医薬品インターネット販売事件 | ||||
控訴審判決 | ||||
医薬品ネット販売の権利確認等請求控訴事件 東京高等裁判所 平成22年(行コ)第168号 平成24年4月26日 第24民事部 判決 口頭弁論終結日 平成23年4月28日 控訴人 (原告) ケンコーコム株式会社 代表者代表取締役 A 控訴人 (原告) 有限会社ウェルネット 代表者取締役 B 上記両名訴訟代理人弁護士 阿部泰隆 関葉子 玄君先 小澤幹人 樫尾洵 被控訴人(被告) 国 上記代表者法務大臣 小川敏夫 上記処分行政庁 厚生労働大臣 小宮山洋子 上記指定代理人 D 外17名 ■ 主 文 ■ 事 実 及び 理 由 1 原判決主文第2項を取り消す。 2 控訴人らが,医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者として,平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず,第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。 3 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを3分し,その2を控訴人らの,その余を被控訴人の負担とする。 1 原判決を取り消す。 2 主文第2項と同旨 3(1)(主位的請求) 厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることを確認する。 (2)(予備的請求) 前項の省令改正規定を取り消す。 4 訴訟費用は,第1,第2審を通じ,被控訴人の負担とする。 1 本件訴えのうち,厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることの確認を求める訴え並びに上記省令の改正規定の取消しを求める訴えをいずれも却下する。 2 原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告らの負担とする。 [1]1 本件は,平成18年法律第69号(以下「改正法」という。)による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴い制定された薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号。平成21年2月6日公布,同年6月1日施行。以下「改正省令」という。その施行前に,改正省令の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第114号。同年5月29日公布・施行。以下「再改正省令」という。)により,附則に経過措置が追加されている。)により,薬事法施行規則に, 店舗販売業者が店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。改正省令による改正後の薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)1条2項7号参照)を行う場合は第一類医薬品及び第二類医薬品(以下「第一類・第二類医薬品」と総称する。)の販売又は授与は行えない旨の規定(15条の4第1項1号,142条。以下「本件郵便等販売規定」という。), 第一類・第二類医薬品の販売又は授与は有資格者の対面により行う旨の規定(159条の14。(以下「本件対面販売規定」という。), 第一類・第二類医薬品の情報提供は有資格者の対面により行う旨の規定(159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び同条2号。以下「本件情報提供規定」といい,これと本件郵便等販売規定及び本件対面販売規定と併せて「本件各規定」と総称する。) が設けられたことについて,医薬品のインターネットによる通信販売(以下「インターネット販売」という。)を行う事業者である控訴人らが,改正省令は,新薬事法の委任の範囲外の規制を定めるものであって違法であり,インターネット販売について過大な規制を定めるものであるから憲法22条1項に違反し,他の販売業者の規制と比較して不公平があるから平等原則に違反し,その制定手続にも瑕疵があって違法であり,無効であるなどと主張して, ①控訴人らが第一類・第二類医薬品につき郵便等販売をすることができる権利(地位)を有することの確認(控訴の趣旨第2項。以下「本件地位確認の訴え」という。)を求めるとともに, ②改正省令中の薬事法施行規則に本件各規定を加える改正規定(以下「本件改正規定」という。)が無効であることの確認(控訴の趣旨第3項(1)。以下「本件無効確認の訴え」という。)と, 予備的に③本件改正規定の取消し(控訴の趣旨第3項(2)。以下「本件取消しの訴え」という。)を求めている事案である(なお,以下,本件各規定のうち,第一類・第二類医薬品につき店舗販売業者の郵便等販売をする権利を制限する規制を「本件規制」という。)。 [2] 原審は,上記原判決(主文)の表示に記載のとおり,本件改正規定が無効であることの確認を求める訴え及び本件改正規定の取消しを求める訴えをいずれも却下し,その余の請求をいずれも棄却したところ,控訴人らが控訴した。 [3]2 本件において前提となる関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,原判決の該当部分を次のとおり補正し,当審における主張を付加するほか,その「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし4に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし,上記引用部分中,「原告」を「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。以下の引用部分において同じ。)。 [4](1) 6頁25行目の次に以下のとおり加える。 (オ) 上記各規定のほか,新薬事法の関係条文は,本判決別紙1記載のとおりである。[5](2) 12頁15行目の冒頭に「平成6年に設立(平成15年に商号変更)された」を加え,22行目冒頭に「平成12年に設立された」を加える。 [6](3) 18頁23行目の「法律の委任の範囲を逸脱しない範囲」を「法律の委任の趣旨を逸脱しない範囲」に改める。 [7](4) 35頁26行目から36頁1行目にかけて及び2行目の各「憲法22条1項」をいずれも「憲法22条1項等」に改め,11行目の「22条1項」の次に「,14条」を加える。 [8](5) 39頁15行目から16行目にかけての「インターネットを通じた販売方法に起因するものか否かの調査が行われていない。」を「インターネットを通じた販売方法に起因するものではない。」に改め,23行目の「本件規制の」から26行目までを 「一般用医薬品とは,医薬品のうち「効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」(薬事法25条1項)であり,現に,改正省令施行前の一般用医薬品の副作用の発現率は0.0000306%という極めて低い割合にとどまっている。つまり,改定省令前から一般用医薬品の副作用の発生頻度は非常に低かったのであり,危険性を根拠にインターネット販売を禁止する根拠を欠いている。」に改める。 [9](6) 44頁26行目の「事実があった」の次に 「(配置販売に関しては、平成16年当時14件の副作用報告が確認されており,さらに過去にさかのぼれば,整腸剤にキノホルムが含まれていたため,スモンという深刻な薬害が発生したことが明らかになっていた。)」を加える。 [10](7) 48頁18行目の次に以下のとおり加える。 また,既存配置販売業については,有資格者ではない一般従業者が医薬品を箱詰めするというだけでなく,情報提供しても「対面」であるという制度的担保としては不自然,不合理であるにもかかわらず,300年続いた制度であるという理由により,従前どおりの業務を行うことが認められているのであり,特例販売業者についても,実際には決して行われない行政処分の存在と今後は新規開業が認められないことから業者数が増えることはないという理由を根拠に,駆け込みで許可を取得した業者であっても,有資格者を雇用することなく販売を継続できるのに対し,従前から長期にわたり許容されていたインターネット販売については,必ず有資格者がいて対応できる態勢が取られているにもかかわらず,既存業者か否か一切区別せず,第三類以外の一般用医薬品の販売を一律に禁止されるのであって,このことは明らかに不合理な差別であり,およそ平等原則に適合するものではないから,憲法14条に違反する。(控訴人らの主張) [11] 従来認められていた営業等について新たに立法により規制を行う場合においては,事業者の営業の自由(憲法22条1項)や財産権(憲法29条1項)への事前配慮義務を尽くさなければならない。本件は,事業者が新規に事業を開始するという事案ではなくして,いわば事業者が既に長期にわたり事業を継続してきている上,それによって具体的な被害が多発しているといった問題が存在していないにもかかわらず,これを禁止する立法がされたという状況にあり,事業者の受ける損害は,新規に事業を開始する場合に比べてはるかに甚大である。従前は許容されていた営業等を新規に開始する事業者に対しても,立法によりその地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があるのであるから,ましてこれまで長期にわたり事業を継続してきた事業者については,立法によりその地位を不当に害することがないように,より高度の配慮義務を負っているものと解するのが相当である。 [12] なお,被控訴人は,旧薬事法ではインターネット販売を想定外としていると主張するが,旧薬事法では,通信販売は店舗を拠点とする販売であることから店舗販売に含まれるものとして認められてきた上,行政指導も店舗を拠点とする販売の一種としてインターネット販売も許容されていたものである。 (被控訴人の主張) [13] インターネット販売等の郵便等販売は,店舗における薬剤師を介した対面販売及び情報提供を原則としていた旧薬事法が想定していなかった新規の販売形態であり,インターネット販売によって医薬品の適切な選択と適正な使用を図る上での十分な情報提供が確保されるものかどうかについては,消極的な見解が多数であった。本件各規定は,跡を絶たない医薬品の副作用等の発生を防止し,取返しがつかない健康被害の発生を回避するため,一般用医薬品のうちリスクが比較的高いとされるものについて,旧薬事法の下で原則とされてきた薬剤師等による対面販売及び情報提供を義務付けることとし,インターネット販売については,リスクが比較的低い第三類医薬品に限ってこれを許容することとし,一般用医薬品については,インターネット販売を含めて適時・適切な情報提供をすることができる販売形態を見極めた上で,インターネット販売により安全性が確保されるかどうかについては将来的な検討に委ねるとの立法政策が採用されたものである。 [14] したがって,本件規制の結果として,控訴人ら一般用医薬品のインターネット販売を行っていた業者が被る不利益は,旧薬事法等の医事法令の下で,本来許容されていなかった販売形態が,一定の限度で,規制を受けることとなったというものにすぎず,しかも,上記販売形態が規制の対象となり得ることは,累次の行政指導により十分予見可能であったといえる。また,その規制の範囲も,比較的リスクが高いとされる第一類・第二類医薬品に限定され,控訴人らと同種業者の売上げ全体に占める医薬品についてのインターネット販売による売上げの割合は,控訴人らにおいてもわずかといえるものであり,本件規制によって,これらの業者が多大な経済的不利益を被る結果となるものではない。そうすると,本件規制の結果としてインターネット販売が一定の限度で制限されることは,「従前許されていた」販売方法が,突然に「全面規制」を受けることを意味するものではなく,本件規制によって控訴人らインターネット販売を行う業者が多大な経済的不利益を被る結果となったわけでもないから,上記の制限の存在は,本件規制により得られる利益と制約される利益との合理的調整に疑義を生じさせる事情とはならない。 [15]1 前記前提事実,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 改正法施行前の医薬品の販売方法,情報提供方法等に関する規制等 [16]ア 医薬品の販売業の許可について,旧薬事法24条は,薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ,業として,医薬品を販売し,授与し,又はその販売若しくは授与の目的で医薬品を貯蔵若しくは陳列してはならないと規定し,同法25条は,医薬品の販売業の許可の種類として,一般販売業(同法26条),薬種商販売業(同法28条),配置販売業(同法30条)及び特例販売業(同法35条)の各許可に分けている。 [17] そして,一般販売業の許可は店舗ごとに与えられ,一般販売業の業務の管理については薬局に関する同法7条等が準用され(同法26条1項,27条),配置販売業の許可は,配置しようとする区域をその区域に含む都道府県ごとに,品目を指定して与えられ(同法30条1項),特例販売業の許可は,当該地域における薬局及び医療品販売業の普及が十分でない場合その他特に必要がある場合に,店舗ごとに品目を指定して与えられていた(同法35条)。 [18] 旧薬事法上,薬局は,薬剤師が販売又は需要の目的で調剤の業務を行う場所(旧薬事法2条7項)であるのに対し,一般販売業は,薬局と異なり調剤業務は行えないが,すべての医薬品を販売等することができる医薬品の販売業であり,この点,販売品目が指定されている配置販売業や特例販売業とは異なる。(乙15の13) [19] さらに,旧薬事法37条は,薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者,薬種商若しくは特例販売業者は,店舗による販売又は授与以外の方法により,医薬品を販売し,授与し,又はその販売若しくは授与の目的で医薬品を貯蔵若しくは陳列してはならないと販売方法等の制限について規定していた。