在外国民選挙権制限違憲判決
控訴審判決

在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件
東京高等裁判所 平成11年(行コ)第253号
平成12年11月8日 第5民事部 判決

控訴人 高瀬隼彦 外23名
右24名訴訟代理人弁護士 喜田村洋一 林陽子 古田啓昌 梅津立 二関辰郎 近藤健太

被控訴人 国
右代表者法務大臣 保岡興治
右指定代理人 渡邉千恵子 外8名

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人岡村弘之、控訴人中條石及び控訴人梅野満を除くその余の控訴人らの予備的請求に係る訴えをいずれも却下する。
三 控訴費用は控訴人らの負担とする。
四 控訴人岡村弘之、控訴人中條石及び控訴人梅野満を除くその余の控訴人らのために上告及び上告受理申立て期間に2週間を付加する。

 原判決を取り消す。

二1 主位的請求
(一) 公職選挙法(昭和25年法律第100号。ただし平成10年法律第47号による改正前のもの)は、控訴人岡村弘之、控訴人中條石及び控訴人梅野満を除くその余の控訴人ら(以下「控訴人ら21名」という。)に衆議院議員及び参議院議員の選挙権の行使を認めていない点において違法であることを確認する。
(二) 公職選挙法(昭和25年法律第100号。ただし平成10年法律第47号による改正後のもの)は、控訴人ら21名に衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙権の行使を認めていない点において違法であることを確認する。
2 1(一)又は(二)の請求に係る訴えが却下された場合の予備的請求(当審における新たな請求)
 控訴人ら21名が、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙において選挙権を行使する権利を有することを確認する。

 被控訴人は、各控訴人らに対し、金5万円及びこれに対する平成8年10月21日から各支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
[1] 事案の概要は、次項のとおりに一部を改め、三項のとおりに当審における当事者の主張を補充するほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

[2]二1 原判決2頁9行目の「原告らが、」を「控訴人ら(ただし、控訴人ら21名を除く3名は、現在日本に帰国している。)が国を被告として訴えを提起し、」に改める。
[3] 原判決2頁10行目の「(1)」を「(一)」に改め、同13行目の「違反すると主張して、」の次に行を改めて次のとおり加え、同3頁1行目の「[1]」および同5行目の「[2]」をいずれも削除する。
(1) 控訴人ら21名が、
 [1] 主位的に、」
[4] 原判決3頁8行目の「確認」の次に行を改めて次のとおり加える。
「[2] 予備的に、
 衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認」
[5] 原判決3頁10行目の「(2)」を「(二)」に改め、同行の「立法府である」の前に「控訴人らが、」を加え、同4頁1行目の「[3]」を削除する。
[6] 原判決11頁2行目の「原告らは、本件口頭弁論終結時」を「控訴人らは、平成8年10月20日の衆議院議員選挙当時」に、同4行目の「いないものである」を「いない者であり、控訴人ら21名は、本件口頭弁論終結時のおいても、右の状態に変化はない」に、同5行目の「原告ら」を「控訴人ら21名」それぞれ改める。
[7] 原判決13頁8行目の「B規約」を「市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)」に改める。
[8] 原判決15頁5行目及び同16頁11行目の各「原告ら」をいずれも削除する。
[9] 原判決21頁2行目から同25頁13行目までの各「原告ら」をいずれも「控訴人ら21名」に改める。
[10] 原判決30頁13行目の「違法」を削除し、同31頁3行目及び6行目の各「原告ら」をいずれも「控訴人ら21名」に改める。
[11]10 原判決31頁9行目の「違反するか。」の次に行を改めて次のとおり加える。
「(三) 控訴人ら21名が、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙において選挙権を行使する権利を有するか。」
[12](一) 日本国外に居住する日本国民が国政選挙において選挙権を行使することができないことが、憲法第14条第1項、第15条第1項、第3項、第43条及び第44条並びにB規約第25条に違反することは、次の点からも明らかである。
[13](1) 憲法及びB規約は、日本国籍を有する者に投票させるべきことについて、これを一義的に命じていることは明らかであり、どのような方法で在外日本人の選挙権の行使を確保するかは、国会の裁量が認められるところであろうが、投票自体を認めないことは、選挙権それ自体を否定することと変わらず、これについては、憲法及びB規約は国会に裁量の余地を与えていない。
[14](2) 在外日本人に選挙権の行使をさせないことは、住所地に基づく差別である。公職選挙法の定数配分規定の不均衡をめぐる一連の事件において、最高裁判所大法廷判決は衆議院議員選挙につき定数格差が1対3を上回るときは当該定数規定が違法であるとしているが、本件では、控訴人らは、海外に居住し又は居住していたことによって選挙権を行使し得ず又は行使し得なかったのであるから、日本国内に居住する日本人との投票価値の格差は無限倍とも評し得るものであり、これが違法と判断されるべきことは、右一連の最高裁判所大法廷判決に照らしても明らかである。

