要指導医薬品対面販売事件
控訴審判決

要指導医薬品指定差止請求控訴事件
東京高等裁判所 平成29年(行コ)第254号
平成31年2月6日 第9民事部 判決

口頭弁論終結日 平成30年11月5日

控訴人 (原告) Rakuten Direct株式会社(旧ケンコーコム株式会社)
被控訴人(被告) 国

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 本件控訴を棄却する。
2 当審における新たな訴えのうち,厚生労働大臣が行った別紙製剤目録記載の製剤に係る要指導医薬品の指定の取消しを求める部分を却下する。
3 当審における控訴人のその余の請求を棄却する。
4 当審における訴訟費用は,すべて控訴人の負担とする。

1 原判決を取り消す。
2 厚生労働大臣が行った原判決別紙2記載の製剤に係る要指導医薬品(ただし,番号2のアルミノプロフェン(その水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤を含む。以下,他の要指導医薬品についても同じ。)及び番号7のフッ化ナトリウム(洗口液に限る。)を除く。)の指定処分を取り消す。
3 控訴人が,原判決別紙2記載の製剤(ただし,番号2のアルミノプロフェン及び番号7のフッ化ナトリウム(洗口液に限る。)を除く。)につき,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法によって販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。

(当審における新たな請求)
4 厚生労働大臣が行った別紙製剤目録記載の製剤に係る要指導医薬品の指定処分を取り消す。
5 控訴人が,別紙製剤目録記載の製剤につき,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法によって販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。
(以下,理由説示部分を含め,原則として,原判決の略称をそのまま用いる。なお,原判決において,原判決別紙2記載の製剤に係る要指導医薬品の指定の略称とされている「本件各指定」の用語は,文脈に応じ,当審において訴えが取り下げられた製剤に係る指定を含まず,かつ,新たに訴えが追加された製剤に係る指定を含む趣旨(すなわち,最終的に本件訴訟の対象となっている製剤に関する要指導医薬品としての指定の趣旨)で用いることもある。同様に,原判決において,原判決別紙2記載の製剤に係る要指導医薬品の指定の取消しを求める訴えの略称とされている「本件取消しの訴え」及びこれらの製剤につき,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法によって販売をすることができる権利(地位)を有することの確認を求める訴えの略称とされている「本件確認の訴え」の各用語も,文脈に応じ,当審において取り下げられた訴えを含まず,かつ,新たに追加された訴えを含む趣旨で用いることもある。)
[1] 本件は,平成25年法律第103号による改正後の薬事法(現行の「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法))において,店舗販売業者に対し,要指導医薬品(4条5項4号(平成25年法律第84号による改正後は同項3号))の販売又は授与を行う場合には薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない(36条の6第1項)ものとし,上記の場合において上記の情報提供又は指導ができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない(同条3項)ものとする各規定(本件各規定。本件各規定による上記の規制を「本件対面販売規制」という。)が設けられ,厚生労働省告示によって原判決別紙2記載の製剤が要指導医薬品として指定されたこと(本件各指定)について,インターネットを通じて店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売(郵便等販売。インターネットを通じた郵便等販売を特に「インターネット販売」という。)を行う事業者である控訴人が,本件対面販売規制は必要性及び合理性に欠ける規制であって憲法22条1項に違反するなどと主張して,①厚生労働大臣が行った原判決別紙2記載の製剤に係る要指導医薬品の指定の取消しを求める(本件取消しの訴え)とともに,②要指導医薬品である原判決別紙2記載の製剤につき,本件各規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める(本件確認の訴え)事案である。
[2] 原審は,①本件取消しの訴えは,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないものを対象として提起されたものであって,不適法であると判断して,同訴えを却下するとともに,②本件確認の訴えについて,本件対面販売規制を定める本件各規定は,立法府の合理的裁量の範囲を逸脱するものと断じることはできず,憲法22条1項に違反するものということはできないし,また,本件各指定は,その指定の要件に欠けるものではなく,適法であると判断して,同訴えに係る請求をいずれも棄却した。
[3] そこで,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴をした。なお,控訴人は,原判決別紙2記載の製剤のうち,番号2のアルミノプロフェン及び番号7のフッ化ナトリウム(洗口液に限る。)が要指導医薬品の指定の対象から除かれたことから,これらの製剤に係る訴えを取り下げるとともに,新たに要指導医薬品に指定された別紙製剤目録記載の製剤について,指定処分の取消し及び地位確認の訴えを追加した。

[4] 本件における関係法令の定め,用語の意義,前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,後記3において当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし3,「第3 争点」及び「第4 争点についての当事者の主張」(原判決3頁11行目から同48頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
[5] ただし,原判決12頁3行目の「現在までに」を「原審口頭弁論終結時までに」に改め,同5行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「その後,厚生労働大臣は,平成29年9月27日厚生労働省告示第305号(乙77)により,別紙製剤目録記載の製剤及びペポタスチンを,次いで,同年11月17日厚生労働省告示第336号(乙78)により,クロトリマゾール(膣カンジダ治療薬のクリーム剤に限る。)を新たに要指導医薬品に指定し,他方,同年7月7日厚生労働省告示第245号(乙76)により,原判決別紙2記載の製剤のうち番号2のアルミノプロフェンを,次いで,平成30年9月18日厚生労働省告示第327号(乙83)により,同別紙記載の製剤のうち番号7のフッ化ナトリウム(洗口液に限る。)を要指導医薬品の指定の対象から除いた。なお,控訴人は,新たに要指導医薬品に指定された製剤のうち,ペポタスチン及びクロトリマゾール(膣カンジダ治療薬のクリーム剤に限る。)については,指定処分取消しの訴え等の追加をしていない。」
(1) 本件取消しの訴えの適法性について
[6] 医薬品医療機器等法14条1項は,医薬品の製造販売の承認の申請及び承認が品目ごとに行われるものとしている。そして,同法4条5項3号本文,イ及びロの規定する各「医薬品」も,具体的な製造販売の申請及び承認の対象とされているものであるから,要指導医薬品の指定は,個別具体的な医薬品の品目に対してされるべきものである。そうすると,本件各指定は,その対象となる品目の医薬品の製造販売業者からすれば,自らの個別具体的な製品に対して,それを郵便等販売という販売方法で流通させることを禁止するものであるから,行政処分に当たる。
[7] なお,店舗販売業者である控訴人には,本件各指定の取消しを求めるにつき法律上の利益がある(行政事件訴訟法9条2項参照)。

