつたものであるから、右同法77条1項4号違反の罪を構成しない。従つて、まず本件公訴は公訴権の濫用として判決で棄却すべきであり、仮にそうでないとしても無罪の言渡しをすべきである。
[66](四) 仮に以上の主張が容れられないとしても、本件18日、19日の各デモ行進による道路の使用については、いわゆる可罰的違法性がないので罪とならないものである。
[67](五) 憲法21条は一切の表現の自由を保障している。被告人ら学生が行つた本件デモ行進は、右の権利の行使の一形態である。つまり、国の最高法規で保障した表現の自由(デモ行進)を、元来「交通の安全と円滑」を図ることを目的とした道路交通法(以下単に道交法と略す。)で規制するのは、憲法21条に違反する。即ち、道交法77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日付長崎県公安委員会規則第4号)による改正前の前同法施行細則(昭和35年12月16日付前同規則10号)15条3号により、集団行進(デモ行進)を、所轄警察署長の許可を要することとし、これに違反した者を、道交法119条1項12号によつて処罰することは、表現の自由を保障した憲法21条に違反する。従つて、いずれも道路交通法違反の罪は成立しない。

二 裁判所の判断
[68](一) まず、1月18日の被告人ら学生のデモ行進につき、事実関係を検討するに、前掲諸証拠の外、証人貞方知澄(第62回)、同黒田純一(第62回)、同小島亨(第63回)、同阿部国人(第63回)、同吉永寿一(第63回)、同西村暢文(第64回)、同篠崎年子(第65回)の各供述部分を総合すると、次の事実を認めることができる。
[69](1) 1月18日は、午後1時から1時間余り、佐世保市民グラウンドにおいて、エンタープライズ号の佐世保寄港に抗議する目的で、通称「5万人集会」が行われた。右集会終了後、午後2時ころから、集会参加者4万人ないし5万人が、右グラウンドから佐世保橋を経て基地周辺をデモ行進する予定になつていた。
[70](2) 右集会およびデモ行進は、全国各地からの主として労働組合員等、多くの参加者が見込まれた。参加資格については特別の制限はもうけてなく、一般市民の参加も自由であることを原則とした。
[71](3) 右のデモ行進については、全国実行委員会の世話役である佐世保地区労働組合会議の小島亨から、1月16日付で、道路使用目的―米原子力艦隊寄港阻止西日本大集会デモ行進、場所又は区間―市民グランド→トラヤ前(右折)→国道35号線→消防署(左折)→外人バー街→産業会館前→CPビル→ロータリー→メインゲート→(折返し)→ロータリー→共済病院下→玉屋別館→四か町→戸尾交差点(流れ解散)、期間―1月18日午後1時30分から6時まで、方法又は形態―五万人、現場責任者小島亨ということで、所轄佐世保警察署長に対し道路使用許可申請がなされ、許可条件(申請のコース中、ロータリーからメインゲート間の折返しは行なわないこと、および国道35号線直進→ラツキー駐車場前(左折)→水頭酒店前(右折)→ブラザーミシン横(左折)→CPビル前→ロータリー(左折)→平瀬橋→以下ほぼ申請どおりのコースを行進することとするなど10項目の条件と3項目の注意事項がつけられている。)を付したうえで、その許可がなされた。
[72](4) 右の道路使用許可申請のため佐世保警察署に赴いた右小島亨は、その際の係官の質問に対し、「デモ行進に、学生らの参加申込みはない。仮に参加申込みがあつても、我々主催者の統制に確実に服するという確約がない限り、参加を許す積りはない。」と返答している。
[73](5) なお、警察当局は、1月17日に、佐世保警察署内で、両実行委員会の責任者と、デモ行進につき協議した際、学生集団の動向による状況の変化によつては、道路使用許可条件であるデモコースを、協議のうえ変更する場合がある旨説明し、両実行委員会側もこれを了承していた。
[74](6) 被告人ら学生からは、当日の本件デモ行進につき、道路使用許可申請はなされていない。
[75](7) 被告人ら学生は、前記第五において認定したとおり、前日の17日にも極めて過激な行動に出たうえ、当18日も約500名が博多駅を発つて、午後1時21分ころ佐世保駅に到着すると、ほぼ全員がヘルメツト姿で、リーダーがプラツトホームでアジ演説をしたあと、駅前の国道35号線上で、道路いつぱいに広がる蛇行進をし、その後道路中央部を8列縦隊で行進し、「5万人集会」の会場である佐世保市民グランドに赴いた。
[76](8) 右グランド南入口に到着した右学生集団は、グラウンドの「5万人集会」参加者の中から、「何しに来たんだ。帰れ、帰れ。」などと罵声を浴び、右入口での入場を拒否された。やむなく右学生集団は、グラウンドの東側にまわり、そこからグラウンド内に入つた。なおその際少なくとも一部の学生らは、正規の出入口からではなく、グラウンドの塀を乗り越えて場内に入る有様であつた。
[77](9) グラウンド内での集会が終り、午後2時過ぎころから、右集会参加者である一般労組員等は、右グラウンドを出発して、宣伝カーを先頭に、指揮者の指示に従い、道路の右側を整然と行進を始めた。しかし、被告人ら学生集団は、午後2時20分ころ、グラウンドを出発し、間もなく佐世保市宮崎町所在の佐世保郵便局前付近において、先に行つていた一般労組員のデモ集団を、駆け足で追越し、国道35号線旧「トラヤ」前に至り、右折して、国道35号線を、道路いつぱいに広がつたり、5列ないし6列の縦隊となつて、先頭の2列にいる者は角材を横に構え、駆け足をするなどしたうえ、「5万人集会」参加者の許可デモコースをはずれて(ラツキー駐車場前から左折せず以下も当然許可コースをはずれる)、右国道を松浦町の松浦交差点まで直進し、同交差点を左折して、佐世保橋に直進する国際通りに入り、判示第二の一の佐世保橋上に至つた。
[78](10) これに対し、一般労組員等のデモ集団は道路使用の許可条件に従い、許可デモコースを通り、佐世保橋方面へ向かつた。