[15](二) 本件では、立法不作為による国家賠償請求が認められるべきであることは、次の点からも明らかである。
[16](1) 原判決の依拠する最高裁昭和60年11月21日第1小法廷判決・民集39巻7号1512頁(以下「60年判決」という。)は、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものであるとした上、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うといった例外的な場合でない限り、同項の適用上、違法の評価を受けないと解すべきであると結論付け、結果的に、立法行為を国家賠償で争う道を極めて狭めてしまっている。このように、60年判決が、立法の内容の違憲性と立法行為の国家賠償法上の違法性とを区分する議論によって、結果的に救済の道を極端に狭めたことについては、学説上、[1]区分論自体からは論旨を根拠づけるような特段の法的効果が生ずるわけではなく、[2]立法者が立法するに当たっての最も重要な行為規範は憲法であるから、立法内容に違憲性が認められる場合には、原則的に立法行為に違法性があると考えることが可能であり、[3]立法内容が違憲であれば職務上の法的義務に違背するものとして注意義務違反になるなど、多くの批判がされている。
[17] さらに、60年判決は、国会議員が原則として政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対して法的責任を負わないという結論を導くに当たって、右の区分論のほかに、[1]議会制民主主義の要請、[2]憲法における免責特権条項及び[3]立法行為の政治的性格という3つの理由を挙げているが、[1]の議会制民主主義の要請については、国民総体に対する責任としては政治的責任論が妥当するとしても、個々の国民に対する義務については法的義務が妥当するのであり、また、国会が合議制機関であることへの配慮が十分されていない上、多様な見解を立法過程に反映させるべき立場にあるとしても、また国民多数が支持したとしても、違憲行為が合憲化されるわけではないのであるから、理由たり得ないものである。また、[2]の免責特権条項は、国会議員の自由な討論を保障し、その職務の遂行に当たって制約を受けることのないようにしたものであって、本来違法な行為を適法とみなすとか、他人に損害を与えたとしても国が賠償責任を負わないなどといった趣旨を含むものではないので、これも理由たり得ないものである。[3]の立法行為の政治的性格についても、政治的なものが性質上法的責任の対象になじまないとすることには論理の飛躍があり、やはり、理由たり得ないものである。そのほかにも、60年判決については、その判示する極めて限定的な基準が立法行為についての国家賠償法上の責任要件を明文なしに故意重過失に限定したものであるという批判など、種々の批判が加えられている。
[18] したがって、60年判決の示した基準には、何ら妥当性が認められないので、これに代わるものとして、[1]立法をなすべき内容が明白であること、[2]事前救済の必要性が顕著であること、[3]他に救済手段が存在しないこと及び[4]相当の期間の経過という4要件が存すれば、立法不作為による国家賠償法上の責任を認めるべきである。本件では、右要件はすべて満たされているので、請求が認容されるべきである。
[19](2) 60年判決は、在宅投票制度の廃止に関するものであるが、当該事案では、在宅投票制度の廃止後も、原告は車椅子で投票所に行けば投票することができたのに対し、本件では、控訴人らは、もし投票所に行っても投票することができないのであって、選挙権の行使が不可能であり、選挙権が奪われているのであるから、事案が全く異なる。したがって、60年判決は、本件の先例として無価値である。
[20](3) 立法の不作為に関しては、60年判決は立法行為に対する国家賠償請求の可能性を事実上閉ざすものであり、合理的解釈を施す余地は十分ある。その場合には、「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している」という60年判決の判示を、憲法解釈上明らかに違反していると解される場合も含まれる」と解することも考えられるのであり、そう解すれば、本件は、60年判決のいう「例外的場合」に当たるということができる。
[21](4) 本件は住所に基づく差別と評価すべきであるところ、前記公職選挙法の定数配分規定の不均衡をめぐる一連の最高裁判所大法廷判決は、衆議院議員選挙につき定数格差が3倍を上回るときは当該定数規定が違法であるとして、一定の立法の立法裁量を認めているが、本件で控訴人らの受けている差別は、選挙権行使の機会を完全に奪われるというものであって、3倍以上の格差という量的な差別をはるかに上回っている。そして、仮に国会の立法裁量の問題があるとしても、投票価値の完全な平等を図ることとは異なり、在外日本人に選挙権行使の機会を与えることは十分可能なのであるから、本件につき国会の裁量権行使の限界を更に緩和すべき理由は何ら存しない。さらに、選挙制度の仕組みの具体的決定が国会の裁量にゆだねられるとしても、国会が考慮する要素の妥当性及び考慮要素のしんしゃくの程度が吟味されなければならないところ、原判決は、この点の検討を十分行っていない。原判決の挙げる混乱の回避、公正の確保、能率的執行の確保という点は選挙権を行使することができることを当然の前提として各人の権利行使を十全たらしめるために認められる考慮要素であって、これらの考慮により、在外日本人の権利行使のため国内の選挙人の場合よりも手続上の負担を課することなどは正当化することができるかもしれないとしても、選挙権の行使それ自体を完全に否定するためにこれらの考慮要素をしんしゃくすることは許されない。また、在外日本人には選挙に関する情報が不足しているはずであるという推論は、選挙権の行使それ自体を完全に否定する論拠とはなり得ない。以上によれば、前記のような差別状態を放置する立法の不作為が違法であることは明らかである。
[22](5) B規約では、海外居住者を含むすべての市民が現実に選挙権を行使することができることが保障されていなければならないとされているのであるから、原判決のB規約の解釈は誤っている。
[23](6) 裁判所が、立法の不作為を違法と判断した場合に、これを受けて立法府がどのような法律を制定するかは、専ら立法府が判断すべきことであり、右判断に特定の内容の立法を義務づける効果がないことは明らかであるから、このような判決が権力分立の基本理念に反することにはならない。

