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人事部創成神話の起源
──インダストリアル・エンジニアリング生成史──


人事部創成神話
 1930年代から第二次大戦後にかけて出版されたインダストリアル・エンジニアリング (industrial engineering; IE) の教科書を繙くと、テイラーの機能別職長制 (functional foremanship) から人事部が生まれた、あるいは機能的職長のひとつ職場規律係 (shop disciplinarian) に人事部の起源があったとの記述をたびたび目にする。だが、現実にはこのような経緯で生まれた人事部は存在しない。なぜこのような物語が生まれたのであろうか。本稿の目的は、この神話物語の成立史を復元することによって、草創期のIE運動の特徴を浮き彫りにするとともに、アメリカ企業管理史において今なおすっきり理解できない問題のひとつである科学的管理と人事管理とのかかわりについて理解を深めることである。

 調査の結果わかったのは、この物語はIEの制度化と専門職化のプロセスの中で意図的に創作されたものだということである。アメリカの産業企業で雇用部や人事部の設立が相次いだ第一次大戦期は、ちょうど機械工学という専門職業領域からIEが枝分かれし専門分化する最終段階にあたっていた。IE運動の指導者や管理雑誌の編者たちは、若きインダストリアル・エンジニアたちの仕事領域として人事管理を視野に入れるようになり、彼らがその担い手としてふさわしいこと、および、従来モノにしか関心のなかった機械技術者たちが「産業における人間要素」の問題に開眼しつつあることを対外的にアッピールするために、技術者によるマネジメントへの取り組みを代表する科学的管理の中に人事管理の諸技術につながる要素を後から発見して、技術者は前々から人事管理の仕事に就くための準備をしてきたという物語を作り上げたのである。こうした努力の中に職場規律係が人事部を先取りしていたという神話物語も含まれていた。これが米国のIEテキストにおいて、お決まりの作り話が復唱されるようになる背景事情のひとつであった。

















参考文献
  1. 上野継義「人事部創成神話の起源──インダストリアル ・エンジニアリング生成史の一断面──」アメリカ経済史学会 編『アメリカ経済史研究』第14号 (2015年12月): 1-29.

  2. 上野継義「科学的管理と人事管理とのかかわり──人事部創成神話の起源 ・後篇」『アメリカ経済史研究』第15号 (2016年12月): 1-25.  download











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