[79](11) この間、被告人ら学生は、デモコース、デモ行進の順序等につき、前記集会共催の責任者等と全く相談することもなく、また、前記国際通りに入つてから、そのリーダーの学生が、「きようは、機動隊の壁を突破し、基地内に突入しよう。」などとアジ演説を繰り返し、他の学生はこれに呼応して喚声をあげるなどして,佐世保橋の手前まで行き、そこから、そのまま警察部隊に、角材等を構えて突入し、あるいは投石するなどの攻撃に出ている。
[80](12) 被告人ら学生が、佐世保橋で右のような行動に出たころ、一般労組員等のデモ隊は、まだ佐世保橋には到達しておらず、その手前の同市松浦町所在の同市産業会館前の道路を行進中であつた。そして、この間、右デモ隊の責任者は、前記学生集団の動向を全く掌握しておらず、右産業会館前まで行進して来たとき、警察側から情況説明を受けて事情を知り、やむをえないとして、デモコースを変更した。以後労組員等のデモ隊は、全体としては佐世保橋に至らないまま、別コースを行進したすえ、解散した。
[81](二) 以上の事実に基づけば、1月18日の通称「5万人集会」およびその後のデモ行進については、主催者側としては、原則として、行動を共にするか、主催者側の統制に服する限り、何人の参加も拒まないという立場をとつた。しかし、道路使用許可申請をした段階では、少なくとも過激な行動をする学生集団は参加の対象とはしておらず、所轄佐世保警察署長の右の許可も、これを前提としてなされた。そして、当日たる18日の集会、デモ行進についても、被告人ら学生集団は、当初から別個独自の行動を企図し、主催者側の統制ないしは指揮に従う意思が全くなく、事実そのような行動に終始したことが明らかである。そうであるならば、1月18日の右主催者によるデモ行進に関してなした右警察署長の前記道路の使用許可の効力は、被告人ら学生の本件デモ行進に及ぶわけがない。この点の弁護人の主張は理由がない。
[82] また、当日の交通の混乱状況にかんがみ、道路使用許可を受けることを要しないとの点は主張自体が明確でないうえ、当時の佐世保の状況は、弁護人主張のような混乱状況でもなかつたことが前掲証拠上明らかであるので、いずれにしても理由がなく採用できない。
[83](三) さらに、1月19日の被告人ら学生のデモ行進に関する主張につき検討する。
[84](1) 道路交通法77条1項4号に定められた道路の使用の許可は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るためになされるものであるから、たとえ道路使用の目的が正当であろうとも、右の許可を受けなければならないことは当然である。従つて、目的が正当であるから許可を受ける必要がない旨の弁護人の主張は理由がない。
[85](2) ついで、当日の状況にかんがみ、許可を受ける必要がなく、または無意味であるとの点は、その主張自体が明らかでないうえ、当時の佐世保の状況は、弁護人の主張するような混乱状況でもなかつたことは前掲証拠上明らかであり、いずれにしても、この点に関する弁護人の公訴棄却ないし無罪の主張は理由がなく、採用できない。
[86](四) 次いで、いわゆる可罰的違法性がないとの主張について考えるに、前掲諸証拠によれば、被告人らの本件道路交通法違反(判示第二の一、第三の一、第四の一)の所為によつて、一般交通の安全と円滑を著しく阻害し、その被害は決して軽微ではなく、その行為、態様も表現の自由の権利行使として社会的相当性の限度を極めて逸脱するものと言うべきである。従つて、いずれの点からしても、いわゆる可罰的違法性を欠くとは認め難い。よつて弁護人の主張は採用できない。
[87](五) 道路交通法77条1項4号は、「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為、又は、道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」を、所轄警察署長の許可にかからしめ、もつて、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る」ことを目的とし、前記道交法施行細則15条3号は、「道路における集団行進」を所轄警察署長の許可を要する行為の一つと定めている。「集団行進」が「一般交通に著しい影響を及ぼす行為」に該当することは明らかであるので、これを要許可行為と定めたことは当然であろう。ところで、道路の使用の許可に関する規定をみると、道交法77条2項以下に詳細に許可の基準等を定めており、このことは表現の自由とのかかわりにつき、右の権利を極めて尊重する立場をとることを示すものと言うことができる。しかして、表現の自由(一形態としてデモ行進)の権利といえども絶対無制約のものではなく、合理的な範囲内で「公共の福祉」による制約を受けると言うべきである。そして、道交法による前記の規制は合理的な制約として受けざるを得ないものと考えられる。従つて、右の道交法119条1項12号(77条1項4号)は憲法21条に違反するものではない。弁護人のこの点の主張は理由がない。
一 主張の要旨
[88] 被告人ら学生集団は、さきに述べた(第七の一)ように、1月18日、19日とも、デモ行進のため、正当に道路の使用ができ、従つて、その進路にあたる佐世保橋を行進通行してよいにもかかわらず、警察側は、予め装甲車、放水車、警察部隊などを佐世保橋付近に配備し、佐世保橋の交通を全面的に封鎖して、右学生らの行進を阻止した。警察側の右所為は、往来妨害罪(刑法124条1項)ならびに公務員職権濫用罪(同法193条)に該当する違法なもので、職務執行の適法性を欠く。従つて、このような警察官に対し、被告人ら学生が判示の如き暴行を加えたとしても公務執行妨害罪(同法95条1項)は構成要件を欠き成立しない。また、これらの被告人らの暴行は、警察官の不法な行為に対し、デモ行進(表現の自由)の権利を防衛するため、やむをえずしてなしたものであるから、正当防衛(同法36条)に該当し違法性を阻却する。仮にそうでないとしても可罰的違法性を欠き、いずれにしても罪とならない。

