議員定数不均衡訴訟 参議院選挙区違憲状態判決(平成26年)
第一審判決

選挙無効事件
東京高等裁判所 平成25年(行ケ)第83号
平成25年12月25日 第23民事部 判決

口頭弁論終結日 平成25年10月30日

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


1 原告らの請求をいずれも棄却する。ただし,平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区及び神奈川県選挙区における選挙は,いずれも違法である。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。

1 原告A,同B,同C,同D,同E及び同F(以下「原告Aら」という。)の請求
(1) 平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区における選挙を無効とする。
(2) 訴訟費用は被告東京都選挙管理委員会の負担とする。

2 原告Gの請求
(1) 平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の神奈川県選挙区における選挙を無効とする。
(2) 訴訟費用は被告神奈川県選挙管理委員会の負担とする。
[1]1 本件は,平成25年7月21日に行われた参議院議員通常選挙における選挙区選出議員の選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区又は神奈川県選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づいて提起した選挙無効訴訟である。
[2](1) 本件選挙において,原告Aらは東京都選挙区の選挙人であり,原告Gは神奈川県選挙区の選挙人であった。

[3](2) 本件選挙は,平成24年法律第94号によって改正された公職選挙法14条,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)に従って,平成25年7月21日に施行された。

[4](3) 本件選挙当日の選挙区ごとの選挙人数及び本件定数配分規定における議員定数は,別紙「参議院選挙区別 有権者数,定数,較差」に記載のとおりであり,議員一人当たりの選挙人数の較差は,最小の鳥取県選挙区を1とすると,北海道選挙区が最大の4.77(較差に関する数値は,全て小数点以下第3位で四捨五入した概数で示す。)であり,原告Aらの属する東京都選挙区は4.47,原告Gの属する神奈川県選挙区は3.82であった(乙1)。

(4) 参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「参議院議員定数配分規定」という。)の変遷
ア 制定当初
[5] 昭和22年に制定された参議院議員選挙法は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとする仕組みを採用した。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,後記イの平成6年改正まで,上記議員定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,従来の個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
イ 平成6年法律第47号による改正(以下「平成6年改正」という。)
[6] 選挙区間における議員一人当たりの人口の最大較差(以下「最大較差(人口)」という。)は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが,その後,次第に拡大し,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差(以下,単に「最大較差」という。)は1対6.59となった。平成6年改正は,上記のように拡大した較差を是正する目的で行われ,上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,有権者数の少ない選挙区により多くの議員定数が配分されるという,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものである。平成6年改正の結果,平成2年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は,1対6.48から1対4.81に縮小した。
ウ 平成12年法律第118号による改正(以下「平成12年改正」という。)
[7] 平成12年改正は,比例代表選出議員の選挙制度をいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改めるとともに,参議院議員の総定数を10人削減して242人とするものであった。定数削減に当たっては,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,平成7年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は,改正前と変わらず1対4.79であった。
エ 平成18年法律第52号による改正(以下「平成18年改正」という。)
[8] 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で,平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対5.06であり,平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」という。)当時の最大較差は1対5.13であった。平成18年改正は,上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区の較差の是正を図ることを目的とし,4選挙区で定数を4増4減したものである。平成18年改正の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は,1対4.84となった。
オ 平成24年法律第94号による改正(以下「平成24年改正」という。)
[9] 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の最大較差は1対4.86,平成22年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)当時の最大較差は1対5.00であった。平成24年改正は,上記選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,本件選挙に向けて較差の是正を図るため,4選挙区で定数を4増4減したものである。平成24年改正の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による最大較差(人口)は,1対4.75となった。平成24年改正の附則3条には,「平成28年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする。」との規定が置かれている。

