警備業法欠格事由違憲判決
上告審判決

地位確認等請求事件
最高裁判所 令和5年(オ)第360号、令和5年(受)第445号
令和8年2月18日 大法廷 判決

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官林道晴の補足意見
■ 裁判官岡正晶の補足意見
■ 裁判官石兼公博の補足意見
■ 裁判官安浪亮介の意見
■ 裁判官三浦守の反対意見
■ 裁判官尾島明の反対意見
■ 裁判官宮川美津子の反対意見
■ 裁判官高須順一の反対意見
■ 裁判官沖野眞已の反対意見


1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2 第1審判決中上告人敗訴部分を取り消す。
3 前項の取消部分に関する被上告人の請求をいずれも棄却する。
4 第1項の破棄部分に関する被上告人の附帯控訴を棄却する。
5 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

[1]1 令和元年法律第37号(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律。以下「一括整備法」という。)による改正前の警備業法14条、3条1号の規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由の一つとして定めていた(以下、上記規定のうち被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めた部分を「本件規定」という。)が、同改正により、本件規定は削除された。
[2] 被上告人は、軽度の知的障害を有し、警備業を営む会社との間の雇用契約に基づき、警備員として交通誘導に係る警備業務に従事していたが、平成29年3月、被上告人についての保佐開始の審判が確定した。これに伴い、警備業法上の警備員の欠格事由の発生を解除条件としていた上記雇用契約は終了し、被上告人は、上記会社を退職した(以下、この退職の時点を「本件退職時点」という。)。
[3] 本件は、被上告人が、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反し、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったこと(以下「本件立法不作為」という。)は違法であるなどと主張して、上告人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求める事案である。

[4]2 関係法令の定めは、次のとおりである。

[5](1) 警備業法2条1項は、「警備業務」とは、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(1号)、人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(2号)、運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(3号)及び人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務(4号)のいずれかに該当する業務であって、他人の需要に応じて行うものをいう旨を定めている。
[6] 同条4項は、「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう旨を定めている。

[7](2) 警備業法14条(平成16年法律第50号による改正前は7条)は、18歳未満の者又は3条1号から7号までのいずれかに該当する者は警備員となってはならない旨を定め(1項)、警備業者は14条1項に規定する者を警備業務に従事させてはならない旨を定めている(2項)。また、同法3条柱書きは、同条各号のいずれかに該当する者は警備業を営んではならない旨を定めている。
[8] 一括整備法による改正前の警備業法3条1号は、成年被後見人又は被保佐人(以下、併せて「成年被後見人等」という。)等を掲げていた。

[9]3 原審の適法に確定した事実関係等の概要(公知の事実を含む。)は、次のとおりである。

(1) 警備業法の制定及び改正の経緯等
[10]ア 昭和47年以前は、警備業に対して特段の法的規制はされていなかったが、警備業者の増加に伴い、警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受け、同年7月、警備業務の実施の適正を図ることを目的として、警備業法が制定された(同年法律第117号)。
[11] その後、警備業は活動領域を拡大させた一方、警備業者による法令違反、警備員の非行等の問題が多発し、警備業務に対する社会的信頼の確保が喫緊の課題となったことを受け、不適格業者の排除、警備員の非行・不祥事の防止、警備員の質的向上を図るため、昭和57年7月、警備業法の改正(同年法律第67号。以下「昭和57年改正」という。)がされた。昭和57年改正により、警備員の欠格事由(7条)として、禁治産者又は準禁治産者(3条1号)及び精神病者(同条5号)等が掲げられた(以下、昭和57年改正後の同法7条、3条1号の規定のうち準禁治産者であることを警備員の欠格事由として定めた部分を「本件前身規定」という。)。
[12]イ 平成11年12月、成年後見制度を導入することを内容とする民法の改正(同年法律第149号。以下「平成11年民法改正」という。)等がされたことに伴い、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(同年法律第151号。以下「平成11年整備法」という。)による警備業法の改正がされ、3条1号の「禁治産者若しくは準禁治産者」の文言が「成年被後見人若しくは被保佐人」に改められた。
[13] 平成11年整備法による関係法律の改正前は、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定が150余(準用規定を含まない。以下同じ。)存在したが、同改正により、そのうち公的な機関による選任及び罷免・解任等の個別的な能力審査の手続が整備されている法律に設けられた40余が削除され、残りの110余は成年被後見人等であることを欠格事由とする規定(以下「成年被後見人等に係る欠格条項」という。)に改められた。参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際には、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、残された成年被後見人等に係る欠格条項について更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議がされた。
[14]ウ 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月の決定「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(以下「平成11年決定」という。)において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害自体を掲げるなどする法令の規定の見直しを行うこととしたが、本件前身規定を含む禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定は、見直しの対象とはしなかった。
[15] 平成11年決定において、精神病者であることを警備員等の欠格事由とする警備業法の規定が見直しの対象とされたこと等を受け、平成14年11月、同法の改正(同年法律第108号。以下「平成14年改正」という。)がされた。平成14年改正により、同法3条5号の規定のうち精神病者であることを欠格事由とする部分が削除されるとともに、同条7号において、心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるものであることを欠格事由とする規定が設けられた(以下、同号に該当する者であることを警備員の欠格事由とする同法7条(平成16年法律第50号による改正後は同法14条)、3条7号の規定を「7号規定」という。)。また、平成15年3月、警備業の要件に関する規則(昭和58年国家公安委員会規則第1号。以下「規則」という。)の改正(平成15年国家公安委員会規則第2号)がされ、規則3条1項において、同法3条7号の国家公安委員会規則で定める者は精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする旨が定められた。
[16]エ 警察庁が公表した警備業者当たりの警備員数の分布の統計によれば、昭和56年6月末時点においては、警備員数100人以下の警備業者が全体の約93%、警備員数10人以下の警備業者が全体の約45%を占め、平成29年末時点においては、警備員数100人未満の警備業者が全体の約90%、警備員数10人未満の警備業者が全体の約35%を占めており、いずれの時点においても中小零細の企業が占める割合が高かった。

(2) 障害者の権利に関する条約の批准及び国内法の整備等の経緯
[17]ア 平成18年12月、国際連合総会において、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)が採択され、我が国は、平成19年9月、これに署名した。
[18] 障害者権利条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし(1条前段)、障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含むと定義し(同条後段)、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること(4条1項柱書き)、並びに、このために、障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること(同項(b))等を締約国の一般的義務として約束する旨を定めている。また、障害者権利条約は、平等及び無差別(5条)及び法律の前にひとしく認められる権利(12条)に関する条項を設けているほか、労働及び雇用に関し、締約国が、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること等の措置をとることにより、労働についての障害者の権利が実現されることを保障し、及び促進すること等を定めている(27条1項(a))。
[19]イ その後、障害者基本法の改正(平成23年法律第90号)、障害者自立支援法の改正(平成24年法律第51号。改正後の題名は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)の制定及び障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正(同年法律第46号)等が行われ、障害者権利条約の理念や差別の禁止等に関する基本原則が国内法に反映された。我が国は、これらの国内法の整備を踏まえ、平成26年1月、障害者権利条約を批准した(同年条約第1号)。
[20] 上記の改正後の障害者基本法は、目的規定において、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである旨を明示し(1条)、障害者について、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいうと定義し(2条1号)、障害を理由とする差別の禁止等に関する基本原則(4条)を定めている。また、障害者差別解消法は、障害者基本法の理念にのっとり、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別の禁止等(7条、8条)を定めており、上記の改正後の障害者雇用促進法は、労働者の募集・採用時及び採用後における障害を理由とする差別の禁止等(34条、35条、36条の2、36条の3)を定めている。障害者差別解消法及び上記の改正後の障害者雇用促進法のうち差別の禁止等に関する部分(以下、併せて「障害者差別解消法等」という。)は、約3年の準備期間を経て、平成28年4月に施行された。

(3) 成年後見制度の利用の促進に関する法律の制定等の経緯
[21]ア 平成22年7月、有識者や関係機関の担当者が参加した成年後見制度研究会において、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告がされた。同報告において、成年後見の類型は主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められているのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない、成年被後見人等に関する資格制限規定が成年後見制度の利用を阻害する要因となることはできるだけ避けるべきであるなどの見解が示された。
[22]イ 平成22年10月、成年後見法世界会議において、成年後見制度の適切な利用を訴えるための「成年後見制度に関する横浜宣言」が採択された。同宣言においては、我が国の課題の一つとして、成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである、特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪には合理的根拠はなく、憲法で保障された普通選挙の理念に反し、基本的人権を著しく損なうものであるとされた。
[23]ウ 東京地方裁判所は、平成25年3月、成年被後見人である者が、国に対し、次回の衆議院議員及び参議院議員の選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求めた訴訟において、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた同年法律第21号による改正前の公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反し、無効であるとして、請求認容の判決をした(以下、この判決を「平成25年東京地裁判決」という。)。同年5月、上記改正により、上記規定は削除された。
[24]エ 平成28年4月、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、成年後見制度の利用の促進に関する法律(同年法律第29号。以下「利用促進法」という。)が制定され、同年5月、施行された。
[25] 利用促進法は、成年後見制度の利用の促進は、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと等の成年後見制度の理念を踏まえて行われるものとする旨を定め(3条1項)、基本方針の一つとして、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う旨を定めており(11条2号)、成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正等の基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、利用促進法の施行後3年以内を目途として講ずるものとした(9条)。
[26]オ 平成29年3月、「成年後見制度利用促進基本計画について」等が閣議決定され、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つであるとされていること等が指摘された上で、今後、政府において検討を加え、速やかに必要な見直しを行うこととされた。
[27] 内閣府に設置された成年後見制度利用促進委員会は、同年12月、当時170余の法律に設けられていた成年被後見人等に係る欠格条項をいずれも削除し、必要に応じて代替的に個別的・実質的な審査の規定を整備する方針を示した。
[28] 警備業法を所管する警察庁は、平成30年2月、成年被後見人等であることを警備員の欠格事由として定める規定の削除について政策評価を行い、心身の障害がある者の適格性に対する個別的・実質的な審査によって警備業務の特性に応じて必要となる能力の有無を判断する7号規定が既に設けられているため、特段の影響は想定されないと評価した。
[29]カ 平成30年3月、上記方針により見直しを行った一括整備法に係る法律案が国会に提出され、令和元年6月、一括整備法が成立した。これにより、本件規定を含む成年被後見人等に係る欠格条項は、その大半が削除され、その余も同年中に成立した改正法により削除された。
[30]1 原審は、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反していた旨判断した。
[31] 所論は、本件退職時点において、本件規定は憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったとして、原審の上記判断には憲法22条1項及び14条1項の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。

[32]2(1) 本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人である者の職業選択の自由を制約するとともに、警備員となる資格について、被保佐人である者と被保佐人でない者とを区別するものである。

[33](2) 憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、こうした職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論ずることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得るのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものである(以上につき、最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
[34] また、憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。

[35](3) 本件規定は、警備員の欠格事由を定め、およそ被保佐人が警備員となってはならないこととするものであるから,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すものであって、職業の自由に対する強力な制限となるものである。その上、本件規定は、被保佐人を対象とするものであるところ、保佐開始の審判は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者についてされるものであるから(民法11条)、本件規定は、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として上記の制限をするものということができる。このように、本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。
[36] 以上のような本件規定の内容、性質に照らすと、本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができるのであって、上記の各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解するのが相当である。

[37](4) 本件前身規定及び本件規定の制定の経緯や内容に照らせば、本件規定の目的は、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあるということができる。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものである。
[38] この目的のために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかや、具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを立法府が判断するに当たっては、警備業務の実態や警備業者の業務態勢、保佐を含む成年後見制度の運用の在り方、同制度が対象とする精神上の障害を有する者を取り巻く状況等の諸事情を踏まえ、警備業務に要求される能力、保佐開始の審判がされる者の能力及び立法目的を達成し得る代替措置の有無等について評価を行う必要があり、こうした評価は一義的に定まるものではないから、上記の立法府の判断には一定の裁量が認められるが、他方で、本件規定が精神上の障害を有することを理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とするとともに、被保佐人の狭義の職業選択の自由を制約するものであることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではないというべきである。そして、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反することとなる。

[39]3(1) 前記事実関係等によれば、警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受けて昭和47年に警備業法が制定され、その後、警備業の活動領域の拡大に伴い、警備業者による法令違反や警備員の非行等の問題が多発したことを受けて、警備業務の実施の適正を図るなどの目的のために昭和57年改正が行われたものである。本件前身規定は、上記目的のために、準禁治産宣告を受けた者の判断能力に着目して警備員について欠格事由を定めたものと解される。
[40] 警備業務は、警備員の有形又は無形の影響力によって他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有している。そのため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し、適法、妥当かつ臨機応変に対応することが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。
[41] これに対し、昭和57年改正の当時、準禁治産宣告の対象とされていた心神耗弱者(平成11年民法改正前の民法11条)は、一般に、精神障害の程度が心神喪失のように完全に意思能力を失うまでには至らず、不完全ながら判断能力を有する者をいうと解されていたものである。準禁治産の制度は、精神能力の不完全な者の財産を保護するための制度であることからすると、準禁治産宣告において審査される判断能力は、上記のような警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができる。しかも、家庭裁判所は、準禁治産宣告をするには、本人の心神の状況について、必ず、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならないものとされていたのであるから(平成12年最高裁判所規則第1号による改正前の家事審判規則24条、30条)、準禁治産宣告は、精神医学上の検査や診断に基づく、専門的で信頼性の高い判断であったというべきである。
[42] 他方で、警備業者については、中小零細の企業が圧倒的多数を占めており、上記のように警備業者による法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき警備業者による自発的な維持管理を期待することは困難であったということができる。
[43] そうすると、昭和57年改正の当時、本件前身規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。

[44](2) その後、平成11年民法改正により新たに成年後見制度が導入され、これに伴って本件前身規定は本件規定に改められることになった。また、平成14年改正により7号規定が設けられた。
[45] 7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきである。
[46] そうすると、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。

[47](3) しかしながら、その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化したというべきである。
[48] すなわち、成年後見制度の導入やその後の利用促進の動きの中で、保佐を含む成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解されるようになり、成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められることとなった。また、平成22年には、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告において、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないなどと評価されるようになった。
[49] そして、平成23年から平成25年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、平成26年には同批准がされ、その後、平成28年には障害者差別解消法等が施行されるに至った。障害者権利条約の批准に伴い整備された国内法は、障害者の定義を新たなものとした上で、障害者が人権を保障され、尊厳を尊重されるべき旨を明示するなどしており、社会における障害の捉え方の変化等を受けて、福祉や保護を中心とした障害者施策を法的な権利の保障を中心とするものへと転換していく流れを反映させたものであったということができる。これら障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容することとなった。障害者の労働、雇用との関係でも、障害者差別解消法等の成立から施行までに約3年の準備期間が設けられ、その施行に向けた準備の過程で障害を理由とする差別の禁止等に関する考え方が行政機関等や事業者に周知されるなどしたことにより、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するに至ったというべきである。また、平成28年に制定された利用促進法においても、障害者権利条約や、その批准に伴い整備された国内法の理念が反映され、成年後見制度の利用の促進に当たって、成年被後見人等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられるべきこと等が定められるに至っている。
[50] その一方で、平成14年改正により設けられた7号規定は、上記のとおり、本件規定の立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難なものであったが、その後、特にその実効性を疑問視させるような事象をうかがうことはできないし、警察庁が平成30年に行った政策評価においては、7号規定が既に設けられているため、本件規定を削除することによる特段の影響は想定されない旨の評価がされているところである。

[51](4) 以上を総合すると、遅くとも本件退職時点までには、被保佐人のうち警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力を備えた者が本件規定により一律に警備業務から排除されることによる不利益は、もはや看過し難いものとなっており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたというべきである。

[52]4 したがって、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたというべきである。
[53] 以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
[54]1 原審は、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける旨判断して、被上告人の請求を一部認容した。

[55]2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

[56](1) 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに同項の適用上違法の評価を受けるものではない。もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法不作為は、同項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(以上につき、最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。

[57](2) そこで、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かについて検討する。
[58]ア 前記のように、昭和57年改正の当時、本件前身規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったが、その後、社会における障害の捉え方の変化等の流れを反映して障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備、その施行に向けた準備等の様々な事象が積み重なり、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したこと等により、本件退職時点において、本件規定は、違憲となるに至っていたものである。こうした変化等は、その性質上、外形的事実として観察することができるものではなく、容易に看取し得るものではない。また、障害者権利条約の批准に伴う国内法整備のうち最終段階に当たる障害者差別解消法等の施行、更には利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみても、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれる。
[59]イ 本件退職時点までに、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しの必要性自体は指摘されていたものの、その指摘は、主として成年後見制度の利用を阻害する要因の除去ないし利用の促進の観点によるものであって、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題があることを理由とするものではなかった。
[60] また、本件規定の憲法適合性は、本来、警備業務の実施の適正を図るなどの立法目的や、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする規制措置の具体的内容に即して検討することを要するものであるところ、本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、本件規定や本件前身規定の憲法適合性について論じた学説が発表されていたことはうかがわれず、裁判所においてこの点について判断がされたこともなかった。そもそも、その余の成年被後見人等に係る欠格条項についても、本件退職時点までに、憲法上の問題があるとした学説はほとんど存在せず、平成25年東京地裁判決において、成年被後見人が公職の選挙権を有しないとする規定が憲法15条1項等に違反する旨の判断が示されていたものの、同規定と立法目的を異にする職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはなかった。
[61]ウ さらに、平成28年5月に利用促進法が施行された後、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに向けた検討が継続され、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて統一的な見直しの方針が策定された上で、一括整備法等により、令和元年中にいずれも削除されるに至っている。その見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、このような検討には相応の期間を要するものであったというべきである。そして、上記のとおり、成年被後見人等に係る欠格条項が設けられた法律が多数ある中で、上記整合性について検討を行うことのないまま、本件規定についてのみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したことはうかがわれない。

[62](3) 以上によれば、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできない。したがって、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。

[63]3 以上と異なる原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
[64] 以上に説示したところによれば、本件立法不作為の違法を理由とする慰謝料請求は理由がない。
[65] また、被上告人は、上記慰謝料請求と選択的に、国会が昭和57年改正により本件前身規定を設けた立法行為の違法を理由とする慰謝料請求をしているところ、以上に説示したところによれば、上記慰謝料請求も理由がない。
[66] したがって、第1審判決中上告人敗訴部分を取消した上で、同部分に関する被上告人の請求をいずれも棄却し、かつ、前記破棄部分に係る被上告人の附帯控訴を棄却すべきである。

