余目町個室付浴場事件
第一審判決

損害賠償請求事件
山県地方裁判所 昭和44年(行ウ)第1号
昭和47年2月29日 民事部 判決

原告 有限会社X
被告 山形県

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由

■ 参照条文


 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

一、原告
 被告は原告に対し金10万円およびこれに対する昭和44年6月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。

二、被告
 主文同旨の判決
[1](一) 原告は昭和43年7月31日山形県知事から指令環第3893号をもつて蒸気を使用する公衆浴場の許可を受け、以来肩書地において「トルコハワイ」という名称で右浴場を営業している。

[2](二) 被告代表者山形県知事の所轄下にある山形県公安委員会は、昭和44年2月25日原告に対し、原告の右営業所は児童福祉法第7条に規定する児童福祉施設たる余目町立若竹児童遊園(以下本件遊園という)から約134.5メートルの距離にあるため、原告は同営業所においては個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する、所謂、個室付浴場業(以下単にトルコ風呂営業という)を営むことができないのにこれを行つたという理由で、同年2月26日から同年4月26日までの60日間原告のトルコ風呂営業を停止する処分(以下本件処分という)を行つた。

[3](三) 本件処分は後記四(二)のとおり、憲法、その他の法規に違反する。

[4](四) 本件処分により原告は、次の如く少なくとも金90万円の損害を蒙つた。
  (1日平均入浴者数) 30名
  (1名あたり入浴料金) 金1,000円
  (必要経費) 1日金1万5,000円
  (損害額) {1,000×30-15,000}×60=900,000

[5](五) よつて原告は被告に対し、国家賠償法第1条に基づき、右(四)の損害金90万円のうちの金10万円およびこれに対する不法行為の後たる昭和44年6月18日から支払済みに至るまで民法(国家賠償法第4条)所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
[6] 請求原因事実のうち、その(一)(二)は認,その余(四)は不知。
[7] 本件処分は適法である。

[8](一) 訴外山形県東田川郡余目町(以下単に余目町という)は、原告が右公衆浴場許可申請をした日(昭和43年6月6日)以前の昭和43年6月4日、山形県知事に対し、右浴場建設予定地から約134.5メートルの地点にある本件遊園設置の認可申請を行い、同知事から右一(一)の原告が右浴場許可を得た日以前の同月10日、児童福祉法第35条第3項所定の認可を受けた。

[9](二) 右(一)のとおり、原告の右営業所は本件遊園から約134.5メートルの距離にあるため風俗営業等取締法第4条の4第1項により、トルコ風呂営業を営むことができないにも拘らず、同年8月頃から昭和44年2月8日頃までの間、女子従業員6名が、右営業所個室浴場内において、その客64名に対し、93回に亘り、身体の洗い流し、マツサージ、手淫(スペシヤル)、或いは相互手淫(ダブルスペシヤル)をするなどして異性の客に接触する役務を提供し、同営業を共同して管理している原告会社代表取締役X1および同社員である同人の妻X2は、右行為を放置容認し、もつてトルコ風呂営業を営んだ。

[10](三) 山形県公安委員会は、右(二)の事由をもつて、風俗営業等取締法第4条の4第4項に基づき、同法第5条の公開による聴聞を行つたうえ、本件処分をした。
(一) 答弁
  抗弁事実につき
[11] その(一)は、そのうち、余目町の認可申請をした日付は否認、その余は認(ただし、認可の法律効果は争う。)。
[12] その(二)はそのうち、X1およびX2が放置容認していたとの点は否認、その余は不知。
[13] その(三)は認。

