群馬司法書士会事件
控訴審判決

債務不存在確認請求控訴事件
東京高等裁判所 平成8年(ネ)第6080号
平成11年3月10日 民事第11部 判決

控訴人(被告) 群馬司法書士会
右代表者会長    宮前有光
右訴訟代理人弁護士 戸所仁治
        同 大熊政一
        同 山内一浩
        同 今村核

被控訴人(原告) 新井芳廣 ほか6名
右被控訴人7名訴訟代理人弁護士 樋口和彦
              同 大谷豊
              同 平山知子

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

一 控訴人
 主文同旨

二 被控訴人ら
 控訴棄却
[1] 本件の事案の概要は、次のとおり当審における当事者双方の主張を付加するほかは、原判決書の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決書3頁10行目から27頁3行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
[2] 本件3000万円の寄付の目的は、義援金ではなく、司法書士制度の制度目的を実現するための拠出金であり、司法書士会の目的の範囲内のものである。

[3] 司法書士は、国民の権利保全という公益に寄与する使命を有する専門家(プロフェッション)である(司法書士法1条、1条の2)。それゆえにこそ、法は、専門家としての資格制度を設け(同法3条から5条の2)、各司法書士に司法書士会の設立義務を課して司法書士会を強制加入として(同法6条、14条)、専門家としての司法書士に司法書士業務を独占させた(同法19条)。こうした公益性の高さゆえに、業務独占とまさに裏腹の関係として、法は司法書士に国民から嘱託を受けた事件の受託義務を課した(同法8条)。そして、各司法書士会の報酬規則は、法1条及び8条の精神を受け、災害を受けた者もしくは資力がない嘱託者に対する報酬減免規定を設けている。そして阪神淡路大震災という未曾有の大災害により同地方の司法書士システムが壊滅的打撃を受けたところ、司法書士は公務員ではなく国家から自立して存立している以上、自らの力で一丸となって復興を果たし、法が定める職責及び使命(1条)を達成しなければならなかった。

[4] 金3000万円の拠出の目的がかかるものであり、単なる慈善や施しのための義援金でなかったことは、次のような事実から明らかである。
[5](一) 平成7年1月17日に発生したマグニチュード7.2の地震は、阪神淡路地区を中心に死者6426名、重軽傷者4万3722名の人的被害と、一部損壊を含む倒壊住宅48万8222棟、全焼住宅6418棟という甚大な被害を与えた。これに伴い司法書士会が開設した法律相談所には市民からの法律相談が殺到し、とりわけ平成7年1月27日から2月28日までは、連日1日100件をはるかに超える件数の相談があり、平成7年1月から同8年12月までの間に、兵庫県内における相談件数は1万8660件、相談場所数は3238、総相談員数は5701(うち他会が1561)であった。兵庫県司法書士会は、こうして殺到する法律相談に応じ、国民の権利の保全に寄与する職責と使念を果たさんと全力を尽くしたが、兵庫県司法書士会自体、被災地区に事務所を有するほぼ全員が被害を受けたといっても過言でなく、死亡した会員は2名、建物が全壊した会員87名、半壊した会員160名という状況であった。そこで、兵庫県司法書士会は、平成7年1月30日に日本司法書士会連合会、各ブロック会、各単位会宛に「…会員2名の死亡をはじめ、事務所の崩壊、自宅の崩壊等多大な被害が発生しており、事務所内の破損等は被災会員のほとんどが被っている状態であります。会員の事務所、自宅の回復並びに今後の先行きを考えますときに多大の不安があり、特に経済面における不安は特別であります。本会といたしましては、このような悩みを持つ多数の被災会員を抱えておりますものの、司法書士の職責に鑑み近日中に市民法律相談を電話にて受け付ける予定であり、司法書士制度の存続にかけて頑張る所存でありますので、連合会及び各単位会におかれましても、出来る限りのご支援をいただきたく特別の配慮を心よりお願いする次第であります。…」等と記載した報告書を提出している。
[6](二) 群馬司法書士会(控訴人。以下「控訴人会」ともいう。)は、平成7年1月24日、本部長を井上会長(当時)とし、副会長3名、常任理事5名、その他の委員5名を構成員とする阪神大震災群馬支援対策本部を設置した。控訴人会は、兵庫県会から支援の呼びかけがなされた1月30日に第1回対策本部会議を開き、義援金300万円(内訳は100万円は任意の募金によりまかない、200万円を控訴人会の一般会計から支出。)を兵庫県会に送ることを決定した。そして、その翌日の1月31日に現地調査のため特派員2名を派遣し、併せて「義援金」300万円とワープロ4台を兵庫県会に寄贈した。
[7](三) 2月4日に第2回阪神大震災群馬支援対策本部会議が開かれたが、現地調査をした特派員からの被害の甚大さの報告を受け、被災地区における多くの司法書士事務所の倒壊等により司法書士制度の機能が麻痺しており、これから復興に向けて司法書士システムの回復が益々重要となることが予測されるので、「司法書士制度の一部でその機能が喪失したとき、機能している組織が、現状の自らの機能を損なわない限りで、あらゆる支援をする必要がある。したがって、被災地における司法書士システムの回復は、群馬会の責務である。その意味で群馬会は義援金としてではなく、システム回復のための負担金(拠出金)として支出を考えるべきである。」との基本方針が決定され、それに基づき本件拠出金の支出が決定された。
[8](四) 2月8日の理事会では、(三)の第2回対策本部で採択された基本方針を了承し、2月25日に臨時総会を開催すること、及び臨時総会での議案である臨時総会議案第1号を決定した。
[9] 右議案の提案理由の中には「被災司法書士事務所を一日も早く復興し、被災地区の法律需要に応じ得る体制を整えることが緊急の課題となっている。」「被災会員の復興に要する費用の詳細は、…最低1人当たり数百万円から千万円を超える資金が必要になると思われる。」との記載もあり、これらの表現を切り離して読むと、本件拠出金が被災した個々の司法書士の「事務所の復興」「事務所の再建」のために分配されるものと受け取ることが全く不可能とまでは言い切れないであろう。
[10] しかし、「提案の理由」の「第2、復興は司法書士全体の責務」には「いうまでもなく、司法書士とは1つの社会システムであり、『公器』である。このシステム=『公器』を維持するのは、司法書士が制度として負っている責務である。被災地区で起きている事態は、システムが機能しなくなり、公器が壊れている状態であるといえよう。」「このような事態に立ち至ったとき、システムを回復し、公器を修復するのは、制度全体の責務である。被災した司法書士会・司法書士の機能を回復し、司法書士の存在目的である『国民の権利の保全』の為に活動し得るようにするのは、司法書士組織全体の責務、組織を構成する一人一人の司法書士の責務である。」と記載されているように、控訴人会は、ここで「司法書士」という言葉を単に活動が出来なくなってしまい慈善や同情の対象となる「同業者」ととらえているのではなく、「国民の権利の保全の為に機能する社会システム」=「公器」としてとらえている。そして、「被災した司法書士会・司法書士の機能を回復し、国民の権利の保全の為に活動し得るようにする」とは「国民の権利保全への寄与を使命とする社会システムとしての司法書士が、被災地における被災市民の法的需要に対応するための活動をなし得るようにすること」を意味する。これが本件議案全体の趣旨であり、本件拠出金は被災した個々の司法書士の「事務所の復興」「事務所の再建」のために分配することを目的としたものではない。こうした観点に立って、本件議案第1号は、
「(1) 被災司法書士会・司法書士を復興させることは、全国の司法書士が制度的に負っている責務である。群馬会としてもこの責務を分担する必要がある。
(2) 責務である以上、第三者が善意に基づいて支出する『義援金』ではなく、『復興支援拠出金』として資金を拠出すべきである。」
と結論付け、義援金なら個々の被災した司法書士の生活再建のために分配されるものであろうが、本件拠出金はそうではないことを明確にしたのである。
[11](五) このように、本件拠出金が、単なる義援金でなく、被災地における司法書士制度、法律相談機能回復のためのものであることは、臨時総会開催までに各支部での支部説明会でも控訴人執行部から詳しく説明されている。
[12](六) 2月25日に臨時総会が開かれたが、井上会長の冒頭挨拶に始まって、本件決議の採択に至るまで、控訴人会執行部は、一貫して、本件金員が被災市民の法的救援に向けた司法書士の活動を支援するという目的でなされるものであることを繰り返し明確に説明している。質疑者も、被控訴人らを含めほとんどの発言者は本件金員の性格を、一般的な意味での義援金でなく、「同業者」の営業や生活再建のための資金でもなく、司法書士会1条の趣旨を被災地においても実現するための被災者の法的救援に向けて司法書士が行う活動を支援するための拠出金であることを正確に理解し、これに対する賛否を表明している。

