土地収用補償金請求事件 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
控訴審判決 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
土地収用補償金請求控訴事件 大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)第24号 平成10年2月20日 第2民事部 判決 控訴人 (原告) 甲2 外11名 被控訴人(被告) 関西電力株式会社 ■ 主 文 ■ 事 実 及び 理 由 一 控訴人甲5が当審において追加した土地所有権移転登記手続を求める訴えを却下する。 二 控訴人らの本件控訴(当審における請求の拡張及び追加部分を含む。)を棄却する。 三 当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。 1 原判決を取り消す。 2 和歌山県収用委員会が昭和44年3月31日にした起業者被控訴人関西電力株式会社新田辺変電所に関する土地収用裁決の補償金の額を次のとおり変更する。 (一) 控訴人甲2に対する (1) 別紙第一物件目録記載の各物件についての補償金の額を金2129万4796円(当審で請求を減縮) (2) 別紙第二物件目録一ないし四記載の各項目に対する補償金の額を金1261万1244円(当審で請求を減縮) (3) 別紙第三物件目録一1記載の土地についての補償金の額を金1684万5400円(当審で請求を拡張) (4) 別紙第三物件目録二1記載の土地についての残地補償の額を金1313万4735円(当審で請求を拡張) (5) 別紙第四目録一記載の消費税分補償の額を金18万9902円(当審で請求を追加) (二) 訴訟承継前の甲1に対する (1) 別紙第三物件目録一2記載の土地についての補償金の額を金617万1166円(当審で請求を減縮) (2) 別紙第三物件目録二2記載の土地についての残地補償の額を金892万0333円(当審で請求を減縮) (三) 控訴人甲2、同甲3、同甲4、同甲5、同甲6、同甲7、訴訟承継前の甲11に対する (1) 別紙第三物件目録一2記載の土地についての補償金の額をそれぞれ金167万3190円(当審で請求を減縮) (2) 別紙第三物件目録二2記載の土地についての残地補償の額をそれぞれ金254万8667円(当審で請求を減縮) (四) 控訴人甲5に対する (1) 別紙第二物件目録五及び六記載の各項目に対する補償金の額を金368万4129円(当審で請求を追加) (2) 別紙第四目録二記載の消費税分補償の額を金11万0524円(当審で請求を追加) とする。 3 被控訴人は、 (一) 控訴人甲2に対し、金6407万6077円及び内金6388万6175円に対する昭和44年4月1日から、 (二) 控訴人甲5に対し、金4906万9153円及び内金4712万3804円に対する昭和44年4月1日から、 各完済まで年18.25パーセントの割合による金員を支払え(いずれも当審で請求を減縮)。 4 被控訴人は、控訴人甲2がその所有する和歌山県田辺市新庄町中橋谷××番2及び同所△△番21の各土地につき強制収用を原因として被控訴人に所有権移転登記手続をすることを条件に、控訴人甲5に対し、同所△△番38の土地(旧公簿面積304平方メートル、新公簿面積752.49平方メートル)につき錯誤を原因として所有権移転登記手続をせよ(当審で追加された新たな訴え――以下「本件新訴」ともいう。)。 5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 〔控訴の趣旨に対する答弁〕 1 本件控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 〔当審における新たな訴えに対する答弁〕 (本案前の答弁) 1 控訴人甲5の本件新訴を却下する。 2 右訴えに関する訴訟費用は控訴人甲5の負担とする。 (本案の答弁) 1 控訴人らが当審において追加した請求(本件新訴を含む。)をいずれも棄却する。 2 右訴訟費用は控訴人らの負担とする。 [1]一 本件は、控訴人甲2(以下「控訴人甲2」という。)、訴訟承継前の一審原告甲1(以下「甲1」という。)、控訴人甲3(以下「控訴人甲3」という。)、同甲4(以下「控訴人甲4」という。)、訴訟承継前の一審原告甲11(以下「甲11」という。)