久米孔子廟訴訟
控訴審判決

固定資産税等課税免除措置取消(住民訴訟)請求控訴事件
福岡高等裁判所那覇支部 平成29年(行コ)第1号
平成29年6月15日 民事部 判決
(原審・那覇地方裁判所平成26年(行ウ)第17号)

口頭弁論終結日 平成29年4月25日

控訴人(原告)   A
同訴訟代理人弁護士 徳永信一 照屋一人 上原千可子

被控訴人(被告)  那覇市
          同代表者市長 B
被控訴人(被告)  那覇市長 B
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 大城浩 上原義信 篠原弘一郎 仲里豪 宮尾尚子

被控訴人(原審参加人)兼被控訴人那覇市長補助参加人
          一般社団法人久米崇聖会(以下,同会を「参加人」という。)
          同代表者代表理事 C
同訴訟代理人弁護士 当山尚幸 大島優樹

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原判決中,本訴請求のうち被控訴人那覇市長に対する怠る事実の違法確認請求に関する部分並びに参加人及びDに対して使用料相当額の請求をすることを求める請求に関する部分を取り消す。
2 前項の部分につき,本件を那覇地方裁判所に差し戻す。
3 控訴人の被控訴人那覇市に対する請求に関する控訴を棄却する。
4 控訴人と被控訴人那覇市及び被控訴人(原審参加人)との関係では控訴費用は控訴人の負担とする。

 原判決を取り消す。
 那覇市長が,参加人に対し平成26年3月28日付けでした公園施設設置許可(更新)を取り消す。
 被控訴人那覇市長が,参加人に対し,平成26年4月1日から同年7月24日までの間の松山公園の使用料181万7063円を請求しないことが違法であることを確認する。
 被控訴人那覇市長は,参加人及びDに対し,181万7063円を連帯して支払うよう請求せよ。
[1] 本件は,那覇市の住民である控訴人が,那覇市長が平成26年3月28日に参加人に対して都市公園である松山公園の敷地内に本件施設を設置する許可を更新し(本件設置許可),その使用料を全額免除したこと(本件免除)は政教分離原則(憲法20条3項,89条)に違反し,本件設置許可は都市公園法4条1項に違反すると主張して,被控訴人那覇市に対し,本件設置許可が違法な財務会計上の処分であるとして,地方自治法242条の2第1項2号に基づき,その取消しを求め,被控訴人那覇市長に対し,平成26年4月1日から同年7月24日までの松山公園の使用料を徴収しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,同項3号に基づき,同怠る事実の違法確認を求め,同項4号本文に基づき,同徴収を怠っていた期間に那覇市長の職にあったDに対して,同使用料相当額の損害賠償請求を,参加人に対して,同使用料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求を連帯債務としてすることを求めた事案である。
[2] 原審は,本件の各訴えはいずれも適法な監査請求を経ていないとして,これらをいずれも却下したので,控訴人が控訴した。
[3] なお,原審では,控訴人は,被控訴人那覇市長に対し,同項3号に基づき,平成26年7月25日から平成27年4月24日までの松山公園の使用料の徴収を怠る事実の違法確認を,同項4号本文に基づき,当時の那覇市長であるD及びBに対し,同使用料相当額の損害賠償請求を,参加人に対し,同使用料相当額の不当利得返還請求をそれぞれすることを求めたが,控訴人は,当審において,これらの各訴えを取り下げ,原判決中,これらの訴えに係る部分は失効したから,この部分は当審の審判対象ではない。

[4] 関連法令,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加,削除及び訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2ないし5(ただし,第2の4(1)イ及び5(2)を除く。)のとおりであるから,これを引用する。

[5](1) 原判決4頁11行目の「,3項」を削除する。

[6](2) 原判決5頁10行目冒頭から同行目の「別表第1),」までを「しなければならず,このうち都市公園法5条1項の許可を受けたものに係る使用料は毎月5日までにその月分を納付しなければならない(那覇市公園条例11条1項,別表第1,同条2項ただし書)が,」に改める。

[7](3) 原判決6頁21行目から同頁22行目にかけての「本件施設敷地について本来徴収すべき」を「その撤去を請求すること及び本件施設敷地の」に改め,同頁22行目の「那覇市長」の次に「D」を加え,同頁同行目の「よう求める」を「ことを求める」に改める。