これは,薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者,薬種商及び特例販売業者について,それぞれ医薬品の販売又は授与の方法を規制したものであるが,医薬品が身体生命に直接作用を及ぼすものであり,また,品質の不良のものを服用し,使用方法を誤った場合には,生命や健康を損なうような結果をもたらすおそれもあるという医薬品の特殊性を考慮して,現金行商,露天販売等の事後において販売業者の責任を追求することが困難であるような形態による販売又は授与を禁止する趣旨に基づくものであった。そして,その趣旨から,店舗による販売又は授受とは,必ずしも店舗内において直接に医薬品を販売又は授与することに限定する趣旨ではないと解され,店舗を有する販売業者が電話等による注文に応じて需要者の家庭に医療品を配達販売する行為等もこれに該当するものと解されていた。(甲10,乙74) [20]イ(ア) 昭和33年5月7日付け薬発第264号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知「薬局,医薬品製造業,医薬品輸入販売業及び医薬品販売業の業務について」には,情報提供の方法について, 一般販売業者は,「開店中は,薬剤師を店舗に常時配置し,医薬品の販売に当たり,購入者等に対し,医薬品の適正な使用のために情報を提供すること」が,それぞれ遵守すべき事項とされている。(乙9) [21](イ) 昭和36年2月8日付け薬発第44号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知「薬事法の施行について」は,配置販売業はいわゆる行商の一種であるが,販売業者があらかじめ消費者に医薬品を預けて置き,消費者がこれを使用した後でなければ,代金請求権が生じないような販売方法であることと,その配置販売品目の指定基準を示し,また特例販売業に関しては,旧薬事法35条の「薬局及び医薬品販売業の普及が十分でない場合」の認定については,当該地域の人口,面積,地勢,交通,住民の保健衛生上の必要性等を勘案して行い,同条の「その他特に必要がある場合」とは,駅の構内等特殊な場合であって容易に薬局を利用し難い場合をいうものとしている。(乙5) [22](ウ) 昭和50年6月28日付け薬発第561号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通達「薬事法の一部を改正する法律の施行について」には, ①薬剤師,薬種商販売業者等が医薬品を販売する際,消費者に対し直接に効能効果,副作用,使用取扱い上の注意事項を告げて販売するなど医薬品の対面販売の実施につき指導すること等,また,との記載がある。(乙10) [23](エ) 昭和63年3月31日付け薬監第11号各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局監視指導課長通知「医薬品の販売方法について」は, 薬局開設者や一般販売業者がカタログ,ちらし等を配布し,注文書により契約の申込みを受けて医薬品を配送する通信販売(以下「カタログ販売」という。)につき,医薬品の販売に当たっては,その責任の所在が明確でなければならないこと,消費者に対し医薬品に関する情報が十分に伝達されなければならないこと等が要請されるのであり,これらに艦み,一般消費者に対し薬剤師等が直接に効能効果,副作用,使用取扱い上の注意事項を告げて販売する医薬品の対面販売を指導してきたところであって,カタログ販売は,このような対面販売の趣旨が確保されないおそれがあり,一般的に好ましくないとした上,具体的なカタログ販売形態の当否については,その形態が多様であるため,個々のケースごとに判断するべきところ,当面カタログ販売に当たって最小限遵守されるべき事項を示すとともに,その内容を周知して監視指導の徹底を図るよう依頼するとしている。なお,同通知においては,カタログ販売の取扱医薬品を一定の薬効群に限るものとしており,その薬効群に属する医薬品のうち,①承認基準が定められているものにあっては,当該基準外のもの,②指定医薬品,③新一般用医薬品及び④分服内用液剤は除くものとされている。(甲6,7,乙11) [24]ウ 平成8年法律第104号による薬事法の改正により,薬事法に,薬局開設者又は医薬品販売業者について,医薬品を一般に購入し又は使用する者に対する,医薬品の適正な使用のための必要な情報提供の努力義務を定めた規定(77条の3第4項)が追加された。(乙8,12,78の1) [25]エ(ア) 平成10年12月2日付け医薬発第1043号各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省医薬安全局長通知「薬局等における薬剤師による管理及び情報提供等の徹底について」には, 今般の立入検査の結果,一般販売業の店舗において開店中に薬剤師が不在であった多数の例が判明するなどしたため,従前の厚生省薬務局長通知に係る薬局開設者の遵守すべき事項等を,薬局及び一般販売業の店舗(以下「薬局等」という。)の開局中又は開店中は,薬剤師を薬局等に常時配置し,医薬品の販売に当たり,医薬品を一般に購入し,又は使用する者(以下「購入者等」という。)に対し,医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供すること等といった趣旨により上記イ(ア)の厚生省薬務局長通知を改正する旨の記載がある。(乙12) [26](イ) 医薬品については,平成9年3月28日の閣議決定(規制緩和推進計画)に基づいて,平成11年3月31日,ビタミン含有保健剤,健胃清涼剤等15製品群を医薬品から医薬部外品に移行させていたが,平成15年6月27日の閣議決定(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003)において,医薬品販売体制の拡充として,安全上特に問題のないとの結論に至った医薬品すべてについて,薬局・薬店に限らず販売ができるようにするとし,この閣議決定を受けて,平成15年9月,医学・薬学等の専門家で構成する「医薬品のうち安全上特に問題がないものの選定に関する検討会」が設置され,検討が行われ,同検討会は,同年12月22日,規制改革の推進に関する第3次答申をした。その答申の内容は次のようなものであった。すなわち, (1)コンビニエンスストアで「解熱鎮痛剤」,「胃腸薬」,「感冒薬」,「整腸薬・下痢止め」などが販売可能とすれば,消費者利便が大幅に向上すること,というものであった。さらに,平成16年3月19日の閣議決定(規制改革・民間開放推進3か年計画)においても,医薬品販売に関する規制緩和の逐次実施や医薬品の一般小売店における販売の早期措置が掲げられた。(乙15の17) [27](ウ) 平成16年4月1日から,深夜早朝の時間帯に,他の一般販売業の店舗と共同して行う医薬品の販売又は授与が認められることとなり(改正省令による改正前の薬事法施行規則1400条),具体的には,一般販売業者が,その店舗以外の複数の店舗と共同して,センターに薬剤師を置いて,テレビ電話を用いた医薬品販売を行うことができることとなった。この場合,購入者に対し医薬品を販売するに当たって,その都度必ず,情報通信設備(テレビ電話その他の動画及び音声により情報提供・収集及び医薬品の確認を適正に行うことができるもの)を使用させて,必要な情報提供・収集又は販売される医薬品の確認を行うことが義務付けられた(「他の一般販売業の店舗と共同して行う医薬品の販売又は授与に関する厚生労働大臣が定める基準」(平成16年厚生労働省告示第193号))。そして,平成16年4月1日付け薬食発第0401011号各都道府県知事,各保健所設置市長,特別区長宛て厚生労働省医薬食品局長通知において, 上記情報通信設備については,購入者等の顔色や身体の自然な動きを適切に認識することができ,受診勧告の必要性が判断できるとともに,薬剤師が医薬品についての確認をすることができるものであり,現時点では携帯電話は対象とならない旨が定められた。(乙15の19,同54の13) [28](エ) 平成16年9月3日付け薬食監麻発第0903013号各都道府県,各保健所設置市,各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「医薬品のインターネットによる通信販売について」には, 医薬品の通信販売については,上記イ(エ)の厚生省薬務局監視指導課長通知において,対面販売の趣旨が確保されないおそれがあるため,最小限遵守されなければならない事項を示しているところであり,インターネットによる通信販売についても同様の扱いとしていたところであるが,最近,同通知で示した事項を逸脱した事例が見受けられ,指導が行われているとし,関係業者に対し,同通知に基づく取扱いについて改めて周知するとともに,遺漏のないよう監視指導の徹底を図るよう依頼する旨の記載がある。(甲8,乙13,54の14) (2) 従前の重大薬害とその対応 [29] 昭和36年にサリドマイド事件(鎮静,催眠剤による薬害)が発生し,これにより,承認審査制度の見直しや厳格化の対応がされ,昭和42年10月21日付け薬発第645号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知「医薬品の製造承認等に関する基本方針の取扱い施行について」において,医療用医薬品とその他の医薬品(一般用医薬品)と区分し(乙80,81),それぞれの性格を考慮し承認審査を行うこととした(乙78の2)。さらに,昭和30年から40年代にかけてスモン事件(整腸剤による薬害)が発生し,これにより,医療品の安全性の確保の重要性とともに,医療品の性質から不可避的に生じる副作用による被害の迅速な救済を図る制度の創設が検討され,これらの施策が行政指導により行われていたところ,昭和54年の薬事法の改正により新薬承認の厳格化を取入れた法制化がされた(乙78の2)。 (3) 一般用医薬品の販売状況・副作用等に関する調査結果等 [30]ア 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課が調査した平成9年度ないし平成14年度における薬局等における薬剤師等の不在率は,一般販売業の店舗においては18.7%ないし23.12%であり,平成12年度ないし平成14年度における調査実施時に薬剤師等が不在であり,かつ,薬剤師等不在時に医薬品を販売するなど,不在時の対応が不適切であった施設の割合は,一般販売業の店舗においては14.6%ないし17.1%であった。(乙15の15) [31]イ 日本チェーンドラッグストア協会が行った「日本のドラッグストア実態調査」によれば,ドラッグストアの店舗数は,平成12年に1万1787だったものが,平成15年には1万4103に増加し,ドラッグストアにおける医薬品の売上高の推計値も,平成12年に8234億円だったものが平成15年には1兆1992億円に増加した。(乙15の15) [32]ウ(ア) 製薬企業や医薬関係者から厚生労働大臣に対してされた副作用報告において,一般用医薬品によるものと疑われる副作用事例(副作用報告の対象となっている重篤な症例及び中等度の症例のみ)は,平成10年度から平成14年度までに約950件に上り,死亡事例は,平成12年4月から平成15年5月までの間に,アナフィラキシー・ショック(血圧低下,呼吸困難等のショック症状)関連やスティーブンス・ジョンソン症候群(発熱,発疹,粘膜のただれ,眼球の充血等の症状を特徴とし,予後が悪い場合,失明や致命的になることもあるもの)関連によるものなど10件となっている。(乙15の1・18) [33](イ) また,平成14年度の一般用医薬品の副作用報告265件(うち約220件程度が企業からの報告であり,それ以外が医師又は薬局からの報告によるものである。)の中には,風邪薬を長期間にわたり多量に服用して肝機能障害を起こした例,併用禁止薬を併用したため間質性肺炎を発症した例,解熱鎮痛剤によるアレルギー歴があり投与禁忌であった者が再度解熱鎮痛剤を服用したためアナフィラキシーショックを発症した例,授乳中の母親が風邪薬を服用したため乳児に発赤が生じた例など,薬剤師等から十分な情報提供が行われていれば副作用の発生を防止することができた可能性のあったものが,約30件含まれている。(乙16の1・6) [34](ウ) その後,平成16年度から平成19年度までの一般用医薬品の副作用報告数は,合計1052件である。(甲67,68) [35](エ) 厚生労働大臣に対する上記の副作用報告書の様式には,当該医薬品をどのように入手したかの記入欄がないことから,インターネット販売により入手した医薬品の使用による副作用の件数を把握することができないが,他の欄の記入内容からインターネット販売により入手した医薬品の使用による副作用と判明したものとして,生薬成分であるカシュウを含む滋養強壮剤を購入して3か月服用したところ,肝障害の副作用を発症し,20日間程度の入院の後軽快した事例が1件あった。この副作用がインターネット販売により入手したという販売方法に起因するものかどうかについて,当該報告書の記載中には言及されていない。なお,使用上の注意に当該副作用が加えられたのは,上記報告がされた以降のことである。(甲16,121,158ないし161,乙63の18) [36]エ 平成14年度の薬局等に対する指導状況は,各都道府県が,全国に約4万9000施設ある薬局のうち50数%の施設に立入検査をしており,悪質なところには年に2,3回これを行うこともあり,一般販売業に対しては,1万2千余の施設に対して,延べ約1万回の立入検査が行われている。(乙16の1) [37]オ 後記(4)の厚生労働省における検討部会での検討のため,平成17年1月に行われたアンケート調査によると,市販薬を購入する際の買い方についての質問に対する回答は,総合感冒薬(風邪薬),解熱鎮痛剤(頭痛・歯痛・生理痛薬),塗り薬(かゆみ止め,虫さされ用など),胃腸薬,整腸薬・下痢止め及び貼り薬(肩こり・腰痛・筋肉痛用など)は50%以上が常備(買い置き)しているとなっている。