南九州税理士会事件
控訴審判決

選挙権被選挙権停止処分無効確認等請求控訴、附帯控訴事件
福岡高等裁判所 昭和61年(ネ)106号・同62年(ネ)551号
平成4年4月24日 民事第4部 判決

控訴人・附帯被控訴人 南九州税理士会
右代表者会長     舟木旦
右訴訟代理人弁護士  増岡章三 対崎俊一 伴喬之輔 池上健治

被控訴人・附帯控訴人 牛島昭三
右訴訟代理人弁護士  馬奈木昭雄 吉井秀広 椛島敏雅 田中利美 西清次郎 浦田秀徳 加藤修 藤尾順司 板井優 福田政雄 塩田直司 藤田光代 千場茂勝 竹中敏彦 松本津紀雄 松野信夫 三溝直喜 諫山博 田中久敏 井手豊継 内田省司 小島肇 小沢清実 幸田雅弘 山本一行 小泉幸雄 津田聡夫 松岡肇 上田国広 池永満 名和田茂生 高木健康 横光幸雄 江越和信 荒牧啓一 河邊真史 永尾広久 中野和信 宮原貞喜

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 本件控訴に基づき、原判決中、控訴人・附帯被控訴人敗訴の部分を取り消す。
 被控訴人・附帯控訴人の右取消しに係る部分の請求及び附帯控訴により当審で拡張した請求をいずれも棄却する。
 本件附帯控訴を棄却する。
 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人・附帯控訴人の負担とする。

一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

三 附帯控訴の趣旨
1 原判決の主文第3項ないし第5項(第4項については、損害賠償請求に係る部分に限る。)を、次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人に対し、金500万円及び内金200万円に対する昭和56年5月7日から、内金300万円に対する昭和62年5月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人の負担とする。

四 附帯控訴の趣旨に対する答弁
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は、被控訴人の負担とする。
[1] 当審において、当事者双方が次のとおり主張を追加、補足したほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 南九各県税政の設立の経緯とその活動
[2] 本件特別会費は、全額南九各県税政へ会員数を考慮して配布するものとして、その徴収が決議され、会員から徴収された特別会費は、会員数に応じて全額南九各県税政に配布された。その配布は、おおよそ、昭和54年1月に金101万3000円、同年9月に金195万6000円、昭和55年6月に金202万8000円と、3度に分けてされた(細目については、この項の6、7の各第1段参照)。
1 南九各県税政の設立
[3] 南九税政の規約4条2には、各県ごとに県支部を設けることができると規定されていたが、昭和51年以前には、各県支部は存在しなかった。
[4] ところが、同年7月、8月に、熊本、大分、宮崎、鹿児島の各県税政があいついで設立された。
2 設立の背景事情
[5] 昭和50年7月に政治資金規正法が改正され、同法22条の2により、何人も、各年中において、政党、政治資金団体以外の同一の者に対しては、150万円を超えて政治活動に関する寄附をしてはならないとされた。日税連は従来日税政に対し、多額の寄附を行ってきたが、この規制により年間150万円を超えて寄附をすることができないこととなった。
[6] 日税政は、昭和51年2月5日幹事会を開いたが、席上、改正政治資金規正法との関係で、従来の単位税政連の下に、都道府県別に独立した税政連を作ったほうがよいのではないかとの提案がされ、その規約案の説明が行われた。また、同月20日の東京税理士会の支部長会において、日税政の役員は、「従来の方法では、東京税理士会から東京税政連等への寄附は最高限度150万円しか行えない。このことは、政治連盟の活動に大きな障害となる。そこで、資金援助の合法的なパイプ、機構を設ける必要があるところから、支部単位で政治連盟を設置し、そこから東京税政連に資金援助をするという方法を現在検討している。」と報告した。その後、日税政会長は、昭和52年11月1日発行の税政連誌に「昨年の政治資金規正法により、わが日税連は、組織的再編成を終わり、単位税政連もそれぞれ地区税政連の細胞組織を作り、蘇ってきた。」と書いている。
[7] なお、南九各県税政は、設立後しばらくの間会費を徴収せず、その運営費は控訴人から業務改善費名目で寄附される金員に依存していた。控訴人は南九各県税政に対し、昭和52年から昭和60年まで毎年25万円ずつを業務改善費として寄附している。
[8] 要するに、南九各県税政は、日税政の指示に基づいて設立されたものであり、その設立目的は、政治資金規正法の改正に対応して、税政連に対する資金援助のパイプを作ることにあったのである。
3 南九各県税政のトンネル活動
[9] 控訴人は、昭和51年6月23日の定期総会において、特別会費1人当たり5000円の徴収を決定した。そして、徴収した458万5000円から経費を引いた残金454万円全部が南九各県税政に寄附され、南九各県税政は南九税政へ合計413万6000円を寄附し、南九税政はその全額を特別分担金として日税政へ納付した。なお、南九各県税政は、控訴人が右特別会費の徴収及び南九各県税政への配布を決議した時点ではまだ設立されていなかったが、右決議後の同年7月から8月にかけて順次設立された。
[10] 政治資金規正法による政治献金の個別規制によって、もし南九各県税政を経由しなければ、控訴人は南九税政を使って金150万円までの政治献金しか行えなかった。ところが、控訴人は南九各県税政を設立することによって、金413万6000円の政治献金を行うことができたのであるから、南九各県税政の主たる機能は政治献金のトンネル機能にあったのである。
[11] 南九各県税政は、設立された昭和51年には、このトンネル活動以外にはほとんど活動していない。
4 南九各県税政の昭和52年における活動実態
[12] 宮崎県税政は、昭和52年7月20日大原一三(自民党)後援会のパーテイ券購入のため金7万円を、10月7日江藤隆美(自民党)のつどい実行委員会のパーテイ券購入のため金5万円を、11月7日自民党宮崎県支部のパーテイ券購入のため金6万円を順次支出した。
5 南九各県税政の昭和53年における活動実態
[13] 宮崎県税政は、昭和53年9月4日、大原一三後援会のパーテイ券購入のため金15万円を支出した。
6 南九各県税政の昭和54年における活動実態
[14] 控訴人は、本件特別会費として徴収した金員から、昭和54年1月25日ごろ熊本県税政へ金33万円、鹿児島県税政へ金28万円、宮崎県税政へ金17万1000円、大分県税政へ金23万円を寄附し、7月12日宮崎県税政へ金33万円を寄附し、9月13日熊本県税政へ金64万円、大分県税政へ金45万円を寄附し、同月14日鹿児島県税政へ金53万円を寄附した。
[15] 鹿児島県税政は、8月6日山崎武三郎後援会へ会費(パーテイ券)として金50万円を寄附し、9月14日山崎武三郎の会へ金50万円、第一政治研究会へ金100万円、宮崎茂一後援会へ金100万円、新風政経研究会へ金50万円、長野祐也の会へ金20万円を政治献金し、同月15日村山喜一後援会へ金20万円、小里貞利後援会へ金50万円を政治献金し、同月16日保岡興治へ金50万円を政治献金し、12月25日山崎武三郎後援会へパーテイ券として金3万円、宮崎茂一後援会へパーテイ券として金9万円を寄附した。
[16] 熊本県税政は、8月20日野田毅後援会へ金5万円を寄附した。
[17] 宮崎県税政は、8月24日大原一三後援会へパーテイ券として金15万円を寄附し、9月13日陣中見舞の名目で、江藤隆美後援会へ金10万円、堀之内久男後援会へ金10万円、小山長規後援会へ金5万円、宮崎如水会へ金10万円を寄附した。
7 南九各県税政の昭和55年における活動実態
[18] 控訴人は、本件特別会費として徴収した金員から、昭和55年6月6日熊本県税政へ金38万1000円、同月9日鹿児島県税政へ金50万8000円、宮崎県税政へ金21万9000円を寄附した。
[19] 宮崎県税政は、昭和55年4月8日江藤隆美のつどい事務局へ金10万円を政治献金し、5月15日自民党県連支部連合会へ金10万円を政治献金した。
[20] 大分県税政は、同年4月18日後藤正夫を励ます会へパーテイ券として金30万円を政治献金した。
[21] 鹿児島県税政は、同年6月9日内外政治研究会へ金30万円、宮崎茂一後援会へ金30万円、長野祐也の会へ金10万円、井上吉夫後援会へ金10万円、川原新次郎へ金10万円を政治献金し、同月10日村山喜一後援会へ金10万円、小里貞利後援会へ金10万円、日本地域開発研究会へ金10万円を政治献金し、12月3日山崎武三郎後援会へパーテイ券として金10万円を政治献金した。
[22] 大分県税政は、同年6月9日風雪近代政経研究会へ金10万円、羽田野忠文後援会へ金10万円、7月31日風雪近代政経研究会へ金20万円を政治献金し、12月5日「文ちゃんと語るパーテイ本部」へパーテイ券として金8万円を政治献金した。
[23] 南九各県税政の活動は、大きく分けて2つあり、1つは日税政及び単位税政連と同じく特定政党、特定候補者の推薦、後援会活動、政治献金(陣中見舞い)を行ってきている。もう1つは、控訴人が集めた資金を南九税政、日税政へ流すための資金パイプとしての役割で、その典型は昭和51年の特別会費である。各県税政は、それ自体の活動を見るだけでも既に政治的中立性がないものである。
9 選挙期間中における南九各県税政への寄附
[24] 昭和54年10月7日総選挙が行われたが、控訴人は同年9月本件特別会費の第2回配布を行い、さらに昭和55年6月22日衆参同日選挙が行われたが、その直前の同月9日ごろ第3回目の配布を行った。また、いずれの際にも南九各県税政は推薦候補を決定していた。
[25] 右のように選挙直前に、推薦候補を決定している政治団体に本件特別会費を寄附すること自体、選挙活動資金に使用されることが明らかであるから、平時における業務改善費の交付とは質的にも異なるものである。

