生活保護老齢加算廃止違憲訴訟
第一審判決

生活保護変更決定取消請求事件
東京地方裁判所 平成19年(行ウ)第75号(A事件),平成19年(行ウ)第94号(B事件),平成19年(行ウ)第95号(C事件),平成19年(行ウ)第96号(D事件),平成19年(行ウ)第97号(E事件),平成19年(行ウ)第98号(F事件),平成19年(行ウ)第99号(G事件),平成19年(行ウ)第100号(H事件),平成19年(行ウ)第101号(I事件),平成19年(行ウ)第102号(J事件),平成19年(行ウ)第104号(K事件),平成19年(行ウ)第105号(L事件)
平成20年6月26日 民事第2部 判決

口頭弁論終結日 平成20年3月24日

当事者及び処分行政庁並びに訴訟代理人,訴訟復代理人及び指定代理人は別紙当事者等目録記載のとおり

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

1 A事件
 足立区北部福祉事務所長がA事件原告X1に対して平成18年3月24日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

2 B事件
 墨田区福祉事務所長がB事件原告X2に対して平成18年3月22日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

3 C事件
 墨田区福祉事務所長がC事件原告X3に対して平成18年3月22日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

4 D事件
 大田区福祉事務所長がD事件原告X4に対して平成18年3月28日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

5 E事件
 豊島区福祉事務所長がE事件原告X5に対して平成18年3月10日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

6 F事件
 新宿区福祉事務所長がF事件原告X6に対して平成18年3月28日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

7 G事件
 青梅市福祉事務所長がG事件原告X7に対して平成18年3月20日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。
8 H事件
 青梅市福祉事務所長がH事件原告Aに対して平成18年3月13日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

9 I事件
 調布市福祉事務所長がI事件原告X8に対して平成18年4月1日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

10 J事件
 町田市福祉事務所長がJ事件原告X9に対して平成18年3月13日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

11 K事件
 品川区福祉事務所長がK事件原告X10に対して平成18年3月13日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。

12 L事件
 台東区福祉事務所長がL事件原告X11に対して平成18年3月20日付けでした生活保護法25条2項による保護変更決定を取り消す。
[1] 本件は,厚生労働大臣の定めた生活保護基準により,70歳以上で生活保護を受けている者に対して老齢加算に基づく給付がされていたところ,平成18年3月31日に同基準が改定され,同年4月1日以降は老齢加算に基づく給付が廃止され,当該改定が行われることに伴い,住所地を所管する各福祉事務所長から,受給される保護費を減額する旨の生活保護法(以下,単に「法」ともいう。)25条2項による保護変更決定を受けた原告らが,こうした決定は,生活保護法56条を始め,憲法25条,法1条,3条,8条2項,9条等に違反する違法なものであるとして,その取消しを求めている事案である。
[2] なお,原告らは,平成19年2月14日,本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)ところ,当裁判所は,本件事案の性質にかんがみ,適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認め,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法147条の3に基づき,当事者双方と協議をし,その結果を踏まえて審理の計画を定めて審理したものである。
ア 最低生活
[3] 生活保護法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない(3条)。

イ 保護の補足性
[4] 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる(4条)。

ウ 基準及び程度の原則
[5] 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする(8条1項)。そして,上記基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない(同条2項)。

エ 必要即応の原則
[6] 保護は,要保護者の年齢別、性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効かつ適切に行うものとする(9条)。

オ 不利益変更の禁止
[7] 被保護者は,正当な理由がなければ,既に決定された保護を,不利益に変更されることがない(56条)。
ア 種類
[8] 生活保護法に基づく保護には,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助,出産扶助,生業扶助及び葬祭扶助の8種類がある(11条)。

イ(ア) 生活扶助
[9] 生活扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの及び移送(「移送」とは,例えば,要保護者を保護の必要上遠隔地の保護施設等へ移送するような場合をいう。以下同じ。)の範囲内において行われる(12条)。
(イ) 住宅扶助
[10] 住宅扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,住居及び補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲内において行われる(14条)。
(ウ) 医療扶助
[11] 医療扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,(a)診察,(b)薬剤又は治療材料,(c)医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,(d)居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,(e)病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,(f)移送の範囲内において行われる(15条)。
(エ) 介護扶助
[12] 介護扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない要介護者及び要支援者に対して,(a)居宅介護(居宅介護支援計画に基づき行うものに限る。),(b)福祉用具,(c)住宅改修,(d)施設介護,(e)介護予防(介護予防支援計画に基づき行うものに限る。),(f)介護予防福祉用具,(g)介護予防住宅改修,(h)移送の範囲内において行われる(15条の2)。
[13] 保護の要否は,厚生労働大臣の定める保護基準(昭和38年厚生省告示第158号)に基づいて,その者の属する世帯の最低生活費を算定し,この金額とその世帯の収入との比較により判定され,世帯の収入が最低生活費を下回る場合に,その世帯の最低生活費のうちその世帯の収入(収入充当額)で補えない部分,すなわち,最低生活費から収入充当額を差し引いた差額が保護費として金銭で給付される。
[14] 厚生労働大臣は,要保護者の年齢,世帯構成,居住地域等に応じて,保護基準を定めており,要保護者に属する世帯における最低生活費や保護費は,これに基づいて算定されている。

[15] そして,厚生労働省の通知(「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日付け厚生省発社第123号厚生事務次官通知。乙10)では,保護の程度の決定に当たり,収入充当額の充当順位について,衣食等の生活費,住宅費,教育費及び高等学校等への就学に必要な経費,介護,医療,出産,生業(高等学校等への就学に必要な経費を除く。),葬祭に必要な経費の順に充当することとされている。
[16] 例えば,ある被保護世帯において,最低生活費として生活扶助費と住宅扶助費が算定されており,収入充当額が生活扶助費を上回り,かつ,生活扶助費と住宅扶助費の合計額を下回る場合,収入はまず生活扶助費に充当されるので,住宅扶助費の支給が決定され,その程度としては,収入充当額のうち生活扶助費を超える部分を住宅扶助費から差し引いた額が給付されることになる。
ア 級地について
[17] 保護基準は,全国の市町村を1級地―1,1級地―2,2級地―1,2級地―2,3級地―1,3級地―2の6区分の級地に分類し,それぞれに応じて定められ,各世帯に適用される。おおむね,大都市及びその周辺市町は1級地に,県庁所在地を始めとする中都市は2級地に,その他の市町村は3級地に,それぞれ分類されている。原告らの居住する区及び市は,1級地―1(青梅市以外)又は,1級地―2(青梅市)が適用される(乙2から5まで)。

イ 生活扶助基準について
[18] 生活扶助基準は,衣食等のいわゆる日常生活に必要な基本的・経常的経費についての最低生活費を定めたものであるが,この生活扶助基準には,大別して,基準生活費と加算とがある。
(ア) 基準生活費について(乙2から5まで)
[19]a 基準生活費は,個人単位に消費される経費(例えば,飲食費,被服費)に対応する基準として年齢別に定められた第1類の表に定める個人別の額を合算した額(第1類費)と,世帯全体としてまとめて支出される経費(例えば,光熱水費,家具什器費)に対応する基準として世帯人員数別に定められた第2類の表に定める世帯別の額(第2類費)の合計額とされる。
[20] なお,第2類の表に定める額には,冬季(例年11月から翌年3月まで)の暖房費等の経費に対応する基準として冬季加算基準額が含まれるが,この額は,都道府県を単位とした区分(I区からVI区まで)を基に定められている。
[21]b 東京都各区等(1級地―1)の地域に単身で居住する70歳以上の高齢者を例にとって上記基準生活費の額をみると,平成15年度及び平成18年度において,それぞれ次のように定められている。
  平成15年度第1類(70歳以上)3万2400円
第2類(1人)4万3520円
基準生活費(合計)7万5920円
  平成18年度第1類(70歳以上)3万2340円
第2類(1人)4万3430円
基準生活費(合計)7万5770円
(イ) 加算について(乙2から5まで)
[22] 加算は,基準生活費において配慮されていない個別的な特別需要を補填することを目的として設けられている。
[23] 例えば,障害があるため最低生活を営むためには健常者に比してより多くの費用を必要とする障害者や,通常以上の栄養補給を必要とする在宅患者,胎児のための栄養補給を必要とする妊婦等のように,特別需要を有する者について,これらの特別需要に対応できるよう,基準生活費に加え,加算制度が設けられている。

ウ 住宅扶助基準について
[24] 住宅扶助基準は,1級地及び2級地であれば,1万3000円以内,3級地であれば8000円以内と規定されており,さらに,都道府県,指定都市及び中核市ごとに別途厚生労働大臣が上限額を設定し,上限額の範囲内で,家賃等の実額を住宅扶助基準額としている。
ア 創設の経緯等
[25] 老齢加算は,生活保護受給者(被保護者)のうち70歳以上の高齢者の特別の需要に対し,一定額を加算して保護費を支給するものとして,昭和35年度に設けられた。ただし,昭和51年度からは,68歳以上70歳未満で病弱である者・障害のある者等についても支給対象とされ,70歳以上の高齢者に対する加算額の一定割合を加算して支給するものとされた。
[26] なお,老齢加算は,原則70歳以上の者の最低生活費(生活扶助費)を算定するに当たり計上されるものであり,同一世帯内に2人以上の該当者がいる場合には,それぞれの者に計上される。

イ 老齢加算額の減額及び廃止の経過
[27] 東京都特別区等(1級地)に居住する被保護者に適用される保護基準において定められた老齢加算額は,平成15年度から平成18年度までは以下のとおり推移し,平成16年度及び平成17年度の保護基準の改定(平成16年厚生労働省告示第130号,平成17年同告示第193号)から順次減額され,平成18年度の保護基準の改定(平成18年同告示第315号)をもって,老齢加算自体が廃止された。
  平成15年度1万7930円
  平成16年度9670円(前年度から8260円の減額)
  平成17年度3760円(前年度から5910円の減額)
  平成18年度 0円(前年度から3760円の減額)
[28]ア(ア) 原告らの性別,生年月日,生活保護の受給を開始した時期,平成18年4月分以降の分に係る保護変更決定(以下「本件各決定」という。)のされた日,これに対する審査請求及び裁決のされた日,当該決定における基準生活費とその内訳(生活扶助及び住宅扶助),収入認定額とその充当の内訳(生活扶助充当額及び住宅扶助充当額)並びに支給額の合計とその内訳(生活扶助支給額及び住宅扶助支給額)は別紙「原告ら個別事情」記載のとおりである。
[29] 原告らは,老齢加算が存在した平成18年3月以前において,いずれも70歳以上であって,生活扶助の額につき,基準生活費のほか老齢加算が付加されて算定されていた者であるところ,上記(3)のとおり,老齢加算が廃止されたことにより,本件各決定において,生活扶助の額として老齢加算相当額3670円が減額され,生活扶助支給額も同額だけ減額された。
[30](イ) 原告らのうち,D事件原告X4にあっては,年金受給による収入認定額が,本件各決定の定める基準生活費に老齢加算廃止による減額分(3670円)を加算した額を上回っているため,本件各決定により,実際に受け取る支給額の減額という不利益は生じていないが,医療費の自己負担額が同額増加するという不利益を受けている。すなわち,仮に,老齢加算の廃止・減額がなければ,生活扶助の額が3670円だけ増加し,その分だけ収入認定額中の生活扶助充当額も増加し,逆に医療費の自己負担額はその分だけ減少するという関係に立つ(前記(1)イの収入充当額の充当順位参照)。
[31](ウ) 原告らのうち,L事件原告X11にあっては,9万5608円の年金を受給していたところ,これを担保に金銭を借入れたために,その一部が利用できなくなっており,本件各決定において,別紙記載の収入認定額,生活扶助支給額,住宅扶助支給額とされていたが,平成18年6月以降,上記借入金を完済し,年金が満額利用できるに至ったことから,現在は,別表記載の基準生活費から上記年金額を控除した残余である2万7262円が住宅扶助として支給されている(甲L1)。したがって,同原告は,老齢加算の廃止・減額により,本件各決定当時は,生活扶助支給額が3670円減額されるという不利益を受けていたことになるが,年金が満額利用できるようになった後は,収入認定額中の住宅扶助充当額が3670円増加し,住宅扶助支給額が同額減額されるという不利益を被っていることになる。