(5) 参議院議員定数配分規定の憲法適合性に関する最高裁判所大法廷判決
ア 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)
[10] 昭和58年大法廷判決は,昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差が1対5.26であったところ,次の判断枠組みの下に,いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示した。
[11] 憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等を要求していると解するのが相当であるが,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会は,正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしゃくして,その裁量により選挙制度の仕組みを決定することができる。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになってもやむを得ない。
[12] 公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた選挙制度の仕組みは,国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとはいえない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口異動の結果,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらず,これを是正する措置を講じないことが,上記人口異動をいつどのような形で選挙区割り,議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題が複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもなお,その許される裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
イ 最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以下「平成8年大法廷判決」という。)
[13] 平成8年大法廷判決は,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差が1対6.59であったところ,昭和58年大法廷判決が示した上記判断枠組みの下で,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないとしたが,上記程度に達したかどうかの判定は複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界に関わる困難なものであり,かつ,上記程度に達したと解される場合においても,どのような形で改正するかについてなお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経る必要があること,また,同選挙当時まで最高裁判所が参議院議員定数配分規定につき違憲状態にあるとの判断を示したことはなかったことなどを考慮して,結論において,同選挙までの間に国会が参議院議員定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって,立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難であるとして,同規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
ウ 最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁
[14] 平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において,平成7年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対4.97,平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対4.98であったところ,上記各大法廷判決は,いずれも上記判断枠組みの下で,平成6年改正により残った較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず,同改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
エ 最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)
[15] 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は1対5.06であったところ,平成16年大法廷判決は,平成12年改正は憲法が選挙制度の具体的な仕組みの決定につき国会に委ねた立法裁量権の限界を超えるものではなく,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。そして,この多数意見を構成した裁判官9名のうち5名は,従前の判断枠組みを採用した補足意見を付したが,4名は,結果的に極めて広範な立法裁量の余地を是認してきた従来の枠組みに従うことはできないとし,仮に次回選挙においても漫然と現在の状況が維持されるならば,立法府の義務に適った裁量権の行使がされなかったものとして,違憲判断がされる余地は十分に存在すると指摘する補足意見を付した。
[16] また,平成16年大法廷判決には,上記議員定数配分規定は憲法に違反するものであることが明らかであるとする6名の裁判官の反対意見が付された。
オ 最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)
[17] 上記平成12年改正後の議員定数配分規定の下で施行された平成16年選挙当時の最大較差は1対5.13であったところ,平成18年大法廷判決は,平成16年大法廷判決の言渡しから平成16年選挙までの期間は約6か月で,その間,参議院では協議会を設けて定数較差の是正について議論を行い,平成16年選挙後には平成18年改正がされたことなどの事情を考慮し,平成16年選挙までの間に上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず,平成16年選挙当時,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。その上で,平成18年大法廷判決は,
「投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそう」
と指摘した。
[18] 平成18年大法廷判決には,上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判官の反対意見が付された。
カ 最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)
[19] 平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で施行された平成19年選挙当時の最大較差は1対4.86であったところ,平成21年大法廷判決は,平成19年選挙は平成18年改正の約1年2か月後に上記議員定数配分規定の下で施行された初めての選挙であり,平成16年選挙に比べて最大較差は縮小したものとなっていたこと,平成19年選挙後に参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど,定数較差の問題について今後も検討が行われることとされていること,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要することは否定できないことなどを考慮して,平成19年選挙までの間に上記議員定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,平成19年選挙当時,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示した。その上で,平成21年大法廷判決は,
「平成18年改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。」,「現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うことについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相当の時間を要することは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる。」
と指摘した。
[20] 平成21年大法廷判決には,上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする5名の裁判官の反対意見が付された。
キ 最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)
[21] 上記平成18年改正後の議員定数配分規定の下で2度目に施行された平成22年選挙当時の最大較差は1対5.00であったところ,平成24年大法廷判決は,
「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っている」こと,「このことは(中略)平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたところであり,平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていた」こと,「それにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正が行われることなく,平成22年選挙に至った」こと
などを考慮し,平成22年選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとしたが,
「平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり」,「選挙制度の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要すること」,「参議院において,同判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと(なお,平成22年選挙後に国会に提出された公職選挙法の一部を改正する法律案は,単に4選挙区で定数を4増4減するものにとどまるが,その附則には選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている。)」
などを考慮し,平成22年選挙までに上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示した。その上で,平成24年大法廷判決は,
「国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,先に述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」
と指摘した。
[22] 平成24年大法廷判決には,上記議員定数配分規定は憲法に違反するとする3名の裁判官の反対意見が付された。
(1) 本件定数配分規定は,議員定数の人口比例配分原則に違反し,違憲であること
[23] 国会の議決は多数決により決せされるのであるから,国会において各議員が投ずる1票は,同価値でなければならない。同価値とは,各議員を選出する母体人口が同じということである。すなわち,議員定数が人口に比例して配分されず,各議員を選出する母体人口が異なるものとなった場合,各議員が国会において投ずる一票は同価値であるといえず,国会において決定される意思は,国民の意思を正しく反映しないものとなる。
[24] 昭和22年に制定された参議院議員選挙法が,地方区選出議員選挙につき各都道府県を選挙区単位とし,昭和21年の人口調査に基づく各選挙区の人口に比例して議員定数を偶数配分して以来,人口の都市への過剰な移動により,議員定数配分が人口に比例したものとならなくなっているにもかかわらず,国会はその改善を怠っている。
[25] 本件定数配分規定は,参議院議員の選挙区選出議員の定数を人口に比例して配分しておらず,憲法が規定する代議制民主主義(憲法前文,1条43条1項)及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障(憲法15条1項,14条1項,44条ただし書)に反し,違憲である。