二 本件決議の前後における日税政の活動
[26] 日税政の収支報告書からみた昭和38年から昭和54年のいわゆる税政連政治献金事件までの間の政治献金の金額は、昭和38年度3796万5000円、昭和39年度2300万円、昭和40年度300万円、昭和45年度620万9640円、昭和46年度513万828円、昭和47年度2522万3892円、昭和48年度1082万4471円、昭和49年度305万5418円、昭和50年度378万1260円、昭和51年度6367万3128円、昭和52年度1265万6071円、昭和53年度5712万9188円、昭和54年度1億7385万259円であり、官報に公表された寄附、交付金の金額は、昭和47年社会党200万円、民社党100万円、昭和49年自民党500万円、社会党300万円、民社党100万円、昭和51年総額4292万円、国民政治協会500万円、社会党200万円、民社党200万円、昭和52年総額1154万円、国民政治協会200万円、政和協会100万円、社会党100万円、昭和53年総額1432万円、昭和54年総額1億5907万円である。
[27] 昭和50年7月に成立した山本執行部は、税理士法の改正について従来の議員立法路線から政府提案路線に転換し、昭和52年度中の国会上程を目指し、昭和50年11月6日「税理士法改正対策運動計画大綱」を理事会で決定し、税政連による後援会活動を開始するなど税政連の強化に努めながら、昭和51年12月の衆議院総選挙及び昭和52年7月の参議院選挙の選挙運動を活発に展開した。昭和52年7月山本執行部が再選され、前記路線を拡大、拡充することとなった。
[28] 昭和52年12月27日、日税政幹部は、大蔵省主税局、国税庁幹部と税理士法改正について懇談し、その際、昭和53年12月の国会上程までの手続の進め方が提示された。
[29] 昭和53年2月10日、税理士法改正対策委員会は、山本会長の改正困難な6項目の報告に対する検討会を行い、「運動計画大綱」を決定した。
[30] 右運動計画大綱には、国会、政党対策として、自民党をはじめ、各政党内に税理士制度を審議する機関の設置を推進する、税制議員懇談会の早期設置を積極的に援助するとの活動方針が挙げられていたところ、同年3月22日自民党財政部会に税理士問題に関する小委員会が設置され、同年5月26日自民党税制議員懇談会が発足した。これらの国会、政党に対する働きかけは、税理士による後援会を通じて行うものとされ、そのためにも早期の後援会結成が必要であると宣伝された。
[31] 昭和53年4月14日、日税連理事会は、右税理士法改正運動計画大綱を承認したが、右運動計画大綱には、会員対策、各単位会及びその会員への働きかけとして、日税政が行う法改正実現を目指す資金作りに全面的に協力するということが挙げられていた。
[32] 本件特別会費の徴収は、右運動計画大綱に基づく活動費用集めの一環である。
[33] 控訴人は、昭和51年の特別会費と同じルートで日税政に集められて献金されるものとして、本件特別会費を南九各県税政に配布するものとして決議した。ところが、昭和53年9月になって日税連特別会費として日税連経由で日税政へ渡すことが決定された。本件特別会費は南九各県税政へ配布するものとして決議されているので、今更日税連特別会費に充てることはできない。そこで、南九各県税政独自の政治献金を行うこととなったものである。
[34] 以上のような情勢の中で本件決議はされたのであり、本件特別会費が政治献金として使われることは控訴人には明らかであったものである。また、この当時における日税政の機関紙である「税政連」の内容を見れば、本件特別会費を徴収するときの一般会員は、本件特別会費が特定政党、特定政治家に対する政治献金に使われることの認識を持っていたと言える。なぜならば、本件特別会費の配布を受けた南九各県税政が日税政の意向に従った政治活動をしていることを一般会員は知っていたからである。

[35] 税理士会は税理士法に基づく特殊公益法人であり、税理士の税理士会への加入は間接の強制加入となっている。
[36] したがって、控訴人の目的遂行に必要な行為の範囲については、狭く解すべきであり、控訴人の南九各県税政への寄附は、その権利能力の範囲を超えるものであり、本件決議は無効である。
[37] また、右のとおり南九各県税政の実体は、特定候補、特定政党に対する政治献金を脱法的に行うために設立された政治団体であり、実際上、選挙の都度特定の候補者及び政党に対し政治献金をしてきている。このような政治的に中立でない、非常に偏頗な政治団体である南九各県税政に寄附をするために特別会費を強制徴収し、寄附することは、控訴人の会員の生活利益とは関係のない、特定の候補者及び政党への寄附を強制することにほかならないから、本件決議が控訴人の権利能力の範囲を超えるものであることは明らかである。
[38] さらに、政治資金規正法22条の3、同条の6、同条の7の趣旨も十分考慮されなければならない。すなわち、同条の3は、国又は地方公共団体からの補助金や出資等を受けている法人の寄附を禁止し、同条の6は、本人の名義以外の名義又は匿名でされる寄附を禁止し、同条の7は、業務、雇用その他の関係又は組織の影響力を利用して威迫するなど不当にその意思を拘束するような方法での寄附のあっせんを禁止している。
[39] 同条の3の趣旨は、税理士会が公益法人として税法上の特典を有することからして、同条の6の趣旨は、南九各県税政がトンネル機関となっている実態よりして、同条の7の趣旨は、税理士会が強制加入団体であり、本件特別会費の徴収が会員の権利の停止、剥奪を背景として強制的にされていることからして、十分に考慮されなければならないことは当然である。

[40] 本件決議は、控訴人の会員の生活利益とは関係のない、特定の候補者及び政党への寄附を会員に強制するものであるから、会員の政治的思想、信条の自由を侵害するもので、公序良俗に反し、無効である。
[41] さらに、昭和54年のいわゆる税政連政治献金事件は、昭和54年9月にまかれた陣中見舞の贈賄性を問題とするものであったところ、本件特別会費の南九各県税政への第2回配布は、これとひょうそくを合わせ、時を同じくして政治献金として使用されたものである。したがって、日税政が行った陣中見舞の配布が贈賄にあたる以上、南九各県税政が行った陣中見舞についても当然贈賄が成立するものである。控訴人の南九各県税政への寄附は、この点からしても、公序良俗に反するものであり、民法90条により本件決議は無効である。

[42] 以上のとおり、本件決議は無効であり、被控訴人は本件特別会費の納入義務を負わないのであるが、このような納入義務のない特別会費の不納入を理由として控訴人は被控訴人の選挙権等を停止したものであり、しかも、その手続は適正でなく、違法である。
[43] 憲法が国民の参政権を保障しているのは、国民主権主義の原理に基づく民主政治の健全な発展を図るためであるが、選挙権、被選挙権は、重要な権利であり、そのことは国政上のみでなく、税理士会においても、その民主的運営のため、各会員の意思表明にとって必要不可欠のものである。
[44] したがって、税理士会における選挙権、被選挙権の制度が十分な適正手続の保障の下にされなければならないことは当然である。
[45] 控訴人の会則47条4項は、1項に規定する処分をしようとするときは、あらかじめその会員にその旨を通知して、相当の期間内に弁明する機会を与えなければならないと規定している。
[46] 控訴人の役員選任規則は、会則の委任に基づき定められたものであり、技術的な項目について定めたものである。昭和55年10月13日から施行された新会則、規則類集によると、会則は基本諸則に、役員選任規則は役員選任に関する規則にそれぞれ分類されている。これらのことからすれば、会則が役員選任規則より上位規範であり、役員選任規則には基本的でない技術的な項目しか定め得ないことは明らかである。
[47] 控訴人が被控訴人に対してした会費納付についてと題する書面による通知が事前通知に当たるとしても、被控訴人は弁明の機会を与えられておらず、会則47条4項に規定する適正手続を保障したことにならないことは明らかである。

