国籍法違憲訴訟
上告審判決

退去強制令書発布処分取消等請求事件
最高裁判所 平成18年(行ツ)第135号
平成20年6月4日 大法廷 判決

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官泉徳治の補足意見
■ 裁判官今井功の補足意見
■ 裁判官田原睦夫の補足意見
■ 裁判官近藤崇晴の補足意見
■ 裁判官藤田宙靖の意見
■ 裁判官横尾和子,同津野修,同古田佑紀の反対意見
■ 裁判官甲斐中辰夫,同堀籠幸男の反対意見


 原判決を破棄する。
 被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


[1] 本件は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に本邦において出生した上告人が,出生後父から認知されたことを理由として平成15年に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得していないものとされたことから,被上告人に対し,日本国籍を有することの確認を求めている事案である。
[2] 国籍法2条1号は,子は出生の時に父又は母が日本国民であるときに日本国民とする旨を規定して,日本国籍の生来的取得について,いわゆる父母両系血統主義によることを定めている。したがって,子が出生の時に日本国民である父又は母との間に法律上の親子関係を有するときは,生来的に日本国籍を取得することになる。
[3] 国籍法3条1項は,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる。」と規定し,同条2項は,「前項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。」と規定している。同条1項は,父又は母が認知をした場合について規定しているが,日本国民である母の非嫡出子は,出生により母との間に法律上の親子関係が生ずると解され,また,日本国民である父が胎児認知した子は,出生時に父との間に法律上の親子関係が生ずることとなり,それぞれ同法2条1号により生来的に日本国籍を取得することから,同法3条1項は,実際上は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子で,父から胎児認知を受けていないものに限り適用されることになる。
[4] 上告人は,国籍法2条1号に基づく日本国籍の取得を主張するほか,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者のみが法務大臣に届け出ることにより日本国籍を取得することができるとした同法3条1項の規定が憲法14条1項に違反するとして,上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出したことにより日本国籍を取得した旨を主張した。
[5] これに対し,原判決は,国籍法2条1号に基づく日本国籍の取得を否定した上,同法3条1項に関する上記主張につき,仮に同項の規定が憲法14条1項に違反し,無効であったとしても,そのことから,出生後に日本国民である父から認知を受けたにとどまる子が日本国籍を取得する制度が創設されるわけではなく,上告人が当然に日本国籍を取得することにはならないし,また,国籍法については,法律上の文言を厳密に解釈することが要請され,立法者の意思に反するような類推解釈ないし拡張解釈は許されず,そのような解釈の名の下に同法に定めのない国籍取得の要件を創設することは,裁判所が立法作用を行うものとして許されないから,上告人が同法3条1項の類推解釈ないし拡張解釈によって日本国籍を取得したということもできないと判断して,上告人の請求を棄却した。
[6] 所論は,上記のとおり,国籍法3条1項の規定が憲法14条1項に違反する旨をいうが,その趣旨は,国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別(以下「本件区別」という。)が生じており,このことが憲法14条1項に違反する旨をいうものと解される。所論は,その上で,国籍法3条1項の規定のうち本件区別を生じさせた部分のみが違憲無効であるとし,上告人には同項のその余の規定に基づいて日本国籍の取得が認められるべきであるというものである。そこで,以下,これらの点について検討を加えることとする。

[7](1) 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
[8] 憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。しかしながら,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生ずることはいうまでもない。すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。
[9] 日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。

[10](2)ア 国籍法3条の規定する届出による国籍取得の制度は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子について,父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得すること(以下「準正」という。)のほか同条1項の定める一定の要件を満たした場合に限り,法務大臣への届出によって日本国籍の取得を認めるものであり,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した嫡出子が生来的に日本国籍を取得することとの均衡を図ることによって,同法の基本的な原則である血統主義を補完するものとして,昭和59年法律第45号による国籍法の改正において新たに設けられたものである。
[11] そして,国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている。このような規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にあるものと解される。また,上記国籍法改正の当時には,父母両系血統主義を採用する国には,自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自国籍の取得を認める国が多かったことも,本件区別が合理的なものとして設けられた理由であると解される。
[12] 日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。
[13] また,国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。
[14] しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。
[15] また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
[16] 以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。
[17] 一方,国籍法は,前記のとおり,父母両系血統主義を採用し,日本国民である父又は母との法律上の親子関係があることをもって我が国との密接な結び付きがあるものとして日本国籍を付与するという立場に立って,出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときには子が日本国籍を取得するものとしている(2条1号)。その結果,日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,日本国民である父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得することとなるところ,同じく日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。
[18] 日本国籍の取得が,前記のとおり,我が国において基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つものであることにかんがみれば,以上のような差別的取扱いによって子の被る不利益は看過し難いものというべきであり,このような差別的取扱いについては,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。また,父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。
[19] 上記ウ,エで説示した事情を併せ考慮するならば,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。
[20] 確かに,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が前記 立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。
[21] なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難く,上記オの結論を覆す理由とすることは困難である。

[22](3) 以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
[23] そうすると,本件区別は,遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
[24] したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。
[25](1) 以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。

[26](2) このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。
[27] そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。
[28] したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。

[29](3) 原審の適法に確定した事実によれば,上告人は,上記の解釈の下で国籍法3条1項の規定する日本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる。そうすると,上告人は,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得したものと解するのが相当である。
[30] 以上のとおり,上告人は,国籍法3条1項の規定により日本国籍を取得したものと認められるところ,これと異なる見解の下に上告人の請求を棄却した原審の判断は,憲法14条1項及び81条並びに国籍法の解釈を誤ったものである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求には理由があり,これを認容した第1審判決は結論において是認することができるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
[31] よって,裁判官横尾和子,同津野修,同古田佑紀の反対意見,裁判官甲斐中辰夫,同堀籠幸男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉徳治,同今井功,同那須弘平,同涌井紀夫,同田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見,裁判官藤田宙靖の意見がある。


 裁判官泉徳治の補足意見は,次のとおりである。

[1] 国籍法3条1項は,日本国民の子のうち同法2条の適用対象とならないものに対する日本国籍の付与について,「父母の婚姻」を要件とすることにより,父に生後認知され「父母の婚姻」がない非嫡出子を付与の対象から排除している。これは,日本国籍の付与に関し,非嫡出子であるという社会的身分と,日本国民である親が父であるという親の性別により,父に生後認知された非嫡出子を差別するものである。
[2] この差別は,差別の対象となる権益が日本国籍という基本的な法的地位であり,差別の理由が憲法14条1項に差別禁止事由として掲げられている社会的身分及び性別であるから,それが同項に違反しないというためには,強度の正当化事由が必要であって,国籍法3条1項の立法目的が国にとり重要なものであり,この立法目的と,「父母の婚姻」により嫡出子たる身分を取得することを要求するという手段との間に,事実上の実質的関連性が存することが必要である。

