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キャッスル夫妻『モダン・ダンシング』

──革新主義期アメリカにおける「モダン」の意味──

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キャッスル夫妻について
 




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キャッスル夫妻のダンス教本(表紙)


『モダン・ダンシング』
  とてもきれいな装丁の書物です。表紙には夫妻のダンスシーンを撮した写真 が貼り付けられている。中にもたくさんの写真が収められていています。ダ ンスのステップについては、コマ撮りの連続写真が掲載されているのですが, じっくり眺めてみても、どんなフィガーなのかよくわかりません。むしろ キャッスル夫人アイリーンの衣装の方が興味深い。なんといっても時代の ファッションをリードした人ですから。

  原著のタイトルは、以下の通り。Mr. and Mrs. Vernon Castle, Modern Dancing (New York: World Syndicate Co., published by arrangement with Harper & Brothers, 1914). この書物が出版された前後のことをNew York Times 紙で調べたところ、アメリカ生まれの「いわゆるモダン・ダンス」に対する批判 が、海外で、その後米本国で、沸き上がっていたことが分かりました。当時の "modern dancing" には最新流行のダンスという意味ももちろんあったのです が、ダンスの語に冠して用いられた「モダン」という言葉には 特別の意味があったと考えられるので、あえて日本語に置き換えず、 そのまま「モダン」とすることにしました。

  本書は1914年にニューヨークで出版されました。いわゆる「革新主義の時代」で す。女性の社会進出が目立つようになった時代であり、さまざまな社会改良運動 が進展しました。私は、時代の社会改良運動と夫妻のダンスとのかかわりが気 になって、両者を関連づけるような研究があるのではないかと思ってウェッブで 検索してみたのですが、いまのところみつかっていません。ただ、本書の序文を 読むと,夫妻が時代の支配的な価値観と闘っていたことがうかがえますから,そ んな研究があっても不思議ではありません。

  序文にはこんなことが書かれています。 「わたくしたちは本書が二つの方向でお役に立てると思っています。なによりも まず、モダン・ダンスの基礎について簡潔明瞭に説明することを目指しています。 もひとつは、ダンスを上手に演ずることで、これが下品でみだらなものではなく、 むしろその正反対、優雅さや上品さ、しとやかさを体現するものだということを 示すことなのです。」

  どこの国でも(少なくともキリスト教が影響を及ぼした世界では),昔は、社交 ダンスは下品でいかがわしいといった考えが支配的でした。とくに19世紀ヴィク トリア期のアメリカでは、ピューリタニズムの倫理の影響が強く、それが女性を 家庭内に閉じこめる圧力になっていましたし、同時に,社交ダンスに対する否定 的な言説のよりどころにもなっていました。こうした風潮を打破する革新が世紀 転換期に進展いたします。自転車と新しいダンス・スタイルです。この二つはど ちらも、人々の行動半径を広げ,人と人との出会いを媒介する手段になったから です。

  伝統的な価値観に対抗し、時代の社会改良運動を味方に引き入れ、モダン・ダン スの社会的地位を引き上げようとの意図がキャッスル夫妻にはあった。「わたし たちの目的はダンスを向上させ、純化して、それにふさわしい光をあたえること なのです。こうした努力がなされた暁には、みだらであるとの理由でダンスに反 対する人はいなくなり、むしろ社会改良家たちは医療専門家の次のような見解に 与することになるでしょう。すなわち、ダンスは心身の健康促進剤であり、若さ を保ち,寿命を延ばし、優雅さと上品さと美しさを手にいれる手段にほかならな い。」こういうわけで、本書には、ニューヨークの著名な医師の筆になる「ダン スと健康」と題する論説が巻末に収められています。





後世への影響
 






参考文献
  1. Irene Castle, as told to Bob and Wanda Duncan. Castles in the Air. Garden City: Doubleday and Co., 1958.

  2. "The Story of Vernon and Irene Castle." Movie, RKO, 1939. Directed H.C. Porter. The film stars Fred Astaire and Ginger Rogers.







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