司法書士法事件 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第一審判決 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
司法書士法違反被告事件 福島地方裁判所郡山支部 平成5年(わ)第118号 平成8年4月25日 判決 ■ 主 文 ■ 理 由 ■ 参照条文 被告人を罰金25万円に処する。 右罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は、被告人の負担とする。 被告人は、司法書士会に入会している司法書士ではなく、かつ、法定の除外事由がないのに、業として、別表記載のとおり、平成2年11月16日から平成5年1月25日までの間、前後17回にわたり、福島県郡山市桑野2丁目1番4号所在の福島地方法務局郡山支局ほか3か所において、有限会社甲商事代表取締役Aほか17名の各嘱託を受け、同人らの代理人として、有限会社変更(取締役の住所変更)登記等17件の登記申請手続を行い、もって司法書士の業務を行ったものである。 一 公訴権濫用 [1] 本件捜査の端緒となった福島県司法書士会の被告人に対する告発は、かねて被告人が同司法書士会に対し民事事件を提起したことに対する報復目的でなされたもので、公益性がない上、右告発の根拠とされた資料は、不動産登記法及び商業登記法等の法令に定められた登記申請書等の閲覧手続によらず、法務当局が国家公務員法100条に違反して職務上知ることのできた秘密を同司法書士会に漏らした違法収集証拠に基づくものである。また、被告人に対しなされた逮捕・勾留及び接見禁止処分は、いずれも正当な理由や必要性がなく違法である。右のような違法収集証拠に基づく告発、違法逮捕・勾留・接見禁止処分による捜査・取調の結果なされた本件公訴提起は、著しく正義・公平の観念に反し、公訴権の濫用に該当するものであるから、公訴を棄却すべきである。 二 司法書士法19条1項(25条1項)の違憲性 [2] 司法書士法19条は、同法2条と相俟って登記業務を司法書士にほぼ独占させるものとするが、登記申請行為の中には極めて定型的で容易なものも含まれるところ、同法19条1項が定型的で容易な登記申請書類の作成までも禁じているとすれば、憲法13条(自己の関連業務、多少未知の分野に挑戦するなどし、自己研さんし、未知の領域、高峰を極めたいという幸福追求権)、18条(右幸福追求を抑えることに対する苦痛・拘束からの自由)、22条1項(職業選択の自由)に違反し無効である。 [3] また、他の法律で登記申請代理を業として行うことが許されている場合や正当な業務に付随して登記申請代理を行う場合には、司法書士法19条1項(25条1項)の罰則規定に触れないものと解されているところ、一般人が右法規に直面したとき、他の正当業務に付随する場合の意義の不明確さ等から、自己の行為が同条項により処罰されるか否かの限界確定を行うことは極めて困難であって、憲法31条により保障されている罪刑法定主義の明確性の基準に反し、文面上違憲無効といわざるを得ない。仮に、文面上違憲無効とみることができなくても、定型的に予想している害悪発生の相当の蓋然性が客観的に存在しない本件事案に同条項を適用する限りにおいては、適用違憲になると解すべきである。 三 いわゆる付随行為論 [4] 登記申請の前提となる登記原因証書は、行政書士法1条1項所定の権利義務に関する書類にあたり、その作成は、行政書士に専属する法定固有の業務であり、これに付随して登記申請代理を行うことは正当な職務の範囲内にあり、また、行政書士法は、司法書士法19条1項但書の「他の法律」に該当し、かつ、行政書士法1条及び1条の2に定める「官公署」には、法務局が格別除外されておらず、同法1条の2所定の「提出手続代行」には登記代理申請も含むと解されることから、被告人の行った登記申請代理行為は、正当な業務行為である。したがって、被告人の本件行為は、犯罪の成立を妨げる理由として、法定の除外事由がある(構成要件不該当性)、あるいは刑法35条の正当業務行為(違法性阻却事由)に該当する。 四 錯誤等 [5] 行政書士である被告人の登記申請代理行為につき前記付随行為論を適用できないとしても、被告人としては、長年の研究により、正当な行政書士業務に付随して登記申請代理を行う場合には、法務省民事局長の通達もあること等から、これが許されるものと確信していたものであるから、故意がない、違法性阻却事由に錯誤がある、あるいは違法性の意識の可能性すらなかったものである。 五 業務性の不存在 [6] 本件公訴事実(17件の登記申請代理行為)のうち14件(別表1ないし9、11ないし14、16)が親戚・友人の仕事を手伝った案件である上、その余の3件も信頼のある取引先からの紹介であっていわゆる一見の客が皆無であること等の事情のもとでは、特別な人間関係、個々的な特殊事情から被告人が登記申請代理行為を引受けたものといえ、社会生活上の相互扶助的協力の範囲にあると評価できるのであり、「業務として行った」との構成要件を欠くものである。 