予防接種ワクチン禍事件
第一審判決

損害賠償請求事件
東京地方裁判所 昭和47年(ワ)第2270号、同48年(ワ)第4793号、同年(ワ)第10666号、同49年(ワ)第10261号、同50年(ワ)第7997号、同56年(ワ)第15308号
昭和59年5月18日 判決

(原告)吉原充 外159名
(被告)国
    代理人 藤村啓 北野節夫 折目斎 外6名

■ 裁判所作成に係る判決理由要旨

一 事件の概要
[1] 本件は、予防接種法(昭和51年法第69号による改正前の法律)によつて実施され、あるいは国の行政指導に基づき地方公共団体が接種を勧奨した予防接種として、インフルエンザワクチン、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風3種混合ワクチン等のうち、1種類または2種類の接種を受け、その結果、右予防接種ワクチンの副作用により、疾病にかかり、障害の状態となり、または死亡するに至つた本件各被害児と、その両親らが原告(原告数は、被害児62名中訴提起前の死亡被害児を除く36名、その両親らの家族124名、合計160名)となり、当時厚生省が行つていた防疫行政につき、民法上の債務不履行責任、国家賠償法上の責任または憲法上の損失補償責任を追及するとして、国を被告として、昭和47年3月から6次にわたつて(基本事件は当庁昭和48年(ワ)第4793号事件であり、事件数は全部で6件である)提起した損害賠償請求事件である。

二 予防接種ワクチンの接種とその副作用による結果発生との因果関係について、
[2] 予防接種ワクチン接種とその結果発生するとされる重篤な副反応との間に因果関係が存在すると認めるための基準として、当裁判所は、次の4つの要件が必要であると解し、本件における各被害児らには、すべて右の4つの要件を充足している(被告国が因果関係について争わない被害児も含む)から、本件における各被害児に対する予防接種とその発生した結果との間には、相当因果関係があるものと認める。
(1) ワクチン接種と、予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること。
(2) 他に原因となるべきものが考えられないこと。
(3) 副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。
(4) 事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。

三 被告国または厚生大臣の責任について、
[3](一) 被告国には、原告らが主張する「予防接種の実施に際して、その強制によると勧奨による接種とを問わず、予防接種を受ける国民の生命身体を侵害する事故が発生することのないよう万全の措置を講ずべき最高度の安全確保義務が債務として存在する」との主張はこれを認めることはできない。
[4](二) 厚生大臣には、原告らが主張する「未必の故意による責任」すなわち、「予防接種法は国が予防接種により生命または健康を侵害することを認めたものでないことは当然である。然るに国は、予防接種の施行により一定の確率で死亡または回復不能の重大な後遺障害が発生することを予防接種開始の当初から認識しながら、それもやむを得ないものとして予防接種を続けて来たものである。従つて、その結果予想された被害が発生した場合には、国は被接種者に対し、「未必の故意」により違法に他人に損害を加えた、というべきである。」とする故意責任は認めることができない。
[5](三) 被告国(厚生大臣)には原告らが主張する「具体的過失による責任」すなわち、「本件予防接種においては、被告国(厚生大臣)には左記の注意義務違反の過失が存在する。
1 予防効果が不明のワクチンあるいは危険性の高いワクチンの接種を廃止すべき義務違反
2 事故発生の危険のある若年者を被接種者としないよう接種対象者を決定すべき注意義務違反
3 禁忌該当者等事故発生の危険のある身体的状態にある者を接種対象者から除外すべき注意義務違反
4 安全のため可能な限りワクチンの力価(量)を減らし、免疫のため必要最少量を規定量と定めるべき注意義務違反、及び規定量以上を誤つて接種することのないよう指示すべき注意義務違反
5 他の予防接種との間隔を充分にとつたうえで予防接種を実施すべき注意義務違反
 右の注意義務違反の過失は、死亡、脳炎等の重大な予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性をもつものであるから、右の過失が存在する場合には、被告国には被害発生につき過失責任があるというべきである。」とする過失責任はこれを認めることはできない。
[6] 従つて、被告国には、民法上の債務不履行責任、または厚生大臣の公権力の行使についての国家賠償法1条の責任は、いずれもこれを認めることはできない。

四 被害児梶山桂子(15の1)及び同河又典子(34の1)に対する賠償責任について、
(1) 被害児梶山桂子(15の1)について、
[7] 昭和36年の予防接種実施要領の改正により混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が禁止されたから、実施主体の市町村長等が、昭和36年以降において混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して接種計画を立案しこれを実施したときは、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有するものであり、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[8] そこで、被害児梶山桂子(15の1)については、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち、実施主体である東京都中野区長は、2種混合ワクチン(生後6か月以下の者に対しては東京都中野区長が実施する法5条所定の接種、生後6か月を超える者に対しては東京都中野区が実施する法9条所定の接種)と種痘(東京都中野区長が実施する法5条所定の接種)の同時接種の計画を立案したものと認められる。そうすると、東京都中野区長は、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して、2種混合ワクチンと種痘の同時接種の計画を立案し、これに基づいて、被害児桂子(15の1)に対し、東京都中野区が実施した法9条所定の本件2種混合ワクチン接種の直後に法5条所定の本件種痘接種を実施したものと認められ、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
[9] 更に、被害児桂子(15の1)は、昭和40年9月8日、東京都中野区立塔ノ山小学校において、本件の接種を受け、本件種痘接種担当医師は、本件種痘接種を行えば本件2種混合ワクチンと同時接種になることを知りながら、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種をしてはならない注意義務に違反して本件種痘接種を行つたものであるから本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
(2) 被害児河又典子(34の1)について、
[10] 被害児河又典子(34の1)は、本件接種において多圧法により種痘の接種を受け、その接種箇所は2箇であつた。予防接種実施規則は、多圧法の接種数は1箇とし、切皮法の接種数は第1期の種痘にあつては2箇とする旨定めていた。従つて、多圧法により2か所の接種を受けた被害児典子(34の1)は、種痘の規定量の2倍にあたる過量接種を受けたものと推認される。そうすると、被害児典子(34の1)に対し本件接種を行つた接種担当医師は、種痘の規定量に従つた接種を行うべき注意義務に違反して過量接種を行つたもので、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
[11] そうすると、予防接種の実施主体である東京都中野区長は、被告国の機関委任事務の遂行として、また、各接種担当医師は、いずれも公務を委託されてこれに従事する特別公務員の立場にあつたものであるから、被告国は、被害児桂子(15の1)及び同典子(34の1)に対し、いずれも国家賠償法1条1項による賠償責任が認められる。

五 損失補償責任について、
[12] 被告国は、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防し、公衆衛生の向上と増進に寄与するとの公益目的実現のため、各種予防接種につき、法により罰則を設けてその接種を国民に強制し、あるいは各地方公共団体に対し、国民に接種を勧奨するよう行政指導をして各種予防接種を実施していたものである。被告国のかかる公益目的実現のための行為によつて、各被害児の両親は、各被害児に本件各接種を受けさせることを法律によつて強制されあるいは心理的に強制された状況下におかれ、その結果、各被害児は本件各接種を受け、そのため死亡しあるいは重篤な後遺障害を有するに至つたものであり、このことにより、各被害児及びその両親は、予防接種に通常随伴して発生する精神的身体的苦痛を超え、それらを著しく逸脱した犠牲を強いられる結果となつた。他方、本件における各被害児及びその両親の蒙つた特別の犠牲に対し、その余の一般的国民は、予防接種の結果、幸にして、各被害児らのような不幸な結果を招来することなく、また各予防接種によつて伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防され、よつて、予防接種法が目的としている国民一般の公衆衛生の向上及び増進による社会的利益を享受しているのである。
[13] そうだとすると、本件においては、各予防接種の結果蒙つた各被害児及びその両親らの特別の犠牲は、予防接種を行うという国民全体の利益のために、やむを得ない犠牲であると解すべきか、はたまた、本件における各被害児及びその両親らの蒙つた具体的な、いわば個人の特別の犠牲は、国民全体の負担において、これを償うべきものと解すべきかの一つの政策の問題に帰着するということができる。
[14] そこで、憲法13条、25条の諸規定の趣旨に照らして、本件について検討してみると、いわゆる強制接種は、予防接種法第1条に規定するように、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防するために実施し、それは、集団防衛、社会防衛のためになされるものである。そして、いわゆる予防接種は、一般的には安全といえるが、深く稀にではあるが不可避的に死亡その他重篤な副反応を生ずることがあることが統計的に明らかにされている。しかし、それにもかかわらず公共の福祉を優先させ、たとえ個人の意思に反してでも一定の場合には、これを受けることを強制し、予防接種を義務づけているのである。また、いわゆる勧奨接種についても、被接種者としては、勧奨とはいいながら、接種を受ける受けないについての選択の自由はなく、国の方針で実施される予防接種として受けとめ,国民としては、国の施策に従うことが当然の義務であるとして、いわば心理的、社会的に強制された状況の下で、しかもその実施手続・実態は、いわゆる強制接種となんら変ることのない状況の下で接種を受けているのである。そうだとすると、右の状況下において、各被害児らは、被告国が、国全体の防疫行政の一環として予防接種を実行し、それを更に地方公共団体に実施させ、右公共団体の勧奨によつて実行された予防接種により、接種を受けた者として、全く予測できない、しかしながら予防接種には不可避的に発生する副反応により、死亡その他重篤な身体障害を招来し、その結果、全く通常では考えられない特別の犠牲を強いられたのである。このようにして、一般社会を伝染病から集団的に防衛するためになされた予防接種により、その生命、身体について特別の犠牲を強いられた各被害児及びその両親に対し、右犠牲による損失を、これら個人の者のみの負担に帰せしめてしまうことは、生命・自由・幸福追求権を規定する憲法13条、法の下の平等と差別の禁止を規定する同14条1項、更には、国民の生存権を保障する旨を規定する同25条のそれらの法の精神に反するということができ、そのような事態を等閑視することは到底許されるものではなく、かゝる損失は、本件各被害児らの特別犠牲によつて、一方では利益を受けている国民全体、即ちそれを代表する被告国が負担すべきものと解するのが相当である。そのことは、価値の根元を個人に見出し、個人の尊厳を価値の原点とし、国民すべての自由・生命・幸福追求を大切にしようとする憲法の基本原理に合致するというべきである。
[15] 更に、憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が、社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される(昭和43年11月27日最高裁大法廷判決・刑集22巻12号1402頁、昭和50年3月13日最高裁第1小法廷判決・裁判集民114号343頁、同年4月11日最高裁第2小法廷判決・裁判集民114号519頁参照。)
[16] そして、右憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない。
[17] 従つて、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合においても、右憲法29条3項を類進適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。
[18] そうすると、被告国は、憲法29条3項に基づき、各被害児(但し、原告らは、憲法29条3項に基づく損失補償請求と国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を選択的併合として請求しているので、接種担当者あるいは実施主体について国家賠償法上の過失が認められた被害児梶山桂子(15の1)及び被害児河又典子(34の1)の2名を除く。)及びその両親に対し、これらの者が本件各事故により蒙つた損失について正当な補償をすべき義務を負つているものと認められる。

六 救済制度の法制化について、
[19] 予防接種被害について昭和52年2月25日から実施された新たな救済制度が法制化されているが、右法制化された救済制度は、内容の面からみても、額の面からみても、現在のわが国におけるこの種被害に対する救済としては客観的妥当性を有すると認めることはできない。そうすると、憲法29条3項の類推適用により、本件各事故により損失を蒙つた各被害児及びその両親が、被告国に対し、損失の正当な補償を請求できると解するとすると、救済制度が法制化されていても、かかる救済制度による補償額が正当な補償額に達しない限り、その差額についてなお補償請求をなしうるのは当然のことであると解される。

七 損害・損失の算定について、
[20](1) 個別算定にあたつては、本件にあらわれた一切の事情を勘案し、各被害児について、本件各事故によつて[1]死亡した被害児と[2]生存している被害児とに分け、更に後者の生存している被害児については、症状の軽重により、(イ)日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Aランク生存被害児」という。)(ロ)日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Bランク生存被害児」という。)(ハ)一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(これを「Cランク生存被害児」という。)とにそれぞれランク分けにする。そして、更に右各被害児らの両親等の各損害または各損失についてそれぞれ算定する。
[21](2) 右のランク付けに従つて、各被害児については、得べかりし利益の喪失、(労働能力の喪失率)、介護費、介助費、慰謝料、それと各被害児の両親等に対する慰謝料を定めた。その大筋は次表のとおりである。
  図1 損害・損失のランク別算定表《略》
[22](3) 弁護士費用については、本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らし、認容額の7.5パーセントにあたる金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある弁護士に支払べき費用と認める。
[23](4) 右の基準によつて算定した金額を基礎にしてライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して現価を求める。
[24](5) そして、各被害児について、被告国から受けた給付をそれぞれ損益相殺し、その結果、各原告に認めるべき金額は別紙「原告債権額一覧表」(1)ないし(7)のとおりである。右各金額に対し、本件各訴状送達の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる。
  図2 原告債権額一覧表(1)《略》
  図3 原告債権額一覧表(2)《略》
  図4 原告債権額一覧表(3)《略》
  図5 原告債権額一覧表(4)《略》
  図6 原告債権額一覧表(5)《略》
  図7 原告債権額一覧表(6)《略》
  図8 原告債権額一覧表(7)《略》

■ 目次

凡例
  判   決

当事者
  原告《略》
  原告訴訟代理人《略》
  被告《略》
  被告訴訟代理人《略》

■ 主 文
(別紙) 認容金額一覧表

■ 事 実
第一節 当事者双方の求めた裁判
 第一 請求の趣旨
    請求金額一覧表
 第二 請求の趣旨に対する答弁
第二節 当事者双方の主張
 第一 請求の原因
  一 当事者
  二 事故の発生
  三 因果関係
   1
   2
   3
   4
   5
  四 責任
   1 安全確保義務違反による債務不履行責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   2 厚生大臣の故意または過失による国家賠償法1条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
     (1) 未必の故意
     (2) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (3) 具体的過失
      [1] 実施すべきでない接種を実施させた過失
       (a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失
       (b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失
       (c) 種痘接種を実施させた過失
      [2] 若年接種を実施させた過失
       (a) 種痘の若年接種を実施させた過失
       (b) インフルエンザワクチンの若年接種を実施させた過失
       (c) 百日咳のワクチンの若年接種を実施させた過失
       (d) その余のすべてのワクチンの若年接種を実施させた過失
      [3] 禁忌該当者に接種を実施させた過失
       (a) 禁忌設定不充分の過失
       (b) 禁忌該当者に接種させないための措置不充分の過失
      [4] 過量接種を実施させた過失
       (a) 百日咳ワクチン接種量の定め方を誤つた過失
       (b) 種痘ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (c) ポリオ生ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (d) インフルエンザワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (e) 百日咳ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
      [5] 他の予防接種との間隔を充分にとらないで接種を実施させた過失
       (a) 接種間隔の定め方を誤つた過失
       (b) 複数同時接種の禁止を守らせるための措置不充分の過失
      [6] 接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を実施させた過失
   3 接種担当者の過失による国家賠償法1条あるいは3条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
     (1) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (2) 具体的過失
      [1] 禁忌該当者に接種を行つた過失
      [2] 過量接種を行つた過失
      [3] 混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失
   4 実施主体あるいは、その長の過失による国家賠償法1条あるいは3条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
     (1) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (2) 具体的過失
混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施し、あるいは、かかる接種の遂行を統括した過失
   5 損失補償責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
  五 損害ないし損失
    (一) 死亡した各被害児の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
      [1] 過失の得べかりし利益の喪失
      [2] 将来の得べかりし利益の喪失
     (2) 過失の介護費
    (二) 死亡した各被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(三) 日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(Aランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
      [1] 過去の介護費
      [2] 将来の介護費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (四) Aランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(五) 日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(Bランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
      [1] 過去の介助費
      [2] 将来の介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (六) Bランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(七) 一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(Cランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 過去の介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (八) Cランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
  六 相続
  七 結論
(添付)
(1) 原告主張一覧表(一) 吉原充(1の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(2) 右同(二) 白井裕子(2の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(3) 右同(三) 山元寛子(3の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(4) 右同(四) 阪口一美(4の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(5) 右同(五) 沢柳一政(5の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(6) 右同(六) 尾田真由美(6の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(7) 右同(七) 葛野あかね(7の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(8) 右同(八) 布川賢治(8の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(9) 右同(九) 服部和子(9の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(10) 右同(一〇) 依田隆幸(10の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(11) 右同(一一) 伊藤純子(11の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(12) 右同(一二) 田部敦子(12の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(13) 右同(一三) 田中耕一(13の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(14) 右同(一四) 千葉幹子(14の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(15) 右同(一五) 梶山桂子(15の1)
接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失   実施主体あるいはその長の過失
(16) 右同(一六) 佐藤幸一郎(16の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(17) 右同(一七) 渡邊和彦(17の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(18) 右同(一八) 徳永恵子(18の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(19) 右同(一九) 鈴木増己(19の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(20) 右同(二〇) 越智久樹(20の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(21) 右同(二一) 小林浩子(21の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(22) 右同(二二) 上野一樹(22の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(23) 右同(二三) 山本勉(23の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(24) 右同(二四) 井上明子(24の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(25) 右同(二五) 平野直子(25の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(26) 右同(二六) 卜部広明(26の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(27) 右同(二七) 鈴木浅樹(27の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(28) 右同(二八) 小林正樹(28の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(29) 右同(二九) 中川敦子(29の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(30) 右同(三〇) 田渕農英(30の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(31) 右同(三一) 吉川雅美(31の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(32) 右同(三二) 荒川豪彦(32の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(33) 右同(三三) 清水一弘(33の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(34) 右同(三四) 河又典子(34の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(35) 右同(三五) 大沼千香(35の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(36) 右同(三六) 加藤則行(36の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(37) 右同(三七) 藤本美智子(37の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(38) 右同(三八) 中村真弥(38の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(39) 右同(三九) 矢野由美子(39の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(40) 右同(四〇) 高田正明(40の1)
接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失   実施主体あるいはその長の過失
(41) 右同(四一) 福島一公(41の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(42) 右同(四二) 池本智彦(42の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(43) 右同(四三) 猪原泉(43の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(44) 右同(四四) 室崎誠子(44の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(45) 右同(四五) 大川勝生(45の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(46) 右同(四六) 高橋真一(46の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(47) 右同(四七) 塩入信吾(47の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(48) 右同(四八) 小久保隆司(48の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(49) 右同(五〇) 藤井玲子(50の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(50) 右同(五一) 大平茂(51の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(51) 右同(五二) 杉山健二(52の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(52) 右同(五三) 渡邊明人(53の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(53) 右同(五四) 末次展敏(54の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(54) 右同(五五) 高橋尚以(55の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(55) 右同(五六) 古川博史(56の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(56) 右同(五七) 阿部佳訓(57の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(57) 右同(五八) 高橋純子(58の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(58) 右同(五九) 藁科正治(59の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(59) 右同(六〇) 秋田恒希(60の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(60) 右同(六一) 中井哲也(61の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(61) 右同(六二) 野口恭子(62の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(62) 右同(六三) 藤木のぞみ(63の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
損害額一覧表(一) 死亡被害児の損害(1)(2)《略》
右同    (二) 死亡被害児の両親の損害(1)(2)《略》
右同    (三) Aランク生存被害児の損害(1)(2)《略》
右同    (四) Aランク生存被害児の両親の損害(1)〜(3)《略》
右同    (五) Bランク生存被害児の損害
右同    (六) Bランク生存被害児の両親の損害
右同    (七) Cランク生存被害児の損害
右同    (八) Cランク生存被害児の両親の損害
 第二 請求の原因事実に対する認否
  一
  二
  三
   1
   2
   3
   4
   5
    (一) 初めから因果関係を否認する各被害児
     (1) 被害児荒井豪彦(32の1)
     (2) 〃清水一弘(33の1)
     (3) 〃大沼千香(35の1)
     (4) 〃中村真弥(38の1)
     (5) 〃大川勝生(45の1)
     (6) 〃小久保隆司(48の1)
     (7) 〃大平茂(51の1)
     (8) 〃高橋尚以(55の1)
     (9) 〃中井哲也(62の1)
    (二) 初め因果関係を認めたが、これを撤回し、否認する各被害児
     (1) 被害児尾田真由美(6の1)
     (2) 〃布川賢治(8の1)
     (3) 〃依田隆幸(10の1)
     (4) 〃伊藤純子(11の1)
     (5) 〃梶山桂子(15の1)
     (6) 〃井上明子(24の1)
  四
   1
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   2
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
     (1)
     (2)
     (3)
     (4)
      [1]
      [2]
       (a)
       (b)
       (c)
      [3]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
      [4]
       (a)
       (b)
      [5]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
       (e)
      [6]
       (a)
       (b)
      [7]
      [8]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
       (e)
       (f)
   3
    (一)
    (二)
    (三)
     (1)
     (2)
     (3)
      [1]
      [2]
      [3]
      [4]
      [5]
       (a)
       (b)
       (c)
   4
    (一)
    (二)
    (三)
     (1)
     (2)
     (3)
   5
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
  五
  六
 第三 抗弁
  一 違法性阻却事由もしくは責に帰すべからざる事由の存在
  二 時効及び除斥期間
   1 3年の消滅時効(民法724条前段)
    (一)
    (二)
   2 10年の消滅時効(民法167条1項)
   3 20年の除斥期間(民法724条後段)
  三 救済制度の存在
   1
   2(一般的補償請求権の補充性)
   3
  四 損益相殺等
   1
   2
  五 履行の猶予
 第四 抗弁事実に対する認否
  一
  二
   1
    (一)
    (二)
   2
   3
  三
   1
   2
   3
  四
   1
   2
  五
 第五 再抗弁
 第六 再抗弁事実に対する認否
第三節 証拠

■ 理 由
 第一 事実認定に供した書証等の成立等について
    事実認定(証拠)表(一)《略》
 第二 請求の原因事実等について
  一(争いのある事実の認定)
    事実認定表(二)
  二1(争いのない事実)
    事実認定表(三)
   2(認定した事実)
    事実認定(証拠)表(四)《略》
  三1(請求の原因第三項に関する事実)
   2
   3
   4(因果関係を認めるための4つの要件)
   5(一)(因果関係に争いのない被害児47名について)
    (二)(被告が自白の撤回をした被害児6名について)
     (1) 被害児尾田真由美(6の1)
     (2) 〃布川賢治(8の1)
     (3) 〃依田隆幸(10の1)
     (4) 〃伊藤純子(11の1)
     (5) 〃梶山桂子(15の1)
     (6) 〃井上明子(24の1)
    (三)(被告が因果関係を争つた被害児9名について)
     (1) 被害児荒井豪彦(32の1)
     (2) 〃清水一弘(33の1)
     (3) 〃大沼千香(35の1)
     (4) 〃中村真弥(38の1)
     (5) 〃大川勝生(45の1)
     (6) 〃小久保隆司(48の1)
     (7) 〃大平茂(51の1)
     (8) 〃高橋尚以(55の1)
     (9) 〃中井哲也(61の1)
  四1(一)
    (二)
    (三)
    (四)(安全確保義務違反による債務不履行責任)
   2(一)
    (二)
    (三)
    (四)(勧奨接種と行政指導)
    (五)(厚生大臣の故意過失の存在)
     (1)(未必の故意)
     (2)(過失の立証責任の転換)
     (3)(厚生大臣の具体的過失の存否)
      [1] 実施すべきでない接種を実施させた過失について
       (a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失について
       (b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失について
       (c) 種痘接種を実施させた過失について
      [2] 若年接種を実施させた過失について
       (a) 種痘の若年接種を実施させた過失について
       (b) インフルエンザワクチンの若年接種を実施させた過失について
       (c) 百日咳ワクチンの若年接種を実施させた過失について
       (d) その余のすべてのワクチンの若年接種を実施させた過失について
      [3] 禁忌該当者に接種を実施させた過失について
       (a) 禁忌設定不充分の過失について
       (b) 禁忌該当者に接種させないための措置不充分の過失について
      [4] 過量接種を実施させた過失について
       (a) 百日咳ワクチンの接種量の定め方を誤つた過失について
       (b) 種痘の規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (c) ポリオ生ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (d) インフルエンザワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (e) 百日咳ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
      [5] 他の予防接種との間隔を充分にとらないで接種を実施させた過失について
       (a) 接種間隔の定め方を誤つた過失について
       (b) 複数同時接種の禁止を守らせるための措置不充分の過失について
      [6] 接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を実施させた過失について
   3(一)
    (二)
    (三)(接種担当者の過失による国賠法1条あるいは3条の責任)
     (1)(過失の立証責任の転換)
     (2)(具体的過失の存否)
      [1] 禁忌該当者に接種を行つた過失について
       @ 被害児白井裕子(2の1)
       A 〃沢柳一政(5の1)
       B 〃尾田真由美(6の1)
       C 〃布川賢治(8の1)
       D 〃服部和子(9の1)
       E 〃伊藤純子(11の1)
       F 〃田部敦子(12の1)
       G 〃田中耕一(13の1)
       H 〃梶山桂子(15の1)
       I 〃佐藤幸一郎(16の1)
       J 〃渡邊和彦(17の1)
       K 〃徳永恵子(18の1)
       L 〃鈴木増己(19の1)
       M 〃小林浩子(21の1)
       N 〃上野一樹(22の1)
       O 〃井上明子(24の1)
       P 〃中川敦子(29の1)
       Q 〃田渕豊英(30の1)
       R 〃吉川雅美(31の1)
       S 〃荒井豪彦(32の1)
       21 〃清水一弘(33の1)
       22 〃河又典子(34の1)
       23 〃大沼千香(35の1)
       24 〃中村真弥(38の1)
       25 〃福島一公(41の1)
       26 〃池本智彦(42の1)
       27 〃猪原泉(43の1)
       28 〃杉山健二(52の1)
       29 〃末次展敏(54の1)
       30 〃藁科正治(59の1)
       31 〃秋田恒希(60の1)
       32 〃藤木のぞみ(63の1)
      [2] 過量接種を行つた過失について
       @ 被害児白井裕子(2の1)
       A 〃阪口一美(4の1)
       B 〃尾田真由美(6の1)
       C 〃田部敦子(12の1)
       D 〃梶山桂子(15の1)
       E 〃鈴木増己(19の1)
       F 〃井上明子(24の1)
       G 〃中川敦子(29の1)
       H 〃吉川雅美(31の1)
       I 〃猪原泉(43の1)
       J 〃杉山健二(52の1)
       K 〃末次展敏(54の1)
       L 〃高橋純子(58の1)
       M 〃藁科正治(59の1)
       N 〃秋田恒希(60の1)
       O 〃河又典子(34の1)
      [3] 混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失について
         被害児梶山桂子(15の1)について
   4(一)
    (二)
    (三)(実施主体あるいは、その長の過失)
     (1)(過失の立証責任の転換)
     (2)(具体的過失の存否)
       混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施した過失について
         被害児梶山桂子(15の1)について
   5
    (一)(違法性阻却事由)
    (二)(救済制度)
   6(一)
    (二)(勧奨接種)
    (三)(損失補償責任)
    (四)(結論)
   7
    (一)(救済制度)
    (二)
    (三)
  五1
    事実認定(証拠)表(五)《略》
   2(損害算定について考慮すべき事情)
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   3(一)(損害・損失額の算定)
    (二)
   4(一) 死亡した各被害児の損害ないし損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
     (3) 弁護士費用
     (4)(結論)
     死亡被害児の認定損害損失額一覧表(1)(2)《略》
    (二) 死亡した各被害児の両親の損害ないし損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     死亡被害児両親の認定損害損失額一覧表(1)〜(3)
(三) 日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(Aランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Aランク生存被害児の認定損失額一覧表(1)〜(3)《略》
    (四) Aランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表(1)〜(3)
(五) 日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(Bランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Bランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》
    (六) Bランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Bランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
(七) 一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(Cランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Cランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》
    (八) Cランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Cランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
   3(梶山桂子(15の1)に対する消滅時効の主張)
   4
    (一)(損益相殺)
    (二)(救済制度)
    (三)(現実給付の控除)
    損害賠償・損失補償債権額一覧表(1)〜(7)《略》
   5(履行の猶予の主張)
  六(各人の認容総額について)
   原告債権額一覧表(1)〜(7)《略》
 第三 結論

■ 参照条文

■ 凡 例

 本件事件の原告らに関する関係者には、それぞれ固有番号を付して特定する。その方法は、原告らが主張する本件事故による被害児とその家族とで一まとめにし、その家族番号は1番から63番(ただし、49番は、訴の取下のため欠番)とする。そして、被害児とその父、母、兄弟姉妹については、それぞれ枝番号を付して、固有番号として特定する。
 従つて、訴提起前に死亡している被害児及び被害児の父母、または本件の原告であつたが訴訟の係属中に死亡した被害児及び被害児の父母についても、右の原則に依ることとし、特に死亡者の表示はしない。
 右の方法を詳述すると、原告らが主張する本件事故による被害児は枝番号の1、その父親は枝番号の2、その母親は枝番号の3とし、その他をそれぞれ枝番号4、5、……として特定し、呼称する。
 本件における呼称の仕方として、被害児については、原則として、姓を省略して、「被害児」とその名前のみで略称することとし、その父母については、それぞれ「父」「母」とその名前のみで略称し、それぞれの名前の後にカツコ書きで固有番号を付して特定し呼称する。その他の被害児の兄弟姉妹で、原告である者については、適宜氏名と固有番号で、その他の原告でない兄弟姉妹等については、氏名または名前のみで特定し呼称する。
 例えば、原告吉原充(固有番号1の1)は、「被害児充(1の1)」、その父親である原告吉原賢二(固有番号1の2)は、「父賢二(1の2)」、その母親である原告吉原くに子(固有番号1の3)は、「母くに子(1の3)」のように特定し呼称する。
 原告主張一覧表の「接種の状況」欄のうち「生死の別」の欄には、原告らの主張する本件各事故により各被害児が死亡したときはその「死亡した日」を記載し、各被害児が生存しているときは「生」と記載する。


 被告は、別紙「認容金額一覧表」記載の各原告に対し、各原告に対応する同表「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する各原告に対応する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日からそれぞれ支払済みに至るまで各年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
 原告らのその余の請求を棄却する。
 訴訟費用は被告の負担とする。
 この判決は、第一項記載の認容金額につき各3分の1の限度において仮に執行することができる。

(別紙)認容金額一覧表
番号原告の氏名認容金額(円)遅延損害金起算日(昭和年月日)
1の1吉原充5808万767948・6・29
1の2吉原賢二322万500048・6・29
1の3吉原くに子322万500048・6・29
2の2白井哲之1136万876648・6・29
2の3白井扶美子1136万876648・6・29
3の1山元寛子4679万149648・6・29
3の2山元忠雄322万500048・6・29
3の3山元としゑ322万500048・6・29
4の1阪口一美4351万743448・6・29
4の2阪口照夫322万500048・6・29
4の3阪口邦子322万500048・6・29
5の1沢柳一政5765万855248・6・29
5の2沢柳清322万500048・6・29
5の3沢柳富喜子322万500048・6・29
6の2尾田稔1800万763848・6・29
6の3尾田節子1800万763848・6・29
7の1葛野あかね4178万292848・6・29
7の3森山チエ子322万500048・6・29
8の2布川正1674万271548・6・29
8の3布川則子1674万271548・6・29
9の1服部和子4751万944548・6・29
9の2服部勝一郎322万500048・6・29
9の3服部真澄322万500048・6・29
10の1依田隆幸6199万305948・6・29
10の2依田泰三322万500048・6・29
10の3依田時子322万500048・6・29
11の1伊藤純子4557万733048・6・29
11の2伊藤定男322万500048・6・29
11の3伊藤孝子322万500048・6・29
12の1田部敦子4461万784548・6・29
12の2田部芳聖322万500048・6・29
12の3田部チエ子322万500048・6・29
13の1田中耕一1535万642648・6・29
13の2田中隆博107万500048・6・29
13の3田中靖子107万500048・6・29
14の2千葉秀三1208万347348・6・29
14の3千葉節子1208万347348・6・29
15の2梶山健一1650万539448・6・29
15の3梶山喜代子1650万539448・6・29
16の2佐藤茂昭1558万890048・6・29
16の3佐藤千鶴1558万890048・6・29
17の2渡邊孝雄1899万201648・6・29
17の3渡邊豊子1899万201648・6・29
18の1徳永恵子2698万009648・6・29
18の2徳永保春215万000048・6・29
18の3徳永和枝215万000048・6・29
19の2鈴木浅治郎1445万018748・6・29
19の3鈴木節1445万018748・6・29
20の2越智聡1433万522248・6・29
20の3越智静子1433万522248・6・29
21の1小林浩子4297万134548・6・29
21の2小林安夫322万500048・6・29
21の3小林こう322万500048・6・29
22の2上野忠志1395万018748・6・29
22の3上野厚子1395万018748・6・29
23の2山本孝仁1560万956048・6・29
23の3山本京子1560万956048・6・29
24の1井上明子4409万294548・6・29
24の2井上忠明322万500048・6・29
24の3井上たつ322万500048・6・29
25の2平野賢二1239万376648・6・29
25の3平野節子1239万376648・6・29
26の1卜部広明5670万597848・6・29
26の2卜部広太郎322万500048・6・29
26の3卜部せつ子322万500048・6・29
27の1鈴木浅樹6028万812949・1・27
27の2鈴木勲雄322万500049・1・27
27の3鈴木百合子322万500049・1・27
28の1小林正樹5745万523649・1・27
28の2小林春男322万500049・1・27
28の3小林いく子322万500049・1・27
29の1中川敦子2459万649649・1・27
29の2中川正直215万000049・1・27
29の3中川きみ215万000049・1・27
30の2田渕英嗣1220万018749・1・27
30の3田渕美也子1220万018749・1・27
31の1吉川雅美4457万204349・1・27
31の2吉川禎二322万500049・1・27
31の3吉川富美子322万500049・1・27
32の2荒井清1547万401449・1・27
32の3荒井ミツイ1547万401449・1・27
33の1清水一弘6059万230249・1・27
33の2清水一男322万500049・1・27
33の3清水弘子322万500049・1・27
34の2河又弘寿1417万794149・1・27
34の3河又正子1417万794149・1・27
35の2大沼満1239万376649・1・27
35の3大沼勝世1239万376649・1・27
36の1加藤則行5835万666949・1・27
36の2加藤久雄322万500049・1・27
36の3加藤かつ子322万500049・1・27
37の1藤本美智子2592万119649・1・27
37の2竹沢潔215万000049・1・27
37の3竹沢昌子215万000049・1・27
38の1中村真弥5746万282949・1・27
38の2中村巌322万500049・1・27
38の3中村真知子322万500049・1・27
39の2矢野悟1769万110149・1・27
39の3矢野ルリ子1769万110149・1・27
40の1高田正明5707万302949・1・27
40の2高田清作322万500049・1・27
40の3高田敏子322万500049・1・27
41の1福島一公5947万991949・1・27
41の2福島喜久雄322万500049・1・27
41の3福島豊子322万500049・1・27
42の1池本智彦2042万379649・1・27
42の2池本和能107万500049・1・27
42の3池本愛子107万500049・1・27
43の2猪原正和1235万728449・1・27
43の3猪原松枝1235万728449・1・27
44の1室崎誠子3953万884749・1・27
44の2室崎誠322万500049・1・27
44の3室崎富惠322万500049・1・27
45の2大川勝三郎2489万897949・1・27
45の3大川たつゑ2489万897949・1・27
46の2高橋恒夫1395万018749・1・27
46の3高橋ちづ子1395万018749・1・27
47の2塩入恒男1395万018749・1・27
47の3塩入万佐子1395万018749・1・27
48の2小久保皓司1430万018749・1・27
48の3小久保笑子1430万018749・1・27
50の1藤井玲子4236万942649・1・27
50の2藤井俊介322万500049・1・27
50の3藤井孝子322万500049・1・27
51の2大平正1380万018749・1・27
51の3大平康子1380万018749・1・27
52の2杉山末男1220万018749・12・13
52の3杉山きみ子1220万018749・12・13
53の1渡邊明人5544万738649・12・13
53の2渡邊真美322万500049・12・13
53の3渡邊美都子322万500049・12・13
54の2末次芳雄1445万018749・12・13
54の3末次貞子1445万018749・12・13
55の1高橋尚以7659万434549・12・13
55の2高橋邦夫322万500049・12・13
55の3高橋昭子322万500049・12・13
56の1古川博史5470万470249・12・13
56の2古川治雄322万500049・12・13
56の3古川イツヱ322万500049・12・13
57の3阿部クニ2092万528149・12・13
57の4阿部恭子348万754649・12・13
57の5阿部光敏348万754649・12・13
58の1高橋純子4573万849549・12・13
58の2高橋正夫322万500049・12・13
58の3高橋幸子322万500049・12・13
59の1藁科正治5393万602850・10・4
59の2藁科勝治322万500050・10・4
59の3藁科雅子322万500050・10・4
60の1秋田恒希5961万716150・10・4
60の2秋田恒延322万500050・10・4
60の3秋田令子322万500050・10・4
61の1中井哲也5724万861350・10・4
61の2中井浩322万500050・10・4
61の3中井郁子322万500050・10・4
62の1野口恭子4106万693647・5・11
62の2野口正行322万500047・5・11
62の3野口賀寿代322万500047・5・11
63の1藤木のぞみ2660万843357・1・28
63の2藤木秀215万000057・1・28
63の3藤木トモコ215万000057・1・28
合計26億9616万4383