二 裁判所の判断
[89](一) 1月18日および19日の被告人ら学生集団の判示デモ行進について、所轄佐世保警察署長より道路の使用の許可を受けておらず、18日については「5万人集会」参加者としての道路の使用の許可の効力が及ぶものでもないことは前記第七に説示のとおりである。
[90](二) そうすると、警察側としては、右の道路交通法違反の行為を制止するとともに、前日(17日)の学生集団の行動(前記第五、第六)および当日(18日)の被告人ら学生集団の判示態様からして、基地侵入の虞も十分に予測されるところであるから、これに対し当然何らかの対策を講じなければならないことは責務上当然のことである。そして、前記第六において述べたと同一の理由から、佐世保橋を一時全面的に封鎖し、被告人ら学生集団のデモ行進を阻止したことに、何らの違法も不当もない。そうであるならば、右の警察官の封鎖行為およびこれを前提とする右の逮捕行為が違法であることを前提とする弁護人の正当防衛、緊急避難の各主張は、理由がないので、採用しない。また、可罰的違法性がないとの主張についても、判示各摘示のとおり、被告人らの所為は、いかなる点からみても、その被害が軽微であるとは言えず、行為、態様も社会的相当性の限度を逸脱するところが大きく、到底可罰的違法性を否定することはできない。この点の主張も理由がない。
一 主張の要旨
[91](一) 検察官は、被告人ら学生集団の判示第五の所為を公務執行妨害罪で起訴した。
[92](二) ところで、1月21日は、前記全国実行委員会および中央実行委員会の共催で、佐世保市松浦町所在の松浦公園において、エンタープライズ号の佐世保寄港に対する抗議をスローガンとする通称「2万人集会」が開催された。右集会終了後参加者によるデモ行進が行われた。右のデモ行進については、主催者側において、所轄佐世保警察署長より道路の使用の許可を受けていた。
[93](三) 被告人ら学生集団は、当日の右集会および集会参加者のデモ行進に、傘下の一員として参加した。そして、被告人らの学生集団は、右の許可されたコースである佐世保橋を行進すべく、その付近まで来た。しかるに警察側は、予め装甲車、放水車、警察部隊などを配備して、佐世保橋の交通を全面的に封鎖して、右学生らの行進を阻止した。警察側の右所為は、往来妨害罪(刑法124条1項)ならびに公務員職権濫用罪(同法193条)に該当する違法なもので、職務執行の適法性を欠く。従つてこのような警察官に対し、被告人ら学生が右判示の如き暴行を加えたとしても、公務執行妨害罪(同法95条1項)は構成要件を欠き成立しない。また、これらの被告人らの暴行は、警察官の不法な行為に対し、デモ行進(表現の自由)の権利を防衛するため、やむをえずしてなしたものであるから、正当行為(刑法35条)ないし正当防衛(同法36条)に該当する。仮にそうでないとしても、被告人ら学生が、さらにデモ行進を続けて行くためには、自力をもつて警察部隊を排除する外なく、そのためには判示所為に出る外に国家機関の救助を求める暇がなかつたものであるから、被告人らの右所為は、いわゆる自力救済に該当する。

