Galileo

ガリレオ通信

第6号

(November 7, 1998)




【天文対話】
☆☆近況報告★本年4月より京都産業大学経営学部でアメリカ経営史を担当することになりました。担当科目はその他に,2年生対象の経営史と外書セミナー;3年生対象のゼミナール。新しい職場で気分も爽快,すぐれた同僚に囲まれて刺激的です。目下,年来の研究テーマで論文をまとめ,『革新主義期アメリカにおける労使関係管理革命』なるタイトルの書物にまとめようと思っていますが,完成までにはまだ時間がかかりそうです。 ★今年は札幌でのさよなら公演,京都での顔見せ公演というわけで,学会報告が目白押しでした。10月31日のアメリカ経済史研究会全国大会(東北大学)で今年の日程を終了し,一息入れるているところです,と書くつもりでした。ところが,この研究会の世話人を仰せつかり,大変なことになってしまった。

☆☆転任の挨拶状からの抜粋★いま住んでいるところは京産大の職員住宅ですが,この建物は別名「ピサの斜塔」と申しまして,見た目にも傾いているのが明らか,床にボールを置くと自然に転がるという,四つ星,京都市推薦優良住宅なのです。札幌にいるときには気づかなかったのですが,あの頃は随分リッチな生活をしていたのだなあと,北の空を眺めながらふと物思いに耽る今日この頃です。しかしながら,現在の刺激的な研究環境と上賀茂の風光を考え合わせると,やはり京都に来てよかったと思います。★わたしは豆腐と京野菜のファンになりました。はじめのうちは「京漬け物」「京風味」などという言葉に接しても,「京」をつけて高く売るのが「京商売(あきない)」であろうと端から信用していなかったのですが,ものによってはどうもそうではないらしい。このことが最近わかってきた次第です。近くで採れる賀茂茄子などは実がしっかりしていて,煮ても焼いても歯触りよく,とても美味しくいただけます。

☆☆昨年12月,情報大学での最後のゼミナール合宿を,思い出深い凌雲閣(十勝岳温泉)で行い,Y.さんはじめ会田家の人たちと旧交を温めました。ユッコは今春結婚し,秋に新婚旅行に出かける予定。おめでとう。★10月18日の日曜日,上賀茂の大学研究室を圭二さんと二人で訪ねてくれた。三人でS.達郎の卒論(小説)を論評したり,昔の凌雲閣の思い出などを語り合い,楽しい時を過ごした。

☆☆散歩道★この言葉をサンポミチではなくて「さんぽどう」と読ませた最初の人は,おそらく中国史家,宮崎市定であろう。彼に言わせれば,日本人はなんでもドウが好きだという。書道,剣道,柔道,茶道,弓道,華道,武士道とならべた宮崎先生はさらに付け加えて,餓鬼道,極道まであるとおっしゃる。だから毎日欠かさずに出掛ける散歩に,ドウのないのはおかしいじゃないか,いっそこれもドウにしてしまえ,ドウですかというのです。そこで最終的に宮崎先生のおっしゃりたいことは,散歩をそのようなドウにしようとしても,どうにもならない日本の道路事情を告発し,それを日本の民主主義の脆弱さのあらわれとして批判の俎上に載せるのである。お手並み鮮やか,と思わず膝を打ちたくなる。★ところでわたしが宮崎先生の一文に興味を持ったのは,年代的にはこちらの方が早いのだが,ヘンリー・デヴィド・ソローという19世紀アメリカの思想家が,宮崎先生の論理とよく似た手法で同様のことを書いているからである。ただし,アメリカの場合,剣道,柔道のような「ドウ」がないから,別の概念装置が必要なわけで,この点を丁寧に見ていくと,日米文化の比較研究が出来るような気がする。

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【星界の報告】
★Nakajima Yoshi:「最近はお互いに生活と仕事に追われて忙しく,かつてのように自由闊達に対話し交流する機会が持てずにいるのは残念です。しかし,これも各自が社会のそれぞれの現場で格闘している結果なのであれば,再会する機会が少ないのも当然のことなのでしょう。」 ★Kobayashi H.:「資料の宝の山に出会われた由,嬉しく思います。……こちらは資料の中から抜け出せなくて,苦しんでいます。」 ★金沢さん:「アメリカからのお便りありがとうございました。いよいよ修論。頑張ります。」 ★河野さん:「ごぶさたしてますが,お元気ですか?上のさんのはがきはきれいでいつもたのしみにしています。」いや〜〜,どうもありがとう。