(2) 本件対面販売規制の憲法22条1項適合性について
ア 憲法適合性の判断枠組みについて
[8] 本件対面販売規制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく,新規の職業活動であるインターネットを通じた郵便等販売を事業の柱とする者(以下「ネット販売事業者」という。)を,既存の職業活動である店舗における対面販売をその事業の柱とする者(以下「対面販売事業者」という。)から殊更に差別し,ネット販売事業者全体に対して継続的に一定の重要な商品の販売という事業活動を禁止するものであって,ネット販売事業者の職業の自由を相当程度制約するものである。また,本件対面販売規制は,医薬品を使用する患者の利便性及び選択可能性や,医薬品を製造販売する製薬会社の販売方法選択の自由をも侵害するものである。このような対面販売規制の性質に照らせば,本件対面販売規制の合憲性の審査に当たっては,厳しい合憲性審査基準が適用されるべきである。
[9] この観点からすると,本件対面販売規制は,インターネット販売の内容及び態様に対する規制など,より緩やかな規制手段では同じ目的が達成できないことが立法事実に基づいて示されなければ合憲とはいえない。
イ 本件対面販売規制の目的について
[10] 本件対面販売規制の導入に至る経緯等に照らすと,同規制の主たる目的は,既存の対面販売事業者の保護にある。
ウ 本件対面販売規制の必要性について
[11] 要指導医薬品に指定される医薬品には,「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」であることが要求されており,この要件は一般用医薬品の要件と共通しているのであるから(医薬品医療機器等法4条5項3号,4号),本件対面販売規制の対象となる医薬品には,その成分の性質として一般用医薬品よりも強い副作用が認められるというわけではく,本件対面販売規制の必要性はない。本件対面販売規制が必要であるというためには,スイッチ直後品目及びダイレクト直後品目(スイッチ直後品目等)のインターネット販売を認めた場合には,副作用等の保健衛生上の危害が相当程度の規模で発生する可能性があることが,客観的な資料に基づいて示されることが必要であり,また,同規制の対象となる医薬品には,対面販売によれば法的に許容できる程度のリスクしか発生しないが,インターネット販売によっては法的に許容できないリスクが発生することが求められるが,このような事実はない。
[12] なお,予防原則は,重大あるいは取り返しのつかない損害のおそれがある場合に採用されるべきものであるが,要指導医薬品の指定要件は,上記のとおり,「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないもの」とされているから,予防原則が適用されるべき前提を欠く。
エ 本件対面販売規制の合理性について
[13] スイッチ直後品目等の販売に当たり,適正な使用のための情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行う上でも,その前提となる使用者に関する情報を収集する上でも,対面販売とインターネット販売との間に有意な差はないから,スイッチ直後品目等について,対面販売を強制してインターネット販売を禁止する本件対面販売規制には合理性がない。
[14] 現に,厚生労働省が調査会社に委託して行った平成28年度の医薬品販売制度実態調査の結果(甲115)によれば,薬局・店舗販売業における要指導医薬品の店舗販売(対面販売)に当たって,購入者が使用者本人であることの確認がされた割合は81.0%にとどまり,約2割の店舗では確認がされておらず,また,第一類医薬品について,使用者の状況について確認があった割合は,店舗販売(対面販売)においては88.8%であり,特定販売(インターネット販売)においては96.3%であって,使用者の状況について確認がなかった割合は対面販売の方がインターネット販売の3倍を超している。さらに,各製薬会社が準備している販売店向けの情報提供資料(例えば,原判決別紙2記載の番号8の要指導医薬品(ロキソプロフェン(外用剤に限る。))であるロキソニンS外用薬シリーズに関する甲130,同番号9の要指導医薬品(ロラタジン)であるクラリチンEXに関する甲132)をみても,要指導医薬品の販売に当たって薬剤師に行うよう求められている情報の提供及び薬学的知見に基づく指導には,対面によることが不可欠なものは含まれていない。このように,スイッチ直後品目等の適正な使用のための情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行うに当たって,対面販売がインターネット販売に対して優位に立つということはできない。
[15] したがって,本件対面販売規制は,憲法22条1項に違反するものである。

(3) 本件対面販売規制の憲法14条1項適合性について
[16] 本件対面販売規制は,要指導医薬品の販売について,対面販売事業者には認めつつ,ネット販売事業者には認めないことになり,対面販売事業者とネット販売事業者とを差別的に取り扱うものであるが,ネット販売事業者という職業は既に確立されており,憲法14条1項の規定する「社会的身分」に当たるものである。そして,本件対面販売規制によりネット販売事業者を対面販売事業者から差別することには合理性がない。すなわち,本件対面販売規制は,スイッチ直後品目等から生じ得る副作用等の保健衛生上の危害の防止を目的とするものであるが,上記(2)のとおり,この目的を達成する上で,ネット販売事業者と対面販売事業者とを差別する本件対面販売規制という手段に合理性はない。
[17] したがって,本件対面販売規制は,ネット販売事業者に対する不合理な差別であるから,憲法14条1項に違反するものである。

