一般廃棄物収集運搬業不許可事件
第一審判決

一般廃棄物処理業不許可処分取消請求事件
金沢地方裁判所 平成10年(行ウ)第7号
平成12年10月13日 第2部 判決

(平成12年6月19日口頭弁論終結)

原告 株式会社北紙
   右代表者代表取締役 A
   右訴訟代理人弁護士 北尾強也 岩淵正明 奥村回 橋本明夫

被告 松任市長 B
   右訴訟代理人弁護士 岡田進 横山昭

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


一 被告が原告に対して平成10年4月2日付けでした一般廃棄物収集運搬業の不許可処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。

 主文同旨
1 許可申請
[1] 原告は、被告に対し、平成10年3月17日、事業の範囲を「事業活動に伴う一般廃棄物(し尿・浄化槽汚泥を除く)の収集・運搬」として、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)7条1項の一般廃棄物収集運搬業の許可申請をした(以下「本件許可申請」という。)。

2 不許可処分
[2] 被告は、平成10年4月2日付けで、「松任市において、既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項1号及び2号に適合しない」との理由で、本件許可申請につき不許可処分をした(以下「本件不許可処分」という。)。

3 ごみ処理基本計画及び同実施計画の策定
[3] 松任市は、廃棄物処理法6条1項に基づく一般廃棄物処理計画を立てるについて、平成6年3月、松任市廃棄物の減量化及び適正処理等に関する条例を、同年4月、同施行規則をそれぞれ定め、いずれも同年7月1日から施行した。松任市は、平成6年11月、廃棄物処理法6条1項並びに右条例及び同施行規則に基づき、ごみ処理基本計画を策定して公表し、毎年度ごとに実施計画を策定して公表している。

4 許可業者
[4] 松任市は、株式会社石川衛生公社(以下「衛生公社」という。)のみに、一般廃棄物収集運搬業の許可をしている。

5 不服申立て
[5](一) 原告は、被告に対し、平成10年5月11日、本件不許可処分に対する異議申立てをした。
[6](二) 被告は、平成10年6月19日付けで右異議申立てを棄却した。
1 原告
[7] 本件不許可処分には、次の法律解釈違反及び裁量権濫用の違法があり、取消しを免れない。
(一) 廃棄物処理法7条3項1号について
[8] 松任市は、一般廃棄物処理を一般廃棄物収集許可業者に委任して処理しており、直接行っていないから、これを自ら行うことはできないのであり、本件許可申請は、廃棄物処理法7条3項1号に適合するものである。したがって、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項1号に適合しない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は、違法である。
(二) 廃棄物処理法7条3項2号について
[9](1) 一般廃棄物処理の必要性はますます増大しているところ,原告は、松任市内において古紙回収業を営んでいるが、回収先の事業所などで古紙と一緒に一般廃棄物の収集処理も依頼されており、原告が古紙と一般廃棄物を同時に収集・運搬することは、資源ごみの回収の円滑、リサイクルの進展にも寄与する上、衛生公社に迷惑をかけることはなく、本件許可申請を不許可にすべき理由はない。複数の業者に許可することこそ一般廃棄物処理計画に適合するものである。したがって、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項2号に適合しない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は、違法である。
[10](2) 原告は、処分庁の教示に従って本件許可申請をし、適法に受理されたのであるから、本件許可申請の内容が廃棄物処理法7条3項2号に該当しないとする理由はない。
(三) その他
[11](1) 被告は、具体的な事実を摘示して根拠を示すことなく本件不許可処分をしており、本件不許可処分には、処分庁の独断による法律解釈の誤りがあって違法である。
[12](2) 他の市町村では、自ら一般廃棄物の収集運搬業務を行うほか、複数の業者に対して一般廃棄物収集運搬業の許可を与えているのに、被告は、1業者に対してしか右許可を与えないとして、松任市の助役であった者が代表者を務める衛生公社に独占を認め、本件不許可処分をしたものであって、これは、法の下の平等を遵守するべき地方自治体の長たる被告が、その権限を濫用して、特定業者に加担したもので、不公平この上なく、裁量権を逸脱したものであり、違法である。
[13](3) 被告は、事業活動に伴って排出される一般廃棄物(以下「事業系廃棄物」という。)と一般家庭から排出される一般廃棄物(以下「家庭系廃棄物」という。)を一体的に処理する必要があると主張するけれども、事業系廃棄物は、事業者が自らの責任において適正に処理すべきことが義務づけられ、市町村がその収集・運搬の費用を負担することは許されないものであり、市町村が自ら直接又は委託の方法により収集・運搬することになっている家庭系廃棄物とは本質的に異なるから、両者の処理を一体的に行う合理性はない。
[14] 仮に両者の処理を一体的に行うことが望ましいとしても、そのことが特定の1業者にしか収集・運搬の許可を与えないことの理由にはなり得ない。特に、事業系廃棄物について、許可業者を特定の1業者にしなければ計画的・一体的処理が不可能になるとは到底いえない。
[15] また、衛生公社は、収集した一般廃棄物の処理を、有料で松任市などの市町村により構成される事務組合の施設などに委託しているものであるから、他の業者も同様に処理を委託することが可能であり、被告において原告を衛生公社と同様に扱えない理由はない。
[16](4) 原告は、回収先の事業所などで古紙と一緒に一般廃棄物の収集処理も依頼され、それができないのであれば古紙回収契約に応じないといわれ、一般廃棄物処理業の許可がなければ事業活動ができない事態が発生するに至り、本件許可申請をしたものであり、本件不許可処分は、原告の職業選択の自由を奪う違法なものである。
[17](5) 許可申請を受けた市町村は、一般廃棄物の収集・運搬について許可条件を充たす者に許可するのが当然であり、特定の業者をあらかじめ定めておき許可するのはそもそも違法である。