[13] 以上のように、控訴人としては、本件決議は、被災者の法的支援に向けた司法書士の活動の支援という目的で一貫していた。そして、右拠出金が現地でどのように使われるかについては、2月8日から2月25日の総会までの間に控訴人会と兵庫県会との間で何度か意見交換、調整を行った上、臨時総会決議を受けて、平成7年3月4日に、控訴人と兵庫県司法書士会との間で寄付契約が締結された。その契約書によれば、「寄付者は寄付の目的を、『阪神大震災による被災市民等の法的救援に向けた司法書士の活動を支援する』ための拠出金であると明示し、受寄者はこの目的を了解の上、目的に沿って使用する。」(2条)と定められている。兵庫県司法書士会は、右同日である3月4日に控訴人会から寄付された3000万円を基礎として「阪神淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」設立大綱を理事会において決定した。大綱は、(基金の設置)として、「1、阪神淡路大震災の被災が広範囲に及び、その当面の対処及び復旧復興には司法書士法2条に定める事務が不可欠であるにもかかわらず、被災者は司法書士報酬を支払うことが困難であることから、被災者に対する会員の報酬の減免に充当し、もって被災者及び被災地区会員を救援し、かつ、被災市民に対する司法書士の救援活動の経費を補助するため、本会に『阪神淡路大震災被災市民等救援司法書士基金』を置くものとする。」とし、右大綱どおり、平成7年5月20日の兵庫県司法書士会総会において右基金の設置が了承された。このように設置された基金は、被災者に対する法律相談活動や報酬の減免のために、以下のように使用された。
 相談活動に対する補助
対象人員 3557名
補助金額 3594万円
 報酬減免に対する補助
申請人数 141名
減免件数 237件
補助金額 616万9407円
(いずれも平成7年4月から平成8年12月まで)

[14] 日本司法書士会連合会は、当初各単位司法書士会に「義援金」拠出をよびかけ、これに応じて各単位会も義援金を拠出した(控訴人会も義援金として300万円を拠出したことは前記のとおり。)。しかし、控訴人会の3000万円の拠出金決定に端を発し、いくつかの単位会でも義援金とは別途に拠出金を支出する旨の決定をしている。例えば、三重県会では、「復興支援拠出金」として1000万円を兵庫県会に拠出することが決議された。その後、兵庫県会の設立した前記「阪神淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」に対しては、東京司法書士会から500万円、栃木県司法書士会から合計774万円、広島司法書士会から1000万円の拠出がなされている。

[15] 日本司法書士会連合会では、平成7年6月22日、23日の第53回日本司法書士会連合会総会において阪神淡路大震災に関連し、「議案第29号 基金創設準備委員会設置の件」と「議案第32号 阪神淡路大震災に関連して日司連の対応を求める要望決議」が可決承認された。前者は、「日本司法書士会連合会は、下記の内容を目的とする基金を創設するため、速やかに、執行部内に準備委員会を設立すること。基金の目的『阪神大震災を契機として、将来予測される災害の被災者に対し、司法書士報酬の減免をなすことにより被災者を救済する。一方、基金よりその減免額を補填することにより被災地区会員を救済し、もって司法書士制度を維持するとともに、司法書士の執務機能を回復することを目的とする。』…」ことを内容とするものであり、後者は、日本司法書士会連合会に対し、阪神淡路大震災の被災者及び将来において発生する災害の被災者並びに資力のない者に対する司法書士法律扶助を裏付けるため、司法書士法律扶助基金を設置すること、右基金の設立にあわせて災害を受けた者又は資力のない者のための司法書士法律扶助に関する規定を連合会規則に明記し、次期総会において提出することを求めたものである。これら日司連決議は、控訴人会の基金をもとに兵庫県会に設置された前記「阪神淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」と同様の意図の下に「災害被災市民または資力のない市民を救援すること」を目的とする財団の設立を目的とするものであり、控訴人会が率先してなした行為は、ついに日本司法書士会連合会の総会で満場一致で支持されたといい得る。すなわち、日本司法書士会連合会は、こうした基金設置を、司法書士制度の目的そのものを遂行する活動と位置付けていることは明らかである(その後、右決議に基づき、日本司法書士会連合会内に「法律扶助司法書士基金等設立委員会」が設置され、同委員会は、平成9年2月10日、基金設置の最終答申をし、基金の規模、使途、運営などに関する大綱を定めた。)。

6 結語
[16] 以上の次第であるから、本件金員の支出の目的は「義援」ではなく、法1条の目的実現のため、司法書士の使命及び職責を遂行するためであったことは明らかである。

[17] 本件金員拠出は、司法書士会の目的の範囲内である。

[18] 司法書士会の目的は法14条に規定されるが、これは法1条を受けている。
[19] 司法書士会は、司法書士が国民に対して、法1条の司法書士の職責を果たすための手段であるから、その目的は法14条2項の文言に限定されるべきものではなく、法1条の目的によって決定されるべきものである。
[20] そして、法1条は「この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、登記、供託及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し、もって国民の権利の保全に寄与することを目的とする。」と定めているところ、司法書士制度は公益性の高い制度であり、司法書士の職務は公益性を持つことが示されている(このことの表われの一つが「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ嘱託を拒むことができない。」とする法8条であり、また、各司法書士会の報酬規定は、例外なく、災害を受けたか又は資力のない嘱託人の報酬の減免を定めている。)。
[21] ところで、法が各司法書士に司法書士会の設立義務を課し、司法書士会に日本司法書士会連合会の設立義務を課して司法書士会を強制加入団体とした(同法2条、6条、14条、17条)制度の趣旨は、国民の権利の保全に寄与する(法1条)という司法書士制度の目的を実現するためにほかならず、司法書士会及び日本司法書士連合会は、各司法書士が専門家として切磋琢磨する組織であるとともに、司法書士が個々ばらばらではなく全体としてその役割(「国民の権利の保全」)を果たすために社会に対し働きかけてゆくための組織なのである。
[22] しかるところ、先に述べたように、本件金員拠出の目的は、司法書士会が組織として法1条に規定する司法書士制度の目的を遂行し、全国の司法書士がその職責を果たすためである。具体的には、本件拠出金の使途は、法8条が司法書士に受託義務を課し、各司法書士会の報酬会則が被災者などへの報酬減免規定を設けていることに鑑み、司法書士会が被災者から殺到した法的需要に応じるために組織的に対応し、被災者から無料の法律相談に応じ、被災者に対して報酬を減免するための基金に充当することであった。これらから本件金員は、司法書士の職務活動のために支出されたものであって、直接「国民の権利の保全に寄与」することを目的としており、司法書士会の目的の範囲内であることは明らかである。

