非嫡出子相続分規定違憲決定
特別抗告審決定

遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
最高裁判所 平成24年(ク)第984号,平成24年(ク)第985号
平成25年9月4日 大法廷 決定

第984号抗告人・第985号相手方(抗告人・相手方) e
第985号抗告人・第984号相手方(抗告人・相手方) f
                    代理人 小田原昌行 ほか
第984号相手方・第985号相手方(相手方・申立人) a ほか3名
                    代理人 近藤弘 ほか

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官金築誠志の補足意見
■ 裁判官千葉勝美の補足意見
■ 裁判官岡部喜代子の補足意見

■ 抗告人eの特別抗告理由
■ 抗告人fの代理人の特別抗告理由


 原決定を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

[1] 本件は,平成13年7月▲▲日に死亡したgの遺産につき,gの嫡出である子(その代襲相続人を含む。)である相手方らが,gの嫡出でない子である抗告人らに対し,遺産の分割の審判を申し立てた事件である。
[2] 原審は,民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下,この部分を「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反しないと判断し,本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗告人らの法定相続分を前提に,gの遺産の分割をすべきものとした。
[3] 論旨は,本件規定は憲法14条1項に違反し無効であるというものである。
[4] 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
[5] 相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは,このようにして定められた相続制度全体のうち,本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が,合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
[6](1) 憲法24条1項は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」と定め,同条2項は,「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と定めている。これを受けて,民法739条1項は,「婚姻は,戸籍法(中略)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。」と定め,いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用している。一方,相続制度については,昭和22年法律第222号による民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」という。)により,「家」制度を支えてきた家督相続が廃止され,配偶者及び子が相続人となることを基本とする現在の相続制度が導入されたが,家族の死亡によって開始する遺産相続に関し嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定(昭和22年民法改正前の民法1004条ただし書)は,本件規定として現行民法にも引き継がれた。

[7](2) 最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁(以下「平成7年大法廷決定」という。)は,本件規定を含む法定相続分の定めが,法定相続分のとおりに相続が行われなければならないことを定めたものではなく,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮事情とした上,前記2と同旨の判断基準の下で,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1と定めた本件規定につき,「民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものである」とし,その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって,憲法14条1項に反するものとはいえないと判断した。
[8] しかし,法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり,また,これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから,その定めの合理性については,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され,吟味されなければならない。

[9](3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。
[10] 昭和22年民法改正の経緯をみると,その背景には,「家」制度を支えてきた家督相続は廃止されたものの,相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や,法律婚を正当な婚姻とし,これを尊重し,保護する反面,法律婚以外の男女関係,あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたことがうかがわれる。また,この改正法案の国会審議においては,本件規定の憲法14条1項適合性の根拠として,嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げられており,現行民法に本件規定を設けるに当たり,上記諸外国の立法例が影響を与えていたことが認められる。
[11] しかし,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会,経済状況の変動に伴い,婚姻や家族の実態が変化し,その在り方に対する国民の意識の変化も指摘されている。すなわち,地域や職業の種類によって差異のあるところであるが,要約すれば,戦後の経済の急速な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり,子孫の生活手段としての意義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。昭和55年法律第51号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引上げられるなどしたのは,このような変化を受けたものである。さらに,昭和50年代前半頃までは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか,平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み,これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに,離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしている。これらのことから,婚姻,家族の形態が著しく多様化しており,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。
[12] 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も,大きく変化してきている。すなわち,諸外国,特に欧米諸国においては,かつては,宗教上の理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く,昭和22年民法改正当時は,多くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり,そのことが本件規定の立法に影響を与えたところである。しかし,1960年代後半(昭和40年代前半)以降,これらの国の多くで,子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ,平成7年大法廷決定時点でこの差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては2001年(平成13年)の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規定の現代化に関する法律」により,嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別がそれぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状況にある。
[13] 我が国は,昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和54年条約第7号)を,平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第2号)をそれぞれ批准した。これらの条約には,児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規定が設けられている。また,国際連合の関連組織として,前者の条約に基づき自由権規約委員会が,後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置されており,これらの委員会は,上記各条約の履行状況等につき,締約国に対し,意見の表明,勧告等をすることができるものとされている。
[14] 我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については,平成5年に自由権規約委員会が,包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し,その後,上記各委員会が,具体的に本件規定を含む国籍,戸籍及び相続における差別的規定を問題にして,懸念の表明,法改正の勧告等を繰り返してきた。最近でも,平成22年に,児童の権利委員会が,本件規定の存在を懸念する旨の見解を改めて示している。
[15] 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で,我が国における嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち,住民票における世帯主との続柄の記載をめぐり,昭和63年に訴訟が提起され,その控訴審係属中である平成6年に,住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自治振第233号)が行われ,世帯主の子は,嫡出子であるか嫡出でない子であるかを区別することなく,一律に「子」と記載することとされた。また,戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても,平成11年に訴訟が提起され,その第1審判決言渡し後である平成16年に,戸籍法施行規則の一部改正(平成16年法務省令第76号)が行われ,嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載することとされ,既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載も,通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)により,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに,最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁は,嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し,同判決を契機とする国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない子も日本国籍を取得し得ることとされた。
[16] 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等なものにすべきではないかとの問題についても,かなり早くから意識されており,昭和54年に法務省民事局参事官室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された「相続に関する民法改正要綱試案」において,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする旨の案が示された。また,平成6年に同じく上記小委員会の審議に基づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において,両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。さらに,平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により準備された。もっとも,いずれも国会提出には至っていない。
[17] 前記ウの各委員会から懸念の表明,法改正の勧告等がされた点について同エのとおり改正が行われた結果,我が国でも,嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱いはおおむね解消されてきたが,本件規定の改正は現在においても実現されていない。その理由について考察すれば,欧米諸国の多くでは,全出生数に占める嫡出でない子の割合が著しく高く,中には50%以上に達している国もあるのとは対照的に,我が国においては,嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはいえ,平成23年でも2万3000人余,上記割合としては約2.2%にすぎないし,婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみられるなど,全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること,換言すれば,家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも,法律婚を尊重する意識は幅広く浸透しているとみられることが,上記理由の一つではないかと思われる。
[18] しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。
[19] 当裁判所は,平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に,嫡出でない子の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに,婚姻,親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べられ,その後の小法廷判決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号251頁,最高裁平成14年(オ)第1630号同15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁,最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁,最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月30日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成15年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。
[20] 前記キの当審判例の補足意見の中には,本件規定の変更は,相続,婚姻,親子関係等の関連規定との整合性や親族・相続制度全般に目配りした総合的な判断が必要であり,また,上記変更の効力発生時期ないし適用範囲の設定も慎重に行うべきであるとした上,これらのことは国会の立法作用により適切に行い得る事柄である旨を述べ,あるいは,速やかな立法措置を期待する旨を述べるものもある。
[21] これらの補足意見が付されたのは,前記オで説示したように,昭和54年以降間けつ的に本件規定の見直しの動きがあり,平成7年大法廷決定の前後においても法律案要綱が作成される状況にあったことなどが大きく影響したものとみることもできるが,いずれにしても,親族・相続制度のうちどのような事項が嫡出でない子の法定相続分の差別の見直しと関連するのかということは必ずしも明らかではなく,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする内容を含む前記オの要綱及び法律案においても,上記法定相続分の平等化につき,配偶者相続分の変更その他の関連する親族・相続制度の改正を行うものとはされていない。そうすると,関連規定との整合性を検討することの必要性は,本件規定を当然に維持する理由とはならないというべきであって,上記補足意見も,裁判において本件規定を違憲と判断することができないとする趣旨をいうものとは解されない。また,裁判において本件規定を違憲と判断しても法的安定性の確保との調和を図り得ることは,後記4で説示するとおりである。
[22] なお,前記(2)のとおり,平成7年大法廷決定においては,本件規定を含む法定相続分の定めが遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮事情としている。しかし,本件規定の補充性からすれば,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とすることも何ら不合理ではないといえる上,遺言によっても侵害し得ない遺留分については本件規定は明確な法律上の差別というべきであるとともに,本件規定の存在自体がその出生時から嫡出でない子に対する差別意識を生じさせかねないことをも考慮すれば,本件規定が上記のように補充的に機能する規定であることは,その合理性判断において重要性を有しないというべきである。