[32] 原告らに対しては毎年11月から翌年3月までの間,冬季加算が給付されているところ,平成18年4月1日にその支給時期が経過したことから,本件各決定において,当該加算相当額だけ給付額の減額が生じているほか,その他の項目の数額に変動が生じたことにより,支給額にも変動が生じている原告がいる。

[33] 原告らのうち,G事件原告X7は,同居を続けている元妻の所有マンションに居住するものであるが,その余の原告らは,いずれも都営住宅等の賃貸住宅に居住している。家賃の全部について収入認定額が住宅扶助に充当されているD事件原告X4,同じく家賃の一部について充当されているB事件原告X2のほかは,支払家賃の全額について住宅扶助が支給されている。
[34] 本件の争点は,厚生労働大臣が保護基準を改定して老齢加算を廃止したこと,及びこれに基づいて各福祉事務所長が給付を減縮した本件各決定を行ったことの適法性(法56条並びに憲法25条,法1条,3条,8条2項,9条等に違反した違法なものといえるか。)である。そして,争点に対する摘示すべき当事者の主張は,後記第3の「争点に対する判断」において記載するとおりである。
[35] なお,原告らは,本訴において,老齢加算の減額・廃止以外を理由とする給付額の変動を争うものではない。
[36] 標記について,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 [36] 老齢加算は,昭和34年度に70歳以上の国民年金被保険者に対する未拠出制の老齢福祉年金が設けられたことに伴い,生活保護の給付を受けている者に対しても同様の年金給付を行った上でこれを収入として認定するなどの調整を行うことに代え,昭和35年度から,老齢福祉年金と同額(月額1000円)を生活保護の加算として給付するものとして設けられた。
[37] 老齢加算導入時には,高齢者には特殊な需要が存在することが加算の根拠として説明されており,その中身としては,観劇,雑誌,通信費等の教養費,下衣,毛布,老眼鏡等の被服・身の回り品費,炭,湯たんぽ,入浴料等の保健衛生費,茶,菓子,果物等の嗜好品に係る支出が加算額の積算の根拠として挙げられていた(甲3,4)。

[38] 老齢福祉年金については,制度創設後,年を追って増額が実施されていき,老齢加算も,当初,老齢福祉年金と同額に設定されていたため,これに合わせて逐次増額が図られていった。
[39] しかし,昭和50年9月19日には,中央社会福祉審議会に設置された生活保護専門分科会(以下「専門分科会」という。)が「生活保護制度における加算の取扱いについての意見」を公表し(乙16),昭和50年10月以降老齢福祉年金が7500円から1万2000円に増額されることを踏まえ,「老齢福祉年金額1万2000円という水準は,生活保護制度における基準額と対比するとき,これが従来と同様の趣旨のものとして,理解しうるものかどうか十分検討を加える必要がある。」として,老齢加算につき,生活保護制度本来の立場に立って適切かつ合理的な算定を行うこと,その際,第1類費との間にある程度の均衡が保たれていることが望ましいことを提言した。これを受けて,厚生省は,昭和51年から,老齢加算を老齢福祉年金と同額とする方式をやめ,65歳以上の第1類基準額の男女平均の2分の1の額とするものとされ,昭和51年1月以降は8000円,同年4月以降は8500円への増額にとどめられた。当時の厚生省の担当部局(社会局保護課)は,このように取扱いを変更し,上記方式を採用した理由について,創設時の加算額(1000円)が当時の第1類費の約2分の1であったこと,老齢者の特別の生活費の需要がおおむね第1類費の約2分の1程度となっていること,基準生活費の付加的部分である老齢加算の性質からみて,第1類費の2分の1を超えることは均衡上問題があること等を挙げて説明を行っている(甲5)。

[40] 専門分科会が昭和55年12月に発表した中間取りまとめ(以下「昭和55年中間取りまとめ」という。)では,老齢加算について,老齢者はそしゃく力が弱いため,他の年齢層に比し消化吸収がよく良質な食品を必要とするとともに,肉体的条件から暖房費,被服費,保健衛生費等に特別な配慮を必要とし,また,近隣,知人,親戚等への訪問や墓参等の社会的費用が他の年齢層に比し余分に必要となるという特別需要が存在することに対応して設定されたものであり,その必要性は客観的に認められるものであるとされ,現行の加算額は金額的にも特別需要にほぼ見合うものと考えられる旨の評価がされている(乙6)。

[41] 専門分科会が昭和58年12月23日付けで発表した「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)」(以下「昭和58年意見具申」という。)では,老齢加算について,近年における国民生活の変化及び保護基準の改善等の結果,加算額の妥当性についての再検討が必要な事態に立ち至ったとの認識の下に検討を加えたとした上,老齢加算の特別需要としては,加齢に伴う精神的又は身体的機能の低下等のハンディキャップに対応する食費,光熱費,保健衛生費,社会的費用,介護関連経費などの対象経費が認められているが,その額は,おおむね現行の加算額で充たされていると結論付け,その実質的水準が今後とも維持できるようにすることが必要であるとする一方,これらの加算が特定の需要に対応するものであることから,その改定に当たっては,生活扶助基準本体の場合とは異なった取扱いをするよう検討すべきであると付け加えている(乙7)。
[42] これを受けて,昭和59年からは,老齢加算については,第1類費に対応する品目の消費者物価の伸びに準拠して改定することとされた。

[43] 昭和58年意見具申に当たっては,専門分科会において,一般的な家計の消費実態と比較した場合における老齢加算の額の妥当性の検討も行われている。
[44] 具体的には,昭和54年全国消費実態調査結果を基に,(a)51歳以上59歳以下の単身女性の消費支出と(b)70歳以上74歳以下及び(c)75歳以上の各単身女性の消費支出を比較したところ,50歳代に比較して高齢者の方が高くなっている支出科目の差額の合計額は,70歳以上74歳以下で9977円,75歳以上で1万1178円となっていたとされた(甲11の2)。
[45] ただし,各支出科目の比較に当たっては,高齢者の各支出科目の実際の額ではなく,50歳代の消費支出(総額)を高齢者の各支出科目の構成比に基づいて案分して割り振って得られた額を,高齢者の支出科目の金額とみなし,これを50歳代の各支出科目の実際の額と比較しているものである。さらに,上記比較は,高齢者の方が高くなっている各支出科目のみについて差額を合計しており,高齢者の方が低くなっている各支出科目については積算の対象から除外されていて通算されていない。そして,上記高齢者((b)及び(c))の実際の各消費支出(総額)は,50歳代((a))のそれをいずれも下回っていることから,上記比較においては,いずれも高齢者の各支出科目の実際の額を上回った数値を用いていたことになるものであった。(以上につき,甲11の2)
[46] 同様に,一般夫婦世帯(年間収入140万円未満)と老夫婦世帯(世帯主70歳,年間収入180万円未満)及び一般夫婦世帯(年間収入180万円未満)と老夫婦世帯(世帯主71歳以上75歳以下,年間収入180万円未満)の各消費支出をそれぞれ比較したところ,その差額の合計はそれぞれ1万1472円,1万6005円となった。ここでも,上記単身女性の場合と同様の方法で各支出科目の比較を行ったものであり,一般夫婦世帯(年間収入140万円未満)と老夫婦世帯(世帯主70歳,年間収入180万円未満)との間でも,後者の実際の消費支出(総額)は前者のそれを下回っていた。その一方で,一般夫婦世帯(年間収入180万円未満)と老夫婦世帯(世帯主71歳以上75歳以下,年間収入180万円未満)との間においては,後者の実際の消費支出(総額)は前者のそれを上回るものとなっており,両者の比較においては,逆に老夫婦世帯の各支出科目の実際の額を下回った数値を用いる結果となっているものであった。(以上につき,甲11の2)
[47] そして,当時の老齢加算額1万1700円(夫婦がともに70歳以上である可能性の高い老夫婦にあっては,その1.5倍に当たる1万7550円)と上記の各差額とを比べると,上記各差額は老齢加算額の85.3パーセントから98パーセントまでの水準にあった(甲11の2)。

[48] さらに,専門分科会が昭和58年意見具申に当たって検討に用いた資料では,老齢加算の「定性的説明」として,加工食品(そしゃく力や調理能力が低下しているため,調理不要・簡単で食べやすいものを買う。栄養的には非効率で割高となる。),暖房費(身体的に保温能力低下,病弱等で,在宅時間も長いため,暖房費が余分にかかる。),保健医療(健康保持・病弱のため家庭薬等が必要となる。),教養娯楽(孤独を免れるため,子や孫との相互訪問,近隣の老人との付き合い,同年輩者の死亡に伴う葬祭費,子や甥・姪等の冠婚費等の付き合い費が多く必要となる。),交通通信費(老人クラブ出席,旅行,子や孫・親戚等との付き合いに伴う割高な交通費(タクシー使用等),子や孫との通信費(電話代,葉書代等)が必要となる。)の存在を,高齢者に特別な需要があることの根拠に挙げている(甲11の4)。
[49] 生活扶助基準の算定方式としては,(a)昭和23年以降は,最低生活を営むのに必要な飲食物費,衣類費,家具什器費,光熱水費等の個々の需要を一つ一つ積み上げて計算するマーケットバスケット方式が,(b)昭和36年以降は,標準的栄養所要量を満たす飲食物費を計算し,これと同等程度の飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数で割り戻すことによって算定するエンゲル方式が,(c)昭和48年以降は,高度経済成長期の国民の生活水準の向上に合わせて保護基準の引上げを図るため,政府経済見通しにおける民間最終消費支出の伸び率(見通し)に格差縮小分を加味して改定する格差縮小方式が,(d)昭和59年以降は,政府経済見通しにおける民間最終消費支出の伸び率に準拠して改定する水準均衡方式が,それぞれ採用されて現在に至っている(乙11の2,乙13)。
[50] なお,昭和55年中間的取りまとめ(乙6)にあっては,生活扶助基準について,昭和40年度当時と比較して相当の改善が図られたものの,一般世帯との格差縮小がなお不十分であるとして,上記(c)の格差縮小方式の考え方が妥当性を有するとされていたところ,昭和58年意見具申(乙7)にあっては,現在の生活扶助基準は,一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達している旨評価されており,上記(c)から(d)への算定方式の変更も,こうした評価を受けて行われた。

[51] 一般勤労者世帯の消費支出を100としたときの被保護勤労者世帯の消費支出の割合(格差)は,昭和45年度には54.6パーセント(小数点2桁以下四捨五入。以下同じ。)であったものが,格差縮小方式が採用されていた昭和58年度には66.4パーセントとなり,その後,水準均衡方式が採用されてからはおおむね7割弱で推移しており,平成13年度には71.9パーセント,平成14年度には73.0パーセントと,7割を超える水準に達していた(乙12)。

