日本新党繰上補充事件
第一審判決

選挙無効請求事件
東京高等裁判所 平成5年(行ケ)第108号
平成6年11月29日 民事第7部 判決

原告 松崎哲久
   右訴訟代理人弁護士 中島修三 外2名

被告 中央選挙管理会
   右代表者委員長 堀家嘉郎
   右指定代理人 野崎守 外5名

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


一 平成4年7月26日に行われた参議院(比例代表選出)議員の選挙について同選挙の選挙会が平成5年7月15日にした決定及び被告が同月16日にした告示に係る山崎順子(通称円より子)の当選を無効とする。
二 訴訟費用は被告の負担とする。

一 請求の趣旨
 主文一、二項と同旨

二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 参議院(比例代表選出)議員選挙
[1](一) 平成4年7月26日に行なわれた参議院(比例代表選出)議員(以下、この判決において参議院(比例代表選出)議員を「参議院議員」といい、これには参議院(選挙区選出)議員を含まないものとする。)の選挙(以下「本件選挙」という。)にあたり、日本新党は、左記の16名の氏名及びこれらの者の間における当選人となるべき順位を頭書番号の順とする旨を記載した名簿を本件選挙の選挙長(以下「本件選挙長」という。)に届け出て、この名簿(以下「本件日本新党届出名簿」という。)に登載されている者を本件選挙における候補者とした。
1細川護煕、2小池百合子、3寺澤芳男、4武田邦太郎、5松崎隆臣(通称松崎哲久、後に松崎哲久と改名、原告)、6小島慶三、7山崎順子(通称円より子)、8安田公寛、9横尾俊彦、10中島章夫、11藤田あや子、12川名英子、13山口和之、14大川優美子、15兼間道子、16大永貴規
[2](二) 本件選挙における日本新党の得票数は、自由民主党、日本社会党、公明党に次いで361万7246.662票である。この結果、公職選挙法(平成6年法律第2号による改正前のもの。以下同じ。右改正前の公職選挙法を「法」といい、その規定は条文のみで表示する。)95条の2の規定により、第4順位の武田邦太郎までが当選し、第5順位の原告は次点となった。

2 除名行為
[3](一) 平成5年6月18日に衆議院が解散されたことにともない、同年7月18日に衆議院議員の総選挙が行なわれることになったが、同総選挙には、細川護煕と小池百合子が参議院議員を辞職して立候補することになった。その場合には、112条2項に基づき、本件日本新党届出名簿における第5順位の者(すなわち原告)及び第6順位の者が繰り上げ当選することになる。
[4](二) ところが、日本新党の代表者である細川護煕は、平成5年6月22日、原告を同党本部に呼び出し、原告に対し、信頼関係がなくなったからとのみ述べて、名簿登載者たる地位の辞退を求めたが、原告は、同月23日、細川護煕に対しこれを拒絶する旨回答した。
[5](三) 日本新党は、平成5年6月23日、本件選挙の選挙長(以下「本件選挙長」という。)に対し、原告を日本新党から除名した旨の届出をし(以下「本件除名届出」といい、日本新党の原告に対する除名を「本件除名」という。)、本件除名届出は同月24日受理された。

3 当選人の決定と告示
[6](一) 参議院議員であった日本新党の細川護煕及び小池百合子はいずれも平成5年7月4日公示の衆議院議員の総選挙に立候補し、同日その旨の届出を参議院議長に対して行った。
[7](二) 公職の候補者となることができない公務員が、86条1項により公職の候補者として届出をしたときは、その届出の日に当該公務員たることを辞したものとみなされるため(90条)、参議院議長は、平成5年7月5日、内閣総理大臣に対して、細川護煕、小池百合子の両参議院議員が同日、同日公示の衆議院議員の総選挙に立候補する旨の届出をし、これにより両名が同日参議院議員たることを辞したものとみなされ、欠員が生じたとの通知をした(国会法110条)。そこで、同日、内閣総理大臣は、右欠員通知を受けた旨を自治大臣に対して通知し、自治大臣は中央選挙管理会に対して、内閣総理大臣から右通知がなされた旨を通知し(111条1項2号)、さらに、中央選挙管理会は、本件選挙長に対し、自治大臣から右通知がなされた旨を通知した(同条2項)。
[8](三) そこで、本件選挙長は、112条2項に従い、平成5年7月15日、本件選挙の選挙会(以下「本件選挙会」という。)を開き、本件選挙会は、本件日本新党届出名簿の登載者のうちから、第6順位の小島慶三、第7順位の山崎順子の両名を当選人と定め(以下、山崎順子を当選人とした決定を「本件当選人決定」という。)、中央選挙管理会は同月16日当選人小島慶三及び山崎順子の各住所及び氏名を告示した。