2 3000万円という金額の適正について
[23] 本件金員の3000万円という金額は、群馬司法書士会が当時有していた資産、会計規模、会員の負担能力などの点において適正であり、かつ群馬司法書士会が自らの活動に全く支障を生じさせない範囲のものとして提案された。
[24] その判断の理由として次の3点があげられる。
[25](一) 当時の控訴人会内に設置された共済特別会計には金1億円を超える金員が積み立てられており、この特別会計から貸付を受けることにより拠出のための資金を調達することが可能であった。
[26](二) 当時の控訴人会の年間予算は約9000万円であり、役員手当の減額、費用の見直し、旅費日当規定の見直しなどを行うことにより、年間200万円程度の余剰金を3年間にわたって生じさせ、これを共済特別会計への返済に充てるとしても控訴人会の事業活動に大きな支障は生じない見込みであった。
[27](三) 会員に対して、「特別負担金」の形で協力を求めることとし、受託した事件1件につき50円の特別負担金の納付を受けることにより1年800万円程度を期間3年程度で共済特別会計に返済することは可能と判断した。なお、1件当たりの平均報酬は、平成7年度においては2万1026円であり、平成8年度は2万1098円であり、負担率はいずれも0.2パーセント強に止まる。また、会員全体の年間報酬額は、平成6年度は35億0990万円、平成7年度は39億2289万円、平成8年度は41億1079万円であり、会員に対し年間800万円の負担を求めたとしても決して加重な負担でなく、十分合理性のある金額であった。
[28] そして、共済特別会計から借入れた3000万円は予定より6か月以上も早い平成9年9月4日をもって返済を完了した。このことは、前記判断が適正なものであったことをその後の経過により裏付けているというべきである。
[29] 控訴人は本件決議に強制力があると主張するが、その根拠は明らかとはいえない。
[30] 司法書士会は法定の強制加入団体である。ここにおいて、既に司法書士会の職業選択の自由は大きく制限されている。その上、司法書士会がその構成員たる司法書士に自由に義務を課すことができるとすると、司法書士業務をなそうとする者の職業選択の自由に関する人権はさらに大きく制限されることになる。そこで、法は、司法書士の司法書士会に対する経済的負担を入会金及び会費に限定し、かつ、これを法務大臣の認可を受けることを必要とする会則に定めなければならないものとして(法15条7号、9号)、司法書士会の所属司法書士に対する権限に限界を画した。したがって、会則に定められた実質的な会費(ここにいう実質的会費とは法の目的に従った会の運営・維持に要する費用でかつ会員が分担すべき負担金をいう。)でなければ、司法書士はその所属する司法書士会に対し負担義務を負わないし、このような意味の実質的会費でなければ、司法書士会はみなし脱会のような強い強制力を伴っての強制徴収はなし得ない。
[31] ところで、本件決議による負担金は、他会の会員たる被災司法書士の事務所再興に要する費用であり、「品位を保持し、司法書士業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的」とした強制加入団体たる控訴人会にあって、控訴人会の維持・運営に要する会費に該当しないことは明らかである。このことは、仮に控訴人の主張するように、本件決議による負担金が被災市民のために費消されたとしても同様である。

[32] 控訴人は司法書士を「公器」ととらえ、「公器」の一部が壊れたならばこれを修復するのは司法書士全体の責任であるとする。
[33] しかし、法は明らかに各単位法務局又は地方法務局の管轄地域毎の単位会の設立と任務を定めている(14条)のであって、他会ないし他会管轄地域の住民に対する任務を予定していない。各単位会はその所属会員の指導監督、連絡調整を任務としているのであって、他の区域の司法書士会の品位維持や他地域の住民の権利救済に責任を持つという建前になっていないのである。群馬司法書士会が何らかの機能不全を起こした場合にその会員として被控訴人らがその修復のための責務を負うことはあっても、兵庫県司法書士会の機能不全にまで法的責任を負う理由はない。控訴人はあたかも兵庫県司法書士会を右手、群馬司法書士会を左手のように例えるが、法は明らかに両会を別人格と規定しているのである。
[34] また、「義援金」と呼ぼうが「拠出金」と呼ぼうが法的性格に差異はない。兵庫県会も同会への他会からの送金をすべて「義援金」と称している。

[35] 控訴人は、「本件金員拠出の目的は、個々の被災司法書士に対する事務所復興等のために充てられることを予定したものではなく、被災市民に対し公器である司法書士制度を一日も早く復興させるためであり、法1条の司法書士制度の目的実現のためであった。」と繰り返し強調する。しかし、

[36] 第一に、控訴人は、第一審以来、答弁書等で、司法書士が国民からの信頼を得る必要があること、そのためには司法書士の生活基盤の確立が必要であること、この生活基盤の安定には兵庫会のみの力では無理であり、群馬会も協力すべきであることを述べて、明らかに、控訴人会が被災した兵庫県会の司法書士に経済的援助をすることを主張してきた。ここでは、司法書士が国民からの信頼を得るために被災市民に無料相談を提供することは全く読み取れない。答弁書では端的に「衣食足りて礼節を知るという諺の如く、生活基盤の安定なくして品位の保持は困難であり、阪神淡路大震災の被害を受けた兵庫県司法書士会の会員を支援するための拠出金の支出」と述べている。そして、臨時総会議案第1号によれば、そこでも「被災司法書士事務所を一日も早く復興し、被災地区の法律需要に応じ得る体制を整える」とするのであって「被災地区の法律需要に応ずることによって被災司法書士事務所を復興する」とは言っていない。また、右議案書提案の理由では、被災市民の概要は何ら述べられておらず、もっぱら被災司法書士の被災状況と事務所再開費用について述べられている。右提案の理由では、3000万円の算定根拠として
復興に要する費用 35億円(350名(注・被災司法書士人員)×1000万円
上記のうち半額は自己調整が可能として残り半額17億5千万円を拠出
17億5千万円÷16000(全国会員数)=約10万9000円
10万9000円×281(群馬会会員数)=3062万9000円
拠出金3000万円
という記載がされている。このことから、本件金員3000万円は被災司法書士の活動再開のための事務所再建等のために充てられることが予定されていたというべきである。臨時総会においても、被災司法書士の事務所復興に要する費用の積算の適否が繰り返し論じられている(乙8の26ないし39頁など。執行部案に賛成の会員も決議に基づく寄付金が個々の被災司法書士の援助金であることに疑いを持たずに議論をしているのである。)。
[37] たしかに、本件金員の使途、目的については本件決議時とその後の説明に齟齬があり、前者から後者に徐々にシフトしている。しかし、本件決議の効力を問題とするときは前者を前提とすべきは当然である。

