強制調停違憲決定
再抗告審決定

調停に代わる裁判に対する抗告事件
東京高等裁判所
昭和26年6月5日 第6民事部 決定

抗告人 乙山秀三郎(仮名)
相手方 甲野俊助(仮名) 外3名

■ 主 文
■ 理 由


 本件抗告を棄却する。
 抗告費用は抗告人の負担とする。


[1] 抗告人の抗告理由は末尾添附の抗告理由書記載のとおりでこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

第一章について。
[2] 抗告裁判所の決定に対しては、その決定が法令に違背したことを理由とする場合に限り更に抗告をすることができるにすぎないのであるが、記録を調べて見ても原審が公正を害して事実を認定したようなことは認め難く、抗告人の所論は畢竟抗告裁判所たる原裁判所が適正になした事実の認定を非難するに外ならないから適法の抗告理由とすることができない。

第二章について。
[3] 所論の決定主文において定められた調停に代わる裁判は各条項が互に関連するもので各項が独立して其の効力を生ずべきものではないことは各条項を通読すれば自ら明かなところである。それ故、抗告人においてその第一項は自己に利益であるから抗告の対象としない。第二項以下の条項について抗告し、審理裁判を求めるというようなことはできない。すなわち、抗告人が第一項を除くその余の条項が不満足であるとし抗告をしたとしても、抗告裁判所である原裁判所は右裁判の全部につき審理判断するの職責を有する。何となれば、以上の各条項は一体をなして1個の裁判がなされているものであるからである。しかるに抗告人の所論は所論の第一項は確定したものであることを主張し、これを前提として説を為すものであるから採用し得ないことは勿論である。

第三章について。
[4] 借家乃至住宅問題に関する争は、訴訟の方法によつて解決するよりは当事者の互譲を前提とする調停の方法によつて処理した方が適当であることは言を侯たない。我国における調停制度が先ず借地借家調停法の制定から出発したことによつても知ることができる。そして調停手続において調停ができないときはこれに代わる裁判によつてその結末をつけることも各種の調停法の明定するところである。本件における争も右調停法の定めるところに従つて遂行されたものであることはいうまでもない。本件記録によるも右裁判が所論のように憲法違反であるというような事情が存在することは到底考えられない。すなわち原裁判所の決定には所論のような違法の点がない。

第四章について。
[5] 戦時民事特別法が今次終戦の日である昭和20年8月15日限り当然消滅したという抗告人の主張は独自の見解にすぎない。およそ制定法律は旧憲法下の時代においても、日本国憲法下においても公布施行された以上はこれを廃止するの法律によつてのみその効力を滅却せしめ得るものであることはいうまでもない。而して右法律は、昭和20年12月20日法律第46号戦時民事特別法廃止法律によつて廃止する旨公布施行(昭和21年1月15日より)されたけれども、同法附則で調停等に関する所論条文はなお、その効力を有する旨を定めているからこれ等の規定は、いまなお施行されていることは当然である。

第五章について。
[6](イ)は第四章についての判断によつて抗告人の所論がその理由のないことが明白である。
[7](ロ) 所論の第14条は従来調停が認められていない事項の争議についても広く一般的に調停制度を創始した規定で所論の第16条は右第14条によつて創始された調停として訴訟事件を処理することができる旨を定めたものであるから、右調停手続には所論の第18条の規定の適用あることは疑がない。したがつて、調停委員会において調停成らないときは右調停に準用される金銭債務臨時調停法第7条によつて処理することができるのである。
[8](ハ)(ニ)(ホ)(ヘ) 一件記録によれば、本件については昭和23年2月23日午後1時調停委員会が開かれ、当事者に対し調停を試みたが、調停不調に終つたことが認められる。右は金銭債務臨時調停法第7条にいわゆる調停委員会において調停成らざる場合に当ることは明白であるから裁判所が他に何等の手続を採ることなく同条に基ずく措置を採ることができることは勿論である。そして、抗告裁判所である原裁判所は、所論決定を審査し、抗告が理由があるかどうかを判断すべきもので、抗告裁判所としては更に所論(ニ)にいうような措置を採るべきものではない。また本件は非訟事件手続法に則つて審理判断すべきものであるから、もとより、民事訴訟法第187条第1項の規定の適用がない。所論もまた、抗告人独自の見解たるにすぎない。

第六章について。
[9]第一節、原決定において説明しているとおり調停裁判所においては、調停に代わる裁判をするについては必要と認める限度で事実の判断をすれば足りるものである。本件において原裁判所は所論賃貸借の解約申入があつたかどうかはこれを判断するの要ありとしてこれをなしたものであることは事件の性質上是認し得るところでもとより原裁判所の措置は相当である。
[10]第二節及び第三節、戦時民事特別法によつて準用された金銭債務臨時調停法第7条には広く「債務関係の変更」をもこれをなし得る旨規定しているのであるから所論の契約解除に関する条項の如きも有効になし得ること当然である。原裁判所がかような認定判断をしたのは、もとより当事者双方における一切の事情を斟酌し且つ衡平ということをも考慮したものであることは、一件記録を通読すれば必ずしも認められないこともない。抗告人は右両節において詳しく陳述するところあるも、要するに右は原裁判所の専権に属する事実の認定を非難するに外ならないから抗告理由としては採用するを得ない。
[11]第四節、裁判所が調停に代わる裁判の条項を定めるにあたつては、事案の紛争解決のため相当だと信ずる事項は履行が可能なものであり且公序良俗に反しないものであるかぎり、これを定めることができることは勿論である。そして、その事項は必ずしも訴訟事件の対象となつていないものであつても、これを条項として、定めることができるのである。本件において原裁判所は所論の各条項の如きは本件の争議解決のため必要な事項であると考えたもので、かような条項は履行可能なものであり又なんら公序良俗に反するものでないことは明らかであるから原決定において所論条項を定めたことにつき原裁判所の措置を非難する所論は採用することができない。

[12] 以上説明によつて明らかなように本件抗告は理由ないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法89条第95条を適用して主文のとおり決定する。

  (昭和26年6月5日 東京高等裁判所第6民事部)

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