殉職自衛官合祀拒否訴訟
控訴審判決

自衛隊らによる合祀手続の取消等請求控訴、同附帯控訴事件
広島高等裁判所 昭和55年(ネ)第46号、昭和54年(ネ)第84号、88号
昭和57年6月1日 第3部 判決

控訴人(被告)  隊友会山口県支部連合会
控訴人(被告)  国
    代理人  木村要
         佐藤拓
         岩佐栄夫 ほか8名

被控訴人(原告) 中谷康子

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


一 原判決中控訴人隊友会山口県支部連合会に関する部分を取消す。
二 被控訴人の右控訴人に対する本件訴及び附帯控訴をいずれも却下する。
三 控訴人国の本件控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人と控訴人隊友会山口県支部連合会との間に生じた部分は被控訴人の負担とし、被控訴人と控訴人国との間に生じた部分は控訴人国の負担とする。

一 控訴人隊友会山口県支部連合会(以下単に県隊友会という。)
 原判決中控訴人県隊友会敗訴の部分を取消す。
 被控訴人の同控訴人に対する訴を却下する。
 (予備的に)被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
附帯控訴につき
 被控訴人の請求を却下する。
 (予備的に)本件附帯控訴を棄却する。
 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

二 控訴人国
 原判決中控訴人国に関する部分を取消す。
 被控訴人の同控訴人に対する請求を棄却する。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

三 被控訴人
 本件各控訴を棄却する。
 訴訟費用は控訴人らの連帯負担とする。
附帯控訴として
 原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。
 控訴人県隊友会は同控訴人が1972年4月頃訴外亡中谷孝文につき訴外宗教法人山口県護国神社(以下単に県護国神社という。)に対してなした合祀申請手続の取消手続をせよ。
 附帯控訴についての訴訟費用は第一、二審とも同控訴人の負担とする。

[1] 当事者双方の主張は、次に付加するもののほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
[2](一) 被控訴人は、本件被侵害利益として、次の1、2、3を選択的に主張する。
1 宗教上の人格権
[3] 人は現世において自己に最も近い者として配偶者と共同の生活を営み、精神生活を共同にするものであるから、配偶者の死に対しては自己の死に準ずる程の関心を抱くのが通常であり、従つて他人に干渉されることなく故人を宗教的に取扱うことの利益を有する。この宗教上の人格権は、憲法の信教の自由を基盤としながらも、厳格な意味での強制を必要とせずして被侵害利益たり得るものである。しかし、被控訴人は配偶者の特権を主張するものではない。
2 宗教上のプライバシー
[4]  人が、親しい者の死について、他人から干渉を受けない静謐の中で宗教上の思考を巡らせ、行為をなすことは純粋に私的な事柄であつて、これに対する公共社会の無遠慮な介入、不当に干渉は許さるべきではない。そして、静謐な宗教的環境における個人の信仰生活の自由は、憲法の信教の自由に内在する宗教上のプライバシーと解され、厳格な意味での制止・強制にまで至らない他人の干渉によつても侵害される性質の利益である。
3 政教分離原則が保障する法的利益
[5] 憲法20条3項の政教分離条項は、信教の自由が直接的強制によつて侵害されないとしても、国及びその機関が特定宗教と結びつくことによつてその宗教に反対な少数者が社会的に疎外され、その信教の自由が間接的侵害を受けることのない利益を保障するものである。そして、右利益に対する侵害は、たんに公法レベルにおいてだけではなく、私法レベルにおいても公の秩序に反する違法な行為として評価されるべきである。

(二) 控訴人県隊友会の信教の自由について
[6] 社団法人隊友会は、自衛隊の外郭団体として、防衛意識の普及高揚、自衛隊諸業務に対する各種協力等の事業を行う団体であり、自衛隊と人的、物的にきわめて密接な関係にあり、控訴人県隊友会も、その地方組織として、これらの性格をすべて具有する。しかも、本件合祀申請は、自衛隊山口地方連絡部の主導によつて同控訴人が共同して行つたものであり、両者の共同行為であるが、申請の一点だけをとらえた場合には、同控訴人は国の代理行為をしたものといわざるを得ない。以上のような同控訴人の性格、本件合祀申請の態様からすると、同控訴人は、本件合祀申請につき憲法の人権規定の適用を免れず、同控訴人の行為は政教分離原則に反する違法のものといわなければならない。

