警備業法欠格事由違憲判決
第一審判決

地位確認等請求事件
岐阜地方裁判所 平成30年(ワ)第9号
令和3年10月1日 民事第1部 判決

口頭弁論終結日 令和3年5月14日

原告 X
同訴訟代理人弁護士 内河惠一 熊田均 稲垣高志 篠田達也 山下陽子 熊田憲一郎

被告 国
同代表者法務大臣  A
同指定代理人    B 外9名

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由

■ 参照条文


1 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成30年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。

(1) 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成30年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(3) 担保を条件とする仮執行免脱宣言及びその執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とすること
[1]1 原告は,警備業者に警備員として雇用されていたが,自ら保佐開始の審判を申し立て,家庭裁判所から保佐開始の審判を受けたことに伴い,雇用契約終了の通知を受けて退職した。当時,警備業法は,被保佐人であることを警備員の欠格事由の一つとして定めていた(令和元年法律第37号による改正前の警備業法14条,3条1号。以下「本件規定」という。)。
[2] 本件は,原告が,被告に対し,本件規定は憲法22条1項等に反し違憲であり,国会が本件規定を制定し,あるいは上記原告の退職時点まで改廃せず存置し続けたことは,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項の適用上違法であるとして,同項所定の損害賠償請求権に基づき,慰謝料100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成30年1月25日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
[3] 原告は,平成26年4月10日,岐阜県公安委員会の認定を受けた総合警備保障業務等を目的とする株式会社(甲5,6。以下「本件会社」という。)との間で,雇用契約を締結し,警備員として採用された(甲8。以下「本件雇用契約」という。)。本件雇用契約は,警備業法上の欠格事由に該当することを解除条件とする契約であり(争いがない。),期間の定めはなく,原告は,本件会社が指定する場所において交通誘導警備に従事することとされていた。
[4] 原告は,本件雇用契約締結後,本件会社が指定する場所において,工事現場や駐車場等における交通誘導警備業務に従事していた(甲2,36,44の1・2)。
[5] 原告は,平成28年11月9日,岐阜家庭裁判所○○○○に対し,保佐開始の審判の申立てを行った(甲10)。
[6] 同家庭裁判所◯◯○○は,平成29年2月23日,原告につき,××××を保佐人とする保佐開始の審判をし,同審判は,同年3月16日に確定し,同月17日に登記された(甲1)。
[7] 原告は,平成29年3月20日,本件会社から本件雇用契約上の解除条件成就を理由に本件雇用契約の当然終了の通知を受け,本件会社を退職した(争いがない。)。もっとも,離職票上は,「法律に基づき就業場所がない為,会社都合退職」とされている(甲2)。
[8]ア 2条1項は,事務所,住宅,興行場,駐車場,遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し,防止する業務(1号),人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し,防止する業務(2号),運搬中の現金,貴金属,美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し,防止する業務(3号),人の身体に対する危害の発生を,その身辺において警戒し,防止する業務(4号)のいずれかに該当する業務であって,他人の需要に応じて行うものを「警備業務」と定義している。

[9]イ 2条3項は,都道府県公安委員会の認定(4条)を受けて警備業を営む者を「警備業者」と定義し,2条4項は,警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものを「警備員」と定義している。

[10]ウ 3条は,「次の各号のいずれかに該当する者は,警備業を営んではならない。」として1号から11号まで欠格事由を規定し,1号では「成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの」を,7号では「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」を欠格事由として規定している。この1号が本件規定である。

[11]エ 14条1項は,18歳未満の者又は3条1号から7号までのいずれかに該当する者は,警備員となってはならない旨規定し,同条2項は,警備業者は,同条1項に規定する者を警備業務に従事させてはならないと規定している。
[12] 3条1項は,警備業法3条7号の「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」は,精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知,判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする旨規定している。
[13] 本件規定に相当する条項は,昭和47年に警備業法が制定された当時には存在しなかった。
[14] 昭和57年,「禁治産者若しくは準禁治産者又は破産者で復権を得ない者」等を警備業者及び警備員の欠格事由に加える改正がされた(警備業法3条。以下「昭和57年改正」という。)。
[15] 平成11年,警備業法3条1号の「禁治産者若しくは準禁治産者」という表現が「成年被後見人若しくは被保佐人」と改められた(以下「平成11年改正」という。)。
[16] 平成14年,「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」を欠格事由として規定する警備業法3条7号が加えられたが,本件規定は改正されなかった(以下「平成14年改正」という。)。
[17] 令和元年(本件訴訟提起後),一括整備法13条により,本件規定は,「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」と改正され,成年被後見人及び被保佐人であることを欠格事由とする文言が削除された(令和元年12月14日施行。乙34の1,乙37,38)。
[18]ア 原告が保佐開始の審判を受けたことを知った本件会社が,原告が本件規定に該当するものと認識し,原告の就労継続を拒絶せざるを得ないものと判断したために,原告は,平成29年3月20日,本件雇用契約の当然終了の通知を受け,本件会社を退職することを余儀なくされた。本件規定が改廃されてさえいれば,同日又はこれより前の時点における原告の本件会社からの退職という事実が生じなかったことは明らかである。

[19]イ 原告は,平成29年3月20日時点で,警備業法3条7号により退職せざるを得ない状態ではなかった。
[20](ア) 原告は,以下のとおり,本件会社を退職した平成29年3月20日時点(以下「本件退職時点」という。)において,警備業法3条7号に該当していなかった。
[21]a 警備業法2条1項各号が定める4種類の業務は,その職種や内容が多様で,必要とされる資質,能力も異なり,同法上の教育・指導監督義務についても,当該警備員に主として従事させる警備業務に関する研修等を実施すれば足りるとされている。特定の警備業務を適正に行うことができるものの,他の種類の警備業務までは適正に行う能力を有しない障害者については,警備業者において,当該警備員の適性に見合った警備業務に従事させる限り警備業務の適正な実施が阻害されることはないのであるから,同法3条7号該当性については,外界を認識し,行為の是非善悪を考え定め,自らの考えを的確に相手に伝えることを適切に行うことができる能力が,当該警備員が従事すべき警備業務の適正な実施を担保するに足りる程度に確保されているかという観点から個別具体的に判断するべきである。
[22] 被告は,警備員に求められる能力について健常者と同等以上の高い認知能力,判断能力が要求される旨主張するが,かかる主張は,警備業法3条7号が障害によって通常人に比して判断能力が低い者についても警備業務を行うことができることを認めていることや被補助人であることが欠格事由とされていないことを看過し,精神障害者や知的障害者にとって警備員という職業が重要な受け皿となっている実態を無視したものであって相当でない。
[23]b 原告は,本件会社を含め,3つの会社に警備員として雇用され,いずれの会社でも数年にわたり警備業務に従事してきた。本件会社においては,概ね月20日前後,主に交通誘導の警備業務に従事しており,この間,原告の誘導ミス等により事故が発生したことはなく,本件会社から警備員としての資質を問題視されたり,あるいは警備員としての業務の不適切さを理由に指導・注意を受けたりしたこともなかった。かかる原告の経歴・勤務状況や,本件雇用契約締結に際し,医師が作成した診断書(以下「本件診断書」という。甲9)には,原告が警備業法3条7号に該当しない旨記載されていることからすれば,本件退職時点においても,原告が,現場の状況に応じた判断を行い警備業務を適正に遂行する能力を備えていたことは明らかである。
[24]c なお,原告は区分△とする療育手帳の交付を受けており,知能検査において知能指数XXとの結果が出ているが,精神障害者であるからといって一律に欠格事由として排除することなく個別具体的に判断しようとする警備業法3条7号の趣旨に照らせば,このことから原告が直ちに同号に該当するということはできない。
[25] また,保佐開始申立時の診断書(甲22)及び保佐開始の審判に当たり作成された精神鑑定書(乙41)は,本人を保護する目的で財産管理面に主眼を置いて,本人の能力の程度等を判断するものであり,警備業務を適正に行うにあたって必要な認知,判断及び意思疎通を適切に行うことができない者に該当するか否かを判断するものではないから,これらの記載内容が,原告が適切に警備業務を行っていたという事実を覆すものではない。
[26](イ) 仮に,原告が,客観的には警備業法3条7号に該当する状態にあったとしても,同号該当性の判断に当たっては,当該警備員を雇用する本件会社による個別具体的な判断が行われることが予定されており,本件会社において,同号該当性に関する具体的な判断を行っていない以上,同号該当性は肯定され得ないと解するべきである。
[27] 警備業者が警備員について警備業法3条7号に該当する状態に陥ったことを認識することなく当該警備員が警備員として稼働を継続していたにもかかわらず,事後的に同号該当性が客観的に生じた時点で当該警備員に欠格事由が生じたものとして退職したとすることは,当該警備員の労働者としての地位を極めて不安定な状態にするものとして相当でない。少なくとも警備業者において当該警備員が3条7号に該当することを認識するまでは,当該警備員の警備員として稼働する利益は法律上保護されるべきである。
[28] 本件においては,本件会社が,本件退職時点で,原告につき,警備業法3条7号に該当していると認識していたとは認められない以上,同号に該当しないことは明らかであり,仮に,本件会社の認識とは関係なく,同号該当性が肯定されたとしても,原告の警備員として稼働する利益は否定されないのであるから,本件規定を制定しこれを改廃しなかったことと,原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間の因果関係は切断されず,同号該当性を検討する実益はない。
[29]ア 原告は,以下のとおり,平成29年3月20日時点において警備業法3条7号に該当する状態であり,既に適法に警備業務に従事することができない地位にあったとみるのが相当である。したがって,本件規定の有無にかかわらず,原告の本件会社からの退職という結果は回避し得なかったのであり,本件規定を改廃しなかったことと原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間の因果関係はない。
[30](ア) 警備業務は,警備員の有形又は無形の影響力によって,人の生命,身体,財産等を保護することをその主な内容としており,その性質上,事前に想定されていない不測の事態に対応することも予定されている。警備員の突発的な事態への対応の不備や判断ミスがあれば,人の生命,身体,財産等を害しかねない。したがって,警備員に対しては,警備業法2条1項各号のどの業務に該当するかにかかわらず,不測の事態に適切に対応できるだけの健常者と同等以上の判断力等を備えることが要求されているというべきであり,同法3条7号は,精神上の障害によりこのような能力を欠くため警備業務の適切な実施を期待し得ない者を警備員にさせないことをその趣旨とするものと解すべきである。
[31] この点,警備業法は,被補助人に係る欠格事由を設けていないが,これは,被補助人については,その状態によっては,警備業務に関し健常者と同等以上の高い判断力等を備えていることを期待し得るからであって,被補助人を対象とする欠格事由が存在しないことをもって警備業法3条7号においては健常者と同程度以上の高い認知能力,判断能力等が要求されていないと解することはできない。
[32](イ) 原告は,平成22年9月27日,区分「△」として療育手帳の交付を受けており,平成27年8月27日の確認判定時に行われた田中ビネー式知能検査による知能検査結果は知能指数「XX」(中程度の軽度知的障害に分類される。)であり,「じっくり考えてから回答を出す。とりかかりに時間がかかるため,タイムオーバーになる問題もあり。」と指摘されていた。
[33] また,原告の保佐開始の審判申立てに当たり提出された平成28年10月28日付け診断書(甲22)は,精神科医が,「成年後見制度における診断書作成の手引」(乙9)の診断書記載ガイドラインに従って作成したものであり,同診断書には,「…………」,「…………」と記載され,WAIS-IIIにより知能指数が「XX」と判定されている。
[34] さらに,原告に対する保佐開始の審判に当たり裁判所の嘱託を受けた精神科医である鑑定医が「成年後見制度における鑑定書作成の手引」の鑑定書記載ガイドラインに従って作成した原告に係る精神鑑定書(乙41)では,原告につき,「…………」,「…………」,「…………」とされており,「…………」,「…………」などと指摘されている。
[35] 以上の検査結果,診断書,精神鑑定書等の記載内容からすれば,原告の精神障害の程度は軽いものではなく,原告は,単に自己の財産管理に関する能力に支障があったというにとどまらず,日常的な事象に対応するための一般的な判断に際しても,相当程度支障が生じていたと考えられ,刻々と変わる事態に対して先を読み,過去の経験を生かした適切な対応を適時にとることが困難であったといえるから,通常警備業務を実施する上で要求される程度の判断力を備えた状態ではなかったというべきであり,本件退職時点で警備業法3条7号の欠格事由に該当していたとみるのが自然である。
[36](ウ) 本件診断書には,原告が警備業法3条7号に該当しない旨記載されているものの,同医師の専門領域は内科であり,同医師が,原告に知的障害があり,療育手帳が交付されていたこと等の原告の精神状態を診断する上で重要な事実を把握していた形跡はなく,知能検査又はそれに類する検査も実施されていないから,その記載を直ちに信用することはできない。