4 本件除名の違法性
[9](一) 参議院議員の選挙は、各政党の候補者の氏名とその順位が明示された名簿が公表されて行われるのであるから(いわゆる拘束名簿式)、選挙人は、各政党の政策と共にその候補者にも着目して投票態度を決定するのである。したがって、名簿登載者及びその順位は、選挙人に対する各党の公約の最重要な一部を構成するものであり、党首といえどもこれを軽々しく変更することは許されない。86条の2第6項で、当該除名の手続を記載した文書及び除名が適正に行われたことの誓約書の添付が求められているのも、この趣旨を認めたからにほかならない。
[10] しかるに、日本新党は、細川護煕の個人的感情のみから、何ら公党に要求される適正な手続によらず、かつ、正当な理由なく原告を除名したものであり、かかる除名は恣意的な右名簿の順位を変更するものであって、選挙人を愚弄するものであるのみならず、憲法と公職選挙法の精神にも反するものであって、断じて許されるものではない。
[11](二) 日本新党は、平成4年10月付「党則」(以下「本件党則」という。)に依拠して本件除名の手続を行ったと推測される。
 しかし、
[12](1) 本件党則は、86条の2第2項により、本件選挙につき日本新党が本件選挙長に対して提出した党則と異なっている。しかも、本件党則は、何ら党則制定の権限を有しない執行部会で決議されたものに過ぎず、到底有効なものとはいえない。
[13] 次に、本件党則は、その13条において、除名について、次のとおり定めている。
「第13条 本党の党員が、次の各号の一に該当することとなったときは、常任幹事会の決議により除名することができる。
1 本党の目的に著しく反する行為をなし、または、党員として不名誉な行為をしたとき
2 前号のほか、党員としての適格性を著しく欠くと認められるに至ったとき」
[14] これが除名手続に関する規定の全てであるが、政党の党員に対する極刑処分にあたる除名についての手続規定であるのに、本件党則にはいわゆる告知・聴聞及び不服申立ての適正手続を定めた規定が存在しない。
[15] 例えば、自由民主党は、その党則において、党員に対する除名を含む賞罰に関しては、決議要件の加重(自由民主党党則(昭和58年1月22日改正前のもの。以下同じ。)第66条2項)、再審査請求手続(同条3項、4項)、本人に弁明の機会を与えること(同68条3項)等の適正手続を保障する規定を設けており、これと比較すると、本件党則の除名についての手続規定は著しく不備である。
[16](2) 仮に、本件党則に除名手続についての告知・聴聞等の適正手続の規定が明文の規定として存在しなくとも、除名手続については条理上適正手続(告知・聴聞等)は当然に要求されるべきものであるが、原告に対し、除名に関し事前に何ら告知がなく、弁明の機会も全く与えられなかったばかりでなく、不服申立ての機会も与えられなかった。
[17](3) 加えて、原告は当時常任幹事であったにもかかわらず、原告に対し、本件除名の決議をしたとされる平成5年9月23日開催の臨時常任幹事会(本件党則13条)の招集通知がなされなかったものであり、また、そもそも原告の除名問題を協議したとされる党紀委員会には、委員でない細川護煕が出席しており、右委員会の決議には重大な瑕疵があり、さらに、臨時常任幹事会も有効に成立していないうえ、右常任幹事会における決議は投票によることが必要なところ、本件除名の決議は投票による表決が行われていないのであるから、本件除名決議は不存在であるか無効というべきである。
[18](三) また、本件除名には除名の実体的理由もない。日本新党が挙げる除名事由は、事実に反し、除名に値するものではない。細川護煕と原告との前記の会合でも、細川護煕は辞退勧告の理由として具体的事実を何ら述べず、信頼関係がなくなったと述べただけである。要するに、細川護煕及びこれを取り巻く日本新党の幹部の一部が原告を気に入らなくなった、というだけである。原告に本件党則13条の著しい反党行為等に該当する事由もないことはいうまでもない。
[19](四) 以上のように、本件除名は、存在しないか、又は手続的には適正を著しく欠き、また、実体的には除名理由はなく、違法なものであって無効というべきである。

5 本件当選人の決定の無効
(一) 本件選挙長及び選挙会の審査
[20] 憲法の要請する民主制の原則から、「拘束名簿式比例代表制」のもとにおいていったん届出名簿に基づいて投票がされた後に名簿登載者の順位を変更することは認められず、除名を濫用することによって国民の政治意思が排除されることは許されない。本件除名はまさに選挙によって国民が選出した公職者を変更するためになされたものであり、公党たる政党の一部権力者による恣意的で違法な除名により、国民の審判を経た拘束式名簿の順位変更がなされるということは許されない。
[21] 法が「当該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の宣誓書」を要求し、虚偽の宣誓に対し罰則を定めている趣旨は、除名の適正を担保する目的に基づくものであり、除名届出の受理及び当選人決定にあたって、「当該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の宣誓書」を審査するためには、選挙に際し届け出られた名簿、党則等との照合は不可欠であり、選挙長及び選挙会は、これらを照合して審査する義務を負うところ、本件選挙長及び選挙会は、本件除名届出の受理及び当選人の決定にあたって、右の審査をしておらず、本件選挙会の本件当選人決定には、右審査義務を尽くさなかった違法がある。
[22] 選挙長及び選挙会は、除名事由につき実質的な審査まですべきでないとしても、除名届出の受理や当選人決定にあたっては、右のような審査をすることは当然に要求されているところ、本件選挙長、殊に本件選挙会は右審査義務を怠り、結果的に違法な除名届出に基づく違法な当選人決定をした。
[23](二) そして、先行する私人の行為を前提としてなされる行政行為は、その私人の行為に無効の瑕疵がある場合、当然に瑕疵を帯びると解されるから、政党という私人の行為を前提とする行政行為(当選人決定)につき、事後的に私人の行為の瑕疵が判明した場合には、これを前提とする行政行為も瑕疵を帯びるものというべきである。
[24] 本件除名は、重大な手続的瑕疵があり、また、実質的除名事由も何ら存在しなかったのであるから、本件除名は無効であり、このような無効な除名を前提としてされた本件除名届出もまた無効である。したがって、本件除名及び本件除名届出が有効であることを前提としてされた本件当選人決定も瑕疵を帯びるものというべきである。