(2) 都道府県を単位とする選挙区は改正すべきであること
[26] 現在の人口分布状況においては,もはや,146名の参議院選挙区選出議員につき都道府県を選挙区単位として定数を偶数配分し,その半数ずつを改選するという現行の選挙制度の仕組みを維持することはできない。このことは,既に平成17年国勢調査により明らかとなっていた。
[27] 議員定数の不平等の判断基準として,議員1人当たりの人口が最大となる選挙区と最小となる選挙区を取出し,その倍率すなわち「較差」を求める手法(較差論)は,そもそも現在の人口分布状況においては人口比例配分が不可能となっているといった重大な問題を隠蔽し,「較差」を少しでも縮小すれば定数是正問題が解決したかのような錯覚を与えるものであるから,これを用いるべきでない。議員定数配分規定が憲法に違反するかどうかの判断方法としては,配分議員数に必要な人数と選挙区人口とを比較して,その過不足人数が基準人数を超過しているか否かを検討すべきである。これによれば,平成6年改正後の参議院議員定数配分規定は全て憲法違反であり,平成24年改正も,違憲状態を解消していない。
[28] 最高裁判所も,平成18年大法廷判決以降,定数配分是正のためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを必要とする立法的措置を講ずる必要があることを指摘し続けており,特に平成24年大法廷判決では,「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず」として,いわゆる何増何減といった場当たり的な較差縮小のための弥縫策を制止し,
「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改める」
といった,選挙区の単位を都道府県とすることの撤廃にまで踏み込んだ判示をしている。