[67] よって、裁判官三浦守、同尾島明、同宮川美津子、同高須順一、同沖野眞已の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴、同岡正晶、同石兼公博の各補足意見、裁判官安浪亮介の意見がある。


 裁判官林道晴の補足意見は、次のとおりである。

[1] 私は、多数意見に賛同するものであるが、その憲法適合性判断の趣旨等について補足して意見を述べることとする。

[2]1 被保佐人であることを警備員の欠格事由として定める本件規定は、職業活動の内容・態様に対する規制にとどまらず、狭義における職業選択の自由そのものに規制を課す強力な制限となっており、しかも、制限の理由が被保佐人の精神上の障害であることから、憲法22条1項の適合性が問題となるものである。一方で、本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して規制の対象としていることから、憲法14条1項適合性も問題となる。そして、この憲法22条1項適合性と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであることから、憲法の各条項ごとに適合性を判断すること(もちろん、それも可能であるが、)よりも、両方の条項の趣旨を総合した形で検討することが、より事柄の性質に合った判断が可能となると考えられる。
[3] 多数意見は、精神上の障害を理由とする狭義の職業選択の自由に対する規制であることを重視して、これまで許可制等の憲法22条1項適合性の審査に用いられてきた比較的厳格な基準をとることとして、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを、実体的な審査基準とした。そして、本件規定の立法目的については重要な公共の利益に合致するとした上で、この立法目的を達成するためにどのような規制措置を設けるか(その規制措置は、必要かつ合理的な措置でなければならない。)については、立法府の判断に一定の裁量が認められるが、本件規定が精神上の障害を理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別し、狭義の職業選択の自由を制約するものであることから、その裁量は狭いものとなるとして、ここでも厳格な審査をすることとしている。
[4] 憲法14条1項適合性判断に当たっては、区別をすることの立法目的の合理性ないし正当性と区別の具体的内容が立法目的に合理的に関連するものであることが問題にされることが多い。本件規定の立法目的が上記のとおり重要な公共の利益に合致するというのであれば、憲法14条1項適合性判断においても立法目的の合理性ないし正当性が認められるのはいうまでもない。その区別の具体的内容は、上記の規制措置と同一であるので、憲法22条1項適合性で問題としている、立法府の採用した規制措置が必要かつ合理的であるとの裁量判断が合理的な範囲を逸脱したものとなる場合には、憲法14条1項適合性判断においても立法目的との合理的な関連性を欠くことになることは明らかである。
[5] 以上のとおり、本件規定の合憲性判断において、憲法14条1項適合性の観点からアプローチしたとしても、多数意見が説示した事情と共通する事項を考慮し検討した上で、大枠において同様な審査をした上で同じ結論に至ることになる。多数意見のとおり憲法22条1項適合性を重視したアプローチをとるか、憲法14条1項適合性を重視したアプローチをとるかは、理論的にはいずれもあり得ると考えるが、問題となっている事柄の本質により近いものを採用した方が関係者の理解を得られやすいものになろう。

[6]2 多数意見では、本件規定に係る立法府の判断が合理的裁量の範囲を逸脱するに至ったという判断において、障害者権利条約の署名(平成19年9月)から批准(平成26年1月)に至る経過を重要な事情として挙げている。そして、障害者権利条約やその批准に向けてされた国内法の制定・改正を通じて、障害者の人権が保障されその尊厳が尊重されるべきとされたことなどから、社会における障害の捉え方が変化したことを指摘している。具体的には、いわば障害者を保護の「客体」とし、福祉や保護を中心としたものであった障害者施策から、むしろ障害者を権利行使の「主体」とし、その法的な権利の保障を充実させる障害者施策を中心としたものへ転換させていった(前者の施策も継続されていくべきであることはいうまでもない。)ことに注目すべきであろう。こうしたパラダイム転換の明示的な契機となり推進力となったのは、障害者権利条約の批准やその批准に向けてされた国内法の整備等の一連の動きであるが、その動きが進むことと並行して、社会や国民の意識もこうしたパラダイム転換が当然のことであると認識し、転換を踏まえた障害者施策が今後も推進されていく(その結果、トータルとしての障害者保護施策が充実したものとなる)べきであるとの意識が時間をかけて浸透し深まっていったものと考えられる。そして、この一連の法的な整備等の動き、それとあいまって進んだ社会・国民の認識・意識の深化によって、本件規定により一律に被保佐人が警備業務から排除されることの不利益が看過し難いと評価されるものとなり、本件規定の規制措置の必要性・合理性についての立法府の判断が合理的裁量の範囲を逸脱すると確定的に判断できる状態となっていったというべきである。本件規定の違憲性は、このような時間の経過をたどって高まり確定的なレベルに達したと評価できるものであることから、憲法違反となった時期を一義的に捉えることは困難である。
[7] 多数意見が、本件の憲法判断の基準時である本件退職時点において本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする一方、それ以前に本件規定が違憲となるに至った具体的な時期を明示していないのは、以上のような理由によるものである。


 裁判官岡正晶の補足意見は、次のとおりである。

[1]1 私は多数意見に賛同するものであるが、「第3 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について」につき、次のとおり多数意見に付加して私見を述べる。

[2]2 多数意見第3の2(1)記載の判断枠組みのうち「法律の規定が憲法の規定に違反することが明白であること」については、国会議員の立法不作為が例外的に違法の評価を受ける場合を画する要件の要素となるものであり、次のような事情をも考慮の上、慎重に判断することが相当と考える。
[3] まず第1に、違法か否かが問題となる行為の主体は、立法府(国会議員)である。いうまでもなく、立法府は、三権分立の一つの機関であり、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。また、立法府がいついかなる立法行為を行うかは、本来、立法府の裁量に属する問題であるのに対し、立法不作為が国家賠償法上違法と評価されるのは、立法府が一定の立法義務を負うことを前提に、これを怠ったと評価される例外的な場合である。
[4] 第2に、法律の規定が憲法の規定に違反する場合、本来は、立法府自らが当該法律の規定の改正ないし廃止を行うことによってその是正を図るべきであり、これがとるべき対応の基本であり原則である。国会議員の立法過程における行動について、国が個々の国民に対して国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うのは、上記対応だけでは不十分な場合の例外的な救済措置というべきである。
[5] 第3に、国会議員の立法不作為につき国家賠償法に基づく損害賠償責任を認めるということは、国会議員に、個々の国民に対し、特定の法律の改正等を行う法的注意義務が生じていたことを前提として、国庫から損害賠償金(金銭)を支払うことを意味する。そしてこの場合に支払請求をすることができる者は,法律の規制が通常一定の広がりを持つことから、通常、一人ではなく、複数又は多数になる場合が多いと思われ、この点も考慮する必要がある。

[6]3 「法律の規定が憲法の規定に違反する」か否かを判断する際には、当該法律における規制の目的、対象、方法等の性質及び内容、さらには立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱するか否かなどを総合的に考慮することを要し、複雑な判断を伴う場合が多い。「法律の規定が憲法の規定に違反する」という判断・認識は、「憲法の規定との関係が問われる」、「憲法解釈上疑義がある」、「違憲の疑いが濃い」などの認識や、「憲法に示された価値・理念をより充実させるために法改正が望ましい」といった立法政策上の判断・意見とは大きく異なるというべきである。
[7] また、上記2のとおり、「明白である」ことは、国会議員の立法不作為が例外的に違法の評価を受ける場合を画する要件の要素となるものである。このことからすると、「明白である」か否かの判断においては、基準となる時点において、国会議員の多数が「法律の規定が憲法の規定に違反する」と判断・認識すべきであったといえるか否かが問題とされるべきであって、国会議員の多数が現実にそのように判断・認識していた場合のほか、現実の判断・認識がない場合でも、仮に、当時、国会議員が意識的かつ合理的に検討したならば、容易に、上記の判断・認識に到達していたであろうといえる場合等が含まれると考えられる。ただし、上記2記載の各事情を踏まえると、この点の判断は慎重に行う必要があるというべきである。

[8]4 これを本件についてみると、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定(22条1項及び14条1項)に違反することが明白であったとはいえないと考える。その理由としては、多数意見第3の2(2)記載のもののほか、次の事情が挙げられる。

[9](1) 私も、多数意見第2のとおり、本件退職時点において、本件規定は憲法の規定に違反していたと判断するものである。
[10] しかし、これは現時点における判断であって、本件退職時点において上記のように判断していたものではない。
[11] 上記3記載のとおり、「法律の規定が憲法の規定に違反することが明白であるか否か」の判断においては、基準となる時点において、国会議員の多数が、「法律の規定が憲法の規定に違反する」と判断・認識すべきであったといえるか否かが問題となるところ、本件退職時点で、多数意見第2のように具体的な分析・検討に基づき「本件規定は、立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱しており、憲法の規定に違反している」と判断・認識していた者が、国会議員、学者及び中央省庁(内閣法制局も含む。)の職員等の中にいたことはうかがわれない。

[12](2) 成年被後見人等に係る欠格条項に関する立法の経緯を見ると、平成11年時点で、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定は150余存在したところ、平成11年整備法による検討後であっても110余については、成年被後見人等に係る欠格条項として存続させる旨の立法判断がなされた(多数意見第1の3(1)イ参照)。その中には、国家公務員法、地方公務員法、地方公営企業法など極めて多くの人数・職種を対象とするものがあり、他にも行政書士法、水道法(給水装置工事を適正に施行することができると認められる者の指定)など多種多様な職業を対象とするものがあり、これらに従事する者の人数も多数に及んでいた。
[13] 国会は、その後も、新たに、成年被後見人等に係る欠格条項を設けることがあり、成年被後見人等に係る欠格条項を設ける法律の数は増えていった。
[14] 国会は、多数意見第1の3(2)、(3)のような経緯を経て、平成28年には成年後見制度の利用の促進に関する法律(利用促進法)を制定するに至り、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(成年被後見人等に係る欠格条項)について検討を加え、必要な見直しを行うこととした。そして、この見直しの検討を経て、令和元年に一括整備法等を制定し、本件規定を含む成年被後見人等に係る欠格条項の全て(この時点では170余の法律に設けられていた。)を削除した。国家公務員法、地方公務員法、地方公営企業法における欠格条項が削除されたのもこの時である。なお、利用促進法制定の後である平成29年6月までの間においても、成年被後見人等に係る欠格条項が設けられた法律があった。
[15] このような成年被後見人等に係る欠格条項に関する立法の経緯からすると、国会議員の多くは、「憲法に示された価値・理念をより充実させるために望ましい法改正をする」という判断・認識から、利用促進法を制定し、欠格条項の見直しを行ったものであり、成年被後見人等に係る欠格条項が「憲法の規定に違反する」ので直ちに削除等しなければならないという判断・認識には立っていなかったことがうかがわれる。上記3記載のとおり、この両者は大きく異なるものである。前者の判断・認識に至っていたことから、直ちに、後者の「憲法の規定に違反する」との判断・認識に至ることが容易であったという評価をすることはできないし、相当でない。
[16] 前述のとおり「憲法の規定に違反する」という判断・認識が複雑な判断を伴うものであること、明白性の判断は慎重に行う必要があることを踏まえると、利用促進法制定時又は本件退職時点において、仮に国会議員が意識的かつ合理的に検討したならば、容易に上記の判断・認識に到達していたであろうというためには、そのような複雑な判断に到達することを可能にするような客観的な契機、事情等が必要であるというべきである。

[17](3) 国会以外の状況を見ると、多数意見第3の2(2)イのとおり、本件規定につき、具体的な分析・検討に基づき「本件規定は、立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱しており、憲法の規定に違反している」との判断・認識を発表していた学説は、本件退職時点までにはうかがわれない。記録によれば、平成26年に、成年被後見人等に係る欠格条項を念頭に、欠格条項制度が基本的人権の侵害にもなり得る重大な不利益を本人に与えると問題提起した学説も、その憲法適合性については憲法学の議論を待ちたいという指摘にとどまっていた(これらの指摘・認識は、上記3記載のとおり、「本件規定が憲法の規定に違反する」というものではなかった。)。
[18] また、本件規定の憲法適合性やこれに関連する問題について、当審はもちろん下級審の裁判例もなかった。平成25年東京地裁判決も、選挙権に関するものであって、本件規定のような職業の欠格条項に関するものではなかった。
[19] 利用促進法の制定(平成28年4月)、「成年後見制度利用促進基本計画について」等の閣議決定(平成29年3月)に対しても、これにより憲法適合性が回復されたなどという指摘、学説があったことはうかがわれない。

[20](4) 上記(2)、(3)記載の諸事情を踏まえると、本件退職時点(平成29年3月)において、国会議員の多数にとって明白であったことは、本件規定を含む欠格事由の見直しは、「憲法に示された価値・理念をより充実させるために望ましい」という判断・認識であったというべきである。そして、このような判断・認識の下、国会は、現に、利用促進法を制定し、本件規定だけでなく全ての成年被後見人等の権利に係る制限について、必要な見直しに着手し、その後も着実にその検討を進め、令和元年6月には、一括整備法を制定して、本件規定の削除を実現したものである。
[21] そうすると、本件退職時点において、国会議員の多数が「本件規定は憲法の規定に違反している」と現実に判断・認識していたとは認められないのはもとより、本件退職時点において、仮に、国会議員が本件規定の憲法適合性につき意識的かつ合理的に検討したならば、容易に、上記の判断・認識に到達していたであろうといえるだけの客観的な契機、事情等があったことはうかがわれない。
[22] 以上述べたことから、本件退職時点において、「本件規定が憲法の規定(22条1項及び14条1項)に違反することが明白であった」とはいえないと考える。


 裁判官石兼公博の補足意見は、次のとおりである。

[1] 私は、多数意見に賛同するものであるが、障害者権利条約(以下、本意見において「条約」ともいう。)との関連で若干の補足意見を述べる。

[2]1 平成18年12月に国連総会において採択され、平成20年5月に発効した障害者権利条約は、1条において、「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。」と規定しており、保護の客体としての障害者から自己決定を行う存在としての障害者へと、ある意味での障害者の権利に関わるパラダイムシフトを画するものであった。そして、平成19年9月に条約に署名した我が国も、こうした条約の意義を踏まえ、国際社会と協調しつつ所要の準備を経て、平成26年1月に批准を行った。
[3] 平成23年に改正された障害者基本法が1条において「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される」としたことは、上記のパラダイムシフトを踏まえたものであると考えることができるし、5条において「第1条に規定する社会の実現は、そのための施策が国際社会における取組と密接な関係を有していることに鑑み、国際的協調の下に図られなければならない。」としたことは、我が国における取組と国際社会における動きとの関係の一端を物語るものということができよう。

[4]2 障害者権利条約によって設置された障害者の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)は、その一般的意見によって条約の解釈についての見解を提示してきている。条約12条2項は、「締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。」としているが、委員会は、平成26年の一般的意見第1号において、同項にいう法的能力には、権利所有者(holder of rights)になる能力と、法律の下での行為者(actor under the law)になる能力の両方が含まれ、個人の意思決定スキル(decision-making skills)である意思能力(mental capacity)とは異なるものであり、法的能力は障害者が社会への意味のある参加を行う上で鍵となるとの見解を示している。また、平等及び無差別について定める条約5条について、委員会は、平成30年の一般的意見第6号において、平等及び無差別は原則であり、権利であるとし、同条は、公的当局によって規制及び保護されるあらゆる分野における法律上又は事実上の差別を禁止しているとの見解を示し、さらに、締約国は、障害者に対する差別を伴う既存の法律、規制、習慣及び慣習が修正又は廃止されることを徹底しなければならない、としている。労働及び雇用について定める条約27条について、委員会は、令和4年の一般的意見第8号において、無差別と平等は同条の中核的義務であるとし、雇用に関するあらゆる場面を通じて適用されるとした上で、事実上の平等を達成するために、締約国は労働及び雇用に関連して障害を理由とする差別がないことを確保しなくてはならないと指摘している。
[5] このほか、委員会は、条約履行状況にかかわる個別締約国の報告に対して総括所見の形で評価、勧告を行ってきており、上述の条約12条に関する一般的意見第1号の延長線上において、障害者が法律の前に人として認められることを否定ないし減殺する一切の法律、政策の撤廃を勧告したり、条約27条に関する一般的意見第8号と同様の見解に基づいて締約国の雇用に関する差別的法制の変更・削除を勧告したりしてきている。
[6] こうした委員会の見解、勧告は法的に締約国を拘束するものではないが、委員会による見解の表明、それに至るまでの締約国と委員会とのやり取り、委員会の指摘事項に対する締約国の対応といった過程を経て、条約の解釈に対する各締約国の考え方が展開してきている側面があることは否定できず、我が国も例外ではないと考えられる。
[7] 我が国は、条約作成に当たっては、障害者や障害者団体の協力も得て、その起草段階から参加しており、署名の後は、批准に向けた取組を進める上で、諸外国における法制事情調査も入念に実施している。我が国に対する委員会の総括所見が出されたのは令和4年10月であるが、そこに至るまで、政府報告の提出(平成28年6月)、これを踏まえた委員会からの質問への回答提出(令和4年5月)、ジュネーブにおける委員会との間の建設的対話の実施(同年8月)、といった一連のプロセスを跡付けることができる。

[8]3 平成23年の障害者基本法改正が、障害者権利条約で明確にされた障害者に関わる新たな人権像を基本理念として反映したものであることは、上述したところであるが、平成25年に制定された障害者差別解消法も、こうした基本理念を踏まえ、7条、8条において、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を禁止している。さらに、同年に改正された障害者雇用促進法は、34条、35条などにおいて、労働者の募集・採用時等における障害を理由とする差別の禁止を明確にしているが、その審議過程においては、こうした法改正が障害者権利条約の批准に向けて重要であることが指摘されている。
[9] また、成年後見制度に関連して、平成28年に制定された利用促進法は、3条1項において、成年後見制度の利用の促進が、成年被後見人等が成年被後見人等でない者と等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきであるという理念等を踏まえて行われることとし、11条において、成年後見制度の利用の促進に関する施策は、成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえ推進するものとしている。こうした内容に鑑みれば、同法は、成年後見制度の利用促進を目的とするとともに、同制度の運用を障害者権利条約の趣旨、理念に沿ったものとすることを目指すとの側面もあったと考えられる。
[10] もとより、一連の法整備、法改正は、国内におけるさまざまな議論を経て我が国が主体的に判断を行った結果ではあるが、我が国と障害者の権利に関わる国際社会の様々なプレイヤーとの間の一連の相互作用を経た結果でもあり、そうした相互作用を捨象して考えることは適当でない。