(三) 附帯控訴について
[7] 被控訴人の本件合祀申請取消の請求は、被控訴人の人格権に基づく原状回復請求であり、本件合祀が控訴人県隊友会の申請に基づいて行われたものであることに鑑み、右申請がなかつたと同様の状態の現出―申請の撤回或いは合意解約の申入の意思表示並びに亡孝文に関する合祀申請書の記載の抹消等の事実行為を求めるものであつて、適法であることはいうまでもない。
[8] 同控訴人の被控訴人に対する人格権侵害は継続的な性質のものであるから、この侵害状態が回復されるまで、同控訴人は原状回復に必要なあらゆる行為をなすべき義務を負う。たとえ県護国神社が合祀申請の取下に応じる措置を拒否したからといつて、申請取下の意思を放棄することは許されない。
[9] 合祀申請がないにもかかわらず祭神として祭ることは、神社神道一般としてはあり得るものの、県護国神社においては一切ない。合祀申請のない状態になれば、県護国神社としては祭神として祭ることはできなくなり、廃神手続をとらざるをえなくなるのである。
[10](一) 被控訴人の主張する宗教上の人格権とは、要するに宗教上の感情にほかならない。このような宗教上の感情は信教の自由とは異質な主観的感情であつて、法によつて保護される利益に該当しない。

(二) 附帯控訴について
[11] 県護国神社のした亡孝文の合祀は、信教の自由に基づく宗教法人としての宗教上の行為であり、控訴人県隊友会の合祀申請は、右宗教上の行為の発動を促す縁由ないし動機に過ぎない。判決によつて合祀申請手続を取消しても、県護国神社の合祀を動かすことはできないし、また合祀を動かし得るものとすれば、右判決は宗教法人法85条に違反し許されないものということになる。従つて、被控訴人の合祀申請取消請求は訴の利益を欠く不適法のものである。
[12] 控訴人県隊友会は県護国神社に対し本件合祀申請を取下げる旨の意思表示をしたが、同神社がこれに応じる措置をとることを拒否したので、その時点で同控訴人は、右取下の意思を放棄し、現在に至つている。

三 控訴人国
[13] 被控訴人主張の宗教上の人格権ないしプライバシーは、自己の信仰を理由に他人の信仰を否定することを認めるものであつて、まさに信教の自由を否定するものである。しかし、信教の自由は宗教的寛容を前提とするものであつて、このことは、右の他人が国である場合でも同様である。すなわち、仮に国が宗教的活動を行つても、この場合国は他の者の上に立つ統治権者としてでなく、他の者と並ぶ同質の者として宗教上の行為を行つているのであるから、それによつて自己の信念ないし信仰に対する干渉又は蹂躙を感じることがあつても、右宗教的活動に強制の要素が加わらない以上、自己の信教の自由に対する侵害を主張することはできない。政教分離条項に違反するか否かは別の問題であり、その問題と信教の自由中に他者に対し祭祀を否定することが含まれるか否かの問題とは次元を異にする。
[1] 〈証拠略〉によれば、次の事実が認められ、これを左右するに足る証拠は存しない。