[24](三) 予備的請求の請求原因は、次のとおりである。
[25](1) 控訴人ら21名は、いずれも海外に居住する日本国民である。
[26](2) 憲法第15条は、すべての日本国民に選挙権を保障している。
[27](3) 被控訴人は、平成10年法律第47号による改正後の公職選挙法のうち在外投票に関する規定の施行(平成12年5月1日)前は、控訴人らが衆議院議員及び参議院議員の選挙権を行使することを拒否しており、右施行後も、控訴人ら21名が衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙権を行使することを拒否することが明らかである。

[28](四) 本件の確認の訴えが適法であることは、次の点からも明らかである。
[29](1) 法令の違法確認請求の訴えの適否は、当該人の状態が一般的状態であるか否かではなく、当該人が他の一般国民と異なった地位に基づいて請求をしているか否かによって判断されるべきである。控訴人ら21名は、日本国内に住所を有する圧倒的大多数の国民とは区別された地位において訴えを提起しているのであるから、本件の違法確認の訴えは、適法というべきである。また、個々特定の選挙が具体的に特定されてから(すなわち、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙が告示されてから)、現実の投票日までの日数は、控訴人ら21名が司法的救済を求めるには到底足りないので、個々特定の選挙が具体的に特定されなければ一般的、抽象的な権利又は資格にとどまるという解釈は、選挙権という最も重要な権利を侵害された控訴人ら21名の裁判を受ける権利自体を否定するものであり、不当である。
[30](2) 本件の違法確認の訴えは、特定の行政処分を対象とすることなく、公法上の権利に基づいて法令の違法確認を求めるものであるから、無名抗告訴訟には該当せず、実質的当事者訴訟である。したがって、無名抗告訴訟として許容されるべき場合に当たらないとする原判決は、前提を誤っている。
[31](3) 最高裁判所は、法律が憲法に適合しないとの判断をしたときは、その要旨を官報に公告し、かつ、その裁判書の正本を内閣及び国会に送付するものとされている(最高裁判所事務処理規則第14条)。これは、違憲判決が直接的な立法効果を有しないことを前提として、国家に対してしかるべき措置を求める趣旨である。また、現実にも、従前のいわゆる定数訴訟において、公職選挙法の定数配分規定が憲法の平等原則に違反する旨の最高裁判所の判決を受けて、数次にわたって同法が改正されている。このように、裁判所が違憲、違法を宣言すれば、国会がかかる判決を受けて法律を改正するであろうことは、十分期待されるところであり、これは憲法上の慣行となっている。したがって、本件においても、かかる意味において、本件の違法確認の訴えの確認の利益が肯定されるべきである。

