三菱タクシー運賃変更申請却下事件
控訴審判決

損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
大阪高等裁判所 平成5年(ネ)730号・1423号・2197号
平成6年12月13日 民事第1部 判決

控訴人兼附帯被控訴人(被告)  国(以下「控訴人」という)
   代表者法務大臣      前田勲男
   右指定代理人       川口泰司 ほか6名

被控訴人兼附帯控訴人(原告)  三菱タクシー株式会社(以下「被控訴人三菱タクシー」という)
   右代表者代表取締役    笹井良則
                ほか4名 右被控訴人5名訴訟代理人弁護士  浜田行正 吉川法生 豊島時夫 道下徹

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


一 本件控訴を棄却する。
二 第2197号事件の附帯控訴を却下する。
三 第1423号事件の附帯控訴を棄却する。
四 当審における被控訴人らの新請求(当審における拡張部分を含む)を棄却する。
五 控訴費用は控訴人の負担とし、その余の当審における訴訟費用は被控訴人らの負担とする。

(控訴人)
一 原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。
二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
三 (主位的申立)第2197号事件の附帯控訴を却下し、第1423号事件の附帯控訴を棄却する。
  (予備的申立)本件附帯控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は第一・二審(控訴・附帯控訴費用とも)を通じて被控訴人らの負担とする。
五 仮執行免脱宣言

(被控訴人ら)
一 本件控訴を棄却する。
二 原判決中被控訴人ら敗訴部分を取消す。
三 控訴人は、原判決で支払いを命じられた金員に付加して、次の各金員を支払え。
1 被控訴人三菱タクシーに対し、金890万7461円及びこれに対する平成3年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員。
2 被控訴人新三菱タクシーに対し、金439万3400円及びこれに対する平成3年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員。
3 被控訴人三菱交通に対し、金389万8894円及びこれに対する平成3年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員。
4 被控訴人新三菱交通に対し、金447万0883円及びこれに対する平成3年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員。
5 被控訴人三菱興業に対し、金363万0095円及びこれに対する平成3年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員。
四 予備的申立(予備的請求につきなされた当審における交換的変更による請求の拡張及び被控訴人三菱興業の新請求の追加)
 控訴人は、次の各金員を支払え。
1 被控訴人三菱タクシーに対し、金2667万4013円及び内金128万7442円に対する平成3年11月14日から、内金500万円に対する同年12月2日から、内金500万円に対する平成4年2月2日から、内金365万1300円に対する同年3月2日から,内金1173万5271円に対する同年6月1日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
2 被控訴人新三菱タクシーに対し、金1294万8818円及び内金346万6144円に対する平成4年1月15日から、内金400万円に対する同年2月1日から、内金400万円に対する同年3月1日から、内金148万2674円に対する同年4月1日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
3 被控訴人三菱交通に対し、金1164万2009円及び内金521万4073円に対する平成4年1月22日から、内金250万円に対する同年1月7日から、内金250万円に対する同年2月1日から、内金142万7936円に対する同年3月1日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
4 被控訴人新三菱交通に対し、金1339万0017円及び内金309万5478円に対する平成4年2月7日から、内金350万円に対する同年3月7日から、内金350万円に対する同年4月7日から、内金329万4539円に対する同年5月7日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
5 被控訴人三菱興業に対し、金1078万4032円及び内金608万8510円に対する平成4年1月21日から、内金469万5522円に対する同年6月21日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員。
五 訴訟費用は第一・二審(控訴・附帯控訴費用とも)を通じて控訴人の負担とする。
六 被控訴人らの原判決勝訴部分及び当審で新たに勝訴を求める部分について、仮執行宣言。
[1] 原判決3枚目裏2行目から同9枚目裏2行目までに記載のとおりであるから引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