[48] さらに、本件特別会費は、政治献金を目的とした特別会費であり、税理士会を運営するための一般会費とは異なるのであり、本件特別会費は、控訴人の役員選任規則6条2項にいう本部の会費には該当しないものである。
[49] また、控訴人は、昭和54年のみならず、昭和56年以降の役員選挙においても、被控訴人の選挙権等を停止したまま、選挙を実施してきているのであるが、昭和56年以降の選挙権停止処分は、新役員選任規則によるものであるはずである。
[50] ところで、新役員選任規則によれば、その6条2項2号には、「会則第68条(会費の負担)及び第69条(特別会費)の会費を滞納している者」と定められており、新会則の第69条によれば、「1 会員は、特別の支出に当てるため特別会費を負担する。2 前項の特別会費の目的、金額及び納期については、総会においてこれを定める。」と定められており、これは特別会費という名前は同じであるが、明らかに旧会則上の特別会費とはその性質を異にするものである。
[51] したがって、新役員選任規則の「第69条の会費を滞納している者」に被控訴人が当たらないことは明らかであり、控訴人の昭和56年以降の処分に理由がないことは明らかである。

[52] 被控訴人は控訴人から昭和54年以来選挙権、被選挙権を停止される措置を重ねられており、控訴人の右不法行為によって被控訴人が被った損害は計り知れないが、更に控訴人は、昭和62年、平成元年、平成3年にも、被控訴人の選挙権及び被選挙権を停止したまま、役員選挙を実施した。
[53] 控訴人のこれらの不法行為により被控訴人は、次のとおりの損害を被った。
1 思想、良心の自由に対する侵害とその精神的苦痛に対する慰謝料 金100万円
2 選挙権、被選挙権の停止と処分に対する慰謝料 金300万円
3 被控訴人の名誉が毀損されたことに対する慰謝料 金100万円
4 弁護士費用 金250万円
5 公平で中立かつ民主的であるべき税理士会のあり方と運営が侵害されたことに関する慰謝料 金50万円

[54] よって、被控訴人は当審において請求を拡張し、控訴人に対し、不法行為による損害賠償として、右に記載した金員のうち、慰謝料金300万円、弁護士費用金200万円の合計金500万円及びうち慰謝料100万円、弁護士費用100万円合計金200万円について不法行為の後である昭和56年5月7日から、うち慰謝料200万円、弁護士費用100万円合計金300万円について同じく昭和62年5月6日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
一 本件決議前後の税理士法改正運動の状況
[55] 日税連では、昭和53年4月14日の理事会で審議し、決定した税理士法改正運動計画大綱に基づき、政府、日税連間の具体的検討作業の中で、政府と日税連との合議により得た改正素案に基本要綱の趣旨ができるだけ取り入れられるようにするとの方針の下に、政府との事務折衝に入っていた。その一環である国税庁、主税局との事務折衝は、昭和53年4月10日に始まり、6月12日、7月21日、8月23日、9月16日と計5回、補遺的に同年12月21日に1回行われた。
[56] 他方、自民党でも、同年3月22日同党政務調査会財政部会内に税理士問題小委員会を設置し、同小委員会は、同月28日と4月7日に大蔵省国税当局から、4月14日日税連から、6月13日弁護士会、公認会計士協会、7月10日青色申告会、商工会などから、9月18日新井教授、行政書士会、国税会議(国税労組)から、それぞれ意見聴取を行っている。
[57] 各党においても、民社党が昭和53年5月17日に、社会党が同年6月15日に、税理士法改正問題特別委員会を設置し、本件決議後の同年9月5日新自由クラブが税理士法改正問題特別小委員会を、同年12月23日公明党が税理士法改正小委員会を設置して、それぞれ日税連などから意見聴取を行うなどの調査研究を開始した。
[58] このように、税理士法改正は、ようやく軌道に乗ったばかりで、税理士会は、できる限り基本要綱の理念を取り入れた税理士法改正が行われるよう目指していた。また、旧法では、取扱税目を全税目とせず、これを列挙したものに限定していたこと、税務代理などの範囲、特別試験制度等種々の問題があり、それら諸点の改正が必要という認識は各会員に共通であった。

二 本件特別会費の使途、目的
[59] 本件特別会費徴収に関する議案は、控訴人の正副会長が集まった際、会長から、運動計画大綱に基づいて税理士法改正運動を進めるについて、そのための経費の準備が全くないところから、運動資金を作りたいとの話が出たことに端を発する。
[60] 右会合では、具体的な運動は南九各県税政にお願いすること、事柄は税理士の職業基本法に関することであるから、会員全員の負担によるべきこと、また、その負担は、一般会費の増額によるよりは、当年度限りの特別会費によるべきことが話題に上っている。
[61] 想定された資金需要は、会員の勉強会の費用、後援会の結成費用、決起大会、国会陳情の旅費、地元における懇談等の会合費、印刷費等であり、政治献金に使うということが話題になったことはなかった。
[62] 右特別会費徴収の件は、昭和53年5月22日開催の理事会に上程され、出席者全員賛成で議案が承認、可決され、議案書は同月27日付けで各会員に発送された。そして、同議案は、同年6月16日に開催された控訴人の第22回定期総会において、会員総数974名のうち、出席者は委任状による者558名を含む691名で、賛成656名、反対35名で可決された。
[63] 本件特別会費の徴収に関する議案の意味するところは、差し迫った税理士法改正運動のため、その資金は非常に重要な意味を持つものであるから、特に控訴人の特別会費としてこれを徴収する、具体的運動は南九各県税政にお願いするものであるから、この資金は南九各県税政に配布するというにある。
[64] 議案に明示された本件特別会費の目的は、右に述べたところに尽きるのであって、配布を受けた南九各県税政がこれを具体的に何に使用するかは、全く特定ないし限定されていない。すなわち、これを決起大会が開催された際、あるいは陳情の際の旅費に用いるか、地元における集会費用に用いるか等は、何ら指定されていないのであって、被控訴人主張のような、特定の議員、候補者、特定の政党に対する献金、あるいは特定の候補者に対する選挙運動資金などの目的を、この議案から導き出すことは不可能である。
[65] 被控訴人は、本件決議当時、本件特別会費が、昭和51年の特別会費と同様に南九各県税政から南九税政へ、南九税政から日税政へ行き、日税政の政党あるいは政治家にする政治献金の資金とされると考えたというが、昭和51年の特別会費徴収決議の議案では、特別会費のうち1人当たり3500円相当額が南九税政から日税政に対する特別募金となることが明示されていて、その徴収の理由は明らかに本件議案と異なっている。
[66] したがって、被控訴人が想定したとするような目的がなかったことは、議案自体から明らかである。
[67] 付言するに、南九税政は、昭和53年10月、日税政からの法対策特別資金として会員1人当たり3000円の特別分担金を徴収するとの資金調達計画の要請に対して、本件特別会費の配布を受けた南九各県税政からこれを上納させることはせず、右配布金員は南九各県税政の税理士法改正運動資金として温存し、別途南九税政において緊急募金を行って日税政へ右特別分担金を納付しているのである。
[68] 本件特別会費は、税理士法改正運動資金として、常識的に妥当な使途に使用されるべきことは当然であるが、その具体的使途は定められていなかったのであり、このことが南九各県税政での支出内容が全く異なるという理由にもなっているのである。