[52] 厚生労働省「毎月勤労統計調査」により,一般勤労者世帯の賃金(事業所規模30人以上,調査産業計の現金給与総額)をみると,平成10年から前年比マイナスに転じ,平成16年まで減少が続いている(乙17)。
[53] また,総務省統計局「家計調査」により全国勤労者世帯の家計収支の推移をみると,実収入,可処分所得及び消費支出のいずれも平成10年からマイナスに転じ,平成15年まで減少が続いている(乙17)。
[54] さらに,厚生労働省「国民生活基礎調査」により,昭和60年以降の全世帯の一世帯当たり平均所得金額の推移をみると,平成6年の664万2000円をピークに減少傾向となり,平成15年には579万7000円となった。平成16年にはいったん上昇したが,平成17年には563万8000円と再び減少に転じた(乙18,19)。平成6年と平成17年の水準を比較すると,その差は100万4000円,15.1パーセントの減少となっている。
[55] これを所得階級別にみると,第I-5分位(調査対象者を年間収入額順に並べ,対象者数を5等分した場合の,年間収入額が低い側から数えて1番目のグループ。以下,調査対象者をm等分(mはアラビア数字)した場合の年間収入額が低い方から数えてN番目(Nはローマ数字)のグループを「第N-m分位」のように表記する。)では,平成7年に163万1000円であったものが,平成16年には123万9000円となっており,その差は39万2000円,24.0パーセントの減少となっている。第II-5分位では,平成7年に364万円であったものが,平成16年には291万7000円となっており,その差は72万3000円,19.9パーセントの減少となっている。(以上につき、乙18)
[56] 消費者物価指数(全国・総合)についてみると,平成11年から対前年比マイナスとなって,これが平成15年まで続き,平成16年には増減なし(0.0),平成17年には,再度マイナス0.3パーセント,平成18年にはプラス0.3パーセントとなっている(乙17)。
ア 生活保護制度見直しの契機
[57] 「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する法律」(平成12年法律第111号)の法案審議時の付帯決議(衆議院及び参議院),平成15年の社会保障審議会意見及び財政制度等審議会(以下「財政審」という。)建議において,社会福祉基礎構造改革を踏まえた今後の社会福祉の状況変化や規制緩和,地方分権の進展,介護保険の施行状況等を踏まえつつ,生活保護制度についても見直しの必要が指摘されていた(乙8)。これを受けて,厚生労働省では,平成15年8月,生活保護制度全般について議論するため,厚生労働大臣の諮問に応じて社会保障に関する重要事項の調査審議を行う社会保障審議会の福祉部会内に,生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)を設置した。

イ 専門委員会における老齢加算を巡る検討
(ア) 専門委員会に提出された検討資料
[58] 専門委員会では,単身無職の60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者の生活扶助相当消費支出額(消費支出額の全体から,生活保護制度において,生活扶助以外の扶助に該当するもの(家賃・地代,教育費,医療診療代等),生活保護制度において,基本的に是認されない支出に該当するもの(自動車関連経費),被保護世帯は免除されているもの(NHK受信料)及び最低生活費の範疇になじまないもの(家事使用人給料,仕送り金)を除外したもの)について,全国消費実態調査の特別集計による数値データ等に基づいて比較を行った資料(平成11年)が配付されて,検討の材料とされた。そこに現れている具体的な数値等は,以下のとおりである。
[59] まず,その全世帯平均において,60歳以上69歳以下の生活扶助相当消費支出額が11万8209円であるのに対し70歳以上では10万7664円,第I-5分位において,60歳以上69歳以下では7万6761円であるのに対し,70歳以上では6万5843円,第I-10分位において,60歳以上69歳以下では7万9817円であるのに対し,70歳以上では6万2277円となっており,いずれも60歳以上69歳以下の者より70歳以上の者の生活扶助相当消費支出額が低い数値となっていた。(以上につき,乙9)
[60] また,第I-5分位の70歳以上の単身無職の者の生活扶助相当消費支出額が6万5843円であるのに対し,70歳以上の者の生活扶助基準額(老齢加算を除く。)(平均)は7万1190円であり,生活扶助基準額の方が高い数値となっていた。ちなみに,60歳以上69歳以下の者の生活扶助費相当消費支出額が7万6761円であるのに対し,60歳以上69歳以下の者の生活扶助基準額(平均)は7万4509円であり,生活扶助基準額の方が低い数値となっていた。(以上につき,乙9)
[61] 専門委員会では,昭和58年以降の社会情勢の変化を表すものとして,当該期間中の生活扶助基準改定率,消費者物価指数,賃金(現金給与総額・事業所規模30人以上)及び基礎年金改定率の推移を比較した資料が検討の材料とされた。そこに現れている具体的な数値等は,以下のとおりである(乙11の6・12)。
[62](a) 昭和59年度をそれぞれ100とした場合の平成14年度における割合は,生活扶助基準は135.5パーセントであるのに対し,消費者物価指数(暦年)は116.5パーセント,賃金は131.2パーセントであり,生活扶助基準の改定率が上回っていた。また,平成7年度をそれぞれ100とした場合の平成14年度における割合は,生活扶助基準が104.3パーセントであるのに対し,消費者物価指数は99.9パーセント,賃金は98.7パーセントであり,物価,賃金ともにマイナスとなっていた。
[63](b) 昭和55年と平成12年の消費支出とを比較すると,一般勤労者世帯(全国,平均),一般勤労者世帯(全国,第I-10分位),被保護勤労者世帯(全国,平均)ともに消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が低下していた。
[64] 専門委員会では,被保護高齢単身世帯の家計消費の実態を表すものとして,貯蓄純増(「預貯金」と「保険掛金」との合計から「預貯金引出」と「保険取金」との合計を差し引いたもの),平均貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄純増の割合)及び繰越金(月末における世帯の手持ち現金残高)について,老齢加算のある世帯(主に70歳以上)とない世帯(主に60歳以上69歳以下)とを比較した資料(被保護者生活実態調査(平成11年)に基づくもの)が検討の材料とされた。そこに現れている具体的な数値等は,以下のとおりである(乙11の12)。
[65] 老齢加算のない世帯の貯蓄純増は9407円であり,可処分所得に占める割合(平均貯蓄率)は8.4パーセントであるのに対し,老齢加算のある世帯の貯蓄純増は1万4926円,可処分所得に占める割合(平均貯蓄率)は12.1パーセントとなっていて,加算のない世帯よりも5519円多くなっていた。また,老齢加算のない世帯の翌月への繰越金は3万6094円,ある世帯のそれは4万7071円となっており,加算のない世帯よりも1万0977円多くなっていた。
(イ) 中間取りまとめ
[66] 専門委員会では,平成15年12月16日付けの中間取りまとめ(以下「平成15年中間取りまとめ」という。)において,
「単身無職の一般低所得高齢者世帯の消費支出額について,70歳以上の者と60歳以上69歳以下の者との間で比較すると,前者の消費支出額の方が少ないことが認められる。したがって,消費支出額全体でみた場合には,70歳以上の高齢者について,現行の老齢加算に相当するだけの特別需要があるとは認められないため,加算そのものについては廃止の方向で見直すべきである。」
とし,
「また,被保護世帯の生活水準が急に低下することのないよう,激変緩和の措置を講じるべきである。」
とする提言を行った(乙1)。

ウ 厚生労働大臣における老齢加算の段階的廃止の判断
[67] 厚生労働省大臣は,上記提言を受け,70歳以上の高齢者に老齢加算に相当するだけの特別な消費需要がなく,老齢加算制度の合理性を基礎付けていた事情がほぼ失われていると判断して,老齢加算を廃止するものとし,激変緩和の措置として,3年間をかけて段階的に廃止することとした。具体的には,平成16年3月25日厚生労働省告示第130号をもって老齢加算の減額を開始し,前記前提事実(3)イのとおりの経過により,その廃止に至った。

エ 専門委員会における生活扶助基準の水準を巡る検討
[68](ア) 「平成15年中間取りまとめ」では,生活扶助基準の水準についても検討を加えており,平成8年から平成12年までの間の第I-10分位の勤労者3人世帯の消費水準に着目して,これと生活扶助基準額とを比較した上で,(a)第I-10分位の消費水準よりも生活扶助基準額の方が高いこと,(b)食費,教養娯楽等の減少が顕著な第I・第II-50分位の消費水準よりも生活扶助基準額の方が高いこと,(c)第IIIないし第V-50分位の消費水準と勤労控除額(収入認定において就労に伴う必要経費を控除するものであり,控除額は就労収入によって異なる。平成8年から平成12年までの間の平均控除額は2万0599円である。)を除いた生活扶助基準額とは均衡が図られているが,勤労控除額を含めると生活扶助基準額の方が高いことなどの評価が加えられている(乙1,11の8)。
[69](イ) また,専門委員会が平成16年12月15日付けで発表した「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書」では,生活扶助基準の水準は基本的に妥当と評価しつつ,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとし,勤労基礎控除も含めた生活扶助基準額が一般低所得世帯の消費における生活扶助相当額よりも高くなっていること等を考慮する必要があるなどの指摘がされている(乙20)。
[70] 原告らは,本件各決定が,第一に,生活保護法56条に違反し,第二に,憲法25条,法1条,3条,8条2項,9条,「経済的,社会的および文化的権利に関する国際規約」(以下「社会権規約」という。)等に違反し,厚生労働大臣の裁量権行使に逸脱・濫用があるとの理由から,違憲又は違法であると主張する。
[71] そこで,本件における判断の基本的枠組みについて,まず検討するとこととする。
[72] 憲法25条の規定は,福祉国家の理念に基づき,社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものであって,国権の作用に対し,一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものということができる。そして,同条1項の規定する「健康で文化的な最低限度の生活」は,極めて抽象的・相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,右規定を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。(以上につき,最高裁昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)