[25] 以上のとおり、日本新党の細川護煕と小池百合子が参議院議員を辞したことにともなう繰上補充としては、先ず第一に本件日本新党届出名簿の第5順位の原告、次いで同第6順位の小島慶三が当選人として定められなければならない。したがって、同第7順位の山崎順子を当選人とする本件選挙会の決定は、当選人となるべき順位にない者を当選人としたものであり、無効というべきである。
[26] よって原告は被告に対し請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
[27] 請求の原因1の事実は認める。
[28] 同2の事実中、(一)及び(三)は認め、(二)は知らない。
[29] 同3の事実は認める。
[30] 同4ないし6は争う。
[31] 昭和57年の公職選挙法の改正により参議院議員選挙に導入されたいわゆる「拘束名簿式比例代表制」は、憲法上も予定され、議会制民主主義のもとにおける現代の国政において重要な役割をもつ政党の政策の当否を真正面から国民に問う政党本位の選挙制度の実現を目的とするものであり、その内容としては、国民に対して責任を有する各政党が、自己の責任において順位を付した候補者の名簿を作成して国民の審判の対象とするものである。また、政党は、本来、市民社会において自由に組織され、自由に活動すべきものであり、そのような自由が確保されてこそ国民の多様な政治的意思の真の意味での統合なり組織化が可能となり、国民と国会とを結び付ける媒体としての機能の発揮が可能となるのであるから、政党の内部秩序への国家権力としての法の介入は十分慎重でなければならない。したがって、拘束名簿式比例代表制において、特にその根幹をなす名簿の作成については、各政党が全責任を持って行うべきものであり、国家権力がそれに介入することは、厳に慎むべきものである。すなわち、どのような者をどの順位において名簿登載者とするかという「選定基準」については、各政党がその政党の政策の実践者・推進者として優れた者を名簿登載者として選定すべきであり、これについての判断は、まさにその政党のみがなしうるものであるため、法律が関与すべきものでないことは明らかである。次に、「選定基準」に基づく政党の判断をどのように決定するかという「選定手続」についても、それが民主的であるべきであるのは当然であるが、具体的にどのような手続が民主的であり、かつ、その政党にとって最もよく機能するものであるかということは、選定手続があくまで政党の内部行為であるという点からも、その政党の内部秩序の基本としてその政党自身が決定すべきである。また、名簿届出要件を充足する政党は、国民と国会とを結び付ける媒体としての機能を果たす政党であると考えられることから、その責任において民主的な選定手続を定めるべきものである。ただ、拘束名簿式比例代表制において、政党における名簿登載者を選定するための手続が重要な意義を有するものであることは事実であるから、これを単なる政党の内部的な事柄にとどめてしまわないために、名簿の届出の際の添付書類として、「名簿登載者の選定及びそれらの者の間における当選人となるべき順位の決定を当該政党その他の政治団体において行う機関の名称、その構成員の選出方法並びに名簿登載者の選定の手続を記載した文書並びに当該名簿登載者の選定を適正に行ったことを当該機関を代表する者が誓う旨の宣誓書」を定め(86条の2第2項6号)、基本的にはどのような選定手続によるかは政党の自由に委ねることとしつつ、選定手続を名簿の届出の際に選挙長に届け出させることにより、選定手続を明らかにすること及びその選定手続における最終決定機関の代表者にその適正を宣誓させることによって、選定手続の形式的公正の確保に資することとしたのである。
[32] 以上のとおり、拘束名簿式比例代表制の名簿の作成については、各政党が全責任を負うものとし、国(管理執行側)の介入を極力排しているものである。名簿の届出の受理の際、選挙長が形式的審査しか行うことができないのも、右の趣旨の制度化であるということができる。実際、日本新党が平成4年7月26日に行われた参議院議員選挙において名簿を届け出た際にも、本件日本新党届出名簿の登載者の選定手続について、それがどのような手続でなされたのか、提出された規約のどこに規定されているのか等の手続の内容に関することについては全く審査の対象とはされず、宣誓書の添付をもって適正要件は充足しているものであると判断され、当該名簿は受理されているところである。

