予防接種ワクチン禍事件
第一審判決

損害賠償請求事件
東京地方裁判所 昭和47年(ワ)第2270号、同48年(ワ)第4793号、同年(ワ)第10666号、同49年(ワ)第10261号、同50年(ワ)第7997号、同56年(ワ)第15308号
昭和59年5月18日 判決

(原告)吉原充 外159名
(被告)国
    代理人 藤村啓 北野節夫 折目斎 外6名

■ 裁判所作成に係る判決理由要旨

一 事件の概要
[1] 本件は、予防接種法(昭和51年法第69号による改正前の法律)によつて実施され、あるいは国の行政指導に基づき地方公共団体が接種を勧奨した予防接種として、インフルエンザワクチン、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風3種混合ワクチン等のうち、1種類または2種類の接種を受け、その結果、右予防接種ワクチンの副作用により、疾病にかかり、障害の状態となり、または死亡するに至つた本件各被害児と、その両親らが原告(原告数は、被害児62名中訴提起前の死亡被害児を除く36名、その両親らの家族124名、合計160名)となり、当時厚生省が行つていた防疫行政につき、民法上の債務不履行責任、国家賠償法上の責任または憲法上の損失補償責任を追及するとして、国を被告として、昭和47年3月から6次にわたつて(基本事件は当庁昭和48年(ワ)第4793号事件であり、事件数は全部で6件である)提起した損害賠償請求事件である。

二 予防接種ワクチンの接種とその副作用による結果発生との因果関係について、
[2] 予防接種ワクチン接種とその結果発生するとされる重篤な副反応との間に因果関係が存在すると認めるための基準として、当裁判所は、次の4つの要件が必要であると解し、本件における各被害児らには、すべて右の4つの要件を充足している(被告国が因果関係について争わない被害児も含む)から、本件における各被害児に対する予防接種とその発生した結果との間には、相当因果関係があるものと認める。
(1) ワクチン接種と、予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること。
(2) 他に原因となるべきものが考えられないこと。
(3) 副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。
(4) 事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。

三 被告国または厚生大臣の責任について、
[3](一) 被告国には、原告らが主張する「予防接種の実施に際して、その強制によると勧奨による接種とを問わず、予防接種を受ける国民の生命身体を侵害する事故が発生することのないよう万全の措置を講ずべき最高度の安全確保義務が債務として存在する」との主張はこれを認めることはできない。
[4](二) 厚生大臣には、原告らが主張する「未必の故意による責任」すなわち、「予防接種法は国が予防接種により生命または健康を侵害することを認めたものでないことは当然である。然るに国は、予防接種の施行により一定の確率で死亡または回復不能の重大な後遺障害が発生することを予防接種開始の当初から認識しながら、それもやむを得ないものとして予防接種を続けて来たものである。従つて、その結果予想された被害が発生した場合には、国は被接種者に対し、「未必の故意」により違法に他人に損害を加えた、というべきである。」とする故意責任は認めることができない。
[5](三) 被告国(厚生大臣)には原告らが主張する「具体的過失による責任」すなわち、「本件予防接種においては、被告国(厚生大臣)には左記の注意義務違反の過失が存在する。
1 予防効果が不明のワクチンあるいは危険性の高いワクチンの接種を廃止すべき義務違反
2 事故発生の危険のある若年者を被接種者としないよう接種対象者を決定すべき注意義務違反
3 禁忌該当者等事故発生の危険のある身体的状態にある者を接種対象者から除外すべき注意義務違反
4 安全のため可能な限りワクチンの力価(量)を減らし、免疫のため必要最少量を規定量と定めるべき注意義務違反、及び規定量以上を誤つて接種することのないよう指示すべき注意義務違反
5 他の予防接種との間隔を充分にとつたうえで予防接種を実施すべき注意義務違反
 右の注意義務違反の過失は、死亡、脳炎等の重大な予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性をもつものであるから、右の過失が存在する場合には、被告国には被害発生につき過失責任があるというべきである。」とする過失責任はこれを認めることはできない。
[6] 従つて、被告国には、民法上の債務不履行責任、または厚生大臣の公権力の行使についての国家賠償法1条の責任は、いずれもこれを認めることはできない。

四 被害児梶山桂子(15の1)及び同河又典子(34の1)に対する賠償責任について、
(1) 被害児梶山桂子(15の1)について、
[7] 昭和36年の予防接種実施要領の改正により混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種が禁止されたから、実施主体の市町村長等が、昭和36年以降において混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して接種計画を立案しこれを実施したときは、かかる注意義務違反は予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有するものであり、事故発生についての過失があつたものと推定するのが相当である。
[8] そこで、被害児梶山桂子(15の1)については、法5条所定の接種、及び法9条所定の接種のうち、実施主体である東京都中野区長は、2種混合ワクチン(生後6か月以下の者に対しては東京都中野区長が実施する法5条所定の接種、生後6か月を超える者に対しては東京都中野区が実施する法9条所定の接種)と種痘(東京都中野区長が実施する法5条所定の接種)の同時接種の計画を立案したものと認められる。そうすると、東京都中野区長は、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施してはならない注意義務に違反して、2種混合ワクチンと種痘の同時接種の計画を立案し、これに基づいて、被害児桂子(15の1)に対し、東京都中野区が実施した法9条所定の本件2種混合ワクチン接種の直後に法5条所定の本件種痘接種を実施したものと認められ、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
[9] 更に、被害児桂子(15の1)は、昭和40年9月8日、東京都中野区立塔ノ山小学校において、本件の接種を受け、本件種痘接種担当医師は、本件種痘接種を行えば本件2種混合ワクチンと同時接種になることを知りながら、混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種をしてはならない注意義務に違反して本件種痘接種を行つたものであるから本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
(2) 被害児河又典子(34の1)について、
[10] 被害児河又典子(34の1)は、本件接種において多圧法により種痘の接種を受け、その接種箇所は2箇であつた。予防接種実施規則は、多圧法の接種数は1箇とし、切皮法の接種数は第1期の種痘にあつては2箇とする旨定めていた。従つて、多圧法により2か所の接種を受けた被害児典子(34の1)は、種痘の規定量の2倍にあたる過量接種を受けたものと推認される。そうすると、被害児典子(34の1)に対し本件接種を行つた接種担当医師は、種痘の規定量に従つた接種を行うべき注意義務に違反して過量接種を行つたもので、本件事故発生についての過失があつたものと認められる。
[11] そうすると、予防接種の実施主体である東京都中野区長は、被告国の機関委任事務の遂行として、また、各接種担当医師は、いずれも公務を委託されてこれに従事する特別公務員の立場にあつたものであるから、被告国は、被害児桂子(15の1)及び同典子(34の1)に対し、いずれも国家賠償法1条1項による賠償責任が認められる。

五 損失補償責任について、
[12] 被告国は、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防し、公衆衛生の向上と増進に寄与するとの公益目的実現のため、各種予防接種につき、法により罰則を設けてその接種を国民に強制し、あるいは各地方公共団体に対し、国民に接種を勧奨するよう行政指導をして各種予防接種を実施していたものである。被告国のかかる公益目的実現のための行為によつて、各被害児の両親は、各被害児に本件各接種を受けさせることを法律によつて強制されあるいは心理的に強制された状況下におかれ、その結果、各被害児は本件各接種を受け、そのため死亡しあるいは重篤な後遺障害を有するに至つたものであり、このことにより、各被害児及びその両親は、予防接種に通常随伴して発生する精神的身体的苦痛を超え、それらを著しく逸脱した犠牲を強いられる結果となつた。他方、本件における各被害児及びその両親の蒙つた特別の犠牲に対し、その余の一般的国民は、予防接種の結果、幸にして、各被害児らのような不幸な結果を招来することなく、また各予防接種によつて伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防され、よつて、予防接種法が目的としている国民一般の公衆衛生の向上及び増進による社会的利益を享受しているのである。
[13] そうだとすると、本件においては、各予防接種の結果蒙つた各被害児及びその両親らの特別の犠牲は、予防接種を行うという国民全体の利益のために、やむを得ない犠牲であると解すべきか、はたまた、本件における各被害児及びその両親らの蒙つた具体的な、いわば個人の特別の犠牲は、国民全体の負担において、これを償うべきものと解すべきかの一つの政策の問題に帰着するということができる。
[14] そこで、憲法13条、25条の諸規定の趣旨に照らして、本件について検討してみると、いわゆる強制接種は、予防接種法第1条に規定するように、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防するために実施し、それは、集団防衛、社会防衛のためになされるものである。そして、いわゆる予防接種は、一般的には安全といえるが、深く稀にではあるが不可避的に死亡その他重篤な副反応を生ずることがあることが統計的に明らかにされている。しかし、それにもかかわらず公共の福祉を優先させ、たとえ個人の意思に反してでも一定の場合には、これを受けることを強制し、予防接種を義務づけているのである。また、いわゆる勧奨接種についても、被接種者としては、勧奨とはいいながら、接種を受ける受けないについての選択の自由はなく、国の方針で実施される予防接種として受けとめ,国民としては、国の施策に従うことが当然の義務であるとして、いわば心理的、社会的に強制された状況の下で、しかもその実施手続・実態は、いわゆる強制接種となんら変ることのない状況の下で接種を受けているのである。そうだとすると、右の状況下において、各被害児らは、被告国が、国全体の防疫行政の一環として予防接種を実行し、それを更に地方公共団体に実施させ、右公共団体の勧奨によつて実行された予防接種により、接種を受けた者として、全く予測できない、しかしながら予防接種には不可避的に発生する副反応により、死亡その他重篤な身体障害を招来し、その結果、全く通常では考えられない特別の犠牲を強いられたのである。このようにして、一般社会を伝染病から集団的に防衛するためになされた予防接種により、その生命、身体について特別の犠牲を強いられた各被害児及びその両親に対し、右犠牲による損失を、これら個人の者のみの負担に帰せしめてしまうことは、生命・自由・幸福追求権を規定する憲法13条、法の下の平等と差別の禁止を規定する同14条1項、更には、国民の生存権を保障する旨を規定する同25条のそれらの法の精神に反するということができ、そのような事態を等閑視することは到底許されるものではなく、かゝる損失は、本件各被害児らの特別犠牲によつて、一方では利益を受けている国民全体、即ちそれを代表する被告国が負担すべきものと解するのが相当である。そのことは、価値の根元を個人に見出し、個人の尊厳を価値の原点とし、国民すべての自由・生命・幸福追求を大切にしようとする憲法の基本原理に合致するというべきである。
[15] 更に、憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が、社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法29条3項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される(昭和43年11月27日最高裁大法廷判決・刑集22巻12号1402頁、昭和50年3月13日最高裁第1小法廷判決・裁判集民114号343頁、同年4月11日最高裁第2小法廷判決・裁判集民114号519頁参照。)
[16] そして、右憲法13条後段、25条1項の規定の趣旨に照らせば、財産上特別の犠牲が課せられた場合と生命、身体に対し特別の犠牲が課せられた場合とで、後者の方を不利に扱うことが許されるとする合理的理由は全くない。
[17] 従つて、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合においても、右憲法29条3項を類進適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法29条3項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。
[18] そうすると、被告国は、憲法29条3項に基づき、各被害児(但し、原告らは、憲法29条3項に基づく損失補償請求と国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を選択的併合として請求しているので、接種担当者あるいは実施主体について国家賠償法上の過失が認められた被害児梶山桂子(15の1)及び被害児河又典子(34の1)の2名を除く。)及びその両親に対し、これらの者が本件各事故により蒙つた損失について正当な補償をすべき義務を負つているものと認められる。

六 救済制度の法制化について、
[19] 予防接種被害について昭和52年2月25日から実施された新たな救済制度が法制化されているが、右法制化された救済制度は、内容の面からみても、額の面からみても、現在のわが国におけるこの種被害に対する救済としては客観的妥当性を有すると認めることはできない。そうすると、憲法29条3項の類推適用により、本件各事故により損失を蒙つた各被害児及びその両親が、被告国に対し、損失の正当な補償を請求できると解するとすると、救済制度が法制化されていても、かかる救済制度による補償額が正当な補償額に達しない限り、その差額についてなお補償請求をなしうるのは当然のことであると解される。

七 損害・損失の算定について、
[20](1) 個別算定にあたつては、本件にあらわれた一切の事情を勘案し、各被害児について、本件各事故によつて[1]死亡した被害児と[2]生存している被害児とに分け、更に後者の生存している被害児については、症状の軽重により、(イ)日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Aランク生存被害児」という。)(ロ)日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(これを「Bランク生存被害児」という。)(ハ)一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(これを「Cランク生存被害児」という。)とにそれぞれランク分けにする。そして、更に右各被害児らの両親等の各損害または各損失についてそれぞれ算定する。
[21](2) 右のランク付けに従つて、各被害児については、得べかりし利益の喪失、(労働能力の喪失率)、介護費、介助費、慰謝料、それと各被害児の両親等に対する慰謝料を定めた。その大筋は次表のとおりである。
  図1 損害・損失のランク別算定表《略》
[22](3) 弁護士費用については、本件訴訟の規模、立証の難易度その他諸般の事情に照らし、認容額の7.5パーセントにあたる金額をもつて、本件各事故と相当因果関係のある弁護士に支払べき費用と認める。
[23](4) 右の基準によつて算定した金額を基礎にしてライプニツツ式計算法により年5分の割合による中間利息を控除して現価を求める。
[24](5) そして、各被害児について、被告国から受けた給付をそれぞれ損益相殺し、その結果、各原告に認めるべき金額は別紙「原告債権額一覧表」(1)ないし(7)のとおりである。右各金額に対し、本件各訴状送達の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる。
  図2 原告債権額一覧表(1)《略》
  図3 原告債権額一覧表(2)《略》
  図4 原告債権額一覧表(3)《略》
  図5 原告債権額一覧表(4)《略》
  図6 原告債権額一覧表(5)《略》
  図7 原告債権額一覧表(6)《略》
  図8 原告債権額一覧表(7)《略》