[11]4 多数意見が指摘するとおり、障害者権利条約が採択され、国内法の整備を経て条約が批准に至ったという一連の動きとあいまって、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容しており、これにより、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至ったものであるが、そこに至るまでに、我が国と国際社会との間には、以上で述べたような相互作用が生じ、障害者の権利保障の在り方に関する国内の議論に反映されてきたということができる。そして、上記のような一連の動きが生じた時期との関係を踏まえると、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容し、本件規定が違憲となるに至ったのは、本件退職時点に相当近接した時点であったというべきである。
[12] また、このような我が国と国際社会の相互作用といった一連のプロセスを考えれば、上記時点において、本件規定は、障害者権利条約とも整合的でないものとなるに至っていたということができよう。


 裁判官安浪亮介の意見は、次のとおりである。

[1]1 私は、本件規定が平成29年3月(本件退職時点)において憲法22条1項及び14条1項に違反しており、国会が同時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかった本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論については賛同するが、国家賠償法上の違法性をめぐる点において多数意見と一部見解を異にする。その理由は次のとおりである。

[2]2 まず、前提として、私が、本件規定が憲法の上記規定に違反するに至ったと考える時期やその間の経緯等について述べる(本件規定の憲法適合性に関する多数意見の第2の2から4までの説示については異論がない。)。
[3] 我が国では、平成19年9月の障害者権利条約の署名を経て(平成26年1月批准)、平成21年12月に障がい者制度改革推進本部が政府に設置され、平成23年7月に障害者基本法が改正され、平成24年6月に障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)が改正され、平成25年6月に障害者差別解消法が制定(平成28年4月施行)され、障害者雇用促進法が改正されるなどした。この障害者差別解消法は、1条において、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」ことを踏まえ、障害を理由とする差別の解消を推進すべきことを定め、6条において、政府はそのための基本方針を定めるべきものとし、7条及び8条において、行政機関等及び事業者に対して「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と定めるとともに合理的配慮を行うことを義務付けた。
[4] また、成年後見制度についても、適切な利用促進の観点から成年被後見人等に係る欠格条項について見直し等を求める議論が行われたこと(平成22年7月の「成年後見制度研究会」(財団法人民事法務協会)の研究報告の発表や同年10月の「成年後見制度に関する横浜宣言」の採択)を背景に、平成25年東京地裁判決(成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定は憲法15条1項、3項等に違反し無効であるとしたもの)を受けて、成年被後見人に選挙権を付与するために公職選挙法が直ちに改正され、平成28年4月に利用促進法が制定(同年5月施行)されるなどした。この利用促進法は、成年後見制度の利用促進に関する施策を推進することを目的とするものではあるが、3条1項において、障害者差別解消法1条と同じく、「成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと」を基本理念の一つとして定め、11条柱書きにおいて、上記施策は「成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえる」ものとし、同条2号において、「成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと」を基本方針の一つとして定め、9条において、「政府は、(中略)成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正その他の同条(11条を指す。)に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、この法律の施行後3年以内を目途として講ずるものとする」と定めた。
[5] 上記のように、国会は、主に平成23年以降、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を着実に積み重ね、障害者差別解消法及び利用促進法が施行された平成28年には、成年被後見人等をはじめ精神上の障害を有する者につき、法律の規定上、正面から「基本的人権の尊重」、「個人の尊厳」、「不当な差別的取扱いの禁止」等といった憲法の人権理念に関わる文言を揃って用いて、その人権が侵害されないように必要な施策を講ずるべきことを国の基本方針として明らかにするに至った。そして、上記のとおり、利用促進法が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを早期に行うべきことを定めたこと(11条2号、9条)の根底には、必要な立法措置が講じられないままでは人権侵害が生ずる場合があるとの認識があったものと捉えるべきである。そのように解するのでなければ、同法が「成年被後見人等の権利に係る制限」といった文言を用いて、成年被後見人等について権利の制限がされている現状について早急にその見直しを行うべきことを求めたことの意義が没却されることになりかねない。さらにいえば、令和元年の一括整備法の制定等によって本件規定を含む多数の権利制限条項が一斉に削除されるに至ったのは、それまでの障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等の推進に関する法整備の積み重ね等を踏まえた国会の合理的判断の下に、利用促進法9条の規定に従い、憲法の人権理念を速やかに実現しようとして行われたものと位置付けて理解すべきであろう。
[6] 以上の事情を踏まえて考えると、国会によって上記一連の法整備が進められた平成28年頃の時点では、既存の権利制限条項の中には、憲法の人権理念に反するものが相当数存在する状況になっていたものといわなければならない。

[7]3 そして、本件規定についてみると、平成14年改正によって既に7号規定が設けられ、上記2でみた平成23年以降の法整備の進展状況等を併せて考えれば、平成28年頃の時点では、様々な警備業務がある中で、被保佐人であることだけを理由として一律に警備員の欠格事由と定める本件規定は、職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。

[8]4 さらに、上記2でみた法整備は、いずれも国会が自ら進めたものであり、平成28年頃の時点では、国会において、成年被後見人等を含む障害者の権利問題等に関する立法行為を積み重ねてきたことにより、憲法の人権理念を更に推し進めて合理的な検討を適切に行えば、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていたと評価するのが相当である。なお、平成25年、国会は、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定を違憲と判断した平成25年東京地裁判決を受けて直ちに公職選挙法を改正したが、この一例は、国会において、成年被後見人等に対して行われる権利の制限が、権利の内容・性質等によってその制限が裁判所により違憲と判断される場合があり得ることに直面する機会になったということもできよう。
[9] この点について、多数意見は、平成29年3月(本件退職時点)において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできないと判示する。この判示部分からすれば、本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でない。国会においてその違憲性が明白であったとは認められないとするものであるならば、私はこれに賛同することができない。国会は、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を何年にもわたって継続したが、そうした法整備を続けることの意識の根底に基本的人権の尊重、個人の尊厳や平等原則といった憲法の人権理念があり、成年被後見人等を含む障害者の権利保障について更にこれを推進するための立法行為の必要性・重要性を認識していたと考えるべきことは、これまでに述べたとおりである。そして、その間、障害者の権利問題等について社会や国民の意識が高まったが、それを汲み取って立法化していったのは国会自身である。
[10] また、本件規定の違憲性が国会において明白であったとは認められないと評価する立場からすれば、利用促進法の制定についてはあくまで成年後見制度の利用促進を図るためにもっぱらその阻害要因を除去すること等を目的とするものであって、憲法上の問題とは別のものというように理解することになるのかもしれない(多数意見の第3の2(2)イ参照)。しかし、仮に同法制定の主眼がそのようなものであったとしても、同法11条2号が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを行うべきことを定めた意義を決して軽視すべきではなく,同号の規定を憲法の人権理念と切り離されたものとして理解するのは相当ではない。言い換えれば、国会が憲法上の問題の存在について無自覚のままに上記内容を盛り込んだ見直し規定を設けたとは考え難い。
[11] したがって、平成28年頃の時点では、上記のように法整備を推し進めてきた国会において、合理的な検討を適切に行えば、本件規定が、成年被後見人等について職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法上の問題があることを当然認識し、本件規定の改廃を行うべき状況にあったものと評価すべきであり、明白性を否定する立場には賛同することができない。
[12] なお、上記明白性をめぐる論点について、私は、本件規定の違憲性が明白になった時期について反対意見のいずれとも見解を異にするものであるが、その理由は、平成28年に利用促進法が制定されることによって、それまでの障害者の権利保障関連の立法により定められた理念に基づき実施すべき各種施策がより具体化したものとなり、しかも目途とはいえ法制上の措置を講ずるべき期限が定められたとの事実を重く評価し、その時点に至り、本件規定の違憲性が確定し、かつ、それが明白になったと考えることにある。そして、このように、私は、本件規定の違憲性が確定した時期と国会においてその違憲性が明白になった時期が同じ頃と考えるものであるが、これは、上記のように国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なことと考える。

[13]5 以上のとおり、私は、平成23年から平成28年にかけての法整備の積み重ねに基づき、平成28年頃の時点では本件規定の違憲性が確定したものとなり、かつ、同時点では国会において自らの立法行為の継続によってその違憲性が明白になっていたと考える。
[14] もっとも、被上告人の本件退職時点との関係では、平成28年頃から平成29年3月までの間には約1年の期間しかないため、国会において正当な理由なく長期間にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできないと考える。したがって、本件において、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論について賛同するものである。


 裁判官三浦守の反対意見は、次のとおりである。

[1] 私は、本件規定が本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項の規定に違反する点については、結論において多数意見に賛同するが、本件規定は、遅くとも平成14年改正時までに、憲法の上記各規定に違反していたものと考える。また、国家賠償法1条1項の適用の点については、多数意見と異なり、本件規定は平成14年改正時において憲法の上記各規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものであり、本件立法不作為は同項の適用上違法であるから、本件上告を棄却すべきものと考える。以下、理由を述べる。
[2]1 平成14年改正に至る経緯等に関し、原審が適法に確定した事実関係等の概要(公知の事実を含む。)は、判示第1の3(1)に掲げるもののほか、2のとおりである。

[3]2(1) 国際連合は、1982年(昭和57年)、国際障害者年(1981年(昭和56年))の「完全参加と平等」の趣旨をより具体的なものとするため、「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに、1983年(昭和58年)から1992年(平成4年)までの10年間を「国連・障害者の十年」と宣言するなどした。政府は、これらを踏まえ、昭和57年3月、国際障害者年推進本部において、「障害者対策に関する長期計画」を決定するなどした。
[4] そして、政府は、「国連・障害者の十年」終了後も障害者対策をなお一層推進するため、平成5年3月、障害者対策推進本部において、「障害者対策に関する新長期計画」(以下「平成5年計画」という。)を策定した。
[5] 平成5年計画は、平成5年度からおよそ10年間にわたる施策の基本的方向と具体的方策を明らかにするものであり、その基本的な考え方として、基本的人権を持つ一人の人間として、障害者自身が主体性、自立性を確保し、社会活動へ積極的に参加していくことを期待するとともに、その能力が十分発揮できるような施策の推進に努めるとともに、障害者を取り巻く社会環境に存在する資格制限等による制度的な障壁等の種々の障壁を除去すること等により障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指すなどとし、分野別施策の基本的方向と具体的方策の中で、福祉の分野において、精神障害、視聴覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な見直しについて検討を行うものとした。

[6](2) 国会は、平成5年12月、心身障害者対策基本法を改正し(以下、この改正を「平成5年改正」という。)、法律の題名を「障害者基本法」に改めるとともに、同法の目的として、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的とする旨を規定し、障害者の定義として、精神障害を明示して規定し、基本理念として、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。」「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。」と規定するなどした。

[7](3) 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月、平成11年決定において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害を掲げるなどする法令の規定(以下「障害者に係る欠格条項」という。)の見直しを行うこととした。
[8] 平成11年決定は、障害者に係る欠格条項について、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、平成5年計画の推進のため、対象となる全ての制度について見直しを行い、障害及び障害者に係る医学の水準、障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準、先進諸外国における制度のあり方その他の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとし、当該欠格条項が真に必要と認められるものについては、①欠格、制限等の対象を厳密な規定に改正する、②絶対的欠格事由から相対的欠格事由に改正する、③障害者を表す規定から障害者を特定しない規定に改正する等の対処を行うものとし、警備業法の警備員の制限に関する規定については、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、①及び②の方向で対処するものとした。

[9](4) 平成11年整備法に関する国会の審議においては、
(ア) 成年被後見人等に係る欠格条項を撤廃すべきである旨の参考人の意見、
(イ) 同欠格条項を残すと老人や障害者への偏見を助長し、これらの者の社会参加が妨げられる旨の議員の発言、
(ウ) 欠格条項が存置された弁護士、弁理士、司法書士、薬剤師等の資格制限の必要性を問う議員の質問、
(エ) 個別法令中に能力を個別に審査する規定を設ければ資格制限として足り、禁治産者や準禁治産者であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116種の資格制限についても次の見直しの際に再検討されたい旨の議員の発言
等がされた。また、新しい成年後見制度の導入に禁治産や準禁治産という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使うことができる新しい制度を作るという意義があるのであれば、欠格条項で門前払いというよりも、できる限り個別的に判断していくという方が方向性として正しいのではないかという趣旨の議員の質問に対し、政府参考人は、基本的な考え方としては正しいとしつつ、立法上の様々な価値を調和させていく中で複数の欠格条項を存置することになった旨の説明をした。
[10] そして、平成11年11月、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際、全会一致で、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については、更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議(以下「平成11年附帯決議」という。)がされた。
[11] 本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として、被保佐人を被保佐人でない者と区別して、一律に狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。そして、被保佐人の精神上の障害は、本人の意思や努力によって変えることが困難であり、個人の生存と切り離すことができないものである。また、狭義における職業選択の自由は、経済活動としての性格が強い営業の自由と異なり、本人の生き方や自己実現としての性格が強く、個人の尊重及び幸福追求と密接に関わるものということができる。
[12] これは、憲法22条1項の要請と14条1項の要請とが重なり合う問題であり、本件規定が上記の各規定に適合するか否かの判断においては、その一方の規定に関する判断において、他方の規定の要請に係る事情をも考慮する必要があり、相互に密接に関連し、考慮すべき事項が共通することから、両規定との関係で合憲性を肯定し得るためには、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解される。
[13] そして、本件規定の目的(以下「本件立法目的」という。)は、判示第2の2(4)のとおり、重要な公共の利益に合致するものであるところ、本件立法目的のために必要かつ適切妥当な規制措置を設けることについて、立法府の判断には一定の裁量が認められるものの、上記のような憲法22条1項及び14条1項の要請により、立法府に広い裁量が認められるものではなく、その裁量の範囲は狭いというべきである。本件規定について、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱し、憲法の両規定に違反するか否かを判断するに当たっては、具体的な事情に基づき慎重な審査を行う必要がある。
[14] 以上のとおり、本件規定の憲法適合性に関する判断の枠組みについては、多数意見に賛同する。
[15] そして、平成11年整備法により本件規定が定められ、平成14年改正により7号規定が定められ、その後、令和元年の一括整備法により本件規定が削除された経緯等を踏まえると、本件規定の憲法適合性については、7号規定という具体的な代替措置を前提として、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的な裁量の範囲を逸脱するか否かが問題となる。
[16] 本件においては、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反し、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったという本件立法不作為が、国家賠償法1条1項の適用上違法であるかどうかが問題となるが、それが違法と評価されるためには、(a)本件退職時点において、本件規定が憲法に違反するに至っているだけではなく、(b)その違憲が明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の措置を怠っていることが必要と考えられる。
[17] この場合、(b)の要件の関係では、遅くとも、本件立法不作為が正当な理由なく長期にわたると評価される時期までに、本件規定が憲法に違反し、その違憲が明白となるに至っていたかどうかが問題となるから、(a)の要件を満たす場合であっても、遅くとも、本件退職時点より前の上記時期までに、本件規定が憲法に違反するに至っていたかどうかの検討が必要である。
[18] 以上の観点から、本件規定の憲法適合性に関し、本件退職時点より前に本件規定が違憲となるに至っていた時期についても併せて検討する。
[19](1) 警備業務は、他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有しているため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し臨機応変に適切な対応をすることが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。
[20] 他方で、警備業務は、警備業法2条1項各号に区分され、その内容には多種多様なものが含まれるところ、いずれも法律行為を伴わない事実行為として定められており、その具体的な内容に応じ、これを適正に行うために必要な認知、判断及び意思疎通の能力といっても、相当の違いがあると考えられる。また、警備員は、警備業者との雇用契約等に基づきその指揮監督の下に特定の警備業務に従事するものであるから、全ての警備員があらゆる警備業務に求められる高度の能力を備える必要がないことは明らかである。

[21](2) 平成11年民法改正による成年後見制度は、明治期に定められた禁治産及び準禁治産の制度を約100年ぶりに改めたものであって、本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーションの理念等と本人保護の理念との調和を旨とし、精神上の障害により判断能力が不十分であるため契約締結等の法律行為における意思決定が困難な者について、後見的役割を担う第三者がその判断能力を補うことにより、その権利利益の保護を図る制度である。
[22] そして、被保佐人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者であり、選任された保佐人が、財産の管理・処分に関する一定の法律行為についての同意権や取消権等により、被保佐人の権利利益の保護を図るものとされる。

[23](3) 以上からすると、被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いるということができる。
[24](1) 平成14年改正は、警備業法3条5号のうち精神病者であることを欠格事由とする部分を削除した上で、7号規定を設け、規則3条1項と併せて、精神機能の障害により警備業務を適正に行うことができない者を欠格事由とするものである。
[25] そして、7号規定は、精神機能の障害を有する者を広く対象として、個別の審査により、警備業務を適正に行うことができないと認められる者を警備業務から排除しようとするものであり、この審査は、警備業者が、診断書等の提出や面接調査など、必要な資料の収集等を通じて、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力の有無を個別的、実質的に審査することを前提にするものと解される。
[26] これは、平成5年計画に基づき、平成11年決定が、障害者に係る欠格条項の見直しに関し、真に必要と認められる欠格条項については、当該資格等が要求する具体的な能力の有無を個別的・実質的に審査する手法を定める規定(以下「個別審査規定」という。)に改正するなどの対処を行うものとしたことを踏まえ、警備業に関する様々な実情等を踏まえた行政府の専門的知見等に基づく検討を経たものということができる。
[27] 立法府は、行政府による上記検討を前提にして、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものということができる。