[37]イ 警備業法14条1項は,同項に定める不適格者が警備員となることを禁止するとともに,同条2項によって,警備業者に対し,同条1項に定める不適格者を警備業務に従事させてはならないと義務付けている。そして,都道府県公安委員会は,同条1項の欠格事由に該当する警備員が警備業務に従事していることを確知した場合,当該警備員を警備業務に従事させていた警備業者に対し,同警備員を警備業務から排除するよう指示処分を出すことができ(警備業法48条),警備業者がこの指示に従わない場合,当該警備業者に対し,聴聞の上,警備業務に係る営業の全部又は一部の停止を命ずることができる(同法49条1項,50条1項,3項)とされている。このような規定ぶりからすると,警備業法は,警備員が同法3条7号に客観的に該当する場合には,警備業法違反の事態が生じていることになるため,その除去の必要が生じることを当然の前提としているものと解され,ある警備員について同号に該当する事由が存在した場合,警備業者の認識とは関係なく,当該警備員は適法に警備業務に従事できない地位に置かれるというべきである。

[38]ウ 客観的に警備業法3条7号に該当する状態が生じていたとしても,これを警備業者が認識しなければ,当該警備員は直ちに解雇されないことが考えられるが,客観的に警備業務に従事することができない地位に置かれている警備員が解雇されない状態は,警備業法との関係では事実上の利益にすぎないというべきである。
[39]ア 本件規定は,原告に対し,被保佐人である限り警備業務に従事することを一切できなくするものであり,原告の狭義の職業選択の自由(憲法22条1項)を直接制約し,原告の勤労の権利(憲法27条1項)をも制約するものである。
[40] また,本件規定は,「障害を有すること」や「障害を有することが利用の要件となっている法制度を利用したこと」という自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄を理由として,健常者と障害者を,あるいは同程度の財産管理能力を有する者のうち法定後見制度を利用する者と同制度を利用しない者を別異に取り扱うものであるから,その憲法適合性審査においては,法の下の平等(憲法14条1項)の観点からも慎重な判断が要求される。
[41] さらに,本件規定は,基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重され(障害者基本法1条),経済社会を構成する労働者の一員である(障害者の雇用の促進等に関する法律3条)原告について,原告が有する個別具体的な能力を顧慮することなく,障害者であること又は制限行為能力者であることというスティグマ,レッテル貼りによって原告を評価しようとするものであって,原告の個人の尊厳(憲法13条)を侵すものでもある。

[42]イ 本件規定による権利制約の態様,程度や法令及び国際条約において障害者に関する差別的取扱いの解消が強く求められていることに鑑みれば,本件規定の憲法適合性判断に当たっては,極めて厳格な審査基準が用いられるべきである。すなわち,①本件規定の立法目的が合理的であり,かつ,②本件規定による制限を設けることなく立法目的を達成することが事実上不可能ないし著しく困難であることが認められる場合に限り,本件規定は合憲と判断されると考えるべきである。

ウ 本件規定の立法目的について
[43] 警備員の不適正な警備業務の実施によって不利益を受けるのは,警備業者及び警備員に警備業務を依頼した者である。仮に,本件規定の立法目的を,警備業務の適正な実施を期待し得ない者を警備員から排除し,人の生命,身体,財産等を保護することと解し得たとしても,ここで想定されている「人」とは警備業者・警備員に警備業務を依頼した者というべきであって、これを超えて警備の利益を受動的に享受する者を含むものと解することはできない。そして,警備業者・警備員に警備業務を依頼した者の生命,身体,財産の保護は,警備業務の依頼に係る契約関係において処理されるべき問題であり,業法による公的規制を行う必要性,合理性に乏しいものと言わざるを得ない。
[44] また,警備業務の適正に対する国民の信頼は,悪質な警備業者の排除や,警備員の資質の向上等を通じて達成すべき間接的な目的であって,本件規定の主たる目的と解することはできない。
[45] したがって,本件規定の立法目的が合理的であるとは認められない。

エ 本件規定の規制手段について
[46](ア) 警備業法は,昭和57年に改正され,禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由とする規定(以下,本件規定という場合には同規定を含む。)が新設されたが(昭和57年改正),禁治産制度も成年後見制度と同様専ら自己の財産を管理・処分するための能力に着目した制度である。これらの法定後見制度において判定される能力は,法律行為の利害得失を判断することのできる能力の有無及びその程度であり,それ以外の能力については判断されていない。
[47] これに対し,警備員に要求される能力は,警備業者からの指示を理解し,警備対象施設や警備対象者の状況を認識した上で必要な行動を考え,他人の権利及び自由を侵害しないよう留意しつつ交通誘導等を行ったり,関係者に対して質問をしたり,警察等関係機関への連絡を行ったりするというものであり,法定後見制度で判定される事理弁識能力とは全く別個の能力である。
[48] したがって,被保佐人(準禁治産者)であることと警備業務の適正な実施のために必要な能力を有しているか否かという点の間に関連性は何ら認められず,本件規定は,被保佐人(準禁治産者)の中に必ず存在する警備業務を適正に実施するに足りる能力を備えた者からも警備員としての就業機会を奪うものである。そして,成年後見制度を借用する本件規定は,本人保護のための制度である成年後見制度の利用を躊躇させる要因となるおそれもあるものである。
[49](イ) 前記のとおり警備業法2条1項1号ないし4号が定める4種類の警備業務はその職種や内容が多様で,必要とされる資質,能力は異なるものであり,警備業者において,その雇用する警備員の適性を判断し,当該警備員を,同人が適正に実施することができる警備業務に従事させる限り,適正な警備業務の実施が阻害されることはないのであるから,これらの業務を区別することなく一律に被保佐人(準禁治産者)であることを欠格事由として規定することは不合理であって,少なくとも,人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し,防止する業務(2号)との関連では,被保佐人であることを欠格事由としなくとも,「不適格者の排除」という立法目的を達成することができるというべきである。
[50](ウ) 被告は,本件規定の立法事実として複数の不適正事案を指摘するが,それらは,警備員の財産管理能力が不十分であったために惹起されたものではなく,本件規定の正当性を基礎づけるものではない。本件規定は,本件訴訟提起後,一括整備法により削除されており,これは,本件規定が既に立法事実を欠いていたことを示すものである。
[51](エ) したがって,仮に,本件規定に係る前記立法目的が合理的ではないとまではいえないとしても,昭和57年改正時点において,本件規定による制限を設けることなく前記立法目的を達成することが事実上不可能ないし著しく困難であるとは認められない。
[52](オ) 平成14年に,精神障害者であることを絶対的欠格事由としていた規定が相対的欠格事由に改正され警備業務を適正に実施するに足りる能力の有無を個別的に審査する規定(警備業法3条7号)が設けられた一方,本件規定は存置されたが(平成14年改正),警備員の適格性を判定するためには,同号があれば必要かつ十分であり,同号に加えて本件規定を置く必要はない。実際,警備業法を所管する警察庁自身も一括整備法による本件規定の削除に先立って,本件規定が削除されたとしても,警備業法3条7号が既に設けられているため,特段の影響は想定されないと明言している。
[53] したがって,仮に昭和57年改正時点において,本件規定による制限を設けることなく前記立法目的を達成することが事実上不可能ないし著しく困難であると認められたとしても,遅くとも平成14年改正時点においては,本件規定による制限を設けることなく前記立法目的を達成することが事実上不可能ないし著しく困難であるとは認められない。