(二) 主張
[14] 本件遊園の認可は無効ないし違法であるから、本件処分も違法である。
[15](1) 本件遊園はその広場中央部に町民が徒歩および自動車通行に供する道路が貫徹し、この道路との境界には溝が走つていて、柵がなく、その他の周囲には僅かに高さ1メートル位の木が2、3メートル間隔で植えてあるだけであり、広場内部には砂場、便所、部落公民館として使用されてきたものを単に看板がえして室内遊技場としただけの建物および旧小学校時代からのブランコ、鉄棒があるのみで、その内容上、厚生大臣の定める、児童福祉施設最低基準に達していない。
[16](2) 本件遊園の東北隅から約10メートルの地点には、男性性器および男女両性器の結合を如実に形どつた計5個の石工物が、又、右遊園に接続する屋外には、牛や馬の種つけ場が、各設置されているため、同遊園は、環境上児童の情操教育に不適当である。
[17](3) 右(1)(2)の事情であるにも拘らず、余目町は、もつぱら原告のトルコ風呂営業を妨害する目的で、右三(一)の申請を行い、被告代表者たる山形県知事もこれをうけて、その認可を行つた。
[18](4) 右(1)ないし(3)によると、右(3)の認可は、当然無効又は違法として取消しを免れない性質のものであり、従つて右認可が適法であることを前提とする本件処分も違法である。
[19] 本件処分は憲法第31条に違反する。
[20](1) 原告代表者(その当時個人として)は、かねてから、トルコ風呂営業開業のため、各地において、その立地条件や法律制限の有無につき調査した結果、余目町が最適であるとの結論に達し、昭和42年8月頃から昭和43年春にかけて、数回に亘り山形県庁において、係官からの聴取等により、同町が風俗営業等取締法第4条の4第2項に基づく右営業の制限に関する県条例による禁止区域に入つていないことおよび、右一(一)の営業所の地点が同条の4第1項の禁止区域に包含されていないことを確認したので、同所に本件個室付浴場業を開設することを決意した。
[21](2) そこで、原告代表者は、昭和43年4月頃右(1)の地点の土地を購入した上、建築士の訴外Wに右営業所建設の設計を依頼し、同年5月11日、同訴外人を介して右営業所用建物の建築確認を申請し、これに対し同月23日に至つて漸く確認がなされたので、同月30日右建物建設に着手した。
[22](3) 原告は、同年6月6日山形県知事に対し、右建物を原告代表者から借受けた上、公衆浴場法に基づき、蒸気を使用する公衆浴場の許可申請を行つたが、同申請は公衆浴場法の定める許可条件をすべて具備していたものであるから速やかに許可がなされるべきであつたにも拘らず、それは異例に著しく遅延し、同年7月31日に至り漸くなされた。
[23](4) 他方、余目町は、右(2)のとおり、個室付浴場の建築確認をなし、かつ、原告の建築着手を認識しながら、原告のトルコ風呂営業に対する婦人団体などの反対の声に左右され、にわかに右営業の妨害を企て、右浴場所在地の西方約130メートルの地点にある元小学校の運動場跡に急拠砂場と便所を設けた上、これにつき同年6月6日頃、右三(一)のとおり認可申請をなし、同知事はこれを受け、右(3)のとおり原告への公衆浴場許可を故意に遅らせながら、右遊園については、わずか申請から4日後の同年6月10日これを認可したが、右遊園の実体は右1(1)(2)のとおりである。
[24](5) 右(1)ないし(4)の経過に照らすと、余目町と山形県知事は、原告の営業を妨害するため、殊更に、その営業禁止の事由の作出を共謀した上、一方では原告への公衆浴場許可を故意に引きのばし、他方ではその間に若竹児童遊園なるものを作り上げたことが明らかであつて、斯様な作為は法の濫用であり、原告代表者が右の禁止をおかしたことを理由に処罰されることは憲法第31条に照らして許されず、従つて右処罰が許されない以上、右罪をおかしたことを前提とする本件処分も許されない。
[25](一) その1は否認

[26](二) その2(1)(2)は不知

[27](三) その2(3)は、そのうち、その主張の日に原告が公衆浴場許可申請をし、それに対し許可がなされたことは認、その余は否認

[28](四) その2(4)は、そのうち、その主張の如く認可申請があり、その主張の日に山形県知事が遊園の認可をしたことは認、その余は否認

[29](五) その2(5)は否認
[1] 請求原因(一)(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
[2](一) 本件遊園と原告の営業所の距離が約134.5メートルであること、および、余目町は、山形県知事に対し本件遊園設置の認可申請をなし、これに対し昭和43年6月10日同知事により、右遊園の認可がなされたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲2号証の5によれば、余目町が認可申請をした日は、同月4日であることが認められ、これに反する証拠はない。