[2] 同3枚目裏6行目の「大阪運輸局長」を「近畿運輸局長」と改め、同4枚目表7行目の括弧書部分を削り、同5枚目表7行目の「認可」の前に「申請どおり」を加える。

[3] 同5枚目表10行目の「運輸局長は」から同6枚目表3行目までを
「運輸局長は、被控訴人らの消費税即時転嫁を妨害する目的で、右転嫁には運賃変更認可申請を要しないのに右申請をするように行政指導を行い、被控訴人らがした右申請を直ちに受理して1箇月以内に認可すべきであるのに、行政指導の名のもとに受理を引伸ばし、受理後においても4箇月以上も許否の決定をせず、その上で本来認可すべき右申請を却下した。」
と改める。

[4] 同6枚目表末行の「なかった」の次に「ところ、このような場合において他に救済手段はない」を加え、同裏1行目から2行目にかけての括弧書部分を削る。

[5] 同6枚目裏5行目の「金員の返還」から同6行目末尾までを
「金員の返還と、被控訴人らが平成3年6月ないし8月の営業収入に対する消費税として納付した金額に対する各納付の日(その各金額と各納付の日は別表記載のとおり)の翌日以降支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」
と改める。

[6] 同7枚目表1行目の「運輸局長において」の次に「被控訴人らの真意を把握する必要を認め、またその申請内容を変更するように」を加える。

[7] 同9枚目表7行目と8行目を削り、同9行目の順番号「五」を「四」と、同10行目の順番号「六」を「五」とそれぞれ改め、同12行目の括弧書部分を削る。
[8] 当裁判所も、消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃の値上げについても、道路運送法所定の認可が必要であると判断する。その理由は、原判決9枚目裏5行目から同15枚目表6行目までに記載のとおりであるから引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

[9] 同10枚目表8行目から12行目までを削る。

[10] 同10枚目裏1行目の「消費者」を「費者」と、同11行目の「証人中村時雄、同山本」を「被控訴人新三菱タクシー代表者中村時雄、証人山本」と、同11枚目表2行目の「円高差益があり」を「円高差益の関係もあって利益が上がっており」と同6行目の「認可申請」を「認可を申請」とそれぞれ改める。

[11] 同12枚目裏13行目の「両証言」を「各供述」と、同14枚目表5行目の「踏み、」から同7行目末尾までを「踏んだのは当然のことといえる。」とそれぞれ改める。

[12] 同14枚目表8行目から同枚目裏12行目の「認められる。)。」までを
「他方、消費税制度の目的達成には、納税義務者である生産、流通過程の各事業者が納税の原資である消費税額分を円滑かつ適正に消費者に転嫁する必要があり、そのため国に対しても、消費税の仕組等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとされているのであって(税制改革法11条2項)、この点を考慮すると、本件のように、消費税転嫁を目的としてタクシー運賃の値上申請がなされたときは、地方運輸局長は、円滑な転嫁に資するため、速やかにその審査をし認可の許否を決すべきである。」
と改める。
[13] 申請書提出から却下までの経過は、原判決15枚目表9行目から同18枚目表末行までに記載のとおりであるから引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
[14](一) 《証拠改め略》
[15](二) 同15枚目裏3行目の「原告らは、」から同6行目の「不要であるとして、」までを
「被控訴人らは、平成3年3月20日、既に消費税転嫁による運賃値上を実施した同業他社が更に平均11.1パーセントの値上を認可されたことにより、タクシー運転手の賃金水準が一般的に上昇し、被控訴人らも同年4月1日から歩合制度の下で運転手の給料改善を図ることとなり、被控訴人らの円高差益もかなり落込んで経営努力だけでは限界となる見込みとなったため、消費税転嫁分3パーセントの値上げをする方針を定めたが、消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃の値上げについては、運賃そのものの変更には当たらず、したがって、道路運送法9条による認可は不要であるとの見解に立ちながらも、運輸局との紛争防止の必要上念のため、」
と改める。
[16](三) 同16枚目表8行目の「2年も経った」から同9行目の「転嫁値上げを申請するに至った」までを
「2年も経ち他のタクシー運賃との格差が14.2パーセントもあるのに僅か3パーセントだけの値上げしか申請せず、そのうえ、被控訴人らにおいて一般増車が認められるのであれば他の業者と同一水準までの運賃改定申請を行う用意があることを再三示唆するなどの事情があったので、今回運賃値上申請をするに至った」
と、同16枚目表末行の「運転」を「運賃」とそれぞれ改める。
[17](四) 同17枚目表10行目と11行目の間に次のとおり挿入する。
「被控訴人の担当者から本件申請書の正式受理を要請された際にも、運輸局の担当者は、本件申請書の添付書類に不適切なものがあることを指摘せず且つ右の運輸局長の期待や考えを告げることもなく、自動車部長が笹井寛治との会談を強く希望している旨を伝えたに止まる。同年4月11日に自動車部長と笹井寛治との会談が実現したが、自動車部長がどのような行政指導をしたかは、明らかでない。」
[18](五) 同17枚目表12行目の「現行運賃認可」を「現行(当時)運賃認可」と改める。