、控訴人甲5(以下「控訴人甲5」という。)、同甲6(以下「控訴人甲6」という。)及び同甲7(以下「控訴人甲7」という。)(以下、右の8名を「控訴人甲2ら8名」という。)の所有する和歌山県田辺市新庄町中橋谷所在の原判決添付図面(二)記載の赤枠部分の土地(以下「本件収用地」という。)が被控訴人の新たに設置する田辺変電所の事業対象地となり、昭和43年4月25日、被控訴人が起業者として右事業の認定を受け、原判決添付第四、第五物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)が収用地としてその細目が公告され、本件土地の損失補償につき、被控訴人と控訴人甲2ら8名との協議がなされたが、不調となり、被控訴人の申請により、和歌山県収用委員会(以下「収用委員会」という。)が、昭和44年3月31日、損失補償金を、控訴人甲2に対しては861万4335円(但し、甲15との間において争いのある所有地分も含む。)、甲1に対しては101万7730円、控訴人甲3、同甲4、甲11、控訴人甲5、同甲6及び同甲7に対しては各29万0780円とし、権利の取得時期及び明渡の期限を同年4月11日とする本件土地の収用裁決がなされたが、控訴人らが右補償額が不当であるとして適正な補償を求めたのが本訴である。 [2] 原審は、控訴人らの請求をいずれも理由がないとして棄却したところ、控訴人らが右判断を不服として控訴し、当審において、請求の一部を拡張、減縮するとともに本件新訴を追加したものである(なお、控訴人らは、原審において、本件収用に関する土地調書及び物件調書の記載に誤りがあるとしてその旨の中間確認も求めていたが、右訴えは確認の利益を欠き不適法であるとして却下され、右部分の控訴についてはその後、取り下げるに至っている。)。 [3]二 当事者の主張は、以下に付加、訂正するほか、原判決事実摘示(同5枚目裏6行目から同24枚目裏末行まで)と同一であるから、これを引用する。 [4]1 原判決中の請求の一部減縮、拡張に関しては、その旨主張を読み替え、同添付第一ないし第三物件目録をそれぞれ別紙第一ないし第三物件目録と改める。 [5]2 原判決中の「甲7」を「甲7」、「甲7」を「甲7」と、「甲16」を「甲16」、「甲16」を「甲16」と、それぞれ改める。〔名の漢字・仮名表記の誤りを訂正したもの〕 [6]3 同7枚目表8行目の「紀勢本線紀井新庄駅」を「紀勢本線紀伊新庄駅」と、同19枚目裏1行目の「可能」を「可能性」と、それぞれ改め、同2行目の「が期待されて」を削る。 1 本件新訴(土地所有権移転登記手続請求)とその適法性について [7](一) 本件収用において、裁決の基礎となった土地・物件調書は、控訴人ら代理人が測量期日の立会いを求めたのにこれを認めずに測量され、当事者に署名も求めず(仮に、署名を求めたことがあるとしても、控訴人らが署名を拒絶したわけでもないのに署名させなかった。)、その内容も虚偽のものである。すなわち、裁決書添付図面により収用地として確定された土地の範囲と被控訴人が現実に収用占有している土地の範囲が以下にみるように相違しており、登記関係も整合性を欠いている。 [8](二) 控訴人甲2所有の和歌山県田辺市新庄町中橋谷××番2の土地(以下、土地を表示する場合には地番のみで表示する。)は、収用対象地として被控訴人の占有下にあるにもかかわらず、収用に基づく所有権移転登記は経由されておらず、また、同控訴人所有の△△番21の土地もその全部が収用対象地とされているにもかかわらず、その一部が分筆されて被控訴人に所有権移転登記がなされているにすぎない。さらに、控訴人甲5所有の△△番38の土地は、実際には収用対象地として被控訴人に占有されていないにもかかわらず、収用対象地とし被控訴人への所有権移転登記が経由されている。 [9](三) 右は、控訴人甲2所有の××番2、△△番21の残地を収用する際、錯誤により控訴人甲5所有の△△番38の土地であると誤解して所有権移転登記を経由してしまったことによるものであるから、真実に従って、控訴人甲2が同人所有の××番2の土地と△△番21の残地につき、被控訴人に収用を原因として所有権移転登記手続をすることを条件に、被控訴人は、控訴人甲5に対し、△△番38の土地につき、錯誤を原因として所有権移転登記手続をすべきである。 [10](四) 右各土地の収用の誤りは、補償に関係するので、本件損失補償の裁判において是正されるべきである。 