2 被告
[18] 一般廃棄物の収集・運搬・処理等にいうところの清掃事務は、環境保全及び公衆衛生上公益的事業であるから、地方自治体である市町村固有の行政事務の一環として位置付けられているが、市町村長は、財政事情、清掃の技術等の経験的沿革、広域行政等により、当該市町村の区域内の一般廃棄物の収集・運搬が困難である場合に限り、当該市町村の一般廃棄物処理計画に適合する範囲で、かつ、厚生省令で定められた法律上の基準に適合した施設及び能力を有する事業者に限って、一般廃棄物処理業の許可を与えることができるのであって、その許否については、行政運用上から、広範な裁量権が認められるから、社会通念に照らし、著しく妥当性を欠き、その与えられた裁量権を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法となることはなく、形式的に許可要件に該当しても、許可をしなければならないものではない。
[19] 次のとおり、松任市は、現在、一般廃棄物の処理が困難な状況にはなく、本件許可申請は松任市の一般廃棄物処理計画にも適合していないから、本件不許可処分に裁量権の逸脱・濫用はなく、違法ではない。
(一) 廃棄物処理法7条3項1号について
[20](1) 松任市は、その固有事務である一般廃棄物の処理について、ごみ処理基本計画を定め、ごみ処理計画の広域円滑化のため、近隣の石川県石川郡野々市町、美川町、鶴来町、河内村、鳥越村、吉野谷村、尾口村、白峰村と松任石川広域事務組合を設立し、廃棄物の中間処理施設及び最終処分場を設置しており、独自の処理施設は有していない。そのため、松任市は、他の市町村との関係で、右施設への一般廃棄物の投入処理に関する制約を受けており、その整合性を図った松任市廃棄物の減量化及び適正処理等に関する条例及び同施行規則に基づき、一般廃棄物の処理について、年度ごとに実施計画を策定し、これを実施している。
[21] 松任市及び右町村は、右のような制約の下で一般廃棄物の収集・運搬を行うのであるから、家庭系廃棄物と事業系廃棄物を一体的に収集、運搬し、処理するのが好ましいのは当然である。そうであれば、事業系廃棄物の収集・運搬業者は少数である方が、一般廃棄物処理計画に従った実施をスムーズにできることになることは論を俟たない。さらに、家庭系廃棄物の収集・運搬を行う業者において事業系廃棄物の収集・運搬を行うことが、一般廃棄物処理計画に従った収集・運搬を実現できることになる。
[22] このような状況下で、松任市及び右町村の全部が、事業系廃棄物の収集・運搬について、複数の業者に許可をするときは、許可業者間で無用の競争が生ずることも予想され、各市町村の一般廃棄物処理実施計画に従う廃棄物の収集・運搬が実現できず、処理施設の制約との整合性も図れなくなることが十分予想される。
[23](2) 松任市は、石川県石川郡松任町であった昭和37年4月1日から、衛生公社に社名変更する前の石川郡衛生株式会社に、家庭系廃棄物の処理を委託してきたのであって、このことは松任市の一般廃棄物処理計画に組み込まれていた。
[24] 一方、事業系廃棄物については、昭和37年4月1日から昭和54年3月31日までは事業者の自己責任において収集・運搬が行われてきたが、経済の高度成長に伴い、事業者の増加が著しくなり、事業系廃棄物を個々の事業者に収集・運搬させていたのでは、松任市の一般廃棄物処理計画との整合を保てないおそれが生じたため、松任市は、事業系廃棄物の収集・運搬について、業者に許可を与えて行わせることにした。
[25] 事業系廃棄物の収集・運搬業者は少数である方が、スムーズに一般廃棄物処理実施計画を実施できる。自由競争は、公益的目的の達成を阻害こそすれ、有益性はないのであって、過当競争となれば、本来廃棄物とならないものまで廃棄物として排出され、右計画の実施を困難にするおそれが生ずることが懸念されるし、一般廃棄物の不法投棄が生ずる可能性も十分にある。