[19] 右の事実関係を前提として、本件申請に対する運輸局長の正式受理までの対応、受理後の審査手続及び本件却下決定に違法な点がないかを検討するに、当裁判所の判断は、原判決18枚目裏4行目から同21枚目裏末行までに記載のとおりであるから引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
[20](一) 同19枚目裏8行目と9行目の間に次のとおり挿入する。
[21]控訴人は、被控訴人らの真意を探る必要があったから、受理が遅くなったことに違法はないと主張する。
[22] そこで判断するに、前認定の事実によれば、本件申請は消費税を転嫁するための税額相当分の値上げであるから速やかに受理してほしい旨、被控訴人らの担当者が運輸局に申入れているのであるから、受理すべきか否かの審査段階での行政指導は、必要書類が完備しているか否かの形式的要件の他に、認可を受けるに必要な条件(値上率等の運輸局長の希望するところ)等について、指導を受ける側が推察出来る程度に示唆して指導すべきであったといわざるをえない。山本、武田の各証言によるも、これらの点に関し指導していたことを認めるに足らず、必要書類の不備は支局の提出窓口で申請書の授受の場で指導できる筈であり、値上率などについて疑問が生じた場合であっても被控訴人らの担当者(担当者は受理を求めて数回運輸局を訪れている)に質問するほうが速やかに応答を得られる筈であり、当審山本証言でも通常はそのようにしているという。結局のところ、控訴人の主張する本件申請についての被控訴人らの真意の確認は、本件申請の受理に際し検討する必要がない事柄であって、受理を遅らせたのを正当化することはできない。そして、添付書類の追加差替等の指導を本件申請書が提出されて後速やかにしておれば(速やかにしうる事案であることを前説示のとおり)、受理までに要する期間は、申請書提出後被控訴人らが原価計算書を追完するか否かを検討してその作成に要する期間程度で充分であると認められる。」
[23](二) 同20枚目裏12行目から同21枚目裏6行目末尾までを次のとおり改める。
[24](五) 控訴人は、本件却下処分が違法でないとして、その理由を詳細にわたって主張するが、要するに、いわゆる同一地域同一運賃の原則の正当性を前提として、本件申請では3パーセントの値上により法9条2項1号に定める要件が充分備わることになるか否かにつき、さらに個別的判断をする必要があったところ、右判断に必要な資料の提出がなかったというにある。よって、この点について検討する。
[25] 法9条2項1号は、一般旅客自動車運送事業者の旅客運賃等の変更認可基準として、「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」と定めている(以下この規定を「適正原価・適正利潤条項」という。)ところ、なるほど控訴人の主張するように、過剰利益防止の目的からの平均原価方式により設定され多数の事業者が一致して採用している運賃より低額の運賃の設定を希望して行われた個別申請についての審査においては、利潤を適正な範囲内に制限すべきであるとの考慮とは逆に、適正原価維持を考慮して、運転者の労働条件低下からサービス面や安全上の問題を引き起こし、或いは不当な価格競争を引き起こすおそれがないか検討する必要があることを否定できない。
[26] しかし、本来労働条件の確保は運賃政策のみにより実現すべきものではなく、主として使用者と労働組合との団体交渉のなかで双方の努力により解決されるべきものであり、不正競争防止も法94条所定の権限や法31条の事業改善命令の権限行使等のより直接的で有効適切と考えられる方法が準備されているのであって、これらの方法による解決をさておいて、運賃決定だけでこれらの危険を回避しようとするのは本来相当でなく、国民生活全体から見て道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進する上で充分な合理性を欠く。即ち、民間の競争を促進することにより、国際的な経済摩擦の回避や日本経済の活性化を図り、消費者に対するサービスの質を高める必要があることは否定できず、適正原価・適正利潤条項においても能率的な経営が前提とされているのは、この趣旨と解されるからである。そうすると、このような観点を考慮することなく、労働条件の確保及び不正競争の防止のみを重視することは、法の趣旨に反することになる。