[23](4) 本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
[24] 以上を総合すれば,遅くともgの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
[25] したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。
[26] 本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり,平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法廷判決及び小法廷決定が,それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。
[27] 他方,憲法に違反する法律は原則として無効であり,その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると,本件規定は,本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上,本決定の先例としての事実上の拘束性により,上記当時以降は無効であることとなり,また,本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。しかしながら,本件規定は,国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し,相続という日常的な現象を規律する規定であって,平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると,その間に,本件規定の合憲性を前提として,多くの遺産の分割が行われ,更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け,本決定の違憲判断は,長期にわたる社会状況の変化に照らし,本件規定がその合理性を失ったことを理由として,その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするものである。それにもかかわらず,本決定の違憲判断が,先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し,いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは,著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり,当裁判所の違憲判断も,その先例としての事実上の拘束性を限定し,法的安定性の確保との調和を図ることが求められているといわなければならず,このことは,裁判において本件規定を違憲と判断することの適否という点からも問題となり得るところといえる(前記3(3)ク参照)。
[28] 以上の観点からすると、既に関係者間において裁判,合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが,関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば,本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。そして,相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については,債務者から支払を受け,又は債権者に弁済をするに当たり,法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから,相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく,その後の関係者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて,法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。
[29] したがって,本決定の違憲判断は,gの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
[30] 以上によれば,平成13年7月▲▲日に開始したgの相続に関しては,本件規定は,憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできないというべきである。これに反する原審の前記判断は,同項の解釈を誤るものであって是認することができない。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
[31] よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠志,同千葉勝美,同岡部喜代子の各補足意見がある。


