種徳寺事件
控訴審判決

罷免無効確認損害賠償請求、不動産等引渡請求控訴(併合)事件
東京高等裁判所 昭和45(ネ)第2816号、昭和49年(ネ)第964号
昭和51年4月28日 判決

控訴人  甲野春男
被控訴人(昭和45(ネ)第2816号事件)  宗教法人曹洞宗 外3名
被控訴人(昭和49年(ネ)第964号事件) 宗教法人種徳寺

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 当審における新請求(住職たる地位の確認請求)を却下する。
 控訴人の本件控訴は、いずれも、棄却する。
 控訴費用(当審における新請求に関する費用を含めて)は、控訴人の負担とする。


 控訴人は、昭和45年(ネ)第2,816号事件について
「原判決を取り消す。
 控訴人と被控訴人宗教法人曹洞宗との間において、控訴人が神奈川県足柄上郡山北町大字山北363番地宗教法人種徳寺の住職たる地位にあることを確認する。
 被控訴人重田伊男、同厚畑呂男、同厚畑波男は控訴人に対し連帯して金319万8,000円およびこれに対する昭和38年5月31日からその完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。」、
昭和49年(ネ)第964号事件について、
「原判決を取り消す。
 被控訴人種徳寺の請求を棄却する。」
及び
「訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。」
との判決を求め、被控訴人らは、主文一、二項同旨の判決を求めた。