(五) 各請求に対する考え方について
[32] 選挙は議会制民主主義を実現するための不可欠の手段であり、選挙権はそのための国民の最も重要な基本的権利である。選挙権の法的性質につき権利説を採ろうが、二元説を採ろうが、いずれにせよ、選挙権は、権利主体である成年者に対して投票の機会を具体的に保障しているものととらえられるべきである。したがって、投票の機会が奪われた場合には、憲法上の権利侵害に該当するため、憲法第32条の裁判を受ける権利に照らし、司法救済の機会が実質的に与えられなければならず、このことは憲法第76条、第81条の要請するところでもある。言い換えれば、侵害されても司法救済の機会が与えられないものは権利の名に値しないのである。立法不作為に着目する国家賠償や確認訴訟という訴訟類型を通じて、司法救済を行う場合も、右趣旨に照らし、権利救済に即した解釈運用を行うことが要請される。立法不作為の違憲確認が認められる要件は、憲法上の立法義務の存在と相当期間の経過の2つとされるべきであり、これらの要件が満たされる場合には、訴えを適法と解すべきである。本件では、投票条件の不備にとどまらず、投票が不可能な状態に置かれているのであるから、立法不作為という観点からの救済はもちろん、立法不作為を持ち出さなくても、端的に選挙権の侵害あるいは平等原則違反を理由とする司法救済も認められてしかるべきである。
(一) 国家賠償請求について
[33](1) 国会議員の立法行為が国家賠償法第一条第一項の適用上、違法の評価を受けるのは、立法の内容が憲法の一義的な文言に反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき容易に想定し難いような例外的な場合に限られることは、既に確立した判例というべきであり、これと異なる控訴人らの主張は失当である。
[34](2) さらに、裁判所が、国会議員の立法不作為に対して法的責任を問うこととなれば、それは、裁判所が個々の国会議員に対して特定の内容の法律を特定の時期までに立法すべき義務を課するのと変わりがないことになるので、立法不作為に対して違法の評価をするのは、作為に比べてより一層限定されると解すべきである。
[35](3) 在外日本人の選挙権の行使を容易にする制度を設けるか否か、設けるとして具体的にどのような制度とするかは、投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会にゆだねている憲法第47条の問題であるから、国会にこれに関する広い裁量権が認められていると解すべきである。そして、投票の方法は、全選挙人においてすべからく投票ができるものであることが望ましいことはいうまでもないが、選挙の性質上、おのずと一定の時間的、人的、物的設備面からの制約を伴うものであり、さらに、在外日本人の選挙権の行使については、それが我が国の領土外で行われるという特質により、選挙の公正を確保するため一定の措置を講ずる必要があるほか、選挙権の行使を認める選挙の範囲、選挙人名簿への登録手続、投票の方法、選挙犯罪の取扱い等の立法政策・立法技術上の問題点が多数存在する。したがって、在外日本人の選挙権の行使について憲法上一義的に一定の制度を設けなければならないことが明らかであるとは到底いい得ない。そうすると、改正前の公職選挙法が在外日本人の選挙権の行使を容易にする制度を設けなかったこと及び改正後の公職選挙法が一定の選挙についてのみ在外日本人の投票の方法を設けたことが、憲法の一義的な文言に反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき容易に想定し難いような例外的な場合に当たらないことは、明らかというべきである。