[3] 国籍法3条1項の立法目的は,父母両系血統主義に基づき,日本国民の子で同法2条の適用対象とならないものに対し,日本社会との密接な結合関係を有することを条件として,日本国籍を付与しようとすることにあり,この立法目的自体は正当なものということができる。

[4] 国籍法3条1項は,上記の立法目的を実現する手段として,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子」に限って日本国籍を付与することを規定し,父に生後認知された非嫡出子を付与の対象から排除している。
[5] しかし,「父母の婚姻」は,子や日本国民である父の1人の意思では実現することができない要件であり,日本国民を父に持ちながら自己又は父の意思のみでは日本国籍を取得することができない子を作り出すものである。一方,日本国民である父に生後認知された非嫡出子は,「父母の婚姻」により嫡出子たる身分を取得していなくても,父との間で法律上の親子関係を有し,互いに扶養の義務を負う関係にあって,日本社会との結合関係を現に有するものである。上記非嫡出子の日本社会との結合関係の密接さは,国籍法2条の適用対象となっている日本国民である母の非嫡出子や日本国民である父に胎児認知された非嫡出子のそれと,それ程変わるものではない。また,父母が内縁関係にあり,あるいは事実上父の監護を受けている場合においては,父に生後認知された非嫡出子の日本社会との結合関係が嫡出子のそれに実質的に劣るものということは困難である。そして,上記非嫡出子は,父の認知を契機として,日本社会との結合関係を発展させる可能性を潜在的に有しているのである。家族関係が多様化しつつある現在の日本において,上記非嫡出子の日本社会との結合関係が,「父母の婚姻」がない限り希薄であるとするのは,型にはまった画一的な見方といわざるを得ない。
[6] したがって,前記の立法目的と,日本国民である父に生後認知された子のうち「父母の婚姻」により嫡出子たる身分を取得したものに限って日本国籍を付与することとした手段との間には,事実上の実質的関連性があるとはいい難い。
[7] 結局,国籍法3条1項が日本国籍の付与につき非嫡出子という社会的身分及び親の性別により設けた差別は,強度の正当化事由を有するものということはできず,憲法14条1項の規定に違反するといわざるを得ない。

[8] そして,上告人に対しては,国籍法3条1項から「父母の婚姻」の部分を除いたその余の規定の適用により,日本国籍が付与されるべきであると考える。
[9] 国籍法3条1項の主旨は日本国民の子で同法2条の適用対象とならないものに対し日本国籍を付与することにあり,「父母の婚姻」はそのための一条件にすぎないから,その部分が違憲であるとしても,上記主旨はできる限り生かすのが,立法意思に沿うものというべきである。また,上記のような国籍法3条1項の適用は,「すべての児童は,国籍を取得する権利を有する」ことを規定した市民的及び政治的権利に関する国際規約24条3項や児童の権利に関する条約7条1項の趣旨にも適合するものである。
[10] ただし,上記のような国籍法3条1項の適用は,国会の立法意思として,「父母の婚姻」の部分を除いたままでは同項を存続させないであろうというがい然性が明白である場合には,許されないと解される。国籍法3条1項から「父母の婚姻」の部分を除くことに代わる選択肢として,まず,同条全体を廃止することが考えられるが,この選択肢は,日本国民である父に生後認知された非嫡出子を現行法以上に差別するものであり,すべての児童が出生や父母の性別により差別されないことを規定した市民的及び政治的権利に関する国際規約24条及び児童の権利に関する条約2条を遵守すべき日本の国会が,この選択肢を採用することは考えられない。次に,国籍法2条の適用対象となっている日本国民である母の非嫡出子及び胎児認知された非嫡出子についても,「父母の婚姻」という要件を新たに課するという選択肢が考えられるが,この選択肢は,非嫡出子一般をその出生により不当に差別するもので,憲法の平等原則に違反するから,国会がこの選択肢を採用することも考えられない。さらに,「日本で生まれたこと」,「一定期間以上日本に住所を有すること」,「日本国民と生計を一にすること」など,日本社会との密接な結合関係を証するための新たな要件を課するという選択肢が考えられるが,この選択肢は,基本的に法律上の親子関係により日本社会との結合関係を判断するという国籍法の血統主義とは別の観点から要件を付加するもので,国会がこの選択肢を採用するがい然性が高いということもできない。結局,国会の立法意思として,「父母の婚姻」の部分を除いては国籍法3条1項をそのまま存続させないであろうというがい然性が明白であるということはできず,「父母の婚姻」の部分を除いて同項を適用し,日本国民である父が生後認知した非嫡出子に日本国籍を付与する方が,立法意思にかなうものと解される。
[11] もとより,国会が,将来において,国籍法3条1項を憲法に適合する方法で改正することは,その立法裁量に属するところであるが,それまでの間は,「父母の婚姻」の部分を除いて同項を適用すべきである。
[12] また,「父母の婚姻」の部分を除いて国籍法3条1項の規定を適用することは,憲法の平等原則の下で同項を解釈し適用するものであって,司法が新たな立法を行うものではなく,司法の役割として当然に許されるところである。

[13] 多数意見は,前記差別について,立法目的と手段との間の関連性の点から違憲と解するものであって,基本的な判断の枠組みを共通にするものであり,また,国籍法3条1項の上告人に対する適用についても,前記4と同じ趣旨を述べるものであるから,多数意見に同調する。


 裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。

[1] 私は,多数意見に同調するものであるが,判示5の点(本件上告人に日本国籍の取得を認めることの可否)についての反対意見にかんがみ,法律の規定の一部が違憲である場合の司法救済の在り方について,私の意見を補足して述べておきたい。

[2] 反対意見は,日本国民である父から出生後認知された者のうち,準正子に届出による日本国籍(以下単に「国籍」という。)の取得を認め,そうでない者(以下「非準正子」という。)についてはこれを認める立法をしていないこと(立法不存在ないし立法不作為)が憲法14条1項に違反するとしても,非準正子にも国籍取得を認めることは,国籍法の定めていない国籍付与要件を判決によって創設するもので,司法権の範囲を逸脱し,許されないとするものである。

