皇居外苑使用不許可事件
第一審判決

皇居外苑使用不許可処分取消行政訴訟事件
東京地方裁判所 昭和27年(行)第22号
昭和27年4月28日 民事第2部 判決

原告 日本労働組合総評議会
被告 厚生大臣

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由

■ 原告の請求の趣旨及び原因
■ 被告の答弁

■ 参照条文


 原告の昭和26年11月10日附「昭和27年5月1日のメーデーのための皇居外苑使用許可申請」に対して被告が昭和27年3月13日にした不許可処分は、これを取消す。
 原告のその余の請求は、これを棄却する。
 訴訟費用は被告の負担とする。


 原告の請求の趣旨、原因及び被告の答弁は別紙のとおり。

 証拠として、原告は、甲第1乃至第4号証、第5号証の1、2を提出し、証人島上善五郎の証言を援用し、「乙第9号証が真正にできたかどうかは知らない。その他の乙号各証が真正にできたことは認める。乙第4乃至第8号証を援用する。」と述べ、
 被告は、乙第1、2号証、第3号証の1乃至18、第4乃至第9号証を提出し、証人森本潔、佐竹秀雄の各証言を援用し、「甲第4号証、第5号証の1、2が真正にできたことは認める。その他の甲号各証が真正にできたものかどうかは知らない。」と述べた。

