性別変更訴訟(生殖腺除去要件)
第一審審判

性別の取扱いの変更審判申立事件
岡山家庭裁判所津山支部 平成28年(家)第1306号
平成29年2月6日 審判

申立人 A
手続代理人弁護士 大山知康 坪山元

■ 主 文
■ 理 由


1 本件申立てを却下する。
2 本件手続費用は,申立人の負担とする。

[1] 本件は,申立人が,申立人の性別の取扱いを女から男に変更する審判を求めた事案である。

[2] 一件記録によると,以下の事実を認めることができる。
[3](1) 申立人は,身体は女性として生まれながら心は男性という性同一性障害を有する者であるところ、ホルモン治療等により,現在は,(a)声が低くなり体毛が濃くなっていること,(b)骨格筋が発達して筋力は強いこと,(c)乳房の隆起はなく男性型であること,(d)外性器の外観は,男性型の性器に近似していることなどが認められる。
[4](2) 申立人は,当庁において,名の変更許可の審判を受け,平成26年10月23日,「B子」から「A」に名の変更をした。
[5](3) 申立人は,生殖腺の除去という身体に著しい侵襲を伴う戻すことのできない手術をすることに恐怖を覚えていること,手術をしても身体的に男性になるわけではないこと,身体的特徴を基準に性別を判断する考え方に納得できないことなどの理由から,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項4号の要件を満たすために行われる生殖腺の除去手術は受けていない。
[6](4) 申立人は,女性である申立外C(以下「C」という。)との法律上の婚姻を希望し,平成28年3月以降,C及びCの長男の3人で,申立人の住所地において同居して生活している。
[7](5) 同月3日,申立人とCは,岡山市α区長に婚姻届を提出したが不受理となったため,同婚姻届を受理すべきことを命ずる審判を岡山家庭裁判所に申し立てたが,同年8月31日,同申立てを却下する審判が出された。
[8] 申立人は,申立人が特例法3条1項4号の要件を満たしていないことを前提に,諸外国では,性別の取扱いの変更に手術を要件としない国が多くあり,身体に著しい侵襲を伴う戻すことのできない手術を要求している特例法3条1項4号は,憲法13条に違反して無効であると主張するので,以下,検討する。
[9] 憲法13条は,「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と規定しているところ,憲法制定当時には想定されていなかった性別の取扱いの変更について,その要件をどのように定めるかは,その内容が合理性を有する限り,立法府の裁量に属するものであるというべきであり,同号は,特例法が性別の取扱いの変更を認める以上,元の性別の生殖能力等が残っているのは相当でないことから定められたものと解される上,諸外国を含め,性別の取扱いの変更については様々な考え方があることなどに鑑みると,申立人が,性別の取扱いの変更に必要な手術等の医学的な安全性が確立しているとは言い切れないため,手術の後,二,三十年後も健康でいられるかは分からないなどと陳述していることを考慮しても,特例法3条1項4号が,憲法13条に違反するほどに不合理な規定であるということはできない。
[10] また,申立人は,仮に,特例法3条1項4号が憲法に違反して無効であるとはいえないとしても,同号の趣旨は,性別の取扱いの変更がされた後に,残存する元の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば,混乱や問題が生じるためこれを防止することにあると解すべきところ,申立人は,性別の取扱いを変更した後に,Cとの法律上の婚姻を約束しており,申立人が女性として子を出産する可能性は全くないことから,本件においては,申立人の性別の取扱いを女から男に変更すべきであるなどとも主張するが,これは同号に反する独自の見解であるといわざるを得ず,採用することはできない。

[11] 以上のとおりであるから,本件申立てを認容することはできないから,主文のとおり審判する。

  裁判官 柴田憲史
■第一審審判 ■即時抗告審決定 ■特別抗告審決定   ■判決一覧