[3] 裁判所に違憲立法審査権が与えられた趣旨は,違憲の法律を無効とすることによって,国民の権利利益を擁護すること,すなわち,違憲の法律によりその権利利益を侵害されている者の救済を図ることにある。無効とされる法律の規定が,国民に刑罰を科し,あるいは国民の権利利益をはく奪するものである場合には,基本的に,その規定の効力がないものとして,これを適用しないというだけであるから,特段の問題はない。
[4] 問題となるのは,本件のようにその法律の規定が国民に権利利益を与える場合である。この場合には,その規定全体を無効とすると,権利利益を与える根拠がなくなって,問題となっている権利利益を与えられないことになる。このように解釈すべき場合もあろう。しかし,国民に権利利益を与える規定が,権利利益を与える要件として,A,Bの二つの要件を定め,この両要件を満たす者に限り,権利利益を与える(反対解釈によりA要件のみを満たす者には権利利益を与えない。)と定めている場合において,権利利益を与える要件としてA要件の外にB要件を要求することが平等原則に反し,違憲であると判断されたときに,A要件のみを備える者にも当該権利利益を与えることができるのかが,ここでの問題である。このような場合には,その法律全体の仕組み,当該規定が違憲とされた理由,結果の妥当性等を考慮して,B要件の定めのみが無効である(すなわちB要件の定めがないもの)とし,その結果,A要件のみを満たした者についても,その規定の定める権利利益を与えることになると解することも,法律の合憲的な解釈として十分可能であると考える。

[5] 国籍法は,父母両系血統主義を採用し,その上に立って,国籍の取得の方法として,@出生による当然の取得(2条),A届出による取得(3条)及びB帰化による取得(4条から9条まで)の三つの方法を定めている。
[6] そして,2条による当然の取得については,出生の時に法律上の父又は母が日本国民であるという要件を備える子は,当然に国籍を取得することを規定している。次に,3条の届出による取得については,2条の補完規定として,血統上の父は日本国民であるが,非嫡出子として出生し,その後父から認知された子について,準正子に限り国籍取得が認められるとし,非準正子には国籍取得を認めていない。さらに,4条から9条までにおいては,2条及び3条により国籍取得の認められない者について帰化(法務大臣の許可)により国籍取得を認めることとしている。
[7] このような国籍法の定める国籍取得の仕組みを見ると,同法は,法的な意味での日本国民の血統が認められる場合,すなわち法律上の父又は母が日本国民である場合には,国籍取得を認めることを大原則とし,2条はこの原則を無条件で貫き,3条においては,これに父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという要件(以下「準正要件」という。)を付加しているということができる。このような国籍法の仕組みからすれば,3条は,血統主義の原則を認めつつ,準正要件を備えない者を除外した規定といわざるを得ない。この点について,反対意見は,3条1項は出生後に日本国民である父から認知された子のうち準正子のみに届出による国籍取得を認めたにすぎず,非準正子の国籍取得については単にこれを認める規定を設けていないという立法不作為の状態が存在するにすぎない旨いうが,国会が同項の規定を設けて準正子のみに届出による国籍取得を認めることとしたことにより,反面において,非準正子にはこれを認めないこととする積極的な立法裁量権を行使したことは明らかである。そして,3条1項が準正子と非準正子とを差別していることが平等原則に反し違憲であるとした場合には,非準正子も,準正子と同様に,国籍取得を認められるべきであるとすることも,上記2のように法律の合憲的な解釈として十分成り立ち得る。
[8] このように考えれば,多数意見は,裁判所が違憲立法審査権を行使して国籍法3条1項を憲法に適合するように解釈した結果,非準正子についても準正子と同様に同項により国籍取得を認められるべきであるとするものであって,同法の定める要件を超えて新たな立法をしたとの非難は当たらない。現行国籍法の下における準正子と非準正子との間の平等原則に違反する差別状態を裁判所が解釈によって解消するには,準正子に与えられた効果を否定するか,非準正子に準正子と同様の効果を与えるしかない。前者の解釈が,その結果の妥当性は別として,立法権を侵害するものではないことには異論はないであろう。これと同様に,後者の解釈を採ることも許容されるというべきである。
[9] 私は,以上のような理由により,国籍法3条1項を憲法に適合するように解釈した結果,同項は,日本国民である父から出生後に認知された子は,届出により国籍を取得することができることを認めたものと解するのが相当であり,このように解しても立法権を侵害するものではないと考える。

[10] 反対意見によれば,同じく日本国民である父から認知された子であるにもかかわらず,準正子は国籍を取得できるのに,非準正子は司法救済を求めたとしても国籍を取得できないという平等原則に反する違憲の状態が依然として続くことになる。
[11] 反対意見は,違憲の状態が続くことになっても,立法がない限り,やむを得ないとするものと考えられる。反対意見がそのように解する理由は,憲法10条が「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,いかなる者に国籍を与えるかは国会が立法によって定める事柄であり,国籍法が非準正子に国籍取得を認める規定を設けていない以上,準正子と非準正子との差別が平等原則に反し違憲であっても,非準正子について国籍取得を認めることは,裁判所が新たな立法をすることになり,許されないというものと理解される。
[12] しかし,どのような要件があれば国籍を与えるかについて国会がその裁量により立法を行うことが原則であることは当然であるけれども,国会がその裁量権を行使して行った立法の合憲性について審査を行うのは裁判所の責務である。国籍法3条1項は,国会がその裁量権を行使して行った立法であり,これに対して,裁判所は,同項の規定が準正子と非準正子との間に合理的でない差別を生じさせており,平等原則に反し違憲と判断したのである。この場合に,違憲の法律により本来ならば与えられるべき保護を受けることができない者に対し,その保護を与えることは,裁判所の責務であって,立法権を侵害するものではなく,司法権の範囲を超えるものとはいえない。

[13] 非準正子についても国籍を付与するということになれば,国会において,国籍付与の要件として,準正要件に代えて例えば日本国内における一定期間の居住等の他の要件を定めることもできたのに,その裁量権を奪うことになるとする議論もあり得ないではない。そうであっても,裁判所がそのような要件を定めていない国籍法3条1項の合憲的解釈として,非準正子について国籍取得を認めたからといって,今後,国会がその裁量権を行使して,日本国民を父とする生後認知子の国籍取得につき,準正要件に代えて,憲法に適合する要件を定める新たな立法をすることが何ら妨げられるものでないことは,いうまでもないところであり,上記のような解釈を採ることが国会の立法裁量権を奪うことになるものではない。

 裁判官那須弘平,同涌井紀夫は,裁判官今井功の補足意見に同調する。


 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。

[1] 私は,多数意見に賛成するものであるが,国籍の取得と教育を受ける権利等との関係及び胎児認知を受けた者と生後に認知を受けた者との区別の問題に関し,以下のとおり補足意見を述べる。