[1] 請求の原因第一項(当事者)の事実中、原告主張一覧表の各「接種の状況」欄記載の事実のうち当事者間に争いのある事実については、以下「事実認定表」(二)のとおり各証拠により認定し、その余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

事実認定表(二)
原告主張一覧表番号争いのある事実につき認定した事実認定に供した証拠〈略〉
(一)(1)「接種場所」は東海村母子保健センターである。
  (2)「接種担当者」は看護婦である。
(三)「実施主体」は磐田市である。
(一四)「実施主体」は迫町である。
(一五)「ワクチンの種類」欄記載の1百日咳・ジフテリア二種混合ワクチンの「実施主体」は東京都中野区である。
(一七)「接種担当者」は保健婦である。
(一八)(1)「接種の性質」は昭和45年法律第111号による改正前の予防接種法6条の2、10条1項1号所定の第1期定期接種である。
   (2)「実施主体」は医療法人柏提会である。
(二〇)「接種担当者」は看護婦または保健婦である。
(二三)「実施主体」は室蘭市である。
(二七)「実施主体」は東京都世田谷区である。
(二八)「実施場所」は東京都北区立滝野川第四小学校である。
(三五)「接種担当者」は保健婦である。
(三九)「実施主体」は苅田町である。
(四〇)「実施主体」は東京都である。
(四四)「実施主体」は浜田市である。
(四五)「接種の性質」は尾鷲市の勧奨による接種である。昭和48年(ワ)第4793号外事件〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和43年度の日本脳炎ワクチンの勧奨接種の実施につき各都道府県知事宛に「昭和43年度における日本脳炎予防特別対策について」と題する通知を発しているところ、同通知によれば、日本脳炎予防特別対策の実施対象は日本脳炎多発地域の生後6か月から15歳までの乳幼児及び小中学校児童並びに満55歳から64歳までの高齢者を重点対象とするとあり、被害児勝生(45の1)は本件接種当時17歳8か月で右重点対象には該当していない。しかしながら、右通知によれば、右特別対策のほか日本脳炎の一般防疫対策については、昭和32年7月18日衛発第592号通知「日本脳炎の予防対策について」を参考として実施されたいとあり、同通知には、日本脳炎の予防接種について、感受性対策として積極的に予防接種を受け免疫性を得ておくことは、本病予防対策の一環として重要であるので、勧奨によりその普及に努めることとある(同通知の内容は公知の事実である)。従つて、公衆衛生局長は各都道府県知事に対し、右特別対策の重点実施対象者以外の者についても勧奨接種を実施するよう行政指導を行つたものと認められる。右事実に下に掲げる各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、被害児勝生(45の1)は、右行政指導に基づき尾鷲市が実施した日本脳炎ワクチンの勧奨接種を受けたものと認められる。
(四六)「実施主体」は岡山市である。
(四七)「実施主体」は江原斌雄である。
(五〇)「実施主体」は吹田市である。
(五四)「接種の態様」は集団接種である。被害児末次展敏(54の1)は昭和32年9月26日に接種を受けた種痘が不善感であつたため判定会場において再接種として本件接種を受けたものであり、同会場では不善感の判定を受けた者全員に対する接種を予定していたから、当日接種を受けた者は被害児展敏(54の1)のみであるが、これは個別接種ではなく集団接種と認められる。
(五五)(1)「接種場所」は岩手県釜石市立小佐野小学校保健室である。
   (2)「接種担当者」は看護婦である。

[2]二1 請求の原因第二項(事故の発生)の事実のうち、原告主張一覧表「接種後の状況」欄記載の事実中次表の「事実認定表」(三)記載の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

事実認定表(三)
原告主張一覧表番号「接種後の状況」欄記載の事実のうち争いのない事実
(一)昭和39年11月9日夜、ひきつけ、意識障害を起こし、体温は41.9度にもなつていた。
(二)昭和45年3月18日、熱が39度2分にも上がり、同月27日、けいれん発作を生じ、同月28日昼死亡するに至つた。
(三)昭和42年3月15日、39度の発熱があり、翌16日けいれんを起こし浜松聖隷病院に入院した。
(四)昭和39年4月29日、けいれんを起こし、その後奈良県立医科大学付属病院に入院した。
(五)昭和38年6月18日、発熱し、同月24日、40度の高熱を発し、けいれん発作が始まり、埼玉中央病院に入院した。
(六)接種の翌日から39度の発熱があつた。
(七)昭和38年11月25日、広島大学付属病院小児科へ入院し、種痘後脳炎との診断を受け、治療を受けた。
(八)接種後5日位経た昭和38年9月15日ころ、けいれん発作を起こし、その後けいれん発作が頻発し、昭和44年5月12日、死亡するに至つた。
(九)昭和40年4月22日、発熱、嘔吐、けいれんを起こした。
(一〇)昭和40年12月2日ころ、39度の発熱があり、その後ひきつけを起こした。
(一一)昭和42年10月23日、けいれん発作を頻発し、その後関西医大病院に入院した。
(一二)昭和41年9月23日、発熱、けいれんを起こし、翌昭和42年2月15日以降屡々けいれん発作を繰り返すようになつた。
(一三)接種後2週間後に発熱し、約3日後両下肢に麻痺が生じ、昭和42年11月11日、横浜市民病院に入院し、脊髄性小児麻痺と診断された。
(一四)昭和45年3月18日に38度の発熱があり、同月20日午前6時ころ死亡した。
(一五)接種の翌日から高熱を発した。
(一六)接種直後、悪寒、発熱が始まり、翌昭和35年4月7日午前4時30分死亡するに至つた。
(一七)昭和33年10月15日、発熱し、同月17日、住友病院において種痘後脳炎と診断を受け、同日から同病院に入院し治療を受けた。
(一八)昭和41年4月27日ころから高熱を発し、高熱は約5日間続き、その後難聴となつた。
(一九)昭和31年12月15日発症し、昭和32年2月6日死亡するに至つた。
(二〇)昭和41年11月8日夜、けいれん発作を起こし、39度の発熱があり、同月13日死亡するに至つた。
(二一)昭和33年5月23日、発熱、けいれん発作があり、直ちに下谷病院小児科に入院し、種痘後脳炎と診断された。
(二二)昭和43年2月27日発熱し、翌々日の同月29日死亡するに至つた。
(二三)昭和41年12月20日ころから発熱があり、同月29日昏睡状態に陥り、同月31日死亡するに至つた。
(二四)昭和43年6月8日発熱し、けいれん発作が起きた。
(二五)昭和36年4月3日ころ39度の高熱を発し、同月6日死亡した。
(二六)昭和40年7月7日全身性のけいれんを起こした。
(二七)昭和44年9月23日ひきつけを起こし、その後東京女子医科大学病院小児科等で治療を受けた。
(二八)昭和39年5月21日ころ意識障害を起こし、日本医科大学附属病院に入院した。
(二九)昭和36年3月5日千葉大学医学部附属病院に入院し治療を受けた。
(三〇)昭和48年7月1日ひきつけ、発熱を起こし、同月7日東京都立荏原病院において死亡した。
(三一)昭和44年12月13日高熱のため意識不明となり、同月16日昭和大学病院小児科に入院した。
(三二)昭和42年11月16日けいれん発作を起こし、その後昭和大学病院小児科で治療を受けたが、昭和48年11月13日死亡するに至つた。
(三三)昭和40年6月7日発熱、けいれん発作を起こし、同月26日以降東京大学医学部附属病院小児科において治療を受けるようになつた。
(三四)昭和46年10月28日ひきつけを起こし、いわき市立総合磐城共立病院において治療を受けた。
(三五)昭和39年12月20日死亡した。
(三六)昭和39年3月14日発熱、ひきつけを起こし、その後名古屋市立大学病院小児科に入院し治療を受けた。
(三七)昭和36年8月3日大阪大学医学部附属病院小児科に入院した。
(三八)昭和45年10月21日よりけいれんを起こし、同月22日大阪市立十三市民病院に入院し、同月24日大阪市立桃山病院に転院した。
(三九)昭和33年10月15日けいれんを起こし、国立小倉病院に入院し治療を受けたが、昭和45年8月20日死亡した。
(四〇)昭和37年12月14日発熱、けいれんを起こし、昭和38年1月21日から同年8月8日まで東京都立大塚病院小児科に入院し治療を受けた。
(四一)昭和45年5月26日ひきつけを起こし意識不明となり、東京女子医科大学第二病院小児科において呼吸困難、けいれんを起こし、種痘後脳炎と診断され治療を受けた。
(四二)両下肢弛緩性麻痺が現われ、岡山大学医学部附属病院小児科において急性灰白髄炎と診断された。
(四三)昭和35年4月発熱、けいれんを起こした。
(四四)昭和34年11月17日浜田市内の斉藤医院に入院した。
(四六)昭和47年6月30日から発熱し、同年7月4日国立岡山病院において死亡した。
(四七)昭和43年4月8日けいれんを起こし、同日西宮回生病院において死亡した。
(四八)昭和38年6月14日東京都立大塚病院において死亡した。
(五〇)昭和37年12月4日夜から発熱、けいれん発作を起こし吹田市民病院に入院した。
(五一)昭和38年3月23日発熱、嘔吐があり、同月24日にはひきつけ、けいれんを起こし、同年4月7日死亡した。
(五二)昭和48年6月24日夕発熱し、夜にはけいれんを起こし、宮坂病院に入院したが同月26日死亡した。
(五三)けいれん発作が起こつた。
(五四)昭和33年10月8日発熱、吐乳し、同月19日死亡した。
(五五)昭和44年11月13日の夕方には発熱があり、同月16日になり熱が40度に上がり、同月19日けいれんが始まり、意識不明に陥り、同月20日岩手医大病院へ転院したが、常時介護を要する重度の心身障害児となつてしまつた。
(五六)昭和27年10月27日けいれんを起こした。
(五七)昭和44年4月14日死亡するに至つた。
(五八)けいれん発作を起こした。
(五九)昭和48年11月20日の夕方嘔吐、けいれん発作が起こり、けいれんは止まらず、静岡済生会病院に入院した。
(六〇)昭和49年4月28日から発熱し、同月30日にはけいれん発作を起こしてこん睡状態となり、同年5月2日静岡済生会病院に入院小児科に入室して種痘後脳症と診断された。
(六一)昭和37年11月22日発熱し、その後嘔吐を起こし、東京医科大学病院に入院し治療を受けた。
(六三)接種後に発熱し、その後全身に脱力状態が現われた。

[3] 前掲の争いのない事実及び以下に掲げる「事実認定(証拠)表」(四)に記載の各証拠を総合すれば、各被害児は、原告主張一覧表「接種後の状況」及び「現在の症状」欄、各記載のとおり、本件各接種(インフルエンザワクチン、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風3種混合ワクチン等のうち、1種類または2種類の接種)を受けた後、死亡し、あるいは重篤な後遺障害を有するに至つた各事実が認められる。

事実認定(証拠)表(四)《略》

[4]三1 請求の原因第三項(因果関係)1の事実中、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こる事実及びインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こる事実を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

[5] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、西ドイツ、マツクス・プランク脳研究所クリユツケ教授の論文(甲第160号証)が、ポリオ生ワクチン接種後12日から25日を経て、全過程20ないし60日で死亡した6剖検例の神経病理学が、いずれも遅延型アレルギー反応の神経障害を明示していることについて記述していること、埼玉医科大学精神科の皆川正男らの論文(甲第162号証)が、ポリオ生ワクチン接種後約7日後に急性脳症を呈し半球萎縮を残した剖検例が存在することについて記述していること、がそれぞれ認められる。
[6] 〈証拠略〉によれば、昭和36年のポリオ生ワクチン使用を契機として翌37年に結成されたポリオ監視委員会がポリオ生ワクチンの調査(サーベイランス)として副反応の臨床分類をした結果、昭和37年から昭和49年までの間にC型(ポリオとは考えにくい症例。臨床的に外傷、脳腫瘍、脳血管障害、脳炎、脳症小児麻痺などと診断されるもの、麻痺を伴わないものなどが含まれる。ただし、厳密な意味ではポリオウイルス感染症を否定できない。)に分類された症例が、101件その割合は14.3パーセントに達したことが認められる。
[7] 〈証拠略〉によれば、予防接種リサーチセンターの副反応研究班が集計したわが国のポリオ生ワクチン接種後に生じた副反応の報告例の中には,接種後1か月以内に30例の脳炎、脳症の発生が報告されていること、2種混合ワクチン、3種混合ワクチン、インフルエンザワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況は、2種混合ワクチン、3種混合ワクチンでは接種後4日以降、インフルエンザワクチンでは接種後11日以降は、何ら脳炎、脳症が発生しておらず、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況は、これらのワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況とは異なつていること、が認められ、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生がポリオ生ワクチン接種とは無関係な偶発的なものにすぎないとは言い難いことが認められる。
[8] 〈証拠略〉によれば、ポリオに感染した場合の病型として脳炎型があること、昭和30年から昭和35年までの間に東京大学医学部小児科において扱つたポリオ患者のうち8名、2.5パーセントが脳炎型を示したこと、が認められる。
[9] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こる機序について以下のとおり説明され得ることが認められる。即ち、急性脳症を起こす典型例に疫痢に罹患した場合があるが、この場合は赤痢菌が腸内に感染して腸壁で増殖する時にヒスタミンあるいはヒスタミン様の物質を産出し、この物質が脳の血管の拡張、収縮をもたらし急性脳症を惹起するものであると説明されている。また、ヒスタミンを幼若犬の頸動脈に注入した結果、脳に血管けいれんが起き、そのために脳の神経細胞が破壊されたという実験結果が報告されている。そして、ワクチン接種によつて肥伴細胞の免疫抗体(IgE)にワクチンが働き、そこからヒスタミンが放出されるということも明らかにされている。従つて、ポリオ生ワクチン接種により、疫痢の場合と同様に腸壁でヒスタミン様物質が産出され、あるいは肥伴細胞からヒスタミンが放出され、かかる物質が脳血管のけいれんを導き急性脳症を惹起するという仮説を立てることが可能である。更に、ポリオ生ワクチンは、猿の腎臓細胞にウイルスを培養して製造されたものであるから、ウイルスと腎細胞との間で有害物質が産出される可能性もあり、ワクチンに培地、培養細胞、臓器由来の有害物質が入ることを防ぐことはできず、また、ワクチンにはチメロサール等の保存剤等が添加されており、これらの物質が急性脳症やあるいは遅延型アレルギー反応を起こすことも考えられる。
[10] 以上認定の諸事実を総合すれば、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こり得ることにつき経験則上高度の蓋然性があると認められる。
[11] 右認定に反する証人木村三生夫の証言(第1、2回)は以下のとおりの理由によつて採用しない。
[12] 木村三生夫証人は、ポリオ生ワクチン接種の副反応として脳炎、脳症が起こらない根拠として、第一にポリオが流行した時代にポリオ脳炎と呼ばれる症例がごく稀に存在したが、かかる症例がポリオウイルスによつて起こつたか否かについてはポリオウイルスが分離されておらず不明であること、第二にポリオウイルスに脳炎を起こす性質がごく稀にあつたとしてもポリオ生ワクチンは猿の脳の中に注射をして異常のなかつたものが検定に合格しているのであるから、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎を起こす例はもつと少なくなるはずであること、第三に幼児には原因不明による脳炎、脳症が起こるから、ワクチンと脳炎、脳症との間の因果関係を肯定するためには、ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生率が原因不明による脳炎、脳症の発生率を越えた疫学的な有意差を持つたものでなければならないが、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生にはかかる有意差が認められないこと、第四にポリオ生ワクチン接種後に起こつた脳炎、脳症と見られる症例の発生状況を見ても、接種当日から1か月以後まで一様に分布しており、種痘後脳炎のような特定の時期に集積してその脳炎が起こつたということがないこと、第五にポリオ生ワクチンが猿の腎臓で増殖培養して製造されるためワクチン中に猿の腎臓という異種たん白を含んでいるとしても、日常異種たん白である卵や肉を食べても脳炎や脳症が起こることはないのであるから、経口投与されたポリオ生ワクチンに含まれる異種たん白が脳炎、脳症を起こすとは考えられないこと、第六にクリユツケの論文(甲第160号証)、皆川正男らの論文(甲第162号証)は、いずれもポリオ生ワクチン接種後に見られた脳炎、脳症がポリオ生ワクチン接種のウイルス感染によつて起こつたものであることを明らかにしているものではないこと、等があげられる旨証言する。
[13] しかしながら、第一の点については、証人白木博次の証言によれば、遅延型アレルギー反応はウイルス自体が脳に行かなくてもウイルスが引金となりウイルス以外のあるいはウイルスによつて作られた他の何かによつて起こり得るものであり、ウイルスが分離されなければウイルスと脳炎との因果関係は認められないというものではないことが、第二の点については、証人白木博次の証言によれば、ポリオ生ワクチンはある程度ポリオウイルスと同じような変化を生体に生ぜしめるものでなければ免疫抗体を作ることができないから、猿の脊髄にポリオ生ワクチンを注射した場合脊髄に軽い炎症を起こすものでなければ検定に合格しえないことが、第三の点については、証人白木博次の証言によれば、副反応の3つの型である急性脳症、ウイルス血症、アレルギー性脳炎のそれぞれによつて潜伏期が異なるということを考慮したうえ調査が行われているか否か疑問であり、ポリオの調査(サーベイランス)に当つて急性脳症系の潜伏期が7日以上のものが切捨てられ、疫学的統計の中で原因不明の脳症として処理されている可能性があること、調査方法自体が被接種者全員について副反応の発生の有無につき追跡調査を行うという方法ではなく、正確な統計とは言い難いこと、副反応の発生には個体側の条件が非常に重要であり、個体差を無視した統計学的処理は医学的に正しいものではないことが、第四の点については、右のとおり集積性判断のための資料の正確性に疑問があるうえ、木村三生夫証人が証言している集積性の判断のために使用している資料は、〈証拠略〉によれば30例にすぎずそこから集積性についての正確な判断ができるかどうかにも疑問があり、右の症例30例について見れば、脳炎、脳症がポリオ生ワクチン接種後1日から11日以内に集積性を持つて発生したものと認めることもできることが、第五の点については、証人白木博次の証言によれば、異種たん白である魚や卵を食べた場合にアレルギー性反応を起こすことはよく知られており、またポリオ生ワクチンの接種は生きたウイルスを含んでいるから赤痢菌が腸壁でヒスタミン物質を作ると同様にポリオウイルスが腸においてヒスタミンを作る可能性もあり、単なる食事と同列に扱うことができないことが、また、〈証拠略〉によれば、ポリオ生ワクチンの製造過程に用いられる物質に対するアレルギー症状として、サルアレルギー及び絹アレルギーの症例報告があることが、第六の点については、証人白木博次の証言によれば、ウイルスが脳に行かなければアレルギー性脳炎が起こらないという考えは否定されており、クリユツケ論文は慎重な記載ではあるがポリオ生ワクチン接種とアレルギー性脳炎の因果関係を肯定しているものと言えることが、それぞれ認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫のポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症は起こらないとの証言は採用しないこととする。

[14] 請求の原因第三項(因果関係)3の事実中、アメリカ合衆国において昭和51年(1976年)10月1日から同年12月16日の間に行われたAニユージヤージー型インフルエンザワクチンの接種によつてギラン・バレー症候群の多発が認められた事実は当事者間に争いがない。
[15] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、クリユツケの論文(甲第169号証)がインフルエンザ様症状の自然感染によつてアレルギー性脳炎が起こつた剖検例が存在することについて記述していること、インフルエンザワクチンの接種はインフルエンザの自然感染に似たようなものであつて、毒性のないウイルスが感染するだけであり、インフルエンザワクチンに含まれるウイルスは不活化されてはいるがウイルスの化学的物質は残つていること、アレルギー性機構があつた場合に遅延型アレルギー反応が末梢神経に現われれば多発性神経炎に、脳に現われれば脳炎になるのであるから、Aニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種により末梢神経の遅延型アレルギー反応である多発性神経炎(ギランバレー症候群)が起こる以上、同じ発生機序によりインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が発生することが充分考えられること、がそれぞれ認められる。
[16] 以上の事実を総合すれば、インフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こり得ることにつき経験則上高度の蓋然性があると認められる。
[17] 右認定に反する証人木村三生夫の証言(第2回)は以下のとおりの理由によつて採用しない。
[18] 木村三生夫証人(第2回)は、インフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こるとは考え難い根拠として、第一にインフルエンザワクチンには狂犬病ワクチンや日本脳炎ワクチンと違い神経性組織が含まれていないこと、第二にインフルエンザワクチンは非常に多数の者に対して接種が行われているが、アレルギー性脳炎と考えられる症例数は偶発的に起こるアレルギー性脳炎の発生頻度を超えているとは認められないこと、第三にアメリカ合衆国においてAニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種によつてギランバレー症候群が多発したことの発生機序がよくわかつておらず、同ワクチン接種によつてアレルギー性脳脊髄炎は起こつていないこと、第四にインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎やギランバレー症候群が起こつたということは明らかでなく偶発性のものかどうか不明であること、等があげられる旨証言する。
[19] しかしながら、第一の点については、証人白木博次の証言によれば、インフルエンザワクチンは鶏卵培養するため卵たん白が含まれており、これがアレルギー反応を起こすことが考えられること、第二の点については、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、わが国におけるインフルエンザワクチンによるアレルギー性副反応については現在調査中であることが認められ、インフルエンザワクチン接種後のアレルギー性脳炎の発生頻度が正確に把握できていない以上これと偶発的アレルギー性脳炎の発生頻度を比較することはできないこと、第三及び第四の点については、前記のとおり証人白木博次の証言により、Aニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種によるギランバレー症候群の発生という事実からインフルエンザワクチン接種によるアレルギー性脳炎の発生を肯定することに合理性があること、がそれぞれ認められ、これらの事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫(第2回)のインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こるとは考え難いとの証言は採用しないこととする。

[20] 証人白木博次の証言によれば、ワクチン接種とその後に発生した疾病との因果関係を肯定するための要件としては、次の4つの要件をあげるのが合理的であると証言している。
[21] 即ち、
「1 ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること。
 時間的密接性とは、発症までの時間(潜伏期)が一定の合理的期間内におさまつていることを意味するが、ワクチンによる神経性障害の3つの型(急性脳症型、ウイルス血症型、遅延型アレルギー反応型)により異なり、更に被接種者の個体差があるため一定の時間を頂点に自然曲線をえがき、従つて長短一定の幅があることが認識されなければならない。更に免疫学と神経病理学の双方の総合考慮やワクチンの接種が経口であるか、皮下接種であるか、皮内接種であるか、も潜伏期間を考慮する上で必要である。以上のような時間的密接性はまた、脳、せきずい、末梢神経等のうちどの部位が侵されるかによつても変わるのである(空間的密接性)。
2 他に原因となるべきものが考えられないこと
 これは、他の原因が、一般的抽象的に考えうるというのでは足りず、具体的に存在したことが明らかであり、かつその原因と障害との間の因果の関係も明らかとなつているものでなければならない。
3 副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。
 この要件は、1、2の要件程に重要ではないが、従前全く見られなかつた症状が強烈にあらわれるということである。
4 事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。
 これは、事故発生のメカニズムについての知見が既存の科学的知見と整合し、それらによつて説明されうるということである。」
の4要件である。
[22] もつとも、右の要件について、被告である国は、右の要件は因果関係の存否の判断のための基準としては有用性に乏しく、専ら本件訴訟における患者の救済の必要性にのみ視点を置いた立論であると主張し、その理由として、
「一般的に、医療行為と結果発生(障害)との因果関係については、訴訟上の立証の程度としては、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるとされている。ここでいう高度の蓋然性の証明は、一般論としての結果発生の蓋然性と具体的事例における結果発生の蓋然性の2つが求められていると考えるべきである。ところで、通常、予防接種後の神経系疾患の臨床症状や病理学的所見は、予防接種以外の原因による疾患のそれと異るものではないため(非特異性)、具体的に発生した疾患が予防接種によるものであるか、あるいは他に原因があるかを的確に判定することは困難である。特に、脳炎・脳症においては、もともと原因不明なものが全体の60パーセントないし70パーセントを占めており、その判定は、より困難である。そこで、一般論として、あるワクチン接種によつて、ある疾病(本件訴訟に即していえば、脳炎・脳症)が起こり得るというためには、接種から一定の期間内に発生した疾病が、それ以外の期間における発生数よりも統計上有意に高いことを示す信頼できるデータが存在し、かつ、当該予防接種によつて、そのような疾病が発生し得ることについて、医学上、合理的な根拠に基づいて説明できること、を要件とすべきである。次に、現実に発生した疾病が、接種したワクチンによつて起こつたとするためには、接種から発症までの期間が、好発時期、あるいはそれに近接した時期と考えられる中に入り、かつ、少なくとも他の原因による疾病と考えるよりは、ワクチン接種によるものと考える方が、妥当性があること、を要件とすべきである」
と主張する。
[23] 証人木村三生夫(第2回)は、ワクチン接種とその後に発生した疾病との因果関係を肯定するためには、ワクチン接種後特定の時期に特定の疾病が当該疾病の通常の発生率を超えた頻度で発生することが必要である旨証言する。
[24] しかしながら、同人の証言によつても、わが国においてワクチン接種後の疾病発生状況について正確な調査が行われているとは言えず(当裁判所は右の調査の義務は被告国が負うべきものと考える。)、当該疾病の通常の発生率とワクチン接種後の発生率を比較するということが理論的には可能であつても、実際の統計値として有意の差になつて現われるとは言い難いことが認められ、これを因果関係の判断基準としてあげることは適当でない。
[25] そして、被告国が主張する要件の1及び4は原告らが主張し、証人白木博次が証言する要件の3と、被告国が主張する要件の2は原告らが主張し、前記同証人が証言する要件4と、更に被告国が主張する要件3は、原告らが主張し、同証人が証言する要件1に対応して考えることができる。
[26] そこで検討するに、本件でのワクチン接種と重篤な副反応との因果関係の存否を判断する基準というのは、訴訟上は、結局のところ、裁判所の事実認定の問題として、右の因果関係があるといえるかどうかの問題ということができる。
[27] ところで、右の観点から、本件における因果関係の存否の問題について、原被告双方共、科学(医学)上の証明として論理必然的証明への努力をなしており、双方共にわが国医学界の最高峰に在る証人の証言によつてこれを立証しようとしていることが認められる。しかしながら、訴訟上におけるその証明は科学的証明とは異なり、科学上の可能性がある限り、他の事情と相俟つて因果関係を認めても支障はなく、またその程度の立証でよいというべきである。
[28] そこで、当裁判所としては、原告被告双方の主張並びにその立証活動を比較検討した結果、本件においては、被告の主張も考慮に入れたうえで、原告主張の4つの要件の存在をもつて、因果関係存否の判断基準とすることが合理的であると認め、以下、右の基準に従つて判断する。