[3](二) 成立に争いのない乙第2号証の1ないし29、第3号証の1ないし17、第4号証の1ないし22、第五号証の1ないし15、第6号証の1ないし8、第7号証の1ないし14、および弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社の女子従業員6名は、昭和43年8月頃から翌昭和44年2月8日頃までの間、原告会社個室浴場内において、その客64名に対し、93回に亘つて、身体の洗い流し、マッサージ、手淫(スペシヤル)、相互手淫(ダブルスペシヤル)をするなどして、異性の客に接触する役務を提供し、原告会社を管理している原告会社代表取締役X1はこれを放置容認し、トルコ風呂営業を営んだこと(以下本件行為という)が認められ、これに反する証拠はない。
(一) 本件遊園認可の適否
1、実体法的考察
[4](1) 児童福祉法第45、46条には、厚生大臣は児童福祉施設の設備および運営等につき最低基準を定めなければならず、都道府県知事等の行政庁は、右基準を維持するため、その実施につき監督しなければならない旨、同法第40条には、児童遊園等の児童厚生施設は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、又は、情操を豊かにすることを目的とする施設とする旨、昭和23年12月29日厚生省令第63号児童福祉施設最低基準第60条第1号には「児童遊園等屋外の児童厚生施設には、広場、ぶらんこ及び便所の外、必要に応じ砂場及び滑台を設けること」、同第61条には「①児童厚生施設には、児童厚生員(児童厚生施設において、児童の遊びを指導する者をいう。以下同じ)を置かなければならない。②児童厚生員は左の各号の一に該当する者でなければならない。(一)寮母の資格を有する者(二)(略)」と各規定されているので、これを本件にあてはめると本件遊園の設備等が右最低基準に達しており、かつ、その環境等が右児童厚生施設の目的に合致するものであれば、その認可は、実体法的意味においては適法であると解するのが相当である。
(2) 最低基準に逹しているか否か
[5]イ 成立に争いのない甲第2号証の1ないし5、第6号証、証人佐藤敏夫、同斎藤紀子、同富樫義雄の各証言および検証の結果を総合すれば、本件遊園は、昭和40年廃止された元の余目町立常万小学校の校舎跡と、その校庭の一部であつて、その総面積は約1,200平方メートルで、右一(一)の認可前、その一遇に常万部落が建てた部落公民館があつたところ、同公民館は右認可申請の際、余目町が右部落から寄付を受けた上、これを木造トタン葺平家建46.2平方メートルの、屋内遊戯場に改造し、右認可申請時は、約1,000平方メートルの広場の外2連式ブランコ2基、6段式鉄棒1連、オーションウェーブ1基、13.3平方メートルの砂場、右遊戯場に卓球台1台、3.3平方メートルの便所、水炊場等の設備があり、これらの多くは右の旧常万小学校が使用していたもので、老朽化しているが、以後相当の間使用可能であること、児童厚生員として3名(うち2名は寮母の資格を有する者)が配置予定となつていて、同厚生員のうち、寮母の資格を有する2名は、同町立若竹児童館と、他の1名は同町役場と、各兼務であるが、いずれも、本件遊園における児童の遊びを指導できる勤務体制(右若竹児童館の職員が多いこと、および距離、時間関係等)にあること(現に、右認可後、寮母の資格を有する右児童館児童厚生員斎藤紀子は本件遊園において、右遊びの指導を行つている)、右常万部落の住民においても、本件遊園の設置に積極的協力体制にあり設備と遊具の維持管理にあたることを承認していたこと等の事実が認められ、これに反する証拠はない。
[6]ロ 右イ認定の事実によれば、本件遊園は、右(1)の省令に定められた最低基準に達しているものと認めるのが相当である。なお、本件遊園には滑台がないが、右省令の、滑台設置は必要に応じ設ける旨の規定の体裁からすると、滑台の存在は必須条件にはなつていないものと解するのが相当である。
(3) 環境等が児童福祉施設の趣旨、目的に合致しているか否か
[7]イ 成立に争いのない甲第1号証の1ないし11、証人富樫義雄の証言検証の結果および弁論の全趣旨によれば、本件遊園から東方約10メートルの雑木林の中には、道祖神があり、その回りには男性性器および男女性器の交合を型どつた計5個の石工物があり、本件遊園内東端には、牛馬の種付け場又は牛馬の爪切りに使われたと見られる4本柱の木造建築物(屋外)があること、右木造建築物は最近は全く使用されておらず、右道祖神は林の中にあつて本件遊園から見とおすことができず、かつ、それは数十年前設置されたもので、旧常万小学校の児童の目に触れることもあつたが、児童に対し、教育上の支障が生じたことはなかつたことその他、特に本件遊園につき、児童の情操上、悪影響をもたらす施設等は存しないことが認められ、これに反する証拠はない。