[2] 国籍は,国家の構成員たることを意味するものであり,日本国籍を有する者は,我が国に居住する自由を有するとともに,憲法の保障する基本的人権を享受し,職業を自由に選択し,参政権を行使し,また,法律が国民に認めた各種の権利を行使することができる。
[3] 出生又は認知と届出により日本国籍を取得し得るか否かは,国民に認められたそれらの権利を当然に取得し,行使することができるか否かにかかわるものであり,その対象者の人権に直接かかわる事柄である。
[4] 認知と届出による国籍の取得は,20歳未満の者において認められており(国籍法3条1項),また,実際にその取得の可否が問題となる対象者のほとんどは,本件同様,未就学児又は学齢児童・生徒である。したがって,それら対象者においては,国籍の取得により認められる参政権や職業選択の自由よりも,教育を受ける権利や社会保障を受ける権利の行使の可否がより重要である。
[5] 憲法26条は,1項で国民の教育を受ける権利を定め,2項でその裏面として保護者にその子女に対して普通教育を受けさせる義務を定めるとともに,義務教育はこれを無償とする,と定める。そして,この憲法の規定を受けて教育基本法は,国民に,その保護する子に普通教育を受けさせる義務を定め,国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については,授業料を徴収しない,と規定する(旧教育基本法4条,教育基本法5条1項,4項)。また,学校教育法は,保護者に,その子女に対する小学校,中学校への就学義務を定める(平成19年法律第96号による改正前の学校教育法22条,39条,同改正後の学校教育法16条,17条)。そして,学校教育法施行令は,この就学義務を履行させるための事務として,市町村の教育委員会は,当該市町村の住民基本台帳に基づいて,当該市町村の区域内に住所を有する学齢児童及び学齢生徒について学齢簿を編製し,就学予定者の保護者に対し,翌学年の初めから2月前までに小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない(学校教育法施行令1条,5条)等,様々な規定を設けている。これらの規定は,子女の保護者の義務の視点から定められているが,それは,憲法26条1項の定める当該子女の教育を受ける権利を具現化したものであり,当該子女は,無償で義務教育を受ける権利を有しているのである。ところが,日本国民以外の子女に対しては,それらの規定は適用されず,運用上,市町村の教育委員会が就学を希望する外国人に対し,その就学を許可するとの取扱いがなされているにすぎない。
[6] また,社会保障の関係では,生活保護法の適用に関して,日本国民は,要保護者たり得る(生活保護法2条)が,外国人は同法の適用を受けることができず,行政実務において生活保護に準じて運用されているにすぎないのである。
[7] このように,現行法上,本件上告人のような子女においては,日本国籍を取得することができるか否かにより,教育や社会保障の側面において,その権利を享受できるか否かという点で,大きな差異が存するのである。

[8] そこで,日本国民である父と日本国民でない母との間で出生し,出生後父から認知をされた子(以下「生後認知子」という。)の国籍取得につき,その父と母が婚姻をして,当該生後認知子が準正子となった場合にのみ認め,それ以外の場合に認めない国籍法3条1項の規定の生後認知子と準正子との取扱いの区別,また,日本国民たる父が胎児認知した場合に当該胎児認知子は当然に国籍を取得する(国籍法2条1号)ことと生後認知子との区別の合理性が,憲法14条1項に適合するか否かの観点から問題となる。
[9] 多数意見は,国籍法3条1項が生後認知子のうち準正子と非準正子を区別することが憲法14条1項に違反するものとし,国籍法3条1項のうち「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した」という部分を除いた同項所定の要件が満たされるときは日本国籍を取得することが認められるとするが,その点については全く異論はない。
[10] それとともに,私は,生後認知子における準正子と非準正子との区別の問題と並んで,生後認知子と胎児認知子間の区別の問題も,憲法14条1項との関係で同様に重要であると考える。
[11] 準正子となるか否かは,子の全く与り知らないところで定まるところ,その点においては,胎児認知子と生後認知子との関係についても同様である。しかし,準正の場合は,父母が婚姻するという法的な手続が経られている。ところが,胎児認知子と生後認知子との間では,父の認知時期が胎児時か出生後かという時期の違いがあるのみである。そして,多数意見4(2)エで指摘するとおり,胎児認知子と生後認知子との間においては,日本国民である父の家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。かかる点からすれば,胎児認知子に当然に日本国籍の取得を認め,生後認知子には準正子となる以外に日本国籍の取得を認めない国籍法の定めは,憲法14条1項に違反するという結論が導かれ得る。
[12] そうして,国籍法3条1項自体を無効と解した上で,生後認知子については,民法の定める認知の遡及効(民法784条)が国籍の取得の場合にも及ぶと解することができるならば,生後認知子は,国籍法2条1号により出生時にさかのぼって国籍を取得することとなり,胎児認知子と生後認知子との区別を解消することができることとなる。しかし,このように認知の遡及効が国籍の取得にまで及ぶと解した場合には,認知前に既に我が国以外の国籍を取得していた生後認知子の意思と無関係に認知により当然に国籍を認めることの是非や二重国籍の問題が生じ,さらには遡及的に国籍を認めることに伴い様々な分野において法的問題等が生じるのであって,それらの諸点は,一義的な解決は困難であり,別途法律によって解決を図らざるを得ない事柄である。このように多くの法的な諸問題を生じるような解釈は,国籍法の解釈の枠を超えるものといわざるを得ないのであって,その点からしてかかる見解を採ることはできない。
[13] そうすると,多数意見のとおり国籍法3条1項を限定的に解釈し,20歳未満の生後認知子は,法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得することができると解することが,同法の全体の体系とも整合し,また,上告人及び上告人と同様にその要件に該当する者の個別救済を図る上で,至当な解釈であると考える。
[14] なお,かかる結論を採る場合,胎児認知子は出生により当然に日本国籍を取得するのに対し,生後認知子が日本国籍を取得するには法務大臣への届出を要するという点において区別が存することになるが,生後認知子の場合,上記の二重国籍の問 題等もあり,その国籍の取得を生後認知子(その親権者)の意思にゆだねて届出要件を課すという区別を設けることは,立法の合理的裁量の範囲内であって,憲法14条1項の問題が生じることはないものというべきである。