また,購入時の銘柄等の選択方法についての質問に対する回答は,塗り薬(かゆみ止め,虫さされ用など),貼り薬(肩こり・腰痛・筋肉痛用など),ドリンク剤(医薬部外品を除く),解熱鎮痛剤(頭痛・歯痛・生理痛薬),整腸薬・下痢止め,胃腸薬,総合感冒薬(風邪薬)及び目薬(疲れ目用など)は,パッケージや店頭の案内などを見て自分で選ぶか又は名前を指定して買うとするものの合計が50%以上となっている。なお,市販薬全般では,店舗で症状や目的を言って勧めてもらうとするものが42.1%,パッケージや店頭の案内などを見て自分で選ぶとするものが38.9%,名前を指定して買うとするものが16.9%(パッケージや店頭の案内などを見て自分で選ぶとするもの又は名前を指定して買うとするものの合計は55.8%)となっている。また,市販薬に対する意識について,医師が処方する医薬品と比較して,市販薬では副作用を生ずることはほとんどないと思うかとの質問に対して,そう思うとの回答が約18%,医師が処方する医薬品と比較して,市販薬では服用する量や時期を守らなくても危険はないと思うかとの質問に対して,そう思うとの回答が約13%あった。さらに,購入する販売店を選択理由としては,品揃えが豊富であること,自宅や勤務先から近いこと,及び価格が安いことが上位となっている。(甲143,乙24の1(9頁)・12) [38]カ(ア) 朝日新聞社が,平成18年2月,朝日新聞に掲載した広告上のアンケートに応募した1491人の回答の中から1000人の回答(うち354人がウェブにより回答を寄せている。)を抽出して集計した結果によれば、一般用医薬品の添付文書について,分かりやすいとの回答が44.1%,分かりにくいとの回答が21.2%,どちらでもないとの回答が34.7%であって,分かりにくいと回答した者に対する分かりにくい点を複数回答で尋ねる質問に対しては,198人の回答者のうち,122人が文字が小さく読みづらい,44人が説明が長い,28人が専門用語が多く,分かりにくい,11人が副作用についての説明が不十分であるとの回答をしている。また,具合が悪くなったときの対処としては,48.7%が症状によって薬局・薬店に行くか病院に行くかを決める,22.1%がまず薬局・薬店に行き,大衆薬を使う,17.5%がしばらく様子を見る,11.3%がまず病院に行き,医師に診てもらうと回答している。(乙75) [39](イ) 朝日新聞社が,平成21年5月,上記(ア)と同様に広告上のアンケートに応募した2150人の回答の中から1000人の回答(うち380人がウェブにより回答を寄せている。)を抽出して集計した結果によれば,1000人のうち,一般用医薬品についての意見を求める自由回答欄に記入した者が651人あり,そのうち,薬局・薬品・ドラッグストアに対する意見・要望として,薬剤師に詳しく薬の説明をしてほしい,相談に乗ってほしい,どの店舗にも常駐してほしいとする意見数が43人,薬の勉強をしてほしい,きちんと説明してほしいとする意見数が35人であった。また,具合が悪くなったときの対処としては,52.9%が症状によって薬局・薬店に行くか病院に行くかを決める,18.6%がまず薬局・薬店に行き,OTC医薬品(一般用医薬品)を使う,17.1%がしばらく様子を見る,11.4%がまず病院に行き,医師に診てもらうと回答している。(乙76) [40]キ 共立薬科大学の研究者らによる平成18年ころの調査によれば,薬局の名称を使用して一般用医薬品のインターネット販売を行っていたインターネットサイトの24%で,第一類医薬品の販売が行われていた。そして,第一類医薬品の内訳は,泌尿生殖器及び肛門薬が最も多く,次いで外皮用薬(ほとんどが消毒薬で,水虫薬,発毛剤もあった。),残りは滋養強壮保健薬,消化器官用薬であった。(乙14) [41]ク 財団法人日本中毒情報センターが平成19年1月から同年12月までに受診した中毒症状の発症件数3万3932件のうち,家庭用品を起因物質とするものは2万1861件,医療用医薬品を起因物質とするものは5313件,一般用医薬品を起因物質とするものは3293件であった。また,自殺企図をもって使用したとする1851件のうち,医療用医薬品を起因物質とするものは774件,一般用医薬品を起因物質とするものは405件,家庭用品を起因物質とするものは313件,農業用品を起因物質とするものは284件であった。(乙64の6) [42]ケ 厚生労働省が平成16年9月に取りまとめた「2003~2004年海外情勢報告」には,2003年(平成15年)9月に成立したドイツの医療保険近代化法の内容として,医薬品の通信販売を認めるとの記載がある。また,ドイツ連邦憲法裁判所の判決として,ワクチンの医師への配送及びその宣伝行為を法律によって禁じることは薬剤師の基本法12条1項に基づく基本的権利を侵害する旨の2003年(平成15年)2月11日の判決(Doc Morris事例)があり,当該判決には,当該規定が薬剤師に医師へのワクチン配送及びその宣伝行為を禁じる限り,基本法に違反して無効である旨の判示がある。さらに,EU司法裁判所の判決として,ドイツ国家による医薬品の通信販売の禁止は,ドイツにおいて発売承認を得た非処方箋医薬品に適用される場合,EU法に反する旨の2003年(平成15年)12月11日の判決がある。同判決は,医薬品の輸入に対して制限的な効果を有する規制は,それが人類の健康と生命を効果的に保護するために必要な限度でのみ,EC条約と両立するとし,非処方箋医薬品の場合,その禁止は正当化されないと判示している。(甲122,124,125) [43]コ 平成16年3月に作成された平成15年度厚生労働省保険局医療課による委託事業である「薬剤使用状況に関する調査研究(我が国と諸外国におけ薬剤師の役割・評価及び医薬品の保険給付等に関する比較研究)報告書」には, ①英国において,インターネット・ファーマシーとしてライセンスが与えられているのは4薬局であること,P(Pharmacy Medicine)のカタログ販売,インターネット販売も可能であるが,王立薬剤師協会の許可を得なければならず,許可を得るためには電話,電子メール等何らかの方法で薬剤師が介入できるということを証明しなければならないこと,Pのカタログ販売,インターネット販売の場合でも,薬剤師の供給拠点における常駐義務がある旨の,との各記載がある。(甲175の1・10) [44]サ 平成17年3月に作成された平成16年度厚生労働科学研究費補助金による医薬品・医薬機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業の「薬剤師の質の向上と充実した薬学教育に関する研究」には,各国における一般用医薬品の販売供給状況等に関する調査研究として,次のような記載がある。 ①フランスの公衆衛生法典に,情報通信技術(特にインターネット)を介しての医薬品の販売については明記されていないが,幾つかの法律文書からの総合判断としてその種の販売行為は禁止の対象となっていて,2003年12月11日のEU司法裁判所の判決(Doc Morris事例)の解釈をめぐってフランスでも将来のこの種の販売に対する法的対策(その要点は,インターネットを介して販売できる医薬品は処方箋を要しない非償還医薬品のみであり,そのサイトは,適切な対話形式によってその依頼を有効なものと認められるような注文の可能なものでなければならないなどとされている。)が検討され始めている。(4) 厚生科学審議会(検討部会)における審議 [45]ア 厚生労働大臣の諮問機関である厚生科学審議会は,平成16年4月,厚生労働大臣から,医薬品のリスク等の程度に応じて,専門家が関与し,適切な情報提供等がされる実効性のある制度を構築するための医薬品販売の在り方全般の見直しについて諮問を受け,その調査審議を行うため,同審議会の下に,医学,薬学,経営学,法律学,消費者保護の分野等関係各界の専門家・有識者等の委員(本判決別紙2記載の委員名簿のとおり)による検討部会を設置した。(乙15の3・4) [46]イ 検討部会の検討事項は, ①医薬品のリスク等の程度に応じた区分, ②医薬品販売に当たっての情報提供の在り方((ア)必要な情報提供の内容,(イ)医薬品販売に従事する者の資質とその確保,(ウ)情報提供の手法(情報通信技術の活用等), ③販売後の副作用発生時等への対応, ④上記①ないし③の法令上の位置付け及びその実効性の確保方策, ⑤その他(特例販売業の在り方等) であった。(乙15の4) [47] また,検討項目として,情報通信技術の活用も掲げられ,論点として, インターネット販売,カタログ販売及び個人輸入の形をとった販売形態について,専門家による情報提供の観点から,どのように考えるか,も掲げられていた。(乙19の4) [48]ウ 検討部会は,平成16年5月14日から平成17年12月15日まで,合計23回開催され,上記(3)の調査資料のうち,上記(3)ア,イ,ウ(ア),(イ),エ及びオ等の資料が提示されて,これらを踏まえて議論がされ,検討部会の議論の結果を取りまとめた報告書(甲17)が作成され,医薬品販売制度の改正についての提言が示された。同報告書は, (a)旧薬事法においては,医薬品販売について,薬剤師等による店舗への配置により情報提供を行うことを求めているが,現実には薬剤師等が不在であったり,薬剤師等がいても情報提供が必ずしも十分に行われていないなどの実態に対応するため,医薬品のリスクの程度に応じて,専門家が関与し,適切な情報提供等が行われる実効性のある制度を構築するため医薬品販売の在り方全般について見直しを行うこととし,旨の内容となっていて, 改正に当たっては,まず購入者である一般国民の立場に立って,どのような制度が望ましいかを検討することが重要であり,今後も引き続きこのことを念頭において法制化の作業が行われることを期待するとしている。同報告書は,平成17年12月15日の第23回検討部会において,上記(a)ないし(e)の内容を含む検討結果として了承され,厚生労働大臣に報告され,公表された。(甲17,乙15ないし37(枝番を含む。)) [49]エ 検討部会では,日本薬剤師会所属の薬剤師,日本チェーンドラッグ協会所属の会社代表者等,全日本薬種商協会所属の会社代表者,全国配置家庭薬協会所属会社代表者が意見陳述人として発言する機会が与えられていたが,控訴人らインターネット販売の関連業者への発言の機会は与えられていなかった。なお,日本薬剤師会,日本チェーンドラッグ協会,全日本薬種商協会及び全国配置家庭薬協会等は,平成20年11月28日付けでインターネット販売は禁止すべきであるとの共同声明を発表している。(乙16の8,63の16) [50]オ 第2回検討部会(平成16年6月8日)の資料である「諸外国における一般用医薬品販売規制等について」(乙16の4・5)には次のような記載がある。 ①フランスは,処方箋不要医薬品も薬局でなければ販売ができず,薬剤師による対面販売を原則としていることから,現在,テレビ電話の使用による販売は認められていない。[51] 第9回検討部会(平成17年2月10日)では,事務局による諸外国の医薬品販売制度の調査結果についての報告,それに対する質疑,専門委員会における医薬品のリスクの程度の評価と情報提供等の販売方法の内容等に関する検討状況の報告,それに対する質疑等が行われた。諸外国の医薬販売制度の調査結果についての報告に対する質疑において,委員からインターネット販売及びカタログ販売についての質問があり,それに対して,事務局からは, インターネット販売及びカタログ販売は,現地調査の調査項目には入っていたが,確認したところ一部不正確なところがあったので,第9回検討部会の資料では提示しなかった旨の回答があった。その後,社団法人日本薬剤師会副会長の児玉孝委員から,日本薬剤師会でも外国の調査を行ったので,その内容と第9回検討部会の資料とを照らし合わせた結果を申し上げたい旨の発言があり, インターネットによる販売については,「ここに書かれていますように,まず不正確とはいいながら,ドイツ,フランス,イギリスでは何らかの制限を持っているというのがここに書いています。」との発言があった。(乙23の1・2) (5) 控訴人ケンコーコムらの国に対する要望の提出状況等 [52]ア 控訴人ケンコーコムらは,平成16年11月,「(仮称)健康関連EC協議会」作成名義の書面により,国の規制改革・民間開放推進会議に対し,前記(1)エ(エ)平成16年9月3日付け薬食監麻発第0903013号各都道府県,各保健所設置市,各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「医薬品のインターネットによる通信販売について」による医薬品のインターネット販売の規制の緩和又は撤廃を求める要望書を提出した。厚生労働省からは,インターネット販売の在り方については今後検討部会で議論する予定であり,必要な事項を平成18年通常国会提出予定の法案に盛り込む予定である旨の回答があった。(甲18) [53]イ 控訴人ケンコーコムは,平成17年6月,規制改革・民間開放推進会議に対し,上記アと同様の要望書を提出し,検討部会においてしかるべき有識者のヒヤリングを実施するなど情報通信技術やインターネットを用いた販売の実態について正しく把握した上で,適切な審議を進めることを要望した。これに対し,厚生労働省は,上記アと同様の回答をした。(甲18) [54]ウ 控訴人ケンコーコムは,平成17年11月,規制改革・民間開放推進会議に対し,上記アと同様の要望をするとともに,医薬品販売の免許を有する薬店がインターネット販売を行う際に,適切な販売を行っている旨を消費者に証明する仕組みとして,オンラインマーク制度の導入の検討を求める要望書を提出した。厚生労働省は,検討部会の報告書の趣旨等を踏まえて必要な制度改正を行う旨及び同報告書の該当部分を紹介する内容の回答をした。(甲18) [55]エ 控訴人ケンコーコムは,平成18年1月ころ,自社の医薬品販売サイトにおいて,購入者等が医薬品を注文する際,①注意事項のチェック欄を設け,チェックに応じた薬剤師のアドバイスを表示し,禁忌事項にチェックされた場合には,販売しないようにすること,②販売前に必要な注意事項が記載された画面を必ず表示し,注文者が同画面を確認した旨のボタンを押して注文を受けることとし,③注文者に対し,注文した医薬品の使用時の注意事項を記載した電子メールを送信するという仕組みによる販売を開始した。