[8]ロ 右イ認定の事実によれば、右石工物および木造建築物の存在は本件遊園の環境を特に悪化させるものでなく、従つて全体的にみて、本件遊園はその環境上、児童厚生施設の目的に合致しているものと認めるのが相当である。
[9](4) 右(2)(3)によると、本件遊園認可行為には、実体法的にみて、違法事由は存在しない。
2 手続法的考察
[10](1) 原告が、被告代表者知事に対し、本件公衆浴場許可申請をしたのは昭和43年6月6日であることは当事者間に争いがなく、その許可がなされたのが同年7月31日であり、訴外余目町が同年6月4日右知事に対し、本件遊園の認可申請を行い、同月10日その認可を得たことは、右第一および第二、一(一)認定のとおりである。
[11](2) 風俗営業等取締法第4条の4第1項によれば、認可された児童福祉施設の周囲200メートル以内の地点においては、既に公衆浴場法第2条第1項の許可を受けてトルコ風呂業を営んでいる者を除いては同営業を営むことができないとされているから、右(1)によると、本件遊園の認可以降、原告は仮に知事からその許可を得ても、トルコ風呂営業を営むことはできない(従つて、できるのはトルコ風呂営業以外の公衆浴場営業のみであり、もし、その逆の順で許認可がなされた暘合は、遊園認可申請者は、その200メートル以内の地点に、児童福祉の趣旨からみて必ずしも好ましくないトルコ風呂施設を有したまま、右遊園を開かざるをえなくなる)。
[12](3) 一般に、事実上又は法律上その利益(本件においては原告の、トルコ風呂営業を営む利益と、余目町の児童遊園の近接地において児童福祉上好ましくない施設を営業させたくない利益)が衝突する、右(1)の如き2つの申請が競合している場合、許認可権者としては、許認可申請の順位に従い、その申請の当否を判断し、許認可のための法律上の要件を備えているものから順次その申請の許認可の決定をする(本件遊園の認可は、児童福祉法の規定の仕方からみて、覊束行為と解するのが相当である)、のが法の一般原則たる信義則又は公平の原則に合致するものと言うべきであり、従つて、特段の事情のない限り右の方法によりなされた許認可は適法であると解するのが相当であるところ、本件においては、右1(2)(3)のように、本件遊園の認可申請時には、その認可のための実体的要件が備わつており、(その後補正したのではない)かつ、右(1)のように、本件遊園の認可申請が、トルコ風呂営業許可申請より先順位であるから、特段の事情のない限り知事の本件遊園認可行為は、手続法的に見て、適法と認めるのが相当である。
(4) 右(3)の特段の事情の存否
[13]イ 成立に争いのない甲第2号証の1ないし5、第3号証、第4号証の1、2、第6号証、証人富樫義雄、同吉村敏夫、同芳賀三郎、同小谷野隆、同伊藤政一の各証言、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実が認められ、これに反する証拠はない。
[14]A 原告代表者X1(以下単に、X1という)はかねてからトルコ風呂営業をしたいと考え、各地において、その立地条件や法律制限の有無等につき調査した結果、余目町が最適であるとの結論に達し、かつ、原告の現営業所の地点が風俗営業等取締法第4条の4第1項の禁止区域に入つていないこと(その際、認可前の本件遊園も調べている)を確認したので、昭和43年3月頃右地点に、トルコ風呂営業所設置のための土地を買い入れた。
[15]B 右Aの土地買入れ後X1からトルコ風呂建設のための設計を依頼された測量士の訴外Wは、右建築予定地点にはトルコ風呂営業を阻む法律的制限がないことを確かめたうえ、その後約1ヶ月の間山形県土木部建築課の指導を受けながら右設計を行つた。
[16]C 同年5月11日X1は、右BのWを介して、余目町に対し、トルコ風呂営業用建物の、建築確認申請を行い、同申請書は同日中に山形県鶴岡建設事務所で、同月13日同県土木部建築課で、各受付られ、これについて同県建築課、環境衛生課および同県警察本部とが合議をしたうえ、同月23日右X1にその確認通知がなされた。