[73] そして,生活保護法は,憲法の上記規定の趣旨を実現するための具体的措置として制定されたものということができ,前記第2の1のとおり,保護の内容を定める場合の基本原則,厚生労働大臣の定める基準により行うべきこと,当該基準を定める場合の考慮要素等について定めを置いているが,保障すべき生活水準に関しては,法3条が「最低限度の生活」,「健康で文化的な生活水準を維持することができるもの」とし,憲法25条1項と同様の文言による規定を設けるにとどめ,それ以上に具体化するところがない。
[74] このことからすれば,厚生労働大臣が保護基準を定立するに当たっては,生活保護法の定める基本原則等を遵守することが要求されることは当然としても,何をもって健康で文化的な最低限度の生活であると認定判断し,保護の基準を具体的にどのようなものとして設定するかについては,被保護者全体に対する保護の具体的内容を詳細かつ網羅的に定めるため,膨大かつ多様な被保護者の需要をいかにくみ上げて制約のある予算の中で保護の措置を講じるか,被保護者の各階層に対する保護の内容の均衡をいかに図っていくかなどの点において,上記アでみた考察及び判断が一層強く要請されるということができ,この点につき,厚生労働大臣の合目的的な裁量にゆだねられているものと解される。
[75] そうすると,保護基準の改定に関しては,厚生労働大臣が,現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定するなど,憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し,法によって与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又は裁量権を濫用した場合に,それが違法と判断されるものというべきである。
ア 原告らの主張
[76] 法56条は,被保護者について既に決定された保護を不利益に変更する場合には,「正当な理由」が存在することを要求しているところ,前記のとおり,原告らは,違法事由として,まず法56条違反を採り上げ,保護基準の変更に係る厚生労働大臣の裁量と同条との関係について,次のように主張している。
[77](ア) 生存権の保障の充実拡充の時期・程度について立法府・行政府に一定の裁量があるとしても,特定の施策がいったん実現した後に,これを廃止したり削減したりすることは,憲法25条に定められた人権が具体化し現実化されたものを制限することにほかならないから,合理的な理由,正当な理由がなければ許されるべきではないのであって,厚生労働大臣の保護基準の定立行為についても,不利益変更に正当な理由を要求した法56条の適用がある。
[78](イ) 仮に,保護基準の変更について,法56条が直接的に適用されないとしても,同条が被保護者に対して,正当な理由がなければ,既に決定された保護を不利益に変更されることがないという地位を保障した以上,実施機関は,変更後も被保護者の最低限度の生活の需要が満たされていることの立証の責任を負うべきであり,結局のところ,その保護のよって立つべき基準が,当該需要を満たすものとして定立されたことの立証の責任を負うべきものであって,法56条は保護基準の定立行為についても間接的に適用(準用)されるべきである。
[79](ウ) さらに,たとえ保護基準の定立行為に法56条の適用・準用がないとしても,生活保護の被保護者は最低限度ぎりぎりの生活を送っているものであるから,これを不利益に変更する場合には,より慎重な態度で臨む必要があるという法56条の法意は,保護基準の定立行為における裁量権行使に当たって最も重視すべき要素であって,正当な理由,合理的な理由がなければ不利益変更を許さないというのは憲法上の要請でもあるから,これらを欠いた不利益変更は裁量権の範囲を逸脱したものになる。
[80](エ) そして,厚生労働大臣が保護基準を被保護者に不利益に変更した場合には,被保護者の生活状態に照らして,健康で文化的な最低限度の生活を営むことに支障がないといえる事情が判明した場合に初めて正当な理由,合理的な理由がある場合に当たるといえるのであり,そのようにいえるのは,もともと定められていた保護基準自体が,最低限度の生活の需要を超える不当なものであることが判明した場合,社会経済情勢の変化によって最低限度の生活の需要が減った場合に限られるところ,本件においては,そのいずれに当たるとも認められないから,結局,老齢加算の廃止という保護基準の変更には,法56条にいう「正当な理由」は存しないというべきである。

イ 被告らの主張
[81] 以上の原告らの主張に対し,被告らは,次のとおり主張する。
[82] すなわち,本件各決定は既に決定された各原告らに対する保護費を減額(変更)する以上,法56条の不利益変更に当たり,同条の適用はある。しかし,保護基準の改定は厚生労働大臣の合目的的な裁量にゆだねられており,当該改定自体に法56条の適用はないというべきである。なお,保護の実施機関である被告らは,厚生労働大臣が定めた保護基準に拘束されるから,その改定に伴い保護の変更決定を行った場合,保護基準が改定された事実を主張・立証すれば,不利益変更を行う「正当な理由」の根拠としては十分であって,「正当な理由」のあることを争う当事者である原告らが,保護基準の改定に厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用があることを主張・立証すべきである。

ウ 検討
[83](ア) 法56条が保護を不利益に変更する場合について正当な理由が存在することを要求した趣旨は,いったん具体的な内容の保護を受けることが決定された被保護者の地位を尊重し,行政庁の恣意的な措置等によってその権利・利益が損なわれることのないよう,行政庁の判断・権限行使に一定の制約を課すことにあると考えられる。そして,実施機関の決定する保護の内容は,厚生労働大臣の定める保護基準に従って定まるものであって,保護基準が被保護者に不利に変更された場合には,その権利・利益が損なわれるという事態に直結しかねないことからすれば,原告らが主張するとおり,保護基準の変更についても法56条の規定の適用の有無が問題となり得る。
[84] ところで,厚生労働大臣が定める保護基準については,法8条2項が,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない旨を規定しており,法の要求する水準に過不足のないことが要求されているところであって,保護基準を変更する場合でも,変更後のそれが法8条の要件を満たしたものである限り,これと別個の要件として,法56条にいう「正当な理由」の存在を要求する必要はないとも考えられる。
[85] しかし,法の要求水準である「健康で文化的な最低限度の生活」は,前記(1)アでみたような極めて抽象的・相対的な概念であることにかんがみれば,保護基準を不利益に変更することにより,現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定するなど,憲法25条及び法の各規定の趣旨・目的に反することになる危険を常に内包しているといえる。法56条の規定は,そうした事態を回避するための担保として機能することが予定されているとみるべきであって,保護基準の変更との関係においても,変更の具体的内容のみならず,その変更の要否や内容について検討を加えた過程や経過措置を含めた実施に至る過程をも総合して,その不利益変更に「正当な理由」があったかどうかが判断されるべきであり,そう解することによって初めて,法8条とは別に法56条の適用を論ずる意義があり,また,上記の担保としての機能が全うされるものといえる。したがって,以上の限度で,法56条の規定は,保護基準の変更についても適用があるというべきである。
[86] 他方で,「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するに当たっては,厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって,専門技術的な考察と政策的判断に基づく,合目的的な裁量が認められていることは前記(1)イでみたとおりである。そして,保障すべき生活水準として,抽象的・相対的な概念を規定するにとどめ,保護基準の定立についての専門的技術的な考察及び政策的判断を尊重することを前提に,厚生労働大臣の裁量を認めることとした法の趣旨を踏まえて,法56条との関係を考えるならば,厚生労働大臣における裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無を判断する上で,法56条にいう「正当な理由」の存否を基礎付ける事情が,そのまま重要な考慮要素になり得ると解するのが相当である。換言すると,変更の内容・程度のみならず,変更の検討及び実施の過程を含めて吟味することにより,法56条の趣旨を十分に斟酌する必要があるというべきである。
[87](イ) 以上によれば,本件における判断の基本的枠組みは,保護基準の変更に関する適法性につき,前記(1)及び上記(ア)の考え方に従いつつ,厚生労働大臣の裁量権行使に逸脱又は濫用があるか否かの判断に集約されることになる。
[88](ウ) なお,原告らは,社会権規約が,(a)社会保障,(b)相当な生活水準及び生活条件の改善,(c)文化的な生活への参加等に係るすべての者の権利を認めており(9条,11条1項,15条1項),その具体的措置を規定した生活保護法の上位規範として位置付けられるべきであって,生活保護法の解釈は社会権規約の解釈に従ったものでなければならないとした上,社会権規約の解釈基準となる,国連社会権規約委員会の定めた一般的意見(甲51の1・2)が,締約国に対し,(d)高齢者の権利の尊重から要求される限りにおいて,利用可能な資源を最大限に用いて,特別な措置をとることを要求し(一般的意見第6・平成7年(1995年)),(e)景気後退及び経済の再調整の時期には,高齢者が特に危機にさらされるとして,社会の弱い構成員を保護する義務を負わせ(一般的意見第3・平成2年(1990年)),(f)意図的に後退的措置がとられる場合には,すべての選択肢を最大限に慎重に検討した後に導入し,利用可能な最大限の資源の完全な利用という文脈において,規約に規定された権利全体との関連でそれが正当化されることを証明する責任を負わせており(一般的意見第14・平成12年(2000年)),以上のような一般的意見に反した生活保護法上の措置をとることは,社会権規約の趣旨に反し,法8条に違反するものと主張する。
[89] しかし,社会権規約2条1項が,締約国に対し,立法措置その他のすべての適当な方法により同規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることに照らせば,その趣旨は,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,その実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではないと解される(最高裁判所平成元年3月2日第一小法廷判決・判例時報1363号68頁参照)。上記一般的意見についても,本件各決定との関係では,とりわけ上記(f)の点が問題になり得るが,社会権規約の上記位置付けからすれば,直ちにその具体的内容が法規範として機能するということはできない。
[90] 上記2でみた基本的枠組みに従いながら,老齢加算を廃止した保護基準の改定及びこれに基づいて行われた本件各決定の適否について,以下,検討を加える。
[91] 被告らは,前記1(3)イ(ア)でみた専門委員会の検討資料,すなわち,(a)60歳以上69歳以下の者と70歳以上の単身無職者のそれぞれ全体(平均),第I-5分位及び第I-10分位の生活扶助相当消費支出の比較(以下「比較(a)」という。),(b)70歳以上の単身無職者のうち第I-5分位の者の生活扶助相当消費支出額と老齢加算を除いた生活扶助基準額の平均との比較(以下「比較(b)」という。)とを踏まえて,70歳以上の高齢者に老齢加算に相当するだけの特別な消費需要がないと認められること,老齢加算制度の合理性を基礎付けていた事情が現在ではほぼ失われていると解されることを,老齢加算の廃止の主要な根拠として主張している。
[92] さらに,老齢加算創設当時は基準生活費が,肉体的生存に不可欠の栄養所要量ぎりぎりで算定されるなど,低劣な水準にあり,社会的弱者である高齢者には,その基準のみでは生活保護需要を賄うのに十分でないことから,保護費の上乗せを図るために,高齢者に特有の消費を特別需要として認めたものであるが,社会経済情勢が著しく変化している状況(前記1(2)ウ)を踏まえて検討を加えれば,基準生活費が一般国民の消費実態との比較において十分な水準に達しており(前記1(3)エ,同(2)イ),基準生活費をもって高齢者の需要は賄えるものであって,これとは別途老齢加算を上乗せしなければならないような高齢者特有の需要は存在しなくなっている旨主張している。

[93] そして,比較(a)は,国民一般及び低所得者層の各単身高齢者の消費水準について,60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者とを比較したものであり,比較(b)は70歳以上の単身無職者について,低所得者層の消費水準と老齢加算を除いた生活扶助基準額とを比較したものであって,老齢加算の対象となっていた70歳以上の単身無職者の消費水準が,これと隣接する年齢区分の者のそれと比べて低いこと,老齢加算を付加しない保護のみによっても,70歳以上の単身無職者の低所得者層の一般的な消費支出を充足するに足りるものであることを示したものということができ,70歳以上の高齢者の被保護者において,老齢加算を付加しなければならない特別の需要がないことを基礎付ける相応に合理的な根拠と位置付けることが取りあえず可能である。
[94] また,被保護勤労者世帯の消費支出が一般世帯のそれの7割を超える水準に達するなど改善されていること(前記1(2)イ)や生活扶助基準額が第I-10分位の消費水準を上回っていること(前記1(3)エ)それ自体は高齢者に特別の需要がないことの直接的な根拠になるとまではいい難いが、基準生活費が改善されたことに伴い,それをもって(老齢加算なくして)高齢者の需要全般を賄えるようになるという事態は起こり得るところであるから,これらの点は比較(a)及び(b)とも矛盾せず,特別需要を考慮する必要がないことを無理することなく相応に説明できる一つの関連事情とみることができる。
[95] まず,上記(1)イのとおり,被告らの主張をその主張及び裏付け資料から取りあえず吟味したところであるが,原告らは,これに対し,特別需要の存否及びその検証手法等を巡り,詳細な批判を展開している。すなわち,原告らは,高齢者における特別需要の存在が老齢加算が設けられた根拠とされており,老齢加算制度が昭和35年に老齢福祉年金制度の発足を契機として創設され,昭和51年に至って老齢福祉年金制度と切り離され,高齢者の特別需要を満たす基準として純化され,生活保護の特別基準として本来の性格を確立し,これまで生活保護の見直し等が実施された機会にも,高齢者の特別需要の存在とこれを理由とした老齢加算の必要性・妥当性が繰り返し確認されてきているところ,老齢加算廃止の措置に至る検証過程においては,消費支出の総額しか問題とされておらず,消費構造の比較検討,特に,昭和58年意見具申において行われた高齢者とそれ以外の年齢層との支出科目ごとの比較(前記1(1)オ)が行われていないため,従前の老齢加算制度の合理性を基礎付けていた事情,特別需要の存否についての検証は全く行われていないに等しいとして,被告らの検証手法等に関して以下のとおり様々な主張をする。そこで,それらにつき,以下に順次検討する。