[1] 甲第1号証(総評は斯くたたかう)によると、原告日本労働組合総評議会は、原告のいうような労働組合、職員組合等で構成され、議長をもつてその代表者とする、労働者、職員等の団体であることが明らかである。
[2] 従つて原告は民事訴訟法第46条にいう、法人に非ざる社団で、代表者の定めあるものに当り、形式的当事者能力をもつわけである。
[3] 原告は昭和26年11月10日被告に対し、昭和27年5月1日のメーデーのために皇居外苑を使用させてもらいたいと、その許可を申請した。これに対し被告は、昭和27年3月13日に至つて不許可の処分をし、翌14日その旨原告に通知した。以上の事実は当事者間に争いがない。
[4] 皇居外苑は国有財産法第3条第2項第2号にいう公共福祉用財産に当り、被告厚生大臣の管理に属するものである(国有財産法第5条、厚生省設置法第8条第17号)。被告厚生大臣はその維持管理のために、昭和24年5月31日厚生省令第19号「国民公園管理規則」(昭和25年6月24日同省令第33号で一部改正)を制定した。その内容は別紙のとおりである。これによると、皇居外苑内において、集会を催し又は示威行進を行おうとする者は、所定の許可申請書を提出して、厚生大臣の許可を受けなければならないのである。
[5] してみると、原告のした前記「昭和27年5月1日メーデーのための皇居外苑使用許可申請」なるものは、右規則第4条による、皇居外苑において集会及び示威行進を行うことの許可申請であり、被告のした前記不許可処分は、原告の申請に対し許可を与えないことを内容とする行政処分であるといわなければならない。
[6] 憲法第21条第1項は、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障している。即ち国民の、集会、結社及び一切の思想表現のためにする行為は、基本的人権の一つとして憲法の保障するところである。厚生省令をもつて、この集会の自由(示威行進も集会の一種とみるべきである)そのものを制限することができないことは、いうまでもない。
[7] しかし集会の自由といつても、絶対無制限に如何なる場所においても集会を行うことができるというものではない。例えば私人の住宅や、官庁、学校等一般公衆の共同使用に開放されていない、いわゆる公用物については、その居住者又は管理者等の特別の許容行為がない限り、これを集会のために使用することができないことは、当然のことである。国民公園の場合はどうか。国民公園が一般公衆の共同使用に開放されている、いわゆる公共用物であることは、後に述べるとおりであるが、もし国民公園内において無秩序に集会等が行われることがあれば、混乱に陥つたり、公園の施設等に損傷が生じたりして公園本来の機能を害する結果を招くようなことがないとも限らないから、厚生大臣は、さようなことのないように公園を管理し、管理者としての責任を全うしなければならない。前記国民公園管理規則はこの見地からこれを定め、集会等の目的のための国民公園の使用を、厚生大臣の許可にかからせたのである。かようにみてくると、国民公園管理規則自体をもつて国民の基本的人権を制限する無効のものということはできず、ただその規定によつて厚生大臣がした公園使用許可、使用不許可の処分について、場合によつて効力の問題が生ずることあるに過ぎない、と考えるべきである。
[8] 国民公園管理規則第4条による厚生大臣の許可、不許可の処分は、前記のとおり、厚生大臣が国民公園の立場において、国民公園の維持管理に支障の生ずることを防止する目的で、その使用に統制を加える趣旨のものであるに過ぎない。もしそれ以上の権限を厚生大臣に与えるものであるとするならば、右規則第4条の規定は違憲無効のものたるを免れないであろう。従つてこの許可を与えるか否かについて、厚生大臣は、公共の安寧の保持その他の国家目的を考えるべきものではなく、ひとえに国民公園設置の本来の目的に照して、その使用を許すべきであるか、或いは国民公園の機能を害するおそれありとして許さないことにすべきであるかを検討することができるだけである。国民公園管理規則第6条が、「国民公園内においては左に掲げる行為を行つてはならない」として、植物を採取又は損傷することのほか9つの事項をあげ、かような行為を行つた者に対しては退場を命ずることができるとしていることは、厚生大臣の行う前記許可不許可の処分につき、ある種の基準を示すものといえるのである。
[9] さて裁判所は憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権限を有し、行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟その他公法上の権利関係に関する訴訟について裁判することができるのである(裁判所法第3条、行政事件訴訟特例法第1条)。もつとも裁判所の性格や訴訟手続の機能から考えて、裁判所において適否の判断をすることが不可能な事項もあるであろう。しかし、被告厚生大臣が国民公園の管理者としてした本件不許可処分のごときは、別に政治上の機微に属する事項を裁量して決しなければならないものでなく、裁判所の判断に苦しむような技術的裁量を要するものでもないから、その法律上の効力について争いが生じたときに、これに対して判断を与えることは、当然裁判所の権限に属することである、としなければならない。いわんや本件不許可処分のように、それが憲法の保障する基本的人権に関係するものであるときは、単にそれを国民に特別の利益を与えることを拒んだ行為に過ぎないとして、裁判所の適法違法の判断の限界外にあるとする見解のごときは、とうてい採ることができない。
[10] 裁判所は本件不許可処分の適否につき法律上の判断をくだすことができ、又くださなければならないのである。
[11] 皇居外苑は、さきに一言したとおり、国有財産法第3条第2項第2号にいう公共福祉用財産であり、国が公共の用に供したものである。そして乙第4、5号証(閣議決定及び審議会報告)と証人森本潔(厚生省大臣官房国立公園部長)の証言とを合せ考えると、それはもと皇室財産に属していたが、物納により国有となり、さしあたつては普通財産として大蔵大臣がその管理に当つたこと、昭和22年12月27日の閣議決定旧皇室苑地の運営に関する件及び昭和23年12月28日の閣議決定にもとづく旧皇室苑地運営審議会(会長吉田茂氏)の内閣総理大臣宛昭和24年4月20日附旧皇室苑地整備運営計画に関する報告によつて、皇居外苑を含む旧皇室苑地につき、平和的文化国家の象徴として永久にこれが保存を図るとともに、できるだけ広く国民の福祉に寄与するという根本方針が樹立され、前記厚生省設置法の規定によつて厚生大臣の管理に属することとなつた結果、厚生大臣は前記国民公園管理規則を制定し、その維持管理に当つてきたものであることが認められる。
[12] 昭和22年12月27日の右閣議決定は、旧皇室苑地の運営要領として、いくらかの事項を挙げ、特に宮城外苑(皇居外苑)について、「宮城外苑に野外ステージを中心とする国民広場を設置し、各種行事、運動競技等に使用せしむること」としたが、この方針を更に明確にし、具体化したものが、旧皇室苑地運営審議会の昭和24年4月20日附報告である。この報告によると、右審議会は、旧皇室苑地につき、平和的文化国家の象徴として、永久にこれが保存を図るとともに、できるだけ広く国民の福祉に寄与することと定め、その一般的運営要領として、
一、由緒ある沿革を尊重し、努めて原状の回復保存をはかること
二、必要に応じ、史蹟、名勝、天然記念物又は風致地区として指定すること
三、各苑地の特性を生かし、国民生活に適合した整備運営を行うこと
ほか4項の方針を定め、かつ皇居外苑に関するその具体的適用として、
一、国民広場として公開すること
二、さしあたり照明、管理所、水呑場、便所等を整備すること
三、将来は迂回道路を設ける等交通制限上所要の整備を行い、広場としての価値を向上すること
四、価値ある箇所は史蹟として指定すること
と定めた。これらのことは乙第4、5号証によつて明らかである。
[13] 以上によつてみると、皇居外苑については、その由緒ある沿革を重んずる一方、平和的文化国家の象徴として、できるだけ広く国民の福祉に寄与するため、国民広場として一般公衆の共同使用に開放するということが国の根本方針として確定したところであるといわなければならない。国民公園管理規則第11条において、国民公園の公開日時及び入場料の規定は皇居外苑及び京都御苑については適用しないとして、その常時無料公開の原則を確立していることは、皇居外苑の一般公開の性格を強く表明しているとみることができる。
[14] ところで眼で見た皇居外苑は広場をもつた公園である。この広場は、その周囲と調和を保ちながら、公園の一部をなしているが、しかしそれは同時に集会等諸種の屋外行事を催すに恰好な場所となつている。このことは国民の誰もが肯定するところであろう。
[15] なおここに留意すべきことは、皇居外苑は往時徳川将軍の居城の一廓をなし、降つて旧憲法時代においては統治権者たる天皇のお住い(宮城)の前庭を兼ねた皇室苑地になつていたが、終戦後は前記のとおり国有財産の一つとして、直接公共の用に供する公共福祉用財産になつたということである。即ち終戦後は国家の基本構造の変化に応じて、皇居外苑の性格は変つたのである。その原状の回復保存をはかり、これを国民の慰楽、休養、保健の用に供しようということは、国民的立場からみても適当なことであるが、この外苑を何か侵すべからざる聖域であるかのように扱うことは相当でないといわなければならない。
[16] 上に説明した皇居外苑の管理運営に関する国の基本方針、見たままの皇居外苑の状態、皇居外苑の性格の変化等に徴して考えると、皇居外苑の本質は、どこまでも、公共の用即ち主権の存する国民一般の用に供してあるという点にあつて、これを国民的集会や行事のために使用することはその本質に適するものであるといわなければならない。
[17] メーデーは1880年代の5月1日にアメリカの労働者が資本家に向つて団結の威力を示した時にはじまつた。わがくににおける最初のメーデーは大正9年のそれである。それ以来全世界の、そして日本の勤労者は毎年5月1日に勤労の喜こびを歌い、団結の威力を誇示してきた。メーデーは勤労者にとつて年に1度の祭典である(甲第3号証)。
[18] 新憲法のもとにおいては、国民はもはや臣民ではない。国の主権者である。そして国民の大部分は勤労者である。憲法は勤労者の地位をごく重くみている。憲法第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と規定し、その第28条は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と規定している。その第21条、第25条も主として勤労者に関する規定である。わが国は勤労者中心の国家といつて差支ない国柄になつたということができる。実にわが国は勤労者が栄えることによつてよく大をなすことができるのである。それは国民主権を支柱とする憲法からいつて当然のことである。