■ 目次

凡例
  判   決

当事者
  原告《略》
  原告訴訟代理人《略》
  被告《略》
  被告訴訟代理人《略》

■ 主 文
(別紙) 認容金額一覧表

■ 事 実
第一節 当事者双方の求めた裁判
 第一 請求の趣旨
    請求金額一覧表
 第二 請求の趣旨に対する答弁
第二節 当事者双方の主張
 第一 請求の原因
  一 当事者
  二 事故の発生
  三 因果関係
   1
   2
   3
   4
   5
  四 責任
   1 安全確保義務違反による債務不履行責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   2 厚生大臣の故意または過失による国家賠償法1条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
     (1) 未必の故意
     (2) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (3) 具体的過失
      [1] 実施すべきでない接種を実施させた過失
       (a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失
       (b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失
       (c) 種痘接種を実施させた過失
      [2] 若年接種を実施させた過失
       (a) 種痘の若年接種を実施させた過失
       (b) インフルエンザワクチンの若年接種を実施させた過失
       (c) 百日咳のワクチンの若年接種を実施させた過失
       (d) その余のすべてのワクチンの若年接種を実施させた過失
      [3] 禁忌該当者に接種を実施させた過失
       (a) 禁忌設定不充分の過失
       (b) 禁忌該当者に接種させないための措置不充分の過失
      [4] 過量接種を実施させた過失
       (a) 百日咳ワクチン接種量の定め方を誤つた過失
       (b) 種痘ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (c) ポリオ生ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (d) インフルエンザワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
       (e) 百日咳ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失
      [5] 他の予防接種との間隔を充分にとらないで接種を実施させた過失
       (a) 接種間隔の定め方を誤つた過失
       (b) 複数同時接種の禁止を守らせるための措置不充分の過失
      [6] 接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を実施させた過失
   3 接種担当者の過失による国家賠償法1条あるいは3条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
     (1) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (2) 具体的過失
      [1] 禁忌該当者に接種を行つた過失
      [2] 過量接種を行つた過失
      [3] 混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失
   4 実施主体あるいは、その長の過失による国家賠償法1条あるいは3条の責任
    (一)
    (二)
    (三)
     (1) 推定される過失(過失の立証責任の転換)
     (2) 具体的過失
混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施し、あるいは、かかる接種の遂行を統括した過失
   5 損失補償責任
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
  五 損害ないし損失
    (一) 死亡した各被害児の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
      [1] 過失の得べかりし利益の喪失
      [2] 将来の得べかりし利益の喪失
     (2) 過失の介護費
    (二) 死亡した各被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(三) 日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(Aランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
      [1] 過去の介護費
      [2] 将来の介護費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (四) Aランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(五) 日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(Bランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
      [1] 過去の介助費
      [2] 将来の介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (六) Bランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
(七) 一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(Cランク生存被害児)の損害の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 過去の介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
    (八) Cランク生存被害児の両親の損害の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
  六 相続
  七 結論
(添付)
(1) 原告主張一覧表(一) 吉原充(1の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(2) 右同(二) 白井裕子(2の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(3) 右同(三) 山元寛子(3の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(4) 右同(四) 阪口一美(4の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(5) 右同(五) 沢柳一政(5の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(6) 右同(六) 尾田真由美(6の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(7) 右同(七) 葛野あかね(7の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(8) 右同(八) 布川賢治(8の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(9) 右同(九) 服部和子(9の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(10) 右同(一〇) 依田隆幸(10の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(11) 右同(一一) 伊藤純子(11の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(12) 右同(一二) 田部敦子(12の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(13) 右同(一三) 田中耕一(13の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(14) 右同(一四) 千葉幹子(14の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(15) 右同(一五) 梶山桂子(15の1)
接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失   実施主体あるいはその長の過失
(16) 右同(一六) 佐藤幸一郎(16の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(17) 右同(一七) 渡邊和彦(17の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(18) 右同(一八) 徳永恵子(18の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(19) 右同(一九) 鈴木増己(19の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(20) 右同(二〇) 越智久樹(20の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(21) 右同(二一) 小林浩子(21の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(22) 右同(二二) 上野一樹(22の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(23) 右同(二三) 山本勉(23の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(24) 右同(二四) 井上明子(24の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(25) 右同(二五) 平野直子(25の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(26) 右同(二六) 卜部広明(26の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(27) 右同(二七) 鈴木浅樹(27の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(28) 右同(二八) 小林正樹(28の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(29) 右同(二九) 中川敦子(29の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(30) 右同(三〇) 田渕農英(30の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(31) 右同(三一) 吉川雅美(31の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(32) 右同(三二) 荒川豪彦(32の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(33) 右同(三三) 清水一弘(33の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(34) 右同(三四) 河又典子(34の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(35) 右同(三五) 大沼千香(35の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(36) 右同(三六) 加藤則行(36の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(37) 右同(三七) 藤本美智子(37の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(38) 右同(三八) 中村真弥(38の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(39) 右同(三九) 矢野由美子(39の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(40) 右同(四〇) 高田正明(40の1)
接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失   実施主体あるいはその長の過失
(41) 右同(四一) 福島一公(41の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(42) 右同(四二) 池本智彦(42の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(43) 右同(四三) 猪原泉(43の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(44) 右同(四四) 室崎誠子(44の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(45) 右同(四五) 大川勝生(45の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(46) 右同(四六) 高橋真一(46の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(47) 右同(四七) 塩入信吾(47の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(48) 右同(四八) 小久保隆司(48の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(49) 右同(五〇) 藤井玲子(50の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(50) 右同(五一) 大平茂(51の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(51) 右同(五二) 杉山健二(52の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(52) 右同(五三) 渡邊明人(53の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(53) 右同(五四) 末次展敏(54の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(54) 右同(五五) 高橋尚以(55の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(55) 右同(五六) 古川博史(56の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(56) 右同(五七) 阿部佳訓(57の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(57) 右同(五八) 高橋純子(58の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(58) 右同(五九) 藁科正治(59の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(59) 右同(六〇) 秋田恒希(60の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
(60) 右同(六一) 中井哲也(61の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(61) 右同(六二) 野口恭子(62の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失
(62) 右同(六三) 藤木のぞみ(63の1)
   接種状況等   厚生大臣の具体的過失   接種担当者の具体的過失
損害額一覧表(一) 死亡被害児の損害(1)(2)《略》
右同    (二) 死亡被害児の両親の損害(1)(2)《略》
右同    (三) Aランク生存被害児の損害(1)(2)《略》
右同    (四) Aランク生存被害児の両親の損害(1)~(3)《略》
右同    (五) Bランク生存被害児の損害
右同    (六) Bランク生存被害児の両親の損害
右同    (七) Cランク生存被害児の損害
右同    (八) Cランク生存被害児の両親の損害
 第二 請求の原因事実に対する認否
  一
  二
  三
   1
   2
   3
   4
   5
    (一) 初めから因果関係を否認する各被害児
     (1) 被害児荒井豪彦(32の1)
     (2) 〃清水一弘(33の1)
     (3) 〃大沼千香(35の1)
     (4) 〃中村真弥(38の1)
     (5) 〃大川勝生(45の1)
     (6) 〃小久保隆司(48の1)
     (7) 〃大平茂(51の1)
     (8) 〃高橋尚以(55の1)
     (9) 〃中井哲也(62の1)
    (二) 初め因果関係を認めたが、これを撤回し、否認する各被害児
     (1) 被害児尾田真由美(6の1)
     (2) 〃布川賢治(8の1)
     (3) 〃依田隆幸(10の1)
     (4) 〃伊藤純子(11の1)
     (5) 〃梶山桂子(15の1)
     (6) 〃井上明子(24の1)
  四
   1
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   2
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
     (1)
     (2)
     (3)
     (4)
      [1]
      [2]
       (a)
       (b)
       (c)
      [3]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
      [4]
       (a)
       (b)
      [5]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
       (e)
      [6]
       (a)
       (b)
      [7]
      [8]
       (a)
       (b)
       (c)
       (d)
       (e)
       (f)
   3
    (一)
    (二)
    (三)
     (1)
     (2)
     (3)
      [1]
      [2]
      [3]
      [4]
      [5]
       (a)
       (b)
       (c)
   4
    (一)
    (二)
    (三)
     (1)
     (2)
     (3)
   5
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
  五
  六
 第三 抗弁
  一 違法性阻却事由もしくは責に帰すべからざる事由の存在
  二 時効及び除斥期間
   1 3年の消滅時効(民法724条前段)
    (一)
    (二)
   2 10年の消滅時効(民法167条1項)
   3 20年の除斥期間(民法724条後段)
  三 救済制度の存在
   1
   2(一般的補償請求権の補充性)
   3
  四 損益相殺等
   1
   2
  五 履行の猶予
 第四 抗弁事実に対する認否
  一
  二
   1
    (一)
    (二)
   2
   3
  三
   1
   2
   3
  四
   1
   2
  五
 第五 再抗弁
 第六 再抗弁事実に対する認否
第三節 証拠

■ 理 由
 第一 事実認定に供した書証等の成立等について
    事実認定(証拠)表(一)《略》
 第二 請求の原因事実等について
  一(争いのある事実の認定)
    事実認定表(二)
  二1(争いのない事実)
    事実認定表(三)
   2(認定した事実)
    事実認定(証拠)表(四)《略》
  三1(請求の原因第三項に関する事実)
   2
   3
   4(因果関係を認めるための4つの要件)
   5(一)(因果関係に争いのない被害児47名について)
    (二)(被告が自白の撤回をした被害児6名について)
     (1) 被害児尾田真由美(6の1)
     (2) 〃布川賢治(8の1)
     (3) 〃依田隆幸(10の1)
     (4) 〃伊藤純子(11の1)
     (5) 〃梶山桂子(15の1)
     (6) 〃井上明子(24の1)
    (三)(被告が因果関係を争つた被害児9名について)
     (1) 被害児荒井豪彦(32の1)
     (2) 〃清水一弘(33の1)
     (3) 〃大沼千香(35の1)
     (4) 〃中村真弥(38の1)
     (5) 〃大川勝生(45の1)
     (6) 〃小久保隆司(48の1)
     (7) 〃大平茂(51の1)
     (8) 〃高橋尚以(55の1)
     (9) 〃中井哲也(61の1)
  四1(一)
    (二)
    (三)
    (四)(安全確保義務違反による債務不履行責任)
   2(一)
    (二)
    (三)
    (四)(勧奨接種と行政指導)
    (五)(厚生大臣の故意過失の存在)
     (1)(未必の故意)
     (2)(過失の立証責任の転換)
     (3)(厚生大臣の具体的過失の存否)
      [1] 実施すべきでない接種を実施させた過失について
       (a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失について
       (b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失について
       (c) 種痘接種を実施させた過失について
      [2] 若年接種を実施させた過失について
       (a) 種痘の若年接種を実施させた過失について
       (b) インフルエンザワクチンの若年接種を実施させた過失について
       (c) 百日咳ワクチンの若年接種を実施させた過失について
       (d) その余のすべてのワクチンの若年接種を実施させた過失について
      [3] 禁忌該当者に接種を実施させた過失について
       (a) 禁忌設定不充分の過失について
       (b) 禁忌該当者に接種させないための措置不充分の過失について
      [4] 過量接種を実施させた過失について
       (a) 百日咳ワクチンの接種量の定め方を誤つた過失について
       (b) 種痘の規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (c) ポリオ生ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (d) インフルエンザワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
       (e) 百日咳ワクチンの規定量を守らせるための措置不充分の過失について
      [5] 他の予防接種との間隔を充分にとらないで接種を実施させた過失について
       (a) 接種間隔の定め方を誤つた過失について
       (b) 複数同時接種の禁止を守らせるための措置不充分の過失について
      [6] 接種会場の管理に瑕疵のある状態で接種を実施させた過失について
   3(一)
    (二)
    (三)(接種担当者の過失による国賠法1条あるいは3条の責任)
     (1)(過失の立証責任の転換)
     (2)(具体的過失の存否)
      [1] 禁忌該当者に接種を行つた過失について
       ① 被害児白井裕子(2の1)
       ② 〃沢柳一政(5の1)
       ③ 〃尾田真由美(6の1)
       ④ 〃布川賢治(8の1)
       ⑤ 〃服部和子(9の1)
       ⑥ 〃伊藤純子(11の1)
       ⑦ 〃田部敦子(12の1)
       ⑧ 〃田中耕一(13の1)
       ⑨ 〃梶山桂子(15の1)
       ⑩ 〃佐藤幸一郎(16の1)
       ⑪ 〃渡邊和彦(17の1)
       ⑫ 〃徳永恵子(18の1)
       ⑬ 〃鈴木増己(19の1)
       ⑭ 〃小林浩子(21の1)
       ⑮ 〃上野一樹(22の1)
       ⑯ 〃井上明子(24の1)
       ⑰ 〃中川敦子(29の1)
       ⑱ 〃田渕豊英(30の1)
       ⑲ 〃吉川雅美(31の1)
       ⑳ 〃荒井豪彦(32の1)
       21 〃清水一弘(33の1)
       22 〃河又典子(34の1)
       23 〃大沼千香(35の1)
       24 〃中村真弥(38の1)
       25 〃福島一公(41の1)
       26 〃池本智彦(42の1)
       27 〃猪原泉(43の1)
       28 〃杉山健二(52の1)
       29 〃末次展敏(54の1)
       30 〃藁科正治(59の1)
       31 〃秋田恒希(60の1)
       32 〃藤木のぞみ(63の1)
      [2] 過量接種を行つた過失について
       ① 被害児白井裕子(2の1)
       ② 〃阪口一美(4の1)
       ③ 〃尾田真由美(6の1)
       ④ 〃田部敦子(12の1)
       ⑤ 〃梶山桂子(15の1)
       ⑥ 〃鈴木増己(19の1)
       ⑦ 〃井上明子(24の1)
       ⑧ 〃中川敦子(29の1)
       ⑨ 〃吉川雅美(31の1)
       ⑩ 〃猪原泉(43の1)
       ⑪ 〃杉山健二(52の1)
       ⑫ 〃末次展敏(54の1)
       ⑬ 〃高橋純子(58の1)
       ⑭ 〃藁科正治(59の1)
       ⑮ 〃秋田恒希(60の1)
       ⑯ 〃河又典子(34の1)
      [3] 混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を行つた過失について
         被害児梶山桂子(15の1)について
   4(一)
    (二)
    (三)(実施主体あるいは、その長の過失)
     (1)(過失の立証責任の転換)
     (2)(具体的過失の存否)
       混合ワクチン以外のワクチンの複数同時接種を実施した過失について
         被害児梶山桂子(15の1)について
   5
    (一)(違法性阻却事由)
    (二)(救済制度)
   6(一)
    (二)(勧奨接種)
    (三)(損失補償責任)
    (四)(結論)
   7
    (一)(救済制度)
    (二)
    (三)
  五1
    事実認定(証拠)表(五)《略》
   2(損害算定について考慮すべき事情)
    (一)
    (二)
    (三)
    (四)
    (五)
   3(一)(損害・損失額の算定)
    (二)
   4(一) 死亡した各被害児の損害ないし損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
     (3) 弁護士費用
     (4)(結論)
     死亡被害児の認定損害損失額一覧表(1)(2)《略》
    (二) 死亡した各被害児の両親の損害ないし損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     死亡被害児両親の認定損害損失額一覧表(1)~(3)
(三) 日常生活に全面的介護を必要とする後遺障害を有する各被害児(Aランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介護費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Aランク生存被害児の認定損失額一覧表(1)~(3)《略》
    (四) Aランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Aランク生存被害児両親の認定損失額一覧表(1)~(3)
(五) 日常生活に介助を必要とする後遺障害を有する各被害児(Bランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Bランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》
    (六) Bランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Bランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
(七) 一応他人の介助なしに日常生活を維持することの可能な後遺障害を有する各被害児(Cランク生存被害児)の損失の算定根拠
     (1) 得べかりし利益の喪失
     (2) 介助費
     (3) 慰謝料
     (4) 弁護士費用
     (5)(結論)
     Cランク生存被害児の認定損失額一覧表《略》
    (八) Cランク生存被害児の両親の損失の算定根拠
     (1) 慰謝料
     (2) 弁護士費用
     (3)(結論)
     Cランク生存被害児両親の認定損失額一覧表
   3(梶山桂子(15の1)に対する消滅時効の主張)
   4
    (一)(損益相殺)
    (二)(救済制度)
    (三)(現実給付の控除)
    損害賠償・損失補償債権額一覧表(1)~(7)《略》
   5(履行の猶予の主張)
  六(各人の認容総額について)
   原告債権額一覧表(1)~(7)《略》
 第三 結論

■ 参照条文

■ 凡 例

 本件事件の原告らに関する関係者には、それぞれ固有番号を付して特定する。その方法は、原告らが主張する本件事故による被害児とその家族とで一まとめにし、その家族番号は1番から63番(ただし、49番は、訴の取下のため欠番)とする。そして、被害児とその父、母、兄弟姉妹については、それぞれ枝番号を付して、固有番号として特定する。
 従つて、訴提起前に死亡している被害児及び被害児の父母、または本件の原告であつたが訴訟の係属中に死亡した被害児及び被害児の父母についても、右の原則に依ることとし、特に死亡者の表示はしない。
 右の方法を詳述すると、原告らが主張する本件事故による被害児は枝番号の1、その父親は枝番号の2、その母親は枝番号の3とし、その他をそれぞれ枝番号4、5、……として特定し、呼称する。
 本件における呼称の仕方として、被害児については、原則として、姓を省略して、「被害児」とその名前のみで略称することとし、その父母については、それぞれ「父」「母」とその名前のみで略称し、それぞれの名前の後にカツコ書きで固有番号を付して特定し呼称する。その他の被害児の兄弟姉妹で、原告である者については、適宜氏名と固有番号で、その他の原告でない兄弟姉妹等については、氏名または名前のみで特定し呼称する。
 例えば、原告吉原充(固有番号1の1)は、「被害児充(1の1)」、その父親である原告吉原賢二(固有番号1の2)は、「父賢二(1の2)」、その母親である原告吉原くに子(固有番号1の3)は、「母くに子(1の3)」のように特定し呼称する。
 原告主張一覧表の「接種の状況」欄のうち「生死の別」の欄には、原告らの主張する本件各事故により各被害児が死亡したときはその「死亡した日」を記載し、各被害児が生存しているときは「生」と記載する。


 被告は、別紙「認容金額一覧表」記載の各原告に対し、各原告に対応する同表「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する各原告に対応する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日からそれぞれ支払済みに至るまで各年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
 原告らのその余の請求を棄却する。
 訴訟費用は被告の負担とする。
 この判決は、第一項記載の認容金額につき各3分の1の限度において仮に執行することができる。

