京都府学連事件
控訴審判決

公務執行妨害、傷害被告事件
大阪高等裁判所 昭和39年(う)1410号
昭和40年4月27日 第5刑事部 判決

被告人 長谷川俊英

■ 主 文
■ 理 由

■ 主  文

本件各控訴を棄却する。

■ 理  由

[1] 本件各控訴の趣意は右弁護人および検察官各作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれらを引用する。
[2] 所論は要するに、(一)昭和29年京都市条例第10号は日本国憲法21条に違反し、無効であり、(二)かりにこれが合憲であるとしても本件デモには許可条件に違反する点は何もなかつた、(三)かりに外形的にこれに違反する状況があつたとしても、(イ)右違法状態はもつぱら警察官のデモ隊員に対する暴行傷害行為に起因して発生したものでありデモ隊員の責任に帰すべからざるものとして犯罪を構成せず、秋月巡査もこれを知悉していたし(ロ)右写真撮影は裁判官の令状によらずかつ被告人の同意なくして肖像権を侵害したものであるから、以上いづれの点よりするも秋月巡査の本件写真撮影行為は適法な職務行為ではないのにかかわらず、原判決が同巡査の本件写真撮影行為を適法な職務行為であると認定したのは事実を誤認し、法令の適用を誤つているというにある。
[3] よつてまず所論の京都市条例が憲法違反であるとの主張につき案ずるに、憲法21条所定の表現の自由の一形態である集会、集団行進、集団示威運動の如き自由権といえどもそれを濫用することは許されず、常に公共の福祉のために利用されなくてはならぬことは同法12条によつて明白である。従てかゝる集団行動を無制限に規制することの許されないことは勿論のことであるが、それが濫用され公共の福祉が著しく侵されることを防止し必要最少限度の範囲内でこれ等の集団行動を規制するため特定の場所または方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、予じめ許可を受けしめ、右集団行動が明らかに公共の福祉を害すると認められるような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解することはできないのである。
[4] そこで昭和29年6月1日京都市条例10号をみると、同条例第2条には「道路その他屋外の公共の場所で集会(以下屋外集会という)もしくは集団行進を行おうとするとき又は場所のいかんを問わず集団示威運動を行おうとするときは、公安委員会の許可を受けなければならない。但し次の各号の一に該当する場合はこの限りでない。一、学生、生徒その他の遠足、修学旅行、体育、競技 二、通常の冠婚、葬祭等慣例による行事 三、前各号に掲げるものの外公安委員会が指定するもの」と定め、一般的許可制によつて基本的人権を不当に制限するごとくみえるが、第1条に「この条例は、集会、集団行進又は集団示威運動が公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすことなく行われるようにすることを目的とする」と定め、第6条によると「公安委員会は、第4条の許可申請があつたときは、屋外集会、集団行進又は集団示威運動の実施が公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこれを許可しなければならない。但し次の各号に関し必要な条件をつけることができる。」と規定し、許可を義務づけ不許可の場合を厳格に制限し、公共の安全に対し「直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合」という合理的かつ明確な基準の下に制限する場合があることを定めたものであるから、同条例は憲法21条その他いかなる条章にも牴触するものではない。(昭和35年7月20日最高裁大法廷判決参照)此の点の所論は採るを得ない。
[5] つぎに本件デモ行進は「許可条件」に違反せず仮に外形的には違反していたとしても秋月潔の写真撮影行為は適法な職務行為ではないとの主張につき案ずるに、京都府警視前田覚郎作成の許可条件についての回答書及び原審証人杉森東一の証言によると、昭和37年6月18日京都市上京区広小路通寺町東入立大学友会内山本公平より京都府公安委員会と京都府中立売警察署長に対し、「主催者、同区烏丸通今出川東入同志社大学府学連内府学連委員長代理 清田祐一郎、日時、同月21日17時ないし18時、コース、立大正門―広小路通―河原町通―御池通―木屋町通―四条通―祇園石段下―円山公園音楽堂前流解散、参加団体、京都府学連傘下各大学自治会、参加人員、約3,0000名、目的、憲法改悪反対、大学管理制度改悪反対、名称、同上府学連デモ」とした集会、集団行進および集団示威運動許可申請の届出がなされ、同月19日同公安委員会は同条例によつてまた同署長は道路交通法77条にもとずき夫々条件を附してこれを許可したこと、その条件とは「、行進隊列は4列縦隊とし一隊の人員はおおむね200名を限度で編成し、各隊列間の距離は約20メートルを保つこと、、広小路通り立命館大学正門から河原町通りまでは道路の左側端を、河原町通り広小路から御池通りまでは東側車道の左側端を、御池通り河原町から木屋町通りまでは北側緩行車道の左側端を、木屋町御池から木屋町四条までは車道の東側端を、四条木屋町から祇園石段下までは北側車道の左側端を通行し円山公園内道路を経て音楽堂に至る、、行進中ジグザグ行進、うずまき行進、逆行進またはことさらなおそ足行進や停滞など一般の交通の安全を阻害するような行為をしないこと、、行進中、旗竿、プラカードなどをささえにしてスクラムを組むなどして交通の安全を阻害し、または隊列の内部で旗竿、プラカードなどを振るなど交通上危険な行為をしないこと」等であつたことが認められる。