貸金業登録拒否事件
上告審判決

貸金業者登録拒否処分取消等請求事件
最高裁判所 平成24年(行ヒ)第459号
平成26年7月18日 第二小法廷 判決

上告人 (被控訴人 被告) 大阪府
          代理人 村田勝彦 ほか
被上告人(控訴人  原告) X株式会社

■ 主 文
■ 理 由


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

[1] 本件は,貸金業法3条所定の登録(以下「貸金業登録」という。)を受けた貸金業者である被上告人が,大阪府知事に対し貸金業登録の更新の申請をしたところ,大阪府知事から,被上告人の監査役が執行猶予付き禁錮刑の判決を受けており,被上告人は法人の役員に同法6条1項4号に該当する者のあることを貸金業登録の拒否事由及び取消事由とする旨を定める同項9号及び同法24条の6の5第1項1号に該当するとして,上記申請を拒否する旨の処分(以下「本件拒否処分」という。)及び貸金業登録を取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)を受けたため,監査役は同法6条1項9号の役員に含まれず,被上告人は同号及び同法24条の6の5第1項1号のいずれにも該当しないなどと主張して,本件拒否処分及び本件取消処分の取消し等を求める事案である。

[2] 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

[3](1)ア 被上告人は,貸金業等を目的とする株式会社であり,大阪府知事から貸金業登録を受けた貸金業者であったところ,平成22年9月27日,代表者の親族である者を監査役に選任し,同年10月12日,その旨の登記手続をした。
[4] 上記の監査役に選任された者は,これに先立つ同年2月22日,大阪地方裁判所堺支部において,自動車運転過失致死罪により禁錮1年4月,執行猶予3年の判決を受け,同判決は同年3月9日に確定した。
[5] 被上告人は,平成22年11月4日,大阪府知事に対し,貸金業登録の更新の申請をした。
[6] 大阪府知事は,同年12月15日,被上告人に対し,被上告人の監査役が貸金業法6条1項4号に該当するため被上告人は同項9号に該当するとして,上記申請を拒否する旨の本件拒否処分をし,また,被上告人は同号に該当するに至ったため同法24条の6の5第1項1号に該当するとして,被上告人の貸金業登録を取り消す旨の本件取消処分をした。

[7](2) 貸金業法4条1項2号は,同号の「役員」の定義につき「業務を執行する社員,取締役,執行役,代表者,管理人又はこれらに準ずる者をいい,いかなる名称を有する者であるかを問わず,法人に対し,これらの者と同等以上の支配力を有するものと認められる者として内閣府令で定めるものを含む。」と規定しており(以下「本件定義規定」という。),その及ぶべき範囲につき「第24条の6の4第2項及び次章から第3章の3までを除き,以下同じ。」と定めているので,同法4条1項2号と同じ同法第2章に規定されている同法6条1項9号の「役員」も本件定義規定により定義されているものである。本件定義規定の委任に基づく内閣府令として,貸金業法施行規則2条の規定が定められており,同条に監査役は掲げられていない。

[8] 本件定義規定と同様の定義を定めていた貸金業の規制等に関する法律(貸金業法の平成18年法律第115号による改正前の題名)4条1項2号につき,大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第1の3(1)イ(イ)は,同号にいう「これらに準ずる者」に監査役が含まれると解しており,現行の貸金業法についてもその所管庁において上記通達の解釈が踏襲されているところ,所論は,上記通達と同様に,監査役は本件定義規定にいう「これらに準ずる者」として同法6条1項9号の「役員」に含まれると解される旨をいうものである。

[9] 貸金業法は,「役員」の定義を定める規定(以下「役員定義規定」という。)を本件定義規定のほかにも置いているところ,貸金業務取扱主任者の欠格事由に係る24条の27第1項3号及び貸金業協会の定款記載事項に係る31条8号の各役員定義規定はいずれも本件定義規定と同一であり,役員の解任命令に係る24条の6の4第2項の役員定義規定は「業務を執行する社員,取締役,執行役,代表者,管理人又はこれらに準ずる者」までの文言が本件定義規定と同一であり,いずれも監査役を列記していないのに対し,信用情報提供等業務を行う者の指定の要件に係る41条の13第1項4号及び紛争解決等業務を行う者の指定の要件に係る41条の39第1項4号の各役員定義規定は,「業務を執行する社員(中略),取締役,執行役,会計参与(中略),監査役,代表者若しくは管理人又はこれらに準ずる者をいう。」と規定しており,監査役を明文で列記している。
[10] このように,貸金業法中の各役員定義規定には,本件定義規定と同様に監査役を列記しないものとこれを明文で列記するものとの各類型の規定が併存しており,しかも,平成18年法律第115号による改正においては既存の本件定義規定に加えて上記各類型の規定がそれぞれ同時に新設され(24条の6の4第2項,24条の27第1項3号,31条8号,41条の13第1項4号),平成21年法律第58号による改正においても再び監査役を明文で列記する類型の規定が新設され(41条の39第1項4号),上記各改正の度に4条1項2号中の本件定義規定の及ぶべき範囲の定めが改正されていることからすると,同法中の各役員定義規定において監査役を明文で列記するかどうかはあえて区別して差異が設けられているものということができる。このように,貸金業法の各役員定義規定の間では監査役の列記の有無につき区別して差異が設けられているのであるから,これを列記していない類型の規定である本件定義規定にいう「これらに準ずる者」に監査役が含まれると解することは、その定義の内容に含まれる者の範囲に関する解釈が事業を営むのに必要な登録の取消し等の不利益処分の要件に関するものであることに鑑みても,上記類型の規定の解釈として困難であるといわざるを得ない。
[11] また,本件定義規定にいう「いかなる名称を有する者であるかを問わず,法人に対し,これらの者と同等以上の支配力を有するものと認められる者として内閣府令で定めるもの」についても,本件定義規定の委任に基づく貸金業法施行規則2条に監査役は掲げられていないから,監査役は上記内閣府令で定めるものに該当しない。
[12] したがって,本件定義規定により定義されている貸金業法6条1項9号の「役員」に監査役は含まれないものと解するのが相当である。

[13] 以上によれば,貸金業法6条1項9号の「役員」に監査役は含まれないから,被上告人の監査役が同号の「役員」に該当するものとしてされた本件拒否処分及び本件取消処分は,いずれも違法というべきである。上記各処分の取消請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

[14] よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小貫芳信  裁判官 千葉勝美  裁判官 鬼丸かおる  裁判官 山本庸幸)

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