議員定数不均衡訴訟 参議院合憲判決(平成16年)
第一審判決

選挙無効請求事件
東京高等裁判所 平成13年(行ケ)第383号
平成14年10月30日 第15民事部 判決

原告 越山康 ほか12名
   原告山口邦明を除く原告ら訴訟代理人弁護士 山口邦明
   原告森徹を除く原告ら訴訟代理人弁護士   森徹
   原告野々山哲郎訴訟代理人弁護士      玉井信人
                同       森本香奈
原告ら補助参加人 佐藤鶴次郎 ほか18名
   補助参加人佐藤鶴次郎、同荒木喜美子、同松井孝司訴訟代理人弁護士 山口邦明
                同       森徹
   上記補助参加人を除く補助参加人ら訴訟代理人弁護士 越山康
   弁護士越山訴訟復代理人弁護士       山口邦明
                同       森徹

被告 東京都選挙管理委員会
   上記代表者委員長 近藤信好
   上記指定代理人  古川忠雄 ほか4名

■ 主 文
■ 事 実 及び 理由


 原告らの請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用のうち、参加に関する部分は補助参加人らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

 平成13年7月29日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区における選挙を無効とする。
[1] 本件は、平成13年7月29日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」という。)について、東京都選挙区の選挙人である原告らが、公職選挙法の議員定数配分規定が憲法14条1項等に違反して無効であり、これに基づき実施された本件選挙の同選挙区の選挙も無効であると主張して、公職選挙法204条に基づき、被告に対し、同選挙区における本件選挙を無効とすることを求めた訴訟である。
[2] 原告らは、本件選挙における東京都選挙区の選挙人であり、本件選挙は、公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号。以下「平成12年改正法」という。)により改正された公職選挙法の参議院議員定数配分規定(同法14条、別表第3及び平成12年改正法附則。以下「本件議員定数配分規定」という。)に基づいて実施されたものである。
[3] 本件議員定数配分規定は、投票価値の平等を要求している憲法14条1項等に違反するか。

[4] この点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

(1) 原告ら
[5] 憲法(14条1項、15条3項、44条等)は、参議院議員選挙における選挙人各人の投票価値が平等(1票等価)になることを保障しているので、各選挙区から選出される議員数の配分を当該選挙区の人口数(以下「選挙区人口」という。)に比例して定めるよう国会の立法権限を羈束する。
[6] ところが、本件議員定数配分規定においては、各選挙区から選出される議員数の配分が当該選挙区人口に比例するように配分されていない。すなわち、平成7年国勢調査の結果による各選挙区の人口数を基にすると、参議院47選挙区における各議員定数配分と各選挙区人口との関係は別紙別表1のとおりとなり、議員1人当たりの選挙区人口が最も少ない鳥取県選挙区と最も多い東京都選挙区とを比較するとその較差が1対4.7866となっていて、各選挙区の選挙人の投票価値に著しい不平等が生じている。
[7] また、投票価値の平等は最も重要かつ基本的な憲法上の要請であるのに対し、本件選挙で採用する都道府県単位の選挙区制や各選挙区に議員定数を偶数配分すること(以下「議員定数の偶数配分」という。)は憲法上の要請ではない。議員定数の偶数配分方式を維持すれば、投票価値の不平等を解消させることは困難となる。したがって、投票価値の平等を後退させてまで都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分を維持すべき理由はないというべきである。原告らが考案した議員定数配分のシュミレーションは別紙別表2の1(甲案)、同2(乙案)、同3(丙案)のとおりであり、現在の本件選挙の仕組みを維持したとしても、議員定数の奇数配分や都道府県単位の選挙区のうち選挙人の少ない選挙区を合区することにより、投票価値の平等を満たすことが可能である。
[8] したがって、本件議員定数配分規定は、参議院の特殊性や国会の裁量権を考慮しても、なお許される限界を超え、投票価値の平等を定めた上記憲法の条項に違反する無効なものである。