三 南九各県税政の性格と活動
[69] 南九各県税政は、熊本県税政が昭和51年8月9日、大分県税政が同年7月21日、鹿児島県税政が同月2日、宮崎県税政が同月8日にそれぞれ設立された。
[70] 南九各県税政は、いずれもその規約に、「税理士の社会的・経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度ならびに租税制度を確立するため必要な政治活動を行なうことを目的とする。」と定めており、あくまで税理士会の税理士法改正等の運動や建議その他広く政治に関する税理士会の諸活動について、これを援助することを唯一の目的とする団体であって、他の一般の政治団体とは性格を異にしている。
[71] 南九各県税政、南九税政とも、その政治活動として基本的なものは、その所属政党を問わず、当該地区から選出される政治家、国会議員、関係諸官庁、諸団体に対し、税理士法その他関係法規の改正や税理士会がした建議等について理解を深めるために、説明し、その実現方を陳情することである。
[72] 南九各県税政は、税理士制度や税理士の権益に関連する諸問題について、いわば「税理士党」の立場から政治活動を通じて解決を図ろうとする団体であって、税理士制度や税理士の業務に関係のない一般的な政治的主義、主張を実現しようとする政党のような政治団体ではない。
[73] 南九各県税政の目的、事業は、あくまでも税理士会の税理士法改正、商法改正等の運動その他広く政治に関連する諸活動についてこれを援助することにあるのであって、そのために、決起大会を開催し、陳情を行い、広報活動を行っているのである。その活動はあくまでも陳情を中心とし、推薦活動や後援会活動に対する支援なども、すべて右目的、事業の手段にすぎない。この点において南九各県税政は、他の政治団体、すなわち、特定の政党、政治家を支援し、応援する団体や政治資金団体とは全く異なっている。これら一般の政治団体は、正に被控訴人が主張するような、特定の政党や政治家を推薦し、支持する団体であるか、又はそのための資金を提供することを本来の目的とし、若しくは主たる目的とする団体であるが、南九各県税政がする推薦行為や後援会活動の支援は、各県税政の目的、事業そのものではないのである。
[74] 控訴人が従前南九各県税政に対して行っていた業務改善費の交付は、南九各県税政の経常費、運営費等の通常の費用を援助するためにされてきたものであり、本件特別会費は、決起大会や国会陳情に参加する会員の旅費などや、会合費、広報のための刊行物の印刷、送付費用等々、その使途は限定せず、各県の実情に照らし、各県税政で税理士法改正運動のために必要となるべき諸費用に供するために配布されたものであって、各県税政がする推薦や税理士による後援会で行う選挙応援と直接かかわるものではない。
[75] 南九州地区において、推薦基準にのっとり審査の結果決定した推薦候補者のほとんどが結果として自民党に所属する者になったということは、一つの事実ではあるが、そもそも南九各県税政の目的は、政党、政治家を支持するところにあるのではない。南九各県税政において、審査の上で税理士制度などに理解のある政治家、税理士会に協力を得られる政治家を推薦し、あるいはその後援会を作るのは、選挙に当たって、後援会に参加している税理士の顧問先や関係先を通じ、集票に協力するという態勢を作ることによって、当該政治家の税理士会の法改正等の諸施策に対する理解を得、協力を期するという考えの下にされるものであって、こうした政治家に対する影響力を、税理士会の目的達成を支援するという南九各県税政の本来の目的の一つの手段としているにすぎないのである。
[76] 南九各県税政は、日税政及び南九税政と協調関係にはあるが、基本的には、これらに対し、会費、負担金を払うこともなく、指示、監督を受け、報告をすることもない。南九税政は日税政の会員であるから、日税政に負担金を払うなどの義務を負うが、日税政から指示、監督され、活動を拘束されるという関係にはない。
[77] また、南九各県税政の活動は、各地区の実情に応じてされるのであって、仮に、日税政で政治活動の一つとして、選挙に当たりその推薦候補者に陣中見舞を持参し、政治献金をしていた事実があったとしても、そのことは、南九州地区で南九税政や南九各県税政が政治献金をしていたことを示すものではなく、南九税政、南九各県税政の実態を示すものではない。
[78] 被控訴人は、南九各県税政の設立について、南九各県税政は、南九税政の各県支部と重複するもので屋上屋を重ねるものだとし、また、政治資金規正法の改正の趣旨を潜脱しようとしたものであって、トンネルの機能を果たすと主張し、その根拠として、南九各県税政が設立された時期、昭和51年の特別会費が南九各県税政に交付され、南九各県税政がその一部を南九税政に寄附したことを挙げている。
[79] しかしながら、南九税政には、各県別の支部はなく、各県庁所在地間の交通の便が悪いこと、各県で各県の実情に合った運動をしてもらうのが最もよいこと、地元の国会議員というのは、各県の選挙区から出ており、説明、陳情などを行うにしても、各県のほうがきずなも強いこと等の理由からすれば、どうしても各県ごとに組織が必要であったのであり、設立後南九各県税政はそれぞれの立場から運動を行っており、昭和51年の特別会費以外に被控訴人主張のような資金の流れは一度もなかったのである。

四 昭和51年から昭和55年までの南九各県税政の支出の状況について
[80] 熊本県税政は、昭和54年に野田毅後援会へ5万円を支出している。
[81] 右後援会への寄附は、この後援会が税理士による後援会であり、その性格が熊本県税政がする陳情を中心とする活動を助けるところにあることからすると、これを一般の政治献金としてとらえること自体はなはだしく疑問であるし、額自体も小さいが、いずれにせよこの5万円は、もともと日税政から南九税政を経由してきた助成金を引き継いだものにすぎないのである。
[82] 大分県税政は、昭和53年に政経文化パーテイ実行委員会会費3万円の支出、昭和55年の4月18日以降に須藤正夫を励ます会パーテイ券30万円、風雪近代政経研究会後援会費20万円、文ちゃんと語る船上パーテイ会費、羽田野忠文後援会陣中見舞10万円、風雪近代政経後援会陣中見舞10万円の支出をしているが、同県税政では、昭和55年4月8日税理士法改正が成立して、本件特別会費の目的である税理士法改正運動資金の必要性がなくなるまでの間に、政治献金をした事実はない。昭和53年の政経文化パーテイ実行委員会会費3万円の支出は、渉外費としての会費の支出であって、いわゆる交際費の範囲を出ないものである。
[83] 昭和55年4月18日以降の交際費としてのパーテイ券、後援会費、パーテイ会費、陣中見舞の支出は、税理士法改正が成立して、使途を失った資金が残っていたことからされたものとも考えられるが、パーテイ券と後援会費については、実際に参加した者の参加費用の半額を負担したものであり、陣中見舞はいずれも税理士による後援会に対し、足代を出したというものである。いずれにせよ、これらの支出は全体として異例の部類に属し、本件決議当時の大分県税政の実態を示すものではない。
[84] 本件決議当時における大分県税政は、政治献金とは全く無縁であった。
[85] 鹿児島県税政は、昭和54年に、会費として、山崎武三郎後援会50万円、宮崎茂一後援会9万円、山崎武三郎後援会3万円、寄附として、宮崎茂一後援会100万円、山崎武三郎の会50万円、第一政治研究会100万円、長野祐也の会20万円、新風政経研究会50万円、村山喜一後援会20万円、小里貞利後援会50万円、保岡興治150万円の支出があり、昭和55年にパーテイ券として、山崎武三郎後援会10万円、寄附として、内外政治経済研究会30万円、川原新次郎10万円、宮崎茂一後援会30万円、長野祐也の会10万円、村山喜一後援会10万円、小里貞利後援会10万円、日本地域開発研究会30万円を支出している。
[86] 鹿児島県税政においても、昭和53年の本件決議当時、全く政治献金をした実績はなく、実態として政治献金をする団体ではなかった。
[87] しかし、鹿児島県税政は、他の県税政とは異なり、昭和54年度から年間1人2万4000円の会費の徴収を開始し、会費を納入しない者は会員ではないとして、政治献金を含む政治活動を積極的に行うようになっている。この年の同県税政のパーテイ券及び寄附の合計金額は602万円であるが、その原資は、控訴人からのささやかな寄附ではなく、同県税政の会費収入である。すなわち、鹿児島県税政では、控訴人の鹿児島支部から550万円を借り入れ、これと同年の会費収入320万円とを右寄附等の原資としているのであり、この借入金は昭和56年1月14日に400万円、同年8月21日に150万円と、いずれも会費収入を原資として返済されている。昭和55年分で見ると、その年の鹿児島県税政の収入は、繰越金303万3190円、会費483万2000円等合計869万7029円であるが、同年のパーテイ券、寄附の合計150万円はやはり会費収入を原資として行われていることが分かる。
[88] 宮崎県税政は、昭和52年にパーテイ券として、大原一三後援会7万円、江藤隆美のつどい実行委員会5万円、自民党宮崎県支部6万円の支出があり、昭和53年にパーテイ券として大原一三後援会2万円の支出があり、昭和54年にパーテイ券として大原一三後援会15万円、陣中見舞として江藤隆美後援会10万円、堀之内久男後援会10万円、小山長規後援会5万円、宮崎如水後援会10万円の支出があり、昭和55年にパーテイ券として江藤隆美のつどい事務局10万円、自民党県連支部連合会10万円を支出している。
[89] 宮崎県税政は、設立から本件決議までの間にパーテイ券費用を支出した唯一の県税政であるが、それも7万円、5万円、6万円というものであって、実際に参加した者の参加費用と思われ、政治献金というよりはむしろ交際費用として把握すべきである。
[90] そうすると、昭和53年の本件決議当時においては、宮崎県税政もまた政治献金をすることを常態としていたものではない。
[91] なお、被控訴人は、本件特別会費の配布時期を問題とし、ことに第2回の配布が日税政の政治献金の時期と同時期にされていることを強調するが、この配布は、その時々の必要に応じ、正副会長会に諮って決めるのであり、熊本、鹿児島の各県税政への第2回目の配布は昭和54年9月13日と14日にされているが、宮崎県税政への第2回配布は同年7月12日となっており、熊本、鹿児島両県税政への配布時期と異なり、日税政の献金時期とも一致していない。このことは、右各県税政への配布が日税政との連絡の下にされたものではなく、控訴人のその時々の判断によることを裏付けるものである。
[92] 以上南九各県税政の実情をみてきたところによると、南九各県税政にあっては、本件決議当時、推薦と陳情のみを運動の手段としていたにすぎない。後日作られた税理士による後援会の運動にしても、これら後援会が作られ、あるいはこれら後援会を支持することが、従来から行ってきた推薦行為と対会員の関係で大きく隔たることはないのである。また、その当時、南九各県税政が政治献金をすることを常とし、南九各県税政に資金を供与すれば、その資金が政治献金の資金とされるおそれがあったというものでもない。