(3) 国会における法改正の動きは最高裁判所の意見を無視していること
[29] 参議院においては,平成19年選挙後の同年12月から参議院改革協議会において検討が始まり,平成20年6月,同協議会に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同年12月から選挙制度の抜本的改革について協議が行われたが,具体策は実らず,平成22年5月,平成22年選挙後に平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて選挙制度の見直しを行う旨の報告書が提出されるにとどまった。
[30] 平成22年選挙後,H参議院議長の下で選挙制度の改革に関する検討会が開かれ,同年12月,H議長自ら,全国を9ブロックの選挙区に分ける改定案を提示し,また,民主党は,選挙区を衆議院と同様に全国で11ブロックとする改革案を提示した。その他,各会派からも軒並み改革案が提示された。
[31] しかし,平成24年7月12日,J参議院議長の下で設置された協議会において,K座長から定数を4増4減する私案が提示され,同年8月28日,民主党及び自民党より座長私案に沿った内容の公職選挙法の一部を改正する法律案が参議院に提出され,参議院は,平成24年大法廷判決言渡し後の同年11月,同法律案を可決し,本件定数配分規定を成立させた。
[32] 以上のような経緯に鑑みれば,是正のための合理的期間は徒過しており,本件定数配分規定は違憲無効といわざるを得ない。そして,参議院の場合,議員は半数ずつ改選されるのであるから,たとえ選挙を無効としても非改選であった半数の議員は残るのであるから,裁判所は事情判決をすることなく,本件選挙の無効を宣言すべきである。
(1) 都道府県単位の仕組み自体を見直すことは国民的な議論を重ねる必要があること
[33] 平成24年大法廷判決は,都道府県を各選挙区の単位として定数を定める仕組み自体を見直すことが必要になると判示したが,このような見直しには,国民的な議論を踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要する。定数配分に関する世論や民意の反映,取り分け地方の声をいかにして国会に正当に反映させるかといった観点も,国会が正当に考慮し得る政策的目的である。平成24年大法廷判決も,投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである旨,累次の大法廷判決と同様の判断をしている。
[34] そもそも憲法は,衆議院及び参議院がそれぞれの構成を異なるものとし,異なる特色を持った議院として機能することを予定した上で,国会において,投票価値の平等の要求以外にも,参議院の独自性など,国民各自・各層の様々な利害や意見を議会に公正かつ効果的に反映させるという目的を達成するために合理的と認められる政策的目的ないし理由をも考慮して,その裁量により適切な選挙制度を定めることができるものとした趣旨と解するのが相当であり,憲法は,二院制の趣旨を両議院の組織や選出方法にどのように反映させ,参議院独自の性格をいかに創出するかについては,法律事項として国会に委ねている。そうである以上,この点から参議院の在り方を検討することも,憲法の要請というべきである。
[35] 投票価値の平等を可及的に実現するという観点から,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式を改めることが一つの方法として掲げられる一方で,それとは矛盾相克するところのある参議院の独自性,地域代表的な性格を重視する意見等,幅広い国民的議論が存するのであって,両者の間には無数の選択肢があり得る。しかも,都道府県を単位とする現行の選挙制度の仕組み自体は,国民の間に深く浸透し,近年まで合理的なものとして定着してきたのであるから、その適否をめぐっては,相応の慎重さをもって検討すべきであり,より憲法に適合的な代表制の在り方を模索する合理的な過程を経る必要がある。

(2) 平成24年改正により最大較差が4.77倍まで縮小したことも正当に評価されるべきこと
[36] 平成24年改正の結果,本件選挙時の最大較差は,平成22年選挙時の1対5.00と比べて縮小して1対4.77となり,また,いわゆる逆転現象もなくなった。のみならず,かねて参議院議員定数配分規定について最高裁判所が違憲状態にないと判断した最大較差1対5.26(昭和58年大法廷判決),1対5.85(昭和62年(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号65頁),1対5.06(平成16年大法廷判決),1対5.13(平成18年大法廷判決),1対4.86(平成21年大法廷判決)等を下回り,昭和22年の参議院議員の選挙制度発足以降に施行されてきた参議院議員通常選挙の中で,昭和40年施行の選挙時における1対4.58以来の水準にまで縮小されたということができる。

(3) 本件選挙までに立法措置が講じられなかったことは立法裁量権の限界を超えるものとはいえないこと
[37] 平成24年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みを維持することが投票価値の不平等という点で違憲の問題を生じさせることを初めて明示したものである。本件選挙は,平成24年大法廷判決の言渡しから9か月余り後に施行されたものであり,同判決において指摘されたような抜本的改革を内容とする立法的措置を講じる期間としては余りに短い。加えて,平成24年改正の附則3条においては,平成28年施行の選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得る旨が定められている。平成24年大法廷判決においては,上記改正の法律案も考慮されており,本件定数配分規定の下で施行されることが予想されていた本件選挙について,国会の裁量権の限界を超えると判断されることは予定していないというべきである。
[38] 現に国会においては,本件選挙の前後を通じ,選挙制度の改革に向けた工程を確実に,かつ,相応の迅速さをもって進めている状況にある。すなわち,本件選挙までに,「選挙制度の改革に関する検討会」及びその下に設置された選挙制度協議会において協議が重ねられ,各会派の了承を得るまでには至らなかったものの,工程表を取りまとめる段階にまで至っていた。また,本件選挙後においても,選挙制度の改革に関する検討会を発足させ,同検討会の下に選挙制度協議会を設置して協議が開始されており,議論が進展していくことが十分に見込まれる状況にある。
[39] 以上の事情を総合考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとまではいえない。
[40] 証拠(甲7ないし9,13ないし15,乙1,2,4ないし7,10ないし19〔枝番の記載は省略する。〕)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年改正及び平成24年改正が行われた経緯等に関し,次の事実が認められる。

