貸金業登録拒否事件 | ||||
控訴審判決 | ||||
貸金業者登録拒否処分取消等請求控訴事件 大阪高等裁判所 平成24年(行コ)第9号 平成24年9月14日 第4民事部 判決 口頭弁論終結日 平成24年7月27日 控訴人 (原告) X株式会社 被控訴人(被告) 大阪府 ■ 主 文 ■ 事 実 及び 理 由 1 原判決を次のとおり変更する。 2 大阪府知事が控訴人に対してした平成22年12月15日付け貸金業者の登録取消処分及び同日付け貸金業者の登録拒否処分をいずれも取り消す。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 主文第2項と同旨 (3) 大阪府知事が,控訴人に対してした平成23年3月8日付け異議棄却決定を取り消す。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 (1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 [1] 控訴人は,大阪府知事(以下「府知事」という。)から貸金業法(以下「法」という。)3条の貸金業の登録を受けた貸金業者であったところ,平成22年11月4日,府知事に対し,貸金業登録の更新申請をするとともに,監査役をBからAに変更する旨を届け出た。府知事は,Aについて法6条1項9号,24条の6の5第1項1号に該当する事由があるとして,同年12月15日付けで控訴人の貸金業登録を取消し(以下「本件登録取消処分」という。),上記登録の申請を拒否し(以下,併せて「本件両処分」という。),これら処分に対してされた控訴人の異議を平成23年3月9日付けで棄却する決定をした。 [2] 本件は,控訴人が,本件両処分及び前記異議棄却決定の取消しを求める事案である。 [3] 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したことから,控訴人がこれを不服として控訴した。 [4]2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決2頁19行目「乙4」を「乙1ないし4」に改め,当審における当事者の補足的主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」2から4まで(原判決2頁4行目から4頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 [5](1) 本件登録取消処分は,控訴人に対する不利益処分であり,行政手続法13条1項1号イ又はロに該当するから,聴聞の手続を執らなければならないのに,その手続が執られていないので違法である。 [6] なお,控訴人の監査役は貸金業法6条1項4号に該当することになったが、これは本件両処分の名宛人である控訴人に直接生じた事由ではなく,控訴人がその事由の発生を知らない可能性がある。そのような場合,聴聞の手続が保障されなければ,処分の名宛人が必要な対処をする機会を持たず,予想外の不利益を被ることにもなりかねないから,処分の名宛人である控訴人には聴聞の手続が執られるべきであり,行政手続法13条2項2号の適用はないものと解すべきである。 [7] また,貸金業法24条の6の5は,役員に前科があった場合は自動的に貸金業の登録を取り消すものとしているが,このような処分を行う場合は貸金業者に弁明と是正の機会を与えるべきであり,そのような機会を保障せずに登録の取消しをすべきことを定める同条の規定は,適正手続の保障を定める憲法31条,13条に違反する。 [8](2) 貸金業法6条1項9号,24条の6の5第1項1号の事由は,その文理から,法人の役員がその在任中に同法6条1項1号から7号までのいずれかの事由に該当するに至った場合のみを指すものであり,本件のように監査役就任前に同条項4号の事由が発生したような場合を含まないと解すべきである。 [9](3) 貸金業法にいう役員は,法人の業務執行権限を有するもの又は業務執行社員や取締役と同等の支配力を有するものをいい,業務執行権限を持たない監査役は同法の役員に該当しない。また,監査役の監査権限は,当該法人内における監査役の地位や当該法人の組織構成によって異なり,これを一律に業務を執行する社員,取締役等に準ずる者に当たるという解釈はあり得ない。