六 その他の主張 [7] その他にも、被告人又は弁護人は、本件事案のもとではそもそも可罰的違法性がないなどの主張をしている。 [8]一 前掲関係証拠及びBの検察官調書(甲7)によれば、本件告発端緒及び捜査の経過について次のとおりの事実が認められる。 [9] 福島県司法書士会は、昭和63年に実施した実態調査を通じて、被告人による何件かの登記申請代理行為を発見したので、被告人に対しその旨照会した。ところが、被告人は、登記申請代理行為は誰でもできるという趣旨を記載した内容証明郵便を同司法書士会に送付し、同司法書士会らを被告とし名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟を当支部に提起した。その後、平成2年12月6日に被告人敗訴の第一審判決が言い渡され、被告人の控訴及び上告がそれぞれ棄却されて平成4年3月に右判決が確定した。ところで、同司法書士会が右第一審判決日以降を対象とした実態調査を行った結果、平成4年7月6日までの間に被告人が9件の登記申請代理行為をしていたことが判明した。そこで、同司法書士会は、理事会の決議を経て被告人を福島地方検察庁郡山支部に司法書士法違反の事実で告発した。 [10] なお、福島県司法書士会による実態調査(登記申請書等の閲覧)は、非司法書士による登記申請業務を排除して登記業務の適正円滑を図り、国民の登記に関する信頼を高めるなどの公益目的から、各司法書士会の行う実態調査に協力することを促す旨の法務省民事局の各法務局に対する依命通知に基づいてなされたものである。 [11] 右告発を受けた同検察庁は、捜査を進め、被疑事実に関する被疑者の取調べはもとより、関係人全員の取調べが未了の状態であったこと等から、被告人を逮捕した上、郡山簡易裁判所に対し勾留請求し、同裁判所から接見禁止決定とともに勾留状の発付を得て被告人を勾留し、被疑者、関係人等の捜査を遂げ、被告人を本件司法書士法違反の事実で起訴した。 二 判断 [12] 右認定事実によると、前記福島県司法書士会の登記申請書等の閲覧(実態調査)は、登記に関する事項及び司法書士に関する事項を所掌事務としている法務省(法務省設置法3条7、8号参照)が非司法書士による登記申請業務を排除して登記業務の適正円滑を図り、国民の登記に関する信頼を高めるなどの正当な公益目的で発せられた依命通知に基づいて行った行政共助としての適法な措置に基づくものであって、かかる福島県司法書士会による閲覧行為が違法ということはできない。また、本件告発は報復目的で公益性がないと弁護人らは主張するが、同司法書士会は、被告人が同司法書士会らを被告とした民事裁判において一審で敗訴しながらあえて登記申請代理行為を継続して行っていたこと等から、地方裁判所段階であれ一定の判断が出されながら、その判断や同司法書士会の警告を無視した被告人の行動を悪質なものとして告発に踏み切ったものと認められ、本件告発の端緒、経緯等が、民事裁判提起に対する報復目的のものということはできない。 [13] また、本件捜査の経過等に照らすと、逮捕状請求時及び勾留請求時において、確かに、被告人は、被疑事実の外形的事実を認めていたが、この段階では被疑事実に関する被告人自身の詳細な取調べはもとより、関係人が多数であり、その全員の取調べが未了の状態であったため、被告人が関係人との通謀等による罪証隠滅のおそれがあったと認められるので、本件逮捕及び勾留並びに接見禁止決定を違法ということはできない。 [14] なお、弁護人は、この点に関し、逮捕状を発付するなどした簡易裁判所判事にはいわゆる法曹資格がないので、憲法33条の「権限を有する司法官憲」に該当せず、本件逮捕・勾留等は、違憲である旨主張するが、憲法上、下級裁判所の裁判官の任命資格については、最高裁判所の指定した者の名簿によって、内閣がこれを任命すると規定するほか、何らの資格試験や修習制度を経ていることを要件としておらず、独自の見解というほかない。また、司法書士法違反の裁判例としては、罰金事例が1つ2つ存在するに過ぎない点に鑑み、刑事訴訟法217条を類推適用して被告人を逮捕すべきではなかった旨主張するが、同条は、軽微事件と現行犯逮捕の規定であって、本件に類推適用すべきというのも独自の見解というほかない。 [15] そうすると、弁護人らの公訴権濫用に関する主張は、いずれも理由がなく、公訴棄却の判決を求める主張は、採用することができない。 一 司法書士法19条1項の立法趣旨 [16] 司法書士法19条1項は、他の法律に別段の定めある場合を除いて(同条1項但書)、非司法書士に同法2条に規程する業務を行うことを禁止している。