(別紙)認容金額一覧表
番号原告の氏名認容金額(円)遅延損害金起算日(昭和年月日)
1の1吉原充5808万767948・6・29
1の2吉原賢二322万500048・6・29
1の3吉原くに子322万500048・6・29
2の2白井哲之1136万876648・6・29
2の3白井扶美子1136万876648・6・29
3の1山元寛子4679万149648・6・29
3の2山元忠雄322万500048・6・29
3の3山元としゑ322万500048・6・29
4の1阪口一美4351万743448・6・29
4の2阪口照夫322万500048・6・29
4の3阪口邦子322万500048・6・29
5の1沢柳一政5765万855248・6・29
5の2沢柳清322万500048・6・29
5の3沢柳富喜子322万500048・6・29
6の2尾田稔1800万763848・6・29
6の3尾田節子1800万763848・6・29
7の1葛野あかね4178万292848・6・29
7の3森山チエ子322万500048・6・29
8の2布川正1674万271548・6・29
8の3布川則子1674万271548・6・29
9の1服部和子4751万944548・6・29
9の2服部勝一郎322万500048・6・29
9の3服部真澄322万500048・6・29
10の1依田隆幸6199万305948・6・29
10の2依田泰三322万500048・6・29
10の3依田時子322万500048・6・29
11の1伊藤純子4557万733048・6・29
11の2伊藤定男322万500048・6・29
11の3伊藤孝子322万500048・6・29
12の1田部敦子4461万784548・6・29
12の2田部芳聖322万500048・6・29
12の3田部チエ子322万500048・6・29
13の1田中耕一1535万642648・6・29
13の2田中隆博107万500048・6・29
13の3田中靖子107万500048・6・29
14の2千葉秀三1208万347348・6・29
14の3千葉節子1208万347348・6・29
15の2梶山健一1650万539448・6・29
15の3梶山喜代子1650万539448・6・29
16の2佐藤茂昭1558万890048・6・29
16の3佐藤千鶴1558万890048・6・29
17の2渡邊孝雄1899万201648・6・29
17の3渡邊豊子1899万201648・6・29
18の1徳永恵子2698万009648・6・29
18の2徳永保春215万000048・6・29
18の3徳永和枝215万000048・6・29
19の2鈴木浅治郎1445万018748・6・29
19の3鈴木節1445万018748・6・29
20の2越智聡1433万522248・6・29
20の3越智静子1433万522248・6・29
21の1小林浩子4297万134548・6・29
21の2小林安夫322万500048・6・29
21の3小林こう322万500048・6・29
22の2上野忠志1395万018748・6・29
22の3上野厚子1395万018748・6・29
23の2山本孝仁1560万956048・6・29
23の3山本京子1560万956048・6・29
24の1井上明子4409万294548・6・29
24の2井上忠明322万500048・6・29
24の3井上たつ322万500048・6・29
25の2平野賢二1239万376648・6・29
25の3平野節子1239万376648・6・29
26の1卜部広明5670万597848・6・29
26の2卜部広太郎322万500048・6・29
26の3卜部せつ子322万500048・6・29
27の1鈴木浅樹6028万812949・1・27
27の2鈴木勲雄322万500049・1・27
27の3鈴木百合子322万500049・1・27
28の1小林正樹5745万523649・1・27
28の2小林春男322万500049・1・27
28の3小林いく子322万500049・1・27
29の1中川敦子2459万649649・1・27
29の2中川正直215万000049・1・27
29の3中川きみ215万000049・1・27
30の2田渕英嗣1220万018749・1・27
30の3田渕美也子1220万018749・1・27
31の1吉川雅美4457万204349・1・27
31の2吉川禎二322万500049・1・27
31の3吉川富美子322万500049・1・27
32の2荒井清1547万401449・1・27
32の3荒井ミツイ1547万401449・1・27
33の1清水一弘6059万230249・1・27
33の2清水一男322万500049・1・27
33の3清水弘子322万500049・1・27
34の2河又弘寿1417万794149・1・27
34の3河又正子1417万794149・1・27
35の2大沼満1239万376649・1・27
35の3大沼勝世1239万376649・1・27
36の1加藤則行5835万666949・1・27
36の2加藤久雄322万500049・1・27
36の3加藤かつ子322万500049・1・27
37の1藤本美智子2592万119649・1・27
37の2竹沢潔215万000049・1・27
37の3竹沢昌子215万000049・1・27
38の1中村真弥5746万282949・1・27
38の2中村巌322万500049・1・27
38の3中村真知子322万500049・1・27
39の2矢野悟1769万110149・1・27
39の3矢野ルリ子1769万110149・1・27
40の1高田正明5707万302949・1・27
40の2高田清作322万500049・1・27
40の3高田敏子322万500049・1・27
41の1福島一公5947万991949・1・27
41の2福島喜久雄322万500049・1・27
41の3福島豊子322万500049・1・27
42の1池本智彦2042万379649・1・27
42の2池本和能107万500049・1・27
42の3池本愛子107万500049・1・27
43の2猪原正和1235万728449・1・27
43の3猪原松枝1235万728449・1・27
44の1室崎誠子3953万884749・1・27
44の2室崎誠322万500049・1・27
44の3室崎富惠322万500049・1・27
45の2大川勝三郎2489万897949・1・27
45の3大川たつゑ2489万897949・1・27
46の2高橋恒夫1395万018749・1・27
46の3高橋ちづ子1395万018749・1・27
47の2塩入恒男1395万018749・1・27
47の3塩入万佐子1395万018749・1・27
48の2小久保皓司1430万018749・1・27
48の3小久保笑子1430万018749・1・27
50の1藤井玲子4236万942649・1・27
50の2藤井俊介322万500049・1・27
50の3藤井孝子322万500049・1・27
51の2大平正1380万018749・1・27
51の3大平康子1380万018749・1・27
52の2杉山末男1220万018749・12・13
52の3杉山きみ子1220万018749・12・13
53の1渡邊明人5544万738649・12・13
53の2渡邊真美322万500049・12・13
53の3渡邊美都子322万500049・12・13
54の2末次芳雄1445万018749・12・13
54の3末次貞子1445万018749・12・13
55の1高橋尚以7659万434549・12・13
55の2高橋邦夫322万500049・12・13
55の3高橋昭子322万500049・12・13
56の1古川博史5470万470249・12・13
56の2古川治雄322万500049・12・13
56の3古川イツヱ322万500049・12・13
57の3阿部クニ2092万528149・12・13
57の4阿部恭子348万754649・12・13
57の5阿部光敏348万754649・12・13
58の1高橋純子4573万849549・12・13
58の2高橋正夫322万500049・12・13
58の3高橋幸子322万500049・12・13
59の1藁科正治5393万602850・10・4
59の2藁科勝治322万500050・10・4
59の3藁科雅子322万500050・10・4
60の1秋田恒希5961万716150・10・4
60の2秋田恒延322万500050・10・4
60の3秋田令子322万500050・10・4
61の1中井哲也5724万861350・10・4
61の2中井浩322万500050・10・4
61の3中井郁子322万500050・10・4
62の1野口恭子4106万693647・5・11
62の2野口正行322万500047・5・11
62の3野口賀寿代322万500047・5・11
63の1藤木のぞみ2660万843357・1・28
63の2藤木秀215万000057・1・28
63の3藤木トモコ215万000057・1・28
合計26億9616万4383


[1] 請求の原因第一項(当事者)の事実中、原告主張一覧表の各「接種の状況」欄記載の事実のうち当事者間に争いのある事実については、以下「事実認定表」(二)のとおり各証拠により認定し、その余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

事実認定表(二)
原告主張一覧表番号争いのある事実につき認定した事実認定に供した証拠〈略〉
(一)(1)「接種場所」は東海村母子保健センターである。
  (2)「接種担当者」は看護婦である。
(三)「実施主体」は磐田市である。
(一四)「実施主体」は迫町である。
(一五)「ワクチンの種類」欄記載の1百日咳・ジフテリア二種混合ワクチンの「実施主体」は東京都中野区である。
(一七)「接種担当者」は保健婦である。
(一八)(1)「接種の性質」は昭和45年法律第111号による改正前の予防接種法6条の2、10条1項1号所定の第1期定期接種である。
   (2)「実施主体」は医療法人柏提会である。
(二〇)「接種担当者」は看護婦または保健婦である。
(二三)「実施主体」は室蘭市である。
(二七)「実施主体」は東京都世田谷区である。
(二八)「実施場所」は東京都北区立滝野川第四小学校である。
(三五)「接種担当者」は保健婦である。
(三九)「実施主体」は苅田町である。
(四〇)「実施主体」は東京都である。
(四四)「実施主体」は浜田市である。
(四五)「接種の性質」は尾鷲市の勧奨による接種である。昭和48年(ワ)第4793号外事件〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和43年度の日本脳炎ワクチンの勧奨接種の実施につき各都道府県知事宛に「昭和43年度における日本脳炎予防特別対策について」と題する通知を発しているところ、同通知によれば、日本脳炎予防特別対策の実施対象は日本脳炎多発地域の生後6か月から15歳までの乳幼児及び小中学校児童並びに満55歳から64歳までの高齢者を重点対象とするとあり、被害児勝生(45の1)は本件接種当時17歳8か月で右重点対象には該当していない。しかしながら、右通知によれば、右特別対策のほか日本脳炎の一般防疫対策については、昭和32年7月18日衛発第592号通知「日本脳炎の予防対策について」を参考として実施されたいとあり、同通知には、日本脳炎の予防接種について、感受性対策として積極的に予防接種を受け免疫性を得ておくことは、本病予防対策の一環として重要であるので、勧奨によりその普及に努めることとある(同通知の内容は公知の事実である)。従つて、公衆衛生局長は各都道府県知事に対し、右特別対策の重点実施対象者以外の者についても勧奨接種を実施するよう行政指導を行つたものと認められる。右事実に下に掲げる各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、被害児勝生(45の1)は、右行政指導に基づき尾鷲市が実施した日本脳炎ワクチンの勧奨接種を受けたものと認められる。
(四六)「実施主体」は岡山市である。
(四七)「実施主体」は江原斌雄である。
(五〇)「実施主体」は吹田市である。
(五四)「接種の態様」は集団接種である。被害児末次展敏(54の1)は昭和32年9月26日に接種を受けた種痘が不善感であつたため判定会場において再接種として本件接種を受けたものであり、同会場では不善感の判定を受けた者全員に対する接種を予定していたから、当日接種を受けた者は被害児展敏(54の1)のみであるが、これは個別接種ではなく集団接種と認められる。
(五五)(1)「接種場所」は岩手県釜石市立小佐野小学校保健室である。
   (2)「接種担当者」は看護婦である。

[2]二1 請求の原因第二項(事故の発生)の事実のうち、原告主張一覧表「接種後の状況」欄記載の事実中次表の「事実認定表」(三)記載の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

事実認定表(三)
原告主張一覧表番号「接種後の状況」欄記載の事実のうち争いのない事実
(一)昭和39年11月9日夜、ひきつけ、意識障害を起こし、体温は41.9度にもなつていた。
(二)昭和45年3月18日、熱が39度2分にも上がり、同月27日、けいれん発作を生じ、同月28日昼死亡するに至つた。
(三)昭和42年3月15日、39度の発熱があり、翌16日けいれんを起こし浜松聖隷病院に入院した。
(四)昭和39年4月29日、けいれんを起こし、その後奈良県立医科大学付属病院に入院した。
(五)昭和38年6月18日、発熱し、同月24日、40度の高熱を発し、けいれん発作が始まり、埼玉中央病院に入院した。
(六)接種の翌日から39度の発熱があつた。
(七)昭和38年11月25日、広島大学付属病院小児科へ入院し、種痘後脳炎との診断を受け、治療を受けた。
(八)接種後5日位経た昭和38年9月15日ころ、けいれん発作を起こし、その後けいれん発作が頻発し、昭和44年5月12日、死亡するに至つた。
(九)昭和40年4月22日、発熱、嘔吐、けいれんを起こした。
(一〇)昭和40年12月2日ころ、39度の発熱があり、その後ひきつけを起こした。
(一一)昭和42年10月23日、けいれん発作を頻発し、その後関西医大病院に入院した。
(一二)昭和41年9月23日、発熱、けいれんを起こし、翌昭和42年2月15日以降屡々けいれん発作を繰り返すようになつた。
(一三)接種後2週間後に発熱し、約3日後両下肢に麻痺が生じ、昭和42年11月11日、横浜市民病院に入院し、脊髄性小児麻痺と診断された。
(一四)昭和45年3月18日に38度の発熱があり、同月20日午前6時ころ死亡した。
(一五)接種の翌日から高熱を発した。
(一六)接種直後、悪寒、発熱が始まり、翌昭和35年4月7日午前4時30分死亡するに至つた。
(一七)昭和33年10月15日、発熱し、同月17日、住友病院において種痘後脳炎と診断を受け、同日から同病院に入院し治療を受けた。
(一八)昭和41年4月27日ころから高熱を発し、高熱は約5日間続き、その後難聴となつた。
(一九)昭和31年12月15日発症し、昭和32年2月6日死亡するに至つた。
(二〇)昭和41年11月8日夜、けいれん発作を起こし、39度の発熱があり、同月13日死亡するに至つた。
(二一)昭和33年5月23日、発熱、けいれん発作があり、直ちに下谷病院小児科に入院し、種痘後脳炎と診断された。
(二二)昭和43年2月27日発熱し、翌々日の同月29日死亡するに至つた。
(二三)昭和41年12月20日ころから発熱があり、同月29日昏睡状態に陥り、同月31日死亡するに至つた。
(二四)昭和43年6月8日発熱し、けいれん発作が起きた。
(二五)昭和36年4月3日ころ39度の高熱を発し、同月6日死亡した。
(二六)昭和40年7月7日全身性のけいれんを起こした。
(二七)昭和44年9月23日ひきつけを起こし、その後東京女子医科大学病院小児科等で治療を受けた。
(二八)昭和39年5月21日ころ意識障害を起こし、日本医科大学附属病院に入院した。
(二九)昭和36年3月5日千葉大学医学部附属病院に入院し治療を受けた。
(三〇)昭和48年7月1日ひきつけ、発熱を起こし、同月7日東京都立荏原病院において死亡した。
(三一)昭和44年12月13日高熱のため意識不明となり、同月16日昭和大学病院小児科に入院した。
(三二)昭和42年11月16日けいれん発作を起こし、その後昭和大学病院小児科で治療を受けたが、昭和48年11月13日死亡するに至つた。
(三三)昭和40年6月7日発熱、けいれん発作を起こし、同月26日以降東京大学医学部附属病院小児科において治療を受けるようになつた。
(三四)昭和46年10月28日ひきつけを起こし、いわき市立総合磐城共立病院において治療を受けた。
(三五)昭和39年12月20日死亡した。
(三六)昭和39年3月14日発熱、ひきつけを起こし、その後名古屋市立大学病院小児科に入院し治療を受けた。
(三七)昭和36年8月3日大阪大学医学部附属病院小児科に入院した。
(三八)昭和45年10月21日よりけいれんを起こし、同月22日大阪市立十三市民病院に入院し、同月24日大阪市立桃山病院に転院した。
(三九)昭和33年10月15日けいれんを起こし、国立小倉病院に入院し治療を受けたが、昭和45年8月20日死亡した。
(四〇)昭和37年12月14日発熱、けいれんを起こし、昭和38年1月21日から同年8月8日まで東京都立大塚病院小児科に入院し治療を受けた。
(四一)昭和45年5月26日ひきつけを起こし意識不明となり、東京女子医科大学第二病院小児科において呼吸困難、けいれんを起こし、種痘後脳炎と診断され治療を受けた。
(四二)両下肢弛緩性麻痺が現われ、岡山大学医学部附属病院小児科において急性灰白髄炎と診断された。
(四三)昭和35年4月発熱、けいれんを起こした。
(四四)昭和34年11月17日浜田市内の斉藤医院に入院した。
(四六)昭和47年6月30日から発熱し、同年7月4日国立岡山病院において死亡した。
(四七)昭和43年4月8日けいれんを起こし、同日西宮回生病院において死亡した。
(四八)昭和38年6月14日東京都立大塚病院において死亡した。
(五〇)昭和37年12月4日夜から発熱、けいれん発作を起こし吹田市民病院に入院した。
(五一)昭和38年3月23日発熱、嘔吐があり、同月24日にはひきつけ、けいれんを起こし、同年4月7日死亡した。
(五二)昭和48年6月24日夕発熱し、夜にはけいれんを起こし、宮坂病院に入院したが同月26日死亡した。
(五三)けいれん発作が起こつた。
(五四)昭和33年10月8日発熱、吐乳し、同月19日死亡した。
(五五)昭和44年11月13日の夕方には発熱があり、同月16日になり熱が40度に上がり、同月19日けいれんが始まり、意識不明に陥り、同月20日岩手医大病院へ転院したが、常時介護を要する重度の心身障害児となつてしまつた。
(五六)昭和27年10月27日けいれんを起こした。
(五七)昭和44年4月14日死亡するに至つた。
(五八)けいれん発作を起こした。
(五九)昭和48年11月20日の夕方嘔吐、けいれん発作が起こり、けいれんは止まらず、静岡済生会病院に入院した。
(六〇)昭和49年4月28日から発熱し、同月30日にはけいれん発作を起こしてこん睡状態となり、同年5月2日静岡済生会病院に入院小児科に入室して種痘後脳症と診断された。
(六一)昭和37年11月22日発熱し、その後嘔吐を起こし、東京医科大学病院に入院し治療を受けた。
(六三)接種後に発熱し、その後全身に脱力状態が現われた。

[3] 前掲の争いのない事実及び以下に掲げる「事実認定(証拠)表」(四)に記載の各証拠を総合すれば、各被害児は、原告主張一覧表「接種後の状況」及び「現在の症状」欄、各記載のとおり、本件各接種(インフルエンザワクチン、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風3種混合ワクチン等のうち、1種類または2種類の接種)を受けた後、死亡し、あるいは重篤な後遺障害を有するに至つた各事実が認められる。

事実認定(証拠)表(四)《略》

[4]三1 請求の原因第三項(因果関係)1の事実中、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こる事実及びインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こる事実を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