二 裁判所の判断
[94](一) 弁護人の主張にかんがみ、まず1月21日に行われた通称「2万人集会」の事実関係から検討をはじめる。前掲諸証拠によると次の事実を認めることができる。
[95](1) 1月21日は、午前中から午後1時30分過ぎまで、佐世保市松浦町所在の松浦公園で、前記両実行委員会の共催により、エンタープライズ号の佐世保寄港に抗議する目的で、通称「2万人集会」が行なわれた。集会終了後は、午後1時30分過ぎころから、右の集会参加者約2万人が、右松浦公園から佐世保橋を経て基地周辺をデモ行進する予定であつた。
[96](2) 右集会およびデモ行進の参加者および参加資格等は、さきの18日に行われた通称「5万人集会」の場合と特段の差異はないものであつた。
[97](3) 右のデモ行進については、中央実行委員会現地闘争本部の福岡醇次郎から、1月20日付で、道路使用の目的―エンタープライズ号佐世保入港に抗議するデモ行進、場所又は区間―松浦公園→佐世保橋→ロータリー→上陸場→ロータリー(折り返し)→平瀬橋→共済病院下→ラツキー駐車場横→国道35号線→佐世保駅前、期間―21日午後2時15分から午後4時30分まで、方法又は形態―5列縦隊、2万名、使用車輌30台、現場責任者―中央実行委員会現地闘争本部藤原京一郎ということで、所轄佐世保警察署長に対し道路使用許可申請がなされ、許可条件(申請のコース中、ロータリー→上陸場→ロータリー(折り返し)のコースは通らないようにし、かつ情勢の変化により現場における協議によつて許可コースを変更することがあるとした外、9項目の条件と3項目の注意事項がつけられている。)を付したうえで、その許可がなされた。
[98](4) 右の道路使用許可申請のため佐世保警察署に赴いた右福岡醇次郎は、係官に対し、「右のデモ行進に全学連の学生は含まない。」と説明し、また、さきの17日および「2万人集会」の前日の20日に、佐世保警察署で行われた警察側と両実行委員会との協議の際に、警察側から、全学連の学生の動向次第では、主催者側との協議により、当日現場で、許可コースを変更することがありうる旨説明し、主催者側も了承し、前記のように、その旨の条件が付された。
[99](5) 被告人らの学生からは、当日のデモ行進につき、道路使用許可申請は全くなされていない。
[100](6) 被告人ら学生は、さきに認定したように17日から19日までの間にも極めて過激な行動に出ているうえ、当日の21日は、約450名の学生らが、午前10時ころ佐世保駅に到着し、国道35号線を通り、5列ないしは10列の隊列を組み、国道の左側半分ないしは道路いつぱいに広がつて、駆け足行進、蛇行進をするなどして、午前10時20分ころ松浦公園に到着した。
[101] ところが、そのころ、右松浦公園においては、前記の「2万人集会」が既に開催中で、右集会に参加中の中央実行委員会系の者約100名ぐらいが、公園の入口にピケを張り、「この学生集団を公園に入れるな。」などと罵声を浴びせて前記学生らの入場を阻止した。そのため双方でしばらく入場させるか否かをめぐつて押問答が続いた。そのすえ、両実行委員会は協議のうえ右学生らの入場を認めた。
[102] 右集会終了後、午後1時30分ころから、右集会参加者は予定のデモ行進に移つた。しかし、右学生らの集団は、右の集会参加者の一般労組員等のデモ隊とは全く別個の行動をとり、松浦公園→名切交差点(左折)→国道35号線→松浦交差点(左折)→国際通りのコースを通つて佐世保橋に至つた。当時右学生らは殆どヘルメツトをかぶり、デモ隊員の約3分の1にあたる約150名ぐらいの者が角材等を所持し、投石用の石塊を携帯したりし、その間リーダーが次々と「国家権力の機動隊と戦つて、基地に突入しよう。」「佐世保橋を突破しよう。」などとアジ演説を繰り返し、他の学生らはこれに呼応し、佐世保橋の手前に到着すると直ちに、折から橋の東詰で阻止線を張り、先に到着していた一般労組員等のデモ隊とデモコース変更につき交渉中の警察部隊に、角材を使用したり、投石などして攻撃を始めた。
[103](二) 以上の事実に基づけば、さきに、第七の二の(二)において述べたと同様に、当21日の前記両実行委員会の共催によるデモ行進に関してなした右警察署長の前記道路の使用の許可の効力は、被告人ら学生の本件デモ行進に及ぶわけがなく、また、被告人ら学生が自ら道路の使用の許可も受けていないこともさきに説示のとおりである。そうすると、警察側としては、右の道路交通法違反の行為を制止するとともに、被告人ら学生の前記一連の行動からして基地突入の虞も十分に予測されるところであるから、これに対し、何らかの対策を講じなければならないことは責務上当然のことである。そして、前記第八、第六において述べたと同一の理由から、佐世保橋を一時全面的に封鎖し、被告人ら学生集団のデモ行進を阻止したことに何らの違法も不当もない。そうであるならば、被告人らの本件所為が正当行為ないしは正当防衛として違法性を阻却するいわれはない。また、弁護人の主張する自力救済に該当しないことも明らかである。弁護人の主張は理由がないので採用しない。
一 主張の要旨
[104](一) 検察官は、被告人赤松、同水谷を刑事特別法(第2条)違反で起訴した。右刑事特別法は、安全保障条約第6条に基づき制定されたものである。しかしながら、右安全保障条約は、憲法9条、98条1項および前文の趣旨に違反し、ひいては、右刑事特別法2条も同様に憲法に違反し無効である。従つて、右法律によつて被告人両名を処罰することは許されない。
[105](二) 被告人ら両名が基地内に立ち入つたのは、エンタープライズ号の佐世保寄港に反対する正当な目的のためであり、しかも、既に述べたように、警察官が、被告人ら学生集団の正当なデモ行進を、佐世保橋を封鎖して妨害したため、やむなく佐世保川を渡り、基地に入る外なかつたものである。右は、正当防衛(刑法36条)ないしは緊急避難(同法37条)に該当するので、違法性を阻却する。
[106](三) 以上のように、右被告人両名の判示基地立入り行為は何ら違法性がなく、右基地立入り行為を違法視し、右特別法違反の現行犯人として、右両被告人を逮捕しようとした警察官の行為こそ違法である。そうであるから、被告人両名が、不当逮捕行為に出た判示警察官らに対し、実力で抵抗したとしても公務執行妨害罪は成立しない。