また,会社法329条は,監査役が役員に当たることを明確に定めているが,貸金業法においては,そのような定めはされていない。監査役が役員に当たるというのであれば,貸金業法においても会社法と同様にその趣旨を明確にすべきであったというべきである。これが明確化されなかったことからすると,監査役を一律に役員とするのではなく,支配力のある監査役については内閣府令の定める要件に該当する場合にのみ役員として扱うというのが同法の立法者意思であったと解される。 [10] ちなみに,宅地建物取引業法5条1項2号は,貸金業法と同様の役員の定義を定めているが,国土交通省は,同号の意義について控訴人が主張する解釈と同旨の解釈をしている。 [11](1) 本件登録取消処分は,法令上必要とされる資格が失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であり,資格の喪失の事実が客観的な資料によって直接証明されたものであるから,行政手続法13条2項2号に該当し,聴聞の手続を執らなかったことが違法とされる余地はない。 [12](2) 控訴人の主張(2)は争う。 [13](3) 貸金業法4条1項2号の役員の定義規定からすると,当該法人の業務執行に対する支配力,影響力を持ちうる機関や役職については,その名称の如何にかかわらず,すべからく同号の役員に含まれると解される。 [14] 旧貸金業規制法制定の時点において,株式会社の監査役には,業務監査権限,会計監査権限,取締役会への出席権・意見陳述権が付与されており,当該会社の業務執行についても強い権限を持っていたことから,旧貸金業規制法は,監査役が同号の「これらに準ずる者」に該当し,同号の役員に含まれるものとして,同法6条1項各号所定の欠格要件の調査をすることとしたものと解される。貸金業法においても,同様の規定が引き継がれているのであるから,上記の解釈がそのままあてはまる。 [15] なお,廃棄物の処理及び清掃に関する法律も,貸金業法と同様の役員の定義を定めているが,「これらに準ずる者」に監査役が含まれるものと解されている。また,旧貸金業規制法制定後に発出された大蔵省銀行局長通達においても,監査役は「これらに準ずる者」に含まれるとの行政解釈が示されている。 [16](1) 本件両処分は,株式会社である控訴人の監査役が禁錮1年4月,執行猶予3年の有罪判決を受けていたことから,株式会社の非常勤監査役も法6条1項9号の「役員」に含まれ,控訴人には法6条1項9号,4号,24条の6の5第1項1号に該当する事由があるとしてされたものである。 [17] ただし,法24条の6の5第1項1号,6条1項9号の「法人でその役員又は政令で定める使用人」の解釈については,まず,役員の定義規定を定めた法4条1項2号(以下「本件定義規定」という。)において,役員とは「業務を執行する社員,取締役,執行役,代表者,管理人又はこれらに準ずる者をいい,いかなる名称を有する者であるかを問わず,法人に対し,これらの者と同等以上の支配力を有するものと認められる者として内閣府令で定めるものを含む。」とされ,それを受けた内閣府令である貸金業法施行規則(以下「規則」という。)2条には,総議決権の100分の25を超える議決権に係る株式を自己又は他人の名義をもって所有している個人,親会社の総議決権の100分の50を超える議決権に係る株式を有する個人等が明文で挙げられているが,監査役は,法にも,規則にも,どこにも明文で挙げられていない(乙12)。 [18] 次に,法6条1項9号の「政令で定める使用人」について,それを受けた政令である貸金業法施行令(以下「施行令」という。)3条は,法3条1項の登録を受けようとする者の使用人で,貸金業に関し,法4条1項に規定する営業所又は事務所の業務を統括する者その他これに準ずる者で内閣府令で定めるものであるものとするとされ,その内閣府令である規則3条は,支配人,本店長,支店長,営業所長,事務所長その他いかなる名称を有する者であるかを問わず,営業所等の業務を統括する者,主たる営業所等の部長,次長,課長その他いかなる名称であるかを問わず,それらと同等以上の職にあるものであって,貸付け,債権の回収及び管理その他の資金需要者等の利益に重大な影響を及ぼす業務について,一切の裁判外の行為をなす権限を有する者,貸付けに関する業務に従事する使用人の数が50人以上の従たる営業所等において,支店次長,副支店長,副所長その他いかなる名称を有する者であるかを問わず,当該営業所等の業務を統括する者の権限を代行し得る地位にある者が挙げられているが,ここでも,監査役は,法にも,施行令にも,規則にもどこにも挙げられていない(乙11,12)。 [19] そこで,本件両処分の根拠となった法6条1項9号4号,24条の6の5第1項1号,6条1項9号の役員の定義規定である本件定義規定に監査役が含まれるのかどうか,更に法6条1項9号の役員以外の「政令で定める使用人」に該当する余地がないのかが問題となる。 [20](2) ところで,会社法においては,株式会社の役員について,同法329条1項においてその定義規定が置かれ,明文で,取締役,会計参与及び監査役をいうものとされ,役員の中に監査役が含まれることが明らかにされている。したがって,他の法令においても,株式会社の役員という場合には,特にその法令における異なる定義規定を置かない限りは,通常これに監査役が含まれるものと解するのが相当であり,更に,一般的に,株式会社の役員という場合には,原則的にこれに監査役が含まれることに特に異論はないものと解される。 [21] また,法が登録についての役員の欠格事由を設けた趣旨は,欠格事由のあるものが貸金業者となる法人に不当な影響を与えることを排除することにあるものと解され,かような趣旨を徹底すると,株式会社の役員という文言の通常の用法に従って,監査役についても欠格事由があれば登録拒否事由や登録取消事由となると解する方が妥当であるとの見方も全くあり得ないでもない。法4条1項2号の役員の定義規定は,貸金業の規制等に関する法律が制定された当初(昭和58年5月13日)から置かれていたもので(ただし,「内閣府令」は「大蔵省令」であった。),同年9月30日に大蔵省銀行局長が作成した「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」(乙7。蔵銀第2602号)では,役員についての本件定義規定の「これらに準ずる者」とは,「監査役,顧問,相談役等をいう」と解説されており,貸金業の所管庁が金融庁に変更された後においても上記大蔵省の解説はそのまま踏襲された(乙22の1,2)。また,東京都,静岡県,福岡県,鹿児島県等の所管課においても,監査役は当然に役員に含まれるという解釈をしており(乙16ないし19),多くの自治体でも同様の解釈がとられていることがうかがわれ,日本貸金業協会の解釈も同様である(乙14)。更に,廃棄物の処理及び清掃に関する法律においても,法に類似する役員の定義規定及び使用人に関する規定がおかれており(同法7条5項4号ニ及びリ,同法施行令4条の7),監査役が役員に該当することは明文では定められていないが,同じく行政解釈では,監査役が役員に含まれるものと解されていることがうかがわれる。 [22] 以上の諸点からは,本件定義規定の中に監査役も含むと解する余地もないではないとも考えられる。 [23](3) しかしながら,法の本件定義規定は,その文言上,会社法329条1項の役員の定義規定とは異なる内容で,業務を執行する社員,取締役,執行役,代表者,管理人を明示的に挙げ,監査役や会計参与を特に除外し,貸金業に対する法規制の観点からの法の独自の視点での役員の定義規定を設けた文言になっていることは,明らかである。しかも,法において本件定義規定の中に監査役を掲げるのも,極めて簡単な立法作業であり,会社法329条1項と対比して監査役が問題になることは立法作業の過程で容易に予想できたことでもある。更に,本件定義規定の中の内閣府令の内容も,法6条1項9号の政令で定める使用人の内容も,いずれも監査役を含めるというのであれば,明文で掲げるのはいとも簡単なことであった筈である。 [24] また,株式会社について,本件定義規定が明示的に挙げる業務を執行する社員,取締役,執行役,代表者,管理人は,いずれも,貸金業務の執行自体について実際に相当の影響を及ぼす者であって,本件定義規定の上記の規則においても,法6条1項9号の施行令においても,上記でみたように,その名称のいかんに関わらず,貸金業の業務に実際に相当の影響を与えるものについての欠格事由を問題にしようとしていることが窺える。これに対して,監査役の監査等の権限は,会社の業務執行に対して強い影響力を有するとしても,一般的には,執行機関の有する権限と比較すれば間接的かつ事後的なもので,いわゆる業務監査権限がある場合でも,その監査の範囲は原則として適法性監査に限られ,業務執行の妥当性は監査の範囲に含まれないから,必然的に法人の業務執行に対する影響力の大きさも執行機関に比すれば弱いというべきである上,監査役の権限行使の実情も法人ごとに様々であることにかんがみると,会社における監査役の権限が,直ちに執行機関である取締役等に準ずるものであるということは困難である。