(甲19,弁論の全趣旨) [56]オ JODA(NPO法人日本オンラインドラッグ協会)は,平成18年4月,厚生労働省に対し,医薬品のオンライン販売に関する自主規制案を提出した。この経緯は次のとおりである。控訴人ケンコーコムの担当者は,同年3月13日,自主規制案の原案を添付した電子メールを厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課の担当官に送付して意見を求め,その後,同年4月21日,改訂した自主規制案を添付した電子メールを送付して,自主規制案について説明し,また,自主規制案についてニュースリリースをする時期,内容,方法等について相談するため,厚生労働省担当官との面会を申し込んだ。この電子メールでは, 改正法案が国会審議中であり,無用な刺激を避けるために第一類ないし第三類医薬品の分類についてはあえて言及しなかった旨が記載されていた。控訴人ケンコーコムの担当者は,同月25日,厚生労働省担当者あてに電子メールを送付して,自主規制案への意見を求めるとともに,その対外発表についての是非を含めた感触を知りたいとして面会を求めたところ,厚生労働省担当者からの返信の電子メールの文面には,面会可能な日程の連絡とともに, 国会審議等においてインターネット販売については厳しい意見しか出ていない状況であり,公表は慎重になった方がよいと思うので,この点について面会時に意見交換したい旨の回答があった。(甲18,116) (6) 厚生労働省医薬食品局作成の改正法案に関する説明 [57] 改正法案の主務官庁である厚生労働省医薬食品局は,平成18年1月30日,内閣法制局における審査時に提出する説明資料を作成した。同資料には,以下の趣旨の記載がある。(乙73の1) ア 新薬事法改正前の医薬品販売制度の問題点と改正の方向等 [58](ア) 現在,薬剤師等が販売の際一律・抽象的に情報提供に努めることとされているが,店舗での薬剤師不在等の実態もあり,必ずしも実効性は高くない状況となっている。医薬品の種類も拡大し,一般用医薬品(大衆薬)であっても,副作用を生じるおそれがある(スモン,サリドマイドも大衆薬による薬害であった。)ものも増加している。一方で,医薬品の専門家である薬剤師については,一般用医薬品で期待され役割もあるが,調剤,臨床等の分野での活動が期待される。このため,情報提供の重点化を図り,その実効性を向上させることにより,国民の安全性を確保するとともに,一般用医薬品の販売に従事する者について,薬剤師以外の専門家の資質確保が課題となっている。 [59](イ) 本来必要性の高い医薬品についての情報提供がかえって不十分になっているおそれがあるため,医薬品の副作用等による健康被害が生じるおそれがある程度に応じて一般用医薬品を区分することにより,それぞれの区分ごとの情報提供の仕組みを設け,重点化することとする。 [60] 医薬品販売業の業態は,一般消費者向けに,店舗により販売等を行う店舗販売業と,配置により販売等を行う配置販売業,薬局等の専門的な機関に卸売を行う卸売販売業に整理することとする。 [61](ウ) 一般用医薬品に関し,副作用等による健康被害が生じるおそれの程度に応じて3区分し,それぞれに応じた情報提供及び適切な相談応需を義務付け,情報提供及び相談応需は,一般用医薬品の販売業の各業態を通じて,薬剤師又は試験合格者(都道府県知事が行う医薬品の販売に関する資質を有することを確認する試験に合格した者)が行うこととし,医薬販売業の業態を整理する。 イ 各条文の改正の趣旨等及び解説 (ア) 医薬品の販売業の許可の種類(新薬事法25条の原文案に関する解説) [62]a 医薬品の販売業の許可について,店舗において販売等を行う店舗販売業,配置により行う配置販売業,卸売により行う卸売販売業の3種類に整理する。 [63]b 店舗において販売を行っている一般販売業及び薬種商販売業は,店舗販売業に,特例販売業の一部を卸売販売業に整理するとともに,卸売販売業に移行しない特例販売業については廃止することとする。特例販売業を廃止するのは,現在,特例販売業者が徐々に減少傾向にある中で,今回の改正により,医薬品の販売等は,その資質を有する者がこれを行うことが原則であることが明確になり,特例販売業のように特段の資質を求めない業態は整理する必要があるためである。なお,配置販売業については,医薬品の販売に従事する者に求める趣旨を踏まえた許可の基準とするが,医薬品の販売業の許可の種類としては,配置販売業のままとする。 (イ) 店舗販売品目(新薬事法27条の原文案に関する解説) [64]a 旧薬事法では,一般販売業において,規定上は医療用医薬品までも販売できることとされていたが,今回,一般用医薬品をそのリスクの程度に応じて区分し,リスクの程度に応じた情報提供及び相談応需を行うこととしたことに合わせ,店舗販売業において販売することができる医薬品の範囲を明確にした。 [65]b 一般用医薬品を定義する際には,医薬品の中心となる医療用医薬品(医師若しくは歯科医師によって使用され,又はこれらの者の処方箋若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品)を定義し、それ以外のものとして一般用医薬品を定義することとする。 [66] 一般用医薬品を定義しようとした場合には,消費者が医薬品を自己選択できることが一つの観点となるが,専門家が医薬品を扱うことが前提とされている体系の中では,今回の改正においては,自己選択を法律上規定するのは適当でないと考えられる(ただし,この点については,その後の立法過程において修正があり,新薬事法25条は,一般用医薬品を「その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用することが目的とされているもの」と定義した。)。 (ウ) 一般用医薬品の区分(新薬事法36条の3(当初は36条の2)の原文案に関する解説) [67]a 旧薬事法では,一般用医薬品の情報提供及び相談応需については,77条の3第4項において,医薬品の副作用等のおそれの程度にかかわらず,努力義務として規定されているにとどまっているが,今回の改正により,その重点化を図り,実効性のある情報提供及び相談応需を行うことができるようにするため,一般用医薬品を副作用等のおそれの程度に応じて分類する(第一類,第二類,第三類に分類)こととした。 [68]b 具体例として,第一類医薬品は,胃腸薬がガスター10,発毛剤がリアップ,第二類医薬品は,解熱鎮痛剤がバファリンA,鎮痛消炎剤がバンテリンコーワ,第三類医薬品は,ビタミン含有保険薬がアリナミンA,外用薬がオイラックス潤乳液である。 (エ) 一般用医薬品の販売に従事する者(新薬事法36条の5(当初は36条の3)の原文案に関する解説) [69]a 改正の趣旨は,一般用医薬品の販売に際し,必要な情報提供及び相談応需を行うことができるようにするため,その販売に当たる者に資質を求め,それを確認する仕組みを設けるものである。 [70]b 第1項は,医薬品の販売等を専門家に行わせることについて,業務全般に責任を有する薬局開設者又は店舗販売業者若しくは配置販売業者に義務を課すことにより,その人材の確保,育成,又は管理等まで見据えた店舗等の業務の仕組みと位置づけるものである。 [71] 「厚生労働省令で定めるところにより,販売させ,授与させ,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵させ,若しくは陳列させること」については,店舗における販売等においては,原則として専門家が行うこととするが,一方で,実際の業務運営の観点から,専門家でない者を専門家が使用して,その管理の下に業務を行うことも想定されるところであり,このような場合であっても,情報提供及び相談応需を始めとする業務は適切に行われなければならないことから,そのための要件(例えば,非専門家を使用する際の専門家の監督事項など)をあらかじめ定めておくこととする。 [72] 「販売させ,授与させ,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵させ,若しくは陳列させること」については,販売業における医薬品の販売等について全般的に規定したものであり,専門家は,情報提供及び相談応需への対応を中心として,医薬品の貯蔵や医薬品のリスクの程度ごとの陳列などについても,業務として行うこととする。 (オ) 情報提供等(新薬事法36条の6(当初は36条の4)の原文案に関する解説) [73]a 一般用医薬品の販売に従事する者は,国民の安全性を確保するため,原則として,一定の資質を有するものでなければならない。その資質を有する者については,薬剤師のほか,都道府県知事が行う試験により確認された者とそれと同等の資質を有する者として政令で定める基準に該当する者とする。 [74] 本条は,一般用医薬品の販売に際し,必要な情報提供及び相談応需を行うことができるようにするため,その販売に当たる者に資質を求め,それを確認する仕組みを設けるものである。 [75]b 第1項及び第2項における「厚生労働省令で定める事項」の内容については,店舗における業務の運営に鑑みると,改正後については,薬剤師又は試験合格者の隣接空間に限り,購入者に対して医薬品を販売し,情報提供を行うことができることとすることが適当である一方で,安全性を確保する観点からは,購入者の質問に十分に答えられないとか間違った情報を伝えないようにするため,薬剤師又は試験合格者が適切に管理することが求められるから,当該省令において,そのような管理下販売の方法について規定する予定である。 [76]c 第1項における「厚生労働省令で定める事項」とは,医薬品の販売に際して,購入者に対して,説明をすることが必要であると考えられるものであり,具体的には,副作用に関する事項及び受診勧奨事項である。 [77]d 第2項の趣旨は,第二類医薬品又は第三類医薬品は,それを使用することによって副作用等による健康被害が生じるおそれがあるもののうち,第一類医薬品を除くものであり,薬剤師が必ず必要という程度までのものではないというものである。 [78]e 第4項については,第1項が規定する情報提供義務について,例えば薬剤師等の医薬品に関する専門家が購入する際,あるいは購入者等が同じ医薬品を繰り返し購入する際には,その義務を免除する規定を設けるものである。 (カ) 販売方法等の制限(新薬事法37条の原案に関する解説) [79]a 薬局者及び店舗販売業者若しくは配置販売業者が,それぞれの販売方法以外の方法で販売することを規制するものであり,具体的には,現金行商や露天販売等の事後において販売業者の責任を追求することが困難であるような形態による販売を禁止するものである。 [80]b 改正の趣旨は,医薬品の販売業の業態を整理し,店舗による業態を店舗販売業とし,配置による業態を引き続き配置販売業としたことに伴い,条文を改正するものである。 [81]c 第1項の「店舗による販売又は授与以外の方法」としては,行商,配置販売,露天販売等がこれに該当する。 (7) 改正法案の国会における審議の経過等 [82]ア 厚生労働省は,厚生科学審議会の審議の結果としての検討部会報告書の内容等を踏まえて改正法案(薬事法の一部を改正する法律案)を立案し,閣議決定を経て,平成18年3月7日,第164回国会に改正法案を提出した。(乙43) [83] なお,厚生労働省が平成18年3月に作成した「薬事法の一部を改正する法律案想定問答集」には,「今回の改正で,インターネット販売はどうするのか。」との問いに対して, 「インターネット販売等の通信販売については,検討部会の報告書において,「①対面販売が原則であることから情報通信技術を活用することについて慎重に検討すベきである。②リスクの程度が比較的低い医薬品(第三類医薬品)については,電話での相談窓口を設置する等の一定の要件の下で通信販売を行うことについても認めざるを得ない。」とされている。」と,との記載があり,さらに,「現に通知に違反して販売をしている業者はどうなるのか」との問いに対して, 薬剤師による対面の情報提供が必要となる薬効が強い医薬品以外の医薬品を取り扱っているインターネット販売業者については,改正法の施行後(3年後)は,制限されるものもある一方で,取扱い可能となる医薬品の薬効群は広がることもあり,少し時間をかけて制度改正の趣旨を含め業者の理解が得られるよう指導・相談に当たってまいりたい旨の回答の記載がある。(甲130) [84]イ 改正法案は,第164回国会において審議され,平成18年4月10日の参議院本会議において,厚生労働大臣が,改正法案の趣旨説明を行った。その趣旨説明においては, 「国民の健康意識の高まりや医薬分業の進展等の医薬品を取り巻く環境の変化,店舗における薬剤師等の不在など制度と実態の乖離等を踏まえ,医薬品の販売制度を見直すこと」が求められているとした上で,としている。(乙38) [85]ウ 平成18年4月11日の参議院厚生労働委員会において,改正薬事法案につき,上記イと同様の趣旨説明が行われた。(乙39) [86]エ 平成18年4月13日の参議院厚生労働委員会において,改正法案の審議が行われた。 [87](ア) 厚生労働省医薬食品局長(以下,「医薬食品局長」ともいう。)は, 改正により必要な情報提供が実効性をもって行われるようになると考えており,消費者の安全性がより確保される仕組みが構築されると考えている旨,旨の答弁をした。厚生労働大臣からも,法案成立後に関係者の意見を詰めていきたいとの答弁がされた。 [88] また,厚生労働大臣からは, 既存配置販売業者については,販売品目がこれまで限定的に認められているものであること,購入者や事業活動への無用の混乱を与えないようにすること等の観点から,経過措置を設けたものである旨の答弁がされた。