[29]5(一) 請求の原因第三項(因果関係)5の事実中、本件各事故のうち被害児吉原充(1の1)、同白井裕子(2の1)、同山元寛子(3の1)、同阪口一美(4の1)、同沢柳一政(5の1)、同葛野あかね(7の1)、同服部和子(9の1)、同田部敦子(12の1)、同田中耕一(13の1)、同千葉幹子(14の1)、同佐藤幸一郎(16の1)、同渡邊和彦(17の1)、同徳永恵子(18の1)、同鈴木増己(19の1)、同越智久樹(20の1)、同小林浩子(21の1)、同上野一樹(22の1)、同山本勉(23の1)、同平野直子(25の1)、同卜部広明(26の1)、同鈴木浅樹(27の1)、同小林正樹(28の1)、同中川敦子(29の1)、同田渕豊英(30の1)、同吉川雅美(31の1)、同河又典子(34の1)、同加藤則行(36の1)、同藤本美智子(37の1)、同矢野由美子(39の1)、同高田正明(40の1)、同福島一公(41の1)、同池本智彦(42の1)、同猪原泉(43の1)、同室崎誠子(44の1)、同高橋真一(46の1)、同塩入信吾(47の1)、同藤井玲子(50の1)、同杉山健二(52の1)、同渡邊明人(53の1)、同末次展敏(54の1)、同古川博史(56の1)、同阿部佳訓(57の1)、同高橋純子(58の1)、同藁科正治(59の1)、同秋田恒希(60の1)、同野口恭子(62の1)、同藤木のぞみ(63の1)に関するものが本件各接種に起因するものである事実は、当事者間に争いがない。
[30](二) 本件各事故のうち被害児尾田真由美(6の1)、同布川賢治(8の1)、同依田隆幸(10の1)、同伊藤純子(11の1)、同梶山桂子(15の1)、同井上明子(24の1)に関するものが本件各接種に起因するものであるとの事実につき、被告国は初めにこの事実を自白したが、その後徹回を主張するので、右自白の徹回が許されるか否かについて判断する。
[31] 自白の徹回が許されるためには、自白の内容が真実に反し、かつ錯誤に基づくものであることが必要であると解されるので、まず右自白が真実に反するものであるか否かについて、右各被害児について順次判断することとする。
(1) 被害児尾田真由美(6の1)について
[32] 前記二で認定した原告主張一覧表(六)の「接種後の状況」欄記載の事実(〈証拠略〉)によれば、被害児真由美(6の1)が本件接種後2週間目位に最初のけいれん発作を起こし、生後6か月過ぎころからけいれんが段々激しくなり、発作の回数も増えて行つた事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児真由美(6の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、右眼斜視や小発作の発現は脳幹部が損傷を受けたことによるものと考えられ、その原因としては、アレルギー性脳炎が想定されること、右発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後14日目ころの発症であり、種痘接種による遅延型アレルギー性脳炎の潜伏期に充分該当すること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、一旦損傷を受けた脳幹部はその後発育せず、脳の他の部位が発育するにつれて不均衡が生じ、その結果発作の形態が変化し、点頭てんかんが起きるようになり、その重積発作により同児は死亡するに至つたということが充分説明可能であること、同児は本件接種前にけいれん発作を起こしたことはなく、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的には考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであり、なおまた死亡するに至つていること、種痘接種によりアレルギー性脳炎が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[33] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[34] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件接種後の臨床症状には脳症や脳炎の発症を認めるに足るだけのものはなく、また、種痘接種後にてんかんが集積性を持つて有意な差で発現したという報告例もないから、同児の本件事故が本件接種に起因するものとは認められない旨証言する。
[35] しかしながら、同証人の右証言は、同児の本件接種後の症状経過につき、もつぱら〈証拠略〉の入院カルテにのみ基づき判断し、同児の母節子(6の3)本人尋問の結果(第1、2回)には基づかないものであり、同証人の右証言によつても、最初の発作の後ですぐ斜視が出現したとすれば本件接種と因果関係がある脳障害が存在したことを肯定しているものであつて、以上によれば、当裁判所としては、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[36] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(2) 被害児布川賢治(8の1)について
[37] 前記二で認定した原告主張一覧表(八)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児賢治(8の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、同児の症状はアレルギー性脳炎によりけいれん発作の後遺症が生じ、その大発作重積による心臓麻痺により死亡した典型例と認められること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後5日目であり、脳の狭い部位に病巣が生ずれば早く症状が出現するから、本件接種後5日目の発症は種痘接種によるアレルギー性脳炎の潜伏期の範囲内に充分入つていること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は鉗子分娩により出生しているが、仮死出産ではないから出産の際に脳に損傷を受けたとは考えられず、その後の成長は本件接種を受けるまで順調であつたから、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであり、なおまた死亡するに至つていること、種痘接種によりアレルギー性脳炎が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[38] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[39] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故が本件接種に起因するものとは言い難い旨証言し、その根拠として、同児が本件接種により善感したかどうか不明であり、善感がない場合は種痘による脳炎、脳症は起こり得ないこと、同児の症状経過に照らしても、発熱がないから同児のけいれんを脳炎、脳症によるものと認めることはできず、本件接種前に脳に障害を持つていたことによると考えるのが妥当であること、本件接種の影響を肯定するとしても,せいぜいかかるてんかん素因を有する同児に対し第1回目のけいれんを誘発した可能性がないとは言えないという程度の影響しかなく、その後のけいれんの頻発とは関係がないと言えること、等をあげる。
[40] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同児が本件接種により善感したことが認められ、また、証人白木博次の証言によれば、善感していない場合でも種痘後脳炎、脳症は起こり得ること、前記のとおり同児の発症は症状経過に照らしアレルギー性脳炎と認められること、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへと拡大発展して行くことが考えられること、が認められ、右に認定した事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[41] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(3) 被害児依田隆幸(10の1)について
[42] 前記二で認定した原告主張一覧表(一〇)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児隆幸(10の1)の発症後の症状経過に照らすと、アレルギー性脳炎が考えられないこともないがどちらかと言えば急性脳症が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後6日ないし7日目の発症であり、急性脳症の潜伏期としては遅い方ではあるが、ワクチンの種類や個人差によつて急性脳症の潜伏期は異なるものであり、本件接種後6日ないし7日目の発症はなおインフルエンザワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に入ると言えること、アレルギー性脳炎の発症と見ても、接種後6日ないし7日目の発症が早過ぎるとは言えないこと、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、肺炎症状がある場合には非常に稀にではあるがインフルエンザウイルスによつて脳が侵されるという可能性があるが、同児は本件接種当時鼻水を出してはいたが肺炎症状にあつたとは認められず、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的に考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであること、インフルエンザワクチン接種により急性脳症が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められ、また、前記三3で認定したとおりインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎も起こり得るものである。
[43] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[44] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件接種と本件事故との因果関係は極めて薄いと言わざるを得ない旨証言し、その根拠として、同児の発症を脳症の発症と見ると接種後2日目の発熱は遅過ぎ、脳炎の発症と見ると接種後6日目のけいれんの発現は早過ぎることをあげる。
[45] しかしながら、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、脳炎、脳症の潜伏期はワクチンの種類や個人差によつて相当の差があり、同児の発症はなお脳炎あるいは脳症の潜伏期の範囲内に入つていると言えることが認められ、また、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、発症までの時間が人によつて随分異なることを肯定していることが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、本件接種と本件事故との因果関係は極めて薄いとの証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[46] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(4) 被害児伊藤純子(11の1)について
[47] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(一一)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児純子(11の1)の発症後の症状経過に照らすと、典型的なポリオ生ワクチン接種による急性脳症とその後遺症と認められること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後10日目の発症であるが、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるため副反応の潜伏期が延びる傾向にあり、本件接種後10日目の発症は、ポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に充分入ること、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的に考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた極めて重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[48] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[49] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する旨証言するが、その根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、同証人の考え方は採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
[50] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(5) 被害児梶山桂子(15の1)について
[51] 前記二で認定した原告主張一覧表(一五)の「接種後の状況」欄記載の事実(原告梶山喜代子(15の3)本人尋問の結果及び〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)は本件接種の翌日からけいれん発作を起こすようになつた事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児桂子(15の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、急性脳症の発症及びその後遺症であるけいれん重積発作による心臓麻痺、更に心臓麻痺による肺のうつ血によつて惹起された肺炎による死亡が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種の翌日の発症であり、種痘あるいは百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの接種による急性脳症の潜伏期に典型的に該当すること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種前に同児がけいれん素因を有していたことを窺わせるに足る事実は全くなく、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は、本件接種前には全く見られなかつた重大なものであること、種痘あるいは百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの接種により急性脳症が発症することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[52] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[53] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する旨証言し、その根拠として、本件接種の翌日にけいれんが起こつたとしても〈証拠略〉の診断書によれば発熱性の一過性けいれんにすぎないものであり、かかるけいれん発作をもつて脳炎、脳症の発症と見ることはできないこと、右の一過性のけいれんが後のてんかんの発症の原因となつたとは考えられないこと、等をあげる。
[54] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、前記のとおり同児の発症は急性脳症と認められるものであること、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへと拡大発展して行くと考えられること、が認められ、右認定した事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[55] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(6) 被害児井上明子(24の1)について
[56] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(二四)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人の白木博次の証言を総合すれば、被害児明子(24の1)の発症後の症状経過、特に髄液所見に照らすと、急性脳炎が起つたことは明らかであり、高度の知能及び運動の発達遅延状況に照らすと、右急性脳炎はポリオ生ワクチン接種による遅延型アレルギー性脳炎と考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件ポリオ生ワクチン接種後29日目の発症であり、遅延型アレルギー反応の潜伏期の範囲内に入ること、従つて、同児の本件事故は本件ポリオ生ワクチン接種と時間的、空間的に密接していると言うことができること、他のウイルス感染による脳炎であるか否かについては検査が行われ、その結果これが否定されており、本件ポリオ生ワクチン接種以外に本件事故の原因が考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた極めて重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[57] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件ポリオ生ワクチン接種に起因するものと認められる。
[58] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件ポリオ生ワクチン接種及び本件百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン接種のいずれとの因果関係も否定する旨証言するが、本件事故と本件ポリオ生ワクチン接種との因果関係を否定する根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、同証人の考え方を採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
[59] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
[60] 更に、本件全証拠によるも右各被害児の本件各接種と本件各事故の各因果関係についての被告国の自白が錯誤に基づいたものと認めることはできない。かえつて、証人木村三生夫(第2回)の証言によれば、右各被害児の各事故について審査を行つた予防接種事故審査会の医学専門家の見解が、右自白当時と現在において因果関係を否定する方向で特に変わつたということがないことが認められる。
[61] そうすると、本件における被告国の自白の撤回(取消し)は許されないものである。
[62](三) 次に本件各事故のうち被害児荒井豪彦(32の1)、同清水一弘(33の1)、同大沼千香(35の1)、同中村真弥(38の1)、同大川勝生(45の1)、同小久保隆司(48の1)、同大平茂(51の1)、同高橋尚以(55の1)、同中井哲也(61の1)に関するものが本件各接種に起因するものであるか否かについて順次判断する。
(1) 被害児荒井豪彦(32の1)について
[63] 前記二で認定した原告主張一覧表(三二)の「接種後の状況」欄記載の事実(〈証拠略〉によれば、被害児豪彦(32の1)が本件種痘接種後9日目の昭和42年11月16日午前零時過ぎに発熱、けいれんを起こした事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児豪彦(32の1)の発症後重症心身障害を起こし死亡するに至るまでの臨床症状に照らすと同児には、急性脳症が疑われること、発症までの潜伏期を考察すると、昭和42年11月16日の発熱、けいれんを発症とみると本件種痘接種後9日目であるところ、〈証拠略〉のスピレインの論文によれば、種痘後の急性脳症が2日から18日の潜伏期で発症した例があることが認められ、9日という潜伏期はやや長い方の例ではあるが、種痘後の急性脳症の潜伏期の自然曲線の中に入つていること、また、同月25日の発熱、けいれんを発症とみると本件2種混合ワクチン接種後4日目であり、2種混合ワクチン接種後の急性脳症の発生は2日以内というのが大多数であるが、4日であつてもなお自然曲線の範囲内に入つていると言えること、従つて、同児の急性脳症は本件種痘接種あるいは本件2種混合ワクチン接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件種痘接種前にけいれんを起こしたことはなく、また、同児の父母兄弟にもてんかん素因はなく、同児のけいれんが本件種痘接種や本件2種混合ワクチン接種とは無関係であり、元々のてんかんによるものであると認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた非常に強いもので、重症心神障害を起こし死亡するに至つていること、種痘や2種混合ワクチンの接種により急性脳症が発生することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[64] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件種痘接種あるいは本件2種混合ワクチン接種のいずれかに起因するものであると認められる。
[65] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故は本件接種に起因するものではない旨証言し、その根拠として、第一に昭和42年11月16日に同児に発熱、けいれんがあつたとしても、それは脳炎、脳症の症状ではなく、〈証拠略〉の船津医院のカルテによれば、同児は同日同医院において咽頭炎の所見で投薬を受けたことが認められるから、咽頭炎により発熱しその熱により熱性けいれんを起こしたとも考えられ、また、本件種痘接種により発熱し、その熱によつて熱性けいれんを起こしたものと見れるとしてもそのけいれんは一過性のものであり、脳に障害を起こす可能性はないこと、第二に昭和42年11月25日のけいれんは、本件2種混合ワクチン接種後4日目であり、通常2種混合ワクチンによつてけいれんが起こるのは当日か翌日までがほとんどであるから、本件2種混合ワクチンとの因果関係ははつきりせず、また、本件種痘接種によつて右けいれんが誘発された可能性があるとしても、右けいれんは5、6分のものであり、急性脳症と考えられるような症状ではないから、これが後に脳障害を残すことはなく、その後起こるようになつたけいれんと本件種痘接種とは因果関係がないこと、第三に同児はその後もけいれんを起こしているが、〈証拠略〉によれば右けいれんは無熱時のものであり、脳波は正常範囲という検査結果もあることが認められ、その後の症状経過に照らすと右けいれんは生来のてんかん素因によるてんかん性のものと認められること、等をあげる。
[66] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、右の第一の点については、咽頭炎による発熱があったとしてもけいれんがある以上は脳障害があつたと言えるものであり、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへの拡大発展して行くことが考えられること、第二の点については、2種混合ワクチン接種後4日目の発症はなお潜伏期の自然曲線内に入つていること、5、6分のけいれんであつても右のとおり脳に軽い病変が起こりそれが焦点となつて次々にけいれんを誘発して行くことが考えられること、第三の点については、同児は本件接種前にけいれんを起こしたことはなく同児の両親兄弟にてんかん素因を持つた者もいないことから、同児が生来のてんかん素因を有しておりその発作としてけいれんが起こつたという蓋然性は、右けいれんが本件接種に起因する蓋然性に比較し極めて低いこと、がそれぞれ認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(2) 被害児清水一弘(33の1)について
[67] 前記二で認定した原告主張一覧表(三三)「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実(〈証拠略〉によれば、被害児一弘(33の1)が本件接種当日の昭和40年6月7日の夕方に最初のけいれんを起こした後同月25日に東大病院に入院するまでの間にけいれん発作を繰り返していた事実を認めることができる。)並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児一弘(33の1)がけいれん発作を繰り返し、知能、言語の遅延、行動異常、脳性麻痺、精薄の後遺障害を有するに至つたという臨床経過に照らせば急性脳症が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種をした当夜に発症しており、2種混合ワクチン接種による急性脳症は接種当日か接種後2日以内に起こるのが大多数であるということにそのまま該当するものであり、同児の急性脳症は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種前にてんかん素因があるような症状は示しておらず、同児の家族にもてんかん素因を有する者はなく、同児に元々てんかんの素因があつたと認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の後遺症の程度は本件接種前には全く見られなかつた非常に重いものであること、2種混合ワクチン接種により急性脳症が発生することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[68] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[69] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の昭和40年6月7日のけいれんは本件接種によるものであるかもしれないが、その後のけいれんは、同児が元々有していたてんかん素因によるものと認められる旨証言する。
[70] しかしながら、前記のとおり、同児が元々てんかん素因を有していたともの認めるに足りる具体的事実は存在せず、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(3) 被害児大沼千香(35の1)について
[71] 前記二で認定した原告主張一覧表(三五)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児千香(35の1)の発症後死亡するに至る経過に照らすと、アレルギー性脳炎あるいは急性脳症が疑われるところ、〈証拠略〉の調査書添付の聴取書によれば、本件接種後5日目に脳炎症状を来たしたとの記載があるが、脳炎症状を説明できる髄液の炎症性細胞の増加の所見の記載はないから脳症であるか脳炎であるかは明らかではなく、短期間で死亡したという状況に照らせば、どちらかと言えば急性脳症が疑われること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後5日目の発症というのは、右発症が急性脳症であるとしても、前記のとおり〈証拠略〉のスピレインの論文には種痘接種後2日から18日の潜伏期で急性脳症が発生した例の記載があり、種痘接種による急性脳症の潜伏期の自然曲線の中に十分入るものであり、右発症がアレルギー性脳炎であるとしても、種痘接種によるアレルギー性脳炎の潜伏期は5日ないし10日であるからその潜伏期の中に入るものであり、いずれにしろ本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種の翌日から嘔吐や下痢を起こしているが、急性脳症の前駆症状として悪心、下痢、発熱、脱水症状等が生じ得るものであり、同児の右症状が本件接種とは無関係の消化不良性中毒症の偶発によるものであると認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なもので短期間に死亡するに至つていること、種痘接種により、急性脳症あるいはアレルギー性脳炎が生ずることがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[72] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[73] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故は本件接種に起因するものとは考えにくい旨証言し、その根拠として、第一に種痘接種により当日あるいは翌日に発熱、嘔吐、下痢等の症状を呈するということはあり得ず、それらの症状はウイルス性の冬期乳児嘔吐下痢症と考えるべきであり、〈証拠略〉にこれと同旨の記載があること、第二に接種後5日目に生じた脳炎症状は、右各症状とのつながりからみれば本件接種によるというよりは右疾病によるものと考える方が妥当であること、等をあげる。
[74] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、第一の点については、前記のとおり種痘接種による急性脳症の前駆症状として接種当日あるいは翌日に発熱、嘔吐、下痢等が生ずることがあること、第二の点については、偶発的消化不良症により発熱、嘔吐、下痢等が生ずることはあるが、本件接種と時間的、空間的な密接性をもつて本件事故が生じている以上、本件事故が偶発的消化不良症により起つたという蓋然性は、本件事故が本件接種により起こつたという蓋然性に比し極めて乏しいものと考えられること、がそれぞれ認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(4) 被害児中村真弥(38の1)について
[75] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(三八)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児真弥(38の1)の発症は本件接種後6日目であるが、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるため皮下接種に比べて抗体価の上昇が遅く、従つてポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期は皮下接種のものに比べて長くなり、本件接種後6日目の発症はポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に入ること、同児の発症経過に照らせば本件事故は最も典型的なポリオ生ワクチン接種により起こつた急性脳症及びその後遺症であると認められること、他に本件事故の原因は考えられないこと、同児の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた非常に重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[76] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[77] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係は否定的である旨証言するが、その根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については前記三2で認定したとおり、当裁判所としては同証人の考え方は採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
(5) 被害児大川勝生(45の1)について
[78] 前記二で認定した原告主張一覧表(四五)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、日本脳炎ワクチン接種により急性脳症やアレルギー性脳脊髄炎が起こるところ、アレルギー性脳脊髄炎の中には中枢神経が冒されるものと末梢神経が冒される多発性の神経炎型とがあること、被害児勝生(45の1)は本件接種後6日目に急死しているが、日本脳炎ワクチンは皮下接種であるから、6日という期間に照らせば急性脳症よりはアレルギー性脳脊髄炎の発生が疑われ、同児の突然死の原因としては、心臓、肺、横隔膜を支配する自律神経系に多発性神経炎が起こり心臓や呼吸が停止したことが考えられること、右のように考えれば同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は気管支喘息と肋間神経痛の持病を有していたが、これらの疾病で死亡したとする可能性は、右のように本件接種による自律神経系の多発性神経炎によつて心臓、呼吸の停止が起き死亡したとする蓋然性に比し極めて低いこと、他に本件事故の原因は考えられないこと、同児の症状経過は本件接種後6日目に急死したという極めて重大なものであり、本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、同児が死亡するに至つた原因は右のとおり説明し得ること、がそれぞれ認められる。
[79] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[80] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の臨床症状に照らすと脳脊髄炎をうかがわせるものはなく、自律神経の多発性神経炎というものもあまり聞かず、同児の死亡は原因不明の突然死であつて本件接種とは関係がない旨証言する。
[81] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同児は本件接種当時17歳の高校生でそれまで順調に成長し、普通に学校に通い、特に野球部の選手としてスポーツに励んでいたことが認められ、このような同児が原因不明の突然死をしたとするのは不合理であり、証人白木博次が証言するように、そのような突然死の可能性は、本件接種のアレルギー反応による自律神経系の多発性神経炎による死亡の蓋然性に比し著しく低いと言わざるを得ず、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言を採用しないこととする。
(6) 被害児小久保隆司(48の1)について
[82] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(四八)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児隆司(48の1)は本件接種後4日目に意識不明、両下肢筋強剛、膝蓋反射両則亢進等の症状を示し死亡するに至つているが、右症状は急性脳症と見ることができるところ、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるから副反応の潜伏期が延びる傾向にあり、本件接種後4日目の発症というのはポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期に充分入ること、右事実に照らせば、同児の本件事故は、本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種当夜から嘔吐、発熱、下痢を起こしたことが認められるが、ポリオ生ワクチン接種による急性脳症の前駆症状としてそれらの症状が生じ得るところ、これらの症状が消化不良によるということを認めるに足る具体的事実は存在せず、仮にその可能性があるとしてもその蓋然性は本件接種によるものとするのに比して極めて低く、他に本件事故の原因となるべきものは考えられないこと、同児の症状経過は本件接種後4日目に死亡したという極めて重大なものであり、本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、がそれぞれ認められる。
[83] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[84] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、第一にポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こらないこと、第二にポリオ生ワクチン接種により下痢が生ずるか否か不明であり、同児の本件接種当日に生じた嘔吐、発熱、下痢の症状に照らせば、消化不良性中毒症である可能性が高く、それにより死亡したと認める方が妥当であること、をあげる。
[85] しかしながら、第一の点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症は起こらないとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、証人白木博次の証言によれば、同児の本件接種当日の症状が消化不良によるものであるとしてもその消化不良の原因としては本件接種による蓋然性が高いことが認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(7) 被害児大平茂(51の1)について
[86] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(五一)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児茂(51の1)は本件接種後2日目にひきつけ、けいれんを起こし、接種後16日目に再びひきつけを起こし死亡したものであつて、右症状経過に照らせば本件接種後2日目に急性脳症を起こしたものと見ることができ、これはワクチン接種による急性脳症の潜伏期に合致することが認められ、右事実に照らせば同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種後に生じた発熱、嘔吐、下痢等の症状も本件接種に原因する可能性があり、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが存在したという具体的事実は認められないこと、同児の発症後死亡するに至るまでの経過に照らせば本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、がそれぞれ認められる。
[87] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[88] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、第一にポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こらないこと、第二に同児の本件接種後の発熱、嘔吐、下痢の症状及び浣腸で粘血便が出ていること、コーヒー様吐しや物があつて死亡していること等に照らせば、同児の症状は細菌性下痢症であると認められること、等をあげる。
[89] しかしながら、第一の点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症は起こらないとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、本件接種後の発熱、嘔吐、下痢が本件接種に原因する可能性があり、他方、同児が細菌性下痢症であつたことを認めるに足る具体的事実は存在しないことが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(8) 被害児高橋尚以(55の1)について
[90] 前記三3で認定したとおり、インフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(五五)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言及び〈証拠略〉を総合すれば、被害児尚以(55の1)の発症経過、髄液所見に照らすとアレルギー性脳脊髄炎が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると本件接種後3日目の発症であり、遅延型アレルギー反応の潜伏期の範囲内に入ること、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、他のウイルス脳炎を疑わせる所見は何一つ存在しないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には見られなかつた強烈な症状であること、がそれぞれ認められる。
[91] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[92] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故が本件接種に起因するものである可能性はかなり薄い旨証言し、その根拠として、第一にインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳脊髄炎が起こるとは考え難いこと、第二に同児には本件接種前に咽頭扁桃炎及び咳があつたものであり、これらの症状は風邪ウイルスによつて起こつたものと考えられるところ、風邪ウイルスが脳炎を起こした可能性があること、等をあげる。
[93] しかしながら、第一の点については、前記三3で認定したとおり、当裁判所としては、インフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こるとは考え難いとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、同児の脳脊髄炎が風邪ウイルスによるものであるか否かについてウイルス学的分析等はなされておらずその具体的根拠は明らかでないことが認められ、また、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、本件接種による以外に他のウイルス脳炎を疑わせる所見は何一つ存在しないことが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(9) 被害児中井哲也(61の1)について
[94] 前記二で認定した原告主張一覧表(六一)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言及び〈証拠略〉を総合すれば、被害児哲也(61の1)の症状は緑膿菌による脳脊髄炎に感染したための結果であると認められるが、同児は1か月あまりのうちに3回の本件接種とインフルエンザワクチンの任意接種(この接種を受けたことは〈証拠略〉により認められる。)を受けたものであり、これらのワクチンが抗体価の奪い合いを起こした結果緑膿菌に対する抗体価が上がらず、不顕性感染の状態で体内に生存していた緑膿菌が顕性感染に転じたという可能性があり、これを否定できるだけの具体的根拠は存在しないことが認められる。
[95] 従つて、同児の本件事故は直接的には緑膿菌による脳脊髄炎に感染したためと認められるが、なお本件接種に起因するものと認めるに足る高度の蓋然性があると認められる。
[96] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、同児の症状経過、髄液所見に照らせば、同児の症例は肺炎球菌、インフルエンザ球菌、髄膜炎菌、緑膿菌等の細菌による化膿性髄膜炎であるが、予防接種によつて化膿髄膜炎が起こるとは考えられず、また、本件接種の間隔もアメリカ合衆国の基準等に照らし特段問題があるわけではなく、免疫状態に影響があるとは考えられず、従つて、本件事故は、本件接種とは無関係の偶発的疾病によるものと考えるのが相当であることをあげる。
[97] しかしながら、前記のとおり証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、本件接種が同児の免疫状態に影響を与えた蓋然性のあることが認められ、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。

[98]四1(一) 請求の原因第四項(責任)1(一)の事実中、本件各接種のうち被害児大川勝生(45の1)が受けた接種を除くその余の接種には、法5条所定の接種、法6条の2所定の接種、法9条所定の接種、勧奨接種の4つの場合があるとの事実は当事者間に争いがない。
[99] 被害児勝生(45の1)が受けた予防接種の性質は、前記一の原告主張一覧表(四五)の「接種の性質」について認定したとおり尾鷲市の勧奨による接種である。
[100](二) 請求の原因第四項(責任)1(二)の事実中、法5条所定の接種、法6条の2所定の接種、及び法9条所定の接種は、いずれも被告国が法3条により何人に対してもその接種を受け、または受けさせる義務を課し、これに違反した場合には法26条により刑事罰を課して接種を強制しているものにつき、各被害児がその義務の履行として接種を受けたものであるとの事実、及び勧奨接種は被告国の行政指導に基づき地方公共団体が各被害児の両親に対し接種を勧奨したものであるとの事実は、当事者間に争いがない。
[101] 〈証拠略〉を総合すれば、勧奨接種の実施につき、実施主体の各地方公共団体は、回覧、個別通知、広報車による広報、広報紙への登載、申込書の配布等の方法により各被害児の両親に対し接種を受けるよう勧奨し、各被害児の両親は、勧奨接種と強制接種の勧奨と強制との違いについて特段意識することなく勧奨された予防接種であつても必ず受けねばならないものと考えて、各被害児に接種を受けさせたものであること、そして、予防接種を受けることについて、そのような意識が医者等の特殊な専門家を除く国民一般の考え方であつたことが認められる。
[102](三) 以上の事実に照らせば、被告国と本件各接種の被接種者である各被害児との間には、本件各接種を受けたことにより法律あるいは行政指導に基づく社会的接触関係が生じたものと認められる。
[103](四) そこで、右社会的接触関係に基づき、原告らが主張する被告国が本件各接種の被接種者である各被害児に対し、債務としての安全確保義務を負つていたか否かについて判断する。
[104] 右の安全確保義務は、一般的には、ドイツ民法618条1項、3項、619条およびスイス債務法393条に規定されているように雇用契約の内容として、使用者が、労務給付の場所、設備、機械、器具を供すべき場合には、労務の性質の許す範囲において労務者の生命及び健康に危険を生じないように注意する義務を負うものとされている。
[105] そして、原告らは、右の考え方が、本件においても妥当し、いわゆる予防接種を実施しようとする被告国と本件各接種の被接種者である各被害児との間においても、被告国は、予防接種によつて、被接種者の生命、身体等に危険を生じさせないよう万全の注意をする義務を負っているのであり、その義務が安全確保義務であり、その義務を本件各接種の被接種者である各被害児に対し、債務として負つていると、主張するのである。
[106] そこで、右の原告らの主張を本件について、一般的に敷えんして検討してみると、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方または双方が相手方に対して、信義則上安全配慮義務(講学上の一般的な表現であり、原告らの主張する安全確保義務と同意義である。)を負うことがあると解されるが、かかる安全配慮義務の前提となる特別な社会的接触関係とは、私法上の雇傭契約関係や公務員に関して見られるような継続的、身分的、特殊的な基本的法律関係が存在し、その中で、安全配慮義務が、その付随的義務としてとらえられる場合を指すものと解すべきであり、予防接種における被告国と被接種者との接触関係は、右の場合とは異なり、個々の予防接種に関する単なる一回的なものであるから、かかる接触関係によつては信義則上の付随義務として、いわゆる債務としての安全配慮義務を認めることはできないものと解すべきである。たしかに、右のような一回的な接触関係たる予防接種の場合においても、被告国が各被接種者の生命・身体及びその健康等の安全を確保すべき義務を負うことは否定できないが、かかる義務は債務としてとらえるべきものではなく、不法行為における注意義務としてとらえるべきであり、仮にそのような義務違反が存在した場合には、それは、不法行為規範によつて律せられると解するのが相当である。