ア 消費の実態に即した検証の要否
[96](ア) 専門委員会で使用された検討資料(平成11年の全国消費実態調査特別集計による消費支出額)(乙11の8)に基づいて,昭和58年意見具申と同様の手法により,60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者との間の消費構造を比較検討すると,60歳以上69歳以下の者よりも70歳以上の者の方が高くなっている支出科目の合計額は,全国平均で9804円,第I-5分位で8180円,第I-10分位で1万3435円となっており,むしろ,特別需要が引き続き存在していることが裏付けられているものと主張する。
[97] さらに,原告らは,高齢者の特別需要の存在及び老齢加算の必要性・妥当性とともに,基準生活費についての妥当性も確認されており,その後も,水準均衡方式に従って改定が行われるなど,その評価に変動を来すべき事情も生じていないことからすれば,基準生活費の改定・引上げがあったとしても,それによって特別需要がカバーされることにはならないとも主張している。
[98](イ) しかし,昭和58年意見具申時の上記検証手法は,前記1(1)オでみたとおり,高齢者の各支出科目の構成比に基づき,その支出総額が比較対象となる年代(50歳代,一般夫婦世帯)の支出総額と同一になると仮定して案分した額を,高齢者の各科目ごとの支出額とみなした上で,高齢者の方が高い支出科目のみの差額を積算していったというものであって,高齢者と他の年齢層の者と間に消費傾向の違いが存在することの裏付けになるとまではいえても,そこで得られた支出科目の差額の合計額をもって,高齢者においてその額に相当するだけの特別の需要があったと認める上での根拠には乏しいといわざるを得ない。一般論としては,高齢者の方が支出額が高い科目があったとしても,他方で,支出額が低い科目もあり,後者の合計が前者の合計を上回るような場合にあっては,後者の支出減が前者の支出増を補って余りあるのが通常と考えられる(支出額が高い科目については,そのとおりの支出を行いつつ,支出額が低い科目については,他の対象となる年齢層と同程度の支出を行っているという一般的な傾向があって初めて,基準生活費とは別の高齢者特有の需要が実体を伴って存在するものといい得るところであるが,そうした傾向が存するという経験則は見いだせないし,当該傾向があることをうかがわせる証拠もない。)。さらに,上記検証手法は,高齢者の支出総額が比較対象となる年代のそれと同一であると仮定したものであるため,高齢者の各支出科目の支出額は,おおむね実際の支出額よりも大きな数字を用いて,比較対象となる年代のそれとの差額の積算を行っており,高齢者の実際の需要を多めに見込んだ可能性を否定できない。のみならず,一般夫婦世帯(年間収入180万円未満)を比較対象とした老夫婦世帯(世帯主71歳以上75歳以下,180万円未満)のように,実際の支出額よりも小さな数字を用いている場合もあるなど,高齢者の需要を測定する方法としては,必ずしも首尾一貫したものとはいい難いのであって,今となっては,もともと老齢加算の制度維持,高齢者に対する当時の給付金額の正当化を目的として採用された疑いを払拭できない(ちなみに,専門分科会においても,事務局を務める厚生省担当者からは,そうした目的にそって比較が行われたことを自認する発言がある(乙29))。「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容が一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであることからすると,こうした検証手法に基づいて老齢加算の給付を実施・存続させたことが直ちに「最低限度の生活の需要」を超えていたとみること(法8条2項参照)はできないとしても,高齢者の特別需要を直接基礎付ける検証手法として十分に合理的なものであるとするのは躊躇を覚えざるを得ない。
[99] そうすると,改めて上記検証手法と同様な方法により,高齢者の各支出科目の差額を積算したところ,原告らの主張するような差額合計の数値になったからといって,高齢者の特別需要が引き続き存在することの合理的な裏付けになるとはいえないし,保護基準を変更して老齢加算廃止の措置をとるに当たり,同じような方法で検証を行わなかったとしても,その判断過程が合理性を欠いたことにはならないというべきである。

イ 消費支出に基づいて需要を検証することの当否
[100](ア) 原告らは,消費支出は収入に制約され,需要のすべてを反映するものではないこと,特に,高齢者世帯では,医療費等の負担が重く,新たな就労が望めず,貯蓄を取り崩すなどして生活しており,現実の消費が抑制されている傾向が強い(これを示す資料として「家計の金融資産に関する世論調査」(平成18年)(甲31)において,貯蓄のない世帯や貯蓄が減少した世帯が相当割合を占めていることを挙げている。)ことから,消費支出に基づいて需要を測定・検証することは相当でないと主張している。
[101](イ) しかし,消費支出が需要のすべてを反映するものではないとしても,需要との間に一定の相関関係があることは十分に推認できるところである。また,そもそも,消費支出,更には収入によって条件付けられず,その制約を受けない客観的な需要なるものが存在するものといえるか,それをどのような方法で測定・検証するのかについて疑問が残り,また,その測定が可能であるとしても,「健康で文化的な最低限度の生活水準」にそうべきものである保護基準を定めるに当たり,これを参照して,直接反映させなければならないとする根拠も見当たらない。
[102] いずれにしても,実際の消費支出の調査結果に依拠して,高齢者及び他の年齢層の者の需要を把握し,老齢加算の廃止の当否を判断したとしても,この点は,要保護者の需要を基にして保護を行うべきものとする法8条1項の規定に反することはなく,保護基準の改定において認められる裁量権の範囲の逸脱・濫用を基礎付ける事情には当たらないというべきである。

ウ 低所得世帯を比較対象とすることの当否(漏給層の存在・低い捕捉率)
[103](ア) 原告らは,保護基準以下の低所得者であっても実際には保護を受給していない者(いわゆる漏給層)がおり,各種調査の結果によれば,その数は膨大なものと推測され,これらの者を含んだ低所得者層の消費動向を参考にして保護基準を定めた場合には,本来の在るべき水準を下回った保護基準となって不合理な結果をもたらすことになると主張する。そして,保護基準を定める場合に参照とされるべきは一般国民の生活水準であって,漏給層を除外しておらず消費支出が圧縮されていると考えられる第I-5分位や第I-10分位のような低所得層を参照とするのは適切ではないと主張している。
[104](イ) 確かに,比較(b)では,70歳以上の単身無職者のうち第I-5分位の者の生活扶助相当消費支出額と,老齢加算を除いた生活扶助基準額とを直接比較しており,後者が前者を上回っているというその結果からは,当該生活扶助基準額によって低所得者層(端的にいうと,収入額が最下層である5分の1のグループ)の実際の消費支出を賄えるということが明らかになるにすぎない。また,両者の数字に顕著な差がないことからすると,第I-5分位のグループには,生活扶助基準額を下回る支出で生活を維持している者が相当数含まれていることも推認できる。
[105] しかし,一般国民の平均的な消費支出その他生活水準を参考にすること自体は,生活扶助基準を定める方法の一つの選択肢として不合理なものではないとしても,これをそのまま保護基準の基礎に用いるとすれば,それは「平均的な生活水準」にほかならず,「健康で文化的な最低限度の生活水準」からは乖離してしまう結果になることは否定できない。したがって,この場合には,一般国民の生活水準それ自体ではなく,これに一定割合を乗じるなどしてその数値を減じたものを基礎とするなどの何らかの調整を経ることは避けられないところ,その割合をどのように定めるかについて採用すべき客観的な基準が想定できるわけではなく,合目的的な裁量を認めざるを得ないものといえる。こうした手法と比較した場合,第I-5分位の者の生活扶助相当支出額を参照とすることが,現実の生活条件を無視した著しく低い基準が導かれるなど「健康で文化的な最低限度の生活水準」を定める上で,殊更に所得が極めて低い層を対象としているとまではいえない。
[106] さらに,原告らが問題にする,生活扶助基準額を下回る支出で生活を維持している者を除外した上,残りのグループの消費支出その他の生活水準を参照にするという方法を仮に採用するものとすると,これを基に生活扶助基準を定めた場合,従前の生活扶助基準額を上回る金額が常にあるべき生活保護基準として導かれることなってしまい,その結果,生活扶助基準を引き上げる都度,生活扶助基準額を下回る支出で生活を維持している者の範囲(比較対象から除外すべき範囲)が拡がり,保護基準を定めるに当たり比較対象とする範囲が高所得の者に偏っていくという循環をもたらし,結果として,生活扶助基準額の際限のない上昇を招きかねない。したがって,このような方法を採用することは,「健康で文化的な最低限度の生活水準」を定める上では,不相当であるといわざるを得ない。
[107] 以上のとおり,殊更に所得が極めて低い層の生活水準を基にして保護基準を定めた場合には,「健康で文化的な最低限度の生活水準」を満たさない低劣な内容・程度のものとなるおそれがないとはいえないが,比較(b)が第I-5分位を対象として行ったものであることに加えて,生活扶助基準の算定方式として,水準均衡方式が採用された昭和59年以降,一般世帯の消費支出に対する被保護世帯の消費支出の割合がおおむね7割弱で推移しており,平成13年度及び平成14年度においては,7割を超える水準に達していたこと(前記1(2)ア,イ)をも勘案するならば,これをもって,その検証方法が合理性を欠いたものであるとまではいえない。

