久米孔子廟訴訟
差戻後控訴審判決

固定資産税等課税免除措置取消(住民訴訟)請求控訴事件
福岡高等裁判所那覇支部 平成30年(行コ)第5号
平成31年4月18日 民事部 判決

口頭弁論終結日 平成31年1月31日

控訴人 (被告)  那覇市長 B
同訴訟代理人弁護士 宮尾尚子

同補助参加人    一般社団法人久米崇聖会(以下「補助参加人」という。)
同代表者代表理事  C
同訴訟代理人弁護士 当山尚幸 大島優樹

被控訴人(原告)  A
同訴訟代理人弁護士 徳永信一 岩原義則 照屋一人

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原判決を次のとおり変更する。
2(1) 控訴人が,補助参加人に対し,平成26年4月1日から同年7月24日までの間の松山公園の使用料を請求しないことが違法であることを確認する。
 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,差戻し前の第1審及び控訴審,差戻し後の第1審並びに当審を通じて,補助参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし,その余は控訴人の負担とする。

 原判決を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 本件は,那覇市の住民である被控訴人が,当時の那覇市長が平成26年3月28日付けで補助参加人に対して都市公園である松山公園の敷地内に久米至聖廟(本件施設)を設置することを許可し(本件設置許可),その使用料を全額免除したこと(本件免除)は政教分離原則(憲法20条1項後段,3項,89条)に違反し,本件免除は無効であるにもかかわらず,控訴人は,違法に上記使用料の徴収を怠っているなどと主張して,①地方自治法242条の2第1項3号に基づき,控訴人が,補助参加人に対し,同年4月1日から同年7月24日までの間の松山公園の使用料181万7063円(本件使用料)を請求しないことが違法であることの確認を求める住民訴訟である。
 被控訴人は、差戻し前第1審において,上記の請求のほか,②那覇市に対する,同項2号に基づく本件設置許可の取消請求,③控訴人に対する,同項4号本文に基づく本件使用料相当額の当時の那覇市長に対する損害賠償請求及び補助参加人に対する不当利得返還請求又は損害賠償請求を連帯債務として請求することを求める請求,④控訴人に対する,同項3号に基づく同月25日から平成27年4月24日までの間の松山公園の使用料の徴収を怠る事実の違法確認請求,⑤控訴人に対する,同項4号本文に基づく上記④の使用料相当額の当該期間中の各那覇市長に対する損害賠償請求及び補助参加人に対する不当利得返還請求の各請求をすることを求める請求をしていた。差戻し前第1審が上記各請求に係る控訴人の訴えをいずれも却下したのに対し(差戻し前第1審が上記①の請求に係る訴えを却下した理由は,監査請求において,本件免除及び本件使用料の徴収を怠る事実が対象とはされておらず,適法な監査請求を経ていないというものである。),被控訴人が控訴したところ,差戻し前控訴審は,被控訴人の控訴のうち上記②の請求に係る部分を棄却したほか,本訴請求のうち上記①及び③の各請求に係る部分を那覇地方裁判所に差し戻す旨の判決をし,同判決は確定した(なお,被控訴人は,差戻し前控訴審係属中に,上記④及び⑤の各請求に係る訴えをいずれも取り下げた。)。
 被控訴人は,原審(差戻し後第1審)において,本件訴えのうち,上記③の請求に係る部分を取り下げたので,審判の対象は上記①の請求のみとなった。
 原審は,本件免除は政教分離原則(憲法20条1項後段,3項,89条)に違反するものであって,重大かつ明白な瑕疵があるから無効であるとして,被控訴人の上記①の請求を認容したので,控訴人及び補助参加人がそれぞれ控訴した。

 関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の2から5までのとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決4頁22行目の「場合」の次に「やその他市長が特に必要と認める場合」を加え,同23行目の「全額」を「全部又は一部(公共的団体が公益の目的で使用する場合は全額,市長が特に必要と認める場合は市長が必要と認める額)」と改める。

(2) 原判決10頁18行目の「儒教」の前に「本件施設と関わりのある」を加える。

(3) 原判決10頁20行目の「宗教」の次に
「(主位的には,何らかの固有の教義体系を備えた組織的背景を持つもの。予備的には,超自然的,超人間的本質(すなわち絶対者,造物主,至高の存在等,なかんずく神,仏,霊等)の存在を確信し,畏敬崇拝する心情と行為。)」
を加える。