(4) 本件各指定の手続要件及び実体要件について
ア 本件各指定の手続要件について
[18](ア) 薬事・食品衛生審議会要指導・一般用医薬品部会(以下「要指導・一般用医薬品部会」という。)の委員の構成は,要指導医薬品の指定の要否の判断をする上で適切なものではない上,同部会では,重要な資料が当日配布とされ,また,要指導医薬品の指定に係る後記イ(ア)のとおりの実体要件の充足,すなわち,審議された医薬品について,必要となる情報提供や薬学的知見に基づく指導が,インターネットを介して行われるものでは足りず,対面によって五感の働きを用いて患者の身体所見を観察・測定し,評価することが不可欠なものか否かについてについて審議がされていない。
[19](イ) 要指導・一般用医薬品部会に配付された資料には,服用後に現れる可能性のある症状であって,販売時に確認すべき症状でないものが,あたかも販売時に確認すべき症状であるかのように記載されている。例えば,原判決別紙2記載の番号5の要指導医薬品(トリメブチン(過敏性腸症候群治療薬に限る。))であるセレキノンSに関する資料には,「販売時及び服用後に注意を促すべき事項」として皮膚の発疹,かゆみ,じんましん等の有無が記載されており(甲102の1・198丁),販売に従事する薬剤師は,販売時(すなわち服用前に)にこれらの症状の有無を確認することが求められているかのようであるが,上記医薬品の添付文書(甲124)やチェックシート(甲125)を見れば,販売時にそのようなことが求められていないことは明らかである。これは,要指導医薬品としての指定を行うために,薬剤師が対面によってその五感を用いて確認すべき症状があるかのように装い,対面による情報の提供や薬害的知見に基づく指導が必要であるとの誤解を誘発させようとするものである。
[20](ウ) 要指導・一般用医薬品部会では,スイッチ直後品目等について要指導医薬品の指定をしないとの選択肢があることについて,十分な理解がされていたとは考え難い。
イ 本件各指定の実体要件について
(ア) 要指導医薬品の指定要件について
[21] 医薬品医療機器等法4条5項3号の規定する「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とは,対象となる医薬品について,その販売に当たって必要となる情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が,薬剤師が五感の働きを用いて患者の身体所見を観察・測定し,評価することが不可欠なものであるため,インターネットを介して行われるものでは足りず,対面によることが不可欠なものであることと解すべきである。
[22] また,仮に,上記の要件を原判決の「第5 当裁判所の判断」4(1)イ(105頁11行目から同106頁7行目まで)のとおり,医学的ないし薬学的な知見からして,当該医薬品が,一般用医薬品としてのリスクが不明であり,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがあるといえることと解するとしても,本件各指定の対象とされた医薬品は,いずれもこのような性質を有するものではないから,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」という要件を満たしていない。
(イ) 本件各指定に係る医薬品について
a 赤ブドウ葉乾燥エキス混合物(原判決別紙2記載の番号1)について
[23] 上記要指導医薬品である販売名「アンチスタックス」(軽度の静脈環流障害による足のむくみ改善薬。甲117)は,平成23年1月21日に第一類医薬品として製造販売の承認を受けたが,この承認に至る過程では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていないし,要指導・一般用医薬品部会における審議でも同様である。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲117),セルフチェックシート(甲118),使用者向けパンフレット(甲145)及び薬局・販売店向け製品解説書(甲146)を見ても明らかである。以上のことからすれば,赤ブドウ葉乾燥エキス混合物は,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
b イコサペント酸エチル(原判決別紙2記載の番号3)について
[24] 上記要指導医薬品である販売名「エパデールT」(中性脂肪異常改善薬。甲119)は,平成24年12月28日に第一類医薬品として製造販売の承認を受けたが,この承認に至る過程では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていないし,要指導・一般用医薬品部会における審議でも同様である。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲119),セルフチェックシート(甲120の1・2,甲148),服用者向け情報提供資料(甲149)及び販売店向け資料等(甲150,151)を見ても明らかである。以上のことからすれば,イコサペント酸エチルは,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
c チェストベリー乾燥エキス(原判決別紙2記載の番号4)について
[25] 上記要指導医薬品である販売名「プレフェミン」(月経前症候群治療薬。甲121)は,平成26年4月3日に製造販売の承認を受けたが,要指導・一般用医薬品部会における審議では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていない。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲121),患者向け説明資料(甲122),購入前チェックシート(甲123の1~3,甲155)及び販売店向け情報提供資料(甲156)を見ても明らかである。以上のことからすれば,チェストベリー乾燥エキスは,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
d トリメブチン(過敏性腸症候群治療薬に限る。)(原判決別紙2記載の番号5)について
[26] 上記要指導医薬品である販売名「セレキノンS」(過敏性腸症候群の再発症状改善薬。甲124)は、平成25年5月10日に第一類医薬品として製造販売の承認を受けたが,この承認に至る過程では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていないし,要指導・一般用医薬品部会における審議でも同様である。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲124),チェックシート(甲125,126,158)及び薬局・店舗販売業向け解説書(甲159)を見ても明らかである。以上のことからすれば,トリメブチン(過敏性腸症候群治療薬に限る。)は,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
e ネチコナゾール(膣カンジダ治療薬に限る。)(原判決別紙2記載の番号6)について
[27] 上記要指導医薬品である販売名「エスエスカンジダクリーム」等(外陰膣カンジダ症再発治療薬。甲160)は,平成24年6月12日に第一類医薬品として製造販売の承認を受けたが(もっとも,これらの医薬品は,未だ発売されていない。),この承認に至る過程では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていないし,要指導・一般用医薬品部会における審議でも同様である。以上のことからすれば,ネチコナゾール(膣カンジダ治療薬に限る。)は,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