[107]2(一) 請求の原因第四項(責任)2(一)の事実は当事者間に争いがない。
[108](二) 請求の原因第四項(責任)2(二)の事実は当事者間に争いがない。
[109](三) 請求の原因第四項(責任)2(三)の事実中、本件各接種のうち法6条の2所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が開業医でありそれらが行うものは、いずれも法3条により何人もその接種を義務付けられた(法26条によりこれに違反した者は刑罰を科せられるとされている)予防接種について、法5条所定の市町村長等が実施する接種を受けなかつた者が、これに代るものとして、接種義務の履行のために接種を受けた場合であるとの事実は、当事者間に争いがない。
[110] ところで、被告国の機関以外の者(開業医のほか前記一で認定したとおり区市町村の地方公共団体が実施主体である場合もある)が実施主体となつて実施した法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種を受けた者は、法の規定の趣旨に照らせば、被告国において実施した予防接種を受けたと同様に接種義務の履行の効果が擬制されると解されるが、右各実施主体は被告国の委任を受け、その機関として各接種を実施するわけではなく、被告国とは関係なく、自ら各接種を実施するものであるから、かかる接種の実施をもつて、それを被告国の公権力の行使と擬制するものではないと解される。
[111] しかしながら、〈証拠略〉によれば、厚生省令の予防接種実施規則により法に基づいて行う予防接種の実施方法が定められていること、〈証拠略〉によれば、右予防接種の実施方法の細部については、各都道府県知事宛公衆衛生局長通達により、厚生省において定めた予防接種実施要領に従つて行うよう示達されていること、〈証拠略〉によれば、種痘については特に詳細に実施方法が定められ公衆衛生局長が各都道府県知事宛通知していること、〈証拠略〉によれば、予防接種実施上の疑義について照会があつたときは、公衆衛生局長がこれに対し回答していること、〈証拠略〉によれば、予防接種ワクチンの取扱いについて、公衆衛生局長、薬務局長、薬務局細菌製剤課長等が各都道府県知事、各都道府県衛生主管部(局)長宛通知していること、〈証拠略〉によれば、予防接種実施の際の問診票の活用等についても公衆衛生局長等が通知していること、がそれぞれ認められる。
[112] 右通達、通知等は、法に基づいて行われるすべての予防接種の実施方法等に関するものであるから、被告国の機関である市町村長等が実施する法5条所定の接種及び法9条所定の接種のみならず、開業医及び地方公共団体が実施する法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種にも適用されるものであり、右の諸事実に照らせば、厚生大臣は、公衆衛生局長等をして右のような通達、通知を発令させて、法5条所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である被告国の機関の市町村長等を指揮、監督するのみならず、法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である開業医及び地方公共団体に対しても当該予防接種の実施方法等につきいわゆる行政指導を行つていたものと認めるのが相当である。
[113] そこで、右行政指導が、国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当するか否かについて検討するに、一般に行政指導は、命令、禁止等の行政処分とは異なり、法的拘束力を持たず、単に行政指導の相手方に一定の行為を期待するにすぎない非権力的作用であるといわれている。そして、違法な行政指導による損害の発生に対して、国家賠償法の適用が認められるか否かについては、結局、いわゆる行政指導が、同法1条にいう「公権力の行使」に該当するかの問題に還元される。そして、右の問題も、いわゆる行政指導に服従を拘束する「公権力性」を認めるか否かの評価の違いということができる。そこで、当裁判所としては、ある行政指導につき、相手方にこれに従うか否かの完全な自由が認められている場合には、当該行政指導は、「公権力の行使」に該当しないと解するのが相当であると考えるが、しからざる場合、即ち、相手方が行政指導に従わざるを得ない状況におかれている場合には、当該行政指導は、いわゆる公権力の行使に該当すると解するのが相当であると考え、以下、右の考え方によつて検討する。
[114] そこで、右の見地から本件行政指導について検討すると、弁論の全趣旨によると、当時の被告国が法律の規定により強制していた予防接種は、伝染病の予防という防疫行政目的を実現するために、国としては接種の対象者すべてに完全に実施する必要があるとの方針で臨んでおり、そのためそれが全国的規模で、しかも組織的に行なわれるべきものであり、しかも、それらの実施には、専門的知識が必要とされていたこと、そこで、現場で、現実に予防接種を実施しようとする各実施主体等は、予防接種に関する国の技術的助言等を期待し、その指導に依拠して、予防接種を実施するというのが実情であり、そこには国が計画し、実行しようとする防疫行政に協力し、もしくは協力しないとすることについての選択の自由はなく、常に行政指導に従うという状況下で接種を実施していたのが厚生行政の実態であつたと認めることができる。
[115] そうだとすると、右のような実情のもとで被告国の行う行政指導は、いわゆる「公権力の行使」に該当する行為と認めるのが相当である。
[116](四) 請求の原因第四項(責任)2(四)の事実中、本件各接種のうち勧奨接種については、厚生省公衆衛生局長あるいは厚生省事務次官は都道府県知事(指定都市市長を含む場合もある)宛に勧奨接種の実施を指示した通達をなし、これに基づき各地方公共団体が国民に対して接種を勧奨しこれを実施していたものであり、厚生大臣は、厚生省衛生局長あるいは厚生省事務次官をして、右通達を発令させて勧奨接種の実施につき行政指導を行つていたとの事実は、当事者間に争いがない。
[117] 〈証拠略〉によれば、被告国は、毎年各地方公共団体に対し、勧奨接種の実施につき実施方法等を詳細に定めて行政指導を行つており、かかる行政指導を受けた各地方公共団体は、選択の自由もなくこれに従つて勧奨接種を実施していたことが認められ、また、前記1(二)で認定したとおり、勧奨接種の実施につき、実施主体である各地方公共団体は、回覧、個別通知、広報車による広報、広報紙への登載、申込書の配布等の方法により、国民に対し接種を受けるよう勧奨し、国民は勧奨接種と強制接種の違いについて特段意識することなく、勧奨された予防接種であつても、それは強制接種と同様に必ず受けねばならないものと考えて、接種を受けていたのが当時の社会一般の実情であつたこと、また、弁論の全趣旨によれば、厚生行政の一環として、予防接種を実施する被告国としては、被接種者たる一般国民の意識が、右のような実情にあることを知悉していたことが認められ、右認定の事実によると、被告国の行う勧奨接種の実施を指示する本件での行政指導は、前記(三)で説示と同様、国家賠償法上の公権力の行使に該当すると認めるのが相当である。
[118](五) そこで、厚生大臣が以上の各公権力の行使たる職務を執行するにつき、本件各事故発生についての故意または過失があつたか否かについて判断することとする。
[119](1) 請求の原因第四項(責任)2(五)(1)(未必の故意)の事実中、ワクチンは通常大なり小なりの副反応を伴つており、予防接種の施行によりまれに致死あるいは脳炎など重篤な後遺症をもたらすことがあることが、公衆衛生行政当局によつて認識されていた事実は、当事者間に争いがない。
[120] しかしながら、右事実から直ちに、厚生大臣が、予防接種の施行により一定の確率で死亡または回復不能の重大な後遺障害が発生してもやむを得ないものとして本件各接種を各実施主体に実施させていたものと認めることはできず、他に右事実を認定するに足りる証拠はない。
[121] 従つて、厚生大臣が、右各公権力の行使たる職務の執行につき、本件各事故発生について未必の故意を有していたものと認めることはできない。
[122](2) 国家賠償法1条1項の規定に照らせば、同項にいう公務員の過失の存在については賠償を請求する者においてその立証責任を負うものと解され、その立証責任を転換すべき合理的理由はない。従つて、原告らが主張する推定される過失の議論は、当裁判所としては、これを採用しない。
[123](3) 厚生大臣が前記各公権力の行使たる職務を執行するについて、予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を未然に防止すべき注意義務を有し、その注意義務違反があつたときは、右職務執行に関し、事故発生についての過失があつたと推定するのが相当である。
[124] そこで、以下原告らの主張する厚生大臣の6つの注意義務違反(事故発生についての具体的過失)の存否について順次判断することとする。
[1] 実施すべきでない接種を実施させた過失について
[125] 厚生大臣が、被告国の機関である市町村長等をして法5条所定の接種及び法9条所定の接種を実施させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、当該予防接種の実施方法について行政指導を行つていたのは、いずれも法律がこれらの予防接種を受けることを国民に強制していることから、厚生大臣としてその法律の規定、趣旨に従つたにすぎないものと解される。しかしながら、諸般の事情に照らし、予防接種による被接種者の生命、身体に対する危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという特別の事情が認められる場合には、厚生大臣としては、法の改廃を待つことなく、法5条所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である市町村長等をして当該予防接種の実施を中止させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、当該予防接種を実施することがないよう行政指導すべき、各注意義務を負つていたものと解される。
[126] また、勧奨接種の場合においても、諸般の事情に照らし、被接種者の生命、身体に対する危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという特別の事情が認められる場合には、厚生大臣としては、地方公共団体に対し、当該予防接種の実施をしないように行政指導すべき注意義務を負つていたものと解される。
[127] そして、厚生大臣が以上の各注意義務に違反したときは、国家賠償法上の過失があると解するのが相当である。
[128] そこで、以下、腸チフス・パラチフスワクチン、インフルエンザワクチン、及び種痘について、本件各接種当時、厚生大臣に右注意義務違反があつたか否かについて順次検討することとする。
(a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失について
[129] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](a)の事実中、腸チフス・パラチフスワクチン(以下「腸・パラワクチン」という)の接種は、昭和23年の法制定時に生後36月から48月を第1回として以後60歳に至るまで毎年を定期とする強制接種とされていた事実、腸チフス・パラチフス(以下「腸・パラ」という)は経口感染する消化器系伝染病であり、それらは、上・下水道の整備をはじめとする環境衛生の改善によつて感染経路を切断する感染経路対策が流行を防止する基本的防疫対策であるとの事実、特効薬(抗生物質クロラムフエニコール)による治療法も確立されたとの事実、腸・パラワクチンの接種につき市町村長等により法5条所定の接種が実施されていた事実は、当事者間に争いがない。
[130] 〈証拠略〉を総合すれば、腸・パラワクチンの有効性については、昭和23年の法制定当時からこれを疑問視する見解があつたこと、その後も昭和29年に弘前大学の赤石英教授が腸・パラワクチンの実際的有効率は0.017にすぎない旨の見解を発表したこと、同年に岩手県北上市において腸チフスの集団発生があつたが、腸・パラワクチンの接種者と非接種者の間で罹患率、潜伏期、致命率等に有意の差はなかつたこと、昭和33年に安原美王麿博士が、腸・パラワクチンの有効性に疑問がある等の理由により日本伝染病学会において腸・パラワクチン接種の再検討を訴え、その後も同ワクチンの強制接種の中止を主張していたこと、昭和35年から昭和40年にかけて、WHO(世界保健機構、以下同じ。)の後援により、ユーゴスラビア、英領ギアナ、ポーランド、ソ連等において腸チフスワクチンの有効性についての野外実験が行われた結果、一定の効果があるとされたことに対しては、英領ギアナにおける水系感染の場合は菌量が少ないからワクチンがある程度有効であつても、日本においては食物感染が多いため菌量が多く、日本におけるような少量のワクチン接種では有効性は期待できず、かといつて有効性を期待できるように接種を増やすことは副作用の危険性に照らし困難であり、日本の小中学生に対する腸・パラワクチン接種の成績、動物実験の結果によつてもわが国の現行腸・パワワクチンの有効性は裏付けられなかつたとの見解があること、パラチフスワクチンについてはWHO後援の右野外実験によつても有効性は裏付けられなかつたこと、日本における戦後の腸・パラ患者の減少については、全年齢層にわたる罹患率の低下によるもので、腸・パラワクチン接種対象である特定の年齢層に特に罹患率の低下があつたためではないから予防接種の行政効果は認められなかつたとする見解があること、腸・パラワクチンの危険性については、戦前から軍隊などで使われ、かなり副作用があることが知られていたものであり、昭和22年から昭和40年までに腸・パラワクチンの副作用のために死亡したものは49名にのぼつていたこと、接種量が実際上少量とされるようになつた昭和28年以降は死亡事故が減少していること、腸・パラの危険性については、戦後は腸・パラの診断法が確立され、昭和26年遅くとも昭和30年以降は抗生物質の投与により死亡率の低い病気となり、感染経路対策としての上下水道の完備と感染源対策としての保菌者の早期発見、治療、監視により防疫可能となつたとする見解や、10歳以下の子供については腸・パラは風邪ひき程度の病気にすぎず予防接種の必要性はなかつたとする見解があること、以上のことから腸・パラワクチンの定期接種廃止論として、昭和30年以降は腸・パラワクチンの国民皆接種の必要はなかつたとする見解や、10歳以下の子供に対する腸・パラワクチン接種は、戦後アメリカ合衆国の占領政策が廃止された時点で廃止すべきであつたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[131] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、1913年(大正2年)にイギリスの腸チフス対策委員会が軍隊において腸チフスワクチンを接種した結果、接種を受けた兵士と接種を受けなかつた兵士との間で腸チフス罹患者数が明瞭に違つたと報告されたこと、その後腸チフスワクチンの有効性が一般に認められ漸次普及していつたこと、各国の軍隊の間での腸チフスワクチンの予防接種の結果、接種後の患者発生数が著明に減少し、軍隊だけでなく一般にも次第に腸チフスワクチン接種が浸透していつたこと、昭和23年の法制定当時、腸・パラワクチン定期接種の法制化につき、日本の学界では、全然効果がないとする見解もあり、論争があつたが、一般的には実施した方がよいとする見解が大部分であつたこと、法制定当時、それまで日本で使用されていた腸・パラワクチンは、アメリカ合衆国の軍隊で大規模に使用され効果があるとされていたものと同様のものであつたこと、法制定当時の日本の腸・パラ発生状況、致命率、臨床医学の限界、荒廃した環境衛生などを考えれば、腸・パラの防疫を予防接種に期待したのは当然であつたこと、昭和26年から昭和28年にかけて、日本において全国18の伝染病病院に入院した腸・パラ患者と赤痢患者を比較検討した結果、当時市販の腸チフスワクチンの予防接種により接種後1年以内では明らかに発病防御効果があり、発病率を2分の1から3分の1に減少させると結論されたこと、昭和30年ころの一般的見解は、戦後腸・パラ患者が激減した原因については、同じ経口伝染病である赤痢が当時大流行していたことから考えて、予防接種の効果であるとしていたこと、昭和32年ころ、公衆衛生院の痢学部長松田心一らの調査の結果、推計学的計算により腸チフスワクチンの接種者と非接種者の間にワクチンの効果につき有意の差があるとされたこと、WHOの後援によりユーゴスラビア、英領ジアナ、ポーランド、ソ連等で1960年(昭和35年)以降行われた国際標準腸・パラワクチンの効果についての野外実験の結果、腸チフスワクチンに一定の効果があることが認められたが、日本の現行腸チフスワクチンも国際標準ワクチンに近似しており、有効であると考えられること、その後ホーニツクの実験によつても一定の菌量の腸チフスに対しては、ワクチンの効果が認められたこと、パラチフスワクチンの効果については必ずしもその裏付けがなかつたが、昭和46年当時においても、腸チフスワクチンの効果が明らかな以上パラチフスワクチンについてもその効果を期待できる研究を企画することが可能であるとされていたこと、腸・パラによる死亡率は、抗生物質が使用されるようになつて格段の減少を来たしたが、今なお腸・パラの症状はかなり激しいものであり年間1、2名の死亡者がおり、恐しい病気であることに変りはないこと、抗生物質の使用によつても永続保菌者の除菌は困難であること、日本においても昭和30年以降も腸・パラの水系感染があり、また食物感染だからといつて必ずしも菌量が多いとは限らないこと、昭和30年当時の日本の上水道普及率は32.2パーセントでかなり低く、昭和35年でも53パーセントにすぎないこと、昭和30年度の日本の水洗便所、下水処理・糞尿処理浄化槽の普及率は、それぞれ6.4パーセント、3.3パーセントであり、昭和41年度でも7.4パーセント、8.7パーセントにすぎないこと、腸・パラの保菌者の管理は非常に困難であり、患者個人の情報と分離株のフアージ型別の結果の組み合わせにより全国的視野で患者発生情況が分析されるようになつたのは昭和41年以降であること、腸・パラワクチンの定期強制接種の廃止論としては、証人福見秀雄が昭和41年10月に、当時腸・パラの感染源対策としてチフス菌のフアージ型の台帳が次第に整備され、感染源の追跡が可能となつていたこと、患者数が毎年減少の一途をたどつていたこと、昭和28年ころから腸・パラワクチンの実際の接種量が0.1ミリリツトルの皮内注射とされるようになり接種効果に疑問があつたこと、右接種量によつてもなお副作用の危険があつたこと、強制接種とされているにもかかわらず実際の接種率が極めて低調であつたこと等の理由から、伝染病予防調査会腸チフス予防接種小委員会において、腸・パラワクチンの定期強制接種の廃止を提案したこと、しかし、当初は廃止に反対する意見の方が多数であつたこと、その後同委員会において昭和41年11月、昭和42年1月、同年3月の3回にわたり腸・パラワクチンの効果、副作用、それに伴う理論と実際が詳細に検討討議され、最終的に証人福見秀雄の意見が容れられたこと、その後同委員会の意見を受けて、昭和45年に至り法改正によつて腸・パラワクチンの定期強制接種が廃止されたこと、1981年(昭和56年)当時においても、韓国、フイジー、ソロモン諸島が腸チフスの予防接種を実施していること、がそれぞれ認められる。
[132] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において腸・パラワクチン定期接種の是非についてそれぞれ見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には被害児佐藤幸一郎(16の1)が接種を受けた昭和35年4月6日)において、厚生大臣として、法律が腸・パラワクチンの定期強制接種の実施を命じているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、腸・パラワクチンにつき市町村長等をして法5条所定の接種を実施させないとする注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失について
[133] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](b)の事実中、昭和32年以降毎年、厚生省公衆衛生局長が、都道府県知事及び指定都市市長宛に、当該年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通達を発して勧奨接種の実施につき行政指導を行い、都道府県知事等は、右通達の一部を構成する「インフルエンザ特別対策実施要領」に基づき接種の実施を市町村に指示し、市町村はこれを受けて国民に通知を発して、昭和36年までは、少・中学生等流行拡大の媒介者となる者、乳幼児・老齢者等致命率の高い者、警察、消防署等公益上必要とされる職種の人々を対象に、昭和37年以降は、流行増幅の場である人口密度の高い地域を中心とした保育所、幼稚園、小・中学校の児童を対象に、集団の勧奨接種を行つていた事実は、当事者間に争いがない。
[134] 〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和37年以降毎年各都道府県知事宛に、各年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通達を発して、流行増幅の場である人口密度の高い地域を中心とした保育所、幼稚園、小・中学校の児童を対象としたインフルエンザ予防特別対策としての勧奨接種の実施を行政指導するに際し、右通達により、右対象者以外の者に対する一般防疫対策としての勧奨接種の実施についても行政指導を行つており、それによれば、昭和37年から昭和41年までは、「特に、乳幼児、老齢者、及び、医療従事者、警察、消防、電力、運輸、通信、報道関係者等の公益上必要とされる者に対しては必ず予防接種を受けるよう勧奨されたい。」と明示して一般防疫対策としての勧奨接種の実施を行政指導しており、本件各接種のうちインフルエンザワクチン接種を受けた各被害児は、右特別対策としての勧奨接種あるいは右一般防疫対策としての勧奨接種の対象者であつたことが認められる。
[135] 〈証拠略〉を総合すれば、インフルエンザの抗原構造の違いによる株の数は極めて多く、毎年流行するインフルエンザの抗原構造は次々と変化し、不連続変移が起こつたときは従前のワクチンはほとんど効かず、連続変移であつてもあまり効かないことがあり、抗原構造の変移に対処して、流行する株に有効なワクチンを用意することは困難であること、インフルエンザワクチン接種による免疫効果の持続期間もせいぜい3、4か月にすぎないこと、従つて、インフルエンザワクチン接種を受けた者にもインフルエンザが流行したことがあること、インフルエンザワクチン接種により血中抗体価の上昇があつても、それがインフルエンザの感染を完全に抑えるものとは断言できないとする見解があること、インフルエンザワクチン接種によつて、被接種者が、インフルエンザ感染による発症が抑えられるとしても、その人から他の人にインフルエンザが伝播するのを防止する効果は期待できないとする見解があること、インフルエンザワクチンはふ化鶏卵を使用して製造されるため卵の成分が入つているが、鶏卵は食品として頻繁に摂取されるものであるため卵アレルギーを有する人も多く、また個々の卵について雑菌が入つているか否かを検査しその品質を管理することが非常に難しいため、ワクチンに雑菌が混入することが避け難く、卵アレルギーや難菌の内毒素が原因で副作用を起こす危険性が高いとする見解があること、インフルエンザワクチンを子供の時から毎年接種していると将来大人になつてインフルエンザワクチン接種を受けた時にアナフイラキシー様シヨツクを起こす可能性があるとする見解があること、抗生物質の使用等の化学療法の発達や呼吸困難となつたときの気管切開、酸素療法等の技術水準の向上により細菌性肺炎による死亡率は極めて減少したから、昔のようにインフルエンザの流行により死亡率が増加する可能性は非常に少なくなつたとする見解があること、インフルエンザは、慢性の心肺疫患、内分泌性疾患等の基礎疾患を有する人や高齢者(ハイリスグループ)にとつては危険な疾病であるが、一般の健康人にとつては良性の疾患であり危険性の少ないものであるとの見解があり、1962年(昭和37年)にアメリカ合衆国公衆衛生局長官は、ハイリスクグループ以外の人にインフルエンザワクチンを接種することの有効性を強調すべきでないと勧告していること、ハイリスクグループの人に限定してインフルエンザワクチンを接種すべきであるとするのが、その当時からの欧米の学者の一般的見解であり、その旨の見解を表明した論文等が数多く存在していること、欧米諸国においては、ハイリスクグループの人のほか、罹患危険性の高い医療従事者、学校の寄宿舎の生徒等一定の人に対して選択的にインフルエンザワクチンの勧奨接種を実施しており、ソ連においてインフルエンザ生ワクチンが社会一般に広く使用されている以外に、インフルエンザワクチンを一律に広く接種している国はないこと、インフルエンザを全国的に流行させる役割を果しているのは小・中学生に限られるものではなく、小・中学生に対するインフルエンザワクチン集団接種により流行増幅を防止し得たという明確な成績は示されていないこと、小・中学生はインフルエンザに罹患しても最も致命率の低い階層であること、毎年、小・中学生の学童一般に対して一律にインフルエンザワクチン接種を実施している国は日本のほかになく、これを支持する学説も日本以外の国にはないこと、がそれぞれ認められる。
[136] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、インフルエンザに対する有効な予防方法はワクチン接種のみであり、他に満足すべき方法はないこと、WHOのインターナシヨナル・インフルエンザ・センターはインフルエンザに関する各国の情報を集め、流行の初期の段階でその年に流行が予測されるインフルエンザの型を決定しており、日本の国立予防衛生研究所内にあるナシヨナル・インフルエンザ・センターは、WHOと情報交換をし、日本において接種すべきワクチン株を決定し、厚生省に勧告していること、厚生省においても毎年インフルエンザの流行予測事業を実施していること、インフルエンザワクチン接種によつて血球凝集阻止抗体(HI抗体)価が128倍以上あれば、まずインフルエンザには罹患しないという効果が期待でき、HI抗体価が64倍から16倍位であれば、発症は軽くて済むという効果が期待できるとされていること、インフルエンザの罹患率曲線と免疫度分布曲線によつてインフルエンザワクチンの効果率を計算すると、流行ウイルスとワクチンの抗原構造が一致した場合その効果率は約80パーセントになること、毎年インフルエンザワクチンを接種することにより、接種したワクチンの型と実際に流行したインフルエンザの型がずれたとしても、若干でも共通抗原がある限り翌年の接種において一定の追加免疫効果が期待できること、卵アレルギーの存在については問診によつて容易に知り得るものであり、鶏卵に付着してる雑菌がワクチンに混入する可能性があることについては、精製法の進歩、鶏舎の管理のチエツク等により非常に減少しており、インフルエンザワクチンは、生物学的製剤基準に基づいて製造され、有効性と安全性のための各種試験を経ていること、子供のころから毎年インフルエンザワクチン接種を受けたことによりアナフイラキシーシヨツクが起つたという例は今まで存在していないこと、インフルエンザは、全身症状として発熱、頭痛、全身倦怠、違和感、腰痛、四肢痛、関節痛などが、呼吸器症状としてくしやみ、咽頭痛、鼻閉、咳などが、また軽度の消化器症状として食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢などが見られるほか、合併症として肺炎、気管支炎などを伴う極めて伝染性の強い急性呼吸器系伝染病であり、大正7、8年にかけてのスペイン風邪の流行の際は、全世界の罹患者は7億、死者2000万名を超えたと言われており、日本においてもインフルエンザによる死亡者数は昭和20年以降においても相当数にのぼつていること、インフルエンザの流行年には超過死亡の著明な増加があり、肺炎、気管支炎等の合併症を起こして死亡する率はインフルエンザを死因とする統計学的数値の何倍かに達すると推定されること、昭和33年にアジア風邪が流行した時、小・中学校の学童が流行増幅に果たしている役割について全国的に詳細な調査が行われたが、小・中学校の学童の罹患率は明らかに高く、小・中学校が流行増幅の場になつていることが判明したこと、昭和37年から行われたインフルエンザ特別対策の実施にあたり、厚生省は諮問機関の伝染病予防調査会の意見を聞いているが、同会においては、インフルエンザの流行の拡大、伝播の経路として重要部分をしめる小・中学校の学童に接種することが、流行増幅を抑えるのに一定の効果があるとの証人福見秀雄らの提案が採用されたこと、1980年(昭和55年)から1981年(昭和56年)にかけてアメリカ合衆国ではインフルエンザの大流行があり、超過死亡数は15万名以上と推定されたが、日本においては小・中学校の学童にインフルエンザワクチン接種を実施しているので流行の拡大がかなり防止されたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[137] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において、一般人に対するインフルエンザワクチンの一律接種の是非について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には各被害児がインフルエンザワクチン接種を受けた昭和39年から昭和44年までの間)において、厚生大臣として、地方公共団体に対し、小・中学校の児童、生徒を中心とする一般人に対するインフルエンザワクチンの一律勧奨接種の実施をしないように行政指導すべき注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(c) 種痘接種を実施させた過失について
[138] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](c)の事実中、わが国の昭和21年の痘そうの患者が1万7954名、死者が3091名であり、翌22年には患者は386名と激減し、法が制定された昭和23年には患者29名、死者3名となり、昭和27年以降死者はなく、昭和31年以降患者の発生もないとの事実、昭和48年と昭和49年に各1例の移入があつたが、2次感染もなく治癒している事実、種痘後原因不明の合併症のあることが以前から知られており、今世紀初めのころから種痘後脳炎の症例が報告され、その中には死亡や重篤な症例のある事実、種痘につき、市町村長等により法5条所定の接種及び法9条所定の接種が、開業医により法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種が、それぞれ実施されていた事実は、当事者間に争いがない。
[139] なお、前記一の原告主張一覧表の各「実施主体」について認定したとおり、本件各接種には、地方公共団体によつて種痘の法9条所定の接種が実施された場合もある。
[140] 〈証拠略〉を総合すれば、イギリスにおいては、昭和の初めころから種痘事故の報告があり、他方1935年(昭和10年)以来国内において痘そうの発生がなく、1935年(昭和10年)代には種痘のみが痘そう制御の唯一の方法ではないとの考え方が一般的になつていたこと、1946年(昭和21年)にイギリスで強制種痘が廃止されたこと、イギリスにおいて、1950年(昭和25年)以降1970年(昭和45年)までの間に痘そうの集団免疫率は10ないし15パーセントしかなく、痘そうの常在国から13回にわたる痘そうの患者の輸入があつたが、流流行は一定地域の小さい規模にとどまり、103名の患者と37名の死亡者が生じたにすぎず、患者の隔離、接触者への接種、その後の接触者の監視、行動規制により、充分制御できたこと、他方、右期間内に種痘により死亡した者は100名に達していたこと、証人ジヨージ・デイツクは、イギリスにおいて、1962年(昭和37年)以来定期種痘廃止のための努力を続けていたこと、イギリスは、1971年(昭和46年)に定期種痘の勧奨も廃止するに至つたこと、アメリカ合衆国においても、1971年(昭和46年)に定期種痘廃止が勧告され、1972年(昭和47年)にアメリカ合衆国保健教育省公衆衛生局は、種痘合併症の危険、痘そう輸入の可能性、痘そうが輸入された時に予想される病気の広がりの3因子について数量分析を行い、種痘合併症の危険は種痘の利益を上回わつているとして、定期種痘を廃止すべきとしたこと、日本においては、昭和29年に金子義徳が、日本公衆衛生雑誌に、ワクチンの効果についてはワクチンのマイナス面即ち副作用を含めて価値判断がなされるべきであり,不幸な犠牲者を出さないために予防接種を中止すべきであるという議論も成り立つのではないかとの意見を発表したこと、日本において現実に使用されていた種痘の株では副反応の発生は除去し得ず、種痘により重篤な副反応が生ずることは、日本においても昭和の初期から知られていたものであり、1950年(昭和25年)にWHOにおいて作成された死因分類表の中には、予防接種または種痘による不慮の傷害という分類項目があり、そのころには予防接種の専門家で種痘により重篤な反応が起こることを知らない者はいなかつたこと、種痘後脳炎、脳症の発症があつた場合、3分の1が死亡し、3分の1が植物人間となつてしまうとの見解があり、これらの症状に対しては有効な特異的治療法はなく、対症療法しかないこと、種痘により完全に個人が痘そうから守られるという期間は2年ないし3年にすぎず、20年を経過すると感染防御効果はほとんどないとの見解があまること、イギリスのいくつかの町で、95パーセント以上の住民が免疫を持つていたにもかかわらず痘そうが流行した例があり、同様の例は中央ジヤワにおいても見られ、また、インドのラオは、80パーセントの率で種痘が行われたにもかかわわらず痘そうが流行した例があることを報告していること、日本と同じように種痘の定期強制接種を実施していた西ドイツにおいて、1960年(昭和35年)以降7回の痘そうの輸入があつたことに照らせば、日本において20年近く痘そう患者が発生しなかつたことが定期強制種痘による基礎免疫効果によるものとは言えないとする見解があること、種痘接種を受けた者が不完全な接種のため痘そうに罹患したときはその症例が変化したものとなり、かえつて新しい流行の原因となるとする見解があること、昭和47年以降は日本においても、定期強制種痘の廃止を主張する見解がいくつか出されたこと、痘そう患者は、感染してから平均14日目、発熱後2、3日目の皮膚疹の出現前までは、伝染力がなく、人間以外に痘そうウイルスを維持している動物は存在せず、全く症状のないウイルス保持者はいないから、痘そうの診断は割合容易であり、従つて、痘そうの非常在国においては、痘そうが持ち込まれる可能性に対しては疫学的監視よつて対処すればよく、優秀な公衆衛生機関があり、優秀な疫学的監視が行われていれば、種痘の定期強制接種を受ける必要はないとの見解があり、定期強制種痘を廃止した場合の代替措置としては、防疫体制を強化し、痘そうが輸入された場合に接触者や接触可能者に対して緊急種痘を実施するといういわゆるリングワクチネーシヨンが考えられるとする見解があること、非常在国に痘そうが輸入された場合、定期種痘が行われていたとしても必ず接触者及び接触可能性者に対する緊急種痘が実施されねばならないとの見解があること、以上から、日本においても、日本が痘そうの非常在国となつた昭和25年ないし昭和30年当時において、幼児に対する定期強制種痘はやめるべきであつたとする見解があり、その理由とするところは、種痘の免疫力はそれほど長く持続しないこと、痘そうの伝播力はそれほど強くなく、侵入の危険性もそれほどないこと、痘そうの輸入があつても早期の診断やリングワクチネーシヨンにより拡大は防止できること、これらの点から種痘による利益(ベネフイツト)と副作用による出費(コスト)の均衡(バランス)を考えると後者の方が上回わること、等であること、がそれぞれ認められる。
[141] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、昭和30年代においては、日本の学会で定期種痘廃止論を主張する者はほとんどいなかつたこと、昭和35年当時、世界各国のほとんどが強制種痘の実施をしていたこと、1964年(昭和39年)に、WHO痘そう専門委員会は、痘そう患者の増加傾向が依然として継続しており、痘そうが根絶されるまで、各国は恒久的な予防接種計画を続けて行うべきであり、痘そう侵入の危険性が高い国々は、新生児、移民等を対象とする種痘や全年齢層の定期的接種により、地域住民の免疫度を維持すべきであると報告していること、日本においても昭和42年に、日本は痘そう常在国に囲まれ、また持ち込まれる機会も著しく増大してるので、常時種痘を行つて痘そうに対する集団免疫度を高めておくことが非常に重要であるとの見解があつたこと、昭和43年に、厚生大臣から伝染病予防調査会に対し、今後の予防政策のあり方について諮問がなされ、同調査会予防接種部種痘委員会において定期種痘の是非についてコスト・ベネフイツト・バランスイング論を中心に検討が行われたが、全体の結論としては、定期種痘の廃止はまだ時期尚早であるというものであつたこと、昭和44年には、日本小児科学会予防接種委員会においても、日本は痘そう侵入の危険性に絶えずさらされているので現行の定期種痘はなお当分継続する必要があると報告されたこと、当時、ヨーロツパの多くの国では痘そう非常在国となつたのちも強制種痘接種が続けられていたこと、1970年(昭和45年)ころにはイギリスにおいても定期種痘廃止につき賛否両論があつたこと、1970年(昭和45年)当時、アジア、アフリカ、南米の諸国にはいまだ痘そう常在国があり、しかも日本に近いアジアに常在していた痘そうは特に致命率の高いものであつたため、これらの国との交流がさかんになるにつれて、痘そう侵入の危険性に対する不安感は強く、定期種痘廃止論を主張する者はほとんどいなかつたこと、当時の見解の大勢としては、痘そう常在国と交流の多い日本は常に痘そうの危険にさらされており、しかも痘そうの予防には種痘以後に有効な手段がなく、予め基礎免疫を与えておかなければ、流行時における臨時予防接種に際し迅速な免疫の上昇を期待できず、また高年齢児に初回種痘を行うと重篤な副反応の危険性が高いなどの理由により、種痘を継続して実施する必要があるというものであつたこと、昭和46年においても、ヨーロツパにおける痘そうの発生状況を見れば、日本が過去20年間患者数零を続けたのは幸運としか言いようがなく、種痘事故絶滅の方法は、種痘そのものを必要としないようにすることであり、それは痘そうの根絶によつてのみ達成することができるとの見解があつたこと、日本の学界等において定期種痘廃止論が討議されるようになつたのは、アメリカ合衆国やイギリスで定期種痘が廃止された昭和46年以降であり、その討議の中では、なるべく反応の弱いより安全な種痘に切り替えて行く必要はあるが、全世界の痘そう患者の発生状況に照らすと定期種痘の廃止までは踏み切れない、アメリカ合衆国やイギリスにおいて定期種痘を廃止したからといつて、日本が直ちに中止するのは時期尚早であるとの見解が有力であつたこと、昭和47年に証人福見秀雄は、定期種痘を廃止し、一定の者に対する選択的接種と検診・診断体制の強化、リングワクチネーシヨンの実施によつて痘そうの防疫は可能である旨の見解を表明したが、当時そのような意見は未だ少数意見であつたこと、1972年(昭和47年)には、ユーゴスラビアにおいて、イラクからの帰国者が痘そうを持ち帰り、国内に大流行させ患者175名、死者34名を出し国家としての機能が1、2か月間ほとんど停止するという状況が生じたこと、イギリス、アメリカ合衆国においては、定期種痘が廃止されたのちにおいても、例えば、1973年(昭和48年)にベネンソンがアメリカ合衆国において定期種痘廃止は時期尚早であるとの見解を出すなど、廃止に反対の意見がいくつか出されており、フランス、ベルギー等、イギリスの近隣諸国も、種痘廃止は時期尚早であり他の諸国に迷惑であると非難していたこと、日本においても、昭和48年に、種痘政策の変更に当つては、世界の痘そう流行状況の判定が根本になるべきで、今後数年間その動行を見たうえで判断すべきであるとの見解があつたこと、イギリスにおいては、定期種痘廃止後に痘そう輸入患者からの第2次感染による流行が相当数にのぼつたこと、1974年(昭和49年)にWHO痘そう専門委員会は、痘そう輸入の危険性の高い非常在国では、常在国と同じく生下時または生後間もない時期に種痘を行うべきであり、再種痘はすべての子供に対し入学時と更に10歳になつたころ確実に行うべきであること、危険の高くない非常在国では、保健機関がそれほど発達していない国が定期種痘を廃止すれば、痘そうが一度侵入するとそれが発見される前に特に感受性の高い住民の間で広くまん延するので、そのような政策は悲惨な結果をもたらすから、小児期にできるだけ早い時期に種痘をし学校入学時に再種痘をするということに重点を置かなければならないと報告していること、昭和50年当時においても、日本では、まだしばらくの間痘そう輸入に対する施策の充実を図りつつ痘そう根絶計画の経過、全世界の痘そう患者の推移を見た上で、できるだけ早い時期に種痘を廃止したいとの見解が多かつたこと、昭和51年に、伝染病予防調査会予防接種部会において、それまで継続検討して来た定期種痘の是非について答申がなされたが、それによれば、定期種痘の実施方法の政善案が示されたが、定期種痘自体を廃止すべきとはされなかつたこと、日本は昭和30年ころには痘そうの非常在国となつたが、当時、インド、バングラディシユ、パキスタン、アフガニスタン等で毎年痘そうが流行しており、これらの国から痘そうが侵入する危険性があり、また、中国の痘そう発生状況が不明であつたものであり、痘そうが日本に侵入する可能性が小さくなつたのは昭和50年以降であるとする見解があること、国際旅行が船で行われていた時代には、船内で約2週間の潜伏期間を経過し、その後の臨床症状の発現により検疫で感染者を発見することが可能であつたが、潜伏期間内においては痘そうの診断は容易でなく、航空機による大量高速旅行の時代になると、検疫段階で感染者を発見することは不可能に近いとの見解があること、日本において昭和48年と昭和49年の2回、痘そう輸入患者が発生したのは、航空機の大型化と高速化のもとでは、検疫段階で痘そうの侵入を阻止することは不可能であることを実証したものであるとの見解があること、日本で昭和48年と昭和49年に各1例ずつの痘そう輸入患者の発生があつたにもかかわらず2次感染の発生がなかつたことについては、輸入患者が日本人で種痘を受けていたため症状が軽く、咽頭部の粘膜に異常が見られず気道を介しての感染が極めて弱かつたと推定されるとか、接触者の側に定期種痘による免疫があつたことによると考えられる、などの見解があること、種痘の効果については、厚生省の研究班が昭和38年に第1期ないし第3期の3回の定期種痘を受けた者は、その後2、30年たつたのちにおいても一定の免疫効果がある旨研究報告していること、再種痘の効果については、1度種痘を受けると20年位は免疫記憶があり、抗原の攻撃が来ると初めての場合より非常に速やかに反応するという効果があり、再種痘は早期にかつ大きな防御力を与えるとされていること、WHOが制定して痘そう流行地への旅行者に義務付けていた種痘証明書の携帯においても、初種痘の場合は接種後1週間以上たたなければ認めないとしていたのに対し、再種痘の場合は免疫記憶による効果があるから接種の翌日から有効としていたこと、集団免疫の効果については、全人口の均一に分布した70パーセント以上の人が種痘を受けて免疫になつていると、人から人への伝播を唯一の方法とする痘そうは、その社会から消えざるを得ないとの見解があり、80パーセントの接種率のもとでも痘そうが流行した例があるとのインドのラオの報告に対しては、20パーセントの種痘漏れの集団がある特定の部落に集中している場合は、その部落に痘そうが残つており、そこから流行が始まるということがあるとの見解があること、痘そうに対しては有効な原因療法がなく、対症療法もあまり効果がないこと、成人初種痘は副作用の危険が高く、このことも乳幼児に定期種痘を実施しなければならないという考え方の背景をなしており、リングワクチネーシヨンの考え方に対しては、痘そう輸入患者が発見され、その接触者及び接触可能性者に対し包囲接種が行われたとしても、接種を受けた者が初種痘の場合は免疫ができるまで2週間かかり、その間に痘そうに感染し、流行が拡大して行くおそれがあり、犠牲者が必ず出ること及び包囲接種が年長者や成人の初種痘の場合副作用が増強されることが問題であるとの指摘がなされていること、リングワクチネーシヨンの方法が現実に実施されたのは、1968年(昭和43年)にWHOが西アフリカで行つたのが最初であり、それは開発途上国では戸籍が完備されておらず皆接種が困難であつたためであつて、それ以前においては、WHOも痘そう根絶のためには全面的定期種痘しかないとしていたこと、日本が非常在国となつたのちも一律強制接種を続けていたことは、ウイルス学的には一つの正しい方法であつたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[142] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において種痘の定期接種の是非について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には各被害児が種痘接種を受けた昭和27年から昭和49年までの間)において、厚生大臣として、法が種痘の定期強制接種の実施を命じているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、種痘につき、市町村長等をして法5条所定の接種及び法9条所定の接種を実施させないとする注意義務、並びに開業医あるいは地方公共団体に対し法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種を実施することがないよう行政指導すべきであるとする注意義務をそれぞれ負つていたものと認めることはできない。
[2] 若年接種を実施させた過失について
[143] 厚生大臣が、被告国の機関である市町村長等をして乳幼児に対し法5条所定の接種及び法9条所定の接種を実施させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、乳幼児に対する当該予防接種の実施方法等について行政指導を行つていたのは、いずれも法が一定の年齢の乳幼児についてこれらの予防接種を受けるように国民に強制していることから、厚生大臣としてその法の規定、趣旨に従つたにすぎないものと解される。しかしながら、諸般の事情に照らし、被接種者である乳幼児の生命、身体の危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという事情が認められる場合には、厚生大臣としては、法の改廃を待つことなく、法5条所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である市町村長等をして乳幼児に対する当該予防接種の実施を中止させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、乳幼児に対する当該予防接種を実施することがないよう行政指導すべき、各注意義務を負つていたものと解される。
[144] また、勧奨接種の場合においても、諸般の事情にてらし、被接種者である乳幼児の生命、身体の危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという事情が認められる場合には、厚生大臣としては、地方公共団体に対し、乳幼児に対する当該予防接種の実施をしないよう行政指導すべき注意義務を負つていたものと解される。
[145] そして、厚生大臣が以上の各注意義務に違反したときは、国家賠償法の過失があると解するのが相当である。
[146] そこで、以下、種痘、インフルエンザワクチン、百日咳ワクチン、及びその余のすべてのワクチンについて、本件各接種当時、厚生大臣に右各注意義務違反があつたか否かについて順次検討することとする。
(a) 種痘の若年接種を実施させた過失について
[147] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[2](a)の事実中、1964年(昭和39年)イギリスにおいて、種痘による1歳以下の乳幼児の事故率が、1歳を超える幼児のそれに比し著しく高く危険が大きいとの調査結果が発表された事実、同国においては1962年(昭和37年)から、それまでは生後4ないし5か月の間に接種が行われていたのを生後2年目に行うよう改められたが、これに続いてオーストリーにおいても、1963年(昭和38年)に接種年齢が1歳以上に引き上げられ、またアメリカ合衆国においても、1966年(昭和41年)に接種年齢が1歳から2歳に引き上げられ、更に、1973年(昭和48年)には西ドイツにおいても、接種年齢が18か月ないし3歳に引き上げられたとの事実、わが国においては、昭和45年8月に、厚生省公衆衛生局長通達により、接種年齢が6か月以上24か月までに引き上げられ、更に昭和51年に、法の改正により、36か月以上72か月までに引き上げられたとの事実、種痘につき、市町村長等により法5条所定の接種が、開業医により法6条の2所定の接種が、それぞれ1歳未満の乳幼児に対して実施されていたとの事実は、当事者間に争いがない。
[148] 〈証拠略〉を総合すれば、1960年(昭和35年)にイギリスにおいて、グリフイスが、1歳未満の乳幼児の種痘合併症の発生、致死率が最も高いことを指摘したこと、これを受けて同国厚生常設医事勧告委員会は、定期種痘は生後4、5か月にではなく、できれば生後2年目になされるべきことが望ましい旨勧告し、この勧告に基づき、1962年(昭和37年)に同国厚生省は、同国の郡及び市評議会宛にその旨の指示をしたこと、その後1964年(昭和39年)にコニーベアーにより、1951年(昭和26年)から1960年(昭和35年)までの間にイングランドとウエールズにおいて行われた種痘による合併症について、種痘疹、種痘後脳炎の発生率が1歳未満児の場合他の年齢群に比較しはるかに多いことが明らかにされたこと、アメリカ合衆国においては、1963年(昭和38年)にネフによつて、種痘副作用の発生頻度調査が行われ、1歳未満児の副作用は他の年齢層に比べて多く、もし初種痘が生後1年の後まで延期され、禁忌者の選別が行われれば、種痘に伴う疾病率及び死亡率ははつきりと減少するだろうと指摘がなされたこと、この指摘を受けて、アメリカ合衆国公衆衛生局は、1966年(昭和41年)に初種痘を生後2年目に延期するよう勧告したこと、その後1968年(昭和43年)ネフ、レインらにより更に大規模な種痘副作用の発生頻度調査が行われ、同様の結果が得られたこと、日本においては、昭和37年に金子義徳が、日本の初種痘の方法や時期について慎重に検討されねばならない旨指摘していること、グリフイス、コニーベア、ネフ、レインらの報告により1歳未満の乳幼児の方が他の年齢層に比べて種痘副作用の危険が高いことが明らかにされ、イギリス、アメリカ合衆国において種痘政策の変更があつたことは、日本においても昭和42年に紹介されていること、遅くともその頃には1歳未満の乳幼児に対する種痘副作用の危険性が高いとの考え方が定説となつていたとする見解があること、日本においても、昭和46年以降において、日本の統計によつても1歳未満の乳幼児に対する種痘が危険なことが示されており、少なくとも生後12か月以降なるべく満2歳近い時に初種痘を行うよう改められるべきであるとする見解がいくつか出されたこと、痘そう非常在国においては、外国からの痘そう輸入患者に零歳児が接触するという機会は非常に少なく、また零歳児が感染経路となつて更に誰かに痘そうが感染していくということは通常者えられないとの見解があること、乳幼児種痘によつて20年後の痘そう流行を抑える効果はほとんどなく、乳幼児に対する初種痘及びその後の定期種痘が完全に実施されたとしても、それだけで痘そうの侵入を防ぐことはできないとの見解があること、1歳未満の乳児に対する初種痘が予備的接種の意義を持ち、成人に対する初種痘に比べて副反応の発生率が低いとしても、1歳未満児に対する初種痘の場合は再種痘が行われるから2回の危険があり、1歳未満児の初種痘と15歳以上において行われる再種痘の危険度を合わせたものは、成人初種痘の危険度の約1.5倍も大きいとの見解があること、再種痘の場合促進反応を示し効果の出現が早いということを裏付ける資料(データ)は存在しないとの見解があること、初種痘より再種痘の方が種痘後脳炎の発生可能性は低いとの説があるが、痘そうが侵入した場合に緊急種痘の必要があるのは1万名以下にすぎず、その中からの種痘後脳炎発生率を下げるために乳幼児に対し一律定期強制種痘を実施するというのは、コスト・ベネフイツト・バランスイング論から考えても不合理であるとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[149] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、1歳未満児に対する種痘は副作用発生の危険性が高いとするグリフイス、コニーベア、ネフ、レインらの報告が出される以前においては、乳幼児はできるだけ早いうちに種痘をする方が安全であり、年長になればなるほど副作用の危険が高いとするのが支配的見解であつたこと、1960年(昭和35年)にWHO痘そう専門委員会は、グリフイスの報告が従来のデータと対照的であるので観察が解決されるまでは既に確立されている実際の方法に従つて継続することが最良であるように思われるとして、乳幼児の種痘接種の継続を是認する見解を示していること、その当時、世界各国のほとんどすべてが1歳未満児に対する強制種痘を実施していたこと、1964年(昭和39年)においても、WHO痘そう専門委員会は、痘そうが根絶されるまで、各国は恒久的な予防接種計画を続けて行うべきであり、非常在地においては生後3、4か月に行うのが便利であり効果的であるとの報告をなしていること、1968年(昭和43年)に西ドイツのエーレングートは、零歳児の種痘による死亡率が高いのは零歳児一般の死亡率が高いことからも説明でき、種々の要因を総合すると初種痘年齢は6か月未満または2歳が好ましいとの見解を示し、また同人は1968年(昭和44年)に、種痘後脳炎の発生率は24か月までの間では12か月から24か月児が最も高く、6か月未満が最も低いと報告していること、1973年(昭和48年)にベネンソンは、生後3ないし6か月児に初種痘を実施するのがよいとの見解を示していたこと、コニーベアの調査結果に対しては、1歳未満と1歳以上で種痘副反応の発生率に統計学上の有意差があると言えるかは疑問であるとする見解があること、ネフの調査結果に対しては、1972年(昭和47年)にWHO主催の種痘ワクチン国際シンポジウムにおいて、データがはつきり得られるまでは現在までに受入れられている効果の試みられたワクチンをやめてしまうのは賢明でないとされたこと、レインの調査結果に対しては、1歳未満と1歳から4歳までとの間で種痘後脳炎の発生率に統計学上の有意差があるとは言えないとの見解があること、日本において、昭和41年に発足した厚生省種痘研究班が行つた種痘合併症の調査結果では、種痘後脳炎の発生頻度が1歳未満と1歳以上で差があるかどうかは症例数が少なく不明であつたが、イギリス及びアメリカ合衆国において1歳から2歳の間に種痘をするように種痘政策の変更があり、また右種痘研究班の調査結果では、局所反応の発生率は1歳以上よりも1歳未満の方が高かつたことから、昭和44年の小児科学会予防接種委員会において、初種痘を現行法の範囲内でなるべく遅く満1歳に近い時期に行うのも一案であるとされたこと、また、昭和45年の伝染病予防調査会予防接種部会において、初種痘年齢の上限はイギリス、アメリカ合衆国なみに2歳に引き上げても悪くなることはないが、下限については、従来の初種痘年齢を肯定する見解もあり、また、1歳以上の子供になると歩き回わるなどして種痘を行うのが大変であつたり、接種部位を引つ掻いて膿ませたりすることも多いとする小児科医の考え方もあつたことから、イギリスにおける合併症集計例により全身性ワクチニアの発生頻度がその前後で差があるとされた生後6か月とするとされたこと,このような接種年齢の期間延長は、各年齢毎の副反応の発生頻度の比較の調査(サーベイランス)を続けるという意味もあつたこと、これを受けて、昭和45年8月に厚生省公衆衛生局長が、第1期接種年齢を生後6か月から24か月の間にする旨の通達を各都道府県知事宛に発したこと、昭和45年に種痘合伴症に対する救済措置が設置され、それ以降救済申請による症例把握が容易となり、症例集積の結果、昭和47、8年ころになつて、重篤な副反応の発生頻度は1歳未満よりも1歳以上の方が少なく、2歳以上になると更に少なくなるということが明らかになつたこと、そして昭和50年ころになると年長児初種痘の危険性はそれほどでないとの見解が大勢を占めるようになり、昭和50年12月に伝染病予防調査会予防接種部会は、第1期接種年齢を36か月から72か月までに引き上げるよう答申し、これが基となつて昭和51年にその旨の改正が行われたこと、がそれぞれ認められる。
[150] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において初種痘を実施すべき時期について各見解の対立があつた本件接種当時(具体的には昭和37年以降において1歳未満の各被害児が種痘接種を受けた昭和37年から昭和48年までの間)において、厚生大臣として、法が初種痘年齢を規定しているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、種痘につき、市町村長等をして1歳未満の乳幼児に対する法5条所定の接種を実施させないとする注意義務、及び開業医に対し、1歳未満の乳幼児に対する法6条の2所定の接種を実施することがないよう行政指導すべき注意義務、をそれぞれ負つていたものと認めることはできない。
(b) インフルエンザワクチンの若年接種を実施させた過失について
[151] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[2](b)の事実中、イギリス及びアメリカ合衆国において2歳未満の乳幼児にインフルエンザ予防接種を実施していない事実、わが国においても、昭和42年12月4日、厚生省公衆衛生局長が各都道府県知事宛に「2歳以下の乳幼児に対するインフルエンザ予防接種の取扱いについて」と題して、「一般家庭における乳幼児はインフルエンザ感染の機会が少なく、また成人に比して2歳以下の乳幼児は副反応の頻度が高いので、慎重な予診、問診等を実施し、対象の選定に留意すること、一般家庭における2歳以下の集合接種は好ましくなく、乳幼児を持つ保護者等の予防接種の励行をはかること、集団生活を営む保育所等の2歳以下の乳幼児については、従来どおり特別対策を実施し、実施に当たつては体温測定を全員に行うなど慎重に行うこと」等を通知し、また、昭和46年9月29日には、厚生省公衆衛生局防疫課長が、各都道府県衛生主管部(局)長宛に「インフルエンザ予防接種特別対策実施上の注意について」と題して、「2歳以下の乳幼児は、成人に比して重篤な副反応の発生の頻度が高いこと、これらの年齢層はインフルエンザ感染の機会が少ないと等に鑑み、インフルエンザの流行が予測され、感染による危険が極めて大きいと判断される十分な理由がある等特別の場合を除いては、勧奨を行わないよう」等を通知するに至つた事実、昭和32年から昭和41年まで毎年、厚生省公衆衛生局長が、都道府県知事及び指定都市市長宛に、当該年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通達を発し、2歳以下の乳幼児等に対する勧奨接種の実施につき行政指導を行つていた事実は、当事者間に争いがない。
[152] 〈証拠略〉を総合すれば、乳幼児は一般の家庭内にいる限り、両親等の家族がインフルエンザワクチン接種を受けていれば、インフルエンザ感染の確率は少なく、また罹患しても他へ流行を拡大する感染源としての役割は小さいから、特に予防接種の対象とする必要はないとの見解があること、乳幼児は一般的に抵抗力が弱いためワクチン接種による副作用の危険が高く、1961年(昭和36年)にアメリカ合衆国において、インフルエンザワクチン接種により5歳以下の子供の40パーセントが全身反応の副作用を生じたとの報告例があり、日本においても、昭和46年に、インフルエンザワクチン接種により神経系の障害を残したもの24例中、2歳以下のものが13例であり、そのうち11例は1歳以下であつたとする報告例があること、乳幼児に一旦副反応が生じた場合、他の年齢層の人に比較して手当がしにくいこと、ソ連において乳幼児一般にインフルエンザ生ワクチンを接種している以外に、乳幼児一般にインフルエンザ不活化ワクチンを接種している国はなく、その理由としては、乳幼児にとつてインフルエンザは危険な病気ではなく、接種の必要がないこと、及び乳幼児に予防接種の副反応が生じた場合非常に重い症例となること、があげられるとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[153] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、乳幼児は身体機能の未発達なところがあり、インフルエンザのような熱性疾患に罹患した時は、成人に比べて重症になる危険性が高いこと、昭和32年から昭和33年にかけてのアジア風邪流行の際、乳幼児の罹患率はかなり高く死亡率も老人についで高かつたこと、昭和33年ころにおいては、乳幼児はインフルエンザに弱くワクチン接種が必要であるとするのが小児科一般の考え方であり、伝染病予防調査会においても、乳幼児のインフルエンザによる死亡率は高いからハイリスクグループに入れるべきであるとする意見があつたこと、WHOにおいても、乳幼児は高齢者とともにインフルエンザに感染した場合生命に危険があるおそれがあるから、インフルエンザワクチン接種の優先的対象者とすべきであるとしていたこと、昭和40年ころからインフルエンザワクチン接種による副反応に対する関心が高まり、特に2歳以下の乳幼児に事故例が多かつたため、伝染病予防調査会において2歳以下の乳幼児に対するインフルエンザワクチン接種の是非が検討されるに至つたが、接種中止には反対の意見もあつたこと、伝染病予病調査会において検討が重ねられた結果、最終的には集団生活を営まない2歳以下の乳幼児に対しては集団接種は好ましくないとの結論が出され、これをを受けて昭和42年に厚生省公衆衛生局長が各都道府県知事宛にその旨の通知を発して行政指導を行つたこと、昭和42年当時においても、インフルエンザは小児にとつて年間10ないし20パーセントは経験されるものであり重要なウイルス病因であるから、インフルエンザワクチン接種推進の価値が大きいとする見解があり、また昭和50年当時においても、乳幼児はインフルエンザの被害を受けやすいからこれをインフルエンザワクチンの接種対象とすべきであるとの見解があつたこと、がそれぞれ認められる。
[154] 以上の諸事実を総合勘案すれば、2歳以下の乳幼児に対するインフルエンザワクチン接種が危険性の高いものであり、一律の接種をすべきでないことが、インフルエンザ予防接種が開始された昭和32年の時点において既に明らかであつたとは認められず、厚生大臣が、本件各接種当時(具体的には2歳以下の各被害児がインフルエンザワクチン接種を受けた昭和39年から昭和41年までの間)において地方公共団体に対し、2歳以下の乳幼児に対するインフルエンザワクチンの一律勧奨接種の実施をすべきでない旨の行政指導すべき注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(c) 百日咳ワクチンの若年接種を実施させた過失について
[155] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[2](c)の事実中、百日咳ワクチンが乳幼児に脳炎、脳症等の重篤な副作用を発生させることがあることは、1933年(昭和8年)にデンマークにおいて報告されて以来、アメリカ合衆国やイギリスにおいても同様の報告がなされた事実、わが国の百日咳患者発生数は昭和30年ころから減少傾向にあり(昭和22年15万2072名であつたものが、昭和30年には1万4134名となつている)、百日咳による死亡者数も昭和30年ころには減少傾向にあつた(昭和22年1万7001名であつたものが、昭和30年には401名となつている)事実、罹患後早期(カタル期)においては、抗生物質が治療に効果がある事実、昭和50年に百日咳ワクチンは、平常時の集団接種の場合は生後24か月から48か月の者に接種するよう指導するようになつた事実、百日咳ワクチン(ジフテリアワクチンまたは破傷風ワクチンとの混合ワクチンを含む)につき、市町村長等により法5条所定の接種及び法9条所定の接種が、開業医により法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種が、それぞれ2歳未満の乳幼児に対して実施されていたとの事実は、当事者間に争いがない。
[156] なお、前記一の原告主張一覧表の各「実施主体」について認定したとおり、本件各接種には、地方公共団体によつて2歳未満の乳幼児に対し百日咳ワクチンの法9条所定の接種が実施された場合もある。