(乙40) [89](イ) 医薬食品局長は, 第二類医薬品及び第三類医薬品については,専門家である薬剤師や登録販売者が直接対応するだけでなく,専門家の管理下で非専門家である他の従業員が補助的に販売に従事することも可能とすることを考えている旨を説明し,通信販売やインターネット販売に関しては,検討部会報告書において, 医薬品の販売については対面販売が原則であることから,情報通信技術を活用することには慎重に検討すべきであること,リスクの程度が比較的低い医薬品である第三類医薬品については,電話での相談窓口を設置するなど一定の要件の下で通信販売を認めざるを得ないとされていることを紹介し, 医薬品の販売については,対面販売が重要であるということが基本であり,インターネット技術の進歩にはめざましいものがあるものの,現時点では検討部会報告書を踏まえて慎重な対応が必要であると認識している旨の答弁をした。(甲84,乙40) [90]オ 平成18年4月14日の参議院厚生労働委員会において,参考人からの意見聴取と参考人に対する質疑が行われた。(甲85,乙41の1,2) [91](ア) 参考人として出席した検討部会の井村部会長は,検討部会の審議の経緯及び検討部会報告書の内容について説明し, 改正法案は,検討部会での審議結果及び検討部会報告書を十分に踏まえたものであり,医薬品は,その本質として効能効果だけではなく副作用などのリスクを併せ持つものであるから,適切な情報提供が伴ってこそ真に安全で有効なものとなる旨,旨の説明をした。 [92](イ) 参考人として出席したくすりの適正使用協議会理事長東京薬科大学客員教授(一般用医薬品学)である海老原格は,平成17年10月に1600人強の人を対象に行ったアンケート結果について,一般用医薬品を買う場合,79.3%の人は指名買いをすること,購入した59%が外箱の表示を見るが,その83.4%は「効き目」の項目を重視し,「使用上の注意」の項目を重視するとするのは20.4%であったこと,副作用が発生した場合医師に相談するとしたのが52.6%,薬剤師に相談するとしたのが21.9%であるとったことを紹介し, 情報は,個々人にふさわしいもので,平滑かつ分かりやすい言葉で,売る側と買う側でコミュニケーションがきちんと取れること,最新のもので,提供者の質に差がないことが求められる旨を発言した。 [93](ウ) また,参考人として出席した薬害被害者団体の花井十伍は, 配置販売業の経過措置については,この経過措置において無期限で販売可能な270品目の配置販売医薬品の中には,第二類医薬品の中でもリスクが高い成分が含まれており,いわば二重基準が固定し,せっかくリスク分類したものが,一方の基準が永続することは,スモン被害等で一般用医薬品で被害にあった者からすると暴挙である旨,旨を述べた。(甲85,乙41の1) [94]カ 平成18年4月18日の参議院厚生労働委員会において,改正法案の審議が行われた。(甲866,乙42) [95](ア) 既存配置販売業における無資格の配置員が無期限に販売を続ける経過措置に関する質問に対し,医薬食品局長は, 配置販売は,三百余年もの長い伝統の中で培われてきた我が国固有の販売形態であり,今後も既存配置販売業者の販売品目については限定的に認められているものを基本とすること,旨の答弁をした。 [96](イ) 厚生労働大臣は, 今回の薬事法の改正に当たっては,効能効果とリスクを併せ持つ医薬品の本質を踏まえることが最も重要である旨,旨の答弁をした。 [97](ウ) これらの審議の後,同日の参議院厚生労働委員会において,改正法案が採決され,賛成多数で可決された。その際,政府に対し, 「医薬品の適切な選択及び適正な使用の確保のため,新たな一般用医薬品の販売制度が実効あるものとなるよう十分留意すること」,を求める旨の附帯決議がされた。(甲86,乙42) [98]キ 平成18年4月19日,参議院本会議で改正薬事法案が議題とされ,参議院厚生労働委員会の本会議への報告では, 改正法案は,「医薬品の適切な選択及び適正な使用に資するよう,一般用医薬品をその副作用等により健康被害が生ずるおそれの程度に応じて区分し,その区分ごとに,専門家が関与した販売方法を定める等,医薬品の販売制度全般の見直しを行う(中略)こと等により,保健衛生上の危害の発生の防止を図」ることを改正の趣旨・目的とするものと報告された上,採決が行われ,賛成多数で可決された。(乙43) [99]ク 平成18年6月2日,衆議院厚生労働委員会において,改正法案の趣旨説明が行われた。その内容は,参議院におけるものと同様であった。(乙44) [100]ケ 平成18年6月7日,衆議院厚生労働委員会において,改正法案の審議が行われ,医薬食品局長は,次のような答弁をした。これらの審議の後,同日の衆議院厚生労働委員会において,改正法案の採決が行われ,賛成多数で可決された。(乙45) [101](ア) 第一類医薬品についてはインターネット販売や通信販売を禁止すべきではないかという点については,医薬品のインターネット販売についての検討部会報告書において,対面販売が原則であることから情報通信技術を活用することについては慎重に検討すべきであること,第三類医薬品については一定の要件の下で通信販売を認めざるを得ないとされていること,厚生労働省としては,医薬品の適正使用を確保する観点から,医薬品の販売は対面販売が重要であるという基本的な考え方に立っていることから,インターネット技術の進歩にはめざましいものがあるとはいえ,現時点では,検討部会報告書を踏まえて慎重な対応が必要であると考えており,現状で把握しているインターネット販売業者について,第一類の医薬品を販売している事案は実態を確認の上,必要な注意喚起や指導を行っていくこととし,この指導は現行薬事法においては,通知に基づくもので強制力をもって取り締まることは困難であり,必要な注意喚起や指導をしつつ,粘り強く当該業者の説得を行うこととしたい。また,対面販売の原則ということから厳しく制限をすべきであるという意見がある一方で,利便性あるいはIT技術の活用により対面販売に準じた対応も可能として規制を緩和すべきであるという意見もあり,厚生労働省としては,上記のような基本的な考え方に立って,現時点では,検討部会報告書を踏まえて慎重な対応が必要であると考えている。[104]コ 平成18年6月8日の衆議院本会議において,改正法案の採決が行われ,賛成多数で可決され,改正法案が成立した。衆議院厚生労働委員会の本会議への報告でも,改正法案の趣旨・目的について,上記キと同旨の報告がされた。(乙46) [105]サ 改正法は,平成18年6月14日,平成18年法律第69号として公布され,その後の政令による施行期日の定めにより平成21年6月1日から施行された。改正法においては,薬事法36条の3,36条の5,36条の6等の規定が新設されている。(乙52) [106]シ 平成19年3月30日,厚生労働省告示第69号により,厚生労働大臣の指定する第一類及び第二類医薬品が定められた。(乙47) [107] これによれば,その構成比は,第一類医薬品が4%,第二類医薬品が63%,第三類医薬品が33%となり,例えば,ガスター10は第一類医薬品に,ベンザブロックIP及びバファリンAは第二類医薬品に,アリナミンAは第三類医薬品となった。(甲36,乙48ないし51) (8) 第一次検討会における議論及び改正省令の制定に至る経過等 [108]ア(ア) 厚生労働省は,平成20年2月8日,新薬事法において規定された販売の体制や環境の整備を図るために必要な省令等の制定に当たって,必要な事項を検討するため,薬学等の学識を有する者,都道府県の関係者等の有識者及び一般用医薬品に関わる団体の代表を委員(別紙3記載の委員名簿のとおり。なお,控訴人ケンコーコムは,代表者の検討会への参加を求める要望書を厚生労働大臣あてに提出したが,委員に選出されなかった。(甲18,23))とする「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」(以下「第一次検討会」という。)を設置し,同日から同年7月4日まで計8回にわたり,公開の場で検討を行った。第一次検討会の主な検討事項は,①情報提供等の内容・方法,②情報提供等に関する環境整備,③情報提供等を適正に行うための販売体制,④医薬品販売業者及び管理者の遵守事項等であった。(乙53ないし60(枝番を含む。)) [109](イ) 平成20年4月4日開催された第一次検討会第5回会議に,控訴人ケンコーコム代表者(JODA理事長)のヒヤリングが実施され,控訴人ケンコーコム代表者は,インターネット販売における顧客とのやりとりの概要についての説明を行い, インターネット販売の安全・安心及び利便性について,①正規の薬局・薬店による運営がされていること,②添付文書及び内容物の画像・禁忌情報の提示等による十分な情報提供を行っていること,③アンケート形式で個別に購入申込受付前の確認ができること及び電子メールや電話による個別の相談に応じられること,④薬局・薬店に出向くことが地理的・時間的に困難な顧客の要望に応えられること,⑤販売した医薬品の追跡が可能であることを挙げ,店舗販売を行っている薬局・薬店が対面販売による安全・安心な店舗販売を心がける一方,生活弱者からの強いニーズがあって,そのニーズに応えるべくインターネット販売を行っており,対面販売の趣旨に則った安全・安心を確保すべく,発展著しい情報通信技術を活用している旨の説明をした。また,その後,委員からの質疑応答に対応した。(乙57(枝番を含む。)) [110]イ 第一次検討会は,検討結果として,「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会報告書」(以下「第一次検討会報告書」という。)を取りまとめ,厚生労働大臣に報告するとともに,公表した。(甲24,乙60の1,60の3) [111] 同報告書には,「情報通信技術を活用する場合の考え方」として, ①医薬品の販売に当たっては専門家が対面によって情報提供することが原則であることから,販売時の情報提供に情報通信技術を活用することについては慎重に検討すべきであり,第一類医薬品については,書面を用いた販売時の情報提供が求められていることなどから,情報通信技術を活用した情報提供による販売は適当ではない,という内容の記述がある。 [112]ウ 上記イの報告を受けて,厚生労働省において,同報告書の内容を踏まえ,薬事法施行規則等の一部を改正する省令案(改正省令の省令案。以下「改正省令案」という。)の立案作業が行われ,厚生労働省は,平成20年9月17日,「「薬事法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見の募集について」との表題で改正省令案の概要を示し,同年10月16日までこれに対する意見公募手続(パブリックコメント)を行った。(甲25) [113] 厚生労働省は,平成21年2月6日,上記意見公募手続の結果を発表した。その内容は,全体の意見数は3430件であること,郵便等販売に関する意見は2353件あること,郵便等販売は第三類医薬品に限って認めるべきであるとする賛成意見50件及び郵便等販売により販売可能な一般用医薬品の範囲を第三類医薬品以外の医薬品についても認めるべきであるとする反対意見2303件とそれらに対する厚生労働省の回答等となっている。上記反対意見には,身体障害者や障害者,高齢者及び乳幼児を抱える家族,離島や山間僻地の居住者等で,店舗に赴き一般用医薬品を購入することが困難ないし不便な消費者等によるものがあった。(甲25,32ないし35,乙63の11) [114]エ 政府の規制改革会議は,平成20年11月11日,上記改正省令案に関する見解を示した。その内容は, ①薬事法上インターネット販売を含む通信販売を禁止する明示的な規定がなく,省令で当該規制を行うことは法の授権範囲を超えていること,というものであった。(甲26,乙63の13) [115]オ JODAは,平成20年11月20日,インターネット販売を行う事業者による自主規制案として,「安全・安心な医薬品インターネット販売を実現する自主ガイドライン」を発表し,同年12月11日,同ガイドラインを改訂した。改訂後の同ガイドライン(甲29。以下「JODAガイドライン」という。)の主な内容は,原判決別紙「JODAガイドラインの主な内容」のとおりである。(甲18,28,29) [116]カ 厚生労働省は,平成20年12月19日,同月16日付けの規制改革会議からの質問事項について,以下のとおり回答した。 上記エ①の法の授権の範囲を超えるとの見解については,今回の法改正により,リスクの比較的高い医薬品(第一類,第二類)については,専門家(薬剤師,登録販売者)が情報提供を行うこと及びその詳細は厚生労働省令で定めることが法律に明記されたこと,これに伴い,今回の省令案では,インターネット等の通信販売については,販売時に予め情報提供が不要な第三類医薬品を販売可能な範囲とすることを規定することとしたものであること,こうした考え方については,平成16年5月から厚生科学審議会の部会で公開により審議され,その報告書に明記された後,改正法案が作成され,国会での法案審議が行われていることから,今回の省令案の内容は法律による委任の範囲であると考えている。[117]キ 前原誠司衆議院議員は,平成20年11月13日,医薬品のインターネット販売に関する質問主意書を衆議院議長に提出したが,同質問主意書には, 厚生労働省が,現行薬事法(旧薬事法)においては,ネット販売は「適法」と回答していたことにつき,現行法令上,薬事法37条も含め当該販売を禁止する規定は法令上ないと解してよいか,政府(内閣法制局)としての見解如何との質問をした。これに対し,内閣総理大臣臨時代理国務大臣は, 現行の薬事法(昭和35年法律第145号)においてはインターネットによる通信販売を禁止する規定はない旨を回答し,対面販売の原則規定及びネット販売を制限する法律上の根拠についての質問に対しては, 新薬事法36条の5及び同6の規定に基づく厚生労働省令で,具体的な販売方法や情報提供の方法について定めることとされている旨の答弁をした。(甲14,15) [118]ク 改正省令(薬事法施行規則等の一部を改正する省令)は,平成21年2月6日,平成21年厚生労働省令第10号として公布され,同年6月1日(改正法の施行日)から施行され,これにより,薬事法施行規則に前記関係法令の定め記載のとおり,本件各規定が新設された。