[2](一) 被控訴人の本案前の主張中第一項の事実(原判決3枚目―記録50丁―表末行から同裏9行目まで)。

[3](二) 社団法人隊友会(以下単に隊友会という。)及び控訴人設立の経緯、組織、事業の運営、財政等は次のとおりである。
[4] 法人格を有する隊友会は、前記認定のとおり昭和35年に設立されたものであるが、これは前年の7月9日にそれまで各都道府県でそれぞれ別個に活動していた「防衛協会」、「隊友会」、「県郷友会」、「郷土自衛会」、「鳩友会」等の団体を発展的に解消して、右各府県の代表者らが発起人となり全国的な統一団体として「隊友会」を結成した後、これが法人格を取得して社団法人隊友会となつたものである。
[5] 隊友会定款(以下単に定款という。)17条は、地方組織として府県ごとに支部連合会をおくこと、支部連合会等の地方組織に関する規定は、理事会の議決を経て、会長が定めるとしており、右規定に基づいて「隊友会地方組織に関する規則」が設けられている。更に同規則13条1項(新規則19条1項)の規定に基づいて「社団法人隊友会山口県支部連合会細則」が制定されているが、右細則は同規則13条2項(新規則19条2項)の規定により、隊友会本部に提出されている。
3(会員)
[6] 隊友会の会員には、正会員、賛助会員、特別会員及び名誉会員があるが、自衛隊及びその前身である警察予備隊の退職者等からなる正会員約10万人、自衛隊在職者のうち隊友会に入会する者からなる賛助会員約20万人のほか数名の特別会員がいるが名誉会員はいない。
[7] 正会員が入会する場合、入会申込書を隊友会会長宛に支部連合会を経由して隊友会本部に提出することになつている。本部は定款5条に規定している資格の有無を審査し、適合すると認めた場合は会長が承認し、会員証を支部連合会を通じて会員に交付する。会員証には一連番号が付されている(なおこの点は、昭和53年の「隊友会地方組織に関する規則」の改正により当該支部連合会会長が行う事務となつている。)。
[8] 全国の会員名簿は隊友会本部に備えつけられている。このようにして、会員はすべて隊友会の会員であつて、これに属しない支部連合会の固有な会員は存在しない。
4(組織)
[9] 隊友会の最高意思決定機関として、正会員より構成される総会をおき、ここで隊友会会長、副会長、理事、監事の役員を選出する。総会の招集通知は、本部の隊友会会長から支部連合会を通じて正会員全員になされている。
[10] 地方組織として市町村及び職域を単位とする支部と府県ごとに支部連合会がおかれている。
[11] 支部連合会は、府県を代表し、下部の支部を総括、指導、調整するとともに、本部との連繋にあたり、本部に対しその責を負う。支部連合会の役員として会長、副会長、監事及び評議員をおく。評議員は支部長の互選による。理事及び監事は当該支部連合会の正会員の中から評議員会で選出する。
[12] 支部連合会会長及び副会長は、支部連合会理事会の議決に基づき、隊友会会長がこれを委嘱するが、部内では任命と解されている。
[13] 支部連合会会長選出の実態は、あらかじめ隊友会本部に具体的な人物を示して協議し、その内諾をまって支部連合会理事会の議決を経るという手続がとられており、支部連合会理事会のみで本部とかかわりなく独自に議決、選任するという方法はとられていない。
[14] また、支部連合会会長は、隊友会の方針に基づき、支部連合会の業務を掌理することになつており(旧規則7条2項)、支部連合会の事業は対外的には支部連合会会長名で行つているが、それはあくまで隊友会の事業活動として行つているものである。
[15] この点を明確にするために昭和53年8月10日の定款の一部改正により「支部連合会には支部連合会会長及び副会長をおき、その選出については、別に定める手続きにより支部連合会から推せんされた者に、理事会の議決を経て会長が委嘱する。」(〈証拠略〉)との規定を設け、右改正と同じ頃隊友会地方組織に関する規則も改正され、同規則4条4項に「支部連合会会長及び副会長については支部連合会理事会の議決により決定し、本会の会長に推せんするものとする。」と規定し、従前のやり方を明確にした。
[16] なお、支部連合会会長は、本部の評議員を兼ねている。
[17] 支部連合会は右の「隊友会地方組織に関する規則」の定めとは別に、その組織に関する規則を作ることはできず、同規則雑則に基づき制定される支部連合会の細則は、その都度本部に報告されることとなつている。
5(事業の運営)
[18] 隊友会本部の各年度ごとの事業をみるに、事業計画案及びこれに伴う予算案は評議員会で議決されたうえ、総会において議決決定されることとなつている(定款20条)。
[19] その作成手続の実態をみるに、毎年3月隊友会において全国地方理事会を招集、開催され、各支部連合会担当理事が各支部連合会ごとに翌年度事業計画案を持ち寄り、本部の総務担当理事と協議して、本部で行う事業と支部連合会で行うものとに区分される。また、本部から支部連合会に対して命ずる事業もある。このようにして、支部連合会が行うこととなつた事業は、支部連合会の評議員会の議決により決定され(規則10条2項=新規則9条2項)、本部に提出されることとなつている。
6(財政)
[20] 隊友会本部の収入は、ほぼ会費3、新聞事業3、委託事業4の比率である。そのうち、新聞事業と委託事業に伴う収入は本部が収納する。会費については、正会員の会費は支部連合会において徴収し、その3パーセントを本部に納め、97パーセントを支部連合会及び支部の経費にあてることになつており、賛助会員の会費は本部が一括徴集することになつていた(その後、昭和53年7月1日施行の「会費徴集等に関する規則」の改正によつて「支部連合会は正会員費の10パーセントを本部に納めるものとする。」旨定めた(同規則2条4号))。
[21] 更に、本部の予算の一部は、支部連合会で行う事業計画に応じて支部連合会に交付されている。本部の予算規模は昭和47年度は5000万円程度、同52年度は2億5000万円程度であつて、そのうち30パーセント乃至50パーセントは本部から支部連合会に交付されている。