そして原審証人秋月潔、同杉森東一、同村田純一、同津田孝彦、同平沢徹の各証言、被告人の検察官に対する供述調書の記載を総合すると、右府学連デモ隊は立命館大学々生約1,000名、京都大学々生約100名、同志社大学々生約150名が参加し、同月21日午後5時頃立命館大学正門を同大学々生隊を先頭にして出発し、被告人は同大学々生デモ隊の責任者として列外最先頭に立つて行進し、河原町丸太町通付近でジグザグ行進のあつたほか概ね4列縦隊で整然と行進していたが、河原町御池通交差点にさしかかつた際、前記「許可条件」を熟知していなかつた被告人は右許可条件に違反し、御池通の緩行車道に沿つて左折せず、その河原町を南下し、同交差点中央付近まで行進し、デモ隊もこれに追尾したため、同所付近に待機していた警察官隊に押戻され、デモ隊は混乱して渦巻状態となり、そのまま隊列を乱して御池通を東進して木屋町通を南下することとなつたが、同所付近において採証活動に従事していた山科警察署警備係の秋月潔がデモ隊に向つて写真撮影したことに端を発し、本件紛争が発生したものであること、右秋月潔は右デモ隊行進の視察採証隊長である京都府警察本部警部杉森東一の部下として同人より右デモ隊行進に際し法令違反を犯した場合の採証事務の指示を受け、原判示場所付近においてデモ隊が隊列を乱して先頭部分においては7,8列縦隊となり、車道の東側端でなく中央部を進行する等前記「許可条件」に違反するのを現認し、その証拠を保全するため、右デモ隊の状況を写真撮影したものであることが認められる。原審証人平沢徹、松本憲三および被告人の原審公判廷における各供述中右認定に反する部分は前顕各証拠に照らし措信できない。殊に右デモ行進の先頭隊である立命館大学学生隊の責任者である被告人が、「その日どういう許可条件が出ているかということについては知りませんでした」(被告人の原審公判廷における供述)というのであるから、警察官が一方的にデモ隊に暴行を加えたのであり、デモ隊には落度がなかつたとする所論並びに被告人の弁解はとるに足らない。
[6] そして司法警察職員は犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査することができるのであり、任意捜査である限り裁判官の令状を必要としないのである。秋月潔の右写真撮影行為は違法なデモ行進の状態および違反者を確認するために、違反者またはデモ行進者に物理的な力を加えたり特別な受忍義務を負わすことなく行われたもので刑事訴訟法上の強制処分とはいわれないから、もとより裁判官の令状を要するものではない。
[7] また人には所論の如き肖像権が認められるとしても、現に犯罪が行われておる場合には現行犯処分に準じて、被疑者の意思に反しても捜査のための写真撮影は許されるものと解するのが相当であるところ、秋月潔は現に行われている違法なデモ行進の状態及び違反者を撮影したものであるから、まさに適法な職務行為というべきであり、これが違法な職務行為であることを前提とする論旨はすべて理由がない。
[8] 所論は、原判決は秋月潔の負傷の有無、部位、程度につき、相矛盾する夏秋医師の診断書、回答書中1つの診断書のみを証拠に採用してこれを認定したのであり、これは不正確な資料により負傷の事実を誤認した違法があるというにある。
[9] しかし、原判決は所論の診断書のほか、原審証人夏秋朋文の証言その他原判決挙示の各証拠を総合して原判示負傷の事実を認定したものであることは原判決書に徴し明白である。
[10] 所論の回答書の記載は右証人の証言に照らし右診断書の記載と必ずしも矛盾するものではなく、判決掲記の証拠の標目はその全部を網羅する必要はないのであるから、原判決がその挙示の証拠のみにより所論負傷の点を認定したのは当裁判所も肯認するに足り、原判決には所論の違法なく、論旨は理由がない。
[11] 所論は、被告人は、秋月潔が警察官であること、同人が公務の執行中であること、これに対して被告人が暴行傷害を加えることの認識なく、被告人の行為は正当防衛であつたというにある。
[12] しかし、本件写真撮影中の秋月潔が警察官であることを被告人が認識していたことは被告人の自供するところであり(被告人の検察官に対する昭和37年7月10日付供述調書)、同人の職務執行行為が適法であつたことは前段説示のとおりである。そして被告人が暴行の故意をもつて秋月潔を突いたものであることは、被告人が旗竿を両手で持つて写真を撮ろうとしている男の「上半身の方向に向つて突き出」すと「相手は体をねじる様にしてよけましたので私は当つたかなあと思いました」(被告人の同供述調書)との被告人の供述と、原審証人秋月潔の証言中、被告人はその旗竿を「左手を旗尻のほうへ、右手を旗先のほうへ持ちまして、いつたん構えるような格好をして、1秒ぐらいか2秒ぐらいおいてややおろし、もう1回構えてついてきた」との供述を総合すると、十分に認められるところである。秋月潔の右写真撮影行為が適法な職務行為であると認められる以上これに対する被告人の行為が正当防衛にあたらないことはいうまでもない。原判決が被告人に暴行の故意を認め、正当防衛の主張を容れなかつたのは正当であり、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
[13] 論旨は量刑不当を主張するのであるが、所論にかんがみ記録を精査するに、本件犯行の罪質、態様、被告人の経歴、素行等諸般の事情を総合すると、所論の点を考慮しても被告人に対する原判決の刑が著しく軽いとは考えられないから、刑事訴訟法第396条により主文のとおり判決する。

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