[19] かような国柄にあつて、勤労者が、毎年5月1日を期して勤労者の団結を固め、その威力を示すために、平和のうちに集会及び示威行進を行うことは、当然憲法第21条の保障する集会や表現の自由に包摂されることはいうまでもないが、更に勤労の尊厳についての勤労者の自覚を促し、それに対する一般国民の尊敬を高める意味において、公共の福祉にも適するものということができる。
[20] 原告総評議会の組織については冒頭に説明したとおりである。原告総評議会は労働者の団体としてわが国最大のものであり、そして団体的活動における暴力的破壊的な行動(殴る、蹴る、斬る等)を厳に戒めて今日に至つた組織体であることは、証人島上善五郎の証言によつて認めることができるし、また国民の間にあまねく知られていることである。島上証人の証言によると、この総評議会の全国組織の勤労者団体の代表者を集めて大規模な中央メーデー(長野のメーデー、京都のメーデー、東京のメーデーというような地方的なメーデーに対して、全国的組織の労働者の団体を代表する中央のメーデー)を行おうとして本件許可申請をしたのである。
[21] 原告が本年度において行おうとするこの中央メーデーは、わが国の代表メーデーとして、国民的行事ということもでき、それが秩序整然と、かつ相当の規模と効果をもつて行われることについては、むしろ国民的利益があるといえよう。
[22] 中央メーデーのために皇居外苑を使用することは、皇居外苑の本質に適合しないものであろうか。
[23] 皇居外苑がその沿革と場所柄にふさわしい落ちつきと静けさを常に保つていることは、国民の強く希望するところであることもちろんであるが、一面皇居外苑が、首都の中心に在る国民広場として、常時国民の共同使用に公開されているという、その本質にかんがみるときは、前記のように国民的行事たる意義をもつ中央メーデーのために、5月1日の限られた時間内、これを使用させるということもまた、国民感情の容認するところであるといわなければならない。のみならず、証人島上善五郎(昭和27年度メーデー実行委員会事務局長)の証言によると、いやしくも中央メーデーというに足りる規模の集会を催すためには、皇居外苑を除いて適当な場所がなく、もしその使用が不許可となるときは、分散してこれを行うか、或いは中央メーデーとしては不相当に小規模のものをもつて満足しなければならないことが予想されること、現に昭和26年度においては皇居外苑の使用が許可せられなかつたために原告主催の中央メーデーの施行は、ついにあきらめざるを得なかつたことが認められるから、皇居外苑こそは中央メーデーの会場として唯一のものであると認めなければならない。現に終戦後5回にわたつて、ここで中央メーデーが行われており、国民公園管理規則制定の後においても昭和25年度は中央メーデーのための皇居外苑の使用が許されたことは、当事者間に争いないところである。そして乙第6号証によつて明らかな、昭和26年1月から昭和27年3月まで皇居外苑の使用を許可した実例における使用目的(消防出初式、映画撮影、憲法記念式典、海上保安庁3周年祝賀行進等)と比較してみても、中央メーデーのための使用をもつて、公共性少く皇居外苑の本質に適合しないとすることはできない。
[24] 中央メーデーのための使用は皇居外苑の本質に適合するのである。
[25] 次に中央メーデーのための皇居外苑の使用は、皇居外苑の機能を害するものであろうか。
[26] 証人森本潔、佐竹秀雄の各証言によると、昭和25年度の中央メーデーは皇居外苑において行われたが、その際多数の参会者は、立入禁止を犯して芝生内に立ち入り、或いは前方を見るために樹木に登つたため、芝生や植樹の根を甚しく傷めたばかりでなく、芝生の所々にはげ地をつくり、樹木2本を枯死させたほか、多数の枝を折損させたこと、そして参会者の投げすてた紙屑、みかんの皮、キヤンデーの棒などが外苑のいたるところに散乱し、その翌日集めた紙屑だけでも約6百貫に上り、3日間にわたつて延150余人の人夫で清掃に当つたが、それでも清掃を完了せず、なお数日を必要としたことがわかる。
[27] およそ公園内において多数人の集会が行われるとき、その施設等に若干の損傷や汚損をのこし、管理上に多少の支障をきたすことは、とかく免れがたいことであるから、これら集会の主催者や参会者においては、かような結果の発生を防止するに足る措置を事前に講ずるとともに、事後の清掃、あと片づけ等も自己の責任において行い、いやしくも他に迷惑を及ぼし、公衆道徳の点において非難の的となるようなことがあつてはならない。ことに労働者の地位の向上を目標とするメーデーの行事において、多数の労働者の集会や行進が、整然たる秩序と節度を保つて行われるかどうかは、一国の労働者の文化水準を示す一指標といえるから、この点十分の注意と努力とが必要である。しかしながら他面管理上多少の支障を免れないからといつて、国民公園本来の用途にそう使用を許さぬことは、少くとも公園が存在することの意義を一部放棄することになるのであつて、正当ではない。管理者としては、まず公園使用の方法や範囲について主催者と十分協議を遂げ、施設の損傷、汚損等を最少限度に止めるように準備させた上、なお防止することのできない多少の障害がのこるとしても、それは公園が一般公衆の共同使用に開放されていることから、やむを得ないことと考えるべきである。皇居外苑を中央メーデーのために使用する場合には、いかに意を用いても管理上絶対的な支障が生じ、国民公園としての機能を害することになるというような見解は、当裁判所の採らないところである。
[28] 乙第7号証(原告の使用許可申請書)によると、原告の本件申請の要旨は、昭和27年5月1日のメーデーのために、参加人員約50万人の予定で、午前9時から午後5時までの間、皇居外苑を使用したいというのであることが明らかである。これに対し皇居外苑の広さとその収容可能人員は、乙第1号証(皇居外苑図面)によると、芝生堤塁等立入禁止区域を除いての広さ約4万3千5百坪で、1坪に6人収容できるとしても、26万1千人を出でないことが認められる。しかし証人島上善五郎の証言によると、申請書に掲げた数字は概数であつて、本年度の中央メーデーの動員計画の上にすでに出ている人員は22万人に過ぎないこと、参会者が24、5万人もあれば中央メーデーというに足りるが、皇居外苑をおいて他にこの程度の収容能力のある会場を求めることはできないこと、時間の点も必ずしも午前9時から午後5時までというような長時間を必要としないこと及び原告としては公園自体に与える損傷を最少限度にくい止めるためにできるだけの準備を進めている(警備係の人員を予定する等)こと等を認めることができる。なおメーデーのような、むしろ密集することを適当とする集会においては、1坪6人以上近く収容することが可能であることも考えなければならない。
[29] 被告は、「メーデーのために皇居外苑を使うと一般国民は相当時間皇居外苑を使うことができなくなる。」という。しかしそれは1年にたつた1度のことである。のみならず莫大な人数の勤労者がメーデーに参加することを考えるとき、皇居外苑を使うことができないことによつて一般国民が蒙る迷惑なるものは、殆んど言うに足りないものであることを銘記すべきである。
[30] 要するに一般国民に甚しい迷惑をかけず、公園の損傷を最少限度にくい止める方法によつて、皇居外苑をメーデーのために使用することは十分可能である、と認むべきである。
[31] なお被告は、「もし原告の本件申請を許すべきものとするときは、他にも多くの同種の目的のための使用許可申請が出て、これらをも許さざるを得ないことになる。かくては国民休養の場所たるべき皇居外苑本来の機能を喪失するに至るであろう。」とも主張するが、ある集会のための使用を許すかどうかは、その個々の集会の特性と、その時の公園の状況とを検討して決定すべきであり、メーデーのために皇居外苑の使用を許したからといつて、他の種類の集会もすべて許さなければならないということは出てこない。ことに多数の申請が競合するような場合を考えると、国民公園管理者としての立場からある程度の規制を加えることは、むしろ当然の責務であるというべく、その個々の処分の当否が、集会の性質と公園本来の用法にかんがみ、それぞれの場合において問題となることあるに過ぎないのである。
[32] さきにも触れたとおり、皇居外苑を集会、示威行進のために使用することは、「公共の用に供する」という皇居外苑の本質に牴触せず、また公園の機能を害しない限りは、許さなければならない。皇居外苑の本質に反し公園本来の機能を害する場合には、皇居外苑を集会、示威行進のために使用することを許さないことができるが、しかし集会、示威行進が高度に公共的のものであり、皇居外苑以外には施行の場所がなく、また皇居外苑で行うことがごく適当である場合には、厚生大臣の拒否は制限を受けるのである。要は他の一般国民に多少の迷惑を及ぼし、または公園を毀損することが免れないにも拘わらず、なお許可を与えなければならないほど、その集会または示威行進が公共的なものであるかどうかによつて、拒否できるか否かがきまるのである。かように考えると、本件不許可処分は、上来説明してきたところで明らかなように、国民公園管理規則の適用を誤り、ひいては集会等の自由を保障した憲法第21条の規定に違反した違法があるものというのほかなく、その取消を求める原告の請求は結局において理由があるわけである。
[33] しかしこの不許可処分が取り消された以上、その判決は、確定をまつて、関係の行政庁を拘束するのであるから(行政事件訴訟特例法第12条)、重ねて被告に対し、原告のメーデーのための皇居外苑使用を妨害することの禁止を求める請求は、これを求める法律上の利益がなく、従つて理由なしとしなければならない。
[34] 火炎ビンを私人宅に投げ込んだり、警察官署を集団的に襲う者が跡を絶たない今日、皇居外苑をメーデーのために使用させることは、不祥事が起るきつかけを作ることになりはしまいか、という者があるかもしれない。しかし原告総評議会が暴力的破壊的行動を厳に戒めてきた団体であることは、さきに説明したとおりである。それにも拘わらず、仮りに前記のような心配があるとすれば、それはメーデーを皇居外苑で行うかどうかということとは無関係に起ることである。のみならず治安上の心配があるとすれば、警察官憲は誰に遠慮することもなく、万全の警戒をすることができるはずである。
[35] よつて原告の請求は、被告のした本件不許可処分の取消を求める部分についてのみ、これを認容し、被告に対し原告の皇居外苑使用の妨害禁止を求める部分はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第92条但書を適用して、主文のとおり判決する。