[157] 〈証拠略〉を総合すれば、百日咳ワクチン接種により重篤な副反応が生ずることがあることは、1933年(昭和8年)にデンマークのマドソンが報告して以来、欧米においてアメリカ合衆国のバイエルズ、モル、トウーミイー、スイスのケンク、イギリスのベルグ、コツクバーン、スウエーデンのシウトレームらにより数々の報告例があること、日本においても昭和34年に有馬正高らにより百日咳ワクチン接種による重篤な中枢神経系障害の発生が報告されて以来、昭和41年には伊藤道通らにより、昭和43年には小松代により、同様の報告がなされたこと、厚生省も昭和37年4月以降発生した百日咳ワクチン接種による神経系障害の事例を持つていたとの見解があること、イギリスにおいては1960年(昭和35年)代には百日咳ワクチン接種による事故の存在が広く認識されていたこと、日本においても昭和27年以降百日咳ワクチン接種により毎年脳症が発生していたとのデータが存在していること、昭和26年に額田は、乳幼児の百日咳感染は年長児からの2次感染であり、乳幼児は行動範囲が狭く流行源にならないから、百日咳の予防接種はまん延の原因となる幼稚園児及び小学校児童に対して行うべきであり、生後3か月から18か月の乳幼児を接種対象とすることは不適当であるとの見解を表明したこと、百日咳の届出患者の年齢分布によれば、患者数は零ないし1歳よりも2歳以上に多いこと、昭和30年に赤石英は、百日咳ワクチンの実際的有効率は0.039にすぎないとの見解を発表したこと、昭和48年に森藤靖夫は、百日咳の患者発生の減少、特に死亡者がないこと、抗生物質による治療が可能であることとを掲げて、百日咳ワクチン接種は、有効にして安全確実な新ワクチンが開発されるまで中止するか法の枠からはずしてしまう英断が望ましいとの見解を示したこと、昭和48年に安原美王磨は、百日咳の治療法の進歩により死亡者数は激減しており、昭和44年の3種混合ワクチン接種による犠牲者数が百日咳による死亡者数を上回つているとして、百日咳ワクチン接種の廃止を主張したこと、昭和48年の日本医学総会において、百日咳ワクチン接種は生後1年以降に行うのが合理的であるとの意見が出されたこと、岡山県では、昭和47年に発生した3種混合ワクチン接種による死亡事故を契機に昭和48年4月以来百日咳ワクチン接種を中止したが、その後昭和50年3月ころから百日咳患者が多発し始めたものの、症状は一般に軽く抗生物質も効果があり、昭和50年度に同県下で見られた幼若乳児の百日咳重症例は4名であり、重篤期間は比較的短かく、一夜または半日間の慎重な治療で速やかに快方に向かつたこと、右接種中止以後4年間同県下では百日咳ワクチンによる死亡者はいなかつたこと、1975年(昭和50年)当時、西ドイツでは百日咳ワクチン接種を廃止する動きがあつたが、その根拠についてエーレングートは、西ドイツの疫学的状態に照らせば百日咳は危険性の少ない病気であり、それに対して百日咳ワクチン接種によつて起こる危険性は病気自体の危険性より大きいとの見解を示していたこと、がそれぞれ認められる。
[158] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、百日咳は極めて伝染力の強い呼吸器系伝染病であり、感染後7日から10日の潜伏期を経て、カタル期と呼ばれる1、2週間にわたる時期となるが、カタル期が最も菌をまきちらし周囲に感染させる危険性が大きいにもかかわらず、症状は軽い咳が出る程度で普通の風邪や気管支炎と区別しにくく百日咳であるとの診断が容易でないため、感染源対策として患者を隔離することによつて感染を防ぐことがむずかしく、また家庭内感染が多いため感染経路対策も取りにくく、感受性対策としての予防接種が感染予防の主要な手段であること、百日咳の場合、乳児が母親からもらう母子免疫効果が期待できないとされており、一般に乳幼児が百日咳に罹患することが多く、しかも症状は重く、合併症を起こす率も1歳未満児特に6か月未満児に高く、痙咳期になると抗生物質も効果がないから、致命率も相当高いこと、従つて、百日咳の予防においては6か月未満児の罹患を防止することが一番重要であること、百日咳ワクチンの有効性を示す調査研究は数多く集積されており、1942年(昭和17年)以来10年間にわたつてイギリスで行われた野外実験により有効であるとの評価が最終的に決定されたこと、日本においても、百日咳の疫学に関する研究班の昭和48年から昭和49年にかけての研究により、少なくとも3回以上の百日咳ワクチン接種を受けた子供は、その後数年間にわたつてかなりの免疫を持つていることが明らかにされたこと、日本では百日咳ワクチンについて4つの安全試験が行われており、日本の百日咳ワクチンの品質管理は世界のトツプレベルにあること、昭和43年ころから百日咳患者数が減少した原因の一つに百日咳ワクチンの普及、改良があげられるとする見解があること、昭和46年当時においては、日本において百日咳ワクチンより重篤な脳症状を起こした報告例はないとの見解が有力であつたこと、1972年(昭和47年)当時、イギリスでは、百日咳ワクチンは生後6か月から1年以内の乳幼児に接種すべきであるとされていたこと、1974年(昭和49年)のWHO主催の会議において百日咳ワクチン接種はなお必要であるとの勧告がなされたこと、1974年(昭和四九年)当時、アメリカ合衆国小児科学会が推奨している予防接種スケジユールによれば、3種混合ワクチンは生後6か月以内に3回接種するようにとされていたこと、日本において昭和49年12月と昭和50年1月に3種混合ワクチンによる事故が起き、集団接種は一時中止され、伝染病予防調査会予防接種部会百日咳小委員会において百日咳ワクチン接種の是非が検討されたが、同委員会においては、百日咳の予防接種を実施しなければ早晩患者が増えることは目に見えており、接種をやめたままにしておくとはできないが、接種を再開するには事故が起きないようにしなければならず、現行のワクチンで接種を実施するには接種年齢の引上げが考えられるが、百日咳に罹患した場合の危険性は小さい年齢の方が高いから、そのかねあいから、流行のない平常時には集団接種としては2歳以降に開始し、4歳に達する前に2期まで完了しておくこととの改正案が答申されたこと、その改正の理由としては、抗生物質等による治療法の進歩等により百日咳による死亡者が減少したこと、昭和48年から昭和49年にかけての疫学調査により百日咳患者は1歳未満ではなくむしろ2歳以上に多く、血中の抗体保有率は5、6歳の年長児の方が多くこの年齢層にひそかに流行が起こつていると見られることが判明したこと、5、6歳の年長児に予防接種の効果があるようにしておけばそれらの子供を通して家庭内感染により1歳未満児が感染することを防げるであろうこと、1歳未満児に中枢神経障害が起きやすいこと、等があげられたこと、この答申に基づき昭和50年に厚生省公衆衛生局長が右答申に沿つた通達を発したこと、昭和50年以降再び百日咳患者が増加し特に1歳未満のワクチン未接種児の罹患が多かつたが、その原因としては予防接種率の低下があげられるとの見解があること、がそれぞれ認められる。
[159] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において乳幼児に対する百日咳ワクチン接種の是非について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には2歳未満の各被害児が百日咳ワクチン、2種混合ワクチン、3種混合ワクチンの接種を受けた昭和33年から昭和44年までの間)において、厚生大臣として、法が百日咳ワクチンを接種すべき年齢について規定しているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、百日咳ワクチン、2種混合ワクチン、3種混合ワクチンにつき、市町村長等をして2歳未満の乳幼児に対する法5条所定の接種及び法9条所定の接種を実施させないとする注意義務、並びに開業医あるいは地方公共団体に対し2歳未満の乳幼児に対する法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種を実施することがないよう行政指導すべき注意義務を、それぞれ負つていたものと認めることはできない。
(d) その余のすべてのワクチンの若年接種を実施させた過失について
[160] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[2](d)の事実中、ワクチンは生物学的製剤そのものであり、各種伝染病の病原体を弱毒化または不活化したもの及びその産生する毒素を無産化したものであつて、劇薬に指定されており、人体にとつて異物であるとの事実、ポリオの流行に対処するため、昭和36年6月27日、厚生省事務次官が都道府県知事及び指定都市の市長宛に「今夏の急性灰白髄炎流行における緊急対策について」と題する通達を発して、6か月未満の乳児も接種対象者としたポリオ生ワクチンの勧奨接種の実施方について、行政指導を行い、これに基づき都道府県知事等が市町村に指示をし、市町村はこれを受けて国民に通知を発して6か月未満の乳児も対象者としたポリオ生ワクチンの勧奨接種を実施し、昭和37年以降は、毎年厚生省公衆衛生局長が同様の通達を発して行政指導を行い、これに基づき都道府県知事等が市町村に指示して6か月未満の乳児も対象者としたポリオ生ワクチンの勧奨接種を実施して来た事実、ポリオ生ワクチンが法定の定期接種とされてからは、市町村長等が法5条所定の接種を6か月末満の乳児に対しても実施した事実は、当事者間に争いがない。
[161] 〈証拠略〉を総合すれば、すべてのワクチンは、副反応として神経障害を来たす多数の因子を含んでおり、人体にとつて本来的に危険であるとする見解があること、生後1歳未満特に生後6か月未満の乳児は脳及び血液関門の発育が不充分であり、免疫産出組織も未成熟であるため、非常に抵抗力が弱く、あらゆる外的因子に対し神経系の反応が強烈に起き損傷を受けやすいこと、乳児は病気や体質異常があつてもこれが明らかになつていないことが多く、禁忌の発見は年長児に比べると困難であること、以上の点から、生後1歳未満、特に6か月未満の乳児については、あらゆるワクチンについて伝染病の具体的流行と感染の可能性と一旦罹患した場合の伝染病の重さ等を疫学的に総合的に考慮して、どうしてもその時期に接種しなければならないというはつきりした必要性が明らかな場合でない限り、少なくとも一律集団接種は避けるべきであるとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[162] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、現実に伝染病患者が発生しており、接種を実施しなければ乳児に危険が生ずるという場合には、乳児に対しても接種を実施しなければならないことが認められ、また〈証拠略〉によれば、ポリオは以前「小児麻痺」の臨床名で呼ばれており、それは麻痺患者が主として小児に発生したからであり、乳児にとつてポリオは危険な疾病であること、ポリオ予防のため唯一の方策は予防接種であること、ポリオ生ワクチン接種により昭和37年ころからポリオ患者及び死亡者数は急速に減少して行つたが、その後も毎年ポリオ患者は発生しており、昭和37年から昭和49年までの間の届出患者数は706例にのぼつていたこと、昭和52年当時においても、ポリオ生ワクチンは生後3か月から18か月の間に2回投与されるべきであるとの見解があつたこと、がそれぞれ認められる。
[163] 以上の諸事実を総合勘案すれば、6か月未満の乳児に対するあらゆるワクチンの接種が当然に禁止されるべきものとは認めることはできないし、ポリオ生ワクチンに関する右事実に照らせば、ポリオ生ワクチンが法定接種とされる以前の本件各接種当時(具体的には6か月未満の各被児害児がポリオ生ワクチン接種を受けた昭和38年及び昭和39年)において、厚生大臣として、地方公共団体に対し、6か月未満の乳児に対するポリオ生ワクチンの勧奨接種の実施をしないように行政指導すべき注意義務を負つていたものと認めることはできず、またポリオ生ワクチンが法定接種とされたのちの本件各接種当時(具体的には6か月未満の各被害児がポリオ生ワクチン接種を受けた昭和42年及び昭和43年)において、厚生大臣として、法がポリオ生ワクチンを接種すべき年齢について規定しているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、ポリオ生ワクチンにつき、市町村長等をして6か月未満の乳児に対する法5条所定の接種を実施させないとする注意義務を負つていたものと認めることもできない。
[3] 禁忌該当者に接種を実施させた過失について
(a) 禁忌設定不充の過失について
[164] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[3](a)の事実中、ワクチンは、生ワクチン(種痘、ポリオ)、不活化ワクチン(インフルエンザ、百日咳、腸チフス、パラチフス、日本脳炎)、はたまたトキソイド(ジフテリア、破傷風)でも、これを人体に接種すれば、ワクチン本来の目的である当該ウイルスまたは細菌に対する免疫抗体が生じるほか、種々の副反応を生じ、これら副反応には、物理的刺激による反応及び毒素様物質による反応、アレルギー性の反応、生ワクチンにるウイルス感染症、があり、脳炎、脳症等の重篤な中枢神経障害もその中に含まれ、死亡するに至ることもある事実、被接種者の健康状態、罹患している疾病その他身体的条件または体質的素因により副反応に大きな差を生じ、場合によつては脳炎、脳症等の重大な結果をもたらすことのある事実、重篤な副反応を生じる蓋然性の高い体質的素因を有する者や不健康者に対する接種は禁忌として接種をしないことが必要である事実、わが国では昭和33年に予防接種実施規則4条により、禁忌として、以下の5項目即ち、「一号、有熱患者、心臓血管系、腎臓又は肝臓に疾患のある者、糖尿病患者、脚気患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者、二号、病後衰弱者又は著しい栄養障害者、三号、アレルギー体質の者又はけいれん性体質の者、四号、妊産婦(妊娠6月までの妊婦を除く)、五号、種痘については、前各号に掲げる者のほか、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」とすることが定められた事実、その後これは昭和39年に改正され、五号に「急性灰白髄炎の予防接種を受けた後2週間を経過していない者」が加えられ、新たに六号として「急性灰白髄炎の予防接種については、第一号から第四号までに掲げる者のほか下痢患者又は種痘を受けた後2週間を経過していない者」が加えられ、更に昭和45年の改正により、四号に「妊娠6か月までの妊産婦」が加えられ、五号及び六号に「麻しんの予防接種を受けた者」が加えられ、接種間隔も2週間から1か月に延ばされた事実、その後昭和51年9月には、法の改正に伴い、禁忌は以下の9項目即ち、「一号、発熱している者又著しい栄養障害者、二号、心臓血管系疾患、腎臓又は肝臓疾患にかかつている者で、当該疾患が急性期若しくは増悪期又は活動期にあるもの、三号、接種しようとする接種液の成分によりアレルギーを呈するおそれがあることが明らかな者、四号、接種しようとする接種液により異常な副反応を呈したことが明らかな者、五号、接種前1年以内にけいれんの症状を呈したことがあることが明らかな者、六号、妊娠していることが明らかな者、七号、痘そうの予防接種(以下「種痘」という。)については、前各号に掲げる者のほか、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害をきたすおそれのあるもの又は急性灰白髄炎若しくは麻しんの予防接種を受けた後1月を経過していない者、八号、急性灰白髄炎の予防接種については、第一号から第六号までに掲げる者のほか、下痢患者又は種痘若しくは麻しん予防接種を受けた後1月を経過していない者、九号、前各号に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者」に改められた事実、接種を担当する医師は、必ずしもワクチンの専門家でも小児科の専門家でもない事実、未熟児で生まれた者や出生時に異常のあつた者の中には、ワクチンに対する抵抗力が充分でなく過剰反応のおそれがある場合がある事実、発育不良あるいは発育の遅れている乳幼児には免疫欠損症や神経系疾患が潜在している可能性がある事実、虚弱体質で慢性的に不健康な状態にある乳幼児には、免疫欠損症等何らかの重大な病気がかくれている場合がある事実、アレルギー体質とは各種の薬物、異種蛋白その他に対して異常反応を起こして、過敏症になりやすい体質をいい、一般にアレルギー性疾患としては、皮膚について、じん麻疹、クインケ浮腫、結核性紅斑、眼について、フリクテン、交感性眼炎、アレルギー性粘膜炎、角膜炎、呼吸器について、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、枯葉熱、大葉性肺炎、消化器について、食餌性胃炎、アレルギー性下痢、漿液性肝炎、循環器について、結節性動脈周囲炎、閉塞性動脈内膜炎、アレルギー性紫斑病、等があるほか、更に、湿疹、ストロフルス等他に多くのものがある事実、一定の条件のもとに一定の特異反応が見られる時には、その他の場合もアレルギーの疑いがあり、また、アレルギー性体質は遣伝性要因が関与しており、両親や兄弟にアレルギー性疾患のある幼児は、アレルギー体質の可能性がある事実、経口ポリオ生ワクチン接種後間もない時期に、抜歯、扁桃腺摘出等の外科的手術は避けるべきである事実、集団接種の場合には、接種を担当する医師の資格が限定されていないため、眼科医、耳鼻咽喉科医等の予防接種についての非専門医が接種を担当することも少なくなく、予防接種を担当する医師は、極く少ない例外を除いては、被接種者を過去に一度も診察したこともなく、接種の時が初対面であることが事実、予防接種実施要領では、1人の医師が1時間に担当する被接種者の数は種痘では80名程度、種痘以外の予防接種では100名程度を最大限とするとされている事実、禁忌事項はできるだけ明確に定める必要がある事実、は当事者間に争いがない。
[165] 〈証拠略〉を総合すれば、昭和45年当時、禁忌の定めが明確でなく、第一線の医師へ責任転嫁をするような内容であると批判する見解があつたこと、昭和46年の日本医学会総会において、現行の予防接種実施規則で決められている禁忌症の記載があまりにも不明確であつて、当事者である医師は判断に困惑する場合が少なくないとの意見が出されたこと、昭和47年当時、禁忌の定め方があいまいであるため、接種を見合わせるか否かの判断が困難であるとの見解があつたこと、家庭医(ホームドクター)による個別接種方式に比べ、集団接種方式の場合は、接種担当医が被接種者の病歴、発育歴等を知らず、また、実施要領に定める1時間当りの接種人数に従つたとしても、なお非常に多数の被接種者に対し一定の時間で接種を完了しなければならないため、一人一人について充分な予診を行うことが困難な状況にあり、実際には実施要領に定める1時間当りの接種人数を超えた接種が行われていたこと、問診票を使用しないで禁忌に留意して接種を行うとすれば1時間に7名から10名位しか接種を行うことができず、問診票を使用しても1時間に30名位しか接種を行うことができないとする見解があること、集団接種において眼科医、耳鼻咽喉科医等の予防接種について非専門医が接種を担当する場合、ワクチンの性質、安全性、副作用等の予防接種に関する知見を充分有していないばかりでなく、接種に当つて乳幼児の健康状態を適切に判断する能力にも欠けていることが多いとする見解があること、集団接種における禁忌とは、最終的にその予防接種をすべきでないということを意味するものではなく、その場ではひとまず接種を見合わせ、あらためて個別的に接種の是非を判断すべきことを意味すると理解すべきであるとする見解があること、原告らが、予防接種実施規則に定める禁忌事項に比べより具体的、明確な禁忌事項として、その設定されるべきであつたことを主張する10項目(請求原因第四項(責任)2(五)(3)[3](a)の項に記載)の体質的素因及び身体的状況について、これを集団接種における禁忌事項とすべきであるとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[166] しかしながら、他方において、証人福見秀雄、同木村三生夫(第1回)の各証言及び〈証拠略〉を総合すれば、ある事項に該当する者に対しても一定の場合には接種できるという場合には、かかる事項は禁忌としてではなく注意事項として挙げ、最終的には接種担当医に接種の是非の判断を任せるのが適当であるとする見解や、禁忌とはいつても、その中には絶対的な禁忌からある程度の注意ですむものまで種々の段階のものがあり、ワクチンの種類によつても変化するもので、接種担当医の総合的判断が重視されるとする見解があること、集団接種の場で禁忌とされたものも特別な注意を払えば個別接種において接種可能となる例も決して少ないものではなく、昭和51年の改正前の予防接種実施規則が定める禁忌事項は、絶対的な禁忌かや接種時の注意程度でよいものまで種々の段階のものが含まれておりこれは、集団接種を対象とした禁忌であると言えるとする見解があること、禁忌の項目を決めるに当つては、できるだけ多くの項目をあげ、細かく規定すべきであるという考え方と、規定はなるべく少なくし、個々の事例に当つてはなるべく医師の判断を優先させるべきであるという考え方とがあるとの見解があること、昭和48年の日本医学総会においては、将来改正される規則においては、ワクチンごとに特有な禁忌症のみを問題とし、その他の一般的禁忌事項については予防接種を行う医師の判断に任すのがよいという意見が強調されたこと、昭和51年の禁忌事項の改正では、従来よりも医師の判断によつて接種の可否を決める余地が大きくなつたとする見解があること、予防接種をするかしないかという程度の判断は、医師にとつての常識であり、特別に訓練を受けなければできないというようなものではないとの見解があること、昭和23年の法制定時に、厚生省告示である痘そう、ジフテリア、腸チフス、パラチフス及びコレラの各予防接種施行心得により各予防接種ごとの禁忌事項が定められ、その後昭和25年には百日咳予防接種施行心得により、昭和28年にはインフルエンザ予防接種施行心得により、これら各予防接種の禁忌事項も定められ、昭和26年には腸チフス・パラチフス予防接種施行心得が改正され禁忌事項が追加されたこと、かかる禁忌事項の定め方は当時としては合理的なものであり、新してワクチンが開発、使用されるようになる度に、そのワクチンについての禁忌事項、注意事項が定められて来たとする見解があつたこと、伝染病予防調査会には禁忌事項に関する小委員会があり、そこで禁忌事項の定め方について討議されていたこと、予防接種実施要領が定める1時間当りの接種人員数は、最大限を定めたものであり、伝染病予防調査会において妥当な数字であるとして決められたものであること、原告らが、禁忌事項として設定されるべきであつたと主張する10項目にわたる体質的素因及び身体的状況のうち、1項「未熟児で生まれた者、出生時に異常のあつた者」は、ワクチンに対する抵抗力が充分でなく過剰反応のおそれがあり、「病後衰弱者又は著しい栄養障害者」(昭和51年改正前の予防接種実施規則4条2号)または「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」(同条1号)等に該当するときは禁忌であり、2項「発育不良あるいは発育の遅れている乳幼児」は、神経系疾患が潜在している可能性または免疫欠損症の可能性があり「けいれん性体質の者」(同条3号)または「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」(同条1号)等に該当するときは禁忌であり、3項「虚弱体質の子」は、免疫欠損症があり「匠師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」(同条1号)または「病後衰弱者又は著しい栄養障害者」(同条2号)等に該当するときは禁忌であり、4項「風邪にかかつている子」は、「有熱患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認められる疾病にかかつている者」(同条1号)等に該当するときは禁忌であり、5項「下痢をしている子」は、「有然患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認められる疾病にかかつている者」(同条1号)等に該当するときは禁忌であり、6項「病気あがりの子」は、「病後衰弱者」(同条2号)等に該当するときは禁忌であり、7項「今までの予防接種で異常な反応を示したり、その兄弟姉妹が予防接種で特に具合の悪くなつた前歴を有する子」は、「アレルギー体質の者又はけいれん性体質の者」(同条3号)等に該当するときは禁忌であり、8項「アレルギー体質の子並びに両親または兄弟にアレルギー体質者がいる子」は、「アレルギー体質の者」(同条3号)に該当するときは禁忌であること、がそれぞれ認められる。
[167] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において禁忌の定め方について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には、原告らが禁忌該当者であつたと主張する各被害児が接種を受けた昭和41年から昭和49年までの間)において、厚生大臣として、昭和39年及び昭和51年に予防接種実施規則により設定された各禁忌事項あるいは原告らが禁忌事項であると主張する10項目の体質的素因及び身体的状況について、これらをすべて禁忌事項として設定しておくべき注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(b) 禁忌該当者に接種させないための措置不充分の過失について
[168] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[3](b)の事実中、乳幼児に対する接種における問診は、被接種者本人にではなく、その保護者になされるという事実、禁忌を予め保護者に告知すべきであるという事実、わが国では、昭和34年1月に「接種場所に禁忌に関する注意事項を掲示または印刷物として配布すること。予診の時間を含めて、医師1人を含む1班が、1時間に対象とする人員は、種痘では80人程度、種痘以外の予防接種では100人程度を最大限とすること。」等、予防接種実施要領が定められ、厚生省公衆衛生局長通達衛発第32号をもつて都道府県知事に対し、右実施要領に従つた予防接種を実施するよう要求がなされた事実は当事者間に争いがない。
[169] 〈証拠略〉を総合すれば、問診が有効に行われるためには、接種を担当する医師や、被接種者の保護者等に対し、予防接種の危険性の有無、いかなる性質の危険であるか、どの程度の頻度で起こるか、禁忌にはどのようなものがあるか等について、予め告知されている必要があるとする見解があること、昭和34年に予防接種実施要領が定められる以前はもちろん、それ以後においても被接種者の保護者は、予防接種の危険性や、禁忌がいかなる意味を持ち、いかなる事由がこれに該当するかについて殆んど知らなかつたこと、集団接種においては、接種担当医は、被接種者の病歴、発育歴を知ることはほとんどなく、また、実施要領に定める1時間当りの接種人数に従つて接種を行つたとしても、なお非常に多数の被接種者に対し一定の時間で接種を完了しなければならないため、一人一人について充分な予診を行うことが困難な状況にあり、更に現実には実施要領に定める1時間当りの接種人数を超えた接種が行われていたこと、問診票を使用しないで禁忌に留意して接種を行うとすれば1時間に7名から10名位しか接種を行うことができず、問診票を使用したとしても1時間に30名位しか接種を行うことができないとする見解があること、乳幼児の健康状態の把握は大人の健康状態の把握に比べむずかしく、乳幼児についての禁忌の判断は容易ではないが、医師は、従来一般に、予防接種について、禁忌の見分け方とか、どのように接種したらよいか等の安全対策等に関する教育を大学で受ける機会が充分でなく、大学卒業後においても講習等による勉強の機会は少なく、昭和46年以前において、被告国が接種担当医に対し特に禁忌についての指導をしたことはないとの見解があること、特に集団接種においては、眼科医、産婦人科医等の予防接種についての非専門医も接種を担当することがあり、その場合これら非専門医は、予防接種についての教育、訓練を受けたうえで接種に当る必要があるが、これら非専門医に対して、予防接種の危険性、禁忌等についての情報さえ充分に提供されるという現状ではなかつたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[170] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、昭和33年の予防接種実施規則により禁忌事項が定められたが、それ以前においても予防接種施行心得により禁忌が定められていたこと、従つて、接種を担当する医師としては、当然かかる禁忌事項に留意のうえ接種を行うべきであつたこと、昭和34年に厚生省公衆衛生局長は、各都道府県知事宛に「予防接種の実施方法について」と題する通達を発して、予防接種法に規定する予防接種の実施に当つては、予防接種実施要領に従つて接種を実施するよう指導したこと、予防接種実施要領には、「接種対象者に対する通知」と題して、「接種対象者に対する通知等を行う際には、禁忌等の注意事項も併せて周知させること、接種前あらかじめ保護者及び接種対象者に対し、経口ポリオ生ワクチン接種後間もない時期に抜歯、扁桃腺摘出等の外科的手術を避けることを周知徹底せしめること」、「更に「実施計画の作成」と題して、「予防接種実施計画の作成に当つては、特に個々の予防接種がゆとりをもつて行われ得るような人員の配置に考慮すること、医師に関しては、予診の時間を含めて、医師1人を含む1班が1時間に対象とする人員は、種痘では80名程度、種痘以外の予防接種では100名程度を最大限とすること」、「予防接種の実施に従事する者」と題して、「都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当つては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させること」、「予診及び禁忌」と題して、「接種前には、必ず予診を行うこと、予診は、先ず問診及び視診を行い、その結果異常が認められた場合には、体温測定、聴打診等を行うこと、予診の結果、異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者に対しては、原則として、当日は予防接種を行わず、必要がある場合は精密検査を受けるよう指示すること、予防接種を受けさせるかどうかを決定するに当つては、当該予防接種に係る疾病の流行状況、被接種者の年齢、職業等を考慮し、感染の危険性と予防接種による障害の危険性の程度を比較考慮して決定しなければならないが、この判定を個々の医師の判断のみに委ねないで、あらかじめ、都道府県知事又は市町村長において一般的な処理方針をきめておくこと、禁忌については、予防接種の種類により多少の差異のあることに注意すること、多人数を対象として予診を行う場合には、接種場所に、禁忌に関する注意事項を掲示し、又は印刷物として配布して、接種対象者から健康状態及び既往症等の申出をさせる等の措置をとり禁忌の発見を容易ならしめること」、更に、「事故発生時の処置」と題して「予防接種を行う前には、当該予防接種の副反応について周知徹底を図り、被接種者に不必要な恐怖心を起こさせないようにすること」等が記載されていたこと、厚生省は、実施規則や実施要領の内容を周知徹底させるため、各都道府県知事を通じて市町村長等に通知するほか、医師会等にも通知し、更に新聞、ラジオ、テレビ等も利用して一般の医師に対する周知徹底も図つていたこと、予防接種実施要領の定める1時間当りの接種人員数は、伝染病予防調査会において妥当な数字であるとして決められたものであり、また、右接種人員数は最大限度を定めているのであるから、各実施主体においてその限度内でゆとりをもつて予防接種が行われ得るような実施計画を作成することが可能であること、昭和45年に厚生省公衆衛生局長は、各都道府県知事宛に、3回にわたり、「種痘の実施について」と題して、予診実施にあたつての留意事項、質問票等の利用、禁忌事項、種痘実施にあたつての留意事項、被接種者及び保護者に対する注意事項の周知徹底、等について、通知を発していること、また同年に厚生省公衆衛生局長及び同省児童家庭局長、都道府県知事、指定都市市長、政令市市長宛に、「予防接種問診票の活用等について」と題して、種痘以外の予防接種についても問診票を活用すること等を通知していること、予防接種をするかしないかという程度の判断は、医師にとつて常識であり、特別に訓練を受けなければならないというようなものではないとの見解があること、がそれぞれ認められる。
[171] 以上の諸事実を総合勘案すれば、厚生大臣として、本件各接種当時(具体的には原告らが禁忌該当者であつたと主張する各被害児が接種を受けた昭和31年から昭和49年までの間)において、各被害児の保護者に対し、本件各ワクチンの危険並びに禁忌の意味及びこれに該当する事由の周知徹底を行うべき注意義務、本件各接種の各実施主体に対し、集団接種において禁忌該当者を排除するに充分な予診時間を確保する余裕のある予防接種実施計画を樹立するよう監督、指導すべき注意義務、及び本件各接種の接種担当者に対し、禁忌該当者の的確な識別及び除外について指導すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、いずれもこれを怠つたものとは認めることはできず、また、厚生大臣が、右本件各接種当時において、一般の医師に対し、ポリオ生ワクチン投与後2週間以内の者に対する外科手術の禁止を周知徹底すべき注意義務を負つていたものと認めるに足りる証拠はない。
[4] 過量接種を実施させた過失について
(a) 百日咳ワクチンの接種量の定め方を誤つた過失について
[172] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[4](a)の事実中、百日咳ワクチンによる脳症等重篤な神経障害は、百日咳ワクチンに含まれる菌体成分によつて発生し、ワクチンの接種量と副作用の間には相関関係があるとする説が存在する事実、WHOが1957年(昭和32年)に定めた標準百日咳ワクチンには免疫単位がつけられており、百日咳菌50億個が3.6単位に相当し、1964年(昭和39年)のWHOの百日咳ワクチン国際基準では、4単位を3回(合計160億個)を接種すれば充分な免疫を与えるとされ、1回量は200億個を超えてはならないとされている事実、アメリカ合衆国でも古くから百日咳ワクチンの力価に上限値を定め、イギリスでは、副作用防止のため家庭内感染率が30パーセント位のあまり効きすぎない力価を有する菌量のワクチンを標準ワクチンとして採用している事実、わが国においては百日咳ワクチン及びその混合ワクチンについて、接種量については、昭和25年に出された百日咳予防接種施行心得によれば、百日咳ワクチンの初回免疫第1回1.0ミリリツトル、第2、第3回1.5ミリリツトル、追加免疫1.0ミリリツトル、昭和33年の予防接種実施規則によれば、百日咳ワクチンの第1期第1回1.0ミリリツトル、第2、第3回1.5ミリリツトル、第2期1.0ミリリツトル、百日咳混合ワクチンの第1期第1回0.5ミリリツトル、第2、第3回1.0ミリリツトル、第2期0.3ミリリツトル、昭和48年の予防接種実施規則によれば、百日咳混合ワクチンの第1期第1回0.5ミリリツトル、第2、第3回0.5ミリリツトル、第2期0.5ミリリツトル、昭和51年の予防接種実施規則によれば、百日咳ワクチンの第1期0.5ミリリツトル3回、第2期0.5ミリリツトルと、菌量については、昭和24年百日咳ワクチン基準によれば、1.0ミリリツトル中に150億以上の菌を含有しなければならない旨、昭和31年百日咳ワクチン基準によれば、10ミリリツトル中に150億個の菌を含むように原液を稀釈する旨、昭和33年2種混合ワクチンに関する基準によれば、1.0ミリリツトル中に百日咳菌240億個を含むようにする旨、昭和39年3種混合ワクチンに関する基準によれば1.0ミリリツトル中には、百日咳菌約240億個を含むようにする旨、昭和46年施行の生物学的製剤基準によれば、百日咳ワクチン(混合ワクチンを含む)の菌量は、1.0ミリリツトル中の菌数が200億個を超えないようにしてつくる旨、それぞれ定められた事実、右規定量、菌量にすると、昭和33年当時、百日咳ワクチン第1期1回の規定接種量は1.0ミリリツトルであり、それに含まれる菌数150億個であつたものでり、また、昭和48年まで2種混合ワクチン及び3種混合ワクチン第1期第2回、第3回の規定接種量は1.0ミリリツトルであり、それに含まれる菌量は昭和46年までは240億個であり、昭和47年当時は200億個であつた事実、これをWHOが定めた国際標準ワクチンと比較すると、百日咳ワクチン基準において国際単位との関連が定められた昭和43年以後は、わが国の百日咳混合ワクチン1.0ミリリツトルの力価は17.28単位以上、昭和46年以後のそれは14.4単位以上であつた事実は、当事者間に争いがない。
[173] 〈証拠略〉を総合すれば、百日咳ワクチンの接種量と発熱等の副作用発生の間に相関関係があることは、実験的に確認されていること、百日咳ワクチン接種による脳症の発生についてもその原因は百日咳ワクチン中の毒素によるものとする考え方が有力であり、かかる考え方によれば、脳症の発生と百日咳ワクチンの接種量の間にも相関関係があることになるとする見解があること、昭和31年当時、既に日本の百日咳ワクチンとアメリカ合衆国の百日咳ワクチンの力価比較の実験が行われ、日本のワクチンの力価が著しく高いとされていたこと、百日咳ワクチンについてのWHOの国際基準は、4単位以上の力価のワクチンは子供に不都合な副反応を起こす危険があるかもしれないため、力価基準を満たしつつ菌量が最小限であることを確保するように作られていること、昭和37年ころから、日本の百日咳混合ワクチンを国際基準ワクチンと比較すると、日本のワクチンはかなり力価が高く副作用の点で問題があるから、現行ワクチンの力価及び百日咳菌含有量を減らす必要があるとする見解があり、同様の見解は、昭和40年、昭和42年、昭和43年、昭和45年と繰り返し出されていたこと、日本においては、虚弱児や乳幼児に対し、副作用に対する懸念等の理由で必ずしも規定接種量が守られず、止むを得ず減量接種を行つているという現状があつたこと、岡山県医師会は、昭和47年に、百日咳ワクチン接種による事故を防止するため0.3ミリリツトル3回の減量接種に踏み切つたが、当時、各種文献資料を検討した結果、右接種量でも、なお充分免疫効果があるとの確信が持たれていたこと、右減量接種によつてもけいれん発生頻度の副反応が発生したこと、百日咳ワクチンの1回の接種量を減らしも接種間隔によつては免疫効果はほとんど劣らないとの報告がいくつか出されたことから、昭和48年の日本医学会総会において、百日咳ワクチンの接種量は副反応を軽減するためと免疫効果の点から0.5ミリリツトル宛3回接種で充分であるとの意見が出されたこと、がそれぞれ認められる。
[174] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、日本の昭和24年の百日咳ワクチン基準は、アメリカ合衆国ミシガン州の200億の菌数を1か月間隔で3回合計600億接種するという方法をもとにして定められたものであること,百日咳ワクチンは、実際の製造における使用菌株とか不活化の方法により力価が変動しやすいこと、日本において昭和30年から昭和43年ころまでは、百日咳ワクチンの検定において力価が足りないで不合格となつたものが非常にたくさんあつたこと、WHOの標準ワクチンの1回接種量は4単位以上とされているのに対し、わが国では7.2単位の接種が行われているのは、検定誤差等を考慮してのことであつて、百日咳ワクチンは4単位以上に力価を上げても防御効果はさほど上がるものではないが、4単位より下まわつた場合はたちまち効果がなくなるものであり、4単位といつてもデリケートな条件の動物実験をやつて決めるものであるから、同一人が同一ロツトのワクチンを検定しても3倍位の差が生じ、4単位とされていても1.3単位しかないという可能性もあり、日本のワクチンのように7.2単位としておく方が効かないワクチンが出て来る可能性が少ないこと、WHOの国際基準は力価の最小が4単位であつてそれ以上の力価を要求しており、安全性については菌量で規制しているものであること、アメリカ合衆国のワクチンはWHOの濁度基準で作られたワクチンの倍の菌数をもつていること、発熱、接種局所反応などは接種する菌量が多ければ多いほど頻度が高くなるといえるが、脳症、シヨツク、けいれん等の副反応の発生頻度は、日本のワクチンの菌量とWHOの国際基準ワクチンの菌量の差程度によつては影響を受けないとの見解があること、日本における専門的研究成果が集積され、また力価の安定したワクチンが作られるようになつたことから、伝染病予防調査会予防接種部会等において検討された結果、日本のワクチンの力価が高すぎるとの見解が反映されて、昭和48年、昭和51年に接種量や菌数についての基準が改正されて来たものであつて、その改正前においては従来の接種量、菌量を肯定する見解があつたこと、日本においては、百日咳ワクチンについて4つの安全試験が行われており、WHOの定める基準よりも厳格であつて、ワクチンの品質管理という点では世界のトツプレベルにあること、がそれぞれ認められる。
[175] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において日本の百日咳ワクチンの接種量、菌量の是非について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には各被害児が百日咳ワクチンあるいは百日咳混合ワクチンの接種を受けた昭和33年から昭和47年までの間)において厚生大臣として、百日咳ワクチン、百日咳混合ワクチンにつき、必要最小限の接種量(菌数、力価)を定めるべき注意義務に違反したものと認めることはできない。
(b) 種痘の規定量を守らせるための措置不充分の過失について
[176] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[4](b)の事実中、種痘の接種量及び術式を定めるにあたつては、免疫をつけるのに必要最小量が接種されるように定め、また、種痘の接種にあたつては決められた接種術式により規定量を厳格に守つて接種すべきものである事実、わが国では、昭和33年の予防接種実施規則で、種痘は切皮法または多圧法(乱刺法)で行うものと定められ、痘苗の接種量は1人0.01ミリリツトルとし、切皮法は皮膚を緊張させ痘苗を塗つた後、針で長さ5ミリメートルの十字に切皮して行い、第1期種痘では切皮は2個とされ、また、多圧法(乱刺法)は、緊張した皮膚面に0.01ミリリツトルの痘苗を3ミリメートルの円形に塗り、それに針先をあて圧迫し、表皮に傷をつけ、圧迫回数は第1期種痘では10から15回とされた事実、その後昭和45年6月18日付通知により、第1期の種痘はなるべく多圧法によるよう指導がなされるとともに、多圧法の回数を従来の10ないし15から5ないし10回に減らし、多圧の範囲は従来3ないし5ミリメートルの円内とされていたものを直径3ミリメートル以内とすると定められた事実、更に、昭和51年の予防接種実施要領では接種後1分以上経過した後残つているワクチンをふきとるべきことが指示された事実は、当事者間に争いがない。
[177] 右争いのない事実及び〈証拠略〉を総合すれば、昭和33年以前は厚生省告示の痘そう予防接種心得により、昭和33年以後は厚生省令の予防接種施規則により、種痘の接種量、接種術式等が定められたこと、昭和34年に厚生省公衆衛生局長は、各都道府県知事宛に「予防接種の実施方法について」と題する通知を発して、予防接種法に規定する予防接種の実施に当つては予防接種法及びこれに基づく命令の定めるところによるほか「予防接種実施要領」によることとするとの指導をしており、右通知に添付された予防接種実施要領には、都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当つては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させることとの記載があつたこと、その後昭和45年6月に厚生省公衆衛生局長は、都道府県知事宛に「種痘の実施について」と題する通知を発して、種痘の接種術式について新たな指導を行つたこと、また、同年8月には、厚生省公衆衛生局長は、各都道府県知事宛に、同じく「種痘の実施について」と題する通知を発して、関係者の指導の際に「種痘の手引き」を利用せられたいとの指導を行つており、右通知に添付された種痘の手引きには、種痘の術式等について極めて詳細な注意事項が記載されていたこと、がそれぞれ認められる。
[178] 以上のとおり、種痘の接種量、接種術式について明らかな定めがなされ、これに基づいて各都道府県知事に対し各指導がなされている以上、各実施主体及び各接種担当者としては、当然に右定めを知りこれを遵守すべきものであつたと解するのが相当である。
[179] 従つて、以上の諸事実に照らせば、仮に各被害児が本件各接種により種痘の過量接種を受けた事実があるとしても、右事実から直ちに、厚生大臣が本件各接種当時(具体的には原告らが種痘の過量接種を受けたと主張する各被害児が接種を受けた昭和31年から昭和49年までの間)において、本件各接種の各実施主体並びに各接種担当者に対し、規定量を超えた痘苗の接種が危険であるから、定められた接種量や術式を厳格に守るべきことを周知徹底すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
(c) ポリオ生ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
[180] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[4](c)の事実中、わが国ではポリオ生ワクチンの規定量について、1回につき1.0ミリリツトルと定められていた事実は当事者間に争いがない。
[181] 〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は昭和39年に、昭和38年度下半期におけるポリオの特別対策について、各都道府県知事宛に「昭和38年度下半期急性灰白髄炎特別対策における経口生ポリオワクチン投与の要領について」と題する通知を発して、投与の術式については、「投与液を1ミリリツトルあて消毒したピペツト等で計量しスプーンに取り分け服用させること、投与直後大半を吐き出した場合は、あらためて1ミリリツトルの投与液を服用させること、投与液の分注は瓶のゴム栓を取り除いて、1ミリリツトルの計量が正しくできるピペツト等を用いて行うこと」等を指導していること、ポリオ生ワクチンが法定接種とされたのちは、昭和39年の防接種実施規則により、接種量は毎回1.0ミリリツトルとすると定められたこと、同年の各都道府県知事宛「予防接種の実施について」と題する厚生省公衆衛生局長通知により、予防接種法に規定する予防接種の実施に当つては、予防接種法及びこれに基づく命令に定めるところによるほか、「予防接種実施要領」によることとする旨の指導がなされ、右通知に添付された予防接種実施要領には、経口ポリオ生ワクチンの接種は年齢に関係なく希釈した経口生ポリオワクチン1ミリリツトルを経口投与すること、希釈した経口生ポリオワクチンは、消毒したピペツト等で計量し、接種用さじに1ミリリツトルずつ注入し服用させること、投与直後接種液の大半を吐き出した場合は、あらためて1ミリリツトルの投与液を服用させること、等が定められていたこと、また、同予防接種実施要領には、都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当つては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させることとの記載があつたこと、がそれぞれ認められる。
[182] 以上のとおり、ポリオ生ワクチンの接種量について明らかな定めがなされ、これに基づいて各都道府県知事に対する各指導がなされている以上、各実施主体及び各接種担当者としては当然に右定めを知り、これを遵守すべきものであつたと解するのが相当である。
[183] 従つて、以上の諸事実に照らせば、仮に各被害児(具体的には原告らがポリオ生ワクチンの過量接種を受けたと主張する被害児井上明子(24の1))が本件各接種によりポリオ生ワクチンの過量接種を受けた事実があるとしても、右事実から直ちに、厚生大臣が本件各接種当時(具体的には被害児井上明子(24の1)が接種を受けた昭和43年5月10日)において、本件各接種の各実施主体並びに各接種担当者に対し、ポリオ生ワクチンの規定量を守るべきことを周知徹底すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
(d) インフルエンザワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
[184] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[4](d)の事実中、わが国では、昭和28年のインフルエンザ予防接種施行心得により、13歳以上の者には1.0ミリリツトルを、13歳未満の者には0.5ミリリツトル以下を、それぞれ1回皮下または筋肉内に注射すると定められ、昭和33年制定の予防接種実施規則でも同様に規定された事実、その後、昭和37年の予防接種実施規則の改正により、15歳以上の者にあつては0.5ミリリツトルを、6歳以上15歳未満の者にあつては0.3ミリリツトルを、1歳以上6歳未満の者にあつては0.2ミリリツトルを、1歳未満の者にあつては0.1ミリリツトルを、各2回、1週間から4週間の間隔をおいて皮下に注射するように定められた事実は、当事者間に争いがない(但し、右の「1週間から4週間の間隔をおいて」と定められたのは後記認定のとおり昭和47年の予防接種実施規則の政正によつてであり、それまでは「おおむね1週間の間隔をおいて」とされていたものである。)。
[185] 〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和37年から昭和49年まで毎年、各都道府県知事宛に、当該年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通知(但し、昭和42年度は「日本脳炎等予防特別対策について」と題する通知)を発して、インフルエンザ予防特別対策について、右通知に添付された当該年度の実施要領に基づいて実施するよう指導していたものであり、右各年度における実施要領にはいずれもインフルエンザワクチンの接種方法についての定めがあり、昭和37年の実施要領では、「接種量は3か月以上1年未満0.1ミリリツトル、1年以上6歳末満0.2ミリリツトル、6歳以上15歳未満0.3ミリリツトル、15歳以上0.5ミリリツトルを約2週間の間隔で2回皮下に注射すること、ただし、事情によつてこの間隔が1週間より若干は延長されても差し支えないこと」と記載され、昭和38年から昭和46年までの実施要領では、「接種方法は、予防接種実施規則第24条の規定によること、即ち、接種量は3か月以上1年未満0.1ミリリツトル、1年以上6歳未満0.2ミリリツトル、6歳以上15未満0.3ミリリツトル、15歳以上0.5ミリリツトルを約1週間(昭和44年以降は「約」でなく「おおむね」とされている。)の間隔で2回皮下に注射すること」と記載され、昭和47年以降の実施要領では、従前の実施要領における「おおむね1週間の間隔をおいて」という記載が「1週間から4週間の間隔をおいて」と訂正された以外は従前の実施要領と同様の記載がされていたことが認められる。
[186] 以上のとおり、インフルエンザワクチンの接種量について明らかな定めがなされ、これに基づいて各都道府県知事に対する各指導がなされている以上、各実施主体及び各接種担当者としては当然に右定めを知り、これを遵守すべきものであつたと解するのが相当である。
[187] 従つて、以上の諸事実に照らせば、仮に各被害児(具体的には原告らがインフルエンザワクチンの過量接種を受けたと主張する被害児吉原充(1の1))が本件各接種によりインフルエンザワクチンの過量接種を受けた事実があるとしても、右事実から直ちに、厚生大臣が本件各接種当時(具体的には右被害児吉原充(1の1)が接種を受けた昭和39年11月9日)において、本件各接種の各実施主体並びに各接種担当者に対し、インフルエンザワクチンの規定量を守るべきことを周知徹底すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
(e) 百日咳ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
[188] 請求の原因第四項2(五)(3)[4](e)の事実中、わが国においては、百日咳ワクチン及びその混合ワクチンについて、接種量については、昭和25年百日咳予防接種心得によれば、百日咳ワクチンの初回免疫第1回1.0ミリリツトル、第2、3回1.5ミリリツトル、追加免疫1.0ミリリツトル、昭和33年予防接種実施規則によれば、百日咳ワクチンの第1期第1回1.0ミリリツトル、第2、第3回1.5ミリリツトル、第2期1.0ミリリツトル、百日咳混合ワクチンの第1期第1回0.5ミリリツトル、第2、第3回1.0ミリリツトル、第2期0.5ミリリツトル、昭和48年予防接種実施規則によれば、百日咳混合ワクチンの第1期第1回0.5ミリリツトル、第2、第3回0.5ミリリツトル、第2期0.5ミリリツトル、昭和51年予防接種実施規則によれば、百日咳ワクチンの第1期0.5ミリリツトル3回、第2期0.5ミリリツトルと定められていた事実は、当事者間に争いがない。
[189] 〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は昭和34年に各都道府県知事宛に「予防接種の実施方法」についてと題する通知を発して、予防接種法に規定する予防接種の実施に当つては予防接種法及びこれに基づく命令の定めるところによるほか、「予防接種実施要領」によることとするとの指導をしており、右通知に添付された予防接種実施要領には、「都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当つては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させること」との記載があり、また接種用具の整備として、一定の大きさの注射器を揃えておくことついても記載があり、昭和36年の予防接種実施要領では、揃えておくべき注射器は2ミリリツトル以下のものとされたこと、これは1本の注射器で数人分のワクチンを吸収して分割接種する場合に過量に接種することを避けるためであること、がそれぞれ認められる。
[190] 以上のとおり、百日咳ワクチン、百日咳混合ワクチンの接種量について明らかな定めがなされ、これに基づいて各都道府県知事に対し各指導がなされている以上、各実施主体及び各接種担当者としては、当然に右定めを知りこれを遵守すべきものであつたと解するのが相当である。
[191] 従つて、以上の諸事実に照らせば、仮に各被害児(具体的には原告らが百日咳混合ワクチンの規定接種量を超える接種を受けたと主張する被害児藤井玲子(50の1))が本件各接種により百日咳ワクチン、百日咳混合ワクチンの規定接種量を超える接種を受けた事実があるとしても、右事実から直ちに、厚生大臣が本件各接種当時(具体的には右被害児藤井玲子(50の1)が接種を受けた昭和37年12月4日)において、本件各接種の各実施主体並びに各接種担当者に対し、百日咳ワクチン、百日咳混合ワクチンにつき少なくとも規定量を超える接種を行うことがないよう周知徹底すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
[5] 他の予防接種との間隔を充分にとらないで接種を実施させた過失について
(a) 接種間隔の定め方を誤つた過失について
[192] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[5](a)の事実中、生ワクチン相互では、一つの予防接種と他の予防接種が近接して行われると免疫産生のうえで干渉が起こる可能性がある事実、現在では、混合ワクチンを除き種類の異なるワクチンの同時接種を避けること及び生ワクチン相互は1か月の間隔を保つこととされている事実、わが国においては、昭和36年の予防接種実要領改正において「混合ワクチン以外は2種類以上を同時接種しない」ことを定め、昭和39年の予防接種実施規則が、ポリオワクチン接種後2週間は種痘を、種痘後2週間はポリオワクチンの接種をしない」ことを定め、昭和45年の予防接種実施規則改正により「ポリオ又は麻しんワクチン接種後1か月以内は種痘を、種痘又は麻しんワクチン接種後1か月以内はポリオワクチンの接種をしない」ことを定め、通知により、右実施規則の解釈として、「生ワクチン接種後1か月は他のワクチンの接種をしない趣旨」とされた事実、不活化ワクチン接種後1週間は他のワクチン接種をしてはならないことについて実施規則、通知等で何ら指示がなされていない事実は当事者間に争いがない。
[193] 〈証拠略〉を総合すれば、複数の予防接種を実施する場合に接種間隔をあける必要があるのは、ワクチン接種による副作用が発生するおそれのある期間に他の予防接種を行うと人体に対する強いストレスが加わることになり、あるいは一方のワクチンに人体の免疫産生能力が奪われることになり、ワクチンによる副作用が発生する危険性が増大するからであり、また、2つの副作用が重なることによつて重大な結果をもたらす危険性があるからであるとの見解があること、同様の見解として、昭和41年に中村文弥は、種痘と3種混合ワクチンの同時接種に反対する理由として、副作用その他の点からいうことをあげていること、昭和42年に国分義行は、種痘と2種混合ワクチンとの同時接種は少なくとも第1回注射時には避けねばならないことが実験的に証明されており、各種予防接種の同時接種は幼若な乳児に対して大きな負担を与えるのみならず、いろいろの副作用を惹起するとの見解を示していること、大谷杉士は、不活化ワクチン接種後2週間位は間隔をあけて他の予防接種をすべきであり、その理由は、ワクチン接種によつて体にかなりの負担がかけられているので、次のワクチンを正常に迎え得るように体の態勢が整つてから次の予防接種をする方がよいという生理的一般論であるとの見解を有しいること、証人ジヨージ・デイツクは、生ワクチン接種後免疫学的な安全期間として少なくとも3週間はおいて、最初の生ワクチンによつて起こる副作用の発生を見極めたうえで次の接種を行うべきであるとの見解を有していること、昭和50年当時、木村三生夫らにより、生ワクチン同志ではお互いに約1か月、不活化ワクチン同志では約1週間以上、不活化ワクチン接種後に生ワクチン接種をする場合は約1週間以上、生ワクチン接種後に不活化ワクチンを接種する場合は約1か月の各期間をあけることが望ましいとの見解が出されたこと、がそれぞれ認められる。
[194] しかしながら、前記当事者間に争いのない事実に照らせば、わが国においては、予防接種の間隔について適宜改正が行われて来たものと認めるのが相当であり、かかる事実に照らせば、右認定の諸事実から直ちに厚生大臣が本件各接種当時(具体的には、各被害児が昭和45年以前において生ワクチン接種後1か月以内に他のワクチンの接種を受けた昭和37年から昭和43年までの間、各被害児が不活化ワクチン接種後1週間以内に他のワクチンの接種を受けた昭和33年から昭和45年までの間に、各被害児が昭和36年以前において混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を受けた昭和32年)において、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種及び生ワクチン接種後1か月以内、不活化ワクチン接種後1週間以内の他のワクチンの接種を禁止すべき注意義務を負つていたとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
(b) 複数同時接種の禁止を守らせるための措置不充分の過失について
[195] 被害児梶山桂子(15の1)が昭和40年9月8日に百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンと種痘の同時接種を受けた事実は当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、東京都中野区において、昭和40年9月当時、種痘と百日咳ジフテリア2種混合ワクチンの同時接種の実施計画を組んだ接種が実施されていたことが、〈証拠略〉によれば、被害児高田正明(40の1)が昭和37年12月8日に種痘と百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの同時接種を受けたことが、それぞれ認められる。
[196] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和34年に、各都道府県知事宛に「予防接種の実施方法について」と題する通知を発して、予防接種の実施に当つては予防接種法及びこれに基づく命令の定めるところによるほか「予防接種実施要領」によることとすることとの指導をしており、右通知に添付された予防接種実施要領には、「都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当つては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させること」との記載があり、また昭和36年の予防接種実施要領では、「混合ワクチンを使用する場合を除き、2種類以上の予防接種を同時に同一対象にして行うことは、避けること」とされたこと、が認められ、以上のとおり、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種の禁止につて明らかな定めがなされ、これについて各都道府県知事に対する指導がなされている以上、各実施主体及び各接種担当者としては、当然右定めを知りこれを遵守すべきであつたと解するのが相当である。
[197] 右事実に照らせば、前記認定の混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が行われたとの事実から直ちに厚生大臣が昭和36年以降の本件各接種当時(具体的には前記のとおり被害児梶山桂子(15の1)及び被害児高田正明(40の1)が接種を受けた昭和37年及び昭和40年)において、本件各接種の各実施主体及び各接種担当者に対し、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が禁止されることを周知徹底すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。
[6] 接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を実施させた過失について
[198] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[6]の事実中、厚生大臣としては、本件各接種の各実施主体に対し、被接種者の生命・身体および健康等の安全を配慮した接種会場の管理をするよう監督・指導すべきであつた事実は、当事者間に争いがない。
[199] 〈証拠略〉によれば、被害児大平茂(51の1)は、昭和38年3月22日に本件接種を受けたが、当日は寒風の強い日であつたにもかかわらず、大勢の接種を受けようとする人々が接種会場の屋外に列を作つて待たされており、生後6か月にも達しない同児が約40分も寒風のふきすさぶ屋外で待たされていたことが認められ、〈証拠略〉によれば、昭和34年ころ、集団接種の接種場所に小・中学校の校舎が利用されていて、冬でも消毒のための火種としての炭火鉢1つしかなく、ほこりだらけの冷たい教室で多くの乳児が半裸で泣きわめいているという光景があつたことが,それぞれ認められる。
[200] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和34年に、各都道府県知事宛に「予防接種の実施方法について」と題する通知を発令して、予防接種法に規定する予防接種の実施に当つては予防接種法及びこれに基づく命令の定めるところによるほか「予防接種実施要領」によることとすることとの指導をしており、右通知に添付された予防接種実施要領には、「接種又は検診の場所」と題して、接種場所の選定について配慮すべきことが記載されており、その中には「冬期には充分な暖房設備を備えていること」との記載があること、予防接種実施要領は、「予防接種法に規定する予防接種実施の場合のみならず、予防接種法に基づかない勧奨接種の場合にも遵守されるべきものであること」と定められていることがそれぞれ認められる。
[201] 右事実に照らせば、前記認定の集団接種における会場の実状に関する事実から直ちに、厚生大臣が本件各接種当時(具体的には原告らが接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を受けたと主張する被害児大平茂(51の1)が接種を受けた昭和38年3月22日)において、本件各接種の各実施主体に対し、被接種者の安全を配慮した接種会場の管理をするよう監督、指導すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、これを怠つたものであるとの事実を推認することはできず、他に右事実を設定するに足る証拠はない。
[202] 更に、具体的には、被害児大平茂(51の1)が接種を受けた会場の管理に瑕疵ある状態であつたとする事実を認定するに足る証拠はない。