(4) 原判決10頁21行目の「同様である」を「同様であるから,本件施設と関わりのある儒教(儒学)は宗教ではない」と改める。

(5) 原判決12頁15行目の「団体」」の次に「(特定の宗教の信仰,礼拝又は普及等の宗教的活動を本来の目的とする団体)」を加える。

(6) 原判決13頁20行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「仮に,本件免除が政教分離原則に違反するとしても,本件施設は,宗教性のない明倫堂や公園利用者用のトイレも含んでいるほか,観光等の公益的な貢献もしていることに照らすと,その全部が無効になるとは解されない。」
(7) 原判決14頁2行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「なお,被控訴人は,那覇市公園条例11条別表第1の「売店,飲食店その他の施設」に対する使用料を基準として本件使用料を徴収すべきである旨主張している。しかし,上記施設は営利目的の施設を指すと解するべきであるところ,本件施設はこれに該当しないこと,上記使用料は高額にすぎ,補助参加人の活動を不当に阻害すること,本件免除が違憲無効であっても,その解消の手法については控訴人に一定の裁量があると解すべきことからして,控訴人が補助参加人に対して徴収すべき使用料の額を裁判所において判断することはできないというべきである。」
 当裁判所は,被控訴人の請求は,控訴人が,補助参加人に対し,平成26年4月1日から同年7月24日までの間の松山公園の使用料を請求しないことが違法であることの確認を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1から4までのとおりであるから,これを引用する。
 なお,被控訴人は,控訴人及び補助参加人の各控訴理由書における主張やその立証のための書証の提出がいずれも時機に後れた攻撃防御方法の提出であり却下すべきである旨主張するが,上記各主張等の提出につき,少なくとも民訴法157条1項にいう故意又は重大な過失があるとまでは認め難いから,これらを却下することはしない。

(1) 原判決18頁1行目の「使用されている」から「されていない」までを「使用されている」と改める。

(2) 原判決19頁10行目の「いわゆる」から同16行目の「また,」までを「神職者による祈祷が行われた。」と改める。

(3) 原判決19頁18行目の「こと」から同19行目の「されている。」までを
「ことが遷座式(遷座行列)の実施に当たり留意することとされたこと,そのために,新旧の至聖廟の屋敷の御願をまず考え,拝むのは神職へ頼むのが良いと考えたこと,神職により新旧至聖廟において祈ってもらったことなどが記載されている。」
と改める。

(4) 原判決22頁20行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
 本件施設は那覇市の公式ガイドマップにも掲載され,観光客も本件施設を訪れている。また,本件施設の近隣の施設では,琉球王国と久米村とのテーマで,歴史や文化に関する展示がされている(乙32,33,36)。」
(5) 原判決23頁17行目の「我々は」を「整備の基本コンセプトで「儒教」に引っかかるという話ですが,「儒学」です。また我々は」と改める。

(6) 原判決24頁6行目の「されていた。」の次に
「また,オープンであることから管理がうまくいくのかとの疑問や,大成殿の中には夕方は入れないようにしても,軒先には人が来て酒盛りをするかもしれない,大成殿内部や明倫堂の管理はできるが,外部の管理はどうするかといった疑問が出されたが,様子を見ながら,まずいな,ということになれば対策を立てればよいのではないかとか,閉じると人々の共感を呼ぶこともない,などの意見が出され,今後議論を深めていくこととされた。」
を加える。

(7) 原判決25頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「平成20年7月に作成された「平成19年度松山公園実施設計業務委託報告書」(乙38)において,動線計画における現況の課題の一つとして,大成殿及び明倫堂について福州園同様制限管理(入園時間などの制限を設ける。)が適当であるとされ,共に制限管理区域となる福州園と連携した運用管理が容易となり,福州園の持つ資源を最大限に活用することができること,福州園との連携をスムーズにし,福州園の持つ資源を最大限に活用できること,多目的広場を広くまとまって確保することができるため,地域の祭りやイベントなど様々な使い方や要望に対応することができることから,前記ウの計画案に沿ったゾーニング案ではなく,大成殿等を福州園に隣接して配置するというゾーニング案を採用することとされた。さらに,大成殿及び明倫堂の整備根拠について,体験学習施設,歴史上又は学術上価値の高いものであるとして,都市公園法施行令5条の教養施設に該当すると判断された。なお,全体計画平面図においては,大成殿の周囲を門や何らかの構造物で囲って,他の公園部分と区別することが想定されており,このような構造は補助参加人作成の計画当初のイメージスケッチと同様のものであった。」
(8) 原判決29頁16行目の「いるのであるから(前記1(3))」を「いる上(前記1(3)),本件施設が那覇市の公式ガイドマップにも掲載され,観光客も本件施設を訪れているのであるから(前記1(3))」と改める。

(9) 原判決29頁25行目から同26行目にかけての「使用されていて一般公開されておらず」を「使用されており」と改める。

(10) 原判決30頁5行目から同6行目にかけての「経緯」の次に「及び門の設置の経緯」を加え,同行の「このような閉じた」を「門などによって他の公園部分と区別された」と改める。

(11) 原判決30頁8行目末尾に
「なお,補助参加人は,上記参拝者がいることは,本件施設が庶民の習俗化した素朴な信仰の場所として利用されていることを示しているなどと主張するが,上記説示した本件施設の態様や後記説示の内容の釋奠祭禮の施行等の事実に照らすと,上記参拝者全てが本件施設を庶民の習俗化した素朴な信仰の場所として利用しているとみることは困難である。」
を加える。