[33]2(一) 次に、政党が行う「除名」の届出についても、名簿の届出について右に述べたことがそのまま当てはまる。すなわち、どの名簿登載者を除名するかは、国民に対して責任を有する政党が自己の責任においてのみ判断しうることであることは当然であり、また、除名の手続についても、具体的にどのような手続を定め、それを実践するかについては、当該手続があくまで政党の内部事項であるという点からも、その政党の内部秩序の基本としてその政党自身がその責任において決定すべきであることは明らかである。したがって、除名の届出については、除名行為を行った政党自らが、その責任において行うべきものである。ただ、政党が行う手続の適正確保に資するため、名簿の選定におけるのと同様、「当該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の宣誓書」を除名の届出の添付書類として定め(86条の2第6項)、除名手続を明らかにすること及びその手続における最終決定機関の代表者にその適正を宣誓させることによって、除名手続の形式的公正の確保に資することとしたのであり、選挙長については右形式的審査のみを行うこととしているのであって、選挙長は形式的審査権のみを有し、実質的審査権を有しないのである。したがって、除名については、たとえそれが政党内部すなわち政党と当該被除名者との間においてその有効性について争いがあるとしても、また仮に、結果としてそれが無効であったとしても、国民に対して責任を有する公党である政党が自己の責任においていったん行った除名を、所定の添付書類を付し所定の記載事項を記載して形式上適正に選挙長に届出をなし、選挙長の形式的審査の結果その届出が有効に受理されれば、その届出行為は対選挙長との関係においては適法有効なものとなるのは当然である。したがって、その後の比例代表の繰上補充のための選挙会の当選人の決定も当然適法なものとなる。
[34](二) 本件除名届出は、参議院議員細川護煕と同小池百合子が衆議院議員の総選挙に立候補したことにより参議院議員の欠員が生じた日より前の平成5年6月23日、日本新党事務局長永田良三から、本件選挙における本件日本新党届出名簿の登載者である原告は同日除名により日本新党に所属する者でなくなった旨の記載のある届出、原告の除名に係る決定機関につき「日本新党常任幹事會」、除名手続につき「本党の党紀委員会の審査を経て党則13条により常任幹事会の決議により除名決定」との記載のある除名手続に関する文書並びに右除名が右機関及び右手続により適正に行われたことを誓う旨の日本新党代表者細川護煕の記名押印のある宣誓書を提出することによって行われた。本件選挙長は、本件除名届出について所定の書類がそろっているか、かつ、これらの書類に法定記載事項が記載されているかの点について、形式的審査を行った結果、所定の添付書類、所定の記載事項に不備がなかったため、適法有効に受理したものである。その際、選挙長が行う必要があったのは、除名届出書、除名手続に関する文書及び宣誓書の具備を形式的に審査することだけである。本件除名について内部でどのように話し合われ、本件除名を決定した機関に誰と誰が出席したのか、そしてそれが真実であるのかどうか等を具体的に確認し、もし確認されなければその除名を認めないというような、内容に立ち入る実質的審査を選挙長は行う権限はないのである。したがって、当該除名届出の受理は、政党内部の除名行為の効力とは全く関係なく判断されるべき問題である。仮に、政党内部の除名行為の有効無効と、選挙長の形式審査による有効無効の判断が連関するものとすれば、結果として、法的安定性の面から選挙長は除名届出の際にその有効無効を実質的に判断せざるを得なくなるが、そのような考え方は、政党に責任を負わせ、政党内部への国家権力の介入を排する拘束名簿式比例代表制の考え方を根幹からくつがえすものといわざるをえず、法もこれを予定していない。すなわち、日本新党の除名行為の無効を訴える原告の主張は、日本新党を被告として行うのであれば格別、中央選挙管理会に対して行うことはできず、失当である。

[35] 以上のとおり、本件選挙長が本件除名届出を受理した行為及び本件除名届出がなされた原告を除いて行った本件選挙会の本件当選人決定のいずれにも、何ら違法な点はなかったものであり、無効事由は存しないので、原告の請求は理由がないものというべきである。

[1] 請求の原因1の事実、同2(一)及び(三)の事実並びに同3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