[22] 右諸事実を総合すると、控訴人は法人格を有する隊友会の定款及び隊友会地方組織に関する規則に基づいて、山口県を代表し、下部の支部を総括、指導、調整するとともに本部との連繋にあたる地方組織として昭和36年に設置されたものであつて、隊友会を構成する内部的な組織の一部であるにすぎず、それ自体を法律上隊友会とは別個、独立な権利、義務の主体とみることはできない。
[23] もつとも、支部連合会には固有の支部連合会会長、評議員、理事等の役員がおかれ、それらによつて構成される評議員会、理事会等の機関があり、本部とは或る程度独自性をもつた業務運営がなされていることが窺われないでもないが、それとても支部連合会を組織している構成員がすべて隊友会の会員であり、その行う事業は隊友会の事業であつて、これを隊友会と別個、独立の権利能力なき社団とみることはできない。
[24] 従つて、控訴人は訴訟当事者能力を有しないから、控訴人を相手として提起した本件訴及び附帯控訴は不適法であつて、これを却下するのが相当である。
[25] 当裁判所も、被控訴人の控訴人国に対する本訴請求は正当であり認容すべきものと判断する。

[26] その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決理由説示第二の一、二と同一であるから、これを引用する。
[27] 原判決88枚目―記録135丁―裏2行目の「被告両名」とあるを「控訴人国」と改める。
[28] 同93枚目―記録140丁―裏2行目の「このことは」以下同6行目まで、同97枚目―記録144丁―表末行から100枚目―記録147丁―裏7行目の「(二) 次に、」まで及び同101枚目―記録148丁―裏2行目から同8行目までを削除する。
[29] 同102枚目―記録149丁―裏10行目の「全て」とあるを「爾余の点につき判断をするまでもなく」と改める。
[30] 控訴人国の主張にそう当審証人長尾誠の証言は、原判決理由第二の一の2掲記の証拠に照らして措信し難く、その余の当審における新たな証拠調の結果によつても、右引用にかかる原判決の認定判断を左右するに足りない。
[31] よつて、右趣旨に従い、原判決中控訴人県隊友会に関する部分を取消し、被控訴人の右控訴人に対する本件訴及び附帯控訴をいずれも不適法として却下することとし、被控訴人の控訴人国に対する原判決は相当であり、同控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法96条、89条、92条を適用して主文のとおり判決する。

  (裁判官 胡田勲 土屋重雄 大西浅雄)

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