  (裁判官 新村義広・入山実・石沢健)
一、原告の昭和26年11月10日附「昭和27年5月1日メーデーのための皇居外苑使用」申請について被告が昭和27年3月13日に為した不許可処分はこれを取消す。
二、被告は、原告の「昭和27年5月1日のメーデーのための皇居外苑使用」を妨げてはならない。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(原告)
、原告は、日本教職員組合、国鉄労働組合、日本炭鉱労働組合、全逓信従業員組合、全日本海員組合、日本私鉄労働組合総連合会、全国自治団体労働組合協議会、日本電気産業労働組合、全日本金属鉱山労働組合連合会、全電通従業員組合、全農林省労働組合、合成化学産業労働組合連合会、日本財務職員労働組合連合会、大蔵省職員組合、全専売労働組合、日本都市交通労働組合連合会、全印刷庁労働組合、日本放送労働組合、全国繊維産業労働組合同盟、全国進駐軍労働組合同盟、全国金属労働組合、化学産業労働組合同盟、全国映画演劇労働組合、全国有林労働組合、全国造船労働組合連合会、日本鉱山労働組合、日本建設労働組合連合会、全国産業別労働組合連合会等日本国内の労働組合によつて組織する総評議会である。

(中央メーデー)
、終戦以降毎年5月1日に皇居外苑で中央メーデーが行われてきた。

(昭和26年度中央メーデーの中止)
、昭和26年5月1日の中央メーデーは、原告が結成されてから最初のものであつて、原告主催のもとに皇居外苑を使用して挙行する予定であつたが、被告が従来の慣行に反しメーデーのための皇居外苑使用を禁じたので、やむを得ずこれを中止した。

(昭和27年度メーデーのための皇居外苑使用申請)
、原告は、前年度の轍をふまないために、昭和26年11月10日被告に対し、「昭和27年5月1日メーデーのための皇居外苑使用」の申請を行つた。

(回答の延引)
、被告は原告に対し、何故か再三の交渉にもかゝわらず回答を延引された。

(不許可処分)
、被告は、原告申請後4ケ月以上を経過した昭和27年3月13日に原告の申請に対しその理由を示さずに不許可処分をなし、同日厚生次官を通じて原告代表者にその旨通知した。