[5] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、西ドイツ、マツクス・プランク脳研究所クリユツケ教授の論文(甲第160号証)が、ポリオ生ワクチン接種後12日から25日を経て、全過程20ないし60日で死亡した6剖検例の神経病理学が、いずれも遅延型アレルギー反応の神経障害を明示していることについて記述していること、埼玉医科大学精神科の皆川正男らの論文(甲第162号証)が、ポリオ生ワクチン接種後約7日後に急性脳症を呈し半球萎縮を残した剖検例が存在することについて記述していること、がそれぞれ認められる。
[6] 〈証拠略〉によれば、昭和36年のポリオ生ワクチン使用を契機として翌37年に結成されたポリオ監視委員会がポリオ生ワクチンの調査(サーベイランス)として副反応の臨床分類をした結果、昭和37年から昭和49年までの間にC型(ポリオとは考えにくい症例。臨床的に外傷、脳腫瘍、脳血管障害、脳炎、脳症小児麻痺などと診断されるもの、麻痺を伴わないものなどが含まれる。ただし、厳密な意味ではポリオウイルス感染症を否定できない。)に分類された症例が、101件その割合は14.3パーセントに達したことが認められる。
[7] 〈証拠略〉によれば、予防接種リサーチセンターの副反応研究班が集計したわが国のポリオ生ワクチン接種後に生じた副反応の報告例の中には,接種後1か月以内に30例の脳炎、脳症の発生が報告されていること、2種混合ワクチン、3種混合ワクチン、インフルエンザワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況は、2種混合ワクチン、3種混合ワクチンでは接種後4日以降、インフルエンザワクチンでは接種後11日以降は、何ら脳炎、脳症が発生しておらず、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況は、これらのワクチン接種後の脳炎、脳症の発生状況とは異なつていること、が認められ、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生がポリオ生ワクチン接種とは無関係な偶発的なものにすぎないとは言い難いことが認められる。
[8] 〈証拠略〉によれば、ポリオに感染した場合の病型として脳炎型があること、昭和30年から昭和35年までの間に東京大学医学部小児科において扱つたポリオ患者のうち8名、2.5パーセントが脳炎型を示したこと、が認められる。
[9] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こる機序について以下のとおり説明され得ることが認められる。即ち、急性脳症を起こす典型例に疫痢に罹患した場合があるが、この場合は赤痢菌が腸内に感染して腸壁で増殖する時にヒスタミンあるいはヒスタミン様の物質を産出し、この物質が脳の血管の拡張、収縮をもたらし急性脳症を惹起するものであると説明されている。また、ヒスタミンを幼若犬の頸動脈に注入した結果、脳に血管けいれんが起き、そのために脳の神経細胞が破壊されたという実験結果が報告されている。そして、ワクチン接種によつて肥伴細胞の免疫抗体(IgE)にワクチンが働き、そこからヒスタミンが放出されるということも明らかにされている。従つて、ポリオ生ワクチン接種により、疫痢の場合と同様に腸壁でヒスタミン様物質が産出され、あるいは肥伴細胞からヒスタミンが放出され、かかる物質が脳血管のけいれんを導き急性脳症を惹起するという仮説を立てることが可能である。更に、ポリオ生ワクチンは、猿の腎臓細胞にウイルスを培養して製造されたものであるから、ウイルスと腎細胞との間で有害物質が産出される可能性もあり、ワクチンに培地、培養細胞、臓器由来の有害物質が入ることを防ぐことはできず、また、ワクチンにはチメロサール等の保存剤等が添加されており、これらの物質が急性脳症やあるいは遅延型アレルギー反応を起こすことも考えられる。
[10] 以上認定の諸事実を総合すれば、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こり得ることにつき経験則上高度の蓋然性があると認められる。
[11] 右認定に反する証人木村三生夫の証言(第1、2回)は以下のとおりの理由によつて採用しない。
[12] 木村三生夫証人は、ポリオ生ワクチン接種の副反応として脳炎、脳症が起こらない根拠として、第一にポリオが流行した時代にポリオ脳炎と呼ばれる症例がごく稀に存在したが、かかる症例がポリオウイルスによつて起こつたか否かについてはポリオウイルスが分離されておらず不明であること、第二にポリオウイルスに脳炎を起こす性質がごく稀にあつたとしてもポリオ生ワクチンは猿の脳の中に注射をして異常のなかつたものが検定に合格しているのであるから、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎を起こす例はもつと少なくなるはずであること、第三に幼児には原因不明による脳炎、脳症が起こるから、ワクチンと脳炎、脳症との間の因果関係を肯定するためには、ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生率が原因不明による脳炎、脳症の発生率を越えた疫学的な有意差を持つたものでなければならないが、ポリオ生ワクチン接種後の脳炎、脳症の発生にはかかる有意差が認められないこと、第四にポリオ生ワクチン接種後に起こつた脳炎、脳症と見られる症例の発生状況を見ても、接種当日から1か月以後まで一様に分布しており、種痘後脳炎のような特定の時期に集積してその脳炎が起こつたということがないこと、第五にポリオ生ワクチンが猿の腎臓で増殖培養して製造されるためワクチン中に猿の腎臓という異種たん白を含んでいるとしても、日常異種たん白である卵や肉を食べても脳炎や脳症が起こることはないのであるから、経口投与されたポリオ生ワクチンに含まれる異種たん白が脳炎、脳症を起こすとは考えられないこと、第六にクリユツケの論文(甲第160号証)、皆川正男らの論文(甲第162号証)は、いずれもポリオ生ワクチン接種後に見られた脳炎、脳症がポリオ生ワクチン接種のウイルス感染によつて起こつたものであることを明らかにしているものではないこと、等があげられる旨証言する。
[13] しかしながら、第一の点については、証人白木博次の証言によれば、遅延型アレルギー反応はウイルス自体が脳に行かなくてもウイルスが引金となりウイルス以外のあるいはウイルスによつて作られた他の何かによつて起こり得るものであり、ウイルスが分離されなければウイルスと脳炎との因果関係は認められないというものではないことが、第二の点については、証人白木博次の証言によれば、ポリオ生ワクチンはある程度ポリオウイルスと同じような変化を生体に生ぜしめるものでなければ免疫抗体を作ることができないから、猿の脊髄にポリオ生ワクチンを注射した場合脊髄に軽い炎症を起こすものでなければ検定に合格しえないことが、第三の点については、証人白木博次の証言によれば、副反応の3つの型である急性脳症、ウイルス血症、アレルギー性脳炎のそれぞれによつて潜伏期が異なるということを考慮したうえ調査が行われているか否か疑問であり、ポリオの調査(サーベイランス)に当つて急性脳症系の潜伏期が7日以上のものが切捨てられ、疫学的統計の中で原因不明の脳症として処理されている可能性があること、調査方法自体が被接種者全員について副反応の発生の有無につき追跡調査を行うという方法ではなく、正確な統計とは言い難いこと、副反応の発生には個体側の条件が非常に重要であり、個体差を無視した統計学的処理は医学的に正しいものではないことが、第四の点については、右のとおり集積性判断のための資料の正確性に疑問があるうえ、木村三生夫証人が証言している集積性の判断のために使用している資料は、〈証拠略〉によれば30例にすぎずそこから集積性についての正確な判断ができるかどうかにも疑問があり、右の症例30例について見れば、脳炎、脳症がポリオ生ワクチン接種後1日から11日以内に集積性を持つて発生したものと認めることもできることが、第五の点については、証人白木博次の証言によれば、異種たん白である魚や卵を食べた場合にアレルギー性反応を起こすことはよく知られており、またポリオ生ワクチンの接種は生きたウイルスを含んでいるから赤痢菌が腸壁でヒスタミン物質を作ると同様にポリオウイルスが腸においてヒスタミンを作る可能性もあり、単なる食事と同列に扱うことができないことが、また、〈証拠略〉によれば、ポリオ生ワクチンの製造過程に用いられる物質に対するアレルギー症状として、サルアレルギー及び絹アレルギーの症例報告があることが、第六の点については、証人白木博次の証言によれば、ウイルスが脳に行かなければアレルギー性脳炎が起こらないという考えは否定されており、クリユツケ論文は慎重な記載ではあるがポリオ生ワクチン接種とアレルギー性脳炎の因果関係を肯定しているものと言えることが、それぞれ認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫のポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症は起こらないとの証言は採用しないこととする。

[14] 請求の原因第三項(因果関係)3の事実中、アメリカ合衆国において昭和51年(1976年)10月1日から同年12月16日の間に行われたAニユージヤージー型インフルエンザワクチンの接種によつてギラン・バレー症候群の多発が認められた事実は当事者間に争いがない。
[15] 証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、クリユツケの論文(甲第169号証)がインフルエンザ様症状の自然感染によつてアレルギー性脳炎が起こつた剖検例が存在することについて記述していること、インフルエンザワクチンの接種はインフルエンザの自然感染に似たようなものであつて、毒性のないウイルスが感染するだけであり、インフルエンザワクチンに含まれるウイルスは不活化されてはいるがウイルスの化学的物質は残つていること、アレルギー性機構があつた場合に遅延型アレルギー反応が末梢神経に現われれば多発性神経炎に、脳に現われれば脳炎になるのであるから、Aニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種により末梢神経の遅延型アレルギー反応である多発性神経炎(ギランバレー症候群)が起こる以上、同じ発生機序によりインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が発生することが充分考えられること、がそれぞれ認められる。
[16] 以上の事実を総合すれば、インフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こり得ることにつき経験則上高度の蓋然性があると認められる。
[17] 右認定に反する証人木村三生夫の証言(第2回)は以下のとおりの理由によつて採用しない。
[18] 木村三生夫証人(第2回)は、インフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こるとは考え難い根拠として、第一にインフルエンザワクチンには狂犬病ワクチンや日本脳炎ワクチンと違い神経性組織が含まれていないこと、第二にインフルエンザワクチンは非常に多数の者に対して接種が行われているが、アレルギー性脳炎と考えられる症例数は偶発的に起こるアレルギー性脳炎の発生頻度を超えているとは認められないこと、第三にアメリカ合衆国においてAニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種によつてギランバレー症候群が多発したことの発生機序がよくわかつておらず、同ワクチン接種によつてアレルギー性脳脊髄炎は起こつていないこと、第四にインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎やギランバレー症候群が起こつたということは明らかでなく偶発性のものかどうか不明であること、等があげられる旨証言する。
[19] しかしながら、第一の点については、証人白木博次の証言によれば、インフルエンザワクチンは鶏卵培養するため卵たん白が含まれており、これがアレルギー反応を起こすことが考えられること、第二の点については、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、わが国におけるインフルエンザワクチンによるアレルギー性副反応については現在調査中であることが認められ、インフルエンザワクチン接種後のアレルギー性脳炎の発生頻度が正確に把握できていない以上これと偶発的アレルギー性脳炎の発生頻度を比較することはできないこと、第三及び第四の点については、前記のとおり証人白木博次の証言により、Aニユージヤージー型インフルエンザワクチン接種によるギランバレー症候群の発生という事実からインフルエンザワクチン接種によるアレルギー性脳炎の発生を肯定することに合理性があること、がそれぞれ認められ、これらの事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫(第2回)のインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳炎が起こるとは考え難いとの証言は採用しないこととする。

[20] 証人白木博次の証言によれば、ワクチン接種とその後に発生した疾病との因果関係を肯定するための要件としては、次の4つの要件をあげるのが合理的であると証言している。
[21] 即ち、
「1 ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること。
 時間的密接性とは、発症までの時間(潜伏期)が一定の合理的期間内におさまつていることを意味するが、ワクチンによる神経性障害の3つの型(急性脳症型、ウイルス血症型、遅延型アレルギー反応型)により異なり、更に被接種者の個体差があるため一定の時間を頂点に自然曲線をえがき、従つて長短一定の幅があることが認識されなければならない。更に免疫学と神経病理学の双方の総合考慮やワクチンの接種が経口であるか、皮下接種であるか、皮内接種であるか、も潜伏期間を考慮する上で必要である。以上のような時間的密接性はまた、脳、せきずい、末梢神経等のうちどの部位が侵されるかによつても変わるのである(空間的密接性)。
2 他に原因となるべきものが考えられないこと
 これは、他の原因が、一般的抽象的に考えうるというのでは足りず、具体的に存在したことが明らかであり、かつその原因と障害との間の因果の関係も明らかとなつているものでなければならない。
3 副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。
 この要件は、1、2の要件程に重要ではないが、従前全く見られなかつた症状が強烈にあらわれるということである。
4 事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。
 これは、事故発生のメカニズムについての知見が既存の科学的知見と整合し、それらによつて説明されうるということである。」
の4要件である。
[22] もつとも、右の要件について、被告である国は、右の要件は因果関係の存否の判断のための基準としては有用性に乏しく、専ら本件訴訟における患者の救済の必要性にのみ視点を置いた立論であると主張し、その理由として、
「一般的に、医療行為と結果発生(障害)との因果関係については、訴訟上の立証の程度としては、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるとされている。ここでいう高度の蓋然性の証明は、一般論としての結果発生の蓋然性と具体的事例における結果発生の蓋然性の2つが求められていると考えるべきである。ところで、通常、予防接種後の神経系疾患の臨床症状や病理学的所見は、予防接種以外の原因による疾患のそれと異るものではないため(非特異性)、具体的に発生した疾患が予防接種によるものであるか、あるいは他に原因があるかを的確に判定することは困難である。特に、脳炎・脳症においては、もともと原因不明なものが全体の60パーセントないし70パーセントを占めており、その判定は、より困難である。そこで、一般論として、あるワクチン接種によつて、ある疾病(本件訴訟に即していえば、脳炎・脳症)が起こり得るというためには、接種から一定の期間内に発生した疾病が、それ以外の期間における発生数よりも統計上有意に高いことを示す信頼できるデータが存在し、かつ、当該予防接種によつて、そのような疾病が発生し得ることについて、医学上、合理的な根拠に基づいて説明できること、を要件とすべきである。次に、現実に発生した疾病が、接種したワクチンによつて起こつたとするためには、接種から発症までの期間が、好発時期、あるいはそれに近接した時期と考えられる中に入り、かつ、少なくとも他の原因による疾病と考えるよりは、ワクチン接種によるものと考える方が、妥当性があること、を要件とすべきである」
と主張する。
[23] 証人木村三生夫(第2回)は、ワクチン接種とその後に発生した疾病との因果関係を肯定するためには、ワクチン接種後特定の時期に特定の疾病が当該疾病の通常の発生率を超えた頻度で発生することが必要である旨証言する。
[24] しかしながら、同人の証言によつても、わが国においてワクチン接種後の疾病発生状況について正確な調査が行われているとは言えず(当裁判所は右の調査の義務は被告国が負うべきものと考える。)、当該疾病の通常の発生率とワクチン接種後の発生率を比較するということが理論的には可能であつても、実際の統計値として有意の差になつて現われるとは言い難いことが認められ、これを因果関係の判断基準としてあげることは適当でない。
[25] そして、被告国が主張する要件の1及び4は原告らが主張し、証人白木博次が証言する要件の3と、被告国が主張する要件の2は原告らが主張し、前記同証人が証言する要件4と、更に被告国が主張する要件3は、原告らが主張し、同証人が証言する要件1に対応して考えることができる。
[26] そこで検討するに、本件でのワクチン接種と重篤な副反応との因果関係の存否を判断する基準というのは、訴訟上は、結局のところ、裁判所の事実認定の問題として、右の因果関係があるといえるかどうかの問題ということができる。
[27] ところで、右の観点から、本件における因果関係の存否の問題について、原被告双方共、科学(医学)上の証明として論理必然的証明への努力をなしており、双方共にわが国医学界の最高峰に在る証人の証言によつてこれを立証しようとしていることが認められる。しかしながら、訴訟上におけるその証明は科学的証明とは異なり、科学上の可能性がある限り、他の事情と相俟つて因果関係を認めても支障はなく、またその程度の立証でよいというべきである。
[28] そこで、当裁判所としては、原告被告双方の主張並びにその立証活動を比較検討した結果、本件においては、被告の主張も考慮に入れたうえで、原告主張の4つの要件の存在をもつて、因果関係存否の判断基準とすることが合理的であると認め、以下、右の基準に従つて判断する。