2 本件収用地の範囲及び補償金の不当性について [11](一) 本件収用裁決には、前記1(一)の瑕疵がある上に、本件裁決による収用後、収用対象地の原状が完全に破壊されたため、本件裁決により図上分筆した土地の境界と被控訴人が現実に占有している土地との間に誤差が生じている可能性があるが、是正は事実上不可能であるから、正当な補償をするためには、誤差の範囲を起業者に二重に支払わせるべきであるところ、右誤差の割合は10パーセントを越えることはないと思われるから、その誤差の範囲内で起業者である被控訴人に追加的に補償額の支払いをさせるべきである。 [12](二) 控訴人甲2所有の△△番21の土地は、裁決書記載分以外に200平方メートルがBにより侵奪され、同人の所有地として収用されているので、右侵奪部分についても控訴人甲2に対して追加補償がなされるべきものである。 [13](三) 控訴人甲5所有の△△番1の土地は、裁決書記載分以外に120平方メートルがBにより侵奪され、同人の所有地として収用されているので、右侵奪部分についても控訴人甲5に対して追加補償がなされるべきものである。 [14](四) 昭和43年から同44年にかけては土地価格の上昇傾向が顕著で、かつ、それが継続的に存在していたから、このような場合の収用補償金額は収用裁決時を基準に算定すべきであり、事業認定時とするのは、憲法29条3項に定める正当な補償とはいえず、そのような収用は同条に違反する。 [15](五) 本件収用は、国道42号線バイパスの調査着手の事前作業として、これを秘匿してなされたもので、いわゆるインサイダー情報を秘匿して行われたものであるから、右情報を収用価格に反映しなければ、公正の原則上、正当な補償とはいえない。 [16](六) 収用価格は、近傍類似地の価格を考慮して相当な価格を定めるべきところ、右相当な価格とは、それによって直ちに代替地を入手できる価格というべきである。そして、本件収用においては、近傍類似地の価格情報が起業者の情報操作により歪められているので、改めて正しい価格情報により判断しなおすべきである。特に、鉄塔用地に関する価格情報が意図的に秘匿されていた。 [17](七) 以上の諸事情を考慮すれば、本件収用地の補償金額は1平方メートル当たり1万円が相当である。 3 残地補償金額について [18] 本件土地は、本来、高級住宅地として開発されるべき景勝地であって、宅地見込地であったものであり、変電所が立地すべき土地ではない。ところが、被控訴人の田辺変電所(以下「本件変電所」という。)が建設されたことにより、控訴人甲2、同甲5の各所有する残地が住宅地としての立地条件を完全に喪失したから、その価格の45パーセントの補償がなされるべきであり、特に、本件の北側部分(原判決添付図面(四)記載の①、②、③部分)は崖状となり、その周辺地は危険で近づくこともできず、ほとんど価値のないものとなってしまったので、右部分については80パーセントの補償がなされるべきである。 4 果樹等の補償金額について [19] 控訴人甲2に対する果樹・立木等の補償金額は、別紙第一物件目録一、二記載の額が、また、建物補償金額は、同物件目録三記載の額が、それぞれ相当である。 5 控訴人甲2の道路新設費、水路回復費等の補償について [20] 控訴人甲2に対する道路新設費の補償金額は、別紙第二物件目録一記載の額が、また、水路回復費の補償金額は、同物件目録二記載の額が、それぞれ相当である。なお、控訴人甲2は、取水源としてF所有の井戸を買い取る必要があるほか、従来の貯水槽を埋め戻し、別に新たな貯水槽を設置する必要がある。さらに、同物件目録三記載の防風林植樹費については、3年分年率18.25パーセントの割合による時点修正をした金額を補償すべきである。 6 控訴人甲5の道路新設費、転落防止柵設置費の補償について [21](一) 控訴人甲5は、本件収用により、従前の道路が遮断されたため、所有地内に、東南側山林に行くための道路を新設する必要があり、その費用は、別紙第二物件目録五記載のとおりであるから、被控訴人は、右費用を補償すべきである。 [22](二) 控訴人甲5は、被控訴人が本件変電所北側を高さ16メートルもの違法で危険な崖状としたため、その危険防止のために、自己所有地に高さ2メートル、長さ60メートルもの転落防止柵を設置する必要が生じたものであり、その費用は、別紙第二物件目録六記載のとおりであるから、被控訴人は、右費用を補償すべきである。 