[54]オ 以上によれば,本件規定は憲法13条,14条1項,22条1項,27条1項に反し,違憲である。

[55]カ なお,仮に,被告が主張する審査基準によって本件規定の憲法適合性を判断したとしても,警備業務の適正な実施のために必要な能力とは関係ない財産管理能力の有無・程度を理由に被保佐人を警備業務から排除する本件規定に合理性が認められないのは明らかであるから,本件規定は違憲である。
[56]ア 被保佐人であることを警備員の欠格事由とする本件規定が,狭義における職業選択の自由(憲法22条1項)を制約するものであることは争わない。
[57] 本件規定が,法の下の平等や個人の尊厳に関連することを否定するものではないが,職業選択の自由の保障は,差別的取扱いの禁止を当然に含意しているし,職業選択の自由は個人の尊厳に関わるものであるから,職業選択の自由とは別に,法の下の平等(憲法14条1項),個人の尊厳(憲法13条)を殊更に強調することには理由がない。また,本件規定は,勤労の権利を侵害するものではない。

イ 判断枠組みについて
[58] 職業は,本質的に社会的な,しかも主として経済的な活動であって,その性質上社会的相互関連性が大きいものであるから,職業選択の自由は,それ以外の憲法の保障する自由(殊に精神的自由)に比較して,公権力による規制の要請が強い。
[59] 警備員が携わる警備業務が,人の生命,身体,財産等を保護するという重要な業務(職業)であって,その業務の遂行内容次第では,人の生命,身体,財産等に危害を加えかねない性質を有するものであることに鑑みれば,警備員となり得る者について,特定の目的で規制を加えることには合理性がある。どのような目的で規制を加えるかは,警備員や警備業務の性質に照らして立法府が専門的見地から判断する事項であるから,その合理的裁量の幅は広く,当該規制目的の合理性が否定されない限り,立法府の判断が尊重されるべきである。また,本件規定は,類型的定型的に見て,健常者よりも判断能力が著しく低く,警備員としての資質を欠くと考えられる者を例外的に欠格者として扱うというものであって,これは,正に職業を行う条件として一定の個人的な資質や能力を要求する主観的制限に当たるから,その合理的裁量の幅は広いというべきであり,当該規制手段の合理性が否定されない限り,立法府の判断が尊重されるべきである。
[60] したがって,本件規定の憲法適合性は,規制目的及び規制手段に合理性があるか否かという基準によって判断すべきである。
[61] 最高裁判所昭和50年4月30日大法廷判決(いわゆる薬事法距離制限違憲判決)は,薬事法の定める薬局開設の許可条件としての距離制限が,職業選択の自由に対する消極目的規制であることのほか,当該職業を希望する者が自らの意思と能力によって左右することのできない基準を,職業の開始等の条件とするものであることを考慮し,より緩やかな規制手段で同じ目的を達成できるか否かを検討するという厳格な合憲性判定基準を用いているものであって,本件とは事案を異にする。

ウ 本件規定の立法目的について
[62] 警備業務は,警備員の有形又は無形の影響力によって,人の生命,身体,財産等を保護することをその主な内容としており,その性質上,適時適切な判断力が要求され,その不適正な実施により他人の権利や自由が侵害される可能性が極めて高いものである。本件規定は,警備業務の適正な実施を期待し得ない者を警備員から排除し,人の生命,身体,財産等を保護するとともに,警備業務の適正に対する国民の信頼を確保しようとするものであり,その目的は,正当かつ重要なものであり,その合理性に疑いの余地はない。

エ 本件規定の規制手段について
[63](ア) 前記のとおり,警備業務に直接携わる警備員には,基本的に健常者と同程度以上の高い認知能力,判断能力等が求められると解するべきである。また,警備業法2条1項各号所定の警備業務の中には他人の重要な財産を管理することを求められるものがあり,いずれの警備業務においても他人の財産を預かり管理することが求められる場合があることは容易に想定されるのであるから,これらの業務を適切に行うには,健常者と同等以上の財産管理能力が必要になることは明らかである。
[64](イ) ところで,個々の需要者側(依頼者側)において警備員の判断能力等を判断することは容易ではない。また,警備業法は,警備員について,資格制を採用しておらず,都道府県公安委員会が,個々の警備員について,その資質や能力を審査し,不適格者を事前に排除することは制度上不可能である。警備員の判断能力不足に起因する事故が発生してからでは取り返しがつかないことに照らすと,従事できる警備業務の内容に規制を加えるのではなく,警備業務に従事できる警備員自体にあらかじめ一定の規制を加えておくことは重要であり,健常者と同程度以上の高い認知能力,判断能力を保持していることが全く期待できない者を,警備業務を適正に行うことを期待できない者として警備業務に従事できないこととすることには合理性が認められる。
[65](ウ) 現行の成年後見制度は,財産管理能力が不十分な者を保護することを目的とする制度であるが,被保佐人は,あくまで「精神上の障害」により,認知能力,判断能力等が低下した結果として,財産管理能力が著しく不十分であると判断された者であり,単なる財産管理能力が著しく不十分な者ではない。そして,精神障害による認知能力,判断能力等の低下は,保佐開始の審判に先立つ医学的な診断や鑑定を根拠として認定されているのであり,被保佐人は,財産管理能力のみならず,認知能力,判断能力等が全般的に低下していることが医学的,客観的に明らかな者ということができるから,被保佐人は,健常者と同等以上の判断力等を備えているということはできず,被保佐人について,警備業務を適正に行うことが期待できない者として,警備員の欠格事由とすることには合理性が認められる。
[66] また,前記のとおり,警備業法2条1項各号所定のいずれの警備業務においても健常者と同等以上の財産管理能力が必要になることは明らかであり,この点からしても本件規定の合理性は基礎づけられる。
[67](エ) 警備業者は,警備業法2条1項各号の警備業務のうち,どれか一つの警備業務のみを行っているのではなく,同項各号の警備業務を全部ないし複数行うのが一般的である。実際,原告が勤務していた本件会社も同項2号の警備業務である交通誘導のほか,同項1号の警備業務に該当する常駐警備も行っていた。そして,一旦警備員となった後は,基本教育及び主として従事する警備業務の区分に応じた業務別教育を所定の時間受けさえすれば,自由に実際の担当警備業務を選択することができる。したがって,警備業法14条1項の定める欠格事由は,各号所定のいずれの警備業務においても最低限求められる適性を欠くものを排除するために定められたものと解するべきである。
[68](オ) さらに,本件規定により警備員から排除される者の範囲は,警備業法3条7号によって警備員から排除される者の範囲に完全に包含されるが,同号該当性については,一定の法的評価を経て判断されるものであり,かかる判断は,第一次的には各警備業者においてされるものであって,警備業者において,同号該当性の判断を誤る可能性があるから,別途,一義的に明確な欠格事由として本件規定を定めることは,前記立法目的を達成するために実効的かつ合理的な手段である。
[69](カ) 一括整備法により,本件規定は改正され,成年被後見人及び被保佐人に係る欠格事由は削除されたが,これは,本件規定が違憲ないし違法であったために行われた改正ではなく,障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の批准によりノーマライゼーションの徹底が求められた結果,通常の判断力等を欠き警備業務の適正な実施を期待し得ない者を警備員から排除するという警備業法の立法目的よりも,各種法令における成年被後見人等に係る欠格条項が,成年後見制度の利用促進を阻害し,成年被後見人等に対するスティグマ付与の危険性を生じさせているという指摘への対応を重視したために行われた改正である。警察庁の本件規定の改正に関する規制の事前評価書(甲23,乙35)の記載は,成年被後見人及び被保佐人の場合,判断の迅速性は失われるものの,個別的能力審査によって,警備業法3条7号の欠格事由に該当するとの判断が可能という前提に立っているからであって,本件規定の必要性,合理性を疑わせる事情ではない。

[70]オ 以上によれば,本件規定は,規制目的及び規制手段に合理性が認められるものであるから憲法22条1項に反しない。
[71] また,原告は,本件規定が健常者と障害者を障害の有無を理由に差別し,あるいは法定後見制度を利用する障害者とそれ以外の障害者を法定後見制度の利用の有無を理由に差別するものである旨主張するが,前記のとおり被保佐人であることを欠格事由とすることには合理的な理由があるのであるから,本件規定は憲法14条1項に反しない。
[72]ア 立法内容が国民の憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白である場合,法律制定後,当該法律の内容が国民の憲法上保障されている権利を違法に侵害していることが明白となったにも関わらず,その改廃のために必要な相当期間が経過してもなお国会が正当な理由なくこれを怠る場合などには,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける。

[73]イ 前記のとおり,本件規定は,昭和57年改正時点において,原告の職業選択の自由及び勤労の権利を侵害するのみならず,原告を合理的な理由なく差別するものであって憲法13条,14条1項,22条1項,27条1項に違反するものであった。

[74]ウ 昭和57年改正時点で,禁治産制度が専ら自己の財産を管理・処分するための能力に着目した制度であり,自己の財産を管理・処分するための能力と警備員としての適性の間に関連性が存在しないことや,当時問題とされていた警備員の非行・不正行為事例が当該警備員の財産管理能力の不十分さに由来するものではなかったことは明らかであったのであるから,禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由として定めたのは障害者に対する偏見によるものであって,正当化できるものではない。したがって,昭和57年改正時点において,国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白な立法がされたというべきであり,かかる立法行為は直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきである。

[75]エ 仮に,昭和57年改正時点で本件規定の違憲性が明白でなかったとしても,遅くとも平成11年8月9日付け障害者施策推進本部決定「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(以下「平成11年決定」という。)において,警備業法中の障害者に係る欠格条項については,欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し,欠格条項が真に必要な場合には,対象者を厳密に規定し,絶対的欠格事由を定めているものは相対的欠格事由に改めることを原則とする方針が示され,同年12月には,禁治産制度が成年後見制度へ改正されたことに伴い,禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由とする規定が本件規定に改正された(平成11年改正)時点で,成年後見制度は自己の財産を管理・処分する能力の有無・程度に着目した制度であることがより明白になったのであり,被保佐人であることを警備員の欠格事由として借用することの不合理性・違憲性は明白となったというべきである。