[1] 当事者双方の主張は、次に訂正、付加するほかは、原判決(横浜地方裁判所小田原支部昭和38年(ワ)第55号および同45年(ワ)第279号各事件)事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。
[2] 被控訴人(昭和49年(ネ)第964号以下同じ)種徳寺の包括宗教法人である被控訴人(昭和45年(ネ)第2,816号以下同じ)曹洞宗においては、住職たる地位と代表役員たる地位とは、不即不離の関係にあり、住職たる地位は代表役員たりうる基本資格であるところ、右住職任免権は被控訴人曹洞宗の有する固有の権限であり、かつ、その住職の地位は法律上の地位であつて、即時確定の対象となりうる。すなわち、
[3] 宗教法人法18条によると代表役員は寺院を代表し事務の執行機関たる関係上の地位が位置づけられている。
[4] そして、右代表役員たる地位は、住職たる地位とは観念的に分離されているが、その選任については「代表役員は規則に別段の定めがなければ………」と規定し、規則に委譲している。ところで、曹洞宗制中、曹洞宗寺院住職任免規則第7条の2に「寺院住職の任免は、申請により管長がこれを行う」と規定され、曹洞宗においては、被包括寺院住職の任免は包括法人たる曹洞宗管長の固有の権限とされている。そして被包括寺院には各寺院規則があり、被控訴人種徳寺の場合、同寺院規則第7条1項に「代表役員は、曹洞宗の宗制により、この住職にある者をもつてあてる。」されていて、結局、種徳寺住職の地位にある者でなければ、種徳寺代表役員になり得ない。すなわち、住職の地位は代表役員たり得る基本資格である。したがつて、住職という基本資格の消滅によつて代表役員の地位が消滅すると解される。そうすると、住職たる地位と代表役員たる地位は、不即不離の関係にあり、この両者を分離することはできないのである。
[5] そして、右曹洞宗によつて任命された住職の地位ならびに権限は、控訴人種徳寺の壇信徒の葬儀法要その他の仏事をなしうる地位ならびにその権限であるが、住職を罷免されると右地位ならびにその権限を喪失するとともに、代表役員たる地位を喪失することになる。
[6] このように住職の地位は単に宗教上の地位に止まらず、代表役員の基本資格であり、したがつて、控訴人の種徳寺住職たる地位も、種徳寺代表役員の基本資格であつて、宗教法人法第18条第2項によれば、委譲された曹洞宗住職任免規定第7条の2及び種徳寺寺院規則第7条第1項に根拠をもつて法律上の地位というべきである。しかるとき、曹洞宗管長の寺院住職任免行為は、曹洞宗の固有の権限として行う代表役員の基本資格者の任免行為で、曹洞宗においては、代表役員たる資格の得喪を意味するものであり、法律上の行為である。
[7] よつて、本件における種徳寺住職たる地位の確認請求は、明らかに、訴訟要件として法律上確認の利益を具備しているもので、相手方は住職任免の固有の権利者である被控訴人(宗教法人)曹洞宗を以て足るものである。本件において、住職の地位が単に宗教上の地位であり、法律上の地位にあらずとして、本件控訴を棄却される場合、控訴人としては、種徳寺を被告として、種徳寺代表役員たる地位の確認請求を提訴せざるを得ないことになるが、その訴で仮に代表役員たる地位が確認されても、その基本資格たる住職の地位がなければ、その確認は無意味のものであり、結局住職の地位を罷免された者に対する法の救済は考慮されないこととなる弊害がある。
[8] そして、控訴人は、被控訴人種徳寺の住職を罷免されたが、右罷免処分は違法無効であるから、被控訴人曹洞宗との間において、控訴人が被控訴人宗教法人種徳寺の住職たる地位にあることの確認を求める。
[9] 一般に、寺院における住職の地位は儀式の執行、教義の宣布など宗教的な活動における主宰者たる地位であつて、法人たる寺院の管理機関としての法律上の地位ではない。そして、被控訴人、種徳寺における住職も控訴人の主張するとおり、代表役員たる地位の前提条件とされているけれども、代表役員が管理機関である。されば、その前提条件としての住職たる地位の確認または罷免無効の確認は単に宗教上の地位の確認を求めるにすぎず,法律上の権利関係の確認を求めるものではないから、訴の利益を欠くものである。
[10] 住職たる地位は、当該寺院における宗教上の地位であつて、包括団体たる被控訴人曹洞宗(宗派)における地位ではない。住職も、曹洞宗に所属する「僧侶」という地位においては宗派内における直接の地位を有するけれども、控訴人は現在も曹洞宗の僧侶の地位を有するし、他に宗派を相手方とすべき法律上の権利関係について紛争は存しない。
[11] そして、代表役員の地位(法律上)といい、住職の地位(事実上)といい、いずれも、種徳寺内の問題であつて、宗派である曹洞宗に対する直接な法律上の権利関係は存しない。
[12] 住職の任免は、宗派たる曹洞宗管長(曹洞宗)の任免によるとされているけれども、これは形式を重視する旧来の慣行に従い、規則により管長にその権限を委譲しているものと理解されるべきもので、控訴人主張のように、別個の法人格である寺院の組織関係につき、宗派たる曹洞宗が直接介入支配すべき法律上の関係を示すものではない。
[13] したがつて、被控訴人種徳寺の住職の任免は、同寺における住職の任免手続と理解すべきことで、当該手続における瑕疵(無効事由)は、被控訴人種徳寺を相手方とする代表役員の地位の存否に関する訴訟の判断事項で足りる。
[14] かりに住職の地位確認を求める訴につき、特別な法律上の利益(法律上具体的な権利関係を含む趣旨で)があるとしても、被控訴人曹洞宗を相手方とする訴は不適法である。
[15] けだし、住職などは、種徳寺などの当該宗教法人における組織内の地位であり、その地位に関する紛争は、当該宗教法人を訴訟当事者として確認(又は阻害する登記があればその抹消)の訴求をなすべきである。
[16] 本件において、被控訴人曹洞宗は被控訴人種徳寺の包括団体であるが、別個の宗教法人で、かりに、これを訴訟当事者として判決を得ても、当の種徳寺又はその関係人に対して何らの効力を及ぼさないから右地位の紛争を法律上根本的かつ即時解決するについて有効適切でなく、その訴えは不適法である。

