国籍法違憲訴訟
控訴審判決

退去強制令書発布処分取消等請求事件
東京高等裁判所 平成17年(行コ)第134号
平成18年2月28日 判決

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


 原判決を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。


 主文同旨
 被控訴人が日本国籍を有することを確認する。
[1] 本件は,外国人女性を母とし,日本人男性を父親として本邦で出生した被控訴人(平成9年11月20日生まれの男児)が,出生後父親から認知を受けたことを理由に法務大臣宛に国籍取得届を提出したところ,被控訴人が国籍取得の条件を備えているものとは認められないとの通知を受けたことから,控訴人に対し,日本国籍を有することの確認を求めた事案である。なお,被控訴人の母(フィリピン国籍)は,被控訴人の出生当時本邦における在留資格を有していなかったことから,被控訴人及びその母に対して退去強制手続が行われ,本件訴訟に併合して,出入国管理及び難民認定法第49条第1項に基づく被控訴人及びその母の異議の申出は理由がない旨の法務大臣裁決及び東京入国管理局主任審査官の両者に対する退去強制令書発付処分の適法性がそれぞれ争われていたが(東京地方裁判所平成14年(行ウ)第404号,同411号事件),平成16年12月28日,被控訴人及びその母に期間1年間の在留資格が付与されたことから,上記の両事件は,平成17年1月18日,訴えの取下げによって終了した。

[2] 被控訴人は,本訴において,出生後に父の認知を受けたことにより,選択的に,(1)国籍法(以下,単に「法」という。)第2条第1号に基づいて,出生時に遡って日本国籍を取得した,(2)出生後の父の認知及び父母の婚姻を日本国籍の取得要件として規定する法第3条第1項の規定が違憲無効であるから,父母の婚姻という要件を具備していなくとも日本の国籍を取得した旨を主張して,日本国籍を有することの確認を求めているところ,原判決は,被控訴人の上記(2)の主張について,法第3条第1項は,準正子と,父母が法律上の婚姻関係を成立させてはいないが内縁関係(重婚的内縁関係を含む。)にある非嫡出子との間で,国籍取得の可否について合理的な理由のない区別を生じさせている点において憲法第14条第1項に違反する旨を判示して,被控訴人の請求を認容したので,これを不服とする控訴人が控訴を提起した。

[3] 法令の定め,前提事実及び当事者双方の主張は,原判決「事実及び理由」欄「第2 事案の概要」の1ないし4(原判決1頁24行目から同17頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
[4] ただし,原判決5頁11行目から13行目までを以下のとおり改める。
ア) 認知の効力は遡及するから,被控訴人は,生後認知を受けたことにより,法第2条第1号に基づき,出生時に遡って,日本国籍を取得した。
イ) 生後認知を受けた嫡出でない子について,父母が婚姻したときに限り日本国籍の取得を認める法第3条第1項は,憲法第14条第1項に違反し,無効である。そして,同項が届出を要件としたことも無効であるから,被控訴人は,認知のときに日本国籍を取得したというべきであり,そうでないとしても,本件届出により日本国籍を取得した。」
[5] 現行の法は,日本国籍の取得について,父又は母が日本人である子は日本国民であるとする扱いが我が国の国民感情に合致していることを前提に,血統主義を採用したが,その中でも,父母ともに日本人であることを要件とするのではなく,両性平等の観点から,父か母のどちらかが日本人であれば足りるとする考え方を基調としているということができる。そして,日本国籍取得の要件として,出生時に父又は母が日本人であること(法第2条第1号)を原則とし,かつ,法第2条第1号は,単なる人間の生物学的出自を示す血統が証明されれば足りるとすることなく,子の出生時に日本人の父又は母と法律上の親子関係があることを要する旨を規定するものと解され,同号の適用上,認知の遡及効が否定される結果(最高裁判所第二小法廷判決平成9年10月17日民集51巻9号3925頁,最高裁判所第二小法廷判決平成14年11月22日裁判所時報1328号1頁参照),父が日本人である子であっても,出生時において,父と子との間に法律上の親子関係がない場合は,たとえ,生後認知を受けた者であっても,同号による日本国籍取得が認められず,このような者が日本国籍を取得するには,本来であれば,帰化の手続を経なければならないものであるところ,特に,法第3条第1項を設けることによって,出生時に日本人である父との法律上の親子関係を有していなかった嫡出でない子においても,父母の婚姻と父による認知という要件を満たせば,届出による日本国籍取得の途を開いたものであって,同項は,血統主義を採用した法において,出生時に日本人である父との法律上の親子関係を有していなかった嫡出でない子につき,準正(法例第19条,民法第789条)を理由とする日本国籍の取得を認める補完的手段であると位置づけることができる。