司法書士は、他人の嘱託を受けてその者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成したり、登記又は共託に関する手続を代理したりすること等を業とする者であり(同法2条)、その業務は、公共性を有することはもとより、それを適正円滑に遂行するためには相当の法律的専門知識を必要とするので、司法書士試験に合格するなどして、登録を受け、かつ司法書士会に入会しなければ行うことができないとしたものと考えられる。しかも、司法書士に登録後においても業務の適正円滑な遂行のための指導,研修などを行う必要があるところ、司法書士会は、会員の指導、連絡機関として設立されたものであり、その目的を達するためには司法書士が司法書士会の会員にならなければ種々の支障が生じることから、司法書士会に入会している司法書士以外の者の司法書士業務を禁じているものと解される。 [17] これを本件で問題となっている登記申請手続に関して言えば、登記が直接排他的支配権である物権や商取引上の重要事項に関して公示機能等を有し、その業務の適正円滑な遂行が国民の権利義務に多大な影響を及ぼすなどの公共性があることから、登記業務を適正円滑に行わしめて国民の登記に対する信頼を高めるために、同法19条1項は、同法2条1項1号と相俟って、原則として登記申請代理行為を登記等の専門家として社会上期待される司法書士に集中させたものと解される。 二 司法書士法19条1項(25条1項)の合憲性 1 憲法13条、18条、22条違反の主張について [18] 司法書士法19条1項は、公共性の強い登記業務を適正円滑に遂行せしめ、国民の登記に対する信頼性を高めるという立法目的を実現するために、原則として非司法書士が登記申請代理行為を業務とすることを規制したものであるが、右立法目的は、正当かつ合理的であることはいうまでもない上、その立法目的を実現する手段も不合理なものとはいえない。仮に、弁護人らの主張する権利・利益が憲法上保障される法的権利であるとしても、無制限に保障されるものではないのであるから、同法19条1項が憲法13条、18条、22条1項に違反するとの弁護人の主張は、採用できない。 2 憲法31条違反の主張について [19] 確かに、弁護人らの主張のとおり、弁護士や公認会計士等が他の法律で登記申請代理行為を行うことが許される場合や正当な業務に付随して登記申請代理行為を行うことが許される場合があり、このような場合には、司法書士法19条1項の罰則規定に触れないものと解することができる。しかしながら、これは、あくまで例外的かつ限定的なもので、広範囲に許容されるものではなく、同法19条1項は、原則的に非司法書士による登記申請代理行為を業務とすることを一律に禁止するものであって、社会通念に照らし、一般人が右法規に直面したとき行為規範として明確性を欠くことはない。また、弁護士や公認会計士等の業に就く者は一定の場合に登記申請代理行為を行うことが可能であるが、それらの者は、一定の専門性を有し、その専門性ゆえに登記申請代理行為が許容される範囲につき十分判断可能であるので、同法19条1項(25条1項)が構成要件において明確性を欠くことはない。 [20] したがって、同法19条1項(25条1項)が憲法31条に反するとの弁護人の主張は、採用できない。 [21]一 被告人・弁護人は、前記のとおり、登記原因証書作成に付随して登記申請代理を行うことは正当な職務の範囲内にあり、司法書士法19条1項に反しない旨主張するので、司法書士及び行政書士の各制度の沿革等に遡って検討することとする。 二 司法書士及び行政書士の各制度の沿革 [22]1 現在の司法書士及び行政書士の前身となる代書人は、司法省の職務制度について定めた司法職務定制(明治5年8月3日太政官無号達)により制度化され、その職務については、「各区代書人ヲ置キ各人民ノ訴状ヲ調成シテ其詞訟ノ遺漏無カラシム」(42条第1)と規定された。また、訴状等の記載事項について定めた訴答文例(明治6年7月17日太政官第247号)の3条及び34条は、訴状及び答書の作成には代書人を用いるべき旨を定めていたが、明治8年には本人が自署することも認められた。 [23]2 ところで、旧登記法(明治19年8月13日法律第1号)は、登記事務を治安裁判所が取り扱うものと定めた。その後、裁判所構成法(明治23年4月21日法律第6号)により登記事務は区裁判所において非訟事件として取り扱うものとされたが、日本国憲法の施行に伴い、登記事務が行政事務として行政組織に所属するものとされた昭和22年以降、登記事務が裁判所から分れたものである。 [24]3 明治30年代後半ないし明治40年ころ、各府県令により、代書人が他人の訴訟行為に関与すること等を取り締まる規則が制定されたが、右規則の1つである代書人取締規則(明治36年8月24日大阪府令第60号)では、代書人の定義として「他人ノ委託ニ依リ料金ヲ受ケ文書ノ代書ヲ業トスル者」とされた。