[2] 原告は、本件除名は不存在又は無効であり、したがって、本件当選人決定も無効である旨主張するので、以下の右主張について、判断することとする。

[3]1(一) 参議院議員の選挙について、当選人が90条の規定により参議院議員を辞したものとみなされ、参議院議員の欠員が生じた場合には、その議員に係る名簿の名簿登載者で当選人とならなかったものがあるときは、その者の中から、その名簿における当選人になるべき順位に従い当選人が決定されるが(112条2項)(以下「繰上補充による当選人の決定」という。)、名簿登載者で当選人とならなかったものにつき除名により当該名簿届出政党等に所属する者でなくなった旨の届出(以下「除名届出」という。)が、文書で、右欠員が生じた日の前日までに、当該選挙の選挙長にされているときには、これを当選人と定めることはできないとされている(112条4項、98条2項前段)ため、当該選挙の選挙会は、除名届出がないとすれば被除名者を当選人を決定すべきときであっても、除名届出がされたため被除名者より下の順位のものを当選人と決定することになる。
[4] 法は、除名届出につき、除名が真正に行われたことを担保するため、当該政党又はその他の政治団体(以下、まとめて「政党」という。)は、112条4項、89条2項前段所定の「文書」(以下「除名届出書」という。)のほか、112条4項、98条3項、86条の2第6項所定の「当該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の宣誓書」(以下「除名手続書及び宣誓書」という。)を選挙長に対し提出すべきものと定め、また、右宣誓書において虚偽の誓いをした者に対しては罰則の規定(238条の2)を設けているが、他方、選挙長が右除名届出書、除名手続書及び宣誓書を受理するにあたっても、また、選挙会が繰上補充による当選人の決定をするにあたっても、政党の所属員の除名の有無若しくはその効力について、実質的な審査をする権限若しくはそのような審査をすべき義務を定めた規定及びそのための手続規定を設けていないことに鑑みると、選挙長は、右受理にあたって、除名届出書、除名手続書及び宣誓書の有無並びにこれらの文書の法定記載事項(公職選挙法施行規則12条の3第2項所定の別記23号様式の11、別記23号様式の12)の記載の有無を審査し、これらがいずれも具備されており、かつ、右各文書が前示法定の日までに提出されている限り、それを受理すべきであり、また、選挙会は、右受理がされている限り、右被除名者を当選人と定めることができないものとして、繰上補充による当選人の決定をすべきものである。
[5] 法が、このように、選挙長の当該除名届出についての審査事項及び選挙会の繰上補充による当選人の決定についての審査事項をいずれも形式的な事項にとどめているのは、政党が憲法21条1項の結社の自由保障規定により最大限の自治ないし自律が保障されているところから、政党のその所属員についての規律にかかわる除名については、行政庁において、当該政党の自治規範における除名手続に関する記載及びかかる手続に基づいて除名がされたことの記載のある前示書面等を尊重し、右除名届出の効力につき形式的に判断することを許容するともに、これにより行政権による政党への不当な介入又はそのおそれが生じるのを排除するためであると解される。

[6](二) 本件において、前示争いのない事実、《証拠略》によると、日本新党は、参議院議員細川護煕及び同小池百合子が参議院議員を辞したものとみなされた日である平成5年7月4日より前の同年6月23日に、本件選挙長に対し、本件除名の届出をしたこと、本件除名届出は、本件選挙における本件日本新党届出名簿の登載者である原告は同日除名により日本新党に所属する者でなくなった旨の記載のある届出書をもってされ、右届出書には、原告の除名に係る決定機関につき「日本新党常任幹事會」、除名手続につき「本党の党紀委員会の審査を経て党則13条により常任幹事会の決議により除名決定」との記載のある除名手続に関する文書並びに右除名が右機関及び右手続により適正に行われたことを誓う旨の日本新党代表者細川護煕の記名押印のある宣誓書が添付されていたこと、右各書面には前示法定の記載事項がすべて記載されていたこと、本件選挙長は、これを確認したうえ同月24日本件除名届出を受理し、これに基づき、本件選挙会は、本件日本新党届出名簿に第5順位として記載されていた原告を当選人と定めることができないとして、それより下の順位にあった山崎順子(通称円より子)を当選人とする本件当選人決定をしたことを認めることができる。
[7] 右認定の事実によると、本件選挙長の本件除名届出の受理にあたっての審査に義務違反があったとはいえず、また、本件選挙会のした本件当選人決定に係る判断それ自体に過誤があったとはいえないものというべきである。

[8] しかしながら、繰上補充による当選人の決定にあたり、当該名簿の名簿登載者につき当該政党から除名届出がされたため、被除名者より下位の名簿登載者を当選人とした決定は、除名が不存在又は法律上無効であるときには、その効力を有しないものに帰すると解すべきである。その理由は、以下のとおりである。

[9](一) 法が、前記1(一)においてみたような選挙長及び選挙会による審査並びに虚偽の宣誓者に対する罰則の制度のほか、参議院議員の当選の効力に関する訴訟(以下「当選訴訟」という。)を設けている(208条)のは、1条所定の「日本国憲法の精神に則り」「参議院議員……を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保し、もって民主政治の健全な発達を期する」という目的(1条)を実現し、法の定める選挙秩序を維持するため、当選訴訟を通じて、右選挙長及び選挙会による審査並びに罰則のみによっては必ずしも達成されない選挙秩序の実質的な維持・実現を図ることにあるものというべきであるから、当選訴訟における当選無効事由の解釈にあたっても、当選訴訟の設けられた右趣旨・目的を考慮することを要するものというべきである。
[10] 法は、当選の効力を排除しそれを無効とすべき事由として,208条2項において、参議院議員の当選につき名簿届出政党等に係る当選人の数の決定に過誤の存する場合に当選無効のありうることを規定していると解されるほかは、具体的な規定を設けていないが、参議院議員の当選訴訟において当該当選を無効とすべきであるのは、当該選挙の選挙会が名簿の登載者の順位を誤って当選人を決定した等当選人決定についての選挙会の判断それ自体に過誤がある場合はもとより、前記のような当選訴訟の趣旨・目的を考慮すると、右のような選挙会の判断それ自体に過誤がなくても、その判断の前提ないしは基礎をなし、かつ、当該選挙の基本的秩序を構成している事項が法律上欠如していると認められ、したがって、選挙会の当選人の決定の効力がその存立の基礎を失い無効と認めるべき場合も含まれるものと解するのが相当というべきである。
[11] したがって、選挙会の当選人の決定に係る判断それ自体に過誤がない限り、当然に、当該被除名者を当選人と定めることができないものとしてされた当選人の決定が有効となるものではないというべきである。

