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外国経営史
Modern Business in Comparative Historical Perspective



信頼あるいはそれに類似した価値,忠実さ, あるいは嘘をつかないことといったような価値は, 経済学者が外部性 (externality) と呼ぶようなものの例である。 それらも財である。
                ── ケネス・J. アロー

木曜日・3限  11304教室(11号館)

COURSE DESCRIPTION
  この講義のテーマは、先進工業国における「ゆたかな生活」がどのようにして出来上がったのかを、企業の働きに即して考察することです。

 歴史的に見て、社会の大多数の人が、かつて少数の人だけにゆるされていた贅沢な生活ができるようになったのは、過去およそ100年間のことであり、とくに1920年代以降のアメリカにおいて、現代の消費生活の原形がかたちづくられたといってよいでしょう。物質的な豊かさを支える生産と流通の仕組み(大量生産体制とマス・マーケティング)ができあがり、広告や宣伝によってわたしたちの欲望に方向づけがなされるようになりました。そして、豊かな生活が実現される過程で、同時にいろいろな問題(地球環境問題や経済格差など)も生まれてきました。豊かな生活の光と陰を振り返ることによって、将来の経済社会のありようを一緒に考えて行きたいと思います。

 分析に際しては、市場と制度と人びとの意識とのかかわりに注目いたします。人の生活は自然との相互作用を通じて営まれており、衣食住のすべては、究極的には、自然から得られた恵みによって支えられています。このような人間と自然との相互作用は、現代社会にあっては、市場経済という自動調整的なメカニズムを通して組織されており、その主要なアクターが企業にほかなりません。先進工業国にあっては、人びとの生活を支えている財やサービスのほとんどすべては、企業という社会制度によって、生産され、販売され、消費者の手元に届けられている。したがって、人びとの生活の仕組みを理解するためには、現代社会の中で企業がどのような役割を果たしているのか、またどのような課題に直面し、いかなる対応が求められているのか、このような諸問題について知見を深めておく必要があるでしょう。

 経営史学は暗記科目ではありません、想像力と創造力を鍛える学問です。過去を振り返ることによって、現在の位置を確かめ,将来を想像力豊に展望する学問が歴史学です。今日,企業をとりまく環境の変化は激しく、そうした環境変化に企業も個人も柔軟かつ創造的に対応することが求められているわけですが,いったいわたしたちはどこへ向かって進もうとしているのでしょうか。こうした疑問に答えるためには,まずもって,いまの私たちがどこからやってきて,いかなる変化の中にいるのかについて、しっかり把握しておく必要があります。自分の頭でものごとを考えようという意欲のある学生の受講を希望いたします。

COURSE REQUIREMENTS and RULES OF THE GAME
  1. ハンドアウト
    ハンドアウトと講義資料は下のcourse outlineに掲載しますので,各自で複写してください。"●"マークのついてい るファイルがup済みを意味しています。 ハンドアウトには複数の色が使われていますが,カラー印刷するかどうかは ご随意に。なお、一定期間(一週間程度)が経過したらファイルを順次削除していきます。

  2. 試験関連
    ハンドアウトの最終ページにある小レポート「講 義の理解とコミュニケーションの ために」はA4の用紙でコピーして下さ い。

    5月上旬の提出分から「整理番号」を記入し ていただきます。授業中に追って連絡します。

    なお、誤解する学生がたまにいますが、 整理番号は学籍番号とはまったく関係ありません。 小レポートを整理するためにこの授業だけで使う番号です。この番号は講義ごとに設定し ていますから、私の講義を複数受講している学生はこの点注意してください。

    みなさんのペーパーに目をとおすのに多大の時間と労力を要します。 どうか整理番号の記入を正確におこなって、 この作業がスムーズに行えるよう手助けしてください。

  3. 小レポートのワープロ用書式
    各章ごとに小レポートのワープロ書式を用意しています。 必ずこの書式を使い、プリンターで印字して、提出して下さい。

  4. Office Hours
    授業時間中に訊けなかったことや分からないことがあるなら, オフィス・アワーを用意して いますので,研究室を気軽に訪ねてください。

  5. 最初の授業と授業評価アンケート
    履修を検討している学生は、最初の授業に必ず出席してください。単位認定の方法について詳しく説明いたします。 なお、過去の授業評価の結果をここに公開しますので、この授業を履修する際の参考にしてください。
    2015年度  2014年度  2012年度  2009年度


COURSE OUTLINE and SUGGESTED READINGS

序論





表紙


序論 人びとの生活を支える市 場・制度・意識  (小レポート
   ──男女の賃金格差と日本的雇用慣行──


    Readings & External Links:
  1. 世界経済フォーラム「世界ジェンダー・ギャップ報告書」 World Economic Forum, Global Gender Gap Reports

  2. Pollard, Sidney. The Genesis of Modern Management: A Study of the Industrial Revolution in Great Britain. Cambridge: Harvard University Press, 1965. ポラード『現代企業管理の起源』山下幸夫 ほか訳. 千倉書房, 1982.

  3. Cole, Arthur H. Business Enterprise in Its Social Setting. Cambridge: Harvard University Press, 1959. コール,アー サー『経営と社会──企業者史学序説──』中川敬一郎訳,ダイヤモ ンド社, 1965.