f ロキソプロフェン(外用剤に限る。)(原判決別紙2記載の番号8)について
[28] 上記要指導医薬品である販売名「ロキソニンSテープL」等(鎮痛消炎剤。甲128,178~180)は,平成27年7月27日に製造販売の承認を受けたが,要指導・一般用医薬品部会における審議では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていない。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲128,178~180),チェックシート等(甲129,181),使い方説明書(甲182)及び販売店向け解説書等(甲130,183)を見ても明らかである。以上のことからすれば,ロキソプロフェン(外用剤に限る。)は,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
g ロラタジン(原判決別紙2記載の番号9)について
[29] 上記要指導医薬品である販売名「クラリチンEX」等(アレルギー専用鼻炎薬。甲131,186)は,平成29年1月13日に製造販売の承認を受けたが,要指導・一般用医薬品部会における審議では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていない。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲131,186),チェックシート(甲187),使用者向け情報提供資料等(甲188~191)及び薬局・販売店向け情報提供資料等(甲132,192,193)を見ても明らかである。以上のことからすれば,ロラタジンは,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
h フェキソフェナジン(15歳未満の者に係る用法及び用量が定められているものに限る。)(本判決の別紙製剤目録)について
[30] 上記要指導医薬品である販売名「アレグラFXジュニア」(7歳から14歳までの小児を対象としたアレルギー専用鼻炎薬。甲198)は,平成29年9月27日に製造販売の承認を受けたが,要指導・一般用医薬品部会における審議では,この医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていない。また,上記医薬品が対面販売を必要とするものでないことは,添付文書(甲198),説明文書(甲215),チェックシート(甲216),使用者向け情報提供資料(甲217)及び薬局・販売店向け情報提供資料等(甲218~220)を見ても明らかである。以上のことからすれば,フェキソフェナジン(15歳未満の者に係る用法及び用量が定められているものに限る。)は,「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とはいえない。
[31] 当裁判所は,①本件各指定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないから,本件取消しの訴えは不適法であり,また,②本件対面販売規制は憲法22条1項及び14条1項の各規定に違反するものではなく,本件各指定は医薬品医療機器等法4条5項3号の規定する手続要件及び実体要件を備えているから,本件確認の訴えに係る請求は理由がないものと判断する。その理由は,後記2のとおり原判決を補正し,後記3のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第5 当裁判所の判断」の1ないし4(原判決49頁1行目から同108頁15行目まで)に認定,説示するとおりであるから,これを引用する。
[32](1) 原判決80頁6行目の「56の2」の次に「,102の1,103の1」を加え,同行の次に行を改めて次のとおり加える。
「また,要指導・一般用医薬品部会は,平成27年5月29日に原判決別紙2記載の番号8のロキソプロフェン(外用剤に限る。)について,次いで,平成28年12月9日に同別紙記載の番号9のロラタジン及び本判決別紙製剤目録記載の製剤について,それぞれ要指導医薬品の指定の要否を審議し,いずれもその指定を要する旨の議決をした。これらの審議においても,検討の対象となる個別の品目に係る添付文書(案)や医薬品医療機器総合機構の審査報告書等の資料が配付されて審議に供された(甲100,101)。」
[33](2) 原判決81頁2行目の「現在までに」を「原審口頭弁論終結時までに」に改め,同4行目の次に行を改めて次のとおり加える。
[34]キ 厚生労働大臣は,別紙製剤目録記載の製剤につき,薬事・食品衛生審議会から,平成28年12月27日付けで,要指導医薬品としての指定を適当とする答申を受け(乙81),平成29年9月27日厚生労働省告示第305号により,上記製剤を医薬品医療機器等法4条5項3号の規定に基づき同大臣が定める要指導医薬品として指定した(乙77)。
[35] なお,上記製剤のほか,ペポタスチン及びクロトリマゾール(膣カンジダ治療薬のクリーム剤に限る。)が新たに要指導医薬品に指定されたが(乙77,78),他方で,原判決別紙2記載の製剤のうち番号2のアルミノプロフェン及び番号7のフッ化ナトリウム(洗口液に限る。)が要指導医薬品の指定の対象から除かれた(乙76,83)。」
[36](3) 原判決107頁13行目の「32」の次に「,100,101」を加える。
(1) 本件取消しの訴えの適法性について
[37] 控訴人は,
要指導医薬品の指定は,個別具体的な医薬品の品目に対してされるべきものであることなどからすれば,本件各指定は行政処分に当たる
旨主張する。
[38] しかしながら,原判決の「第5 当裁判所の判断」2(2)(84頁2行目から同85頁14行目まで)が説示するとおり,要指導医薬品の指定は,医薬品医療機器等法上の要指導医薬品制度の適用対象となる医薬品を具体的な有効成分により特定してされるものであって,個別具体的な医薬品の品目に対してされるものではない。そして,ひとたび要指導医薬品の指定がされたならば,当該指定時の薬局開設者及び店舗販売業者(薬局開設者等)のみならず,将来の薬局開設者等にも適用されることになる。また,控訴人の指摘する医薬品の製造販売業者との関係でみても,要指導医薬品の指定は,当該指定時の製造販売業者のみならず,将来の製造販売業者が当該指定に係る有効成分を含む医薬品を製造販売する場合にも,当該指定により同医薬品は要指導医薬品として指定されることになる。このように,要指導医薬品の指定は不特定多数の者を対象として一般的に適用されることからすれば,要指導医薬品の指定は,実質的には法規の性質を有するものであって,特定の個人の具体的な権利ないし利益を直接に制限するものではないから,行政処分には当たらないというべきである。
[39] なお,要指導・一般用医薬品部会では,要指導医薬品の指定の要否について,各製造販売業者が製造販売する個別具体的な医薬品を踏まえて審議がされているが(甲31,32,99~101,102の1,甲103の1,乙46,47),これは,上記のとおり,具体的な有効成分により特定して要指導医薬品を指定するための契機にすぎないと考えられる。
[40] したがって,控訴人の主張は理由がなく,本件取消しの訴えは不適法である。