五 本件決議と控訴人の権利能力との関係について
[93] 公益法人の中でも、会員資格を同業者に限定し、会員の共通の利益を擁護又は増進することを主要な目的の一つとしている団体においては、公益を目的とし、あるいは公益に資することを目的とすると同時に、同業者に共通の社会的、経済的利益を追求することも団体の重要な目的となっている。
[94] このような一連の団体を準公益法人と呼ぶならば、税理士会もかかる意味で準公益法人の中に含めることができる。日税連及び傘下の各税理士会の税理士法改正に関する要求は、税理士の右に述べた職能団体的性格が顕著に現れており、右要求は税理士会の本来の目的である税理士業務の改善、進歩に直接かつ密接に関連するものであり、税理士法改正の諸要求を掲げて税理士改正運動を行うことは、税理士会設立の趣旨、目的にそうものであるというだけでなく、税理士会の使命であるといっても過言ではなく、税理士法改正運動は、控訴人の目的遂行上正に直接必要な行為であった。
[95] 日税連及び税理士会の税理士法改正の要求は、立法機関の法律改正によらなければならないから、税理士法改正運動は必然的に政治活動的性格を帯びることになる。
[96] しかし、政治活動と呼ばれるものの範囲は広範にわたり、その手段、態様も多岐にわたっており、政治的色彩の濃淡も様々である。昭和53年4月14日に決定された運動計画大綱は、政府対策、国会、政党対策、関係職域団体対策、報道、言論界、納税者対策、会員対策について詳細に定めているのであるが、その活動は、いわゆる政治活動に該当すると思われるものがほとんどである。
[97] 税理士法の改正を目的とするこれらの政治活動は、税理士法改正運動の手段として相当であり、日税連及び各税理士会がこれらの政治活動を行い得ることは常識的に見て十分首肯し得るところであって、これらの政治活動は当然控訴人の目的の範囲内であると考えられる。
[98] 南九各県税政の規約は、「本連盟は税理士の社会的・経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度ならびに租税制度を確立するため必要な政治活動を行なうことを目的とする。」と定めており、各県税政が政治活動を行うことを目的とする団体であることは明らかであるが、同時にその行う政治活動は、税理士の社会的地位、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度並びに租税制度を確立することを目的とするものである。
[99] したがって、南九各県税政の行う政治活動の目的は、特定の内閣、特定の政党、特定の公職の候補者を支持し、又はこれに反対するとか、あるいは特定の内閣、特定の政党の主張する国政に関する重要な政策及びその実施を支持し、あるいはこれに反対するといったような税理士制度や税理士の業務に関係のない政治的主義、主張を実現しようとするものではない。
[100] 南九各県税政の行う政治活動の目的は、税理士の地位の向上及び民主的税理士制度の確立等で、控訴人の目的と共通し、これを補完するものである。
[101] このような状況下において、控訴人が税理士法改正運動のための資金として、南九各県税政に寄附をすることは、控訴人の税理士法改正運動の一環を成すものであり、控訴人の目的遂行上直接必要な行為として、控訴人の権利能力の範囲内であることは明らかである。
[102] 昭和55年法律第26号による改正前の税理士法1条及び現行税理士法1条に定められている税理士の使命及び職責にかんがみると、時代の推移に応じ、納税義務者である国民の権利、利益を擁護し、納税義務の適正な実現を図るために、税理士制度を改正すべき必要を生じた場合には、税務に関する専門家の団体である控訴人において税理士法改正のための努力をすべきは当然のことであり、改正の必要を広く社会に訴え、かつ、立法機関に働きかけるといった運動を行うことは、社会一般からも期待され、要請されるところであり、控訴人の目的と共通の目的実現のために政治活動を行う南九税政に対し、寄附をすることもまた、控訴人の社会的役割を果たすものとして、社会通念上、期待ないし要請されているものといって差し支えない。
[103] 右のとおりであるから、控訴人の南九各県税政に対する税理士法改正運動のための資金の寄附は、控訴人の目的遂行上間接的にも必要な行為として、控訴人の権利能力の範囲内に属するものといえる。

六 本件決議と思想、信条の自由について
[104] 被控訴人は、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、南九各県税政へ寄附することは、南九各県税政の組織、沿革、活動歴、当時の動き、日税政等との関係、日税政等の動き、日本の金権的政治過程等、当時の控訴人をめぐる客観的状況に照らし、税理士法改正等に反対の意思表示をしていた会員にとっては、一定の政治的立場、並びに特定政党、特定政治家に対する支持の表明を強制するに等しく、思想、信条の自由を侵害するもので許されないと主張する。
[105] しかし、控訴人は、一定の政治的立場に立ったという事実はなく、また、一定の政党、政治家を支持しているものでもない。控訴人が税理士法改正運動に要する資金を南九各県税政へ配布することと控訴人の会員に一定の政治的立場並びに特定政治家に対する支持の表明を強制するに等しくなることとの因果関係の経路は不明であり、税理士法改正に反対の意見を有する会員は、控訴人の南九各県税政への寄附によって、いつ、いかなる理由によって一定の政治的立場、並びに特定政治家に対する支持の表明を強制されたに等しいものになるかも明確ではない。
[106] また、被控訴人の昭和55年6月21日付け控訴人に対する弁明書によると、被控訴人が本件特別会費を納入しない理由は、当会の特別会費は、賄賂性政治献金の資金源として準備されたもので、南九各県税政を結成する目的は、日税政への献金トンネル会社的のものを作る目的だから、これへの献金は許されないというものであった。
[107] これは、特別会費が控訴人から南九各県税政へ、そして南九税政から日税政へという経路で流れ、特定政党、特定政治家へ賄賂として寄附されるという趣旨である。
[108] しかし、本件特別会費徴収後のその流れを見れば、被控訴人の弁明書の記載の事項が単なる憶測にすぎなかったことが明らかであり、控訴人から被控訴人が属する熊本県税政に流れた分は、昭和53年は25万円で、支出は大会費のみであり、昭和54年の支出の主要なものは大会費用であり、他に税理士による野田毅後援会に5万円の支出があるがこれは本件特別会費からの支出ではなく、日税政から送金されたものである。

七 控訴人が役員選挙において、被控訴人を選挙人名簿に登載せずに選挙を実施したことについて
[109] 控訴人が、昭和54年5月1日に実施された控訴人の理事及び監事の選挙に先だって、被控訴人を選挙人名簿に登載せず、被控訴人には同選挙につき選挙権及び被選挙権がないものとしたのは、控訴人の役員選任規則6条2項2号によるもので、被控訴人が本件特別会費の納入をしなかったことが、同条項の「選挙の年の3月31日現在において本部の会費を滞納している者」に該当するからであり、その後の選挙に際しても右同様の扱いをしたものである。控訴人の役員選任規則によれば、会費滞納者は、もともと選挙権、被選挙権を有しないのであって、権利を剥奪されたというものではない。したがって、これは制裁措置というべきものではない。
[110] そして、会費滞納者であるかどうかは極めて客観的に、かつ、一義的に認定できることであり、選挙管理委員会が会費滞納の存否の確認をして、選挙人名簿を作成する。この間に、選挙管理委員会が選挙権、被選挙権の有無を審査することもないし、理事会の承認を経由するわけでもなく、会長は右選挙人名簿の作成に関与せず、また関与することはできない。
2 控訴人の役員選任規則の合理性
[111] 会費の納入が会員の基本的義務であることからすれば、金額の多寡にかかわらず選挙権、被選挙権を付与しないという考え方には十分な合理性がある。すなわち、会費は、税理士会の存立の経済的基盤を成すものであり、会費の納入がなければ、税理士会の維持、存続もないのである。
[112] 一方、会費未納者には、選挙権、被選挙権が付与されないのみで、会員の税理士業務の遂行はもとより、税理士会から便宜を受ける権利である会議に出席する権利、文書送付を受ける権利、施設を利用する権利等には、何らの影響もない。そして、会則52条には、やむをえない事情により会費の負担に耐えない者には、会費の免除の措置があり得る旨明定されているのである。
[113] 控訴人の役員選任規則に十分な合理性が認められることは、同趣旨の規則が第二東京、大阪、名古屋、沖縄、栃木、金沢、富山の各弁護士会において採用されているところからも裏付けられる。
3 通知、弁明の機会の付与について
[114] 控訴人は被控訴人に対し、昭和54年3月7日付けで、「会費納付について」と題する書面を送付している。これは、控訴人の役員選挙の実施に先だち、会費滞納者に対し、慣例的に送付する文書であり、これには、滞納に係る会費の明細と3月31日現在の滞納者には役員選任規則6条2項の規定によって選挙権、被選挙権がないこととなる旨が明記されている。
[115] この書面は、明らかに事前の通知に該当するものであるし、このような事前の通知がされているということは、少なくとも実質的な意味での弁明の機会も被控訴人に与えられていたことを示している。