二 裁判所の判断
[107](一) 安全保障条約についての違憲の主張に関しては、既に最高裁判所が重ねて(昭和34年(あ)第710号、同年12月16日大法廷判決、最高裁判所判例集13巻13号3225頁および昭和41年(あ)第1129号、昭和44年4月2日大法廷判決、判例集二三巻五号六八五頁)判断を示している。その要旨は
「日米安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲であるか否かの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断にかかる点が少なくない。それ故、右違憲であるか否かの法的判断は、司法権の行使を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものである。従つて、違憲であることが一見極めて明白であるような場合を除き、みだりにこれを違憲無効のものと断定すべきではない。それは、第一次的には右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべきで、終局的には主権を有する国民の政治的批判に委ねられるものである。そして、右の安全保障条約は、憲法9条、98条2項および前文の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。さらにこのことは、右条約が違憲であるか否かが、刑事特別法2条が違憲であるかどうかの前提問題となつている場合の司法裁判所の審査権についても同様である。しかして、右安全保障条約(およびこれに基づくアメリカ合衆国軍隊の駐留)は憲法9条、98条2項および前文の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。」
というものである。
[108](二) 当裁判所は、本件につき、右の判旨と異なる見解を見出すことができないので(弁護人は憲法9条、98条1項および前文の趣旨に違反すると言い、条項に違いはあるものの、結論に差異はなく、右の判旨は、本件の主張にも妥当すると考える。)、すべては右の違憲無効を前提とする弁護人の各主張は、その余の点についての判断をするまでもなく理由がないので、採用しない。
[109](三) 正当防衛ないしは緊急避難の点については、既に縷々説示のとおり、1月21日の警察官の佐世保橋の封鎖は何らの違法も不当もないので、右行為が違法であることを前提とする右の主張は理由がない。
1 被告人Aにつき
(1) 一 宣告の日   昭和44年3月28日
  一 宣告裁判所  東京地方裁判所
  一 罪名     公務執行妨害
  一 刑期     懲役8月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和44年4月12日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京地方裁判所昭和44年3月28日宣告判決書謄本

