天皇と民事裁判権
第一審判決

住民訴訟による損害賠償請求事件
千葉地方裁判所 平成元年(行ウ)第4号
平成元年5月24日 民事第1部 判決

■ 主 文
■ 理 由


一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。


 本件訴えの要旨は、原告は千葉県の住民であるところ、千葉県知事沼田武は昭和63年9月23日から昭和64年1月6日まで天皇陛下の病気の快癒を願う県民記帳所(以下「記帳所」という。)を違法に設置し,これに千葉県の公費を違法に支出して千葉県に損害を与え、一方、昭和天皇は記帳所設置に要した費用相当額を不当に利得したところ昭和64年1月7日に死亡し、今上天皇(訴状の記載では天皇家明仁、以下「天皇」という。)が相続したとして、原告が千葉県に代位して沼田武に対し右損害賠償請求を、天皇に対し不当利得返還請求をなすというものである。

 しかるに、日本国憲法において天皇は日本国民の総意に基づき日本国及び日本国民の統合の象徴とされ、内閣の助言と承認に基づいて国事行為を行うものとされている。かかる天皇の象徴という特殊な地位に鑑み、公人としての天皇に係わる行為については、内閣が直接に又は宮内庁を通じて間接に補佐することになり、その行為に対する責任もまた内閣が負うことになるので、天皇に対しては民事裁判権がないと解すべきである。
 天皇が記帳所において国民から病気平癒の見舞いの記帳を受けるということは、天皇の象徴たる地位に由来する公的なものであり、したがって天皇の右地位を離れた純粋に私的なものであるとみることはできない。

 よって、本件訴えは、不適法でその欠缺を補正することができないので、これを却下することとし、訴訟費用については民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。

■第一審判決 ■控訴審判決 ■上告審判決   ■判決一覧