(被告の行政処分の違法性)
、被告の前記行政処分は、次の理由により、違法である。
(1) 皇居外苑は、国において直接公衆の用に供した公園広場であるので、国有財産法(昭和23年法律第73号)にいう「公共福祉用財産」たる行政財産に属する。
(2) 皇居外苑は、厚生省設置法(昭和24年法律第151号)第8条第17号の規定により、被告の所管とされた。
(3) 被告は、国有財産法第5条並びに前記厚生省設置法の規定による管理権限に基いて、「国民公園管理規則」(昭和24年厚生省令第19号)を制定し、これによつて皇居外苑を公衆に利用せしめてきた。
(4) 国民公園管理規則は、第4条を除いては、趣旨明白である。すなわち先ず適用範囲を示し(第1条)、次に公園内での営業や区域を限つての使用等を免許制とし(第2条第3条)、その手続を定め(第5条)、次いで公園自体を直接毀損する行為の態様を列挙してこれを禁じ、犯禁者に退場の制裁を課し(第6条)、公園の風致を害する行為を禁じ(第7条)、公衆に迷惑をかける者の立入を禁じ(第8条)、公園の公開日時入場料使用料の定をし(第10条)、最後に皇居外苑の常時公園入場無料の規則を定め(第11条)てある。
(5) 問題は規則第4条「国民公園内において集会を催し又は示威行進を行おうとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない。」という条項における「厚生大臣の許可」の性質である。
(6) 実定法上の「許可」という用語は、法学上の「許可」概念即ち法令による一般に対する禁止を特定の場合に解除し適法に一定の行為をなすことを得しめる行政行為の趣旨で常に用いられているとは限らないので、具体的に用語の趣旨を検討することを要する。
(7) 先ず規則第2条第3条に用いられた「許可」という用語は、出願者に対して公共福祉用財産の上に公園の区域を限つて使用せしめる権利や公園内営業する権利を設定するところの設権的な行政行為の意味で用いられたものであつてその法的性質はむしろ特許に類似している。この種の設権的行政行為は自由裁量行為であるといえよう。
(8) 次に規則第5条に用いられた「許可」も、第3条第4条を受けた限りにおいては、その用語の趣旨を踏襲したものと解される。何となれば、第5条は許可手続を定めたものであるのに許可の基準にふれず許可すると否とを自由裁量に委ねた規定の仕方である。このような自由裁量手続はまさに第2条第3条のような設権的行為の手続としてのみ相当であるからである。
(9) 然るに問題の第4条の「許可」の法的性質は前記と同一に解することはできない。
 国民に「表現の自由」(憲法第21条)を保障する憲法のもとにおいて国からその表現の場として直接公衆の用に供された公園広場内で他の市民の迷惑にならぬ方法で自由に「集会」し自由に「示威行進」することは国民の奪うべからざる権利であるので、それを許して挙行せしめたからといつて決して第2条第3条の場合のような設権的処分とはならない。
(10) 同条の「許可」の法的性質は、法学上の「許可」概念とも明らかに異る。何となれば、前記の通り憲法が「表現の自由」を保障する効果として国は立法その他の行政行為においてこれと矛盾する措置を行うことができず、従つて公園広場での「集会」や「示威行進」は公園に立入る公衆に常に一般に許された行為であるからである。
(11) 結局、同条の「許可」の法的性質は、法令で一般に禁止されたことからの特別解除たる意味を有せず、法令で一般に許されたことからの申請受理に類似するものといえよう。
(12) この結論は憲法に適合するものであることは既述のとおりである。
(13) この結論は、さらにこの規則の基本法たる国有財産法第5条及び厚生省設置法第8条第17号の規定の趣旨に適合するものである。何となればこれらの法律は、皇居外苑という公園福祉用財産の維持管理の権限を被告に附与したのみであるから、被告はこの管理規則を制定するにあたつて右基本法の授権以外にわたることは違法であり、被告が規則第4条を制定するにあたり「表現の自由」の行為制限を企図したとすればそれは明らかに基本法の授権の範囲を超えることになるからである。
(14) この結論はさらに被告の職務権限に適合するものである。被告は「社会福祉」等を所管する厚生省の長官であつて国から直接公衆の用に供した皇居外苑等の公共福祉用財産を所管する理由も右被告の「社会福祉」長官としての職務権限によるものである。被告がこの規則を制定するにあたり「表現の自由」の行為制限を企図したとすればそれは明らかに権限外の行為であつて違法たるを免れない。
(15) この結論はさらにこの規則全体の趣旨に適合する。先にふれたようにこの規則が公園を直接毀損する行為や風致を害する行為や公衆に迷惑をかける者の立入を禁じ、これを犯した者に退場の制裁を課したのは国有財産の維持保存を図るために必要な限度の行為制限をしたもので、これら行為はその実質が国有財産の毀損行為であるので基本的人権としてもこれを為し得ないものであつて、これによつて「表現の自由」の行為制限を企てたものとは認められない。却つてこの規則は他方皇居外苑の常時公開入場無料の原則を明らかにして、あくまで公共福祉用財産のその用法による社会福祉目的の達成を図つているものであるから、皇居外苑を利用する公衆がそこを「表現の自由」の場として利用することを妨げない趣旨であることは明白である。規則全体の趣旨から推論するも第4条の「許可」を「表現の自由」の行為制限と解することはできない。
(16) この結論の正当なことは、さらにこの規則の規定と他の治安立法の規定との比較によつても明らかになし得る。たとえば、東京都の「集会集団行進及び集団示威運動に関する条例」(昭和25年条例第44号)によれば、道路その他公共の場所で集合若しくは集団行進を行おうとするとき又は場所の如何を問わず集団示威運動を行おうとするときは公安委員会の許可を受けなければならないものとされているが、主催者が72時間前迄に許可申請書を開催地の警察署を経由して提出したときは、公安委員会はその実施が「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められたる場合」の外は「これを許可しなければならない」とされている。この条例は治安上の理由で基本的人権を制限する場合であるのでこれを制限する基準を明定して法規裁量としているのであるが、基本的人権を制限するためには少くともこのような用意が必要である。これに反し、規則第4条を受けた場合の第5条に何らそうした用意が示されていないのは、むしろ規則の規定が「表現の自由」の行為制限の趣旨でないことを物語る証左であるといえよう。
(17) 仮りに前記一切の理由がなりたゝないことがあつても、勤労者の団体行動権(憲法第28条)を保障する憲法のもとにおいては、国から直接公衆に公開されている皇居外苑内で原告ら勤労者団体が平和的に中央メーデーの行事を行うことは右憲法の保障内の行為であるから、被告は、この規則を如何に解しようとも憲法の保障に反する措置を行うことができない。
(18) 結局、規則第4条の「許可」は、申請者が公園自体の保存管理に直接著しい障碍を与えるおそれある場合を除いては、原則として申請者の公園使用を妨げない趣旨に解すべきものである。
(19) 被告の為した行政処分は右規定の趣旨を誤解して当然許可すべきものを「不許可」としたものであつて違憲且違法たるを免れない。