[28](2)ア 多数意見は、7号規定について、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとしている。
[29]イ 7号規定について、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかという問題は、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性を有するかどうかという問題である。そして、7号規定に係る個別審査は、様々な精神機能の障害を有する者を広く対象としているから、上記個別審査により、警備業務を適正に行うことができない者が適切に排除されないとすれば、7号規定自体が上記実効性を欠き合理性を有しないことになる。
[30] そこで更に検討すると、まず、障害者に係る欠格条項の見直しは、平成5年計画に基づく平成11年決定を受けて、対象となる全ての制度について、種々の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討することを前提にして、行政府の専門的な知見等に基づく検討の下に進められた。7号規定に関し、警備業者による資料の収集、分析及び評価を通じた判断に委ねることの妥当性についても、中小零細企業が多数を占める点を含め、警備業に関する様々な実情を踏まえた検討が行われたものと考えられる。
[31] 警備業者としては、診断書や誓約書の提出、面接調査、教育・指導等により、必要な資料を収集して、相応の根拠に基づく分析及び評価を行い、自らの事業の内容や状況等に応じ、その指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を有するか否かを実質的、具体的に判断することができるものと考えられる。そして、この個別審査は、警備業者にとっても、自らの警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者等からの信頼を確保し得る警備員の能力を担保するものであるから、これを適切に行うことは、自らの事業の継続及び発展のために極めて重要であり、それを期待することができる。
[32] 行政府としても、7号規定の適正な実施が確保されるよう、公安委員会が警備業者を適切に監督するとともに、必要に応じ内閣府令又は通達・通知等により具体的な措置や指針等を示すなど、適切な措置を講ずべき責務を有する。
[33] 上記個別審査が、公的機関による判断ではなく警備業者の自発的判断に委ねられるといっても、適切な監督等の下において、上記実効性に関する問題が現実に生ずる具体的な懸念があるとはいえない。平成14年改正時の国会の審議においても、本件立法目的の達成を懸念する議論はうかがわれない。
[34] 立法府は、以上の経緯等を前提として、本件立法目的のため必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものということができる。その施行後も、上記実効性を疑問視させるような事象がうかがわれず、7号規定及びそれに基づく規則3条1項がそのまま維持されていることは、それを裏付けている。
[35]ウ 本件規定がないとしても、7号規定は、本件規定に当たる者を除外していないから、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者が、保佐開始の審判を受けている場合も、それを受けていない場合も、同様に、個別審査を行うことになる。この個別審査において、7号規定と保佐開始の審判とが趣旨・目的も審査の内容も異なることを前提とした上で、上記審判を受けている事実を一つの事情として適切に考慮した判断が、上記審判を受けていない者についての判断と異なり、本件立法目的を達成するのに不十分というべき理由はない。むしろ、現に、警備業者の指揮監督の下で特定の警備業務を適正に行っている警備員が、財産上の法律行為についての支援を受けるため保佐開始の審判を受けるに至ったとしても、警備業務を適正に行うことができることは明らかであり、本件立法目的のためにその警備業務の継続を禁止することは著しく不合理である。
[36]エ 7号規定及び本件規定は、いずれも被保佐人を対象とする点で重複する部分があり、これについて矛盾する取扱いを定めるものであるが、平成14年改正時の国会の審議において、両規定の関係についての議論が行われたものとはうかがわれないこと等に鑑みると、立法府として、上記重複を認識して放置することを意図しながら、本件規定を維持したものと解することはできない。むしろ、平成14年改正が、精神病者という欠格事由に代えて7号規定を定めるものであるため、7号規定と本件規定の重複を看過し、両規定の関係についての基本的な検討を怠り、漫然と、本件規定を維持したものといわざるを得ない。
[37] このような立法府の判断は、その合理的裁量によるものという実体を欠いている。

[38](3) 以上によれば、7号規定は、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として定められたものということができ、平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることが困難であったというべき理由はない。
[39] 平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことが明らかであり、上記被保佐人が自由かつ平等な職業選択を制約されることによる不利益は看過し難いものというべきである。
[40] そうすると、平成14年改正時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに至っていたものである。

[41](4) 本件規定は、成年後見制度の導入を内容とする平成11年民法改正に伴い、平成11年整備法により、警備業法3条1号の準禁治産者を被保佐人に改めたものであるところ、平成11年整備法による警備業法の改正時において、本件規定に代えて、平成14年改正と同様の法改正を行うことを妨げる事情はうかがわれない。
[42] そうすると、本件規定は、平成11年整備法による警備業法の改正時において、憲法22条1項及び14条1項に違反していたともいえるが、遅くとも平成14年改正時までに、両規定に違反するに至っていたということができる。
[42](1) 多数意見は、平成14年改正後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情が変化したとして、判示第2の3(3)のとおり指摘し、こうした変化等により、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとしている。
[43] そして、多数意見は、上記諸事情の変化の一つとして、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したことを指摘した上で、障害者差別解消法等及び利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみて、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれるとしている。
[44] 多数意見は、上記時期より前に本件規定が違憲となるに至っていたことを否定するものと理解される。

[45](2)ア そこで検討すると、まず、4でみたように、本件規定の憲法適合性については、その必要性及び合理性に関し、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性を有するかどうかが問題となる。
[46] 平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったとする多数意見に賛同することはできないが、仮に、この多数意見の立場に立つとしても、7号規定の実効性を直ちに見極めることが困難であるかどうかという問題は、その施行(平成15年3月)から平成30年2月の政策評価に至るまで、約15年に及ぶ検討を必要としないことは明らかである。
[47] 7号規定の施行により、現に警備業者による個別審査が実施されており,行政府としては、その適正な実施が確保されるよう、警備業者に対する監督その他適切な措置を講ずべき責務を有する。その後、特にその実効性を疑問視させるような事象もうかがわれないことや、7号規定及びそれに基づく規則3条1項がそのまま維持されていること等をも踏まえると、上記個別審査については、警備業務を適正に行うことができない者が適切に排除されないという問題もなく、適正に実施されていたものと考えられる。多数意見の上記実効性に関する指摘も、「直ちに見極めることは困難であった」というものであって、長期間の検討を必要とするような現実的、具体的な内容を含むものでない。
[48] 7号規定については、その施行後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題は解消していたというべきである。多数意見は、これを否定する具体的な検討を示していない。
[49] そうすると、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、上記時期において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないものである。
[50]イ 障害者権利条約は、全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な国際条約であり、その実施は、障害者を取り巻く様々な制度、慣行、意識等の社会的障壁(障害者基本法2条参照)を除去する過程として重要な意義を有する。障害者権利条約を批准するため国内法が整備され、それとともに、社会における障害の捉え方の変化、福祉や保護を中心とした障害者施策から法的な権利の保障を中心とするものへの転換、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化等が進んだといえるとしても、こうした諸事情の変化は、様々な社会的障壁を除去する過程であり、もとより、7号規定が本件立法目的を達成し得る実効性についての評価を具体的に左右するものではない。
[51] 障害者の労働や雇用等の関係についてみても、障害者差別解消法等は、行政機関等又は事業者が事務又は事業を行うに当たっての差別的取扱いの禁止や合理的な配慮の提供等を内容として、障害を理由とする差別の禁止等を定めるものである。これに対し、本件規定は、被保佐人を警備業務から一律に排除するものであるから、事業者による差別的取扱いや合理的な配慮等の問題ではない。障害者差別解消法等の施行に向けた準備の過程において、上記差別の禁止等に関する考え方が周知され確立するに至ったといえるにしても、こうした事情の変化は、7号規定の実効性についての評価を左右するものではない。
[52] 多数意見も、上記国内法の整備その他の諸事情の変化について、本件規定を取り巻く諸事情が変化したとするだけであり、7号規定がその実効性を有するに至っていたこととの具体的な関連性を示しているわけではない。
[53] そうすると、上記国内法の整備その他の諸事情の変化は、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連する事情ではなく、それを取り巻く社会的障壁に係る一般的、抽象的な事情というべきものである。こうした変化が進むにつれて、障害者の様々な権利利益を尊重するという要請が高まるといえるにしても、本件規定による制約が問題となる権利は、憲法22条1項及び14条1項が明文で全ての国民に保障する基本的人権であり、障害者権利条約や上記国内法に関わらず、障害者が当該権利の主体であることは当然である。そして、本件規定の必要性及び合理性の判断に具体的に関連しない社会的障壁の除去が進むまでの間、障害者が上記権利の制約による不利益を甘受しなければならず、立法府がこれを看過してよいというのは、いかにも不合理である。憲法の要請を踏まえた立法府の判断の裁量の範囲が狭いものであることに照らしても、上記国内法の整備その他の諸事情の変化を重視する判断に合理性を認めることはできない。
[54]ウ 以上によれば、仮に、平成14年改正時における憲法適合性に関する多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題が解消していたものであって、本件規定は、本件立法目的のために必要かつ合理的な措置とはいえないものであるから、全ての障害者のあらゆる人権及び平等等の保障に関する包括的、総合的な法制度が整備・施行されるまでの間、あるいは障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するまでの間、本件規定を維持することが立法府の合理的裁量として許されるものと解することはできない。
[55] その間、警備業務を適正に行うことのできる被保佐人が、本件規定により一律に警備業務から排除され、憲法が保障する権利を制約されることによる不利益を甘受すべき理由はない。
[56] 取り分け、本件規定が違憲となるに至っていたことやその時期についての判断において、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したという事情を理由とすることは、少数者の権利の保障が多数者の承認を条件とすることにつながりかねない。そのような条件が、基本的人権の保障及び個人の尊重という憲法の基本理念に反することは明らかである。
[57]エ 以上のとおり、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量を逸脱するに至っていたものであって、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたというべきである。
[58]1 本件規定が、遅くとも平成14年改正時までに、憲法22条1項及び14条1項に違反していたことを前提にして、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かについて検討する。

[59]2(1) 政府は、国際連合の動向等を踏まえ、平成5年計画において、障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指し、障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な見直しについて検討を行うものとした。
[60] また、国会は、平成5年改正により、障害者基本法の基本理念として、全て障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するとともに、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる旨を規定するなどした。
[61] 平成11年決定は、平成5年計画に基づくものであり、障害者に係る欠格条項について、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、対象となる全ての制度について見直しを行い、種々の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討することを前提に、真に必要と認められる欠格条項については、個別審査規定に改正するなどの対処を行うものとした。
[62] 平成11年整備法に関する国会審議においては、成年被後見人等に係る欠格条項を撤廃すべきである旨の参考人の意見や、同欠格条項を残すと障害者等への偏見を助長し、その社会参加が妨げられる旨、個別審査規定を設ければ資格制限として足りる旨等の議員の指摘がされるなどした上、参議院法務委員会において、全会一致で、政府等は成年被後見人等に係る欠格条項について更なる見直しを行うことについて格段の努力をすべきである旨の平成11年附帯決議がされた。
[63] 以上の経緯等からすると、国会は、新たな成年後見制度の実施に当たり、障害者基本法の定める基本理念の下に、平成5年計画及び平成11年決定の趣旨をも踏まえ、成年被後見人等に係る欠格条項について、それが障害者の社会参加を不当に阻む要因とならないよう、個別審査規定を設けることを検討するなど、更なる見直しを行う必要があることを認識し、政府に対し、その見直しについて格段の努力をすべきである旨の意思を示した上で、平成11年整備法を成立させたものということができる。
[64] このような事情の下で、個別の審査により当該資格等に必要な能力を有すると判断される者が一定程度いるにもかかわらず、成年被後見人等に係る欠格条項により、これを一律に排除することは、障害を理由として個人の自由かつ平等な活動を法律上制限し、障害者の社会参加を不当に阻むものであって、憲法上の問題があることは、国会議員として容易に認識できる状況にあったというべきである。
[65] もっとも、全ての成年被後見人等に係る欠格条項が当然に違憲というべきものではなく、その憲法適合性については、各欠格条項に係る制度の趣旨・目的及び内容、当該資格等に必要な能力の内容、個別審査規定等の代替措置の可能性等を踏まえ、個別に具体的な検討を行う必要がある。

[66](2) 平成14年改正は、平成5年計画に基づく平成11年決定を踏まえ、精神病者という欠格事由に代えて、精神機能の障害により警備業務を適正に行うことができるか否かを個別に審査する規定として7号規定を設けるものであるが、平成11年附帯決議は、成年被後見人等に係る欠格条項について、個別審査規定の検討を含む見直しを求めるものであり、7号規定は、本件規定に代わる個別審査規定とみることができる。
[67] そして、国会は、本件立法目的のために必要かつ相当な規制措置として7号規定を定めたものであり、平成14年改正時において、7号規定という個別審査規定を前提にして、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえないことは明らかである。
[68] そうすると、上記経緯等に鑑み、平成14年改正時において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反することは、国会にとって明白であったというべきである。

[69](3) したがって、本件規定は平成14年改正時において憲法22条1項及び14条1項に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものということができるから、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法である。

[70]3(1) 多数意見は、平成14年改正後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く事情が変化したこと等により、本件退職時点において、本件規定が違憲となるに至っていたことを前提とした上で、判示第3の2(2)のとおり指摘して、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠ったということはできないから、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとしている。

[71](2)ア 前記のとおり、本件規定が憲法の規定に違反するに至っていた時期及びその理由については、多数意見に賛同することはできない。
[72] 仮に、平成14年改正時において、本件規定がなくとも本件立法目的を達成するのに十分であるかどうかを直ちに見極めることは困難であったという多数意見の立場に立つとしても、7号規定の施行により、現に警備業者による個別審査が実施され、その後、さほど遅くない時期において、その実効性の問題が解消していたものというべきであるから、上記時期において、7号規定という個別審査規定を前提として、本件規定により、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力を備えた被保佐人を一律に警備業務から排除することは、本件立法目的のために過剰な規制であって必要かつ合理的な措置とはいえない。
[73] そして、2006年(平成18年)に障害者権利条約が採択され、2007年(平成19年)に我が国がこれに署名し、その批准に向けた施策が進められる中で、平成22年7月、有識者のほか政府及び裁判所の関係機関の担当者が参加した成年後見制度研究会による研究報告において、成年後見等が開始されたとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないこと、各法令における成年被後見人等に関する資格制限について、その必要性等を慎重に検討する必要があること等の見解が示された。次いで、同年10月、成年後見法世界会議における「成年後見制度に関する横浜宣言」において、我が国の課題の一つとして、成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである、特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪は基本的人権を著しく損なうものであるなどとされた。さらに、障害者権利条約を批准するための国内法の整備のうち、平成23年7月の障害者基本法の改正は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する旨を規定するなど、障害者権利条約に定められる障害者の捉え方や我が国が目指すべき社会の姿を新たに明記するとともに、施策の基本原則を定めるなどし、他の法整備の基礎とされた。
[74] また、平成28年4月制定の利用促進法は、基本方針の一つとして、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されることがないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う旨を定めており(11条2号)、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題が含まれることを明示している。そして、利用促進法の立案については、平成24年頃から3年以上にわたり、国会議員による検討及び協議が行われ、成案が得られたものであることがうかがわれる。これらによれば、その当時における学説や裁判例等の状況に関わらず、現に、国会議員が上記憲法上の問題を認識したことは明らかであり、この点も、それより早い時期から国会議員が上記憲法上の問題を容易に認識できる状況にあったことを裏付けている。
[75] 成年被後見人等に係る欠格条項に関し、平成5年計画、平成5年改正及び平成11年決定等を踏まえ、平成11年整備法に関する国会の審議を経て平成11年附帯決議がされた経緯等(2(1)参照。多数意見は、判示第3において、これらの経緯等に何ら具体的に触れていない。)に加え、その後の上記の経緯等に鑑みると、仮に、多数意見の上記立場に立つとしても、7号規定の施行後、さほど遅くない時期において、又は遅くとも平成23年頃までに、本件規定が憲法に違反することは、国会にとって明白であったというべきである。
[76]イ 本件規定は、7号規定と重複する過剰な規制であって憲法に違反することが明白であり、これを是正するためには本件規定を削除すれば足りるものであるから、国会において、速やかに本件規定を削除する立法措置を講ずることが強く期待される状況にあった。
[77] 成年後見制度の利用の促進に関する施策として、憲法に違反する規定か否かに関わらず、全ての成年被後見人等に係る欠格条項を対象とする見直しを行うための検討には相応の期間を要するとしても、本件規定が現に憲法上の権利を侵害しており、その是正措置が容易であって、他の規定の整備等も必要としない以上、上記施策に係る検討は、国会が上記立法措置を怠る正当な理由となるものではない。
[78]ウ 以上によれば、仮に、平成14年改正時における憲法適合性に関する多数意見の上記立場に立つとしても、本件退職時点において、本件規定は憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものということができるから、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法である。
[79]1 以上のとおりであり、本件立法不作為の違法を理由とする慰謝料請求を認めた原審の判断は結論において是認することができるから、本件上告を棄却するのが相当である。

[80]2(1) 成年被後見人等に係る欠格条項の見直しについては、平成28年制定の利用促進法の定める基本方針に基づき、政府の検討を経て、令和元年、本件規定の削除を含む一括整備法が成立したが、平成11年附帯決議は、上記基本方針と同じ趣旨であるから、その内容が約20年をかけて実現したことになる。障害者に係る欠格条項の見直しが平成5年計画に基づいて行われたことに照らしても、あまりにも遅きに失したといわざるを得ない。
[81] これは、政府が長年にわたり平成11年附帯決議を踏まえた適切な対応を怠り、国会がそのような政府の対応を放置したものというべきであるが、この問題には、昭和23年の優生保護法の制定及びその後の経緯等にみられるとおり、国会及び政府が、更に長い歳月にわたり、精神上の障害を有する者等に関する誤った認識に基づく違法な政策や不当な対応を続けてきたという歴史が重なっている。これらに伴う我が国の社会的障壁を除去するには、国及び地方公共団体をはじめとして、なお格段の努力が必要と考えられる。裁判官及び裁判所も例外ではない。

[82](2) 一括整備法による成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに当たっては、同欠格条項の多くについて、その代替措置として、7号規定と同様に、法律において「心身の故障により、業務を適切に行うことができない者として省令で定めるもの」といった個別審査規定が設けられた上で、省令等において「精神の機能の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」といった規定が設けられている。そのため、現在、個別審査を前提としながらも、精神機能の障害を理由とする欠格条項が数多く存在する。
[83] 障害は、機能障害を有する者と社会の障壁との間の相互作用であり(障害者権利条約前文(e)、1条後段等参照)、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと(障害者基本法4条2項)や、障害者の雇用の分野においても、事業者において障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないこと(障害者雇用促進法36条の2)等を前提にすると、上記欠格条項は、合理的な配慮の提供との関係が明らかではなく、障害者の機能障害に偏ったものとなっている。
[84] 障害者権利条約に基づいて設置された障害者の権利に関する委員会は、我が国に対し、心身の故障に基づく欠格条項等の廃止を勧告しており(2022年(令和4年)10月「日本の第1回政府報告に関する総括所見」)、障害者基本計画(第5次)(令和5年3月)においても、心身の障害等により制限を付している法令の規定(いわゆる相対的欠格条項)については、真に必要な規定か検証し、必要に応じて見直しを行うものとされている。
[85] この問題に関する長い歴史に鑑み、適切な対応が望まれる。