[29]5(一) 請求の原因第三項(因果関係)5の事実中、本件各事故のうち被害児吉原充(1の1)、同白井裕子(2の1)、同山元寛子(3の1)、同阪口一美(4の1)、同沢柳一政(5の1)、同葛野あかね(7の1)、同服部和子(9の1)、同田部敦子(12の1)、同田中耕一(13の1)、同千葉幹子(14の1)、同佐藤幸一郎(16の1)、同渡邊和彦(17の1)、同徳永恵子(18の1)、同鈴木増己(19の1)、同越智久樹(20の1)、同小林浩子(21の1)、同上野一樹(22の1)、同山本勉(23の1)、同平野直子(25の1)、同卜部広明(26の1)、同鈴木浅樹(27の1)、同小林正樹(28の1)、同中川敦子(29の1)、同田渕豊英(30の1)、同吉川雅美(31の1)、同河又典子(34の1)、同加藤則行(36の1)、同藤本美智子(37の1)、同矢野由美子(39の1)、同高田正明(40の1)、同福島一公(41の1)、同池本智彦(42の1)、同猪原泉(43の1)、同室崎誠子(44の1)、同高橋真一(46の1)、同塩入信吾(47の1)、同藤井玲子(50の1)、同杉山健二(52の1)、同渡邊明人(53の1)、同末次展敏(54の1)、同古川博史(56の1)、同阿部佳訓(57の1)、同高橋純子(58の1)、同藁科正治(59の1)、同秋田恒希(60の1)、同野口恭子(62の1)、同藤木のぞみ(63の1)に関するものが本件各接種に起因するものである事実は、当事者間に争いがない。
[30](二) 本件各事故のうち被害児尾田真由美(6の1)、同布川賢治(8の1)、同依田隆幸(10の1)、同伊藤純子(11の1)、同梶山桂子(15の1)、同井上明子(24の1)に関するものが本件各接種に起因するものであるとの事実につき、被告国は初めにこの事実を自白したが、その後徹回を主張するので、右自白の徹回が許されるか否かについて判断する。
[31] 自白の徹回が許されるためには、自白の内容が真実に反し、かつ錯誤に基づくものであることが必要であると解されるので、まず右自白が真実に反するものであるか否かについて、右各被害児について順次判断することとする。
(1) 被害児尾田真由美(6の1)について
[32] 前記二で認定した原告主張一覧表(六)の「接種後の状況」欄記載の事実(〈証拠略〉)によれば、被害児真由美(6の1)が本件接種後2週間目位に最初のけいれん発作を起こし、生後6か月過ぎころからけいれんが段々激しくなり、発作の回数も増えて行つた事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児真由美(6の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、右眼斜視や小発作の発現は脳幹部が損傷を受けたことによるものと考えられ、その原因としては、アレルギー性脳炎が想定されること、右発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後14日目ころの発症であり、種痘接種による遅延型アレルギー性脳炎の潜伏期に充分該当すること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、一旦損傷を受けた脳幹部はその後発育せず、脳の他の部位が発育するにつれて不均衡が生じ、その結果発作の形態が変化し、点頭てんかんが起きるようになり、その重積発作により同児は死亡するに至つたということが充分説明可能であること、同児は本件接種前にけいれん発作を起こしたことはなく、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的には考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであり、なおまた死亡するに至つていること、種痘接種によりアレルギー性脳炎が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[33] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[34] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件接種後の臨床症状には脳症や脳炎の発症を認めるに足るだけのものはなく、また、種痘接種後にてんかんが集積性を持つて有意な差で発現したという報告例もないから、同児の本件事故が本件接種に起因するものとは認められない旨証言する。
[35] しかしながら、同証人の右証言は、同児の本件接種後の症状経過につき、もつぱら〈証拠略〉の入院カルテにのみ基づき判断し、同児の母節子(6の3)本人尋問の結果(第1、2回)には基づかないものであり、同証人の右証言によつても、最初の発作の後ですぐ斜視が出現したとすれば本件接種と因果関係がある脳障害が存在したことを肯定しているものであつて、以上によれば、当裁判所としては、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[36] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(2) 被害児布川賢治(8の1)について
[37] 前記二で認定した原告主張一覧表(八)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児賢治(8の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、同児の症状はアレルギー性脳炎によりけいれん発作の後遺症が生じ、その大発作重積による心臓麻痺により死亡した典型例と認められること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後5日目であり、脳の狭い部位に病巣が生ずれば早く症状が出現するから、本件接種後5日目の発症は種痘接種によるアレルギー性脳炎の潜伏期の範囲内に充分入つていること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は鉗子分娩により出生しているが、仮死出産ではないから出産の際に脳に損傷を受けたとは考えられず、その後の成長は本件接種を受けるまで順調であつたから、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであり、なおまた死亡するに至つていること、種痘接種によりアレルギー性脳炎が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[38] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[39] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故が本件接種に起因するものとは言い難い旨証言し、その根拠として、同児が本件接種により善感したかどうか不明であり、善感がない場合は種痘による脳炎、脳症は起こり得ないこと、同児の症状経過に照らしても、発熱がないから同児のけいれんを脳炎、脳症によるものと認めることはできず、本件接種前に脳に障害を持つていたことによると考えるのが妥当であること、本件接種の影響を肯定するとしても,せいぜいかかるてんかん素因を有する同児に対し第1回目のけいれんを誘発した可能性がないとは言えないという程度の影響しかなく、その後のけいれんの頻発とは関係がないと言えること、等をあげる。
[40] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同児が本件接種により善感したことが認められ、また、証人白木博次の証言によれば、善感していない場合でも種痘後脳炎、脳症は起こり得ること、前記のとおり同児の発症は症状経過に照らしアレルギー性脳炎と認められること、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへと拡大発展して行くことが考えられること、が認められ、右に認定した事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[41] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(3) 被害児依田隆幸(10の1)について
[42] 前記二で認定した原告主張一覧表(一〇)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児隆幸(10の1)の発症後の症状経過に照らすと、アレルギー性脳炎が考えられないこともないがどちらかと言えば急性脳症が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後6日ないし7日目の発症であり、急性脳症の潜伏期としては遅い方ではあるが、ワクチンの種類や個人差によつて急性脳症の潜伏期は異なるものであり、本件接種後6日ないし7日目の発症はなおインフルエンザワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に入ると言えること、アレルギー性脳炎の発症と見ても、接種後6日ないし7日目の発症が早過ぎるとは言えないこと、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、肺炎症状がある場合には非常に稀にではあるがインフルエンザウイルスによつて脳が侵されるという可能性があるが、同児は本件接種当時鼻水を出してはいたが肺炎症状にあつたとは認められず、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的に考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なものであること、インフルエンザワクチン接種により急性脳症が起こり得ることは争いがないこと、がそれぞれ認められ、また、前記三3で認定したとおりインフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎も起こり得るものである。
[43] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[44] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件接種と本件事故との因果関係は極めて薄いと言わざるを得ない旨証言し、その根拠として、同児の発症を脳症の発症と見ると接種後2日目の発熱は遅過ぎ、脳炎の発症と見ると接種後6日目のけいれんの発現は早過ぎることをあげる。
[45] しかしながら、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、脳炎、脳症の潜伏期はワクチンの種類や個人差によつて相当の差があり、同児の発症はなお脳炎あるいは脳症の潜伏期の範囲内に入つていると言えることが認められ、また、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、発症までの時間が人によつて随分異なることを肯定していることが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、本件接種と本件事故との因果関係は極めて薄いとの証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[46] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(4) 被害児伊藤純子(11の1)について
[47] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(一一)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児純子(11の1)の発症後の症状経過に照らすと、典型的なポリオ生ワクチン接種による急性脳症とその後遺症と認められること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後10日目の発症であるが、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるため副反応の潜伏期が延びる傾向にあり、本件接種後10日目の発症は、ポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に充分入ること、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが具体的に考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた極めて重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[48] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[49] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する旨証言するが、その根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、同証人の考え方は採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
[50] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(5) 被害児梶山桂子(15の1)について
[51] 前記二で認定した原告主張一覧表(一五)の「接種後の状況」欄記載の事実(原告梶山喜代子(15の3)本人尋問の結果及び〈証拠略〉によれば、被害児桂子(15の1)は本件接種の翌日からけいれん発作を起こすようになつた事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児桂子(15の1)の発症後死亡するに至るまでの症状経過に照らすと、急性脳症の発症及びその後遺症であるけいれん重積発作による心臓麻痺、更に心臓麻痺による肺のうつ血によつて惹起された肺炎による死亡が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種の翌日の発症であり、種痘あるいは百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの接種による急性脳症の潜伏期に典型的に該当すること、従つて、同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種前に同児がけいれん素因を有していたことを窺わせるに足る事実は全くなく、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は、本件接種前には全く見られなかつた重大なものであること、種痘あるいは百日咳・ジフテリア2種混合ワクチンの接種により急性脳症が発症することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[52] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[53] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係を否定する旨証言し、その根拠として、本件接種の翌日にけいれんが起こつたとしても〈証拠略〉の診断書によれば発熱性の一過性けいれんにすぎないものであり、かかるけいれん発作をもつて脳炎、脳症の発症と見ることはできないこと、右の一過性のけいれんが後のてんかんの発症の原因となつたとは考えられないこと、等をあげる。
[54] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、前記のとおり同児の発症は急性脳症と認められるものであること、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへと拡大発展して行くと考えられること、が認められ、右認定した事実に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
[55] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
(6) 被害児井上明子(24の1)について
[56] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(二四)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人の白木博次の証言を総合すれば、被害児明子(24の1)の発症後の症状経過、特に髄液所見に照らすと、急性脳炎が起つたことは明らかであり、高度の知能及び運動の発達遅延状況に照らすと、右急性脳炎はポリオ生ワクチン接種による遅延型アレルギー性脳炎と考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件ポリオ生ワクチン接種後29日目の発症であり、遅延型アレルギー反応の潜伏期の範囲内に入ること、従つて、同児の本件事故は本件ポリオ生ワクチン接種と時間的、空間的に密接していると言うことができること、他のウイルス感染による脳炎であるか否かについては検査が行われ、その結果これが否定されており、本件ポリオ生ワクチン接種以外に本件事故の原因が考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた極めて重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[57] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件ポリオ生ワクチン接種に起因するものと認められる。
[58] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件ポリオ生ワクチン接種及び本件百日咳・ジフテリア2種混合ワクチン接種のいずれとの因果関係も否定する旨証言するが、本件事故と本件ポリオ生ワクチン接種との因果関係を否定する根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、同証人の考え方を採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
[59] 以上によれば、同児の本件接種と本件事故との因果関係についての被告国の自白が真実に反するものと認めることはできない。
[60] 更に、本件全証拠によるも右各被害児の本件各接種と本件各事故の各因果関係についての被告国の自白が錯誤に基づいたものと認めることはできない。かえつて、証人木村三生夫(第2回)の証言によれば、右各被害児の各事故について審査を行つた予防接種事故審査会の医学専門家の見解が、右自白当時と現在において因果関係を否定する方向で特に変わつたということがないことが認められる。
[61] そうすると、本件における被告国の自白の撤回(取消し)は許されないものである。
[62](三) 次に本件各事故のうち被害児荒井豪彦(32の1)、同清水一弘(33の1)、同大沼千香(35の1)、同中村真弥(38の1)、同大川勝生(45の1)、同小久保隆司(48の1)、同大平茂(51の1)、同高橋尚以(55の1)、同中井哲也(61の1)に関するものが本件各接種に起因するものであるか否かについて順次判断する。
(1) 被害児荒井豪彦(32の1)について
[63] 前記二で認定した原告主張一覧表(三二)の「接種後の状況」欄記載の事実(〈証拠略〉によれば、被害児豪彦(32の1)が本件種痘接種後9日目の昭和42年11月16日午前零時過ぎに発熱、けいれんを起こした事実を認めることができる。)及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児豪彦(32の1)の発症後重症心身障害を起こし死亡するに至るまでの臨床症状に照らすと同児には、急性脳症が疑われること、発症までの潜伏期を考察すると、昭和42年11月16日の発熱、けいれんを発症とみると本件種痘接種後9日目であるところ、〈証拠略〉のスピレインの論文によれば、種痘後の急性脳症が2日から18日の潜伏期で発症した例があることが認められ、9日という潜伏期はやや長い方の例ではあるが、種痘後の急性脳症の潜伏期の自然曲線の中に入つていること、また、同月25日の発熱、けいれんを発症とみると本件2種混合ワクチン接種後4日目であり、2種混合ワクチン接種後の急性脳症の発生は2日以内というのが大多数であるが、4日であつてもなお自然曲線の範囲内に入つていると言えること、従つて、同児の急性脳症は本件種痘接種あるいは本件2種混合ワクチン接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件種痘接種前にけいれんを起こしたことはなく、また、同児の父母兄弟にもてんかん素因はなく、同児のけいれんが本件種痘接種や本件2種混合ワクチン接種とは無関係であり、元々のてんかんによるものであると認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた非常に強いもので、重症心神障害を起こし死亡するに至つていること、種痘や2種混合ワクチンの接種により急性脳症が発生することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[64] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件種痘接種あるいは本件2種混合ワクチン接種のいずれかに起因するものであると認められる。
[65] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故は本件接種に起因するものではない旨証言し、その根拠として、第一に昭和42年11月16日に同児に発熱、けいれんがあつたとしても、それは脳炎、脳症の症状ではなく、〈証拠略〉の船津医院のカルテによれば、同児は同日同医院において咽頭炎の所見で投薬を受けたことが認められるから、咽頭炎により発熱しその熱により熱性けいれんを起こしたとも考えられ、また、本件種痘接種により発熱し、その熱によつて熱性けいれんを起こしたものと見れるとしてもそのけいれんは一過性のものであり、脳に障害を起こす可能性はないこと、第二に昭和42年11月25日のけいれんは、本件2種混合ワクチン接種後4日目であり、通常2種混合ワクチンによつてけいれんが起こるのは当日か翌日までがほとんどであるから、本件2種混合ワクチンとの因果関係ははつきりせず、また、本件種痘接種によつて右けいれんが誘発された可能性があるとしても、右けいれんは5、6分のものであり、急性脳症と考えられるような症状ではないから、これが後に脳障害を残すことはなく、その後起こるようになつたけいれんと本件種痘接種とは因果関係がないこと、第三に同児はその後もけいれんを起こしているが、〈証拠略〉によれば右けいれんは無熱時のものであり、脳波は正常範囲という検査結果もあることが認められ、その後の症状経過に照らすと右けいれんは生来のてんかん素因によるてんかん性のものと認められること、等をあげる。
[66] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、右の第一の点については、咽頭炎による発熱があったとしてもけいれんがある以上は脳障害があつたと言えるものであり、1回でもけいれんを起こすと脳の血管に血が通わなくなり、脳細胞が酸素不足により破壊され、臨床的には無症状のように見えても脳に軽い病変が起こり、それが焦点となつて次のけいれんを誘発し、それによつて起こつた脳の病変が更に焦点となつて次のけいれんを誘発し、ある程度脳に変化が起こればてんかんとなり、以後次々とけいれんを起こし、大けいれんへの拡大発展して行くことが考えられること、第二の点については、2種混合ワクチン接種後4日目の発症はなお潜伏期の自然曲線内に入つていること、5、6分のけいれんであつても右のとおり脳に軽い病変が起こりそれが焦点となつて次々にけいれんを誘発して行くことが考えられること、第三の点については、同児は本件接種前にけいれんを起こしたことはなく同児の両親兄弟にてんかん素因を持つた者もいないことから、同児が生来のてんかん素因を有しておりその発作としてけいれんが起こつたという蓋然性は、右けいれんが本件接種に起因する蓋然性に比較し極めて低いこと、がそれぞれ認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(2) 被害児清水一弘(33の1)について
[67] 前記二で認定した原告主張一覧表(三三)「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実(〈証拠略〉によれば、被害児一弘(33の1)が本件接種当日の昭和40年6月7日の夕方に最初のけいれんを起こした後同月25日に東大病院に入院するまでの間にけいれん発作を繰り返していた事実を認めることができる。)並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児一弘(33の1)がけいれん発作を繰り返し、知能、言語の遅延、行動異常、脳性麻痺、精薄の後遺障害を有するに至つたという臨床経過に照らせば急性脳症が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種をした当夜に発症しており、2種混合ワクチン接種による急性脳症は接種当日か接種後2日以内に起こるのが大多数であるということにそのまま該当するものであり、同児の急性脳症は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種前にてんかん素因があるような症状は示しておらず、同児の家族にもてんかん素因を有する者はなく、同児に元々てんかんの素因があつたと認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の後遺症の程度は本件接種前には全く見られなかつた非常に重いものであること、2種混合ワクチン接種により急性脳症が発生することがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[68] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[69] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の昭和40年6月7日のけいれんは本件接種によるものであるかもしれないが、その後のけいれんは、同児が元々有していたてんかん素因によるものと認められる旨証言する。
[70] しかしながら、前記のとおり、同児が元々てんかん素因を有していたともの認めるに足りる具体的事実は存在せず、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(3) 被害児大沼千香(35の1)について
[71] 前記二で認定した原告主張一覧表(三五)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児千香(35の1)の発症後死亡するに至る経過に照らすと、アレルギー性脳炎あるいは急性脳症が疑われるところ、〈証拠略〉の調査書添付の聴取書によれば、本件接種後5日目に脳炎症状を来たしたとの記載があるが、脳炎症状を説明できる髄液の炎症性細胞の増加の所見の記載はないから脳症であるか脳炎であるかは明らかではなく、短期間で死亡したという状況に照らせば、どちらかと言えば急性脳症が疑われること、発症までの潜伏期を考察すると、本件接種後5日目の発症というのは、右発症が急性脳症であるとしても、前記のとおり〈証拠略〉のスピレインの論文には種痘接種後2日から18日の潜伏期で急性脳症が発生した例の記載があり、種痘接種による急性脳症の潜伏期の自然曲線の中に十分入るものであり、右発症がアレルギー性脳炎であるとしても、種痘接種によるアレルギー性脳炎の潜伏期は5日ないし10日であるからその潜伏期の中に入るものであり、いずれにしろ本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種の翌日から嘔吐や下痢を起こしているが、急性脳症の前駆症状として悪心、下痢、発熱、脱水症状等が生じ得るものであり、同児の右症状が本件接種とは無関係の消化不良性中毒症の偶発によるものであると認めるに足る具体的事実は存在せず、他に本件事故の原因となるべきものが考えられないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた重大なもので短期間に死亡するに至つていること、種痘接種により、急性脳症あるいはアレルギー性脳炎が生ずることがあることは争いがないこと、がそれぞれ認められる。
[72] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[73] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故は本件接種に起因するものとは考えにくい旨証言し、その根拠として、第一に種痘接種により当日あるいは翌日に発熱、嘔吐、下痢等の症状を呈するということはあり得ず、それらの症状はウイルス性の冬期乳児嘔吐下痢症と考えるべきであり、〈証拠略〉にこれと同旨の記載があること、第二に接種後5日目に生じた脳炎症状は、右各症状とのつながりからみれば本件接種によるというよりは右疾病によるものと考える方が妥当であること、等をあげる。
[74] しかしながら、証人白木博次の証言によれば、第一の点については、前記のとおり種痘接種による急性脳症の前駆症状として接種当日あるいは翌日に発熱、嘔吐、下痢等が生ずることがあること、第二の点については、偶発的消化不良症により発熱、嘔吐、下痢等が生ずることはあるが、本件接種と時間的、空間的な密接性をもつて本件事故が生じている以上、本件事故が偶発的消化不良症により起つたという蓋然性は、本件事故が本件接種により起こつたという蓋然性に比し極めて乏しいものと考えられること、がそれぞれ認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(4) 被害児中村真弥(38の1)について
[75] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種によつて脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(三八)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言を総合すれば、被害児真弥(38の1)の発症は本件接種後6日目であるが、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるため皮下接種に比べて抗体価の上昇が遅く、従つてポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期は皮下接種のものに比べて長くなり、本件接種後6日目の発症はポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期の範囲内に入ること、同児の発症経過に照らせば本件事故は最も典型的なポリオ生ワクチン接種により起こつた急性脳症及びその後遺症であると認められること、他に本件事故の原因は考えられないこと、同児の症状経過は本件接種前には全く見られなかつた非常に重大なものであること、がそれぞれ認められる。
[76] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[77] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との因果関係は否定的である旨証言するが、その根拠とするところは、ポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こり得ないとの考え方に基づくことに尽きるものであり、この点については前記三2で認定したとおり、当裁判所としては同証人の考え方は採らず、従つて同証人の右証言は採用しないこととする。
(5) 被害児大川勝生(45の1)について
[78] 前記二で認定した原告主張一覧表(四五)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、日本脳炎ワクチン接種により急性脳症やアレルギー性脳脊髄炎が起こるところ、アレルギー性脳脊髄炎の中には中枢神経が冒されるものと末梢神経が冒される多発性の神経炎型とがあること、被害児勝生(45の1)は本件接種後6日目に急死しているが、日本脳炎ワクチンは皮下接種であるから、6日という期間に照らせば急性脳症よりはアレルギー性脳脊髄炎の発生が疑われ、同児の突然死の原因としては、心臓、肺、横隔膜を支配する自律神経系に多発性神経炎が起こり心臓や呼吸が停止したことが考えられること、右のように考えれば同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は気管支喘息と肋間神経痛の持病を有していたが、これらの疾病で死亡したとする可能性は、右のように本件接種による自律神経系の多発性神経炎によつて心臓、呼吸の停止が起き死亡したとする蓋然性に比し極めて低いこと、他に本件事故の原因は考えられないこと、同児の症状経過は本件接種後6日目に急死したという極めて重大なものであり、本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、同児が死亡するに至つた原因は右のとおり説明し得ること、がそれぞれ認められる。
[79] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[80] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の臨床症状に照らすと脳脊髄炎をうかがわせるものはなく、自律神経の多発性神経炎というものもあまり聞かず、同児の死亡は原因不明の突然死であつて本件接種とは関係がない旨証言する。
[81] しかしながら、〈証拠略〉によれば、同児は本件接種当時17歳の高校生でそれまで順調に成長し、普通に学校に通い、特に野球部の選手としてスポーツに励んでいたことが認められ、このような同児が原因不明の突然死をしたとするのは不合理であり、証人白木博次が証言するように、そのような突然死の可能性は、本件接種のアレルギー反応による自律神経系の多発性神経炎による死亡の蓋然性に比し著しく低いと言わざるを得ず、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言を採用しないこととする。
(6) 被害児小久保隆司(48の1)について
[82] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(四八)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児隆司(48の1)は本件接種後4日目に意識不明、両下肢筋強剛、膝蓋反射両則亢進等の症状を示し死亡するに至つているが、右症状は急性脳症と見ることができるところ、ポリオ生ワクチン接種は経口接種であるから副反応の潜伏期が延びる傾向にあり、本件接種後4日目の発症というのはポリオ生ワクチン接種による急性脳症の潜伏期に充分入ること、右事実に照らせば、同児の本件事故は、本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、同児は本件接種当夜から嘔吐、発熱、下痢を起こしたことが認められるが、ポリオ生ワクチン接種による急性脳症の前駆症状としてそれらの症状が生じ得るところ、これらの症状が消化不良によるということを認めるに足る具体的事実は存在せず、仮にその可能性があるとしてもその蓋然性は本件接種によるものとするのに比して極めて低く、他に本件事故の原因となるべきものは考えられないこと、同児の症状経過は本件接種後4日目に死亡したという極めて重大なものであり、本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、がそれぞれ認められる。
[83] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[84] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、第一にポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こらないこと、第二にポリオ生ワクチン接種により下痢が生ずるか否か不明であり、同児の本件接種当日に生じた嘔吐、発熱、下痢の症状に照らせば、消化不良性中毒症である可能性が高く、それにより死亡したと認める方が妥当であること、をあげる。
[85] しかしながら、第一の点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症は起こらないとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、証人白木博次の証言によれば、同児の本件接種当日の症状が消化不良によるものであるとしてもその消化不良の原因としては本件接種による蓋然性が高いことが認められ、以上に照らせば当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(7) 被害児大平茂(51の1)について
[86] 前記三2で認定したとおり、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(五一)の「接種後の状況」欄記載の事実及び証人白木博次の証言を総合すれば、被害児茂(51の1)は本件接種後2日目にひきつけ、けいれんを起こし、接種後16日目に再びひきつけを起こし死亡したものであつて、右症状経過に照らせば本件接種後2日目に急性脳症を起こしたものと見ることができ、これはワクチン接種による急性脳症の潜伏期に合致することが認められ、右事実に照らせば同児の本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、本件接種後に生じた発熱、嘔吐、下痢等の症状も本件接種に原因する可能性があり、本件接種以外に本件事故の原因となるべきものが存在したという具体的事実は認められないこと、同児の発症後死亡するに至るまでの経過に照らせば本件接種前には見られなかつた症状が強烈に現われたと言えること、がそれぞれ認められる。
[87] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[88] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、第一にポリオ生ワクチン接種によつては脳炎、脳症は起こらないこと、第二に同児の本件接種後の発熱、嘔吐、下痢の症状及び浣腸で粘血便が出ていること、コーヒー様吐しや物があつて死亡していること等に照らせば、同児の症状は細菌性下痢症であると認められること、等をあげる。
[89] しかしながら、第一の点については、前記三2で認定したとおり、当裁判所としては、ポリオ生ワクチン接種により脳炎、脳症は起こらないとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、本件接種後の発熱、嘔吐、下痢が本件接種に原因する可能性があり、他方、同児が細菌性下痢症であつたことを認めるに足る具体的事実は存在しないことが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(8) 被害児高橋尚以(55の1)について
[90] 前記三3で認定したとおり、インフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こることが認められるところ、前記二で認定した原告主張一覧表(五五)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言及び〈証拠略〉を総合すれば、被害児尚以(55の1)の発症経過、髄液所見に照らすとアレルギー性脳脊髄炎が考えられること、発症までの潜伏期を考察すると本件接種後3日目の発症であり、遅延型アレルギー反応の潜伏期の範囲内に入ること、従つて、本件事故は本件接種と時間的、空間的に密接していると言えること、他のウイルス脳炎を疑わせる所見は何一つ存在しないこと、同児の発症後の症状経過は本件接種前には見られなかつた強烈な症状であること、がそれぞれ認められる。
[91] 以上によれば、同児の本件事故は、前記三4で認定した予防接種との因果関係を肯定するための4つの要件をいずれも満たすものであり、本件接種に起因するものであると認められる。
[92] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故が本件接種に起因するものである可能性はかなり薄い旨証言し、その根拠として、第一にインフルエンザワクチン接種によつてアレルギー性脳脊髄炎が起こるとは考え難いこと、第二に同児には本件接種前に咽頭扁桃炎及び咳があつたものであり、これらの症状は風邪ウイルスによつて起こつたものと考えられるところ、風邪ウイルスが脳炎を起こした可能性があること、等をあげる。
[93] しかしながら、第一の点については、前記三3で認定したとおり、当裁判所としては、インフルエンザワクチン接種によりアレルギー性脳炎が起こるとは考え難いとの証人木村三生夫の考え方は採らず、第二の点については、証人木村三生夫(第2回)の証言によつても、同児の脳脊髄炎が風邪ウイルスによるものであるか否かについてウイルス学的分析等はなされておらずその具体的根拠は明らかでないことが認められ、また、前記のとおり証人白木博次の証言によれば、本件接種による以外に他のウイルス脳炎を疑わせる所見は何一つ存在しないことが認められ、以上に照らせば、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。
(9) 被害児中井哲也(61の1)について
[94] 前記二で認定した原告主張一覧表(六一)の「接種後の状況」欄及び「現在の症状」欄記載の事実並びに証人白木博次の証言及び〈証拠略〉を総合すれば、被害児哲也(61の1)の症状は緑膿菌による脳脊髄炎に感染したための結果であると認められるが、同児は1か月あまりのうちに3回の本件接種とインフルエンザワクチンの任意接種(この接種を受けたことは〈証拠略〉により認められる。)を受けたものであり、これらのワクチンが抗体価の奪い合いを起こした結果緑膿菌に対する抗体価が上がらず、不顕性感染の状態で体内に生存していた緑膿菌が顕性感染に転じたという可能性があり、これを否定できるだけの具体的根拠は存在しないことが認められる。
[95] 従つて、同児の本件事故は直接的には緑膿菌による脳脊髄炎に感染したためと認められるが、なお本件接種に起因するものと認めるに足る高度の蓋然性があると認められる。
[96] これに対し、証人木村三生夫(第2回)は、同児の本件事故と本件接種との間に因果関係はない旨証言し、その根拠として、同児の症状経過、髄液所見に照らせば、同児の症例は肺炎球菌、インフルエンザ球菌、髄膜炎菌、緑膿菌等の細菌による化膿性髄膜炎であるが、予防接種によつて化膿髄膜炎が起こるとは考えられず、また、本件接種の間隔もアメリカ合衆国の基準等に照らし特段問題があるわけではなく、免疫状態に影響があるとは考えられず、従つて、本件事故は、本件接種とは無関係の偶発的疾病によるものと考えるのが相当であることをあげる。
[97] しかしながら、前記のとおり証人白木博次の証言及び〈証拠略〉によれば、本件接種が同児の免疫状態に影響を与えた蓋然性のあることが認められ、当裁判所としては、証人木村三生夫の右証言は採用しないこととする。