[38] 第二に、「国民の権利の保全に寄与」し得る事柄が、全て司法書士会の業務対象となるのではない。法1条は、「国民の権利の保全に寄与」という目的の実現手段として、司法書士制度設立、業務の適正化、並びに登記、供託及び訴訟などに関する手続の円滑実施を定めている。他方で、法は法務局の管轄地域毎に司法書士会を設置することを定めている。したがって、法は、各司法書士会に対し、その対応する管轄地域における業務の適正化、登記、供託、訴訟等に関する手続の円滑実施に努めることを求めているのである。管轄地域外の住民の権利保全一般の義務化などは法は全く予定していない。法の目的とその実現の一手段としての司法書士会の任務は同一ではない。後者は法14条2項及び会則2条に明記されている。控訴人は法の究極的な目的と司法書士業務の適正及び司法書士会制度の目的を混同しているというべきである。

[39] 第三に、「国民の権利保全」は司法書士法に限らず憲法や法律一般の目的であって、これを法の解釈指針とすることがあり得るのは格別、ここから個別具体的国民の義務を演繹することはできない。特に、法律によって加入が強制されている団体においては、その構成員の義務の範囲は加入を強制し得る根拠から導かれるものに限られるべきである。そして、法は、登記、供託、訴訟等に関する手続を担う司法書士に対し品位を保持し業務に精通し、公正かつ誠実であることを求め(法1条の2)、このような職責を実効的に担保するために司法書士会や法務大臣の指導・監督に服すべきことを定めたのである。解説書では「会は自主的に団体的にその会員を指導育成し、会員の法令違背等の非行防止に努めさせることはもちろん、進んでその品位の保持と業務の適正改善を図らしめる措置を講ずることとした。」と解説されている。そうとすれば、司法書士はその所属する司法書士会が会員の品位を保持し、その業務の進歩改善を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務(14条2項)を行うに必要な費用について負担すべきものであって、所属司法書士に対し所属外会員や管轄地域外住民の救済のための費用負担を義務付けることはできないのである。

[40] 国民の権利を制限し、これに義務を課すことができるのは本来的に法律である。財産権については憲法29条2項がこれを明示する。従って、法律により団体加入を強制する場合は各構成員の義務もその法律で定めるべきである。もしそのような団体の内部規則で新たに義務を課し得るとすると、結果としてその義務を法律により強制することになってしまい、本来の立法権を当該団体に委譲したことになる。そのようなものは他にも多数あり得るのであり、そのことだけで会員に新たな義務を課し得るとしたのでは、法によって義務を定めるべしとする趣旨を没却してしまう。
[41] これに対し、控訴人は、法は会費等について会則で定めよとしか言っておらず、それ以外に金銭負担を強いてもよいとする。しかし、会費等については会則で定めよと法律で定めたのは、それが会員の重要な義務に関する事項だからである。会費等以外を法に規定しなかったのは、会費等以外の負担の強制を否定する趣旨だというべきである。これとは逆に、会費等以外の財産負担は法に規定していないから会が会則にもよらずに自由に定められるとしたのでは、会の存立に必須の会費等の方がそれ以外よりも厳しく規制されることになり、背理というしかない。

[42] 最判8・3・1(南九州税理士会事件)は、政治献金は個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて個人が自主的に決定すべきであるから、強制加入団体である税理士会が政治献金をすることは、法の全く予定していないところであるという。本件のような被災司法書士ないし被災住民の救援も個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて個人が自主的に決定すべき事柄であるから、司法書士会のなし得るところではないというべく、強制加入団体の構成員にかような優れて個人的決断に係る事項につき負担を強制することは許されない。そのような強制は被控訴人らの政治的信条を害し、また、世界観、人生観、主義、信条等の内心における物の見方ないし考え方に干渉し、自己の物の見方ないし考え方に反する行動を取らせるものである。
[43] このように、被災者への義援金支出をその構成員である個々の司法書士に義務付けることは強制加入団体である控訴人会のなし得るところではない。被災者への義援金支出は,これに応ずるかどうかは本来その個人の自由に委ねられている事柄であって、そもそも強制に馴染まないのである。強制加入団体自体が社交儀礼の範囲内で義援金を拠出することはあり得ようが、その資金をその構成員から強制的に徴収することは許されない。一般会費から支出すべきであるが、個々の構成員の支払った会費と右の支出に個別的具体的な関連性が特定され得るときは、実質的に義援金の強制徴収となって許されないこともあり得る。