[12](二)(1) 一般的に、行政行為が私人の行為を前提として行われる場合において、当該私人の行為が不存在又は無効であるとき、右行政行為の効力にどのような影響を及ぼすと考えるべきかは、私人の行為の法的性質、当該行政過程において占める私人の行為の重要性等を考慮して判断することを要するものと解すべきであり、私人の行為であっても、それが公的性質を有すると認められるほどに行政行為と深い関連性を有し、当該行政過程において占める位置が重要なものであって行政行為の実質的要件を構成しているものと認められる場合において、私人の行為が不存在又は無効であるときは、行政行為それ自体に行政庁の判断過誤等の瑕疵がなくても、行政行為は無効であると解すべきである。
[13](2) そして、国家公務員である国会議員の選定過程は、公的ないし国家的性質を有するものであることはいうまでもないところであり、ことに、拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙においては、86条の2第1項1号ないし3号所定の要件の全部又はそのいずれかを具備する政党又はその他の政治団体は、右の要件のいずれをも具備しない個人又は政党等には認められない特別の地位若しくは権限を付与され、この地位に基づき若しくはその権限の行使として同条1項柱書所定の名簿に登載すべき候補者たるべき者の選定及びそれらの者の間における当選人となるべき順位の決定(以下、両者をあわせて「名簿登載者の選定」という。)をするものであって、この名簿登載者の選定は、公的ないしは国家的性質の強いものというべきであるのみでなく、当選人は、実質的には、政党の名簿登載者の選定と当該選挙において当該名簿届出政党の得票数によって定まるものであるから(95条の2)、政党の名簿登載者の選定は、拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙においては、その選挙機構の必要不可欠かつ最も重要な一部を構成しているものであって、当選人決定の実質的な要件をなしているものというべきである。右のことは、法が、名簿登載者の選定については、それが公正に行われるように、名簿届出の際に、名簿登載者の選定手続を記載した文書及び選定機関の代表者の選定を適正に行った旨を誓う宣誓書を届出させることによって(86条の2第2項)選定手続の形式的公正さの確保を図っているのみならず、右宣誓書において虚偽の誓いをした者に対する罰則(238条の2)に加えて、特に名簿登載者の選定に関し受託収賄罪を設けて(224条の3、なお、拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙以外の国会議員の選挙についての候補者に関する政党のいわゆる公認については、このような罰則は設けられていない。)実質的な公正を担保することを企図していることからも明らかであるというべきである。
[14](3) そしてまた、政党の名簿登載者についてする除名は、名簿登載者を変更することにほかならないものであり、名簿登載者の選定が公正に行われたとしても、名簿登載者の除名が存在しないか又はそれが当該政党の規則、綱領等の自治規範に従ったものでない等のため無効と認めるべきときにおいても、当該選挙の選挙長に対し、法定の事項が記載されている除名届出書並びに除名手続書及び宣誓書が提出されたことのゆえのみをもって、被除名者を当選人と定めることができないとすることは、実質的な公正さを損なう結果を招来することは明らかである。のみならず、拘束名簿式比例代表制のもとにおいては、選挙人は政党に対して投票するものであるが(46条2項)、憲法43条1項の規定上議員個人を選ぶ選挙であるとの基本的枠組みを維持するため、選挙人の右政党の選択は名簿登載者及びその順位をも考慮してされるものであり、法的にもこれが保障されているものであるところ(167条2項、175条1項等)、いったん届け出られた名簿に基づいて投票が行われた後においてされる政党の除名は、各簿登載者及びその順位をも考慮してされた選挙人の右投票についての意思(ちなみに、本件選挙における日本新党の得票数は前示のとおり361万余にも及ぶ。)をも無視することとなるものであるから、名簿登載者の選定についての法的性質及び拘束名簿式比例代表制のもとにおける参議院議員の選挙機構において占めるその重要性、右選定が当選人決定のための実質的要件をなしていると解すべきであることについての右(2)の説示の趣旨は、当該名簿に基づいて投票がされた後においてされる政党の名簿登載者についての除名、ひいてはこれを前提としてされる当選人の決定については、より一層強く妥当するものというべきである。
[15](4) ところで、《証拠略》によると、わが国における代表的な政党の多くは、その所属員の除名については、除名要件を具体的に定め、程度の差はあるが、民主的、かつ、手続的正義に合致する公正な除名手続を定めていることが認められるところ、拘束名簿式比例代表制が立法化された際の第96回国会の論議を見ると(第96回国会参議院公職選挙法改正に関する特別委員会会議録第15号12頁以下参照)、法は、政党がその所属員を除名するについては、その規則、綱領等の自治規範において、除名要件並びに民主的かつ公正な除名手続を具体的に定め、それに従って当該除名が行われることを当然の前提としているものというべきであり、このことは、法が、前示除名手続書及び宣誓書についての規定において、「除名手続」「除名が適正に行われたこと」との文言を用いていることからも明らかである。
[16](5) したがって、政党の名簿登載者についてした除名が存在しないか又は無効である場合には、選挙会が、除名手続書及び宣誓書に基づいて、右除名が存在し、かつ、有効であることを前提としてされた繰上補充による当選人の決定は、その存立の基礎を失い、無効に帰するものと解すべきである。