八 被控訴人が当審において追加した請求原因(被控訴人の当審における主張の七)に対する答弁
[116] 控訴人が昭和62年、平成元年、平成3年の各役員選挙において、被控訴人を選挙人名簿に登載せずに選挙を実施したことは認め、その余は不知。

[1]第一 控訴人は税理士法の規定に基づき設立された法人であること、被控訴人は、昭和36年12月11日税理士となる資格を取得し、昭和37年11月税理士の登録をし、控訴人の会員となり、現在に至っていること、昭和53年6月16日控訴人の第22回定期総会において、本件決議(引用の原判決摘示の請求原因三5)がされたこと、本件決議は、税理士法改正運動に要する特別資金とするため各会員から特別会費として金5000円を徴収する、その使途は全額南九各県税政へ会員数を考慮して配布する、というものであったこと、被控訴人が右決議に基づく特別会費5000円を納付していないことを理由として、控訴人が、昭和54年、昭和56年、昭和58年、昭和60年、昭和62年、平成元年、平成3年の各役員選挙において、被控訴人を選挙人名簿に登載せず、かつ、その選挙人名簿により選挙を実施したことは、いずれも当事者間に争いがない。
[2] 被控訴人は、政治団体である南九各県税政への寄附は控訴人の目的の範囲外の行為であり、したがって、本件決議は控訴人の目的の範囲外の行為を内容とするもので、無効であると主張するところ、《証拠略》によれば、南九各県税政は政治資金規正法にいう政治団体であることが認められる。一方、昭和53年当時施行されていた税理士法(昭和53年法律第82号による改正前のもの。以下「旧税理士法」という。)においては、税理士が税理士会に入会し、あるいは退会するのは税理士の自由であり、入会、退会は税理士の届出による旨が定められていた(49条の7)ものの、税理士であっても税理士会に入会していないと、税理士業務を行ってはならない旨が定められていた(52条)から、当時においても、税理士会はいわゆる強制加入団体であったことは明らかである。
[3] ところで、旧税理士法は、49条において、「税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」と定めているが、他方、49条の12に、「税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」との規定を置いている。また、昭和31年法律第165号による改正により新設された旧税理士法49条の2の規定に基づいて制定され、大蔵大臣の認可を受けた控訴人の会則(原判決別紙(3))は、第2条に、その目的として、右に掲げた旧税理士法49条と同旨の定めを置き、第3条にはその事業の範囲を掲げ、同条1項3号には「税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に関して税務官公署と連絡協議すること。」と、同項5号には「その他本会の目的を達成するため必要な事項を行うこと。」との定めがあり、更に同条2項には、「本会は、(中略)税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について調査研究を行い、必要に応じ、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申する。」との定めがある。これら諸規定のほか、控訴人の法人としての性格にかんがみると、控訴人が、税理士に関する制度について調査、研究を行い、税理士制度に関する税理士法の規定について改正の必要があるとする場合や、その改正が現実の課題となっている場合に、求める方向への法改正を権限のある官公署に建議するほか、税理士業務の改善、進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、控訴人の目的の範囲内であり、法律上許容されているというべきである。したがって、右の目的にそった活動をする団体が控訴人とは別に存在する場合に、控訴人が右団体に右活動のための資金を寄附し、その活動を助成することは、なお控訴人の目的の範囲内の行為であると考えられる。そして、《証拠略》によれば、熊本県税政の規約(原判決別紙(7))3条は、同県税政の「目的」として、「本連盟は税理士の社会的・経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度ならびに租税制度を確立するため必要な政治活動を行なうことを目的とする。」と定めていることが認められるところ、弁論の全趣旨によれば、南九各県税政の各規約にも、右と同文の規定の存することが認められるので、南九各県税政は、控訴人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であるということができる。したがって、控訴人が右団体の活動を助成するためにこれに対して寄附を行うことは、なお控訴人の目的の範囲内の行為であるというべきである。
[4] もっとも、南九各県税政の右定めには「政治活動」という文言があり、また、南九各県税政が政治資金規正法にいう政治団体であることは、前記認定のとおりであるが、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を標ぼうして活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもないから、南九各県税政の行う活動が政治活動であることや、それが政治資金規正法上の政治団体であることをもって、これに対する寄附が控訴人の目的の範囲外で、法律上許容されないものとはいえないと考えられる。