 裁判官尾島明の反対意見は、次のとおりである。

[1]1 私は、本件規定が本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする多数意見の結論には同調するものの、その理由付けの部分については一部見解を異にするところがあり、また、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法でないとする多数意見には賛同することができない。そして、原判決はその結論において是認できるので、本件上告を棄却すべきであると考える。以下、その理由について述べる。
[2] 本件の憲法上の争点は、被保佐人であることを警備員の一律の欠格事由としていた本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するか否かというものであり、これはすなわち、精神上の障害があることを理由に被保佐人が警備員という職業を選択することを一律に制限する法律の規定が憲法上許されるか否かという問題である。このような問題設定自体から明らかなように、平等保護原則と職業選択の自由という二つの憲法上の基本的価値に対して法律が制限を課すことの可否をどう判断するかが問われている。
[3] このような本件規定の憲法適合性を審査するに当たって、原判決(第1審判決も同様)は、まず憲法22条1項違反の有無を精査し検討し、その違憲性を説示した後、更に憲法14条1項にも違反することを簡潔に判示している。憲法22条1項と14条1項に関する憲法適合性審査の在り方ないし考慮すべき観点については、当審の判例がそれぞれその手法を判示していることから(多数意見参照)、原審もそのような手法を採用しているのであろうが、上記のように、本件規定の憲法上の問題が「精神上の障害を理由に職業選択の自由という基本的な権利の享受が不合理に差別されているか」ということにある以上、多数意見のように、本件規定の憲法22条1項及び14条1項の適合性は、併せて検討するのが妥当である。
[4] 近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところである。このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つであるから、これを制限する法令の憲法適合性を審査するに当たっては、憲法22条1項及び14条1項に適合するか否かの検討・判断を別個に設定したそれぞれの審査基準等に照らして行うのではなく、それらを併せ一まとめにして行うべきである。また、職業選択の自由という個人の自由権の保障及び平等保護原則という憲法が体現している基本的価値に照らして当該法令をみていくことによって、そこには二つの基本的価値の統合による相乗効果(シナジー効果)が生まれるといってよく、その結果、多数意見のいう「規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」という要件についてもこれを満たすか否かは、抽象的、観念的に行われる想定からだけでなく、具体的な事情を踏まえて厳しく審査することが要求されることになるといえよう。
[5] このような観点から本件規定をみると、これが本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする多数意見の結論に異存はない。もっとも、多数意見が平成11年整備法により本件規定が作られてからその後の法制定や社会状況の変遷を踏まえて、これらが本件規定の憲法適合性判断に影響してくることを判示する箇所のうち、平成14年改正を経た本件規定が当時合憲であったとする部分について、私は賛同することができない。問題となった規定の特定の時点における憲法適合性を判断すれば足りる事案とは異なり、本件のような立法不作為の違法を理由とする国家賠償請求事件にあっては、どの時点で本件規定の違憲性が明白になり、そこから国会が長期にわたって正当な理由なく本件規定の改廃等の立法措置を怠ったかを審理し、判断しなければならない。私は、その判断につながっていくことから、多数意見の平成14年改正を経た当時の本件規定の合憲判断に賛同することができないのである。この点については、上記のように「規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置である」か否かを、具体的事情を踏まえて厳しく審査しなければならないと考えることから多数意見との違いが生じてきているものと思われる。この点は、後記3でより詳しく述べることとする。
[6](1) 国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反し、国家賠償法上違法となるのは、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などである(多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決)。

(2) 違憲の明白性の概念とその判断要素
[7] 上記の場合における違憲の明白性は国会議員にとってのものであるが,これについての国会議員の認識は、個々のあるいは多数の国会議員の現実の主観的認識ではなく、立法を担う国の機関である国会を構成する国会議員が憲法遵守義務を負う合理的立法者として、違憲の法律を是正するために、付与された権限を行使しなければならない客観的状況があったか否かという観点から判断される規範的なものと考えるべきである。
[8] こういうことからすると、違憲の明白性の有無を判断するに当たって最も重要な要素は、立法機関の構成員である国会議員が制定した又は制定しようとする法律の規定内容自体(過去からの立法状況も含めて)のありようである。例えば、最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決・民集78巻3号382頁は、立法行為が明白に違憲であったとしてその国家賠償法上の違法性を認めたものであるが、国会が全会一致で制定した旧優生保護法の規定内容について、侵害される憲法上の権利の重大性や侵害の過酷さが当該規定内容自体に表れているので、これだけで、当時の国会議員らが具体的、主観的にどう認識していたかにかかわらず、上記の合理的立法者基準により規定内容の違憲が明白であったといえるものと解される。
[9] また、問題となった規定内容以外の関連する他の法令(条約を含む。)の制定や改正等に向けてされた取組、議論等の客観的状況も、立法行為を支えるものとして、当然に合理的立法者であれば考慮すべきであるといえる。
[10] この点に関連して、問題となった規定の合憲性について疑問を表明する裁判例や学説の存在はどうだろうか。もちろん当該規定や類似の規定を違憲とする裁判例や学説があれば、合理的立法者としては当然これらの内容を精査すべきであるといえるが、これらの存在は違憲の明白性を基礎付ける必須の要素であるとはいえず、これらの意見がまだ表明されていなかったからといってそのことが違憲の明白性を否定する積極的な理由にはならないというべきである。裁判例に関しては、本件のような事案に即していうと、被保佐人が警備員の職に就くことを希望したり、既に警備員の職に就いている者が保佐開始の審判を受けることを希望したりした場合に、あらかじめ国を被告として本件規定の違憲確認を求める訴訟を提起して目的を達することには事実上も法律上も困難が伴うから、裁判実務上本件規定の違憲をいう裁判例が現れる可能性はおのずと少なくなろう。被上告人のように職を失うことが法律上明らかであるのにあえて保佐開始の申立てをする者が現れて、初めて本件規定の憲法判断をする裁判例が生まれ得たといえる。また学説に関しては、ある法令の規定の憲法適合性に関心や疑問を示す学説が存在しなかったことが、現に当該規定により権利を侵害されている者の権利行使の範囲を狭めることになると考えることもできない。

(3) 本件規定の違憲が明白となった時期
[11] 違憲の明白性は、上記(2)のように規定内容自体その他客観的な要素で判断されるものであるから、特定の時点におけるその存在が認定判断できることもあり得るが、違憲判断の基準時における立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無として問題になる場合においては、違憲が明白になった時点が一時点に特定されなくても、遅くとも違憲判断の基準時(本件では本件退職時点である平成29年3月)から違憲の法令を改廃するために必要な合理的期間を遡った時点では明白であったということで足りることになる。要するに、立法不作為の国家賠償法上の違法性が問題になる事件では法律が違憲になった時点を確定する必要はなく、また、遅くとも違憲判断の基準時から遡った一定の時点までには違憲が明白になっていたという認定判断で足りるということである。
[12] もっとも、私は、上記(2)のように、合理的立法者を観念して、まずは法律の規定内容自体、そして更にはそれに関連する法令や社会状況の変遷に表れた客観的な要素を重視すべきと考えるので、本件規定の違憲性が明白となったことを基礎付ける事情としては、明確な事象として平成14年改正による7号規定の施行が重要な契機になると考えている。
[13] そういう観点から本件をみると、
① 1970年代後半(昭和50年頃)からの国連などの国際社会及び我が国の政府・国会における障害者福祉増進の取組と特にその雇用分野への反映としての「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和62年)、「障害者基本法」(平成5年)等の立法(改正)の実現、
② 障害者施策推進本部の平成11年決定による障害者(精神障害者を含む。)の法令上の欠格事由の必要性を再検討し、真に必要なものについても、相対的欠格事由(個別審査規定)とすることの提言(憲法上の権利利益の侵害について、ある属性の者をグループとして一括りに保護や制限の在り方をみるという姿勢から、個人の具体的な権利に対する侵害の有無の検討を重視するようになってきていることも、絶対的欠格事由から相対的欠格事由(個別審査規定)への制度変更を促す要素となっているように思われる。)と、平成11年整備法による禁治産者又は準禁治産者に係る欠格事由の改正と今後の更なる見直し等に向けた格段の努力への附帯決議による国会自身の決意表明、
③ 警備業法の平成14年改正で精神病者を欠格事由とすることに代えて同法3条7号に相対的欠格事由(個別審査規定)を導入した結果、この7号規定が同条1号の「被保佐人」の内容と文言上明らかな重なり合いが生ずるようになったこと、そして被保佐人を一律の欠格事由とすることにより被上告人のように精神上の障害があっても7号規定の下では警備員になり得た者が本件規定により排除されてしまうことが規定上明らかになったのに、警備業務の内容次第ではその遂行に問題のない者まで過剰に包摂してしまうことになる被保佐人の一律排除規定(本件規定)をそのまま残したこと、
④ 被保佐人の一律排除の理由について、家庭裁判所による精神上の障害の認定という確実な判断を借用することにより警備業者の警備員採用の便宜や行政庁による監督の便宜に資するという公共の利益に配慮したものであるとして説明できることは否定できないが(なお、被保佐人とされるような精神上の障害を有する者が警備員の中には存在しないということで警備業務を依頼する顧客や円滑な交通誘導の恩恵を受ける第三者の中に一定の安心感が生まれることもあろうが、このような漠然とし、曖昧模糊としたものを憲法上の権利をも制約し得る「重要な公共の利益」に含めることは困難である。)、このような事務遂行上の便宜によって平等保護原則や職業選択の自由の制限を憲法上正当化するのは利益衡量として著しくバランスを欠いていることが規定自体から分かること
等を総合して考えると、平成14年改正に係る法律(以下「平成14年改正法」という。)の施行後に7号規定だけの運用では警備業者の実務運用に支障があるのでやはり被保佐人の一律排除も必要であるなどと指摘された形跡もないこと(むしろ、一括整備法により被保佐人の欠格事由を削る際に、警察庁は、その時点までの具体的な事情を踏まえるというより、7号規定が既に設けられているから特段の影響が想定されないとの評価をしている。)にも鑑み、平成14年改正法の施行により違憲が明白になったと十分いい得ると考える。
[14] 平成14年改正法がどのようなものであったとみるかを更に補足する。
[15] 警備業法2条1項各号に掲げる警備業務の多様な類型、警備業者が個々の警備員の能力に応じて、行わせる業務を配慮して調整することができること(例えば、被上告人が担当していた交通誘導業務の中にも、実施が容易であったり、複数人で行うことにより円滑に実施できたりするものなど様々なものがあろう。)、警備業者による実施が法律上義務付けられている警備員に対する教育、指導、監督等に鑑みると、財産の処分等に必要な事理を弁識する能力が著しく不十分とされる被保佐人の中に、一定の警備業務であれば遂行できる能力を有する者がいることは、明らかであるといってよい。被上告人本人が正にそのような者であったし、障害者(精神障害者を含む。)を多数雇用している警備業者があることをうかがわせる証拠も本件記録中に存在する。また、立案当局及び国会が、平成14年改正法の立法に当たり、その専門的、技術的知見を使って、被保佐人とされた者あるいは精神上の障害を有する者の中にも一定の警備業務を行える者がいるのかどうか、いるとすればどのくらいいるのか、警備業者がそのような者を雇用する場合の実務上の留意点などを検討した形跡は証拠上認められない。
[16] 平成14年改正法施行後も残る本件規定が被上告人のような立場の者にとって特に酷な規定であったことは、
① 被上告人と雇用主である警備業者(以下「本件会社」という。)との間の雇用契約では被上告人は本件会社の指定する場所で交通誘導業務に従事することとされていたことから、被上告人は、工事現場や駐車場等での交通誘導業務に従事していたが、本件退職時点まで被上告人の誘導ミス等により事故が発生したことはなく、本件会社を含む雇用主からそれまで警備員としての資質を問題視されたり、業務遂行の不適切さを理由に指導や注意を受けたりしたこともないこと、
② 被上告人は本人としてはどうすることもできない軽度の知的障害を有する者であるが、就職に当たって本件会社に提出された医師の診断書には被上告人が7号規定の要件に該当しない旨の記載があること、
③ 被上告人が保佐開始の申立てをしたのは、親族との間で被上告人の財産の管理をめぐるトラブルがあり、福祉関係者の支援の下で自己の財産を守るためのやむを得ないものであったとうかがわれること
にも表れており、自己の財産を守ろうとする精神上の障害のある者にとって、生活の基盤である職業の維持継続を採るか、自己の財産の保護を採るかというつらい選択を迫るものになっていたことからも分かる。
[17] 平成14年改正法が7号規定として相対的欠格事由(個別審査規定)を導入したにもかかわらず本件規定をそのまま残したことについて、立案当局は、「精神病者」が欠格事由から削られたことの代替として7号規定を導入することを意図していたとうかがわれるが、その際、本件規定をそのまま残すことの当否を検討したことに関する証拠はない。上告人は、およそ被保佐人である以上全て7号規定による不適格者に当たることを前提として(本件では上告受理申立て理由から排除されているが、被上告人が保佐開始の審判を受けたということは自動的に7号規定にも該当するということにもなるのであって、被上告人が被保佐人となったことと被上告人の失職との間に相当因果関係がない旨の上告人の主張もその前提に立つ。)、導入されたばかりの7号規定の審査に習熟していない中小の警備業者の自発的判断により7号規定の該当性を判断するのは困難を伴うから、家庭裁判所が証拠に基づいて精神上の障害があることを認定した被保佐人を欠格事由とすることにより警備員の採用に当たる警備業者やこれを監督する行政庁の負担が軽減できるという便宜を主張する(したがって、一括整備法が本件規定を削ったのも、7号規定の存在により必要性がなくなったからということではなく、成年後見制度の利用促進のための政策的な観点によるという主張に結び付く。)。しかしながら、被保佐人であれば全ての者が当然に7号規定に該当するという前提自体に疑問がある上、警備業者等の事務遂行上の便宜と被保佐人の憲法上の権利利益とでは比較衡量のバランスを著しく欠くことも前記のとおりである。更にいうと、保佐制度の利用の少なさからすると実際には精神上の障害のある者の大部分の雇用に関係することとなる7号規定は、中小の警備業者の自発的判断の負担に対する配慮をせずにそのまま施行されているのである。
[18] 私の上記のような判断は、立法府の制度設計に係る裁量を考慮し、結局は一括整備法によって本件規定を削っていることに鑑みると、厳しすぎるとみる向きがあるかもしれないが、本件の国家賠償法上の違法性に係る状況を厳格にみる必要があるのは、前記のように近代社会の歴史を振り返ると、平等保護原則が職業選択の自由がなかった過去の制度を変革し、社会を豊かなものにする原動力になったという事実があるからであって、こういうように平等保護原則と職業選択の自由の相互の結び付きによる相乗効果(シナジー効果)をみることにより、これまで余り疑問に思われていなかった制度の中にも不合理な差別が潜むことが分かるということがあるからである。憲法適合性の問題(違憲か否かの問題)と違憲の明白性の問題(国家賠償法上違法か否かの問題)をはっきり分けてしまうと、相乗効果(シナジー効果)は、憲法適合性の問題において論ずべきものであって、違憲の明白性との関連性は一見希薄なようにみえる。しかし、私は、憲法適合性の問題と違憲の明白性の問題は一つながりの相互に影響し合うものと考えている。つまり、ある規定が違憲とされても、その違憲性の程度には強弱があり(当審判例で違憲とされた旧優生保護法の規定と本件規定を比べてみれば明らかである。)、違憲の明白性を判断する客観的状況(問題となった規定や他の関連規定のありようなど)にも濃淡があるから、事案によっては、上記客観的状況からは一義的断定をするのに躊躇されるようなところがある場合であっても、違憲性の程度が高ければ違憲の明白性を肯定できることもあり得ると考えている。そうすると、違憲性の程度を高めることにつながる相乗効果(シナジー効果)は、違憲の明白性を審査する段階でも関連性があるということになるはずである。

(4) 本件規定の明白な違憲性を是正するための長期間の立法の怠りについて
[19] 違憲であることが明白になっている法律がある以上、国会がこれを直ちに是正しなければならないことは当然の義務であるところ、本件規定の違憲を是正するには、既に平成14年改正法で7号規定として相対的欠格事由(個別審査規定)が導入されているのであるから、警備業法3条1号から「被保佐人」の部分を削ることで足り、これに伴う他の規定の整備も不要であって、立法技術的には容易であるといえる(現に一括整備法はそうしている。)。
[20] そうすると、平成14年改正法の施行により違憲が明白になった以上、その後更なる障害者の権利擁護と障害者に対する配慮の高まりの中で、警備員について被保佐人をその精神上の障害を理由に一律に排除すべき必要性を基礎付ける事情も生じていないことから、一括整備法の施行まで15年余りもの期間にわたって国会が本件規定の改廃を怠ったことは不合理であったというべきである。
[21] 平成14年改正法の施行以来、取り分け平成28年の利用促進法の施行後、他の多くの法令中に存する被保佐人に係る一律の欠格事由を相対的欠格事由(個別審査規定)に改正する検討作業が続けられ、一括整備法でそのほとんどが実現するに至ることになる。他法令の改正準備がそろうのを待って一括して規定を整備するというのは、法制上も行政運営上も、障害者のノーマライゼーションとインクルージョン、成年後見制度利用促進等の諸政策を包括して実現するためには合理的な面があるのは否定できないが、そうであるからといって既に相対的欠格事由(個別審査規定)が導入されているためにその必要性がなくなっている規定について個別の法令ごとに別途その改廃を要する特別な事情があるか否かを検討しなくても良いということにはならない。近代憲法の最も重要な要素の一つであり、我が国の憲法もこれをうたう平等保護原則及び職業選択の自由が不合理に損なわれている者が現にいることが法令の規定内容自体に表れている状況が生じている以上、障害者を取り巻く国民の意識の変化を考慮するとしても、障害者を不合理に差別しても良いなどという意識がもともとあるはずもないのであって、本件規定を削るについても、他の諸法律の規定と同じトラックを走らせず、障害者の憲法上の権利利益を回復する措置を、法体系全体を通じた一括の改正や障害者権利条約の国内法制度全般への包括実施のための整備を待たずに、別途必要なところには講ずるべきであった。


 裁判官宮川美津子の反対意見は、次のとおりである。

[1] 私は、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたという多数意見の判断については賛同するものであるが、多数意見とは異なり、遅くとも平成14年改正当時には、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っており、また、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には、本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとって明白となっており、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであると考える。その理由は、以下のとおりである。
(1) 判断枠組み等
[2] 本件においては、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かが問題となるが、私も、多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決(再婚禁止期間違憲事件判決)等の判断枠組みに基づいて違法性を判断することに異存はない。そこで、本件立法不作為が違法の評価を受けるか否かについて判断するためには、どの時点で本件規定の違憲性が明白となり、その時点から本件退職時点まで国会が正当な理由なく長期にわたり本件規定の改廃を怠ったといえるかを検討することになるが、本件規定の違憲性が明白になった時期を判断する前提として、本件規定が違憲となった時期についても検討する。
[3] そして、本件規定の憲法適合性に係る判断枠組みについても、多数意見の第2の2に説示されたところに異存はない。この点については、多数意見が挙げる事情のほか、職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動というだけでなく、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであり(多数意見が引用する最高裁昭和50年4月30日大法廷判決)、平成5年改正障害者基本法(平成14年改正当時に適用された障害者基本法)が掲げた、すべての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする基本理念(同法3条2項)は、職業選択の自由を国民に保障した憲法の理念に沿ったものと評価できることを指摘することができる。
[4] 多数意見は、本件退職時点において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする一方、平成14年改正の当時においては、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する(多数意見第2の3(2))。しかし、私は、遅くとも平成14年改正の当時には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。そのように判断するに当たり考慮した平成14年改正に至る経緯、障害者のための施策に関する国内外の動向、我が国の立法状況等は、多数意見第1の3(1)及び三浦裁判官の反対意見第1に記載されているとおりである。