[17](三) ところで、(1)政党がしたとするその所属員の除名が不存在であるといえるのは、当該政党の規則、綱領等の自治規範のもとにおいて、政党の団体意思としてその所属員の除名を決定する権限を有するとされている機関(以下「除名機関」という。)により、当該除名の決定がされたことのない場合をいうものと解すべきであり、(2)また、除名が無効であるといえるのは、(a)当該除名につき右自治規範所定の除名要件に該当する具体的事実がないとき、除名機関の構成員につき224条の3に該当するような事実があるとき若しくは強迫がされたとき等当該除名を決めた除名機関の構成員の意思形成過程に瑕疵があり、これが重大である場合、(b)当該除名が右自治規範により除名のために遵守すべきであるとされている手続に従ってされなかった場合、又は(c)当該除名が政党の自治規範の定める除名のために遵守すべきであるとされている手続に従ってされても、右規範において、除名すべき者(以下「除名対象者」という。)につき除名手続における主体としての地位を承認して参加させ、除名対象者に対し、除名要件に該当する具体的事由を予め告知したうえ、それにつき除名対象者から意見を聴取し又は除名対象者に反論若しくは反対証拠を提出する機会を与える等民主的かつ公正な適正手続が定められておらず、かつ、当該除名がこのような手続に従わないでされた場合にいうものと解すべきである。
[18] 右(2)(c)の場合、すなわち、政党が民主的かつ公正な適正手続を実質的に保障しない手続のもとにおいてしたその所属員に対する除名を無効と解すべきかどうか、換言すれば、政党に対し、その自治規範が定めていない民主的かつ公正な適正手続を遵守すべきものとし、これに従わないでされた除名を無効と解すべきかどうかは、前記のように政党には憲法21条1項により最大限の自治ないしは自律が保障されていることとの関係上、慎重に検討することを要するものというべきであるが、拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙において、いったん届け出られた名簿に基づいて投票が行われた後における名簿登載者に対してする当該政党の除名については、民主的かつ公正な適正手続を遵守すべきものとし、これに従わないでされた除名は、これを無効と解するのが相当というべきである。
[19] けだし、(1)法は、繰上補充による当選人の決定のための事由の一つである政党の名簿登載者に対する除名については、当該政党が除名のためにその自治規範において民主的かつ公正な手続を定め、それに従ってなされるべきことを予定しているものと解されることは前記のとおりであって、このような手続のもとにおいて右の除名がなされるべきであることは、法が拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙について予定する選挙秩序の一部をなしているものというべきであるから、当該政党の自治規範が右のような法の予定する除名手続を定めていないときには、当選訴訟において、民主的かつ公正な適正手続に基づいて右除名の効力を判断することは法の趣旨・目的に合致するものというべきであり、(2)また、現在における政党は、公共的任務又は役割を担った存在であり、その組織はもとより、所属員に対する規律・統制等も民主的であるべきものであり、なかんづく、拘束名簿式比例代表制による参議院議員の選挙において、86条の2第1項1号ないし3号所定の要件の全部又はそのいずれかを具備した政党にのみ認められる特別な地位又は権限に基づき、当該政党が名簿登載者の選定をし、その届出に係る名簿に基づいて投票が行われた後においては、右名簿登載者について当該政党のする除名は、前示のように国家公務員である国会議員の選定過程の最も重要な一部に関わるものであって、公的ないしは国家的性質を有し、単に政党の内部事項にとどまるとはいえないものというべきであるから、少なくとも右の除名を行うにあたっては、当該政党が、除名対象者に当該手続の主体としての地位を与えて参加させ、除名対象者に対し前記のような告知・聴聞の機会を与えることは、除名手続が民主的かつ公正なものであるためにも、また、除名が除名事由に該当する真実の事実に基づいてされることを保障するためにも、必要不可欠なものというべきであり、したがって、右除名にあたり、除名対象者を当該手続の主体とし、これに対し告知・聴聞の機会を与えることは、最大限の自治ないしは自律が認められるべき政党においても遵守されるべき公序というべきであり、これが遵守されなかったときには、政治的批判の対象ないしは政治責任の問題であるにとどまらず、当該除名は公序良俗に反する無効なものと解するのが相当だからである(最高裁昭和63年12月20日第3小法廷判決・裁判集民事155号405頁参照)。

[20](四) 当選訴訟において、政党のその所属員に対する除名についてであっても、右のような観点からないしは判断基準のもとにおいて、右除名の存否又は効力を審理判断することは、当選訴訟の前記趣旨・目的に合致するものというべきであり、司法判断適合性に欠けるところもないものというべきである。そして、当選訴訟において審理判断すべき事項を司法判断適合性を有するものに限定する限り、司法による政党の自治ないしは自律に対する不当な介入又はそのおそれはないものというべきである。

[21](五) 被告は、本件選挙長に審査義務違背がなく、また、本件選挙会の判断それ自体に過誤がない以上、本件当選人決定は無効とはいえない旨主張するが、以上説示の理由から、右主張は採用することができない。