[5] ところで、被控訴人は、南九各県税政は、特定候補、特定政党に対する政治献金を、政治資金規正法を潜脱して行うために設立された政治団体であり、その活動の実態は、選挙の都度、特定候補者、特定政党に政治献金をすることを常態としていたものであるから、本件決議は、特定政党、特定政治家への政治献金を目的として、本件特別会費を徴収するものにほかならず、この点において、本件決議は控訴人の目的の範囲外の行為を内容とするもので無効であると主張する。
[6] 《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。
[7] 昭和44年11月8日、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として南九税政が設立された。原判決別紙(6)記載の、南九税政の規約4条(2)には、「本連盟は各県毎に県支部を設けることができる。」との規定があるが、県支部は設置されないままであった。
[8] 昭和50年7月に政治資金規正法が改正され、同法22条の2により、何人も、各年中において、政党及び政治資金団体以外の同一の者に150万円を超えて政治活動に関する寄附をしてはならないとされた。
[9] 昭和51年2月5日開かれた日税政の幹事会において、政治資金規正法が右のとおり改正されたことにかんがみ、従来の単位税政連の下に、都道府県別に独立した税政連を作ったほうがよいのではないかとの提案がされ、その規約案の説明がされたが、その後、同年7月2日鹿児島県税政、同月8日宮崎県税政、同月21日大分県税政、同年8月9日熊本県税政がそれぞれ設立された。
[10] 同年6月23日控訴人の第20回定期総会において、請求原因三2記載のとおりの議案が議決され(争いがない。)、控訴人は、右決議により徴収した特別会費470万円のうち446万円を南九各県税政に、5万円を南九税政に寄附し、14万9120円を次年度へ繰り越した。
[11] 熊本県税政は、150万円の寄附を受け、南九税政に106万4000円を寄附し、大分県税政は、108万5000円の寄附を受け、南九税政に74万2000円を寄附し、宮崎県税政は、73万円の寄附を受け、南九税政に53万5500円を寄附し、鹿児島県税政は、114万5000円の寄附を受け、南九税政に79万4500円を寄附した。
[12] 南九税政の昭和51年中の収入は、個人からの寄附24万円、法人その他の団体からの寄附189万7000円、政治団体からの寄附313万6000円で、支出のうち、日税政への支出は、会費として40万円、分担金として40万円、20万円、313万6000円、合計金413万6000円であり、南九税政は南九各県税政から寄附を受けた合計金313万6000円を全額、南九税政を単位税政連として組織されている日税政へ分担金として納付した。
[13] 右の事実に照らすと、南九各県税政は、日税政を構成する単位税政連である南九税政が、控訴人から受ける年間150万円を超える寄附を、政治資金規正法が定める枠内で処理することができるようにすることにその設立の直接的な動機があったものと認めることができる。
[14] しかしながら、他方、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
[15] 前記の昭和51年6月23日の控訴人の第20回定期総会における特別会費5000円の徴収に関する議案には、徴収の理由として「日税政より南九税政あて税理士法改正特別募金として会員1人当り金1万円の特別募金の要請があったが、この資金の緊要性に鑑み、」という文言があったが、本件決議の議案では、徴収の理由としては「税理士法改正運動資金の緊要性に鑑み、」という文言となっている(引用の原判決摘示の請求原因三の2及び5《いずれも争いがない。》のうち、各議案についての記載中にそれぞれ「緊急性」とあるのは、いずれも右説示のとおり「緊要性」の誤記と認める。)。そして、控訴人においては、本件特別会費を特別会計をもって処理し、本件決議当時の特別会計予算案では、特別会費収入を5000円の969名分の484万5000円とし、南九各県税政へ全額を寄附することとしていた。
[16] その後、昭和54年6月20日の控訴人の第23回定期総会に提出された特別会計収支決算書には、昭和54年3月31日までに南九各県税政に計101万3000円を配分し、405万3430円を次年度に繰り越した旨記載され、また、昭和55年6月19日の第24回定期総会に提出された決算書には、昭和55年3月31日までに南九各県税政に計195万6000円を配分し、227万7380円を本年度剰余金とする旨記載され、昭和56年6月19日の第25回定期総会に提出された決算書には、昭和56年3月31日までに南九各県税政に計202万8000円を配分し、27万3799円を本年度剰余金とする旨記載されていた。
[17] なお、昭和54年3月31日現在において、本件特別会費は、27名分13万5000円が未納付であった。
[18] 他方、南九各県税政の昭和53年から昭和55年までの間の収支の状況は、次のとおりである。
[19](1) 熊本県税政は、
ア 昭和53年8月2日控訴人から25万円の寄附を受け、前年からの繰越金47万3987円、その他の収入5571円を合わせた合計72万9558円から、大会費、旅費に17万8410円を支出し、55万1148円を翌年に繰り越し、
イ 控訴人から昭和54年1月25日に33万円、同年9月13日に64万円、同年同月28日に25万円の寄附を受け、同年10月9日南九税政から5万円の寄附を受け、前年からの繰越金55万1148円、その他の収入7109円を合わせた182万8257円から、同年8月20日税理士による野田毅後援会へ5万円を寄附し、大会費、旅費に14万4415円を支出し、163万3842円を翌年に繰り越し、
ウ 控訴人から昭和55年6月6日に38万1000円、同年9月5日に25万円の寄附を受け、前年からの繰越金163万3842円、その他の収入3万5381円を合わせた230万223円から、同年6月26日南九税政へ16万6500円を寄附し、事務所費、大会費、旅費に35万1320円を支出し、178万2403円を翌年に繰り越した。
[20](2) 大分県税政は、
ア 昭和53年8月2日控訴人から25万円の寄附を受け、前年からの繰越金29万2778円、その他の収入3748円を合わせた54万6526円から、同年11月18日政経文化パーテイ実行委員会に会費として3万円を支出し、旅費、印刷費等に18万4720円を支出し、33万1806円を翌年に繰り越し、
イ 控訴人から昭和54年1月26日に23万円、同年9月13日に44万8000円、同年同月28日に25万円の寄附を受け、前年からの繰越金33万1806円、その他の収入4567円を合わせた126万4373円から、事務所費、大会費、旅費等に31万8505円を支出し、94万5868円を翌年に繰り越し、
ウ 控訴人から昭和55年中に64万920円の寄附を受け、前年からの繰越金94万5868円、その他の収入1万2048円を合わせた159万8836円から、同年4月18日後藤正夫を励ます会にパーテイ券として30万円、同年6月9日羽田野忠文後援会に陣中見舞として10万円、同日風雪近代政経研究会に陣中見舞として10万円、同年7月31日に風雪近代政経研究会に後援会費として20万円、同年12月5日文ちゃんと語る船上パーテイ本部にパーテイ券として8万円、同年6月21日南九税政に負担金として11万5000円を支出し、大会費等に58万1730円を支出し、12万2106円を翌年に繰り越した。
[21](3) 宮崎県税政は、
ア 昭和53年8月2日控訴人から25万円の寄附を受け、前年からの繰越金14万2350円、その他の収入877円を合わせた39万3227円から、同年1月11日役員の政経会出席費として1万円、同年9月4日大原一三後援会にパーテイ券として2万円を支出し、印刷費、委員会昼食代、旅費、借入金返済として29万3788円を支出し、6万9439円を翌年に繰り越し、
イ 控訴人から昭和54年1月26日17万1000円、同年7月12日33万円、同年同月28日25万円の寄附を受け、前年からの繰越金6万9439円、その他の収入7万6429円を合わせた89万6868円から、同年8月24日大原一三後援会にパーテイ券として15万円、同年9月13日陣中見舞として江藤隆美後援会に10万円、堀之内久男後援会に10万円、小山長規後援会に5万円、宮崎如水会に10万円を各支出し、総会費、旅費に17万6340円を支出し、22万528円を翌年に繰り越し、
ウ 控訴人から昭和55年6月9日21万9000円、同年9月5日25万円の寄附を受け、前年からの繰越金22万528円、その他の収入8万1476円を合わせた77万1004円から、同年4月8日江藤隆美のつどい事務局にパーテイ券として10万円、同年5月15日自民党県連支部連合会にパーテイ券として10万円を支出し、印刷費等に8万9340円を支出し、48万1664円を翌年に繰り越した。
[22](4) 鹿児島県税政は、
ア 昭和53年8月2日控訴人から25万円の寄附を受け、前年からの繰越金52万1187円、その他の収入7299円を合わせた77万8486円から、事務所費、旅費に14万5645円を支出し、63万2841円を翌年に繰り越し、
イ 控訴人から昭和54年1月25日に28万2000円、同年9月14日に53万8000円、同年同月28日に25万円の寄附を受け、日税政から同年6月30日53万1360円、同年11月30日15万円の寄附を受け、また、同年中に南九州税理士会鹿児島県支部から550万円の借入れをし、会費収入320万1000円、その他の収入5万8969円、前年からの繰越金63万2841円を合わせた1114万4170円から、南九税政へ同年2月24日46万2000円、同年4月7日16万5000円、同年5月24日16万5000円の各寄附、同年8月6日山崎武三郎後援会費パーテイ券として50万円の支出、同年9月14日宮崎茂一後援会へ100万円、山崎武三郎の会へ50万円、第一政治研究会へ100万円、長野祐也の会へ20万円、新風政経研究会へ50万円、同月15日村山喜一後援会へ20万円、小里貞利後援会へ50万円、同月16日保岡興治へ150万円の各寄附をし、同年12月25日宮崎茂一後援会費パーテイ券として9万円、山崎武三郎後援会費パーテイ券として3万円の支出をし、旅費、大会費、会議費に129万8980円を支出し、303万3190円を翌年に繰り越し、
ウ 控訴人から昭和55年6月9日50万8000円、同年9月5日25万円の寄附を受け、会費収入483万2000円、その他の収入7万3839円、前年からの繰越金303万3190円を合わせた869万7029円から、同年6月9日井上吉夫後援会に10万円、内外政治経済研究会に30万円、川原新次郎に10万円、宮崎茂一後援会に30万円、長野祐也の会へ10万円、同月10日村山喜一後援会へ10万円、小里貞利後援会へ10万円、日本地域開発研究会へ30万円の各寄附をし、南九税政へ会費として同月26日14万500円、同年10月24日6万4000円を支出し、同年12月3日山崎武三郎後援会へパーテイ券として10万円を支出し、経常経費、旅費、会議費に42万1540円を支出し、657万0989円を翌年に繰り越した。
[23] 右の事実によれば、本件決議がされた昭和53年から税理士法の改正があった昭和55年までの3年間に、控訴人が南九各県税政に寄附した金員は、計746万7920円で、南九各県税政の収入は、右寄附金を含めて2352万9895円であり、南九各県税政は、右収入から、政治家の後援会等にパーテイ券、寄附、陣中見舞等として、また、南九税政へ負担金等として、1038万8000円を支出し、事務所費、大会費、旅費等として418万4733円を支出し、895万7162円を昭和56年に繰り越したことが認められる。
[24] そして、《証拠略》によれば、本件決議当時における控訴人の会員は974名であることが認められるから、控訴人の会員全員が本件特別会費を納付した場合の総額は487万円となる。
[25] 右認定の南九各県税政の収支の状況に照らすと、本件特別会費は、南九各県税政が政治家の後援会等に支出した1038万8000円の中に含まれた分もあると疑う余地が全くないわけではないが、さりとて、控訴人が本件特別会費として徴収して南九各県税政に寄附した金員が、南九各県税政が政治家の後援会等にパーテイ券、寄附、陣中見舞等として、また、南九税政へ負担金として支出した右1038万8000円に含まれていたことを示す直接的な証拠はなく、反面において、南九各県税政は、本件特別会費による寄附収入分を、事務所費、大会費、旅費等の経費に使用し、残余分があった県税政は、これを昭和56年に繰り越したと推認することも可能である。
[26] そして、本件決議の議案における、「税理士法改正運動資金の緊要性に鑑み」という文言や、《証拠略》によって認められる本件決議の議案を控訴人の第22回定期総会に提出することを可決した昭和53年5月22日開催の控訴人の理事会における審議の状況からすれば、本件特別会費の徴収は、年来の税理士法改正運動が最終段階に至ったことに伴う南九各県税政における大会費、旅費等の経費の増大に対処するためのもので、実際上も、その使途に用いられたと見る余地が多分に存する。
[27] ことに、前記のとおり、本件特別会費は、本件決議当時の控訴人の会員全員が納付したとしても総額487万円であり、これを単純に4等分して、昭和53年又は昭和54年の単年度にすべて南九各県税政に配布したとしても、1県税政当たり121万余円で、月額にしてほぼ10万円であることを考えると、本件特別会費は、本件決議の議案の文言等からうかがわれるとおり、大詰めにきた税理士法改正運動のために、大会費、旅費等の経費が不足することのないようにとの考慮から徴収の決議がされたとみることがむしろ事実に符合するというべきである。
[28] したがって、本件決議は、本件特別会費をもって、南九各県税政を通じて特定政党、特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものであるとの被控訴人の主張は、これを肯認するに足りる証拠が十分でないといわねばならない。被控訴人主張に係る南九各県税政の設立の経緯やその活動状況、本件決議の前後における日税政の活動状況等を検討し、参酌しても、右認定、説示を左右するに足りない。