[27] 一般に、適正原価・適正利潤より低い運賃水準のため労働条件の低下または不正競争などの問題が発生している際に、平均的原価方式による水準に達しないまでも値上申請がなされたときに、適正原価・適正利潤条項の定める基準に達しないとしてこれを却下することは、事態を放置するのと同じであって、益々これらの問題解決は困難となるのに、低い運賃のまま放置して当該業者が周囲との摩擦のため廃業に至り問題が解消するのを待つのでは、それが近い将来に実現可能とされるものでない限り背理である。まして右のような問題が現実に生じていないのに、平均原価方式による水準に達しない値上申請を適正原価・適正利潤条項に定める基準に達しないとして却下することは、業者の経営努力を否定し経済の活性化を妨げることに繋がるといわざるを得ない。更に、認可は補充行為であるから、法9条は、業者の申請の範囲を超えて値上げを認可することを許さないものと解される。
[28] したがってこのような申請がなされた場合、当該行政庁としては、現行運賃水準では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないか否かを審査し、償うことができないと判断するときは、適正原価・適正利潤条項を弾力的に解釈し、申請の値上げ運賃額が平均原価方式により設定されている運賃以下であっても、右値上げによりいくらかでも利潤を生じるときには、適正利潤を含むものとして、特段の事情のない限り、業者の申請を認可することが法の予定しているところということができる。そして、業者が右の認可後の運賃によってもなお労働条件の低水準化や不正競争を図ろうとしているなど公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは、法31条により運賃値上げその他の事業改善の命令をするべきものである。
[29] このような見地に立って本件を見ると、運輸局長は、毎事業年度毎に、財務諸表、人件費明細書及び営業概況報告書の提出を受け(法94条、運輸省令21号参照)、本件申請の直前に他の業者から平均原価方式による値上申請の基礎資料の提出を受けており、また被控訴人らの本件申請の理由は前示認定のとおり円高差益の減少、一般的な運転手の賃金水準の上昇と消費税転嫁にあって、これらの客観的事情の下で被控訴人らが現行の運賃では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができない事態に至っており、改めて消費税の転嫁により能率的な経営のための改善を図る必要があるというのであるし、申請どおり認可しても労働条件の低下や不正競争等の問題が起こる蓋然性が高いという事情も窺えないから、本件申請につき、現行運賃水準では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないか否かは、運輸局長の下に既に被控訴人らや他の業者から毎事業年度毎や直近の値上申請の際に提出されている既存の資料により、充分審査できた筈のものであって、仮に不足があるとしても直ちに提出可能な若干の資料を補充することで足りるということができる。したがって、本件値上申請の当否につき法9条2項1号の基準に適合するか否を判断できる資料の提出がなかったとの控訴人の主張は採用できない。
[30] 次に本件申請の却下処分の適法性について検討すると、先に説示したところからすれば、被控訴人らが現行運賃では能率的な経営の下における適正な原価を償うことができない事態に至っており、改めて消費税の転嫁を図る経営上の必要があり、3パーセントの値上げにより利潤を得ることができるのであるから、本件申請については、適正原価・適正利潤条項の基準に適うものと見るべきであり、その他法9条2項各号に定める基準にも適っていると認められるから、これを認可すべきであるところ、これを却下した本件処分は違法であるといわなければならない。」