(二) 予備的請求に係る訴えについて
[36](1) 選挙権は、具体的な選挙において選挙人団の一員となる資格をいうのであって、これが具体的選挙に際して行使されない限り、一般的、抽象的な権利又は資格にとどまるものであり、個々の特定の選挙の際にその行使が妨げられることによって初めて、その権利義務ないし法律関係の存否について紛争が具体化するのである。本件の予備的請求は、特定の選挙における控訴人らの具体的な選挙権の行使を問題とすることなく、控訴人ら21名の抽象的、一般的な権利の存否についての判断を求めるものにすぎない。かかる請求は、結局のところ、公職選挙法に在外日本人の選挙に関する規定がなく、又はそれが不十分であるとして、抽象的、一般的に公職選挙法の違法の確認を求めるのと何ら異なるものではない。したがって、本件の予備的請求は法律上の争訟に当たらないので、これに係る訴えは不適法であるというべきである。
[37](2) 将来発生が予想されるにすぎない権利又は法律関係の確認を求める訴えを適法とすれば、現在において不確実な事実に基づく判断を裁判所に強いることになり、また、将来その権利又は法律関係が発生した時点では既に当該裁判が不要に帰していたというような裁判をも肯定することになる。そのため、将来の権利義務又は法律関係の存否の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして許されないのである。本件の予備的請求においても、もし、控訴人ら21名が将来の個々の選挙において具体的に選挙権を行使し得ることが確認されたとすれば、控訴人ら21名は、右判決が確定した時点から特定の選挙までの間に、例えば公職選挙法11条等に該当する事由が生じて選挙権を有しないこととなった場合などにも選挙権を行使することが可能になるという不合理を生ずる。したがって、本件予備的請求に係る訴えは、将来の権利義務又は法律関係の存否の確認を求めるものとして、不適法であるというべきである。
[38](3) 確認請求に係る訴えは、当事者間において、原告の権利又は法的地位に現存する危険・不安定を除去することができない場合には、即時確定の利益がないものとして不適法である。本件の予備的請求に係る訴えも、判決で請求が認容されても、右の危険・不安定が除去されるわけではないことは、主位的請求に係る違法確認の訴えの場合と同様であるから、確認の利益を欠くものとして、不適法であるというべきである。
[1] 当裁判所は、控訴人ら21名の主位的請求に係る訴えはいずれも不適法であってこれを却下すべきものであり、控訴人らの国家賠償請求は理由がなく、控訴人ら21名が当審において追加した予備的請求に係る訴えも不適法であって却下すべきものであると判断する。その理由は、次項のとおり、控訴審における当事者の補充主張及び予備的請求に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第三 当裁判所の判断」の一及び二1、2、4、に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決40頁2行目の「「第一請求」」を「「第一 控訴の趣旨」の二1」に改め、同4行目の「(請求一)」及び同6行目の「(請求二)」をいずれも削除し、同3行目から同13行目までの各「原告ら」をいずれも「控訴人ら21名」に改める。

[2]二1 控訴人らは、国会議員の立法不作為に対し国家賠償法上の違法が認められる場合の基準及び右基準に本件が該当することについて、詳細な主張をしている。
[3] しかし、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うといった例外的な場合でない限り、国家賠償法第1条第1項の適用上、違法の評価を受けないのであって、国会議員の立法不作為が違法となる場合の基準も同様であることは、原判決が正当に判示するとおりである。
[4] そして、原判決の判示するところのほか、(1)平成10年法律第47号による公職選挙法の一部改正によって衆議院議員及び参議院議員の選挙を対象にして在外日本人の選挙権の行使に関する在外選挙制度が創設され、当分の間は衆議院又は参議院の比例代表選出議員の選挙に限られてはいるものの、平成11年5月1日から在外選挙人名簿への登録が、平成12年5月1日以降実施される衆議院議員総選挙又は参議院議員通常選挙から在外投票が、それぞれ実施されることとなっていること、(2)控訴人らが国内に住所を有せず住民登録をしていないことは、自己の選択の結果であって、日時の経過により変わり得るものであり、このような国内に住所を有せず住民登録もないという状態の継続している期間中、右状態に対応した選挙権行使の面における取扱いの区別がされることは、生来の人種、性別、門地や、信条、身分、財産等により不合理な差別がされることとは、大きく性質の異なるものと解すべきであることも考え合わせると、国会が、公職選挙法を改正して在外日本人について国政選挙における選挙権の行使を行わせるための特別な措置を設けることをせず、あるいは右措置を設けたものの、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙において選挙権を行使できるようにする措置を設けなかったことが、前記の例外的な場合に該当しないことは、明らかなところといわなければならない。
[5] 控訴人らの主張は、いずれも独自の議論を展開するものであって、採用することができない。