[203]3(一) 請求の原因第四項(責任)3(一)の事実は当事者間に争いがない。
[204](二) 請求の原因第四項(責任)3(二)の事実中、本件各接種のうち勧奨接種について、接種を行つた各接種担当者は、右接種の実施主体である各地方公共団体から委嘱を受けて、当該地方公共団体の公権力の行使に当る公務員として右接種を行つたものである事実は、当事者間に争いがない。
[205] 被告国が、勧奨接種の実施主体である各地方公共団体に対し、勧奨接種の実施方法、目的、実施の対象、時期、実施主体、実施形式、接種方法、禁忌、費用負担等について詳細に定めて行政指導を行つていても、右争いのない事実によれば、勧奨接種の実施は、被告国の公権力の行使として行われるものではなく、各地方公共団体の固有の公権力の行使として行われるものであるから、かかる公権力の行使を管理する行政主体は被告国ではなく、被告国が国家賠償法3条1項にいう公務員の監督に当る者ということはできない。
[206] また、〈証拠略〉によれば、勧奨接種には、実施主体の各地方公共団体に対し、被告国から一定の国庫補助がなされる場合があり、それが特別対策と称されることが認められるが、補助金の交付は国家賠償法3条1項にいう費用の負担には該当しないと解される。
[207] 以上により、被告国は、勧奨接種につき、接種担当者の過失によつて生じた損害について国家賠償法上の損害賠償責任を負うことはない。
[208](三) そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村等であるものについて、被告国の公権力の行使に当る公務員として右接種を行つた各接種担当者が、右接種を行うにつき、本件各事故発生についての過失があつたか否かについて判断することとする。
[209](1) 請求の原因第四項(責任)3(三)(1)の主張について判断するに、国家賠償法1条1項の規定に照らせば、同項にいう公務員の過失の存在については賠償を請求する者においてその立証責任を負うものと解され、原告らが主張するようなその立証責任を転換すべきであるとする合理的理由はない。
[210](2) 本件各接種の各接種担当者が、本件各接種を行うについて、予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性があり、それを未然に防止すべき注意義務に違反することがあつたときは、事故発生についての過失があつたと推定するのが相当である。
[211] そこで、以下原告らの主張する各接種担当者の具体的過失としての3つの注意義務違反(事故発生についての具体的過失)の存否について順次判断することとする。
[1] 禁忌該当者に接種を行つた過失について
[212] 請求の原因第四項(責任)3(三)(2)[1]の事実中、各接種担当者は、本件各接種当時設定されていた禁忌事項のいずれかに該当する者に対しては接種を行うべきではなかつたとする事実は当事者間に争いがない。
[213] ところで、〈証拠略〉によれば、予防接種実施規則4条が、「接種前には、被接種者について、体温測定、問診、視診、聴打診等の方法によつて、健康状態を調べ、当該被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、その者に対して予防接種を行つてはならない。」と定めて禁忌事項を掲げていることが、また、〈証拠略〉によれば、昭和34年1月21日衛発第32号各都道府県知事宛厚生省公衆衛生局長通達「予防接種の実施方法について」に添付された「予防接種実施要領」には、「予診の結果、異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者に対しては、原則として、当日は予防接種を行わず、必要がある場合は精密検診を受けるよう指示すること」と定められていたことが、それぞれ認められる。
[214] 右予防接種実施規則4条は、予診の方法として、問診、視診、体温測定、聴打診等の方法を規定しているが、予防接種を実施する医師は、右の方法のすべてによつて診断することを要求されるわけではなく。特に集団接種のときは、まず問診及び視診を行い、その結果異常を認めた場合または接種対象者の具体的条件等に照らし必要があると判断した場合のみ、体温測定、聴打診等を行えば足りると解するのが相当である(予防接種実施要領第一の9項2号参照)。そして、問診は、医学的な専門知識を欠く一般人に対してなされるものであるから、質問の趣旨が正しく理解されなかつたり、的確な応答がされなかつたり、素人的な誤つた判断が介入し、そのため充分な対応がなされなかつたりする危険性ももつているものであり、予防接種を実施する医師としては、問診するにあたて、接種対象者及びその保護者に対し、単に概括的、抽象的に接種対象者の接種直前における身体の健康状態についてその異常の有無を質問するだけでは足りず、禁忌者を識別するに足りるだけの具体的質問、即ち予防接種実施規則4条所定の症状、疾病、体質的素因の有無及びそれらを外部的に徴表する諸事由の有無を具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるような適切な質問をする義務があるというべきである。もとより集団接種の場合には時間的、経済的制約があるから、その質問の方法は、すべて医師の口頭質問による必要はなく、質問事項を書面に記載し、接種対象者またはその保護者に事前にその回答を記入せしめておく方法(いわゆる問診票の利用)や、質問事項または接種前に医師に申述すべき事項を予防接種実施場所に掲記公示し、接種対象者またはその保護者に積極的に応答、申述させる方法や、医師を補助する看護婦等に質問を事前に代行させる方法等を併用し、医師の口頭による質問を事前に補助せしめる手段を講じることは許容されるが、医師の口頭による問診の適否は、質問内容、表現、用語及び併用された補助方法の手段の種類、内容、表現、用語を総合考慮して判断すべきである(最高裁判所昭和51年9月30日第1小法廷判決民集30巻8号816頁参照)。
[215] 右の考え方は、医師でない者が現実の接種行為を行つた場合にも妥当するものと解するのが相当である。
[216] また、昭和33年9月17日の予防接種実施規則制定以前においても、各接種担当者は右に述べた方法により適切な予診を行い、各予防接種施行心得により定められていた各禁忌事項に該当する者を識別すべきものであつたと解するのが相当である。
[217] そして、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な場合の措置に関する前記予防接種実施要領の定めが置かれる以前においても、予診により何らかの異常が認められ、これが禁忌事項に該当するかどうかの判定が困難な場合に、禁忌事項に該当するかどうか不明のまま接種を行つてはならないことは接種担当者としては、当然のことであると解される。
[218] 以上によれば、各接種担当者は、被接種者に対し、右に述べた方法により適切な予診を行い、その結果、予防接種施行心得あるいは予防接種実施規則の定める禁忌事項に該当すると判断された場合はもちろんのこと、異常が認められるが右禁忌事項に該当するか否かの判定が困難な場合にも、当日は予防接種を行わないようにすべき注意義務を負つているものと解するのが相当である。
[219] そして、予防接種施行心得あるいは予防接種実施規則により禁忌事項が定められた趣旨に照らせば、各接種担当者が右注意義務に違反して接種を行つたときは、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有するものであり、かかる事実が認められる場合には、接種担当者は、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[220] なお、前記2(五)(3)[3](a)で認定した諸事実に照らせば、各接種担当者が本件各接種当時において、予防接種施行心得あるいは予防接種実施規則により禁忌事項と定められていた事項以外で原告らが禁忌事項であると主張する各事項に該当する者に対して、接種を行つてはならない注意義務を負つていたものと認めることはできない。
[221] そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村長等であるものについて、その各接種担当者が、適切な予診を行わず、予防接種施行心得あるいは予防接種実施規則の定める禁忌事項に該当しあるいは異常が認められ右禁忌事項に該当するか否かの判定が困難な各被害児に対し、接種を行つたか否かについて個別的に判断することとする。
@ 被害児白井裕子(2の1)について
[222] 〈証拠略〉によれば、被害児裕子(2の1)は、昭和45年2月末に風邪をひいていた事実が認められる。
[223] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、被害児裕子(2の1)は、本件接種当日は元気そのもので体調がよく、接種前に自宅で検温したときも平熱であつたことが認められる。
[224] 以上の事実を総合すれば、被害児裕子(2の1)が本件接種当時、予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[225] また、〈証拠略〉によれば、被害児裕子(2の1)の父哲之(2の2)は、子供のころから皮膚が多少過敏でかぶれやすい傾向があり、虫さされなどに弱く、全身がかゆくなり、こすると赤くなつてその跡がいつまでも残るという体質を持つていること、同児の弟の直貴は、父に似て虫さされに弱く、その跡がずつと残るという体質を持つていること、同児の姉の淳子にも、呼吸器系にアレルギーを生じて来ていること、がそれぞれ認められる。
[226] しかしながら、右事実から直ちに、被害児裕子(2の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
A 被害児沢柳一政(5の1)について
[227] 〈証拠略〉によれば、被害児一政(5の1)の母富喜子(5の3)は、同児は小さいころからよく風邪をひき、あせもや湿疹ができたりしたことがあり、裸にすると大腿部を絶えずかいていたことを記憶していること、同児の弟の英行はアレルギー体質であること、母富喜子(5の3)も気管や皮膚が弱いこと、がそれぞれ認められる。
[228] しかしながら、右事実から直ちに、被害児一政(5の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもきず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
B 被害児尾田真由美(6の1)について
[229] 〈証拠略〉によれば、被害児真由美(6の1)の出生時の体重は2770グラムであり、生後1か月、2か月時の体重も標準以下であつたこと、同児の母節子(6の3)は、同児が出産予定日より2週間程早く出生し、その後の発育も良好でなく、生後1か月時の定期検診では、医師より栄養剤の注射をされ、母乳のほかにミルクも飲ませるように言われたことを記憶していること、がそれぞれ認められる。
[230] しかしながら、右事実から直ちに、被害児真由美(6の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行なうことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
C 被害児布川賢治(8の1)について
[231] 〈証拠略〉によれば被害児賢治(8の1)の出生の際陣痛徴弱により鉗子手術が行われたことが認められる。
[232] しかしながら、右事実から直ちに、被害児賢治(8の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
D 被害児服部和子(9の1)について
[233] 被害児和子(9の1)が出生時の体重2200グラムの未熟児であつたことは当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、同児は双生児の第2児として軽度の仮死状態で出生したこと、同児の母真澄(9の3)は、同児が出生後約1か月間哺育器に入つていたこと、3か月検診の際、標準より小さく、顔色は青白く、一見すると病的な感じを受けたこと、を記憶していること、がそれぞれ認められる。
[234] しかしながら、右事実から直ちに、被害児和子(9の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害児」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[235] また、〈証拠略〉によれば、被害児和子(9の1)の母真澄(9の3)及び姉昭子が抗アレルギー的鼻炎の症状を有しており、また、母真澄(9の3)の父はアルコールによつて湿疹が出る体質であつたことが認められる。
[236] しかしながら、右事実から直ちに、被害児和子(9の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
E 被害児伊藤純子(11の1)について
[237] 〈証拠略〉によれば、被害児純子(11の1)の体重は、生後9か月17日目の昭和42年6月2日で8250グラム、10か月23日目の同年7月7日で同じく8250グラム、1歳1か月21日目の同年10月6日で8050グラムであり、同年6月と7月では体重の増加がなく、同年10月の体重は同年6月の体重より以下であつたこと、同児の身長は右同年6月以降いずれも標準数値を下まわつていたこと、がそれぞれ認められる。
[238] しかしながら、右事実から直ちに、被害児純子(11の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
F 被害児田部敦子(12の1)について
[239] 〈証拠略〉によれば、被害児敦子(12の1)の母チエ子(12の3)は、同児が湿疹のできやすい子であり、本件接種の半年ほど前の昭和41年3月8日に種痘の予防接種を同児に受けさせようとしたところ、当時同児の頭部に湿疹いわゆる「くさ」のようなものができていたため、接種が行われなかつたこと、本件接種当時も頭部に少々軽い「くさ」のようなものがあつたこと、を記憶していること、同児の母チエ子(12の3)は昭和44年ころからじん麻疹が出るようになり治療、投薬を受けていること、同児の父芳聖(12の2)も若いころ寒冷じん麻疹が出たことがあること、同児の兄の聖裕は幼児のころからじん麻疹が出て治療を受けたことがあること、がそれぞれ認められる。
[240] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、被害児敦子(12の1)は、頭部にいわゆる「くさ」のようなものができていたため種痘の接種を受けなかつた昭和41年3月8日以降本件接種までの間に、同年4月25日、同年6月14日、同年7月7日にジフテリア・百日咳2種混合ワクチンの、同年5月11日にポリオ生ワクチンの、同年5月31日、同年6月7日に日本脳炎ワクチンの各接種を受けており、これらの各接種当時同児の体調に異常はなかつたことが認められる。
[241] 右事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、被害児敦子(12の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」、「種痘については、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
G 被害児田中耕一(13の1)について
[242] 〈証拠略〉によれば、被害児耕一(13の1)の母靖子(13の3)は、同児が本件接種の1か月位前から緑茶色の粘液状の便を出し、小児科の二見医院に通院し、消化不良の診断を受けて投薬を受けていたことを記憶していることが認められる。
[243] しかしながら、他方において、〈証拠略〉によれば、同人が本件接種の前日に右二見医院において被害児耕一(13の1)を診察してもらい、明日ポリオ生ワクチンの接種を受けてもよいかどうかを尋ねたところ、医師より大丈夫だと言われたことが認められる。
[244] 右事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、被害児耕一(13の1)が本件接種当時防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」、「急性灰白髄炎の予防については、下痢患者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
H 被害児梶山桂子(15の1)について
[245] 〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)の母喜代子(15の3)は、同児が牛乳を飲む度に口のまわりにぶつぶつができ、また生後少し経つたころ、頭頂部全体にわたりかさぶたのようなかぶれができたことがあることを記憶していることが認められる。
[246] しかしながら、右事実から直ちに、被害児桂子(15の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
I 被害児佐藤幸一郎(16の1)について
[247] 〈証拠略〉によれば、被害児幸一郎(16の1)の母千鶴(16の3)は、同児は軽い仮死状態で出生し、すぐ呼吸を始めたものの、その後の体重増加は標準以下であり、風邪をひきやすく、またよく下痢を起こしたため、近所の坂上医院でしばしば診療を受けていたこと、坂上医師から、同児は風邪をひきやすい体質あるいは虚弱体質などと言われていたこと、を記憶していることが認められる。
[248] しかしながら、右事実から直ちに、被害児幸一郎(16の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」その他禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[249] また、〈証拠略〉によれば、被害児幸一郎(16の1)は、昭和35年1月末ころ耳下腺炎に罹患し、2週間位保育園を休み、それが治癒して間もなくの同年2月初旬ころ水痘に罹患し、2週間位保育園を休んだこと、同児の母千鶴(16の3)は、同児を連れて、同年2月末から同年3月10日ころまで広島県呉市に旅行をし、その後同月末から同年4月始めにかけて新潟県村上市に旅行をしたこと、その旅行の影響もあつて、同児は本件接種の1週間位前に風邪をひいたこと、を記憶していること、がそれぞれ認められる。
[250] しかしながら、右事実から直ちに、被害児幸一郎(16の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
J 被害児渡邊和彦(17の1)について
[251] 〈証拠略〉によれば、被害児和彦(17の1)は、在胎10か月の出産であつたが、同児の母豊子(17の3)は妊娠中、尿中のたん白量が極めて多く、そのため、入院治療が必要とされ、同児は出生時の体重1300グラムの超未熟児として出生したこと、同児は出生後1か月半程哺育器に入れられて育てられたこと、同児の生後4か月目の体重は4500グラムで標準体重6150グラムの4分の3以下しかなかつたこと、がそれぞれ認められる。
[252] しかしながら、右事実から直ちに、被害児和彦(17の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
K 被害児徳永恵子(18の1)について
[253] 〈証拠略〉によれば、被害児恵子(18の1)は、出生時の体重は3400グラムであつたが生後3か月25日目の体重は5450グラムで標準体重を下回つていたこと、同児の母和枝(18の3)は、母乳が不足気味で同児の発育は必ずしも順調でなく、生後3か月から5か月位の間は、保健所で栄養失調気味であるといわれたことを記憶していること、がそれぞれ認められる。
[254] しかしながら、右事実から直ちに、被害児恵子(18の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[255] また、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児恵子(18の1)が本件接種の1週間以上前に保健所で行われた種痘接種の際は風邪気味であつたため接種を受けなかつたことを記憶していることが認められる。
[256] しかしながら、〈証拠略〉によれば,同人は、被害児恵子(18の1)が本件接種当日は別に風邪をひいた様子ではなかつたことを記憶しており、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規定が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[257] 更に、〈証拠略〉によれば、被害児恵子(18の1)の母和枝(18の3)は、同人が冷い風にあたるとその部分に湿疹のようなものができたことがあること、同児の父保春(18の2)は飲酒によりじん麻疹のようなものが出たことがあること、を記憶していることが、〈証拠略〉によれば、同児は本件接種前の昭和40年11月13日に接種を受けた3種混合ワクチンにより発熱したことが、それぞれ認められる。
[258] しかしながら、右事実から直ちに、被害児恵子(18の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
L 被害児鈴木増己(19の1)について
[259] 〈証拠略〉によれば、被害児増己(19の1)は皮膚が弱く湿疹ができやすい過敏体質であつたこと、同児の母節(19の3)も湿疹性の体質であつたこと、がそれぞれ認められる。
[260] しかしながら、痘そう予防接種施行心得では、「アレルギー体質者」は禁忌とされておらず(痘そう予防接種施行心得の内容は公知の事実である。)、右認定事実から直ちに、被害児増己(19の1)が、本件接種当時痘そう予防接種心得が定める「まん延性の皮膚病にかかつている者で種痘により障害を来す虞のある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたとは認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
M 被害児小林浩子(21の1)について
[261] 〈証拠略〉によれば、被害児浩子(21の1)は体重2350グラムの未熟児で出生したこと、同児の母こう(21の3)は、同児の在胎は9か月と1週間で予定日より3週間の早産であつたことを記憶していること、がそれぞれ認められる。
[262] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児浩子(21の1)が生後4か月少し過ぎて標準体重に達し、本件接種当時は標準体重を超えていたことを記憶しており、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時痘そう予防接種施行心得が定める「著しく栄養障害に陥つている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[263] また、原告小林こう(21の3)本人尋問の結果によれば、同人は幼児のころ疫痢にかかりその後は、ぜんそくのアレルギーを持つ患者であり、被害児浩子(21の1)の妹佳子は幼児のころストロフルス(小児性麻疹様苔癬)があり、長じてからはアレルギー性鼻炎が発現していること、がそれぞれ認められる。
[264] しかしながら、痘そう予防接種施行心得では「アレルギー体質者」は禁忌とされておらず、右認定事実から直ちに、被害児浩子(21の1)が、本件接種当時、痘そう予防接種施行心得が定める禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
N 被害児上野一樹(22の1)について
[265] 〈証拠略〉によれば、被害児一樹(22の1)の母厚子(22の3)は気管支ぜんそくを患つており、結婚したときから気候の変り目などに呼吸困難に陥るような症状を呈したことがあつたこと、同児の父忠志(22の2)は40数年にわたり皮膚病的なかゆみに悩まされていたこと、がそれぞれ認められる。
[266] しかしながら、右事実から直ちに、被害児一樹(22の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
O 被害児井上明子(24の1)について
[267] 被害児明子(24の1)が昭和43年5月12日に発熱し、同月15日、下痢及び風疹様発疹ができ、右両日及び同月17日に通院治療を受け、また同年6月8日に発熱した事実は、当時者間に争いがない。
[268] 〈証拠略〉によれば、被害児明子(24の1)は、本件ポリオ生ワクチン接種を受けてから帰宅した日の夕方に発熱し、翌朝には下痢があつたことが認められる。
[269] しかしながら、右事実から直ちに、被害児明子(24の1)が、本件ポリオ生ワクチン接種当時予防接種実施規則が定める「有熱患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「急性灰白髄炎の予防接種については、下痢患者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[270] また、〈証拠略〉によれば、被害児明子(24の1)は、本件2種混合ワクチン接種を受けた日の翌日に発熱、下痢をしていることが認められる。
[271] しかしながら、原告井上たつ(24の3)本人尋問の結果によれば、被害児明子(24の1)は昭和43年5月11日から同月17日までは体調が悪く医師の治療を受けていたが、本件2種混合ワクチン接種当日は既に体調は回復し落着いていたので接種に連れて行つたものであることが認められ、この事実に照らせば、前記当事者間に争いのない事実及び前記認定事実から直ちに、同児が本件2種混合ワクチン接種当時予防接種実施規則が定める「有熱患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
P 被害児中川敦子(29の1)について
[272] 〈証拠略〉によれば、被害児敦子(29の1)の母きみ(29の3)は、同児が本件接種当時風邪気味でのどがぜいぜいしていたことを記憶していることが認められる。
[273] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児敦子(29の1)の右風邪の状態が医師の診察を受ける必要があるほどのものでなく、熱もなかつたことを記憶していることが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかつている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
Q 被害児田渕豊英(30の1)について
[274] 〈証拠略〉によれば、被害児豊英(30の1)は、本件接種の20日位前に5、6日間下痢が続き、その終りころには風邪気味となり、2、3日間鼻水をたらし、1週間位風邪が続いたこと、右症状で医師の診療を受けたこと、がそれぞれ認められる。
[275] しかしながら、〈証拠略〉によれば、被害児豊英(30の1)に本件接種を行つた医師は、同児が前記症状により診療を受けていたかかりつけの医師であり、同医師が接種をしても大丈夫だと言つたことが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
R 被害児吉川雅美(31の1)について
[276] 被害児雅美(31の1)が本件接種当時股関節脱臼であつた事実は、当事者間に争いがない。
[277] 〈証拠略〉によれば、被害児雅美(31の1)は、出生児に身長51センチメートル、体重3380グラムと比較的大きかつたにもかかわらず、その後ミルクの飲み方が悪く、ミルクを吐くこともあり、本件接種当時は身重、体重とも標準を下回つていたことが認められる。
[278] しかしながら、右事実から直ちに、被害児雅美(31の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[279] また、〈証拠略〉によれば、被害児雅美(31の1)は昭和44年11月21日当時風邪をひいていたこと、同児の母富美子(31の1)は、同児が右風邪によりその後2回位本件接種前に通院しており、毎日のようにぐずつて泣いており、本件接種当日もぐずつて泣いていたことを記憶していること、がそれぞれ認められる。
[280] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児雅美(31の1)が本件接種当日熱がなかつたようなので接種に連れて行つたこと、同児はそのころ泣くことは泣いていたが元気であつたことを記憶していることが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
S 被害児荒井豪彦(32の1)について
[281] 〈証拠略〉によれば、被害児豪彦(32の1)は、本件種痘接種を受けた9日後の昭和42年11月16日に全身硬直のひきつけを起こし、その後本件2種混合ワクチン接種までに更に小さいけいれんを起こし医師の治療を受けたことが認められる。
[282] しかしながら、右事実から直ちに、被害児豪彦(32の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定めていた「けいれん性体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
21 被害児清水一弘(33の1)について
[283] 〈証拠略〉によれば、被害児一弘(33の1)は、出産予定日の13日前に出生し、出生時の体重は2500グラムであり、臍帯けん絡があつたこと、仮死出産の疑いもあつたこと、がそれぞれ認められる。
[284] しかしながら、右事実から直ちに、被害児一弘(33の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
22 被害児河又典子(34の1)について
[285] 〈証拠略〉によれば、被害児典子(34の1)の母正子(34の3)は、同児が、生後10か月ころに2度程頭部におできができ医師の治療を受け、また、本件事故後に入院中、絆創膏にかぶれたことがあることを記憶していること、同児の父弘寿(34の2)は、魚やアルコールでじん麻疹が出ること、がそれぞれ認められる。
[286] しかしながら、右事実から直ちに、被害児典子(34の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」、「種痘については、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
23 被害児大沼千香(35の1)について
[287] 〈証拠略〉によれば、同人は、冬冷たい空気に接触すると突然鼻水とくしやみが出てそれが10分から15分間続くことがあり、かかりつけの医師から、アレルギー性鼻炎と言われたことがあること、被害児千香(35の1)の妹の照子も湿疹ができて、幼稚園から小学校の1、2年まで皮膚科の病院に大分通つたこと、被害児千香(35の1)も、本件接種前の夏に通常のあせもとは違うような湿疹ができ2、3度通院したことがあること、がそれぞれ認められる。
[288] しかしながら、右事実から直ちに、被害児千春(35の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」、「種痘については、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[289] また、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児千香(35の1)が本件接種の4、5日前に軟便症状を呈していたことを記憶していることが認められる。
[290] しかしながら、右事実から直ちに、被害児千香(35の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
24 被害児中村真弥(38の1)について
[291] 〈証拠略〉によれば、被害児真弥(38の1)は、皮膚が弱く、おむつかぶれができてそこがただれるようなことが多く、昭和45年7月19日には頭部に湿疹ができ、同年8月4日には顔面湿疹で通院していること、同児の兄謙太郎は小学校に通うようになつてから2、3度じん麻疹ができ通院したこと、同児の父巌(38の2)は生卵を食べると下痢をすること、同児は昭和45年9月10日と同年10月2日に百日咳・ジフテリア・破傷風3種混合ワクチンの接種を受けたが、いずれの時も接種当日の夜から翌朝にかけて徴熱が出たこと、がそれぞれ認められる。
[292] しかしながら、右事実から直ちに被害児真弥(38の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
25 被害児福島一公(41の1)について
[293] 〈証拠略〉によれば、被害児一公(41の1)の母豊子(41の3)は、同児が風呂上がりに背中などに一時赤い斑点を生じさせていたこと、頭部に湿疹ができたこともあること、本件接種前に結膜炎に罹患して通院していたこと、を記憶していることが認められる。
[294] しかしながら、右事実から直ちに、被害児一公(41の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」、「種痘については、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[295] また、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児一公(41の1)が本件接種の1週間位前から風邪をひいており、熱はなかつたが鼻水が出ていたことを記憶していることが認められる。
[296] しかしながら、右事実から直ちに、被害児一公(41の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
26 被害児池本智彦(42の1)について
[297] 〈証拠略〉によれば、被害児智彦(42の1)の母愛子(42の3)は、同児が、本件接種を受けに行く時、普段よりはちよつとおとなしくて顔色が青白かつたようであつたこと、本件接種当日の夜9時ころに39度の発熱があつたこと、を記憶していることが認められる。
[298] しかしながら、右事実から直ちに、被害児智彦(42の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「有熱患者、その他医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[299] また、〈証拠略〉によれば、同人の父、即ち被害児智彦(42の1)の租父がペニシリンかマイシンのアレルギー体質者であること、同児の兄竜太郎はピリン系アレルギー体質者であること、がそれぞれ認められる。
[300] しかしながら、右事実から直ちに、被害児智彦(42の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
27 被害児猪原泉(43の1)について
[301] 〈証拠略〉によれば、被害児泉(43の1)は、在胎10か月の満期出産であつたが、出生時の体重は2250グラムしかない未熟児であつたことが認められる。
[302] しかしながら、〈証拠略〉によれば、被害児泉(43の1)は生後3か月目位で標準の身長、体重となつたこと、看護婦の資格を有し、現在もそれを職業としている同児の母松枝(43の3)の目から見て、本件接種当日には、同児に特に変つたところはなく健康であつたこと、がそれぞれ認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」その他禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
28 被害児杉山健二(52の1)について
[303] 〈証拠略〉によれば、被害児健二(52の1)は、風邪をひきやすく、皮膚に湿疹ができやすかつたことが認められる。
[304] しかしながら、右事実から直ちに、被害児健二(52の1)が、本件接種当時、予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[305] また、〈証拠略〉にれば、同人は、被害児健二(52の1)が本件接種の10日ないし15日位前から風邪をひき、本件接種当日も熱はひいたが鼻水が出るような状態であつたことを記憶していることが認められる。
[306] しかしながら、右事実から直ちに、被害児健二(52の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
29 被害児末次展敏(54の1)について
[307] 被害児展敏(54の1)は在胎9か月で出産し、出生時体重は2170グラムの未熟児であつた事実は当事者間に争いがない。
[308] 〈証拠略〉によれば、被害児展敏(54の1)は、本件接種当時においても標準体重に達していなかつたことが認められる。
[309] しかしながら、右事実から直ちに、被害児展敏(54の1)が、本件接種当時痘そう予防接種施行心得が定める「著しく栄養障害に陥つている者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
30 被害児藁科正治(59の1)について
[310] 〈証拠略〉によれば、被害児正治(59の1)の母雅子(59の3)は、同児が本件接種の1週間位前に鼻水を出していたことを記憶していることが認められる。
[311] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児正治(59の1)が本件接種の1週間位前に鼻水を出していた際、熱はなく元気がよかつたこと、本件接種当日も熱はなく食欲もあり、いたつて健康であつたこと、を記憶していることが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者、」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[312] また、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児正治(59の1)の兄治が、本件接種以前において3種混合ワクチンの第1回目接種により40度近い熱を出しひきつけを起こしたことがあることを記憶していることが認められる。
[313] しかしながら、右事実から直ちに、被害児正治(59の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「けいれん性体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
31 被害児秋田恒希(60の1)について
[314] 〈証拠略〉によれば、被害児恒希(60の1)の母令子(60の3)は、同児が出生後間もなく口腔内や舌に白いカビのようなものが生じ、産院で薬をもらつてつけ10日位で治つたことがあること、虫に刺されると腫れやすく、蚊に目の緑を刺されて目が開かない位腫れたことがあること、昭和54年の秋ころに、風が強い時に目が赤く充血し、目やにが出て目が開かなくなるようなことがあり、医師からアレルギー性結膜炎であると言われたことがあること、同児の父恒延(60の2)は薬を飲むと吐き気を催すことがあること、同児の姉光代は保育園に入るころまで、口内炎をよく起こし、またあせもがひどく、医師の治療を受けたことがあること、を記憶していることが認められる。
[315] しかしながら、右事実から直ちに、被害児恒希(60の1)が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」、「種痘については、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害を来すおそれのある者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[316] また、〈証拠略〉によれば、被害児恒希(60の1)は、出産予定日より17日早く出産したことが認められる。
[317] しかしながら、〈証拠略〉によれば、被害児恒希(60の1)の出生時の体重は3600グラムであり、その後の体重も標準を超えていたことが認められ,この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める各禁忌事項のいずれかに該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
32 被害児藤木のぞみ(63の1)について
[318] 被害児藤木のぞみ(63の1)は、在胎10か月で出産したが、出生時の体重は2275グラムの未熟児であり、そのため哺育器に約10日間入れられ、約1か月間入院していたことが認められる。
[319] しかしながら、〈証拠略〉によれば、被害児のぞみは(63の1)は、本件接種当時においては、同じころに生まれた子供に比べて発育が遅れているということがなかつたことが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「著しい栄養障害者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[320] また、〈証拠略〉によれば、被害児のぞみ(63の1)の母トモコ(63の3)は、同児が出生後半年位してから風邪をひきやすくなり、2か月に1度は風邪で医師の治療を受け、一旦風邪をひくと熱が出て、1週間位は薬を飲むような状態となり、医師から気管支ぜんそくなどと診断されたことがあること、同児の兄豊も幼児期によく扁桃腺が腫れ、半年に1度は医師の治療を受けていたこと、を記憶していることが認められる。
[321] しかしながら、右事実から直ちに、被害児のぞみ(63の1)が本件接種当時予防接種実施規則が定める「アレルギー体質の者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできない。
[322] 更に、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児のぞみ(63の1)が本件接種直前の昭和49年9月初めころ風邪気味で医師の治療を受けたことがあることを記憶していることが認められる。
[323] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同人は、被害児のぞみ(63の1)が、本件接種当日は熱もなく鼻水も咳も出ておらず、風邪の症状はなかつたことを記憶していることが認められ、この事実に照らせば、前記認定事実から直ちに、同児が、本件接種当時予防接種実施規則が定める「医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者」、「病後衰弱者」その他の禁忌事項に該当していたものと認めることはできず、また、「異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者」であつたと認めることもできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
[2] 過量接種を行つた過失について
[324] 請求の原因第四項(責任)3(三)(2)[2]の事実中、各接種担当者は、本件各接種のうち種痘、ポリオ生ワクチン、インフルエンザワクチン及び百日咳ワクチンの接種につき各規定接種量に従つた接種を行うべきであつた事実は、当事者間に争いがない。
[325] 昭和33年9月17日の予防接種実施規則制定前においては予防接種施行心得により、右制定後においては予防接種実施規則により、各ワクチンについての接種量が定められた趣旨に照らせば、各接種担当者が接種に際して、規定量に従つた接種を行うべき注意義務を有しており、その注意義務に違反して過量接種を行つたと認められる場合には、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有するものであり、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[326] そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村長等であるものについて、その各接種担当者が、各被害児に対し、規定量を超える接種を行つたか否かについて個別的に判断することとする。
@ 被害児白井裕子(2の1)
[327] 〈証拠略〉によれば、被害児裕子(2の1)の母扶美子(2の3)は、本件接種において同児の受けた種痘の接種量が多く、他の子供の場合は接種部位が乾くまでに10分程度しか要しなかつたのに対し、同児の場合は20分以上も要したことを記憶していることが認められる。
[328] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
A 被害児阪口一美(4の1)について
[329] 〈証拠略〉によれば、被害児一美(4の1)の母邦子(4の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種部位の切り口から血が滲んでおり、接種液が盛り上がつているような感じであつたこと、同児の後から接種を受けた子供が5、6人も同児より先に帰つて行つたにもかかわらず、同児は接種部位の乾くのが遅く30分も待たされたこと、種痘後脳炎の発症により奈良県立医科大学付属病院に入院した後、同児の接種部位を見たところ、すごく腫れて化膿しており、それがくずれた状態になつていたこと、発疹も出ていたこと、を記憶していることが認められる。
[330] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
B 被害児尾田真由美(6の1)について
[331] 〈証拠略〉によれば、被害児真由美(6の1)の母節子(6の3)は、同児に対する本件接種において、1回目の切皮がうまくなされず、ワクチン液をつけ直して切皮をやり直したこと、同人の目から見て接種量が多いように思われたこと、他の子供は10分位で接種部位が乾いたが、同児の場合は、なかなか乾かず40分を要したこと、接種後3、4日目ころから接種部位が腫れ上がり、1週間目の検診の際は、接種部位を中心に後頭部から上腕にかけて真つ赤に腫れていたこと、を記憶していることが認められる。
[332] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
C 被害児田部敦子(12の1)について
[333] 〈証拠略〉によれば、被害児敦子(12の1)の母チエ子(12の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種部位の乾きが他の子供に比べて遅く、同児の後から接種を受けた子供が同児より先に帰つてしまつたことを記憶していることが認められる。
[334] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
D 被害児梶山桂子(15の1)について
[335] 〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)の母喜代子(15の3)は、同児が本件接種のうち種痘接種を受けた際、接種部位の乾きが他の子供に比べ10分位遅かつたことを記憶していることが認められる。
[336] しかしながら、右事実から直ちに、同児に種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
E 被害児鈴木増己(19の1)について
[337] 〈証拠略〉によれば、被害児増己(19の1)の母節(19の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種液が盛り上がるほどに付けられ、接種部位の乾きが遅く、前後して接種を受けた子供が接種部位が乾いて帰つて行つた後も1人だけ残され、最後に看護婦から、乾かなくても帰つてよいと言われたことを記憶していることが認められる。
[338] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
F 被害児井上明子(24の1)について
[339] 〈証拠略〉によれば、被害児明子(24の1)の母たつ(24の3)は、同児が本件ポリオ生ワクチン接種を受けた際、初めに口に入れられたワクチンを吐き出したため、更にもう1度ワクチンの経口投与を受けたことを記憶していることが認められる。
[340] しかしながら、予防接種実施要領第二の6項3号(2)には、ポリオ生ワクチンの接種方法について、「投与直後接種液の大半を吐き出した場合は、あらためて1ミリリツトルの投与液を服用させること。」との定めがあり(〈証拠略〉)、この事実に照らせば、前期認定事実から直ちに、同児がポリオ生ワクチンの規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
G 被害児中川敦子(29の1)について
[341] 〈証拠略〉によれば、被害児敦子(29の1)の母きみ(29の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種は上腕2か所に切皮法で行われたが、そのうちの1つに付けられた接種液が切り口に盛り上がるほど多く、口で吹いて乾かそうとしても約2時間も乾かなかつたこと、1週間後の検診日には接種部位が真つ赤になつて大きく腫れ上がり、その後も風呂に入れない日が大分あつたことを記憶していること、また、〈証拠略〉によれば、同児の腕には現在もかなり大きな瘢痕が残つていることが、それぞれ認められる。
[342] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
H 被害児吉川雅美(31の1)について
[343] 〈証拠略〉によれば、被害児雅美(31の1)の母富美子(31の3)は、同児が本件接種を受けた際、1期種痘を受ける乳児と2期種痘を受ける6歳児とが区分されずに一緒に接種を受けたが、接種担当医はそれを整理することもなく雑談をしながら接種を行つていたこと、同児の接種部位の痘苗の乾きが遅く、同児の後から接種を受けた者が先に接種部位が乾いてどんどん帰つて行くのに、同児は乾きが遅いため衣服を着るのが最後の方になつてしまつたこと、1週間後の検診の際、同児の腕は肘から肩にかけて大きく腫れ上がり、検診医から「こんなに腫れたのかい。よくつき過ぎた。」と言われたこと、を記憶していることが認められる。
[344] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
I 被害児猪原泉(43の1)について
[345] 〈証拠略〉によれば、被害児泉(43の1)の母松枝(43の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種部位の乾くのが遅く、幹くまで30分位も待たねばならず、同児の後から接種を受けた人が何人も先に帰つて行つたこと、接種後3日目位から接種部位が赤く腫れ上がり、それが検診の時まで続いたこと、を記憶していることが認められる。
[346] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
J 被害児杉山健二(52の1)について
[347] 〈証拠略〉によれば、被害児健二(52の1)の父末男(52の2)は、同児の母きみ子(52の3)が、同児を本件接種を受けるため連れていつたが、本件接種を受けた際、同児の接種部位の乾きが遅く、そのため、10分位も他の人に比べて帰宅が遅れたと聞いたこと、同児の接種部位を見たところ、同児の兄一志のときに比べてずつと大きい接種跡があつたこと、接種の数日後、接種部位は、直径が5センチメートル位の大きさで赤く腫れ上がり、膿んでいるような状態になつたこと、を記憶していることが認められる。
[348] しかしながら、右事実から直ちに、同児が接種の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
K 被害児末次展次(54の1)について
[349] 〈証拠略〉によれば、被害児展敏(54の1)の母貞子(54の3)は、同児が本件接種を受けた際、1週間前に種痘を受け不善感となつた場合に比べて接種量が多いように思われたこと、前回は5分位で接種部位が乾いたが、本件接種においては30分間位も待つたが乾かず、やむなく腕まくりしていた洋服をおろして帰宅したところ、接種液がシヤツにくつついていたこと、を記憶していることが認められる。
[350] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
L 被害児高橋純子(58の1)について
[351] 〈証拠略〉によれば、被害児純子(58の1)の母幸子(58の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種担当者は、一旦接種液をつけた種痘針を同児の腕のところに持つて来たが、ちよつと首をかしげて、もう1度種痘針に接種液をつけ直してから接種を行つたこと、同児の接種部位の乾きが遅く、ストーブの横で乾かしたにもかわらず一緒に接種を受けた子供より10ないし15分程度長くかかつたこと、を記憶していることが、また、〈証拠略〉にれば、同児の父正夫(58の2)及び母幸子(58の3)は、同児の接種部位が善感の判定のころ相当の大きさに赤く腫れ上がつていたことを記憶していること、同児には現在でも直径3、4センチメートルの種痘の跡が残つていることが認められる。
[352] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
M 被害児藁科正治(59の1)について
[353] 〈証拠略〉によれば、被害児正治(59の1)の母雅子(59の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種部位の乾きが遅く、同児より後に接種を受けた子供4、5人の衣服を整えて先に帰つた後まで衣服を着ることができなかつたこと、1週間後の検診の際、接種部位を中心に肘から肩にかけて赤く腫れ上がつていたこと、を記憶していることが認められる。
[354] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
N 被害児秋田恒希(60の1)について
[355] 〈証拠略〉によれば、被害児恒希(60の1)の母令子(60の3)は、同児が本件接種を受けた際、接種部倍の乾くのが遅く、同児より5分位後に接種を受けた人が先に帰つてしまつたこと、1週間後の検診の際、接種部位が他の人に比べて大きく赤く腫れていたこと、を記憶していることが認められる。
[356] しかしながら、右事実から直ちに、同児が種痘の規定量を超えた過量接種を受けたものと推認することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
O 被害児河又典子(34の1)について
[357] 〈証拠略〉によれば、被害児典子(34の1)は、本件接種において多圧法により種痘の接種を受けたが、接種箇所は2か所であつたことが認められる。
[358] ところで、〈証拠略〉によれば、予防接種実施規則は、多圧法の接種数は1箇とし、切皮法の接種数は第1期の種痘にあつては2箇とする旨定めていたことが認められる。
[359] 従つて、多圧法により2か所の接種を受けた被害児典子(34の1)は、種痘の規定量の2倍にあたる過量接種を受けたものと推認される。
[360] 以上によれば、被害児典子(34の1)に対し本件接種を行つた接種担当医師は、種痘の規定量に従つた接種を行うべき注意義務に違反して過量接種を行つたもので、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
[3] 混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失について
[361] 請求の原因第四項(責任)3(三)(2)[3]の事実中、各接種担当者は、本件各接種を行うについて、昭和36年の予防接種実施要領改正による混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種はしないとの定めに違反した接種を行うべきではなかつた事実は、当事者間に争いがない。
[362] 昭和36年の予防接種実施要領改正により混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が禁止された趣旨(前記2(五)(3)[5](a)で認定したとおり、複数の予防接種を実施する場合に接種間隔をあける必要があるのは、ワクチン接種による副作用が発生するおそれのある間に他の予防接種を行うと人体に対する強いストレスが加わることになり、あるいは一方のワクチンに人体の免疫産生能力が奪われることになり、ワクチンによる副作用が発生する危険が増大するからであり、また2つの副作用が重なることによつて重大な結果をもたらす危険があるからであるとの見解がある。)に照らせば、各接種担当者が昭和36年以降において混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つてはならない注意義務があり、その注意義務に違反して接種を行つたときは、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性・蓋然性を有するものであり、その場合には、右接種担当者は、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[363] そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村長等であるものについて、その各接種担当者が、昭和36年以降において、被害児に対し、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つたか否かについて個別的(本件においては、次の被害児梶山桂子(15の1)のみである)に判断することとする。
被害児梶山桂子(15の1)について
[364] 被害児桂子(15の1)が種痘と百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの同時接種を受けた事実、右種痘接種は法5条所定の接種として実施された事実は、当事者間に争いがない。
[365] 〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)は、本件接種会場において、まず先に2種混合ワクチンの接種を受け、その直後に接種担当医師黒田から種痘接種を受けた事実が認められる。
[366] 右事実に照らせば、本件種痘接種担当医黒田は、本件種痘接種を行えば本件2種混合ワクチンと同時接種になることを知りながら、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種をしてはならない注意義務に違反して本件種痘接種を行つたものと認められ、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。