(2) 本件対面販売規制の憲法22条1項適合性について
ア 憲法適合性の判断枠組みについて
[41](ア) 控訴人は,
本件対面販売規制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく,ネット販売事業者全体に対して継続的に一定の重要な商品の販売という事業活動を禁止するものであるから,本件対面販売規制の合憲性の審査に当たっては,厳しい合憲性審査基準が適用されるべきである
旨主張する。
[42] しかしながら,原判決の「第5 当裁判所の判断」3(1)ウ(イ)(89頁8行目から同90頁3行目まで)が説示するとおり,本件対面販売規制の対象となる要指導医薬品に指定される品目が多数に及ぶ事態は想定し難く,実際に要指導医薬品に指定された品目数及びその市場規模をみても,一般用医薬品を含めた市場の中でごく僅かな割合にとどまっており,スイッチ直後品目については製造販売後調査の期間(原則として3年)が経過した後に,また,ダイレクト直後品目については再審査のための調査期間(4年ないし8年)が経過した後に,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされており,規制の期間も限定されている。また,インターネット販売は,薬局又は店舗におけるその薬局又は店舗以外の場所にいる者に対する一般用医薬品の販売又は授与を意味する特定販売として位置づけられるものであるが(医薬品医療機器等法4条3項4号ロ,26条3項5号,同施行規則1条2項5号,147条の7),ネット販売事業者も,店舗においてその店舗にいる者に対して要指導医薬品を販売することは何ら妨げられていない。これらのことからすれば,本件対面販売規制は,原判決が指摘するとおり,郵便等販売をその事業の柱とする店舗販売業者に対して一定の制約を生じさせるとしても,その開業又は事業の継続そのものの断念に結び付くような結果をもたらす規制であるとは認め難いから,狭義における職業選択の自由そのものを制約するものではなく,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるということができ,しかも,その職業活動の自由を相当程度制約するものであるともいえない。
[43] なお,最高裁平成25年1月11日第二小法廷判決・民集67巻1号1頁は,平成18年法律第69号による改正後の薬事法(旧薬事法)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(平成21年改正後施行規則)が,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について,店舗での薬剤師等の専門家による対面販売等を求め,郵便等販売を禁止したことについて,「(それまでは)違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。」と指摘したが,平成21年改正後施行規則では,上記のとおり,第一類医薬品及び第二類医薬品の全部が上記規制の対象とされていたのに対し,本件対面販売規制の対象となる要指導医薬品は,上記のとおり,極めて限られたものであることが想定され,しかも,要指導医薬品にいったん指定されても,一定期間経過後に,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされているのであるから,前者と後者では,ネット販売事業者を含む郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由に対する制約の程度は全く異なるものである。
[44] 以上のとおりであるから,本件対面販売規制が単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく,ネット販売事業者の職業の自由を相当程度制約するものである旨の控訴人の主張は理由がない。
[45](イ) 控訴人は,
本件対面販売規制は,医薬品を使用する患者の利便性等や,医薬品を製造販売する製薬会社の販売方法選択の自由をも侵害するものである
旨主張する。
[46] しかしながら,本件訴訟は,店舗販売業者である控訴人が,本件対面販売規制により自らの店舗販売業者としての利益が侵害されると主張して提起されたものであるところ,医薬品の使用者の利便性等や製薬会社の販売方法選択の自由は,控訴人の店舗販売業者としての利益とは関わりはないし,また,控訴人において,第三者である医薬品の使用者や製薬会社が提訴しない状況においてそれらの権利ないし利益を主張することができるのか疑問である。さらに,これらの点をおくとしても,後記イないしエで検討するとおり,本件対面販売規制は,スイッチ直後品目等を要指導医薬品として指定することにより,医薬品の不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止することを目的とするもので,必要性及び合理性も認められるものであるから,使用者の利便性等や製薬会社の販売方法選択の自由を不当に侵害するものということはできない。
[47] 以上のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
[48](ウ) そうすると,
本件対面販売規制の合憲性の審査に当たって,より緩やかな規制手段では同じ目的が達成できないことが立法事実によって示されることなど,厳しい合憲性審査基準が適用されるべきである
とする控訴人の主張は,前提を欠くものである。
[49] なお,控訴人は,
本件対面販売規制は,ネット販売事業者を,対面販売事業者から殊更に差別するものである
と主張するが,同規制が憲法14条1項に違反するとはいえないことは,後記(3)で検討するとおりである。
イ 本件対面販売規制の目的について
[50] 控訴人は,
本件対面販売規制の主たる目的は,既存の対面販売事業者の保護にある
旨主張する。
[51] しかしながら,スイッチ直後品目等は,医療従事者による厳格な管理がされない使用環境下において様々な属性を持つ需要者の選択により広範に使用された場合に生じる健康被害等の内容・程度,頻度やその発生要因等が判明しておらず,これらの健康被害等の発生を低減するために必要な方策も明確になっていないという特性を有するものである(甲10)。そして,原判決の「第5 当裁判所の判断」3(2)(91頁10行目から同23行目まで)が説示するとおり,本件対面販売規制の目的は,上記のように,一般用医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品(スイッチ直後品目等)又は毒性若しくは劇性が強い医薬品(毒薬,劇薬)を要指導医薬品として指定することにより,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生の防止を図ることにあると認めることができるのであって,同規制の主たる目的が既存の対面販売業者の保護にあることの証拠はない。