 裁判官近藤崇晴の補足意見は,次のとおりである。

[1] 多数意見は,国籍法3条1項が本件区別を生じさせていることの違憲を宣言するにとどまらず,上告人が日本国籍を取得したものとして,上告人が日本国籍を有することを確認した第1審判決を支持し,これに対する控訴を棄却するものである。このように,国籍法3条1項の定める要件のうち父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分(準正要件)を除いた他の要件のみをもって国籍の取得を認めることについては,立法府が準正要件に代えて他の合理的な要件を選択する機会を奪うこととなり,立法府に与えられた立法政策上の裁量権を不当に制約するものであって許されないとの批判があり得る。私は,この点に関する今井裁判官の補足意見に全面的に賛同するとともに,多数意見の一員として,更に補足的に意見を述べておきたい。
[2] 多数意見は,国籍法3条1項の定める要件のうち準正要件を除いた他の要件のみをもって国籍の取得を認めるのであるが,これはあくまでも現行の国籍法を憲法に適合するように解釈した結果なのであって,国籍法を改正することによって他の要件を付加することが憲法に違反するということを意味するものではない。立法政策上の判断によって準正要件に代わる他の要件を付加することは,それが憲法に適合している限り許されることは当然である。
[3] 多数意見が説示するように,父母両系血統主義を基調としつつも,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え,我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとするという立法目的自体には,合理的な根拠がある。ただ,その目的を達成するために準正を要件とすることは,もはや立法目的との間に合理的関連性を見いだすことができないとしたのである。したがって,国籍法を改正することによって我が国との密接な結び付きの指標となるべき他の要件を設けることは,それが立法目的との間に合理的関連性を有するのであれば,立法政策上の裁量権の行使として許されることになる。例えば,日本国民である父が出生後に認知したことに加えて,出生地が本邦内であること,あるいは本邦内において一定期間居住していることを国籍取得の要件とすることは,諸外国の立法例にも見られるところであり,政策上の当否の点は別として,将来に向けての選択肢にはなり得るところであろう。
[4] また,認知と届出のみを要件とすると,生物学上の父ではない日本国民によって日本国籍の取得を目的とする仮装認知(偽装認知)がされるおそれがあるとして,これが準正要件を設ける理由の一つとされることがあるが,そのようなおそれがあるとしても,これを防止する要請と準正要件を設けることとの間に合理的関連性があるといい難いことは,多数意見の説示するとおりである。しかし,例えば,仮装認知を防止するために,父として子を認知しようとする者とその子との間に生物学上の父子関係が存することが科学的に証明されることを国籍取得の要件として付加することは,これも政策上の当否の点は別として,将来に向けての選択肢になり得ないものではないであろう。
[5] このように,本判決の後に,立法府が立法政策上の裁量権を行使して,憲法に適合する範囲内で国籍法を改正し,準正要件に代わる新たな要件を設けることはあり得るところである。このような法改正が行われた場合には,その新たな要件を充足するかどうかにかかわらず非準正子である上告人が日本国籍を取得しているものとされた本件と,その新たな要件の充足を要求される法改正後の非準正子との間に差異を生ずることになる。しかし,準正要件を除外した国籍法3条1項のその余の要件のみによっても,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能であることは多数意見の説示するとおりであるから,準正要件に代わる新たな要件を設けるという立法裁量権が行使されたかどうかによってそのような差異を生ずることは,異とするに足りないというべきである。


 裁判官藤田宙靖の意見は,次のとおりである。

[1] 私は,現行国籍法の下,日本国民である父と日本国民でない母との間に生まれた子の間で,同法3条1項が定める「父母の婚姻」という要件(準正要件)を満たすか否かの違いにより,日本国籍の取得に関し,憲法上是認し得ない差別が生じる結果となっていること,この差別は,国籍法の解釈に当たり同法3条1項の文言に厳格にとらわれることなく,同項は上記の準正要件を満たさない者(非準正子)についても適用さるべきものと合理的に解釈することによって解消することが可能であり,また本件においては,当裁判所としてそのような道を選択すべきであること等の点において,多数意見と結論を同じくするものであるが,現行法3条1項が何を定めており,上記のような合理的解釈とは正確にどのようなことを意味するのかという点の理解に関して,多数意見との間に考え方の違いがあることを否定できないので,その点につき意見を述べることとしたい。

[2] 現行国籍法の基本構造を見ると,子の国籍の取得については出生時において父又は母が日本国民であることを大原則とし(2条),日本国籍を有しない者が日本国籍を取得するのは帰化によることを原則とするが(4条),同法3条1項に定める一定の要件を満たした者については,特に届出という手続によって国籍を取得することができることとされているものというべきである。したがって,同項が準正要件を定めているのは,準正子でありかつ同項の定めるその他の要件を満たす者についてはこれを特に国籍取得の上で優遇する趣旨なのであって,殊更に非準正子を排除しようという趣旨ではない。言い換えれば,非準正子が届出という手続によって国籍を取得できないこととなっているのは,同項があるからではなく,同法2条及び4条の必然的結果というべきなのであって,同法3条1項の準正要件があるために憲法上看過し得ない差別が生じているのも,いわば,同項の反射的効果にすぎないというべきである。それ故また,同項に準正要件が置かれていることによって違憲の結果が生じているのは,多数意見がいうように同条が「過剰な」要件を設けているからではなく,むしろいわば「不十分な」要件しか置いていないからというべきなのであって,同項の合理的解釈によって違憲状態を解消しようとするならば,それは「過剰な」部分を除くことによってではなく,「不十分な」部分を補充することによってでなければならないのである。同項の立法趣旨,そして本件における違憲状態が何によって生じているかについての,上記に述べた考え方に関する限り,私は,多数意見よりはむしろ反対意見と共通する立場にあるものといわなければならない。