、よつて原告は、被告の違法な行政処分の取消を求め且つ原告が昭和27年5月1日皇居外苑でメーデーを行うことを被告から妨げられないことを求めるため本訴を提起する次第である。
(以上訴状記載のとおり)

、原告は法人たる労働組合ではない。
 法律上は権利能力なき社団の一種である。
、本件不許可処分の通知書は昭和27年3月14日原告に到達した。
(以上口頭弁論における釈明)
 原告の請求を棄却する
 訴訟費用は原告の負担とする
との判決を求める。
、訴状請求の原因第一項の事実は不知。
、同第二項の事実は認める。
、同第三項の事実も認める。但し従来の慣行といつても、終戦後5回の例に過ぎない。しかも、それは終戦後皇居外苑が荒廃し、復旧整備の不十分であつた時期における、むしろ一時的現象というべきで、国民公園として被告が管理した後に於ては昭和24、同25の2回に過ぎない。
、同第四項に記載のような皇居外苑の使用許可申請があつたことは認める。
、同第五項の事実は争う。原告から2回、昭和26年11月12日附及び昭和27年3月4日附のいずれも申入書と題する書面を受取つたことはあるが、口答による交渉はなかつた。被告は事情聴取並に説明のため、電話で、原告の来庁を求めたこともあるが、原告は出頭しなかつた。
、同第六項(釈明事項を含む)の事実は認める。但し不許可処分の理由は、厚生次官を通じて、口頭で示した。
、同第七項の事実中
(1)の事実は、広場とある点を除いて、その他は認める。
(2)及び(3)の事実も認める。
[1]、皇居外苑は国有財産法第3条第2項第2号にいう公共福祉用財産として、国において直接公共の用に供した公園であつて、いわゆる公物中の公共用物(又は、共用公物)に属し、被告はこれが維持管理の権限と職責を有する。
[2] およそ、物が公共用物として公衆の共用に開放せられた場合、一般公衆はその反射的利益として管理者の許容する範囲内で、かつ他人の共用を妨げない限度内で、平等にこれを使用し得る自由を享有するに至るが、管理者は管理権の当然の作用としてその使用につき管理上必要な制限を加える権能を有する。
[3] ところで、一般に公園とは国又は公共団体が、すぐれた自然又は人工の自然的景観を有する地域を劃して、これを公共の利用に供し、その保健、休養、慰楽、教化に資するために管理する地域をいうのであるが、ことに皇居外苑は旧皇室苑地という由緒をもつ外、現在もなお皇居の前庭であるという特殊の性格をもつ公園である。
[4] それで、被告は公園本来の趣旨と皇居外苑の特性に照らして、これが管理については、速に原状の回復をはかり常に美観を維持し、静穏を保持し、国民一般の散策、休息、鑑賞及び観光に供し、その休養、慰楽、厚生に資し、もつてできるだけ広く国民の福祉に寄与することを基本方針としている。そしてこれが管理の必要上、被告は国民公園管理規則(以下単に規則という)を定め、通常右のような目的を有しない、集会又は示威行進というような目的のための使用はこれを被告の許可にかゝらしめ、被告は右の基本方針に照らしてその許否を決している次第である。従つて一般公衆が皇居外苑の使用につき、何等特別の許可行為を要せずして、自由に使用し得るいわゆる普通使用の範囲は、外苑の美観と静穏をそこなわない方法で散策し、休息し、鑑賞し、観光する程度の使用にあるものというべく、これまた、皇居外苑に対する国民一般の社会的見解の支持するところであると信ずる。

[5]、ところで、原告の本件許可申請の趣旨は、その申請書によれば、昭和27年5月1日メーデーのために、参加人員約50万人の予定で、午前9時から午後5時まで、二重橋前皇居外苑の全域を使用することの許可を求める、というにある。尤も使用場所が外苑全域であるとの記載は存しないが、参加人員約50万人という以上、後述のように、事実上外苑の大部分を使用しなければならないのであるから、特に地域の限定されていない限り、全域の使用許可を求めているものと解する外はないといえよう。
[6] 従つて原告の右申請は、規則第4条の集会許可申請と同時に第2条の土地使用許可申請を兼ねるものというべきであるが、いずれにせよ右申請にかゝるような皇居外苑の使用方法が、通常の使用の程度を著しく超えた、いわゆる特別使用に属することは明らかである。けだし、メーデーの行事(集会、示威行進等)という特定の目的で、午前9時から午後5時までの長時間、50万人という多人数が、外苑を使用して集合、行進するとすれば、その間一般国民の普通使用は殆んど不能か、もしくは著しく妨げられるし、又後に述べるように外苑自体が普通以上に著しい損傷を受けることも必然であつて、到底公園の普通使用の範ちゆうに属するということはできない。
[7] 右のような特別使用は、特に法令が直接これを認めている場合の外は、これを許可する行政処分があつて始めて可能なのであり、特別使用の許可は公物の管理作用として、当然被告の管理権に属する。しかも右のような特別使用の許可処分は、何等相手方に対し義務を課し、又は権利を制限するものではないから、その限りにおいて、特にその条件を定める法令の規定が存しない以上、かかる使用を許すと否とは、全く行政庁の自由に決し得るところであり、その自由な裁量に委ねられているものといわねばならない。
[8] 従つて、本件不許可処分には違法の問題が生ずる余地は存しない。