[26] また、事業系廃棄物は、事業活動により排出されたという点に家庭系廃棄物との違いがあるのみで、廃棄物としての本質的違いはないから、事業系廃棄物の収集・運搬は、家庭系廃棄物の収集・運搬の延長線上にあるのであって、家庭系廃棄物の収集・運搬を外部の一般廃棄物処理業者に委託している市町村の場合は、事業系廃棄物の収集・運搬も同一の業者にさせた方がより経済的である。他の一般廃棄物業者に許可をするときは、家庭系廃棄物の収集・運搬費用が増加するおそれがある。
[27] そこで、被告は、昭和54年4月1日から、事業系廃棄物の収集・運搬について、昭和37年4月1日以来松任町ないし松任市の家庭系廃棄物を収集・運搬しており、それに必要な人的・物的施設を有していた衛生公社に許可をし、以来この許可を継続している。
[28] 事業系廃棄物の収集・運搬については、廃棄物処理法が自己責任の原則を定めているから、市町村がその費用を負担することは許されないため、松任市は、廃棄物処理法7条1項の許可をしているが、以上の歴史的背景等に鑑みれば、その実態は委託に限りなく近い関係にある。
[29](3) そして、松任市における平成7年度から平成10年度までの一般廃棄物処理の実施状況は、別紙一般廃棄物処理実施表記載のとおりであって、家庭系廃棄物は実績数量が計画数量を下回っており、直接搬入ごみを除く事業系廃棄物の実績数量は計画数量を上回った年度があるが、家庭系廃棄物と事業系廃棄物の合計の実績数量は、平成8年度及び同10年度は計画数量を上回っているが、平成7年度及び同9年度は計画数量を下回っており、両者を一体的に処理する高度の必要性があり、これらの収集・運搬を同一業者に行わせるのが合理的であること、松任市の許可の実態は、委託に限りなく近い関係にあることを示している。
[30] また、衛生公社が保有する廃棄物収集・運搬車両台数及び従業員数は、別紙車輛台数等一覧表記載のとおりであり、別紙一般廃棄物処理実施表記載の実績数値に鑑みても、その処理能力は十分である。
[31](4) このように、現在、衛生公社の業務により、松任市民には支障は生じていないから、松任市には一般廃棄物処理計画にいうところの処理困難な事情は生じていない。
[32] したがって、廃棄物処理法7条3項1号に適合しないとの理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は、違法ではない。
[33](5) なお、他の市町村において、一般廃棄物処理業者競合の事実があるとしても、それはその市町村の一般廃棄物処理計画、その沿革又は特殊な事情によるものにすぎない。
(二) 廃棄物処理法7条3項2号について
[34] 前記(一)記載の各事情によれば、本件許可申請が廃棄物処理法7条3項2号に適合するものでないことは明らかであるから、本件不許可処分は違法ではない。
(三) その他
[35] 一般廃棄物の収集・運搬の清掃事務は、市町村の固有事務であり、独占であって、自由競争は認められていないから、その事務を許可することは市町村の行政運用の一環であり、その性格上、平等とか職業選択の自由の問題にはならない。
[36]1(一)(1) 市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(一般廃棄物処理計画)を定めなければならず(廃棄物処理法6条1項)、右計画に従って、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分しなければならない(同法6条の2第1項)ところ、右事務は、市町村の固有事務であるとされている(平成11年法律第87号地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律による改正前の地方自治法2条3項7号、4項)。一般廃棄物処理計画は、同法による改正前の地方自治法2条5項の基本構想に即して定められなければならず(同法による改正前の廃棄物処理法6条3項)、厚生省令で定めるところにより、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み、一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項、その他一般廃棄物の処理に関し必要な事項を定めるものとされており(廃棄物処理法6条2項)、市町村が行うべき一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準並びに市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定めるものとされている(同法6条の2第2項)。