[41](1) 平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,同年7月施行の平成16年選挙までの間に較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,平成16年選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。参議院は,平成16年選挙後の同年12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会を設け,同委員会において定数較差問題について協議を行った。同委員会では,@現行の選挙制度の仕組みを維持しつつ,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案,A4倍前半まで較差の是正を図ることを考慮し,その選択肢として14増14減まで含めて検討する案のほか,B較差を4倍未満とするためには,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるとして,都道府県単位の選挙区の合区を検討する案,C全国を10程度の選挙区とすることを検討する案など,各種の是正案が検討されたが,平成17年10月,平成19年選挙に向けた当面の是正策としては上記の4増4減案が有力な意見であるとする報告書が取りまとめられた。同報告書には,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとの意見が記載された。また,平成19年選挙に向けての較差是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要がある旨が記載された。
[42] 参議院改革協議会は,上記報告書の提出を受けて検討を行ったものの,報告書の取扱いについて合意に至らず,平成18年2月,参議院議長にその旨報告した。
[43] このような経緯を踏まえ,いわゆる4増4減案に基づく改正案が提出され,平成18年改正に至った。

[44](2) 参議院は,平成19年選挙後,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会における合意を受け,平成19年12月4日に開催された参議院改革協議会において選挙制度の抜本的見直しにつき議論・検討を行うこととし,平成20年6月9日,参議院改革協議会の下に「参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)」を設置した。同委員会は,同年12月から平成22年5月までの約1年半の間に6回の協議を行い,同月14日,報告書を上記協議会に提出した。
[45] 同報告書の内容は,平成18年改正の経緯及び内容,学識経験者の意見聴取の結果のほか,上記協議の間に言い渡された平成21年大法廷判決において,
「大きな不平等が存する状態であり,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる」,「現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うことについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ない」
と指摘されたことなどを踏まえ,協議を行った結果,平成22年選挙に向けた定数較差の是正は見送り,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて選挙制度の見直しを行うこととするというものであった。そして,同報告書には,選挙制度の仕組みの見直しの必要性について委員の間に共通の理解ができたこと,専門委員長から示された「今後の大まかな工程表」が了承されたことが記載された。同工程表は,平成22年選挙後,専門委員会を立ち上げ,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて改正案の検討に入り,平成23年には改正案の取りまとめを行い,参議院改革協議会の議を経て,平成23年中に公職選挙法改正案を提出するというものであり,同報告書には,平成22年選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を参議院改革協議会において決定する必要があることについて,各委員の意見が一致したと記載された。
[46] 参議院改革協議会は,平成22年5月21日,上記報告を了承し,これを同協議会の報告として,参議院議長に提出した。