[1] 控訴人は、種徳寺の住職たる地位が法律上の地位であると主張するから、まず、この点について判断する。
[2] 成立に争いのない乙第1号証(原審・横浜地方裁判所小田原支部昭和38年(ワ)第55号事件の例による。以下一の関係については同じ)によると、曹洞宗寺院住職任免規程第7条の2には、「寺院住職の任免は、申請により管長がこれを行う。」と定められ、成立に争いのない乙第2号証によると、宗教法人「種徳寺」規則第7条第1項には、「代表役員は、曹洞宗の宗制により、この寺院の住職の職にある者をもつてあてる。」と定められていることが認められる。
[3] そして、前記乙第1号証と弁論の全趣旨によると、被控訴人曹洞宗においては、住職は曹洞宗の「教師」のうちから各寺院ごとに選任されるべきものであつて、住職は寺院の葬儀法要その他の仏事をつかさどり、かつ教義の宣布など宗教的な活動における主宰者の地位を占めているにとどまることが認められる。
[4] そして、宗教法人法では、宗教団体の財産的活動の面のみを法律上の規律の対象としており(宗教法人法8条6項、85条参照)、宗教的活動の面においては法律上の規律の対象としていないのであるが、これも、宗教的活動の分野においては、法律上の紛争として官憲の介入判断されることを避けているのであり、こりは、信仰の自由を実質的に確保しようとしている趣旨と解される。
[5] そして、現在の被控訴人種徳寺の規則によると、被控訴人種徳寺の住職の地位にある者のみが、その代表役員たりうるものとされていることは、控訴人の主張のとおりであるが、住職たる地位にもとづいて宗教的活動の主宰者の地位以外に独自に財産的活動をしていることまたはこれをすることができる権限のあることは、控訴人において、主張、立証しないところである(住職が、宗教的活動以外の事項――とくに財産的活動――について独自の権限を有することは、宗教的地位にある信仰、規律、慣習などの宗教上の事項についても、かえつて、法律的にその内容に干渉しうる余地を招くことになり、宗教法人法上からみても、好ましくない結果を齎らすことになる。)。
[6] もつとも、住職は、同時に代表役員たる地位を兼ねているから、代表役員たる地位にもとづいてした行為、とくに財産的活動に関する行為も、一見住職がしたものとみられる余地もあるが、これはあくまでも代表役員たる地位にもとづいてされたものであつて、決して、住職としての地位それ自体にもとづくものでないことは、前記のところから、明らかである。
[7] 以上のように、住職たる地位は、あくまでも、宗教的、信仰上の対象たる地位にとどまり、たとい住職たる地位は代表役員たる地位を兼ねることはあつても、両者は別個独自のものであり、住職たる地位は、法律上の規律の対象たる地位ではないと解するのが相当である。
[8] なお、控訴人は、種徳寺を相手方として代表役員たる地位の確認判決を得ても、住職たる地位を喪失すればその確認判決は無意味であるというが、控訴人が確認訴訟で勝訴すれば、種徳寺としては控訴人がその代表役員としての地位を確認され、種徳寺として、財産的活動をするのには代表役員たる者を代表者としてせざるを得ないのであるから、右確認判決を無意味であるということはできず、また、包括団体たる被控訴人曹洞宗としても、住職の罷免の当否にかかわらず、その代表役員たる地位を承認しないわけにはゆかないのである(なお、宗教的地位である住職の任免の当否については法律上の紛争とはいえないから、前記した宗教法人法の趣旨に従い、法的に関与すべき事項ではない。)。
[9] 以上のように、住職たる地位は法律上の判断事項にあたらず、したがつてその地位の確認を求める本訴は、他に判断を進めるまでもなく、不適法として、却下を免れない。

[10] 当審における住職たる地位の確認請求以外の請求について、当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果をしんしやくしても、昭和45年(ネ)第2,816号事件(原審横浜地方裁判所小田原支部昭和38年(ワ)第55号)については、控訴人の請求は理由がなく、昭和49年(ネ)第964号事件(原審横浜地方裁判所小田原支部昭和45年(ワ)第279号)については、被控訴人の請求は理由があると、それぞれ判断するが、その理由は、次に付加するほかは、各原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
[11] 原判決(昭和38年(ワ)第55号)19丁裏5行目と6行目との間および原判決(昭和45年(ワ)第279号)6丁表10行目と11行目との間に、それぞれ「当審における証人厚里礼男の証言および控訴人本人尋問の結果も右認定を左右するに足りない。」を挿入する。

[12] よつて、当審における新請求を不適法として却下し、控訴人の本件各控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用(当審における新請求に関する分も含めて)の負担については、民事訴訟法89条、95条を適用し、主文のとおり、判決する。

  (裁判官  瀬戸正二  小堀勇  奈良次郎)

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