(12) 原判決30頁12行目の「儒教一般」を「控訴人及び補助参加人の主張するところの本件施設と関わりのある儒教」と改める。

(13) 原判決30頁22行目の「祭祀事業」の前に「歴史的価値が低下し,かつ伝統が失われ」を加える。

(14) 原判決31頁13行目の「儒教一般」を「控訴人及び補助参加人の主張するところの本件施設と関わりのある儒教」と改める。

(15) 原判決31頁14行目の「ほかない」の次に
「(なお,明倫堂については,前記1(3)イのとおり,釋奠祭禮において直接利用されるものではないが,上記の明倫堂の施設としての性格に加え,門やフェンスに囲まれ他の公園部分と区別する形で建てられている本件施設の一部を構成し,大成殿等他の施設と一体のものとして整備されており,そのような空間の中で釋奠祭禮が行われていることに照らすと,明倫堂のみを他の施設と別異に扱うのは相当でない。)」
を加える。

(16) 原判決32頁21行目の「事業認可後に,」の次に「平成20年7月に作成された「平成19年度松山公園実施設計業務委託報告書」において,現状のような配置へ変更することが報告され,」を加える。

(17) 原判決32頁23行目の「抑え」の次に「(前記1(4)カ)」を加え,同行の「意見が通る形で」を「イメージに沿う形で」と改める。

(18) 原判決33頁5行目の「宗教的」から同6行目末尾までを「宗教的意義が含まれるものであったと評価されてもやむを得ない。」と改める。

(19) 原判決34頁3行目の「儒学」を「本件施設と関わりのある儒教」と改める。

(20) 原判決34頁6行目の「主張するが,」の次に
「神格化された孔子や四配を崇め奉る内容の釋奠祭禮という宗教的意義を有する行為がされていること,その他前記説示の点に照らすと,補助参加人の主張するところの本件施設に関わりのある儒教が宗教であるといえるか否かにかかわらず,補助参加人について宗教団体であると認定することは妨げられないというべきであるし,」
を加える。

(21) 原判決34頁8行目の「前記説示に照らすと,」を削除する。

(22) 原判決34頁23行目冒頭から同24行目の「感じており」までを「前記1(4)ウ及びカのとおり」と改める。

(23) 原判決35頁9行目の「いる上」から同10行目の「本件施設は」までを「いるなど(前記1(2)),本件施設を所有し維持管理する補助参加人は」と改める。

(24) 原判決35頁14行目の「儒教一般」を「控訴人及び補助参加人の主張するところの本件施設と関わりのある儒教」と改める。

(25) 原判決37頁11行目の「基づき,」の次に「その名宛人の申請により」を加える。

(26) 原判決37頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「この点,控訴人及び補助参加人は,仮に,本件免除が政教分離原則に違反するとしても,本件施設は,宗教性のない明倫堂や公園利用者用のトイレも含んでいるほか,観光等の公益的な貢献もしていることに照らすと,その全部が無効になるとは解されない旨主張する。しかし,本件施設全体を宗教施設とみるべきであり,そのことを踏まえ本件免除が政教分離原則に違反すると判断される以上,本件施設に上記のような施設が含まれるとしても,そのことが本件免除を無効とすることの妨げとなるということはできず,控訴人及び補助参加人の上記主張は採用することができない。」
(27) 原判決37頁24行目冒頭から同38頁15行目末尾までを次のとおり改める。
「前記3のとおり,本件免除は無効である以上,控訴人は,補助参加人から本件設置許可に伴う公園使用料を徴収する義務を負う。
 さらに,被控訴人は,控訴人が補助参加人に対し,上記使用料として本件使用料を徴収しないことが財産管理上違法である旨主張する。
 しかし,前記2(2)オのとおり,本件施設は,歴史・文化の保存や観光振興等の目的及び効果を有する面も併有しており,そのことをも前提として本件設置許可がされていること,本件施設が,明倫堂のような釋奠祭禮に直接用いられずそれ自体は宗教性の乏しい施設及び公園利用者用のトイレ(丙131,144)をも含んでいるなどの事情も存在する。そして,那覇市公園条例上及び同条例施行規則上,那覇市長が特に必要と認める場合には使用料の一部を免除することができる旨規定されており,控訴人には,施設の設置許可を受けた者に対して公園使用料の一部免除をするか否かについての裁量が認められている。そうすると,控訴人が,補助参加人に対し,本件設置許可に伴う公園使用料を徴収すべき義務を負うとしても,本件使用料の全額を徴収しないことが直ちには控訴人の財産管理上の裁量を逸脱又は濫用するものであるとはいえない。
 そうすると,被控訴人の請求は,控訴人が,補助参加人に対し,平成26年4月1日から同年7月24日までの間の松山公園の使用料を請求しないことが違法であることを確認することを求める限度で理由があるというべきである。」
 よって,被控訴人の請求は上記の限度で理由があるから,これと一部異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 大久保正道  裁判官 本多智子  裁判官 神谷厚毅

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