[6] ところで,先ず,被控訴人は,法第2条第1号に基づいて,出生後父による認知を受けたことにより,出生時に遡って日本の国籍を取得したとして,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めているところ,同号は,単なる人間の生物学的出自を示す血統が証明されれば足りるとするものではなく,子の出生時に日本人の父又は母と法律上の親子関係にあることを要する旨を規定するものと解され,同号の適用上,認知の遡及効が否定される結果,出生時に日本人の父と法律上の親子関係がない場合は,父が日本人である子であっても,生後認知を受けた者が日本国籍を取得するには,帰化の手続を経由するか,そうでなければ,法第3条第1項所定の要件を具備しない限り,日本国籍を取得することはできないというべきであるところ,本件全証拠によっても,被控訴人については民法第783条所定の胎児認知がされた事実はなく,したがって,被控訴人とその父との間には,被控訴人の出生時において,法律上の親子関係にあったことは認められないから,被控訴人が法第2条第1号に基づいて日本国籍を取得することはあり得ないというほかない。したがって,被控訴人の上記主張は失当というほかない。

[7] 次いで,被控訴人は,法第3条第1項の規定が,同じく日本人である父の認知を受けた子でありながら,父母が婚姻した者には日本国籍の取得を認め,父母が婚姻していない者にはこれを認めないことが,憲法第14条第1項に違反することを理由に,法第3条第1項が無効であることを主張して,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めている。
[8] しかしながら,被控訴人の本件請求は,法第3条第1項の規定が,同じく日本人である父の認知を受けた子でありながら,父母が婚姻した者には日本国籍の取得を認め,父母が婚姻していない者にはこれを認めないことが,憲法第14条第1項に違反することを理由に,法第3条第1項が無効である旨を主張し,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めるものである。
[9] 父又は母が日本人である子の日本国籍取得に関する法の構造は前記のとおりであって,その第2条第1号において,子が出生のときに父又は母が日本国民であるときに当該子を日本国民とすると規定しているが,その規定の趣旨からすると,出生時に子と法律上の親子関係がなかった父が子が出生した後に認知をしたとしても,当該子が日本の国籍を取得することにはならず,法第3条第1項において,父母の婚姻及び父による認知により嫡出子たる身分を取得した子が届出をした場合に初めて当該子が日本の国籍を取得することができることとされているところ,父の認知を受けたが父母が婚姻をしないため嫡出子たる身分を取得しない子が,同項により日本の国籍を取得することができる者に含まれていないことは,同項の文言及び趣旨に照らして明らかであるから,法において,出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子の身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度は規定されていないことは明らかといわざるを得ない。被控訴人は,出生後の父による認知を受けたが父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子についても,日本の国籍を取得するべきである旨の主張を根拠として,法第3条第1項に規定する父母の婚姻及び父による認知という要件を具備した場合に当該子が日本の国籍を取得する制度を規定している同項が憲法に違反して無効である旨主張するが,上記のような国籍法の規定内容に照らすと,仮に同項の規定が無効であるとすれば,父母の婚姻及び父による認知要件を具備した子において日本の国籍を取得する規定の効力が失われるだけであって,そのことから,被控訴人の主張するような出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度が創設されるわけではないことも明らかといわざるを得ない。しかも,被控訴人の主張するように,仮に法第3条第1項の規定が無効であるとなれば,同項所定の要件を具備する子が日本の国籍を取得することができるのに対して,出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得できないことが不合理であるとの主張を維持することができなくなることも明らかである(なぜならば,法第3条第1項の規定が無効であるならば,同項所定の要件を具備した子であっても日本の国籍を取得することができなくなるからである。)。そうすると,被控訴人が,出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子についても,日本の国籍を取得することができると解すべきであるとの主張を前提として,法第3条第1項の違憲無効を主張することは,法理論的に明らかな矛盾を含む主張であり,したがって,被控訴人の上記憲法違反の主張は,控訴人の立法不作為の責任を追及する趣旨のものにはなり得ても(なお,前記第二小法廷判決平成14年11月22日の事案と異なり,本件においては,被控訴人は国家賠償法に基づく損害賠償請求をしていない。),被控訴人の日本国籍を有することの確認を求める本件請求を認める根拠とはなり得ないといわなければならないから,それ自体が失当というほかない。