 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。

[1] 法廷意見のうち本決定の先例としての事実上の拘束性に関する判示は,これまでの当審の判例にはなかったもので,将来にわたり一般的意義を有し,種々議論があり得ると思われるので,私の理解するところを述べておくこととしたい。
[2] 本決定のような考え方が,いかにして可能であるのか。この問題を検討するに当たっては,我が国の違憲審査制度において確立した原則である,いわゆる付随的違憲審査制と違憲判断に関する個別的効力説を前提とすべきであろう。
[3] 付随的違憲審査制は,当該具体的事案の解決に必要な限りにおいて法令の憲法適合性判断を行うものであるところ,本件の相続で問題とされているのは,同相続の開始時に実体的な効力を生じさせている法定相続分の規定であるから,その審査は,同相続が開始した時を基準として行うべきである。本決定も,本件の相続が開始した当時を基準として,本件規定の憲法適合性を判断している。
[4] また,個別的効力説では,違憲判断は当該事件限りのものであって,最高裁判所の違憲判断といえども,違憲とされた規定を一般的に無効とする効力がないから,立法により当該規定が削除ないし改正されない限り,他の事件を担当する裁判所は,当該規定の存在を前提として,改めて憲法判断をしなければならない。個別的効力説における違憲判断は,他の事件に対しては,先例としての事実上の拘束性しか有しないのである。とはいえ,遅くとも本件の相続開始当時には本件規定は憲法14条1項に違反するに至っていた旨の判断が最高裁判所においてされた以上,法の平等な適用という観点からは,それ以降の相続開始に係る他の事件を担当する裁判所は,同判断に従って本件規定を違憲と判断するのが相当であることになる。その意味において,本決定の違憲判断の効果は,遡及するのが原則である。
[5] しかし,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一の解決を与えることにより,法の公平・平等な適用という要求に応えるものであるから,憲法14条1項の平等原則が合理的な理由による例外を認めるのと同様に,合理的な理由に基づく例外が許されてよい。また,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一の解決を与えることによって,法的安定性の実現を図るものでもあるところ,拘束性を認めることが,かえって法的安定性を害するときは,その役割を後退させるべきであろう。本決定の違憲判断により,既に行われた遺産分割等の効力が影響を受けるものとすることが,著しく法的安定性を害することについては,法廷意見の説示するとおりであるが,特に,従来の最高裁判例が合憲としてきた法令について違憲判断を行うという本件のような場合にあっては,従来の判例に依拠して行われてきた行為の効力を否定することは,法的安定性を害する程度が更に大きい。
[6] 遡及効を制限できるか否かは,裁判所による法の解釈が,正しい法の発見にとどまるのか,法の創造的機能を持つのかという問題に関連するところが大きいとの見解がある。確かに,当該事件を離れて,特定の法解釈の適用範囲を決定する行為は,立法に類するところがあるといわなければならない。裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまると考えれば,遡及効の制限についても否定的な見解に傾くことになろう。そもそも,他の事件に対する法適用の在り方について判示することの当否を問題にする向きもあるかもしれない。
[7] しかし,本決定のこの点に関する判示は,予測される混乱を回避する方途を示すことなく本件規定を違憲と判断することは相当でないという見地からなされたものと解されるのであって,違憲判断と密接に関連しているものであるから,単なる傍論と評価すべきではない。また,裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまるという考え方については,法解釈の実態としては,事柄により程度・態様に違いはあっても,通常,何ほどかの法創造的な側面を伴うことは避け難いと考えられるのであって,裁判所による法解釈の在り方を上記のように限定することは,相当とは思われない。コモン・ローの伝統を受け継ぐ米国においても,判例の不遡及的変更を認めている。
[8] また,判例の不遡及的変更は,憲法判断の場合に限られる問題ではないが,法令の規定に関する憲法判断の変更において,法的安定性の確保の要請が,より深刻かつ広範な問題として現出することは,既に述べたとおりである。法令の違憲審査については,その影響の大きさに鑑み,法令を合憲的に限定解釈するなど,謙抑的な手法がとられることがあるが,遡及効の制限をするのは,違憲判断の及ぶ範囲を限定しようというものであるから,違憲審査権の謙抑的な行使と見ることも可能であろう。
[9] いずれにしても,違憲判断は個別的効力しか有しないのであるから,その判断の遡及効に関する判示を含めて,先例としての事実上の拘束性を持つ判断として,他の裁判所等により尊重され,従われることによって効果を持つものである。その意味でも,立法とは異なるのであるが,実際上も,今後どのような形で関連する紛争が生ずるかは予測しきれないところがあり,本決定は,違憲判断の効果の及ばない場合について,網羅的に判示しているわけでもない。各裁判所は,本決定の判示を指針としつつも,違憲判断の要否等も含めて,事案の妥当な解決のために適切な判断を行っていく必要があるものと考える。


 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

[1] 私は,法廷意見における本件の違憲判断の遡及効に係る判示と違憲審査権との関係について,若干の所見を補足しておきたい。

[2] 法廷意見は,本件規定につき,遅くとも本件の相続が発生した当時において違憲であり,それ以降は無効であるとしたが,本決定の違憲判断の先例としての事実上の拘束性の点については,法的安定性を害することのないよう,既に解決した形となっているものには及ばないとして,その効果の及ぶ範囲を一定程度に制限する判示(以下「本件遡及効の判示」という。)をしている。
[3] この判示については,我が国の最高裁判所による違憲審査権の行使が,いわゆる付随的審査制を採用し,違憲判断の効力については個別的効力説とするのが一般的な理解である以上,本件の違憲判断についての遡及効の有無,範囲等を,それが先例としての事実上の拘束性という形であったとしても,対象となる事件の処理とは離れて,他の同種事件の今後の処理の在り方に関わるものとしてあらかじめ示すことになる点で異例ともいえるものである。しかし,これは,法令を違憲無効とすることは通常はそれを前提に築き上げられてきた多くの法律関係等を覆滅させる危険を生じさせるため,そのような法的安定性を大きく阻害する事態を避けるための措置であって,この点の配慮を要する事件において,最高裁判所が法令を違憲無効と判断する際には,基本的には常に必要不可欠な説示というべきものである。その意味で,本件遡及効の判示は,いわゆる傍論(obiter dictum)ではなく,判旨(ratio decidendi)として扱うべきものである。