エ 60歳以上69歳以下と70歳以上という年齢区分による比較の相当性
[108](ア) 原告らは,老齢加算の見直しの過程で,単身高齢者の消費水準を検証するに当たり,60歳以上69歳以下と70歳以上という年齢区分を用いて比較対照を行ったことに合理性はなく,70歳以上の高齢者に係る特別需要の不存在を根拠付けることもできないと主張している。すなわち,60歳以上69歳以下と70歳以上という区分を用いた場合,前者の消費支出額が後者のそれを上回っている状況は,昭和55年及び昭和58年に行われた以前の検証の時点で既に存在しており,その後変化が生じているわけではなく,これらの検証時に70歳以上の高齢者の特別需要の存在が確認され,老齢加算の必要性が明確にされているから,この点は老齢加算を減額・廃止する根拠にはなり得ないというものである。
[109] さらに,原告らは,平成11年の消費実態調査(甲21)において,男性・男女平均の単身高齢者の消費支出額をみると,65歳以上69歳以下の者よりも70歳以上74歳以下の者の方が上回っていること,平成16年の消費実態調査(甲22)における,男性の単身高齢者の生活扶助相当支出額をみると,60歳以上64歳以下の者,65歳以上69歳以下の者,70歳以上74歳以下の者,75歳以上の者と年齢区分が高くなるに従って多くなっていること等からすると,70歳以上の者の方が60歳以上69歳以下の者より消費支出額が少ないなどと単純化した結論を導くことはできないと主張する。
[110](イ) しかし,そもそも,高齢者の特別需要の存在を基礎付ける直接的な根拠となり得るのは,前記1(1)オの昭和58年意見具申時における消費構造の比較検討であるところ,その検証手法としての合理性・妥当性について疑問を差し挟まざるを得ないことは前記(2)イにおいて検討したとおりである。したがって,70歳以上の者の消費支出額が60歳以上69歳以下の者のそれを下回っているという状況に従前から変化がないとしても,そのことが直ちに特別需要の不存在を排斥する理由になるわけではない。
[111] さらに,平成11年の消費実態調査をみると,70歳以上74歳以下の無職単身男性の消費支出及び生活扶助相当額が,隣接する他の年齢区分(60歳以上64歳以下,65歳以上69歳以下,75歳以上)の消費支出及び生活扶助相当額を顕著に上回っていることは確かであるが,平成16年の消費実態調査をみると,消費支出にあっては70歳以上74歳以下の者が,生活扶助相当額にあっては75歳以上の者が,それぞれ最高の数値を示しているものの,隣接する他の年齢区分との比較では,平成11年の調査ほどには顕著な格差がないなど,そこに一般的・継続的な傾向が存在するとはにわかに認め難いところである。他方,男女平均の数値をみる限り,わずかな逆転現象(平成11年の調査の消費支出,生活扶助相当額において,70歳以上74歳以下の者が65歳以上69歳以下の者をわずかに上回っている点,平成16年の調査の生活扶助相当額において,65歳以上69歳以下の者が60歳以上64歳以下の者をわずかに上回っている点。(以上につき,甲21,22))を除けば,全般的には,60歳以上64歳以下,65歳以上69歳以下,70歳以上74歳以下,75歳以上と年齢区分が上昇するに従って,消費支出,生活扶助相当額とも緩やかに下降していく傾向がみてとれる。
[112] 以上に加えて,生活扶助基準については男女共通でその金額を定めるものとされていることをも考え併せるならば,70歳以上の者の方が60歳以上69歳以下の者より消費支出額が少ないという評価を行い,これを保護基準の見直し,老齢加算の減額・廃止の根拠にしたとしても,合理性を欠くとまでいうことはできない。

オ 専門委員会等が検証の根拠とした資料の信憑性
[113](ア) 被告らは,全国消費実態調査の特別集計から得られた数値を,高齢者の特別需要の不存在や老齢加算廃止の根拠となる基礎資料にしたと主張している。これに対し,原告らは,特別集計の基になったサンプルデータが公表されていないため,その信憑性・信頼性は何ら担保されていないこと,「生活扶助相当消費支出額」を比較する際に消費支出全体の中からどのような支出を控除し,その控除が妥当なものであったかどうかも検証できないこと,「平成11年全国消費実態調査・高齢者世帯結果表の第26表」(甲12)によれば,70歳以上74歳以下の単身無職世帯の月間消費支出額は,65歳以上69歳以下のそれを上回っており,厚生労働省(専門委員会の資料作成に当たった事務局)が「生活扶助相当消費支出額」を算定する過程で控除したであろう,住居費,保健医療費,自動車等関係費,仕送り金を控除して「消費支出の比較」を試みてみても,やはり70歳以上74歳以下の単身無職世帯の支出額が65歳以上69歳以下のそれを上回る結果となるなど,被告らが高齢者の特別需要の不存在の根拠とした60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者との比較(前記1(3)イ,比較(a))と齟齬していることから,被告らが根拠とした検証資料は,データそれ自体の信用性に疑問があり,老齢加算廃止の合理的根拠にはなり得ないものであると主張している。
[114](イ) ところで,総務省(統計局)の行う全国消費実態調査とは,国民生活の実態について,家計の収支及び貯蓄・負債,耐久消費財,住宅・宅地等の家計資産を総合的に調査し,全国及び地域別の世帯の消費・所得・資産に係る水準,構造,分布等を明らかにすることを目的として行われる指定統計調査(統計法3条)であって,その結果については,国や地方公共団体が国民生活の諸問題に対して行う諸施策の企画・立案等のために利用されているところ,厚生労働省においても,統計法15条2項に基づき,生活保護制度における生活扶助基準等の検証を行う基礎資料として,属性別の収入・支出額を把握するため,総務大臣の承認を得て,調査票を使用したものと認められ(乙22の1~3,23の1~3),その集計結果に基づいて,専門委員会の検討資料を作成したものと推認することができる。以上によれば,専門委員会の検討資料の作成過程に特段不合理なところはなく,信憑性に疑義を生じさせるような事情も見当たらない。「生活扶助相当消費支出額」を算定するに当たり控除した支出の項目についても,前記1(3)イでみたとおりであって,生活扶助の対象となるべき消費支出額を算定する方法としては合理的なものであり,恣意が介在するなど不適切な処理をうかがわせる事情もない。また,専門委員会の検証資料は60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者という年齢区分によって比較を行ったものであり,原告らが指摘する65歳以上69歳以下の者と70歳以上74歳以下の者とを比較した場合に,異なる結果(上位の年齢層の者の方が「生活扶助相当消費支出額」が多くなること)が生じたとしても,それを直ちに矛盾・齟齬とみることはできないのであって,上記検証資料の信憑性を疑わせるような事情とみることはできない。

カ 第1類費の水準の抑制と老齢加算との関係
[115](ア) 原告らは,70歳以上の高齢者については,他の年齢層と比較して,基準生活費のうち第1類費の伸びが著しく抑制されており,別途老齢加算の給付が行われていたからこそ,そのような抑制が可能であったと考えるべきところ,第1類費をそうした水準のままに据え置きながら,老齢加算を廃止することは,いわば二重に減額の負担を負わせることになり,著しく不利益であって合理性を欠いた措置であると主張している。
[116](イ) そこで,70歳男女の各第1類費の推移をみると,以下のようなものとなっている(甲13)。
昭和59年平成元年平成17年
70歳男3万0440円3万0870円3万2340円
昭和59年から平成17年までの伸び率 106%
平成元年から平成17年までの伸び率 105%
昭和59年平成元年平成17年
70歳女2万9260円3万0870円3万2340円
昭和59年から平成17年までの伸び率 111%
平成元年から平成17年までの伸び率 105%
[117] これに対して生活扶助基準額設定のモデルである標準3人世帯の構成員である年齢の者について,各第1類費の推移は次のようになっている。(甲13)
昭和59年平成元年平成17年
33歳男3万2430円3万4640円4万0270円
昭和59年から平成17年までの伸び率 124%
平成元年から平成17年までの伸び率 116%
昭和59年平成元年平成17年
29歳女3万1130円3万4640円4万0270円
昭和59年から平成17年までの伸び率 129%
平成元年から平成17年までの伸び率 116%
昭和59年平成元年平成17年
4歳子2万1430円2万3360円2万6350円
昭和59年から平成17年までの伸び率 123%
平成元年から平成17年までの伸び率 113%
[118] 上記の各推移によれば,昭和59年時から平成17年時までの間の33歳男及び29歳女等の各第1類費の伸び率・増加額と対比すると,70歳男女の各第1類費の伸び率・増加額は相当程度低い水準に押さえられたものになっているといえる。例えば,70歳男と33歳男との間を比較すると,昭和59年時の格差は約2000円にとどまっていた(33歳男が上回る。)のに,平成17年時の格差は約8000円に拡がる(33歳男が上回る。)など,その格差は全般的に拡がっている。そして,この間,平成16年3月時まで老齢加算が1級地で1万7930円と定められ給付等が行われていた事実を考え併せるならば,このような格差が拡がるような生活扶助基準額の改定を行う過程で,老齢加算の存在が何らかの形で考慮要素とされた疑いも残ることから,70歳以上の男女について生活扶助基準額について見直しを経ることなく,老齢加算の減額・廃止のみを実施した場合には,70歳以上の高齢者に対して,上記生活扶助基準額の改定を行った時点で想定していた以上の不利益を強いる結果となっている可能性も否定できない。
[119](ウ) しかし,70歳男女の各第1類費の伸び率・増加額について,他世代との間で上記のような格差が生じた原因としては,平成元年時までは,高齢者について60歳以上64歳以下と65歳以上という区分が設けられており,前者よりも後者の方が第1類費が多額に設定されていたところ,その消費実態をみると,70歳以上の第1類費相当の消費支出額が69歳以下のそれと比較して低いものとなっていたこと等を踏まえ,高齢者について60歳以上69歳以下と70歳以上という区分を新たに設けた上,70歳以上の者のみならず,65歳以上69歳以下の者についても第1類費の据え置き,改定率の抑制を行うことを通じて,60歳代の者の基準額を同一のものとした上,70歳代の者との均衡を図ってきたものであることが認められる(乙24)。このような65歳以上69歳以下の者も含めて調整が行われてきた過程をみる限り,70歳以上の者の第1類費の伸び率・増加額が抑制される際に,殊更に老齢加算の存在が主要な考慮要素とされていたとまでは認め難いところである。そして,単身無職の60歳以上69歳以下の者と70歳以上の者との生活扶助相当消費支出の比較(比較(a)),70歳以上の単身無職の者の生活扶助相当消費支出額と老齢加算を除いた生活扶助基準額との比較(比較(b))が,それぞれ前記1(2)でみたような結果となっていることを踏まえるならば,70歳男女の各第1類費の伸び率・増加額が他の年代と比べて相当程度低い水準に押さえられているという事実はあるにせよ,それは,高齢者世帯の実際の消費支出に即しており,その需要を反映させたものということができる。

キ 金澤教授の調査研究結果に基づく批判の妥当性
[120](ア) 金澤誠一佛教大学社会学部教授(以下「金澤教授」という。)を中心とするグループは,平成17年,京都において,高齢者を含め,若年単身者,中年夫婦ないし未婚子等、多くの世帯類型について,「持ち物財調査」,「生活実態調査」,「価格調査」を行い,マーケットバスケット方式による最低生計費を算定したところ,単身高齢者の税込月額最低生計費の算定額は,1箇月当たり18万5061円であり,そこから,税・社会保険料,NHK受信料の各項目を控除し,生活扶助相当支出額を算出すると,予備費を含めて11万8112円(住居費別),予備費を含めない場合でも10万3112円(住居費別)となること,各種統計の消費者物価指数,消費支出の比較からみて,東京都の数値がこれ(京都の数値)を下回るものとは考えられないところ,東京都各区等(1級地―1)における老齢加算相当額を加えた生活扶助基準ですら9万3700円(平成19年度。なお,平成15年度は9万3850円)と上記最低生計費を下回る水準となっており,老齢加算相当額を除いた生活扶助基準はこれらを更に下回る水準となっていること(甲18,22,33)から,原告らは,老齢加算を廃止した後の生活扶助基準が「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を満たしていない旨主張している。
[121](イ) しかし,金澤教授の調査の内容を分析してみると,65歳以上の高齢単身世帯及び夫婦のみの世帯の各所得分布は,所得が上記調査で算定された最低生計費未満のものの割合が単身世帯で87.1パーセント,夫婦のみの世帯で52.1パーセントに達する(甲18)というのであって,端的にいうと,夫婦のみの世帯で5割余り,単身世帯については,実に9割近くの者が上記最低生計費を下回る所得しか得られていないとの結果となっている。これらの数字に照らせば,上記最低生計費は,現実を踏まえた「健康で文化的な最低限度の生活水準」とは見合うものではなく,意識的に在るべき数値として算定されたのではないかとの疑問を抱かざるを得ない。そうすると,これとの比較を通じて生活扶助基準が「健康で文化的な最低限度の生活水準」を満たさず,不相当に低額であるとするには,どうしても無理がある。
[122] ちなみに,金澤教授は,上記調査において,「最低生計費」を算定するに当たり,一般的世帯との対比による相対的貧困論に基礎を置きつつ,「人間に値する生活」の理念でこれを補う必要があるという立場を述べている(甲18)。生活形態・生活様式が極めて多様化している現代社会にあっては,マーケットバスケット方式を採用した場合に,いかなる項目についてどれだけの金額を必要な支出とみるかについて多様な考え方が成り立ち得るし,そこには裁量的判断を許容する余地も多分に認められるところである。上記調査では,例えば,交際費について,平成11年の総務省全国消費実態調査における全体の平均値を採用して,単身高齢者について月額2万2041円を,夫婦のみの世帯について月額3万4185円を,「こづかい」についても,月額5000円,1万円をそれぞれ計上している(甲18,甲33)。しかし,交際費について全体の平均値を用いることは,「健康で文化的な最低限度の生活水準」にそぐわない結果を導くおそれがあるといわざるを得ないし,最低生計費なるものを算定するというのであれば,必要な支出を積算する方法によるのが本来であって,被告らも指摘するように,「こづかい」を支出項目に挙げて積算根拠とすることは,少なくとも単身者については不相当とみる余地があるし,その額の定め方についても決め手になる確たる基準を想定し難いものである。
[123] したがって,上記調査の結果として得られたという最低生計費が生活扶助基準を上回っているからといって,前記(1)の被告らの主張の合理性を減殺することにはならないというべきである。