☆☆上野ゼミナールの卒業生★★《1995年3月卒》◆K.S.さん:新千歳空港測候所観測課に勤務。 ★★《1996年3月卒》◆達郎:東京の警備会社で働きながら,創作活動に専念している。1月18日に釧路の高橋君と拙宅を訪ねてくれた。昼間からお酒を飲んで正月を祝う。◆宏明:釧路からわざわざ出てきたので,大いに飲み,歓談した。楽しいこと限りなし。★大樹:学習塾経営。 ★Y.K.さん (北星学園):日本語教師。★★《1997年3月卒》◆良介:手紙と電話をもらう。元気にしているか。 ◆倫弘:電子開発学園本部に勤務。何をしているのかわからない。◆M.良行:正月に葉書をもらう。「この度のガリレオ通信ありがとうございました。……私は放浪中とありましたが,昨年の4月末までスキー場で働き,5月1日から夕張市役所の嘱託職員をやっております。大学で先生に習ったとおり,いまも一ヶ月に2〜3冊の本を読んでいます。最近読んだもので面白かった本は,本多勝一著『事実とは何か』,開高健著『知的な知的な教養講座』,ドストエフスキー『罪と罰』etc. また面白い本を読んだらお手紙書きます。……」なるほど,書物の世界を放浪していたようだ。葉書には差出人の名前がなかったが,内容からすぐにわかった。◆堀:家業の水産中卸業。

☆☆《1998年3月卒:上野ゼミナール学位授与者》Y.N.:論文タイトルは「女性の人権と日本近代の歴史構造――ジェンダーの視点からみた性別役割分業を中心に――」。本論文は,日本女性の人権,とくに性別役割分業の問題について,それを歴史的なパースペクティブから検討し,来るべき21世紀における豊かな両性の関係を展望しようとする試みである。文章表現と論文の構成に苦しんだようだが力作である。なお,使用文献・資料が総じて月並みで準備不足が目立つことが問題点として指摘されよう。基本的な構想は早期に出来あがっていたにもかかわらず,取り組みがあまりに遅かったのがその原因である。卒業論文はこれからさらに学ぶための一里塚であり,そのことを肝に銘じて,卒業とともに書を捨ててしまうことのないよう切に願う。」就職:警察官。
☆☆京都産業大学★★《3年生》たくさんいるので,いちいち名前を挙げません。わたしのホームページをご覧ください。人数が多いですが,まあ,ぼちぼちやっていきますか。

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【地球は回っている】
☆☆昨年ゼミナールで取り上げた書物★大河内暁男『経営構想力』東京大学出版会★ゼライザー『モラルとマーケット――生命保険と死の文化――』千倉書房.これはお薦めの一冊。とても面白い。★ニール・ボールドウィン『エジソン――20世紀を発明した男』三田出版会, 1997。 ☆☆今年読んでいる書物★『アメリカ黒人と北部産業――戦間期における人種意識の形成――』彩流社, 1997。

☆☆読書案内,第3回目★河上肇『貧乏物語』(岩波文庫)★凡百の経済学書を繙くよりも,この一書を読んだほうが経済学がよく分かる。大正時代に書かれたものゆえ,記述内容は現代にそのまま当てはまるというものでは勿論ないが,経済学が人生哲学になっている点がなかんずく重要なところだ。河上いわく「教育の効果をあげるためには,まず教わるものに腹一杯飯を食わしてかからねばならぬ」。それでは問うが,今日,腹一杯飯を食わせても教育の効果が上がらないのは一体なぜか。実に本書は問題発見の手引き書である。

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【エピローグ】
★『ガリレオ通信』は,不定期に,気の向くまま発行してきたゼミナール便りです。あまりに忙しいので発行の頻度を落とすかもしれませんし,刊行を一時中断するかもしれません。息長くあまり頑張らずに続けていけたらと思っています。★なお,これまで住所のわかるゼミナールOB・OGの全員に郵送してきましたが,前号で予告したとおり,今号より,本人から返事のあった場合にだけ送ることに致します。京都の現在の住まいでは,郵便局にでるのも一苦労で,本紙の郵送にこれまで通り記念切手を使えるかどうか微妙な状況です。なお,本紙は電子化してホームページに載せましたので,第7期以降のゼミ生(京都産業大学)への郵送サーヴィスは行わないことにいたしました。 ★健康管理に気を配り,元気にお過ごしください。普段頑張っている人は「だらりんこ」とお過ごし下さい。
★上野ゼミナールの本拠地は変わりましたが,組織の継続性は保たれております。札幌時代の学生で,京都を訪ねることがありましたら,ちょっと声をかけてください。上賀茂の風光を一望できる研究室に毎日通っています。研究室に電話をしてくれれば,たぶんつながるはずです。★『ガリレオ通信』に原稿をお寄せください。電子メールで送ってくださると助かります。



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