[4] 次に,違憲無効とされた法令について立法により廃止措置を行う際には,廃止を定める改正法の施行時期や経過措置について,法的安定性を覆すことの弊害等を考慮して,改正法の附則の規定によって必要な手当を行うことが想定されるところであるが,本件遡及効の判示は,この作用(立法による改正法の附則による手当)と酷似しており,司法作用として可能かどうか,あるいは適当かどうかが問題とされるおそれがないわけではない。
[5] 憲法が最高裁判所に付与した違憲審査権は,法令をも対象にするため,それが違憲無効との判断がされると,個別的効力説を前提にしたとしても,先例としての事実上の拘束性が広く及ぶことになるため,そのままでは法的安定性を損なう事態が生ずることは当然に予想されるところである。そのことから考えると,このような事態を避けるため,違憲判断の遡及効の有無,時期,範囲等を一定程度制限するという権能,すなわち,立法が改正法の附則でその施行時期等を定めるのに類した作用も,違憲審査権の制度の一部として当初から予定されているはずであり,本件遡及効の判示は,最高裁判所の違憲審査権の行使に性質上内在する,あるいはこれに付随する権能ないし制度を支える原理,作用の一部であって,憲法は,これを違憲審査権行使の司法作用としてあらかじめ承認しているものと考えるべきである。


 裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。

[1] 本件の事案に鑑み,本件規定の憲法適合性の問題と我が国における法律婚を尊重する意識との関係について,若干補足する。

[2] 平成7年大法廷決定は,民法が法律婚主義を採用した結果婚姻から出生した嫡出子と嫡出でない子の区別が生じ,親子関係の成立などにつき異なった規律がされてもやむを得ないと述べる。親子の成立要件について,妻が婚姻中に懐胎した子については何らの手続なくして出生と同時にその夫が父である嫡出子と法律上推定されるのであり(民法772条),この点で,認知により父子関係が成立する嫡出でない子と異なるところ,その区別は婚姻関係に根拠を置くものであって合理性を有するといえる。しかし,相続分の定めは親子関係の効果の問題であるところ,婚姻関係から出生した嫡出子を嫡出でない子より優遇すべきであるとの結論は,上記親子関係の成立要件における区別に根拠があるというような意味で論理的に当然であると説明できるものではない。
[3] 婚姻の尊重とは嫡出子を含む婚姻共同体の尊重であり,その尊重は当然に相続分における尊重を意味するとの見解も存在する。しかし,法廷意見が説示するとおり,相続制度は様々な事柄を総合考慮して定められるものであり,それらの事柄は時代と共に変遷するものである以上,仮に民法が婚姻について上記のような見解を採用し,本件規定もその一つの表れであるとしても,相続における婚姻共同体の尊重を,被相続人の嫡出でない子との関係で嫡出子の相続分を優遇することによって貫くことが憲法上許容されるか否かについては,不断に検討されなければならないことである。

[4] 夫婦及びその間の子を含む婚姻共同体の保護という考え方の実質上の根拠として,婚姻期間中に婚姻当事者が得た財産は実質的には婚姻共同体の財産であって本来その中に在る嫡出子に承継されていくべきものであるという見解が存在する。確かに,夫婦は婚姻共同体を維持するために働き,婚姻共同体を維持するために協力するのであり(夫婦については法的な協力扶助義務がある。),その協力は長期にわたる不断の努力を必要とするものといえる。社会的事実としても,多くの場合,夫婦は互いに,生計を維持するために働き,家事を負担し,親戚付き合いや近所付き合いを行うほか様々な雑事をこなし,あるいは,長期間の肉体的,経済的負担を伴う育児を行い,高齢となった親その他の親族の面倒を見ることになる場合もある。嫡出子はこの夫婦の協力により扶養され養育されて成長し,そして子自身も夫婦間の協力と性質・程度は異なるものの事実上これらに協力するのが通常であろう。
[5] これが,基本的に我が国の一つの家族像として考えられてきたものであり,こうした家族像を基盤として,法律婚を尊重する意識が広く共有されてきたものということができるであろう。平成7年大法廷決定が対象とした相続の開始時点である昭和63年当時においては,上記のような家族像が広く浸透し,本件規定の合理性を支えていたものと思われるが,現在においても,上記のような家族像はなお一定程度浸透しているものと思われ,そのような状況の下において,婚姻共同体の構成員が,そこに属さない嫡出でない子の相続分を上記構成員である嫡出子と同等とすることに否定的な感情を抱くことも,理解できるところである。
[6] しかし,今日種々の理由によって上記のような家族像に変化が生じていることは法廷意見の指摘するとおりである。同時に,嫡出でない子は,生まれながらにして選択の余地がなく上記のような婚姻共同体の一員となることができない。もちろん,法律婚の形をとらないという両親の意思によって,実態は婚姻共同体とは異ならないが嫡出子となり得ないという場合もないではないが,多くの場合は,婚姻共同体に参加したくてもできず,婚姻共同体維持のために努力したくてもできないという地位に生まれながらにして置かれるというのが実態であろう。そして,法廷意見が述べる昭和22年民法改正以後の国内外の事情の変化は,子を個人として尊重すべきであるとの考えを確立させ,婚姻共同体の保護自体には十分理由があるとしても,そのために婚姻共同体のみを当然かつ一般的に婚姻外共同体よりも優遇することの合理性,ないし,婚姻共同体の保護を理由としてその構成員である嫡出子の相続分を非構成員である嫡出でない子の相続分よりも優遇することの合理性を減少せしめてきたものといえる。
[7] こうした観点からすると,全体として法律婚を尊重する意識が広く浸透しているからといって,嫡出子と嫡出でない子の相続分に差別を設けることはもはや相当ではないというべきである。