[44] ところで、控訴人会は、平成7年2月1日、被災司法書士会に現金300万円とワープロ4台を贈与した。これが、小規模団体である控訴人会にとって社交儀礼の範囲内かどうかは議論があり得ようが、少なくとも社交上の儀礼は既に尽くしたものと評価し得よう。これに止まらず、会員1人当たり約11万円を特別に徴収して、控訴人会の年間予算の3分の1に当たる他の司法書士会と比較しても突出した3000万円もの大金を贈与することが社交儀礼の範囲内といえないことはあまりにも明らかである。因みに控訴人会は、新潟地震、北海道奥尻島沖地震、長崎県雲仙普賢岳噴火災害の大規模災害に際し、儀礼の範囲を超えて義援金を送ったことはない。また、3000万円という金額は、被災司法書士1人当たりの事務所復興費用を1000万円と想定して決定されたものであるが、控訴人会の会員自身が被災した場合でさえ控訴人会から拠出される見舞金は50万円であり(共済規則18条)、現実の運用も被災者に対して50万円が支払われているだけである。
[45] 控訴人(控訴人会)は、前橋地方法務局の管轄区域内に事務所を有する司法書士を会員として司法書士法14条に基づいて設立された司法書士会(法人)であり、被控訴人らは控訴人会の会員であること、平成7年2月25日に開催された控訴人会の臨時総会において、阪神大震災により被災した司法書士会・司法書士の復興を支援するため阪神大震災救援司法書士対策本部に「復興支援拠出金」3000万円を控訴人会から拠出することとし、右3000万円は共済特別会計から復興支援特別会計への貸付金をもって支出し、共済特別会計への返済(償還)は役員手当の減額や旅費日当手当の見直し等による一般会計からの余剰金の繰り入れと甲号事件1件につき50円の復興支援特別負担金(復興支援証紙)徴収による収入をもって充てること、右復興支援特別負担金の徴収のための特別負担金規則の改正を行うこと等を内容とした決議(本件決議)が可決されたこと、控訴人は、平成7年3月6日、兵庫県司法書士会に3000万円を送金したことは当事者間に争いがない。
[46] また、《証拠略》によれば、本件決議がされた前後の控訴人の年間予算は約9000万円であり、これまでの新潟地震や北海道奥尻島沖地震、長崎県雲仙普賢岳噴火災害等の災害に対し儀礼の範囲を超える義援金が送られたことはないこと、控訴人会の会員について火災等の被災の場合拠出される見舞金は50万円であること(共済規則18条)、兵庫県司法書士会以外の他の司法書士会から兵庫県司法書士会が設置した後記阪神淡路大震災被災市民等救援司法書士基金に寄せられた金員の額は、東京会500万円、三重県会1000万円、広島県会1000万円、栃木県会約774万円、愛知県会400万円、京都会1000万円、岡山県会100万円であること、控訴人は右3000万円を3年で償還を完了する計画で、1年につき事務経費の節約200万円、甲号1件当たりの特別負担金50円の収入800万円による償還を予定していたこと、司法書士会所属の会員の1件当たりの平均報酬は平成7年度においては2万1026円であり、平成8年度は2万1098円であることから1件当たりの負担率は約0.2パーセントであること、控訴人会所属の司法書士全体の報酬総額は平成6年度から平成8年度にかけて約40億円前後であり、右借入金の償還は予定より約半年早い平成9年9月4日をもって完了したこと、がそれぞれ認められる。
[47] 《証拠略》によれば、控訴人は会則21条1項において、「会員は次の会費を納入しなければならない。(1)経常の費用に充てるための普通会費(本件決議当時月額9000円)、(2)日本司法書士会連合会会則40条1項2号の特別会費を納入するため控訴人の総会の決議により別に定める特別会費」と定め、これらの会費の不納入者については、催告を受けた納入期日の翌日から控訴人会の会員である資格を失い、控訴人会を脱会したものとみなす旨のいわゆるみなし脱会等の規定を置き、また90条において、「会員は、連合会並びに本会の会則、規則、支部規則及び総会の決議を守らなければならない。」と会則等の一般的遵守義務を定めていること、この他に控訴人は、会館運営・会財政の安定を図り、共済事業の円滑な運営給付を実施するため、「特別負担金規則」を定め、取扱事件1件ごとに100円又は200円を控訴人が発行する証紙を貼用することにより納入させることとしている(同規則3条)ところ、本件決議(議案第3号)により特別負担金規則3条(及び8条)を改正して、「復興支援特別負担金としての金50円を加える。」こととしたが、これら証紙の不貼用者に対しては、会長からその者に対して不貼用証紙の10倍相当額を控訴人に直接納入すべき旨の催告をすることや、控訴人が別に定めた顕彰、贈呈、給付を減額し、又は適用しないことができる旨を定めるに止め(同規則6条、7条)、会費不納入者に対するようないわゆるみなし脱会の規定は設けていないこと(なお、そのほかに、会則等の遵守義務に違反した者、会費や特別負担金の怠納者に対しては、控訴人会の顕彰規則4条3号、慶弔規則7条1項1号、共済規則34条2号においても不利益な取扱いがされる旨の規定がある。)、がそれぞれ認められる。そうすると、会則で定めた会費が均等割りであるのに対し、特別負担金は負担方法ないし額が取扱事件数に応じて定められるほか不納入者に対する制裁などの諸点において若干異なる点はあるにしても、実質的には控訴人会の運営、維持のため会員が負担すべき義務があるものとしての会費に準ずる性格を有しているというべきである。
[48] 控訴人は、本件3000万円拠出の趣旨、目的は、被災した個々の司法書士の事務所などの復興のために個々の司法書士に対する分配が予定された慈善のためのいわゆる義援金ではなく、震災により麻痺状態に陥っている兵庫県会の司法書士の機能、システムを復興させ、もって被災市民の法的救援を支援するためのものであったと主張する。
[49] 前記のとおり、本件決議は、「阪神大震災により被災した司法書士会・司法書士の復興を支援するため、阪神大震災救援司法書士対策本部に「復興支援拠出金」3000万円を拠出する。」というのであり、この決議のみからでは「復興支援拠出金」の趣旨、使途目的等は必ずしも明らかではない。そして、本件決議の決議案の提案理由(平成7年2月10日ころ臨時総会の開催通知とともに控訴人会の会員に送付された。原審における証人井上松男の証言)及び本件決議の行われた臨時総会議事録によれば、本件決議案の提案理由の中には、「被災会員の復興に要する費用の詳細は(中略)、最低1人当たり数百万円から千万円を超える資金が必要になると思われる。」との記載があり、被災司法書士事務所の復興に要する費用をおよそ35億円とみて、その半額を全国の司法書士会が拠出すると仮定して控訴人会の拠出金額3000万円を試算していること等からすると、本件拠出金の使途としては、主として被災司法書士の事務所再建の支援資金に当てられることが想定されていたとみる余地がある。