[37] 以上のとおり、一般廃棄物の収集、運搬及び処分は、市町村の責務であるから、市町村は、総合的かつ将来的な見地に立った一般廃棄物処理計画を策定し、右計画に従って、自ら直接又は委託の方法により一般廃棄物の処理を行うことが必要とされているものと解される。
[38](2) しかしながら、市町村が自ら直接又は委託の方法によって一般廃棄物の処理をすることが諸般の事情により困難である場合においては、一般廃棄物の処理を業者に行わせざるを得ないところ、廃棄物処理法は、かかる場合に、一般廃棄物の収集・運搬又は処分を業として行おうとする者は、収集・運搬を行おうとする場合と処分を行おうとする場合のそれぞれについて、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならないものとしており(廃棄物処理法7条1項、4項)、市町村長がその許可申請について許可をするための要件として、いずれの場合についても、当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬又は処分が困難であること(同法7条3項1号、6項1号)、その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること(同条3項2号、6項2号)、その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること(同条3項3号、6項3号)、申請者が所定の欠格事由に該当しないこと(同条3項4号、6項4号)を定めている。
[39] その趣旨は、一般廃棄物の処理は市町村の責務に属するものであり、本来的には、市町村が一般廃棄物処理計画に従って自ら直接又は委託の方法によりこれを処理すべきものであって、業者がこれと並行して一般廃棄物の処理を業として行うとすれば混乱が生ずることとなるから、これを一般的に禁止するとともに、市町村が自ら直接又は委託の方法によって一般廃棄物を処理することが困難である場合に限り、その禁止を一部解除して、所定の要件を満たした業者が一般廃棄物処理を業とすることを許可することとしたところにあると解せられる。
[40](3) そうすると、廃棄物処理法7条の規定の趣旨は、市町村が自ら直接又は委託の方法によって行う一般廃棄物の処理と、民間業者が行う一般廃棄物の処理との調整を図るところにあるということがでさる。
[41] 右の趣旨及び同条の文理からすれば、民間業者に一般廃棄物の収集・運搬の許可を与える基準を定める同条3項1号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは、市町村が自ら直接又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいうものであると解すべきであり、許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集・運搬は、その主体はあくまで民間業者であり、市町村ではない以上、これに含まれると解することはできない。
[42](二) 一方、前記のとおり、一般廃棄物の処理が市町村の責務であって、市町村は混乱なくその処理を達成しなくてはならないことからすれば、市町村が自ら直接その処理を行うか、業者に委託してその処理を行わせるか、民間業者に一般廃棄物処理業の許可を与えるかについては、総合的かつ将来的な見地から、技術的、政策的に判断されなくてはならないのであって、廃棄物処理法7条3項1号が、「困難」という一定の評価を伴う文言を定めていることからしても、当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が「困難」であるか否かについては、許可をする市町村長の広範な裁量に委ねられており、逸脱又は濫用と評価される場合に限り、違法となると認められる。