[47](3) 参議院は,平成22年選挙後,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会における合意を受け,同年12月,正副議長及び各会派の代表により構成される「選挙制度の改革に関する検討会」を設置し,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて選挙制度の見直しの検討を開始した。参議院議長からは,改革の検討の基礎となる案として,第1回検討会において,選挙区につき全国を11ブロックに分ける案が,さらに第2回検討会においてその改定案として全国を9ブロックに分ける案が提示されるなどして,平成23年に改正案を成立させることが目指されていたが,各会派から様々な是正案が発表され,協議が続けられた。その中には,上記のような全国をブロックに分ける案や,選挙区につき合区を含めた都道府県選挙区制と全国比例代表制として定数削減を図り,較差を3倍以内とする案のほか,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けては都道府県単位の選挙区を維持して選挙区間の一票の較差を4.5倍以内とし,平成28年以降の選挙に向けて選挙制度の根幹を含む抜本的見直しに係るプログラム規定を盛り込むという案もあった。
[48] 同検討会は,平成23年12月,実務的な協議を行うため同検討会の下に選挙制度協議会を設置し,同協議会において,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて会期中に成案を得る必要があるとの共通認識の下,平成24年7月までの間に計11回の協議が行われた。その間,同協議会座長から,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けた当面の是正策として,較差5倍を下回る状態とするためにいわゆる4増4減を行い,改正案の附則に平成28年施行の選挙に向けて,選挙区の広域化,その他の選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行うという規定を盛り込むという私案も提示されたが,結局,全会派の合意は得られなかった。
[49] 平成24年7月30日,選挙制度の改革に関する検討会において,選挙制度協議会から上記協議の経過及び結果が報告され,報告について各会派から賛否が述べられ,上記の座長私案に賛成する会派が法案化に着手することになった。
[50] そして,いわゆる4増4減の公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出され,同法律案は,平成24年大法廷判決後の同年11月16日に成立し,同月26日に公布,施行された(平成24年改正)。

[51](4) 平成24年改正から本件選挙までの間,選挙制度協議会において今後の進め方につき3回の協議が行われ,平成25年6月19日,同協議会座長から上記検討会への報告が行われ,平成28年施行の選挙に向けた「今後の大まかな工程表(私案)」が提示された。同工程表は,平成25年から平成26年にかけて協議機関における協議及び各会派における検討を行い,同年に選挙制度の見直し案を取りまとめ,協議機関の報告書を決定し,平成27年に法案を提出するというものである。
[52] 参議院は,本件選挙後の平成25年9月12日,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会における合意を受け,参議院議員選挙の定数較差問題について抜本的見直しに取り組むため,「選挙制度の改革に関する検討会」を設置し,実務的な協議を行うため,同検討会の下に選挙制度協議会を設置することとした。そして,同検討会において,上記工程表を基本にして協議を進める方針が示され,同月27日,第1回選挙制度協議会が開催され,今後週1回の頻度で会合を開いて有識者からの意見聴取等を行っていくことが確認された。
[53](1) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求している。しかし,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
[54] 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解され,昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法が,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員と地方選出議員に分け,前者については全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを定めたことについては,国会の有する裁量権の行使として合理性を有していたということができる。
[55] しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
[56] 以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところである。

[57](2) そして,上記裁量権の行使としての合理性を検討するに当たっては,長年にわたる制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。参議院と衆議院の各選挙制度の変遷を見ると,両者は結果として同質的な選挙制度となっていること,このような選挙制度の変遷と急速に変化する社会情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなっていること,加えて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,衆議院については選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることに照らすと,参議院についても,二院制に係る憲法の趣旨との調和,すなわち,議院内閣制の下で,限られた範囲について衆議院の優越を認め,機能的な国政の運営を図る一方,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,参議院議員の任期をより長期とすることによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたということとの調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められているというべきである。
[58] 参議院においては,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることなく,数十年にわたり5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。しかし,都道府県を選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定した結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,その仕組み自体を見直すことが必要になるというべきであり,他に,数十年間の長期にわたり上記のような大きな較差が継続することを正当化する特別の理由は見いだせない。平成16年,平成18年及び平成21年の各大法廷判決において,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも,較差が5倍前後で推移する中で上記のような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものである。
[59] したがって,参議院議員選挙について,都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを維持しながら,憲法上要求された投票価値の平等の実現を図ることは,もはや著しく困難な状況に至っているというべきである。