[8](4) 原判決6頁24行目冒頭から同7頁1行目末尾までを削除する。
(1) 控訴人
[9] 監査請求前置については,監査請求の対象行為と訴訟における対象行為との間に社会的事件としての同一性が認められれば足りるところ,本件監査請求①において本件免除及び参加人に対する使用料を徴収していないことについての違法不当が含まれることは,参加人及び那覇市長Dに対して過去1年間の地代相当の金員の支払を求めていることから明らかである。また,控訴人は本件監査請求①に先立ち平成26年2月25日に行った住民監査請求(以下,「本件前監査請求」という。)において,本件施設を松山公園に無償で設置させることが政教分離原則に反すると主張して使用料を支払わせるよう請求し,それに対する那覇市監査委員からの通知においても,本件設置許可と使用料の全額免除が違法であることから、使用料の請求権の不行使が財産の管理を怠る事実となるかを判断すべき事項と整理しているところ,控訴人は,本件監査請求①に対する監査においても本件前監査請求での主張が当然踏まえられると考えて,本件監査請求①に係る請求の記載からこれらを除いたに過ぎず,これらを含める意思であった。

(2) 被控訴人那覇市長
[10] 本件前監査請求は,本件設置許可の以前に行われた平成23年3月31日付け設置許可を対象とするものであり,本件監査請求①には本件免除及び参加人に対する使用料を徴収していないことが全く記載されていない以上,控訴人の主張には理由がない。

(3) 被控訴人那覇市長補助参加人
[11] 原審においては,本件免除が監査請求の対象となっていなかったことは当事者間に争いがなく,本件設置許可と本件免除との間に同一性が認められない以上,本件監査請求①が本件免除に基づく権利の不行使を含むとはいえない。
[12] 当裁判所は,本訴請求のうち,控訴の趣旨2項の被控訴人那覇市に対し本件設置許可の取消しを求める訴えは,適法な住民監査請求を経ていないので,不適法として却下すべきであり,被控訴人那覇市長に対し怠る事実の違法確認及び使用料相当損害金を請求することを求める訴えは適法な住民監査請求を経ているなど適法な訴えであると判断する。その理由は,次のとおりである。

(1) 被控訴人那覇市に対し本件設置許可の取消しを求める訴えについて
[13] 原判決の「事実及び理由」の第3の1(1)のとおりであるから,これを引用する。

(2) 被控訴人那覇市長に対し怠る事実の違法確認及び使用料相当損害金を請求することを求める訴えについて
[14] 補正後の前提事実(4)並びに甲1及び54号証によれば,本件監査請求①の「那覇市職員措置請求書」には,請求の要旨として,本件設置許可の取消し及び撤去,本件施設敷地について過去1年間の地代相当額の支払を那覇市長D及び参加人に請求するよう求める旨の記載があり,請求の理由としては,本件施設敷地が連携施設の敷地と合わせると松山公園の総面積の21パーセントを超えることから都市公園法4条1項等に違反している旨,土地代相当額の算定根拠として本件前監査請求に対する監査結果通知書のうち使用料全額減免についてと題する項の減免をしなかった場合の条例に基づく使用料の算定式を援用する旨の記載がある。また,甲53号証によれば,本件前監査請求における「那覇市職員措置請求書」には参加人に本件施設敷地を無償で借用させることは政教分離原則に違反して違法であり,それによって,参加人は不当な便宜を得て,那覇市長Dは不当な便宜を図った旨の記載があることが認められる。
[15] さらに,証拠(甲45,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,長年にわたり,日教組に反対する活動等のいわゆる保守系の市民運動を行ってきたものであり,本件施設については,中国の宗教により沖縄人の心や精神が侵略されるおそれがあると懸念し,また,使用料を無償とする便宜供与は憲法の政教分離原則にも違反すると考えて,設置反対のための市民団体を組織したこと,本件を含む住民訴訟も本件施設を撤去させることが目的であるが,無償で貸し付けることも問題とする趣旨であることが認められる。
[16] 財務会計上の行為又は怠る事実の同一性は,当該請求人の意思解釈の問題であり,社会経済的な行為又は事実としての同一性を基礎に,住民が何を監査の対象として監査委員に措置請求をしていると見るかを検討するべきであり,違法事由によっては分断されない(最高裁昭和62年2月20日第2小法廷判決・民集41巻1号122頁)。また,通常は,生の社会的事実を問題とする趣旨であって,当該財務会計上の行為及びこれに関連する一切の行為並びに一切の事項が対象とされているものである。ただし,法的知識を有する住民が特定の行為につき又は特定の措置内容に限って監査請求をすることも可能であって,それは,第一に監査請求書の記載から,副次的に監査請求に至る経緯・動機,委員会の判断,その前後の住民の行動も斟酌すべきである。
[17] そこで,検討するに,まず,第一に,請求人たる控訴人が何を生の社会的事実として問題としたかを見ると,本件監査請求①の「那覇市職員措置請求書」の本件施設敷地について本来徴収すべき地代相当額の支払を那覇市長及び参加人に請求するよう求める旨の記載は,その前提として,参加人が本来支払うべき地代相当額の支払をせずに無償で本件施設敷地を使用していることを問題としていることが明らかである。そして,関係法令(3)のとおり,本件設置許可により,参加人は所定の使用料納付義務を負うが,本件免除を受けることにより,それを免れ,本件施設敷地を無償で使用することになるのであるから,控訴人は,本件免除を監査請求の対象としていると理解されるべきである。
[18] そして,控訴人は,前記当審における主張のとおり主張するところ,同主張は原審平成27年6月15日付け「準備書面(4)(原告)」3の記載に沿うものであり,かつ,本件監査請求①の監査請求書には,控訴人の最も懸念するところの本件施設が宗教施設であることや本件免除が政教分離原則に反することの記載が全くなく,公園面積に対する割合が都市公園法などに違反するといった控訴人の懸念からは遠い,いわばためにする論点が記載されているに過ぎないから,本件監査請求①の監査請求書には本件前監査請求における主張に追加する違法事由を記載しただけで,主たる主張である本件施設が宗教施設であることや本件免除が政教分離原則に反することは当然のこととして記載しなかったことが窺える。そして,本件前監査請求においては,監査委員もこれを前提として全額減免の対象となった金額として条例に基づく使用料を算出したうえ,監査請求期間経過後の監査請求であるとして不適法却下したこと(甲10,54),控訴人は,本件監査請求①において同算出部分を引用していること,加えて,控訴人は,本件監査請求①の前後における監査請求において,一貫してこれらを取り上げていることも合わせ考慮すれば,控訴人には本件監査請求①においてことさらこれを除外する必要も,その意思も存しないものと認められる。また,本件前監査請求時にも監査委員であった本件監査請求①を担当した監査委員(甲2,10,54)においても,このことは認識可能であったと推認される。
[19] 以上によれば,控訴人は,「那覇市職員措置請求書」には直接記載していないものの,本件監査請求①において,違法な本件免除をも監査請求の対象としたものと解することができる。とするならば,本件免除が違法,無効であることにより発生する平成26年4月1日から同年7月24日までの参加人に対する使用料を徴収しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとする怠る事実の違法確認並びに参加人に対するこれにかかる不当利得返還請求及び違法な本件免除を得た不法行為に基づく損害賠償請求と那覇市長に対する同不法行為に基づく損害賠償請求について監査請求を経ているといえる。
[20] そして,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして地方自治法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,当該監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,当該怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(前記最高裁判決)ところ,違法な財務会計行為である本件免除は平成26年3月28日に行われているのに対し,本件監査請求①は同年7月24日に行われているので,同項の規定に抵触するものとはいえない。
[21] よって,控訴の趣旨第3項及び第4項記載の各訴えは適法な監査請求を経ているといえる。