[29] 以上のとおりであるから、本件決議は、控訴人の目的の範囲外の行為を内容とするもので、無効であるとの被控訴人の主張は採用することができない。
[30] 被控訴人は、本件決議は、税理士法改正運動に反対の意見を有する被控訴人に協力を強制するものであるから、憲法が保障している思想、信条の自由を侵害するもので、公序良俗に反すると主張する。
[31] しかしながら、控訴人は、当時、前記のとおり法律上強制加入団体とされていたが、会としての意思の決定については、会員の全員一致の意見によるべきことを定めた法律の規定はなく、旧税理士法49条の2第2項により、会議に関する規定は税理士会の会則の定めるところによる旨が定められており、控訴人の前記会則27条は、総会の議決について多数決制度を採用している。
[32] ところで、多数決制度は、それにより団体の意思決定がされた場合、原則として、少数意見者は自己の思想、信条に反しても多数意見による意思決定に従わなければならないことを前提として存在するものであるから、控訴人が総会における会員の多数決による決議により税理士法改正運動を推進する旨決定した場合、被控訴人が右運動に反対であることをもって、直ちに右決議は被控訴人の思想、信条の自由を侵害するとして公序良俗に反するものとし、これを無効とすることはできないというべきである。
[33] もっとも、ある団体がその意思決定につき多数決原理を採用し、これによる多数意見が当該団体の目的の範囲内の活動にかかわるものであっても、多数意見が一般通念に照らし明白に反社会的な内容のものであるとか、多数意見による意思決定に従わざるを得なくなる少数意見者の立場が、社会通念に照らして是認することができないほど過酷であるような場合には、右意思決定を、公序良俗に反するとして無効とする余地があり、あるいはまた、多数意見による活動の内容・性質と構成員に求められる協力の内容・程度・態様等との兼ね合いから、構成員の協力義務の範囲に限定を加える必要がある場合もあると考えられる。しかし、本件決議は、その内容が反社会的であるというべき余地はないし、本件決議の結果として被控訴人に要請されるところは、金5000円の拠出のみにとどまるもので、本件決議の後においても、被控訴人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動等を行うことについて、何らかの制約を受けるような状況もないことを考えると、本件決議の結果、被控訴人が社会通念上是認することができないような不利益を被るものではなく、また、右説示に照らし被控訴人が本件決議に従うことに限定を加えるのを相当とすべき特段の事情も認められない。

[34] さらに、被控訴人は、本件決議は、被控訴人に特定の候補者及び政党への寄附を強制するものであるから、被控訴人の政治的思想、信条の自由を侵害するもので、公序良俗に反し、無効であると主張する。
[35] しかしながら、本件決議は、明示的にはもちろん、黙示的にも、特定の候補者又は政党への寄附を目的としたものと認めるに足りる証拠が十分でないことは、前記第二の二において説示したとおりである。
[36] もっとも、本件決議は、少なくとも南九各県税政に、その活動のための経費に充てるため、本件特別会費を寄附することを内容とするものであり、他方、本件特別会費により経費の支弁を受けた南九各県税政は、支弁を受けた分によってではないにせよ、特定の政治家の後援会に寄附をする等の活動をしたことは前記認定のとおりである。
[37] ところで、南九各県税政が特定の政治家の後援会等に寄附をすると、その寄附は規約3条にいう目的の遂行として行われた場合であっても、その政治家にとっては経済的援助となるから、南九各県税政は付随的にその政治家の一般的な政治的立場ないし主義、主張をも支援する活動をしたという結果を多少とも生じることは否定することができない。
[38] しかし、右の結果はあくまで付随的なものであることは明らかであり、本件特別会費の拠出が特定政治家の一般的な政治的立場の支援となるという関係はうえんかつ希薄であるといえるから、南九各県税政が右のような活動をしたことは、いまだ、被控訴人に本件特別会費の拠出義務を肯認することが、被控訴人の政治的思想、信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情には該当しないというべきである。

[39] また、被控訴人は、本件決議は政治資金規正法22条の3、22条の6、22条の7の趣旨に違背し、あるいは本件特別会費が贈賄資金性を有すると主張する。しかし、控訴人が政治資金規正法22条の3にいう国から補助金等の交付決定等を受けた法人と同視すべきものとは認められないし、また、本件特別会費徴収の趣旨が、南九各県税政を通じて政党、政治家に献金をすることにあったことを認めるに足りる証拠がないことは前記説示のとおりである。さらに、本件決議により控訴人の会員から本件特別会費を徴収することが、同法22条の7にいう不当にその意思を拘束する方法による寄附のあっせんに当たるものとは認められず、また、本件特別会費が贈賄資金性を有するものであるとの被控訴人の主張も採用することができない。
[40] 控訴人が、第一記載の各選挙に先だち選挙人名簿を調製した際、被控訴人が本件特別会費を納付していないことを理由として、各選挙人名簿に被控訴人を登載しないで各選挙を実施したことは、第一記載のとおりである(控訴人の執った右各措置を、以下「本件各処分」という。)。

[41] 被控訴人は、本件決議は無効であって、被控訴人は本件特別会費の納入義務を負わないから、控訴人がした本件各処分は違法であると主張するが、本件決議を無効とすべき理由のないことは前記説示のとおりであり、被控訴人は本件決議に基づき、控訴人に対し、本件特別会費を納入する義務を負うというべきである。

[42] そこで次に、被控訴人の、本件各処分は控訴人の会則に違反する違法行為である旨の主張について検討する。
[43] 本件各処分は、控訴人の役員選任規則(原判決別紙(4))6条2項2号の定めに基づいてされたものであることは、当事者間に争いがない。
[44] 被控訴人は、控訴人が役員選任規則6条2項2条の定めに基づき本件各処分をするに当たっては、上位規範である控訴人の会則47条の適用があり、同条4項所定の通知及び弁明の機会を与える手続を要すると主張する。
[45] しかし、前記のとおり旧税理士法49条の2第2項が、税理士会の会則には役員に関する規定を記載しなければならないと定め(この点については現行税理士法においても同じ。)、控訴人の会則は、14条2項において、役員の選任に関する事項は別に定めると規定する一方、61条において、14条2項に規定する事項は総会の議決する規則をもって定めると規定しており、右役員選任規則は、右会則の規定を受け、かつ、これに則り制定されているものと解されるので、控訴人の役員選任規則は、控訴人の会則の規定の一部を補完するものであって、会則と役員選任規則との間に上位規範、下位規範の関係はないと考えられる。そして、役員選任規則6条2項1号は、会則47条の規定により処分を受けた者は選挙権及び被選挙権はないものとすると規定しているのであるが、この規定により選挙権及び被選挙権がないとの取扱いをする場合にも再び会則47条4項所定の手続を経ることを要するものとは考えられないことにも照らすと、役員選任規則6条2項2号の規定も、同項1号の規定とともに、会則47条4項所定の手続を経ることなく、選挙権及び被選挙権がないとの取扱いをする場合を規定したものと解するのが相当である。

[46] なお、被控訴人は、本件特別会費は、役員選任規則6条2項2号にいう本部の会費に該当しない旨、また、昭和55年10月13日施行の新会則69条及び新役員選任規則6条2項2号にいう特別会費に該当しない旨主張するが、本件特別会費が旧役員選任規則6条2項2号の本部の会費に該当しないと解すべき理由は見いだし難く、また、右新会則69条及び新役員選任規則6条2項2号は、被控訴人の指摘、援用に係るその文言に照らすと、旧会則50条3項、旧役員選任規則6条2項2号の規定の文言をより精ちにしたにすぎないもので、控訴人の会費に通常の会費と特別会費とがあり、役員選任規則6条2項2号にいう会費は、双方を含むものである点に変更はないものと解される。
[47] したがって、控訴人が被控訴人に対して本件各処分をしたことが、被控訴人に対する不法行為を構成するとの被控訴人の主張は、採用することができない。

[48]第五 以上の次第で、被控訴人の控訴人に対する、昭和53年6月16日の控訴人総会決議に基づく金5000円の特別会費の納入義務のないことの確認を求める請求及び控訴人の不法行為を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がなく、右確認請求及び損害賠償請求の一部を認容した原判決は失当であって、本件控訴は理由がある。
[49] よって、本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消し、被控訴人の右取り消しに係る請求及び附帯控訴により当審において拡張した請求をいずれも棄却し、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法96条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

  福岡高等裁判所第4民事部
    裁判長裁判官 奥平守男  裁判官 石井義明
  裁判官牧弘二は、転補につき署名押印することができない。
    裁判長裁判官 奥平守男

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