[52] 以上のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
ウ 本件対面販売規制の必要性について
[53](ア) 控訴人は,
本件対面販売規制の対象となる医薬品には,その成分の性質として一般用医薬品よりも強い副作用が認められるというわけではないから,本件対面販売規制の必要性はない
旨主張する。
[54] しかしながら,「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないもの」とされている医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品)であっても,その副作用により死亡等を含めた重篤な健康被害が生ずるおそれがあることは,原判決の「第5 当裁判所の判断」1(3)アないしエ(55頁末行から58頁9行目まで),同3(3)イ(ア)(93頁5行目から同12行目まで)が認定するとおりであるから,控訴人の上記主張は失当である。そして,本件対面販売規制は,上記イのとおり,一般用医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品(スイッチ直後品目等)などを要指導医薬品として指定することにより,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生の防止を図る必要があるとして採用されたものであって,要指導医薬品が一般用医薬品よりも強い副作用が認められることから設けられたわけではない。
[55](イ) 控訴人は,
本件対面販売規制が必要であるというためには,スイッチ直後品目等のインターネット販売を認めた場合には,副作用等の保健衛生上の危害が相当程度の規模で発生する可能性があることが,客観的な資料に基づいて示されることが必要である
などと主張する。
[56] しかしながら,上記主張は,本件対面販売規制の憲法適合性審査には厳しい合憲性審査基準が適用されるべきであるとの立論を前提とするものであるが,これが失当であることは,上記アで検討したとおりである。なお,控訴人は,
当時の薬事法による薬局等の配置規制の憲法22条1項適合性が問題とされた最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁は,消極目的規制の根拠とされる危険は,単なる観念上の想定では足りず,確実な根拠に基づく合理的判断として認められるものでなければならない旨判示したが,同判決は,消極目的規制一般についてこのように述べており,職業の選択そのものに対する制約と職業活動の内容及び態様に対する規制との間で,区別をしていない
旨主張する。しかし,上記の判示は,薬局等の配置規制(開業場所の地理的制限)が,実質的に職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有するものであることを前提とし,当該措置による職業の自由の制約と均衡を失しない程度において国民の保健に対する危険を生じさせるおそれのあることが,合理的に認められることを必要としたものであることは明らかであり,控訴人の上記主張は失当である。
[57] そして,原判決の「第5 当裁判所の判断」3(3)イ(イ)(93頁13行目から同94頁17行目まで)が説示するとおり,厚生労働省医薬食品局長の設置した一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会(新ルール検討会)において,
スイッチ直後品目等を含む第一類医薬品の使用に当たってのリスクを可能な限り低減するため,薬剤師による目視,接触等を含め,使用者に関して収集され得る最大限の情報を収集すべきものがあり,その販売に当たっては,そうした情報が収集できる体制をとった上で慎重に販売すべきであるとの意見や
薬剤師の五感を用いた情報収集により未然に被害を防げた事例があるとの指摘
も出され,日本再興戦略に関する内閣の閣議決定では,一般用医薬品について,消費者の安全性を確保しつつ,適切なルールの下でインターネット販売を認めることとされたが,
スイッチ直後品目等については,他の一般用医薬品とはその性質が異なるため,その成分,用法,用量,副作用の発現状況等の観点から,医学・薬学等それぞれの分野の専門家による所要の検討を行う
との方針が示され,また,この方針を受けて厚生労働省医薬食品局長の設置した,医学・薬学の専門家で構成されたスイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合(スイッチ直後品目検討会合)では,
スイッチ直後品目について,医療従事者による厳格な管理から外された直後で,かつ,一般用医薬品として専門家の関与が大きく減少し,広く様々な状態の下で使用され得る医薬品であるため,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがある上,そのリスクも不明な状況であり,必要なリスク低減方策も採られていないことから,販売時においては,薬剤師と購入者の双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りを通じて,使用者の状態を慎重に確認するとともに,適切な指導と指導内容の確実な理解の確認を行った上で販売するなど,医療用医薬品に準じた最大限の情報収集と,個々人の状態を踏まえた最適な情報提供を可能とする体制を確保した上で丁寧かつ慎重な販売が求められる
旨が指摘されたのである。控訴人の上記主張は,対面販売とインターネット販売とでリスク発生に相違が生じることはないという趣旨と解されるところ,新ルール検討会ではこのような意見もあったが,他方で,上記のとおり,同検討会で,薬剤師による目視,接触等を含めた情報収集を重視する意見もあり,日本再興戦略に関する内閣の閣議決定では,スイッチ直後品目等は,他の一般用医薬品とは性質が異なることから,医学・薬学等それぞれの分野の専門家による所要の検討を行うとの方針が示され,次いで,スイッチ直後品目検討会合では,販売時においては,薬剤師と購入者の双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りを通じて,使用者の状態を慎重に確認すること等が指摘されたのであるから,本件対面販売規制のように,販売に当たって薬剤師を積極的に関与させる方策をとる必要性があると立法府が判断することは不合理とはいえない。
[58](ウ) 控訴人は,
要指導医薬品の指定要件が「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないもの」とされていることからすると,予防原則が適用されるべき前提を欠く
旨主張する。