[43]2(一) そこで、本件についてみるに、証拠(丙1の1、5の2ないし5、6、10の1ないし3、12の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、松任市においては、事業系廃棄物の収集・運搬は事業者が自ら行う他は、すべて一般廃棄物処理業の許可を受けた民間業者である衛生公社が一者で行ってきたものであり、松任市又はその委託を受けた業者がこれを行っている事実はないこと、同市が定めた一般廃棄物処理計画においても、許可業者に右の収集・運搬を行わせる旨定められていることが認められる。
[44] 右のとおり、松任市が自ら直接又は委託の方法により事業系廃棄物の収集・運搬を行ったことはないのであるから、それでもなお松任市が自ら又は委託の方法によりその収集・運搬をすることが困難でないと認定することは、それを正当化する特段の事情がない限り、前記判示の広範な裁量権の範囲をも逸脱するものであるというほかはない。
[45] しかるところ、前記のとおり、同条3項1号の「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬」とは、市町村が自ら直接又は委託の方法により行う一般廃棄物の収集又は運搬をいうものであると解すべきであり、許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集・運搬は、これに含まれないと解されるから、現在、衛生公社が収集、運搬していることにより、松任市民には支障は生じていないことをもって、右特段の事情と認めることはできない。そして、他に右特段の事情についての主張・立証はない。
[46] そうすると、松任市が自ら直接又は委託の方法により事業者の排出する一般廃棄物の収集・運搬を行うことは困難であるものと認められるから、本件許可申請は廃棄物処理法7条3項1号に適合するものであるというべきである。
[47](二) 被告は、この点について、前記(第一、二2(一))のとおり、歴史的背景や他の市町村との整合性等を図るため家庭系廃棄物と事業系廃棄物を一体的に処理する合理性がある等と主張し、松任市が事業系廃棄物の収集・運搬について衛生公社に許可を与えているのは、廃棄物処理法が事業系廃棄物につき事業者の自己責任を定めているため、市町村がその費用を負担することは許されないからにすぎず、その実態は委託に限りなく近い関係にあるから、松任市には一般廃棄物処理計画にいうところの処理困難な事情は生じていないと主張する。
[48] しかしながら、行政庁が許可を与える場合とその業務を委託する場合とは、全く別個の法形式であって、許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集・運搬は、その主体があくまで民間業者である点で、行政庁が主体となる委託とは明確に異なるから、これを同視することは不可能である。
[49] また、廃棄物処理法7条3項1号は、一般廃棄物処理計画に適合するものであることを許可要件として定める同条同項2号と別個に、当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であることを許可要件としているから、計画の実施が困難であることを要件としているものと解することはできない。
[50] したがって、被告の右主張は失当である。