[76]オ 既に平成11年改正時点において,被保佐人に精神障害者が含まれることや,本件規定を存置すると被保佐人が一律に警備業務から排除される結果となり平成11年決定で表明された国民の政治的判断と整合しない結果となることは明らかであったところ,平成14年改正については,平成11年決定で示された方針にもかかわらずあえて本件規定を存置するという立法行為がされたものと評価すべきであり,かかる立法行為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することは明白であったのであるから,直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきである。

[77]カ 仮に,平成14年改正に際して本件規定を存置したことを立法行為と評価することができなくとも,前記のとおり,本件規定の違憲性は,平成11年改正時点で明白となっていたのであり,平成11年改正時点では個別的な能力審査手続が整備されている法律については禁治産宣告等をあえて欠格事由として存置しないこととする旨国会審議で言明されていたのであるから,平成11年決定に基づく検討を経て平成14年改正により個別審査規定が設けられた時点で,本件規定を改廃するために必要な相当期間が経過したというべきである。しかるに,被告は,平成19年に,締約国に対し,障害者に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し,又は廃止するためのすべての適当な措置をとること等を求める障害者権利条約に署名し,その後同条約の批准のために必要な国内制度の整備等を行い,平成26年に同条約を批准した一方で,本件規定については長期にわたり何らの立法措置を講じていないのであり,本件退職時点(平成29年3月20日)までに本件規定を改廃しなかった立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を免れえないというべきである。
[78]ア 前記のとおり,本件規定は憲法に違反するものではなく,本件規定を改廃しなかった国会議員の立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けることはない。

[79]イ 本件規定は,昭和47年に警備業法が制定された後,警備業が発展する中で,警備業者による法令違反や警備員の非行の多発等の状況を受けて,昭和57年改正により警備員の欠格事由として追加された。
[80] 昭和57年改正の際の国会審議において,本件規定の合憲性に疑問を生じさせるような質疑は一切されておらず,国内において,そのような議論がされているとの指摘もない。さらに,憲法学者の間でも準禁治産者に係る欠格規定は合憲と解されており,昭和57年改正時点において,本件規定の違憲性が明白であったとはいえない。

[81]ウ 平成11年に成年後見制度が導入され,公的な機関による選任及び罷免・解任等の手続により個別的な能力審査の手続が整備されている資格等については,成年被後見人又は被保佐人であることを殊更に欠格事由として規定しなくとも,当該資格等にふさわしい能力のあることが制度的に担保されているため,当該資格等の根拠法令中の禁治産者及び準禁治産者に係る欠格条項を削除することとされたが,警備業法については,法令中に個別的かつ十分な能力審査手続が規定されていないため,禁治産者及び準禁治産者に係る欠格条項を成年被後見人及び被保佐人に係る欠格条項として存置するものとされた(平成11年改正)。これは,成年後見制度の導入に伴う改正であり,従前の制度が禁治産者及び準禁治産者の職業選択の自由を侵害するものであるとする前提に立ったものではなく,国会審議においても本件規定の違憲性を前提とする質疑はされなかった。

[82]エ 平成11年決定は,「精神病者」のように,欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害を掲げて一律に排除する絶対的欠格条項を定めている法令の規定等を見直しの対象としているものであり,本件規定は見直しの対象に含まれていなかった。そして,平成14年改正に係る国会審議において,本件規定が憲法に違反することを前提とした議論は行われなかったし,準禁治産者又は被保佐人であることを欠格事由とする規定が職業選択の自由を侵害し憲法に違反するとする見解が憲法学者から示されることもなかった。
[83] したがって,平成14年改正時点でも本件規定の違憲性が明白であったとはいえない。

[84]オ 一括整備法による本件規定の改正が,本件規定の必要性,合理性を疑わせる事情に当たらないことは前記のとおりである。

[85]カ 以上によれば,本件退職時点においても,本件規定の違憲性が明白であったとはいえず,本件規定を改廃しなかった国会議員の立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける余地はない。
[86] 国会による違法な立法行為又は立法不作為により,原告は被保佐人になったことで当然に本件会社からの退職を余儀なくされたところ,これは,まさに障害者であることを理由に不当な扱い,差別を受けたものであり,これにより原告の受けた精神的苦痛は大きく,それを慰謝するための慰謝料は100万円を下らない。
[87] 争う。
[88]1 前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
[89] 昭和37年頃に初めて専業の警備会社が設立されて以降,警備業者の数は増加し,その業務分野も拡大したが,昭和47年以前には特別な法規制が設けられておらず,警備業者の増加に伴い,警備員の警備先における窃盗や暴行事件等の非行・不法事案が頻発し,警備業に対する法的規制の要請が高まった(甲15・6ないし8頁,乙1・128,129頁)。
[90] そこで,警備業務の実施の適正を図ることを目的として,昭和47年に警備業法が制定・施行された(昭和47年法律第117号。乙2)。同法は,「警備業務の実施の適正を図ること」を目的とし(1条),警備業者の欠格事由を定めた上で届出制を採用し(3条,4条),18歳未満の者又は3条1号に該当する者(禁錮以上の刑に処せられ,又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ,その執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して3年を経過しない者)は警備員になってはならず(7条1項),警備業者に対しこれらの者を警備業務に従事させてはならないとした(7条2項)。また,同法は,警備業者及び警備員に対し,この法律によって特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに,他人の権利及び自由を侵害し,又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならないとし(8条),違反者に対しては,公安委員会が,改善等の指示を行い(14条),情状によって営業の全部又は一部の停止を命ずることができ(15条),これらの処分に従わない場合等には罰金刑を科す(18条ないし21条)としていた。
[91] 警備業法を所管する警察庁は,制定時の警備業法について,警備業務が,①他人の信頼によって人の身体,財産等の安全を守ることを内容とするものであるため,一旦その依頼者の信頼に背いてその身体,財産等を害する立場に回った場合にはきわめて容易に重大な害を加えることが可能となるという特殊性や,②不法な侵入等の予防行為を行うものであるため,その行き過ぎがあったような場合には,国民の権利自由に対し不当な影響をもたらすことになりやすいという特殊性などを有することに着目して,業務の実施に伴って国民の権利や自由その他公共の安全が害されることのないよう必要最小限の規制を行うものであり,同法の目的である「警備業務の実施の適正を図ること」(1条)とは,警備員によって行われる業務の実施が違法・不当にわたり,他人の権利自由の侵害や個人・団体の活動に介入するなどのことがないように規制するという意味であると説明していた(乙1・129ないし131頁、乙2,乙20・20,21頁,乙21・4,5頁)。
[92]ア 警備業法制定後10年の間に,警備業は,活動領域を拡大させ,警備業務の機械化も急速に進行した。他方で,警備業者の中に前科,前歴を有する者や暴力団との関係が深い者が少なからず見受けられ,このような業者にあっては,法違反や警備員の非行が多発し,安易な業務運営が目立っており,昭和56年中の警備業者による警備業法等の違反件数は1513件,うち警備員に対する指導監督・教育義務違反は少なくとも543件で全違反件数の約36%に及び,同年中の警備員の非行件数は,刑法犯362件(うち勤務中55件),その他の犯罪371件(うち勤務中92件)に達し,中には勤務先における多額窃盗事件やアルコール中毒で入院歴のある警備員による殺人事件等マスコミに大きく取上げられたものもあった(甲15・8ないし10頁,乙1・131ないし134,144,145頁)。

[93]イ このような状況に対応するために,内閣は,昭和57年,「精神病者又はアルコール,麻薬,大麻,あへん若しくは覚せい剤の中毒者」のほか,「禁治産者若しくは準禁治産者又は破産者で復権を得ない者」(本件規定)などを新たに警備員の欠格事由に加えること等を内容とする「警備業法の一部を改正する法律案」を国会に提出し,同法は,同年7月に成立し,昭和58年1月15日から施行された(甲15・10頁,乙1・134ないし142頁,乙3)。

[94]ウ 昭和57年改正の際の国会審議において,政府委員は,同改正の必要性について,警備員の非行や不祥事の原因・背景等を調査すると,多くは当該警備業者の指導教育体制が十分でなかったところにあるようであるが,制定当時の警備業法にも警備員に対する指導教育の義務に関する規定があるものの制度的な担保が十分でなく,行政指導にも限界があり,不適格業者の排除,警備員の非行・不祥事の防止,警備員の質的向上を図るためには改正をする必要があったと説明し(乙57の2・12,13頁),前記のとおり追加された警備員の欠格事由については,警備業務の持つ重要性や,特定の前科者など社会的に見ても排除しなければならない類型の警備員が警備業務に従事し非行を犯すという例が多いという実情に鑑み,警備員になることが適当でないと思われる者を限定的に列挙したものであるという趣旨の説明をした(乙57の2・11頁,乙57の3・12頁,乙57の7・2,21頁)。
[95] 障害者対策推進本部は,平成5年3月,長期的視点に立った障害者対策に関する計画として,「障害者対策に関する新長期計画~全員参加の社会づくりをめざして~」(以下「新長期計画」という。)を策定した(甲21)。
[96] 新長期計画は,障害者を取り巻く社会環境に存在する資格制限等による制度的な障壁等種々の障壁を除去することなどにより障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指すことを「基本的考え方」の1つとして挙げ,「雇用・就業」分野においては,個々の資格制度における取得要件や各種の試験制度における試験方法等について,障害者がその有する能力を十分に発揮できるよう,中長期的に検討を行うこと等を,「福祉」分野においては,精神障害,視聴覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう,必要な見直しについて検討を行うこと等を具体的方策として挙げた(甲21・95,99,104頁)。
[97] 障害者施策推進本部は,平成11年8月9日,「障害者に係る欠格事由の見直しについて」と題する決定(平成11年決定)を行った(甲17)。
[98] 平成11年決定は,資格・免許制度又は業の許可制度において,資格・免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害を掲げている法令の規定,特定の業務への従事,公共的なサービスの利用等に当たり障害者を表す身体又は精神の障害を理由に一般と異なる制限を付している法令の規定,その他障害者を表す身体又は精神の障害を理由としてこれらの障害を有するものに一般と異なる不利益な取扱を行うことを定めた法令の規定(以下,本項において「障害者に係る欠格条項」という。)については,障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう,新長期計画の推進のため,対象となるすべての制度について見直しを行い,障害及び障害者に係る医学の水準,障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準,先進諸外国における制度のあり方その他の社会環境の変化を踏まえ,制度の趣旨に照らして,従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し,必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとし,当該欠格条項が真に必要と認められるものについては,①欠格,制限の対象を厳密に規定する,②絶対的欠格事由から相対的欠格事由に改正する,③障害者を表す規定から障害者を特定しない規定に改正する,又は④資格・免許の回復規定を明確化する,という対処を行うものとし,警備業法の警備員の制限に関する規定については,障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には,上記①及び②の方向で対処するものとした。
[99]ア 民法の一部を改正する法律(平成11年法律第149号)が,禁治産及び準禁治産からなる従来の成年後見制度を改正することに伴い,民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第151号。以下「平成11年整備法」という。)により,禁治産者,準禁治産者であることを欠格事由等として規定している法令について,ノーマライゼーションの観点から,被補助人については欠格条項を付さず,被後見人・被保佐人についても,当該法令中に公的な機関による選任及び罷免・解任等の個別的な能力審査手続により当該資格に相応しい判断能力が担保されるものについては欠格条項を削除し,当該法令中にかかる個別的な能力審査手続がないものや実務的に大量の書面審査を要するなどの理由により欠格条項による画一的・形式的な審査を必要とするものについては欠格条項を存置するという方針の下で整備が行われ,当時158件あった禁治産者・準禁治産者であることを理由とする資格制限規定のうち42件が廃止されたが,警備業法を含む116件の資格制限規定は存置され,警備業法3条1号は,「成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの」に改められた(甲16・17頁,甲20・46頁,甲31・4,5頁,乙4,乙60・9,18頁)。