(2) 本件規定の立法目的
[5] 本件規定の目的は、多数意見が判示するとおり、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあると解される。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものといえる。

(3) 本件規定の必要性、合理性
[6]ア 平成11年整備法により禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由とする規定の見直しが行われ、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際に附帯決議(以下「平成11年附帯決議」という。)がされたことは、多数意見第1の3(1)イに記載のとおりである。これに加えて、改正前の禁治産・準禁治産の制度は、「治産を禁ずる」という用語の否定的な意味合いや、多数の法律中の禁治産者等に係る欠格条項の存在から、利用者を社会から排除する制度であるかのように国民に誤解され、また利用者である知的・精神障害者等に対する社会的な偏見を助長するものと批判されていたのに対し、平成11年の成年後見制度は、精神上の障害(精神障害、知的障害、認知症等)により判断能力が不十分な者について、自己決定権の尊重、残存能力の活用、障害者が障害を持たない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念等、障害者のための施策についての新しい理念を取入れて創設された制度であったことを指摘することができる。
[7] ところが、かかる新制度の発足を受けて行われた平成11年整備法による禁治産者や準禁治産者に係る欠格条項の見直しでは、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする158の規定のうち、結果として116が「成年被後見人」、「被保佐人」に名前を変えて、旧来通り絶対的欠格条項として残置されたのである。平成11年整備法の国会審議の経過を補足すると、衆議院及び参議院の各法務委員会においては、このような政府の方針に対し、複数の委員から、それぞれの法令の中に能力を個別に審査する規定を設ければ足り、禁治産者等であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116項目の欠格条項についても次の見直しの際に再検討されたい旨の発言や、欠格事由を残すと老人や障害者への偏見を助長し、社会参加が妨げられるとの批判が出ているとの発言があった。さらに、成年後見制度の意義として、禁治産者、準禁治産者という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使える新しい制度を作ろうということであれば、欠格条項ではなく、できる限り個別に判断していこうという方向性が正しいのではないかとの質問に対して、政府参考人から、基本的にはそのような考え方で正しいと思うが、個別の具体的な問題になると、立法的には様々な価値があるので、それを調整させた結果が現在の整備法の内容であるとの回答があった。このような審議の結果として、政府及び最高裁判所は、新たな成年後見制度の実施にあたり、成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については更なる見直しを行うこと等についての格段の努力をすべきである旨の平成11年附帯決議が全会一致で可決されたのである。
[8]イ その後、平成11年決定に基づく障害者に係る欠格条項の見直し作業の一環として、平成14年改正により警備業法の「精神病者」に係る欠格条項の見直しが行われたことは、多数意見第1の3(1)ウのとおりであるが、平成14年改正法の国会審議の経過を補足すると、同国会では、障害者に係る欠格事由の多くは、憲法13条や14条、また国連の様々な宣言や障害者基本法の理念に反するとの意見が出され、また政府参考人から、昭和57年警備業法改正当時、精神病者であることを欠格事由とした理由は、精神病者等が他人の生命、身体又は財産を侵害することも考えられ、適正な業務運営が期待できないという判断によるものであったが、現在(平成14年改正の審議当時)の政府の考え方として、精神病者一般について、適正な警備業務の管理運営、実施を期待し得ないという考えは全く持っておらず、あくまでも個別具体的なケースに応じて能力を判断していくべきものと考えている旨の説明があった。また、「精神病者」に係る欠格条項は改正ではなく廃止すべきであるとの議論の中で、政府としては、警備業者等が人の生命、身体又は財産を守る業務に直接携わるものであることから、一定の欠格事由は国民生活の安全を守るためにも必要と考えること、しかし、今回の改正では、精神病者を一律に排除するということではなく、業務を適正に行うことができるかどうかという点に着目して相対的な欠格事由に変更するという立場であることが説明されている。
[9]ウ 平成14年改正によって7号規定が設けられた後は,保佐の制度の対象となる「精神上の障害」(民法11条)を持つ者は、7号規定の対象となる「精神機能の障害」を持つ者に含まれるということができるのであるから、警備業者が警備員を採用する際には、被保佐人についても、保佐の制度を利用していない障害者と同様に7号規定により個別審査を行って、警備業務を適正に行う能力があるかどうかを判断することが可能となった。したがって、平成14年改正で7号規定を追加したことにより、警備業者が警備員を採用する際に、保佐の制度を利用していない精神機能に障害を有する者を7号規定で個別に審査する一方、被保佐人であれば、警備員として適切に業務を行う能力を有する者も含め、本件規定で一律に排除するというような区別をする合理的な理由は認められなくなり、本件規定の必要性や合理性は失われたと考えられる。
[10]エ 多数意見は、7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関により判断されるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきであるから、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する。
[11] しかし、保佐開始の審判が公的機関による判断であるといっても、保佐を含む成年後見制度は、財産管理・身上監護に関する制度であり、家庭裁判所は財産管理能力の有無を審査するのであって、保佐開始の審判において判定される能力は、法律行為の利害得失を判断することのできる能力の有無及びその程度であり、それ以外の能力については判断されていない。成年後見制度の下で要求される財産管理能力と事実行為である警備業務を適切に遂行する能力とは質的に異なるものである。したがって、保佐開始の審判において、警備業務を適切に遂行する能力を的確に判定し得るものではない。本件規定は、警備業務に必要とされる能力の内容に応じて個別的・実質的な審査を行う代わりに、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた事実を借用するもので、本件規定があれば、被保佐人を全て警備員から排除することにより、警備業者の個別審査の在り方や正確性を問わず警備員としての能力に欠ける者が採用されることを防止できるであろうという安心感から利用されているといえるが、警備業務には多様な業務が含まれており(警備業法2条1項各号)、被保佐人であるからといって全ての警備業務が適切に遂行できないというわけではない。実際、被上告人は、軽度の知的障害を有しながら、同法3条7号に該当しないとの診断書を提出して警備員に採用され、警備会社との雇用契約に基づき、交通誘導に係る警備業務に従事していたが、保佐開始の審判が確定したことにより雇用契約が終了したのである。したがって、本件規定については、警備業務を行う能力のある被保佐人を警備員から排除する可能性を含み、過剰な規制になっていたといえる。
[12] また、平成14年改正の国会審議において、多数意見が挙げるような7号規定の実効性への懸念が示されていた形跡はうかがわれない。そして、本件規定があることでどれだけの不適格者をスクリーニングできていたのかは明らかではなく、仮に平成14年改正の時点で本件規定が削除されたとした場合に、それまで排除されてきた不適格者がどの程度排除できなくなっていたのかも明らかではない。そもそも、保佐の制度の対象者となり得る精神上の障害者のうち、実際に保佐の制度を利用している者の数はかなり少ないと認められることから、平成14年当時、被上告人のように、知的障害を持ちながら保佐の制度を利用していない者が警備員への就労を希望するケースがあったことは十分考えられ、その場合、警備員としての適格性は警備業者の自発的判断に委ねられていたのである。そのような警備業者の個別審査の結果、精神上の障害を持つ不適格者が採用され、事件や事故を起こしたといった事実は本件では提示されていない。
[13] 国会が7号規定による警備業者の自発的審査の実効性に対する懸念から本件規定を残置したのであれば、それは、警備業者の審査能力を不当に過小評価するものである。警備業者は、警備業法に基づき、公安委員会の監督の下に置かれ、所要の法的規制を受けているところ、欠格事由に該当する者を警備業務に従事させてはならないとされており(警備業法14条2項)、警備員が欠格事由に該当しないことについて、一般私人として可能な範囲で必要な調査をしなければならない。公安委員会は、警備業者又はその警備員が、警備業法若しくは同法に基づく命令等に違反した場合等において、警備業務の適正な実施が害されるおそれがあると認められるときは、当該警備業者に対し、当該警備員を警備業務に従事させない措置その他必要な措置をとるべきことを指示することができ(48条)、また、当該警備業者の営業の全部又は一部の停止を命ずることができる(49条1項)。さらに、罰則(56条から60条まで)により警備業者が警備業法その他の法令を遵守することや公安委員会の監督の実効性を担保している。そして、一定の前科のある者や暴力団関係者等を警備業者の欠格事由とすることに加え、「最近5年間に、警備業法の規定や、同法に基づく命令の規定等に違反した者」を欠格事由とすることによっても(3条3号)、警備業者による法令遵守を担保している。したがって、国は、本件規定がなくとも、警備業法に基づき、警備業者に対し適切な規制、監督を行うことにより、警備業者が、警備業務を適正に行うことができない者を警備員として採用しないよう確保することも十分可能であったといえる。実際、平成14年改正の後、警備業者は、その営業所において、警備員の欠格事由に該当しないことを誓約した書面に加え、当該警備員が欠格事由に該当しないことを確認するために講じた措置を記載した書類を備え付けることとされ(警備業法45条、警備業法施行規則(昭和58年総理府令第1号)66条1項2号)、欠格事由に該当する者が警備員として警備業務に従事することの防止が図られている。
[14] 多数意見が指摘するように、警備員の適格性を警備業者の自発的判断に委ねると、不適格な警備員が採用され、利用者の安全や財産を害するおそれがあるとしても、それがどの程度のものであったか明らかではなく、平成14年改正当時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断の合理性を肯定し得るような事情や立法事実は認められない。
[15]オ 以上を総合考慮すると、遅くとも平成14年改正当時において、本件規定を存続させる必要性及び合理性は失われており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたと考える。
[16] したがって、本件規定は、遅くとも平成14年改正当時には、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至り、本件退職時点においても違憲であったというべきである。
(1) 判断枠組み等
[17] 本件立法不作為が国家賠償法1条1項の規定の適用上違法と評価されるべきか否かの判断枠組みについては、私も、多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決等の判断枠組みに基づいて検討することに異存はない。
[18] しかし、多数意見は、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできず、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断しており、この点については賛同できない。

(2) 違憲の明白性
[19]ア 尾島裁判官の反対意見3(2)及び沖野裁判官の反対意見2(5)に示されているように、違憲であることの明白性は、個々のあるいは多数の国会議員の主観的認識ではなく、唯一の立法機関である国会を構成する国会議員が、憲法遵守義務を負う合理的立法者として、違憲の法律を是正するために、付与された権限を行使しなければならない客観的状況があったか否かという観点から判断される規範的なものと考えるべきである。そして、本件において違憲の明白性の判断をするに当たっては、本件規定により侵害される憲法上の権利の性質、本件規定によるその侵害の内容・程度、本件規定及び関連する他の法令(条約を含む。)の制定及び改正経緯、国会での議論等の状況、関連する学会、研究会等の研究報告や意見表明等を考慮して、本件規定の違憲性が明白であるといえるかを判断することができる。
[20]イ 平成14年改正が国会において審議された際には、障害者に係る欠格事由の多くは憲法13条や14条、また国連の様々な宣言や障害者基本法の理念に反するという意見が出され、政府参考人も、同時点において精神病者一般について適正な警備業務の実施が期待できないという考え方は持っておらず、個別具体的なケースに応じて能力を判断していくべきものとの立場を表明している。ところが、その国会において、「精神病者」に係る欠格条項の見直しの議論に関連して、本件規定について問題提起がされることはなかった。本件規定が、平成14年改正時に検討対象とされなかったのは、平成11年決定が、障害者を表す身体又は精神の障害を理由とした欠格条項を見直しの対象としていたため、「被保佐人」であることを理由とした欠格条項は見直しの対象とされていなかったというだけでなく、被保佐人が障害者であることに加えて公的機関により判断能力が著しく不十分と判定された者であり一定の資格や職業には不適格であるとの社会的な認識が影響していたのではないかとも考えられる。このような社会的な認識の誤りが指摘されるのは、後述する平成22年7月公表の成年後見制度研究会の研究報告を待たねばならなかった。同報告には、「成年後見の類型は、主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められるのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない。」との指摘がある(同報告書第2章第4の1(2)ア)。したがって、私は、平成14年改正の当時、本件規定は違憲となっていたものの、国会においてその違憲性が明白になっていたとはいい難いと考える。
[21]ウ そこで、平成14年以降の障害者権利条約の署名及びその批准に向けた国内法の整備等の経緯、成年後見制度の利用の促進に関する法律の制定等の経緯(多数意見第1の3(2)及び(3))を検討した結果、私は、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には、本件規定の違憲性が国会にとって明白になっていたといい得ると考える。
[22] 我が国は、平成19年9月に障害者権利条約に署名し、その批准に向けて、同条約の基本的な理念に沿った形で、国内法の整備及び国内制度改革を行った。そして、平成23年7月に、我が国の障害者施策に関する基本法となる障害者基本法を大幅に改正した。この改正は、障害者権利条約の批准に先立ち、障害者権利条約が締約国に求める障害者の権利の実現や差別の禁止等の理念を取り込むもので、同改正により、障害者基本法は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、かかる施策の基本となる事項を定めること等により、かかる施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とすることが明示された(1条)。また、平成16年の障害者基本法改正により基本理念として追加された障害を理由とする差別禁止規定(3条)が、平成23年改正法では「差別の禁止」として独立した条項とされ、何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないこと(4条1項)、社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって、前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないこと(4条2項)が定められた。
[23] このような障害者権利条約への対応と並行して、平成22年7月に公表された成年後見制度研究会による研究報告及び同年10月の成年後見法世界会議による横浜宣言において、成年被後見人等に係る欠格条項の問題点が指摘されていた(多数意見第1の3(3)ア及びイ)。
[24]エ 以上の経緯を踏まえ、私は、平成11年整備法を可決する際に参議院法務委員会が平成11年附帯決議を行ったにもかかわらず、その後見直しが進展するどころか、成年被後見人等に係る欠格条項が増加していたという状況にあって、成年後見制度研究会の研究報告や成年後見法世界会議の横浜宣言により、成年被後見人等に係る欠格条項が、国会が検討すべき事項として再認識される機会を得たと考える。そして、我が国の障害者対策の基本法である障害者基本法が改正され、全ての国民が障害の有無にかかわらず等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念を掲げ、障害を理由とする障害者に対する差別その他の権利利益の侵害行為を禁止するとともに、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないことを国民に明示した平成23年7月頃までには、国会において、本件規定が障害者の職業選択の自由を過度に制限し、保佐の制度を利用した障害者に不合理な差別を行うものとして、その違憲性が明白となっていたというべきである。
[25]オ なお、多数意見は、本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、裁判所において本件規定や本件前身規定の憲法適合性について判断がされたことがなかったこと、その他の成年被後見人等に係る欠格事由については、成年被後見人の選挙権に関する平成25年東京地裁判決があるものの、職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはなかったことを、国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかった事情の一つとして挙げている(多数意見第3の2(2)イ)。
[26] もちろん、裁判所において違憲である旨の判断がされていれば、国会はそれらの内容を精査し、必要な是正措置をとるべきであるが、そのような判断がないとしても、それが違憲性の明白性を否定する積極的な事情になるとは思われない。訴えが提起されなければ、裁判所は判断もできないが、事案によっては、裁判という手段をとるのが困難な者もいる。警備員に就きたいと希望する知的・精神障害者は、本件規定が存在する以上、保佐制度の利用を断念するか警備員という職業を断念するかの二者択一を迫られることになる。本件のように、職を失うことになるにもかかわらず保佐制度を利用し、本件規定の違憲判断を得るために裁判に訴えるという選択肢は、個人の経済的・精神的負担の重さを考えると、容易にとり得るものではない。本件は、その意味で稀有の事例であって、先例となる裁判例がないのは事案に鑑みて当然のことである。それゆえに、本件の判断において、裁判例がないことを国会にとって本件規定の違憲性が明白にならなかったことの理由の一つとして挙げるのには躊躇を覚える。

(3) 長期にわたる不作為
[27]ア 本件規定の違憲性が国会において明白になっていた平成23年7月の障害者基本法改正当時から本件退職時点である平成29年3月までの間に、国会が本件規定の改廃を行わなかった本件立法不作為は、この間の本件規定をめぐる以下の諸事情を考慮すると、正当な理由なく長期にわたって本件規定の改廃の立法措置を怠ったものであるということができる。
[28] 障害者権利条約の批准及び国内法の整備等の経緯、利用促進法の制定等の経緯のうち、平成23年7月以降に生じた事情については、多数意見第1の3(2)イ、同3(3)エからカまでに記載のとおりである。また、多数意見第1の3(3)ウに記載のとおり、平成25年3月に平成25年東京地裁判決が出され、僅か2か月後の同年5月には公職選挙法が改正され、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定は削除されている。平成25年東京地裁判決が出されたからとはいえ、この迅速な対応は、本件規定の削除に要した時間の長さを浮き立たせるものである。そして、平成26年1月の障害者権利条約の批准、同年2月の同条約の発効により、我が国は、障害者に対する差別となる既存の法律等を修正し、廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認め、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続等)に関し、障害に基づく差別を禁止するための適当な措置(立法を含む。)をとること等が責務となっていた。したがって、同条約批准・発効後は、国会はより速やかな本件規定の改廃措置をとるべき状況だったといえる。
[29]イ 多数意見は、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、本件のみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したとはうかがわれないと判示する(多数意見第3の2(2)ウ)。しかし、本件規定により制約を受けている権利は、職業選択の自由と法の下の平等という国民の重要な憲法上の権利利益であるから、合理的な理由なしに違憲である状態を継続することを容認できないと考える。特に、警備業法については、既に7号規定が設けられているため、本件規定が違憲である状態を解消するためには、本件規定を削除するだけで足り、立法技術的に困難を伴うものでなかったことは明らかである。一括整備法の対象となった法律は170余に上り、所管の府省庁も16に及び、欠格事由により制限される資格等は多岐にわたる。例えば、国家公務員、自衛隊員等の公務員、医師、公認会計士等の士業、医療法人、学校法人の役員等各種法人役員、薬局開設の許可、貸金業の登記、旅館業の許可等の営業許可、及び法人営業許可に関わるものが一括整備法の対象となっている。このように性格の異なる多種多様な資格や業務に関する欠格条項についてすべての検討作業が完了するのを待って、それらと同時に本件規定の改廃を行う必要性は見当たらない。したがって、国会は、本件退職時点まで、正当な理由なく長期にわたり本件規定の改廃を怠ったものと認められる。

(4) 結論
[30] 以上によれば、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には本件規定の違憲性が国会において明白となっていたにもかかわらず、国会が本件退職時点まで本件規定の改廃を怠ったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるものと考える。
[31] よって、被上告人の請求を一部認容した原判決は妥当であり、上告人の上告は棄却されるべきである。