[50] しかしながら、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
[51](一) 本件決議案の提案理由自体においても、被災地域に生起してくる種々の法律問題に対応すべき司法書士が適時に適切な職務活動を行い得るか否かは、被災市民の権利が保全されるかどうかに直結するところ、被災市民の実情や被災地域の状況に最も通じている当該地域の被災司法書士事務所を復興し被災地区の法律需要に応じ得る体制を整えることが緊急の課題であるとの認識の下に「司法書士とは一つの社会システムであり、「公器」である。」「システムが機能しなくなり、公器が壊れている…事態に立ち至ったときシステムを回復し、公器を修復するのは…司法書士組織全体の責務、組織を構成する一人一人の司法書士の責務である。」「群馬会としてもこの責務を分担する必要がある。」「責務である以上、第三者が善意に基づいて支出する「義援金」ではなく、「復興支援拠出金」として資金を拠出すべきである。」等の記載があること、
[52](二) 本件決議がされた臨時総会においても、執行部による提案理由説明ないし質疑に対する応答の中で「我々が3千万円を拠出するのは被災地の司法書士の機能を一日も早く回復させ、被災地域住民の公的救済を図ることのためであります。」「群馬の拠出金が被災市民を公的救済活動のための基金として、そこから司法書士の活動の費用弁償をしていく、そういった考え方でございます。」「我々が出そうとしている拠出金は全額で個々の事務所が建つとか建たないとかという問題とは違うわけで。兵庫県会が司法書士会として組織的に被災者に対して公的な救援活動をする。それは一日も早く拠出金を出さなければいけないと考えている。」等の説明がされており、平成7年2月13日の控訴人会支部長会でも同様の説明が行われて「阪神大震災群馬支援対策本部」の方針が支持されたほか(乙18)、右支部長会における決議を受けて各支部で説明会が開催されたが、同月15日の高崎支部における説明会においては「復興支援拠出金は、個々の司法書士の援助のために贈るのでなく、兵庫県が中心になって被災地における法律相談機能がマヒしているから、その回復のための拠出金である。」「義援金ならば、司法書士だけに支援するのは反対だが、法律的二次災害を防止するための司法書士機能を回復するため、司法書士制度に対しての拠出金は許されるし、拠出する責務がある。」などの説明ないし意見が出されたこと、
[53](三) 翻って、控訴人会では、阪神・淡路大地震の2日後の平成7年1月19日には合同役員会を開いて一般被災者向け義援金と、兵庫県司法書士会向け支援金の2本立てで募集することを決め、同月24日には「阪神大震災群馬支援対策本部」を設置して日本司法書士会連合会(日司連)に対して阪神大震災への司法書士会としての組織的対応を呼び掛けた意見書を提出し、同年2月1日には前記対策本部の呼び掛けと決定により控訴人会の一般会計から支出した200万円と会員からの募金による合計300万円及びハンディワープロ4台を特派会員2人の手により兵庫県司法書士会に寄贈したこと、そして、被災地の状況を目の当たりにした特派会員の報告を契機として、兵庫県会の司法書士業務の機能回復を支援する必要があるとの考え方が生まれ、すでに2月4日の対策本部の第2回会議では「被災地の司法書士システムの機能回復は群馬会の責務であり、その意味で群馬会は義援金ではなくシステム回復のための負担金(拠出金)として支出を考えるべきである。」とする考え方が確認されたこと、
[54](四) 阪神・淡路大地震発生後、兵庫県司法書士会においては「阪神大震災被災対策本部」(後に被災会員を救援する委員会と被災市民を救援する「市民救援対策部」とに分かれた。)が設置され、また1月25日の近畿司法書士会連合会緊急理事会での協議、同月30日に日司連、全国ブロック会、近司連等の組織の役員による大阪司法書士会館における協議により、全国組織としての「阪神大震災救援司法書士対策本部(後に「阪神・淡路大震災救援司法書士対策本部」となる。)が設置され、被災司法書士の救援のみならず、被災市民に対する相談活動等の救援活動を行うことになったこと(なお、本件決議における拠出金の拠出先とされた「阪神大震災救援司法書士対策本部」は、右全国組織としての対策本部と同じ呼称であるが、震災直後の混乱の中で、兵庫県司法書士会の対策本部と全国組織のそれとの役割分担等が不明確であったために表示されたにすぎないとみられ、本件決議による拠出先は、前後の経緯からして、兵庫県司法書士会であることは明らかである。)、
[55](五) 本件決議成立の前後において、控訴人会と兵庫県会との間で本件拠出金の受入れ方法等について協議があり、平成7年2月10日ころ(これは前記の本件決議案が控訴人会の会員に送付された時期と一致する。)控訴人会から本件決議案のファクシミリ送信を受けた兵庫県会において検討の結果、控訴人会からの拠出金は通常の義援金と分離して、会員が被災嘱託人に対して報酬の減免を行った場合の補填金及び被災者を対象とした相談活動に対する日当への充当に使用する方針が決められ、同月15日ころ控訴人会にその旨が伝えられたこと、したがって、本件決議案が控訴人会の会員に送付された段階ではまだ本件拠出金の拠出が決議された場合の兵庫県会の受入れ方法は確定していなかったが、2月25日の臨時総会当日の段階では、兵庫県会の受入れ方法が右の内容でほぼ固まったことを控訴人の執行部は認識していたことが窺えること、そして、本件決議の後、平成7年3月4日に控訴人と兵庫県司法書士会との間で交わされた寄付契約書では、第2条において「第2条(寄付の目的)寄付者は寄付の目的を「阪神大震災による被災市民等の法的救援に向けた司法書士の活動を支援する」為の拠出金であると明示し、受寄者はこの目的を了解の上、目的に沿って使用する。」と明記されたこと、その後兵庫県会においては、司法書士が災害の被災者に対して報酬を減免したときは補助金を交付すること、災害の市民救援活動に参加する司法書士に対して補助金を支給することを骨子とする「阪神・淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」を設置すること、その適用を平成7年1月17日まで遡及することが同年5月20日の定時総会で決議され、控訴人からの本件拠出金及び兵庫県会支出の6000万円を含む前記一で認定した各司法書士会からの拠出金合計1億3900万円余が右基金に入金されたこと、
[56] 右の経過によれば、本件拠出金の趣旨ないし目的については、本件決議案が控訴人会の会員に送付された段階では、控訴人会の執行部においてもこれが被災地の司法書士の事務所再建等のために各司法書士に配付されるものとする考え方が一部残ってはいたものの、それも個人の善意による被災司法書士個人の被害に対する義援金ではなく司法書士の公的機能の回復の必要性に着目して控訴人会として組織的に支援しようとする趣旨が表明されていたとみられるのであり、その後兵庫県会からの受入れ方法についての連絡を受けて、次第に、被災者の相談活動等に従事する司法書士ないし司法書士会への経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資したいという本件拠出金の趣旨が執行部においてもより明確に認識され、その方向で支部長会、支部説明会での説明を経て、本件臨時総会当日の説明では、かなり明確にこの趣旨が説明されて、会員にも理解されたとみるべきである。そうすると、本件決議における「阪神大震災により被災した司法書士会・司法書士の復興を支援するため」との趣旨は、以上のとおり、被災司法書士会・司法書士の個人的ないし物理的被害に対する直接的な金銭補填や見舞金の趣旨ではなく、被災司法書士会・司法書士の業務の円滑な遂行を経済的に支援することにより、司法書士会・司法書士の機能の回復に資することを目的とする趣旨のもので、その使途目的及び拠出方法の公的性格に着目していうならば、控訴人会からの「公的支援金」ともいえるものである。そして、その具体的な使用方法は挙げて寄付を受ける兵庫県司法書士会の判断運用に任せたものであるところ、前記認定の本件決議後の控訴人と兵庫県会との間の寄付契約や兵庫県会において成立した「阪神・淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」への入金は、本件決議の趣旨、目的とも何ら齟齬するものではなく、本件決議当時、被控訴人らを含む控訴人会の会員としても予測の範囲外のものであったとはいえない。
[57] 以上の認定判断の妨げとなる適確な証拠はない。

[58] 被控訴人らは、本件決議は、控訴人の目的の範囲外の行為を内容とするもので、無効であると主張するので、以下検討する。

[59] 司法書士法14条1項によれば「司法書士は、その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに、会則を定めて、1箇の司法書士会を設立しなければならない。」とされ、同条2項は「司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。」との規定を置いている。また、「司法書士会に入会している司法書士でない者は、法2条に規定する業務を行ってはならない。」(同法19条)とされている。そして、司法書士会には、所属の司法書士の法令違反行為に対する法務局長等への報告義務(法16条)及び所属の司法書士に対する注意勧告権(同条の2)、司法書士が置くことのできる補助者の員数等に関する法務局長への意見送付(規則20条)、法12条(懲戒)の規定による処分に関する司法書士の執務状況等の調査の受託(規則31条)など、司法書士の業務運営等に関し法令上の特別の権限と義務が定められているほか、司法書士の登録や変更登録は、司法書士会を経由して、日本司法書士会連合会に申請書を提出して行うことになっている(法6条、同条の2、同条の6、同条の7等)。会員たる司法書士は司法書士会の会則を遵守しなければならず(法15条の6)、司法書士会の会則では報酬等国民の利益に直接関係する事項も定めることができることになっている(法15条)。
[60] このように、司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として法律に基づいて設立を義務付けられた団体であって、司法書士はその加入が義務付けられ、その会員には実質的には脱退の自由が保障されていないことが認められる(なお、弁論の全趣旨によれば、司法書士会の制度は昭和25年の法改正により法律上の根拠をもつことになり、一定の公共的責務を負うこととされたが、当時は会に入会するかどうかは各司法書士の自由であり、会を組織するか否かも任意であったことから、会に未加入の者、いったん会に入会したものの途中で脱会する者の数も相当数に上り、このため、会は弱体化し、これらの非会員の非行については国民の利用者側から非難を受けることがあったことから、これらの弊害の除去のため昭和31年に法改正が行われ、司法書士会の設立を強制設立(いわゆる強制会)とし、司法書士はその所属の司法書士会に入会しなければ業務を行うことができない(いわゆる強制入会)とされたことが認められる。)。そして、司法書士会は、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その義務の一つとして会費(この中には会則以外の形式で特別負担金等の名称で会員に負担義務が定められた財務上の負担を含む。)を納入する義務を負うところ、司法書士会はもとより営利団体ではないから、控訴人の活動の経費は、会員からの会費、入会金、寄附金等をもって充てることが予定されている(控訴人の会則56条)。