2 被告人Cにつき
(1) 一 宣告の日   昭和48年12月13日
  一 宣告裁判所  京都地方裁判所
  一 罪名     暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害
  一 刑期     懲役4月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和49年10月17日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 京都地方裁判所昭和48年12月13日宣告判決書謄本

3 被告人Dにつき
(1) 一 宣告の日   昭和45年12月24日
  一 宣告裁判所  東京高等裁判所
  一 罪名     公務執行妨害
  一 刑期     懲役6月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和46年1月8日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京高等裁判所昭和45年12月24日宣告判決書謄本

4 被告人Fにつき
(1) 一 宣告の日   昭和44年3月4日
  一 宣告裁判所  東京地方裁判所
  一 罪名     公務執行妨害
  一 刑期     懲役10月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和33年3月19日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京地方裁判所昭和44年3月4日宣告判決書謄本

5 被告人Hにつき
(1) 一 宣告の日   昭和41年6月28日
  一 宣告裁判所  横浜地方裁判所
  一 罪名     昭和25年神奈川県条例第69号集会集団行進及び集団示威運動に関する条例違反、道路交通法違反、公務執行妨害、傷害
  一 刑期     懲役8月
  一 執行猶予期間 3年
  一 確定の日   昭和43年8月3日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 横浜地方裁判所昭和41年6月28日宣告判決書謄本