[17]D 右Cの確認通知と同時にX1は、同項の建築課から、近く、余目町において、トルコ風呂営業用建物建築予定地より約150メートル離れた児童遊園地を、児童福祉法第7条に定める児童福祉施設とする動きがあり、それが実現された場合は、トルコ風呂営業は、風俗営業等取締法の場所規制に抵触することになる旨の注意書を受取つた。
[18]E X1は同月30日トルコ風呂営業用建物の建設に着手し、同年6月6日原告会社を設立した上、右(1)のとおり同日中に山形県知事に対し、原告において蒸気を使用する公衆浴場の許可申請を行い、これについての許可は、申請後59日経過している。
[19]F 同年5月初旬頃から、余目町民間に、原告のトルコ風呂営業が開始されるとの噂が広まり、そのころ同町長は、同町常万部落民、山形県婦人連盟および同町連合婦人会等から、右トルコ風呂営業を阻止されたい旨の陳情をうけたが、右陳情団から、トルコ風呂営業所の近くに県公認の児童遊園があればトルコ風呂営業を阻止することができる旨を聞知したので、同月下旬頃、同町議会議長、同町連合婦人会長らとともに、山形県庁に赴き、知事に対し、その権限で右トルコ風呂営業の開始を阻止されたい旨の陳情を行つた。
[20]G その頃余目町は、山形県知事に対し、本件遊園設置の認可申請を行つたが、手続上の要件不備で却下され、それを補正して改めて申請するまで10日間位の期間を要した。
[21]H 右Gの後同町長は、再び県に赴き、県議会の厚生常任委員会に右Fと同旨の陳情を行つたが、同委員会では、認可された児童遊園があれば、トルコ風呂営業を阻止できる旨の話がかわされていた。
[22]I 右FないしGの経過をたどり、右(1)のとおり、本件遊園設置の認可申請とその認可がなされた。
[23]ロ 右イ認定の事実によれば、次のような判断ができる。
[24]A 被告山形県および余目町は、いずれも、当初原告に対し、近い将来、原告をしてトルコ風呂営業が可能であるとの観念を抱かせるような態度(X1からのトルコ風呂設置についての相談に協力し、かつ、建築確認をしたこと等)を示しながら、特に余目町は、同町婦人団体などからの、トルコ風呂営業阻止の陳情に遭い、にわかに翻意しトルコ風呂営業を阻止するため、その手段として本件遊園設置の認可申請を行い、被告代表者知事も、余目町の右目的を認識しながら、右申請を認可したものと認めるのが相当であり、斯様な経過による同認可は甚だ当を得ないものとされる余地がある。
[25]B そこで、先づ右Aの建築確認を行いながら、同建物によるトルコ風呂営業を不可能化した本件遊園認可の当否について考えると、右確認の時点において、トルコ風呂営業を阻害するに足る事由(認可された本件遊園の存在)は存在しなかつたこと、および建築確認という行政行為は、当該建築物が建築基準法に定める基準に合致していれば、これを行わざるを得ない性格のものであることからすると、トルコ風呂営業用建物についての建築確認がなされた一事をもつて、被告代表者知事が、本件遊園の認可よりも先に、後順位申請のトルコ風呂営業の許可をしなければならないという拘束を受ける理由にはならないものと言うぺきであり、次に右知事において余目町の本件遊園認可申請が原告のトルコ風呂開業阻止が主たる目的であることを認識しながらなした本件遊園認可についても、同申請行為は余目町が自主的に決定したものであり、かつ、客観的に、申請の要件が具備している限り、知事はこれに従つて認可をすべき立場(右(3)の如く覊束行為)にあるから、右認識は、認可行為と無関係であると言うべきであり、これらによると、被告代表者知事に存する右Aの事情をもつて本件遊園の認可が違法となるものではない。
[26] 付言するに、X1が、営々として築きあげた開業資金により本件トルコ風呂の開業に着手し、具体的にその建物を建て始めるに至つてから、同営業を法的に阻止する目的をもつて、児童遊園としては、その設備上必ずしも充分であるとは言い難い、旧常万小学校校庭跡地を児童遊園として認可申請に及んだ余目町の行為は、原告に対する関係において、所謂、営業妨害的行為と言わざるを得ず、職業選択の自由を保障した憲法第22条、財産権の不可侵を規定した同法第29条の各精神にてらし、極めて妥当性を欠くものと言わざるを得ない。
[27]ハ 右ロによると、本件遊園認可行為には、手続法的にみてこれを違法とするに足る特段の事情は存在しないことに帰着する。
[28]、右1、2によると、本件遊園の認可は適法であるから、これが違法であることを前提として本件処分が違法であるとする、原告の主張は理由がない。