[98]四1(一) 請求の原因第四項(責任)1(一)の事実中、本件各接種のうち被害児大川勝生(45の1)が受けた接種を除くその余の接種には、法5条所定の接種、法6条の2所定の接種、法9条所定の接種、勧奨接種の4つの場合があるとの事実は当事者間に争いがない。
[99] 被害児勝生(45の1)が受けた予防接種の性質は、前記一の原告主張一覧表(四五)の「接種の性質」について認定したとおり尾鷲市の勧奨による接種である。
[100](二) 請求の原因第四項(責任)1(二)の事実中、法5条所定の接種、法6条の2所定の接種、及び法9条所定の接種は、いずれも被告国が法3条により何人に対してもその接種を受け、または受けさせる義務を課し、これに違反した場合には法26条により刑事罰を課して接種を強制しているものにつき、各被害児がその義務の履行として接種を受けたものであるとの事実、及び勧奨接種は被告国の行政指導に基づき地方公共団体が各被害児の両親に対し接種を勧奨したものであるとの事実は、当事者間に争いがない。
[101] 〈証拠略〉を総合すれば、勧奨接種の実施につき、実施主体の各地方公共団体は、回覧、個別通知、広報車による広報、広報紙への登載、申込書の配布等の方法により各被害児の両親に対し接種を受けるよう勧奨し、各被害児の両親は、勧奨接種と強制接種の勧奨と強制との違いについて特段意識することなく勧奨された予防接種であつても必ず受けねばならないものと考えて、各被害児に接種を受けさせたものであること、そして、予防接種を受けることについて、そのような意識が医者等の特殊な専門家を除く国民一般の考え方であつたことが認められる。
[102](三) 以上の事実に照らせば、被告国と本件各接種の被接種者である各被害児との間には、本件各接種を受けたことにより法律あるいは行政指導に基づく社会的接触関係が生じたものと認められる。
[103](四) そこで、右社会的接触関係に基づき、原告らが主張する被告国が本件各接種の被接種者である各被害児に対し、債務としての安全確保義務を負つていたか否かについて判断する。
[104] 右の安全確保義務は、一般的には、ドイツ民法618条1項、3項、619条およびスイス債務法393条に規定されているように雇用契約の内容として、使用者が、労務給付の場所、設備、機械、器具を供すべき場合には、労務の性質の許す範囲において労務者の生命及び健康に危険を生じないように注意する義務を負うものとされている。
[105] そして、原告らは、右の考え方が、本件においても妥当し、いわゆる予防接種を実施しようとする被告国と本件各接種の被接種者である各被害児との間においても、被告国は、予防接種によつて、被接種者の生命、身体等に危険を生じさせないよう万全の注意をする義務を負っているのであり、その義務が安全確保義務であり、その義務を本件各接種の被接種者である各被害児に対し、債務として負つていると、主張するのである。
[106] そこで、右の原告らの主張を本件について、一般的に敷えんして検討してみると、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方または双方が相手方に対して、信義則上安全配慮義務(講学上の一般的な表現であり、原告らの主張する安全確保義務と同意義である。)を負うことがあると解されるが、かかる安全配慮義務の前提となる特別な社会的接触関係とは、私法上の雇傭契約関係や公務員に関して見られるような継続的、身分的、特殊的な基本的法律関係が存在し、その中で、安全配慮義務が、その付随的義務としてとらえられる場合を指すものと解すべきであり、予防接種における被告国と被接種者との接触関係は、右の場合とは異なり、個々の予防接種に関する単なる一回的なものであるから、かかる接触関係によつては信義則上の付随義務として、いわゆる債務としての安全配慮義務を認めることはできないものと解すべきである。たしかに、右のような一回的な接触関係たる予防接種の場合においても、被告国が各被接種者の生命・身体及びその健康等の安全を確保すべき義務を負うことは否定できないが、かかる義務は債務としてとらえるべきものではなく、不法行為における注意義務としてとらえるべきであり、仮にそのような義務違反が存在した場合には、それは、不法行為規範によつて律せられると解するのが相当である。