[31] 控訴人が被控訴人らに賠償すべき損害の期間は、平成3年7月分と8月分であり、同年6月分はこれに当たらないことは先に説示したところから明らかである。そこで右損害額について検討する。
[32] 《証拠略》によれば、被控訴人各社の同年7月分と8月分の営業収入は原判決別紙損害表一の総営業収入欄に記載のとおりであると認められ、《証拠略》によれば、被控訴人らは、本件申請が受理された後は消費税を転嫁できることを見越して営業収入×0.03の額(外税計算)を消費税として納付していることが認められ、平成3年7月分、8月分の納付金額は原判決別紙損害表一のとおりであり、したがって控訴人が被控訴人らに賠償すべき損害額は、被控訴人三菱タクシーに対し1776万6552円、同新三菱タクシーに対し855万5418円、同三菱交通に対し774万3115円、同新三菱交通に対し891万9134円、同三菱興業に対し715万3937円及びこれらに不法行為の後の日である平成3年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金となる。
[33] なお、被控訴人らは、本件申請が認可されるときは、右損害額相当の運賃収入の増加がある筈のところ、その増収分相当の利益を失ったとしてその賠償を求めるものであるが、右増収分相当額についても、消費税が課税される筈のものであるから、損益相殺の法理により、右消費税相当額を喪失利益より控除し実収入額の増収見込分だけを消極損害とすべきであるといえないではない。即ち、本件申請の認可がない状態において、平成3年7月及び8月の被控訴人らの納付すべき消費税額は、理論上は売上(総営業収入)額の103分の3であり(仕入税額については、この際には結論に影響しないので考慮しない。)、これを控除後の実収入額は売上(総営業収入)額の103分の100である。したがって、本件申請の認可があった場合得べかりし実収入額(即ち仮定上の売上(総営業収入)額からこれについての消費税相当額を控除した残額)と前記実収入額との差額に相当する売上(総営業収入)額の103分の3が前示の損害になるといえないではない。しかしながら、被控訴人らは右期間の消費税として右の納付すべき消費税額を上回る額(売上(総営業収入)額の3パーセント相当額。なお前記納付すべき消費税額と右納付額との差額は非債弁済となることも考えられるが、この点は暫くおく。)を既に納付していることを考慮すると、本件においては前記のような理由によって損益相殺の法理を適用することは相当とはいえない。

[34] 予備的請求(不当利得返還請求)についての当裁判所の判断は、原判決22枚目裏4行目から同10行目までに記載のとおりであるから引用する。

[35] 以上説示のところによれば、第1423号事件による本件附帯控訴については、不法行為に基づく請求及び当審において交換的に変更された予備的新請求を含む不当利得返還請求のいずれも理由がないことは明らかである。
[36] 附帯控訴は、不利益変更禁止の原則を排除し、自分にも有利な判決の変更を求める、被控訴人の一般的意思の表示であり、1回の申立によって被控訴人に控訴人と同様の地位を与え、その後は再び附帯の申立を要しない。被控訴人らが先に第1423号事件の申立をもって附帯控訴を提起した後に再度第2179号事件をもってなした附帯控訴の申立は、その利益を欠き不適法であるから、これを却下する。
[37] 以上のとおりであるから、第2197号事件の附帯控訴の申立は不適法であるから却下すべきであり、原判決は相当であって、本件控訴並びに本件附帯控訴及び当審における被控訴人らの請求拡張部分及び被控訴人三菱興業の新請求はいずれも理由がない。そこで、民訴法89条、93条を適用して主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 野田殷稔  裁判官 樋口庄司 青柳馨

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