[22](六) なお、本件訴訟において、日本新党及び山崎順子は当事者ではないが、右両名はいずれも本件訴訟に参加することができたものであり、また、職権に基づく証拠調べにより、事実関係を明らかにすることができるから、右両名が本件訴訟の当事者でないことは、本件訴訟において、日本新党が原告に対してした除名の効力につき判断する妨げにはならないものというべきである。

[23] そこで、以上の観点に立って、本件につき検討を加えることとする。

[24](一) 前示争いのない事実、《証拠略》によると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
[25](1) 日本新党の本件党則(平成4年10月22日制定、同年11月1日施行)によると、党員は、(1)退会、(2)死亡、(3)除名によってその資格を失い(11条)、除名については、次の各号((1)党の目的に著しく反する行為をなし、または、党員として不名誉な行為をしたとき、(2)前号のほか、党員としての適格性を著しく欠くと認められるに至ったとき)の一に該当することとなったときは、常任幹事会の決議により除名することができる(13条)旨を定めているが、これらの条項以外に除名に関する規定は存在しない。
[26](2) 日本新党の代表者細川護煕は、平成5年6月22日、原告に対し、信頼関係がなくなったことを理由とし、かつ、これのみを理由として、参議院比例代表の名簿登載の順位を辞退するよう申入れたところ、原告は細川護煕に対し、翌23日、辞退しない旨回答した。
[27](3) その後の平成5年6月23日午前11時20分から11時50分まで、日本新党は、党紀委員会を招集し、党本部会議室で、武田、金成、小池、寺沢、永田の各委員と細川護煕(オブザーバー)が出席して、会議が開催され、永田委員(事務局長)から、原告について、(a)党幹部としての不適当な言動、(b)衆議院議員への立候補及び辞退の経緯及び(c)役員会での審議状況の外部への漏洩等の行為について説明があり、党則13条2号所定の党員としての適格性を著しく欠くと認められる場合に当たるとして、除名処分とすることについて提議され、全員一致で原告を除名することが決定され、次いで、臨時常任幹事会が招集され、同日午前11時50分から、同所で、細川護煕のほかに、大川、金成、小池、武田、寺澤、中島、永田、藤田及び山口の各常任幹事が出席して、会議が開催され、永田常任幹事から、党紀委員会の議事内容について説明された後、原告を除名することが諮られ、出席者全員一致で原告を除名すること(本件除名)が決定された。そして、日本新党は、同日、原告について、前示の記載のある「名簿届出政党等に所属する者でなくなった旨の届出書」を「除名の手続に関する文書及び宣誓書」とともに本件選挙長に対し提出し、同月24日受理された。(なお、右(b)の事由は、平成5年7月18日に行われる衆議院議員の総選挙につき原告が神奈川2区から立候補したい旨日本新党に申し出ながら、その後間もなく辞退したという客観的に存在した事実に係るものであるが、右(a)及び(c)の各事由は、いずれも確たる証拠に基づく事実に係るものとはいえないものであった。)
[28](4) 原告は、平成5年6月24日の夜、永田事務局長から、電話で「常任幹事会で除名に決した」旨を伝えられたが、本件除名の処分を受けるにあたって、除名手続において主体としての地位はもとより、客体としての地位すら与えられることなく、また、日本新党の除名機関である党紀委員会及び常任幹事会から、除名要件に該当する具体的事由について予め告知を受けたことはなく、これに対して弁明、反論、証拠を提出する等の機会も全く与えられなかった。

[29](二) 右認定の事実に照らすと、本件除名が日本新党の自治規範である党則に定める除名に関する手続に一応従ってなされたといえるが、日本新党の本件党則の除名に関する規定は、除名対象者を除名手続における主体としての地位を承認して参加させ、除名対象者に対し、除名要件に該当する具体的事由を予め告知したうえ、それにつき除名対象者から意見を聴取し又は除名対象者に反論若しくは反対証拠を提出する機会を与える等民主的かつ公正な適正手続を定めておらず、かつまた、本件除名が民主的かつ公正な適正手続に従ってなされたものでないことは、前記認定のとおりであるから、本件除名は公序良俗に反する無効なものというべきである。

[30](三) 以上のとおり、本件除名は法律上無効というべきであるから、これが有効であることを前提としてされた本件選挙会の本件当選人決定は、その存立の基礎を失い無効に帰するものというべきである。
[31] したがって、平成4年7月26日に行われた参議院(比例代表選出)議員の選挙について本件選挙会が平成5年7月15日にした決定及び被告が同月16日にした告示に係る山崎順子(通称円より子)の当選は、これを無効とすべきものである。
[32] なお付言するに、当選人の当選を無効とする判決の効力は、その確定のときから将来に向かって生じるものであり、遡及効を有するものではないと解すべきであるから(傍論ではあるが、最高裁昭和24年3月19日第2小法廷判決・民集3巻3号74頁参照)、本判決は、その確定の時までの間における山崎順子の参議院議員としての法的地位、権利・義務又は活動の効力等につき何ら影響を及ぼすものではない。

[33] 以上説示のとおり、原告の本訴請求は理由があるものというべきであるから、これを認容すべきである。

[34] よって、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

  東京高等裁判所第7民事部
  裁判長裁判官 柴田保幸  裁判官 伊藤紘基  裁判官 滝澤孝臣

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