[3] 問題は,本件における違憲状態を解消するために,上記に見たような国籍法3条1項の拡張解釈を行うことが許されるか否かであって,この点に関し,このような立法府の不作為による違憲状態の解消は専ら新たな立法に委ねるべきであり,解釈によってこれを行うのは司法権の限界を超えるものであるという甲斐中裁判官,堀籠裁判官の反対意見には,十分傾聴に値するものがあると言わなければならない。それにもかかわらず,本件において私があえて拡張解釈の道を選択するのは,次のような理由による。
[4] 一般に,立法府が違憲な不作為状態を続けているとき,その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって,とりわけ本件におけるように,問題が,その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり,かつ,問題となる違憲が法の下の平等原則違反であるような場合には,司法権がその不作為に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しかし,立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており,また,その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば,未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において,著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために,立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で,司法権が現行法の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指すことは,全く許されないことではないと考える。これを本件の具体的事情に照らして敷衍するならば,以下のとおりである。
[5] 先に見たとおり,立法府は,既に,国籍法3条1項を置くことによって,出生時において日本国籍を得られなかった者であっても,日本国民である父親による生後認知を受けておりかつ父母が婚姻した者については,届出による国籍取得を認めることとしている。このこと自体は,何ら違憲問題を生じるものではなく,同項自体の効力については,全く問題が存在しないのであるから(因みに,多数意見は,同項が「過剰な」要件を設けていると考えることから,本件における違憲状態を理由に同項全体が違憲となる理論的可能性があるかのようにいうが,同項が設けられた趣旨についての上記の私の考え方からすれば,同項自体が違憲となる理論的可能性はおよそあり得ない。),法解釈としては,この条文の存在(立法者の判断)を前提としこれを活かす方向で考えるべきことは,当然である。他方で,立法府は,日本国民である父親による生後認知を受けているが非準正子である者についても,国籍取得につき,単純に一般の外国人と同様の手続を要求するのではなく,より簡易な手続によって日本国籍を取得する可能性を認めている(同法8条)。これらの規定の基盤に,少なくとも,日本国民の子である者の日本国籍取得については,国家の安全・秩序維持等の国家公益的見地からして問題がないと考えられる限り優遇措置を認めようとする政策判断が存在することは,否定し得ないところであろう。そして,多数意見も指摘するとおり,現行法上準正子と非準正子との間に設けられている上記のような手続上の優遇度の違いは,基本的に,前者には我が国との密接な結び付きが認められるのに対し,後者についてはそうは言えないから,との国家公益上の理由によるものと考えられるが,この理由には合理性がなく,したがってこの理由による区別は違憲であるというのが,ここでの出発点なのである。そうであるとすれば,同法3条1項の存在を前提とする以上,現に生じている違憲状態を解消するためには,非準正子についても準正子と同様の扱いとすることが,ごく自然な方法であるということができよう。そして,このような解決が現行国籍法の立法者意思に決定的に反するとみるだけの理由は存在しない。もっとも,立法政策としては,なお,非準正子の中でも特に我が国に一定期間居住している者に限りそれを認める(いわゆる「居住要件」の付加)といったような選択の余地がある,という反論が考えられるが,しかし,我が国との密接な結び付きという理由から準正子とそうでない者とを区別すること自体に合理性がない,という前提に立つ以上,何故に非準正子にのみ居住要件が必要なのか,という問題が再度生じることとなり,その合理的説明は困難であるように思われる。このような状況の下で,現に生じている違憲状態を解消するために,同項の対象には日本国民である父親による生後認知を受けた非準正子も含まれるという拡張解釈をすることが,立法者の合理的意思に抵触することになるとは,到底考えられない。
[6] 他方で,本件上告人についてみると,日本国籍を取得すること自体が憲法上直接に保障されているとは言えないものの,多数意見が述べるように,日本国籍は,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で極めて重要な意味を持つ法的地位であり,その意味において,基本権享受の重要な前提を成すものということができる。そして,上告人が等しく日本国民の子でありながら,届出によってこうした法的地位を得ることができないでいるのは,ひとえに,国籍の取得の有無に関し現行法が行っている出生時を基準とする線引き及び父母の婚姻の有無による線引き,父母のいずれが日本国民であるかによって事実上生じる線引き等,本人の意思や努力の如何に関わりなく存在する様々の線引きが交錯する中で,その谷間に落ち込む結果となっているが故なのである。仮にこれらの線引きが,その一つ一つを取ってみた場合にはそれなりに立法政策上の合理性を持つものであったとしても,その交錯の上に上記のような境遇に置かれている者が個別的な訴訟事件を通して救済を求めている場合に,先に見たように,考え得る立法府の合理的意思をも忖度しつつ,法解釈の方法として一般的にはその可能性を否定されていない現行法規の拡張解釈という手法によってこれに応えることは,むしろ司法の責務というべきであって,立法権を簒奪する越権行為であるというには当たらないものと考える。なお,いうまでもないことながら,国籍法3条1項についての本件におけるこのような解釈が一般的法規範として定着することに,国家公益上の見地から著しい不都合が存するというのであれば,立法府としては,当裁判所が行う違憲判断に抵触しない範囲内で,これを修正する立法に直ちに着手することが可能なのであって,立法府と司法府との間での権能及び責務の合理的配分については,こういった総合的な視野の下に考察されるべきものと考える。


 裁判官横尾和子,同津野修,同古田佑紀の反対意見は,次のとおりである。

[1] 私たちは,以下の理由により,国籍法が,出生後に認知を受けた子の国籍取得について,準正子に届出による取得を認め,非準正子は帰化によることとしていることは,立法政策の選択の範囲にとどまり,憲法14条1項に違反するものではなく,上告人の請求を棄却した原審の判断は結論において正当であるから,上告を棄却すべきものと考える。

[2] 国籍の付与は,国家共同体の構成員の資格を定めるものであり,多数意見の摘示する諸事情など国家共同体との結び付きを考慮して決せられるものであって,国家共同体の最も基本的な作用であり,基本的な主権作用の一つといえる。このことからすれば,国籍付与の条件をどう定めるかは,明確な基準により,出生時において,一律,かつ,可能な限り単一に取得されるべきことなどの要請を害しない範囲で,広い立法裁量にゆだねられているというべきである。
[3] 国籍が基本的人権の保障等を受ける上で重要な法的地位であるとしても,特定の国の国籍付与を権利として請求することは認められないのが原則であって,それによって上記裁量が左右されるものとはいえない。また,無国籍となるような場合は格別,いずれの国の保障を受けるか,例えば我が国の保障を受けるか,それとも他国の保障を受けるかということは,各国の主権にかかわることであり,法的な利益・不利益も,それぞれの国籍に応じて,居住国あるいは事柄によって相違し,時には反対にもなり得る相対的なものであることも考慮すべきである。
[4] なお,いわゆる多重国籍は,国籍が出生時に一律に付与されることから不可避的に生じる事態であって,やむを得ないものとして例外的に容認されているものにとどまる。
[5] 国籍法は,血統主義を基調としながらも,出生時において,血統のみならず,法的にも日本国民の子である者に対して,一律に国籍を付与する一方で,日本国民の血統に属する子が出生後に法的に日本国民の子となった場合には,出生後の生活状況が様々であることから,日本国民の子であることを超えた我が国社会との結び付きの有無,程度を具体的に考慮して国籍を付与するかどうかを決することとしていると解される。
[6] このような国籍法の体系から見れば,同法3条1項の規定は,国籍の当然取得の効果を認める面では同法2条の特別規定である一方,出生後の国籍取得という面では帰化の特別規定としての性質を持つものといえる。