[61] ところで、司法書士会は、法14条2項に基づき、「司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする」ものであるが、控訴人の活動は法及び会則に明示された「会員の指導及び連絡」に限られるものではなく、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、司法書士制度に関連する事項につき調査、研究を行うことはもちろん、司法書士業務の改善進歩のために会員に対する研修を行い、関係団体や関係組織に働きかけ、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。また、司法書士会は、司法書士法に根拠を有する法人として、他の法人、諸団体と同様、一個の社会的組織として実在し、一定の社会的役割を果たすことも期待ないし要請されているというべきであるから、上記のような活動に止まらず、例えば災害救援金の寄付、地域社会への財産上の奉仕、各種福祉事業への資金面での協力などの面で応分の負担をすることも、社会的に相当と認められる限り、権利能力の範囲内にあるとみることができる。けだし、司法書士法の掲げる「司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図る」という司法書士会の目的達成のためには、会員の指導及び連絡という純然たる対内的な活動ばかりでなく、一定範囲での対外的な活動も予定されているというべきであり、これらの対外的な活動も右の司法書士会の目的と関連性がないとはいえず、また司法書士会においてこれらの活動を行うことが会員の一般的利益に反するということもできないからである(むしろ、これらの対外的活動が司法書士の品位の保持、社会的地位の向上に資する場合があることは容易に推測されるところである。)。

[62] もっとも、任意団体であって、その構成員たる社員や組合員の加入や脱退が一応自由である会社や労働組合とは異なり、司法書士会は司法書士法に根拠を有する強制会であり、会員は入会が強制され、脱退の自由も実質的に保障されていないから、会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、司法書士会が多数決により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、前記のような司法書士会の強制加入団体としての性格上おのずから限界があるといわなければならない。そこで、例えば、司法書士会が政党など政治資金規制法上の団体に金員を寄付することのように、その活動自体が司法書士会の目的の範囲外であると認められる場合もあるし、司法書士会の活動として目的の範囲内でないとはいえないとしても、そのことから直ちに会員の協力義務を無条件で肯定することができない場合もあり得る。その限界については、問題とされている具体的な司法書士会の活動の内容、性質(特に本来の目的との関連性の有無、度合)、これについて会員たる個々の司法書士に求められる協力の内容、程度、態様等を比較考量し、司法書士会としての前記活動の必要性、多数決原理による司法書士会運営の実効性、会員個人の基本的利益の擁護ないしその抵触との調和の観点からこれを決すべきである。

[63] これを本件についてみるに、本件決議は、被災した司法書士会・司法書士の復興を支援すること、具体的には被災司法書士会・司法書士の業務の円滑な遂行を経済的に支援することにより司法書士会・司法書士の機能の回復に資することを目的として3000万円を控訴人会から兵庫県司法書士会に寄付すること、その財源は控訴人の共済会計から震災特別会計への借入れをもって行い、その償還は、一般経費の節約による余剰金と受託1件当たり50円の割合による特別負担金をもって充てることを内容とするものであるが、一般に災害救援等の目的のために寄付をすること自体は、前記のとおり控訴人の権利能力の範囲を超えるとはいえない。そして、特定の災害被災者支援のための寄付の財源とすることを明示してそのための会費あるいは特別の負担の拠出を会員に求めても、その使途について例えば一定の政治的又は宗教的立場に沿った運用が予定されるなど会員の政治的、又は宗教的立場や信条に対する影響が直接かつ具体的であるような特段の事情が認められない限りは、会員が金銭的負担を負わされることが直ちに一定の政治的、又は宗教的立場や信条の表明に直結するということもできないから、控訴人会が多数決によって会員に被災者支援のための金銭的負担を求めることは、これが会員の思想、信条の自由に対する何らかの制約となるとしても、その程度は軽微であって、思想・信条等の自由を根本的に否定するほどのものではないというべきである。
[64] そして、本件において右の特段の事情は認められないから、控訴人会による災害に対する救援のための寄付については、いかなる災害の場合に寄付をなすべきか、またその金額や資金調達の方法等については、基本的に会の自主的判断によって決められるべきものであり、多数決によりそれが決定された以上は、本件のような震災により被害を受けた同業司法書士会・司法書士の支援のための寄付金に充てる費用負担について、これに反対の意見をもつ会員に対しても、会則及び特別負担金規則の定めによる会員の協力義務を否定すべき理由はないというべきである。

[65] 被控訴人らは、強制会という司法書士会の性格上、その目的は基本的に当該会に所属する会員の指導・連絡を主眼とするものに限定され、他会の司法書士あるいは他会の管轄市民を対象として交誼・儀礼的な範囲を超えて3000万円もの金員の寄付をすることは控訴人の権利能力の範囲を超える等とも主張するところ、本件決議による拠出金が、後に兵庫県会に設立された「阪神・淡路大震災被災市民等救援司法書士基金」に入金されて兵庫県司法書士会及び同会所属司法書士の活動を支援する結果となったこと、そのことは本件決議当時控訴人会によって予期されていたことは前認定のとおりであるが、このことは兵庫県の司法書士会・司法書士が行う業務ないし事業への間接的な経済支援であるにとどまり、控訴人会自らが被災地の他会ないし他地域の住民を対象として活動を行うものでないことは明らかであるから、この点の被控訴人の主張も失当である。
[66] もっとも、寄付の金額についていえば、当該寄付が控訴人会の規模、予算等からしてあまりに巨額で、会の他の通常の業務運営が困難となる事態が予想されるような場合は、当該寄付については司法書士会の権利能力の範囲を超えるものとされることもあり得るし、会員に対する負担金の額が社会通念上あまりに過大で、会員の通常の業務運営や生活を脅かし、会員の一般的利益に反するような特段の事情がある場合は、会員の協力義務が否定されることもあり得る。
[67] しかし、本件全立証によってもこのような特別事情の存在を認めるに足りない。かえって、前記のように、本件3000万円は控訴人の共済会計からの借入れにより支出し、その返済は、執行部の事務経費の節約による余剰金(計画年額200万円)と受託甲号1件当たり50円の復興支援証紙を貼付することによる特別負担金収入(計画年額800万円)により3年間で償還することが計画され(控訴人の所属する会員全体の報酬総額は当時年間35億円から40億円と予測されていたことが認められる。)、そのとおり実行されたこと、本件の寄付財源に充てるため前記の事務経費の節減が計画されたが、控訴人の通常の業務活動に支障が生じた事情等は窺えないこと、右借入金の償還は予定より約半年早い平成9年9月4日をもって完了したことが認められるところ、一方において控訴人会の規模、年間予算、活動状況等と、他方において公知の事実である阪神・淡路大震災による未曾有の被災状況並びに本件証拠上認められる兵庫県司法書士会・同会所属司法書士の被災状況及び災害後のその活動状況などからみて、本件3000万円の寄付が控訴人会としての応分の範囲を超えたものとは即断できない。また、前記の控訴人の会員の報酬総額、これらから窺い得る会員1人当たりの年収、前記のように、受託甲号1件当たり50円の特別負担金は、控訴人所属の会員の1件当たり受託報酬平均2万円前後からみるとその負担割合は約0.2パーセントに止まることなどからして、本件特別負担金の額が社会通念上会員の協力義務を否定すべきほどに過大であったとも認めることはできない(たしかに、控訴人の司法書士会という性格、3000万円という金額は本件決議がなされた前後の控訴人の年間予算約9000万円の3分の1の金額に相当すること、これまでの新潟地震や北海道奥尻島沖地震、長崎県雲仙普賢岳噴火災害の災害に対し儀礼の範囲を超える義援金が送られたことはないこと、控訴人会の会員について火災等の被災の場合拠出される見舞金は50万円であること(共済規則18条)、他の兵庫県司法書士会以外の司法書士会から兵庫県司法書士会が設置した阪神淡路大震災市民等救援司法書士基金に寄せられた金員の額は、兵庫県会自らが拠出した6000万円を除けば、東京会500万円、三重県会1000万円、広島県会1000万円、栃木県会約774万円、愛知県会400万円、京都会1000万円、岡山県会100万円等であることからすると、本件の寄付金3000万円は控訴人会の規模としてはやや多額との印象を受けるものの、控訴人の寄付金の額が他の司法書士会と比べてかなり突出した額となったというのは結果論であり、本件決議の最大の動機・目的となった阪神・淡路大震災の被災の規模の大きさに照らし、被控訴人らが述べるこれら諸事情を考慮しても前記判断を左右するものではない。)。