6 被告人Iにつき
(1) 一 宣告の日   昭和46年11月15日
  一 宣告裁判所  福岡地方裁判所
  一 罪名     公務執行妨害、傷害
  一 刑期     懲役6月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和46年11月30日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 福岡地方裁判所昭和46年11月15日宣告判決書謄本

7 被告人Kにつき
(1) 一 宣告の日   昭和43年4月26日
  一 宣告裁判所  大阪高等裁判所
  一 罪名     建造物侵入
  一 刑期     懲役3月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和43年5月11日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 大阪高等裁判所昭和43年4月26日宣告判決書謄本

8 被告人Lにつき
(1) 一 宣告の日   昭和47年4月25日
  一 宣告裁判所  東京高等裁判所
  一 罪名     兇器準備集合、同結集、公務執行妨害、傷害、建造物侵入未遂
  一 刑期     懲役10月(未決勾留日数180日算入)
  一 確定の日   昭和48年4月7日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京高等裁判所昭和47年4月25日宣告判決書謄本

9 被告人Mにつき
(1) 一 宣告の日   昭和44年1月23日
  一 宣告裁判所  東京地方裁判所
  一 罪名     公務執行妨害
  一 刑期     懲役6月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和44年6月10日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京地方裁判所昭和44年1月23日宣告判決書謄本

10 被告人Nにつき
(1) 一 宣告の日   昭和46年2月4日
  一 宣告裁判所  東京地方裁判所
  一 罪名     公務執行妨害、傷害
  一 刑期     懲役1年
  一 執行猶予期間 3年
  一 確定の日   昭和46年2月25日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京地方裁判所昭和46年2月4日宣告判決書謄本

11 被告人Oにつき
(1) 一 宣告の日   昭和48年1月29日
  一 宣告裁判所  広島高等裁判所
  一 罪名     鉄道営業法違反、威力業務妨害
  一 刑期     懲役4月および科料900円
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和48年2月13日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 広島高等裁判所昭和48年1月29日宣告判決書謄本

12 被告人Pにつき
(1) 一 宣告の日   昭和45年5月20日
  一 宣告裁判所  東京地方裁判所
  一 罪名     住居侵入
  一 刑期     懲役6月
  一 執行猶予期間 2年
  一 確定の日   昭和45年6月4日
(2) 右事実を認める証拠
  一 検察事務官作成の同被告人の前科調書
  一 東京地方裁判所昭和45年5月20日宣告判決書謄本
1 被告人Aにつき
一 罰条
判示第一の一の事実につき
刑法60条、208条の2第1項、罰金等臨時措置法3条1項1号(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
判示第一の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

2 被告人Bにつき
一 罰条
判示第一の一の事実につき
刑法60条,208条の2第1項、罰金等臨時措置法3条1項1号(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
判示第一の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪が併合罪の関係に立つ点につき
刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

3 被告人Cにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ちまだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

4 被告人Dにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

5 被告人Eにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪が併合罪の関係に立つ点につき
刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

6 被告人Fにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあった罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

7 被告人Gにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪が併合罪の関係に立つ点につき
刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

8 被告人Hにつき
一 罰条
判示第二の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪が同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ていない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第二の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

9 被告人Iにつき
一 罰条
判示第二および第四の各一の事実につき
いずれも刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第二および第四の各二の事実につき
いずれも包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(最も刑ないし犯情の重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

10 被告人Jにつき
一 罰条
判示第三の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第三の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪が併合罪の関係に立つ点につき
刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第三の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

11 被告人Kにつき
一 罰条
判示第五の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
判示第六の一の事実につき
刑法60条、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法2条、罰金等臨時措置法4条、(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
判示第六の二の事実中、公務執行妨害の点につき包括して刑法60条、95条1項、傷害の点につき同法60条、204条、罰金等臨時措置法3条1項1号(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
二 科刑上一罪の処理
判示第六の公務執行妨害と傷害が1個の行為で2個の罪名に触れる場合である点につき
刑法54条1項前段、10条(一罪として重い傷害罪の刑で処断する。)
三 刑種の選択
右各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択する。
四 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ちまだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(最も重い判示第六の二の傷害罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