[7] 多数意見は,出生後の国籍取得を我が国との具体的な結び付きを考慮して認めることには合理性があり,かつ,国籍法3条1項の立法当時は,準正子となることをもって密接な結び付きを認める指標とすることに合理性があったとしながらも,その後における家族生活や親子関係に関する意識の変化,非嫡出子の増加などの実態の変化,日本国民と外国人との間に生まれる子の増加,諸外国における法制の変化等の国際的動向などを理由として,立法目的との関連において準正子となったことを結び付きを認める指標とする合理性が失われたとする。
[8] しかしながら,家族生活や親子関係に関するある程度の意識の変化があることは事実としても,それがどのような内容,程度のものか,国民一般の意識として大きな変化があったかは,具体的に明らかとはいえない。
[9] 実態の変化についても,家族の生活状況に顕著な変化があるとは思われないし,また,統計によれば,非嫡出子の出生数は,国籍法3条1項立法の翌年である昭和60年において1万4168人(1.0%),平成15年において2万1634人(1.9%)であり,日本国民を父とし,外国人を母とする子の出生数は,統計の得られる昭和62年において5538人,平成15年において1万2690人であり,増加はしているものの,その程度はわずかである。
[10] このように,約20年の間における非嫡出子の増加が上記の程度であることは,多数意見の指摘と異なり,少なくとも,子を含む場合の家族関係の在り方については,国民一般の意識に大きな変化がないことの証左と見ることも十分可能である。
[11] 確かに,諸外国においては,西欧諸国を中心として,非準正子についても国籍取得を認める立法例が多くなったことは事実である。しかし,これらの諸国においては,その歴史的,地理的状況から国際結婚が多いようにうかがえ,かつ,欧州連合(EU)などの地域的な統合が推進,拡大されているなどの事情がある。また,非嫡出子の数も,30%を超える国が多数に上り,少ない国でも10%を超えているようにうかがわれるなど,我が国とは様々な面で社会の状況に大きな違いがある。なお,国籍法3条1項立法当時,これらの国の法制が立法政策としての相当性については参考とされたものの,憲法適合性を考える上で参考とされたようにはうかがえない。このようなことからすれば,これらの諸国の動向を直ちに我が国における憲法適合性の判断の考慮事情とすることは相当でないと考える。
[12] また,多数意見は,日本国民が母である非嫡出子の場合,あるいは胎児認知を受けた場合との差も指摘する。
[13] しかし,これらの場合は,出生時において法的に日本国民の子であることが確定しているのであって,その後の生活状況の相違が影響する余地がない一方,国籍は,出生時において,一律に付与される必要があることからすれば,これらの子にも国籍を付与することに合理性がある。実質的に見ても,非嫡出子は出生時において母の親権に服すること,胎児認知は任意認知に限られることなど,これらの場合は,強弱の違いはあっても,親と子の関係に関し,既に出生の時点で血統を超えた我が国社会との結び付きを認めることができる要素があるといえる。また,母が日本国民である場合との差は,出生時における子との種々のかかわり合いに関する父と母の違いから生じるもので,これを男女間における差別ととらえることは相当とは思われない。

[14] 一方,国籍法3条1項は,婚姻と出生の前後関係が異なる場合における国籍取得の均衡を図るとともに,親と生活関係を共にする未成年の嫡出子は親と同一の国籍に属することが望ましいという観点も考慮して立法されたものであり,その意味で出生時を基準とする血統主義を補完する措置とされるものであって,血統主義の徹底,拡充を図ることを目的とするものではない。そして,準正により父が子について親権者となり,監護,養育の権利,義務を有することになるなど,法律上もその関係が強固になること,届出のみにより国籍を付与する場合,その要件はできるだけ明確かつ一律であることが適当であること,届出による国籍取得は,外国籍からの離脱が条件とされていないこと,非準正子の場合は,我が国との結び付きの有無,程度が様々であるから,これを個別,具体的に判断する帰化制度によることが合理的で国籍法の体系に沿うものであるところ,帰化の条件が大幅に緩和されていることなどからすれば,認知を受けた場合全般ではなく,準正があった場合をもって届出により国籍取得を認めることとすることには十分合理性が認められるのであって,これらの点が多数意見指摘の事情によって変化したとはいえない。
[15] なお,多数意見は,帰化について,認知を受けた子に関しては帰化の条件が緩和されているとしても,帰化が法務大臣の裁量によるものであって,準正子と非準正子との差を合理的なものとするものではないとする。しかし,類型的に我が国社会との結び付きを認めることが困難な非準正子については,帰化によることが合理的なことは前記のとおりであるし,また,裁量行為であっても,国家機関として行うものである以上,制度の趣旨を踏まえた合理的なものでなければならず,司法による審査の対象ともなり得るものであり,その運用について考慮すべき点があるとしても,多数意見は,国籍法の体系及び簡易帰化の制度を余りにも軽視するものといわざるを得ない。
[16] 以上からすれば,非準正子についても我が国との密接な結び付きを認めることが相当な場合を類型化して国籍取得を認めるなど,届出による国籍取得を認める範囲について考慮する余地があるとしても,国籍法が,準正子に届出による国籍の取得を認め,非準正子は帰化によることとしていることは,立法政策の選択の範囲にとどまり,憲法14条1項に違反するものではないと考える。
[17] もとより,私たちも,これらの子についても,必要に応じて,適切な保護等が与えられるべきことを否定するものではない。しかし,そのことと国籍をどのような条件で付与するかは,異なる問題である。

[18] なお,仮に非準正子に届出による国籍の取得を認めないことが違憲であるとしても,上告を棄却すべきものと考える。その理由は,甲斐中裁判官,堀籠裁判官の反対意見とおおむね同旨であるが,以下の点を付加して述べておきたい。
[19] 両裁判官指摘のとおり,非準正子が届出により国籍を取得することができないのは,これを認める規定がないからであって,国籍法3条1項の有無にかかわるものではない。同項は,認知を受けたことが前提となるものではあるが,その主体は嫡出子の身分を取得した子であり,その範囲を準正によりこれを取得した場合としているものである。
[20] 多数意見は,国籍法が血統主義を基調とするもので,同項に関し,上記の前提があることを踏まえ,準正子に係る部分を除くことによって,認知を受けた子全般に同項の効果を及ぼそうとするもののようにうかがえる。しかし,準正子に係る部分を取り除けば,同項はおよそ意味不明の規定になるのであって,それは,単に文理上の問題ではなく,同項が専ら嫡出子の身分を取得した者についての規定であることからの帰結である。認知を受けたことが前提になるからといって,準正子に係る部分を取り除けば,同項の主体が認知を受けた子全般に拡大するということにはいかにも無理がある。また,そのような拡大をすることは,条文の用語や趣旨の解釈の域を越えて国籍を付与するものであることは明らかであり,どのように説明しようとも,国籍法が現に定めていない国籍付与を認めるものであって,実質的には立法措置であるといわざるを得ない。
[21] また,多数意見のような見解により国籍の取得を認めることは,長年にわたり,外国人として,外国で日本社会とは無縁に生活しているような場合でも,認知を受けた未成年者であれば,届出さえすれば国籍の取得を認めることとなるなど,我が国社会との密接な結び付きが認められないような場合にも,届出による国籍の取得を認めることとなる。届出の時に認知をした親が日本国民であることを要するとしても,親が日本国籍を失っている場合はまれであり,そのことをもって,日本国民の子であるということを超えて我が国との密接な結び付きがあるとするのは困難であって,実質は,日本国籍の取得を求める意思(15歳未満の場合は法定代理人の意思)のみで密接な結び付きを認めるものといわざるを得ない。
[22] このようなことは,国籍法3条1項の立法目的を大きく超えることとなるばかりでなく,出生後の国籍取得について我が国社会との密接な結び付きが認められることを考慮すべきものとしている国籍法の体系ともそごするものである。
[23] なお,国籍付与の在り方は,出入国管理や在留管理等に関しても,様々な面で大きな影響を及ぼすものであり,そのような点も含めた政策上の検討が必要な問題であることも考慮されるべきである。
[24] 仮に多数意見のような見解が許されるとすれば,創設的権利・利益付与規定について,条文の規定や法律の性質,体系のいかんにかかわらず,また,立法の趣旨,目的を超えて,裁判において,法律が対象としていない者に,広く権利,利益を付与することが可能となることになる。
[25] 私たちは,本件のような場合についても,違憲立法審査権が及ぶことを否定するものではない。しかしながら,上記の諸点を考慮すれば,本件について,裁判により国籍を認めることは,司法権の限界との関係で問題があると考える。