[68] そうすると、本件決議が控訴人の権利能力の範囲外であるとか、財産権の侵害、思想・信条の侵害に当たり公序良俗に反するものとして無効であるとする被控訴人らの主張は採用することができず、本件決議のうち、控訴人会の会員に対し登記申請事件1件につき金50円の復興支援特別負担金の徴収を行うとする部分は、控訴人の会則及び特別負担金規則等の定めの下で控訴人の会員たる被控訴人らに対し支払義務を負わせるものというべきである。
[69] なお、本件決議のうち被控訴人らがその支払義務の不存在の確認を求める右復興支援特別負担金の徴収の措置は、改正特別負担金規則の附則において平成10年3月31日をもって廃止とすると定められ、本件決議においても「共済特別会計への償還が完了するまでの措置とし、償還完了後は旧に復するものとする。」と定められていたところ、本件決議後、すでに被控訴人らを除く控訴人会の会員から予定額の徴収を達成して共済特別会計からの借入金を全額償還し、平成9年9月4日に目的達成により復興支援特別会計は閉鎖されたことを控訴人は自認しているが(当審第9回口頭弁論調書)、控訴人会の会則及び特別負担金規則等の定めの下で本件決議のうち右負担金の徴収に係る部分は、被控訴人らを含む会員に対しなお拘束性を有するものというべきで、もとより被控訴人らの確認の利益は肯定される。
1 臨時総会招集手続の瑕疵の主張について
[70] 《証拠略》によれば、会則35条2項及び3項において、「控訴人が総会を招集するには、会日から2週間前に通知を発しなければならない。但し緊急を要するときは、その期間を短縮することができる。右通知には会議の日時、場所及び会議の目的である事項を記載しなければならない。」旨が定められていること、控訴人は、臨時総会の開催通知を平成7年2月10日にファックスにより会員に発し、右通知には会議の目的、場所、議案の項目が記載されていること、控訴人は議案第1号を右臨時総会開催通知とともに、議案第2、第3号を同月13日の出欠席の回答書及び委任状とともに全会員に発送したことが認められる。そうすると、本件招集手続について無効原因はないといわなければならない。たしかに、被控訴人らが主張するように、議案第2、第3号についてはその通知が会日の2週間前より若干遅れ、また議案書の内容の一部に不正確、不適切な個所があったことは認められるが、このことを考慮しても、これらの瑕疵が招集手続の無効を来すほどに重大なものとみることはできない。
[71] したがって、この点の被控訴人らの主張は理由がない。

2 決議内容の不明確性の主張について
[72] 《証拠略》によれば、本件決議中議案第1号の提案の主旨第2項で「復興支援特別会計」の財源を共済特別会計からの借入金としながら、同3項で「復興支援特別会計は共済特別会計からの借入金のほかに、登記申請事件1件につき50円の「復興支援特別負担金(復興支援証紙)」を以って収入とするとの記載があること、提案の主旨第2項は、共済特別会計からの「貸付金をもって拠出金を支出する。」との記載があることが認められる。しかし、これらは厳密性、正確性の点からみればやや不適切と評し得る部分があるとはいえ、本件議案第1号の決議案の文書全体をみれば、決議の趣旨は、要するに控訴人が阪神大震災復興支援目的で3000万円を拠出するために「復興支援特別会計」を設置し、控訴人の共済特別会計から右金員の貸付を行い、その返済を一般会計からの繰入金と甲号1件につき50円の特別負担金による収入をもって充てるという内容であることが容易に読み取れるのであって、右決議内容が不明確で決議の無効を来すということはできない。また、右決議中提案の主旨第3項で「期間3年で共済特別会計への償還を行う、」、「なお、上記各号とも共済特別会計への償還が完了するまでの措置」との記載があり、被控訴人らは3年経過時に右償還が完了していないときの措置が不明であると主張するが、それ自体は決議内容の表現として不適切であるとまではいえない。したがって、この点の被控訴人らの主張も採用できない。

3 決議手続の瑕疵の主張について
[73] 前記1の冒頭に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、会則38条2項において、総会における議決権行使につき他の会員を代理人とすることを認めていること、控訴人は平成7年2月13日に委任状用紙を全会員に発送したこと、右委任状書面には「委任状に受任者が指定されていない場合は会長に一任したものとさせていただきます。」との書面が添付されていたことは、受任者欄を控訴人の会長とした委任状と受任者欄を白紙とした委任状が合計130名分あったので、控訴人の会長は右130名分の代理権を行使したこと、本件決議に先立ち継続審議を求める緊急動議が提出されたが、議決権総数253のうち賛成74で否決されたこと、そして、右賛成しなかった議決権の中には会長に委任された130名の委任状の分が含まれていたことがそれぞれ認められる。被控訴人らは継続審議の賛否については、右のような委任状で委任された議決権の行使は行われるべきではなく違法であると主張するが、継続審議の動機の場合のみに委任状による議決権行使が許されないとみる特段の根拠を見出すことはできない。そうすると、この点の被控訴人らの主張も採用することができない。
[74] 以上のとおり、本件決議の無効を原因として本件決議に基づく債務の不存在確認を求める被控訴人らの本訴請求は理由がないというべきである。
[75] そうすると、これと異なり被控訴人らの請求を認容した原判決は不当であるからこれを取消し、被控訴人らの請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法67条2項、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

  東京高等裁判所第11民事部
  裁判長裁判官 荒井史男  裁判官 大島崇志  裁判官 豊田建夫

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