(2) 被告
[9] 平成12年改正法以前の参議院の議員定数配分規定については、最高裁判所昭和58年4月27日大法廷判決、最高裁判所昭和61年3月27日第一小法廷判決、最高裁判所昭和62年9月24日第一小法廷判決、最高裁判所昭和63年10月21日第二小法廷判決、最高裁判所平成8年9月11日大法廷判決、最高裁判所平成10年9月2日大法廷判決、最高裁判所平成12年9月6日大法廷判決においていずれも合憲であるとの判断がされており、本件議員定数配分規定についても上記の各判例の判断基準によって判断されるべきである。
[10] 上記一連の最高裁判所判決は、投票価値の平等は選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであって、国会の裁量権の行使として合理性を是認し得る限り、それによって投票価値の平等が損なわれることになってもやむを得ないものであるが、人口の移動等の結果、投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過ごすことができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないことが国会に許される限界を超えた場合には、議員定数配分規定が違憲になるとしている。そして、参議院の特殊性を考慮すれば、都道府県を単位とする参議院選挙区選挙の仕組みは国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くことはないとした上、昭和58年大法廷判決は議員1人当たりの選挙区人口の最大較差が1対5.26、昭和61年判決は同最大較差が1対5.37、昭和62年判決は同最大較差が1対5.56、昭和63年判決は同最大較差1対5.85となっていても違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等には至っていないと判示し、平成8年大法廷判決は同最大較差が1対6.59となったのは違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等になると判示したが、平成10年大法廷判決は同最大較差が1対4.97、平成12年大法廷判決は最大較差が1対4.98となっていても、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等には至っていないと判示した。
[11] 平成12年改正法は、参議院議員の選挙制度の仕組み自体を変更するものではなく、3選挙区で改選議員定数をそれぞれ2減じただけであり、本件議員定数配分規定における上記最大較差は1対4.7866、神奈川県選挙区の同最大較差も1対4.4698であったから、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等には至っていなかったというべきである。
[12] 参議院選挙区選挙において、都道府県を単位とする選挙区を採用しているのは、憲法の二院制採用の趣旨から、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を比例代表選出議員と選挙区選出議員とに分け、選挙区選出議員については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものである。また、議員定数の偶数配分を採用しているのは、憲法が参議院議員の半数を3年ごとに改選すべきものとしていることに応じたものである。したがって、国会が都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分を採用したことは、立法裁量権の行使として合理性があり、その結果選挙区間における選挙人の投票価値の平等が損なわれることになっても、直ちにその議員定数の定めが憲法14条1項等に違反することにはならない。かえって、原告が前記(1)の丙案で主張するような現行の選挙区を合区して選挙区を変更する考え方は、都道府県が有する社会的、歴史的背景や憲法上の地位、これに対する国民感情を軽視するものであり、また、原告が前記(1)の乙案で主張するような各選挙区の定数を奇数配分にする考え方は、憲法が参議院議員について半数改選制を採用した趣旨を完全に没却し、前任議員の任期満了後しばらく新議員が確定しなかった場合等には当該選挙区の選出議員が不在となる事態が生じ得ることになり、いずれも、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものである。
[13](1) 日本国憲法は議会制民主主義を採用している。そのため、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であり、憲法は、その重要性にかんがみ、これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上、14条1項において法の下の平等の原則を定めるほか、その政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項、44条ただし書)。このような憲法の規定からすれば、上記の選挙権平等の保障は、単に選挙人の資格を差別することを禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解される。
[14] しかしながら、選挙制度は、議会制民主主義の下において国民各自、各層の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させることを目的とするものであるから、投票価値の平等といっても、具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによって何らかの差異が生ずることは免れ得ないものである。そして、憲法は、国会の両議院の各議員選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で(43条)、議員及びその選挙人の資格並びに議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものとし(44条、47条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねている。
[15] したがって、憲法は、投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして、その裁量により、両議院の議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものというべきであり、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。そうすると、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で損なわれることになっても、やむを得ないものと解するのが相当である。