[100]イ 平成11年整備法の国会審議に際しては,欠格条項の整備に関し,「欠格条項を関係法令から撤廃すべきである。」という参考人の意見(乙59・4頁)や,欠格条項を残すと,老人や障害者への偏見を助長し,これらの者の社会参加が妨げられるという指摘(乙60・9頁),欠格条項が存置された弁護士,弁理士,司法書士,薬剤師等個別の資格制限についてその必要性に疑問を呈する質問(甲16・17ないし19頁,乙60・24頁),個別法令中に能力を個別に審査する規定を設ければ資格制限として足りるのであり,禁治産者や準禁治産者であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから,残存する116種の資格制限についても次の見直しの際に再検討されたいという発言(甲16・17頁)等がされた。また,新しい成年後見制度の導入に禁治産,準禁治産という負のイメージを払拭して,皆が負い目を感じずに使うことができる新しい制度を作るという意義があるのであれば,欠格条項で門前払いというよりも,できる限り個別的に判断していくという方が方向性としては正しいのではないかという質問(乙60・25頁)に対して,政府参考人は,基本的な考え方としては正しいとしつつ,立法上の様々な価値を調和させていく中で複数の欠格条項を存置することになったという趣旨の説明をした(乙60・25頁)。
[101] そして,平成11年整備法が参議院法務委員会で可決された際には,複数の国会議員の発案により,政府及び最高裁判所は,新たな成年後見制度の実施に当たり,「成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については,更なる見直しを行うこと」等9項目について格段の努力をすべきであるとする附帯決議が全会一致で可決された(甲30)。
[102]ア 内閣は,平成11年決定を踏まえて,昭和57年改正で追加された精神病者を一律に排除する従来の欠格事由(「精神病者又はアルコール,麻薬,大麻,あへん若しくは覚せい剤の中毒者」)の必要性について再検討し,警備員が人の生命,身体又は財産を守る業務に直接携わる者であり,国民生活の安全を守るためには一定の欠格事由が必要であるとの理由から,前記欠格事由を業務を適正に行うことができるかという能力に着目した相対的欠格事由に改めることとし,平成14年,前記欠格事由を「アルコール,麻薬,大麻,あへん又は覚せい剤の中毒者」(3条6号)及び「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」(3条7号)に改めること等を内容とする「警備業法の一部を改正する法律案」を国会に提出し,同法は,同年11月に成立し,平成15年3月31日から施行された(甲15・10頁ないし12頁,甲18・6,10頁,甲19・2ないし4頁,乙5・25ないし27頁,乙61の2・2ないし4頁,乙61の5・4,8頁)。
[103] これに伴い,平成15年国家公安委員会規則第2号により,警備業の要件に関する規則が改正され,平成14年改正後の警備業法3条7号の「国家公安委員会規則で定める者」は,「精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知,判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。」とされた(同規則3条1項)。警察庁は,同項にいう「認知」とは外界を認識することを,「判断」とは行為の是非善悪を考え定めることを,「意思疎通」とは自らの考えを的確に相手に伝えることをそれぞれ意味していると説明していた(乙5・27頁)。

[104]イ 政府参考人は,この平成14年改正の際の国会審議において,昭和57年改正で精神病者に係る欠格事由を設けた際に,当時問題となっていた警備員の非行・不祥事について,その原因が精神病にあったのか,精神病者が原因となったものはどの程度あったのか等の検証をしたのかを尋ねる質問に対し,当時の調査状況等についての資料は残っておらず,当時どういった調査が行われたか答えることはできないと答弁した(乙61の2・3頁)。
[105] 警備業法は,平成16年5月にも改正されたが(翌17年11月から施行),警備員の欠格事由に係る改正は行われなかった(乙6)。
[106]ア 平成18年12月,障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)が国連総会で採択された。
[107] 同条約は,「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護し,及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」を目的とし(1条),締約国に対し,「障害に基づくいかなる差別もなしに,全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し,及び促進する」ために「障害者に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し,又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること」等を求め(4条1項(b)),「あらゆる形態の雇用に係る全ての事項(募集,採用及び雇用の条件,雇用の継続,昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関し,障害に基づく差別を禁止する」等の措置をとることにより,「労働についての障害者(雇用の過程で障害を有することとなった者を含む。)の権利が実現されることを保障し,及び促進する」ことを求めていた(27条1項(a))。
[108] 我が国は,平成19年9月に同条約に署名し,平成21年12月,同条約の批准に必要な国内法整備をはじめとする障害者制度の集中的な改革を行うため,障害者制度改革推進本部を設置し,その下に設置された各種部会において議論を重ねることとした。

[109]イ 平成21年5月,大学教授,弁護士等の有識者や,最高裁判所事務総局,厚生労働省,法務省などの関係機関が一堂に会して,成年後見制度の実情を把握し,課題への対応策を協議するために成年後見制度研究会が発足し,同年6月から約1年間,成年後見制度の運用上の改善策の検討を行い,平成22年7月,その検討結果を取りまとめた研究報告「成年後見制度の現状の分析と課題の検討~成年後見制度の更なる円滑な利用に向けて~」(以下「研究報告」という。)を発表した(甲28)。研究報告は,成年後見制度の利用を躊躇させている事情の1つとして,成年被後見人等に係る欠格条項の存在を挙げ,成年後見の類型は,主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められているところ,成年後見等が開始したとしても,その余の能力が直ちに欠如しているとはいえず,成年被後見人等に関する資格制限規定が成年後見制度の利用を阻害する要因となることはできるだけ避けるべきであるから,各法令において成年被後見人等に関する資格制限を設ける場合又はそれを維持する場合には,その資格制限を設けるものに必要な能力の性質やノーマライゼーションの理念に照らしその必要性等を慎重に検討する必要があるとの検討結果を報告した。

[110]ウ 平成22年10月2日から同月4日までの間,横浜市において,16か国から500名が参加して,世界初の成年後見法世界会議が開催され,同会議の成果をまとめた「成年後見制度に関する横浜宣言」(以下「横浜宣言」という。)が採択された(乙44,45)。横浜宣言は,「II 日本の課題」として「現行成年後見法の改正とその運用の改善」が必要であるとし,その中で「現行成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである。特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪には合理的根拠はなく,憲法で保障された普通選挙の理念に反し,基本的人権を損なうものである。」と指摘した(乙44・124ないし126頁,乙45・4頁)。

[111]エ 平成23年7月,障害者制度改革推進本部での議論を踏まえて障害者基本法が改正され,平成24年6月には「障害者自立支援法」を改正した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援する法律」が,平成25年6月には障害者基本法における差別禁止規定の具体化・実質化を意図した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」がそれぞれ成立し,これらの国内法整備を踏まえ,政府は,平成26年1月,障害者権利条約を批准した。

[112]オ 平成25年3月14日,東京地方裁判所において,成年被後見人は選挙権を有しないと定めた公職選挙法11条1項1号(当時)の規定は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反し,無効であるとする判決(東京地方裁判所平成23年(行ウ)第63号同25年3月14日判決。甲14)がされ,同日から約2か月半後の平成25年5月27日には,成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律案が国会において可決され,前記公職選挙法の規定は削除された(平成25年法律第21号。同年7月1日に施行)(乙46・48頁)。

[113]カ 平成28年4月15日,成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号。以下「利用促進法」という。)が公布された(乙36)。
[114] 同法は,「成年被後見人等の人権が尊重され,成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう,成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え,必要な見直しを行う」等の基本方針に基づき,成年後見制度の利用の促進に関する施策を推進することが国の責務であると定め(4条,11条2号),政府に対し,同法の施行(平成28年5月13日)後三年以内を目途として,成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正等所要の施策を実施するため必要な法制上の措置を講じることを求めていた(9条)。
[115]ア 原告は,本件会社に入社する以前にも,2つの警備業者に雇用され,合計約5年間,警備員として交通誘導に係る警備業務に従事していた。

[116]イ 原告は,平成26年4月10日,本件会社に入社し,以後,持病の糖尿病により体調が悪化したとき以外は1月当たり20日前後,警備員として,工事現場や駐車場等における交通誘導を行った(甲8,36,44の1,2,乙42)。また,原告は,本件会社に勤務している間,警備業法が規定する基本教育及び業務別教育(警備業法21条2項,警備業法施行規則38条)を所定の時間受けていた(甲35)。

