私はアポトーシス細胞でおこる染色体DNAの分解現象に注目して研究を開始、次いで細胞分化過程でおこるDNA分解にも着眼し、長らく不明であった各局面におけるDNA分解の分子機構及び生理的意義を世界に先駆けて解明ました。
まず私は死細胞のDNA分解が二段階の機構によっておこることを明らかにしました。すなわちDNAは始めに死細胞内のDNA分解酵素CADによりヌクレオソーム単位に切断され、続いて死細胞が貪食された後に、貪食細胞内のリソソームに存在するDNaseIIによってヌクレオチドにまで分解されることを示しました。次いで細胞の分化過程でもDNA分解がおこることに着目し、造血時に赤血球前駆細胞から脱核した核はマクロファージに貪食され、DNaseIIがそのDNAを分解することを明らかにしました。一方レンズ細胞の分化過程で失われる核DNAは、レンズ細胞特異的に発現する分解酵素DLADが分解することを示しました。そしてこれらDNA分解酵素の欠損マウスが様々な疾患を発症することを見出しました。すなわち細胞死や造血過程でのDNA分解が妨げられると、マクロファージに未分解DNAが蓄積して自然免疫が活性化され、インターフェロンやTNFの構成的産生によって胸腺の発達不良、致死性貧血や関節炎が発症することがわかりました。一方レンズ細胞にDNAが残存すると白内障が発症しました。さらにDNaseII欠損マウスで発症する関節炎が関節リウマチと多くの類似点を持つことを明らかにし、TNF, IL-1, IL-6の相互発現誘導機構が関節炎の発症及び維持に必須の役割を担うことを示しました。
私のこれまでの研究は、細胞死では “細胞が死ぬこと”に加え、DNA分解など “死後に適切に処理される過程”も同等に重要であることを示し、細胞死の理解に新たな枠組みを加えました。免疫分野では、自己DNAが自然免疫を活性化し 慢性炎症を導くことを示して大きなインパクトを与えました。一連の成果は、リウマチなど原因が明らかではない疾患について発症機序の理解に貢献すると共に 有用な疾患モデル動物を提供しました。
DNaseII 欠損マウスは、DNAの蓄積を指標に生体内でおこる細胞死を高感度で検出するツールともなります。これを利用した解析において、ターンオーバーによって盛 んに細胞が失われる腸上皮ではDNAの蓄積が観察されなかったことより、上皮細胞は貪食されることなく組織から剥離し、管腔に脱落して死を迎えることがわ か。この細胞脱落は、アポトーシスともネクローシスとも異なる未解明の細胞終焉であることに着眼して細胞脱落研究に着手しました。