皇居外苑使用不許可事件
控訴審判決

皇居外苑使用不許可処分取消請求控訴事件
東京高等裁判所 昭和27年(ネ)第661号
昭和27年11月15日 民事第5部 判決

控訴人 (被告) 厚生大臣
被控訴人(原告) 日本労働組合総評議会

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。


 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

 当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、被控訴人と控訴人との間のメーデーのための皇居外苑使用の許否をめぐる紛争は、国家として訴訟制度を利用せしめるだけの価値のある紛争であり、又この紛争を法律上の争訟として被控訴人の請求について判決することによつて解決することが、昭和27年5月1日を経過した現在においても依然有意義であるのであるから被控訴人の請求についての本案の判決を受ける正当の利益を喪失していない。もし本訴において昭和27年5月1日を経過したために訴の利益を喪失したものとして本案の判断を拒まれるとすれば、裁判所は被控訴人に対して憲法の保障する裁判を受ける権利を奪う結果となり不当である。何となればメーデーは毎年5月1日に行われる行事であるところ、その挙行場所の使用許否に関する争訟は確定するまで長期間を要し、係争の途中で5月1日を経過し訴の利益を喪失せしめるとすれば、結局この種の争訟につき本案の確定判決を受ける機会を剥奪することとなるからである。と述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

(各証拠省略)


[1] 被控訴人は本訴において、被控訴人のなした「昭和27年5月1日メーデーのための皇居外苑使用許可申請」に対する、控訴人の不許可処分が違法であるとして、これが取消を求めるものであるから、裁判所としては右具体的な行政処分の適否を判断しうるにとどまり、その範囲を超えて判断を加え得ないことはいうまでもない。
[2] しかるに被控訴人が皇居外苑の使用許可を申請した昭和27年5月1日はすでに経過しているのであるから、被控訴人にとつては、もはやかかる判決を求める実益が失われたものといわなければならない。
[3] 被控訴人は被控訴人と控訴人間のメーデーのための皇居外苑使用の許可をめぐる紛争は、国家として訴訟制度を利用せしめるだけの価値ある紛争であり、又この紛争を法律上の争訟として、判決によつて解決することが、現在においても依然有意義であるのであるから、被控訴人の請求についての判決を受ける正当の利益を喪失していない旨主張するけれども、仮りに被控訴人が本訴において請求するような判決があつたとしても、その判決は前記の行政処分の取消の効果を生ずるにとどまつて、将来控訴人がなすかもしれない同種の行政処分に対しては、何ら形成力を有するものではない。又判決の既判力の及ぶ範囲はその判決の主文に包含せられる訴訟物たる法律関係に限られるから、同判決はまた将来の同種の行政処分に対し既判力を及ぼすものではない。したがつて本件紛争が被控訴人主張のように重大なものであり、又かかる判決が実際においてこの紛争の解決に役立つものであるとしても、被控訴人は法律上判決を求める利益がないものというべきであるから、被控訴人の右主張は採用することができない。さらに被控訴人は、もし本訴において昭和27年5月1日を経過したために訴の利益を喪失したものとして本案の判断を拒まれるとすれば、裁判所は被控訴人に対して憲法の保障する裁判を受けるの権利を奪う結果となり不当である旨主張するけれども、憲法第32条の規定は、民事事件についていえば、何人も裁判所に訴訟を提起するときは、その受理を拒まれ、したがつてまたその審理及び裁判を受けることを拒まれることのないとの趣旨であつて、常に必ず本案それ自体裁判を受ける権利を有することを意味するものではない。訴訟を提起しても、所謂訴訟成立要件を具備していないために、本案前の裁判において訴を不適法として却下せられることもあるのであるが、かかる場合でも、裁判を受ける権利を奪われたわけでないことは言を俟たないところである。ましてや本件においては本案の審理に入つたが、結局被控訴人のために権利保護をなす必要がないものと判断したに過ぎないのであつて、これをもつて憲法の保障する裁判を受ける権利を奪われたとする被控訴人の右主張の理由のないことはいうまでもない。ただ本件のような毎年5月1日に行われるメーデーの行事に関し、その挙行の場所の使用許否に関する争訟にあつては、行事の期日と許否決定の日との間の期間が短いときは、訴訟に長期間を要するためにその時機を失することも考えられるので、将来同様の場合に自己に有利な確定判決を受けることのできないことの起るであろうことは、これを推知するにかたくないが、万一不許可となつた場合の訴提起にそなえてあらかじめ周到な準備を遂げ、訴提起後は訴訟の促進に努めるならば、所期の日時までに確定判決を受けることも不可能ではないと考えられるから、前記のような場合があればとて、前段の判断を妨げるものではない。
[4] さすれば被控訴人の本訴請求は、爾余の点について判断をするまでもなく失当であることが明らかであるから、これを棄却すべきものとする。したがつて原判決中控訴人勝訴の部分を除きこれを取消すべきものとし、民事訴訟法第386条、第96条、第89条を適用して主文のとおり判決する。

  (裁判官 斎藤直一・菅野次郎・坂本謁夫)

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