[117]ウ 原告は,その担当した警備業務において,原告の判断ミスに起因する事故等を起こしたことはなく,本件会社における原告の上司も,原告の業務遂行について,「特に問題なく,作業をこなせている」と評価していた(甲44の1,2,乙40)。

[118]エ 本件雇用契約締結に際し,岐阜市内の病院の内科医師が作成した原告の平成26年4月10日付け診断書(本件診断書。甲9)には,原告が「アルコール,麻薬,大麻,あへん又は覚醒剤の中毒者」及び「精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知,判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」に該当しないことを診断する旨記載されていた。

[119]オ 原告は,平成28年11月9日,岐阜家庭裁判所◯◯○○に対し,自ら保佐開始の審判の申立てを行った(甲10)。その審理の過程で,原告は,○○社会福祉協議会の職員同席で家庭裁判所調査官による面接調査に臨み,…………,…………(甲11)。
[120] 岐阜家庭裁判所◯◯○○は,平成29年2月23日,原告につき,××××を保佐人とする保佐開始の審判をし,同審判は,同年3月16日に確定し,同月17日に登記された(甲1)。

[121]カ 原告から前記審判確定の事実を知らされた本件会社は,平成29年3月20日,原告に対し,本件雇用契約上の解除条件成就を理由に本件雇用契約の当然終了を通知した(甲2,44(枝番を含む。))。
[122]ア 平成29年3月24日,「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の見直しに関する業務の基本方針について」(以下「見直し基本方針」という。)及び「成年後見制度利用促進基本計画について」(以下「利用促進基本計画」という。)が閣議決定された(乙48,49)。
[123] 見直し基本方針は,利用促進法に基づく成年被後見人等の権利の制限に係る措置の見直しに関する基本方針であり,平成30年通常国会に見直しの結果を踏まえた関係法律の改正法案を提出することを目指し,平成29年4月1日以降,関係各省において,利用促進法9条及び11条2号の規定の趣旨を十分に踏まえて所管の措置の見直しを行うこととされた(乙48)。
[124] 利用促進基本計画は,利用促進法12条1項に基づき,成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されたものであり,現在,成年被後見人,被保佐人,被補助人の権利に係る制限が設けられている制度が数多く存在していることが成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つになっているとの指摘や,利用促進法11条2号において,成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え,必要な見直しを行うこととされていることを踏まえ,成年被後見人等の権利制限に係る措置を見直すことを「今後の施策の目標」の一つとして挙げた(乙49・6,26頁)。

[125]イ 成年後見制度利用促進委員会(利用促進法15条1項により内閣府に設置された有識者等で構成される機関)は,成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度の見直しについて,平成29年9月11日,同月27日,同年12月1日の3回にわたり検討を行った上で,同日,これまでの議論の整理として「成年被後見人等に係る制限が設けられている制度の見直しについて(議論の整理)」(以下「議論の整理」という。)(乙50)をとりまとめた。
[126] 議論の整理では,成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度については,
① ノーマライゼーションやソーシャルインクルージョンを基本理念とする成年後見制度を利用することにより,逆に社会的排除という影響を被ることになるのではないか,
② 民法上の事理弁識能力は,財産管理能力を基準として評価がなされるものであるところ,多様な法令に基づく多様な資格や職種,業務等に求められる能力とは質的なずれがあるのではないか,
③ 同等の事理弁識能力であっても成年後見制度を利用している者のみが各資格,職種,業務等から一律に排除され,能力を発揮する機会が失われているのではないか,
④ 欠格条項の存在により,成年後見制度の利用を躊躇する影響が出ているのではないか,
といった問題点が指摘されていること等を踏まえ,成年被後見人等の一律排除の規定を設けている各制度について,個別的,実質的な審査によって各資格,職種,業務等の特性に応じて判断する仕組みへの見直しを行うべきであるとの基本的考え方を示し,見直しを行うべきと考えられる法律の1つとして警備業法を挙げ,
「国又は地方公共団体による監督等が規定されていることから,欠格条項を削除するとともに,必要に応じ,個別審査規定等を整備すべきである。なお,個別審査規定等が既に整備されているものについては,欠格条項を削除すべきである。」
という改正の方向性を示した(乙50)。

[127]ウ 政府は,平成30年3月13日,警備業法を含む各種法律中の資格・身分における成年被後見人等に係る欠格条項の廃止等を内容とする「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」(乙34の1)を閣議決定して国会に提出し,令和元年6月7日,成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(一括整備法)が成立した。警備業法3条1号は,一括整備法13条により,「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」と改正され,成年被後見人及び被保佐人であることを欠格条項とする文言が削除された(令和元年12月14日施行。乙37,38)。
[128] この改正に先立ち,警察庁は,規制の事前評価書(甲23,乙35)において,本件規定が削除されたとしても,
「心身の障害がある者の適格性に対する個別的・実質的な審査によって警備業務の特性に応じて必要となる能力の有無を判断する規定が既に設けられているため,特段の影響は想定されない」
と評価していた。
[129](1) 前記認定のとおり,本件会社は,原告から原告に対する保佐開始の審判が平成29年3月16日に確定したとの連絡を受け,原告が本件規定に該当し本件雇用契約の解除条件が成就したと認識して,同月20日,本件雇用契約の終了を告知したものである。
[130] そうすると,被告が,本件規定を制定せず,又は同日以前に本件規定を改廃していれば,本件会社において,原告に対する保佐開始の審判が確定したことを認識したとしても当然に本件雇用契約の終了を告知したであろうということはできず,同日に原告が本件会社からの退職を余儀なくされることはなかったということができ,被告が本件規定を改廃しなかったことと原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間には因果関係があるというべきである。

[131](2) これに対し、被告は,本件規定がなかったとしても,原告は,既に前記退職時点において,客観的に警備業法3条7号に該当する状況にあり,適法に警備業務に従事できない地位に置かれていたとして,被告が本件規定を改廃しなかったことと原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間に因果関係はない旨主張する。

[132](3) しかしながら,以下のとおり,本件退職時点において,原告が警備業法3条7号に該当する状態であったと認めることはできない。

[133]ア 警備業法14条1項,3条7号,同号の委任を受けた警備業の要件に関する規則3条1項の文言や,警備業法2条1項において警備業務が同項1号ないし4号のいずれかに該当する業務として定義されていること,同法48条が「警備業務の適正な実施が害されるおそれがあると認められるとき」に限って公安委員会が警備業者に対して当該警備員を警備業務に従事させない措置等をとることができると規定していることからすれば,警備業法3条7号及び警備業の要件に関する規則3条1項にいう「警備業務」は,警備業法2条1項に定めるあらゆる警備業務をいうものではなく,同法2条1項に定める警備業務のうち当該警備員が従事予定の警備業務をいうものと解され,これを適正に遂行するに足りる認知能力(外界を認識する能力),判断能力(行為の是非善悪を考え定める能力)及び意思疎通能力(自らの考えを的確に相手に伝える能力)を備えてさえいれば,警備業法3条7号に該当することはないと解するのが相当である。
[134] 被告は,警備員には,警備業法2条1項各号のどの業務に該当するかにかかわらず,不測の事態に適切に対応できるだけの健常者と同等以上の判断力等を備えることが要求されている旨主張するが,かかる解釈は,結局のところ,健常者か障害者かという障害の有無という点において,同法3条7号該当性を決しようとするものであり,同号の規定ぶりが精神機能の障害の有無だけではなく,実際に警備業務を遂行し得る能力を有しているか否かという点に着目するものになっていることを無視した解釈であって採用できない。

[135]イ 前記認定したところによれば,原告は,本件会社に入社する以前の期間を含め,約8年間,交通誘導に係る警備業務(警備業法2条1項2号に該当する業務)に従事してきたが,その間,自己の判断ミス等に起因する事故等を発生させたことはなく,業務遂行能力に問題があると指摘されたこともない。また,原告は,本件会社に入社した平成26年4月10日時点で警備業法3条7号に該当しない旨の診断書を得ており,保佐開始の審判の申立ても,…………から逃れることを目的としたもので,症状の悪化を理由としたものではなかった。以上によれば,原告に軽度の知的障害がみられる(甲3,乙40)としても,原告には,少なくとも交通誘導警備業務を適正に遂行するに当たって必要とされる認知能力,判断能力及び意思疎通能力のいずれもが備わっており,本件退職時点においても同様であったと認められ,警備業法3条7号に該当する状態にはなかったというべきである。

[136]ウ 原告に対する保佐開始の審判の申立てに当たり精神科医が作成した平成28年10月28日付け診断書(甲22)には,WAIS-III成人知能検査のIQがXX(軽度の知的障害に相当する(乙15,16,43)。)であったこと等を根拠に,「◯◯○○」という診断名及び「自己の財産を管理・処分するには,常に援助が必要である(保佐相当)。」,「…………。」との判断能力判定についての意見が記載されており,原告の保佐開始の審判に当たり精神科医が作成した平成29年1月11日付け精神鑑定書(乙41)は,原告の状態について,「…………。」などの説明をした上で,「軽度の精神上の障害(精神遅滞)がある。」,「自己の財産を管理・処分するには,常に援助が必要である。」,「回復の可能性は低い。」と結論付けている。
[137] しかしながら,民法上の法定後見制度は,精神上の障害により法律行為に係る意思決定が困難な者について,その能力を補うことによりその者の財産等の権利を擁護するための制度であり,家庭裁判所は,保佐開始の審判に当たって,精神上の障害の有無と,「事理を弁識する能力」,すなわち,法律行為の結果(法律行為に基づく権利義務の変動)による利害得失を判断する能力が著しく不十分な状態にあるかどうかを審理判断するところ,その判断資料となる診断書・精神鑑定書についても,同様の観点から本人の能力について分析・検討を加えることを求められているにすぎず(「成年後見制度における診断書作成の手引」(甲25,乙9),「成年後見制度における鑑定書作成の手引」(甲27,乙10)参照),警備業務の適正な実施のために必要な認知能力,判断能力及び意思疎通能力を備えているかという観点から直接分析・検討を加えるものではない。そして,法律行為の結果による利害得失を判断し,最終的な意思決定をする過程においては,認識した複数の事情を踏まえて,計算・推量するなどの概念的思考が要求される一方,警備業務(特に原告が従事していた交通誘導警備業務)に際しては,かかる概念的思考が必ずしも要求されるものではないから,上記診断書(甲22)及び上記精神鑑定書(乙41)における指摘を踏まえても,そこから直ちに警備業務の適正な実施のために必要な認知能力,判断能力又は意思疎通能力を欠く状況にあると認められるわけではない。