[10] もっとも,被控訴人の主張するところの真意を斟酌すれば,法第3条第1項が,日本人である父の生後認知を受けた子において,父母の婚姻によって準正が成立した場合に,日本国籍の取得を認めているのであり,かつ,被控訴人の父母は婚姻関係はないが,事実上婚姻と同視し得る内縁関係にあるのであるから,日本人である父による生後認知を受けた被控訴人についても,同項を類推適用し,あるいは,同項の拡張解釈によって,被控訴人にも日本国籍の取得を認めるべきであるとの主張とみる余地もないではないので,以下には,この観点から検討をすることとする。
[11] 確かに,ある法律を本来予定されたのと類似の事項に適用したり(類推適用),条文の語句を広義に従って解釈すること(拡張解釈)が相当な場合があり得ることは否定することができない(前記最高裁判所第二小法廷判決平成9年10月17日,最高裁判所第一小法廷判決平成15年6月12日裁判所時報1341号178頁参照)。しかしながら,そのような場合においても,立法者の意思を離れてこれを行うことは許されないというべきであり,したがって,特に,本件においてその解釈が争点とされている国籍法については,規定する内容の性質上,もともと,法律上の文言を厳密に解釈することが要請されるものであり,立法者の意思に反するような拡張ないし類推解釈は許されないというべきである(最高裁判所第二小法廷判決昭和48年11月16日民集27巻10号1333頁参照)。上記最高裁判所第二小法廷平成9年10月17日判決及び同第一小法廷平成15年6月12日判決は,法律上の夫がある外国人女性が懐胎した子について,日本人である父が適法に胎児認知をすることができなかった場合において,子の出生後速やかに当該子と母の夫との親子関係がないことを確定する手段が講じられ,かつ,同親子関係不存在が確定した後に父が子を認知したという事案において,胎児認知がされた場合に準じて,当該子が法第2条第1号により,日本国籍を取得したことを認めたものであって,法第3条第1項により日本国籍を取得したというために,生後認知があったというだけでなく,父母の婚姻したことを要するにもかかわらず,被控訴人の父と母との間において,現実に婚姻が成立していない本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。また,法第3条第1項は,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子」とその要件を明示し,「婚姻」,「認知」あるいは「嫡出子」という概念によって,立法者の意思が一義的に示されているものである上,同項が,血統主義に基づく日本国籍の取得における原則を定めた法第2条第1号の適用のない者について,日本国籍取得を認める例外的,補完的な性質を有する規定であって,本来むやみに拡張を許すべきものでないことを考えれば,法第3条第1項の類推解釈ないしは拡張解釈によって,被控訴人の日本国籍取得を認めることはできないものというほかない。そして,法第3条第1項は,国籍取得の要件として,父母の「婚姻」を規定し,しかも,父母の婚姻及びその認知により「嫡出子」たる身分を取得した子と規定しているところ,被控訴人の主張するような事実上の婚姻関係(内縁関係)を同項が国籍取得の要件として規定している「婚姻」に含まれるとの拡張ないし類推解釈をすることは許されないというべきである。
[12] なお,被控訴人の法第3条第1項の違憲無効の主張を,同項のうち「婚姻」ないし「嫡出子」を要件とする部分だけを違憲無効とし,もって同項を上記のように拡張ないし類推解釈するべきであるとの主張として解する余地もないではないが,同項の「婚姻」が事実上の婚姻関係(内縁関係)を含むものと解釈し得ないことは上記のとおりであって,被控訴人の主張を上記のように解したとしても,それは,結局,裁判所に類推解釈ないしは拡張解釈の名の下に国籍法に定めのない国籍取得の要件の創設を求めるものにほかならないというべきところ,裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは許されないものというほかない。
[13] したがって,被控訴人の主張を上記のようなものと解したとしても,理由はなく,失当といわざるを得ない。

[14] 以上のとおり,仮に法第3条第1項が,憲法第14条第1項に違反し,その一部又は全部が無効であったとしても,そのことから当然に被控訴人が日本国籍を取得することにはならないし,また,被控訴人が法第3条第1項の類推適用ないしは拡張適用によって,日本国籍を取得したということもできない。

[15] 本件においては,被控訴人は,前記のとおり,出生後に父の認知を受けたことにより,選択的に,(1)法第2条第1号に基づいて,出生時に遡って日本国籍を取得した,(2)出生後の父の認知及び父母の婚姻を日本国籍の取得要件として規定する法第3条第1項の規定が違憲無効であるから,父母の婚姻という要件を具備していなくとも日本の国籍を取得した旨を主張して,日本国籍を有することの確認を求めているところ,原審以来,被控訴人は,法第3条第1項の違憲無効を主張しており,本件における主要な争点とされてきた経緯があるけれども,上記(1)を前提とする請求については,被控訴人の法第3条第1項についての違憲無効の主張は何ら関連性がないことは明らかであるのみならず,上記(2)の主張を前提とする請求についても,上記違憲無効の主張は,仮にこれが肯定されたとしても,上記請求の根拠となり得ないことは前記のとおりであり,したがって,上記違憲無効の主張に対する判断を裁判所が示すことは,具体的な紛争の解決に直接かかわりのない事項について一般的に憲法判断を示すこととなり,違憲立法審査権を規定する憲法第81条の趣旨に反することとなり,許されないというべきである(最高裁判所大法廷判決昭和27年10月8日民集6巻9号783頁参照)。
[16] 以上のとおり,被控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきところ,これを認容した原判決は,不当といわなければならず,本件控訴は理由がある。
[17] よって,原判決を取消し,被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第21民事部
  (裁判長裁判官 浜野惺  裁判官 高世三郎  裁判官 長久保尚善)

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