[9]、のみならず、被告が原告の本件申請に対して不許可処分をしたのは、次のような理由によるもので、違法でないことはもちろん、何等不当の点も存しない。
[10](イ) 二重橋前の外苑全域(堀を除く)の面積は約89,900坪であるが、そのうち国民一般の立入を禁止している緑地(芝生、堤塁)約46,400坪を除けば、残部は主として車道及苑路で約43,500坪に過ぎない。従つてその人員収容能力は、軍隊式に整列して坪当り6人という計算で、約261,000人に過ぎず、参加予定人員の約半数しか収容できない。立入禁止区域を含めた外苑全域で漸く539,400人を収容し得ることになるのであるが、しかもこれは、中心地帯から甚しく距離の隔つている周辺の車道、苑路、苑地及び堤塁の隅々にまで、軍隊式に坪当り6人が並んだ計算でそうなるのである。
[11](ロ) 右のような実情であるから、もし強いて本件申請を許容すれば、約50万人の人員が長時間外苑の全域に充満することになり、その厖大な人数、長い使用時間等からいつて、当然芝生や樹木の損傷、波垣、ベンチ、便所その他の工作物の汚損、破損等、公園自体が著しい損壊を受けることを予期しなければならないし、又その際捨てられる紙屑、煙草の吸がら、キヤンデー棒、マツチの軸屑その他の塵芥はまことに莫大な量にのぼり、且つその後始末に多大の労力と費用を要し、かくて公園の管理保存に著しい支障を蒙むる。
[12](ハ) 又本件申請が許可されることは、午前9時から午後5時まで、外苑の殆んど大部分が原告に占用されることを意味し、即ち1日の日出時間の大部分に亘つて、一般国民の公園としての本来の利用が全く阻害されることになる。殊に時あたかも新緑の好季節で、外苑観光客や一般散策者の数も非常に多いことを考え併せれば、被告が本件申請を許可し得ない理由は十分に首肯されるものと信ずる。

[13]、被告は、憲法の保障する集会の自由や勤労者の団体行動権を制限する意思ないし企図は少しも有しない。
[14] なる程、皇居外苑は他の一般の公園に比べると、ある程度、広場的な態様をもつていることは一応肯定されるところであろう。従つてこれを広場的な公園ということは、あるいは云えるかも知れない。然し単なる広場では決してない。外苑はあくまで自然的景観風致を特徴とし、国民一般の休息、散策、鑑賞、観光に供せられた国民公園であることは、これを否定することができないであろう。
[15] 被告は、原告の本件申請にかゝる外苑の使用が、前記のように一般国民の本来の利用を著しく阻害し、かつ外苑自体に甚しい損傷を与え、公園としての管理維持の上に重大な支障を来たす恐れがあると認めたので、遺憾ながら、その許可申請を拒否せざるを得なかつたのである。
[16] 被告は、他の適当な場所での健全なメーデーの挙行を喜びこそすれ、これに妨害や反対を加えようとする考えはごうもない。

[17]、以上の理由により被告の本件不許可処分には何等違法性がなく、原告の本訴請求は理由がないから棄却さるべきである。

[18]、なお、原告は本訴請求の趣旨第二項において「被告は原告の昭和27年5月1日メーデーのための皇居外苑使用を妨げてはならない。」との判決を求めている。
[19] しかしながら、およそ行政庁が行政処分をすると否とは、原則として行政庁の裁量に属し、一定の場合には一定の処分をなすべき旨の法規が存する場合でも、それは行政庁の抽象的な職務を規定したもので、私人からの行政庁に対して行政処分をなすべきことを請求する権利を認めたものではないと解すべきである。
[20] そして、裁判所は原則として、当事者間における具体的な権利義務について争いがある場合に、法の適用を保障する機能を認められているに過ぎない司法機関で、行政庁に対する一般的監督権を有するものではない。
[21] 従つて、私人が行政庁を被告として、裁判所に対し、行政処分をなすべきことを命ずる裁判を求めたり、或いはまた、行政庁が行政処分をしたのと同様の積極的効果を生ずるような内容の裁判、換言すれば、裁判所が行政庁に代つて行政処分をするに等しい内容の裁判を求めることは、特にその旨の法律上の明文がない限り、許されないものと考える。
[22] 従つて、一定の場合に一定の行政処分をなすべきき束の存する場合でも、私人は先ず行政庁に対して当該処分をなすべきことを求め、これが拒否されて後はじめて、その違法処分の取消を裁判所に訴求する外はないものと解する。尤も、かくては、もし行政庁が右の違法処分を取消されても、なお、あえて、これに代る適法な行政処分をしない場合に、私人が裁判所にその救済を求める方法はないことになるが、三権分立主義の原則からいつて、特に法律の規定がない限り、やむを得ないことゝ考える。
[23] ところで、もし本訴請求の趣旨第二項のような請求が容認されるとすれば、被告は原告のいかに不当違法な使用方法に対してもこれを制限禁止することができず、原告は皇居外苑の使用につき、被告の許可を得たより以上の地位を認められることになる。換言すれば、裁判所が、被告に代つて、原告に対し皇居外苑の使用許可処分をした上に、被告の公物管理権の行使を全く停止するに等しい結果となるのであつて、かくの如き裁判を求める訴の許されないことは前記のところから明らかであり、右の訴は不適法として却下さるべきものと考える。
(以上殆んど答弁書記載のとおり)