(甲5,乙61) (9) 第二次検討会における議論等及び再改正省令の制定に至る経過等 [119]ア 厚生労働大臣は,平成21年1月23日,改正法に基づく新薬事法の全面施行を同年6月1日に控え,新制度の下,国民が医薬品を適切に選択し,かつ,適正に使用することができる環境作りのために国民的議論を行うことを目的として,検討会を開催することを指示し,同年2月13日,第二次検討会の開催が決定された。第二次検討会の主な検討事項は,①薬局・店舗等では医薬品の購入が困難な場合の対応方策,②インターネット等を通じた医薬品販売の在り方等であり,その構成員は,医薬品販売に関する有識者,都道府県の関係者,インターネット等通信販売事業者及び一般用医薬品にかかわる団体の代表で構成されることとなった。(甲31,37,乙63の3・4) [120]イ 第二次検討会は,平成21年2月24日の第1回会議から同年5月22日の第7回会議まで,本判決別紙4記載のとおりの控訴人ケンコーコム代表者を含む構成員により,公開の下開催された。第二次検討会では,各委員からそれぞれ提出資料についての説明があり,その後,質疑が行われ,改正法に基づく医薬品の新販売制度の円滑な施行のための方策が検討された。(甲39ないし41,48,乙63ないし69(枝番号を含む。)) [121]ウ(ア) 控訴人ケンコーコム代表者及び楽天株式会社(以下「楽天」という。)代表取締役である三木谷浩史(以下「三木谷」という。)は,第二次検討会第1回会議に資料を提出し(乙63の21・22),これには,「一般用医薬品のインターネット販売における安全策について(業界ルール案)」と題する業界ルール案(JODAと楽天との提携による策定に係るもの)が含まれており,その内容は,次の①ないし⑩のとおりである。すなわち, ①違法販売サイト,個人輸入サイトとの区別や専門家が実在することにつき,薬局・店舗のサイト上で,都道府県等への届出済みであることを確認できるようにし,対応する専門家の情報も掲示し,公のサイト(厚生労働省の資格検索システムなど)でも届出済みである旨を掲示して実在することを確認できるようにすること,などとするものであった。(甲30,乙70) [122](イ) また,三木谷が提出した資料には,厚生労働省「平成19年度衛生行政報告例」第51表が紹介されており,その報告によれば,無薬局町村数は186であり,無薬局町村のある都道府県数は37であった。(乙63の22) [123]エ 厚生労働省は,平成21年5月12日,上記イの検討の結果等を踏まえ,改正省令の一部を改正する省令案(再改正省令の省令案。以下「再改正省令案」という。)の立案作業を行い,同日,「「薬事法施行規則等の一部を改正する省令の一部を改正する省令案」に関する意見の募集について」との表題で再改正省令案の概要を示し,同月18日を締切日として,これに対する意見公募手続(パブリックコメント)を行い,再改正省令案の立案作業を進めた。 [124] なお,厚生労働省は,上記意見公募に当たって意見の応募期間を短縮した理由として,郵便等販売に関する経過措置を設けるため,再改正省令を平成21年6月1日までに公布・施行する必要があると説明している(甲52)。 [125] 厚生労働省は,平成21年5月22日,第二次検討会第7回会議における資料として,意見公募手続の結果を示したが,公募件数は9824件は,経過措置に賛成とするもの42件,経過措置に反対とするもの1146件(うち,経過措置は不要とするもの692件,経過措置の内容に反対するもの454件),郵便等販売の規制をすべきでないとするもの8333件等であった。(乙69の4) [126]オ 平成21年5月29日,再改正省令(改正省令の一部を改正する省令)が平成21年厚生労働省令第114号として公布され,改正法及び改正省令の施行に先立ち同日から施行され,これにより,前記関係法令の定め(原判決「事実及び理由」欄第2の1(2)イ)記載のとおり,改正省令附則に郵便等販売に関する経過措置の規定等が加えられた。(甲58) (10) 改正法及び改正省令の施行後の状況等 [127]ア 改正法及び改正省令(ただし,再改正省令による改正後のもの)は,平成21年6月1日から施行された。 [128]イ 規制改革会議の重点事項推進委員会は,平成21年6月17日,医療分野の公開討論を行い,委員と厚生労働省医薬食品局の局長以下の担当者との間で,郵便等販売に関する経過措置に係るパブリックコメント,経過措置の内容,対面原則が必要な理由,服薬者でない者が購入する場合と対面原則,情報提供義務の免除規定(新薬事法36条の6第4項)との関係等について,質疑応答がされた。(甲100,121,126,128) [129]ウ 控訴人ケンコーコムの医薬品の1か月当たりの売上げは,平成20年4月から平成21年4月にかけて,約4500万円から約7000万円の間でおおむね緩やかに上昇してきたが,同年5月に1億円を超える売上げを記録した後,同年6月から11月までおおむね3000万円から4000万円の間で推移し,同年12月から平成22年12月までは,3000万円前後となった。平成20年6月1日から平成21年5月31日までの第一類・第二類医薬品の売上高は,4億6981万6448円であった。(甲81,119,133の1,188) [130]エ 控訴人ウェルネットの医薬品の1か月当たりの売上げは,平成20年12月から平成21年3月まで104万円から129万円の間で推移し,同年4月には176万円,同年5月には303万円を記録したものの,同年6月から11月まで58万円から90万円の間で推移し減少傾向にあり,同年12月から平成22年12月までは44万円から76万円となった。(甲133の2,189) [131] 当裁判所も,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは,改正省令中の本件改定規定の制定行為を対象とする抗告訴訟であるところ,改正省令中の本件改定規定の制定行為は無効確認の訴え及び取消しの訴えの対象となる行政処分に当たらないと解すべきであるから,その各訴えは,不適法であり,これを却下すべきものであると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の2記載のとおりであるからこれを引用する。 [132] 当裁判所も,公法上の当事者訴訟としての本件地位確認の訴えは,確認の利益が存し,かつ法律上の争訟性があると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の3記載のとおりであるからこれを引用する。 [133] なお,補足すると,本件規制によって,控訴人らは,本件改正規定が控訴人らに適用されるとすると,営業活動の制限を受け,その営業活動によって得ていた利益を得ることができなくなり,継続的に損害が拡大していくこととなるから,本件確認の訴えは,その不利益を排除しかつ予防することを目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができるから,本件においては,その確認の利益を肯定することができるというべきである。 [134] また,控訴人らが本件規定の効力を争う方法としては,その規制に違反した営業活動を行うことによって課される行政処分に対する抗告訴訟を提起することが可能であるが,そのような行政処分を受けることによる経済的,社会的不利益を回避する必要が認められる本件のような事案においては,行政処分を受けない段階における公法上の法律関係に関する確認の訴えである当事者訴訟による争訟が認められるべきということになる。 [135](1) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由を保障する趣旨を包含しており,広く一般に,いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含していると解すべきである(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572号,最高裁昭和47年11月22日大法廷判決・刑事判例集26巻9号586頁)。本件改正規定の適用の結果,控訴人ら店舗販売業者が,第一類・第二類医薬品について,郵便等販売を行うことができなくなることからすれば,改正省令中の本件各規定のうち本件規制に係る規定は,これによって憲法22条1項において保障される営業の自由に係る事業者の権利を制限するものであるということができるところ,国家行政組織法12条3項は,省令には,法律の委任がなければ,罰則を設け,又は義務を課し,もしくは国民の権利を制限する規定を設けることはできないと規定している。 [136] そこで,本件各規定のうち本件規制に係る規定が,法律(新薬事法)の委任(授権)に基づくものであるか,法律(新薬事法)の委任に基づくものであるとしても,その委任の趣旨の範囲内で定められたものであるかについて検討する。 [137](2)ア 本件各規定に対する法律(新薬事法)の委任(授権)の有無について,被控訴人は, 新施行規則中の本件各規定のうち,と主張する。 [138](ア) 新施行規則159条の14は,新薬事法による委任の根拠規定として,新薬事法36条の5が明示され,同規則159条の15ないし17は,新薬事法の根拠規定として,新薬事法36条の6第1ないし3項が明示されている。 [139] これに対し,新施行規則15条の4は,委任の根拠となる新薬事法の規定を条文上明示しておらず,その見出しは郵便等販売の方法等(「郵便等販売」とは,薬局開設者又は店舗販売業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対してする郵便その他の方法による医薬品の販売をいう(新施行規則1条2項7号参照)。)となっている。また,その規定は,聴覚等の障害を有する薬剤師等に対する措置(同15条),薬局における従事者の区別(同15条の2),一般用医薬品を陳列する場所等の閉鎖(同15条の3)の次に位置し,その後に一般用医薬品以外の医薬品についての販売方法(同15条の5),情報提供等(同15条の6)等の規定規定が置かれて,15条,15条の2ないし4の各規定は,同規則142条により店舗販売業者に準用されている。 [140](イ) 新薬事法36条の5は,条文の見出が,「一般用医薬品の販売に従事する者」となっており,販売に従事する者を第一類医薬品については「薬剤師」,第二類医薬品及び第三類医薬品については「薬剤師又は登録販売者」とする旨を規定している。そうすると,同条柱書の「厚生労働省令の定めるところにより」として省令に委任した内容は,文理上,販売に従事する者を省令で定めるのではなく,医薬品の区分に応じ,新薬事法が規定している従事者に「販売させ,又は授与させなければならない」にかかるものであると解される。このことは,薬事法の改正法の条文案に関する厚生労働省作成の説明資料(乙73の1の44頁(2)参照)においても,「厚生労働省令の定めるところにより,販売させ,授与させ,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵させ,若しくは陳列させること」という解説がされ, 専門家でない者を専門家が使用して,その管理の下に業務を行うことも想定し,その情報提供及び相談応需等の業務が適切に行われなければならないとして,そのための要件を省令で定めておく旨の解説がされている。したがって,同条は,その一般用医薬品の販売等について,第一類医薬品については薬剤師による販売等並びに第二類医薬品及び第三類医薬品については薬剤師又は登録販売者による販売等におけるその方法・態様についての定めを厚生労働省令に委任したものと解することができる。 [141] 次に,新薬事法36条の6は,条文の見出しが「情報提供等」となっており,同条第1項は第一類医薬品についての,第2項は第二類医薬品についてのそれぞれの販売時の情報提供の方法を,第3項は一般用医薬品の販売時又は販売後の相談応需の際の情報提供を規定したものであり,条文の規定上,「厚生労働省令の定めるところにより」という委任規定は,「必要な情報を提供」させるにかかるものと解せられる。さらに,同規定の原案に相当する条文案についての厚生労働省作成の説明資料(乙73の1)においては、第1項及び第2項において省令において定める事項の解説がされ,これには, 「改正後については,薬剤師又は試験合格者(引用注・登録販売者に相当)の隣接空間内に限り,購入者に対して医薬品を販売し,情報提供を行うことができることとすることが適当である」,との解説が記載されており,上記情報提供に伴う販売方法について省令において規定することを予定していることが認められる。なお,第3項の原案に相当する条文案では,「厚生労働省令の定めるところにより」との文言はなかったが,立法段階においてその文言が追記された。 [142]イ 以上のとおりであり,本件各規定のうち,新施行規則159条の14は新薬事法36条の5に,同規則159条の15ないし17は新薬事法36条の6にその委任の根拠が求められ,同規則15条の4は,その内容及び規定位置から一般用医薬品の販売及び情報提供と関連するものとして,上記各規定と同様に,新薬事法36条の5及び6にその委任の根拠が求められることとなる。 [143](3) そこで,本件各規定が新薬事法上の各委任規定の委任の趣旨の範囲内であるか否かについて検討する。 [144]ア 委任立法である省令によって国民の権利を制限する場合,当該制限規定が法律の委任の範囲内かどうかを検討する場合,その法の規定の文言はもとより,法の趣旨や目的等を考慮して解釈すべきものと解される(最高裁昭和46年1月20日大法廷判決・民集25巻1号1頁,最高裁平成14年1月31日第一小法廷判決・民集56巻1号246頁参照)。 [145]イ(ア) 新薬事法には,一般用医薬品の郵便等販売の禁止あるいは制限について,直接これを定めた規定はない。