  4. Chandler, Alfred D., Jr. The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business. Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1977. 鳥羽欽一郎・小林袈裟治訳『経営者の時代 ──アメリカ産業における近代企業の成立──』上下二巻,東洋経済 新報社, 1979 &1982.  さしあたり序章と結論だけでも目を通しておくとよいだろう。

  5. ポランニー、カール『大転換(新訳)』野口建彦,栖原学訳. 東洋経済 新報社, 2009.

  6. 堂目卓生『アダム・スミス──『道徳感情論』と『国富論』の世界──』 (中公新書)中央公論新社, 2008.



第1部

「豊かな社会」
 の成立

  1. 大衆消費社会の前提条件   (小レポート
    ──製造のアメリカン・システムとマス・マーケティング──

  2. アメリカ農村の消費革命   (小レポート
    ── モンゴメリー・ウォードとシアーズ・ローバック──

  3. スーパーマーケット革命   (小レポート
    ──消費の民主化と「豊かさ」の意味変化──



    Readings and External Links:
  1. Hounshell, David A. From the American System to Mass Production, 1800-1932: The Development of Manufacturing Technology in the United States. Baltimore: Johns Hopkins University Press, 1984. [ハウンシェル『アメリカン・システムか ら大量生産へ,1800-1932』和田一夫・金井光太郎・藤原道夫訳. 名古 屋大学出版会, 1998.]

  2. オリバー・エヴァンズの 製粉工場

  3. Tedlow, Richard S. New and Improved: The Story of Mass Marketing in America. Basic Books, 1990. 近藤文男監訳『マス・ マーケティング史』ミネルヴァ書房, 1993.


第2部

「豊かな社会」
のパラドクス

  1. モードの方程式   (小レポート
    ──計画的陳腐化をめぐる「競争の自由」と「選択の自由」── ●

  2. 審美観 の変容と企業者活動
    ──ダウ・コーニング社の事例—— ●
    事例研究(外部リンク)   (小レポート
    (ハンドアウト、事例研究の2つを使います。)

  3. 医療化する社会  (小レポート
      ——産業看護婦による移民のアメリカ化—— ●

  4. 遊びの豊かさ
      ——自転車産業とサイクリング文化——
    読書課題(外部リンク)  (小レポート
    第7章のハンドアウト、 事前学習、小レポートは moodleに載せました。●
     

    Readings and External Links:
  1. ストラッサー、スーザン『欲望を生み出す社会──アメリカ大衆消費社会の成立史』 川邉信雄訳. 東洋経済新報社, 2011.

  2. ローウイ,レイモンド『口紅から機関車まで──インダストリアル・デ ザイナーの個人的記録──』藤山愛一郎訳. 鹿島出版会, 1981.

  3. 薄井和夫『アメリカ・マーケティング史研究──マーケティング管理論 の形成基盤──』大月書店, 1999.

  4. 見田宗介『現代社会の理論──情報化・消費化社会の現在と未来──』 岩波書店, 1996.

  5. ナンシー・ケーン『ザ・ブランド──世紀を越えた起業家たちのブラン ド戦略──』樫村志保訳. 翔泳社, 2001. 第5章.

  6. オリヴィエ・ビュルジュラン「化粧散歩──古代と現代」浜名優美訳, 『Traverses 1: 化粧』今村仁司監修. リブロポート, 1986.

  7. 「豊かさ」の指標 (各種新聞記事から)[pdf]

  8. 上野継義「わが国サイクリング史の一断面—— 鳥山新一のサイクリング哲学とその歴史的背景 」『京都産業大学論集(社会科学編)』第31号 (2014年4月): 137-78. Available from this page.


第3部

「豊かな社会」
を支える人たち


  1. テイラリズム   (小レポート
      ──大量生産を支える管理哲学── ●

  2. 科学的管理に魂を入れる   (小レポート
      ──米国の安全運動と委員会型管理システム── ●
    下の「エピローグ」のハンドアウトを併せて複写してください。


    Readings:
  1. Mayer, Otto, and R. C. Post, eds. Yankee Enterprise: The Rise of the American System of Manufactures. Washington, D.C.: Smithsonian Institution Press, 1981. [オットー・マイヤー,ロバー ト・C. ポスト編『大量生産の社会史』小林達也訳. 東洋経済新報社, 1984.]

  2. 上野継義「アメリカ近代産業企業における委員会型管理システムと能率概念の転 換 ──インタナショナル・ハーヴェスター社におけるフォアマン教 育と合同委員会型従業員代表制の生成──」『経済経営論叢』 第35巻 第1号 (2000年 6月): 56-117.

  3. 熊沢誠『日本の労働者像』筑摩書房, 1981. 第5章.


エピローグ

  1. 「安全第一」の政治学
      ──『安全月報』のまなざしを読む── ●


    Readings & External Links:

  1. 上野継義「イリノイ製鋼社における安全委員会活動と雇用管理の近代化 ──1907〜1916年──」経営史学会編『経営史学』第29巻第1号 (1994年 4月 30日): 1-30.

  2. 上野継義「革新主義期アメリカにおける安全運動と移民労働者 ──セ イフティ・マンによる『安全の福音』伝道──」 アメリカ学会編『ア メリカ研究』第31号 (1997年 3月): 19-40.


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