[24]、原告は、皇居外苑が「国から、表現の場として、直接公衆の用に供された公園広場」であるかのようにいう。そのいうところの意味は必ずしも明確ではないが、外苑が、国において直接公衆の共用に供した公園であることは、既に答弁書において、被告の詳述したところである。
[25] もし広場を若干の広さを持つた空地と解するなら、その意味での広場はいずれの公園にも通常存する。然し、公園内にある空地が、もつぱら集会の用に供することを目的とした広場であるか、運動場あるいは児童の遊び場とすることを目的とした場所であるか、それともまた単なる広大な通路に過ぎないか等、その空地のもつ意味用途は、空地と公園全体との関係、その規模、構造、環境、由緒来歴または管理者の管理方針等により異らざるを得ない。
[26] 皇居外苑内の、一見広場のようにも見える空地は、造園学的に見れば、広かつな皇居外苑全体との調和均整をはかつて設けられた、やゝ幅の広い通路(苑路)であつて、この広幅の苑路が広大な緑地(芝生、堤塁)や濠と総合調和して外苑特有の広かつ清爽な美観風致をかもし出すのであり、苑路は外苑のすぐれた景観の一重要構成要素である。決して、集会の用に供することを目的とした単なる広場ではない。
[27] このことは、旧皇室苑地たる由緒来歴からも当然首肯されるところであり、管理者たる被告もまた、これを苑路として整備し、緑地と共に、その全体を公園として、国民一般の観賞、散策等の用に供しているのである。
[28] 従つて、通常は右のような公園本来の使用目的を有せず、かつ公園の管理に支障の生じがちな、集会示威行進というような目的のために外苑を使用するのを、特別使用として、被告の許可にかからしめることは、管理権の当然の作用といわねばならない。

[29]、規則第4条は、原告もいうように、決して集会や示威行進の自由そのものを制限するものではない。ただ前記のような外苑の特別使用を制限しているだけである。
[30] 被告は右規則に基く皇居外苑の特別使用の許否に際し、国民すべての者に対して、いやしくも公正平等を欠く取扱をしないように、一貫した一定の基準をもつて事に当つている。即ち、その使用が小区域かつ短時間で、しかも外苑を使用することがふさわしいと認められるものに限り、その特別使用を許可することにしている。
[31] もし、右の基準以上の特別使用、例えば本件申請にかゝるような使用をも許すということになれば、単に1回の使用だけでも国民一般の利用を阻害し、かつ管理上の支障を来たすのみでなく、一を許して他を許さないというような不公平不平等な取扱いをすることはできない結果、外苑の位置、環境から考えて、恐らくはこれを使用する集会、示威行進が跡を絶たず、かくては国民一般の公園本来の利用が極端に制限され、ひいては皇居外苑本来の性格は全く喪失するに至るやも知れない。
[32] 被告は、原告の本件許可申請につき、従来の管理方針に基く一定の基準に従い、公正公平に考慮した結果これを拒否したもので、違法はもちろん、何等不当の点もないと信ずる。

[33]、憲法第21条が集会の自由を、同法第28条が勤労者の団体行動権を保障していることは、まことに原告のいうとおりである。然し、集会や示威行進のために土地建物が必要である場合でも、その物に対する他人の所有権や管理権を侵害して使用してよい。というまでの自由、権利を保障したものとは、到底解することができない。
[34] すなわち、集会の自由についていえば、憲法が右の規定により禁止しようとするのは、集会の制限それ自体に向けられた行為であつて、特定の集会場所の提供の拒否にまで及ぶものとは解し得ない。尤も当然集会に使用し得る場所につき、ある集会のためにするその使用を正当の事由なくして制限する場合は、あるいはその集会の制限に直接向けられた行為として違憲となり得るであろうが、本来自由使用の許されていない場所で集会を催そうとする場合に、その場所の権利者が、相当の理由をもつてその使用を拒否することは、憲法にいう集会の自由の保障の及び得るところでない。まして答弁書で詳述したように、本件申請を許可すれば、国民一般の公園としての本来の利用を全く阻害し、公園の管理保存に重大の支障を来たすという事情のもとに、被告がこの申請を拒否したことは、国民公園の管理者たる職責上、むしろ当然の措置といわねばならない。
(以上準備書記載のとおり)
第1条 皇居外苑、京都御苑及び新宿御苑(以下国民公園という)の利用に関しては、この規則の定めるところによる。
第2条 国民公園内において、土地、池又はほりを占用若しくは区域を限つて使用し、又は特殊施設を使用しようとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない。
第3条 国民公園内において、物を販売若しくは頒布し、又は業として写真を撮影し、又は興行を行おうとする者は厚生大臣の許可を受けなければならない。
第4条 国民公園内において、集会を催し又は示威行進を行おうとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない。
第5条 前3条の許可を受けようとする者は、別紙様式第1又は第2による許可申請書を提出しなければならない。
 厚生大臣は、前項の許可申請書に対して許可を与えたときは、許可証を交付する。
 前項の許可証の交付を受けた者は、係員の要求があつたときはこれを提示しなければならない。
第6条 国民公園内においては、左に掲げる行為を行つてはならない。
 一 植物を採取又は損傷すること。
 二 鳥獣魚類を捕獲又は殺傷すること。
 三 工作物を汚損すること。
 四 立入禁止区域内に立入ること。
 五 指定以外の場所へ車馬を乗り入れ又はけい留すること。
 六 公共便所以外の場所において大小便をし又はこれをさせること。
 七 飲料水を汚染すること。
 八 池又はほりで遊泳すること。
 九 ごみその他の汚物又は廃物を投棄すること。
 十 たき火すること。
 前項各号に掲げる行為を行つた者に対しては、退場を命ずることができる。
第7条 国民公園内においては、広告物、看板の掲示又は風致を害する工作物を設置してはならない。
第8条 伝染病患者、でい酔者、その他公衆にけん悪の情を催させ又は迷惑を覚えさせるおそれのある者は、入場を拒み又は退場を命ずることができる。
第9条 厚生大臣は、第2条、第3条又は第4条により許可を与えるときは、使用料を徴収することができる。
第10条 国民公園の公開日時、入場料及び使用料については、別に定めて告示する。
 厚生大臣は、前項の公開日時中といえども、やむを得ない事由があると認めるときは、公開を制限することができる。
第11条 前条第1項中公開日時及び入場料の規定は、皇居外苑及び京都御苑については適用しない。
附則
 この省令は、昭和24年6月1日から施行する。
(様式は略す)

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