また、大阪地方裁判所が定めた区裁判所及出張所構内代書人取締規則(明治40年6月28日制定のものを大正4年4月16日改正施行したもの)において、 「代書人ハ代書業務ノ附随トシテ左ニ記載シタル事項ニ限り之ヲ為スコトヲ得と規定され、代書人は、代書業務に附随して登記申請につき代理をなすことができると考えられていた。 [25]4 大正8年、司法代書人法(大正8年4月10日法律第48号)が制定され、「本法ニ於テ司法代書人ト称スルハ他人ノ嘱託ヲ受ケ裁判所及検事局ニ提出スヘキ書類ノ作成ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ」と定められ(1条)、司法代書人による登記申請書類の代書は、裁判所に提出する書類ということで業務として是認された。また、司法代書人となるには地方裁判所長の認可が必要とされ(4条)、また、司法代書人は、地方裁判所に所属し(2条)、地方裁判所長の監督を受けるものとされた(3条1項)。 [26]5 大正9年、代書人規則(大正9年11月25日内務省令第40号)が制定され、「本法ニ於テ代書人ト称スルハ他ノ法令ニ依ラスシテ他人ノ嘱託ヲ受ケ官公署ニ提出スヘキ書類其ノ他権利義務又ハ事実証明ニ関スル書類ノ作製ヲ業トスル者ヲ謂フ」と定められ(1条)、代書人となるには警察官署の許可が必要とされ(2条)、警察官署は代書人の事務所を臨検する権限が与えられた(13条)。 [27] さらに、同規則17条に「本令其ノ他ノ法令ニ依リ許可又ハ認可ヲ受ケスシテ代書ノ業ヲ為シタル者ハ拘留又ハ科料ニ処ス」と規定されて、所属裁判所長の認可を受けずに司法代書人の業務を行った場合には処罰の対象となった。そして、大正10年には、司法代書人の認可を得ていない者が司法代書人の業務範囲に属する事項を業として行った事案について、その者が代書人規則による代書人の許可を受けていると否とに関係なく、代書人規則17条違反の罪が成立する旨を述べた大審院裁判例がある(大正10年5月25日宣告・大審院刑事判決録第27輯第13巻484頁、487頁)。 [28]6 昭和10年、司法代書人の呼称が司法書士と改められた(昭和10年4月4日法律第36号)。 [29]7 昭和25年、司法書士法が全部改正され(昭和25年5月22日法律第197号)、「司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を代つて作成することを業とする。」(1条1項)と定められ、また、「司法書士でない者は、第1条に規定する業務を行つてはならない。但し、他の法律に別段の定がある場合又は正当の業務に附随して行う場合は、この限りでない。」とされ、非司法書士の取締規定(19条1項)及びこれに違反した場合の罰則規定(23条1項)が設けられた。 [30] 昭和26年、司法書士法の改正により、19条1項のうち「又は正当の業務に附随して行う場合」が削除された(昭和26年6月13日法律第235号)。 [31] 昭和42年、司法書士法の改正により(昭和42年7月18日法律第66号)、1条1項が「司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成し、及び登記又は供託に関する手続を代わつてすることを業とする。」と改正され、司法書士の職務は、単なる登記申請書の代書だけでなく、嘱託人からの委任を受け、完結するまでの一連の手続を代理して行うことができる旨明記された。 [32] さらに、昭和53年、司法書士法の改正により(昭和53年6月23日法律第82号)、目的規定が設けられるとともに(1条)、業務については 「司法書士は、他人の嘱託を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。と定められ、登記手続代理の趣旨が明確化された。 [33]8 他方、代書人規則は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律(昭和22年4月18日法律第72号)により、昭和22年12月31日限りで失効し、以後、各都道府県の条例により代書人の業務の規制がなされていたが、昭和26年、行政書士法が制定され(昭和26年2月22日法律第4号)、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。」(1条1項)と定められた。また、「行政書士でない者は、第1条に規定する業務を行うことができない。但し、他の法律に別段の定がある場合及び正当の業務に附随して行う場合は、この限りでない。」との非行政書士の取締規定(19条1項)及びこれに違反した場合の罰則規定(21条)が設けられた。 [34] 昭和39年、行政書士法の改正により(昭和39年6月2日法律第93号)、行政書士が業として作成する書類に「実地調査に基づく図面類」が含まれることが明文化され(1条1項)、また、行政書士法19条1項のうち「及び正当の業務に附随して行う場合」が削除された。 [35] 昭和55年、行政書士法の改正により(昭和55年4月30日法律第29号)、「行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、同条の規定により行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続を代わって行い、又は当該書類の作成について相談に応ずることを業とすることができる。」(1条の2)とされたが、非行政書士が1条の2規定の業務を行うことを取り締まる規定は設けられなかった。 三 判断 [36]1 以上の沿革、就中、裁判所が取り扱うものとされていた当初の登記事務について、提出すべき書類の代書及び申請の代理は、代書人の業務とされていたこと、司法代書人法及び代書人規則の規定により、登記申請書の作成は裁判所に提出すべき書類の作製として司法代書人の業務とされ、非司法代書人が登記申請書を業として作成することは代書人規則による取締りの対象となったこと、かかる司法代書人法及び代書人規則の制定により、司法代書人とそれ以外の代書人の職務範囲は、代書する文書の提出先が、裁判所であるかその他の官公署であるかにより区別されるに至ったこと、司法書士法は、従前の司法代書人法及び代書人規則と同様に、登記申請書の作成を司法書士の業務とし、また、非司法書士による登記申請書作成業務を取締りの対象としてきたこと、昭和26年の司法書士法改正により司法書士法19条1項但書が削除されたこと、他方、登記申請手続の代行ないし代理は、従前これを司法書士又は行政書士の業務として定めた法律は存在しなかったが、昭和42年の司法書士法改正により、司法書士の業務として明文化されると同時に非司法書士による登記申請手続の代行ないし代理業務が取締りの対象となったこと、行政書士の作成した書類の提出手続代行ないし代理は、昭和55年の行政書士法改正により行政書士の業務とされたが、対象となる書類は行政書士法1条の規定により行政書士が作成することができる書類に限定されているところ、前記のとおり登記申請書作成業務は、司法代書人法及び代書人規則の制定以来、従前の代書人の職務領域から分れて司法代書人の業務とされ、代書人が右業務を行うことは取締りの対象とされており、これは昭和25年の司法書士法全部改正以降も変りはなく、さらに現在、行政書士に登記申請書作成及び申請代行業務を認める明文が存在しないこと等に照らすと、法は、代書人として起源の同じ司法書士と行政書士が原則としてその職域や守備範囲を分業化した上で、専門的知識の必要な登記等に関する業務に関しては、原則として司法書士の排他的専門領域としていったものとみることができる。 [37]2 このように、沿革上、登記に関する業務は、行政書士ではなく、司法書士に集中されたものとみられるが、その理由について考えるに、そもそも登記業務は、その公共性や技術性等からして、相当の法律的専門知識を有する者が取扱うことが公共性の強い登記業務を適正円滑に行わしめ、登記に対する国民の信頼を高めるという登記制度に内在する要請であるところ、司法書士は、資格取得に不動産登記法や商業登記法といった登記の専門知識の修得を必須とするなど登記に関し相当の専門知識を持つために登記業務を扱う十分な適格性を有する。これに対して、行政書士は、前身こそ司法書士と同じくするものの、行政書士制度の沿革等に照らし、主に行政官庁への提出書類の作成、私人間の権利義務関係や事実証明文書の作成等を専門とすること、行政書士としての業務を行うに当たっては、不動産登記法、商業登記法の知識が必ずしも必要的ではないこと、行政書士は、社会通念上、必ずしも登記等の専門家とはみなされていないこと等に照らせば、行政書士に対し登記業務を許さないことが不合理とはいえないのである。 [38]3 そうすると、司法書士法19条1項、2条は、行政書士による登記申請代理ないし代行行為を一律に禁止しているものと解されるから、同法19条1項、2条が行政書士法1条2項の「他の法律」に該当し、したがって、いかなる場合(定型的で容易な作業とみられるもの)であっても行政書士が業として登記申請書の作成及び登記申請手続の代理ないし代行を行うことは、司法書士法19条1項(25条1項)に違反するものといわざるを得ない。 [39] よって、弁護人らの主張するいわゆる付随行為論は、採用できない。 [40] 弁護人は、被告人の故意等の主観面に関し、事実(違法性阻却事由のものも含む。)の錯誤により(構成要件的あるいは責任としての)故意を阻却する、あるいは被告人には違法性の意識の可能性がなかった旨主張するが、本件事案において、もともと被告人は犯罪事実に関する事実(違法性阻却事由に関する事実も含む。)