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新しい人事管理生成史

人間工学思想を視野にいれて
人事管理生成史を書き換える


  19世紀には物質的なかたちの工学に才能と注目が集まっていましたが、 これからの時代は人間工学 (human engineering) の諸問題に同等の関心が 向けられることでしょう。
  わたくしどもは産業の繁栄に立派な基礎を据えました。 これからは職業指導と職業教育、および雇用部の賢明な運営によって 労働者の幸福と成長を確かなものにしたい。 産業上の実験と高潔な指導力 (statesmanship) の試される沃野が広がりつつあります。
                       ── トマス・エジソン

研究テーマ
  本研究の目的は、革新主義期のアメリカで進展した人事管理運動について、運動の担い手の思想と行動に即して再構成することによって、その特質と歴史的帰結を明らかにすることである。人事管理運動は、これを企業内の出来事に即してみれば、人事管理者たろうとする人たちによって闘われた労働問題解決策の提案競争であった。雇主を説得して自己の労務改革案を通すことによって企業内での統制範囲の拡大と地位向上を目指す、意欲的かつ野心的な、新興の専門的中間管理者層 (a new professional-managerial class) の動きが軸になっていたのである。労務部面での専門的なマネジメント・サーヴィスに対する需要は、労働市場の状態や労働運動の昂揚、あるいは分権的管理の進展や新しい生産プロセスの技術的必要性から必然的に生まれてくるわけでは必ずしもなかった。そうした需要は、少なくともこの時代のアメリカでは、意識的に創り出されたのである。専門的対応が求められる労働問題を発見して解釈し、そのための処方箋を雇主に提案する一方、専門家協会の設立や専門雑誌の発行など企業の枠を超えた情報交換網を組織し、大学と連携して管理者養成プログラムを作りあげ、当該専門職の社会的評価と威信を高めようとした。このような需要と供給両面にわたる市場開拓努力、すなわち管理の制度化と専門職化に向けた意識的な努力をすくいあげるかたちで、上記の課題に接近してみたいと思う。

  分析に際しては、管理運動の担い手たちが好んで用いた「人間工学 (human engineering)」という言葉に着目する。19世紀来、驚異的な発展をとげた機械工学はもっぱらモノをあつかう術であって、ヒトをあつかう術はそれに見合う形では発展してこなかった、このギャップを埋めるためには後者を機械工学に匹敵する「科学」の位置にまで引き上げて、専門家の仕事として確立しなければならない、このような問題意識が1910年代のはじめに「人間工学」という言葉に結晶し、第一次大戦への参戦直前に、雇用管理運動の指導者たちによって人事管理の同義語として用いられるようになる。理想とする管理者像は工学的なメタファーで表現された。すなわち、求められている雇用管理者は、労働者の処遇に「科学」を適用し、人間関係を「分析」し、労使を和解に導く技術に長けた「人間技師 (human engineers)」にほかならない、と。こうして人間工学の語とその関連語は、人事管理の専門職業イデオロギーの暗喩として人口に膾炙することとなる。ところが休戦とともに、この管理運動の専門職業化戦略はおおきく揺らぎ、工学的なメタファーの人気も一気に萎んでしまう。かくも転変著しい人間工学に対する意識変化はいったい何に起因するのか。この問いを導きの糸として、管理運動の指導者や人間技師たろうとする人たちによって推進された管理の制度化と専門職化への取り組みを考察する。

引用文献  上野継義「アメリカ人事管理運動と『人間工学』の諸相 (1) (2)──人間工学ブームの盛衰──」福島大学『商学論集』第83巻第4号・富澤克美先生退職記念号 (2015年3月25日): 93-118; 第84巻第1号 (2015年6月): 39-68.























キーワード
  1. 人間工学 (human engineering) とは何か

  2. 労使関係管理とは何か

  3. インダストリアル・エンジニアリングとは何か

 







論   文
  1. 「アメリカ人事管理運動と人間技師の戦い── (3) 人事管理概念の書き換え──」 福島大学『商学論集』 第84巻第4号 (1916年6月).[予定] 

  2. 「アメリカ人事管理運動と人間技師の戦い── (2) 雇用管理運動と労使関係管理運動の協調と対抗──」 福島大学 『商学論集』第84巻第3号 (2016年3月).[予定]

  3. 「アメリカ人事管理運動と人間技師の戦い ── (1) 人間技師の戦いから私的福祉資本主義へ──」 福島 大学『商学論集』第84巻第2号 (2015年12月): 19-45.

  4. 「アメリカ人事管理運動と『人間工学』の諸相 (1) (2) ──人間工学ブームの盛衰──」福島大学『商学論 集』第83巻第4号・富澤克美先生退職記念号 (2015年3月25日): 93-118; 第84巻第1号 (2015年6月): 39-68.

  5. 「アメリカ近代産業企業における委員会型管理システムと能率概念の転換 ──インタナショナル・ハーヴェスター社におけるフォアマン教育 と合同委員会型従業員代表制の生成──」京都産業大学『経済経営論叢 』第35巻第1号 (2000年6月): 56-117.

  6. 「アメリカ産業における安全運動の波及と労使関係管理の生成 ──1908〜1915年──」経営史学会編『経営史学』第31巻第4号 (1997年 1月 31日): 131.














学会報告・科研費報告書
  1. 「アメリカ人事管理運動と『人間技師』の戦い ──労務管理の専門職化とのかかわりで」経営史学会 第51回全国大会自由論題報告(2015年10月10日、大阪大学) 報告資料

  2. 「アメリカ人事管理運動と『人間工学』の諸相──雇用管理運動 と労使関係管理運動の協調と対抗──」経営史学会第49回全国大会自由論報告 (2013年10月26日、龍谷大学)

  3. 『革新主義期アメリカにおける安全運動と人事管理との関連に関する経営史的研究 ──人間工学の専門家たちの働きからみた人事管理の成立史──』2002〜4 年度(平成14〜16年度)文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書 (2005年 5月30日).

  4. 「人間工学の専門家による『野心的な社会実験』 ──革新主義期の労務改革の理念とその帰結──」アメリカ学会第36回年次 大会 (2002年6月2日,明治大学) の部会D「革新主義(時代)再考」において報告。 概要は,『アメリカ研究』37 (2003年3月): 214-15。

 











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