[60](3) 以上は,平成24年大法廷判決によって示されたところであり,同判決は,上記判断基準の下,平成18年改正後に法改正が行われないまま施行された平成22年選挙当時の選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判断した。
[61](1) 本件定数配分規定は,平成24年改正により定められたものであるところ,平成24年改正は,従前の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,4選挙区で定数を4増4減して較差の是正を図ったものであり,その結果,平成22年選挙当時1対5.00であった最大較差が,本件選挙当時には4.77に縮小した(前提事実)。
[62] しかし,上記のとおり,参議院議員選挙について都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら憲法上要求された投票価値の平等の実現を図ることはもはや著しく困難な状況に至っているというべきであり,そうであるにもかかわらず,平成24年改正は,選挙制度の仕組み自体を改めず,その結果,本件選挙当時,なお最大1対4.77という大きな較差が残っていたのである。そして,前記認定の平成24年改正に至る協議の過程を見ても,選挙制度の仕組み自体を改めず,5倍前後の較差を維持することを正当化すべき特別の理由は見当たらない。
[63] したがって,平成24年改正は,人口変動をいつどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかについては種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景として行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもなお,国会が有する裁量権の行使として合理性を欠くというべきであり,本件選挙当時において,平成24年改正によっても残った最大1対4.77という較差が示す選挙区間の投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ないものというほかない。

[64](2) もっとも,選挙制度の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど課題も多く,その検討に相応の時間を要することから,本件選挙までに選挙制度の仕組みを改め,憲法の要求する投票価値の平等の実現を図らなかったことが,合理的期間内における是正が行われなかったものとして,国会に与えられた裁量権の限界を超えたものというべきかについては,更に検討を要し,その判断に当たっては,単に期間の長短のみならず,採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項等の諸般の事情を総合考慮して評価すべきである。
[65] 前記前提事実及び認定事実によれば,@国会は,平成16年大法廷判決を受けて,参議院において定数較差問題につき協議を開始し,平成16年選挙後に参議院改革協議会の下に設置した専門委員会において,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しの要否も含め,各種の是正案を検討したこと,Aしかし,参議院改革協議会において合意を形成することはできず,当面の是正策として挙げられていたいわゆる4増4減案に基づき,平成18年改正が行われたこと,B参議院は,平成19年選挙後,選挙制度の抜本的見直しを議論・検討する必要があるとして,参議院改革協議会の下に新たに専門委員会を設置したが,平成22年選挙までの間に行われた協議は6回のみで,その間,選挙制度の抜本的見直しについて実質的な検討が進められたとはいい難いこと,Cただし,上記専門委員会は,その間に平成21年大法廷判決が言い渡されたことを踏まえ,平成25年施行の選挙(本件選挙)に向けて選挙制度の見直しを行うことについて意見が一致し,平成22年5月,参議院改革協議会においてもその報告書が了承され(同協議会の報告として参議院議長に提出された。),現に,平成22年選挙後,選挙制度の改革に関する検討会において,参議院議長からたたき台が提示されるなどして具体的な検討が行われたこと,Dところが,その後,平成25年施行の選挙に向けては現行の選挙制度を維持するという案が提出されるなどして,再度当面の是正策として平成24年改正が行われたことが認められる。
[66] このような経過に照らせば,国会は,平成16年大法廷判決後,参議院において,憲法上要求された投票価値の平等の実現を図るため,他の政策的目的ないし理由との調和の下にいかなる選挙制度を採るかについて,その仕組み自体の見直しの要否を含めた検討・協議を行い,当面の是正策として平成18年改正を行った上で更に協議の場を設けていたところ,平成21年大法廷判決において,上記改正によっても残ることとなった投票価値の大きな不平等を解消するためには選挙制度の見直しが必要であることを強く指摘されたことを受けて,遅くとも平成22年5月の段階で,最大較差の大幅な縮小を図るための選挙制度の見直しの必要性とその実現可能性があることを前提に,本件選挙に向けて選挙制度の改革を行うことを合意したということができる。そうであるにもかかわらず,国会は,平成16年大法廷判決から8年以上,平成21年大法廷判決から3年以上の期間が経過してもなお,選挙制度の見直しの具体的内容について各会派の意見の一致を見ないという理由で,本件選挙に向けた選挙制度の見直しを見送り,またもや当面の是正策にすぎない4増4減案に基づく改正を行った。そして,その改正によっても,各選挙区間における選挙人の投票価値の較差は,最大値において,平成21年大法廷判決で「大きな不平等が存する状態である」とされた4.86とほとんど変わらない4.77となったにすぎない。
[67] 確かに,選挙制度の仕組み自体の見直しについては,その具体案の策定,合意の形成等に様々な困難を伴うほか,新たな選挙管理事務体制の検討等にも相応の時間を要するものと考えられる。しかし,上記のとおり,国会においては,平成16年大法廷判決後に参議院改革協議会の下に設けられた専門委員会において,既に,較差を4倍未満とするためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるとして,都道府県単位の選挙区の合区を行う案等の検討も始めており,「平成18年改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。」とした平成21年大法廷判決後には,その実現可能性を前提に,平成25年に施行される本件選挙に向けて選挙制度の改革を行う旨の合意がされたのである。そして,本件選挙に向けた選挙制度の見直しを見送ったことについては,各会派の意見の一致を見ないということのほかに説明はなく,被告らからもその具体的理由の主張はない。また,平成24年大法廷判決後,本件選挙までに,国会において選挙制度の見直しについて具体的な検討が進められていることはうかがわれない。
[68] そうすると,本件選挙に向けた選挙制度の見直しを見送り,当面の是正策にすぎない4増4減案に基づく改正を行った国会の対応は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない選挙区間の投票価値の不均衡につき合理的期間内に是正をしなかったものとして,国会に与えられた裁量権の限界を超えているというべきであり,本件定数配分規定は本件選挙時には憲法に違反するに至っていたというべきである。
[69] なお,平成24年改正の附則には,平成28年に行われる参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得る旨の規定がある。しかしながら,前記認定のとおり,本件選挙後,協議会が開催されていることは認められるものの,前記認定事実によれば,上記附則には,座長私案にあった選挙区の広域化について触れられていない上,上記協議会ではなお有識者からの意見聴取が予定されているというのであって,改正案が具体化されている様子もうかがわれないことからすると,上記附則の存在は,上記判断を左右するものではない。