ク 専門委員会等における検討過程及び代替措置
[124](ア) 原告らは,財政審の建議並びに閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(骨太の方針2003)」及び「平成16年度予算編成の基本方針」において,社会保障費を抑制する一環として,老齢加算の廃止に向けた検討が明示され,専門委員会での議論が始まる以前から,老齢加算廃止の方針は決まっており,専門委員会での「検討」はその方針を正当化するためのものであって,合理性を検証する上で必要な検討が行われたものとはいい難いこと,「平成15年中間取りまとめ」では,老齢加算について「廃止の方向で見直すべきである」とされているが,専門委員会では反対意見を述べる意見が多く,その意見を正しく集約したものとはいえないこと,専門委員会での実際の検討の過程では,老齢加算が廃止される場合にも,高齢者世帯の社会生活に必要な費用に配慮して,その代替措置の要否及び内容を含めて議論することが前提とされており,「平成15年中間取りまとめ」においてもこれを踏まえた修文を経ていること等,専門委員会の審議の過程等に照らしても,老齢加算を廃止したこと,特に代替措置なく廃止を実施したことには,正当な理由がなく合理的な根拠を欠くものであると主張している。
[125](イ) しかし,財政審の建議や閣議決定事項において,老齢加算の廃止に向けた検討や見直しを行うべきことが明示されていたとしても,社会保障審議会や専門委員会は,独立した立場で調査審議を行うべきことが予定されているし,先行する他機関の決定にしても,検討・見直しを促す内容にとどまり,その結論を先取りして専門委員会の審議判断を拘束するような性質のものであるとは認め難い。実際の審議の内容をみても,老齢加算の廃止に消極的な意見の委員を含め,自由かつ活発に議論が行われているものと認めることができる(乙11の1・3・5・7・9・11)。また,「平成15年中間取りまとめ」の内容や審議の過程について,自身の意見の反映や議論の時間が不十分であることに不満を抱いていた委員がいたことは別にして,専門委員会の席上で賛否の決をとったり,反対意見の留保の記載がないことからすれば,「平成15年中間取りまとめ」が専門委員会の出席委員の全員一致をもって了承されたことが推認されるのであり,この推認を覆すに足りる証拠はない。その趣旨・解釈はともかくとしても,老齢加算を廃止の方向で検討すべきことについては合意が得られたということができるのであって,正しい意見の集約が行われなかったとみるのは相当でない。
[126](ウ) さらに,「平成15年中間取りまとめ」では,老齢加算そのものについて廃止の方向で見直すべきであるとするとともに,ただし書として「高齢者世帯の社会生活に必要な費用に配慮して,生活保護基準の体系の中で高齢者世帯の最低生活基準が維持されるよう引き続き検討する必要がある。」と述べられており,委員の中には,老齢加算の廃止のみを先行させるのではなく,代替的な措置を併せて検討すべきであるという考えを持っている委員もおり,その旨の発言も認められるところである(甲15,乙11の7,11の11)。しかし,上記の文言からは,代替措置の検討・実施が老齢加算廃止の明示的な条件とされているとまではいえないのであって,代替措置を実施することなく老齢加算を廃止した措置が,「平成15年中間取りまとめ」に反することにはならないというべきである。

ケ まとめ及び補足
[127] 以上のとおり,前記2の判断の基本的枠組みに従いつつ,原告ら主張のいずれの点を取上げて検討してみても,本件各決定の前提となる保護基準の改定が「正当な理由」を欠き,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したことを基礎付けるまでの事情は認め難いといわざるを得ない。
[128] なお,保護基準について減額を伴う改定が行われた場合には,本来であれば,それが「健康で文化的な最低限度の生活」という法の要求する水準を満たしているか否かという観点からの検証が第一義的に行われるべきであるところ,比較(a)及び(b)は,異なる年齢層間の消費支出の比較(比較(a))であり,第I-5分位という低所得者層の消費支出と老齢加算を除いた生活扶助基準額との比較(比較(b))にとどまるものである。特に,第I-5分位の者の生活実態が明らかでなければ,生活扶助基準額がこれを上回っていたとしても,それが法の要求する水準を満たしていることの直接的な根拠となるものではない。当該水準が一般的な国民生活の状況との相関において決定されるべきことを考慮に入れても,第I-5分位の者と他の階層の者との格差が顕著であって,前者の生活実態が当該水準を下回ることも十分起こり得るからである。
[129] とはいえ,老齢加算は,70歳以上の者を対象にして,高齢者に特別の需要が存在することを理由に導入され,高齢者特有の支出項目(支出の存在自体が特有であるものと支出の額の多さが特有であるものとを含む。)の存在がその根拠とされたものではあるが,当初は老齢福祉年金と同額の給付を行うものとして創設され,昭和51年からは老齢福祉年金の額とは切り離され,基準生活費のうち第1類費のおおむね2分の1の額と定められてきたものである。そして,昭和58年意見具申時の検証手法も前記ア(イ)でみたようなものであることを勘案するならば,高齢者の特別需要の存在が十分な合理性をもって基礎付けられていたとはいい難い。したがって,その減額・廃止に当たっては,老齢加算を除いた生活扶助基準額のみで法の要求する生活水準を満たすことが可能かどうかという点にさかのぼって高齢者の生活実態,実際の消費支出の状況を調査することが不可欠であるとみるのは相当でない。
[130] もとより,生活扶助基準のうち,本体ともいうべき基準生活費の減額が問題とされるのであれば,法の要求する生活水準を満たすかどうかという観点から,被保護者の生活実態に係る調査を行うことが極めて強く要請されるとも考えられるが,本件においては,基準生活費に付加して給付される老齢加算が問題とされているのであって,以上にみてきたような,その導入の経緯及びその後の推移に照らすならば,比較(a)及び(b)を主要な根拠として老齢加算の減額・廃止を行ったとしても,現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定するなど,憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反するとまではいえず,厚生労働大臣において,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用になるということはできない。
[131] 原告らは,自らそれぞれの具体的な生活状況に照らせば,老齢加算の廃止・減額後の保護の内容は,「健康で文化的な最低限度の生活」の需要を満たしていないことから,老齢加算の廃止に係る保護基準の改定及び本件各決定は,原告らの生存権を侵害するものであって,法8条2項に違反し,さらには,法3条及び9条並びに憲法25条に違反するものであると主張する。
[132] そして,前記2の本件における基本的判断の枠組みに従えば,これら各個別事情に関する原告らの主張は,厚生労働大臣において,本件各決定の前提となる保護基準の変更につき,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用があることを裏付ける間接事実としても,主張されているものとみることができることから,この観点において検討の対象になるということができる。

[133] そこで,上記の主張を検討する前提として,原告らの具体的な生活状況についてみると,証拠(甲A~Lの各1,甲A,J及びKの各2,甲Iの3,A事件原告X1,G事件原告X7,I事件原告X8各本人)によれば,以下の事実を認めることができる。
[134](ア) 原告らのうち単身で生活している者の食費は,おおむね月額2万円から3万円程度であって,いずれも自炊している(ただし,副食は総菜を購入する者もある。)が,肉や魚は高価であるため限られた回数しか食べられず,卵や豆腐でたんぱく質不足を補っている者が多い。果物もバナナ以外はほとんど購入できず,菓子類の購入も思うに任せないなど,我慢を強いられている。外食の機会は限られており,1回当たり500円から1000円程度の予算で,そば・ラーメン等を月1,2度,あるいは,2,3か月に1回程度食べるのがせいぜいである。
[135](イ) 原告らは,被服費にほとんどお金を使うことができず,古い衣類をそのまま使用しており,新たに購入するのは下着類に限定される。それ以外の衣類については,古着や兄弟・知人からのもらい物で済ませている者が多い。
[136](ウ) テレビ,冷蔵庫,洗濯機等の電化製品については,中古品を無償で譲り受けるなど,古くからのものをそのまま使用しており,故障している場合でも買換えができずそのままになっている者が多い。
[137](エ) 冷暖房器具については,エアコンを保有していない者が多数を占め(故障で動作しない者を含む。),石油ストーブ・こたつ等の暖房器具を含め,電気代・燃料費がかさむことから,できるでけ利用時間を短くしている。
[138](オ) 入浴については,光熱費・水道代の節約のため,シャワーで済ませる者も多く,湯舟を使う場合でも,水の交換を数日から10日程度に1度にするなどして節約している。自宅に風呂のない者や風呂があっても光熱費・水道代を節約しようとする者は,自治体から支給される入浴券や割引券を利用して銭湯に行ったり,公共施設の無料の入浴施設を利用したりしているが,支給枚数・利用可能な曜日・時間が限定されるなど,自由に利用できるわけではない。
[139](カ) 原告らそれぞれにおいて,観劇,映画・絵画・音楽鑑賞,野球観戦,読書,習字,絵を描くこと,詩吟,写真撮影,旅行等,趣味,その他の余暇の過ごし方についての希望があるが,必ずしもこれらのものにお金をかけるだけの余裕がない。
[140](キ) 原告らの多くが,友人・知人から食事に誘われてもこれに応じることができず,様々な口実をつけて断っており,親戚・友人との付き合いも疎遠になっている。中元や歳暮,お祝いを贈ることもできず,墓参・里帰りする機会もなく,これが可能である者もその回数は限定され,長距離バスを利用するなどして節約しており,葬儀に際しても,香典を包むことができず,参列できない。また,同窓会・クラス会の会費を負担できず,これに参加することができないという者もいる。
[141](ク) 原告らは,老齢加算廃止による影響に関して,次のような変化を指摘し,不満・窮状を訴えている。
a 照明をこまめに消すようになった。
b 帰省を我慢する,おい・めいにお年玉をあげられなくなった。
c 友人・知人の葬儀への列席を控えている。
d 同窓会・クラス会への出席ができなくなった。
e 町内の行事に参加できなくなった。
f パーマをかける回数を減らすようになった。
g 他に切り詰めるところが残っていないため食費を切り詰めている。
h 食費の節約のため,遠方の店まで買い物に出向く。
i タバコの本数を減らすようになった。
j クーラーを我慢するようになった。
k 入浴券を冬のためにためておく。
l 家電製品の購入・買換えができなくなった。
m ささやかな旅行にも出かけられなくなった。
n 年1回の野球観戦にも行けなくなった。