(二) 原告代表者を風俗営業等取締法第4条の4第1項違反として処罰することが憲法第31条に違反するか否か
[29] 原告が憲法第31条違反であると主張するところは、要するに、余目町と山形県は、原告のトルコ風呂営業を妨害するためその営業禁止の事由の作出を共謀し、一方では原告に対する、右営業許可を引きのばし、他方では、その間に、本件遊園を作り上げた、というものであるが、右(一)2(1)(3)のとおり、右浴場許可申請は、本件遊園の認可申請後のものであり、かつ先順位申請に対する認可が先行するのが適法であるから、右浴場許可がその申請後59日も経てからなされたことの当否はともかくとして、右主張が理由のないものであることが明らかであり、他に同法第31条に違反すると認めるに足る事由は存しない。

[30](三) 右(一)(二)によれば、本件処分は適法であると言うべきである。
[31] よつて、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
第35条第3項 市町村その他の者は、命令の定めるところにより、都道府県知事の認可を得て、児童福祉施設を設置することができる。
第4条の4 浴場業(公衆浴場法(昭和23年法律第139号)第1条第1項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。以下同じ。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業(以下「個室付浴場業」という。)は、一団地の官公庁施設(官公庁施設の建設等に関する法律(昭和26年法律第181号)第2条第4項に規定するものをいう。)、学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定するものをいう。)、図書館(図書館法(昭和25年法律第118号)第2条第1項に規定するものをいう。)若しくは児童福祉施設(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条に規定するものをいう。)又はその他の施設でその周辺における善良の風俗を害する行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内においては、これを営むことができない。
 前項に定めるもののほか、都道府県は、善良の風俗を害する行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、個室付浴場業を営むことを禁止することができる。
 第1項の規定又は前項の規定に基づく条例の規定は、これらの規定の施行又は適用の際現に公衆浴場法第2条第1項の許可を受けて個室付浴場業を営んでいる者の当該浴場業に係る営業については、適用しない。
 公安委員会は、個室付浴場業を営む者又はその代理人、使用人その他の従業者が、当該営業に関し、次の各号に一に該当する場合においては、当該営業を営む者に対し、当該施設を用いて営む浴場業について、8月をこえない範囲内で期間を定めて営業の停止を命ずることができる。
一 この法律に規定する罪(第1条第7号に掲げる営業に関するものを除く。)、刑法(明治40年法律第45号)第174条、第175条若しくは第182条の罪、売春防止法(昭和31年法律第118号)第2章に規定する罪又は職業安定法(昭和22年法律第141号)第63条の罪を犯したとき。
二 労働基準法(昭和22年法律第49号)第56条若しくは第62条又は児童福祉法第34条第1項第6号若しくは第9号の規定に違反したとき。

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