(裁判長裁判官 竹崎博允  裁判官 櫻井龍子  裁判官 竹内行夫  裁判官 金築誠志  裁判官 千葉勝美  裁判官 横田尤孝  裁判官 白木勇  裁判官 岡部喜代子  裁判官 大谷剛彦  裁判官 大橋正春  裁判官 山浦善樹  裁判官 小貫芳信  裁判官 鬼丸かおる  裁判官  木内道祥)
平成24年(ク)第984号
東京高等裁判所平成24年(ラク)第444号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告提起事件

抗告人 e
相手方 a、外4名
特別抗告理由書
平成24年7月5日
最高裁判所 御中
抗告人 e
 抗告人の特別抗告理由は、以下のとおりである。 [1] 原決定は、原原審判を是認し、民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反しないとするが、誤っているというべきである。
[2] そもそも、抗告人らが出生したことについて責任を有するのは被相続人亡gである。抗告人らは、その出生に関し何の責任もないし、非嫡出子たる身分は自らの意思や努力によって変えることはできない。それゆえ、憲法14条1項に照らし、被相続人亡gの遺産分割において、抗告人らが法律上差別を受ける謂れはないはずである。

[3] 本件では、被相続人亡gの相続につき抗告人の法定相続分が相手方aや相手方bと同じであるとしても、抗告人の法定相続分は、30分の3に過ぎない。ところが、相手方aと相手方bの法定相続分は、亡iの相続を経ることにより、各30分の8となる。このように、上記規定が違憲であっても、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場は尊重されているのである。

[4] 原決定は、原原審判の判断に補足し「本件相続開始時(平成13年7月25日)に上記規定が違法であったと認めることはできない」と判示する。これでは現在(平成24年の時点)では違憲である、といっているのと同じである。合憲と違憲に時的区分があるのなら、もはや具体的に示されるべきである。
1 抗告人の原審における主張と原決定の判示について
[5](1) 抗告人は、原審の抗告理由書の第2において、「みなし相続財産の額の算定が誤っている点について」と題して、次のとおり主張していた。
「1 原審判理由2項「遺産の範囲及び評価」(2)エ「遺産目録1(7)、(8)の各土地及び同2(4)の建物(合計額)」における「相続開始時 299万2500円」の算定が間違っている(審判書5頁1行目)。相手方らが申立外mへ市川の土地建物の持分計8分の7を売却したのは、平成17年6月21日であって、これは相続開始後のことである(甲13ないし15)。
 従って、市川の土地建物の「相続開始時」の価額は、2394万0000円となるはずである(299万2500円+299万2500円×7)。
2 そうすると、原審判理由4項「具体的相続分」(審判書6頁11行目以下)において、みなし相続財産の額も2094万7500円(299万2500円×7)増加し、3億5226万5153円となるから、この額に基づいて各相続人の具体的相続分が算出されなければならない。」
[6](2) 抗告人の原審における上記主張に対し、原決定は、
「上記認定事実によれば、抗告人eは、原審の調停手続及び審判手続において、市川の土地建物のうち持分8分の7についても被相続人の遺産であることを前提として評価額等について主張することが容易であったにもかかわらず、あえて原審において上記主張をせず、抗告人eを除く本件当事者は、抗告人eにおいて上記主張をしないものと信じ、原審もまたそのことを前提として原審判をしたものであり、抗告人eを除く本件当事者が当審においても、市川の土地建物について持分8分の1を被相続人の遺産とすることを前提とする主張をしていることにかんがみれば、抗告人eが当審において市川の土地建物について持分8分の7をも本件遺産分割の対象とすべき旨を主張することは信義則に反するものとして許されないというべきである。」
と判示する(原決定4頁2行目以下)。

[7] 上記抗告人の原審における主張とそれに対する原決定の判示とを比べれば、原決定が、最高裁判例に相反して抗告人の主張を曲解し「信義則に反する」と結論付けていることは一目瞭然である。すなわち、
[8](1) まず、被相続人が平成13年7月25日に死亡したことは歴史的事実である。そのうえで、抗告人は、「市川の土地建物の「相続開始時」の価額は、2394万0000円となるはずである」と主張したが、これは遺産分割の時点で現存する持分8分の1に対する鑑定額から当然に導き出される価額である(299万2500円+299万2500円×7)。
[9] そして、原決定も、「一件記録によれば、市川の土地建物は、被相続人死亡時にはその全部が被相続人名義であった」との事実を認定している(原決定3頁2行目以下)。そうすると、市川の土地建物の「相続開始時」=「被相続人死亡時」=平成13年7月25日時点における価額が2394万0000円(ただし鑑定額)であったこともまた歴史的事実であるといえる。
[10] したがって、原原審判の認定額299万2500円では足りず、原原審判が誤っていることは疑う余地がないである。
[11](2) 次に、原決定は、抗告人が、原原審において「あえて」評価額等について主張しなかったとする。しかし、抗告人は、たとえ家庭裁判所における全ての調停期日や審判期日に出頭していたとしても、原原審判書を読むまでは、そこで上記平成13年7月25日時点の歴史的事実に反して誤った評価額の認定がなされることなど知る由もない。それゆえ、原原審では、審判官が審判書で認定しうる評価額に関する主張などできる筈もないし、だからこそ、原審の抗告理由の一つとした訳である。
[12](3) さらに、原決定は、抗告人が、「当審(原審)において市川の土地建物について持分8分の7をも本件遺産分割の対象とすべき旨を主張」したとする。しかしながら、そもそも市川の土地建物の持分8分の7については、既に第三者であるmに帰属しており(民法909条但書)、遺産分割の対象たりえないのである。この点、最高裁判所も本件と酷似する事案において、譲渡持分部分は遺産分割の対象から逸出するといっている(最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。
[13] 上記1(1)記載のとおり、原審において、抗告人は、市川の土地建物の相続開始時の価額が正しくは2094万7500円(299万2500円×7)増加するから、みなし相続財産の額も同額増加し3億5226万5153円となるので、この額に基づいて各相続人の具体的相続分が算定されなければならない旨を主張していたのに過ぎず、これをもって既に第三者の所有となり分割対象たりえない「市川の土地建物について持分8分の7をも本件遺産分割の対象とすべき旨を主張」したことにはならないのである。

