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細菌由来ADPリボシル化毒素の作用機作と基質特異性

多くの細菌は外毒素を用いて我々宿主の細胞のアクチン細胞骨格系に影響を与え、自分の生存に活かしていると考えられる。特にこの仲間にADPリボシル化毒素は多い。ADPリボシル化毒素を基質の違いで大きく分けると4つのタイプに分類でき、この内Type IIIとType IVの毒素はアクチン細胞骨格系に影響を及ぼす(この分類は少し古く、今ではもっと多くの基質に対する毒素が見つかっているが、典型的なADPリボシル化毒素を考える上で役に立つ)。Type Iは三量体Gタンパク質GsとGiをそれぞれ修飾するコレラ毒素および百日咳毒素、Type IIはEF2を修飾するジフテリア毒素、Type IIIはRhoAを修飾するC3毒素、Type IVはアクチンを修飾するIota毒素(Ia)である。コレラ毒素はArg、百日咳毒素はCys、ジフテリア毒素はHis類似のジフタミド、C3毒素はAsn、 IaはArgと修飾されるアミノ酸も変化に富んでいる。この違いに興味を持ち、構造生物学研究を始めた。

2003年我々はウェルシュ菌のIaのX線結晶構造解析を行った(JMB 2003 Tsuge et al.)。結晶構造解析により補酵素NADとの結合が見えてくる。これにより、反応機構が議論できる。多くの海外の研究室でも毒素単体の構造は解析されてきた。しかし何かが足りない。反応を考える上で必要なのは基質となるタンパク質である。例えばプロテアーゼの構造研究の場合、一般に基質がわかれば、その基質類似のペプチドとの複合体構造が期待できる。一方、ADPリボシル化毒素の場合は、基質となるペプチドはなく、その基質はタンパク質全体である。このADPリボシル化毒素と基質タンパク質全体の複合体構造を明らかにしたいと思い、さらに研究を続けた。

我々のグループが明らかした複合体はType IVのIaとアクチン複合体(PNAS 2008 Tsuge et al., PNAS 2013 Tsurumura et al.)、およびType IIIのC3とRhoAの複合体(JBC 2015 Toda et al.)である(この2つの複合体Ia-actinとC3-RhoAの構造図はホームページトップに掲載している)。特にType IVとType IIIの毒素の構造は非常に似ているが、その基質は全く異なり、修飾するアミノ酸も異なっている。明らかにした基質特異性、いかにタンパク質を認識するか、そして修飾アミノ酸を決定しているか これは非常に興味深い。

現在、この研究は更に進行しているが、詳細に興味が有る方は、もう一つの原稿「ADPリボシル化毒素と基質タンパク質複合体の構造生物学(津下、鶴村、吉田)」(PDFファイル)を読んでもらいたい。(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「タンパク質の生成と管理」平成23年〜平成27年(代表:吉田賢右)、津下担当分報告)