[59] しかしながら,上記主張が失当であることは,上記(ア)のとおりであり,原判決の「第5 当裁判所の判断」3(3)イ(ウ)(94頁18行目から同95頁19行目まで)が説示するとおり,スイッチ直後品目等のリスクが不明であるという特性にかんがみれば,予防原則の観点から,リスクの原因となる要素をできる限り除去する措置を講じるべきであるという考え方は不合理とはいえない。
[60](エ) 以上のとおりであるから,本件対面販売規制の必要性はない旨の控訴人の主張は理由がない。
エ 本件対面販売規制の合理性について
[61](ア) 控訴人は,
対面販売とインターネット販売との間に有意な差はないから,本件対面販売規制には合理性がない
旨主張する。
[62] しかしながら,原判決の「第5 当裁判所の判断」3(3)ウ(95頁20行目から同98頁19行目まで)が説示するとおり,本件対面販売規制には合理性があるというべきである。すなわち,スイッチ直後品目検討会合報告書において,
薬剤師による使用者への情報提供及び薬学的知見に基づく指導が実効的に行われるためには,薬剤師が購入者との間で双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りが可能な状況の下で,使用者の状態を的確に把握した上,当該医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供し,個々の使用者の状態に応じた注意事項等の伝達や受診勧奨等の指導を行うとともに,購入者が情報提供及び指導の内容を確実に理解したことを確認することが有用である
旨が指摘されていた。そして,薬剤師が,対面以外の方法で,店舗以外の場所にいる者に対して情報提供及び薬学的知見に基づく指導を行おうとする場合には,電話,メール・ウェブ画面による文字情報のやり取りやテレビ電話等が想定されるところ,電話やメール・ウェブ画面での文字情報のやり取りを行う場合は,薬剤師が使用者の症状の状態や程度を目視により直接確認することができないから,使用者の症状の状態等を的確に把握することができないことにもなりかねず,また,使用者の挙動などの反応等を踏まえて医薬品に関する使用者の理解の程度を確認することが困難であるという難点があり,テレビ電話についても,テレビ画面を通じて捕捉可能な使用者の症状の状態,外見や挙動等から得られる非言語情報は対面の場合よりも限定的なものとなるおそれが大きいことから,薬剤師が使用者の症状の状態や程度を目視により的確に確認したり,使用者の外見や挙動等から使用者の状態を的確に把握したりする手段として万全のものではない。このことは,販売に携わる薬剤師の意識と実態に関する調査結果や日本薬剤師会から新ルール検討会に提出された「対面による販売の利点」と題する書面(乙20)で指摘された事例よっても裏付けられているから、薬剤師が対面以外の方法により行い得る情報収集は,そのコミュニケーション手段としての性質上,必ずしも,使用者に関して収集され得る最大限の情報収集を可能とするものとはならず,薬剤師による情報提供及び薬学的知見に基づく指導が,対面の方法による場合と遜色なく行われるとまではいえないと評価することには,相応の合理性がある。そうすると,要指導医薬品として指定されるスイッチ直後品目等について薬剤師による対面による情報収集に基づいた情報提供及び薬学的知見に基づく指導を対面により行わせることとしなかった場合には,その不適正な使用が生じる場合が増加する可能性があると評価することも,格別不合理なことではないから,薬剤師において,使用者に関して収集され得る最大限の情報を収集するという必要性を満たしつつ,薬剤師による使用者への情報提供及び薬学的知見に基づく指導を実効的に行う方法として,実際に対面した上で販売するという手段を採用することには,相応の合理性があるということができる。
[63] 他方で,要指導医薬品として指定される医薬品が多数に及ぶ事態は想定し難く,実際にも,現時点における要指導医薬品は品目数及び市場規模においても一般用医薬品を含めた市場の中でごく僅かな割合(0.6%程度又はそれ未満)にとどまっており,いったん要指導医薬品に指定されたとしても,製造販売後調査又は再審査のための調査に係る調査期間を経過すれば,一般用医薬品として郵便等販売が可能となること等に照らせば,本件対面販売規制は,郵便等販売をその事業の柱とする店舗販売業者に対し,その開業又は事業の存続を困難とするような大きな不利益を課すものではなく,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまり,しかも,その職業活動の自由を相当程度制約するものであるとはいえない。
[64] これらのことからすれば,本件対面販売規制は合理性を有すると認めることができる。
[65](イ) 控訴人は,
平成28年度の医薬品販売制度実態調査の結果等によれば,対面販売がインターネット販売に対して優位に立つということはできない
旨主張する。
[66] しかしながら,仮に,薬局・店舗販売業における要指導医薬品の店舗販売(対面販売)に当たり,約2割の店舗で使用者の本人確認がされていないとしても,このことは,行政による店舗指導上の課題が存することを示すものではあっても,対面販売の必要性がないことを意味するものではない。
[67] また,上記の医薬品販売制度実態調査の結果(甲115)によれば,第一類医薬品の販売に当たって情報提供があった割合は,店舗販売(対面販売)が89.4%であるのに対し,特定販売(インターネット販売)は76.8%となっており,これらの情報提供が薬剤師により行われた割合は,店舗販売(対面販売)が92.4%であるのに対し,特定販売(インターネット販売)は69.8%であって,いずれにおいても店舗販売(対面販売)の方が優位である。なお,第一類医薬品について,使用者の状況について確認があった割合は,控訴人の指摘するとおり,店舗販売(対面販売)よりも特定販売(インターネット販売)の方がやや多いが,インターネット販売の場合には,使用者の状況の確認は,対面販売の場合と異なり,症状等のチェックボックスをクリックして確認する方式が一般的と考えられ,購入しようとしている者が文章を読み飛ばす危険が存する。
[68] さらに,薬剤師による対面指導は,製薬会社の作成した販売店向けの情報提供資料に基づく説明のみにとどまるものではなく,使用者との双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りを通じて行うものであるから,上記の情報提供資料に対面によることが不可欠なものが含まれているか否かは,薬剤師による対面指導の必要性とは関係がない。
[69] これらのことからすれば,医薬品販売制度実態調査の結果等によれば,対面販売がインターネット販売に対して優位に立つということはできない旨の控訴人の主張は理由がない。
[70](ウ) 以上のとおりであるから,本件対面販売規制に合理性はない旨の控訴人の主張は理由がない。
[71] したがって,本件対面販売規制が憲法22条1項に違反すると認めることはできない。