[367]4(一) 請求の原因第四項(責任)4(一)の事実は当事者間に争いがない。
[368](二) 請求の原因第四項(責任)4(二)の事実中、本件各接種のうち勧奨接種の実施主体である地方公共団体の長は、当該地方公共団体の公権力の行使に当る公務員として右接種の遂行を統括していたものである事実は、当事者間に争いがない。
[369] 被告国が、勧奨接種の実施主体である各地方公共団体に対し、勧奨接種の実施方法、目的、実施の対象、時期、実施主体、実施形式、接種方法、禁忌、費用負担等について詳細に定めて行政指導を行つている場合であつても、右争いのない事実によれば、勧奨接種の実施は、被告国の公権力の行使として行われるものではなく、各地方公共団体の公権力の行使として行われるものであるから、かかる場合における公権力の行使を管理・監督する行政主体は被告国ではなく、従つて、被告国は国家賠償法3条1項にいう公務員の監督に当る者ということはできない。
[370] また、〈証拠略〉によれば、勧奨接種には、実施主体の各地方公共団体に対し被告国から一定の国庫補助がなされる場合があり、特別対策と称されることがあると認められるが、補助金の交付は国家賠償法3条1項にいう費用の負担には該当しないと解される。
[371] 以上により、被告国は、勧奨接種につき、実施主体の各地方公共団体の長の過失によつて生じた損害について国家賠償法上の損害賠償責任を負うことはない。
[372](三) そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村長等であるものについて、被告国の公権力の行使に当る公務員として右接種を実施した各市町村長等が、右接種を実施するにつき、本件各事故発生についての過失があつたか否かについて判断することとする。
[373](1) 請求の原因第四項(責任)4(三)(1)の主張につて判断するに、国家賠償法1条1項の規定に照らせば、同項にいう公務員の過失の存在については賠償を請求する者においてその立証責任を負うものと解され、原告らが主張するその立証責任を転換すべきであるとする合理的理由はない。
[374](2) 本件各接種の各実施主体である市町村長等が、本件各接種を実施するについて、実施計画の立案等に予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を未然に防止すべき注意義務を有し、その有する注意義務に違反することがあたつたときは、事故発生について過失があつたと推定するのが相当である。
[375] そこで、以下原告らの主張する各実施主体の市町村長等の注意義務違反(事故発生についての具体的過失)の存在について判断することとする。
混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施した過失について
[376] 請求の原因第四項(責任)4(三)(2)の事実中、本件各接種の各実施主体は、本件各接種を実施するについて、昭和36年の予防接種実施要領改正による混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種はしないとの定めに違反した接種を実施すべきでなかつた事実は、当事者間に争いがない。
[377] 前記3(三)(2)[3]で認定したとおり、昭和36年の予防接種実施要領改正により混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が禁止された趣旨に照らせば、各実施主体の市町村長等が、昭和36年以降において混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して接種計画を立案しこれを実施したときは、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有するものであり、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[378] そこで、以下、本件各接種のうち、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が市町村長等であるものについて、その実施主体の各市町村長等が、昭和36年以降において、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種の計画を立案し、被害児に対しかかる接種を実施したか否かについて個別的(本件においては、次の被害児梶山桂子(15の1)のみである。)に判断することとする。
被害児梶山桂子(15の1)について
[379] 被害児桂子(15の1)が種痘と2種混合ワクチンの同時接種を受けた事実、右種痘接種は法5条所定の接種として東京都中野区長により実施された事実は当事者間に争いがない。
[380] 〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)の母喜代子(15の3)は、東京都中野保健所長より「昭和40年9月8日、塔ノ山小学校において、昭和40年1月1日から同年6月30日までの出生者に対し、種痘第1期及びジフテリア・百日咳2種混合ワクチン第1期1回目の接種を行う」旨の通知を受けて、同児を本件接種当日右接種会場に連れて行き、まず先に本件百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン接種を受け、その直後に本件種痘接種を受たけたものであることが認められる。
[381] 右事実に照らせば、東京都中野区長は2種混合ワクチン(生後6か月以下の者に対しては東京都中野区長が実施する法5条所定の接種、生後6か月を超える者に対しては東京都中野区が実施する法5条所定の接種)と種痘(東京都中野区長が実施する法9条所定の接種)の同時接種の計画を立案したものと認められる。
[382] 以上によれば、東京都中野区長は、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して、2種混合ワクチンと種痘の同時接種の計画を立案し、これに基づいて、被害児桂子(15の1)に対し、東京都中野区が実施した法9条所定の本件2種混合ワクチン接種の直後に法5条所定の本件種痘接種を実施したものと認められ、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。