[70](3) 以上によれば,本件定数配分規定は,憲法の要求する選挙権の平等に違反し,違憲というべきである。そして,本件定数配分規定は,その性質上不可分一体のものとして,全体として違憲の瑕疵を帯びると解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照)。
[71] 以上のとおり,本件定数配分規定は全体として違憲であり,これに基づき施行された本件選挙は違法である。しかし,本件選挙の効力については,これを無効であると解しても,それによって憲法に適合する状態が直ちにもたらされるわけではないこと,本件選挙を無効とすると,無効とされた選挙区の選挙によって選出された議員の存在しない状態で公職選挙法の改正が行われざるを得ないなど,かえって民意を適切に反映しない事態が生じかねないこと,参議院では,現在,平成28年に行われる参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しが進められており,これを確実に実現させる必要があることを考慮すると,本件においては,上記見直しにより平成28年施行の選挙が憲法の要求する投票価値の平等が実現された選挙制度の下で施行されることを強く期待して,いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存在するものと解すべき一般的な法の基本原則に従い(前掲最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決参照),本件選挙自体を無効としないこととし,本件選挙が違法であることを主文において宣言するにとどめるのが相当である。
[72] よって,原告らの請求を棄却し,本件選挙の違法を宣言することとして,主文のとおり判決する。

  東京高等裁判所第23民事部
  裁判長裁判官 鈴木健太  裁判官 瀬川卓男  裁判官 中村さとみ
原告 A
原告 B
原告 C
原告 D
原告 E
原告 F
原告 G
原告ら(原告Cを除く)訴訟代理人弁護士 森徹
原告ら(原告Dを除く)訴訟代理人弁護士 國部徹
原告ら(原告Fを除く)訴訟代理人弁護士 三竿径彦

被告 東京都選挙管理委員会
同代表者委員長 L
被告 神奈川県選挙管理委員会
同代表者委員長 M
被告両名指定代理人 N 外5名
被告東京都選挙管理委員会指定代理人 P
被告神奈川県選挙管理委員会指定代理人 Q 外1名
別紙
■第一審判決 ■上告審判決     ■判決一覧に戻る