[138](4) また,仮に原告が客観的には本件退職時に警備業法3条7号に該当する状態にあったとしても,原告はそれを理由に解雇されたわけではない。
[139] 本件雇用契約は原告が警備業法上の欠格事由に該当することをその解除条件としていたものと解されるが,警備業法3条1号と異なり,警備員が同法3条7号に該当するか否かは一定の評価を伴う判断を要することを踏まえると,警備員が客観的に同法3条7号の欠格事由に該当する状態になっていたとしても,現に警備業者がその事実を認識し,そのように判断するまでは,労働契約は有効に存続し,当該警備員が警備業務に従事しその対価を得る利益が法律上否定されることはないというべきである。警備業法上も,都道府県公安委員会が同法3条7号の欠格事由に該当する警備員が警備業務に従事していることを確知した場合に,警備業者に対し当該警備員を警備業務から排除するように指示処分を出すことができる(同法48条)等とされているものの,同法3条7号の欠格事由に該当した場合,直ちに失職するといった定めはない。
[140] さらに,原告が客観的に警備業法3条7号に該当する状態になった時点で解除条件が成就し雇用契約が終了すると解されるとしても,本件会社がそのように判断しておらず,その後も警備業務に従事することが継続していた場合に,それが不法原因給付に当たるとまではいい難く,その労働に対する対価の支払を受ける利益は,法的に保護され得ると解される。
[141] そうすると,仮に原告が客観的には本件退職時において警備業法3条7号に該当していたとしても,本件会社との間の雇用契約上の地位が直ちに失われるわけではなく法律上保護され,またその労働に対する対価の支払を受ける権利は法的に保護されるから,被告が本件規定を改廃しなかったことと原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間の因果関係がないとはいえない。

[142](5) 以上によれば,被告が本件規定を改廃しなかったことと,原告が本件会社からの退職を余儀なくされたこととの間には因果関係があるというべきである。
[143](1) 憲法22条1項は,何人も公共の福祉に反しない限り,職業選択の自由を有すると規定している。職業は,人が自己の生計を維持するためにする持続的活動であるとともに,分業社会においては,これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し,各人が自己の持つ個性を全うすべき場として個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。その一方で,職業は,本質的に社会的な,しかも主として経済的な活動であって,その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,職業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,特に精神的自由に比較して公権力による規制の要請が強く,同項も「公共の福祉に反しない限り」という留保を付している。しかし,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,当該規制措置が憲法に適合するかどうかを一律に論じることはできず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業選択の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。そして,その合憲性の審査にあたっては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,その具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものである。しかし,かかる合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものと解される。(最高裁判所昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)

[144](2) 警備業法は,警備業者の増加に伴い,警備業務の実施の適正を図ることを目的として(1条),昭和47年に制定・施行されたが,警備業の活動領域の拡大に伴い,警備員による法違反や非行の増加を背景に,昭和57年に改正され,本件規定(「禁治産者若しくは準禁治産者又は破産者で復権を得ないもの」を警備員の欠格事由として定める規定)が他の欠格事由とともに新設された。かかる立法の経緯や,立法の際の本件規定を含む欠格事由を新設した理由に関する政府委員の説明に照らせば,本件規定を含む欠格事由は,警備業務が,人の生命,身体,財産等に対する危害の発生を警戒し,防止することを内容とする職業であり,その不適正な実施により他人の権利や自由が侵害されるおそれがあることに鑑み,あらかじめ警備業務の適正な実施を期待できない類型の者を欠格事由として定めて警備業務から排除し,警備業務の実施の適正を図ることにより,国民の生命,身体,財産等に対する危険を防止するという目的によって定められたものと解される。このような規制目的は公共の福祉に合致するものと認められ,欠格事由による規制を設けること自体は,かかる目的のための必要かつ合理的な規制措置であるということができ,立法府の合理的裁量の範囲内にあるということができる。問題は,本件規定,即ち法定後見制度の適用を受けた者であることを欠格事由の一つとすることについても,立法府の合理的裁量の範囲内にとどまるものといえるか否かである。

[145](3) 本件規定は,被保佐人(準禁治産者)であることを,警備員として就職するに当たっての絶対的欠格事由として規定するものであり,被保佐人となった者は,保佐開始の審判が取り消されない限り,警備業務から排除される。法定後見制度は,精神上の障害という自己の意思又は努力によっては容易に左右できない事情により法律行為における意思決定が困難な者について,その能力を補うことによりその者の財産等の権利を擁護する本人保護のための制度であるところ,保佐開始の審判の申立権は本人以外にも認められており,しかも,保佐開始の審判確定後は,事理弁識能力が回復しない限り,これを取り消すことができない(民法11条,14条)。したがって,本件規定による規制は,自己の意思又は努力によっては左右できない事情を理由に狭義の職業選択の自由そのものを直接制約するものであって,職業の自由に対する強力な制限であるということができる。
[146] 加えて,本件規制の目的は上記のとおりであって,社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく,特定の類型の者が警備業務に従事することによって社会公共にもたらされる弊害を防止することを目的とした消極的,警察的目的のための規制措置であると解される。この点,昭和57年改正に際し,政府委員は,欠格事由について,ユーザーの警備業者あるいは警備員に対する信頼性を担保するものとも説明しているが(乙57の3・3頁),警備業務は,私人が本来有する自己の身体,財産の安全を守る権限を契約に基づいて第三者に代替させるものであって,公的な性格を有するものではないから(警備業法2条1項,15条(昭和57年当時は8条)参照),警備業者あるいは警備員に対する信頼性の担保は,違法・不当な警備業務の遂行を防止することによって達成すべき副次的・補充的な目標と解するのが相当である。
[147] 以上を踏まえると,本件規定を設けた立法府の判断が,その合理的な裁量の範囲内にとどまるというためには,それが重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であって,より緩やかな規制によっては上記の目的を十分に達成することができないと認められることを要すると解するべきである。

[148](4) 被告は,本件規定を新設した背景として,悪質な警備業者や警備員による非行,不適正事案の増加という事情があったことを指摘し,警備業法の規定上,一旦警備員となった後は,所定の教育・研修を受けさえすれば,あらゆる警備業務に従事可能であることを踏まえると,被保佐人(準禁治産者)については,警備業務の適正な実施のために必要とされる健常者と同程度以上の認知能力,判断能力,財産管理能力を具備していることを類型的に期待できないから,警備業法2条1項各号のいずれの業務についても最低限求められる適性を欠く者を排除するための欠格事由として,本件規定には必要性,合理性が認められると主張する。
[149] しかしながら,前記のとおり,本件規定が借用する法定後見制度は,精神上の障害により法律行為における意思決定が困難な者について,その能力を補うことによりその者の財産等の権利を擁護する本人保護のための制度であって,警備業法2条1項各号の警備業務の適正な実施のために必要な認知能力や判断能力の有無・程度を直接判定する制度ではない。警備業務の実施に当たって,他人の財産を預かり,その管理をすることがあったとしても,その際に法律行為による利害の得失の判断が必要となるわけではなく,被保佐人であることから直ちに警備業法2条1項各号のいずれの警備業務についても適性を欠くということはできない。かえって,本件規定による規制は,原告のように被保佐人の中に確実に存在する少なくとも一部の警備業務の適正な実施のために必要な能力を欠く状態にあったとは認められない者をも被保佐人であることのみを理由に一律に警備業務から排除するものであり,本件規定の存在が障害者の権利拡充のための法定後見制度の利用を躊躇させる一因にもなり得ることは否定し難いところである。
[150] また,昭和57年改正時点において問題となっていた警備員の非行・不適正事案の増加が,警備業者において準禁治産者や事理弁識能力の低下に伴い判断能力が低下した者を警備業務に従事させていたことに起因することを示す資料等は見受けられない。警察庁が昭和57年改正のための立法資料として作成した「警備業に関する不適正事例」(乙27)をみても,準禁治産者や準禁治産者に相当する者が関わったとされる不適正事例は見当たらず,昭和57年改正の際の国会審議において,政府参考人も,警備員の非行や不祥事については,その原因,背景等を調査すると,多くは当該警備業者の指導教育体制が必ずしも十分でないといったところにあるようだと説明しており,警備業務従事者の能力に着目した説明をしていない。政府参考人は,平成14年改正の際に,昭和57年改正当時に警備員の非行や不祥事について精神障害がその原因であったかの調査がされたかについては当時の調査状況等についての資料が残っておらず答えられないと答弁しており,この点からしても,昭和57年改正当時に,警備員の非行や不祥事の原因について,当該警備員の事理弁識能力や判断能力等の程度に着目した検討がされていたか疑わしいというべきである。
[151] さらに,準禁治産者(心神耗弱者及び浪費者)の中には,その認知能力,判断能力等の低下状況によっては,警備業法2条1項各号所定の警備業務の一部又は全てについて適正な実施を期待できない状態の者も含まれていると解され,本件規定がなかった場合,警備業者がこれらの者を適性を欠く警備業務に従事させ,当該警備員の警備業務の不適正な実施により,他人の権利や自由が侵害されるおそれがあることが一応考えられるが,実際上どの程度にこのような危険があるかは必ずしも明らかでなく,昭和57年改正に当たって,国会がかかる点について検討した形跡も認められない。
[152] そうすると,昭和57年改正当時において,準禁治産者について,警備業法が定める教育等を実施しても警備業務の適正な実施を期待できないのかについて,十分な資料に基づく検討がされていたとは認められず,準禁治産者に係る欠格事由を設けなかった場合に,違法・不当な警備業務の実施により国民の生命,身体,財産等が害されるおそれがあるというのは,単なる観念上の想定にすぎなかったというべきであり,準禁治産者について欠格事由を設けなければ,警備業務の実施の適正を図り,国民の生命,身体,財産等に対する危険を防止するという前記立法目的を十分に達成することができない状況であったとまでは認められないというべきである。
[153] むしろ,昭和57年改正後の警備業法(乙2,3)は,警備業の開始要件について,認定制を採用し(4条),警備業者に対する指示(14条),営業停止命令(15条)等の行政上の是正措置や罰則(18条ないし22条)を定めており,かかる刑罰や行政的監督の下で,各警備業者において,雇用しようとする警備員の能力や適性を見定め,それに応じた警備業務に従事させる限り,警備業務の実施の適正化という本件規定の立法目的は十分に達成可能と解する余地もあるし,何らかの欠格事由を設けるとしても,平成14年改正で加えられた警備業法3条7号のような個別的審査規定を設けることでかかる目的を十分に達成することが可能であると解することもできる。