[16](2) 憲法は、国会を衆議院と参議院とで構成するものとし(42条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが(45条、46条、54条、59条ないし61条)、その趣旨は、衆議院と参議院がそれぞれ特色のある機能を発揮することにより国会を公正かつ効果的に多元的な民意を反映する国民の代表機関たらしめようとするところにあると解される。そして、憲法は、第一院である衆議院については、議員の任期を4年とした上、解散の制度を設け、一定の範囲で参議院に優越する地位を与えており、他方、第二院である参議院については、議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、解散を認めないものとしている。このような規定からすると、憲法は、衆議院については、そのときどきの国民の意思をより直接的に反映した議院として機能することを期待し、他方、参議院については、その構成の安定化を図り、国民の利害や意見を安定的に反映させることにより、異なった視点から衆議院を抑制し一院制の欠陥を補正する機能を期待したものと解される。これらにかんがみると、憲法は、衆議院議員の選挙制度の決定については、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準となるべきものとしていると解されるのに対し、参議院議員の選挙制度の決定については、人口比例主義を重要な基準としつつも、参議院を衆議院とは異なる構成及び特色を持った議院とするため、他の様々な政策的目的ないし理由を考慮することも広く許容しているものと解される。
[17] このような二院制採用の趣旨を受けて、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準とする衆議院議員の選挙制度とは趣を異にする選挙制度の仕組みを設けた。すなわち、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分した上、全国選出議員については全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方、地方選出議員については、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし、各選挙区ごとの議員定数につき、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしている(46条)ことに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を2人として、昭和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。その結果、全国選出議員の選挙においては各選挙人の投票価値に差異は生じないものの、選挙区選出議員の選挙においては各選挙区ごとで選挙人の投票価値に差異が生じることとなった。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定(14条及び別表第2)は、上記参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号による公職選挙法の一部改正により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されて選挙区選出議員定数を152名とし、さらに、選挙区間の議員1人当たりの選挙人数(又は人口)の最大較差を縮小させる等の目的で平成6年法律第47号による公職選挙法の一部改正を行って選挙区選出議員の定数152名を増減しないまま7選挙区で改選議員定数を4人増4人減とし、同じく選挙区間の議員1人当たりの選挙人数(又は人口)の最大較差を縮小させる等の目的で平成12年改正法による公職選挙法の一部改正を行って3選挙区で改選議員定数を2人ずつ減じて選挙区選出議員定数を146名とした。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の一部改正により、参議院議員が比例代表選出議員100人と選挙区選出議員152人とに区分されることになったが、比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであって、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称を変更したにすぎない。したがって、平成12年改正法は上記のような参議院議員の選挙制度の仕組み自体を変更するものではないということができる。
[18] 以上のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定める上記参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法の定める二院制の趣旨及び参議院の性格に反するものでない上、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を有するものと認められるから、国会にゆだねられた立法裁量権の合理的行使として是認し得るものというべきである。
[19] なお、憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めるが、上記規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味し、上記規定が両議院の議員の選挙制度の仕組みについて何らかの意味を有するとしても、全国をいくつかの選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでを要求するものとは解されない。また、上記のような形で選挙区選出議員の選挙制度の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものでもない。

[20](3) 上記のとおり公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みは国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として選挙区間の議員1人当たりの選挙人数又は人口の最小値と最大値との比率に較差(いわゆる最大較差)が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに上記議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできない。すなわち、上記のような参議院議員の選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準とする衆議院議員の選挙制度等と比較して、一定の譲歩を免れないものであり、また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の移動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているのである。
[21] したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の結果、上記のような選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこと、あるいは、その後の人口移動が上記のような不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて当該議員定数配分の定めが、国会が憲法により与えられた裁量権の限界を超えた立法行為(不作為を含む)をしたものとして、憲法の投票価値の平等の要求に違反するものと判断すべきことになるというべきである。