 裁判官高須順一の反対意見は、次のとおりである。
[1] 私は、多数意見とは異なり、本件立法不作為は国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項の適用上違法であり、被上告人の損害賠償請求は認容されるべきと考えている。もっとも、私の考える判断枠組み自体は、多数意見とおおむね同じであり、本件規定の憲法適合性について検討した上で、国賠法1条1項の違法性を判断するというものである。私も、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するものであるが、その違憲性は平成11年整備法により本件規定が制定された当時から生じていたのではなく、その後の立法事実の変遷によって本件退職時点には違憲となっていたと考えている。そして、国会が本件規定を改廃しなかった本件立法不作為に関して、遅くとも平成22年頃には本件規定が憲法に違反するものとなっており、障害者基本法の改正がなされた同23年には違憲であることが国会において明白となったというのが私の意見である。その結果、本件退職時点においては、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠ったものと認められ、本件立法不作為について国賠法1条1項の違法性が認められる。以上が私の意見の骨子であり、以下、その理由について述べる。
(1) 憲法適合性の判断基準
[2] 本件退職時点において本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとなっていたことは多数意見も認めるところであり、私もこれと異なる意見を持つものではない。本件規定は、障害者である被保佐人について精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものであり、同時に被保佐人と被保佐人でない者(精神上の障害を有しない者のほか、精神上の障害を有するが保佐制度を利用していない者が含まれる。)とを区別するものである。したがって、本件規定を合憲と判断するためには、多数意見も指摘するとおり、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するというべきである。また、その判断に当たっては規制の合理性を支えるだけの立法事実が存在するか否かを検討する必要があり、警備業務の実態や保佐を含む成年後見制度の在り方、精神上の障害を有する者を取り巻く状況、さらには立法目的を達成し得る代替措置の有無等に関する諸事実を具体的に検討する必要があると考えている。
[3] なお、本件訴訟は被上告人の退職をめぐる紛争であるから、本件退職時点における本件規定の憲法適合性がまずは検討されることになる。この限りでは本件退職時点における立法事実の存在の有無を明らかにすべきこととなるが、本件訴訟では本件規定の憲法適合性の判断のみならず、本件立法不作為の国賠法上の違法性の有無に関する判断が求められているため、上記1で言及したように、国会が長期にわたって立法措置を怠ったと評価されてもやむを得ない程度の時点までに本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白になっていたといえるか否かをさらに検討しなければならない。そこで、違憲であることが明白となった時期の判断が必要不可欠となり、その前提として違憲となった時期がそもそも問題となる。この点は、少なくとも明白となった時期以前であれば足りることとなるが、具体的な時期を判断し得るのであれば、その時期を明示することが本件事案の解決に当たりより有意義であると考える。

(2) 平成14年当時までの状況
[4] 違憲となった時期について多数意見は、本件前身規定が設けられた昭和57年改正の当時、平成11年整備法の制定当時、さらには7号規定が新設された平成14年改正の当時のそれぞれの立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったとはいえず、違憲ではないとした上で、その後の本件規定を取り巻く諸事情の変化によって、本件退職時点にはその合理的裁量の範囲を逸脱し、違憲となっていたと判断している。もっとも、本件前身規定が設けられた昭和57年改正の当時、成年被後見人等(当時の用語は禁治産者及び準禁治産者)の警備員就業を一律に規制することの合理性が国会において十分に検討されていたのか否かに関しては、疑問の余地がないではない。また、その後の平成11年整備法の制定、平成14年改正の時点においても同様に十分な検討がなされることなく本件規定が維持されたように思われる。取り分け,平成14年改正の時点においては、7号規定が設けられ、障害の程度に関する個別具体的な判断が可能となったのであるから、成年被後見人等を一律に欠格者と定めることの合理性は必ずしもなくなったとも考えられる。その意味では既にこれらの時点、取り分け、平成14年改正時点において、本件規定の憲法適合性に関してはそもそも疑問を挟む余地があったとも思料される。ただ、平成14年当時までの社会的、経済的、あるいは政治的な諸状況に鑑みれば、この当時の段階で本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反すると判断することは困難であったといわざるを得ず、本件規定の違憲性の判断は、平成14年以降の本件規定を取り巻く立法事実の変遷を待たざるを得なかったというのが私の意見である。

(3) 違憲となった時期の確認
[5] 上記(2)で指摘したように、多数意見は、遅くとも本件退職時点までには本件規定に関する立法府の判断はその合理的裁量の範囲を逸脱するに至り、本件規定は違憲になっていたと判示している。しかしながら、私はこの点に関し、本件に係る立法事実をより丁寧に検討することにより、違憲となった時期をより具体的に特定することが可能であり、本件規定は、より早い時期に憲法22条1項及び14条1項に反するに至っていたと考えている。平成21年から22年にかけて生じた以下の諸事実の存在が重要と考える次第である。
ア 推進本部及び推進会議の活動に基づく基本的方向の明示
[6] まず指摘すべきは、障害者権利条約の内容を国内において浸透、定着させるために平成21年12月に内閣に、「障がい者制度改革推進本部」が発足し、さらに、同本部の下で、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため、障害者、学識経験者等からなる、「障がい者制度改革推進会議」が平成22年1月から開催され、計14回の審議の結果、一定の基本的方向性が示された点である。平成22年6月に公表された、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」(以下「第一次意見」という。)がそれであり、この第一次意見には以下のような記述が存在する。
[7] すなわち、まず、障害者権利条約策定の過程に言及し、「一般社会による保護的支配からの脱却と普通の市民としての権利を持つ人間であること」への思いが、すべての障害者に共通するものであること(第1の1)、「このような障害者のあたりまえの思いを一般社会が受入れるまでには、長い歴史の時間を要した」こと(同箇所)が指摘され、我が国の障害者に一般市民以下の生活を強い、その権利が十分に守られていない状態がおよそ1世紀もの間、基本的に変わっていなかったことへの率直な反省が示されている。そして、
「戦後、日本の障害者に関連する法制度は日本国憲法が保障する社会権を基盤としながら順次整備されてきたが、自由権を基盤とする権利を保障する法律は皆無に近い。その結果、社会権を基盤とするサービスは自由権的基盤を有しない無権利性と、自由権そのものを侵害しかねない一般社会からの排除ないし隔離的傾向をもたらしている。障害者権利条約の視点に立ち、自由権と社会権を二分する枠組みを越え、市民との実質的な平等を基礎とした人権法に向けたパラダイムの転換が求められている。」
との方向性が示されたのである(同箇所)。この自由権としての人権の尊重、市民との実質的な平等の確保という視点を有するパラダイムの転換の必要性が政府レベルで提唱されたことは極めて重要というべきである。
[8] 第一次意見では、さらに、障害者を、
「『権利の主体』である社会の一員としてその責任を分担し、必要な支援を受けながら、自らの決定・選択に基づき、社会のあらゆる分野の活動に参加・参画する主体としてとらえる。」こと(第2の1)、
「何人も障害を理由とする差別を受けない権利を有することを確認するとともに、差別を禁止し、権利の侵害から救済を受ける法制度を構築し、差別のない社会づくりを目指すものとする。」こと(第2の2)
との基本的な考え方が示される。そして、個別分野における検討課題として、
「障害者が自らの能力を最大限に発揮し、障害のない人と同様に安全かつ健康的な労働環境を確保するためには、障害を理由とする差別が禁止され、職場において必要な合理的配慮や支援がなされる必要がある。」
との問題意識が示されている(第3の4)。
[9] これらの活動により政府レベルでの障害者基本法の改正作業が進められることになるが、そのことの意義は真に大きいものがある。取り分け、障害者基本法の抜本改正に当たり法律の性格を要保護者に対する対策法的な性格から人権の主体たる地位の確保のための法律へ変えるべきであるという議論が展開されたことは、本件規定との関係でも極めて重要な立法事実の変遷を物語る事実である。
イ 成年後見制度研究会の研究報告
[10] 次に、平成21年5月に、成年後見制度に造詣の深い学者、同制度に携わる関係団体、関係機関が一堂に会して成年後見制度研究会が組織された事実もまた重要である。同研究会においては、成年後見制度発足10年という節目における現状を的確に把握し、課題への対応策を協議する目的の下、約1年に及ぶ各種団体へのヒアリングや参加者間での意見交換がなされている。これらの活動に基づき、同研究会は平成22年7月に研究報告(以下「報告書」という。)を公表したが、この報告書には、
「成年後見の類型は、主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められているのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない。」
との記述がある(第2章第4の1(2)ア)。この点に、成年被後見人等に対する社会の一般的な認識の変化を見ることができる。さらに、報告書には、
「平成11年に、ノーマライゼーションを基本理念とする成年後見制度が発足するに当たり、相当数の欠格条項は縮減された。しかし、現在においても、一定数の欠格条項が存する。」
と記述され(第2章第4の1(1))、その問題性が指摘されている。そして、
「各法令において成年被後見人等に関する資格制限を設ける場合又はそれを維持する場合には、その資格制限を設けるものに必要な能力の性質やノーマライゼーションの理念に照らしその必要性等を慎重に検討する必要がある。」
との明確な方針も示されているのである(第2章第4の1(2)ア)。これは成年後見制度に関わる多くの関係者の間で、残存する欠格条項の問題性が広く認識されるようになったことを物語る事実である。
ウ 成年後見法世界会議と横浜宣言
[11] さらには、平成22年10月に第1回成年後見法世界会議が横浜で開催され、「横浜宣言」が発出されている。この会議は日本成年後見法学会が中心となり、16か国から多くの参加者を迎え開催された成年後見に関する本格的な国際会議である。そして、3日間に及んだ討議の内容を総括する形で公表されたのが横浜宣言であり、これは成年後見法分野における世界初の「宣言」とされる。この横浜宣言においては、平成18年12月に国際連合総会で採択された障害者権利条約に対する賛意が表明され、日本政府に早期の批准を要望している。障害者権利条約には、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること等の措置をとることにより、労働についての障害者の権利が実現されることの保障及び促進等が定められていることは多数意見でも指摘されているところである(多数意見第1の3(2)ア)。この条約に対する積極的な賛意が上記世界会議及び横浜宣言において示された事実の重要性を看過してはならないと考えている。さらに横浜宣言は、取り組むべき日本の課題の一つとして、
「現行成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである。」
と記述している(II1.(5))。上記宣言は同箇所においてより要急の課題として成年被後見人からの選挙権の剥奪の問題を指摘しているが、そのことゆえに職業上の欠格事由の撤廃の必要性が減じられるものではなく、欠格事由の撤廃が明確にうたわれていることは注目に値する。横浜宣言の発出は欠格事由の撤廃の必要性が研究者の間においても、そして、国際的にも認知されていることを物語るものである。
エ 一連の事実を一体的に捉えることの必要性
[12] これら三つの事実はいずれも平成21年から22年当時のものである。政府、成年後見実務に関わる関係者、研究者の認識や国際的な動向という様々な社会領域において、同時期に、障害者の人権の保護、そして、多くの法令に存在する成年被後見人等の資格制限に関する規定の見直しの必要性が指摘された事実は極めて重要な立法事実というべきである。これらをそれぞれ諸事情の一つとしてのみ捉えるのは本件規定の憲法適合性に関する立法事実の変遷を的確に把握することを困難にする。これらの一連の活動を一体的に俯瞰することにより、障害者に対する一般社会の意識の変化、すなわち、第一次意見が明示するところの、市民との実質的な平等を基礎とした人権法に向けたパラダイムの転換の動きが我が国社会の多方面において生じるに至ったということができる。
[13] もとより立法事実はいずれかの権力機構なりが明確な形で社会に供与するものではなく、社会の諸所においてその状況の中から自然発生的に生じてくるものであるから、これを明確な形で説明することは難しい。しかし、このような社会状況の変化を注意深く検討するならば、平成21年から22年に生じたこれらの一連の出来事を一体的に捉え、立法事実の変遷をこの時点で認めることが可能というべきである。
[14] 以上より、私は、遅くとも平成22年には立法事実の変遷が認められ、この時期に本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反する違憲な規定となったと考えるものである。
[15] その上で、国賠法1条1項の違法の有無を検討するためには上記2(1)に指摘したとおり、違憲であることが国会において明白になっていたことが必要であり、その時期を明らかにする必要がある。この点について私は、上記の障がい者制度改革推進本部及び障がい者制度改革推進会議の活動等に基づき障害者基本法の改正(平成23年法律第90号。以下「改正障害者基本法」という。)が実現した平成23年7月であると考えている。同法は、社会的障壁により社会生活に制限が加えられているものもまた障害者であると規定し(同法2条)、障害を理由として差別し権利利益を侵害することを禁止し(同法4条1項)、社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって上記1項の規定に違反することにならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮が義務付けられると規定している(同法4条2項)。本件規定は、成年被後見人等が何故に警備員となることができないのかについて必ずしも十分な検討がなされないままに、これを容認する往時の社会的風潮、すなわち、障害者もまた普通の市民として権利を有していることへの社会の理解の不十分あるいは関心の欠如という状況の下に、多年にわたり存続していたものと思料されるが、上記の立法事実の変遷に鑑みるならば、遅くとも平成22年には、憲法22条1項及び14条1項に反するものとなっていたというべきである。そして、障害者基本法は文字通り障害者に関する法規の基本たる法律であり、かつ、改正障害者基本法は上記2(3)で言及したように法律の性格を要保護者に対する対策法的な性格から人権の主体たる地位の確保のための法律へと抜本的に変えたものであるから、このような改正を国会が自ら行ったことは、違憲であることが国会において明白となった旨を根拠付けるというべきである。
[16] 以上より、私は、遅くとも改正障害者基本法が成立した平成23年7月には、本件規定が憲法に反する違憲なものであることが国会にとって明白となっていたと思料するものである。
[17] 実際に本件規定が一括整備法により削除されたのは令和元年6月のことであり、改正障害者基本法の公布・施行から約8年の期間を要したことになる。被上告人が警備員退職を余儀なくされた本件退職時点まででも5年半余の期間を経過している。この間多数の立法がされながら本件規定に関する何らの改正もなされなかった以上、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠っていたと判断されてもやむを得ないというべきである。令和元年には一括整備法により本件規定が削除されたわけであるが、それによって本件立法不作為の違法性が遡って否定されると考えることもできない。
[18] 以上より、私は、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するものであり、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったことは国賠法上違法であり、上告人は損害賠償義務を免れることができないと考えるものである。


 裁判官沖野眞已の反対意見は、次のとおりである。

[1] 私は、本件規定の憲法適合性については、その判断の基準、結論のいずれも多数意見と理解を共通にするが、本件立法不作為の国家賠償法1条1項の違法性については、違憲となった時期及び違法性を否定する結論の点において意見を異にする。すなわち、本件規定は平成14年改正により違憲となっており、遅くとも平成25年6月には本件規定の違憲性が国会にとって明白となり、本件退職時点において、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということができると考える。以下、本件規定の憲法適合性に関する事項を含め、考えるところを述べたい。
[2](1) 本件規定は、憲法22条1項及び14条1項の両条が競合して問題となるものであるから、各条項の適合性の判断が、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通することを踏まえ、各別にその合憲性を判断するのではなく、統合して判断すべきであり、その基準としては、「本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」という点で、多数意見に賛同するものである。そして、本件規定の憲法適合性については憲法22条1項及び14条1項が重畳的に問題になること、その基準の下での判断において、立法府に広い裁量が認められるものではないことも多数意見と理解を共通にする。この点は、取り分け少数者の人権は政治過程に委ねるのでは必ずしも十全に保障されるものとはいい難いことからも基礎づけられると考えられる。

[3](2) その上で、本件規定は、被保佐人であることを理由として警備員としての職業への従事を一律に封じるものである。被保佐人は、家庭裁判所によって「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」(民法11条)であると判断された者であるが、この判断は、不動産の取引等の主として財産上の重要な法律行為について、保佐人による同意という形で本人の判断につき確認の措置を設け、取消権という形で再考の機会を付与し、その意味で被保佐人となる者が単独で有効に法律行為をすることを制限して、その保護を図ることを正当とする、事理弁識能力の著しい不十分さを判断するものである。そして、事実行為としての一般警備活動や交通誘導等、警備業務の内容は多様であることからすると、被保佐人であることという事由は、警備業務に従事するために必要な判断能力という点からは過不足があり得るものであって、警備員としての職業に従事するための判断能力を測る基準としては、全く別の制度の判断の借用にすぎない。その過少性については、「精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分である者」のうち被保佐人として保佐制度を利用する者が一部にすぎないことから明らかである。保佐開始の審判は申立てに基づいてされるものであり、しかも、現実に、成年後見制度の利用の低調さが問題視され、そのうち圧倒的多数が成年後見の利用であって、保佐はそれ以上に利用が少ないことが繰り返し指摘されてきた。また、過剰性については、本人保護の観点から(主として財産上の)重要な法律行為に求められる判断能力は、事実行為としての警備業務に必要とされる判断能力とは一致せず、前者の点から被保佐人として単独で法律行為をすることに制約を受ける場合も、後者の点では判断能力に問題がない場合もあり得ることから明らかである。