7 消費税相当分の補償について [23] 控訴人甲2は、別紙第四目録一記載の各工作物等を、控訴人甲5は、同目録二記載の各工作物等を、それぞれ設置・再建する必要があるところ、右設置等のための工事費用の消費税は同目録記載のとおりであるので、右消費税相当分の補償もなされるべきである。 1 控訴人甲5の本件新訴に対する本案前の主張について [24] 控訴人甲5は、土地収用法133条に基づく損失補償に関する本訴において、本件新訴を追加しているが、本件新訴は、本訴と訴訟物を異にするほか、行政事件訴訟法上の関連請求にも当たらないから、本訴と併合して審判の対象とすることはできない。したがって、本件新訴は、不適法として却下されるべきである。 2 控訴人らの主張2について [25] 本件収用裁決における収用地の特定、範囲の確定には欠けるところがなく、収用地がその面積によって確定ずみであることは、最高裁判所昭和58年(行ツ)第138号及び同第139号事件の判決により明らかであるから、控訴人らが主張するような面積の変更や誤差の発生する余地はなく、土地の補償金額を変更すべき理由はない。のみならず、土地収用法71条が補償金額算定に当たり事業認定時を基準として価格決定につき時点修正の規定を設けていることからすれば、本件収用における補償金が憲法に違反するとする理由はなく、本件収用裁決は正当であって、この点からも、追加補償の必要性は認められない。 3 控訴人らの主張3について [26] 本件変電所付近では宅地化は進んでおらず、残地を宅地見込地として評価することは相当ではなく、また、残地自体の面積も確定されておらず、残地の価格が低下したことを裏付けるに足りる事情も認められないから、控訴人らの主張する残地補償の必要性はない。 4 控訴人らのその余の補償に関する主張(4ないし7)について [27](一) 控訴人らの主張する補償のうち、果樹・立木等の補償については、収用の対象となった果樹・立木等の数量、樹齢ともに本件収用裁決の内容が真実に反するとする根拠はなく、また、建物補償についても右裁決の認定する補償金額は正当であって、その他の費用の補償についてもその必要がないものであるから、控訴人らの右主張は理由がない。 [28](二) 本件変電所の北側の崖については、敷地造成工事の際、被控訴人において、セメントモルタル吹き付けを施し、さらに、格子状のコンクリート被覆をする等して宅地造成等規制法等の関係法令に適合する措置を講じており、違法なものではない。 [29](三) 控訴人らの主張する消費税相当分の追加補償については、損失補償が事業認定時を基準とすべきであるから、右認定当時、存在していなかった消費税につき補償をする必要はないものというべきである。 [30]一 当裁判所は、控訴人甲5の当審における本件新訴は不適法で却下すべきものであり、控訴人らのその余の請求(当審における請求拡張、減縮後のもの及び請求追加部分を含む。)は、いずれも理由がなく棄却すべきであると判断する。 [31] その理由は、本件新訴の適否及び当審における控訴人らの主張に対する判断を付加し、次のとおり訂正するほかは、原判決の理由説示(同26枚表9行目から同46枚目裏6行目まで)のとおりであるから、これを引用する。 [32] 原判決30枚目表9行目の「定めている」を「定められている」と、同35枚目表8行目の「5号」を「1号」と、同38枚目裏7行目から同8行目の「△△番73、同番74」を「△△番72、同番73」と、同39枚目表2行目の「前掲甲第23、第24号証」を、「前掲乙第23、第24号証」と、同末行、同裏4行目、同41枚目裏6行目、同10行目、同42枚目表末行、同裏5行目から6行目の「収容委員会」をいずれも「収用委員会」と、同裏1行目、同6行目の「本件収容地」を「本件収用地」と、同44枚目表12行目の「前記二1(三)(2)」を「前記三1(三)(2)」と、同45枚目表2行目の「本件残地上を往来するためには」を「本件残地上には」と、それぞれ改める。 [33] 控訴人甲5は、本件土地の収用裁決における損失補償額が不当であるとして、土地収用法133条に基づき正当な損失補償を求めて本訴を提起し,さらに、当審において、本件収用により真実収用されたのは控訴人甲2所有の××番2及び△△番21の残地であるのに控訴人甲5所有の△△番38の土地が右残地と誤って所有権移転登記が経由されていると主張して、控訴人甲5所有の△△番38の土地につき、錯誤を理由に所有権移転登記手続を求める本件新訴を追加しているので、まず、本件新訴の適否につき判断する。 [34] ところで、土地収用法133条に基づく損失の補償に関する訴訟は、土地収用の裁決のうち、収用の対象に関する裁決部分と損失補償額に関する裁決部分とを別個に取扱い、後者についてのみ不服がある場合には、前者と切り離して後者のみを不服の対象とする訴訟を提起できるものとしたものであるが、その実質は、行政事件訴訟法4条所定の当事者訴訟に該当するから、同法38条1項、19条により準用される同法13条によりいわゆる関連請求に係る訴えを併合して提起することができることになる。しかしながら、本件新訴は、本件土地の収用裁決における収用対象に関する部分に対する不服を前提とした登記手続に関する訴訟であって、損失補償額に関する部分に対する不服である本訴とは争点を共通にするものではないから、いわゆる関連請求に係る訴えということはできず、同一の訴訟手続内で審判することはできないところ、控訴人甲5において、本件新訴が本訴と同一の訴訟手続内で審判される必要があるとし、右併合審判を受けることを目的として本件新訴を提起したものであることは、その主張自体から明らかであるから、本件新訴は不適法として却下を免れないというべきである。 [35]1 控訴人らが提起した本件収用裁決のうちの収用の対象に関する裁決部分の取消を求める訴えについて請求棄却の判決が確定したことは前記一で引用した原判決の理由三1(八)記載のとおり(同34枚目表10行目から同35枚目表末行まで)であるから、本件収用裁決は有効であって、その土地の特定もなされ、収用面積も確定ずみのものである。したがって、控訴人らの当審における主張2(一)、(二)、(三)の追加補償の各主張は、その前提を欠くから理由がない。 [36]2 また、土地収用法71条によれば、土地等の収用による損失補償金額は、事業認定の告示の時における「相当な価格」を基準に、権利取得裁決時までの物価の変動に応じた修正率を乗じて得た額とされているところ、控訴人らは、昭和43年から同44年にかけて、土地価格は顕著な上昇傾向を示しており、その傾向は継続的であるから、本件収用における本件土地の損失補償金額は収用裁決時を基準として算定すべきであり、事業認定時とするのは、憲法29条3項に違反する旨主張するので、以下、この点につき判断する。 [37] ところで、憲法29条3項に定める「正当な補償」とは、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償を意味し、土地の収用において金銭補償をする場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地を取得することをうるに足りる金銭の補償を要するものというべきである(最高裁昭和46年(オ)第146号同48年10月18日第一小法廷判決・民集27巻9号1210頁)。土地収用法71条の「相当な価格」もこの趣旨に解すべきであるから、近傍において被収用地と同等の代替地を取得することをうるに足りる価格をいうものと解されるが、土地収用の被収用者は、事業認定の告示後は、権利取得裁決前においても、補償金の支払を請求することができ(同法46条の2)、右請求があった場合、起業者は請求日から原則として2か月以内にその見積額を支払わなければならず(同法46条の4)、右見積額を支払時期に応じて修正した額が裁決による補償額より低いときや支払期限を遅滞したときは、後に収用委員会が権利取得裁決において正当な補償額を裁決する際に、右差額や遅滞額について6.25パーセントないし18.25パーセントの割合による加算金を付加するものとされており(同法90条の3)、また、事業認定告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価変動に応じる修正率を乗じた額とするものとされている(同法71条)ことなどからして、被収用者は近傍において被収用地と同等の代替地を取得するに足りる金銭の補償を得ることができるものというべきである。事業認定告示後は、一般の取引がなくなるのが通常であるから、当該収用対象地の地価上昇率を確定するのは困難であり、近傍類似地の地価上昇率についても、認定を受けた事業の実施による開発利益やこれを期待しての投機的要素が加って上昇することが多いから、近傍の土地の価格の上昇率を加えて算定するのは相当でなく、その他土地の価格形成要因は多岐にわたるものであることなどを考慮すると、事業認定告示の時を基準にして物価の上昇率を乗じて修正して補償額を決定する方法にもそれなりの合理性があるというべきである。 [38] したがって、事業認定告示の時を基準として補償金額を算定することが憲法29条3項に違反するとの控訴人らの主張は採用できない。 [39]3 さらに、控訴人らは、本件収用が、被控訴人の入手したインサイダー情報を秘匿して国道42号線バイパスの調査着手の事前作業として行われ、鉄塔用地に関する価格情報も意図的に秘匿されていたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠は存在せず、控訴人らの右主張も理由がない。 [40]4 そうすると、本件収用地の補償額を1平方メートル当たり1万円とすべき控訴人らの主張2には理由がない。 [41] 本件収用地は、収用当時、大部分はみかん畑であるが、傾斜部分等は雑木林のままとなっている標高約30メートルの丘陵地と谷からなるかなりの高低差のある土地であったうえ、右土地及びその付近は、宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域に指定されていて、宅地化が困難な土地であった〔原判決の理由三1(三)(2)、四1(同29枚目表12行目から同30枚目表2行目まで、同43枚目表12行目から同44枚目表8行目まで)参照〕から、控訴人らが主張するように本件収用地を宅地見込地として評価するのは相当ではなく、また、証拠(証人Q、甲144、145、検甲3のA、B、C及び検証の結果)によれば、硬岩盤から成る本件変電所の北側の崖については、敷地造成工事の際、セメントモルタル吹き付けを施した上で、さらに格子状のコンクリートによる補強をするなどして宅地造成等規制法等の関係法令に適合する措置がとられていることが認められ、他方、控訴人ら主張の危険であることを裏付けるに足りる証拠もないから、控訴人らの残地補償に関する主張は理由がない。 [42]1 控訴人甲2に対する果樹・立木等の補償、また、建物補償については、前記一で引用した原判決の理由三記載のとおりであり(同26枚目表12行目から同43枚目表11行目まで)、当審における控訴人らの主張に副う証拠(甲46、47の1、2)による果樹等の種類、数量、樹齢、金額については、右認定事実及び証拠(甲72、乙25の1)と対比してにわかに信用しがたい。 [43]2 控訴人甲2の道路新設費、水利回復費、防風林植樹費等の補償については、前記一で引用する原判決の理由三1(三)(2)、四2(同29枚目表12行目から同30枚目表2行目まで、同44枚目表9行目から同45枚目裏10行目まで参照)によれば、右費用の前提となる各工事自体が本件収用後の残地につき実施すべき工事であるとは認められないから、右費用の補償を求める控訴人らの主張はその前提を欠き、採用できない。 [44] また、控訴人甲2は本件収用後に新たな取水源として井戸の買い取りが必要であると主張し、その理由として、控訴人甲5は、被控訴人の設置した本件変電所からの給水の使用は違法であるとして市当局から止められたと供述するが、右違法とする根拠自体が明確でなく、他方、被控訴人の給水証明があれば足りるとも供述していることからすれば、控訴人らの主張する井戸の買取りの必要性は認めがたいといわざるを得ず、右買取費用の補償請求も理由がない。 [45]3 控訴人甲5は、本件収用により既存道路が遮断され、東南側山林に行く道路を設置する必要があり、その費用の補償を求めるところ、証拠(検証)によれば、本件土地の近くに農道や農免道路があり、その利用も可能であることが認められるうえ、本件収用後の残地上を人が通行することが可能であることは前記一で引用した原判決の理由四2記載のとおりである(同44枚目表9行目から同45枚目裏10行目まで、特に、同45枚目表2行目ないし4行目参照)から、本件収用後の残地に控訴人甲5の主張するような道路を新設する必要性は肯認しがたい。 [46] また、前記四で認定したように、本件変電所の北側の崖については、敷地造成工事の際、セメントモルタル吹き付けを施した上で、さらに格子状のコンクリートによる補強をするなどして宅地造成等規制法等の関係法令に適合する措置がとられている上に、危険であることを裏付けるに足りる証拠もないから、転落防止柵の設置の必要性も肯認しがたいといわざるを得ない。 [47] そうすると、控訴人甲5の道路新設費、転落防止柵設置費の補償請求は理由がない。 [48]4 控訴人らは、その主張する各工作物等の設置、再建に要する工事費用につき、消費税相当分の補償も求めるところ、その主張する各工事の必要性自体が認められないことは既に認定したところであるうえ、消費税は消費税法(昭和63年法律第108号)に基づき事業者の資産の譲渡等に課せられるものとして創設され、同法は昭和63年12月30日に施行されたものであるから、本件収用の際には、存在しなかったものであり、本件収用による損失補償額に右消費税相当分の補償を求めることはできないから、いずれにしても、控訴人らの右主張は理由がない。 [49] よって、控訴人らの請求(当審における請求の拡張、追加部分を含む。)はこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、また、控訴人甲5が当審で追加した本件新訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法67条1項、61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。 (別紙) 第一物件目録
第二物件目録
第三物件目録 一 収用地 1 甲2所有地 (一) 裁決書記載分(原判決添付図面(二))3535.89平方メートルのうち、1684.29平方メートル (内訳) ××番地1の一部 105.55平方メートル ××番地2 135.80平方メートル △△番地21 1442.94平方メートル (二) 裁決書記載漏れ分(△△番21の残地) 200.00平方メートル (別紙図面の①記載の土地部分) (三) 誤差分 168.45平方メートル 右(一)、(二)、(三)の面積合計2052.74平方メートルにつき、1平方メートル当たりの単価1万円とした金額の内金1684万5400円である。
2 甲17(甲5)所有地(一) 裁決書記載分(原判決添付図面(二))3535.89平方メートルのうち、1851.35平方メートル (内訳) △△番30 857.11平方メートル △△番1(未登記地、R会所有名義) 994.24平方メートル (二) 裁決書記載漏れ分(△△番1の残地) 120.00平方メートル (別紙図面の②記載の土地部分) (三) 誤差分 185.13平方メートル 右(一)、(二)、(三)の面積合計2156.48平方メートルにつき、1平方メートル当たりの単価1万円とした2156万4800円の内金1851万3500円である。
二 残地分(原判決添付図面(三)) 7748.40平方メートル1 甲2所有地 2918.83平方メートル (内訳) △△番41 379.13平方メートル △△番42 1658.15平方メートル △△番4 211.95平方メートル ××番地1の一部 669.60平方メートル 右各土地の面積合計2918.83平方メートルにつき、1平方メートル当たりの単価1万円、減価率45パーセントとした金額1313万4735円である。
2 甲17(甲5)所有地 4830.00平方メートル(内訳) △△番30 773.09平方メートル △△番65 459.64平方メートル △△番38 1225.265平方メートル 未登記地 2372.035平方メートル 右各土地の面積合計4830.00平方メートルのうち1436平方メートル(原判決添付図面(四)記載の①、②、③部分)につき、1平方メートル当たりの単価1万円、減価率80パーセントとした1148万8000円と残余の面積3394平方メートルにつき、1平方メートル当たりの単価1万円、減価率45パーセントとした1527万3000円の合計2676万1000円である。
以 上
第四目録(工作物再建費の消費税相当分) 一 甲2に対し 小計 18万9902円 1 4万6272円(第一物件目録三記載の建物再建費についての消費税) 2 6万5163円(第二物件目録一記載の道路新設費についての消費税) 3 1万3127円(第二物件目録二記載の水利回復費についての消費税) 4 6万5340円(第二物件目録三記載の防風林植樹費についての消費税) 二 甲5に対し 小計 11万0524円 1 5万5479円(第二物件目録五記載の道路新設費についての消費税) 2 5万5045円(第二物件目録六記載の転落防止柵設置費についての消費税) 以 上
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