12 被告人Lにつき
一 罰条
判示第五の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
判示第六の一の事実につき
刑法60条、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法2条、罰金等臨時措置法4条、(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
判示第六の二の事実中、公務執行妨害の点につき包括して刑法60条、95条1項、傷害の点につき同法60条、204条、罰金等臨時措置法3条1項1号(刑法6条、10条により昭和47年法61号による改正前のもの)
二 科刑上一罪の処理
判示第六の公務執行妨害と傷害が1個の行為で2個の罪名に触れる場合である点につき
刑法54条1項前段、10条(一罪として重い傷害罪の刑で処断する。)
三 刑種の選択
右各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択する。
四 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ちまだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(最も重い判示第六の二の傷害罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

13 被告人Mにつき
一 罰条
判示第五の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
右の罪と同被告人の前記確定裁判のあつた罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示の罪につきさらに処断する点につき
刑法45条後段、50条
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

14 被告人Nにつき
一 罰条
判示第五の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
右の罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ちまだ裁判を経ない判示の罪につきさらに処断する点につき
刑法45条後段、50条
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

15 被告人Oにつき
一 罰条
判示第五の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
右の罪と同被告人の前記確定裁判のあつた各罪とが併合罪の関係に立ちまだ裁判を経ない判示の罪につきさらに処断する点につき
刑法45条後段,50条
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

16 被告人Pにつき
一 罰条
判示第四の一の事実につき
刑法60条、道路交通法119条1項12号、77条1項4号、長崎県道路交通法施行細則(昭和47年3月23日長崎県公安委員会規則第4号)附則2、3号により長崎県道路交通法施行細則(昭和35年12月16日公安委員会規則第10号)15条3号
判示第四の二の事実につき
包括して刑法60条、95条1項
二 刑種の選択
右各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑を選択する。
三 併合罪の処理
以上の各罪と同被告人の前記確定裁判のあつた罪とが併合罪の関係に立ち、まだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断する点につき
刑法45条前段、後段、50条、47条本文、10条(重い判示第四の二の罪の刑に同法47条但書の範囲内で法定の加重をする。)
四 刑の執行猶予
刑法25条1項
五 訴訟費用の処理
訴訟費用を負担させない点につき
刑事訴訟法181条1項但書

 よつて、主文のとおり判決する。
長崎県道路交通法施行細則
(昭和35年同県公安委員会規則第10号。同47年同県公安委員会規則第4号による廃止前のもの)

第15条 法第77条第1項第4号の規定により、署長の許可を受けなければならないものとして定める行為は、次の各号に掲げるものとする。
(1) 道路にみこし、だし、おどり屋台等を出し、又はこれらを移動すること。
(2) 道路においてロケーション、撮影会又は街頭録音会をすること。
(3) 道路において祭礼行事、競技会、仮装行列、パレードその他の集団行進(学生生徒又は園児の遠足、見学、修学旅行の場合の行列及び通常の冠婚葬祭の場合の行列を除く。)をすること。
(4) 道路に人が集まるような方法で、演説、演芸、奏楽、映写等をし、又は拡声器、ラジオ、テレビジヨン等の放送をすること。
(5) 道路において消防、避難、救護その他の訓練を行なうこと。
(6) 道路において、旗、のぼり、看板、あんどん、その他これらに類するものを持ち、若しくは楽器を鳴らし、又は特異な装いをして、広告又は宣伝をすること。
(7) 広告、又は宣伝のため、車両等に著しく人目をひくような特異な装飾その他の装いをして通行すること。
(8) 車両等に拡声器、ラジオ受信機等を備えつけて放送しながら通行すること。
(9) 道路において、人が集まるような方法で寄付を募集し、若しくは署名を求めること。
(10) 交通のひんぱんな道路に広告、宣伝等の宣伝物、印刷物を撒布し又は交通のひんぱんな道路において、通行する者にこれを交付すること。

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