[4](3) 以上のように別の制度の判断の借用であって、警備員として必要とされる本来の判断能力を測る点からは過不足のある事由が、本件規定により、警備員の職業従事を一律に制限する事由として採用された理由は、つまびらかにされていない。本件前身規定により準禁治産者であることを警備員の欠格事由とすることについては、国会の審議においてほとんど言及がなく、その当否や理由について検討された様子もうかがわれない。立案担当者解説においても、警備員の判断能力の確保という概括的な説明以外に説明はなく、また一般的に当時の問題事象から警備員の能力については判断能力よりも自制力の方が重視されており、本件前身規定の理由付けは曖昧である。推測すれば、次の事情を挙げることができる。
[5] 一般に、本件前身規定(そのうち判断能力に関わり本件規定へと引き継がれていくのは心神耗弱の準禁治産者類型であるから、以下、本件前身規定についてもその点に特化して述べる。)は、警備業者の法令違反や警備員の非行、業務遂行に適正を欠き事故の発生や被害の拡大を招く不適切事案の多発が社会問題化する中で、警備業自体の発展可能性と有用性を肯定しつつ、警備業務の実施の適正を図るべく、警備業務の質の確保、警備業に対する社会の信頼の確保が急務であったという「立法事実」を前にして、警備員の欠格事由を整備する観点から、医学鑑定を基礎とした家庭裁判所による判断能力についての判断に依拠することで、これに応えようとするものであった。
[6] 当時、行為能力制度の理解において、心神耗弱は、意思無能力や心神喪失に比して「精神障害の程度が(中略)不完全ながら判断力を有する者」、具体的には「大体、やや成長した未成年者と同程度の精神能力」と説明されるなど、家庭裁判所による心神耗弱該当性の判断が、あたかも対象となる主体の一般的な判断能力を判断するもののように説明されており、その判断が一般性を持つように捉えられていたことが、本件前身規定を設けるという立法判断を支えていたと思われる。
[7] また、警備員の判断能力については、別途、「精神病者」であることを欠格事由とする規定(以下「「精神病者」規定」という。)が設けられた。「精神病者」と準禁治産者(被保佐人)の実体的要件(「心神耗弱」。精神上の障害による事理弁識能力の著しい不十分さ)との関係は明確ではないものの、前者が認知症高齢者や知的障害者を含むものではないとすると、後者は「精神病」によるものとは限らないため、本件前身規定は、実体的な基準として、「精神病者」規定と重なり得るものの、そのカバーしない部分を補完するものであったといえる。また、両者が重なる部分に関しても、精神病者該当性の判断主体は警備業者であるところ、警備業者による該当性判断については、当時の社会問題化を受けて警備業者の適正化をいかに図るかが課題となっていたため、社会の信頼の確保の点からは十全とはいい難い状況であり、そのような状況を前に、家庭裁判所の判断という信頼の高い類型を、警備業者による判断とは別建てで用意し、警備業者が十分に判断できない場合を補完するという意味を持ち得た。本件前身規定を「精神病者」規定と併用することは、実体的基準としても、判断者の点でも、補完的な意義を有するものであった。
[8] 警備員となる者に必要な判断能力を担保するという点からみると、本件前身規定は、その過少性ゆえに実効性に疑問があるものであったが、それは「精神病者」規定によって補完され、また、本件前身規定は、その過剰性ゆえに正当性に疑問のあるものではあったが、上記の「立法事実」を前にして、過剰規制とはなっても、手堅い基準を打ち出すことが重視され、選択されたものであったと見られる。

[9](4) しかし、このように昭和57年改正による本件前身規定の合憲性を支え得た諸事情は、それぞれ、平成14年改正によって、あるいは、それ以前に失われることになった。
[10] 第1に、平成11年の成年後見制度の導入に際して、各種制度の資格要件等について、各種法令中の資格等の信頼性を維持することを目的としてその資格等にふさわしい能力を担保するために設けられるものであり、本来、各種の資格等が要求する能力の内容に応じて個別的・実質的に定められるべきものであるとして、各種の法令中の欠格条項が欠格事由として別の制度の判断を借用するものであること及びその問題点が明瞭にされ、そして、ノーマライゼーションの理念等の観点から、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする資格制限規定は原則として削除するものとされ、根拠法律中に十分な個別的な能力審査の手続が規定されていないものなどに限って欠格条項を存置することが方針とされ、この方針に即して立法上の手当てがされた。しかも、ほかならぬ国会が、参議院法務委員会における附帯決議として、存置された欠格条項について更なる見直しを行うことを要請していた。このような平成11年整備法による欠格条項の見直しに関する事情は、本件前身規定が設けられた当時の行為能力制度の理解のように家庭裁判所による心神耗弱者該当性の判断が対象者の一般的な判断能力についての判断を示すものではないこと、本件前身規定が借用にすぎないことが、国会を含め共通理解となっていたことを示している。
[11] 第2に、平成14年には、平成11年決定を受けた「精神病者」規定の見直しによって7号規定が設けられ、その事由が「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」に改められ、規則3条1項において「精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」とされることにより、警備員について、「精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができ」る判断能力が必要とされることが明定され、そしてその警備業者による個別的・実質的審査が明定された。この改正を支えたのは、障害者の社会参加の確保という意味でのノーマライゼーションの理念の実現という考え方であり、また、医学の発達(治療技術、医薬品、医療体制)により「精神病者」であっても警備業務に必要な判断能力を備えた者が相当に存在するという実態の認識、症状を問わず精神病者を一律に扱うことの問題点の認識であったことが、国会審議や立案担当者解説によって明らかになっている。
[12] 平成14年改正により、改正前に存在した保佐開始の要件における「精神上の障害」と警備員の欠格事由における「精神病」(者)との間の乖離は埋められることになり、被保佐人のうち警備業務に必要な判断能力を備えない者は、7号規定に完全に包含されることになった。これにより、本件規定は、改正前にはあった「精神病者」規定に対する実体的な基準の点での補完性を失うことになった。
[13] また、警備員の適格性の判断をする者についても、昭和57年改正による本件前身規定の導入段階では、警備業者の適正化こそが改正の主眼の一つであり、警備業者の判断に信を置くことが十全とはいえない状況であったのに対し、平成14年改正の段階においては、昭和57年改正により、警備業者は認定制となり、その要件が整備され、行政庁の指導・監督が拡充されて、その適正化のための制度整備が図られ、その施行以来20年を経て、警備業者への信頼の点では格段の差が生じており、昭和57年改正の「立法事実」となった不適正事案の多発の社会問題化は、平成14年改正の段階では鎮静化し、昭和57年改正とその運用は相応に定着し奏功していたといってよい状態であった。平成14年改正における個別審査規定の導入に係る国会審議及び立案担当者解説のいずれにおいても,判断者となる警備業者の判断に対する懸念は全く表明されていない。警備業者の規模に関しても、業務執行の適正の確保一般についてであるが、実情に照らして小規模事業者であるほど順守に懸念があるといったことはなく、また、規模に関わらず主管庁において的確な指導を行うとされている(第155回国会参議院内閣委員会会議録4号9頁)。また、仮に平成14年改正の際に、判断者となる警備業者の判断に対する懸念があったとしても、本件規定の過少性に鑑みると本件規定によって十分に補完がされるとは到底いえず、判断者である警備業者による適切な判断への懸念については、各種の監督措置をもって対応できるものであり、何よりノーマライゼーションの理念の具体的な実現の方が重視されるという判断があったものと考えられる。
[14] さらに、本件規定の過少性は相変わらず存在しており、被保佐人であることを警備員の欠格事由とすることが実効的なものといえるかは疑問があった。また、医学の発達によって、被保佐人類型でも該当性を減じる可能性はあったとはいえ、警備員としての能力面での就労可能性の拡大は、被保佐人を欠格事由とする過剰性を拡大した可能性がある。
[15] 以上のような平成14年改正時における事情に鑑みると、本件規定の過剰性は、もはやそれを支える「立法事実」を見出すことや、それを正当化する事情を見出すことは、いずれも困難であった。
[16] したがって、平成14年改正の施行をもって、本件規定は、「警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正化を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保する」という重要な公共の利益のための必要性も合理性も失っており、立法府の合理的裁量の範囲を逸脱するものとなっており、違憲となっていたと考える。
[17](1) 平成14年改正による個別審査規定の導入により、本件規定のうち警備業法3条7号、14条、規則3条1項と重なる部分以外は過剰となっていること、したがって、本件規定は、警備員の能力として必要な範囲では屋上屋を架すものであって必要性を欠き、必要でない範囲においては過剰であって合理性を欠くことは、これらの規定との対比により、文面上論理的にうかがい知ることができる状態であった。一律の制限の不当性は平成14年改正により見直された「精神病者」規定だけではなく本件規定についても同様に問題となるものであり、しかも、「精神病者」規定の見直しは本件規定の必要性・合理性を失わせるものであったにもかかわらず、平成14年改正に係る国会審議においても本件規定への考慮はみられず、本件規定の問題は等閑視されていた。

[18](2) しかし、それにもかかわらず、次のとおり、本件規定の違憲性がその段階で国会に明白となっていたということには躊躇を感じる。
[19] すなわち、本件規定を含む成年被後見人等に係る欠格条項の問題は、成年後見制度の課題として位置づけられ、障害者の法制度の課題とは別の流れで捉えられてきていたこと、ノーマライゼーションの理念は社会参加を中核として捉えられており、障害者制度の視点は主としては障害者の保護及び福祉にあったことから(確かに平成14年改正の国会審議においても欠格事由の多くが憲法13条及び14条、国連の様々な宣言や基本法の理念に反するという指摘があり、また、平成11年の整備法の国会審議においても選挙権については人権の観点からの議論もされていたものの)、平成14年改正時の状況として、成年被後見人等に係る欠格条項を憲法問題として基礎づける視点がなお希薄であったとみられる。また、平成14年改正を経た警備業法は、個別的な能力審査に関する規定が導入されたものの、十分な個別的な能力審査の手続は設けられておらず、直近の平成11年整備法における欠格条項の見直しの基準を当てはめた場合、本件規定は、なお存置すべきカテゴリーにとどまっていたということもできる。

[20](3) 成年被後見人等に係る欠格条項の問題と憲法問題との接合は、その後の展開を待つことになる。
[21] その点から重視されるのは、第1に、障害者制度の視点の、保護及び福祉という社会政策・医療政策から人権への転換である。パラダイムシフトとも称されるこの転換は、障害者権利条約を契機として生じたものである。平成18年の障害者権利条約の採択、平成19年の署名を経て、わが国では、その批准に向けてまず国内法を整備するという方針が採用され、平成23年7月の障害者基本法の改正(同年8月施行)は、障害者権利条約の趣旨に沿った障害者施策の推進のために、目的規定を改正し、「障害者の福祉の増進」といった文言を削除し、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されることを明定し、また、合理的配慮提供義務を明定した。これに沿った改正・立法が、平成24年4月の障害者総合支援法(平成25年4月施行)、平成25年6月の障害者差別解消法(平成28年4月施行)等に結実する。特に雇用関係は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備において重視された事項であり、平成25年6月の障害者雇用促進法の改正(同月施行)は、障害者基本法の改正に合わせた定義や目的規定の改正、差別禁止、合理的配慮提供義務等の規定を設けた。この段階において、特に精神上の障害を理由とする就労の制約は「差別的取扱い」であることが一般的に明らかになったといえる。こうして平成25年にはその準備のための国内法の整備を了したとして、平成26年1月に障害者権利条約が批准される。
[22] 第2に、成年後見制度の側でも、平成22年の成年後見制度研究会による報告書において、成年後見制度の類型が、主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められていること、したがって、成年後見等が開始してもその余の能力が直ちに欠如しているとはいえないことが指摘され、そうして成年後見制度の利用促進のための運用施策という観点からとはいえ、改めて、欠格条項についての慎重な検討が説かれた。これは、視点こそ成年後見制度の利用促進の観点からであるものの、平成11年の整備法において明らかにされていた、各種の法令中の欠格条項が欠格事由として別の制度の判断を借用するものであること及びその問題点を、家庭裁判所の判断の内容の側から明らかにしたものである。同報告書は、関係官庁及び裁判所の担当者の参加する準公的な研究会報告書であり、国会に届きやすいものであって、平成11年以来の、成年被後見人等に係る欠格条項の問題点を国会に思い起こさせるに十分なものであったといえる。
[23] 第3に、平成22年の横浜宣言は、成年後見制度の欠格事由と障害者の制度・施策とを接合させ、また、人権の保護の観点、憲法上の基本的人権の侵害という観点から欠格条項の問題を指摘し、その全廃を説いた。すなわち、成年後見制度が、その主たる対象とする高齢者だけではなく精神疾患、学習障害・学習能力障害、後天的脳障害を有する若年者にも関わること、成年後見制度が人権に関わるものであり、人権の保護の観点からその法制度整備が行われるべきことを打ち出し、障害者権利条約の指導原理と内容への賛意を表明し、日本の課題として、現行の成年後見制度の欠格事由を撤廃すべきであり、特に、成年被後見人の選挙権の剥奪に合理的根拠がなく、憲法上の基本的人権を著しく損なうものであって廃止すべきであると説いた。
[24] そうして第4に、平成25年東京地裁判決(同年3月)において成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定が違憲であるとされ、その後間もなく、同年5月に当該規定が削除された。これは、成年被後見人等に係る欠格条項について、憲法違反という点から光を当て、かつ、その対応として削除という立法措置を実現したものであって、国会において、成年被後見人等に係る欠格条項の中には憲法違反のものが含まれることを認識するとともに、違憲である規定を削除することにより是正を図ることを具現化するものであった。成年被後見人等に係る欠格条項に問題があることは、平成11年整備法の段階から国会自身がその継続的見直しを要請してきたことであったが、この公職選挙法の規定をめぐる動きを経て、欠格条項の中には憲法違反のものがあることを国会自身が認識し、是正したものである。
[25] 以上からすれば、障害者の制度についての人権という視点への転換と定着、成年被後見人等に係る欠格条項が別の制度の判断を借用するものであること及びその問題点の(再)強調、成年後見制度における人権の観点の強調、成年被後見人等に係る欠格条項の違憲性の指摘といった事情によって、国会が本件規定の違憲性を認識する障壁となっていた状況が取り払われ、遅くとも障害者差別解消法の制定及び障害者雇用促進法の改正がされた平成25年6月には、本件規定の違憲性は、国会にとって明白になっていたと考えられる。

[26](4) 仮に、本件規定の違憲性が国会にとって明白となった時期を平成25年6月頃とするならば、本件退職時点(平成29年3月)までは、4年弱という期間となる。この期間をもって、「国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠った」と評価できるのかという点については、確かに、絶対的な期間としては短期といわざるを得ない。
[27] しかし、その懈怠が「長期」にわたるかどうかは、事柄の性質、経緯等に応じて決まるものである。本件規定については、それが、狭義の職業選択の自由及び平等という憲法上の権利を侵害するものであること、また、その是正措置は当該規定の削除をもって行うことができるものであることから、速やかな対応が要請され、またその実現も容易であって、それが期待されるものである。しかも、成年被後見人等に係る欠格条項全般に対する見直しは、ほかならぬ国会が平成11年から要請していたのであり、そもそもその問題意識が素地にあったこと、また、障害者権利条約の批准のための国内法整備を平成25年末までに完成させ、平成26年に同条約を批准するという政府及び国会のタイムスケジュールからすれば、明白に違憲である本件規定の削除は、それまでに完成させるべきものであり、加速的に対応が要請され、期待されるものであったといえる。さらに、本件規定は平成14年改正によって違憲となっていたこと、その違憲性が、平成14年改正段階において見過ごされていたという事情も考慮されよう。
[28] 多数意見は、本件規定の見直しには、成年被後見人等に係る欠格条項を設けている各種の制度の間の整合性に配慮する必要があることを指摘する。しかし、本件規定の違憲性は遅くとも平成25年6月には国会にとって明白になっていたことは前記(3)のとおりであり、違憲であることが明白であり、単純に削除することによって対応すべき規定について、他の多くの規定との調整を待つことは、必要性も相当性もない。現に、成年被後見人が選挙権を有しない旨の公職選挙法の規定については、そのような他の多くの欠格条項の検討や対応を待たずに、削除がされている。また、仮に、問題となる規定を単純に削除するだけではなく他の考慮を要するとしても、まず当該規定を削除した上で、より大きな観点から必要な検討をその後行うことは可能であり(嫡出でない子の相続分についての規定を速やかに削除した上で、相続法制の見直しへと進んだといった例が存在する。)、更なる検討や制度整備を要することは、速やかな削除による違憲是正を妨げる、あるいはそれをしないことを正当化する理由とはならない。

[29](5) 本件規定をめぐる状況の特徴は、本件規定が多くの欠格条項の中に埋もれていて、様々な動きの中で、本件規定を特定してその憲法上の問題点を公に指摘するものが見当たらなかったという点にあり、そのような状況にあって、違憲であることが国会にとって明白であったとか、是正の措置をとり得たとか評価ができるのか、という疑問を生じさせる点にあり、結局、この点は違憲であることの明白性の判断に帰着するものと思われる。
[30] 違憲の明白性は、国会議員(あるいは総体としての国会・立法府)の職務上の法的義務を立法府の立法行為について具体化する要件を構成し、また、それは立法府が対応する立法措置をとることを要請される起点を形成するものであるから、違憲の明白性とは、もとより規範的な判断を指すものであって、現実の認識を問題とするのではなく、合理的に考えて、規定の内容、性質、その理解を取り巻く客観的状況、経緯等から、立法府として違憲であることを認識することを当然に期待できる状況であったこと、換言すれば、認識すべきであったといえる状況であって、また、立法措置をとることが当然に期待される状況にあることを指すものと解される。
[31] この観点から見ると、本件規定は、精神上の障害を有する被保佐人という少数者について、狭義の職業選択の自由という生活及び自己実現に関わる憲法上の権利を制限するものである。障害者の職業の問題が重要であり、障害者権利条約の批准に向けた整備及び障害者施策において、特に考慮を払うことが期待される事項・分野であることは、障害者権利条約の批准に向けた国内法の準備における状況から,立法府の認識・理解するところであったといえる。本件規定の問題はまさにその分野に関するものであり、国会が立法で禁止した「差別的取扱い」に該当するものであった。
[32] また、一括整備法により見直しの対象とされた成年被後見人等に係る欠格条項には様々なものがあり、その全てが本件規定のように個人の狭義の職業選択の自由を制限するものではないし、本件規定のように個別審査規定との重複が生じていたものでもない。本件規定が個人の職業の自由を制限するものであること、本件立法不作為は平成11年整備法における附帯決議後に平成14年改正によって個別審査規定を導入した際に見直しが可能であったにもかかわらず、注意が払われなかったという性質のものであることなどを勘案すると、成年被後見人等に係る欠格条項の中に、本件規定以外に内容も経緯も様々な欠格条項が相当数存在することは、立法府が本件規定の違憲性を認識すべきであったという判断を妨げるものではない。本件規定を他の欠格条項とともに一括して見直しを行うことしか期待できなかったとはいえない。
[33] なお、一括整備法の対象となった法令の多くが一括整備法により個別審査規定を併せて整備していること、本件規定に関するのと同様の事情、すなわち、個人の職業の自由に係るものであり、平成11年決定を受けた見直しにより個別審査規定が設けられたにもかかわらず欠格条項が存置され、一括整備法によってそれが削除されたという事情のある法令はごく限られていること(医師免許に関する医師法等)、さらに、平成14年改正の国会審議において、雇用先としての警備業の重要性が指摘されていたことも、付言しておきたい。

[34](6) 以上からすれば、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということができ、本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものであって、原判決は、その結論において相当であり、上告人の上告は棄却されるべきことになる。

(裁判長裁判官 今崎幸彦  裁判官 三浦守  裁判官 林道晴  裁判官 岡村和美  裁判官 安浪亮介  裁判官 渡辺惠理子  裁判官 岡正晶  裁判官 堺徹  裁判官 尾島明  裁判官 宮川美津子  裁判官 石兼公博  裁判官 平木正洋  裁判官 中村愼  裁判官 高須順一  裁判官 沖野眞已)

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