[14] ここまで述べたように、原決定は、上記最高裁判所判例に相反して抗告人の主張を曲解し「信義則に反する」と結論付けているが、抗告人は、上訴審たる原審において原原審判の誤りを指摘したに過ぎず、「信義則に反する」とされる謂れはないというべきである。
[15] かかる原裁判所の裁判手法は、一見理由が付されているように見えるが実際には何ら法律判断をしていないのであって、理由不備を構成するのはもとより、外形は裁判としての形を採っているものの、実質は憲法32条の公平に裁判を受ける権利を保障しているとは到底いえないのである。

[16] 次に、原原審判が是認されると如何に不当であるのかを述べる。
[17](1) 原原審判は、各相続人の具体的相続分を算定するため「みなし相続財産の額」を算出しその額を3億3131万7653円であると認定したが、抗告人の主張では、3億5226万5153円になるというものである。その差は2094万7500円(299万2500円×7)であるが、3億数千万円からみれば数パーセントの違いに過ぎないことや、別件のmが提起した共有物分割訴訟が本件遺産分割申立事件と時を合わせて進行していた(本書面の提出時点でいまだ控訴審に係属中である)こともあり、原原審では市川の土地建物に纏わる問題が追究されるには至らなかった。
[18](2) けれども、本件のように共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を構成する不動産を処分した場合、処分された価額が大きくなればなるほど、原原審判の理論では不当性が増すことになる。これは、たとえば本件の事案において、仮に市川の土地建物の価額が2億0000万円(実際の約8.4倍)であった場合を例として、それを原原審判に当て嵌めてみると理解し易い。
[19] この場合に、原原審判が認定したと思われる市川の土地建物の相続開始時の価額は2500万円(2億0000万円×1/8)となるから,みなし相続財産の額は2200万7500円増加(2500万円−299万2500円)し3億5332万5153円となる。これに基づいて原原審判書認定の相続分どおりに本件当事者の具体的相続分を算定すれば、相手方aと同bは各1億0305万3169円、相手方cと同dは各5152万6584円、抗告人eと相手方fは各2208万2822円−2440万0000円(持ち戻しされたαの土地の持分2分の1の相続開始時の評価額)=−231万7178円となるが、結局、原原審判書の結論は同じである。
[20] 上の例は少々極端かも知れないが、それでも原原審判の理論が正しいとすれば主文は維持されるのである。なお、上の例では、処分された持分の対価として、亡iは1億0000万円、相手方aと同bは各2500万円、相手方cと同dは各1250万円に相当する経済的利益を、別途享受していることはいうまでもない。

[21] もっとも、本件に類似する事案に関しては、高等裁判所の裁判例があり、「相続財産につき相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手にこれを処分したときは、その財産に代り同人に対する代償請求権が相続財産に属することとなり、これが分割の対象となると解するのが相当である。」と判示している(東京高等裁判所昭和39年(ラ)第52号遺産分割の審判に対する即時抗告事件・昭和39年10月21日第12民事部決定・高民集17巻6号445頁参照)。
[22] したがって、本件では、上記の2094万7500円(市川の土地建物の相続開始時における、抗告人が主張する価額−原原審判の認定額)は代償請求権として相続財産に属し、これが分割の対象となるものと解するべきである。

[23] 市川の土地建物の持分8分の1は、被相続人とk間の現金3000万円を目的とする死因贈与契約に基づく債務の一部(金156万1567円及び遅延損害金)を抗告人と相手方f(以下、「抗告人ら」という。)各自が任意に履行したことにより、強制執行の対象とされずに済んだことから本件遺産分割の対象となりえたものである。抗告人らを除く共同相続人らは、市川の土地建物の持分8分の7を強制競売を通じて売却し、その売得金(別件共有物分割訴訟によれば2168万9000円)を上記死因贈与契約に基づく債務の履行の一部に充て、剰余金として返還された金員を各々受領した。
[24] 原原審判は、上記各事実を何一つ認定しないのみならず、市川の土地建物の「相続開始時」=「被相続人死亡時」=平成13年7月25日時点における価額が2394万0000円であったという歴史的事実さえ299万2500円であると誤った認定をし、さらには、抗告人らに対し、抗告人らが信義に則り任意に債務を履行したからこそ残った市川の土地建物の持分各16分の1についても持分を売却した者らへ持分移転登記をするよう命じた。
[25] そして、原審は、抗告人が上訴して原原審判の上記歴史的事実に関する誤りを指摘したに過ぎないにもかかわらず、却って抗告人が「信義即に反する」として原原審判の誤りには何ら触れずに上訴を排斥した。そうなると、上記歴史的事実と原原審判が誤って認定した評価額との差額2094万7500円や抗告人が自らの出捐をもって履行した156万1567円はいったいどうなるのであろうか。抗告人らを除く共同相続人らは、抗告人らと比べて売得金相当額の経済的利益を享受していることは明らかなのである。

