一般廃棄物収集運搬業不許可事件
上告審判決

一般廃棄物処理業不許可処分取消請求事件
最高裁判所 平成14年(行ヒ)第312号
平成16年1月15日 第一小法廷 判決

上告人 (控訴人  被告) 松任市長 A
    同訴訟代理人弁護士 岡田進 横山昭 平賀睦夫

被上告人(被控訴人 原告) 株式会社北紙
    同代表者代表取締役 B

■ 主 文
■ 理 由


1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 被上告人の請求を棄却する。
3 訴訟の総費用は,被上告人の負担とする。

[1] 本件は,被上告人が,上告人に対し,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)7条1項に基づき,一般廃棄物の収集及び運搬を業として行うことの許可申請(以下「本件許可申請」という。)をしたところ,不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)を受けたので,その取消しを求める事案である。

[2] 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
[3](1) 松任市においては,一般家庭から排出される一般廃棄物については,株式会社石川衛生公社(以下「衛生公社」という。)にその収集及び運搬を委託しているが,事業活動に伴って排出される一般廃棄物(以下「事業系廃棄物」という。)の収集及び運搬については,松任市が自ら又は委託の方法により行うのではなく,昭和54年4月1日以降,一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた唯一の業者である衛生公社がこれを行っている。
[4](2) 松任市の一般廃棄物処理計画のうち平成9年度及び平成10年度の各実施計画においては,事業系廃棄物は排出者自らの責任において自己処理し,又は許可業者に委託して処理することが求められる旨が定められていた。
[5](3) 廃棄物処理業者である被上告人は,平成10年3月17日,上告人に対し,廃棄物処理法7条1項に基づき,松任市内で事業系廃棄物(し尿・浄化槽汚泥を除く。)の収集及び運搬を業として行うことについて本件許可申請をした。
[6](4) これに対し,上告人は,被上告人に対し,同年4月2日,「当市において,既存の許可業者で一般廃棄物の収集,運搬業務が円滑に遂行されており,新規の許可申請は廃棄物処理法第7条第3項第1号及び第2号に適合しない」との理由で,本件不許可処分をした。

[7] 原審は,次のとおり判断して,本件不許可処分を取り消した第1審判決を是認し,上告人の控訴を棄却した。
[8](1) 廃棄物処理法7条3項1号にいう「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは,市町村が自ら又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいうものであり,許可を受けた業者による一般廃棄物の収集又は運搬がこれに含まれるということはできない。
[9](2) 松任市においては,事業系廃棄物の収集及び運搬は,事業者が自ら行うほかは,すべて一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた衛生公社が行っており,松任市が自ら又は委託の方法により事業系廃棄物の収集又は運搬を行ってはいないのであるから,それでもなお松任市が自ら又は委託の方法によりその収集及び運搬をすることが困難でないというべき特段の事情の認められない本件においては,松任市による事業系廃棄物の収集又は運搬が困難であるものと認められる。したがって,被上告人の本件許可申請は廃棄物処理法7条3項1号に適合している。
[10](3) 松任市の一般廃棄物処理計画は,衛生公社のみに事業系廃棄物の収集運搬業の許可を与えることを内容とするものではないと解されるが,本件不許可処分は,これとは異なる解釈を前提とし,そのことから直ちに被上告人の許可申請は同計画に適合しないとしたものであるから,廃棄物処理法7条3項2号の適用を誤ったものである。
[11](4) そうすると,上告人は被上告人の本件許可申請に対して許可をすべきものであり,本件不許可処分は,廃棄物処理法7条3項の適用を誤ったもので,違法である。

[12] 原審の上記3の判断のうち,(1)及び(2)は是認することができるが,(3)及び(4)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
[13](1) 市町村は,その区域内における一般廃棄物の処理に関する事業の実施をその責務とするものであり,一般廃棄物処理計画を定め,これに従って,自ら又は第三者に委託して,一般廃棄物の収集,運搬等を行うべきものである(廃棄物処理法4条1項,6条,6条の2)。そして,廃棄物処理法7条3項1号は,当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であることを同条1項の許可の要件として定めている。そうすると,同条3項1号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは,当該市町村が自ら又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいい,一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者が行う一般廃棄物の収集又は運搬はこれに当たらないものというべきである。したがって,許可を受けた業者が一般廃棄物の収集又は運搬をすることで区域内の一般廃棄物の収集及び運搬が適切に実施されている場合であっても,当該市町村が自ら又は委託の方法により区域内の一般廃棄物の収集又は運搬を行うことが困難であるときは,同号の要件を充足するものというべきである。
[14](2) ところで、廃棄物処理法は,上記のとおり,一般廃棄物の収集及び運搬は本来市町村が自らの事業として実施すべきものであるとして,市町村は当該市町村の区域内の一般廃棄物処理計画を定めなければならないと定めている。そして,一般廃棄物処理計画には,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み,一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項等を定めるものとされている(廃棄物処理法6条2項1号,4号)。これは,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいて,これを適正に処理する実施主体を定める趣旨のものと解される。そうすると,既存の許可業者等によって一般廃棄物の適正な収集及び運搬が行われてきており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されているような場合には,市町村長は,これとは別にされた一般廃棄物収集運搬業の許可申請について審査するに当たり,一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させるためには,既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることが相当であるとして,当該申請の内容は一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないという判断をすることもできるものというべきである。
[15](3) これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,松任市では衛生公社により一般廃棄物の収集及び運搬が円滑に遂行されてきていることを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されていると解されるところ,上告人は「当市において,既存の許可業者で一般廃棄物の収集,運搬業務が円滑に遂行されており,新規の許可申請は廃棄物処理法第7条第3項第1号及び第2号に適合しない」との理由で本件不許可処分をしたというのであるから,その実質は,上記の点を考慮した上,一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させるためには,新たに被上告人に対して許可を与えるよりも,引き続き衛生公社のみに一般廃棄物の収集及び運搬を行わせる方が相当であるとして,本件許可申請は一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないと判断したものと解することができ,そのような上告人の判断は許されないものとはいえないから,本件不許可処分は適法であるというべきである。

[16] 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点をいう論旨は理由がある。したがって,原判決は破棄を免れず,以上に述べたところからすれば,被上告人の請求は理由がないから,第1審判決を取消して,同請求を棄却することとする。

[17] よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎  裁判官 深澤武久  裁判官 横尾和子  裁判官 甲斐中辰夫  裁判官 泉徳治)

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