(3) 本件対面販売規制の憲法14条1項適合性について
[72] 控訴人は,
本件対面販売規制は憲法14条1項に違反する
旨主張する。
[73] しかしながら,上記(2)イないしエのとおり,本件対面販売規制は,保健衛生上の危害の発生の防止を図ることを目的とするものであり,そのための手段として,規制の必要性が認められ,かつ,規制内容につき合理性が認められるものである。しかも,上記(2)ア(ア)のとおり,ネット販売事業者も,店舗においてその店舗にいる者に対して要指導医薬品を販売することは何ら妨げられていない。これらのことからすれば,本件対面販売規制が,ネット販売業者を対面販売事業者から不当に差別するものということはできない。
[74] したがって,本件対面販売規制が憲法14条1項に違反すると認めることはできない。

(4) 本件各指定の手続要件及び実体要件について
ア 本件各指定の手続要件について
[75](ア) 控訴人は,
要指導・一般用医薬品部会の委員の構成が不適切である上,同部会では,要指導医薬品の指定に係る実体要件の充足について審議もされていない
などと主張する。
[76] しかしながら,このような主張に理由がないことは,原判決の「第5 当裁判所の判断」4(2)イ(106頁25行目から同108頁4行目まで・当審における補正後のもの)が説示するとおりであり,また,要指導・一般用医薬品部会の当日に配付された資料については,必要に応じて会議の場で資料の説明が行われているから(甲31,32,100,101,乙46,47),これをもって不適切であるとか,審議が十分に行われていないということはできない。なお,要指導医薬品の実体要件は,控訴人の主張するようなものではなく,後記イ(ア)のとおり,医学的ないし薬学的な知見からみて,当該医薬品が,一般用医薬品としてのリスクが不明であり,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがあるために,薬剤師の対面による情報の提供等が必要なものであることと解するのが相当であるが,このような実体要件の充足についても審議されていたことは明らかである。
[77] 以上のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
[78](イ) 控訴人は,
要指導・一般用医薬品部会に配付された資料には,販売時に確認すべき症状でないものが,あたかも販売時に確認すべき症状であるかのように記載されており,これは誤解を誘発するものである
旨主張する。
[79] しかしながら,セレキノンSに関する配布資料で,皮膚の発疹,かゆみ,じんましん等の有無を確認することとされているのは(甲102の1・198丁),販売時に,薬剤師がこれらの注意事項を含めた総合的な観点から患者の状態を確認し,情報提供することを求めているものであって,仮に従前の服用により皮膚の発疹,かゆみ,じんましん等の症状が現れていることを確認すれば,上記医薬品の服用を中止し,医療機関への受診勧奨を促すなどの指導をすることが求められているのであるから,配付資料の記載に誤りがあるということはできない。
[80] 以上のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
[81](ウ) 控訴人は,
要指導・一般用医薬品部会では,スイッチ直後品目について要指導医薬品の指定をしないとの選択肢があることについて,十分な理解がされていたとは考え難い
旨主張する。
[82] しかしながら,薬事・食品衛生審議会には,審議の対象となる品目を要指導医薬品として指定してよいかが諮問されているのであるから,要指導医薬品に指定しないという選択肢があることは当然の前提とされていたし,現に,要指導・一般用医薬品部会では,このような前提で審議がされていたことも明らかである(甲31,32,100,101,乙46,47)。
[83] 以上のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
[84](エ) したがって,本件各指定は手続要件を備えているということができる。
イ 本件各指定の実体要件について
(ア) 要指導医薬品の指定要件について
[85] 控訴人は,
要指導医薬品の指定要件である「その適正な指定のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とは,当該医薬品の販売に当たって必要となる情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が,薬剤師が五感の働きを用いて患者の身体所見を観察・測定し,評価することが不可欠なものであるため,インターネットを介して行われるものでは足りず,対面によることが不可欠なものであることと解すべきである
旨主張する。
[86] しかしながら,上記(2)イないしエで検討したとおり,要指導医薬品の制度は,要指導医薬品が,医療従事者による厳格な管理がされない使用環境下において様々な属性を持つ需要者の選択により広範に使用された場合に生じる健康被害等の内容・程度,頻度やその発生要因等が判明しておらず,これらの健康被害等の発生を低減するために必要な方策も明確になっていないという特性を有するものであることから,薬剤師が購入者と対面して双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りをすることにより,使用者の状態を的確に把握した上で,当該医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供し,個々の使用者の状態に応じた注意事項等の伝達や受診勧奨等の指導を行うとともに,購入者が情報提供及び指導の内容を確実に理解したことを確認することとし,もって,要指導医薬品の不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止しようとするものである。このような要指導医薬品制度の趣旨からすれば,原判決の「第5 当裁判所の判断」4(1)イ(105頁11行目から同106頁7行目まで)が説示するとおり,医薬品医療機器等法4条5項3号の規定する「その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なもの」とは,医学的ないし薬学的な知見からみて,当該医薬品が,一般用医薬品としてのリスクが不明であり,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがあるために,薬剤師の対面による情報の提供等が必要なものを意味すると解するのが相当である。
[87] このように,要指導医薬品の制度は,薬剤師が購入者と対面して双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りをすることにより,使用者の状態を的確に把握した上で,必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導をするとともに,購入者が情報提供及び指導の内容を確実に理解したことを確認することを可能ならしめようとするものであって,控訴人の主張するように,単に,薬剤師が患者の身体所見を観察・測定し,評価することのみを目的としているものではないから,控訴人の主張する指定要件の解釈は失当というべきである。また,控訴人の上記解釈は,本件対面販売規制の合憲性審査基準として,厳しい合憲性審査基準が適用されるべきであるとの立場を前提とするものであり,この点からみても,控訴人の主張は理由がない。
(イ) 本件各指定に係る医薬品について
[88]a 要指導医薬品の指定要件が上記(ア)のようなものであることからすると,原判決の「第5 当裁判所の判断」4(1)イ(105頁11行目から同106頁7行目まで)が説示するとおり,ある医薬品を要指導医薬品として指定することを要するか否かの判断は,当該医薬品の副作用の危険性の程度等に関する医学的ないし薬学的知見を要するものであるから,厚生労働大臣の合理的な裁量的に委ねられていると解するのが相当であり,厚生労働大臣による要指導医薬品の指定が違法となるのは,指定が合理性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合に限られるというべきである。
[89]b(a) この観点から本件各指定に係る医薬品についてみると,これらの医薬品は,いずれもスイッチ直後品目等であって,医療従事者による厳格な管理がされない使用環境下において様々な属性を持つ需要者の選択により広範に使用された場合に生じる健康被害等の内容・程度,頻度やその発生要因等が判明しておらず,これらの健康被害等の発生を低減するために必要な方策も明確になっていないという特性を有するものである。そうすると,このような医薬品の不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためには,薬剤師が購入者と対面して双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りをすることにより,使用者の状態を的確に把握した上で,当該医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供し,個々の使用者の状態に応じた注意事項等の伝達や受診勧奨等の指導を行うとともに,購入者が情報提供及び指導の内容を確実に理解したことを確認することが必要であると認めることができる。
[90] また,医学ないし薬学の専門家等の委員で構成される薬事・食品衛生審議会は,本件各指定に係る医薬品について,いずれも,要指導医薬品として指定することを適当とする旨の答申をしている。なお,要指導・一般用医薬品部会において,これらの医薬品について,要指導医薬品の実体要件を含めて十分な審議がされたことは,上記アのとおりである。
[91] そして,厚生労働大臣は,これらの事情を踏まえて本件各指定を行ったものと認められる。
[92](b) これに対し,控訴人は,本件各指定に係る医薬品について,
要指導・一般用医薬品部会における審議では(既に第一類医薬品として製造販売の承認を受けていた医薬品については,この承認に至る過程においても),これらの医薬品を販売する上で対面を必要とする事情は一つも指摘されていないとか,これらの医薬品に関する添付文書やセルフチェックシート,販売店向け製品解説書等の文書を見ても,これらの医薬品が対面販売を必要とするものでないことは明らかである
旨主張する。
[93] しかしながら,これらの主張は,要指導医薬品の指定要件に関する控訴人の主張(上記(ア))を前提とするものと解されるから,この点において失当である。
[94] そして,要指導・一般用医薬品部会において、医学的ないし薬学的な知見からみて,本件各指定に係る医薬品が,一般用医薬品としてのリスクが不明であり,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがあるために,薬剤師の対面による情報の提供等が必要か否か(上記(ア))という観点から要指導医薬品としての指定の要否が審議されたことは,上記(a)のとおりである。また,本件各指定に係る医薬品に関する添付文書やセルフチェックシート等についてみると,薬剤師には,これらの文書を踏まえて,購入者と対面して双方向での柔軟かつ臨機応変なやり取りしながら情報提供及び指導をすることが求められているのであって,これらの文書の記載されている事項を購入者に説明したり確認すれば足りるというものではない。
[95] 以上のとおりであるから,控訴人の上記主張は理由がない。
[96](c) これらのことからすれば,厚生労働大臣が,本件各指定に係る医薬品が上記(ア)のとおりの要指導医薬品の指定要件を満たすものと判断したことが合理性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであると認めることはできない。
[97](ウ) したがって,本件各指定は実体要件を備えているということができる。

[98] 以上に認定,説示したところによれば,本件取消しの訴えは不適法であるから却下すべきであり,控訴人のその余の請求(本件確認の訴えに係る請求)はいずれも理由がないから棄却すべきである。そうすると,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,当審における新たな訴えのうち,別紙製剤目録記載の製剤に係る要指導医薬品の指定の取消しを求める部分を却下し,当審におけるその余の請求(同製剤についての権利(地位)確認請求)を棄却することとして,主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 齊木敏文  裁判官 石井浩  裁判官 間史恵
 厚生労働大臣が平成29年9月27日厚生労働省告示第305号によって指定した要指導医薬品のうち,フェキソフェナジン(15歳未満の者に係る用法及び用量が定められているものに限る。),その水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤

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