[22](4) 以上は、議員定数配分規定の憲法違反を理由とする選挙無効訴訟において、最高裁判所昭和58年4月27日大法廷判決(民集37巻3号345頁。以下「昭和58年大法廷判決」という。)、最高裁判所平成8年9月11日大法廷判決(民集50巻8号2283頁。以下「平成8年大法廷判決」という。)、最高裁判所平成10年9月2日大法廷判決(民集52巻6号1373頁。以下「平成10年大法廷判決」という。)及び最高裁判所平成12年9月6日大法廷判決(民集第54巻7号1997頁。以下「平成12年大法廷判決」という。)が判示するところである。
[23](1) 上記の見地から、平成6年法律第47号による公職選挙法の一部改正前の参議院議員定数配分規定の下で、昭和58年大法廷判決は、参議院議員定数配分規定はその制定当初の人口状態の下において(上記当時の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対2.62であった。以下、較差に関する数値はすべて概数である。)憲法に適合したものであったとした上、昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差1対5.26について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、最高裁判所昭和61年3月27日第一小法廷判決(裁判集民事147号431頁)は昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の上記最大較差1対5.37について、最高裁判所昭和62年9月24日第一小法廷判決(裁判集民事151号711頁)は昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の上記最大較差1対5.56について、最高裁判所昭和63年10月21日第二小法廷判決(裁判集民事155号65頁)は昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時の上記最大較差1対5.85について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示した。なお、平成8年大法廷判決は、平成4年7月26日施行の参議院議員選挙当時の上記最大較差1対6.59について、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨の判断を示している。
[24] その後、平成6年法律第47号による公職選挙法の一部改正後の参議院選挙定数配分規定の下で、平成10年大法廷判決は、上記改正当時の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差1対4.81は投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえないとするとともに、平成7年7月23日施行の参議院議員選挙当時の選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差1対4.97について、また、平成12年大法廷判決は平成10年7月12日施行の参議院議員選挙当時の上記最大較差1対4.98について、いずれも憲法に違反するに至っていたものとすることはできないと判示した。
[25] ところで、平成12年改正法は、参議院議員の選挙制度の仕組み自体を変更するものではなく、参議院議員の定数を削減(比例代表選出議員4人、選挙区選出議員6人)するとともに、選挙区間の議員1人当たりの選挙人数(又は人口)の最大較差を縮小させる等の目的で制定されたものであったことは前示のとおりであるところ、上記改正当時及び本件選挙当時の選挙区間の議員1人当たりの選挙人数(人口)の最大較差は上記改正前よりも減少し、平成7年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.7866(争いがない。)、選挙人数を基準とする最大較差は本件選挙当時1対5.061であったから、上記一連の最高裁判所判決の判示する趣旨に徴して、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとすることはできない。

[26](2) これに対し、原告らは、都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分の方法を維持すれば投票価値の不平等を解消させることが困難であるところ、投票価値の平等を後退させてまで都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分を維持すべき理由はないと主張する。
[27] 確かに、都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分の方法を維持する限り投票価値の不平等の解消には技術的な限界があることは、上記各公職選挙法の改正の結果を見ても明らかである。
[28] しかし、国会が都道府県単位の選挙区制や議員定数の偶数配分を採用したことは、立法裁量権の行使として合理性があり、その結果選挙区間における選挙人の投票価値の平等が損なわれることになっても、直ちにその議員定数の定めが憲法14条1項等に違反することにはならないことは前示のとおりである。かえって、原告ら主張の丙案のように現行の選挙区を合区して選挙区を変更することは、都道府県が有する社会的、歴史的背景や憲法上の地位、これに対する国民感情を軽視するものであり、また、原告ら主張の乙案のように各選挙区の定数を奇数配分とすることは、憲法が参議院議員について半数改選制を採用した趣旨が完全に没却され、前任議員の任期満了後しばらく新議員が確定しなかった場合等には当該選挙区の選出議員が不在となる事態が生じ得ることになり、いずれも、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものである。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
[29] 以上のとおりであって、本件議員定数配分規定はその改正当時はもちろん、本件選挙当時においても憲法14条等に違反するものということはできないから、本件議員定数配分規定に基づいて行われた本件選挙が違憲、無効であるとすることはできない。
[30] よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 赤塚信雄  裁判官 宇田川基 加藤正男

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