[51] そうすると、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項1号に適合しない」とした被告の判断は、被告に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し、廃棄物処理法7条3項1号の適用を誤ったものというべきである。
[52]1(一) 前掲の廃棄物処理法の諸規定によれば、一般廃棄物処理業の許可をする場合であっても、一般廃棄物の処理が市町村の責務である以上、市町村は、混乱なくその処理を達成しなければならず、総合的かつ将来的な見地から策定した一般廃棄物処理計画を実現しなければならないことにかわりはないことから、一般廃棄物処理計画に適合するものであることが、特に右許可の要件とされたものであると解される。
[53] そうすると、同法7条1項に基づく一般廃棄物処理業の許可の申請が同条3項2号に適合するかどうかは、当該申請に対し、許可をすることが、市町村の一般廃棄物処理を混乱なく達成し、一般廃棄物処理計画の実現を図るために適切であるかどうかという見地から、技術的、政策的に判断されるべきであって、その判断は、許可をする市町村長の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
[54](二) しかしながら、昭和29年に制定された清掃法においては、同法15条の汚物の収集・運搬・処分を業として行う許可について許可要件が定められていなかったが、昭和40年の改正により、同法15条の2において「当該市町村による汚物の収集及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」という許可要件が定められ、昭和45年に清掃法を全面改正して制定された廃棄物処理法7条2項においては、「計画に適合するものであり、当該市町村により一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」という許可要件が定められ、昭和51年改正により、現行の廃棄物処理法7条3項とほぼ同様の許可要件が定められたものであり、右の制定及び改正の経緯に鑑みれば、廃棄物処理法は、従前許可要件の定めがなかった当時に事実上適用されていた基準を法律に取り込み、許可要件を明確にして法的安定性を図った上、その各要件該当性の判断につき広範な裁量を認めることにしたものであると解されるから、一般廃棄物処理業の許可申請が廃棄物処理法7条3項各号に適合するか否かについては、市町村長の広範な裁量が認められるものの、適合するとは認められないとの判断に至った場合でなければ、不許可とすることは許されないものというべきである。