[142] 原告らのうち,家計簿の記載等から家計の状況をある程度詳細に把握することができる原告の収支の状況は,次のとおりである。
[143](ア) K事件原告X11について,平成19年2月から同年7月までの収支の平均をみると,次のようになっている(ただし,家賃の実費の扶助を受けており,住宅扶助・家賃については,それぞれ収入・支出から除外したものである。)(甲K1)。
   1か月の平均収入額7万6800円          
   1か月の平均支出額6万7929円    
   支出の内訳(1か月当たり平均)    
    食費2万6919円    
    光熱水道費6799円    
    電話代1499円    
    新聞代4000円    
    交通費613円    
    交際費6478円    
    教養娯楽費6800円    
    被服費・日用雑貨代7351円    
    保健衛生費3036円    
    その他4433円    
    (その他の項目には,アパートの管理費1600円(住宅扶助の対象外)を含む。)
[144](イ) A事件原告X1について,平成19年2月から同年11月までの収支の平均をみると,次のようになっている(ただし,収入には保護費のほか,年金収入を含んでいる。他方,家賃の実費の扶助を受けており,住宅扶助・家賃については,それぞれ収入・支出から除外したものである。また,同原告は家計簿を付けておらず,手元のレシートを集計したものなので,一部漏れがあるなどとする。)(甲A1)。
   1か月の平均収入額7万1640円          
   1か月の平均支出額5万2546円          
   支出の内訳(1か月当たり平均)          
    食費 2万3026円          
    光熱水道費 4938円          
    電話代 4299円          
    新聞代 4800円          
    交通費 150円          
    交際費 3142円          
    娯楽費 1950円          
    被服費 275円          
    日用雑貨代 1495円          
    その他 8472円          
    (その他の項目には,パーマ代,自治会費,ミシン購入のクレジット代金等を含む。)
[145] ところで,憲法25条及び法3条において,健康で文化的な最低限度の生活というとき,衣食住等を始めとする生存・健康を維持するための必要不可欠の要素に加え,人間性の発露として,親族・友人との交際や地域社会への参加その他の社会的活動を行うことや,趣味その他の形態で種々の精神的・肉体的・文化的活動を行うこともまたその構成要素に含まれるものとみることができる。とりわけ,高齢者において,一般的には,現に就職・就労をしておらず,今後,そうした機会を求めることも積極的には意図していない者が多いものと考えられる(ただし,原告らの中には,ボランティア活動を趣味に挙げる者(L事件原告X11,甲L1)のほか,自営の仕事で生計を立てていきたいという希望を持っている者(J事件原告X9,甲J2)もいる。)。そして,高齢者は,勤労者であれば余暇に当たる時間が生活時間の大半を占めていることもあって,これを親戚・友人らとの交際や趣味に充ていかに充実した時間を過ごすかという点が,生活上の満足感・生きがいを得られるかどうかということに直結しており,こうした時間の過ごし方にどれだけの支出を振り当てるかが,金銭の使途の中でも高齢者でない者との比較において相対的に大きな意味を持つことになるといえる。そして,老齢加算の導入・継続時の議論において,高齢者における特別需要が存在することの根拠として,観劇,雑誌,通信費等の教養費,茶,菓子,果物等の嗜好品に係る支出(昭和35年の老齢加算導入時,前記1(1)ア),近隣,知人,親戚等への訪問や墓参等の社会的費用(昭和55年中間取りまとめ時,前記1(1)ウ),教養娯楽費,交通通信費(昭和58年意見具申時,前記1(1)カ)が繰り返し取り上げられたことは,上記の趣旨を端的に示すものであるということができる。
[146] このような視点も踏まえつつ,前記イ(ア)から(ク)までの原告らの生活状況をみるとき,余裕に乏しいことはもちろん,非常に慎ましやかな生活を送っており,あらゆる場面で節約を強いられる一方,支出の必要を感じた場合でも費用の捻出が思うに任せず,不自由を感じる機会も少なくないことが見て取れる。食費は生存に不可欠であるため,節約に努めているとはいえ,一定額の出費は避け難く,原告らの支出額も一定の範囲に収まっているとみえる反面,被服費についてはそれ以上に支出が抑えられており,生活必需品やこれに類するものと考えられる電化製品の買換えもままならない状況がうかがえる。さらに,趣味・余暇のための支出,親戚・友人付き合いのための冠婚葬祭費を含む交際費についても,その支出は相当極端に抑制されているものとみることができる。
[147] 一方,K事件原告X10,A事件原告X1の月単位の収支の状況をみると,それぞれ1万円弱から2万円弱の余剰が生じている事実も認められる。もとより,上記のように極端に支出を切り詰めた状況での数字であり,支給された保護費を月ごとに使い切ってしまい,手元に残金が残らないという状況で生活することは無理もあり,不意の支出等に備え,結果として多少の余剰が生じた程度のものと評価するのが妥当ではあろう。しかし,これらの余剰を蓄えるなどして,極端に抑制されているようにみえ,あるいは,不自由を強く訴えるような支出項目にこれを振り向けることも一つのやり繰りの方法として考えられるところである。
[148] さらに,趣味・余暇のための支出や交際費については,前記のとおり,とりわけ高齢者にとっての重要性を否定するものではないが,他方で,どのような目的・使途にどれだけの支出を行うかは,趣味嗜好・価値観の違いから個々人の判断にゆだねられるべき性格のものである。したがって、収入・貯えが減少した場合の支出の優先度からすると,その他の必要的な生活経費に先んじ,まずもってその支出額を抑制して対応することになる性質のものと考えられる。交際費のうち,冠婚葬祭費,特に,葬儀への参列,香典に係る支出は避け難い費用という側面もあり,原告らにおいても,遠方の葬儀への参列に要する交通費を賄えないこと,人並みの香典が供えられず肩身が狭く,結局,葬儀への参列自体を思いとどまる場面が多いこと等,その不自由・不満を揃って強く訴えており,その心情は十分考慮に値する。とはいえ,原告らの中でも,身近な親族に対しては相当額の香典を供えるとする者もあれば,余裕のない者同士で少額を集めて香典として供えるとする者や,葬儀に参列し香典を供える余裕がないことを理由として述べてはいるものの弔電を送って対応している者等もあり,その弔意の表し方が千差万別であることは原告らのような高齢者に限られることではない。そして,配偶者,3親等内の血族及び2親等内の姻族の葬儀に参列する費用で実施機関がやむを得ないと認めたものは保護費から支出できるものとされており,実際に,G事件原告X7に対しては,兄の葬儀に参列するために広島まで往復した交通費が支給されていること(乙45,G事件原告X7本人。もっとも,A事件原告X1が姪の夫の長崎での葬儀に参列した費用については,支給対象の親族の範囲に含まれていないことから,支給を受けられていない(A事件原告X1本人)。)等も勘案するならば,趣味・余暇のための支出や葬祭費を含む交際費の支出が上記のように抑制されていることを理由にして,直ちに健康で文化的な最低限度の生活水準を満たしていないものとすることはできない。
[149] 原告らのそのほかの支出の内容,生活状況をみても,節約を強いられ,不自由を感じる場面が少なくないことまでは否定できないにせよ,K事件原告X10及びA事件原告X1の家計の状況をも踏まえ,抽象的・相対的な概念にとどまる「健康で文化的な最低限度の生活」の意味内容に即して考えるならば,老齢加算の減額・廃止後の保護基準に従った本件各決定による変更後の保護の内容が,「健康で文化的な最低限度の生活」の需要を満たしていないとまではいえない。
[150] 原告らが主張するように,老齢加算の廃止によって,老齢加算減額前満額支給時との比較において,保護費全体が約2割の減額になるような場合,激変緩和の措置として,3年間をかけて段階的に廃止することとされたとはいえ,当該満額支給をされていた者にとっての実感を直視すれば,これを率直に問題視し廃止の段階をとらえて追及すること自体は,確かに無理からぬところではある。
[151] とはいえ,以上子細に検討したところによれば,原告らの主張する点は,いずれも厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用までを基礎付け得るものではなく,また,他にこれを肯定できる事情はうかがえないのであって,老齢加算を減額・廃止した保護基準の改定に違法(法違反,憲法25条違反)があったとは認められないといわざるを得ない。
[152] そして,原告らにおいては,老齢加算の減額・廃止以外を理由とする本件各決定における給付額の変動を争うものではなく,本件各決定に固有の違法事由がある旨の主張立証はないことからすれば,本件各決定は適法であるということになる。
[153] よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文の各規定を適用して,主文のとおり判決する。

  裁判官 倉澤守春
  裁判長裁判官大門匡及び裁判官吉田徹は,異動のため,署名押印することができない。
  裁判官 倉澤守春

別紙 原告らの個別事情
原告らの個別事情
別紙 当事者等目録

A事件原告 X1
B事件原告 X2
C事件原告 X3
D事件原告 X4
E事件原告 X5
F事件原告 X6
G事件原告 X7
H事件原告 A
I事件原告 X8
J事件原告 X9
K事件原告 X10
L事件原告 X11

原告ら訴訟代理人弁護士 新井章 渕上隆 西岡弘之 黒岩哲彦 小寺貴夫 吉村清人 佐藤誠一 牧戸美佳 佃俊彦 鳥海準 田島浩 柳沢尚武 坂本雅弥 田見高秀 北村将郎 高橋力 望月浩一郎 田所良平 大村恵実 中川勝之 林治 水田敦士
渕上隆訴訟復代理人弁護士 竹下義樹 阪田健夫 吉田雄大 西野大輔 大沢理尋 舟木浩 吉田維一 平田かおり 小川威亜 高木佳世子 田篭亮博

A事件被告 東京都足立区代表者区長 Y1処分行政庁 足立区北部福祉事務所長
B・C事件被告 東京都墨田区代表者区長 Y2処分行政庁 墨田区福祉事務所長
D事件被告 東京都大田区代表者区長 Y3処分行政庁 大田区福祉事務所長
E事件被告 東京都豊島区代表者区長 Y4処分行政庁 豊島区福祉事務所長
F事件被告 東京都新宿区代表者区長 Y5処分行政庁 新宿区福祉事務所長
G・H事件被告 青梅市代表者市長 Y6処分行政庁 青梅市福祉事務所長
I事件被告 調布市代表者市長 Y7処分行政庁 調布市福祉事務所長
J事件被告 町田市代表者市長 Y8処分行政庁 町田市福祉事務所長
K事件被告 東京都品川区代表者区長 Y9処分行政庁 品川区福祉事務所長
L事件被告 東京都台東区代表者区長 Y10処分行政庁 台東区福祉事務所長

被告ら指定代理人 5名  被告足立区指定代理人 4名  被告墨田区指定代理人 5名  被告大田区指定代理人 3名  被告豊島区指定代理人 2名  被告新宿区指定代理人 2名  被告青梅市指定代理人 2名  被告調布市指定代理人 5名  被告町田市指定代理人 2名  被告品川区指定代理人 4名  被告台東区指定代理人 3名

■第一審判決 ■控訴審判決 ■上告審判決   ■判決一覧