本件定義規定からは,会計参与も除かれ,施行令にも,規則にも,監査の観点から影響を与える者についての規定は特に見当たらない。 [25] このように,法の明文上は,本件定義規定の中に監査役が含まれると解することは,相当に無理があるものといわざるを得ない。類似の規定として,前記の廃棄物の処理及び清掃に関する法律に前記の規定があるほか,宅地建物取引業法5条1項2号にも,類似した役員の定義規定があるが,少なくとも,本件定義規定と同じように監査役が含まれると解する行政解釈があるかどうかは定かでない(控訴人は,国土交通省に問い合わせた結果は,当然に含まれるものではなく,その監査役が会社に対する支配力を有するかどうかで判断される,との回答であると主張する。)。 [26] のみならず,本件定義規定についての上記の解釈問題は,登録拒否事由及び登録取消事由に関連し,広くは国民の職業選択の自由,営業の自由に対する規制の問題であり,また,役員に上記のような欠格事由があるとして登録が取り消されたその法人やその役員であった者は,欠格事由がなかった役員も含めて取消の日から5年間を経過しなければ,貸金業の登録ができないこととされており(法6条1項3号),その登録取消の効果は,相当に厳しいもので,かような規制についての要件である以上,その要件を定める法律の規定は明確でなければならないものというべきである。 [27] このようにみてくると,法4条1項2号の本件定義規定の文言,規則及び施行令の文言は,その文言のとおりに解釈せざるを得ず,これらを拡大して解釈する余地はないというべきであり,監査役は,本件定義規定に含まれないものと解さざるを得ない。 [28] また,上記の諸点に照らすと,法6条1項9号の役員以外の「政令で定める使用人」に監査役が含まれると解することも困難である。 [29](4) 被控訴人は,株式会社の監査役には,業務監査権限,会計監査権限,取締役会への出席権・意見陳述権が付与されており,当該会社の業務執行についても強い権限を持っていることを理由として,監査役は一般的に「これらに準ずる者」に含まれると主張し,また,法の定義規定に監査役を明示しなかったのは,貸金業者である法人は民商法に基づく法人はもとより,人格のない社団・財団まで含み,機関・役職を具体的に例示することが立法技術的に困難であったためであると主張する。 [30] しかし,前記のとおり,貸金業法が,貸金業者の適格性の観点から,法人である場合は役員について生じた事由を法人の登録の取消しや登録の拒否の事由と定め,更に,このような事由による登録取消しの日から5年間を経過しない者等の登録を拒否するものとして厳しい対処をしていることからすれば,役員の範囲を,安易にその文理から拡張して解釈することは許されないというべきである。 [31](5) なお,Aが,監査役であるだけでなく,本件定義規定にあるように控訴人に対して取締役らと同程度に支配力を有していることは,被控訴人において,何らの主張・立証をしていない。 [32](6) そうすると,本件両処分は,控訴人の監査役が法の定義規定にいう役員に該当するか否かに関する事情を審査することなく,監査役が禁錮1年4月,執行猶予3年の有罪判決を受けたというだけでされたものであるから,その余の点について判断するまでもなく,違法として取消しを免れないといわなければならない。 [33] 本件決定が適法であることは,原判決が,「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2(原判決8頁13行目から9頁初行まで)に判示するとおりであるから,これを引用する。 [34] 以上の次第であるから,本件両処分は違法であってこれを取り消すべきであるが,本件決定は適法であり,その取消しを求める控訴人の請求は棄却すべきである。 [35] よって,原判決を変更し,主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 八木良一 裁判官 田川直之 裁判官 杉村鎮右 | ||||
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