[55] そこで、松任市の一般廃棄物処理計画の内容を検討するに、前記争いのない事実、証拠(丙1の1、5の2ないし5、6、7及び8の各1ないし3、9及び10の各1ないし4、12の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
[56](一) 松任市は、平成6年11月、平成6年度を初年度とし、平成20年度を最終年度とする向こう約15年間の基本施策について方向づけするものとして、ごみ処理基本計画を定めた。右計画は、ごみ処理の現況を分析し、ごみ処理基本計画を定めたものであるが、将来計画については、社会情勢による大きな変化も想定し得るため、適時見直しが必要であるとされていた。右計画には、「第3章 ごみ処理の現況 第3節 収集・運搬の現況」の項で、「直接搬入」として、「本市の直接搬入は、個人、事業所等からの一般持込と許可業者による持込とがある。許可業者は1業者が登録されている。」旨記載されているのと、「第4章 ごみ処理基本計画の検討 第2節 ごみ処理体制」の項で、直搬ごみの収集・運搬の主体として「個人等」と記載されている他は、事業系廃棄物の収集・運搬についての特段の記載はない(丙1の1)。
[57](二) 松任市は、廃棄物処理法6条1項に基づき、毎年4月1日までに各年度の一般廃棄物処理計画を策定し,公表してきた(丙5の2ないし5、12の1、2)。
[58] 松任市の平成7年度の一般廃棄物処理計画においては、事業系廃棄物の収集・運搬の主体は許可業者である旨定められており、「廃棄物を排出する際の原則」の項には、「事業活動に伴って排出されるごみは、排出者自らの責任において適正に処理すること。」、「多量に発生したごみは、排出者が自己処理し、又は許可業者に委託して適正に処理すること。」との記載が、「事業系廃棄物の減量化・資源化の推進」の項には、「大規模事業所の減量化計画書の作成、指導」との記載が、「収集・運搬計画」の項に事業系廃棄物の量などの記載がそれぞれあるものの、事業系廃棄物の収集・運搬については、それ以上特段の記載がない(丙5の2)。
[59] 平成8年度の一般廃棄物処理実施計画においては、事業系廃棄物の収集・運搬の主体は自己又は許可業者である旨定められており、「廃棄物を排出する際の原則」の項、「事業系廃棄物の減量化・資源化の推進」の項には、前年度と同じ記載が、「収集・運搬計画」の項には、事業系廃棄物の量などの記載がそれぞれあるものの、事業系廃棄物の収集・運搬については、それ以上特段の記載がない(丙5の3)。
[60] 平成9年度の一般廃棄物処理実施計画においては、事業系廃棄物の「収集・運搬の主体」の項、「廃棄物を排出する際の原則」の項、「事業系廃棄物の減量化・資源化の推進」の項には、前年度と同じ記載が、「収集・運搬計画」の項には、事業系廃棄物の量などの記載がそれぞれあるものの、事業系廃棄物の収集・運搬については、それ以上特段の記載がない(丙5の4)。
[61] 平成10年度の一般廃棄物処理計画においても、事業系廃棄物の「収集・運搬の主体」の項、「廃棄物を排出する際の原則」の項、「事業系廃棄物の減量化・資源化の推進」の項には、前年度と同じ記載が、「収集・運搬計画」の項には、事業系廃棄物の量などの記載がそれぞれあるものの、事業系廃棄物の収集・運搬については、それ以上特段の記載がない(丙5の5)。
[62] 平成11年度の一般廃棄物処理計画においても、事業系廃棄物の「収集・運搬の主体」の項、「廃棄物を排出する際の原則」の項、「事業系廃棄物の減量化・資源化の推進」の項には、前年度と同じ記載が、「収集・運搬計画」の項には、事業系廃棄物の量などの記載がそれぞれあるものの、事業系廃棄物の収集・運搬については、それ以上特段の記載がない(丙12の1、2)。
[63](三) 松任市は、昭和35年1月25日、衛生公社に社名変更する前の石川郡衛生株式会社に汚物取扱業を許可し、昭和37年4月1日からは、同社に塵芥収集・処理業務を委託してきたが、塵芥処理工場が完成したため、昭和45年4月からは、家庭系廃棄物の塵芥収集業務のみを委託してきた(丙6、7の1ないし3、9の1ないし4)。
[64] 同社は、昭和46年3月、衛生公社に社名変更したが、松任市は、翌47年4月1日からは、同社に対し、し尿浄化槽清掃業及び一般廃棄物取扱業(し尿)の許可をするとともに、平成4年以降は、資源ごみの収集・運搬についても委託していた(丙6、8の1ないし3)。
[65] また、松任市は、昭和54年4月1日からは、衛生公社に対し、事業系廃棄物の収集・運搬についても、許可をしてきた(丙6、10の1ないし4)。
[66] 前記のとおり、衛生公社の他に、松任市がその廃棄物の収集・運搬について委託又は許可している業者はない。