 裁判官甲斐中辰夫,同堀籠幸男の反対意見は,次のとおりである。

[1] 私たちは,本件上告を棄却すべきものと考えるが,その理由は次のとおりである。

[2] 国籍法は,憲法10条の規定を受け,どのような要件を満たす場合に,日本国籍を付与するかということを定めた創設的・授権的法律であり,国籍法の規定がなければ,どのような者が日本国民であるか定まらないのである。国籍法が日本国籍を付与するものとして規定している要件に該当しない場合は,日本国籍の取得との関係では,白紙の状態が存在するにすぎない。すなわち,日本国籍を付与する旨の規定を満たさない場合には,国籍法の規定との関係では,立法の不存在ないし立法不作為の状態が存在するにすぎないのである。このことは,国会が政策的見地から,国民に対し,一定の権利・利益を付与することとしている創設的・授権的な行政関係の法律の場合も,同様である。

[3] 国籍法2条1号によれば,日本国民たる父が胎児認知した子は,生来的に日本国籍を取得することとなる。また,同法は,3条1項において,父が日本国民である準正子は届出により日本国籍を取得する旨定める。しかし,出生後認知された者であって準正子に当たらない者(非準正子)については,同法は,届出により日本国籍を付与する旨の規定を置いていないのであるから,非準正子の届出による国籍取得との関係では,立法不存在ないし立法不作為の状態が存在するにすぎないというべきである。

[4] 国籍法が,準正子に対し,届出により国籍を付与するとしながら,立法不存在ないし立法不作為により非準正子に対し届出による国籍付与のみちを閉じているという区別(以下「本件区別」という。)は,3条1項が制定された当時においては合理的な根拠があり,憲法14条1項に違反するものではないが,遅くとも,上告人が法務大臣あて国籍取得届を提出した当時には,合理的な理由のない差別となっており,本件区別は同項に違反するものであったと考える。その理由は,多数意見が4で述べるところと同様である。しかしながら,違憲となるのは,非準正子に届出により国籍を付与するという規定が存在しないという立法不作為の状態なのである。多数意見は,国籍法3条1項の規定自体が違憲であるとするものであるが,同規定は,準正子に届出により国籍を付与する旨の創設的・授権的規定であって,何ら憲法に違反するところはないと考える。多数意見は,同項の規定について,非準正子に対して日本国籍を届出によって付与しない趣旨を含む規定であり,その部分が違憲無効であるとしているものと解されるが,そのような解釈は,国籍法の創設的・授権的性質に反するものである上,結局は準正子を出生後認知された子と読み替えることとなるもので,法解釈としては限界を超えているといわざるを得ない。
[5] もっとも,特別規定や制限規定が違憲の場合には,その部分を無効として一般規定を適用することにより権利を付与することは法解釈として許されるといえよう。しかしながら,本件は,そのような場合に当たらないことは明らかである。国籍法は,多数意見が述べるように,原則として血統主義を採っているといえるが,徹底した血統主義を法定していると解することはできないのであるから,3条1項の規定について,出生後認知された子に対し届出による日本国籍を付与することを一般的に認めた上で,非準正子に対し,その取得を制限した規定と解することはできない。
[6] したがって,国籍法3条1項の規定の解釈から非準正子に届出による日本国籍の取得を認めることはできない。

[7] 以上のとおりであって,本件において憲法14条1項に違反することとなるのは,国籍法3条1項の規定自体ではなく,非準正子に届出により国籍を付与するという法が存在しないという立法不作為の状態であり,このことから,届出により国籍を取得するという法的地位が上告人に発生しないことは明らかであるから,上告人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件上告は棄却すべきものと考える。
[8] なお,藤田裁判官は,非準正子に対し届出による国籍付与をしないという立法不作為が違憲であるとしており,この点で私たちと同一の立場に立つものである。しかし,さらに,国籍法3条1項の拡張解釈により権利付与を認めるべきであるとして,上告人の請求を認容すべきものとしており,この見解は,傾聴に値すると考えるが,同項についてそのような解釈を採ることには直ちに賛成することはできない。

[9] 多数意見は,「本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲状態を是正する必要がある」との前提に立っており,このような前提に立つのであれば,多数意見のような結論とならざるを得ないであろう。しかし,このような前提に立つこと自体が相当ではない。なぜなら,司法の使命は,中立の立場から客観的に法を解釈し適用することであり,本件における司法判断は,「本件区別により不合理な差別的取扱を受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正することが国籍法3条1項の解釈・適用により可能か」との観点から行うべきものであるからである。

[10] 日本国民たる要件は,法律により創設的・授権的に定められるものである。本件で問題となっている非準正子の届出による国籍取得については立法不存在の状態にあるから,これが違憲状態にあるとして,それを是正するためには,法の解釈・適用により行うことが可能でなければ,国会の立法措置により行うことが憲法の原則である(憲法10条,41条,99条)。また,立法上複数の合理的な選択肢がある場合,そのどれを選択するかは,国会の権限と責任において決められるべきであるが,本件においては,非準正子の届出による国籍取得の要件について,多数意見のような解釈により示された要件以外に「他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性」があるのであるから,その意味においても違憲状態の解消は国会にゆだねるべきであると考える。

[11] そうすると,多数意見は,国籍法3条1項の規定自体が違憲であるとの同法の性質に反した法解釈に基づき,相当性を欠く前提を立てた上,上告人の請求を認容するものであり,結局,法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって,実質的に司法による立法に等しいといわざるを得ず,賛成することはできない。

(裁判長裁判官 島田仁郎  裁判官 横尾和子  裁判官 藤田宙靖  裁判官 甲斐中辰夫  裁判官 泉 徳治  裁判官 才口千晴  裁判官 津野 修  裁判官 今井 功  裁判官 中川了滋  裁判官 堀籠幸男  裁判官 古田佑紀  裁判官 那須弘平  裁判官 涌井紀夫  裁判官 田原睦夫  裁判官 近藤崇晴)

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