[107]2(一) 請求の原因第四項(責任)2(一)の事実は当事者間に争いがない。
[108](二) 請求の原因第四項(責任)2(二)の事実は当事者間に争いがない。
[109](三) 請求の原因第四項(責任)2(三)の事実中、本件各接種のうち法6条の2所定の接種、及び法9条所定の接種のうち実施主体が開業医でありそれらが行うものは、いずれも法3条により何人もその接種を義務付けられた(法26条によりこれに違反した者は刑罰を科せられるとされている)予防接種について、法5条所定の市町村長等が実施する接種を受けなかつた者が、これに代るものとして、接種義務の履行のために接種を受けた場合であるとの事実は、当事者間に争いがない。
[110] ところで、被告国の機関以外の者(開業医のほか前記一で認定したとおり区市町村の地方公共団体が実施主体である場合もある)が実施主体となつて実施した法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種を受けた者は、法の規定の趣旨に照らせば、被告国において実施した予防接種を受けたと同様に接種義務の履行の効果が擬制されると解されるが、右各実施主体は被告国の委任を受け、その機関として各接種を実施するわけではなく、被告国とは関係なく、自ら各接種を実施するものであるから、かかる接種の実施をもつて、それを被告国の公権力の行使と擬制するものではないと解される。
[111] しかしながら、〈証拠略〉によれば、厚生省令の予防接種実施規則により法に基づいて行う予防接種の実施方法が定められていること、〈証拠略〉によれば、右予防接種の実施方法の細部については、各都道府県知事宛公衆衛生局長通達により、厚生省において定めた予防接種実施要領に従つて行うよう示達されていること、〈証拠略〉によれば、種痘については特に詳細に実施方法が定められ公衆衛生局長が各都道府県知事宛通知していること、〈証拠略〉によれば、予防接種実施上の疑義について照会があつたときは、公衆衛生局長がこれに対し回答していること、〈証拠略〉によれば、予防接種ワクチンの取扱いについて、公衆衛生局長、薬務局長、薬務局細菌製剤課長等が各都道府県知事、各都道府県衛生主管部(局)長宛通知していること、〈証拠略〉によれば、予防接種実施の際の問診票の活用等についても公衆衛生局長等が通知していること、がそれぞれ認められる。
[112] 右通達、通知等は、法に基づいて行われるすべての予防接種の実施方法等に関するものであるから、被告国の機関である市町村長等が実施する法5条所定の接種及び法9条所定の接種のみならず、開業医及び地方公共団体が実施する法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種にも適用されるものであり、右の諸事実に照らせば、厚生大臣は、公衆衛生局長等をして右のような通達、通知を発令させて、法5条所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である被告国の機関の市町村長等を指揮、監督するのみならず、法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である開業医及び地方公共団体に対しても当該予防接種の実施方法等につきいわゆる行政指導を行つていたものと認めるのが相当である。
[113] そこで、右行政指導が、国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当するか否かについて検討するに、一般に行政指導は、命令、禁止等の行政処分とは異なり、法的拘束力を持たず、単に行政指導の相手方に一定の行為を期待するにすぎない非権力的作用であるといわれている。そして、違法な行政指導による損害の発生に対して、国家賠償法の適用が認められるか否かについては、結局、いわゆる行政指導が、同法1条にいう「公権力の行使」に該当するかの問題に還元される。そして、右の問題も、いわゆる行政指導に服従を拘束する「公権力性」を認めるか否かの評価の違いということができる。そこで、当裁判所としては、ある行政指導につき、相手方にこれに従うか否かの完全な自由が認められている場合には、当該行政指導は、「公権力の行使」に該当しないと解するのが相当であると考えるが、しからざる場合、即ち、相手方が行政指導に従わざるを得ない状況におかれている場合には、当該行政指導は、いわゆる公権力の行使に該当すると解するのが相当であると考え、以下、右の考え方によつて検討する。
[114] そこで、右の見地から本件行政指導について検討すると、弁論の全趣旨によると、当時の被告国が法律の規定により強制していた予防接種は、伝染病の予防という防疫行政目的を実現するために、国としては接種の対象者すべてに完全に実施する必要があるとの方針で臨んでおり、そのためそれが全国的規模で、しかも組織的に行なわれるべきものであり、しかも、それらの実施には、専門的知識が必要とされていたこと、そこで、現場で、現実に予防接種を実施しようとする各実施主体等は、予防接種に関する国の技術的助言等を期待し、その指導に依拠して、予防接種を実施するというのが実情であり、そこには国が計画し、実行しようとする防疫行政に協力し、もしくは協力しないとすることについての選択の自由はなく、常に行政指導に従うという状況下で接種を実施していたのが厚生行政の実態であつたと認めることができる。
[115] そうだとすると、右のような実情のもとで被告国の行う行政指導は、いわゆる「公権力の行使」に該当する行為と認めるのが相当である。
[116](四) 請求の原因第四項(責任)2(四)の事実中、本件各接種のうち勧奨接種については、厚生省公衆衛生局長あるいは厚生省事務次官は都道府県知事(指定都市市長を含む場合もある)宛に勧奨接種の実施を指示した通達をなし、これに基づき各地方公共団体が国民に対して接種を勧奨しこれを実施していたものであり、厚生大臣は、厚生省衛生局長あるいは厚生省事務次官をして、右通達を発令させて勧奨接種の実施につき行政指導を行つていたとの事実は、当事者間に争いがない。
[117] 〈証拠略〉によれば、被告国は、毎年各地方公共団体に対し、勧奨接種の実施につき実施方法等を詳細に定めて行政指導を行つており、かかる行政指導を受けた各地方公共団体は、選択の自由もなくこれに従つて勧奨接種を実施していたことが認められ、また、前記1(二)で認定したとおり、勧奨接種の実施につき、実施主体である各地方公共団体は、回覧、個別通知、広報車による広報、広報紙への登載、申込書の配布等の方法により、国民に対し接種を受けるよう勧奨し、国民は勧奨接種と強制接種の違いについて特段意識することなく、勧奨された予防接種であつても、それは強制接種と同様に必ず受けねばならないものと考えて、接種を受けていたのが当時の社会一般の実情であつたこと、また、弁論の全趣旨によれば、厚生行政の一環として、予防接種を実施する被告国としては、被接種者たる一般国民の意識が、右のような実情にあることを知悉していたことが認められ、右認定の事実によると、被告国の行う勧奨接種の実施を指示する本件での行政指導は、前記(三)で説示と同様、国家賠償法上の公権力の行使に該当すると認めるのが相当である。
[118](五) そこで、厚生大臣が以上の各公権力の行使たる職務を執行するにつき、本件各事故発生についての故意または過失があつたか否かについて判断することとする。
[119](1) 請求の原因第四項(責任)2(五)(1)(未必の故意)の事実中、ワクチンは通常大なり小なりの副反応を伴つており、予防接種の施行によりまれに致死あるいは脳炎など重篤な後遺症をもたらすことがあることが、公衆衛生行政当局によつて認識されていた事実は、当事者間に争いがない。
[120] しかしながら、右事実から直ちに、厚生大臣が、予防接種の施行により一定の確率で死亡または回復不能の重大な後遺障害が発生してもやむを得ないものとして本件各接種を各実施主体に実施させていたものと認めることはできず、他に右事実を認定するに足りる証拠はない。
[121] 従つて、厚生大臣が、右各公権力の行使たる職務の執行につき、本件各事故発生について未必の故意を有していたものと認めることはできない。
[122](2) 国家賠償法1条1項の規定に照らせば、同項にいう公務員の過失の存在については賠償を請求する者においてその立証責任を負うものと解され、その立証責任を転換すべき合理的理由はない。従つて、原告らが主張する推定される過失の議論は、当裁判所としては、これを採用しない。
[123](3) 厚生大臣が前記各公権力の行使たる職務を執行するについて、予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を未然に防止すべき注意義務を有し、その注意義務違反があつたときは、右職務執行に関し、事故発生についての過失があつたと推定するのが相当である。
[124] そこで、以下原告らの主張する厚生大臣の6つの注意義務違反(事故発生についての具体的過失)の存否について順次判断することとする。
[1] 実施すべきでない接種を実施させた過失について
[125] 厚生大臣が、被告国の機関である市町村長等をして法5条所定の接種及び法9条所定の接種を実施させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、当該予防接種の実施方法について行政指導を行つていたのは、いずれも法律がこれらの予防接種を受けることを国民に強制していることから、厚生大臣としてその法律の規定、趣旨に従つたにすぎないものと解される。しかしながら、諸般の事情に照らし、予防接種による被接種者の生命、身体に対する危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという特別の事情が認められる場合には、厚生大臣としては、法の改廃を待つことなく、法5条所定の接種及び法9条所定の接種の実施主体である市町村長等をして当該予防接種の実施を中止させ、また、法6条の2所定の接種の実施主体である開業医並びに法9条所定の接種の実施主体である地方公共団体及び開業医に対し、当該予防接種を実施することがないよう行政指導すべき、各注意義務を負つていたものと解される。
[126] また、勧奨接種の場合においても、諸般の事情に照らし、被接種者の生命、身体に対する危険を避けるためには予防接種を実施しないことが必要不可欠であるという特別の事情が認められる場合には、厚生大臣としては、地方公共団体に対し、当該予防接種の実施をしないように行政指導すべき注意義務を負つていたものと解される。
[127] そして、厚生大臣が以上の各注意義務に違反したときは、国家賠償法上の過失があると解するのが相当である。
[128] そこで、以下、腸チフス・パラチフスワクチン、インフルエンザワクチン、及び種痘について、本件各接種当時、厚生大臣に右注意義務違反があつたか否かについて順次検討することとする。
(a) 腸チフス・パラチフスワクチン接種を実施させた過失について
[129] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](a)の事実中、腸チフス・パラチフスワクチン(以下「腸・パラワクチン」という)の接種は、昭和23年の法制定時に生後36月から48月を第1回として以後60歳に至るまで毎年を定期とする強制接種とされていた事実、腸チフス・パラチフス(以下「腸・パラ」という)は経口感染する消化器系伝染病であり、それらは、上・下水道の整備をはじめとする環境衛生の改善によつて感染経路を切断する感染経路対策が流行を防止する基本的防疫対策であるとの事実、特効薬(抗生物質クロラムフエニコール)による治療法も確立されたとの事実、腸・パラワクチンの接種につき市町村長等により法5条所定の接種が実施されていた事実は、当事者間に争いがない。
[130] 〈証拠略〉を総合すれば、腸・パラワクチンの有効性については、昭和23年の法制定当時からこれを疑問視する見解があつたこと、その後も昭和29年に弘前大学の赤石英教授が腸・パラワクチンの実際的有効率は0.017にすぎない旨の見解を発表したこと、同年に岩手県北上市において腸チフスの集団発生があつたが、腸・パラワクチンの接種者と非接種者の間で罹患率、潜伏期、致命率等に有意の差はなかつたこと、昭和33年に安原美王麿博士が、腸・パラワクチンの有効性に疑問がある等の理由により日本伝染病学会において腸・パラワクチン接種の再検討を訴え、その後も同ワクチンの強制接種の中止を主張していたこと、昭和35年から昭和40年にかけて、WHO(世界保健機構、以下同じ。)の後援により、ユーゴスラビア、英領ギアナ、ポーランド、ソ連等において腸チフスワクチンの有効性についての野外実験が行われた結果、一定の効果があるとされたことに対しては、英領ギアナにおける水系感染の場合は菌量が少ないからワクチンがある程度有効であつても、日本においては食物感染が多いため菌量が多く、日本におけるような少量のワクチン接種では有効性は期待できず、かといつて有効性を期待できるように接種を増やすことは副作用の危険性に照らし困難であり、日本の小中学生に対する腸・パラワクチン接種の成績、動物実験の結果によつてもわが国の現行腸・パワワクチンの有効性は裏付けられなかつたとの見解があること、パラチフスワクチンについてはWHO後援の右野外実験によつても有効性は裏付けられなかつたこと、日本における戦後の腸・パラ患者の減少については、全年齢層にわたる罹患率の低下によるもので、腸・パラワクチン接種対象である特定の年齢層に特に罹患率の低下があつたためではないから予防接種の行政効果は認められなかつたとする見解があること、腸・パラワクチンの危険性については、戦前から軍隊などで使われ、かなり副作用があることが知られていたものであり、昭和22年から昭和40年までに腸・パラワクチンの副作用のために死亡したものは49名にのぼつていたこと、接種量が実際上少量とされるようになつた昭和28年以降は死亡事故が減少していること、腸・パラの危険性については、戦後は腸・パラの診断法が確立され、昭和26年遅くとも昭和30年以降は抗生物質の投与により死亡率の低い病気となり、感染経路対策としての上下水道の完備と感染源対策としての保菌者の早期発見、治療、監視により防疫可能となつたとする見解や、10歳以下の子供については腸・パラは風邪ひき程度の病気にすぎず予防接種の必要性はなかつたとする見解があること、以上のことから腸・パラワクチンの定期接種廃止論として、昭和30年以降は腸・パラワクチンの国民皆接種の必要はなかつたとする見解や、10歳以下の子供に対する腸・パラワクチン接種は、戦後アメリカ合衆国の占領政策が廃止された時点で廃止すべきであつたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[131] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、1913年(大正2年)にイギリスの腸チフス対策委員会が軍隊において腸チフスワクチンを接種した結果、接種を受けた兵士と接種を受けなかつた兵士との間で腸チフス罹患者数が明瞭に違つたと報告されたこと、その後腸チフスワクチンの有効性が一般に認められ漸次普及していつたこと、各国の軍隊の間での腸チフスワクチンの予防接種の結果、接種後の患者発生数が著明に減少し、軍隊だけでなく一般にも次第に腸チフスワクチン接種が浸透していつたこと、昭和23年の法制定当時、腸・パラワクチン定期接種の法制化につき、日本の学界では、全然効果がないとする見解もあり、論争があつたが、一般的には実施した方がよいとする見解が大部分であつたこと、法制定当時、それまで日本で使用されていた腸・パラワクチンは、アメリカ合衆国の軍隊で大規模に使用され効果があるとされていたものと同様のものであつたこと、法制定当時の日本の腸・パラ発生状況、致命率、臨床医学の限界、荒廃した環境衛生などを考えれば、腸・パラの防疫を予防接種に期待したのは当然であつたこと、昭和26年から昭和28年にかけて、日本において全国18の伝染病病院に入院した腸・パラ患者と赤痢患者を比較検討した結果、当時市販の腸チフスワクチンの予防接種により接種後1年以内では明らかに発病防御効果があり、発病率を2分の1から3分の1に減少させると結論されたこと、昭和30年ころの一般的見解は、戦後腸・パラ患者が激減した原因については、同じ経口伝染病である赤痢が当時大流行していたことから考えて、予防接種の効果であるとしていたこと、昭和32年ころ、公衆衛生院の痢学部長松田心一らの調査の結果、推計学的計算により腸チフスワクチンの接種者と非接種者の間にワクチンの効果につき有意の差があるとされたこと、WHOの後援によりユーゴスラビア、英領ジアナ、ポーランド、ソ連等で1960年(昭和35年)以降行われた国際標準腸・パラワクチンの効果についての野外実験の結果、腸チフスワクチンに一定の効果があることが認められたが、日本の現行腸チフスワクチンも国際標準ワクチンに近似しており、有効であると考えられること、その後ホーニツクの実験によつても一定の菌量の腸チフスに対しては、ワクチンの効果が認められたこと、パラチフスワクチンの効果については必ずしもその裏付けがなかつたが、昭和46年当時においても、腸チフスワクチンの効果が明らかな以上パラチフスワクチンについてもその効果を期待できる研究を企画することが可能であるとされていたこと、腸・パラによる死亡率は、抗生物質が使用されるようになつて格段の減少を来たしたが、今なお腸・パラの症状はかなり激しいものであり年間1、2名の死亡者がおり、恐しい病気であることに変りはないこと、抗生物質の使用によつても永続保菌者の除菌は困難であること、日本においても昭和30年以降も腸・パラの水系感染があり、また食物感染だからといつて必ずしも菌量が多いとは限らないこと、昭和30年当時の日本の上水道普及率は32.2パーセントでかなり低く、昭和35年でも53パーセントにすぎないこと、昭和30年度の日本の水洗便所、下水処理・糞尿処理浄化槽の普及率は、それぞれ6.4パーセント、3.3パーセントであり、昭和41年度でも7.4パーセント、8.7パーセントにすぎないこと、腸・パラの保菌者の管理は非常に困難であり、患者個人の情報と分離株のフアージ型別の結果の組み合わせにより全国的視野で患者発生情況が分析されるようになつたのは昭和41年以降であること、腸・パラワクチンの定期強制接種の廃止論としては、証人福見秀雄が昭和41年10月に、当時腸・パラの感染源対策としてチフス菌のフアージ型の台帳が次第に整備され、感染源の追跡が可能となつていたこと、患者数が毎年減少の一途をたどつていたこと、昭和28年ころから腸・パラワクチンの実際の接種量が0.1ミリリツトルの皮内注射とされるようになり接種効果に疑問があつたこと、右接種量によつてもなお副作用の危険があつたこと、強制接種とされているにもかかわらず実際の接種率が極めて低調であつたこと等の理由から、伝染病予防調査会腸チフス予防接種小委員会において、腸・パラワクチンの定期強制接種の廃止を提案したこと、しかし、当初は廃止に反対する意見の方が多数であつたこと、その後同委員会において昭和41年11月、昭和42年1月、同年3月の3回にわたり腸・パラワクチンの効果、副作用、それに伴う理論と実際が詳細に検討討議され、最終的に証人福見秀雄の意見が容れられたこと、その後同委員会の意見を受けて、昭和45年に至り法改正によつて腸・パラワクチンの定期強制接種が廃止されたこと、1981年(昭和56年)当時においても、韓国、フイジー、ソロモン諸島が腸チフスの予防接種を実施していること、がそれぞれ認められる。
[132] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において腸・パラワクチン定期接種の是非についてそれぞれ見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には被害児佐藤幸一郎(16の1)が接種を受けた昭和35年4月6日)において、厚生大臣として、法律が腸・パラワクチンの定期強制接種の実施を命じているにもかかわらず、その規定に敢えて従わず、腸・パラワクチンにつき市町村長等をして法5条所定の接種を実施させないとする注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(b) インフルエンザワクチン接種を実施させた過失について
[133] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](b)の事実中、昭和32年以降毎年、厚生省公衆衛生局長が、都道府県知事及び指定都市市長宛に、当該年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通達を発して勧奨接種の実施につき行政指導を行い、都道府県知事等は、右通達の一部を構成する「インフルエンザ特別対策実施要領」に基づき接種の実施を市町村に指示し、市町村はこれを受けて国民に通知を発して、昭和36年までは、少・中学生等流行拡大の媒介者となる者、乳幼児・老齢者等致命率の高い者、警察、消防署等公益上必要とされる職種の人々を対象に、昭和37年以降は、流行増幅の場である人口密度の高い地域を中心とした保育所、幼稚園、小・中学校の児童を対象に、集団の勧奨接種を行つていた事実は、当事者間に争いがない。