[67]3(一) 以上の事実関係によれば、前記認定のとおり、松任市においては、従来衛生公社が唯一の許可業者として事業系廃棄物の収集・運搬を行ってきたことが認められるものの、その一般廃棄物処理計画においては、許可業者の数の記載も名称の記載もなく、許可業者に具体的にどのように事業系廃棄物を収集・運搬させるかについては、それ以上特段の記載がない上、「許可業者は1業者が登録されている。」という複数の業者の参入の余地を認める趣旨と理解される記載があることが認められるのであって、他に許可業者を1者に限る旨の記載は勿論、これを前提としていると認めるに足りる記載もない。そして、被告が前記第二、二2(一)で主張する諸点をもっては、松任市の一般廃棄物処理計画が許可業者を1者に限ることを前提とする趣旨のものであるとも、右計画を実施するに当たり、許可業者を1者に限ることが必要不可欠な要件となるものとも、到底認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
[68] そうすると、松任市の一般廃棄物処理計画は、衛生公社のみに事業系廃棄物の収集・運搬業の許可を与えることを内容としているものではなく、また、それを前提としているものでもないというべきである。
[69](二) 一方、本件不許可処分は、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項2号に適合しない」との理由でされており、既存業者に加えて新規業者に許可をした場合にどのような点で一般廃棄物処理計画に適合しなくなるかについては、何ら理由として挙げられておらず、このことに、被告は、前記のとおり、家庭系廃棄物の収集・運搬を委託して行わせている衛生公社に事業系廃棄物の収集・運搬の許可を与えて行わせるのが合理的であって、本件不許可処分に違法はないと主張していることを併せ考えれば、被告が本件許可申請を松任市の一般廃棄物処理計画に適合しないと判断した理由は、既存業者の衛生公社が円滑に業務を遂行していれば、新規の許可申請は他の事情を問わずすべて松任市の一般廃棄物処理計画に適合しないことになるというに尽きると解さざるを得ない。そうすると、被告は、右計画が事業系廃棄物の収集・運搬を衛生公社のみに許可を与えて行わせることをその内容ないし前提としているものと取扱い、かかる処理計画が円滑に遂行されている以上、新規の許可申請に対して許可することは、それ自体で即一般廃棄物処理計画に適合しないこととなると判断したと解さざるを得ない。
[70](三) しかしながら、(一)に判示したとおり、松任市の一般廃棄物処理計画は、衛生公社の1者のみに事業系廃棄物の収集・運搬業の許可を与えることをその内容ないし前提としているものではないというべきであるから、右(二)に判示した被告の判断は右処理計画の趣旨とは異なるところを前提になされたものといわざるを得ない。そして、右に判示したところからすれば、被告は、本件不許可処分に当たり、右の点以外には、本件許可申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するか否かにつき、何らの検討もしなかったことが明らかである。
[71] そうすると、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項2号に適合しない」とした被告の判断は、被告に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し、廃棄物処理法7条3項2号の適用を誤ったものというべきである。
[72](四) なお、被告は、前記(第二、二2(一))のとおり、歴史的背景や他の市町村との整合性等を図る必要上家庭系廃棄物と事業系廃棄物を一体的に処理する合理性があること、並びに、衛生公社の実績及び能力からしても、松任市が事業系廃棄物の収集・運搬について衛生公社を唯一の許可業者としていることは合理性を有する旨主張する。
[73] しかしながら、前記判示のとおり、松任市の一般廃棄物処理計画は、衛生公社のみに事業系廃棄物の収集・運搬業の許可を与えることをその内容ないし前提としているものではないと判断される以上、それでもなお本件許可申請が廃棄物処理法7条3項2号に適合しないとの判断に至るとすれば、単に、衛生公社を唯一の許可業者としていることが合理性を有するというのではなく、本件許可申請自体に右計画に適合するとはなしえない点がなければならない。ところが、前記のとおり、被告が右に主張する諸点をもっては、衛生公社を唯一の許可業者とすることが右計画の内容ないし前提をなしているものとは到底認められず、むしろ、右主張は、現状として衛生公社を唯一の許可業者として運用していることの合理性を述べたものにすぎないと評価せざるを得ず、本件許可申請が一般廃棄物処理計画に適合するか否か、即ち、右計画の内容がいかなるものであり、本件許可申請がそれに適合するか否かについて検討し、判断したとか、その判断に合理性があるとか主張しているものと解することはできないから、被告の右主張をもっては、前記(三)の判断を左右することはできない。

[74] 以上のとおりであるから、他の要素を検討することなく、「既存の許可業者で一般廃棄物の収集、運搬業務が円滑に遂行されており、新規の許可申請は廃棄物処理法7条3項1号及び2号に適合しない」との理由で本件許可申請を不許可にした本件不許可処分は、この余の点を判断するまでもなく違法な処分として取り消されるべきものである。
[75] よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

  金沢地方裁判所第2部
  裁判長裁判官 渡辺修明  裁判官 小川賢司  裁判官 森岡礼子

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