の錯誤は認められず、単に自己の登記申請代理行為が法律上許されていると確信しているに過ぎないもので、被告人には、いわゆる法律の錯誤があるのみと解される。 [41] そこで検討するに、行政書士自体が業として登記申請書を作成することや登記申請代理行為をすることを認める通達は見い出すことができない上、被告人は、福島県司法書士会に対する民事訴訟の経緯等を通じて、行政書士が登記申請代理行為を業として行うことが許されるか否かについて争いがあることを十分承知するなどしており、少なくとも違法性の意識の可能性がなかったとは認められない。また、被告人においては、違法性があることを認識しながら、むしろ自己の行為を正当化するために独自の理論を研究し展開していったとみることもできる。 [42] したがって、被告人において法律の錯誤等により故意を阻却する旨の弁護人の主張は採用できない。 [43] (証拠略)によれば,被告人が別表記載の各登記申請代理行為を約2年2か月もの間にわたり多数の者から依頼を受けて合計17件にも及ぶ登記申請手続を行ったこと、被告人が本件各登記代理手続を行うに至る経緯には、本来司法書士の業務である登記申請代理手続を行政書士の業務として取り込んでその職域を拡大しようという点に主たる動機があったと考えられること、別表番号14及び16の事案を除き被告人が登記申請代理手続を行って報酬を得ているのが明確であること等の事実が認められ、これらの事実に照らすと、本件公訴事実全体をみた場合、被告人の本件登記申請代理行為は、社会生活上の相互扶助的協力の範囲内の行為ということができず、被告人において行政書士として反復継続の意思を持って別表記載の各登記申請手続を行ったものと認めるのが相当である。 [44] よって、業務性を欠くとの弁護人の主張は、採用できない。 [45] さらに弁護人は、本件について司法書士法19条1項、25条1項を適用することは適用違憲となる旨及び被告人の行為は可罰的違法性を欠く旨主張する。 [46] しかし、前記認定のとおり、本件は約2年2か月もの間にわたり多数の者から依頼を受けて合計17件もの多数回の登記申請手続を行ったというのであって、違法性の程度が著しく軽微であるとはいえず、被告人が積極的に右業務の宣伝をしていないこと、地縁・血縁社会の範囲内での業務であること、依頼人に損害を与えていないこと等の弁護人の指摘の事情が、司法書士法19条1項、25条1項の罪の可罰的違法性を失わせる事情となるものではなく、また、本件に右各条文を適用することが適用違憲となるわけでもない。 [47] よって、その余の弁護人らの主張も採用できない。 罰条 包括して司法書士法25条1項、19条1項本文 刑種の選択 罰金刑選択 労役場留置 平成7年法律第91号による改正前の刑法18条 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文 出席検察官 中村信雄 出席弁護人 永井修二(主任)、岡田滋 裁判長裁判官 高橋隆一 裁判官 山田耕司 裁判官高梨直純は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 高橋隆一 別表
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。 二 裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成すること。 第19条第1項 司法書士会に入会している司法書士でない者(協会を除く。)は、第2条に規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 第25条第1項 第19条第1項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 第1条 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。 2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。 第1条の2 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、同条の規定により行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続を代わつて行い、又は当該書類の作成について相談に応ずることを業とすることができる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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