[154](5) 以上によれば,本件規定による規制は,昭和57年改正当時から,あらかじめ警備業務の適正な実施を期待できない類型の者を欠格事由として定めて警備業務から排除し,警備業務の実施の適正を図ることにより,国民の生命,身体,財産等に対する危険を防止するという目的のために必ずしも必要かつ合理的な措置であるとはいえず,より緩やかな規制によっては上記の目的を十分に達成することができないとは認められないものであって,本件規定を設けるに当たり,その必要性と合理性に関する立法府の判断が合理的裁量の範囲内にとどまっていたとはいえない。したがって,本件規定は,昭和57年改正当時から,憲法22条1項に反する状態であったというべきである。

[155](6) さらに,平成14年改正により,警備業法には,警備業務の適正な実施のために必要な能力に関する個別的審査規定(3条7号)が新たに設けられたが,その一方で本件規定は存置された。しかしながら,平成14年改正に際し,被保佐人の中に確実に含まれる警備業務を適正に実施するに足りる能力を備えた者をも警備業務から排除してしまうという弊害を踏まえてもなお,本件規定を存置することにより警備業者が同号該当性の判断を誤り不適格者が警備業務に従事してしまうことを防ぐ必要性が十分に認められる状況であったかについて,立法府が検討した形跡は認められない。かえって,警察庁は,一括整備法による本件規定の改正に先立ち作成された規制の事前評価書(乙35)において,本件規定が削除されたとしても,警備業法3条7号が既に設けられているため,特段の影響は想定されないと評価しており,これは,平成14年改正当時に,個別的審査規定である警備業法3条7号の存在にもかかわらず,警備業者が被保佐人の中に含まれる不適格者を漫然と警備業務に従事させてしまうおそれの程度について,立法府が十分な資料に基づいた検討を行っていなかったことを裏付けるものである。したがって,平成14年改正時点においても,本件規定を存置しなければ,警備業務の実施の適正を図り,国民の生命,身体,財産等に対する危険を防止するという前記立法目的を十分に達成することができない状況であったとまでは認められず,本件規定は,平成14年改正後も,依然として憲法22条1項に反する状態が継続していたというべきである。

[156](7) 加えて,本件規定は,警備業務を適正に実施するに足りる能力を備えた者のうち,被保佐人(準禁治産者)である者のみを区別して警備員から排除する規定であるところ,前記のとおり,昭和57年改正当時からかかる区別をすることの合理性は認められない状態であったというべきであるから,本件規定は,その前身となる規定が新設された昭和57年改正時点において憲法14条1項にも反する状態であったというべきである。
[157](1) 原告は,①昭和57年改正により本件規定の前身となる規定を新設した立法行為,②平成14年改正において,精神病者に係る欠格事由を相対的欠格事由に改正した一方で本件規定を存置することにした立法行為,又は③本件退職時点(平成29年3月20日)までに本件規定を改廃しなかった立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法であると主張する。

[158](2) 国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などには,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法行為又は立法不作為は,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。(最高裁判所平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁判所平成25年(オ)第1079号平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)

[159] 前記のとおり,本件規定は,昭和57年改正時点において,憲法22条1項に反する状態であったというべきであるが,同改正の国会審議の際に,警備業法上,準禁治産者であることを警備員の欠格事由とすることについて疑問を呈する発言はなく(乙57(枝番を含む。)),当時,その違憲性を指摘する学説・論文等も見当たらないことからすれば,同年改正時点において,本件規定が憲法22条1項に反する状態であったことが国会にとって明白であったとはいえず、昭和57年改正における国会議員の立法行為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえないというべきである。
[160] また,被保佐人であることを欠格事由とする本件規定は,平成11年決定において見直し対象とされた規定の定義に直接該当するものと解することはできないこと,平成11年改正時の国会審議において,本件規定を含む被保佐人等を欠格事由とする規定が,適格者をも排除する規定となっているとの観点から質問・発言等がされたことはないこと,当時,本件規定を含む被保佐人等を欠格事由とする規定の違憲性を指摘する学説・論文等も見当たらなかったことからすれば,平成14年改正時点において,本件規定が,少なくとも被保佐人のうち警備業務遂行能力を備えた者の職業選択の自由を合理的な理由なく制約するものであることが,国会にとって明白であったとまでいうことはできない。したがって,平成14年改正における国会議員の立法行為についても,それ自体が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるとはいえないというべきである。
[161] 平成14年改正は,平成11年決定が「障害者を表す身体又は精神の障害を理由に一般と異なる制限を付している法令の規定,その他障害者を表す身体又は精神の障害を理由としてこれらの障害を有するものに一般と異なる不利益な取扱を行うことを定めた法令の規定」の見直し方針を示したことを踏まえて行われたものであり,平成11年改正の際の国会審議において,既に禁治産者・準禁治産者,成年被後見人・被保佐人であることを理由に特定の職業から排除する欠格事由の問題点が指摘されており,政府も成年後見制度の利用を促進する観点からはかかる欠格事由を廃し個別に審査する方向が望ましいという考え方自体は認めていたこと,参議院法務委員会において,政府及び最高裁判所に対し,「成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については,更なる見直しを行うこと」等9項目について格段の努力をすべきことを求める附帯決議が全会一致で可決されていることからすれば,平成11年改正時点において,警備業法につき,被保佐人に係る欠格事由を廃しても個別審査規定を設けることによって法の目的を十分に達成することができるかについて,今後検討を行うことが強く要請される状況であったというべきである。
[162] さらに,前記1で認定した立法・改正等の経緯によれば,平成14年改正により警備業務遂行能力に関する個別的審査規定(3条7号)が設けられた後,国会において,本件規定を存置する必要性・合理性について検討を行う必要性はより高まっていたというべきであり,我が国が平成19年9月に障害者権利条約に署名し,障害者に対する差別となる既存の法律,規則,慣習及び慣行を修正し,又は廃止するための全ての適当な措置をとることが求められていた中で,最高裁判所事務総局,厚生労働省,法務省が構成員として参加していた成年後見制度研究会が平成22年7月に発表した研究報告において,成年後見等が開始したとしても,その余の能力が直ちに欠如しているとはいえず,各法令において成年被後見人等に関する資格制限を設ける場合又はそれを維持する場合には,必要な能力の性質やノーマライゼーションの理念に照らしその必要性等を慎重に検討する必要があるとの検討結果が示された頃には,本件規定が被保佐人中に含まれる適格者をも警備業務から排除する規定となっていることが国会にとっても明白であったというべきである。他方,平成14年改正時点において,警備業者が,警備員につき,警備業法3条7号に該当するか否かの判断を誤り,不適格者を警備業務に従事させてしまうことを防ぐために本件規定を存置する必要性があったことを基礎づける立法事実が存在していなかったことは前記のとおりである。そうすると,平成22年7月頃には,本件規定が被保佐人の職業選択の自由を合理的な理由なく制約していることが,国会にとっても明白であったというべきである。
[163] しかるに,その後,成年被後見人等に係る欠格事由の撤廃を求める横浜宣言が出され,障害者権利条約の批准に向けた国内法整備が進む中で,国会は,公職選挙法の成年被後見人に係る欠格事由が違憲であるとする東京地裁判決に即応して同法の改正を行った一方で,利用促進法が制定された平成28年4月15日まで本件規定の改廃について検討を行わなかった。本件規定の改廃について実質的な検討が行われたのは,見直し基本方針及び利用促進基本計画が閣議決定された平成29年3月24日以降と解され,そこから約2年2か月後の令和元年6月7日に一括整備法が成立し,ようやく本件規定から成年被後見人,被保佐人であることを欠格事由とする文言が削除されるに至ったものであるところ,本件規定の違憲性が明白となった平成22年7月頃以降,本件退職時点(平成29年3月20日)までの約6年8か月にわたって国会が本件規定を改廃しなかったことについて正当な理由は認められない。
[164] 以上によれば,本件規定が被保佐人の職業選択の自由を合理的な理由なく制約していることが国会にとっても明白であったと認められる平成22年7月頃から遅くとも本件退職時点までに本件規定を改廃しなかった国会の立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法と評価されるというべきである。
[165] 前記認定判断のとおり,原告は,警備業務を適正に実施するに足りる能力を有していたと認められるにもかかわらず,本件規定が改廃されていなかったことにより,保佐開始の審判を受けたことに伴い本件規定に基づき本件会社からの退職を余儀なくされたものであり,原告はこれにより単なる経済的損害にとどまらない精神的苦痛を負ったものと認められる。かかる精神的苦痛に対する慰謝料は,本件に現れた一切の事情に照らし,10万円とするのが相当である。
[166] よって,原告の請求は,10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
[167] なお、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととする。

  裁判長裁判官 鈴木陽一郎  裁判官 横井健太郎  裁判官 奥野佑麻
(定義)
第2条 この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
一 事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
二 人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
三 運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
四 人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
2 この法律において「警備業」とは、警備業務を行なう営業をいう。
4 この法律において「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう。

(警備業の要件)
第3条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
六 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者
七 心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの

(警備員の制限)
第14条 18歳未満の者又は第3条第1号から第7号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない。
2 警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。
(心身の障害により業務を適正に行うことができない者)
第3条第1項 法第3条第7号の国家公安委員会規則で定める者は、精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

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