新薬事法37条は,販売方法等の制限の規定であり,薬局者及び店舗販売業者若しくは配置販売業者は,それぞれの販売方法以外の方法で販売することを規制するものであるが,この規定は,旧薬事法37条による医薬品の販売業の業態を整理し,店舗による業態を店舗販売業とし,配置による業態を引き続き配置販売業としたことに止まるのであって,店舗販売業者が,現金行商や露天販売等の事後において販売業者の責任を追求することが困難であるような形態により販売することを禁止する趣旨として規定されている「店舗による販売又は授与以外の方法」の禁止は,旧薬事法における行商,配置販売,露天販売等の禁止と同趣旨であり,それ以上に郵便等販売を禁止する文言はない。また,同条には,インターネット販売を直接ないし明示的に禁止あるいは制限する規定も置いていない。 [146] 次に,本件各規定の委任の根拠規定とされている新薬事法36条の5は,薬局開設者,店舗販売業者又は配置販売業者において,一般用医薬品について,その区分に応じた販売従事者を定めた規定であり,販売方法を厚生労働省令に委任しているが,その規定上,郵便等販売やインターネット販売を禁止あるいは制限する文言はない。さらに,新薬事法36条の6は,薬局開設者又は店舗販売業者がその薬局又は店舗において第一類医薬品を販売等する場合に,薬剤師に書面を用いて,必要な情報を提供する義務を規定し(1項),第二類医薬品を販売等する場合には,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供する努力義務を規定し(2項),薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入しようとする者や購入後使用する者から相談があった場合に,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供する義務を規定しているが(3項),これらの情報を電磁的方法等により提供することを禁止あるいは制限していないし,販売方法として郵便等販売やインターネット販売を禁止してはいないことは,他の条文と同様である。 [147] なお,新薬事法25条は,店舗販売業を一般用医薬品(医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいう。)を,店舗において販売し,又は授与する業務と規定するが,この規定も販売方法として郵便等販売やインターネット販売を明文で禁止するものではない。 [148](イ) これに対し,被控訴人は, 新薬事法25条において,店舗販売業を原則として「店舗において」医薬品を対面販売することが予定される業態として創設し,このように店舗における対面販売が原則であることを前提として,新薬事法36条の6において,「店舗において第一類医薬品・第二類医薬品を販売し,又は授与する場合」に対面での情報提供を義務付け,36条の5において,一般用医薬品の販売に従事する者を薬剤師又は登録販売者とすることを義務付けたものである旨主張する。 [149] しかし,新薬事法25条が,新薬事法が店舗販売業者について一般用医薬品を購入する者が店舗に赴いて(店舗内にいる購入者と)対面で販売する以外の販売方法である郵便等販売を禁止しているとすると,新施行規則1条2項7号,139条が店舗販売業者による郵便等販売を想定し,同規則15条の4,142条が第三類医薬品についての郵便等販売を認めていることは,形式的には新薬事法25条の趣旨と相容れないこととなる(新薬事法25条が,一定の場合に郵便等販売を禁止することを前提としていると読み込むことも,やや不自然である。)。そうすると,被控訴人主張のように,新薬事法25条を36条の5,36条の6とを関連させて検討するとしても,郵便等販売の禁止を含む事項が,同条により省令に委任されていると解することはできない。 [150] なお,厚生労働省が内閣法制局における法案審査時に提出した説明資料(乙73の1)には,被控訴人の上記主張のような記載はなく,第一類・第二類医薬品について郵便等販売を禁止する旨の解説もない。 [151](ウ) さらに,被控訴人は, リスクを軽視できない医薬品については,双方向性の対面での販売が非常に重要であるとの認識で一致し,対面販売を医薬品販売の原則とすべき旨記載した検討部会の報告書は,改正法案の立案作業の基礎とされ,内閣法制局における法案審査時の説明資料の添付資料とされており(乙第73号証の3),国会の審議においても,政府委員及び厚生労働大臣が答弁に当たり対面販売の必要性を明確に述べ,これを前提に法案可決に至っている旨主張する。 [152] しかし,上記報告書や国会答弁等を受けて立案されたのはそのとおりであるとしても,実際に立法化された新薬事法の各条文の規定が,その内容を反映させているかどうかは別問題であり,被控訴人の主張を踏まえて検討しても,一般用医薬品を購入する者が店舗に赴いて(店舗内にいる購入者と)対面で販売することが店舗販売業であり,明示的にそれ以外の販売方法である郵便等販売を禁止あるいは制限しているものと解することはできず,上記の判断を左右しない。 [153] なお,検討部会の報告書並びに国会の審議における政府委員及び厚生労働大臣の答弁においても,一般用医薬品の第二類医薬品について,全面的にインターネット販売を禁止するとの報告ないし答弁はされていない。 [154](エ) なお,新薬事法36条の5が,店舗販売業者等は「厚生労働省令で定めるところにより」第一類・第二類医薬品を一定の資格ある者に販売等をさせなければならないと規定してことから,省令において,委任された販売方法を定めた結果,店舗販売業者に対し,第一類・第二類医薬品の販売方法の一つである郵便等販売について,これを一律に禁止することとなっても,その規定は委任の範囲内と解することができるとも考えられる。しかし,新薬事法37条,25条が店舗販売業者による郵便等販売を禁止あるいは制限していないこと,27条は店舗販売業者が一切の一般用医薬品を販売することを認めていること,36条の6第4項は,一定の場合において情報提供を免除していること,同条2項は,第二類医薬品については旧薬事法同様,薬剤師又は登録販売者の情報提供は努力義務に止めていること等の改正法の各規定との関連で検討し,また,一般医薬品の購入者における医薬品の適切な選択及び適正な使用の確保という改正法の趣旨及び目的の観点からの検討をしても,店舗販売業者に対して,第一類・第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁止することまでを改正法が予定し,その具体的方法を省令に委任したと解することはできない。なお,後記で検討するとおり,その立法過程,手続等においては,第一類・第二類医薬品を郵便等販売で購入している者や主として郵便等販売により医薬品を販売している業者の利益の侵害その他に対する配慮がされたものといえるかという点にも問題があり,また,郵便等販売の実態や販売等方法により生じた副作用についての実態把握や検証がないか不十分な状況が認められる本件においては,店舗販売業者に対して,一律に第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止する省令による本件規制の合理性が裏付けられているとも言い難い。 [155]ウ 次に,改正法の趣旨や目的から,例外なく第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止することが委任の趣旨と認められるかどうかについて検討する。 [156](ア) 改正法の国会審議に当たり,厚生労働大臣の説明においては,前記認定のとおり, 「国民の健康意識の高まりや医薬分業の進展等の医薬品を取り巻く環境の変化,店舗における薬剤師等の不在など制度と実態の乖離等を踏まえ,医薬品の販売制度を見直すこと」が求められているとした上で,との説明がされている。(乙38,44) [157](イ) また,厚生労働省が内閣法制局における審査時に提出した説明資料(乙73の1)には,前記認定のとおり,以下の趣旨の記載がある。 [158] 医薬品販売制度の現状と問題点として,旧薬事法は,薬剤師等が販売の際一律・抽象的に情報提供に努めることとされているも,店舗での薬剤師不在等の実態もあり,必ずしも実効性は高くない状況となり,医薬品の種類も拡大し,一般医薬品(大衆薬)であっても,副作用を生じるおそれがある(スモン,サリドマイドも大衆薬による薬害であった。)ものも増加している一方で,医薬品の専門家である薬剤師については,一般用医薬品で期待される役割もあるが,調剤,臨床等の分野での活動が期待されるため,情報提供の重点化を図り,その実効性を向上させることにより,国民の安全性を確保するとともに,一般用医薬品の販売に従事する者について,薬剤師以外の専門家の資質確保が課題となっている。[161](ウ)以上の説明からすると,改正法の趣旨は,医薬品の適切な選択及び適正な使用に資するため,医薬品の副作用等による健康被害が生じるおそれがある程度に応じて一般用医薬品を区分し,その区分ごとに,専門家が関与した販売方法を定めるなど,医薬品の販売制度全般の見直しを行い,情報提供の重点化を図り,その実効性を向上させることにより,国民の安全性を確保しようとするものと解せられる。 [162] これらの趣旨に鑑みると,従前認められてきた販売方法等については,その区分に応じて販売方法や情報提供の実効性を図ることを目的としているものと解せられるのであって,これを受けて,一般用医薬品の区分に応じた販売従事者を定めた新薬事法36条の5や,その区分ごとに情報提供義務等を定めた新薬事法36条の6が規定されていることが明らかである。 [163] しかし,新薬事法36条の5及び6の規定は,専門家である薬剤師が情報提供や相談応需に対応している場合に,購入者(使用者)が店舗に赴いて,専門家と店舗内で相対しなれば販売できないことを明示しておらず,さらには,購入者(使用者)が店舗に赴かなければ販売できないとする場合を規定した上で,その販売方法を省令に委任しているとは明確には認められないことから,それにもかかわらず,他の新薬事法の規定との関係から,法全体の解釈として,第一類・第二類医薬品について例外なく郵便等販売を禁止することを委任する趣旨まで含んでいるといえるのかについて検討する。 エ 新薬事法の関連規定との関係について [164] まず,新薬事法のそれぞれの関連規定との関係について検討する。 [165](ア)a 新薬事法37条は,旧薬事法37条の規定する内容と実質的に変更はなく,旧薬事法の解釈によれば,「店舗による販売又は授与」は店舗を根拠として販売又は授与する意であり,必ずしも店舗内においての販売又は授与に限定する趣旨でないと解釈されていた。このことは,厚生労働省が内閣法制局における審査時に提出した説明資料(乙73の1)からも明らかである。 [166]b そうすると,「店舗において販売し,又は授与する場合」の情報提供等について規定する新薬事法36条の6が,それ以外の販売方法として郵便等販売を禁止するものとは位置づけることはできないし,同条から一般用医薬品について店舗に購入者が赴いて,店舗内で販売する以外の店舗による販売の制限規定を厚生労働省令に委任したと解することはできない。 [167]c 被控訴人は, 新薬事法25条,35条の5及び35条の6の各規定は,郵便等販売を許容するものではなく,改正法の立法経緯や上記の規定の趣旨によれば,新薬事法37条1項もまた,郵便等販売を許容するものではないと解すべきである旨主張する。 [168] しかし,法の規定文言が,改正法により実質的に変更がない場合に,明示的に郵便等販売を制限する他の規定が存在しないにもかかわらず,規定全般の趣旨や立法過程の背景事情を重視して,従前と変更のない規定を,解釈により郵便等販売を制限する根拠とすることは相当ではないから,そのような条項である新薬事法25条を被控訴人主張のように解釈することはできず,また,他の規定についても,被控訴人主張のように解すべき根拠は見出しがたいと言わざるをえない。 [169](イ) 新薬事法36条の6第4項は,情報提供義務の免除を規定する。これは,厚生労働省が内閣法制局における審査時に提出した説明資料(乙73の1)によれば,義務である同条第1項について,例えば薬剤師等の医薬品に関する専門家が購入する際,又は同じ医薬品を繰り返し購入する際には,その義務を免除する規定とされている。そうすると,そうした購入者が情報提供を求めていないにもかかわらず,新薬事法が第一類医薬品を郵便等販売を禁止することは,上記免除規定と相容れないこととなる。 [170] また,被控訴人は, 新薬事法36条の6第4項は,対面を前提に説明を要しないとの購入者の意思表明が行われ,かつ,これを専門家が購入者の状態を対面で確認の上,問題がないと判断される場合に,はじめて適用される旨主張する。しかしながら,条文の規定の文言自体に,そのような前提が規定されているわけではない上,その想定される場面である薬剤師等の医薬品取扱関係者の状態を薬剤師が面前で確認することを前提に免除規定を認めることは,法が予定していた情報提供の重点化からすると,本来情報提供を要しない場合にも利用者の負担において情報提供を強要するものともいえる。改正法の趣旨から当該条文を被控訴人の主張するような趣旨の規定であるものと解することはできない。 [171] 新薬事法36条の6第2項は,第二類医薬品に情報提供の努力義務を規定するところ,第一類医薬品と同様に,購入者側が情報提供等の説明を要しないと表明する場合にも,当然その努力義務も免除されると解される。 [172](ウ) 新薬事法36条の5は,一般用医薬品の販売に従事する者を規定するが,同規定は,実際の業務運営の観点から,専門家でない者を専門家が使用して,その管理の下に業務を行うことも想定しており(乙73の1),かつ,構造設備基準等の条件に加えて,適切に情報提供を行うことができるように,薬剤師又は登録販売者,専門家を配置することを求め,これらの許可の条件を満たせば,コンビニエンスストアにおいても,第二類医薬品の販売は可能であるものとされ(乙45),専門家が関与した上で医薬品の選択・購入がなされるよう,販売側のみが医薬品を手にとるような方法で陳列を行うオーバー・ザ・カウンターの販売でない,いわゆるセルフ販売を第二類医薬品に認めていること(甲17)からすると,新薬事法は,第二類医薬品については,購入者側の選択で専門家の情報提供を受けることなく購入することが容易にできることを認めているものと解される。 [173](エ) さらに,新薬事法25条は,一般用医薬品について「医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいう」と規定している。 [174] これは,専門家が医薬品を取り扱うことを前提とするそれまでの旧薬事法の体系から,平成16年3月19日の閣議決定(規制改革・民間開放推進3か年計画)における医薬品販売に関する規制緩和の逐次実施や医薬品の一般小売店における販売の早期措置(乙15の17)等の規制緩和の方針やセルフメディケーションの進展といった医薬品販売を取り巻く環境の変化に照らし,利用者の立場に立った一般用医薬品の定義付けをしたものと考えられる。 [175] そうした法の趣旨からすれば,一般用医薬品の販売の在り方は同時に,購入者の選択を前提とする幅広い情報提供の方法が考えられるよう規定文言も解釈されるべきであり,前記のとおり,新薬事法36条の6第1項が電磁的方法による情報提供を規定上禁止しているものではないと解されることから,購入者の選択を前提とする適切な情報提供の方法のあり方ないしその選択を制限するような解釈は相当ではない。 [176](オ) そして,新薬事法31条は,配置販売業者が販売できる医薬品を一般用医薬品のうち経時変化が起こりにくいことその他の厚生労働大臣の定める基準に適合するもの以外の医薬品の販売を禁止し,一般用医薬品のうち販売できるものを限定するが,これに対し,新薬事法27条は,店舗販売業者について,新薬事法25条により定義された一般用医薬品については,販売できる医薬品の種類,品目等を何ら制限しておらず,その販売できる一般用医薬品の種類,品目等の内容を定めることを省令等に委任もしていない。 [177](カ) また,新薬事法の附則6条は,旧薬事法で配置員に資質を求めていなかった配置販売業について,期間を限定しないで当面はそのまま営業することを経過措置によって認めている。そうすると,営業をしていた従前の配置販売業者に対する営業上の配慮として,配置販売業者については専門家による情報提供ができない状況を前提として,専門家でない者が継続して医薬品を販売することを認めていることになる。 [178] これについて,被控訴人は, 既存配置販売業者については,配置販売業が,旧薬事法において明確に医薬品販売業の一業態として規定され,長い間認められてきた販売形態であり,地域の実情もあるため,購入者や事業活動に無用の混乱を与えないよう経過措置が設けられたものであると主張する。しかしながら,改正法の趣旨が,医薬品の適切な選択や適正な使用に資するよう,医薬品をリスクの程度に応じて区分し,その区分ごとに専門家が関与した販売方法を定め,医薬品の販売制度全般の見直しをするというものであることからすると,改正法の趣旨を前提としても,配置販売業者については法改正に当たって事業者や購入者への配慮がされているものであるが,これに対し,インターネット販売業者に対しては,被控訴人の主張を前提とすると,その配慮を排除したことになるのであって,新薬事法全体の解釈としては,ややバランスを欠くという評価もできる。 [179](キ) 以上を総合すると,新薬事法の各規定との関係からすると,第一類・第二類医薬品について,医薬関係者等からの情報提供を得てこれを選択して購入しようとしている購入者(使用者でない場合を含む。)に対して,郵便等販売を禁止すること,購入者等が使用者でない場合を含め,購入者等は,店舗に赴かなければ,店舗販売業者は第一類・第二類医薬品を一律に販売することができないとすることもできることを前提に,改正法がその方法等を省令に委任しているとは認めることができない。 オ 制限される利益との関係について [180] 前述したように,本件規制に係る規定は,これによって憲法22条1項において保障されている営業の自由に係る事業者の権利を制限するものであることからすると,その委任規定については,明確性が求められると同時に,委任規定の立法過程において,その制限される権利について合憲性の推定が働くような資料に基づく議論がされているべきである。 [181] 本件規制により,郵便等販売(インターネット販売を含む。)を利用した第一類・第二類医薬品の販売が禁止される結果となるが,一般用医薬品を使用する者の適切な選択及び適正な使用を確保し,一般用医薬品の副作用による健康被害を防止し,その発生を最小限に抑えるため,一般用医薬品の販売時情報提供を販売業者に義務づけるとする規制目的の下において,その情報提供を電磁的方法等で行うことを制限したり,第一類・第二類医薬品の郵便等販売を行うことを制限するにあたり,制限の対象となる電磁的方法等による情報提供の正確性や受信者(購入者)側の認識との齟齬や誤解の有無,その利用状況,郵便等販売が利用される場面としては様々な形態が想定され,これらが立法に当たっての前提問題となると解されるところ,立法目的を達成するための必要性ないし手段の合理性があるといえるためには,その各態様等についての十分な調査・審議がされることが必要であると解される。また,法律の基礎にあってそれを支えている事実,立法目的を達成するための手段が合理的であることを基礎付ける事実,とりわけ,本件は,既に利用され,その販売方法で営業活動を継続してきた業者がある事案であるから,一般用医薬品のインターネット販売が認められることによって侵害される利益があることについて検証し,他の規制手段による合理的な制限の有無や方法を検討する必要があり,それがないまま,一律に第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止し,これにより控訴人らが営業活動しているインターネット販売を規制することは,立法目的を達成するための必要性ないし手段の合理性があるとただちに認めることはできない。そして,こうした具体的検討については,検討部会の検討においても,国会の議論においても,対面販売との比較検討はされているが,営業の自由に対する規制を省令に委任するものとしての検討(例えば,インターネット販売によることを原因とした副作用事例発生の有無等の調査やインターネット販売の利用実態の検証等)がされていたものと認めることはできない。 [182] そうすると,法が一律に第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止することを許容して,これを省令に委任したものと認めることもできない。 カ 対面販売の原則について [183] 被控訴人は, インターネット販売等の郵便等販売は,薬剤師を介した店舗における対面販売及び情報提供を原則としていた旧薬事法が想定していなかった新規の販売形態であり,改正法は,旧薬事法の下で既に原則とされてきた薬剤師による対面販売及び情報提供を義務付けたものと主張する。 [184] しかし,確かに旧薬事法が当初に想定していた店舗による販売にインターネット販売が入っていなかったといえるとしても,前記認定のとおり,旧薬事法においても電話注文を受けた郵便等販売は許容していたのであり,その後登場したインターネット販売も適法であると解されてきたのであって,これを前提とすると,改正法がこうした販売方法を原則的に排除すべきという趣旨で規定されたものと解することができないことは,以上の検討のとおりである。 キ 総括 [185] 以上の次第であり,これまで検討してきた結果を再掲し,総合要約すると,本件各規定のうち本件規制を定める部分は,例外なく第一類・第二類医薬品の郵便等販売を禁止したことについて,被控訴人主張の新薬事法36条の5及び6あるいはその他の新薬事法の各規定による委任の趣旨の範囲内において規定されたものと認めることはできない(新薬事法36条の5が,第一類・第二類医薬品等についての販売方法を厚生労働省令に委任していることを前提としても,同条が,店舗販売業者が行う第一類・第二類医薬品をの郵便等販売を一律に禁止することまでを委任したものと認めることはできず,また,同条のほか,被控訴人が主張する他の委任の根拠規定を総合して検討しても,本件規制の根拠となる委任の規定を新薬事法の条項中に見出すことができない。)。したがって,第一類・第二類医薬品の郵便等販売を規制した本件各規定は,以上の限度において,新薬事法の委任の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定であり,国家行政組織法12条3項に違反し,無効であると解すべきことになる。 [186] そうすると,控訴人らが,第一類・第二類医薬品について郵便等販売により販売をすることができる権利(地位)を有することの確認を求める控訴人らの本件地位確認の訴えに係る請求は,理由があることになる。 [187] 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの本件地位確認の訴えに係る請求は,理由があり,これを認容すべきであるから,これと結論を異にする原判決主文第2項を取消して,この請求を認容し,また,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは,いずれも不適法であり,これを却下すべきところ,これと同旨の原判決は相当であるから,これについての控訴人らの控訴をいずれも棄却することとして主文のとおり判決をする。 裁判長裁判官 三輪和雄 裁判官 小池喜彦 裁判官比佐和枝は,差支えにつき署名押印することができない。 裁判長裁判官 三輪和雄 (医薬品の販売業の許可の種類) 第25条 医薬品の販売業の許可は,次の各号に掲げる区分に応じ,当該各号に定める業務について行う。 一 店舗販売業の許可 一般用医薬品(医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいう。以下同じ。)を,店舗において販売し,又は授与する業務 二 配置販売業の許可 一般用医薬品を,配置により販売し,又は授与する業務 三 卸売販売業の許可 医薬品を,薬局開設者,医薬品の製造販売業者,製造業者若しくは販売業者又は病院,診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者その他厚生労働省令で定める者(第34条第3項において「薬局開設者等」という。)に対し,販売し,又は授与する業務 (店舗販売品目) 第27条 店舗販売業の許可を受けた者(以下「店舗販売業者」という。)は,一般用医薬品以外の医薬品を販売し,授与し,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し,若しくは陳列してはならない。ただし,専ら動物のために使用されることが目的とされている医薬品については,この限りでない。 (販売方法等の制限) 第37条 薬局開設者又は店舗販売業者は店舗による販売又は授与以外の方法により,配置販売業者は配置以外の方法により,それぞれ医薬品を販売し,授与し,又はその販売若しくは授与の目的で医薬品を貯蔵し,若しくは陳列してはならない。 2 配置販売業者は,医薬品の直接の容器又は直接の被包(内袋を含まない。第54条及び第57条第1項を除き,以下同じ。)を開き,その医薬品を分割販売してはならない。 青井 倫一 慶應義塾大学大学院経営管理研究科委員長兼教授 ◎井村 伸正 北里大学名誉教授 上原 明 日本大衆薬工業協会副会長 大山 永昭 東京工業大学フロンティア創造共同研究センター教授 鎌田伊佐緒 社団法人 全日本薬種商協会常務理事 神田 敏子 全国消費者団体連絡会事務局長 吉川 肇子 慶應義塾大学商学部助教授 児玉 孝 社団法人 日本薬剤師会副会長 高橋 孝雄 慶應義塾大学医学部教授(小児科学) 田島 知行 社団法人 日本医師会常任理事 谷川原祐介 慶應義塾大学医学部教授・薬剤部長 堀井 秀之 東京大学大学院工学系研究科・工学部教授 増山ゆかり 全国薬害被害者団体連絡協議会 ○松本 恒雄 一橋大学大学院法学研究科教授 溝口 秀昭 日本赤十字社埼玉県赤十字血液センター所長 三村優美子 青山学院大学経営学部教授 宗像 守 日本チェーンドラッグストア協会事務総長 望月 眞弓 北里大学薬学部教授 森 由子 東京都福祉保健局健康安全室薬務課長 安田 博 全国配置家庭薬協会理事 (◎:部会長,○:部会長代理) (敬称略、五十音順) 足高 慶宣 日本置き薬協会常任理事長 今地 政美 福岡県保健福祉部薬務課長 井村 伸正 北里大学名誉教授 小田 兵馬 日本チェーンドラッグストア協会副会長 神田 敏子 全国消費者団体連絡会事務局長 北 史男 日本大衆薬工業協会医薬品販売制度対応協議会委員長 倉田 雅子 納得して医療を選ぶ会 児玉 孝 社団法人日本薬剤師会副会長 今 孝之 社団法人全日本薬種商協会副会長 下村 壽一 東京都福祉保健局健康安全室薬務課長 高柳 昌幸 全国配置家庭薬協会副会長 増山ゆかり 全国薬害被害者団体連絡協議会 松本 恒雄 一橋大学大学院法学研究科教授 三村優美子 青山学院大学経営学部教授 望月 眞弓 共立薬科大学教授 (敬称略、五十音順) 足高 慶宣 日本置き薬協会常任理事長 阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長 綾部 隆一 全国伝統薬連絡協議会 今地 政美 福岡県保健医療介護部薬務課長 ◎井村 伸正 北里大学名誉教授 小田 兵馬 日本チェーンドラッグストア協会副会長 北 史男 日本OTC医薬品協会医薬品販売制度対応協議会委員長 倉田 雅子 納得して医療を選ぶ会 国領 二郎 慶應義塾大学総合政策学部教授 児玉 孝 社団法人日本薬剤師会会長 後藤 玄利 日本オンラインドラッグ協会理事長 今 孝之 社団法人全日本薬種商協会副会長 下村 壽一 東京都福祉保険局健康安全部業務課長 高柳 昌幸 全国配置家庭薬協会副会長 増山ゆかり 全国薬害被害者団体連絡協議会 松本 恒雄 一橋大学大学院法学研究科教授 三木谷浩史 楽天株式会社代表取締役会長兼社長 三村優美子 青山学院大学経営学部教授 望月 眞弓 慶應義塾大学薬学部教授 (◎:座長) (敬称略、五十音順) |
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