夫婦同居審判合憲決定
第一審審判

夫婦同居審判事件
福岡家庭裁判所
昭和36年9月5日 審判

申立人 甲野花子(仮名)
相手方 甲野一郎(仮名)

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


 相手方はその住居で申立人と同居しなければならない。

[1] 申立人は、昭和35年4月6日相手方と結婚式を挙げその日から相手方の住居において同棲を始め、同月23日婚姻の届出を了した。ところが、申立人は、相手方およびその母親らから、何時も、些細なことについて叱責されるので、遂に相手方に居たたまらなくなり昭和36年2月9日申立人の実家に帰つたのであるが、その後かような事態に立ち至つたことについては、申立人にも非難されてもやむを得ない点のあつたことを反省した結果、実父および仲人らを介して相手方に対し、申立人の心情を伝えその許に帰り度い旨伝達してもらつたところ、相手方は申立人の申出を拒絶したのみならず、離婚を申入れて来た次第である。然し申立人は、離婚する意思はなく、相手方の許に帰り夫婦として一緒に生活したいので、相手方に同居を求めたく、本件申立におよぶというのである。
[2](1) 当裁判所は事件を調停に付し、数回に亘り、時には関係者の出頭を求めて調停を試みたが、申立人は同居を、相手方は離婚を、各固執して譲らないので、調停は不調になつたものである。

[3](2) 本件記録中の戸籍謄本、調査官久保園忍作成の調査報告書に、上記調停の経過を参照すれば、次の事実を認めることができる。
[4] 申立人は郷里近くの農家の長男に嫁し一子を儲うけたが、結婚後2年6月位たつて協議離婚し、実家において編物を習つたり他に事務員として働いているうち、知人の媒酌によつて相手方と見合いをした後昭和35年4月6日結婚式を挙げ、即日相手方の住居において夫婦生活に入つたもの、相手方は呉服商をしている父久治の二男であつて、両親と同居して(長男は死亡)家業の手伝をしているうち、両親媒酌人等のすすめによつて、上記の如く申立人と見合結婚をしたものであり初婚である。申立人および相手方は、結婚当初は、夫婚仲が良く、相手方の両親も申立人を可愛がり、申立人も両親に次第に親しみを増して、一家の折合は円満であつたのであるが、申立人は、生来、勝気で、激情性で、協調性に欠ける点があり、一方相手方は、大声でも聞えない程の難聴であり、しかもそのためか我侭短気であるため、両名は時日の経過に伴い次第に意思の疎通を欠くようになり、口論の果には、相手方から申立人に対し「実家に帰れ」と申向け、相互に手を振るう程になり、また相手方の母親は相手方を弁護する立場に廻るので、家族間も円満を欠くに至つた。そこで、申立人は、本年(昭和36年)2月9日父親に対し「実家に帰らせて貰う、もし夫に愛情があれば迎えに来て頂きたい。何年でも待つているが、自分からはここに帰らない」旨言い置いて実家に帰つた。相手方の父太郎は申立人の立場をも理解し、申立人夫婦および家族間の融和に努力していたが、申立人が実家に帰つてからは、同人に対する態度が変つて来た。申立人は自分から実家に帰つたものの、前婚の離婚になつた原因が申立人の上記のような性格にもあることを反省した結果、これまでの態度を改め相手方と円満な家庭を営むべく決意し、相手方の許に帰りたいと望んでいるけれども、相手方は離婚を主張し、申立人が帰宅することを肯んじないのであるが、自ら調停、あるいは訴訟等の離婚の手続は進めていないのである。以上の事実が認められる。
[5] 夫婦は、同居し互に扶助し合うのが本来の姿であつて、相互に同居すべき義務があり、相手方から同居に耐えないような虐待を受けるとか同居することができない病気にかかつているとか別居を相当とする特段の事情のない限り同居の義務を免れることはできないのである。申立人と相手方は現在夫婦の間柄であつて、申立人において過去を反省した上今一度相手方の許に帰つて夫婦として生活したいと望んでいるところ、上記認定事実に依れば、相手方は申立人から同居に耐えないような虐待を受けているわけではなく、また両名に同居に耐えないような病気のないことは本件審理の経過に照し明らかであり、他に同居することを正当に拒絶できる特段の事由のあることは認められない。もつとも、申立人と相手方およびその両親の間に感情の融和を欠いでいることは、上記のとおりであるけれども、それだけの理由で相手方において申立人との同居を拒むことの許されないことは夫婦は本来同居すべきものであることから見て、当然のことといわねばならない。そうすると、相手方は申立人と同居することを拒む正当な理由がないので、申立人の希望を容れて同居し、そして夫婦の将来について円満に話合つて、お互に将来の幸福をもたらすように善処すべきものと思料する。
[6] そこで、申立人の本件申立を相当とし、主文のとおり審判する。
第7条 特別の定がある場合を除いて、審判及び調停に関しては、その性質に反しない限り、非訟事件手続法第1編の規定を準用する。但し、同法第15条の規定は、この限りでない。
第9条 家庭裁判所は、左の事項について審判を行う。
甲類(省略)
乙類
 一 民法第752条の規定による夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助に関する処分
 (二以下省略)
(第2項省略)

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