(3) 当審における当事者の主張について
ア 被控訴人那覇市長
[22] 確かに,本件前監査請求は本件設置許可等以前に行われたものであり,平成23年3月31日付けの本件施設に係る設置許可及び使用料免除(前提事実(3)ア)を対象としたものと考えられ,本件監査請求①と同一の財務会計上の行為及び怠る事実を対象とされたものではない。
[23] しかし,両者は同じ本件施設に関する同様の処分であり,前記(2)アないしウのとおりであるから,前記(2)エの判断は左右されず,被控訴人らの主張には理由がない。
イ 被控訴人那覇市長補助参加人
[24] 確かに,控訴人は,原審第6回口頭弁論期日において,本件監査請求①が本件免除を監査請求の対象としていなかったことを認める旨を陳述している(平成27年6月15日付け控訴人準備書面4)が,同時に,平成26年2月25日に行った本件前監査請求の趣旨が本件監査請求①において当然踏まえられるものと考えていた旨も主張している(同準備書面)のであるから,その主張の趣旨は書面上は明示されていないものの,控訴人としては対象とする意思があったと解されるのであり,本件免除が本件監査請求①の対象となっていないことが当事者間に争いがないといえず,被控訴人那覇市長補助参加人の主張は前提を欠いていて理由がない。

[25] 以上によれば,被控訴人那覇市に対し本件設置許可の取消しを求める訴えについての原判決の判断は正当であって,それに対する控訴は理由がないから棄却すべきであるが,被控訴人那覇市長に対し怠る事実の違法確認及び使用料相当損害金を請求することを求める訴えについては,適法な訴えをいずれも不適法として却下した原判決の判断は相当でなく,取消しを免れないところ,同訴えについては,仮に本件免除が違法であるとした場合には,不当利得返還請求につき本件免除の効力との関係が,損害賠償請求につき故意過失が問題となり得るなど,原審において更に弁論を行わせるのが相当と認められるから,同訴えについての原判決を取消し,那覇地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 多見谷寿郎  裁判官 蛭川明彦  裁判官 神谷厚毅

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