[26] 上記第2、4、(2)で詳述したが、本件のように共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を構成する不動産を処分した場合、処分した価額が大きくなればなるほど、原原審判の理論では処分した相続人が得することになる。裁判所がする遺産分割では、処分した事実と売得金はなかったこととして扱われるからである。極めて不公平であり、遺産分割前に遺産を構成する不動産を処分しなかった相続人の財産権を著しく侵害するものである。
[27] 原原審判及びそれに対して何ら判断しない原決定は、憲法29条1項にも反するというほかないのである。
[28] 抗告人は、原審の抗告理由書の第3において、「分割時の遺産の評価額について」と題し、原原審の不動産鑑定評価書は、平成23年9月8日の鑑定時において、東日本大震災の影響によるとして一律年5%の下方修正率を適用し、不動産の評価額を算定しているが、原原審判の時点では、震災による混乱は既に落ち着きを取り戻していたのであるから、5%の下方修正率は適用不要となったはずである旨主張していた。原決定は、この点につき何も判断していないが、控訴人が本件遺産を取得できる場合には理由不備となることを指摘しておく。
[29] 以上のとおり、原決定は憲法14条1項・29条1項・32条に違反しているというべきであり、御庁で破棄のうえ更に相当の裁判をなされるよう求める。
以上
平成24年(ク)第985号
特別抗告状
平成24年6月29日
最高裁判所 御中
抗告人代理人 弁護士 小田原昌行
同  代理人 弁護士 鹿田  昌
同  代理人 弁護士 柳生由紀子
抗告人 f
抗告人代理人 弁護士 小田原昌行
同      弁護士 鹿田昌
同      弁護士 柳生由紀子
被抗告人 b
同    a
同    c
同    d
同    e

 抗告人の申立にかかる東京高等裁判所平成24年(ラ)第955号遺産分割審判に対する即時抗告事件について、同裁判所が平成24年6月22日にした決定は不服であるから、抗告をする。
主文
1 本件抗告をいずれも棄却する。
2 抗告費用は、抗告人らの負担とする。
 原決定を取消し、更に相当な裁判を求める。
[1] 原決定は、東京家庭裁判所(以下「家裁」という)のなした平成24年3月26日審判(以下「本件審判」という)の判断を是認し、上記の通り、抗告人及び被抗告人e(以下、両名をまとめて「抗告人ら」という)の抗告を棄却した。

[2] しかし、本件審判は、遺産の評価及び法定相続分について判断を誤り、抗告人らに不利益な判断を下している。以下その理由を述べる。

3(1) 遺産の評価の誤り
[3] 本件審判は、同審判書別紙遺産目録記載1(7)、(8)の各土地及び同2(4)の建物(以下「市川のアパート持分」という)につき、抗告人らに、被抗告人a及び同bに対し持分各48分の1、同c及び同dに対し持分各96分の1の遺産分割を原因とする各持分移転登記すべき旨判断した。
[4] しかし、市川のアパート持分については、競落によって市川のアパートの8分の7の持分を取得した本手続外mとの間の共有物分割訴訟(東京地方裁判所平成23年(ワ)第25号)の判決(平成24年2月28日言渡)により、本手続外mの所有とする旨の判決が下されており(乙第7号証)、抗告人らが同判決に従わねばならない場合には、本件審判の第2項及び第3項を実現することは不可能である。
[5] 抗告人らは、上記共有物分割訴訟につき控訴中(東京高等裁判所平成24年(ネ)第2145号共有物分割請求控訴事件)であるが、同控訴審の判断でも全面的価格賠償の方式が維持される場合には、本件遺産分割において、抗告人らが市川のアパート持分の移転登記等をすることはできず、せいぜい、同手続での判決に示された価格賠償として受領する金員を被抗告人aらに支払うことしかできない。
[6] このように抗告人らにとって実現不可能な分割方法を命ずる本件審判は、その遺産の評価あるいは分割方法の判断を誤っているといわざるを得ず、公平かつ適正な裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に違反すると言わざるを得ないから、直ちに取り消され、客観的かつ具体的に実現が可能な分割内容が示されねばならない。