[383] 以上により、被害児河又典子(34の1)につき、接種担当者が過量接種を行つた過失が、被害児梶山桂子(15の1)につき接種担当者が混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失及び実施主体が混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施した過失が、それぞれ認められるので、以下、被告主張の抗弁第一項違法性阻却事由の存在及び抗弁第三項救済制度の存在について順次判断することとする。
(一) 抗弁第一項の違法性阻却事由の存在について
[384] 被害児河又典子(34の1)及び被害児梶山桂子(15の1)に対する本件各接種がいずれも予防接種法に基づくものであることは、当事者間に争いがないが、しかしながら前記認定のとおり、右各接種の接種担当者あるいは実施主体は、予防接種実施規則あるいは予防接種実施要領に違反したものであり、その各行為の違法性が阻却されるものと解することはできない。
(二) 抗弁第三項の救済制度の存在について
[385](1) 抗弁第三項1事実は当事者間に争いがない。
[386](2) 抗弁第三項3の主張について判断するに、被害児河又典子(34の1)及び被害児梶山桂子(15の1)については、接種担当者あるいは実施主体の具体的過失が認められるものであり、法制化された救済制度が存在し、これによる給付がなされていたからといつて、これと別個に損害賠償請求をすることが許容されないものと解することはできない。

[387]6(一) 請求の原因第四項(責任)5(一)の事実は当事者間に争いがない。
[388](二) 請求の原因第四項(責任)5(二)の事実中、被告国が、行政指導により地方公共団体に対し勧奨接種を実施させているのは、特定の疾病の感受性対策として特定の年齢群、集団等に対し予防接種を受けさせることにより、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防するためであり、集団防衛、社会防衛を目的としたものである事実は、当事者間に争いがない。
[389] 〈証拠略〉によれば、被告国は、毎年各地方公共団体に対し、勧奨による接種の実施につき実施方法等を詳細に定めて行政指導を行つており、かかる行政指導を受けた各地方公共団体は、右指導に従う、または従わないとする選択の自由はなく、すべて例外なくこれに従つて勧奨接種を実施していたことが認められ、また、前記1(二)で認定したとおり、勧奨接種の実施につき、実施主体である各地方公共団体は、回覧、個別通知、広報車による広報、広報紙への登載、申込書の配布等の方法により、国民に対し接種を受けるよう勧奨し、国民は勧奨接種と強制接種の違いについて特段意識することなく、勧奨された予防接種は必ず受けねばならないものと考えて、接種を受けていたのが当時の社会一般の実情であつたこと、また、弁論の全趣旨によれば、厚生行政の一環として、予防接種を実施する被告国としては、被接種者たる一般国民の意識が、右のような実情にあることを知悉しており、また、被告国は、予防接種による副反応として被害が発生することは、諸外国においても、またわが国においても今世記初めから指摘され、被告国も1947年(昭和22年)以降、予防接種被害のうち、死亡者数をWHOに対し報告してきたこと、更に被告国は、予防接種は10万人に接種をすると、2ないし3名の割合で副反応による死亡や重篤な後遣障害の結果が発生する虞のあることが統計的にも明らかにされているが、予防接種によつて、その数は少なく、そして極く稀にではあるが、不可避的に死亡その他重篤な副反応を生ずる虞があるという右の事実について、これを社会一般に公表し、被接種者である国民一般に周知徹底させる努力をすることなく、防疫行政の名のもとに、一般国民に対し、すべての国民が予防接種を受けるよう奨励し、その実施方法を推進していたこと、右のような社会情勢が本件事故発生前の厚生行政の実情であつたことをそれぞれ認めることができる。
[390] 右のような実情からすると、予防接種を受ける国民にとつては、いわゆる勧奨接種についても、強制接種と同様に、これを受けることを社会的、心理的に強制されていたとでもいうべき状況の下で接種を受けていたものと認めるのが相当である。
[391](三) そこで請求の原因第四項(責任)5(三)の主張について判断するに、右認定のとおり、被告国は、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防し、公衆衛生の向上と増進に寄与するとの公益目的実現のため、各種予防接種につき、法により罰則を設けてその接種を国民に強制し、あるいは各地方公共団体に対し、国民に接種を勧奨するよう行政指導して各種予防接種を実施していたものである。
[392] 被告国のかかる公益目的実現のための行為によつて、各被害児の両親は、各被害児に本件各接種を受けさせることを法律によつて強制されあるいは心理的に強制された状況下におかれ、その結果、前記認定のとおり各被害児は本件各接種を受け、そのため死亡しあるいは重篤な後遣障害を有するに至つたものであり、このことにより、各被害児及びその両親は、後記認定のとおり予防接種に通常随判して発生する精神的身体的苦痛を超え、それらを著しく逸脱した犠牲を強いられる結果となつた。そのことは、本件各被害児およびその両親にとつて、予防接種により当然受忍すべき不利益の限度を著しく逸脱した特別の犠牲を余儀なくされたものということができる。
[393] 他方、本件における各被害児及びその両親の蒙つた特別犠牲に対し、その余の一般的国民は、予防接種の結果、幸にして、各被害児らのような不幸な結果を招来することなく、また各予防接種によつて伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防され、よつて、予防接種法が目的としている国民一般の公衆衛生の向上及び増進による社会的利益を享受しているのである。
[394] そうだとすると、本件においては、各予防接種の結果蒙つた各被害児及びその両親らの特別の犠牲は、予防接種を行うという国民全体の利益のために、己むを得ない犠牲であると解すべきか、はたまた、本件における各被害児及びその両親らの蒙つた具体的ないわば個人の特別の犠牲は、国民全体の負担において、これを償うべきものと解すべきかの一つの政策の問題に帰着するということができる。
[395] ところで、憲法13条は「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定し、また、憲法25条は「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定し、更に、憲法14条1項は「すべての国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定している。そこでこれらの憲法の諸規定の趣旨に照らして、本件について検討してみると、いわゆる強制接種は、予防接種法第1条に規定するように、伍染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防するために実施し、よつて、公衆衛生の向上と増進を図るという公益目的の実現を企図しており、それは、集団防衛、社会防衛のためになされるものであり、いわわゆる予防接種は、一般的には安全といえるが、極く稀にではあるが不可避的に死亡その他重篤な副反応を生ずることがあることが統計的に明らかにされている。しかし、それにもかゝわらず公共の福祉を優先させ、たとえ個人の意思に反してでも一定の場合には、これを受けることを強制し、予防接種を義務づけているのである。また、いわゆる勧奨接種についても、前示のとおり、被接種者としては、勧奨とはいゝながら、接種を受ける、受けないについての選択の自由はなく、国の方針で実施される予防接種として受けとめ、国民としては、国の施策に従うことが当然の義務であるとのいわば心理的社会的に強制された状況の下で、しかもその実施手続・実態には、いわゆる強制接種となんら変ることのない状況の下で接種を受けているのである。そうだとすると、右の状況下において、各被害児らは、被告国が、国全体の防疫行政の一環として予防接種を実行し、それを更に地方公共団体に実施させ、右公共団体の勧奨によつて実行された予防接種により、接種を受けた者として、全く予測できない、しかしながら予防接種には不可避的に発生する副反応により、死亡その他重篤な身体障害を招来し、その結果、全く通常では考えられない特別の犠牲を強いられたのである。このようにして、一般社会を伝染病から集団的に防衛するためになされた予防接種により、その生命、身体について特別の犠牲を強いられた各被害児及びその両親に対し、右犠牲による損失を、これら個人の者のみ負担に帰せしめてしまうことは、生命・自由・幸福追求権を規定する憲法13条、法の下の平等と差別の禁止を規定する同14条1項、更には、国民の生存権を保障する旨を規定する同25条のそれらの法の精神に反するということができ、そのような事態を等閑視することは到底許されるものではなく、かゝる損失は、本件各被害児らの特別犠牲によつて、一方では利益を受けている国民全体、即ちそれを代表する被告国が負担すべきものと解するのが相当である。そのことは、価値の根元を個人に見出し、個人の尊厳を価値の原点とし、国民すべての自由・生命・幸福追求を大切にしようとする憲法の基本原理に合致するというべきである。
[396] 更に、憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される(昭和43年11月27日最高裁大法廷判決・刑集22巻12号1402頁、昭和50年3月13日最高裁第1小法廷判決・裁判集民114号343頁、同年4月11日最高裁第2小法廷判決・裁判集民114号519頁参照)。
[397] そして、右憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない。
[398] 従つて、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合においても、右憲法29条3項を類推適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。
[399](四) 以上により、被告国は、憲法29条3項に基づき、各被害児(但し、原告らは、憲法29条3項に基づく損失補償請求と国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を選択的併合として請求しているので、前記認定のとおり接種担当者あるいは実施主体について国家賠償法上の過失が認められた被害児梶山桂子(15の1)及び被害児河又典子(34の1)の2名を除く。以下同様。)及びその両親に対し、これらの者が本件各事故により蒙つた損失について正当な補償をすべき義務を負つているものと認められる。

[400] そこで、以下、被告が主張する抗弁第三項の救済制度の存在について判断することとする。
[401](一) 抗弁第三項1の事実は当事者間に争いがない。
[402](二) 抗弁第三項2の事実中、予防接種被害について救済制度が法制化されている事実は、当事者間に争いがない。
[403](三) しかしながら、右法制化された救済制度が、内容の面からみても額のの面からみても、現在のわが国におけるこの種被害に対する救済としては客観的妥当性を有すると認めるに足る証拠はない。
[404] そして、憲法29条3項の類進適用により、本件各事故により損失を蒙つた各被害児及びその両親が、被告国に対し、損失の正当な補償を請求できると解する以上、救済制度が法制化されていても、かかる救済制度による補償額が正当な補償額に達しない限り、その差額についてなお補償請求をなしうるのは当然のことであると解される。
[405] 従つて、救済制度が法制化されている場合に、救済制度に基づく請求以外に別途補償請求をすることは許されないとする被告国の抗弁第三項2の主張は理由がない。

[406]五1 前記二で認定した原告主張一覧表「接種後の状況」及び「現在の症状」欄記載の事実及び以下の事実認定(証拠)表(五)に記載する各証拠により認められる同表「両親の被害状況」欄記載の事実によれば、本件各事故により被接種者たる各被害児はもちろんのことその両親も甚大な損害ないし損失を蒙つたことが認られる。

事実認定(証拠)表(五)《略》

[407] ところで前記認定の原告主張一覧表「接種後の状況」「現在の症状」及び「両親の被害状況」の各欄記載の事実に、弁論の全趣旨を総合すると、本件における原告らの蒙つた損害額または損失額を算定するについて考慮すべき事情として、次の事実を認めることができる。
[408](一) 本件事故は、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防し、もつて公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的として、全国的な規模で被告国等によつて、組織的に実施された予防接種の結果発生したものであり、その予防接種は、社会防衛、集団防衛のためになされ、その結果、予防接種によつて極く稀に、しかしながら不可避的に、少数の個人に死亡その他重篤な副反応が生ずることがあることを認識していたけれども、それにもかゝわらず、被告国は、公共の福祉のためには、予防接種を実施せざるを得ない社会情勢の下でなされたものであること。
[409](二) 本件における各被害児らは、ほとんど全員、未だ物心のつかない乳児期に本件各接種により被害に遭い、ある者は、死亡し、他の大部分の者も重度の知能障害と脳性麻痺による重度の視覚、聴覚、言語、知能、運動等の機能障害を受け、いわゆる植物人間や動物人間となり、そして、これら生存被害児の全員は、中枢神経を損傷しており、現在の医学では、その後遣障害が軽快する見込みは全く存在しないといえること、しかも本件における事故の被害者は判然としており、その被害者の側には、過失というべきものが全くなく、他方、加害者ともいうべき者として、どの機関に、あるいは誰に対してその違法性を追求することができるかが困難な事案であること。
[410](三) 本件予防接種による被害は、単に各被害児に損害または損失を与えただけではなく、各被害児の両親、兄弟姉妹らの家族全員の生活をも不幸に陥れた。各被害児の両親(特に母親)は、まさに四六時中被害児の介護に追われ、精神的にも疲弊しきつており、しかも、そのような生活は、一時的なものではなく、被害児が生存する限り続くのである。そのうえ、両親が被害児の介護に没頭しているあおりを受けて、各被害児の家庭は明るさを失い、被害児の兄弟姉妹も、父母の愛情を受ける機会がほとんどなかつたといつてもよい状態であつたこと、また、被害児の父についても被害児による経済的負担の増大により、心ならずも転職や就労時間の延長を強いられており、それらが要因となり、多くの被害児の家庭は崩壊寸前の危険性にさらされている。そして、他方、これに対して、その大多数の一般国民は、予防接種による防疫目的を達成し、それによつて平穏無事の日常生活を営んでいること、そうすると、本件における各被害児らは、その数は決して多くはないが、伝染病のまん延を防止するという社会公共の利益のために犠牲となつた被害者であるといえること。
[411](四) 各被害児及びそ両親らは、本件予防接種を受けるについて、被告国の防疫行政として、ある者には、接種を受けない場合には刑罰に科するという強制により、また、ある者には、国や公共団体等の強い勧奨により、それぞれ予防接種を受けたものであり、被害者である被接種者らには、当時としては、予防接種を受けるまたは受けないとすることの選択の自由は全くなく、従つて、自らの意思で各人の本件事故を回避する可能性は全く期待できない状況下にあつたといえること。
[412](五) 本件においては、他の公害事件等でいわれるように、交通事故その他の通常の生命・身体に対する侵害事件におけると異なり、被害者が加害者の立場に立つことはあり得ないという、被害者と加害者との地位の非交替性が指摘されるべきであること。

[413]3(一) 以上の諸事実に照らせば、本件訴訟においては、損失補償における正当な補償額の算定は通常の事件の損害額の算定と同様の方法とよるべきものと解するのが相当である。
[414] そこで、前記認定の原告主張一覧表「接種後の状況」、「現在の症状」及び「両親の被害状況」欄記載の事実に基づき、各被害児及びその両親が蒙つた損害(被害児梶山桂子(15の1)及び被害児河又典子(34の1)並びにその両親についての各損害)ないし損失(その余の各被害児及びその両親についての各損失)を以下の根拠により個別に算定することゝする。
[415](二) そして、個別指導にあたつては、本件にあらわれた一切の事情を勘案し、次のとおりの各ランクに分けて算定するのが相当であると認める。即ち、各被害児について、本件各事故によつて(1)死亡した被害児と(2)生存している被害児とに分け、更に後者の生存している被害児については、症状の軽量により、(イ)日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Aランク生存被害児」という。)(ロ)日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Bランク生存被害児」という。)(ハ)一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(これを「Cランク生存被害児」という。)とにそれぞれランク分けにする。そして、更に右各被害児らの両親等の各損害または各損失についてそれぞれ算定することとする。

4(一) 死亡した各被害児の損害ないし損失の算定根拠
(1) 得べかりし利益の喪失
[416] 死亡した各被害児が、本件各接種によつて本件各事故に遭わなければ、18歳から67歳までの49年間就労して、その間少なくとも、毎年、男子は金379万5200円、女子は金203万9700円(当裁判所に顕著である昭和57年賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計の男女別全年齢労働者平均賃金を参考にしてそれと同額)の収入を取得することができたにもかかわらず、これを喪失したものと推認される。そこで右の額を基礎として、生活費控除を男子5割、女子3割とし、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右期間の得べかりし利益の喪失額の本件各接種当時における現価を求める。
(2) 介護費
[417] 死亡した各被害児のうち、発症後死亡するに至るまで1年以上生存し、日常生活に全面的介護必要とした者については、介護の状況に照らし、介護に要した費用は年間金120万円と認めるのが相当である。そこで右の額を基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右要介護期間(1年未満は切捨てる)の介護費相当額の本件各接種当時における現価を求める。
(3) 弁護士費用
[418] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、死亡した各被害児が被告国に対し、右損害ないし損失相当額につきその支払いを請求して権利の実現を図るには、弁護士に委任し訴訟を提起する必要があつたと認めるのが相当であり、弁護士費用相当領として以上の損害ないし損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損害ないし損失と認めるのが相当である。
[419](4) 以上の算定根拠により死亡した各被害児の損害ないし損失を個別に算定する(円未満は切捨てにより計算する。)と以下に掲げる「死亡被害児の認定損害損失額一覧表」(1)、(2)記載のとおりとなる。

死亡被害児の認定損害損失額一覧表(1)《略》

死亡被害児の認定損害損失額一覧表(2)《略》

(二) 死亡した各被害児の両親の損害ないし損失の算定根拠
(1) 慰謝料
[420] 死亡した各被害児の両親の精神的苦痛の慰謝料は、各両親1人につき金800万円をもって相当とする。
(2) 弁護士費用
[421] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として右損害ないし損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損害ないし損失と認めるのが相当である。そうすると右金額は、各人につき金60万円となる。
[422](3) 以上の算定根拠により死亡した各被害児の両親の損害ないし損失を個別に算定すると以下に掲げる「死亡被害児両親の認定損害損失額一覧表」(1)ないし(3)記載のとおりとなる。

死亡被害児両親の認定損害損失額一覧表(1)
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
2の2白井哲之800万円60万円860万円
2の3白井扶美子800万円60万円860万円
6の2尾田稔800万円60万円860万円
6の3尾田節子800万円60万円860万円
8の2布川正800万円60万円860万円
8の3布川則子800万円60万円860万円
14の2千葉秀三800万円60万円860万円
14の3千葉節子800万円60万円860万円
15の2梶山健一800万円60万円860万円
15の3梶山喜代子800万円60万円860万円
16の2佐藤茂昭800万円60万円860万円
16の3佐藤千鶴800万円60万円860万円
17の2渡邊孝雄800万円60万円860万円
17の3渡邊豊子800万円60万円860万円
19の2鈴木浅治郎800万円60万円860万円
19の3鈴木節800万円60万円860万円
20の2越智聡800万円60万円860万円
20の3越智静子800万円60万円860万円
22の2上野忠志800万円60万円860万円
22の3上野厚子800万円60万円860万円
23の2山本孝仁800万円60万円860万円
23の3山本京子800万円60万円860万円
25の2平野賢二800万円60万円860万円
25の3平野節子800万円60万円860万円
30の2田淵英嗣800万円60万円860万円
30の3田淵美也子800万円60万円860万円

死亡被害児両親の認定損害損失額一覧表(2)
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
32の2荒井清800万円60万円860万円
32の3荒井ミツイ800万円60万円860万円
34の2河又弘寿800万円60万円860万円
34の3河又正子800万円60万円860万円
35の2大沼満800万円60万円860万円
35の3大沼勝世800万円60万円860万円
39の2矢野悟800万円60万円860万円
39の3矢野ルリ子800万円60万円860万円
43の2猪原正和800万円60万円860万円
43の3猪原松枝800万円60万円860万円
45の2大川勝三郎800万円60万円860万円
45の3大川たつゑ800万円60万円860万円
46の2高橋恒夫800万円60万円860万円
46の3高橋ちづ子800万円60万円860万円
47の2塩入恒男800万円60万円860万円
47の3塩入万佐子800万円60万円860万円
48の2小久保皓司800万円60万円860万円
48の3小久保笑子800万円60万円860万円
51の2大平正800万円60万円860万円
51の3大平康子800万円60万円860万円
52の2杉山末男800万円60万円860万円
52の3杉山きみ子800万円60万円860万円
54の2末次芳雄800万円60万円860万円
54の3末次貞子800万円60万円860万円
57の2阿部玄造800万円60万円860万円
57の3阿部クニ800万円60万円860万円

(三) 日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(Aランク生存被害児)の損失の算定根拠
(1) 得べかりし利益の喪失
[423] 本件にあらわれた各訴訟資料ならびに証拠資料により、Aランク生存被害児の労働能力喪失率は100パーセントと認めるのが相当であり、Aランク生存被害児が、本件各接種によつて本件各事故に遭わなければ、18歳から67歳までの49年間就労して、その間少なくとも、毎年、男子は金379万5200円、女子は203万9700円(その根拠は前記のとおり)の収入を取得することができたにもかかわらず、その100パーセントを喪失したものと推認される。そこでこれらを基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右期間の得べかりし利益の喪失額の本件各接種当時における現価を求める。
(2) 介護費
[424] Aランク生存被害児の介護の状況に照らせば、発症後死亡するに至るまでその生涯にわたり日常生活に全面的介護を必要とするものと推認され、右要介護期間は、Aランク生存被害児の本件各接種時の年齢と同年齢の者の平均余命期間(当裁判所に顕著な昭和57年簡易生命表によることとし、1年未満は切捨てる。)に一致するものと認めるを相当とする。そして、右介護に費される労務を金銭に換算すると、右要介護期間を通じて年間金120万円を要すると認めるのが相当である。そこでこれらを基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右要介護期間の介護費相当額の本件各接種当時における現価を求める。
(3) 慰謝料
[425] Aランク生存被害児の精神的苦痛の慰謝料は、金1000万円をもつて相当とする。
(4) 弁護士費用
[426] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として以上の損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当困果関係のある損失を認めるのが相当である。
[427](5) 以上の算定根拠によりAランク生存被害児の損失を個別に算定する(但し、円未満は切捨てにより計算する)と以下に掲げる「Aランク生存被害児の認定損失額一覧表」(1)ないし(3)記載のとおりとなる。

Aランク生存被害児の認定損失額一覧表(1)《省略》

Aランク生存被害児の認定損失額一覧表(2)《省略》

Aランク生存被害児の認定損失額一覧表(3)《省略》

(四) Aランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
(1) 慰謝料
[428] Aランク生存被害児の両親の精神的苦痛の慰謝料は、各両親1人につき各金300万円をもつて相当とする。
(2) 弁護士費用
[429] 本体訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として右損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損失を認めるのが相当である。そうすると、右金額は、各人につき、金22万5000円となる。
[430](3) 以上の算定根拠によりAランク生存被害児の両親の損失を個別に算定すると以下に掲げる「Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表」(1)ないし(3)記載のとおりとなる。

Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表(1)
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
1の2吉原賢二300万円22万5000円322万5000円
1の3吉原くに子300万円22万5000円322万5000円
3の2山元忠雄300万円22万5000円322万5000円
3の3山元としゑ300万円22万5000円322万5000円
4の2阪口照夫300万円22万5000円322万5000円
4の3阪口邦子300万円22万5000円322万5000円
5の2沢柳清300万円22万5000円322万5000円
5の3沢柳富喜子300万円22万5000円322万5000円
7の3森山チエ子300万円22万5000円322万5000円
9の2服部勝一郎300万円22万5000円322万5000円
9の3服部真澄300万円22万5000円322万5000円
10の2依田泰三300万円22万5000円322万5000円
10の3依田時子300万円22万5000円322万5000円
11の2伊藤定男300万円22万5000円322万5000円
11の3伊藤孝子300万円22万5000円322万5000円
12の2田部芳聖300万円22万5000円322万5000円
12の3田部チエ子300万円22万5000円322万5000円
21の2小林安夫300万円22万5000円322万5000円
21の3小林こう300万円22万5000円322万5000円
24の2井上忠明300万円22万5000円322万5000円
24の3井上たつ300万円22万5000円322万5000円
26の2卜部広太郎300万円22万5000円322万5000円
26の3卜部せつ子300万円22万5000円322万5000円
27の2鈴木勲雄300万円22万5000円322万5000円
27の3鈴木百合子300万円22万5000円322万5000円

Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表(2)
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
28の2小林春男300万円22万5000円322万5000円
28の3小林いく子300万円22万5000円322万5000円
31の2吉川禎二300万円22万5000円322万5000円
31の3吉川富美子300万円22万5000円322万5000円
33の2清水一男300万円22万5000円322万5000円
33の3清水弘子300万円22万5000円322万5000円
36の2加藤久雄300万円22万5000円322万5000円
36の3加藤かつ子300万円22万5000円322万5000円
38の2中村厳300万円22万5000円322万5000円
38の3中村真知子300万円22万5000円322万5000円
40の2高田清作300万円22万5000円322万5000円
40の3高田敏子300万円22万5000円322万5000円
41の2福島喜久雄300万円22万5000円322万5000円
41の3福島豊子300万円22万5000円322万5000円
44の2室崎誠300万円22万5000円322万5000円
44の3室崎富惠300万円22万5000円322万5000円
50の2藤井俊介300万円22万5000円322万5000円
50の3藤井孝子300万円22万5000円322万5000円
53の2渡邊真美300万円22万5000円322万5000円
53の3渡邊美都子300万円22万5000円322万5000円
55の2高橋邦夫300万円22万5000円322万5000円
55の3高橋昭子300万円22万5000円322万5000円
56の2古川治雄300万円22万5000円322万5000円
56の3古川イツヱ300万円22万5000円322万5000円
58の2高橋正夫300万円22万5000円322万5000円

Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表(3)
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
58の3高橋幸子300万円22万5000円322万5000円
59の2藁科勝治300万円22万5000円322万5000円
59の3藁科雅子300万円22万5000円322万5000円
60の2秋田恒延300万円22万5000円322万5000円
60の3秋田令子300万円22万5000円322万5000円
61の2中井浩300万円22万5000円322万5000円
61の3中井郁子300万円22万5000円322万5000円
62の2野口正行300万円22万5000円322万5000円
62の3野口賀寿子300万円22万5000円322万5000円

(五) 日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(Bランク生存被害児)の損失の算定根拠
(1) 得べかりし利益の喪失
[431] 本件にあらわれた各訴訟資料ならびに証拠資料により、Bランク生存被害児の労働能力喪失率は70パーセントと認めるのが相当であり、Bランク生存被害児が、本件各接種によつて本件各事故に遭わなければ、18歳から67歳までの49年間就労して、その間少なくとも、毎年、男子は金379万5200円、女子は金203万9700円(その根拠は前記のとおり)の収入を取得することができたにもかかわらず、その70パーセントを喪失したものと推認される。そこでこれらを基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右期間の得べかりし利益の喪失額の本件各接種当時における現価を求める。
(2) 介助費
[432] Bランク生存被害児の介助の状況に照らせば、発症後死亡するに至るまでその生涯にわたり日常生活に介助を必要とするものと推認され、右要介助期間は、Bランク生存被害児の本件各接種時の年齢と同年齢の者の平均余命期間(当裁判所に顕著な昭和57年簡易生命表によることとし、1年未満は切捨てる。)に一致するものと認めるを相当とする。そして、右介助に費される労務を金銭に換算すると、右要介助期間を通じて年間金60万円を要すると認めるのが相当である。そこでこれらを基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右要介助期間の介助費相当額の本件各接種当時における現価を求める。
(3) 慰謝料
[433] Bランク生存被害児の精神的苦痛の慰謝料は、金800万円をもつて相当とする。
(4) 弁護士費用
[434] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として以上の損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損失と認めるのが相当である。
[435](5) 以上の算定根控拠によりBランク生存被害児の損失を個別に算定する(但し、円未満は切捨てにより計算する。)と以下に掲げる「Bランク生存被害児の認定損失額一覧表」記載のとおりとなる。

Bランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》

(六) Bランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
(1) 慰謝料
[436] Bランク生存被害児の両親の神経的苦痛の慰謝料は、各両親1人につき各金200万円をもつて相当とする。
(2) 弁護士費用
[437] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として右損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損失と認めるのが相当である。そうすると、右金額は、各人につき、金15万円となる。
[438](3) 以上の算定根拠によりBランク生存被害児の両親の損失を個別に算定すると以下に掲げる「Bランク生存被害児両親の認定損失額一覧表」記載のとおりとなる。

Bランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
18の2徳永保春200万円15万円215万円
18の3徳永和枝200万円15万円215万円
29の2中川正直200万円15万円215万円
29の3中川きみ200万円15万円215万円
37の2竹沢潔200万円15万円215万円
37の3竹沢昌子200万円15万円215万円
63の2藤木秀200万円15万円215万円
63の3藤木トモコ200万円15万円215万円

(七) 一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(Cランク生存被害児)の損失の算定根拠
(1) 得べかりし利益の喪失
[439] 本件にあらわれた訴訟資料ならびに証拠資料により、Cランク生存被害児の労働能力喪失率は40パーセントと認めるのが相当であり、Cランク生存被害児が、本件各接種によつて本件各事故に遭わなければ、18歳から67歳までの49年間就労して、その間少なくとも、毎年、男子は金379万5200円、女子は金203万9700円(その根拠は前記のとおり)の収入を取得することができたにもかかわらず、その40パーセントを喪失したものと推認される。そこでこれらを基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右期間の得べかりし利益の喪失額の本件各接種当時における現価を求める。
(2) 介助費
[440] Cランク生存被害児は、発症後一応他人の介助なしに日常生活を維持することが可能となるに至るまで、両親等の介助を必要としたものと認められ、右介助に費された労務を金銭に換算すると、右要介助期間を通じて年間金60万円を要したものと認めるのが相当である。そこで右の額を基礎として、ライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して右要介助期間の介助費相当額の本件各接種当時における現価を求める。
(3) 慰謝料
[441] Cランク生存被害児の精神的苦痛の慰謝料は、金500万円をもつて相当とする。
(4) 弁護士費用
[442] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として以上の損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損失と認めるのが相当である。
[443](5) 以上の算定根拠によりCランク生存被害児の損失を個別に算定する(但し、円未満は切捨てにより計算する)と以下に掲げる「Cランク生存被害児の認定損失額一覧表」記載のとおりとなる。

Cランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》

(八) Cランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
(1) 慰謝料
[444] Cランク生存被害児の両親の精神的苦痛の慰謝料は、各両親1人につき各金100万円をもつて相当とする。
(2) 弁護士費用
[445] 本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用相当額として右損失額の7.5パーセントに当る金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある損失と認めるのが相当である。そうすると、右金額は、各人につき、金7万5000円となる。
[446](3) 以上の算定根拠によりCランク生存被害児の両親の損失を個別に算定すると以下に掲げる「Cランク生存被害児両親の認定損失額一覧表」記載のとおりとなる。

Cランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
番号両親氏名慰謝料弁護士費用合計額
13の2田中隆博100万円7万5000円107万5000円
13の3田中靖子100万円7万5000円107万5000円
42の2池本和能100万円7万5000円107万5000円
42の3池本愛子100万円7万5000円107万5000円

[447] そこで、以下、被害児梶山桂子(15の1)及びその両親の各損害賠償請求権につき、抗弁第二項1で被告が主張する3年の消滅時効の援用について判断することとする。なお、被告国は、各被害児及びその両親の損失補償請求権に対しては、消滅時効期間の経過、時効の援用を主張していない。
[448] 被害児梶山桂子(15の1)及びその両親が、昭和40年9月9日ころに本件接種による本件事故発生を知つた事実は、当事者間に争いがない。
[449] 民法724条の加害者を知りたる時とは、加害行為が不法行為であることを知つた時と解すべきであるところ、右当事者間に争いのない事実から直ちに、被害児梶山桂子(15の1)及びその両親が、昭和40年9月9日ころに、本件事故が被告国の公権力の行使に当る公務員である本件接種担当医師あるいは実施主体の東京都中野区長の過失行為に起因する違法なものであることを知つたものと推認することはできず、他に、同人らが損害及び加害者を知つた時から本訴提起に至るまでに3年以上の期間が経過したことを認めるに足る証拠はない。

[450] 次に抗弁第四項の損益相殺等について判断する。
[451](一) 抗弁第四項1の事実中、抗弁末尾添付別紙二に記載の事実のうち、被害児梶山桂子(15の1)が、後遺症特別給付金の昭和51年度分のうち金18万円及び同費目のその余の年度分の、同児及びその両親がその余の費目の、各支払いを受けた事実、被害児小林浩子(21の1)が、後遺症特別給付金の昭和51年度分のうち金15万3000円及び同費目のその余の年度分並びにその余の費目の各支払いを受けた事実、被害児藤本美智子(37の1)の両親が障害児養育年金昭和53年度分のうち金49万4000円の、同児がその余の費目の、各支払いを受けた事実、被害児池本智彦(42の1)が、後遺症特別給付金のうち昭和和50年度分として金14万4000円及び同費目の昭和49年度並びにその余の費目の各支払いを受けた事実、被害児古川博史(56の1)が、障害年金の昭和57年度分のうち金76万2450円及び同費目のその余の年度並びにその余の費目の各支払いを受けた事実、その余の各被害児及びその両親が抗弁末尾添付別紙二に記載のとおりの各費目の各支払いを受けた事実は、当事者間に争いがない。
[452] 〈証拠略〉によれば、被害児藤本美智子(37の1)の両親が、昭和53年度分の障害児養育年金として金54万6000円の支払いを受けていることが、〈証拠略〉によれば、被害児吉川博史(56の1)が、昭和57年度分の障害年金として金115万8800円、昭和58年1月ないし同年3月分の障害年金として金39万6350円の、各支払いを受けていることが認められる。
[453] 抗弁末尾添付別紙二に記載の事実のうち、右当事者間に争いのない事実及び右認定事実を除くその余の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。
[454] ところで、右各費目の給付は、各被害児及びその両親の損害ないし損失の填補の性質を有するものと認めるのが相当であり、衡平の理念に照らし、抗弁末尾添付別紙二記載の各費目のうち、旧制度における弔慰金及び再弔慰金、新制度における死亡一時金及び葬祭料、並びに地方自治体単独給付分のうち死亡者慰金、弔慰金、死亡見舞金等として給付されたものについては、その2分の1の額を各被害児の両親の損害額ないし損失額から、その余の費目についてはその額を各被害児の損害額ないし損失額から、それぞれ控除するのが相当である。
[455](二) 抗弁第四項2の主張について判断するに、予防接種法の救済制度による給付が法的な裏付けをもち、将来にわたり継続してその履行が行われることが確実であつても、いまだ現実の給付がない以上、そのような将来の給付額を損害額ないし損失額から控除することが必要であるとすべき理由はなく、抗弁第四項2の主張は失当である。
[456](三) 以上により、各被害児及びその両親の各損害額ないし各損失額から現実に給付がなされた額を控除すると、以下に掲げる「損害賠償・損失補償債権額一覧表」(1)ないし(7)記載のとおりとなる。

損害賠償・損失補償債権額一覧表(1)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(2)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(3)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(4)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(5)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(6)《略》

損害賠償・損失補償債権額一覧表(7)《略》

[457] そこで、次に抗弁第五項の履行の猶予についての主張の判断をするに、将来給付分のうち障害児養育年金及び障害年金相当額については、各年金の所定の給付履行時期までは、その限度において履行の猶予がなされるべきであるとすべき理由はなく、抗弁第五項の主張は失当である。

[458] 請求の原因第六項の事実中、死亡した各被害児の両親が、各2分の1の割合で各被害児を相続した事実、死亡した被害児阿部佳訓(57の1)の父玄造(57の2)が昭和56年10月8日に死亡し、それによつて同人の妻クニ(57の3)が2分の1、右夫妻の子供で被害児佳訓(57の1)の姉である恭子(57の4)、同じく兄である光敏(57の5)が各4分の1の各割合により右玄造(57の2)の損失補償請求権を相続した事実は、当事者間に争いがない。
[459] 右当事者間に争いのない事実に基づき、原告らが被告国に対して有する損害賠償請求権ないし損失補償請求権を算定すると、以下に掲げる「原告債権額一覧表」(1)ないし(7)記載(円未満は切捨てる)のとおりとなる。

原告債権額一覧表(1)《略》

原告債権額一覧表(2)《略》

原告債権額一覧表(3)《略》

原告債権額一覧表(4)《略》

原告債権額一覧表(5)《略》

原告債権額一覧表(6)《略》

原告債権額一覧表(7)《略》
[460] 以上により、原告らの本訴請求は、前掲「原告債権額一覧表」の「合計額」欄記載の各金員並びに右各金員に対する本件各事故発生の後の日であり、各訴状送達の翌日である主文末尾添付別紙「認容金額一覧表」の「遅延損害金起算日」欄記載の各日からそれぞれ支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条但書を各適用し、仮執行の宣言につき同法196条1項を適用し、右認容金額の3分の1の限度において仮執行を相当と認め、仮執行の免脱宣言は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

  (裁判官  小野寺規夫  中田昭孝  橋本昌純)

第3条 何人も、この法律に定める予防接種を受けなければならない。
 16歳に満たない者及び禁治産者については、前項の規定にかかわらず、その保護者において、その者に予防接種を受けさせるため必要な措置を講じなければならない。

第5条 市町村長は、この法律の定めるところにより、保健所長〔特別区及び保健所法(昭和22年法律第101号)第1条の規定に基く政令で定める市にあつては、都道府県知事とする。以下第8条において同じ。〕の指示を受け、定期の予防接種を行わなければならない。

第6条の2 定期の予防接種を受けるべき者が、その定期内に、市町村長以外の者について当該予防接種を受けたときは、10日以内に、第19条の規定による証明書を市町村長に提出しなければならない。

第9条 疾病その他やむを得ない事故のため定期内に予防接種を受けることができなかつた者は、その事故の消滅後1月以内に、当該予防接種を受けなければならない。但し、事故消滅の際予防接種を受けるべき定期に該当しているときは、この限りでない。

第12条第2項 腸チフス又はパラチフスの予防接種を行うときは、あらかじめその予防接種に対する禁忌徴候の有無について健康診断を行わなければならない。禁忌徴候があると診断したときは、その者に対して予防接種を行つてはならない。

第15条 この法律で定めるものの外、予防接種の実施方法に関して必要な事項は、省令でこれを定める。
第4条 接種前には、被接種者について、体温測定、問診、視診、聴打診等の方法によつて、健康状態を調べ、当該被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、その者に対して予防接種を行つてはならない。ただし、被接種者が当該予防接種に係る疾病に感染するおそれがあり、かつ、その予防接種により著しい障害をきたすおそれがない認められる場合は、この限りでない。
 一 有熱患者、心臓血管系、腎臓又は肝臓に疾患のある者、糖尿病患者、脚気患者その他医師が予防接種を行うことが不適当と認める疾病にかかつている者
 二 病後衰弱者又は著しい栄養障害者
 三 アレルギー体質の者又はけいれん性体質の者
 四 妊産婦(妊娠6月までの妊婦を除く。)
 五 種痘については、前各号に掲げるもののほか、まん延性の皮膚病にかかつている者で、種痘により障害をきたすおそれのあるもの

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