[134] 〈証拠略〉によれば、厚生省公衆衛生局長は、昭和37年以降毎年各都道府県知事宛に、各年度における「インフルエンザ予防特別対策について」と題する通達を発して、流行増幅の場である人口密度の高い地域を中心とした保育所、幼稚園、小・中学校の児童を対象としたインフルエンザ予防特別対策としての勧奨接種の実施を行政指導するに際し、右通達により、右対象者以外の者に対する一般防疫対策としての勧奨接種の実施についても行政指導を行つており、それによれば、昭和37年から昭和41年までは、「特に、乳幼児、老齢者、及び、医療従事者、警察、消防、電力、運輸、通信、報道関係者等の公益上必要とされる者に対しては必ず予防接種を受けるよう勧奨されたい。」と明示して一般防疫対策としての勧奨接種の実施を行政指導しており、本件各接種のうちインフルエンザワクチン接種を受けた各被害児は、右特別対策としての勧奨接種あるいは右一般防疫対策としての勧奨接種の対象者であつたことが認められる。
[135] 〈証拠略〉を総合すれば、インフルエンザの抗原構造の違いによる株の数は極めて多く、毎年流行するインフルエンザの抗原構造は次々と変化し、不連続変移が起こつたときは従前のワクチンはほとんど効かず、連続変移であつてもあまり効かないことがあり、抗原構造の変移に対処して、流行する株に有効なワクチンを用意することは困難であること、インフルエンザワクチン接種による免疫効果の持続期間もせいぜい3、4か月にすぎないこと、従つて、インフルエンザワクチン接種を受けた者にもインフルエンザが流行したことがあること、インフルエンザワクチン接種により血中抗体価の上昇があつても、それがインフルエンザの感染を完全に抑えるものとは断言できないとする見解があること、インフルエンザワクチン接種によつて、被接種者が、インフルエンザ感染による発症が抑えられるとしても、その人から他の人にインフルエンザが伝播するのを防止する効果は期待できないとする見解があること、インフルエンザワクチンはふ化鶏卵を使用して製造されるため卵の成分が入つているが、鶏卵は食品として頻繁に摂取されるものであるため卵アレルギーを有する人も多く、また個々の卵について雑菌が入つているか否かを検査しその品質を管理することが非常に難しいため、ワクチンに雑菌が混入することが避け難く、卵アレルギーや難菌の内毒素が原因で副作用を起こす危険性が高いとする見解があること、インフルエンザワクチンを子供の時から毎年接種していると将来大人になつてインフルエンザワクチン接種を受けた時にアナフイラキシー様シヨツクを起こす可能性があるとする見解があること、抗生物質の使用等の化学療法の発達や呼吸困難となつたときの気管切開、酸素療法等の技術水準の向上により細菌性肺炎による死亡率は極めて減少したから、昔のようにインフルエンザの流行により死亡率が増加する可能性は非常に少なくなつたとする見解があること、インフルエンザは、慢性の心肺疫患、内分泌性疾患等の基礎疾患を有する人や高齢者(ハイリスグループ)にとつては危険な疾病であるが、一般の健康人にとつては良性の疾患であり危険性の少ないものであるとの見解があり、1962年(昭和37年)にアメリカ合衆国公衆衛生局長官は、ハイリスクグループ以外の人にインフルエンザワクチンを接種することの有効性を強調すべきでないと勧告していること、ハイリスクグループの人に限定してインフルエンザワクチンを接種すべきであるとするのが、その当時からの欧米の学者の一般的見解であり、その旨の見解を表明した論文等が数多く存在していること、欧米諸国においては、ハイリスクグループの人のほか、罹患危険性の高い医療従事者、学校の寄宿舎の生徒等一定の人に対して選択的にインフルエンザワクチンの勧奨接種を実施しており、ソ連においてインフルエンザ生ワクチンが社会一般に広く使用されている以外に、インフルエンザワクチンを一律に広く接種している国はないこと、インフルエンザを全国的に流行させる役割を果しているのは小・中学生に限られるものではなく、小・中学生に対するインフルエンザワクチン集団接種により流行増幅を防止し得たという明確な成績は示されていないこと、小・中学生はインフルエンザに罹患しても最も致命率の低い階層であること、毎年、小・中学生の学童一般に対して一律にインフルエンザワクチン接種を実施している国は日本のほかになく、これを支持する学説も日本以外の国にはないこと、がそれぞれ認められる。
[136] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、インフルエンザに対する有効な予防方法はワクチン接種のみであり、他に満足すべき方法はないこと、WHOのインターナシヨナル・インフルエンザ・センターはインフルエンザに関する各国の情報を集め、流行の初期の段階でその年に流行が予測されるインフルエンザの型を決定しており、日本の国立予防衛生研究所内にあるナシヨナル・インフルエンザ・センターは、WHOと情報交換をし、日本において接種すべきワクチン株を決定し、厚生省に勧告していること、厚生省においても毎年インフルエンザの流行予測事業を実施していること、インフルエンザワクチン接種によつて血球凝集阻止抗体(HI抗体)価が128倍以上あれば、まずインフルエンザには罹患しないという効果が期待でき、HI抗体価が64倍から16倍位であれば、発症は軽くて済むという効果が期待できるとされていること、インフルエンザの罹患率曲線と免疫度分布曲線によつてインフルエンザワクチンの効果率を計算すると、流行ウイルスとワクチンの抗原構造が一致した場合その効果率は約80パーセントになること、毎年インフルエンザワクチンを接種することにより、接種したワクチンの型と実際に流行したインフルエンザの型がずれたとしても、若干でも共通抗原がある限り翌年の接種において一定の追加免疫効果が期待できること、卵アレルギーの存在については問診によつて容易に知り得るものであり、鶏卵に付着してる雑菌がワクチンに混入する可能性があることについては、精製法の進歩、鶏舎の管理のチエツク等により非常に減少しており、インフルエンザワクチンは、生物学的製剤基準に基づいて製造され、有効性と安全性のための各種試験を経ていること、子供のころから毎年インフルエンザワクチン接種を受けたことによりアナフイラキシーシヨツクが起つたという例は今まで存在していないこと、インフルエンザは、全身症状として発熱、頭痛、全身倦怠、違和感、腰痛、四肢痛、関節痛などが、呼吸器症状としてくしやみ、咽頭痛、鼻閉、咳などが、また軽度の消化器症状として食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢などが見られるほか、合併症として肺炎、気管支炎などを伴う極めて伝染性の強い急性呼吸器系伝染病であり、大正7、8年にかけてのスペイン風邪の流行の際は、全世界の罹患者は7億、死者2000万名を超えたと言われており、日本においてもインフルエンザによる死亡者数は昭和20年以降においても相当数にのぼつていること、インフルエンザの流行年には超過死亡の著明な増加があり、肺炎、気管支炎等の合併症を起こして死亡する率はインフルエンザを死因とする統計学的数値の何倍かに達すると推定されること、昭和33年にアジア風邪が流行した時、小・中学校の学童が流行増幅に果たしている役割について全国的に詳細な調査が行われたが、小・中学校の学童の罹患率は明らかに高く、小・中学校が流行増幅の場になつていることが判明したこと、昭和37年から行われたインフルエンザ特別対策の実施にあたり、厚生省は諮問機関の伝染病予防調査会の意見を聞いているが、同会においては、インフルエンザの流行の拡大、伝播の経路として重要部分をしめる小・中学校の学童に接種することが、流行増幅を抑えるのに一定の効果があるとの証人福見秀雄らの提案が採用されたこと、1980年(昭和55年)から1981年(昭和56年)にかけてアメリカ合衆国ではインフルエンザの大流行があり、超過死亡数は15万名以上と推定されたが、日本においては小・中学校の学童にインフルエンザワクチン接種を実施しているので流行の拡大がかなり防止されたとする見解があること、がそれぞれ認められる。
[137] 以上の諸事実を総合勘案すれば、予防接種の専門家の間において、一般人に対するインフルエンザワクチンの一律接種の是非について各見解の対立があつた本件各接種当時(具体的には各被害児がインフルエンザワクチン接種を受けた昭和39年から昭和44年までの間)において、厚生大臣として、地方公共団体に対し、小・中学校の児童、生徒を中心とする一般人に対するインフルエンザワクチンの一律勧奨接種の実施をしないように行政指導すべき注意義務を負つていたものと認めることはできない。
(c) 種痘接種を実施させた過失について
[138] 請求の原因第四項(責任)2(五)(3)[1](c)の事実中、わが国の昭和21年の痘そうの患者が1万7954名、死者が3091名であり、翌22年には患者は386名と激減し、法が制定された昭和23年には患者29名、死者3名となり、昭和27年以降死者はなく、昭和31年以降患者の発生もないとの事実、昭和48年と昭和49年に各1例の移入があつたが、2次感染もなく治癒している事実、種痘後原因不明の合併症のあることが以前から知られており、今世紀初めのころから種痘後脳炎の症例が報告され、その中には死亡や重篤な症例のある事実、種痘につき、市町村長等により法5条所定の接種及び法9条所定の接種が、開業医により法6条の2所定の接種及び法9条所定の接種が、それぞれ実施されていた事実は、当事者間に争いがない。
[139] なお、前記一の原告主張一覧表の各「実施主体」について認定したとおり、本件各接種には、地方公共団体によつて種痘の法9条所定の接種が実施された場合もある。
[140] 〈証拠略〉を総合すれば、イギリスにおいては、昭和の初めころから種痘事故の報告があり、他方1935年(昭和10年)以来国内において痘そうの発生がなく、1935年(昭和10年)代には種痘のみが痘そう制御の唯一の方法ではないとの考え方が一般的になつていたこと、1946年(昭和21年)にイギリスで強制種痘が廃止されたこと、イギリスにおいて、1950年(昭和25年)以降1970年(昭和45年)までの間に痘そうの集団免疫率は10ないし15パーセントしかなく、痘そうの常在国から13回にわたる痘そうの患者の輸入があつたが、流流行は一定地域の小さい規模にとどまり、103名の患者と37名の死亡者が生じたにすぎず、患者の隔離、接触者への接種、その後の接触者の監視、行動規制により、充分制御できたこと、他方、右期間内に種痘により死亡した者は100名に達していたこと、証人ジヨージ・デイツクは、イギリスにおいて、1962年(昭和37年)以来定期種痘廃止のための努力を続けていたこと、イギリスは、1971年(昭和46年)に定期種痘の勧奨も廃止するに至つたこと、アメリカ合衆国においても、1971年(昭和46年)に定期種痘廃止が勧告され、1972年(昭和47年)にアメリカ合衆国保健教育省公衆衛生局は、種痘合併症の危険、痘そう輸入の可能性、痘そうが輸入された時に予想される病気の広がりの3因子について数量分析を行い、種痘合併症の危険は種痘の利益を上回わつているとして、定期種痘を廃止すべきとしたこと、日本においては、昭和29年に金子義徳が、日本公衆衛生雑誌に、ワクチンの効果についてはワクチンのマイナス面即ち副作用を含めて価値判断がなされるべきであり,不幸な犠牲者を出さないために予防接種を中止すべきであるという議論も成り立つのではないかとの意見を発表したこと、日本において現実に使用されていた種痘の株では副反応の発生は除去し得ず、種痘により重篤な副反応が生ずることは、日本においても昭和の初期から知られていたものであり、1950年(昭和25年)にWHOにおいて作成された死因分類表の中には、予防接種または種痘による不慮の傷害という分類項目があり、そのころには予防接種の専門家で種痘により重篤な反応が起こることを知らない者はいなかつたこと、種痘後脳炎、脳症の発症があつた場合、3分の1が死亡し、3分の1が植物人間となつてしまうとの見解があり、これらの症状に対しては有効な特異的治療法はなく、対症療法しかないこと、種痘により完全に個人が痘そうから守られるという期間は2年ないし3年にすぎず、20年を経過すると感染防御効果はほとんどないとの見解があまること、イギリスのいくつかの町で、95パーセント以上の住民が免疫を持つていたにもかかわらず痘そうが流行した例があり、同様の例は中央ジヤワにおいても見られ、また、インドのラオは、80パーセントの率で種痘が行われたにもかかわわらず痘そうが流行した例があることを報告していること、日本と同じように種痘の定期強制接種を実施していた西ドイツにおいて、1960年(昭和35年)以降7回の痘そうの輸入があつたことに照らせば、日本において20年近く痘そう患者が発生しなかつたことが定期強制種痘による基礎免疫効果によるものとは言えないとする見解があること、種痘接種を受けた者が不完全な接種のため痘そうに罹患したときはその症例が変化したものとなり、かえつて新しい流行の原因となるとする見解があること、昭和47年以降は日本においても、定期強制種痘の廃止を主張する見解がいくつか出されたこと、痘そう患者は、感染してから平均14日目、発熱後2、3日目の皮膚疹の出現前までは、伝染力がなく、人間以外に痘そうウイルスを維持している動物は存在せず、全く症状のないウイルス保持者はいないから、痘そうの診断は割合容易であり、従つて、痘そうの非常在国においては、痘そうが持ち込まれる可能性に対しては疫学的監視よつて対処すればよく、優秀な公衆衛生機関があり、優秀な疫学的監視が行われていれば、種痘の定期強制接種を受ける必要はないとの見解があり、定期強制種痘を廃止した場合の代替措置としては、防疫体制を強化し、痘そうが輸入された場合に接触者や接触可能者に対して緊急種痘を実施するといういわゆるリングワクチネーシヨンが考えられるとする見解があること、非常在国に痘そうが輸入された場合、定期種痘が行われていたとしても必ず接触者及び接触可能性者に対する緊急種痘が実施されねばならないとの見解があること、以上から、日本においても、日本が痘そうの非常在国となつた昭和25年ないし昭和30年当時において、幼児に対する定期強制種痘はやめるべきであつたとする見解があり、その理由とするところは、種痘の免疫力はそれほど長く持続しないこと、痘そうの伝播力はそれほど強くなく、侵入の危険性もそれほどないこと、痘そうの輸入があつても早期の診断やリングワクチネーシヨンにより拡大は防止できること、これらの点から種痘による利益(ベネフイツト)と副作用による出費(コスト)の均衡(バランス)を考えると後者の方が上回わること、等であること、がそれぞれ認められる。
[141] しかしながら、他方において、〈証拠略〉を総合すれば、昭和30年代においては、日本の学会で定期種痘廃止論を主張する者はほとんどいなかつたこと、昭和35年当時、世界各国のほとんどが強制種痘の実施をしていたこと、1964年(昭和39年)に、WHO痘そう専門委員会は、痘そう患者の増加傾向が依然として継続しており、痘そうが根絶されるまで、各国は恒久的な予防接種計画を続けて行うべきであり、痘そう侵入の危険性が高い国々は、新生児、移民等を対象とする種痘や全年齢層の定期的接種により、地域住民の免疫度を維持すべきであると報告していること、日本においても昭和42年に、日本は痘そう常在国に囲まれ、また持ち込まれる機会も著しく増大してるので、常時種痘を行つて痘そうに対する集団免疫度を高めておくことが非常に重要であるとの見解があつたこと、昭和43年に、厚生大臣から伝染病予防調査会に対し、今後の予防政策のあり方について諮問がなされ、同調査会予防接種部種痘委員会において定期種痘の是非についてコスト・ベネフイツト・バランスイング論を中心に検討が行われたが、全体の結論としては、定期種痘の廃止はまだ時期尚早であるというものであつたこと、昭和44年には、日本小児科学会予防接種委員会においても、日本は痘そう侵入の危険性に絶えずさらされているので現行の定期種痘はなお当分継続する必要があると報告されたこと、当時、ヨーロツパの多くの国では痘そう非常在国となつたのちも強制種痘接種が続けられていたこと、1970年(昭和45年)ころにはイギリスにおいても定期種痘廃止につき賛否両論があつたこと、1970年(昭和45年)当時、アジア、アフリカ、南米の諸国にはいまだ痘そう常在国があり、しかも日本に近いアジアに常在していた痘そうは特に致命率の高いものであつたため、これらの国との交流がさかんになるにつれて、痘そう侵入の危険性に対する不安感は強く、定期種痘廃止論を主張する者はほとんどいなかつたこと、当時の見解の大勢としては、痘そう常在国と交流の多い日本は常に痘そうの危険にさらされており、しかも痘そうの予防には種痘以後に有効な手段がなく、予め基礎免疫を与えておかなければ、流行時における臨時予防接種に際し迅速な免疫の上昇を期待できず、また高年齢児に初回種痘を行うと重篤な副反応の危険性が高いなどの理由により、種痘を継続して実施する必要があるというものであつたこと、昭和46年においても、ヨーロツパにおける痘そうの発生状況を見れば、日本が過去20年間患者数零を続けたのは幸運としか言いようがなく、種痘事故絶滅の方法は、種痘そのものを必要としないようにすることであり、それは痘そうの根絶によつてのみ達成することができるとの見解があつたこと、日本の学界等において定期種痘廃止論が討議されるようになつたのは、アメリカ合衆国やイギリスで定期種痘が廃止された昭和46年以降であり、その討議の中では、なるべく反応の弱いより安全な種痘に切り替えて行く必要はあるが、全世界の痘そう患者の発生状況に照らすと定期種痘の廃止までは踏み切れない、アメリカ合衆国やイギリスにおいて定期種痘を廃止したからといつて、日本が直ちに中止するのは時期尚早であるとの見解が有力であつたこと、昭和47年に証人福見秀雄は、定期種痘を廃止し、一定の者に対する選択的接種と検診・診断体制の強化、リングワクチネーシヨンの実施によつて痘そうの防疫は可能である旨の見解を表明したが、当時そのような意見は未だ少数意見であつたこと、1972年(昭和47年)には、ユーゴスラビアにおいて、イラクからの帰国者が痘そうを持ち帰り、国内に大流行させ患者175名、死者34名を出し国家としての機能が1、2か月間ほとんど停止するという状況が生じたこと、イギリス、アメリカ合衆国においては、定期種痘が廃止されたのちにおいても、例えば、1973年(昭和48年)にベネンソンがアメリカ合衆国において定期種痘廃止は時期尚早であるとの見解を出すなど、廃止に反対の意見がいくつか出されており、フランス、ベルギー等、イギリスの近隣諸国も、種痘廃止は時期尚早であり他の諸国に迷惑であると非難していたこと、日本においても、昭和48年に、種痘政策の変更に当つては、世界の痘そう流行状況の判定が根本になるべきで、今後数年間その動行を見たうえで判断すべきであるとの見解があつたこと、イギリスにおいては、定期種痘廃止後に痘そう輸入患者からの第2次感染による流行が相当数にのぼつたこと、1974年(昭和49年)にWHO痘そう専門委員会は、痘そう輸入の危険性の高い非常在国では、常在国と同じく生下時または生後間もない時期に種痘を行うべきであり、再種痘はすべての子供に対し入学時と更に10歳になつたころ確実に行うべきであること、危険の高くない非常在国では、保健機関がそれほど発達していない国が定期種痘を廃止すれば、痘そうが一度侵入するとそれが発見される前に特に感受性の高い住民の間で広くまん延するので、そのような政策は悲惨な結果をもたらすから、小児期にできるだけ早い時期に種痘をし学校入学時に再種痘をするということに重点を置かなければならないと報告していること、昭和50年当時においても、日本では、まだしばらくの間痘そう輸入に対する施策の充実を図りつつ痘そう根絶計画の経過、全世界の痘そう患者の推移を見た上で、できるだけ早い時期に種痘を廃止したいとの見解が多かつたこと、昭和51年に、伝染病予防調査会予防接種部会において、それまで継続検討して来た定期種痘の是非について答申がなされたが、それによれば、定期種痘の実施方法の政善案が示されたが、定期種痘自体を廃止すべきとはされなかつたこと、日本は昭和30年ころには痘そうの非常在国となつたが、当時、インド、バングラディシユ、パキスタン、アフガニスタン等で毎年痘そうが流行しており、これらの国から痘そうが侵入する危険性があり、また、中国の痘そう発生状況が不明であつたものであり、痘そうが日本に侵入する可能性が小さくなつたのは昭和50年以降であるとする見解があること、国際旅行が船で行われていた時代には、船内で約2週間の潜伏期間を経過し、その後の臨床症状の発現により検疫で感染者を発見することが可能であつたが、潜伏期間内においては痘そうの診断は容易でなく、航空機による大量高速旅行の時代になると、検疫段階で感染者を発見することは不可能に近いとの見解があること、日本において昭和48年と昭和49年の2回、痘そう輸入患者が発生したのは、航空機の大型化と高速化のもとでは、検疫段階で痘そうの侵入を阻止することは不可能であることを実証したものであるとの見解があること、日本で昭和48年と昭和49年に各1例ずつの痘そう輸入患者の発生があつたにもかかわらず2次感染の発生がなかつたことについては、輸入患者が日本人で種痘を受けていたため症状が軽く、咽頭部の粘膜に異常が見られず気道を介しての感染が極めて弱かつたと推定されるとか、接触者の側に定期種痘による免疫があつたことによると考えられる、などの見解があること、種痘の効果については、厚生省の研究班が昭和38年に第1期ないし第3期の3回の定期種痘を受けた者は、その後2、30年たつたのちにおいても一定の免疫効果がある旨研究報告していること、再種痘の効果については、1度種痘を受けると20年位は免疫記憶があり、抗原の攻撃が来ると初めての場合より非常に速やかに反応するという効果があり、再種痘は早期にかつ大きな