(2) 法定相続分の判断の誤り
[7]1) 本件審判は、民法900条4号但書前段を合憲と判断し、抗告人らの相続分につき被抗告人aらの2分の1としたうえで、その相続分を被抗告人a及び同bにつき各48分の14、同c及び同dにつき各48分の7、抗告人らにつき各48分の3として具体的相続分を算定している。
[8]2) 然し乍ら、民法第900条4号但し書き前段(以下「本規定」という)は、憲法第14条1項に違反し無効であることから本件相続に適用されず、抗告人らには被抗告人a、同bらと同一割合での相続分が認められねばならない。
[9] 確かに、最高裁平成7年7月5日大法廷決定及びその後の小法廷決定は、民法が採用する法律婚主義の尊重の観点から本規定を憲法第14条1項に反するものとはいえない旨判示し、本件審判及び原決定もこれを踏襲する。
[10] しかし、憲法13条、14条1項は、個人の尊厳と法の下の平等を規定し、また、憲法24条2項は、相続に関する法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を規定している。
[11] このような憲法の規定に照らすと、憲法は、相続に関する法制度としては、子である以上、男女長幼の別なく、均等に財産を相続することを要求しているものというべきであり、子の社会的身分等を理由として、その法的取扱いに区別を設けることは、十分な合理的根拠が存しない限り許されないはずである。
[12] ところで、抗告人が非嫡出子であることは、抗告人自身の意思ではどうにもならない出生により取得された社会的身分である。
[13] そして嫡出子と非嫡出子とを区別し、非嫡出子であることを理由にその相続分を嫡出子の相続分2分の1とすることは、その立法目的が、法律婚の尊重、保護という、それ自体正当なものであるとしても、その目的を実現するための手段として、上記の区別を設けること及び上記数値による区別の大きさについては、十分な合理的根拠が存するものとはいい難い。
[14] 従って、本規定は、人を出生によって取得する社会的身分により、合理的な理由もないのに経済的又は社会的関係において差別するものといわざるを得ず、憲法14条1項に違反する(最高裁平成16年10月14日第一小法廷決定における裁判官才口千晴の反対意見、最高裁平成21年9月30日第二小法廷決定における今井功裁判官の反対意見等参照)。
[15]3) そもそも上記最高裁平成7年7月5日大法廷決定でも多くの反対意見が述べられている上、多数意見も当時の社会情勢等に照らして著しく不合理なものではないと判示したに過ぎないところ、既に当該決定から18年近くが経過し、その間、本規定の憲法適合性について判断をするための考慮要素となるべき社会情勢、家族生活や親子関係の実態、我が国を取り巻く国際的環境等は大きく変化した。
[16] まず、相続財産について、農業を営む家族に典型的にみられるような、家族の構成員により協働形成された財産における潜在的持分を被相続人に死亡を契機に分配するといった形態が減少し、被相続人が個人で形成した財産の分配といった色彩が強いものが増えているが、これは、相続財産や相続自体の社会的意義の変化というべきである。
[17] 次に、少子高齢化の進行や、シングルライフ、事実婚や非婚の増加傾向がいわれ、実際に非嫡出子が増加傾向(厚生労働省の人口動態統計によれば、非嫡出子の出生割合は平成7年には出生総数の1.2%であったのが、平成13年には1.7%、平成21年には2.1%に増加している)にあることなど、家族や結婚に関する価値観が変化している。
[18] 更に、我が国が昭和54年に批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約(いわゆる「B規約」)26条等は出生によるいかなる差別も禁止していること、同様に平成6年に批准した児童の権利に関する条約2条1項も同様の規定をおいていること、平成13年にフランスにおいて姦生子(婚姻中の者がもうけた非嫡出子)の相続分を嫡出子の2分の1とする旨の規定が廃止されたように、嫡出子と非嫡出子の相続分を平等とすることが世界的な趨勢となっていること、これを受けて、我が国に対し、国際連合の諸委員会から嫡出子と非嫡出子の相続分を平等化するよう重ねて勧告がされていることなど、我が国を取り巻く国際的環境も大きく変化している。
[19] 加えて、本規定の存在自体が、非嫡出子が嫡出子より劣位の存在であるという印象を与え、非嫡出子に対する社会生活上の差別的視線を生む重大な要因となっているとの問題点が強く指摘されている。
[20] こうした諸事情の変化等を総合考慮した場合、現時点では、もはや本規定の存在意義は失われたと思われる状況に至っている(最高裁平成15年3月31日第一小法廷判決中の島田仁郎裁判官の補足意見及び深澤武久裁判官の反対意見、最高裁平成21年9月30日決定における竹内行夫裁判官の補足意見等参照)。
[21]4) この点に対する抜本的解決のためには、できる限り早い時期に法律の改正によって救済すべきであり、実際に昭和54年には、法制審議会民法部会身分法小委員会の審議を踏まえて、「非嫡出子の相続分は嫡出子のそれと同等とする」旨の改正要綱試案が公表されたが、改正が見送られた。さらに平成6年に同趣旨の改正要綱試案が公表され、平成8年2月の法制審議会総会において同趣旨の法律案要綱が決定され、法務大臣に答申されたが、法案の国会提出は見送られて、現在に至っている。上記大法廷決定の当時は、改正要綱試案に基づく審議が法制審議会において行われており、改正が行われることが見込まれていた時期であった。ところが、法制審議会による上記答申以来十数年が経過したが、法律の改正は行われないまま現在に至っているのであり,もはや立法を待つことは許されない時期に至っているから、現に権利を侵害されている抗告人の権利救済のためには、現段階で直ちに司法における救済が図られねばならない。
[22]5) なお、平成××年××月×日付○○新聞では、平成23年8月24日付で民法900条4号但書前段が違憲であるとの決定が下され、同決定は確定したとの報道がなされている(乙第6号証)うえ、非嫡出子に対する差別的取り扱いについて、最高裁平成20年6月4日大法廷判決が国籍法第3条1項を違憲と判断していることに鑑みれば、もはや同規定が違憲であることは社会的に明白というべき時期にあるから、本手続においても、本規定を違憲無効とした相続分の扱いがなされるべきである。
[23]6) 以上より、本規定は憲法14条1項に違反して無効とされ、抗告人の相続分は、被抗告人a、同bらと同様(具体的相続分は、被抗告人a及び同bにつき各30分の8、同c及び同dにつき各30分の4、抗告人らにつき各30分の3)とした遺産分割がなされるべきである。
[24]7) なお、本件審判の認定によれば、本件手続で対象とされるみなし相続財産の額は3億3131万7653円とされているところ、抗告人の具体的相続分は3313万1765円となり、ここから特別受益に相当する2440万0000円を控除すると、未だ873万1765円を受領しうる資格があることになる。

[25] よって、本件審判を取消、抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求める。
以上

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