[6]2(一) 控訴人ら21名は、本件の確認の訴えの適法性につき、控訴人ら21名は、一般的状態に基づくのではなく、日本国内に住所を有する圧倒的大多数の国民とは区別された地位において訴えを提起しており、これを適法と認めなければ、選挙権という最も重要な権利を侵害された控訴人ら21名の裁判を受ける権利自体が否定されるものであって、実質的当事者訴訟として適法であり、従前の憲法上の慣行に照らして確認の利益も認められるなどと、詳細な主張をしている。
[7](二) しかし、原判決の判示するように、憲法は,選挙を公正かつ能率的に執行するために国民の選挙権行使に必要な制約を加えることも含め、選挙に関する事項の具体的決定を、憲法上正当な理由となり得ないことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除き、原則として立法府である国会の裁量にゆだねており、選挙権の具体的な行使の態様、条件等は公職選挙法の定めるところである。そして、同法に照らせば、現に控訴人らの中にも帰国して住民登録をしたことにより、選挙権の行使の可能となった者もいるように(弁論の全趣旨により認められる。)、住所や居所の定め方を含む当該人の行動等諸般の事情次第で、特定の選挙において実際にどのようにして選挙権を行使することができるかが左右されるものである。そうだとすれば、控訴人ら21名の主位的請求に係る違法確認の訴えは、単に在外日本人であるということを理由に、公職選挙法の規定の一部の違法確認を求める訴えと解さざるを得ないから、このような訴えは、具体的紛争を離れて、抽象的、一般的に法令等の違憲あるいは違法性等に関する判断を求めるものといわなければならず、裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」に該当しないので、不適法である。
[8] なお、個別具体的な選挙において国民の選挙権が侵害された場合には、その態様により、抗告訴訟、国家賠償請求訴訟、あるいは選挙訴訟等の手段が考えられるのであって、控訴人ら21名の選挙権(在外日本人も、所定の条件の下、選挙権自体を有していることは明らかである。)について、すべて司法的救済の道が閉ざされているということはできない。
[9](三) また、控訴人ら21名の予備的請求に係る選挙権確認の訴えは、直接法令等の違憲あるいは違法性等に関する判断を求める訴えではないが、改正後の公職選挙法が、在外日本人のために衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙において選挙権を行使する措置を設けていないことは当事者間に争いがないのであるから、それなのに右各選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求めるというのは、裁判所に対して、同法が在外日本人に右各選挙において選挙権を行使する権利を認めていないことの違憲、違法を宣言することを求めているのか、又は右行使をする権利を創設することを求めるものといわなければならない。そうすると、右訴えも、主位的請求に係る違法確認の訴えと同様、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ではなく、抽象的、一般的に法令等の違憲、違法をいうか、又は更に一般的に権利を創設する判断を求めるものといわざるを得ず、裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」に該当しないことは明らかであるから、不適法といわざるを得ない。
[10](四) さらに、控訴人ら21名は、選挙権が権利主体である成年者に対して投票の機会を具体的に保障しているものであって、投票の機会が奪われた場合には、憲法上の権利侵害として司法救済の機会が実質的に与えられなければならず、侵害されても司法救済の機会が与えられないものは権利の名に値しないのであるから、本件においては、右趣旨に照らし、権利救済に即した解釈運用を行うべきであるところ、本件では、投票条件の不備にとどまらず、投票が不可能な状態に置かれているのであるから、選挙権の侵害あるいは平等原則違反を理由とする司法救済が認められてしかるべきである旨主張している。
[11] しかし、我が国の憲法は、国家権力の行使を、立法を担当する国会、行政を担当する内閣及び司法を担当する裁判所に分属させるという権力分立の基本理念に立ち、裁判所については、具体的・現実的な争訟の解決を目的とするいわゆる司法裁判所を設け、抽象的、一般的な法令についての判断等を行ういわゆる憲法裁判所は設けていないのであるから、このような現行制度の下においては、訴訟の対象となり得るものは、国民の具体的な権利義務、法律上の地位に直接影響を及ぼすものでなければならず、前記のように具体的・現実的な争訟を離れて抽象的、一般的な判断を求める主位的請求に係る違法確認の訴え及び予備的請求に係る選挙権確認の訴えが許されないことは、憲法の仕組みに照らしても、当然のところというべきである。
[12] なお、個別具体的な選挙において国民の選挙権が侵害された場合に、すべて司法的救済の道が閉ざされているというわけではないことは、既に説示したとおりである。
 以上によれば、控訴人ら21名の主位的請求に係る違法確認の訴えを不適法としていずれも却下し、控訴人らの国家賠償請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴人ら21名の予備的請求に係る訴えは不適法であるから、これをいずれも却下することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第67条第1項、第61条、第65条第1項を、付加期間の定めにつき同法第96条第2項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 飯田敏彦  裁判官 小野田禮宏  裁判官 菅野博之)

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